• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H02M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H02M
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H02M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H02M
管理番号 1350648
異議申立番号 異議2018-700303  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-11 
確定日 2019-02-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6211187号発明「直流電源装置、およびそれを備えた冷凍サイクル適用機器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6211187号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第6211187号の請求項1ないし5及び7ないし9に係る特許を維持する。 特許第6211187号の請求項6に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6211187号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成26年6月5日の特許出願であって、平成29年9月22日にその特許権の設定登録がされ、平成29年10月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年4月11日に特許異議申立人 一條 淳により特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年8月21日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成30年10月26日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人 一條 淳は、平成31年1月4日に意見書を提出した。

第2.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成30年10月26日付けの訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下の訂正事項のとおりである。なお、下線は訂正部分を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に

「三相交流を直流に変換して負荷に供給する直流電源装置であって、
前記負荷への出力端子間に直列接続された第1のコンデンサおよび第2のコンデンサと、
前記第1のコンデンサおよび前記第2のコンデンサの一方あるいは両方を選択的に充電する充電部と、
前記充電部を制御する制御部と、
を備え、」と記載されているのを、

「三相交流を直流に変換して負荷に供給する直流電源装置であって、
前記負荷への出力端子間に直列接続された第1のコンデンサおよび第2のコンデンサと、
前記第1のコンデンサおよび前記第2のコンデンサの一方あるいは両方を選択的に充電する充電部と、
前記三相交流を供給する交流電源と前記充電部との間に接続されたリアクトルと、
前記充電部を制御する制御部と、
を備え、」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7に

「前記第1のスイッチング素子、前記第2のスイッチング素子、前記第1の逆流防止素子、および前記第2の逆流防止素子のうちの少なくとも1つが、ワイドバンドギャップ半導体で形成されている請求項3から6の何れか1項に記載の直流電源装置。」と記載されているのを、

「前記第1のスイッチング素子、前記第2のスイッチング素子、前記第1の逆流防止素子、および前記第2の逆流防止素子のうちの少なくとも1つが、ワイドバンドギャップ半導体で形成されている請求項3から5の何れか1項に記載の直流電源装置。」に訂正する。

(3)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項9に

「請求項1から8の何れか1項に記載の直流電源装置を備える冷凍サイクル適用機器。」と記載されているのを、

「請求項1から5,7,8の何れか1項に記載の直流電源装置を備える冷凍サイクル適用機器。」に訂正する。

2.訂正要件についての判断
(1)一群の請求項要件
訂正前の請求項1-9は、請求項2-9が、訂正の対象である請求項1を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、これらの請求項は訂正前において一群の請求項に該当する。したがって、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法120条の5第4項に規定する要件を満たす。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「直流電源装置」が、「前記三相交流を供給する交流電源と前記充電部との間に接続されたリアクトルと、」を備えることの限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そして、訂正事項1に関して、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲又は図面(以下、単に「本件特許明細書等」という。)の発明の詳細な説明の段落【0012】に、「直流電源装置100は、三相交流を整流する整流回路2と、整流回路2の出力側に接続されたリアクトル3と、・・・、充電部7を制御する制御部8とを備えている。整流回路2は、6つの整流ダイオードがフルブリッジ接続された三相全波整流回路である。なお、図1に示す例では、リアクトル3を整流回路2の出力側に接続した例を示したが、整流回路2の入力側に接続した構成であってもよい。」との記載がされており、図2では、リアクトル3が三相の交流電源1が接続された整流回路2と、充電部7との間に設けられることが示されていることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項1は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ.訂正事項2について
上記訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ.訂正事項3について
上記訂正事項3は、訂正前の請求項7が請求項3から6を引用する記載であったものを、請求項3から5を引用するものとして多数項引用形式請求項において引用請求項を減少させたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ.訂正事項4について
上記訂正事項4は、訂正前の請求項9が請求項1から8を引用する記載であったものを、請求項1から5,7,8を引用するものとして多数項引用形式請求項において引用請求項を減少させたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。。


3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし9〕について訂正を認める。


第3.特許異議の申立について
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明9」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
三相交流を直流に変換して負荷に供給する直流電源装置であって、
前記負荷への出力端子間に直列接続された第1のコンデンサおよび第2のコンデンサと、
前記第1のコンデンサおよび前記第2のコンデンサの一方あるいは両方を選択的に充電する充電部と、
前記三相交流を供給する交流電源と前記充電部との間に接続されたリアクトルと、
前記充電部を制御する制御部と、
を備え、
前記充電部は、前記第1のコンデンサの充電と非充電とを切替える第1のスイッチング素子と、前記第2のコンデンサの充電と非充電とを切替える第2のスイッチング素子とを備え、
前記制御部は、前記直流電源装置の出力電圧を、前記充電部の充電期間で制御し、
前記三相交流の電圧のゼロクロス点のタイミングまたは前記ゼロクロス点から離れたタイミングで、前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子を制御し、前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子を制御する周波数は、前記三相交流の周波数の3n倍であり、前記nは自然数である直流電源装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1のコンデンサおよび前記第2のコンデンサの1組の充電期間と非充電期間とを合わせた期間を1周期とするときの当該1周期の逆数である充電周波数が、前記三相交流の周波数の3n倍(nは自然数)となるように、前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子を制御する請求項1に記載の直流電源装置。
【請求項3】
前記充電部は、
前記第2のコンデンサの充電電荷の前記第1のスイッチング素子への逆流を防止する第1の逆流防止素子と、
前記第1のコンデンサの充電電荷の前記第2のスイッチング素子への逆流を防止する第2の逆流防止素子と、
を備え、
前記制御部は、
前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子を前記三相交流の電圧のゼロクロス点のタイミングまたは前記ゼロクロス点から離れたタイミングで制御する請求項1または2に記載の直流電源装置。
【請求項4】
前記直流電源装置の出力電圧を検出する電圧検出部を備え、
前記制御部は、
前記電圧検出部により検出された出力電圧を一定にすべく、前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子のオン期間を制御すると共に、前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子を前記三相交流の電圧のゼロクロス点のタイミングまたは前記ゼロクロス点から離れたタイミングで制御する請求項3に記載の直流電源装置。
【請求項5】
入力電流を検出する電流検出部を備え、
前記制御部は、前記電流検出部で検出された電流に基づいて、前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子を前記三相交流の電圧のゼロクロス点のタイミングまたは前記ゼロクロス点から離れたタイミングで制御する請求項3に記載の直流電源装置。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記第1のスイッチング素子、前記第2のスイッチング素子、前記第1の逆流防止素子、および前記第2の逆流防止素子のうちの少なくとも1つが、ワイドバンドギャップ半導体で形成されている請求項3から5の何れか1項に記載の直流電源装置。
【請求項8】
前記ワイドバンドギャップ半導体は、炭化珪素、窒化ガリウム系材料、またはダイヤモンドである請求項7に記載の直流電源装置。
【請求項9】
請求項1から5,7,8の何れか1項に記載の直流電源装置を備える冷凍サイクル適用機器。」


2.取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし9に係る発明についての特許に対して平成30年8月21日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

ア 理由A(特許法第29条第1項第3号)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

イ 理由B(特許法第29条第2項)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明についての特許は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1ないし3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

刊行物1:特開2008-12586号公報(甲第1号証)
刊行物2:特開2009-50109号公報(甲第2号証)
刊行物3:特開2013-219985号公報(甲第3号証)

ウ 理由C(特許法第36条第6項第2号)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

・請求項6の記載に「前記オン期間」とあるが、請求項6が従属する請求項5、請求項5が従属する請求項3、請求項3が従属する請求項1または2には、「前記」に対応する「オン期間」に関する記載がなく、請求項6の記載は不明確である。
・請求項6の記載に「前記三相交流の電圧のゼロクロス点のタイミングまたは前記ゼロクロス点から離れたタイミングとをそれぞれ独立して制御する」とあるが、通常、三相交流の電圧のゼロクロス点は三相交流が供給される側で制御することはできないものであり、「前記三相交流の電圧のゼロクロス点」を「制御する」とは技術的にどのようなことか理解できないから、請求項6の記載は不明確である。


(2)刊行物の記載事項
ア.刊行物1
刊行物1には、図面と共に以下の事項が記載されている。(下線は、当審において付加した。以下、同様。)

(a)「【請求項1】
商用交流電源を整流して脈動する直流電圧を出力する三相全波整流回路と、前記三相全波整流回路に並列に設けて前記直流電圧を平滑する同一容量の第1の平滑コンデンサ及び第2の平滑コンデンサからなる直列回路と、インバータ回路の出力を制御する出力制御回路と、アーク加工に適した高周波交流電圧に変換する主変圧器と、前記主変圧器の出力を整流して直流電圧を出力する2次整流回路とを、設けたアーク加工用電源装置において、
前記三相全波整流回路のプラス側と前記直列回路の中点との間に設けて前記直流電圧を前記第2の平滑コンデンサに供給する第1の充電用スイッチング素子と、前記三相全波整流回路のマイナス側と前記直列回路の中点との間に設けて前記直流電圧を前記第1の平滑コンデンサに供給する第2の充電用スイッチング素子と、前記第1の充電用スイッチング素子のコレクタ側と前記直列回路のプラス側との間に設けて前記第1の平滑コンデンサの放電を防止する第1の放電防止用ダイオードと、前記第2の充電用スイッチング素子のエミッタ側と前記直列回路のマイナス側との間に設けて前記第2の平滑コンデンサの放電を防止する第2の放電防止用ダイオードと、前記三相全波整流回路の直流電圧が予め定めた基準電圧以下のとき、互いに半周期ずらした最大導通比率の同一時間の第1の充電制御信号及び第2の充電制御信号を繰り返し出力して前記第1の充電用スイッチング素子及び第2の充電用スイッチング素子を導通し、前記直流電圧が前記基準電圧以上のとき、前記第1の充電制御信号及び第2の充電制御信号の出力を停止して前記第1の充電用スイッチング素子及び第2の充電用スイッチング素子を遮断する充電制御回路とを、備えたことを特徴とするアーク加工用電源装置。」

(b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、商用交流電源が高電圧又はその約半分の低電圧の2系統のどちらでも使用可能なアーク加工用電源装置に関する。」

(c)「【0004】
インバータ回路INVは、例えば、図示省略の4つのスイッチング素子でフルブリッジを形成する。主変圧器INTは、アーク加工に適した高周波交流電圧に変換して出力し、2次整流回路DR1は、高周波交流電圧を直流電圧に整流して出力する。」

(d)「【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は、本発明の実施形態1に係るアーク加工用電源装置である。同図において、図4に示す従来技術のアーク加工用電源装置の電気接続図と同一符号の構成物は、同一動作を行うので説明は省略し、符号の相違する構成物についてのみ説明する。
【0026】
図1に示す第1のダイオードD1乃至第6のダイオードD6によって、三相の商用交流電源を三相全波整流して三相全波整流回路を形成する。また、三相全波整流回路の並列のコンデンサを設けて直流電源回路を形成し、上記三相全波整流回路に替えて直流電源回路を使用してもよい。入力電圧検出回路IVは、三相全波整流された直流電圧を検出して入力電圧検出信号Ivとして出力する。第1の平滑コンデンサC1及び第2の平滑コンデンサC2は、同一容量の直列回路を形成して直流電圧を平滑する。
【0027】
第1の充電用スイッチング素子TR1及び第2の充電用スイッチング素子TR2は、両者が重複することなく交互に同一時間、導通と遮断とを繰り返して三相全波整流回路からの直流電圧を第1の平滑コンデンサC1と第2の平滑コンデンサC2とに交互に供給する。
【0028】
第1の放電防止用ダイオードD7及び第2の放電防止用ダイオードD8は、充電された第1の平滑コンデンサC1及び第2の平滑コンデンサC2の充電電圧の放電を防止する。
【0029】
インバータ回路INVは、4つのスイッチング素子で形成するフルブリッジ回路を使用しているが、ハーフブリッジ回路又はフォワード回路を使用してもよい。
【0030】
出力電流検出回路IDは、出力電流を検出して出力電流検出信号Idとして出力する。比較演算回路ERは、出力電流設定信号Irと出力電流検出信号Idとを比較演算して、比較演算信号Erとして出力する。出力制御回路SCは、パルス周波数が一定でパルス幅を変調するPWM制御を行ない、比較演算信号Erの値に応じて、第1の出力制御信号Sc1及び第2の出力制御信号Sc2のパルス幅を制御する。
【0031】
図2は充電制御回路CRの詳細図であり、第1の比較回路CP1、第2の比較回路CP2、入力基準設定回路VR1、基準電圧設定回路VR2、第1のアンド回路AD1、第2のアンド回路AD2、時限回路TI、反転回路IN及びスイッチング素子駆動回路SDによって形成されている。
【0032】
図3は、本発明のアーク加工用電源装置の動作を説明する波形図である。図3(A)の波形は入力電圧検出信号Ivを示し、図3(B)の波形は図2に示す第1の比較信号Cp1を示し、図3(C)の波形は図2に示すアンド信号Ad2を示し、図3(D)の波形は第1の充電制御信号Tr1を示し、図3(E)の波形は第2の充電制御信号Tr2を示し、図3(F)の波形は第1の平滑コンデンサC1及び第2の平滑コンデンサC2の端子間電圧が加算された電圧を示す。」

(e)「【0033】
つぎに、商用交流用電源が200V系統のときについての動作について説明する。
図示省略のマグネットスイッチ等をオンすると、商用交流電源は三相全波整流回路に入力されると商用交流電源を整流し脈動する直流電圧に変換して出力する。入力電圧検出回路IVは、脈動する直流電圧を検出して図3(A)に示す入力電圧検出信号Ivとして出力する。
【0034】
図3に示す時刻t=t1において、図2に示す第1の比較回路CP1は、入力基準設定回路VR1によって設定した入力基準値Vr1と入力電圧検出信号Ivとを比較し、入力電圧検出信号Ivが入力基準値Vr1より大きくなったとき、図3(B)に示す第1の比較信号Cp1をHighレベルにする。時限回路TIは、第1の比較信号Cp1がHighレベルになると時限を開始し、第1のアンド回路AD1は第1の比較信号Cp1と時限信号Tiとのアンド論理を行って、時刻t=t2のときに、第1のアンド信号Ad1をHighレベルにして出力する。
【0035】
また、図2に示す第2の比較回路CP2は、基準電圧設定回路VR2によって設定した基準電圧値Vr2と入力電圧検出信号Ivとを比較し、入力電圧検出信号Ivが基準電圧値Vr2より小さいときには、第2の比較信号Cp2がLowレベルになり、反転回路INによってHighレベルにして第2のアンド回路AND2に入力する。
【0036】
時刻t=t2において、第2のアンド回路は、入力信号である第1のアンド信号Ad1はHighレベル、反転信号InもHighレベルであるので第2のアンド信号Ad2はHighレベルになる。スイッチング素子駆動回路SDは、第2のアンド信号Ad2がHighレベルになると商用交流電源が200V系であると判別して、図3(D)及び(E)に示す互いに半周期ずれて繰り返す第1の充電制御信号Tr1及び第2の充電制御信号Tr2を出力する。また、第1の充電制御信号Tr1及び第2の充電制御信号Tr2の出力周波数は、商用交流電源周波数の6倍以上、例えば、360Hz以上の30KHzに設定してある。」

(f)「【0041】
続いて時刻t=t6において、第1の平滑コンデンサC1の充電電圧と第2の平滑コンデンサC2の充電電圧とが加算され、図3(F)に示すように三相全波整流回路によって整流された直流電圧を平滑すると共に倍電圧にしてインバータ回路INVに供給しる。以後、上述の充電を繰り返して直流電圧の倍電圧を維持する。」

(g)【0045】
充電制御回路CRは、第1の充電制御信号Tr1及び第2の充電制御信号Tr2の出力を停止し、第1の充電用スイッチング素子TR1及び第2の充電用スイッチング素子TR2が遮断すると、三相全波整流回路は400Vの商用交流電源を三相全波整流し脈動する直流電圧にし、この直流電圧を第1の平滑コンデンサC1及び第2平滑コンデンサC2に
よって平滑してインバータ回路INVに出力する。

(h)【図1】



・上記(h)によれば、アーク加工用電源装置において、インバータ回路INVは、第1の平滑コンデンサC1及び第2の平滑コンデンサC2からなる直列回路に並列に接続されている。

・上記(e)の段落【0033】-【0036】、上記(f)によれば、上記(a)の「三相全波整流回路の直流電圧が予め定めた基準電圧以下」であることは、商用交流電源が200V系統の際に三相全波整流回路から出力される直流電圧が基準電圧値Vr2より小さいことであって、そして、その際には、第1の平滑コンデンサC1の充電電圧と第2の平滑コンデンサC2の充電電圧とを加算させた倍電圧をインバータ回路INVに供給する、ものである。

・上記(e)の段落【0036】には、充電制御回路CRが出力する第1の充電制御信号Tr1及び第2の充電制御信号Tr2の出力周波数は、商用交流電源周波数の6倍以上に設定される、ことが記載されている。

上記記載事項(特に、下線部)によれば、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物発明」という。)が開示されていると認められる。

「商用交流電源を整流して脈動する直流電圧を出力する三相全波整流回路と、
前記三相全波整流回路に並列に設けて前記直流電圧を平滑する同一容量の第1の平滑コンデンサC1及び第2の平滑コンデンサC2からなる直列回路と、
前記直列回路に並列に接続されたインバータ回路INVと、
前記インバータ回路INVの出力を制御する出力制御回路SCと、
アーク加工に適した高周波交流電圧に変換する主変圧器INTと、
前記主変圧器INTの出力を整流して直流電圧を出力する2次整流回路DR1とを、設けたアーク加工用電源装置において、
前記三相全波整流回路のプラス側と前記直列回路の中点との間に設けて前記直流電圧を前記第2の平滑コンデンサC2に供給する第1の充電用スイッチング素子TR1と、
前記三相全波整流回路のマイナス側と前記直列回路の中点との間に設けて前記直流電圧を前記第1の平滑コンデンサC1に供給する第2の充電用スイッチング素子TR2と、
前記第1の充電用スイッチング素子TR1のコレクタ側と前記直列回路のプラス側との間に設けて前記第1の平滑コンデンサの放電を防止する第1の放電防止用ダイオードD7と、
前記第2の充電用スイッチング素子TR2のエミッタ側と前記直列回路のマイナス側との間に設けて前記第2の平滑コンデンサC2の放電を防止する第2の放電防止用ダイオードD8と、
前記三相全波整流回路の直流電圧が予め定めた基準電圧以下であるとき、互いに半周期ずらした最大導通比率の同一時間の第1の充電制御信号Tr1及び第2の充電制御信号Tr2を繰り返し出力して前記第1の充電用スイッチング素子TR1及び第2の充電用スイッチング素子TR2を導通し、第1の平滑コンデンサC1の充電電圧と第2の平滑コンデンサC2の充電電圧とを加算させた倍電圧をインバータ回路INVに供給させ、また、第1の充電制御信号Tr1及び第2の充電制御信号Tr2の出力周波数は、商用交流電源周波数の6倍以上に設定されるものであって、前記直流電圧が前記基準電圧以上のとき、前記第1の充電制御信Tr1号及び第2の充電制御信号Tr2の出力を停止して前記第1の充電用スイッチング素子TR1及び第2の充電用スイッチング素子TR2を遮断する充電制御回路CRとを、
備えたアーク加工用電源装置。」

イ.刊行物2
刊行物2には、図面と共に以下の事項が記載されている。

(a)「【0023】
また、直流変換回路12には、整流回路DR1と平滑コンデンサC1,C2との間に昇圧チョッパ回路13が備えられている。昇圧チョッパ回路13は、直流リアクトルLaと、IGBTよりなる第1及び第2のスイッチング素子TR1,TR2と、ダイオードD7,D8とから構成されている。直流リアクトルLaは、整流回路DR1の出力側の第1の電源線L1上に配置され、第1及び第2のスイッチング素子TR1,TR2は、その直流リアクトルLaの後段の電源線L1,L2間に直列に接続されている。第1のスイッチング素子TR1のエミッタと第2のスイッチング素子TR2のコレクタとの間の接続点と、前記第1及び第2の平滑コンデンサC1,C2間の接続点とは互いに接続されている。また、第1のスイッチング素子TR1と第1の平滑コンデンサC1との間の電源線L1上には、カソード側が平滑コンデンサC1に向けられたダイオードD7が配置され、第2のスイッチング素子TR2と第2の平滑コンデンサC2との間の電源線L2上には、カソード側がスイッチング素子TR2に向けられたダイオードD8が配置されている。ダイオードD7,D8は、平滑コンデンサC1,C2の放電防止素子として備えられている。
【0024】
また、直流変換回路12において、チョッパ用の直流リアクトルLaの後段側の直流電圧を検出する第1の電圧検出回路IV1が電源線L1,L2間に接続されている。第1の電圧検出回路IV1は、検出した直流電圧を第1の電圧検出信号Iv1としてチョッパ制御回路CRに出力する。また、平滑コンデンサC1,C2の後段側にも、その後段側の直流電圧を検出する第2の電圧検出回路IV2が電源線L1,L2間に接続されている。第2の電圧検出回路IV2は、検出した直流電圧を第2の電圧検出信号Iv2としてチョッパ制御回路CRに出力する。チョッパ制御回路CRは、第1の電圧検出信号Iv1に基づいて入力交流電源が200V系か400V系かの判定を行い、第2の電圧検出信号Iv2に基づいてインバータ回路INVに供給する直流電圧の電圧値を検出している。」

(b)「【0029】
次に、上記したチョッパ制御回路CRの制御について、入力交流電源が400V系の場合は図2を、200V系の場合は図3をそれぞれ用いて説明する。
チョッパ制御回路CRは、先ず、第1の電圧検出回路IV1から電圧検出信号Iv1の入力に基づいて入力交流電源が200V系か400V系かを判定し、この入力電圧の検出に基づいて200V系入力時用のチョッパ制御か、若しくは400V系入力時用のチョッパ制御かを選択する。そして、チョッパ制御回路CRは、第2の電圧検出回路IV2から電圧検出信号Iv2の入力に基づいて、各チョッパ制御にて直流変換回路12で生成された直流電圧が所定電圧値一定となるように制御している。」

上記記載事項(特に、下線部)によれば、刊行物2には、以下の技術事項(以下、「刊行物2記載の技術事項」という。)が開示されていると認められる。

「電源装置において電圧検出部を設けて出力電圧を検出し、検出された出力電圧が一定となるようにスイッチング素子を制御すること。」


ウ.刊行物3
刊行物3には、図面と共に以下の事項が記載されている。

(a)「【0034】
なお、コンバータ部10のスイッチング素子12及び逆流防止素子13の少なくとも一方をワイドバンドギャップ半導体によって構成するようにしても良い。ワイドバンドギャップ半導体とは、シリコン(Si)素子と比較して、バンドギャップが大きい半導体素子の総称であり、炭化ケイ素(SiC)素子の他、例えば、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンド素子等が挙げられる。
【0035】
このようなワイドバンドギャップ半導体によって形成されたスイッチング素子やダイオード素子は、高速スイッチングが可能である。また、耐電圧性が高く、許容電流密度も高いため、スイッチング素子12や逆流防止素子13の小型化が可能であり、これら小型化されたスイッチング素子12や逆流防止素子13を用いることにより、これらの素子を組み込んだ半導体モジュールの小型化が可能となる。また耐熱性も高いため、ヒートシンクの放熱フィンの小型化や、水冷部の空冷化が可能であるので、半導体モジュールの一層の小型化が可能になる。更に電力損失が低いため、スイッチング素子12やスイッチング素子12の高効率化が可能であり、延いては半導体モジュールの高効率化が可能になる。
【0036】
以上のように本実施の形態においては、スイッチング指令値Dに基づき、交流電源の電圧不平衡および電圧変動の少なくとも一方である電源環境の変動の度合いを検出することができる。
このように、電源不平衡や電源電圧低下の度合いを、コンバータ部10のスイッチング指令値Dより演算することで、急激な不平衡や電圧低下が発生した場合においても、スイッチング素子12に過度なストレスを長期間受ける前に素子の保護が可能であり、必要寿命を十分に確保し信頼性の高い電力変換装置が得られる。
【0037】
実施の形態2.
図5は、この発明の実施の形態2における空気調和装置の構成を示した図である。空気調和装置は、圧縮機100、四方弁101、熱交換器(室外機)102、膨張弁(減圧装置)103、熱交換器(室内機)104を備えており、これらが環状に接続されて冷媒回路を構成している。この冷媒回路により冷凍サイクルが構成されている。そして、圧縮機100に内蔵されているモータ(図示せず)の駆動制御装置110として上記の実施の形態1に係る電力変換装置が用いられる。また、熱交換器102、104に送風するために設けられている送風機105、106の駆動制御装置111、112として上記の実施の形態に係る電力変換装置が用いられている。
以上のように、本実施の形態2に係る空気調和装置は、上記の実施の形態1の電力変換装置を圧縮機100及び送風機105、106を制御対象として適用しているが、この場合についても上記の実施の形態1と同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0038】
実施の形態3.
なお、上記の実施の形態2は空気調和装置の例であるが、本発明は冷蔵庫又は冷凍庫のモータの駆動制御においても同様に適用される。
図6は、この発明の実施の形態3における冷蔵庫の構成を示す図である。冷蔵庫200は、図5と同様な冷媒回路(但し、四方弁は不要)を備えており、この冷媒回路により冷凍サイクルを構成している。冷蔵庫200は、図6の例では、冷凍サイクルの一部を構成する冷媒圧縮機201、冷却室202内に設けられた冷却器203で生成された冷気を冷蔵室、冷凍室等に送るための冷気循環用の送風機204を備えている。そして、この冷媒圧縮機201及び冷気循環用の送風機204は、上述した実施の形態1の電力変換装置により制御されるモータにより駆動される。このような構成によりモータを運転させても、上記実施の形態1と同様の効果が得られることはいうまでもない。」

上記記載事項(特に、下線部)によれば、刊行物3には、以下の技術事項(以下、「刊行物3記載の技術事項」という。)が開示されていると認められる。

「冷凍サイクルの電源装置のスイッチング素子、逆流防止素子を、炭化珪素、窒化ガリウム系材料、ダイヤモンドからなるワイドバンドギャップ半導体で形成すること。」

(3)当審の判断
ア 理由A(特許法第29条第1項第3号)について
(a)本件発明1について
本件発明1と刊行物発明を対比すると以下のとおりである。

・刊行物発明の「三相全波整流回路」、「直列回路」、及び「充電制御回路CR」は、「商用交流電源」を整流してインバータ回路INVに供給するものであって、ここで、「商用交流電源」が三相交流であることは明らかであり、さらに、「インバータ回路INV」は負荷といえる。
したがって、刊行物発明の「商用交流電源」、「インバータ回路INV」は、本件発明1の「三相交流」、「負荷」に相当し、そして、刊行物発明の「三相全波整流回路」、「直列回路」、及び「充電制御回路CR」を合わせたものが、本件発明1の「三相交流を直流に変換して負荷に供給する直流電源装置」に相当する。

・刊行物発明においては、「インバータ回路INV」は「直列回路」に並列に接続されるものであり、「直列回路」は「インバータ回路INV」(負荷)の出力端子間に接続されたものといえ、さらに、「直列回路」は、第1の平滑コンデンサC1及び第2の平滑コンデンサC2からなるものである。 してみれば、刊行物発明の「直列回路」の「第1の平滑コンデンサC1及び第2の平滑コンデンサC2」は、本件発明1の「前記負荷への出力端子間に直列接続された第1のコンデンサおよび第2のコンデンサ」に相当する。
・刊行物発明の「第1の充電用スイッチング素子TR1」は、「直流電圧を前記第2の平滑コンデンサC2に供給する」ものであって、直流電圧が供給されれば「第2の平滑コンデンサC2」に充電が行われることは明らかであるから、刊行物発明の「第1の充電用スイッチング素子TR1」は、本件発明1の「前記第2のコンデンサの充電と非充電とを切替える第2のスイッチング素子」に相当する。
同様に、刊行物発明の「第2の充電用スイッチング素子TR2」は、「直流電圧を前記第1の平滑コンデンサC1に供給する」ものであって、直流電圧が供給されれば「第1の平滑コンデンサC1」に充電が行われることは明らかであるから、刊行物発明の「第2の充電用スイッチング素子TR2」は、本件発明1の「前記第1のコンデンサの充電と非充電とを切替える第1のスイッチング素子」に相当する。
さらに、刊行物発明の「第1の充電用スイッチング素子TR1」及び「第2の充電用スイッチング素子TR2」は、前記三相全波整流回路の直流電圧が予め定めた基準電圧以下のときには、互いに半周期ずらした最大導通比率の同一時間の第1の充電制御信号Tr1及び第2の充電制御信号Tr2が繰り返し入力することで、「第1の平滑コンデンサC1及び第2の平滑コンデンサC2」の一方を選択的に充電しているといえる。
また、前記直流電圧が上記基準電圧以上のときには、前上記第1の充電制御信Tr1号及び第2の充電制御信号Tr2の入力が停止して、前記第1の充電用スイッチング素子TR1及び第2の充電用スイッチング素子TR2が遮断されることで、「前記三相全波整流回路の直流電圧」は「第1の平滑コンデンサC1及び第2の平滑コンデンサC2」に作用し両方を充電しているといえる。
したがって、刊行物発明の「第1の充電用スイッチング素子TR1」と、「第2の充電用スイッチング素子TR2」を合わせたものは、本件発明1の「前記第1のコンデンサおよび前記第2のコンデンサの一方あるいは両方を選択的に充電する充電部」に相当する。

・刊行物発明の「充電制御回路CR」は、「第1の充電用スイッチング素子TR1」と「第2の充電用スイッチング素子TR2」に充電制御信号を出力し制御しているから、本件発明1の「前記充電部を制御する制御部」に相当する。
ここで、刊行物発明の「第1の平滑コンデンサC1」および「第2の平滑コンデンサC2」は、「第2の充電用スイッチング素子TR2」および「第1の充電用スイッチング素子TR1」が導通する期間充電されるものであるから、導通する期間は充電期間といえる。
そして、刊行物発明の「充電制御回路CR」は、前記三相全波整流回路の直流電圧が予め定めた基準電圧以下のとき、前記第1の充電用スイッチング素子TR1及び第2の充電用スイッチング素子TR2を互いに半周期ずらした最大導通比率の同一期間導通することで、「第1の平滑コンデンサC1」及び「第2の平滑コンデンサC2」を充電させ、倍電圧をインバータ回路INVに供給するものである。
したがって、刊行物発明の「充電制御回路CR」は、出力電圧を第1の充電用スイッチング素子TR1及び第2の充電用スイッチング素子TR2の導通期間(充電期間)で制御しているといえる。
さらに、刊行物発明において「第1の充電制御信号Tr1及び第2の充電制御信号Tr2の出力周波数」を、商用交流電源周波数の6倍以上に設定すれば、「第1の充電制御信号Tr1及び第2の充電制御信号Tr2」は、三相である商用交流電源の電圧のゼロクロス点のタイミングまたは前記ゼロクロス点から離れたタイミングで、「第1の充電用スイッチング素子TR1及び第2の充電用スイッチング素子TR2」を制御するものと認められる。
したがって、刊行物発明の「充電制御回路CR」が「前記三相全波整流回路の直流電圧が予め定めた基準電圧以下であるとき、互いに半周期ずらした最大導通比率の同一時間の第1の充電制御信号Tr1及び第2の充電制御信号Tr2を繰り返し出力して上記第1の充電用スイッチング素子TR1及び第2の充電用スイッチング素子TR2を導通し、第1の平滑コンデンサC1の充電電圧と第2の平滑コンデンサC2の充電電圧とを加算し、倍電圧にしてインバータ回路INVに供給し、また、第1の充電制御信号Tr1及び第2の充電制御信号Tr2の出力周波数は、商用交流電源周波数の6倍以上に設定されるものであ」ることは、本件発明1の「前記制御部は、前記直流電源装置の出力電圧を、前記充電部の充電期間で制御し、前記三相交流の電圧のゼロクロス点のタイミングまたは前記ゼロクロス点から離れたタイミングで、前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子を制御」することに相当する。

ただし、前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子を制御する周波数が、本件発明1では、「前記三相交流の周波数の3n倍であり、前記nは自然数である」のに対して、刊行物発明では、商用交流電源周波数の6倍以上である点で相違する。

さらに、本件発明1では、「前記三相交流を供給する交流電源と前記充電部との間に接続されたリアクトル」を備えているのに対して、刊行物発明では、そのようなリアクトルを備えていない点で相違する。

したがって、本件発明1と刊行物発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致し、また、相違している。

(一致点)
「三相交流を直流に変換して負荷に供給する直流電源装置であって、
前記負荷への出力端子間に直列接続された第1のコンデンサおよび第2のコンデンサと、
前記第1のコンデンサおよび前記第2のコンデンサの一方あるいは両方を選択的に充電する充電部と、
前記充電部を制御する制御部と、
を備え、
前記充電部は、前記第1のコンデンサの充電と非充電とを切替える第1のスイッチング素子と、前記第2のコンデンサの充電と非充電とを切替える第2のスイッチング素子とを備え、
前記制御部は、前記直流電源装置の出力電圧を、前記充電部の充電期間で制御し、
前記三相交流の電圧のゼロクロス点のタイミングまたは前記ゼロクロス点から離れたタイミングで、前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子を制御する
直流電源装置。」


(相違点1)
前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子を制御する周波数が、本件発明1では、「前記三相交流の周波数の3n倍であり、前記nは自然数である」のに対して、刊行物発明では、商用交流電源周波数の6倍以上である点。

(相違点2)
本件発明1では、「前記三相交流を供給する交流電源と前記充電部との間に接続されたリアクトル」を備えているのに対して、刊行物発明では、そのようなリアクトルを備えていない点。

したがって、本件発明1は、刊行物発明と相違点1及び相違点2で相違するから、本件発明1は、刊行物1に記載された発明ではない。

(b)本件発明2ないし3について
本件発明1を引用する本件発明2ないし3は、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1と同じ理由により、刊行物1に記載された発明ではない。

イ 理由B(特許法第29条第2項)について
(a)本件発明1について
本件発明1と刊行物発明を対比すると、上記「ア 理由A(特許法第29条第1項第3号)について」の「(a)本件発明1について」で記したように上記相違点1及び相違点2で相違する。

上記各相違点について検討する。
相違点1について
刊行物発明では、第1の充電用スイッチング素子TR1及び第2の充電用スイッチング素子TR2を制御する周波数は、商用交流電源周波数の6倍以上の全ての周波数を含むものであって、本件発明1の周波数を3n倍に限定する技術思想を含むものではなく、制御の周波数を3n倍とすることが周知の技術であったとも認められない。
また、刊行物2、3にも、スイッチング素子を制御する周波数を3n倍とすること記載されていない。
よって、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に採用し得たものではない。

相違点2について
本件特許明細書等の発明の詳細な説明の段落【0029】には「 昇圧モードcでは、スイッチング素子4aとスイッチング素子4bの一方がオンとなる期間と、スイッチング素子4aおよびスイッチング素子4bが共にオンとなる同時オン期間とを設けている。このとき、図2に示す状態D→C→D→Bの状態遷移が周期的に繰り返され、この同時オン期間(ここでは状態Dの期間)において、リアクトル3にエネルギーが蓄えられる。このときの出力電圧は、昇圧モードa(倍電圧モード)における出力電圧以上の電圧となる。」と記載されており、本件発明1のリアクトルは倍電圧より大きい電圧を出力するために用いられるものと認められる。
ここで、刊行物発明は段落【0001】に「本発明は、商用交流電源が高電圧又はその約半分の低電圧の2系統のどちらでも使用可能なアーク加工用電源装置に関する。」と記載されるように、電源電圧が高電圧とその半分の低電圧の2系統のどちらでも使用可能なアーク加工用電源装置であって、電源が高電圧の半分の低電圧の際には、倍電圧にして出力するものである。
してみると、刊行物発明では、倍電圧より大きな電圧を出力する必要がないことから、そのためのリアクトルを設ける理由が存在しない。
よって、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に採用し得たものではない。

したがって、本件発明1は、当業者が刊行物1ないし3に基づいて容易に発明することができたものではない。

特許異議申立人は、平成31年1月4日付け意見書において、
特許権者は、平成30年10月26日付の意見書において、訂正請求により加えられた「前記三相交流を供給する交流電源と前記充電部との間に接続されたリアクトルと、」(以下、「構成A」という。)を採用したことによる作用効果について、何ら言及しておらず、加えて、本件明細書を参酌しても、構成Aを採用したが故の効果についてもな何ら言及されてなく、また他の構成との関連性を有するものではないことから、構成Aの付加は、訂正前の請求項1に係る発明に、当該発明に何ら作用効果上の関連性のない構成を付加することにすぎず、単なる寄せ集め発明であること、そして、三相交流を供給する交流電源の入力側にリアクトルを設けることは、甲第4号証ないし甲第7号証に開示されているように周知慣用手段である旨を主張している。

確かに、平成30年10月26日付の意見書では、訂正請求により加えられた構成Aを採用したことによる作用効果については記載されていないが、上記「イ」の「(a)」の「相違点2について」で記したように本件特許明細書等の発明の詳細な説明の段落【0029】には、構成Aのリアクトルが倍電圧より大きい電圧を出力するために用いられることが記載されており、構成Aの付加が、訂正前の請求項1に係る発明に、当該発明に何ら作用効果上の関連性のない構成を付加したものとはいえない。
また、三相交流を供給する交流電源の入力側にリアクトルを設けることは、周知慣用手段と認められるが、構成Aは、交流電源と充電部との間にリアクトルを設けるものであって、交流電源の入力側にリアクトルを設けるものではなく、交流電源と充電部との間にリアクトルを設けることが周知慣用手段であるとは認められない。
したがって、上記主張を採用することはできない。

(b)本件発明2ないし5、7ないし9について
本件発明1を引用する本件発明2ないし5、7ないし9は、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1と同じ理由により、刊行物1ないし3に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

ウ 理由C(特許法第36条第6項第2号)について
本件訂正請求により、取消理由の対象とした訂正前の請求項6は削除された。

3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1は「前記制御部は、前記直流電源装置の出力電圧を、前記充電部の充電期間で制御し」と規定しているが、「出力電圧を、前記充電部の充電期間で制御」するとは、充電しない場合(すなわち、充電期間がない場合)と充電する場合とで出力電圧を変更しているものをも含んでいるのか明確ではないから、訂正前の請求項1ないし9は、明確ではない旨主張している。(特許異議申立書13頁15行-16頁10行)

しかしながら、本件発明1には「前記第1のコンデンサおよび前記第2のコンデンサの一方あるいは両方を選択的に充電する充電部」と記載されており、「充電部」はコンデンサに充電を行うためのものであって、「前記充電部の充電期間」にはコンデンサに充電しない期間は含まれないことから、「出力電圧を、前記充電部の充電期間で制御」するには、充電しない場合(すなわち、充電期間がない場合)と充電する場合とで出力電圧を変更しているものを含んでいないことは明らかである。
したがって、本件発明1ないし5、7ないし9に係る特許が明確ではないとはいえない。


第4.むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立ての理由によっては、本件発明1ないし5、7ないし9に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件請求項1ないし5、7ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

そして、訂正によって、請求項6は削除されたから、請求項6についての本件特許異議の申立ては却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流を直流に変換して負荷に供給する直流電源装置であって、
前記負荷への出力端子間に直列接続された第1のコンデンサおよび第2のコンデンサと、
前記第1のコンデンサおよび前記第2のコンデンサの一方あるいは両方を選択的に充電する充電部と、
前記三相交流を供給する交流電源と前記充電部との間に接続されたリアクトルと、
前記充電部を制御する制御部と、
を備え、
前記充電部は、前記第1のコンデンサの充電と非充電とを切替える第1のスイッチング素子と、前記第2のコンデンサの充電と非充電とを切替える第2のスイッチング素子とを備え、
前記制御部は、前記直流電源装置の出力電圧を、前記充電部の充電期間で制御し、
前記三相交流の電圧のゼロクロス点のタイミングまたは前記ゼロクロス点から離れたタイミングで、前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子を制御し、前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子を制御する周波数は、前記三相交流の周波数の3n倍であり、前記nは自然数である直流電源装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1のコンデンサおよび前記第2のコンデンサの1組の充電期間と非充電期間とを合わせた期間を1周期とするときの当該1周期の逆数である充電周波数が、前記三相交流の周波数の3n倍(nは自然数)となるように、前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子を制御する請求項1に記載の直流電源装置。
【請求項3】
前記充電部は、
前記第2のコンデンサの充電電荷の前記第1のスイッチング素子への逆流を防止する第1の逆流防止素子と、
前記第1のコンデンサの充電電荷の前記第2のスイッチング素子への逆流を防止する第2の逆流防止素子と、
を備え、
前記制御部は、
前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子を前記三相交流の電圧のゼロクロス点のタイミングまたは前記ゼロクロス点から離れたタイミングで制御する請求項1または2に記載の直流電源装置。
【請求項4】
前記直流電源装置の出力電圧を検出する電圧検出部を備え、
前記制御部は、
前記電圧検出部により検出された出力電圧を一定にすべく、前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子のオン期間を制御すると共に、前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子を前記三相交流の電圧のゼロクロス点のタイミングまたは前記ゼロクロス点から離れたタイミングで制御する請求項3に記載の直流電源装置。
【請求項5】
入力電流を検出する電流検出部を備え、
前記制御部は、前記電流検出部で検出された電流に基づいて、前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子を前記三相交流の電圧のゼロクロス点のタイミングまたは前記ゼロクロス点から離れたタイミングで制御する請求項3に記載の直流電源装置。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記第1のスイッチング素子、前記第2のスイッチング素子、前記第1の逆流防止素子、および前記第2の逆流防止素子のうちの少なくとも1つが、ワイドバンドギャップ半導体で形成されている請求項3から5の何れか1項に記載の直流電源装置。
【請求項8】
前記ワイドバンドギャップ半導体は、炭化珪素、窒化ガリウム系材料、またはダイヤモンドである請求項7に記載の直流電源装置。
【請求項9】
請求項1から5,7,8の何れか1項に記載の直流電源装置を備える冷凍サイクル適用機器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-01-28 
出願番号 特願2016-525635(P2016-525635)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H02M)
P 1 651・ 121- YAA (H02M)
P 1 651・ 851- YAA (H02M)
P 1 651・ 113- YAA (H02M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 麻生 哲朗  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 山澤 宏
井上 信一
登録日 2017-09-22 
登録番号 特許第6211187号(P6211187)
権利者 三菱電機株式会社
発明の名称 直流電源装置、およびそれを備えた冷凍サイクル適用機器  
代理人 高村 順  
代理人 高村 順  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ