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審決分類 |
審判 一部申し立て 判示事項別分類コード:857 B60K 審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 B60K 審判 一部申し立て 2項進歩性 B60K |
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管理番号 | 1350645 |
異議申立番号 | 異議2018-700390 |
総通号数 | 233 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-05-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-05-10 |
確定日 | 2019-02-18 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6232374号発明「自動車及びそれを制御する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6232374号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第6232374号の請求項1、5ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6232374号の請求項1?11に係る特許についての出願は、2012年(平成24年)4月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年4月28日、英国(GB))を国際出願日として出願され、平成29年10月27日にその特許権の設定登録がされ、平成29年11月15日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 平成30年5月10日 :特許異議申立人トヨタ自動車株式会社(以下、 「異議申立人」という。)による、請求項1、 5?7に係る特許に対する特許異議の申立て 平成30年8月22日付け:取消理由通知書 平成30年11月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 第2 訂正の適否 1.訂正の内容 特許権者による平成30年11月26日に提出された訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は、特許第6232374号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10について訂正することを求めるものであり、具体的には次のとおりである(下線は訂正箇所である。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記第1及び第2のリリース可能なトルク伝達手段は分離した別々のアクチュエータにより又は共通のアクチュエータにより各自の第1及び第2条件の間でそれぞれ作動可能である、自動車。」と記載されているのを、「前記第1及び第2のリリース可能なトルク伝達手段は分離した別々のアクチュエータにより又は共通のアクチュエータにより各自の第1及び第2条件の間でそれぞれ作動可能であり、前記第2のリリース可能なトルク伝達手段は第1及び第2のクラッチ手段を含み、各クラッチ手段はそれぞれ上記の一対のサイドシャフトのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能である、自動車。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3?10も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「請求項2に記載の自動車。」と記載されているのを、「請求項1に記載の自動車。」と訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4?10も同様に訂正する。)。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4の何れか一項に記載の自動車。」と記載されているのを、「請求項1、3、4の何れか一項に記載の自動車。」と訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6?10も同様に訂正する。)。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5の何れか一項に記載の自動車。」と記載されているのを、「請求項1、3?5の何れか一項に記載の自動車。」と訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7?10も同様に訂正する。)。 なお、訂正前の請求項1?10は、請求項2?10が訂正の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1?10について請求されている。 2.訂正の適否 (1)訂正事項1について ア.訂正の目的 訂正事項1は、請求項1に「前記第2のリリース可能なトルク伝達手段は第1及び第2のクラッチ手段を含み、各クラッチ手段はそれぞれ上記の一対のサイドシャフトのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能である」との発明特定事項を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ.新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、実質的には訂正前の請求項2に記載の発明特定事項を請求項1に追加するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について ア.訂正の目的 訂正事項2は、請求項2を削除するというものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。 イ.新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項2は、請求項2を削除するというものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について ア.訂正の目的 訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項2を引用するものであるところ、訂正事項2によって請求項2が削除されることに伴い訂正前の請求項3は不明瞭な記載となる。訂正事項3はこれに対応するために訂正後の請求項3が請求項1を引用するものとすることを内容とする訂正であり、不明瞭な記載の釈明を目的とするものといえる。 イ.新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1を引用する請求項2を引用するものであったものを、訂正後の請求項3が訂正後の請求項1を引用することを内容とする訂正である。そして、訂正後の請求項1は訂正前の請求項1に訂正前の請求項2の発明特定事項の全てを付加したものである。 したがって、訂正前の請求項3に係る発明と、訂正後の請求項3に係る発明の発明特定事項は実質的に同じである。 よって、訂正事項3は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項4及び5について ア.訂正の目的 訂正事項4及び5は、請求項4及び5の各々が引用する請求項を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ.新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項4及び5は、請求項4及び5の各々が引用する請求項を削減するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)独立特許要件について ア.訂正事項1、4及び5は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるが、特許異議の申立てが、請求項1及び5?7に対してされているので、訂正後の請求項1、5及び6に係る発明については独立特許要件の規定は適用されない。 これに対し、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項3、4及び8?10については、特許異議の申立てがされていないので、独立特許要件を検討する必要がある。 しかしながら、後記「第4 3.(2)」で説示のとおり、訂正後の請求項3、4及び8?10に係る発明は特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。また、他に特許を受けることができないとする事情も伺われない。したがって、請求項3、4及び8?10に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるといえる。 イ.訂正事項2は、特許異議の申立てがされていない請求項2について、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるが、その訂正の内容は、請求項2を削除するというものであるから、独立特許要件は問題とならない。 訂正事項3は、特許異議の申立てがされていない訂正前の請求項3についての訂正であるが、その目的は、上記(3)ア.で説示のとおり、不明瞭な記載の釈明を目的とするものであるから、独立特許要件は問題とならない。 (4)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項?第7項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?10〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 上記「第2」のとおり本件訂正請求が認められるので、本件訂正請求により訂正された請求項1及び3?10に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明3」?「本件発明10」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1及び5?7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 原動機手段と、 一つ以上の車輪からなる少なくとも第1群および第2群と、 前記原動機手段を前記一つ以上の車輪からなる第1群および第2群に接続するためのドライブラインであって、前記一つ以上の車輪からなる第1群は前記ドライブラインが第1運転モードにある時に前記原動機手段により駆動し、また前記一つ以上の車輪からなる第2群は前記ドライブラインが第2運転モードにある時に前記原動機手段により追加的に駆動するように構成されているドライブラインとを備えた自動車であって、 前記ドライブラインは、補助ドライブシャフトと該補助ドライブシャフト及び前記一つ以上の車輪からなる第2群の間の駆動手段とを有する補助部を含み、該駆動手段はドライブラインが第1運転モード及び第2運転モードの間で切り替わる時に補助ドライブシャフトを前記一つ以上の車輪からなる第2群に対して結合及び切断するよう作動可能であり、 前記駆動手段は入力部と、補助ドライブシャフトにより駆動されるよう構成されたリングギヤと、出力部と、前記リングギヤ及び前記出力部の間に直列に結合される第1及び第2のリリース可能なトルク伝達手段を備え、 前記第1のリリース可能なトルク伝達手段は、入力部と出力部とを有し、前記第1のリリース可能なトルク伝達手段は、その入力部がその出力部から隔離される第1条件と、その入力部とその出力部が直結されてその入力部に加えられたトルクが直接その出力部に伝達される第2条件と、の間で作動可能であり、そして、前記第1のリリース可能なトルク伝達手段はこれ等両部の間に滑りを許容することにより前記入力部から前記出力部へ伝達されるトルク量を調整するように作動可能であり、 前記第2のリリース可能なトルク伝達手段も入力部と出力部を有し、第2のリリース可能なトルク伝達手段は、該入力部が該出力部から隔離される第1条件と、該入力部が該出力部に直結されて該入力部に加えられるトルクが該出力部へ直接伝達される第2条件の間で作動するように構成されており、 前記一つ以上の車輪からなる第2群は複数の車輪を有し、前記駆動手段の出力部は自動車の一対のサイドシャフトの各々にトルクを供給するように構成され、これ等のサイドシャフトはトルクを第2群の車輪のそれぞれ異なった車輪に供給するように構成されており、 第1のリリース可能なトルク伝達手段は第1及び第2の湿式クラッチ装置を含み、各湿式クラッチ装置はそれぞれ上記の一対のサイドシャフトのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能であり、 前記第1及び第2のリリース可能なトルク伝達手段は分離した別々のアクチュエータにより又は共通のアクチュエータにより各自の第1及び第2条件の間でそれぞれ作動可能であり、 前記第2のリリース可能なトルク伝達手段は第1及び第2のクラッチ手段を含み、各クラッチ手段はそれぞれ上記の一対のサイドシャフトのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能である、 自動車。 【請求項3】 前記第2のリリース可能なトルク伝達手段の第1及び第2のクラッチ手段はそれぞれ第1及び第2の乾式クラッチ装置を含む請求項1に記載の自動車。 【請求項4】 前記第2のリリース可能なトルク伝達手段の第1及び第2のクラッチ手段はそれぞれ第1及び第2のドッグクラッチ手段を含む請求項3に記載の自動車。 【請求項5】 前記駆動手段は前記ドライブラインが前記第1運転モードにある時に前記リングギヤを休止させるように作動可能な請求項1、3、4の何れか一項に記載の自動車。 【請求項6】 前記原動機手段を前記補助ドライブシャフトにリリース可能に結合するように作動可能な動力伝達装置を更に含み、前記ドライブラインは前記第1のモードにあるとき、前記原動機手段が前記第1の車輪群を駆動しているときに、補助ドライブシャフトを休止させるように作動可能である、請求項1、3?5の何れか一項に記載の自動車。 【請求項7】 前記原動機手段は第1及び第2の原動機を含む請求項6に記載の自動車。 【請求項8】 第1原動機は前記一つ以上の車輪からなる第1群を駆動し、前記第2原動機は前記複数の車輪からなる第2群を駆動するように構成され、前記動力伝達ユニット(PTU)は前記複数の車輪からなる第2群を第2原動機に結合するように作動可能である請求項7に記載の自動車。 【請求項9】 前記第1原動機は前記複数の車輪からなる第2群を駆動するように更に作動可能である請求項8に記載の自動車。 【請求項10】 前記第2原動機はさらに一つ以上の車輪からなる第1群を駆動するように作動可能である請求項8又は9に記載の自動車。 第4 特許異議の申立てについて 1.取消理由の概要 訂正前の請求項1及び5?7に係る発明の特許に対して、当審が平成30年8月22日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。 [取消理由]本件出願の請求項1及び5?7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。 記 引用文献 引用文献1:国際公開第2010/017882号 引用文献2:特開2011-79421号公報 引用文献3:特開2005-145334号公報 上記引用文献1?3は、それぞれ異議申立人による特許異議申立書での甲第1?3号証である。 2.各引用文献に記載の事項等 (1)引用文献1 ア.引用文献1の記載事項 引用文献1には、図面とともに以下の記載がある。訳は異議申立人が提出した訳を元に当審で訳したものである。 (1a)「図1から5を、それらの共通点に関してまず一緒に説明する。多軸駆動式自動車3に対するドライブアセンブリ22が概略的に示されている。自動車3のうち、駆動ユニット4、第1の駆動軸6を駆動するための第1のドライブライン5、および第2の駆動軸8を駆動するための第2のドライブライン7が図示されている。駆動ユニット4は、内燃機関11、クラッチ9並びにシフトギヤ10を含み、シフトギヤを介してトルクが第1および第2のドライブライン5、7に導入される。」(第8頁第1行?第9行) (1b)「第1の駆動軸6だけを駆動すべき走行状態のためには、第1の連結手段22と第2の連結手段26が開放され、これによりトルクの流れの中でこれら2つの連結手段22、26の間にあるすべての駆動部材は静止する。この走行状態ではドラグトルクと摩擦に基づく損出出力が最小化されている。両方の駆動軸6、8を駆動すべき走行状態が発生すると、シフトクラッチ22の出力部19とシフトクラッチ22の入力部18との回転数の均等化が行われるように、まず摩擦クラッチ26が操作される。次にシフトクラッチ22をシフトノイズ無しで連結することができ、これにより第2のドライブライン7が接続される。このようにして動力分配装置12に導入されたトルクの一部が長手ドライブシャフト24を介して第2の連結手段26のクラッチ入力部42に伝達される。そしてこの状態においては、軸方向調整装置を必要に応じて作動することにより、トルクを後車軸6に伝達することができる。前方にシフトクラッチが配置され、後方に摩擦クラッチが配置されたこの実施形態は、前車軸の領域において僅かな構造空間しか必要としないという利点を有し、このことは、いわゆる’パッケージング’に対して有利に作用する。」(第11頁17行?第33行) (1c)「図6は、さらなる実施形態における本発明のドライブアセンブリを示し、このドライブアセンブリは図1のドライブアセンブリにほぼ対応する。共通点に関しては上記の説明を参照されたい。ここで同じ構成部材には同じ参照記号が付してあり、変更された構成部材には数字6が添字された参照符号が付してある。」(第14頁第13行?第17行) (1d)「図1による実施形態に対する変形例において、本ドライブアセンブリ2の第2の連結手段266は、摩擦クラッチ51および形状的に結合したシフトクラッチ52は、トルクの流れの中で摩擦クラッチ51と第2のディファレンシャルギヤ27との間に配置されており、摩擦クラッチ51全体を開放するために用いられる。ここでシフトクラッチ52のクラッチ入力部53は摩擦クラッチ51の出力部42と接続されており、シフトクラッチ52のクラッチ出力部54はディファレンシャルギヤ27のディファレンシャルゲージ44と接続されている。本実施形態は、シフトクラッチ52が開放されている際の摩擦クラッチ51におけるドラグトルクを更に低減することができるという利点を有する。摩擦クラッチ51の、好ましくは内側ディスクキャリアとして構成された出力部43は、シフトクラッチ52が開放されると、回転するディファレンシャルゲージ44から分離され、静止する。」(第14頁第19行?第32行) (1e)「第2の駆動軸8を接続するために、まず後方のシフトクラッチ52が連結され、これにより摩擦クラッチ51の出力部43がディファレンシャルゲージ44に連結され、これと共に回転する。次に摩擦クラッチ51が、軸方向調整装置(図示せず)の操作により、前方のシフトクラッチ22の入力部18と出力部19が少なくとも部分的に同期されるように制御される。この状態において前方のシフトクラッチ22が低ノイズで連結され、これにより第2のドライブライン7は第1のドライブライン5に連結される。そして摩擦クラッチ51を必要に応じて操作することにより、第2の駆動軸8に伝達すべきトルクが調整される。」(第15頁第1行?第10行) また、図6からは次の各事項が看取される。 (1f)原動機手段としての「内燃機関11」と、一つ以上の車輪からなる第1群としての「車輪15、16」と、一つ以上の車輪からなる第2群としての「後輪47、48」とドライブラインとしての「第1のドライブライン5」および「第2のドライブライン7」とを備えた「多軸駆動式自動車3」。 (1g)「第1のドライブライン5」と「第2のドライブライン7」とからなるドライブラインは、補助ドライブシャフトとしての「長手ドライブシャフト24」と、補助ドライブシャフトおよび第2群の間の駆動手段としての「第2のアングルドライブ25」、「第2の連結手段266」および「第2のディファレンシャル27」と、を有する補助部を含む点。 (1h)「第2の連結手段266」は、ドライブラインが第1運転モードおよび第2運転モードの間で切り替わるときに「長手ドライブシャフト24」を「後輪47、48」に対して結合および切断するように作動可能である点。 (1i)駆動手段は、入力部としての「駆動ピニオン38」と、補助ドライブシャフトにより駆動されるように構成されたリングギヤとしての「クラウンギヤ39」と、出力部としての「第2のディファレンシャル27」と、リングギヤおよび出力部の間に直列に結合される第1および第2のリリース可能なトルク伝達手段としての「摩擦クラッチ51」および「シフトクラッチ52」とを備える点。 (1j)「摩擦クラッチ51」は、「入力部42」と「出力部43」とを有する点。 (1k)「シフトクラッチ52」は、「入力部53」と「出力部54」とを有する点。 (1l)「第2のディファレンシャル27」は、一対の「サイドシャフト45、46」の各々にトルクを供給するように構成され、これらの「サイドシャフト45、46」は、トルクをそれぞれ異なった「後輪47、48」に供給するように構成されている点。 そして、上記記載事項および看取事項より引用文献1には、次の技術的事項が記載されているといえる。 (1a)(1b)(1c)より、「多軸駆動式自動車3」の「第1のドライブライン5」と「第2のドライブライン7」とからなるドライブラインは、「内燃機関11」を「車輪15、16」および「後輪47、48」に接続するためのドライブラインであり、第1運転モードにある時に「車輪15、16」を「内燃機関11」により駆動し、第2運転モードにある時に「後輪47、48」を「内燃機関11」により追加的に駆動するように構成されている点。 (1e)(1j)より、「多軸駆動式自動車3」の駆動手段を構成する「摩擦クラッチ51」は、「入力部42」が「出力部43」から隔離される第1条件と、「入力部42」と「出力部43」が直結されて「入力部42」に加えられたトルクが直接「出力部43」に伝達される第2条件と、の間で作動可能であり、これら両部の間に滑りを許容することにより「入力部42」から「出力部43」へ伝達されるトルク量を調整するように作動可能に構成されている点。 (1d)(1k)より、「多軸駆動式自動車3」の駆動手段を構成する「シフトクラッチ52」は、「入力部53」が「出力部54」から隔離される第1条件と、「入力部53」と「出力部54」が直結されて「入力部53」に加えられたトルクが直接「出力部54」に伝達される第2条件との間で作動するように構成されている点。 (1e)より、「多軸駆動式自動車3」の駆動手段を構成する「摩擦クラッチ51」は、「軸方向調整装置」により第1および第2条件の間で作動可能である点。 イ.引用文献1に記載の発明 ア.より、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。なお、引用発明1は、図6に記載された実施態様に基づいて認定している。 [引用発明1] 「原動機手段としての内燃機関11と、 一つ以上の車輪からなる少なくとも第1群15、16および第2群47、48と、 前記内燃機関11を前記一つ以上の車輪からなる第1群15、16および第2群47、48に接続するためのドライブライン5、7であって、前記一つ以上の車輪からなる第1群15、16は前記ドライブライン5、7が第1運転モードにある時に前記原動機手段11により駆動し、また前記一つ以上の車輪からなる第2群47、48は前記ドライブライン5、7が第2運転モードにある時に前記原動機手段11により追加的に駆動するように構成されているドライブライン5、7とを備えた多軸駆動式自動車3であって、 前記ドライブライン5、7は、補助ドライブシャフト24と該補助ドライブシャフト24および前記一つ以上の車輪からなる第2群47、48の間の駆動手段25、266、27とを有する補助部を含み、該駆動手段25、266、27はドライブライン5、7が第1運転モードおよび第2運転モードの間で切り替わる時に補助ドライブシャフト24を前記一つ以上の車輪からなる第2群47、48に対して結合および切断するように作動可能であり、 前記駆動手段25、266、27は入力部38と補助ドライブシャフト24により駆動されるように構成されたリングギヤ39と、出力部27と、前記リングギヤ38および前記出力部27の間に直列に結合される第1および第2のリリース可能なトルク伝達手段51、52を備え、 前記第1のリリース可能なトルク伝達手段51は、入力部42と出力部43とを有し、前記第1のリリース可能なトルク伝達手段51は、その入力部42がその出力部43から隔離される第1条件と、その入力部42とその出力部43が直結されてその入力部に加えられたトルクが直接その出力部43に伝達される第2条件と、の間で作動可能であり、そして、前記第1のリリース可能なトルク伝達手段51はこれら両部の間に滑りを許容することにより前記入力部42から前記出力部43へ伝達されるトルク量を調整するように作動可能であり、 前記第2のリリース可能なトルク伝達手段52も入力部53と出力部54を有し、第2のリリース可能なトルク伝達手段52は、該入力部53が該出力部54から隔離される第1条件と、該入力部53が該出力部54に直結されて該入力部53に加えられるトルクが該出力部54へ直接伝達される第2条件の間で作動するように構成されており、 前記一つ以上の車輪からなる第2群47、48は複数の車輪を有し、前記駆動手段25、266、27の出力部27は多軸駆動式自動車3の一対のサイドシャフト45、46の各々にトルクを供給するように構成され、これ等のサイドシャフト45、46はトルクを第2群47、48の車輪のそれぞれ異なった車輪に供給するように構成されており、 第1のリリース可能なトルク伝達手段51は一つの摩擦クラッチ51を含み、 前記第2のリリース可能なトルク伝達手段52は、一つのシフトクラッチ52を含み、 また前記駆動手段25、266、27は差動装置27を含み、前記一つの摩擦クラッチ51は前記シフトクラッチ52及び前記差動装置27を介して前記一対のサイドシャフト45、46のそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能であり、 前記第1のリリース可能なトルク伝達手段51は軸方向調整装置により第1および第2条件の間で作動可能であり、 前記第2のリリース可能なトルク伝達手段52は、第1および第2条件の間で作動可能である、 多軸駆動式自動車3。」 (2)引用文献2 ア.引用文献2の記載事項 引用文献2には、図面とともに以下の記載がある。 「【0200】 図9は、図1及び6の第2断接機構の他の実施形態を示す説明図であり、第1断接機構を含む前輪側は、図1及び6と同じであるため省略してある。また、第2断接機構の構成以外の、2輪駆動モード及び4輪駆動モードにおける駆動力伝達装置の機能や、2輪駆動モードから4輪駆動モード及び4輪駆動モードから2輪駆動モードへの切り替え制御についても基本的には同じであるため、異なる部分のみ説明する。 【0201】 図9(A)は、図1の第2断接装置22が後輪差動装置18と右後輪102との間にのみ設置されているのに対し、後輪差動装置18の両側、すなわち後輪差動装置18と左後輪100との間に第2断接装置22aが、後輪差動装置18と右後輪102との間に第2断接装置22bが設置されている。 【0202】 図1においては、2輪駆動モードで第2断接機構22が切断されて後輪差動装置18のリングギア78が回転していない場合でも、左後輪100が回転することで後輪差動装置18の内部、すなわちサイドギア86、ピニオン82、84及びサイドギア88が回転してしまい、この部分のフリクションロスが燃費低下の要因となってしまう。 【0203】 それに対し図9(A)においては、2輪駆動モードで第2断接機構22a及び22bが切断されると、左後輪100及び右後輪102の回転は後輪差動装置18には一切伝達されないため、後輪差動装置18の全ての要素、すなわちリングギア78、デフケース80、ピニオン82、84、サイドギア86、88は回転しない。従って、図9(A)の実施形態は、図1の実施形態よりも更に燃費低下を防止することが可能となる。 【0204】 図9(B)は、図6の第2断接装置222が後輪差動装置218の外部の右後輪302との間に設置されているのに対し、後輪差動装置18の内部のリングギア278aとデフケース280aとの間に第2断接装置222aが設置されている。 【0205】 図6においては、図1の場合と同様に、2輪駆動モードで第2断接機構222が切断されて後輪差動装置218のリングギア278が回転していない場合でも、左後輪300が回転することで後輪差動装置218の内部、すなわちサイドギア286、ピニオン282、284及びサイドギア288が回転してしまい、この部分のフリクションロスが燃費低下の要因となってしまう。 【0206】 それに対し図9(B)においては、2輪駆動モードで第2断接機構222aが切断されると、左後輪100及び右後輪102の回転速度が同じ時にはピニオン282、284は回転せずにデフケース280aしか回転しない。従って、図9(B)の実施形態は、図6の実施形態よりも更に燃費低下を防止することが可能となる。 【0207】 図9(C)は、図6の第2断接装置222が右後輪302側にのみ設置されているのに対し、リングギア278bの両側、すなわち左後輪300側に第2断接装置222bが、右後輪302側に第2断接装置222cが設置されている。 【0208】 図9(C)の構成では、後輪差動装置218を省略可能して、リングギア278bの軸は直接第2断接機構222b、222cに接続している。左後輪300と右後輪302で回転速度差が生じても、第2断接装置222b、222cを適切に制御することで回転速度差を吸収することができる。 【0209】 図9(C)においては、2輪駆動モードで第2断接機構222b、222cが切断されると、左後輪300及び右後輪302の回転はリングギア278bには全く伝達されない。従って、図9(C)の実施形態は、図6の実施形態よりも更に燃費低下を防止すること が可能となる。」 イ.引用文献2に記載の技術的事項 ア.より、引用文献2には、次の技術的事項(以下、「引用文献2の技術的事項」という。)が記載されているといえる。 「ドライブラインが2輪駆動モード(第1運転モード)および4輪駆動モード(第2運転モード)の間で切り替わる時にプロペラシャフト(補助ドライブシャフト)を一つ以上の車輪からなる左後輪および右後輪(第2群)に対して連結(結合)および切断するよう作動可能である自動車において、左後輪および右後輪と後輪差動装置との連結(結合)および切断する第2切断機構の実施態様として、後輪差動装置218の内部のリングギヤ278aとデフケース280aとの間に第2断接装置222aを設置する構成(段落【0204】、【図9】(B))と、後輪差動装置218を省略可能として、第2断接装置222b、222cをリングギヤ278bの両側、すなわち、左後輪および右後輪の一対のサイドシャフトのそれぞれに設置する構成(段落【0207】?【0208】、【図9】(C))が、両者適宜代替選択可能であるという技術的事項。」 (3)引用文献3 引用文献3の段落【0059】、【0086】、【図1】及び【図3】の記載内容から、引用文献3には、第1の原動機としての「エンジン1」に加えて、駆動系に第2の原動機としての「モータ・ジェネレータ20」が連結される全輪駆動車両(四輪駆動自動車)が記載されているといえる。 3.当審の判断 (1)本件発明1について ア.対比 本件発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「内燃機関11」は、本件発明1の「原動機手段」に相当する。 以下同様に、「第1群15、16」および「第2群47、48」は、それぞれ「第1群」および「第2群」に、 「ドライブライン5、7」は「ドライブライン」に、 「多軸駆動式自動車3」は「自動車」に、 「補助ドライブシャフト24」は「補助ドライブシャフト」に、 「駆動手段25、266、27」は「駆動手段」に、 「リングギヤ39」は「リングギヤ」に、 「前記駆動手段25、266、27」の「出力部27」は「駆動手段」の「出力部」に、 「第1のリリース可能なトルク伝達手段51」および「第2のリリース可能なトルク伝達手段52」は、それぞれ「第1のリリース可能なトルク伝達手段」および「第2のリリース可能なトルク伝達手段」に、 「第1のリリース可能なトルク伝達手段51」の「入力部42」および「出力部43」は、それぞれ「第1のリリース可能なトルク伝達手段」の「入力部」および「出力部」に、 「第2のリリース可能なトルク伝達手段52」の「入力部53」および「出力部54」は、それぞれ「第2のリリース可能なトルク伝達手段」の「入力部」および「出力部」に、 「一対のサイドシャフト45、46」は「一対のサイドシャフト」に、 「軸方向調整装置」は「アクチュエータ」に相当する。 また、本件発明1の「湿式クラッチ装置」は、摩擦によって動力を伝達する作用をなすクラッチであるといえる。したがって、引用発明1の「摩擦クラッチ51」は、本件発明1の「湿式クラッチ装置」との対比において、「摩擦によるクラッチ装置」の限度で共通する。 さらに、引用発明1の「軸方向調整装置」は、本件発明1の「アクチュエータ」に相当するといえるから、引用発明1の「前記第1のリリース可能なトルク伝達手段51は軸方向調整装置により第1および第2条件の間で作動可能であり、前記第2のリリース可能なトルク伝達手段52は、第1および第2条件の間で作動可能である」は、本件発明1の「前記第1及び第2のリリース可能なトルク伝達手段は分離した別々のアクチュエータにより又は共通のアクチュエータにより各自の第1および第2条件の間でそれぞれ作動可能である」との対比において、「前記第1のリリース可能なトルク伝達手段はアクチュエータにより第1及び第2条件の間で作動可能であり、前記第2のリリース可能なトルク伝達手段は、第1および第2条件の間で作動可能である」の限度で共通する。 加えて、引用発明1の「シフトクラッチ52」はクラッチ手段といえ、また、引用発明1は、「前記駆動手段25、266、27は差動装置27を含み、前記一つの摩擦クラッチ51は前記シフトクラッチ52及び前記差動装置27を介して前記一対のサイドシャフト45、46のそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能であ」るというものであるから、引用発明1の「前記第2のリリース可能なトルク伝達手段52は、一つのシフトクラッチ52を含み、また前記駆動手段25、266、27は差動装置27を含み、前記一つの摩擦クラッチ51は前記シフトクラッチ52及び前記差動装置27を介して前記一対のサイドシャフト45、46のそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能であ」ることは、本件発明1の「前記第2のリリース可能なトルク伝達手段は第1及び第2のクラッチ手段を含み、各クラッチ手段はそれぞれ上記の一対のサイドシャフトのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能である」こととの対比において「前記第2のリリース可能なトルク伝達手段はクラッチ手段を含み、当該クラッチ手段は一対のサイドシャフトのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能である」との限度で共通する。 したがって、本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおりといえる。 <一致点> 「原動機手段と、 一つ以上の車輪からなる少なくとも第1群および第2群と、 前記原動機手段を前記一つ以上の車輪からなる第1群および第2群に接続するためのドライブラインであって、前記一つ以上の車輪からなる第1群は前記ドライブラインが第1運転モードにある時に前記原動機手段により駆動し、また前記一つ以上の車輪からなる第2群は前記ドライブラインが第2運転モードにある時に前記原動機手段により追加的に駆動するように構成されているドライブラインとを備えた自動車であって、 前記ドライブラインは、補助ドライブシャフトと該補助ドライブシャフト及び前記一つ以上の車輪からなる第2群の間の駆動手段とを有する補助部を含み、該駆動手段はドライブラインが第1運転モード及び第2運転モードの間で切り替わる時に補助ドライブシャフトを前記一つ以上の車輪からなる第2群に対して結合及び切断するよう作動可能であり、 前記駆動手段は入力部と、補助ドライブシャフトにより駆動されるよう構成されたリングギヤと、出力部と、前記リングギヤ及び前記出力部の間に直列に結合される第1及び第2のリリース可能なトルク伝達手段を備え、 前記第1のリリース可能なトルク伝達手段は、入力部と出力部とを有し、前記第1のリリース可能なトルク伝達手段は、その入力部がその出力部から隔離される第1条件と、その入力部とその出力部が直結されてその入力部に加えられたトルクが直接その出力部に伝達される第2条件と、の間で作動可能であり、そして、前記第1のリリース可能なトルク伝達手段はこれ等両部の間に滑りを許容することにより前記入力部から前記出力部へ伝達されるトルク量を調整するように作動可能であり、 前記第2のリリース可能なトルク伝達手段も入力部と出力部を有し、第2のリリース可能なトルク伝達手段は、該入力部が該出力部から隔離される第1条件と、該入力部が該出力部に直結されて該入力部に加えられるトルクが該出力部へ直接伝達される第2条件の間で作動するように構成されており、 前記一つ以上の車輪からなる第2群は複数の車輪を有し、前記駆動手段の出力部は自動車の一対のサイドシャフトの各々にトルクを供給するように構成され、これ等のサイドシャフトはトルクを第2群の車輪のそれぞれ異なった車輪に供給するように構成されており、 第1のリリース可能なトルク伝達手段は摩擦によるクラッチ装置を含み、該摩擦によるクラッチ装置は上記の一対のサイドシャフトのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能であり、 前記第1のリリース可能なトルク伝達手段はアクチュエータにより第1及び第2条件の間で作動可能であり、前記第2のリリース可能なトルク伝達手段は、第1および第2条件の間で作動可能であり、 前記第2のリリース可能なトルク伝達手段はクラッチ手段を含み、当該クラッチ手段は一対のサイドシャフトのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能である、 自動車。」 <相違点1> 第1のリリース可能なトルク伝達手段について、本件発明1は、「湿式クラッチ装置」であり、また、「第1および第2の湿式クラッチ装置を含み,各湿式クラッチ装置はそれぞれ上記一対のサイドシャフトのそれぞれのシャフトにトルクを供給するように作動可能であ」るのに対し、引用発明1は、「摩擦クラッチ51」であり、また、「一つの摩擦クラッチ51を含み、また前記駆動手段25、266、27は差動装置27を含み、前記一つの摩擦クラッチ51は前記差動装置27を介して前記一対のサイドシャフト45、46のそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能であ」る点。 <相違点2> 第2のリリース可能なトルク伝達手段について、その動作に関し、本件発明1は、第1のリリース可能なトルク伝達手段と「分離した別々のアクチュエータにより又は共通のアクチュエータにより」「作動可能であ」り、また、具体的構成に関し、「第1及び第2のクラッチ手段を含み、各クラッチ手段はそれぞれ上記の一対のサイドシャフトのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能である」のに対し、引用発明1は、動作に関しては、作動可能ではあるものの、引用発明1のような限定がなされておらず、具体的構成に関し、「前記第2のリリース可能なトルク伝達手段52は、一つのシフトクラッチ52を含み」、「前記シフトクラッチ52及び前記差動装置27を介して前記一対のサイドシャフト45、46のそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能であ」る点。 イ.判断 事案に鑑み相違点2について検討する。 引用文献1には、引用文献1に記載のものの「シフトクラッチ52」(本件発明1の「第2のリリース可能なトルク伝達手段」に相当する。)を第1及び第2のクラッチ手段とし、当該第1及び第2のクラッチ手段がそれぞれ一対のサイドシャフト45、46のそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能とする構成の記載はないし、それを示唆する記載もない。 また、引用文献2には、上記2.(2)イ.で説示のとおりの引用文献2の技術的事項が記載されているところ、この引用文献2の技術的事項は、いわゆる四輪駆動車の後輪差動装置(ディファレンシャルギヤ)の代わりに第1及び第2の摩擦クラッチ手段を左後輪および右後輪の一対のサイドシャフトのそれぞれに設置することを示唆するものであり、後輪差動装置がディファレンシャルギヤと摩擦クラッチとシフトクラッチから構成される場合、当該シフトクラッチ(引用発明の第2のリリース可能なトルク伝達手段に相当するといえる。)を第1及び第2のクラッチ手段を含むものとし、当該第1及び第2のクラッチ手段を一対のサイドシャフトのそれぞれに設置することを示唆するものではない。 さらに、引用文献3にも、相違点2に係る本件発明1の構成を示唆する記載はない。 したがって、引用発明1において、相違点2に係る本件発明1の構成となすことは、引用文献2に記載の技術的事項に基いて、あるいは、引用文献2に記載の技術的事項及び引用文献3に記載の事項に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。 以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献1の記載の発明及び引用文献2の技術的事項に基いて、あるいは、引用文献1に記載の発明並びに引用文献2に記載の技術的事項及び引用文献3に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明3?10について 本件発明3?10は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1の発明特定事項を全て含み更に限定したものであるといえる。 そして、本件発明1が上記(1)イ.に説示のとおり、引用文献1の記載の発明及び引用文献2の技術的事項に基いて、あるいは、引用文献1に記載の発明、引用文献2に記載の技術的事項及び引用文献3に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明3?10も同様の理由により、引用文献1の記載の発明及び引用文献2の技術的事項に基いて、あるいは、引用文献1に記載の発明並びに引用文献2に記載の技術的事項及び引用文献3に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4.小括 上記3.(1)及び(2)のとおりであるから、本件出願の請求項1及び5?7に係る発明は、引用文献1の記載の発明及び引用文献2の技術的事項に基いて、あるいは、引用文献1に記載の発明並びに引用文献2に記載の技術的事項及び引用文献3に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項1及び5?7に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1及び5?7に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 原動機手段と、 一つ以上の車輪からなる少なくとも第1群および第2群と、 前記原動機手段を前記一つ以上の車輪からなる第1群および第2群に接続するためのドライブラインであって、前記一つ以上の車輪からなる第1群は前記ドライブラインが第1運転モードにある時に前記原動機手段により駆動し、また前記一つ以上の車輪からなる第2群は前記ドライブラインが第2運転モードにある時に前記原動機手段により追加的に駆動するように構成されているドライブラインと を備えた自動車であって、 前記ドライブラインは、補助ドライブシャフトと該補助ドライブシャフト及び前記一つ以上の車輪からなる第2群の間の駆動手段とを有する補助部を含み、該駆動手段はドライブラインが第1運転モード及び第2運転モードの間で切り替わる時に補助ドライブシャフトを前記一つ以上の車輪からなる第2群に対して結合及び切断するよう作動可能であり、 前記駆動手段は入力部と、補助ドライブシャフトにより駆動されるよう構成されたリングギヤと、出力部と、前記リングギヤ及び前記出力部の間に直列に結合される第1及び第2のリリース可能なトルク伝達手段を備え、 前記第1のリリース可能なトルク伝達手段は、入力部と出力部とを有し、前記第1のリリース可能なトルク伝達手段は、その入力部がその出力部から隔離される第1条件と、その入力部とその出力部が直結されてその入力部に加えられたトルクが直接その出力部に伝達される第2条件と、の間で作動可能であり、そして、前記第1のリリース可能なトルク伝達手段はこれ等両部の間に滑りを許容することにより前記入力部から前記出力部へ伝達されるトルク量を調整するように作動可能であり、 前記第2のリリース可能なトルク伝達手段も入力部と出力部を有し、第2のリリース可能なトルク伝達手段は、該入力部が該出力部から隔離される第1条件と、該入力部が該出力部に直結されて該入力部に加えられるトルクが該出力部へ直接伝達される第2条件の間で作動するように構成されており、 前記一つ以上の車輪からなる第2群は複数の車輪を有し、前記駆動手段の出力部は自動車の一対のサイドシャフトの各々にトルクを供給するように構成され、これ等のサイドシャフトはトルクを第2群の車輪のそれぞれ異なった車輪に供給するように構成されており、 第1のリリース可能なトルク伝達手段は第1及び第2の湿式クラッチ装置を含み、各湿式クラッチ装置はそれぞれ上記の一対のサイドシャフトのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能であり、 前記第1及び第2のリリース可能なトルク伝達手段は分離した別々のアクチュエータにより又は共通のアクチュエータにより各自の第1及び第2条件の間でそれぞれ作動可能であり、 前記第2のリリース可能なトルク伝達手段は第1及び第2のクラッチ手段を含み、各クラッチ手段はそれぞれ上記の一対のサイドシャフトのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能である、 自動車。 【請求項2】(削除) 【請求項3】 前記第2のリリース可能なトルク伝達手段の第1及び第2のクラッチ手段はそれぞれ第1及び第2の乾式クラッチ装置を含む請求項1に記載の自動車。 【請求項4】 前記第2のリリース可能なトルク伝達手段の第1及び第2のクラッチ手段はそれぞれ第1及び第2のドッグクラッチ手段を含む請求項3に記載の自動車。 【請求項5】 前記駆動手段は前記ドライブラインが前記第1運転モードにある時に前記リングギヤを休止させるように作動可能な請求項1、3、4の何れか一項に記載の自動車。 【請求項6】 前記原動機手段を前記補助ドライブシャフトにリリース可能に結合するように作動可能な動力伝達装置を更に含み、前記ドライブラインは前記第1のモードにあるとき、前記原動機手段が前記第1の車輪群を駆動しているときに、補助ドライブシャフトを休止させるように作動可能である、請求項1、3?5の何れか一項に記載の自動車。 【請求項7】 前記原動機手段は第1及び第2の原動機を含む請求項6に記載の自動車。 【請求項8】 第1原動機は前記一つ以上の車輪からなる第1群を駆動し、前記第2原動機は前記複数の車輪からなる第2群を駆動するように構成され、前記動力伝達ユニット(PTU)は前記複数の車輪からなる第2群を第2原動機に結合するように作動可能である請求項7に記載の自動車。 【請求項9】 前記第1原動機は前記複数の車輪からなる第2群を駆動するように更に作動可能である請求項8に記載の自動車。 【請求項10】 前記第2原動機はさらに一つ以上の車輪からなる第1群を駆動するように作動可能である請求項8又は9に記載の自動車。 【請求項11】 自動車の複数の車輪からなる第2群を、補助ドライブシャフトを有するドライブラインにより原動機手段に結合する方法において、 入力部と補助ドライブシャフトにより駆動されるよう構成されたリングギヤと出力部と第1及び第2のリリース可能なトルク伝達手段とを有する駆動手段により補助ドライブシャフトを前記複数の車輪からなる第2群に結合する工程と、ここで、第1及び第2のリリース可能なトルク伝達手段は前記リングギヤと駆動手段の出力部の間に直列に結合され、前記駆動手段の出力部は自動車の一対のサイドシャフトの各々にトルクを供給するように構成され、これ等のサイドシャフトはトルクを前記複数の車輪からなる第2群のそれぞれ異なった車輪に供給するように構成されており、第1のリリース可能なトルク伝達手段は、その入力部がその出力部から隔離される第1条件と、その入力部とその出力部が直結されてその入力部に加えられたトルクが直接その出力部に伝達される第2条件と、の間で作動可能であり、第1のリリース可能なトルク伝達手段は第1及び第2の湿式クラッチ装置を含み、各湿式クラッチ装置はそれぞれ上記の一対のサイドシャフトのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能である、 前記第1のリリース可能なトルク伝達手段の第1及び第2の湿式クラッチ装置のそれぞれの入力部と出力部の間に滑りを許容することにより前記複数の車輪からなる第2群のそれぞれの車輪へ伝達されるトルクの量を変調する一方、前記第2のリリース可能なトルク伝達手段をその入力部へ与えられるトルクがその出力部に直接伝達されるように構成し、そして、前記第2のリリース可能なトルク伝達手段の入力部と出力部を互いに隔離することにより、前記複数の車輪からなる第2群から前記第1のリリース可能なトルク伝達手段の第1及び第2の湿式クラッチ装置を切断する工程と、 を含み、 前記第1及び第2のリリース可能なトルク伝達手段は分離した別々のアクチュエータにより又は共通のアクチュエータにより各自の第1及び第2条件の間でそれぞれ作動可能である、 方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-02-07 |
出願番号 | 特願2014-506910(P2014-506910) |
審決分類 |
P
1
652・
857-
YAA
(B60K)
P 1 652・ 121- YAA (B60K) P 1 652・ 851- YAA (B60K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 高吉 統久 |
特許庁審判長 |
大町 真義 |
特許庁審判官 |
尾崎 和寛 小関 峰夫 |
登録日 | 2017-10-27 |
登録番号 | 特許第6232374号(P6232374) |
権利者 | ジャガー・ランド・ローバー・リミテッド |
発明の名称 | 自動車及びそれを制御する方法 |
代理人 | アクシス国際特許業務法人 |
代理人 | アクシス国際特許業務法人 |