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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B23K
管理番号 1350674
異議申立番号 異議2018-700430  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-05-29 
確定日 2019-04-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6239461号発明「超高速のレーザーパルスのバーストによるフィラメンテーションを用いた透明材料の非アブレーション光音響圧縮加工の方法および装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6239461号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6239461号の請求項1ないし16に係る特許についての出願は、平成26年7月31日(パリ条約による優先権主張2013年8月2日(US)米国)に出願され、平成29年11月10日にその特許権の設定登録がされ、平成29年11月29日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年5月29日に特許異議申立人石井良夫(以下、「異議申立人」という。)より請求項1ないし16に対して特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年9月26日付けで取消理由を通知した。それに対し、特許権者は、平成30年12月28日に意見書を提出した。

第2.本件発明
「【請求項1】
透明な対象材料を加工するための光音響圧縮加工方法であって、
適切な波長、適切なバーストパルス反復率、および適切なパルスエネルギーを有するレーザーパルスの少なくとも1つのバーストをレーザー源から対象物に適用するステップを含み、
レーザーパルスの前記バーストが前記対象物の加工の起点に接触するスポットにおいて前記対象物に適用されるパルスエネルギーまたは流束の総量が、光音響圧縮加工を開始および伝搬するために必要な臨界エネルギーレベルよりも大きく、かつ、アブレーション加工を開始するために必要なしきい値臨界エネルギーレベルよりも低く、
前記対象物が、1つまたは積層構造の一群の透明なウエハ、プレート、または基板で構成され、
前記光音響圧縮加工が、前記対象物の任意の深さおよび前記積層構造の一群のウエハ、プレート、または基板のいずれか1つから、前記対象物に有底または貫通のオリフィスを光音響圧縮により穴あけすることであり、
前記有底または貫通のオリフィスの前記光音響圧縮による穴あけが、光吸収のプロセスとそれに続く熱弾性膨張により、前記対象物内に広帯域音響波を生成して、前記有底または貫通のオリフィスの軸と共通であるビーム伝搬軸を中心に圧縮された材料の通路を形成することを含む、光音響圧縮加工方法。
【請求項2】
前記対象物にレーザーパルスの前記バーストを適用するステップの前に、まず、レーザーパルスの前記バーストを選択された分散焦点レンズ集束装置に通して集束させるステップをさらに含む請求項1に記載の光音響圧縮加工方法。
【請求項3】
前記集束させるステップが、
前記レーザー源に対する分散焦点レンズ集束装置の相対的な距離または角度を、分散焦点構成のレーザーパルスの前記バーストが主焦点ウエストと少なくとも1つの副焦点ウエストとを作成するように集束するように調整し、かつ、前記主焦点ウエストまたは対象物を、前記主焦点ウエストが加工されている前記対象物の表面上または内部に位置しないように調節した後で、レーザーパルスの前記バーストを対象物に伝送するステップを含む請求項2に記載の光音響圧縮加工方法。
【請求項4】
前記主焦点ウエストの下方または上方に位置するスポットが、前記対象物に形成されるフィラメンテーションの直径よりも常に大きい直径を有するように集束を調整するステップをさらに含む請求項3に記載の光音響圧縮加工方法。
【請求項5】
前記対象物が、1つまたは積層構造の一群の透明なウエハ、プレート、または基板で構成され、前記対象物の加工が、任意の深さおよび前記積層構造の一群のウエハ、プレート、または基板のいずれか1つからの有底または貫通のオリフィスの穴あけである請求項3に記載の光音響圧縮加工方法。
【請求項6】
前記分散焦点レンズ集束装置が、前記副焦点ウエストの流束レベルが前記光音響圧縮加工を対象物の所望の体積に確実に伝搬させるだけの十分な強度および数値となるように選択された請求項3に記載の光音響圧縮加工方法。
【請求項7】
レーザーパルスの前記バーストが、直前のパルスと前記対象物との相互作用から生じる選択された過渡的効果を維持するのに適したバースト周波数を有し、約10ナノ秒未満のパルス幅を有する請求項1に記載の光音響圧縮加工方法。
【請求項8】
レーザーパルスの前記バーストを適用する前記ステップの前に前記対象物の表面に犠牲層を適用するステップを含む請求項1に記載の光音響圧縮加工方法。
【請求項9】
透明な対象材料を加工するための混合型アブレーション光音響圧縮加工方法であって、
特定の波長、バーストパルス反復率、およびパルスエネルギーを有するレーザーパルスの少なくとも1つのバーストをレーザー源から対象物に適用するステップを含み、
レーザーパルスの前記バーストが前記対象物の加工の起点に接触するスポットにおいて前記対象物に適用されるパルスエネルギーまたは流束の総量が、アブレーション加工を所望の深さに対して開始するため、及びそこから光音響圧縮加工を開始および伝搬するために必要な臨界エネルギーレベルよりも大きく、
前記対象物が、1つまたは積層構造の一群の透明なウエハ、プレート、または基板で構成され、
前記光音響圧縮加工が、前記対象物の任意の深さおよび前記積層構造の一群のウエハ、プレート、または基板のいずれか1つから、前記対象物に有底または貫通のオリフィスを光音響圧縮により穴あけすることであり、
前記有底または貫通のオリフィスの前記光音響圧縮による穴あけが、光吸収のプロセスとそれに続く熱弾性膨張により、前記対象物内に広帯域音響波を生成して、前記有底または貫通のオリフィスの軸と共通であるビーム伝搬軸を中心に圧縮された材料の通路を形成することを含む、混合型アブレーション光音響圧縮加工方法。
【請求項10】
前記対象物にレーザーパルスの前記バーストを適用するステップの前に、まず、レーザーパルスの前記バーストを選択された分散焦点レンズ集束装置に通して集束させるステップをさらに含む請求項9に記載の混合型アブレーション光音響圧縮加工方法。
【請求項11】
前記集束させるステップが、
前記レーザー源に対する分散焦点レンズ集束装置の相対的な距離または角度を、分散焦点構成のレーザーパルスの前記バーストが主焦点ウエストと少なくとも1つの副焦点ウエストとを作成するように集束するように調整し、かつ前記主焦点ウエストまたは対象物を、前記主焦点ウエストが加工されている前記対象物の表面上または内部に位置しないように調節した後で、レーザーパルスの前記バーストを対象物に伝送するステップを含む請求項10に記載の混合型アブレーション光音響圧縮加工方法。
【請求項12】
前記主焦点ウエストの下方または上方に位置するスポットが前記対象物に形成されるフィラメンテーションの直径よりも常に大きい直径を有するように集束を調整するステップをさらに含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記分散焦点レンズ集束装置が、前記副焦点ウエストの流束レベルが前記光音響圧縮加工を前記対象物の所望の体積に確実に伝搬させるだけの十分な強度および数値となるように選択された請求項11に記載の混合型アブレーション光音響圧縮加工方法。
【請求項14】
レーザーパルスの前記バーストが、直前のパルスと前記対象物との相互作用から生じる選択された過渡的効果を維持するのに適したバースト周波数を有し、約10ナノ秒未満のパルス幅を有する請求項9に記載の混合型アブレーション光音響圧縮加工方法。
【請求項15】
レーザーパルスの前記バーストを適用するステップの前に前記対象材料の表面に犠牲層を適用するステップを含む請求項9に記載の混合型アブレーション光音響圧縮加工方法。
【請求項16】
透明な対象材料を加工するための光音響圧縮加工方法であって、
適切な波長、適切なバーストパルス反復率、および適切なパルスエネルギーを有するレーザーパルスの少なくとも1つのバーストを、レーザー源から、選択された分散焦点レンズ集束装置を通じて、対象物に適用するステップと、
前記レーザー源に対する分散焦点レンズ集束装置の相対的な距離または角度を、分散焦点構成のレーザーパルスの前記バーストが主焦点ウエストと少なくとも1つの副焦点ウエストとを作成するように集束するように調整するステップとを含み、
前記対象物に伝送される前記パルスエネルギーが、カー効果による自己集束を引き起こすために必要な臨界出力レベルより大きく、それによって前記対象物にフィラメントが生成され、副焦点ウエストにより入力される追加エネルギーによって光音響圧縮加工が開始されて前記対象材料内で伝搬し、
総エネルギー入力のレベルが、前記対象材料のアブレーションまたは蒸発に基づく加工を開始するために必要なレベルを下回り、
前記光音響圧縮加工が、透明な前記対象材料に有底または貫通のオリフィスを光音響圧縮により穴あけすることであり、
前記有底または貫通のオリフィスの前記光音響圧縮による穴あけが、光吸収のプロセスとそれに続く熱弾性膨張により、前記対象材料内に広帯域音響波を生成して、前記有底または貫通のオリフィスの軸と共通であるビーム伝搬軸を中心に圧縮された材料の通路を形成することを含む、光音響圧縮加工方法。」

第3.取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
請求項1ないし16に係る特許に対して平成30年9月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨(特許法第36条第4項第1号)は、次のとおりである。
(実施可能要件)本件特許の請求項1ないし16に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)請求項1に係る特許に対して
ア. 請求項1に係る特許は、光音響圧縮加工方法に係るものであって、本件特許請求の範囲の請求項1の記載からみて、「前記対象物に適用されるパルスエネルギーまたは流束の総量が、光音響圧縮加工を開始および伝搬するために必要な臨界エネルギーレベルよりも大きく、かつ、アブレーション加工を開始するために必要なしきい値臨界エネルギーレベルよりも低く、前記対象物が、1つまたは積層構造の一群の透明なウエハ、プレート、または基板で構成され、前記光音響圧縮加工が、前記対象物の任意の深さおよび前記積層構造の一群のウエハ、プレート、または基板のいずれか1つから、前記対象物に有底または貫通のオリフィスを光音響圧縮により穴あけすること」を発明特定事項とするものである。
すなわち、アブレーション加工を開始するために必要なしきい値臨界エネルギーレベルよりも低い状態で、光音響圧縮加工により対象物に対して、穴あけが実施されることになる。
ここで、本件明細書の段落【0005】の「レーザーアブレーション加工は、シンギュレーション、ダイシング、スクライビング、クリービング、切削、およびファセット処理(facet treatment)のために積極的に開発が進められている分野であるが、特に透明材料において、処理速度が遅い、亀裂が生じる、アブレーション加工によるデブリ、すなわち、廃棄物による汚れが生じる、カーフ幅(kerf width)が抑制される等の欠点を有する。さらに、レーザー相互作用時の熱輸送(thermal transport)により、付随的な熱損傷(すなわち、熱影響領域(heat affected zone))が広い領域に生じる可能性がある。レーザーアブレーション加工は、媒体により強力に吸収される波長を有するレーザー(たとえば、深紫外線UV 10エキシマレーザーまたは遠赤外線CO_(2)レーザー)を選択することによって劇的に改善できるが、この物理的なアブレーション加工に固有の積極的な相互作用により、上記欠点を克服することはできない。」との記載、及び同段落【0008】の「フラットパネルディスプレイ(FPD)のガラス用の他の高速スクライビング手法も存在する。 倍周波数で780nm、300fs、100μJの出力の100kHzチタンサファイアチャープパルス増幅レーザーがガラス基板の裏面の近傍に集束されてガラスの損傷しきい値を超え、材料の光学破壊により空洞が生成される。これらの空洞は、レーザーの高反復率により、裏面に到達する。連結された空洞は、内部の応力および損傷に加えて、機械的応力または熱衝撃によるレーザースクライブ線に沿った方向でのダイシングを促進する表面アブレーションを作り出す。この方法は、300mm/sの高速なスクライブ速度を潜在的に提供するが、内部に形成された空洞が表面に届くときに、有限のカーフ幅、表面損傷、面の粗さ、およびアブレーションによる廃棄物が生じる。」との記載からすると、光音響圧縮加工とはアブレーションのような廃棄物がでない加工を意味していると考えられる。
廃棄物が出ない加工であるとすると、穴あけにより除去されるべき材料が、どのようなメカニズムにより、除去されずに穴あけが実施されるか発明の詳細な説明を参酌しても不明である。

イ.この点についてさらに検討すると、本件明細書の段落【0046】に「レーザーパルスの光学密度により、自己集束現象が起こり、フィラメントの内部/近傍/周囲の領域で非アブレーション初期光音響圧縮を行うのに十分な強度のフィラメントが生成される。これにより、フィラメントに一致する実質的に一定の直径の線形対称空洞が作成され、またレーザーパルスの連続的な自己集束および集束解除と分散ビームの副焦点ウエスト24によるエネルギー入力との組み合わせによって、対象材料の指定された領域を横断または貫通するオリフィスの形成を指示/案内するフィラメントが形成される。このオリフィスは、対象物から材料を除去するのではなく、形成されるオリフィスの周囲の対象材料を光音響圧縮することによって形成できる。」と記載されている。
これによれば、「自己集束現象」なるものにより、「フィラメントの内部/近傍/周囲の領域で非アブレーション初期光音響圧縮を行うのに十分な強度のフィラメントが生成される。」ことは理解できる。しかしながら、通常、当該フィラメントは、対象材料が変性しただけであって、材料の除去には至らないと考えられ、それに対して、この部分に「光音響圧縮加工」により「フィラメントに一致する実質的に一定の直径の線形対称空洞が作成され」るというのが、具体的にどのような状態変化を伴って空洞形成に至るのか、生成メカニズムが全く不明である。

ウ.また、本件明細書の段落【0057】に「これにより、長くて先細りのないフィラメント60が対象物に発展し、それに続いて音響圧縮波が材料の所望の領域を環状に圧縮して、フィラメンテーション経路の周辺に空洞および圧縮された材料のリングが作成される。」との記載によれば、「光音響圧縮加工」を行うための「音響圧縮波」により、フィラメント周囲の対象材料が圧縮され、これにより対象材料に空洞が形成されるとも解される。そうすると、そもそも「光音響圧縮加工」を始める前のフィラメントそのものが穴として形成されていることが前提となるが、この穴とされるフィラメントを形成するためには対象物の材料がどこかへ除去される必要がある。しかしながら、この除去されるべき材料がどうなったかが明細書の他の記載を参酌しても不明である。

エ.そのため、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者においても、請求項1に係る特許を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

(2)請求項2ないし16に係る特許に対して
請求項2ないし16に係る特許についても、(1)と同様の理由で、その実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

(3)以上のとおり、本件特許の請求項1ないし16に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

2.当審の判断
(1)請求項1に係る特許について
ア.取消理由ア.について
明細書の段落【0020】の「本明細書で使用される「光音響穴あけ」(photo acoustic drilling)という用語は、一般にアブレーション穴あけまたは切削で使用される低パルスエネルギー光ビームを放射することで個体から基板を切削または穴あけすることにより対象物を加工する方法を示す。光吸収のプロセスとそれに続く熱弾性膨張により、放射された材料内に広帯域音響波が生成されて、ビーム伝搬軸(オリフィスの軸と共通)を中心に圧縮された材料の通路が材料内に形成される。」(当審注:明細書の引用箇所のアンダーラインは当審で付与したものである。以下、同じ。)との記載、同段落【0056】の「自己集束条件と光学破壊条件との間のバランスを維持できるように対象材料10で必要な出力を時間的尺度にわたり維持した結果として、光音響圧縮加工が進行する。この光音響圧縮加工は、均一で高出力なフィラメント形成および伝搬プロセスの結果である。このとき、材料は、アブレーションプロセスを介した除去に有利になるように再配置される。したがってきわめて長いフィラメントの形成が、分散集束要素装置によって作成される空間拡張された副焦点によって誘発され、光学破壊に到達することなく自己集束効果が維持される。」との記載、及び同段落【0057】の「これにより、長くて先細りのないフィラメント60が対象物に発展し、それに続いて音響圧縮波が材料の所望の領域を環状に圧縮して、フィラメンテーション経路の周辺に空洞および圧縮された材料のリングが作成される。」との記載によれば、熱弾性膨張を伴う光音響圧縮加工により、フィラメントを形成し、この形成されたフィラメントの周囲を音響圧縮波により環状に圧縮し、穴あけが行われるといえる。そして、下記イ.で示すように、「光音響圧縮加工」により「フィラメントに一致する実質的に一定の直径の線形対称空洞が作成され」ることが理解でき、下記ウ.で示すように、フィラメントがどのようなものであるか理解できる。
したがって、「廃棄物が出ない加工であるとすると、穴あけにより除去されるべき材料が、どのようなメカニズムにより、除去されずに穴あけが実施されるか発明の詳細な説明を参酌しても不明である」との、取消理由ア.は理由がない。

イ.取消理由イ.について
明細書の段落【0057】の「これは、レーザーの電場が対象物10の屈折率を変化させるため、材料が最後の光学要素として機能して、これらの焦点を作成するからである。この分散焦点により、図15に示すように、レーザーエネルギーを材料に堆積させて、フィラメントラインまたはフィラメント領域60を形成することができる。複数の焦点を直線状に配置し、材料を最後のレンズとして機能させることにより、対象材料は、超高速バーストパルスレーザービームを照射されたときに、多数の連続する局所的な加熱を被る。これにより、直線状に配列された焦点の経路に沿って、材料の局所的な屈折率(詳細には複素屈折率)の変化が熱的に誘起される。これにより、長くて先細りのないフィラメント60が対象物に発展し、それに続いて音響圧縮波が材料の所望の領域を環状に圧縮して、フィラメンテーション経路の周辺に空洞および圧縮された材料のリングが作成される。」との記載によれば、レーザーエネルギーにより形成、発展されたフィラメント60の周辺に音響圧縮波により空洞および圧縮された材料のリングが作成されることが理解できる。そして、明細書の段落【0056】の「この光音響圧縮加工は、均一で高出力なフィラメント形成および伝搬プロセスの結果である。このとき、材料は、アブレーションプロセスを介した除去に有利になるように再配置される。」との記載によれば、「圧縮された材料のリングが作成」とは、材料の再配置、すなわち、材料の空洞の周辺は環状に圧縮され、空洞の周辺に高密度な状態のリングが作成されることが理解できる。
したがって、空洞の形成のメカニズムが記載されているといい得るから、取消理由イ.は理由がない。

ウ.取消理由ウ.について
明細書の段落【0028】の「本明細書で使用される『フィラメント』(filament)という用語は、媒体を通過し、カー効果が観測または測定される任意の光ビームを示す。」との記載によれば、「フィラメント」とは、カー効果が観測または測定される光ビームそのものを示すと解される。
したがって、「フィラメント」そのものは穴ではなく、「光音響圧縮加工」を始める前のフィラメントそのものが穴として形成されていることが前提となるものではないから、取消理由ウ.は理由がない。

エ.まとめ
以上のとおりであるから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者においても、請求項1に係る特許を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとはいえないから、請求項1に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。

(2)請求項2ないし16に係る特許について
請求項2ないし16に係る特許も、(1)と同様の理由で、それらの特許を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとはいえないから、請求項2ないし16に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。

第4.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1.特許法第36条第4項第1号
異議申立人は、特許異議申立書第16ページ第21行ないし第18ページ第4行の「(i)発明の実施可能要件違反(特許法第36条第4項第1号違反)」の項において、「本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明に係る「光音響圧縮加工」による「透明な対象材料」への「穴あけ」について、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がなされておらず、発明の実施可能要件に違反する。すなわち、本件特許発明に係る「光音響圧縮加工」による「透明な対象材料」への「穴あけ」を実施するための動作態様については、本件特許公報の段落【0020】に、「光音響穴あけ」を説明する記載事情(「光吸収のプロセスとそれに続く熱弾性膨張により、放射された材料内に広帯域音響波が生成されて、ビーム伝搬軸(オリフィスの軸と共通)を中心に圧縮された材料の通路が材料内に形成される。」)が存在するが、定性的にも定量的にも実施可能要件を満足する記載事項とはいえない。」旨主張している。
この点について検討するに、定性的な面については、第3.2.(1)で検討したように、明細書の段落【0056】、【0057】を参酌すれば、「光音響圧縮加工」による「透明な対象材料」への「穴あけ」が最終的には材料の密度の変化により行われることが明らかである。
また、定量的な面については、明細書の段落【0061】にレーザー特性、オリフィス特性、最終的な光学装置、ビーム特性が開示されており、定量的にも実施可能であると解され、段落【0061】の記載と段落【0048】の記載とでバースト毎のサブパルス数の値に一部不整合な部分があるといって実施可能要件を満足しないとまではいえない。

したがって、実施可能要件違反に関する当該異議申立理由は、理由がない。

2.特許法第36条第6項第2号
異議申立人は、特許異議申立書第18ページ第5行ないし第21ページ第22行の「(ii)明確性要件違反(特許法第36条第6項第2号違反)」の項において、請求項1、2、3、7、9、10、11、14及び16には、下記(1)ないし(9)の明確ではない記載事項があり、請求項1、2、3、7、9、10、11、14及び16に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張している。
(1)請求項1に対して
本件の特許請求の範囲の請求項1には、「レーザーパルスの前記バーストが前記対象物の加工の起点に接触するスポットにおいて前記対象物に適用されるパルスエネルギーまたは流束の総量が、光音響圧縮加工を開始および伝搬するために必要な臨界エネルギーレベルよりも大きく、かつ、アブレーション加工を開始するために必要なしきい値臨界エネルギーレベルよりも低く」とする点(以下、「特定事項A」とする。)、および、「前記有底または貫通のオリフィスの前記光音響圧縮による穴あけが、光吸収のプロセスとそれに続く熱弾性膨張により、前記対象物内に広帯域音響波を生成して、前記有底または貫通のオリフィスの軸と共通であるビーム伝搬軸を中心に圧縮された材料の通路を形成することを含む」点(以下、「特定事項B」とする。)が特定されている。しかしながら、該特定事項AおよびBが意味する技術事項が、以下のア.?エ.の点で明確ではない。
ア.特定事項Aにおいて、「対象物に適用されるパルスエネルギーまたは流束の総量」として、「必要な臨界エネルギーレベルよりも大きく」として下限レベル、および、「必要なしきい値臨界エネルギーレベルよりも低く」として上限レベルを、それぞれ示している。しかしながら、下限レベルに当たる「臨界エネルギーレベル」については、「光音響圧縮加工を開始および伝搬するために必要な」として当然の目標を記載しているに過ぎず、何ら実効的なレベルを記載したものではない。また、上限レベルに当たる「しきい値臨界エネルギーレベル」についても、「アブレーション加工を開始するために必要な」として当然の目標を記載しているに過ぎず、何ら実効的なレベルを記載したものではない。よって、「光音響圧縮加工を開始および伝搬するために必要な臨界エネルギーレベル」および「アブレーション加工を開始するために必要なしきい値臨界エネルギーレベル」の各記載事項は、明確でない。
イ.特定事項Bにおいて、「光吸収のプロセスとそれに続く熱弾性膨張」のみでは、まず、「光吸収のプロセス」が、何によって生じどのような光を吸収するプロセスであるのか、また、該プロセスに続く「熱弾性膨張」が、何によって生じどのような膨張現象であるのか、何ら示されておらず明確でない。
ウ.特定事項Bにおいて、「光吸収のプロセスとそれに続く熱弾性膨張」により、「対象物内に広帯域音響波を生成して」とあるが、「光吸収のプロセスとそれに続く熱弾性膨張」からどのようにして「広帯域音響波」が「対象物内」に生成されるのか、また、「広帯域音響波」がどのような周波数帯域をもつ音響波であるのか、何ら示されておらず明確でない。
エ.特定事項Bにおいて、「圧縮された材料の通路」のみでは、「材料」とはどのようなものであるのか(当該請求項1の冒頭の「対象材料」を意味するのか否かも不明)、また、「穴あけ」と「通路」との関係がどのようなものであるのか、明確でない。
オ.上記ア.ないしエ.については、本件請求項1発明のポイントとなる「光音響圧縮による穴あけ」が達成されるメカニズムとして重要な技術事項であるから、明確性を当然に担保する必要がある。また、本件特許明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、段落【0020】に、本件請求項1と同様の記載事項があるものの上記ア.ないしエ.を説明する事項はなく、また、残る発明の詳細な説明に上記ア.ないし工.を説明する事項も見当たらない。

(2)請求項2に対して
本件の特許請求の範囲の請求項2には、「レーザーパルスの前記バーストを選択された分散焦点レンズ集束装置に通して集束させるステップ」なる記載事項があるところ、「選択された分散焦点レンズ集束装置」の「選択された」が、何を意味しているのか、明確でない。

(3)請求項3に対して
本件の特許請求の範囲の請求項3には、請求項2に記載の「集束させるステップ」における動作態様を特定する技術事項が記載され、当該「集束させるステップ」が、「レーザーパルスの前記バーストを対象物に伝送するステップを含む」として特定されている。しかしながら、当該請求項3が引用する請求項2には、「前記対象物にレーザーパルスの前記バーストを適用するステップの前に」、当該「集束させるステップ」を「さらに含む」と記載されており、両者は整合がとれず、明確でない。すなわち、レーザーパルスの前記バーストを、対象物に適用するステップの前に(請求項2で特定)、対象物に伝送するステップ(請求項3で特定)が存在することとなり、整合しているとは捉え難い。「適用する」に「伝送する」ことは含まれるといえるのではないか。

(4)請求項7に対して
本件の特許請求の範囲の請求項7には、「レーザーパルスの前記バーストが、直前のパルスと前記対象物との相互作用から生じる選択された過渡的効果を維持するのに適したバースト周波数を有し、約10ナノ秒未満のパルス幅を有する」点が特定されている。 しかしながら、該特定事項が意味する技術事項が、以下のア.及びイ.の点で明確ではない。
ア.「直前のパルスと前記対象物との相互作用」とは、何を意味し、また、その相互作用から生じる「選択された過渡的効果」とは、どのような技術事項を意味するのか、明確でない。
イ.「約10ナノ秒未満のパルス幅」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明によれば、「約」が、段落【0037】から「プラスまたはマイナス10パーセント以下を意味する」ものであるところ、レーザーパルスのパルス幅については、段落【0061】に示される表に、「レーザー特性」として「パルス幅」が「10ナノ秒以下」との記載があり(パルス幅についての言及はこの記載のみ)、両者の整合がとれず、明確でない。

(5)請求項9に対して
本件の特許請求の範囲の請求項9には、上記(1)で示した、請求項1に対する明確性要件違反がそのまま該当すると共に、さらに、以下の明確でない点が存在する。すなわち、「レーザーパルスの前記バーストが前記対象物の加工の起点に接触するスポットにおいて前記対象物に適用されるパルスエネルギーまたは流束の総量が、アブレーション加工を所望の深さに対して開始するため、及びそこから光音響圧縮加工を開始および伝搬するために必要な臨界エネルギーレベルよりも大きく、」との特定事項では、「パルスエネルギーまたは流束の総量」について、「臨界エネルギーレベルよりも大きく」として下限レベルが示されているのみで、上限レベルが示されておらず、「パルスエネルギーまたは流束の総量」を特定する観点で明確ではない。ここで、当該請求項9が、「混合型アブレーション光音響圧縮加工方法」であって、請求項1の「光音響圧縮加工方法」と照らし合わせて、請求項1に係る発明に「アブレーション加工」を混合させた加工方法を特定した発明であるとしても、上限レベルを示すことを必要としない根拠となるものではない。
また、請求項1に対する上記(1)のア.と同様に、当該請求項9においても、下限レベルに当たる「臨界エネルギーレベルよりも大きく」については、「アブレーション加工を所望の深さに対して開始するため、及びそこから光音響圧縮加工を開始および伝搬するために必要な」として当然の目標を記載しているに過ぎず、何ら実効的なレベルを記載したものではなく、明確でない。

(6)請求項10に対して
本件の特許請求の範囲の請求項10には、上記(2)で示した、請求項2に対する明確性要件違反がそのまま該当する。

(7)請求項11に対して
本件の特許請求の範囲の請求項11には、上記(3)で示した、請求項3に対する明確性要件違反がそのまま該当する(ただし、引用請求項は請求項10である)。

(8)請求項14に対して
本件の特許請求の範囲の請求項14には、上記(4)で示した、請求項7に対する明確性要件違反がそのまま該当する。

(9)請求項16に対して
本件の特許請求の範囲の請求項16には、上記(1)で示した、請求項1に対する明確性要件違反がそのまま該当すると共に、さらに、以下のア.およびイ.の点においても明確でない。
ア.「選択された分散焦点レンズ集束装置」の「選択された」が、何を意味しているのか、明確ではない。
イ.「総エネルギー入力のレベル」の「総エネルギー」が、何を意味しているのか、明確ではない。

上記(1)ないし(9)について検討する。
(1)請求項1について
上記ア.に関して、「パルスエネルギーまたは流束の総量が、光音響圧縮加工を開始および伝搬するために必要な臨界エネルギーレベルよりも大きく、かつ、アブレーション加工を開始するために必要なしきい値臨界エネルギーレベルよりも低く」とした点は、「臨界エネルギーレベル」の「程度」を規定したものであって、「臨界エネルギーレベル」の「程度」として、当然の目標を記載したことが、特許請求の範囲の記載が明確でないとする理由とはならない。
上記イ.及びウ.に関して、「光吸収のプロセス」、「熱弾性膨張」、「「広帯域音響波を生成」等について、それぞれの語句の意味は明確であり、それぞれの現象が発生する理由や具体的な数値を発明特定事項として特許請求の範囲に記載しないことが特許請求の範囲の記載が明確でないとする理由とはならない。
上記エ.に関して、「圧縮された材料の通路」の「材料」とは、冒頭の「対象材料」であると解され、「通路」を形成することが「穴明け」であると解されるから、「圧縮された材料の通路」との記載が明確でないとはいえない。
以上のとおりであるから、請求項1の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

(2)請求項2について
請求項2にかかる発明は方法の発明であるから、「選択された分散焦点レンズ集束装置」の「選択された」とは、「分散焦点レンズ集束装置」が「選択されて使用される」ことを意味すると解されるから、明確でないとまではいえない。

(3)請求項3について
請求項3は、請求項2における「集束させるステップ」をさらに特定するものであって、請求項2における「集束させるステップ」の後にある「バーストを適用するステップ」に対し、その直前に「レーザーパルスの前記バーストを対象物に伝送するステップ」があるという特定は、ステップの順序について矛盾が生じることもないから、請求項2を引用する請求項3の記載が明確でないとはいえない。

(4)請求項7について
請求項7は請求項1を引用しており、「バースト」は「適切なバーストパルス反復率」を有し、当該バーストの反復により対象物に連続的な穴あけを行うと解されるから、「選択された過渡的効果を維持する」とは穴を適切に形成していくことと解され、明確でないとはいえない。
また、請求項7における「約10ナノ秒未満」における、「約」とは段落【0037】から「プラスまたはマイナス10パーセント以下を意味する」ものであるから記載が明確でないとはいえない。また、段落【0061】の「10ナノ秒以下」の実施例から理解できないほどの矛盾もない。

(5)請求項9について
請求項1の記載は明確であるから、請求項9には請求項1と同様な明確性違反はない。
また、「パルスエネルギーまたは流束の総量」について、上限レベルが示されていなくても、請求項9の記載そのものは明確であるから、上限レベルが示されていないことが明確でないとはいえない。

(6)請求項10について
請求項2の記載は明確であるから、請求項10には請求項2と同様な明確性違反はない。

(7)請求項11について
請求項3の記載は明確であるから、請求項11には請求項3と同様な明確性違反はない。

(8)請求項14について
請求項7の記載は明確であるから、請求項14には請求項7と同様な明確性違反はない。

(9)請求項16について
請求項1の記載は明確であるから、請求項16には請求項1と同様な明確性違反はない。
また、請求項16にかかる発明は方法の発明であるから、「選択された分散焦点レンズ集束装置」の「選択された」とは、「分散焦点レンズ集束装置」が「選択されて使用される」ことを意味すると解されるから、明確でないとまではいえない。
さらに、「総エネルギー入力のレベル」の「総エネルギー」とは、文字通り入力される全てのエネルギーと解されるから明確でないとまではいえない。

したがって、請求項1、2、3、7、9、10、11、14及び16に係る特許の明確性要件違反に関する当該異議申立理由は、理由はない。

3.特許法第29条第2項
(1)申立理由の概要
異議申立人は、下記の甲第1ないし6号証を証拠として提出して、請求項1ないし16に係る特許(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明16」ともいう。)は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし16に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証:特開2008-156200号公報
甲第2号証:国際公開第2012/006736号
甲第3号証:特開2005-28438号公報
甲第4号証:特開2011-161491号公報
甲第5号証:特開2006-130691号公報
甲第6号証:特開2009-142886号公報

(2)甲各号証の記載
ア.甲第1号証
(ア)記載事項
a.「【0009】
本発明の方法では、波長が535nm以下の所定のレーザパルスを所定のレンズで集光してから所定の吸収係数を有するガラスに照射して変質部を形成する。そして、その変質部をエッチングすることによって、ガラスを加工する。本発明の方法では、Nd:YAGレーザの高調波を用いることができるため、フェムト秒レーザを用いる従来の方法に比べて、安価な装置でガラスを加工できる。また、本発明の方法では、レーザパルスの照射のみによってガラスを加工する従来の方法に比べて、加工部周辺のガラスの変形(デブリやクラックなど)を抑制でき、形状のそろった孔を形成できる。」

b.「【0013】
[ガラス加工方法]
ガラスを加工するための本発明の方法は、以下の工程を含む。工程(i)では、波長λのレーザパルスをレンズで集光してガラスに照射することによって、ガラスのうちレーザパルスが照射された部分に変質部を形成する。
【0014】
レーザパルスのパルス幅は、1ns(ナノ秒)?200nsの範囲にあり、好ましくは1ns?100nsの範囲で、たとえば5ns?50nsの範囲である。パルス幅を1ns未満にするには、高価な加工装置が必要になる。また、パルス幅が200nsより大きくなると、レーザパルスの尖頭値が低下してしまい、加工がうまくできないという問題が生じる。
【0015】
本発明の加工方法では、レーザパルスが、Nd:YAGレーザの高調波、Nd:YVO4レーザの高調波、またはNd:YLFレーザの高調波であってもよい。高調波は、たとえば、第2高調波や第3高調波や第4高調波である。これらレーザの第2高調波の波長は、532nm?535nm近傍であり、第3高調波の波長は、355nm?357nm近傍であり、第4高調波の波長は、266nm?268nmの近傍である。これらのレーザを用いることによって、ガラスを安価に加工できる。
【0016】
レーザパルスの波長は、535nm以下であり、好ましくは360nm以下であり、たとえば350nm?360nmの範囲である。一方、レーザパルスの波長が535nmよりも大きくなると、照射スポットが大きくなり、微小孔の作製が困難になるという問題、および熱の影響で照射スポットの周囲が割れやすくなるという問題が生じる。
【0017】
レーザパルスのエネルギーは、ガラスの材質や、どのような変質層を形成するかに応じて好ましい値が選択される。一例では、5μJ/パルス?100μJ/パルスの範囲である。本発明の方法では、レーザパルスのエネルギーを増加させることによって、それに比例するように変質部の長さを長くすることが可能である。レーザパルスのビーム品質M^(2)値は、たとえば2以下であってもよい。M^(2)値が2以下であるレーザパルスを用いることによって、微小な細孔や微小な溝の形成が容易になる。」

c.「【0041】
レーザパルスが照射された部分には、照射前のガラスとは異なる変質部が形成される。この変質部は、通常、光学顕微鏡を用いた観察によって他の部分と見分けることが可能である。
この変質部は、レーザ照射によって光化学的な反応が起き、E'センターや非架橋酸素などの欠陥が生じた部位や、レーザ照射の急熱・急冷によって発生した、高温度域における疎なガラス構造を保持した部位である。これら変質部は通常部よりも所定のエッチング液に対して、エッチングされやすいために、エッチング液に浸すことによって微小な細孔や微小な溝が作製できる。」

d.「【0043】
工程(i)では、通常、ガラスの内部にフォーカスされるようにレンズでレーザパルスを集光する。たとえばガラス板に貫通孔を形成する場合には、通常、ガラス板の厚さ方向の中央付近にフォーカスされるようにレーザパルスを集光する。なお、ガラス板の上面側(レーザパルスの入射側)のみを加工する場合には、通常、ガラス板の表面側にフォーカスされるようにレーザパルスを集光する。逆に、ガラス板の裏面側(レーザパルスの入射側とは反対側)のみを加工する場合には、通常、ガラス板の裏面側にフォーカスされるようにレーザパルスを集光する。ただし、ガラス変質部が形成できる限り、レーザパルスがガラスの外部にフォーカスされてもよい。たとえば、ガラス板の裏面から所定の距離(たとえば1.0mm)だけ離れた位置にレーザパルスがフォーカスされてもよい。換言すれば、ガラスに変質部が形成できる限り、レーザパルスは、ガラスの裏面から後方(ガラスを透過したレーザパルスが進行する方向)1.0mm以内にある位置(ガラスの裏面位置を含む)または内部にフォーカスされてもよい。
【0044】
工程(i)で形成される変質部の大きさは、レンズに入射する際のレーザのビーム径D、レンズの焦点距離L、ガラスの吸収係数、レーザパルスのパワーなどによって変化する。本発明の加工方法によれば、たとえば、直径が10μm以下で長さが100μm以上の円柱状の変質部を形成することが可能である。
【0045】
工程(i)で選択される条件の一例を、表1に示す。
【0046】
【表1】

e.「【0064】
[加工装置]
本発明の加工装置は、上述した本発明の加工方法の工程(i)を実施するための装置である。すなわち、その加工装置は、ガラスに孔を形成するために当該ガラスにレーザを照射するガラスの加工装置である。
【0065】
その加工装置は、パルス幅が1ns?200nsであり波長λのレーザパルスを出射する光源を含む。また、その加工装置は、レーザパルスを集光して加工対象のガラスに照射するためのレンズを含む。レーザパルスの波長λは、波長λが535nm以下である。上記レンズの焦点距離L(mm)を、そのレンズに入射する際のレーザパルスのビーム径D(mm)で除した値は7以上である。なお、波長λにおける、加工対象のガラスの吸収係数は、50cm^(-1)以下である。
【0066】
レーザパルスを出射する光源には特に限定はなく、たとえば、ガラスの加工方法の説明において例示した光源を適用できる。レンズには、公知のレンズを適用できる。
【0067】
本発明の加工装置の一例の構成を、図6に模式的に示す。図6の加工装置60は、レーザ装置61と、アッティネータ62と、ビームエキスパンダー63と、アイリス64と、ガルバノミラー65と、fθレンズ66と、ステージ67とを備える。これらの光学素子には、公知の光学素子を適用できる。レンズに入射する際のビーム径Dは、レーザ装置61、ビームエキスパンダー63およびアイリス64によって調整できる。
【0068】
レーザ装置61から出射されたレーザパルスは、アッティネータ62で減衰され、ビームエキスパンダー63で拡大され、アイリス64で絞られ、ガルバノミラー65に入射する。レーザパルスは、ガルバノミラー65によって光軸を調整され、fθレンズ66に入射する。ガルバノミラーを用いることによって、レーザの照射位置を高速(数千mm/s)で動かすことができる。そのため、高繰り返しのレーザパルスでも1パスル毎に異なる位置に照射することができ、変質部を等間隔に並べることも可能である。図6に示すように、ガルバノミラー65を用いてレーザパルスの経路を光軸a、光軸bおよび光軸cと変化させることが可能である。一例では、以下のように光軸a?cにレーザパルスが振り分けられる。最初のパルスは、ガルバノミラーよって光軸aに沿って、fθレンズの中心からずれた部位を通過し、ガラス板68の一方の端部に照射される。その次のパルスは、光軸bに沿ってfθレンズの中心を通過し、ガラス板68の中央付近に照射される。さらに次のパルスは、光軸cに沿ってfθレンズの中心からずれた所に入射し、ガラス板68の他方の端部に照射される。

f.「【0073】
レーザには、Nd:YAGレーザ装置(LightWave社製210S-UV)から出射される高繰り返しパルスレーザ(波長355nm、繰り返し周波数10kHz)を使用した。レーザ装置より出射されたレーザパルス(パルス幅9ns、パワー370mW、ビーム径1mm)を、ビームエキスパンダーで36倍に広げ、これを直径14mmのアパーチャーで切り取り、焦点距離160mmのfθレンズでガラス板の内部に集光させた。レンズに入射する際のビーム径は14mmであった。このとき、ガラス板の上面から物理長で0.15mmだけ離れた位置にレーザ光を集光させた。照射パルスが重ならないように、レーザ光を、400mm/sの速度でスキャンした。」

g.「【0089】
[実施例4]
以下に、パイレックス(登録商標)からなるガラス板(厚さ:0.7mm、355nmにおける吸収係数:0.1cm^(-1))を加工した一例について説明する。このガラスの成分比率を表2に示す。実施例4のガラスのヤング率は、65GPaであった。
【0090】
レーザには、Nd:YAGレーザ装置(PhotonicsIndustries社製)から出射される高繰り返しパルスレーザ(波長355nm、繰り返し周波数20kHz)を用いた。レーザ装置から出射されたレーザパルス(パルス幅24ns、パワー800mW、ビーム径1mm)を、ビームエキスパンダーで6倍に広げ、焦点距離100mmのfθレンズでガラス板の内部に集光させた。レンズに入射する際のビーム径は6mmであった。このとき、ガラス板の上面から物理長で0.35mmだけ離れた位置にレーザ光を集光させた。照射パルスが重ならないように、レーザ光を、1000mm/sの速度でスキャンした。
【0091】
レーザ光の照射によるガラス板の表面の変形は観察されなかった。また、レーザ光が照射された部分には、他の部分とは異なる変質部が形成されていた。変質部は、太さがほとんど変わらない円柱状に形成されていた。この変質部は長さが200μmであり、ガラス板の上面から深さが200μmの位置から深さが400μmの位置まで形成されていた。」

(イ)引用発明
甲第1号証の摘記事項a.ないしg.及び、技術常識を勘案すると、甲第1号証には以下の発明が記載されていると認められる。
「レーザを用いたガラス基板の加工方法であって、
535nm以下の波長、1ns?200nsのパルス幅、および5μJ?100μJのパルスエネルギーを有する高繰り返しのレーザパルスをレーザ装置から前記ガラス基板に照射するステップを含み、
前記レーザパルスの照射による加工が、前記ガラス基板に円柱状の変質部を形成し、当該加工により、ガラス基板の表面の変形が観察されず、加工部周辺のガラス基板の変形(デブリやクラックなど)を抑制し、形状のそろった微小な細孔や微小な溝を生成する加工方法。」(以下、「甲1発明」という。)

イ.甲第2号証
(ア)記載事項
a.「The substrate may be a glass or a semiconductor and may be selected from the group consisting of transparent ceramics, polymers, transparent conductors, wide bandgap glasses, crystals, crystal quartz, diamond, and sapphire. 」(明細書第6ページ第14ないし17行)
(基板は、ガラス又は半導体であってもよく、透明セラミックス、ポリマー、透明導体、広バンドギャップガラス、水晶、結晶石英、ダイヤモンド、及びサファイアから成る群から選択されてもよい。)

b.「Figure 1 presents a schematic arrangement shown in (a) front and (b) side views for forming laser filaments in a transparent substrate. Short duration laser pulses 10 are focused with objective lens 12 inside transparent substrate 14. At appropriate laser pulse energy, the laser pulse, or sequence of pulses, or burst- train of pulses, a laser filament 18 is generated within the substrate, producing internal microstructural modification with a shape defined by the laser filament volume. By moving the sample relative to the laser beam during pulsed laser exposure, a continuous trace of filament tracks 20 are permanently inscribed into the glass volume as defined by the curvilinear or straight path followed by the laser in the sample.
Without intending to be limited by theory, it is believed that the filaments are produced by weak focusing, high intensity short duration laser light, which can self-focus by the nonlinear Kerr effect, thus forming a so-called filament. This high spatio-temporal localization of the light field can deposit laser energy in a long narrow channel, while also being associated with other complex nonlinear propagation effects such as white light generation and formation of dynamic ring radiation structures surrounding this localized radiation.」(明細書第11ページ末行ないし第12ページ第16行)
(図1は、透明基板にレーザーフィラメントを形成する、(a)正面図及び(b)側面図で示される概略配置を示す。持続時間の短いレーザーパルス10は、対物レンズ12によって透明基板14内部で収束される。適切なレーザーパルスエネルギー、レーザーパルス、又はパルスのシーケンス、或いはパルスのバースト列では、レーザーフィラメント18が基板内に生成されて、レーザーフィラメントの体積によって規定される形状を有する内部微小構造の変性が作り出される。パルスレーザー露光中にレーザービームに対してサンプルを移動させることによって、サンプル中のレーザーが追随する曲線又は直線経路によって規定されるような、フィラメントトラック20の連続的なトレースがガラス体積内に恒久的に刻み付けられる。
理論によって限定されることを意図しないが、フィラメントは、非線形のカー効果によって自己収束することができ、結果としていわゆるフィラメントを形成する、収束が弱く高強度の持続時間が短いレーザー光によって作り出されると考えられる。光照射野のこの空間的・時間的に高度な局所化は、長く狭いチャネルにレーザーエネルギーを蓄積させることができ、また、白色光の生成、及びこの局所的放射を取り囲む動的な環状の放射構造の形成など、他の複雑な非線形伝搬効果と関連付けられる。)

c.「In contrast, laser filamentation offers a new direction for internal laser processing of transparent materials that can avoid ablation or surface damage, dramatically reduce kerf width, avoid crack generation, and speed processing times for such scribing applications. Further, high repetition rate lasers defines a new direction to enhance the formation of laser beam filaments with heat accumulation and other transient responses of the material on time scales faster than thermal diffusion out of the focal volume (typically <10 microseconds).
Accordingly, embodiments disclosed herein harnesses short duration laser pulses (preferably with a pulse duration less than about 100 ps) to generate a filament inside a transparent medium. The method avoids dense plasma generation such as through optical break down that can be easily produced in tight optical focusing conditions as typically applied and used in femtosecond laser machining. In weak focusing, which is preferential, the nonlinear Kerr effect is believed to create an extended laser interaction focal volume that greatly exceeds the conventional depth of focus, overcoming the optical diffraction that normally diverges the beam from the small self-focused beam waist.
Once a filamentation array is formed in the transparent substrate, only small mechanical pressure is required to cleave the substrate into two parts on a surface shape that is precisely defined by the internal laser-filamentation curtain. The laser-scribed facets typically show no or little cracking and microvoids or channels are not evident along the scribed zone. There is substantially no debris generated on the top or bottom surfaces since laser ablation at the surfaces can be avoided by confining the laser filament solely within the bulk glass. On the other hand, simple changes to the laser exposure or sample focusing conditions can move the filament to the surface and thus induce laser ablation machining if desired, as described further below. This assists in creating very sharp V groves on the surface of the substrate. To scribe very thin substrates (less than 400 urn thick) creating a sharp V groove is desired. Other common ablation techniques generally create U grooves or rounded V grooves. V grooves also can form on both top and bottom surface of the sample making scribed edges chamfered.
Laser energy deposited along such filaments leads to internal material modification that can be in the form of defects, color centers, stress, microchannels, microvoids, and/or microcracks. The present method entails lateral translation of the focused laser beam to form an array of closely positioned filament-induced modification tracks. This filament array defines a pseudo-continuous curtain of modification inside the transparent medium without generating laser ablation damage at either of the top or bottom surfaces. This curtain renders the glass plate highly susceptible to cleaving when only very slight pressure (force) is applied, or may spontaneously cleave under internal stress. The cleaved facets are devoid of ablation debris, show minimal or no microcracks and microvents, and accurately follow the flexible curvilinear or straight path marked internally by the laser with only very small kerf width as defined by the self-focused beam waist. 」(明細書第14ページ第3行ないし第15ページ第22行)
(対照的に、レーザーフィラメント形成は、かかるスクライビング用途のアブレーション又は表面損傷を回避し、切溝幅を劇的に低減させ、割れの生成を回避し、且つ加工時間を速めることができる、透明材料の内部レーザー加工の新しい方向性を提示する。更に、高繰返し数レーザーは、焦点体積外への熱拡散(一般的に、10マイクロ秒未満)よりも速い時間スケールにおける、材料の熱蓄積及び他の過渡応答を用いたレーザービームフィラメントの形成を向上させる新しい方向性を規定する。
従って、本明細書に開示する実施形態は、持続時間の短いレーザーパルス(好ましくは、約100ps未満のパルス持続時間)を活用して、透明媒体内部にフィラメントを生成する。方法は、フェムト秒レーザー機械加工において一般的に適用され使用されるような緊密な光収束条件で簡単に生じる可能性がある、光学的破壊などによる稠密なプラズマ生成を回避する。収束が弱い場合、これは好ましいことであるが、非線形のカー効果が、従来の焦点深度を大幅に超える拡張されたレーザー相互作用の焦点体積を作り出して、通常はビームを小さな自己収束ビームウェストから分散させる光回折を克服すると考えられる。
フィラメント形成配列が透明基板内に形成されれば、内部のレーザーフィラメント形成カーテンによって精密に規定される表面形状上で基板を二つの部分に劈開するのに必要な機械的圧力は小さい。レーザースクライブされたファセットは、一般的に割れを全く又はほとんど示さず、スクライブされた領域に沿った微小空隙又はチャネルは明らかではない。表面のレーザーアブレーションは、レーザーフィラメントをバルクガラス内のみに制限することによって回避できるので、上面又は下面に屑は実質的に生成されない。他方では、レーザー露光又はサンプル収束条件への単純な変更によってフィラメントを表面に移動し、その結果、所望であれば、後述するようにレーザーアブレーション機械加工を引き起こすことができる。これは、基板の表面に非常に鋭いV字溝を作る助けとなる。超薄型基板(厚さ400μm未満)をスクライブして鋭いV字溝を作成するのが望ましい。他の共通のアブレーション技術は、一般にU字溝又は丸み付けられたV字溝を作成する。V字溝は、サンプルの上面及び下面の両方に形成して、スクライブされた縁部を面取りすることもできる。
かかるフィラメントに沿って蓄積したレーザーエネルギーは、欠陥、色中心、応力、マイクロチャネル、微小空隙、及び/又は微小割れの形態であり得る内部の材料変性に結び付く。本発明の方法は、近接して位置付けられたフィラメントによって引き起こされる変性トラックの配列を形成するため、収束レーザービームの横方向の並進を要する。このフィラメント配列は、上面又は下面のどちらかにレーザーアブレーションの損傷を生成することなく、透明媒体内部の変性の疑連続的なカーテンを規定する。このカーテンによって、ガラスプレートは、非常にわずかな圧力(力)のみが適用されたときに劈開に関して非常に脆くなり、又は内部応力を受けて自然に劈開することがある。劈開したファセットは、アブレーション屑がなく、微小割れ及び微小ベントが最小限であるか又は全く示されず、また、自己収束ビームウェストによって規定されるような非常に小さな切溝幅のみで、レーザーによって内部に印付けられた柔軟な曲線又は直線経路に正確に追随する。)

d.「The application of high repetition rate short-pulse lasers thus offers a means for dramatically increasing the processing (scan) speed for such filamentation cleaving. However, at sufficiently high repetition rate (transition around 100 MHz to 1 MHz), the modification dynamics of the filament is dramatically enhanced through a combination of transient effects involving one or more of heat accumulation, plasma dynamics, temporary and permanent defects, color centers, stresses, and material defects that accumulate and do not relax fully during the train of pulses to modify the sequential pulse-to-pulse interactions. Laser filaments formed by such burst trains offer significant advantage in lowering the energy threshold for filament formation, increasing the filament length to hundreds of microns or several millimeters, thermally annealing of the filament modification zone to minimize collateral damage, improving process reproducibility, and increasing the processing speed compared with the use of low repetition rate lasers. In one non-limiting manifestation at such high repetition rate, there is insufficient time (i.e. 10 nsec to 1 μs) between laser pulses for thermal diffusion to remove the absorbed laser energy, and heat thereby accumulates locally with each laser pulse. In this way, the temperature in the interaction volume rises during subsequent laser pulses, leading to laser interactions with more efficient heating and less thermal cycling. In this domain, brittle materials become more ductile to mitigate crack formation. Other transient effects include temporary defects and plasma that survive from previous laser pulse interactions. These transient effects then serve to extend the filamentation process to long interaction lengths, and/or improve absorption of laser energy in subsequent pulses.
As shown below, the laser filamentation method can be tuned by various methods to generate multi-filament tracks broken with non-filamenting zones through repeated cycles of Kerr-lens focusing and plasma defocusing. Such multi-level tracks can be formed in a thick transparent sample, across several layers of glasses separated by transparent gas or other transparent materials, or in multiple layers of different transparent materials. By controlling the laser exposure to only form filaments in the solid transparent layers, one can avoid ablation and debris generation on each of the surfaces in the single or multi-layer plates. This offers significant advantages in manufacturing, for example, where thick glasses or delicate multilayer transparent plates must be cleaved with smooth and crack free facets. 」(明細書第16ページ第13行ないし第18ページ第1行)
(従って、高繰返し数の短パルスレーザーの適用は、かかるフィラメント形成劈開の加工(走査)速度を劇的に増加させるための手段を提示する。しかし、十分に高い繰返し数(約100MHz?1MHzの遷移)では、フィラメントの変性力学は、パルス列の間蓄積し、且つ完全には緩和せずに連続的なパルス間相互作用を修正する、熱蓄積、プラズマ力学、一時的及び恒久的な欠陥、色中心、応力、並びに材料欠陥のうち一つ又は複数を伴う過渡効果の組合せによって劇的に向上する。かかるバースト列によって形成されるレーザーフィラメントは、フィラメント形成のエネルギー閾値を低下させ、フィラメント長を数百ミクロン又は数ミリメートルまで増加させ、フィラメント変性域を熱アニーリングして付随的な損傷を最小限に抑え、加工の再現性を改善し、低繰返し数レーザーを使用した場合に比べて加工速度を増加させるという顕著な利点を提供する。かかる高繰返し数の一つを非限定的に表明すると、レーザーパルス間の時間は吸収されたレーザーエネルギーを除去する熱拡散には不十分な時間(即ち、10nsec?1μs)であり、それによって熱がレーザーパルス毎に局所的に蓄積する。このように、相互作用体積における温度が後続のレーザーパルスの間に上昇して、加熱がより効率的で熱サイクルが少ないレーザー相互作用に結び付く。この領域では、脆性材料はより延性になって割れの形成を緩和する。他の過渡効果としては、前のレーザーパルス相互作用から残存する、一時的欠陥及びプラズマが挙げられる。これらの過渡効果は、次に、フィラメント形成加工を長い相互作用長さに延長する、且つ/又は後続のパルスにおけるレーザーエネルギーの吸収を改善するのに役立つ。
後述するように、レーザーフィラメント形成方法は、様々な方法によって、カーレンズ収束及びプラズマ発散の繰返しサイクルを通してフィラメント非形成域を備えた多重フィラメントトラックを生成するように調整することができる。かかる多重レベルトラックは、厚い透明なサンプルに、透明ガス又は他の透明材料によって分離された複数層のガラスにわたって、或いは異なる透明材料の多層に形成することができる。固体透明層のみにフィラメントを形成するようにレーザー露光を制御することによって、単層又は多層のプレートの表面それぞれにおけるアブレーション及び屑の生成を回避することができる。これによって、例えば、厚いガラス又は繊細な多層透明プレートを平滑で割れがないファセットで劈開しなければならない場合の製造に著しい利点が提供される。)

e.「In substrates that are transparent within the visible spectrum, the laser filament may result in the generation of white light, which without being limited by theory, is believed to be generated by self phase modulation in the substrate and observed to emerge for the laser filamentation zone in a wide cone angle 16 after the filament ends due to factors such reduced laser pulse energy or plasma defocusing.
The length and position of the filament is readily controlled by the lens focusing position, the numerical aperture of objective lens, the laser pulse energy, wavelength, duration and repetition rate, the number of laser pulses applied to form each filament track, and the optical and thermo-physical properties of the transparent medium. Collectively, these exposure conditions can be manipulated to create sufficiently long and strong filaments to nearly extend over the full thickness of the sample and end without breaking into the top or bottom surfaces. In this way, surface ablation and debris can be avoided at both surfaces and only the interior of the transparent substrate is thus modified. With appropriate beam focusing, the laser filament can terminate and cause the laser beam to exit the glass bottom surface at high divergence angle 16 such that laser machining or damage is avoided at the bottom surface of the transparent plate.
Figure 2 presents a schematic arrangement shown in a side view for (a) forming laser filaments 20 with surface V groove formation 22 (b) V groove formation with suppressed filament formation. For higher quality scribing with edge chamfered property, laser processing can be arranged such that filaments forms inside the transparent material and very sharp V groove that is the result of ablation from on top of the surface. For some applications where clean facet is required or higher scribing speed is considered, filaments can be suppressed or completely removed.」(明細書第18ページ第14行ないし第19ページ第17行)
(可視スペクトル内で透明な基板では、レーザーフィラメントは白色光の生成をもたらし、これは、理論によって限定されるものではないが、基板内の自己位相変調によって生成されるものと考えられ、低減されたレーザーパルスエネルギー又はプラズマ発散などの要因によって、フィラメント端部の後に幅広の円錐角16でレーザーフィラメント形成域に出現することが観察される。
フィラメントの長さ及び位置は、レンズ収束位置、対物レンズの開口数、レーザーパルスエネルギー、波長、持続時間及び繰返し数、各フィラメントトラックを形成するのに適用されるレーザーパルス数、並びに透明媒体の光学特性及び熱・物理特性によって容易に制御される。集合的に、これらの露光条件は、サンプルのほぼ全厚にわたって延在し、上面又は下面に入り込まずに終わる、十分に長く強いフィラメントを作成するように操作することができる。このように、表面のアブレーション及び屑は両方の表面で回避することができ、従って透明基板の内部のみが変性される。適切なビーム収束によって、レーザーフィラメントが終端し、透明プレートの下面におけるレーザー機械加工又は損傷が回避されるように、レーザービームが高い発散角16でガラスの下面を出るようにすることができる。
図2は、(a)表面V字溝形成22を伴うレーザーフィラメント20の形成、(b)フィラメント形成が抑制されたV字溝形成を示す概略配置の側面図を示す。縁部が面取りされた性質を有するより高品質のスクライビングのため、フィラメントが透明材料の内部に生じ、表面の上からのアブレーションの結果である非常に鋭いV字溝を形成する、レーザー加工を準備することができる。クリーンなファセットが求められるか、又はより高速のスクライビング速度が考慮されるいくつかの用途では、フィラメントを抑制するか、又は完全に除去することができる。)

f.「 Figures 12 (a)-(c) shows microscope images in a side view of 1 mm thick glass plates viewed through a polished edge facet immediately after laser exposure. The plate was not separated along the filament track for this case in order to view the internal filament structure. As noted above, a single burst of 8 pulses at 38 MHz repetition rate was applied to form each filament track. Furthermore, the burst train was presented at 500 Hz repetition rate while scanning the sample at a moderate speed of 5 mm/s, such that filament tracks were separated into individual tracks with a 10 μm period. The filamentation modification tracks were observed to have a diameter of less than about 3μm, which is less than the theoretical focal spot size of 10 μm for this focusing arrangement, evidencing the nonlinear self focusing process giving rise to the observed filamentation. 」(明細書第26ページ第20行ないし第27ページ第8行)
(図12(a)?(c)は、レーザー露光直後に研磨した縁部ファセットを通して見た、厚さ1mmのガラスプレートの側面図の顕微鏡画像を示す。内部フィラメント構造を見るため、この例ではプレートをフィラメントトラックに沿って分離しなかった。上述したように、繰返し数38MHzの8パルスの単一のバーストを適用して、各フィラメントトラックを形成した。更に、バースト列を繰返し数500Hzで示す一方、5mm/sの中速でサンプルを走査し、それによって10μm周期でフィラメントトラックを個々のトラックに分離した。フィラメント形成変性トラックは、この収束配置の場合の理論上は焦点スポット径である10μmよりも小さい約3μm未満の直径を有することが観察され、非線形の自己収束プロセスが観察されたフィラメント形成を生じさせることが証明された。)

g.「Figure 13(a) and 13(b) presents optical microscope images focused respectively on the top and bottom surface of the glass sample, as recorded for the sample shown in Figure 12(b). In between these surfaces, the internal filamentation modification appears unfocused as expected when the modification zone is physically more than 100 μm from either surface due to the limited focal depth of the microscope. The images reveal the complete absence of laser ablation, physical damage or other modification at each of the surfaces while only supporting the internal formation of along laser modification track. 」(明細書第29ページ第6ないし13行)
(図13(a)及び13(b)は、図12(b)に示されるサンプルに関して記録されるような、ガラスサンプルの上面及び下面それぞれに収束させた光学顕微鏡画像を示す。これらの表面の間には、顕微鏡の焦点深度が制限されることにより、変性域がいずれかの表面から物理的に100μm超過のときに予期されるように、内部フィラメント形成変性は焦点が合わなく見える。画像から、表面それぞれにレーザーアブレーション、物理的な損傷、又は他の変性が全くなく、一方でレーザー変性トラックに沿った内部形成のみを支援していることが明らかである。)

(イ)甲第2号証に記載された事項
甲第2号証の摘記事項a.ないしg.及び、技術常識を勘案すると、甲第2号証には以下の事項が記載されていると認められる。
「ガラス等の透明基板を加工するためのレーザーフィラメント形成による材料加工方法として、適切な波長、適切なパルスのバースト列、適切なレーザーパルスエネルギーを有するレーザーパルスを透明基板に照射して、焦点体積外への熱拡散時間より短いパルス幅のレーザーパルスによりカー効果によって白色光のレーザーフィラメントを基板内に生成することで、該レーザーフィラメントの体積によって規定される内部微小構造の材料変性を形成すること。」(以下、「甲第2号証に記載された事項」という。)

ウ.甲第3号証
(ア)記載事項
a.「【請求項1】
被加工物を保持するための保持手段と、レーザ光線発生手段と、該レーザ光線発生手段からのレーザ光線を該保持手段に保持された被加工物に照射するための光学手段とを具備する、レーザ光線を利用する加工装置において、
該光学手段は、該レーザ光線発生手段からの該レーザ光線を、光軸方向に変位せしめられた少なくとも2個の集光点に集光せしめる、ことを特徴とする加工装置。」

b.「【0006】
本発明によれば、レーザ光線発生手段からのレーザ光線を、単一の集光点に集光せしめるのではなくて、光軸方向に変位せしめられた少なくとも2個の集光点に集光せしめることによって上記主たる技術的課題を達成する。」

c.「【0013】
レーザ光線発生手段6は、被加工物2を透過し得るレーザ光線を生成するものであることが重要であり、被加工物2がシリコン基板、サファイア基板、炭化珪素基板、リチウムタンタレート基板、ガラス基板、或いは石英基板の如き基板を含むウエーハである場合、例えば波長が1064nmであるレーザ光線を生成するYVO4パルスレーザ或いはYAGパルスレーザから好都合に構成することができる。図示の実施形態においては、レーザ光線発生手段6は保持手段4上に保持された被加工物2に向けてパルスレーザ光線12を発信する。」

d.「【0015】
上述したとおりの加工装置においては、レーザ光線発生手段6からのレーザ光線12は、2個の集光レンズ16及び18から構成された光学手段8の集光作用によって、被加工物2中において光軸方向に変位せしめられた2個の集光点20及び22に集光せしめられる。更に詳述すると、レーザ光線12の一部、即ち径方向周縁部は、集光レンズ16のみを通過して被加工物2中の集光点20に集光せしめられる。レーザ光線12の残部、即ち径方向中央部は、集光レンズ18と共に集光レンズ16を通過して被加工物2中の集光点22に集光せしめられる。集光点20と集光点22とはレーザ光線12の光軸方向に変位せしめられている。集光点20及び22でレーザ光線12が集光せしめられると、集光点20及び22の近傍、通常は集光点20及び22の各々から上方に向かって幾分かの幅W1及び幅W2を有する領域において、被加工物2に変質部が生成される。幅W1と幅W2とは実質上同一でもよいし、或いは相互異なっていてもよい。幅W1の変質部と幅W2の変質部とは、図1に明確に図示する如く被加工物2の厚さ方向に間隔をおいて生成せしめてもよいし、被加工物2の厚さ方向に実質上連続して生成せしめてもよい。変質部における変質は、被加工物2の材料及び集光せしめられるレーザ光線12の強度に依存するが、通常は溶融再固化(即ちレーザ光線12が集光されている時に溶融されレーザ光線12の集光が終了した後に固化される)、ボイド或いはクラックである。従って、レーザ光線発生手段6及び光学手段8と保持手段4とを、例えば図1において左右方向に延びる分割ラインに沿って相対的に移動せしめると、被加工物2には、幅W1及び幅W2で分割ラインに沿って連続的に延びる(相対的移動方向に隣接する、レーザ光線12の集光点20及び22におけるスポットが部分的に重なる場合)2個の変質部、或いは幅W1及び幅W2で分割ラインに沿って間隔をおいて位置する(相対的移動方向に隣接する、レーザ光線12の集光点のスポットが間隔をおいて位置する場合)多数の変質部が形成される。即ち、本発明に従って構成された第一の実施形態によれば、単一のレーザ光線発生手段6によって、被加工物2にその厚さ方向に変位せしめられた2個の領域に幅W1と幅W2との変質部を同時に生成することができる。」

エ.甲第4号証
(ア)記載事項
a.「【請求項1】
被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物に該被加工物に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段とを具備し、
該レーザー光線照射手段は、パルスレーザー光線発振手段と、該パルスレーザー光線発振手段が発振するパルスレーザー光線を集光して該チャックテーブルに保持された被加工物に照射せしめる集光器とを含んでいる、レーザー加工装置において、
集光器は、該パルスレーザー光線発振手段から発振されたパルスレーザー光線を該チャックテーブルに保持された被加工物の厚さ方向に変位せしめられた複数個の集光点に集光せしめるように構成されており、
該パルスレーザー光線発振手段は、発振するパルスレーザー光線のパルス幅を複数個の集光点によって形成する変質層の生成時間より短く設定されている、
ことを特徴とするレーザー加工装置。」

b.「【0010】
本発明によるレーザー加工装置においては、レーザー光線照射手段の集光器はパルスレーザー光線発振手段から発振されたパルスレーザー光線をチャックテーブルに保持された被加工物の厚さ方向に変位せしめられた複数個の集光点に集光せしめるように構成されており、パルスレーザー光線発振手段が発振するパルスレーザー光線のパルス幅を複数個の集光点によって形成する複数個の変質層の生成時間より短く設定されているので、複数個の変質層を基点として伝播する亀裂が変質層間に誘導され、亀裂がパルスレーザー光線が入射された側に変質層間を外れて不規則な方向に伝播して形成されることがない。従って、変質層が形成されたウエーハがストリートに沿って分割されたデバイスは、外周面が均一化され抗折強度が低下することがないとともに、特にウエーハが光デバイスウエーハの場合には分割された光デバイスの輝度が低下することもない。
更に、本発明によるレーザー加工装置においては、レーザー光線照射手段の集光器はチャックテーブルに保持された被加工物の厚さ方向に変位して複数個の集光点を形成するのでパルスレーザー光線のエネルギーが集光点の数に応じて分散されるとともに、被加工物としてのウエーハの裏面側から照射されたパルスレーザー光線は集光点から円錐状に広がりデバイスが形成された表面に同心円状に分散して抜けるためデバイス層を損傷させることがない。」

オ.甲第5号証
(ア)記載事項
a.「【0005】
また、本発明に係る脆性材料の割断装置は、レーザ光を発振するレーザ発振器と、レーザ発振器からのレーザ光を集光する集光手段と、上記集光手段と脆性材料とを相対移動させる移動手段とを備え、集光手段により集光されたレーザ光を、移動手段によって板状の脆性材料の割断予定線に沿って移動させ、上記脆性材料の割断を行う脆性材料の割断装置において、
上記集光手段を、上記レーザ光をその光軸方向に線状に集光させて集光線を形成する集光手段から構成して、上記集光線が脆性材料の内部に形成されるようにレーザ光を脆性材料に照射させて脆性材料の割断を行うことを特徴としている。

b.「【0007】
以下図示実施例について説明すると、図1は本発明に係る割断装置1を示し、この割断装置1により、透明な液晶ガラス基板等の脆性材料2を割断予定線Qに沿って割断するようになっている。
この割断装置1は、板状の脆性材料2を支持する加工テーブル3と、この加工テーブル3の上方に配置されて該加工テーブル3上の脆性材料2に対してレーザ光Lを照射する照射手段4と、この照射手段4を加工テーブル3上の脆性材料2に対して相対移動させる移動手段5とを備えている。
上記脆性材料2として、上述した液晶ガラス基板の他、半導体用のウェハなどの板状の脆性材料2を割断できるようになっており、本実施例の割断装置1によれば、上記脆性材料2の板厚が1000μmを越えていても、高精度で短時間に割断することが可能となっている。
加工テーブル3は工場内等の所定位置に固定されており、脆性材料2を下面から吸着保持して、脆性材料2が加工テーブル3上でずれないようになっている。」

c.「【0009】
ここで、図3を用いてアキシコンレンズ14について説明すると、本実施例のアキシコンレンズ14は、少なくとも一方の面が略円錐状に加工されたレンズのことをいい、本実施例のアキシコンレンズ14は他方の面が平坦に加工されている。
図3に示すように、レーザ発振器12から照射されるレーザ光Lの光軸と、アキシコンレンズ14の中心とを一致させ、その状態でレーザ光Lをアキシコンレンズ14の円錐状の面に照射すると、レーザ光Lは円錐状の面でアキシコンレンズ14の中心に向けて屈折する。
屈折したレーザ光Lはアキシコンレンズ14の中心で集光され、集光による光強度の強い部分は、レーザ光Lの光軸方向に延びて線状の集光線Cとなり、この集光線Cの光軸方向の長さを焦点深度Dという。
そしてこの集光線Cの部分におけるレーザ光Lの光強度を脆性材料2の吸収閾値以上とすれば、この集光線Cの位置で脆性材料2が多光子吸収により変質し、当該部分に改質領域Tが形成され、集光線C以外の光強度が吸収閾値以下の部分は非改質領域となり、改質領域と非改質領域の境界がクラックとなる。
ただ、図3のようにアキシコンレンズ14の内部に上記集光線Cが形成されてしまうと、アキシコンレンズ14内に光強度の高い部分が位置してしまうので、アキシコンレンズ14自体が変質してしまうおそれがある。」

d.「【0014】
なお、上記第1実施例では集光線Cの位置を脆性材料2の略中央に位置させ、焦点深度Dを板厚の半分以上としているが、これに限定されるものではない。
例えば、集光線Cの端部を脆性材料2の上面若しくは下面に位置させることや、集光線Cの焦点深度Dを脆性材料2の板厚以上とすることも可能であり、このようにしても板厚の厚い脆性材料2を高精度、かつ短時間に割断することができる。
さらに、上記移動手段5により集光手段13を脆性材料2の板厚方向に振動させながら、それと共に集光手段13と脆性材料2とを相対移動させることによっても、上記改質領域の形成を行うことも可能である。
これにより、脆性材料2の内部には上記集光線Cが通過した軌跡、すなわち焦点深度Dの幅で略波形の軌跡の改質領域Tが形成され、特に上記波形の頂点に位置する改質領域Tと脆性材料2の表面とを接近させることができるので、当該位置から成長するクラックを脆性材料2の表面まで達しやすくなり、良好な割断を行うことが可能となる。」

カ.甲第6号証
(ア)記載事項
a.「【0001】
本発明は、レーザー穴開け加工方法に関し、特に、シリコンウエハー、ガラス基板等に対してカバー部材を経由してレーザービームを照射し、均一な形状の貫通穴若しくはブラインドビア(途中穴)を穴開け加工する方法に関するものである。」

b.「【0008】
上記目的を達成する本発明のレーザー穴開け加工方法は、アブレーション作用により被加工物に穴開け可能な単一横モードのシングルパルスレーザーからの集光レーザービームを被加工物に入射させることで穴開けするレーザー穴開け加工方法において、少なくとも前記被加工物の前記集光レーザービーム入射側をカバー部材で覆ってから前記集光レーザービームを入射させることで前記カバー部材と共に前記被加工物に穴開けし、穴開け後に前記カバー部材を前記被加工物から分離することを特徴とする方法である。」

c.「【0012】
本発明においては、アブレーション作用により被加工物に穴開け可能な単一横モードのシングルパルスレーザーからの集光レーザービームを用いることで、集光レーザービームの焦点深度を遙かに超える深さで略均一径の高アスペクト比の穴を穴開け加工できる。そして、少なくとも被加工物の集光レーザー光入射側をカバー部材で覆ってから穴開け加工をするので、加工の際に発生するデブリがカバー部材に堆積して被加工物には付着しないので、被加工物からデブリを取り除く処理は必要でなくなる。」

d.「【0023】
図1は、本発明のレーザー穴開け加工方法により被加工板1に均一径で高アスペクト比の貫通穴4を開けるための工程を説明するための図である。まず、図1(a)に示すように、テーパー穴部5、7の長さと同一かそれより長い厚さで被加工板1と同一材料あるいは異なる材料からなるカバー部材11、12を用意し、被加工板1の両面をそれらのカバー部材11、12で覆う。その後、図1(b)に示すように、カバー部材11側からアブレーション作用により穴開け可能な高エネルギー密度の単一横モードのシングルパルスレーザーからの集光ビーム10を入射させる。すると、カバー部材11表面からカバー部材12の裏面にかけて貫通穴4が穴開けされる。貫通穴4のテーパー穴部5は表側のカバー部材11中に位置し、テーパー穴部7は裏側のカバー部材12中に位置し、均一径の途中部6は被加工板1中に位置することになり、また、レーザー光入射側に付着するデブリ8はカバー部材11表面に堆積し、レーザー光出射側に付着するデブリ9はカバー部材12裏面に堆積する。したがって、図1(c)に示すように、カバー部材11、12を被加工板1から分離することで、被加工板1には均一径の高アスペクト比の貫通穴4のみが開いており、その表裏の面にはデブリが付着しておらず、デブリを取り除く処理は必要なくなる。」

(3)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
加工の対象物として、本件特許公報の段落【0010】に、「本発明については・・・Siウエハ等の半導体材料またはガラスもしくはサファイア等の材料である透明基板に、オリフィスを作成するための装置および方法を提供することである。」と記載されているように、本件発明1は、加工の対象物である「透明な対象材料」として、ガラスを含むものであるから、甲1発明の「ガラス基板の加工」をすることは、本件発明1の「透明な対象材料を加工する」ことに相当する。
また、甲1発明の「レーザを用いた」「加工方法」と本件発明1の「光音響圧縮加工方法」とは、レーザーパルスを用いた加工方法である点で共通する。
そして、甲1発明の「535nm以下の波長、1ns?200nsのパルス幅、および5μJ?100μJのパルスエネルギーを有する高繰り返しのレーザーパルスをレーザー装置から前記ガラス基板に照射するステップを含」むことと、本件発明1の「適切な波長、適切なバーストパルス反復率、および適切なパルスエネルギーを有するレーザーパルスの少なくとも1つのバーストをレーザー源から対象物に適用するステップを含」むこととは、「適切な波長、適切なパルス反復率、および適切なパルスエネルギーを有するレーザーパルスをレーザー源から対象物に適用するステップを含」む点で一致する。
また、甲1発明による「レーザーパルスの照射による加工」が「形状のそろった微小な細孔や微小な溝を生成する」ことは、本件発明1の「対象物の任意の深さから、前記対象物に有底または貫通の穴あけをする」ことに相当する。
したがって、両者は、以下の点で一致する。
「透明な対象材料を加工するためのレーザーを用いた加工方法であって、
適切な波長、適切なパルス反復率、および適切なパルスエネルギーを有するレーザーパルスをレーザー源から対象物に適用するステップを含み、
前記対象物が、1つの透明な基板で構成され、
前記レーザーを用いた加工により、前記対象物の任意の深さから、前記対象物に有底または貫通の穴あけをする加工方法。」
そして、両者は、以下の各点で相違する。

[相違点1]レーザーを用いた加工方法が、本件発明1は「光音響圧縮加工方法」であるのに対して、甲1発明が「光音響圧縮加工方法」であるか否か不明である点。

[相違点2]本件発明1は、「適切な波長、適切なバーストパルス反復率、および適切なパルスエネルギーを有するレーザーパルスの少なくとも1つのバーストをレーザー源から対象物に適用するステップを含」むのに対し、甲1発明は、「適切なパルス反復率」を有するものの、「適切なバーストパルス反復率」を有するといえるかどうか明らかでなく、「バースト」を対象物に適用しているといえるかどうかも明らかでない点。

[相違点3]本件発明1は、「レーザーパルスの前記バーストが前記対象物の加工の起点に接触するスポットにおいて前記対象物に適用されるパルスエネルギーまたは流束の総量が、光音響圧縮加工を開始および伝搬するために必要な臨界エネルギーレベルよりも大きく、かつ、アプレーション加工を開始するために必要なしきい値臨界エネルギーレベルよりも低く」なるのに対して、甲1発明は、かかる構成を有するかどうか明らかでない点。

[相違点4]本件発明1は、「前記対象物に有底または貫通のオリフィスを光音響圧縮により穴あけ」し、「前記有底または貫通のオリフィスの前記光音響圧縮による穴あけが、光吸収のプロセスとそれに続く熱弾性膨張により、前記対象物内に広帯域音響波を生成して、前記有底または貫通のオリフィスの軸と共通であるビーム伝搬軸を中心に圧縮された材料の通路を形成することを含む」に対して、甲1発明は、かかる構成を有するかどうか明らかでない点。

イ.当審の判断
事案に鑑み、まず相違点4について検討する。
甲第2号証には、「ガラス等の透明基板を加工するためのレーザーフィラメント形成による材料加工方法として、適切な波長、適切なパルスのバースト列、適切なレーザーパルスエネルギーを有するレーザーパルスを透明基板に照射して、焦点体積外への熱拡散時間より短いパルス幅のレーザーパルスによりカー効果によって白色光のレーザーフィラメントを基板内に生成することで、該レーザーフィラメントの体積によって規定される内部微小構造の材料変性を形成すること。」が記載されているものの、(レーザーパルスエネルギーを有するレーザーパルスにより、)前記有底または貫通のオリフィスの軸と共通であるビーム伝搬軸を中心に圧縮された材料の通路を形成することは記載も示唆もない。
そうすると、甲1発明に甲第2号証に記載された事項を適用できたとしても、相違点4に係る本件発明1の発明特定事項とはならない。
また、甲第3ないし6号証にも、前記有底または貫通のオリフィスの軸と共通であるビーム伝搬軸を中心に圧縮された材料の通路を形成することは記載も示唆もない。
よって、相違点4に係る本件発明1の構成については、甲1発明及び甲第2ないし6号証に記載された事項から、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、他の相違点1ないし3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2ないし6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

(4)本件発明2ないし8について
本件発明2ないし8は、本件発明1を直接的または間接的に引用しており、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに構成を限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲第2ないし6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

(5)本件発明9について
ア.対比
本件発明9と甲1発明とを対比するに、本件発明9と甲1発明は、本件発明1と甲1発明と同様の対応関係を有するから、両者は、以下の点で一致する。
「透明な対象材料を加工するためのレーザーを用いた加工方法であって、
適切な波長、適切なパルス反復率、および適切なパルスエネルギーを有するレーザーパルスをレーザー源から対象物に適用するステップを含み、
前記対象物が、1つの透明な基板で構成され、
前記レーザーを用いた加工により、前記対象物の任意の深さから、前記対象物に有底または貫通の穴あけをする加工方法。」
そして、両者は、以下の各点で相違する。

[相違点5]レーザーを用いた加工方法が、本件発明9は「光音響圧縮加工方法」であるのに対して、甲1発明が「光音響圧縮加工方法」であるか否か不明である点。

[相違点6]本件発明9は、「適切な波長、適切なバーストパルス反復率、および適切なパルスエネルギーを有するレーザーパルスの少なくとも1つのバーストをレーザー源から対象物に適用するステップを含」むのに対し、甲1発明は、「適切なパルス反復率」を有するものの、「適切なバーストパルス反復率」を有するといえるかどうか明らかでなく、「バースト」を対象物に適用しているといえるかどうかも明らかでない点。

[相違点7]本件発明9は、「レーザーパルスの前記バーストが前記対象物の加工の起点に接触するスポットにおいて前記対象物に適用されるパルスエネルギーまたは流束の総量が、光音響圧縮加工を開始および伝搬するために必要な臨界エネルギーレベルよりも大きく」なるのに対して、甲1発明は、かかる構成を有するかどうか明らかでない点。

[相違点8]本件発明9は、「前記対象物に有底または貫通のオリフィスを光音響圧縮により穴あけ」し、「前記有底または貫通のオリフィスの前記光音響圧縮による穴あけが、光吸収のプロセスとそれに続く熱弾性膨張により、前記対象物内に広帯域音響波を生成して、前記有底または貫通のオリフィスの軸と共通であるビーム伝搬軸を中心に圧縮された材料の通路を形成することを含む」に対して、甲1発明は、かかる構成を有するかどうか明らかでない点。

イ.当審の判断
事案に鑑み、まず相違点8について検討する。
上記相違点4と同様の理由で、相違点8に係る本件発明9の構成については、甲1発明及び甲第2ないし6号証に記載された事項から、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、他の相違点5ないし7について検討するまでもなく、本件発明9は、甲1発明及び甲第2ないし6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

(6)本件発明10ないし15について
本件発明10ないし15は、本件発明9を直接的または間接的に引用しており、本件発明9の発明特定事項を全て含み、さらに構成を限定するものであるから、本件発明9と同様に、甲1発明及び甲第2ないし6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

(7)本件発明16について
ア.対比
本件発明16と甲1発明とを対比するに、本件発明16と甲1発明は、本件発明1と甲1発明と同様の対応関係を有するから、両者は、以下の点で一致する。
「透明な対象材料を加工するためのレーザーを用いた加工方法であって、
適切な波長、適切なパルス反復率、および適切なパルスエネルギーを有するレーザーパルスをレーザー源から対象物に適用するステップを含み、
前記レーザーを用いた加工により、透明な対象材料に有底または貫通の穴あけをする加工方法。」
そして、両者は、以下の各点で相違する。

[相違点9]レーザーを用いた加工方法が、本件発明16は「光音響圧縮加工方法」であるのに対して、甲1発明が「光音響圧縮加工方法」であるか否か不明である点。

[相違点10]本件発明9は、「適切な波長、適切なバーストパルス反復率、および適切なパルスエネルギーを有するレーザーパルスの少なくとも1つのバーストをレーザー源から対象物に適用するステップを含」むのに対し、甲1発明は、「適切なパルス反復率」を有するものの、「適切なバーストパルス反復率」を有するといえるかどうか明らかでなく、「バースト」を対象物に適用しているといえるかどうかも明らかでない点。

[相違点11]「レーザー源から」「対象物に適用するステップ」が、本件発明16は「選択された分散焦点レンズ集束装置を通じて」行われるのに対し、甲1発明は、かかる構成を有するかどうか明らかでない点。

[相違点12]本件発明16は「前記レーザー源に対する分散焦点レンズ集束装置の相対的な距離または角度を、分散焦点構成のレーザーパルスの前記バーストが主焦点ウエストと少なくとも1つの副焦点ウエストとを作成するように集束するように調整するステップとを含み、前記対象物に伝送される前記パルスエネルギーが、カー効果による自己集束を引き起こすために必要な臨界出力レベルより大きく、それによって前記対象物にフィラメントが生成され、副焦点ウエストにより入力される追加エネルギーによって光音響圧縮加工が開始されて前記対象材料内で伝搬し、総エネルギー入力のレベルが、前記対象材料のアブレーションまたは蒸発に基づく加工を開始するために必要なレベルを下回」るのに対して、甲1発明は、かかる構成を有するかどうか明らかでない点。

[相違点13]本件発明16は、「前記対象物に有底または貫通のオリフィスを光音響圧縮により穴あけ」し、「前記有底または貫通のオリフィスの前記光音響圧縮による穴あけが、光吸収のプロセスとそれに続く熱弾性膨張により、前記対象物内に広帯域音響波を生成して、前記有底または貫通のオリフィスの軸と共通であるビーム伝搬軸を中心に圧縮された材料の通路を形成することを含む」に対して、甲1発明は、かかる構成を有するかどうか明らかでない点。

イ.当審の判断
事案に鑑み、まず相違点13について検討する。
上記相違点4と同様の理由で、相違点13に係る本件発明16の構成については、甲1発明及び甲第2ないし6号証に記載された事項から、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、他の相違点9ないし12について検討するまでもなく、本件発明16は、甲1発明及び甲第2ないし6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-03-29 
出願番号 特願2014-156252(P2014-156252)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B23K)
P 1 651・ 537- Y (B23K)
P 1 651・ 536- Y (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩瀬 昌治  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 栗田 雅弘
中川 隆司
登録日 2017-11-10 
登録番号 特許第6239461号(P6239461)
権利者 ロフィン?シナール テクノロジーズ エルエルシー
発明の名称 超高速のレーザーパルスのバーストによるフィラメンテーションを用いた透明材料の非アブレーション光音響圧縮加工の方法および装置  
代理人 森下 夏樹  
代理人 石川 大輔  
代理人 山本 健策  
代理人 山本 秀策  
代理人 飯田 貴敏  

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