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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C02F 審判 全部申し立て 特29条特許要件(新規) C02F 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C02F 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 C02F 審判 全部申し立て 特29条の2 C02F 審判 全部申し立て 2項進歩性 C02F 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C02F |
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管理番号 | 1350666 |
異議申立番号 | 異議2018-700206 |
総通号数 | 233 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-05-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-03-07 |
確定日 | 2019-03-07 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6201114号発明「シアン含有廃水の処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6201114号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6201114号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 特許第6201114号の請求項8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許に係る出願は、平成25年10月29日(優先権主張平成24年11月1日)の出願であって、平成29年9月8日に特許権の設定登録がなされ、その後、同年9月27日に特許掲載公報の発行がなされたところ、平成30年3月7日に特許異議申立人の後藤衞(以下、単に「異議申立人」という。)により請求項1ないし8に係る特許について特許異議の申立てがなされ、同年7月30日付けで特許権者に取消理由通知がなされ、特許権者より同年9月21日に意見書及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、この訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)が提出され、これに対する意見を異議申立人に求めたものの、異議申立人からの意見書の提出がなされなかったものである。 第2 本件訂正の適否についての判断 1 本件訂正の内容 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「シアン含有廃水に、該廃水に含まれるシアンを除去し得る量の銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物をこの順で添加した後、該廃水をpH6?9.5の条件下で、生成した水不溶性塩を該廃水から除去して、該廃水中のシアンを除去することを特徴とするシアン含有廃水の処理方法。」とあるのを、「アンモニウムイオンを含有するシアン含有廃水に、該廃水に含まれるシアンを除去し得る量の銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物をこの順で添加した後、該廃水をpH6.0?9.0の条件下で、生成した水不溶性塩を該廃水から除去して、該廃水中のシアンを除去する(但し、前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物を添加する前に、銅化合物、マグネシウム化合物および還元剤を添加する場合を除く)ことを特徴とするシアン含有廃水の処理方法。」に訂正する。(当審注:下線は、訂正箇所を示し、特許権者が付与した。以下同じ。) イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項8を削除する。 ウ 訂正事項3 明細書の【0018】の第1?4行に記載された「シアン含有廃水に、該廃水に含まれるシアンを除去し得る量の銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物をこの順で添加した後、該廃水をpH6?9.5の条件下で、生成した水不溶性塩を該廃水から除去して、該廃水中のシアンを除去することを特徴とする」を、「アンモニウムイオンを含有するシアン含有廃水に、該廃水に含まれるシアンを除去し得る量の銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物をこの順で添加した後、該廃水をpH6.0?9.0の条件下で、生成した水不溶性塩を該廃水から除去して、該廃水中のシアンを除去する(但し、前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物を添加する前に、銅化合物、マグネシウム化合物および還元剤を添加する場合を除く)ことを特徴とする」に訂正する。 エ 訂正事項4 明細書の【0020】の第17?21行に記載された「さらに添加する、 (6)・・・である、および (7)シアン含有廃水が、アンモニウムイオンを含有するシアン含有廃水である のいずれか1つを満たす場合に、上記の効果をより発揮する。」を、「さらに添加する、および (6)・・・である のいずれか1つを満たす場合に、上記の効果をより発揮する。」に訂正する。 オ 訂正事項5 明細書の【0022】の第1?4行に記載された「シアン含有廃水に、該廃水に含まれるシアンを除去し得る量の銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物をこの順で添加した後、該廃水をpH6?9.5の条件下で、生成した水不溶性塩を該廃水から除去して、該廃水中のシアンを除去することを特徴とする」を、「アンモニウムイオンを含有するシアン含有廃水に、該廃水に含まれるシアンを除去し得る量の銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物をこの順で添加した後、該廃水をpH6.0?9.0の条件下で、生成した水不溶性塩を該廃水から除去して、該廃水中のシアンを除去する(但し、前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物を添加する前に、銅化合物、マグネシウム化合物および還元剤を添加する場合を除く)ことを特徴とする」に訂正する。 カ 訂正事項6 明細書の【0048】の第1行に記載された「試験例1(シアン化物イオンの除去効果確認試験)」を、「試験例1(シアン化物イオンの除去効果確認試験:本試験例における実施例1、2、aおよびbならびに比較例1?4は参考例である)」に訂正する。 キ 訂正事項7 明細書の【0057】の第1?2行に記載された「試験例4(ジチオカルバミン酸塩と水溶性カチオン性高分子化合物とのシアン化物イオンの除去効果確認試験)」を、「試験例4(ジチオカルバミン酸塩と水溶性カチオン性高分子化合物とのシアン化物イオンの除去効果確認試験:本試験例における実施例8?10および比較例11?14は参考例である)」に訂正する。 2 訂正の適否 2-1 訂正事項が全ての訂正要件に適合しているか否かについて ア 訂正事項1 a 訂正の目的について 訂正事項1は、請求項1について、「シアン含有廃水」を「アンモニウムイオンを含有するシアン含有廃水」に訂正し(訂正事項1-1)、「pH6?9.5の条件下」を「pH6.0?9.0の条件下」に訂正し(訂正事項1-2)、「(但し、前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物を添加する前に、銅化合物、マグネシウム化合物および還元剤を添加する場合を除く)」を付加するもの(訂正事項1-3)であるところ、訂正事項1-1は、「アンモニウムイオンを含有する」という構成要件を直列的に付加するものであり、訂正事項1-2は、pH範囲を狭めるものであり、訂正事項1-3は、いわゆる「除くクレーム」として特定の構成を除外するものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項但し書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1は、請求項1を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であること 上記の訂正事項1-1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項8および明細書の【0023】等の記載から導き出される構成であり、また、上記の訂正事項1-2は、明細書の【0054】ないし【0056】に記載の試験例3の記載から導き出される構成であり、さらに、上記の訂正事項1-3は、いわゆる「除くクレーム」として特定の構成を除外するものであって、新たな技術事項を導入するものでないから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 イ 訂正事項2 a 訂正の目的について 訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項8を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項但し書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項2は、請求項8を削除するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であること 訂正事項2は、請求項8を削除するものであって、新たな技術事項を導入するものでないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 ウ 訂正事項3 a 訂正の目的について 訂正事項3は、訂正事項1及び2に伴って、特許請求の範囲と明細書の記載との整合を図るものであるので、特許法第120条の5第2項但し書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項3は、特許請求の範囲と明細書の記載との整合を図るものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であること 訂正事項3は、上記「訂正事項1」の「c」で示した理由と同じ理由より、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 エ 訂正事項4 a 訂正の目的について 訂正事項4は、訂正事項1及び2に伴って、特許請求の範囲と明細書の記載との整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項但し書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項4は、特許請求の範囲と明細書の記載との整合を図るものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であること 訂正事項4は、訂正前の特許請求の範囲の請求項8および明細書の【0023】の記載から導き出される構成であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 オ 訂正事項5 a 訂正の目的について 訂正事項5は、訂正事項1及び2に伴って、特許請求の範囲と明細書の記載との整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項但し書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項5は、特許請求の範囲と明細書の記載との整合を図るものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であること 訂正事項5は、上記「訂正事項1」の「c」で示した理由と同じ理由より、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 カ 訂正事項6 a 訂正の目的について 訂正事項6は、訂正事項1及び2に伴って、特許請求の範囲と明細書の記載との整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項但し書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項6は、特許請求の範囲と明細書の記載との整合を図るものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であること 訂正事項6は、特定の試験例を本件特許発明の実施例でないことを明示するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 キ 訂正事項7 a 訂正の目的について 訂正事項7は、訂正事項1及び2に伴って、特許請求の範囲と実施例の記載との整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項但し書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項7は、特許請求の範囲と実施例の記載との整合を図るものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であること 訂正事項7は、特定の試験例を本件特許発明の実施例でないことを明示するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 ク 一群の請求項についての説明 訂正前の請求項1?8について、請求項2?7はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1?8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 2-2 特許出願の際に独立して特許を受けることができること 本件においては、訂正前の全ての請求項1?8について特許異議申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 2-3 小括 上記のとおり、訂正前の請求項1ないし8は、特許法120条の5第4項の規定に適合する一群の請求項であり、本件訂正請求は、この一群の請求項1?8について訂正することを求めるものであるから、特許法120条の5第4項の規定に適合して請求されたものである。また、本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書き1号、3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法126条第4?6項の規定に適合するものである。 したがって、本件訂正後の請求項〔1-8〕について訂正を認める。 第3 本件請求項に係る発明 前記「第2」で示したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、訂正により削除された請求項8を除く請求項1ないし7に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明7」といい、これらを纏めて「本件発明」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された以下の事項により特定されるものと認める。 「【請求項1】 アンモニウムイオンを含有するシアン含有廃水に、該廃水に含まれるシアンを除去し得る量の銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物をこの順で添加した後、該廃水をpH6.0?9.0の条件下で、生成した水不溶性塩を該廃水から除去して、該廃水中のシアンを除去する(但し、前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物を添加する前に、銅化合物、マグネシウム化合物および還元剤を添加する場合を除く)ことを特徴とするシアン含有廃水の処理方法。 【請求項2】 前記銅化合物が、塩化第一銅、フッ化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、塩化第二銅、フッ化第二銅、硝酸銅および硫酸銅から選択される請求項1に記載のシアン含有廃水の処理方法。 【請求項3】 前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物が、ジチオカルバミン酸、その誘導体およびそれらの塩ならびにジチオカルバミン酸で修飾された高分子化合物から選択される請求項1または2に記載のシアン含有廃水の処理方法。 【請求項4】 前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物が、ジチオカルバミン酸塩、ジメチルジチオカルバミン酸塩、ジェチルジチオカルバミン酸塩、ジプロピルジチオカルバミン酸塩、ジブチルジチオカルバミン酸塩、ピペラジンビスジチオカルバミン酸塩、テトラエチレンペンタミンジチオカルバミン酸塩、ポリアルキレン(炭素数2?4)ポリアミンに対して5?80モル%のジチオカルバミン酸で修飾された分子量500?100,000のポリアルキレンポリアミンを含有する高分子化合物、およびポリアルキレン(炭素数2?4)ポリイミンに対して2?80モル%のジチオカルバミン酸で修飾された分子量500?1,000,000のポリアルキレンポリイミンを含有する高分子化合物から選択される請求項1?3のいずれか1つに記載のシアン含有廃水の処理方法。 【請求項5】 前記銅化合物と前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物との添加割合が、銅換算とジチオカルバミン酸換算の重量割合で1:1?1:50である請求項1?4のいずれか1つに記載のシアン含有廃水の処理方法。 【請求項6】 前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物の添加と同時もしくはその添加後に、水溶性カチオン性高分子化合物をさらに添加する請求項1?5のいずれか1つに記載のシアン含有廃水の処理方法。 【請求項7】 前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物と前記水溶性カチオン性高分子化合物との添加割合が、ジチオカルバミン酸換算の重量割合で100:1?1:100である請求項6に記載のシアン含有廃水の処理方法。 【請求項8】(削除)」 第4 取消理由通知書に記載した取消理由 4-1 取消理由1(特許法第36条第6項第1号)、取消理由2(特許法第36条第6項第2号)及び取消理由3(特許法第36条第4項第1号)について 取消理由1ないし3は、【0058】【表4】の比較例11、13が、訂正前の請求項1ないし8に係る発明に含まれることを根拠にしたものであるところ、本件訂正により、比較例11、13を含む【0058】【表4】のすべての例が参考例になることで、解消したということができるので、取消理由1ないし3に理由はないということができる。 4-2 取消理由4(特許法第29条の2)について 本件発明1ないし7は、「廃水中のシアンを除去する(但し、前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物を添加する前に、銅化合物、マグネシウム化合物および還元剤を添加する場合を除く)」「シアン含有廃水の処理方法」を特定事項にするものである。 一方、下記「第5」「5-1」で示す甲第10号証の特願2012-100183号(特開2013-226510号公報)(先願)の【特許請求の範囲】【請求項1】の記載からして、 「シアン含有排水に銅化合物およびマグネシウム化合物を、還元剤の存在下に反応させ、シアンの不溶性塩を生成させて分離する、シアン含有排水の処理方法。」(以下、「甲10発明」という。)が記載されているといえる。 そうすると、本件発明1ないし7は、マグネシウム化合物を添加しないことを特定するのに対して、甲10発明は、マグネシウム化合物を添加することを特定する点で、少なくとも相違している。 したがって、本件発明1ないし7は、甲第10号証(先願)に記載された発明と同一であるとはいえないので、取消理由4に理由はないということができる。 4-3 小括 上記「4-1」ないし「4-2」より、本件発明1ないし7に係る特許は、取消理由1ないし4により取り消されるものではない。 第5 取消理由に採用しなかった申立理由 5-1 証拠方法 ○甲第1号証:特公昭63-1919号公報 ○甲第2号証:惠藤良弘、外1名著、「現場で役立つ 無機排水処理技術」(初版1刷)、株式会社工業調査会、2005年12月20日、p144-145 ○甲第3号証:特開昭51-140360号公報 ○甲第4号証:特公昭56-39358号公報 ○甲第5号証:特公平4-64757号公報 ○甲第6号証:特開平9-227855号公報 ○甲第7号証:特開平7-328648号公報 ○甲第8号証:特開2001-340874号公報 ○甲第9号証:特公平2-48315号公報 ○甲第10号証:特願2012-100183号(特開2013-226510号公報) 5-2 申立理由1(特許法第29条第1項柱書)について 申立理由1は、訂正前の請求項1ないし8に係る発明が、比較例を含むこと、及び、上乗せ効果を達成していない実施例10を含むことをもって、「産業上利用することができる発明」に該当しないというものであるが、これは、記載不備の問題であって、発明性の問題ではないから、申立理由1に理由はないということができる。 5-3 申立理由2(特許法第36条第6項第1号)、申立理由3(特許法第36条第6項第2号)及び申立理由4(特許法第36条第4項第1号)について 申立理由2ないし4(取消理由1ないし3を除く理由)は、明細書及び図面において、訂正前の請求項1ないし8に係る発明に関する説明(記載)が十分になされていないというものであるが、本件訂正後の明細書(特に【発明を実施するための形態】【0022】ないし【0059】)及び図面は、本件発明1ないし7について、シアン含有排水(処理対象物)に含まれる成分とその濃度、ジチオカルバミン酸基を有する化合物や銅化合物などの添加剤とその添加量、pHなどの条件(状態)、処理の結果等が、実施例3ないし7、比較例5ないし10、参考例にされた実施例1ないし2、a、b、8ないし9、及び、同比較例1ないし4、11ないし14という25個の具体例として示されており、また、当業者であれば、上記具体例に基いて、上記「ジチオカルバミン酸基を有する化合物や銅化合物などの添加剤とその添加量、pHなどの条件(状態)等」を適宜変更することもでき得るといえることからして、申立理由2ないし4(取消理由1ないし3を除く理由)に理由はないということができる。 5-4 申立理由5(特許法第29条第2項)について 5-4-1 本件発明1 甲第1号証には、特に、特許請求の範囲の請求項1、同請求項2、第8欄第8行?第9欄7行、第9欄第12行?第10欄11行、及び、第17欄第26行?第18欄26行等の記載からして、 「廃水中のチオシアン分及びシアン分を除去するのに必要な(過剰な)ハロゲン化第1銅溶液に、フエーリング液[硫酸銅溶液とロッシェル塩(酒石酸ナトリウムカリウム)・水酸化ナトリウム溶液を混合したもの]を還元しうる還元性物質(亜硫酸及びその塩、ピロ亜硫酸塩、亜二チオン酸塩、次亜燐酸及びその塩、亜燐酸及びその塩、塩化第一錫、ホスフイン類、ヒドラジン類、ヒドロキシルアミン類、ヒドロキノン類、カテコール類、o-アミノフエノール類、p-アミノフエノール類、o-フエニレンジアミン類、p-フエニレンジアミン類、1-フエニル-3-ピラゾリドン類、p-オキシフエニルグリシン類並びにホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレートよりなる群から選ばれた1種又は2種以上の化合物)を含有させた処理剤を廃水に添加し、9以下のpH(実施例5及び比較例4では、pH6.5)で沈殿を生成させて分離し、分離した後の廃水に硫化水素或いは硫化ナトリウムを添加して硫化銅の沈殿を生成させて分離する、廃水中のチオシアン分及びシアン分を除去する方法。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているということができる。 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「廃水中のチオシアン分及びシアン分を除去する方法」は、本件発明1の「シアン含有廃水の処理方法」に相当し、甲1発明の「廃水中のチオシアン分及びシアン分を除去するのに必要な(過剰な)ハロゲン化第1銅溶液に、フエーリング液[硫酸銅溶液とロッシェル塩(酒石酸ナトリウムカリウム)・水酸化ナトリウム溶液を混合したもの]を還元しうる還元性物質(亜硫酸及びその塩、ピロ亜硫酸、亜二チオン酸塩、次亜燐酸及びその塩、亜燐酸及びその塩、塩化第1錫、ホスフイン類、ヒドラジン類、ヒドロキシルアミン類、ヒドロキノン類、カテコール類、o-アミノフエノール類、p-アミノフエノール類、o-フエニレンジアミン類、p-フエニレンジアミン類、1-フエニル-3-ピラゾリドン類、p-オキシフエニルグリシン類並びにホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレートよりなる群から選ばれた1種又は2種以上の化合物)を含有させた処理剤を廃水に添加し、9以下のpH(実施例5及び比較例4では、pH6.5)で沈殿を生成させ、これを分離」することは、本件発明1の「廃水に含まれるシアンを除去し得る量の銅化合物」「を」「添加した後、該廃水をpH6.0?9.0の条件下で、生成した水不溶性塩を該廃水から除去して、該廃水中のシアンを除去する」ことに一応相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「シアン含有廃水に、該廃水に含まれるシアンを除去し得る量の銅化合物を添加した後、該廃水をpH6.0?9.0の条件下で、生成した水不溶性塩を該廃水から除去して、該廃水中のシアンを除去する、シアン含有廃水の処理方法」という点で一致し、 本件発明1は、シアン含有廃水に、「銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物をこの順で添加」することを特定するのに対して、甲1発明は、シアン含有廃水に、銅化合物を添加するものの、「銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物をこの順で添加」することの特定がない点(以下、「相違点」という。)で、少なくとも相違している。 ここで、甲第2号証ないし甲第9号証の記載内容を検討したとしても、これら甲各号証のいずれにも、シアン含有廃水に、「銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物をこの順で添加」することについて記載も示唆もない。 したがって、甲1発明と甲第2号証ないし甲第9号証に記載の事項を組み合わせたとしても、上記相違点に係る本件発明1の特定事項を導き出すことはできないので、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第9号証に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。 よって、本件発明1について、申立理由5に理由はないということができる。 5-4-2 本件発明2ないし7 本件発明2ないし7は、本件発明1と同じく、上記相違点に係る特定事項を有するものであるので、上記「5-4-1」で示した理由と同じ理由より、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第9号証に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。 したがって、本件発明2ないし7についても、申立理由5に理由はないということができる。 5-5 小括 上記「5-1」ないし「5-4」より、本件発明1ないし7に係る特許は、申立理由1ないし5により取り消されるものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由および取消理由通知書に記載した取消理由によっては、本件発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 本件請求項8に係る特許は、訂正により削除されたため、本件請求項8に係る特許に対する異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 シアン含有廃水の処理方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、簡便な操作で廃水中のシアンおよび薬剤の添加により発生する銅イオンを確実に除去して、処理後の廃水のシアン濃度および銅濃度が排水基準を満たし得る、各種工場から排出されるシアン含有廃水の処理方法に関する。 本発明では、各種形態で廃水中に含有するすべてのシアン、すなわち難分解性シアン錯体、易分解性シアン錯体およびシアン化物イオンを簡便な操作で処理することができる。 【背景技術】 【0002】 シアンは生態系に強い悪影響を及ぼすため、シアン含有廃水(「シアン廃水」ともいう)を自然界にそのまま放出することはできない。シアンについては水質汚濁防止法に基づき排水基準が定められており、この基準(1mg/L以下)を満たすようにシアン除去処理を行い、無害化した廃水でなければ下水などに排出できないことになっている。また、地域によっては、条例により、上記の排水基準値よりもさらに低い上乗せ排水基準が定められている。 シアンは、廃水の由来にも因り、含有量の多少はあるが、難分解性シアン錯体、易分解性シアン錯体およびシアン化物イオンの3種の形態で廃水中に存在している。 また、水質汚濁防止法に基づく銅の排水基準(銅含有量)は3mg/Lであり、シアンと同様に基準以下の廃水でなければ下水などに排出できない。 【0003】 シアン含有廃水中のシアンの除去処理方法としては、主として次のような方法が挙げられる(例えば、三好康彦著、「化学の基礎と排水処理技術」、株式会社情報総合研究所、1996年11月10日第2刷発行、p.152?158:非特許文献1参照)。 (1)シアン含有廃水をアルカリ性に調整した後、塩素を注入してシアンを酸化分解するアルカリ塩素法 (2)強力なオゾンの酸化力でシアンを窒素ガスと炭酸水素塩に酸化分解するオゾン酸化法 (3)非溶解性の電極を用いてシアンを電気分解し、酸化反応を行なう電解酸化法(電解法) (4)シアン含有廃水中に、鉄イオンの供給化合物として、例えば硫酸第一鉄を加え、難溶性のフェリフェロシアン化物を生成させ、これを沈殿除去する紺青法 (5)シアンに対して馴養させた微生物(シアン分解菌)にシアンを分解させる生物処理法 【0004】 方法(1)?(3)は、それらの処理の共通性から「酸化分解法」ともいう。 方法(4)は、その処理形態から「不溶錯体法」ともいい、その他、硫酸第一鉄の代わりに、例えば塩化亜鉛、2価の銅塩および還元剤とをそれぞれ添加し生成した不溶錯体を沈殿除去する亜鉛白法および還元銅塩法がある。 上記以外のシアンの除去処理方法として、シアン含有廃水を高温に保持してシアン化合物をアンモニアと蟻酸に加水分解させ、共存する重金属類を単体または酸化物として析出させる熱加水分解法、およびシアンの分解以外に有機汚濁物をも酸化分解させる湿式酸化法のような「熱水反応」がある。 【0005】 しかしながら、上記の方法はそれぞれ次のような欠点を有している。 方法(1)のアルカリ塩素法は、最も一般的なシアンの除去処理方法であるが、二段階処理であり、各段階の反応に適したpH値(第一反応:pH10?11、第二反応:pH7?8)に維持する必要があり、しかも酸化剤の添加量、残留塩素量などを常時監視しなければならず(第一反応:酸化還元電位(ORP)300?350mV、第二反応:ORP600?650mV)、易分解性シアン錯体およびシアン化物イオンを除去し易く、難分解性シアン錯体を除去し難い傾向がある。また、高アルカリや塩素による設備の腐食の問題がある。 【0006】 方法(2)のオゾン酸化法は、この処理により有害な化合物が生成せず、用いるオゾン自体が分解しても無害の酸素しか生成しないなどの利点を有するが、気液反応であるので、複雑かつ大掛かりな設備を必要とする。また、オゾンの製造コストが高いので、オゾンを有効に反応させるための装置上の工夫が必要である。例えば、2塔の酸化塔を設け、第一の酸化塔内に充填物を入れて、シアン含有廃水とオゾンとを向流的に効率よく接触させ、第一の酸化塔からの排気を第二の酸化塔で使用して、残留オゾンを完全に利用する。さらに、シアンの分解により生じた金属水酸化物の凝集沈澱処理を行う必要がある。 【0007】 方法(3)の電解酸化法は、シアンの高濃度廃液を効率よく、かつ経済的に処理できるという利点を有するが、大量の電力が必要になり、処理コストが高くなる。また、電解酸化法と他の処理法とを併用してシアンを除去する方法もあるが、いずれにしても処理が複雑になり、処理コストが高くなる。 【0008】 方法(4)の紺青法は、他の処理法ではシアンの酸化分解が困難なシアン含有廃水の処理に適しているが、鉄イオンが少ないと、生成した錯体が可溶性の状態でシアン含有廃水中に残り、処理水が着色する問題点があるため、多量の鉄イオン供給化合物の添加を必要とし、添加剤の量に比例して生成する錯体(廃棄物またはスラッジ)の量が膨大となる。また、処理水のpHが6より高い場合や生成した錯体が空気中の酸素で容易に酸化された場合には、フェリフェロ型となり再溶解するので、紺青法で処理水のシアン濃度を排水基準値以下にすることは困難である。 また、他の不溶錯体法である亜鉛白法および還元銅塩法でもそれぞれpHを5?7.5およびpH7以下に調整する必要があり、さらに還元剤を併用する必要があり、紺青法と同様の問題がある。すなわち、いずれの不溶錯体法でも難分解性シアン錯体および易分解性シアン錯体、特に難分解性シアン錯体の除去効果はあるが、シアン化物イオンの除去効果には期待できない。 【0009】 方法(5)の生物処理法は、微生物反応特有の欠点である微生物処理に適したpHの維持、栄養物質(窒素、リンなど)の添加、活性汚泥濃度(MLSS)の調節、余剰汚泥の処理などの煩雑な操作が必要であり、その上、処理時間(シアンと微生物との接触時間)が長く、シアン含有廃水中のシアン濃度が高い場合には、処理すべき廃水を予め希釈しなければならない。 【0010】 また、本発明の出願人は、次のようなシアン含有廃水の処理方法を提案してきた。 (A)鉄シアン錯イオン含有廃水をpH6.0以上に調整し、これにマンガン化合物を添加して水不溶性の鉄シアン錯化合物のマンガン塩を生成させ、廃水系から除去する方法(特公昭62-24157号公報:特許文献1参照) (B)シアン含有廃水に、予めアルカリ条件下で塩素ガスを導入するか、次亜塩素酸塩を添加して、シアン化合物を酸化分解する第1段処理を行い、次いで廃水中に残存するシアン化合物を、ホルムアルデヒド、マンガン化合物および/または銅化合物、ならびに塩素ガスまたは次亜塩素酸塩の三成分系で処理して、シアン化合物を分解物および/または水不溶性塩として除去する第2段処理を行う方法(特開2005-279571号公報:特許文献2参照) (C)シアン含有廃水に、該廃水に含まれるシアンを除去し得る量の第二鉄塩および第一銅塩を添加した後、該廃水のpHを6?8に調整し、生成した水不溶性塩を廃水から除去して、廃水中のシアンを除去する方法(特開2005-313112号公報:特許文献3参照) 【0011】 さらに、シアンを含有する被処理水に、2価の銅塩および還元剤を添加して難溶性塩を生成させて分離する分離工程と、該分離工程の処理水にアルカリ性条件下にて酸化剤を添加して該処理水中のシアンを酸化する酸化工程とを有する方法が提案されている(特開2008-36608号公報:特許文献4参照) 【0012】 しかしながら、上記の先行技術では、煩雑な工程や操作が必要であり、それに伴い複数の反応槽が必要となる場合もある。また、廃水の種類によってはシアン除去の効果が十分でなく、処理後の廃水のシアン濃度を排水基準(1mg/L以下)、さらには環境への影響を考慮した上乗せ排水基準を満足する濃度にすることができず、処理廃水をそのまま下水などに排出することができない。 【0013】 また、水質汚濁防止法に基づき水素イオン濃度(pH)の排水基準は、海域では5.0?9.0、海域外では5.8?8.6と定められている。上記の先行技術において、廃水のpHを酸性やアルカリ性に調整した場合には、下水などに排出する前に、廃水のシアン濃度だけではなく、pHも排水基準範囲内に調整する中和処理が必要になる場合もある。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0014】 【特許文献1】特公昭62-24157号公報 【特許文献2】特開2005-279571号公報 【特許文献3】特開2005-313112号公報 【特許文献4】特開2008-36608号公報 【非特許文献】 【0015】 【非特許文献1】 三好康彦著、「化学の基礎と排水処理技術」、株式会社情報総合研究所、1996年11月10日第2刷発行、p.152?158 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0016】 本発明は、処理後の廃水のシアン濃度および銅濃度が排水基準よりもさらに低い上乗せ排水基準をも満足する濃度となるように、簡便な操作で廃水中のシアンおよび薬剤の添加により発生する銅イオンも確実に除去し得ると共に、処理後の廃水を中和処理なしに、そのまま下水などに排出し得るシアン含有廃水の処理方法を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0017】 本発明の発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、シアン含有廃水に含まれるシアンを除去し得る量の銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物をこの順に添加した後、廃水を特定のpHに調整し、その条件下で生成したシアンの水不溶性塩を除去することにより、意外にも、廃水中のシアン濃度を、排水基準(1mg/L以下)を超え、上乗せ排水基準を満たし得る濃度にまで低下させ、さらに薬剤の添加により発生する銅イオンを確実に除去して、処理後の廃水の銅濃度が排水基準を満たし得る事実を見出し、本発明を完成するに到った。 【0018】 かくして、本発明によれば、アンモニウムイオンを含有するシアン含有廃水に、該廃水に含まれるシアンを除去し得る量の銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物をこの順で添加した後、該廃水をpH6.0?9.0の条件下で、生成した水不溶性塩を該廃水から除去して、該廃水中のシアンを除去する(但し、前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物を添加する前に、銅化合物、マグネシウム化合物および還元剤を添加する場合を除く)ことを特徴とするシアン含有廃水の処理方法が提供される。 【発明の効果】 【0019】 本発明によれば、処理後の廃水のシアン濃度および銅濃度が排水基準よりもさらに低い上乗せ排水基準をも満足する濃度となるように、簡便な操作で廃水中のシアンおよび薬剤の添加により発生する銅イオンも確実に除去し得ると共に、処理後の廃水を中和処理なしに、そのまま下水などに排出し得るシアン含有廃水の処理方法を提供することができる。すなわち、本発明によれば、各種形態で廃水中に含有するすべてのシアン、すなわち難分解性シアン錯体、易分解性シアン錯体およびシアン化物イオンを簡便な操作で処理することができる。 よって、本発明の方法で処理した廃水をそのまま自然界に放出しても、環境に対する影響が非常に少なく、また処理後に発生する水不溶性塩(廃棄物)の量も少なくできることから、本発明の方法は産業上極めて有用である。 【0020】 また、本発明のシアン含有廃水の処理方法は、次の条件: (1)銅化合物が、塩化第一銅、フッ化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、塩化第二銅、フッ化第二銅、硝酸銅および硫酸銅から選択される、 (2)ジチオカルバミン酸基を有する化合物が、ジチオカルバミン酸、その誘導体およびそれらの塩ならびにジチオカルバミン酸で修飾された高分子化合物から選択される、 (3)ジチオカルバミン酸基を有する化合物が、ジチオカルバミン酸塩、ジメチルジチオカルバミン酸塩、ジエチルジチオカルバミン酸塩、ジプロピルジチオカルバミン酸塩、ジブチルジチオカルバミン酸塩、ピペラジンビスジチオカルバミン酸塩、テトラエチレンペンタミンジチオカルバミン酸塩、ポリアルキレン(炭素数2?4)ポリアミンに対して5?80モル%のジチオカルバミン酸で修飾された分子量500?100,000のポリアルキレンポリアミンを含有する高分子化合物、およびポリアルキレン(炭素数2?4)ポリイミンに対して2?80モル%のジチオカルバミン酸で修飾された分子量500?1,000,000のポリアルキレンポリイミンを含有する高分子化合物から選択される、 (4)銅化合物とジチオカルバミン酸基を有する化合物との添加割合が、銅換算とジチオカルバミン酸換算の重量割合で1:1?1:50である、 (5)ジチオカルバミン酸基を有する化合物の添加と同時もしくはその添加後に、水溶性カチオン性高分子化合物をさらに添加する、および (6)ジチオカルバミン酸基を有する化合物と水溶性カチオン性高分子化合物との添加割合が、ジチオカルバミン酸換算の重量割合で100:1?1:100である のいずれか1つを満たす場合に、上記の効果をより発揮する。 【図面の簡単な説明】 【0021】 【図1】本発明のシアン含有廃水の処理方法に用いられるシアン含有廃水の処理装置の一例を示す概略模式図である。 【発明を実施するための形態】 【0022】 本発明のシアン含有廃水の処理方法は、アンモニウムイオンを含有するシアン含有廃水に、該廃水に含まれるシアンを除去し得る量の銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物をこの順で添加した後、該廃水をpH6.0?9.0の条件下で、生成した水不溶性塩を該廃水から除去して、該廃水中のシアンを除去する(但し、前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物を添加する前に、銅化合物、マグネシウム化合物および還元剤を添加する場合を除く)ことを特徴とする。 【0023】 本発明において処理対象となるシアン含有廃水としては、製鉄工場、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場、金属表面処理工場などから排出される金属のシアン化合物、シアンイオン、シアン錯体、シアノ錯イオンなどを含むシアン含有廃水、放射能汚染水の処理工程において排出されるシアン含有廃水、土壌の処理装置から排出されるシアン含有廃水が挙げられる。特に、本発明のシアン含有廃水の処理方法は、コークス炉廃水のような、緩衝作用の強いシアン含有廃水、すなわちアンモニウムイオンを含有するシアン含有廃水の処理に好適である。 【0024】 本発明において用いられる銅化合物は、水に可溶であり、水中で1価または2価の銅イオンを形成し得る化合物であれば特に限定されず、塩化第一銅、フッ化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、塩化第二銅、フッ化第二銅、硝酸銅および硫酸銅などが挙げられる。これらの中でも、シアン化合物の除去効果およびシアン含有廃水の処理コストの点で、塩化第一銅および硫酸銅が特に好ましい。また、後述するように、銅化合物は溶液の形態でシアン含有廃水に添加するのが好ましいが、銅化合物が第一銅塩である場合には、塩化水素水、ハロゲン化アルカリ金属水溶液またはエタノールを溶媒とする第一銅塩溶液とするのが、第一銅塩の安定性の点から好ましい。 【0025】 本発明において用いられるジチオカルバミン酸基を有する化合物は、ジチオカルバミン酸基を有し、水に可溶である化合物であれば特に限定されず、ジチオカルバミン酸、その誘導体およびそれらの塩ならびにジチオカルバミン酸で修飾された高分子化合物などが挙げられる。 塩としては、特に限定されないが、工業的に入手が容易であることから、ナトリウム塩が特に好ましい。 【0026】 より具体的には、ジチオカルバミン酸塩、ジメチルジチオカルバミン酸塩、ジエチルジチオカルバミン酸塩、ジプロピルジチオカルバミン酸塩、ジブチルジチオカルバミン酸塩、ピペラジンビスジチオカルバミン酸塩、テトラエチレンペンタミンジチオカルバミン酸塩、ポリアルキレン(炭素数2?4)ポリアミンに対して5?80モル%のジチオカルバミン酸で修飾された分子量500?100,000のポリアルキレンポリアミンを含有する高分子化合物、およびポリアルキレン(炭素数2?4)ポリイミンに対して2?80モル%のジチオカルバミン酸で修飾された分子量500?1,000,000のポリアルキレンポリイミンを含有する高分子化合物が挙げられる。 これらの中でも、シアン化合物の除去効果およびシアン含有廃水の処理コストの点で、ジブチルジチオカルバミン酸塩およびジチオカルバミン酸塩で修飾されたポリアルキレンポリアミンまたはポリアルキレンポリイミンを含有する高分子化合物が特に好ましい。 【0027】 ジチオカルバミン酸で修飾された高分子化合物としては、上記のポリアルキレン(炭素数2?4)ポリアミンに対して5?80モル%のジチオカルバミン酸で修飾された分子量500?100,000のポリアルキレンポリアミンを含有する高分子化合物およびポリアルキレン(炭素数2?4)ポリイミンに対して2?80モル%のジチオカルバミン酸で修飾された分子量500?1,000,000のポリアルキレンポリイミンを含有する高分子化合物が好ましく、ポリアルキレン(炭素数2?4)ポリアミンに対して5?70モル%のジチオカルバミン酸で修飾された分子量が500?100,000のポリアルキレンポリアミンを含有する高分子化合物が特に好ましい。 このような高分子化合物の市販品としては、ナルコ社(Nalco Company Inc.)製、製品名:Nalmet1689(濃度30重量%)や株式会社エス・エヌ・エフ製、製品名:メタソルブHCJ(濃度40重量%)などがあり、好適に用いられる。 【0028】 本発明の方法によれば、シアン含有廃水に含まれるシアンを除去し得る量の銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物をこの順でシアン含有廃水に添加する。 銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物はそれぞれ溶液、特に水溶液の形態で添加するのが好ましい。各溶液の濃度は、それらをシアン含有廃水に添加する際の作業性、シアンと添加した化合物との反応性などを考慮して適宜決定すればよい 【0029】 銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物の添加量は、シアン含有廃水に含まれるシアンの種類およびその濃度などの影響を受けるので、これらの添加量は条件に応じて適宜決定すればよい。具体的には、処理前のシアン含有廃水のシアン濃度などを予め測定しておき、この測定値に基づいて、各薬剤の添加量を決定すればよい。 【0030】 本発明において処理対象となるシアン含有廃水におけるシアンの含有量は、特に限定されないが、全シアン濃度で2?100mg/Lの廃水を好適に処理することができる。 このようなシアン含有廃水を処理する場合には、銅化合物を銅濃度(銅換算)として5?1000mg/L、好ましくは25?500mg/Lとなるように、ジチオカルバミン酸基を有する化合物はジチオカルバミン酸イオン濃度(ジチオカルバミン酸換算)として1?3000mg/L、好ましくは5?1500mg/Lとなるようにシアン含有廃水に添加するのが好ましい。 【0031】 また、銅化合物とジチオカルバミン酸イオンの添加割合は、銅換算とジチオカルバミン酸換算の重量割合で1:1?1:50とするのが好ましく、1:1?1:25とするのが特に好ましい。 銅化合物とジチオカルバミン酸イオンの添加割合が上記の範囲であれば、本発明の優れた効果が特に発揮される。 【0032】 銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物の添加時、およびこれらの添加された化合物とシアンとの反応時には、シアンの除去効果の点で、混合溶液を撹拌するのが好ましい。この撹拌は、各薬剤の添加毎に実施するのが好ましい。 また、撹拌時の反応を促進する意味で混合溶液はある程度加温された状態が好ましいが、その液温は20?60℃程度で十分である。 さらに、撹拌時の反応に要する時間は、シアン含有廃水の量、シアンの種類およびその濃度、処理装置の形態およびその規模などにより異なるが、シアンと添加した化合物とが十分に接触するように適宜決定すればよい。通常、撹拌時間は10分以上であればよく、20?30分とするのがより好ましい。 【0033】 本発明の方法においては、シアン含有廃水に銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物を添加した後、pH6?9.5の条件下で生成した水不溶性塩を除去する。 薬剤添加後の処理廃水のpHが上記の範囲であれば、効率よく水不溶性塩を生成させることができる。 処理廃水のpHが6?9.5の範囲にない場合には、公知の方法により処理廃水のpHを6?9.5になるように調整すればよい。 pH調整には、本発明の処理における反応を妨げない酸またはアルカリ、例えば硫酸または水酸化ナトリウムを処理廃水に添加すればよい。 このpH測定とその調整は、各薬剤の添加毎に実施するのが好ましい。 【0034】 本発明のシアン含有廃水の処理方法では、ジチオカルバミン酸基を有する化合物の添加と同時もしくはその添加後に、水溶性カチオン性高分子化合物をさらに添加するのが好ましい。水溶性カチオン性高分子化合物の併用により、本発明の効果をさらに向上させることができる。 また、本発明のシアン含有廃水の処理方法では、本発明の効果を阻害しない範囲で、防錆剤、腐食防止剤、スケール分散剤、スライムコントロール剤などの公知の薬剤を併用してもよい。 【0035】 水溶性カチオン性高分子化合物は、水溶性であり、水溶液中でカチオン性を有する高分子化合物であれば特に限定されず、例えば、アクリルアミドとジアリルジメチルアンモニウムクロライドとの共重合体、ポリエチレンイミンやその変性体、エピクロロヒドリンとジメチルアミンの共重合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリジアルキルアミノエチルアクリレート(メタクリレート)四級塩、ポリビニルピリジン四級塩、カチオン化デンプンやキチン、キトサンなどが挙げられ、また通常、有機凝結剤(分子量500?100,000程度)または高分子凝集剤(分子量100,000?10,000,000程度)と呼ばれるカチオン性凝集剤も適用できる。 【0036】 シアン含有廃水に含まれるシアンの種類およびその濃度などにより、用いる水溶性カチオン性高分子化合物を適宜選択すればよいが、上記の中でも、アクリルアミドとジアリルジメチルアンモニウムクロライドとの共重合体、ポリエチレンイミン変性体、エピクロロヒドリンとジメチルアミンの共重合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドなどが特に好ましい。 水溶性カチオン性高分子化合物の市販品としては、エピクロロヒドリンとジメチルアミンとの共重合体(濃度20重量%、ナルコ社(Nalco Company Inc.)製、製品名:Nalco8105)、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(濃度20重量%、ナルコ社(Nalco Company Inc.)製、製品名:Nalco8103plus)などがあり、好適に用いられる。 【0037】 ジチオカルバミン酸基を有する化合物と水溶性カチオン性高分子化合物との添加割合は、ジチオカルバミン酸換算の重量割合で100:1?1:100であるのが好ましく、50:1?1:50であるのが特に好ましい。 上記のように、シアン含有廃水におけるシアンの含有量が全シアン濃度で2?100mg/Lである場合には、水溶性カチオン性高分子化合物は、シアン含有廃水に対して0.01?750mg/L、好ましくは0.05?500mg/Lとなるように添加するのが好ましい。 【0038】 水不溶性塩の除去には、図1に示すようなシックナーおよび除濁沈殿池などの公知の装置を用いることができ、本発明の効果を妨げない範囲で、処理廃水に界面活性剤を添加してもよい。 【0039】 本発明のシアン含有廃水の処理方法を、該廃水の処理装置の一例を示す概略模式図(図1)を用いて具体的に説明するが、この説明は本発明を限定するものではない。 まず、反応処理槽2の手前において、処理対象となるシアン含有廃水1(図中、その流れを矢印で示す)のシアン濃度などを測定した後、シアン含有廃水1を反応処理槽2に送水する。シアン濃度などの測定値に基づいて、第1添加剤槽3から銅化合物を添加する。次いで、pH計5で測定したシアン含有廃水のpHが6?9.5の範囲にない場合には、第3添加剤槽6および第4添加剤槽7からpH調整用の酸およびアルカリを適宜添加する。 【0040】 次いで、シアン含有廃水をシックナー8に送水する。シアン濃度などの測定値に基づいて、第2添加剤槽4からジチオカルバミン酸基を有する化合物を添加する。次いで、pH計5で測定したシアン含有廃水のpHが6?9.5の範囲にない場合には、第3添加剤槽6および第4添加剤槽7からpH調整用の酸およびアルカリを適宜添加する。 【0041】 次いで、シックナー8内のシアン含有廃水を所定時間撹拌しながら滞留させて、水不溶性塩を生成させる。ここで、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて、界面活性剤を添加してSS凝集処理を促進させる。その後、シックナー8上方から上澄液を除濁沈殿池9に送り、シックナー下方から水不溶性塩を含む沈降汚泥10を回収する。除濁沈殿池9でSS凝集処理をさらに促進させて水質の安定化を図った後、除濁沈殿池9内の上澄液のシアン濃度を測定し、測定値が排水基準値以下であることを確認した後、上澄液を排出する。シアン濃度および銅濃度の測定値が排水基準値以上の場合には、除濁沈殿池9内の上澄液を上流の工程(例えば、反応処理槽2)に送水し、再び処理するか、あるいは他の排水と混合希釈して排出すればよい。なお、排出した水を再利用することもできる。図番11は再利用水または排水を示す。 【0042】 以上の処理により、処理前のシアン濃度(全シアン含有量:mg/L)および薬剤の添加により発生する銅濃度を、排水基準値以下であって上乗せ排水基準をも満たし得る濃度にまで顕著に低減させることができ、処理後の廃水を中和処理なしに、そのまま下水などに排出または再利用することができる。 【実施例】 【0043】 本発明を試験例により具体的に説明するが、本発明はこれらの試験例により限定されるものではない。 【0044】 下記の各試験例1?4では、次のようにして調製した3種類のシアン含有水A?Cをシアン含有廃水として用いた。 シアン含有水A(試験例1および4) シアン化カリウム溶液0.0435g/Lを純水で希釈して、全シアン濃度として17.4mg/Lを含有するpH9.5のシアン化物含有水Aを得た。 シアン含有水B(試験例2) シアン化カリウム溶液0.0435g/Lおよび塩化アンモニウム溶液0.743g/Lを純水で希釈して、全シアン濃度として17.4mg/Lを含有するpH9.5のシアン化物含有水Bを得た。 シアン含有水C(試験例3) カルシウム硬度290mg/L、塩化物イオン1600mg/L、硫酸イオン91mg/L、アンモニウムイオン190mg/Lおよび銅0.01mg/L未満を含む製鉄所廃水で、フェロシアン化カリウム溶液0.0477g/Lおよびシアン化カリウム溶液0.0193g/Lを希釈して、全シアン濃度として27.9mg/Lを含有するpH8.0のシアン含有水Cを得た。 【0045】 試験例1?4では、次の薬剤A?Iを用いた。 薬剤AおよびBは本発明において用いられる銅化合物、薬剤C、DおよびIは本発明において用いられるジチオカルバミン酸基を有する化合物であり、薬剤Eは本発明において併用可能な従来から防錆剤や金属捕集剤として用いられている薬剤、薬剤FおよびGは本発明において併用されるカチオン性高分子化合物、薬剤Hは従来からシアン含有廃水の処理で用いられている薬剤である。 薬剤A:塩化第一銅の塩化水素水溶液 (濃度20重量%、株式会社片山化学工業研究所製、製品名:ファインSV) 薬剤B:硫酸銅水溶液(濃度12.5重量%) 【0046】 薬剤C:ジチオカルバミン酸塩で修飾されたポリアルキレンポリアミンを含有する高分子化合物(濃度30重量%、ナルコ社(Nalco Company Inc.)製、製品名:Nalmet1689) 薬剤D:ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム (濃度53重量%、大内振興化学工業株式会社製、製品名:ノクセラーTP) 薬剤E:2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム一水塩 (濃度100重量%、三新化学工業株式会社製、製品名:サンビットNG) 【0047】 薬剤F:ポリエチレンイミン変性体 (濃度24重量%、株式会社片山化学工業研究所製、製品名:フロクランC60) 薬剤G:エピクロロヒドリンとジメチルアミンとの共重合体 (濃度20重量%、ナルコ社(Nalco Company Inc.)製、製品名:Nalco8105) 薬剤H:ポリ塩化アルミニウム水溶液(濃度(アルミナ換算値)10重量%) 薬剤I:ジチオカルバミン酸塩で修飾されたポリアルキレンポリイミンを含有する高分子化合物(濃度40重量%、株式会社エス・エヌ・エフ製、製品名:メタソルブHCJ) 【0048】 試験例1(シアン化物イオンの除去効果確認試験:本試験例における実施例1、2、aおよびbならびに比較例1?4は参考例である) 容量500mLのビーカーに、それぞれシアン含有水Aを500mL分注し、撹拌下で表1に示す濃度になるように薬剤AまたはBを添加し、さらにpH7になるように水酸化ナトリウムを添加し、30分間撹拌して試験水を得た。 次いで、得られた試験水に撹拌下で表1に示す濃度になるように薬剤C、HまたはIを添加するか、もしくは添加しないで、さらにpH7になるように硫酸または水酸化ナトリウムを添加し、30分間撹拌して試験水を得た。 次いで、得られた試験水中の水不溶性の生成物を濾別し、得られた濾液中の全シアン濃度(T-CN:mg/L)および濾液中に残留している銅濃度(残留Cu:mg/L)をそれぞれJIS K0102に準拠して測定し、各試験水におけるシアンおよび銅の除去効果を評価した。 得られた結果を、添加した薬剤およびその添加量と共に表1に示す。 【0049】 【表1】 【0050】 表1の測定結果から、実施例1、2、aおよびbでは、全シアン濃度(T-CN)を1mg/リットル以下、銅濃度(残留Cu)を2.0mg/リットル以下にまで低減させ、シアンおよび銅を確実に除去し得ることがわかる。これに対して、比較例1?4では、全シアン濃度を1mg/リットル以下に低減させることができないことがわかる。 【0051】 試験例2(アンモニウム共存下におけるシアン化物イオンの除去効果確認試験) 容量500mLのビーカーに、それぞれシアン含有水Bを500mL分注し、撹拌下で表2に示す濃度になるように薬剤Bを添加し、さらにpH7になるように水酸化ナトリウムを添加し、30分間撹拌して試験水を得た。 次いで、得られた試験水に撹拌下で表2に示す濃度になるように薬剤Cを添加するか、もしくは添加しないで、さらにpH7になるように硫酸または水酸化ナトリウムを添加し、30分間撹拌して試験水を得た。 次いで、得られた試験水中の水不溶性の生成物を濾別し、得られた濾液中の全シアン濃度(T-CN)および銅濃度(残留Cu)を試験例1と同様にして測定し、各試験水におけるシアンおよび銅の除去効果を評価した。 得られた結果を、添加した薬剤およびその添加量と共に表2に示す。 【0052】 【表2】 【0053】 表2の測定結果から、アンモニウムイオン共存下のシアン含有水に対しても実施例3では、全シアン濃度(T-CN)を1mg/リットル以下、銅濃度(残留Cu)を0.7mg/L以下にまで低減させ、シアンおよび銅を確実に除去し得ることがわかる。これに対して、比較例5では、全シアン濃度を1mg/リットル以下に低減させることができないことがわかる。 【0054】 試験例3(鉄シアン錯体およびシアン化物イオンの除去効果確認試験) 容量500mLのビーカーに、それぞれシアン含有水Cを500mL分注し、撹拌下で表3に示す濃度になるように薬剤AまたはBを添加するかもしくは添加しないで、さらに表3に示す所定のpHになるように水酸化ナトリウムを添加し、30分間撹拌して試験水を得た。 次いで、得られた試験水に撹拌下で表3に示す濃度になるように薬剤CまたはHを添加するか、もしくは添加しないで、さらに表3に示す所定のpHになるように硫酸または水酸化ナトリウムを添加し、30分間撹拌して試験水を得た。 次いで、得られた試験水中の水不溶性の生成物を濾別し、得られた濾液中の全シアン濃度(T-CN)および銅濃度(残留Cu)を試験例1と同様にして測定し、各試験水におけるシアンおよび銅の除去効果を評価した。 得られた結果を、添加した薬剤およびその添加量と共に表3に示す。 【0055】 【表3】 【0056】 表3の測定結果から、鉄シアン錯体およびシアン化物イオンが共存するシアン含有水に対しても実施例6および7では、全シアン濃度(T-CN)を1mg/リットル以下、銅濃度(残留Cu)を1.3mg/L以下にまで低減させ、シアンおよび銅を確実に除去し得ることがわかる。これに対して、比較例6?10では、全シアン濃度を1mg/リットル以下に低減させることができないことがわかる。 また、実施例5?7のように試験水をpH10未満とすることで、全シアン濃度(T-CN)を1mg/リットル以下、銅濃度(残留Cu)を0.6mg/L以下にまで低減させ、シアンおよび銅を確実に除去し得ることがわかる。これに対して、試験水をpH10とした比較例10では、銅濃度(残留Cu)を0.3mg/Lにまで低減させることができるものの、全シアン濃度を1mg/リットル以下に低減させることができないことがわかる。 【0057】 試験例4(ジチオカルバミン酸塩と水溶性カチオン性高分子化合物とのシアン化物イオンの除去効果確認試験:本試験例における実施例8?10および比較例11?14は参考例である) 容量500mLのビーカーに、それぞれシアン含有水Aを500mL分注し、撹拌下で表4に示す濃度になるように薬剤AまたはBを添加するか、もしくは添加しないで、さらにpH7になるように水酸化ナトリウムを添加し、30分間撹拌して試験水を得た。 次いで、得られた試験水に撹拌下で表4に示す濃度になるように薬剤D?Gを添加するか、もしくは添加しないで、さらにpH7になるように硫酸または水酸化ナトリウムを添加し、30分間撹拌して試験水を得た。 次いで、得られた試験水中の水不溶性の生成物を濾別し、得られた濾液中の全シアン濃度(T-CN)および銅濃度(残留Cu)を試験例1と同様にして測定し、各試験水におけるシアンおよび銅の除去効果を評価した。 得られた結果を、添加した薬剤およびその添加量と共に表4に示す。 【0058】 【表4】 【0059】 表4の測定結果から、ジチオカルバミン酸塩とカチオン性高分子化合物とを併用した実施例8?10では、全シアン濃度(T-CN)を1mg/リットル以下、銅濃度(残留Cu)を2.2mg/L以下にまで低減させ、シアンおよび銅を確実に除去し得ることがわかる。これに対して、比較例11?14では、全シアン濃度を1mg/リットル以下に低減させることができないことがわかる。 【0060】 【符号の説明】 【0061】 1 シアン含有廃水 2 反応処理槽 3 第1添加剤槽(銅化合物) 4 第2添加剤槽(ジチオカルバミン酸基を有する化合物) 5 pH計 6 第3添加剤槽(酸) 7 第4添加剤槽(アルカリ) 8 シックナー 9 除濁沈殿池 10 沈降汚泥 11 再利用水または排水 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 アンモニウムイオンを含有するシアン含有廃水に、該廃水に含まれるシアンを除去し得る量の銅化合物およびジチオカルバミン酸基を有する化合物をこの順で添加した後、該廃水をpH6.0?9.0の条件下で、生成した水不溶性塩を該廃水から除去して、該廃水中のシアンを除去する(但し、前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物を添加する前に、銅化合物、マグネシウム化合物および還元剤を添加する場合を除く)ことを特徴とするシアン含有廃水の処理方法。 【請求項2】 前記銅化合物が、塩化第一銅、フッ化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、塩化第二銅、フッ化第二銅、硝酸銅および硫酸銅から選択される請求項1に記載のシアン含有廃水の処理方法。 【請求項3】 前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物が、ジチオカルバミン酸、その誘導体およびそれらの塩ならびにジチオカルバミン酸で修飾された高分子化合物から選択される請求項1または2に記載のシアン含有廃水の処理方法。 【請求項4】 前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物が、ジチオカルバミン酸塩、ジメチルジチオカルバミン酸塩、ジエチルジチオカルバミン酸塩、ジプロピルジチオカルバミン酸塩、ジブチルジチオカルバミン酸塩、ピペラジンビスジチオカルバミン酸塩、テトラエチレンペンタミンジチオカルバミン酸塩、ポリアルキレン(炭素数2?4)ポリアミンに対して5?80モル%のジチオカルバミン酸で修飾された分子量500?100,000のポリアルキレンポリアミンを含有する高分子化合物、およびポリアルキレン(炭素数2?4)ポリイミンに対して2?80モル%のジチオカルバミン酸で修飾された分子量500?1,000,000のポリアルキレンポリイミンを含有する高分子化合物から選択される請求項1?3のいずれか1つに記載のシアン含有廃水の処理方法。 【請求項5】 前記銅化合物と前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物との添加割合が、銅換算とジチオカルバミン酸換算の重量割合で1:1?1:50である請求項1?4のいずれか1つに記載のシアン含有廃水の処理方法。 【請求項6】 前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物の添加と同時もしくはその添加後に、水溶性カチオン性高分子化合物をさらに添加する請求項1?5のいずれか1つに記載のシアン含有廃水の処理方法。 【請求項7】 前記ジチオカルバミン酸基を有する化合物と前記水溶性カチオン性高分子化合物との添加割合が、ジチオカルバミン酸換算の重量割合で100:1?1:100である請求項6に記載のシアン含有廃水の処理方法。 【請求項8】(削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-02-26 |
出願番号 | 特願2013-224360(P2013-224360) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(C02F)
P 1 651・ 1- YAA (C02F) P 1 651・ 16- YAA (C02F) P 1 651・ 853- YAA (C02F) P 1 651・ 851- YAA (C02F) P 1 651・ 536- YAA (C02F) P 1 651・ 121- YAA (C02F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 富永 正史 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
豊永 茂弘 山崎 直也 |
登録日 | 2017-09-08 |
登録番号 | 特許第6201114号(P6201114) |
権利者 | ナルコジャパン合同会社 株式会社片山化学工業研究所 |
発明の名称 | シアン含有廃水の処理方法 |
代理人 | 甲斐 伸二 |
代理人 | 甲斐 伸二 |
代理人 | 野河 信太郎 |
代理人 | 金子 裕輔 |
代理人 | 澄川 広司 |
代理人 | 金子 裕輔 |
代理人 | 稲本 潔 |
代理人 | 稲本 潔 |
代理人 | 甲斐 伸二 |
代理人 | 澄川 広司 |
代理人 | 野河 信太郎 |
代理人 | 野河 信太郎 |
代理人 | 稲本 潔 |
代理人 | 澄川 広司 |
代理人 | 金子 裕輔 |