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審決分類 |
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16C 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する F16C |
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管理番号 | 1350872 |
審判番号 | 訂正2018-390152 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2018-10-02 |
確定日 | 2019-03-22 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第4487530号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第4487530号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件訂正審判請求に係る特許第4487530号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成15年9月30日に出願され、その請求項1及び2に係る発明について平成22年4月9日に特許権の設定登録がされたものである。 その後、平成30年10月2日に特許権者日本精工株式会社(以下、「請求人」という。)より、本件特許に対して訂正審判の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、本件訂正請求に対して、平成30年12月5日付けで訂正拒絶理由が通知され、平成30年12月26日に請求人より意見書及び手続補正書の提出がされたものである。 第2 訂正拒絶理由の概要 当審が平成30年12月5日付けで請求人に通知した訂正拒絶理由の概要は次のとおりである。 「本件訂正請求の訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第1号を目的とするものであり、かつ、同法同条第5項及び第6項の規定に適合するものであるものの、同条同法第7項の規定に適合するものではない。 したがって、本件訂正請求は拒絶すべきものである。」 第3 手続補正の適否 1.補正の内容 請求人が平成30年12月26日に提出した手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)の内容は、審判請求書の「6.請求の理由」の「(2)訂正事項」の「ア 訂正事項1」の内容を、 「特許請求の範囲の【請求項1】を削除する。」(下線が補正箇所。) と補正するとともに、当該補正に対応して、審判請求書の「6.請求の理由」の「(3)訂正の理由」の「ア 訂正事項が全ての訂正要件に適合している事実の説明」内容を補正するものである。 2.本件補正についての当審の判断 本件補正は、請求項1に関する訂正事項を当該請求項1の削除という訂正事項に変更する補正であるとともに、当該請求項1の削除という訂正事項に変更する補正に整合させるための補正であるから、審判請求書の要旨を変更するものではない。 したがって、本件補正は、特許法第131条の2第1項の規定に適合するから、本件補正を認める。 そして、このことにより当審による上記訂正拒絶理由は解消した。 第4 請求の趣旨、訂正の内容 上記「第3」のとおり、審判請求書の補正が認められることから、本件訂正審判請求の請求の趣旨は、特許第4487530号の明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものであり、その訂正の内容は、次の訂正事項1?5のとおりである(下線は訂正箇所である。)。 1.訂正事項1 特許請求の範囲の【請求項1】を削除する。 2.訂正事項2 特許請求の範囲の【請求項2】の「鋼製の転がり軸受用保持器を製造するに際して、窒化処理を施して表面に窒化物層を形成した後に、酸素の存在下350?450℃で1?5時間時間(当審注:「時間時間」は「時間」の誤記と認める。)保持する熱処理を施すことにより、前記窒化物層の最表面側に形成されている空孔を平均粒径1μm以下の酸化物粒子で埋めて緻密化させて、前記窒化物層の外側に厚さ0.5μm以上5μm以下の緻密層をさらに形成するとともに、前記空孔を埋めるように窒化物の拡散を進行させて前記窒化物層を緻密化させることを特徴とする転がり軸受用保持器の製造方法。」との記載を、 「鋼製の転がり軸受用保持器を製造するに際して、520℃、1時間の塩浴窒化処理を施して表面に窒化物層を形成した後に、酸素の存在下400℃?430℃で2時間保持する熱処理を施すことにより、前記窒化物層の最表面側に形成されている空孔を平均粒径0.5μm以上0.8μm以下の酸化物粒子で埋めて緻密化させて、前記窒化物層の外側に厚さ3μmの緻密層をさらに形成するとともに、前記空孔を埋めるように窒化物の拡散を進行させて前記窒化物層を緻密化させることを特徴とする転がり軸受用保持器の製造方法。」に訂正する。 3.訂正事項3 明細書の段落【0006】の「鋼製の転がり軸受用保持器において、窒化処理による窒化物層が表面に形成され、酸素の存在下350?450℃で1?5時間保持する熱処理による緻密層が前記窒化物層の外側にさらに形成されており、前記緻密層は、前記窒化物層の最表面側に形成されている空孔を平均粒径1μm以下の酸化物粒子が埋めて緻密化することにより形成されたものであり、その厚さが0.5μm以上5μm以下であり、前記窒化物層は、前記緻密層を形成する前記熱処理により、前記空孔を埋めるように窒化物の拡散が進行して緻密化していることを特徴とする。」との記載を、「鋼製の転がり軸受用保持器において、520℃、1時間の塩浴窒化処理による窒化物層が表面に形成され、酸素の存在下400℃?430℃で2時間保持する熱処理による緻密層が前記窒化物層の外側にさらに形成されており、前記緻密層は、前記窒化物層の最表面側に形成されている空孔を平均粒径0.5μm以上0.8μm以下の酸化物粒子が埋めて緻密化することにより形成されたものであり、その厚さが3μmであり、前記窒化物層は、前記緻密層を形成する前記熱処理により、前記空孔を埋めるように窒化物の拡散が進行して緻密化していることを特徴とする。」に訂正する。 4.訂正事項4 明細書の段落【0007】の「また、前記酸化物粒子の平均粒径が1μm以下であり、前記緻密層の厚さが0.5μm以上5μm以下である。」との記載を削除し、同段落【0007】の「鋼製の転がり軸受用保持器を製造するに際して、窒化処理を施して表面に窒化物層を形成した後に、酸素の存在下350?450℃で1?5時間保持する熱処理を施すことにより、前記窒化物層の最表面側に形成されている空孔を平均粒径1μm以下の酸化物粒子で埋めて緻密化させて、前記窒化物層の外側に厚さ0.5μm以上5μm以下の緻密層をさらに形成するとともに、前記空孔を埋めるように窒化物の拡散を進行させて前記窒化物層を緻密化させることを特徴とする。」との記載を、「鋼製の転がり軸受用保持器を製造するに際して、520℃、1時間の塩浴窒化処理を施して表面に窒化物層を形成した後に、酸素の存在下400℃?430℃で2時間保持する熱処理を施すことにより、前記窒化物層の最表面側に形成されている空孔を平均粒径0.5μm以上0.8μm以下の酸化物粒子で埋めて緻密化させて、前記窒化物層の外側に厚さ3μmの緻密層をさらに形成するとともに、前記空孔を埋めるように窒化物の拡散を進行させて前記窒化物層を緻密化させることを特徴とする。」に訂正する。 5.訂正事項5 明細書の段落【0017】【表1】中の「実施例1」、「実施例2」、「実施例3」、「実施例4」、「実施例6」、「実施例7」及び「実施例8」を「参考例1」、「参考例2」、「参考例3」、「参考例4」、「参考例6」、「参考例7」及び「参考例8」にそれぞれ訂正し、明細書の段落【0021】及び【0022】の「実施例1?8」との記載を「実施例5、参考例1?4及び6?8」に訂正する。 第5 当審の判断 1.訂正事項1について (1)訂正の目的 訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1を削除するものにすぎないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)独立特許要件 訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1を削除するものであるから、もはや独立特許要件を判断する対象が存在しない。 2.訂正事項2について (1)訂正の目的 訂正事項2は、訂正前の特許請求の範囲の請求項2の転がり軸受用保持器の製造方法において、「窒化処理」について「520℃、1時間の塩浴窒化処理」に限定し、「酸素の存在下350?450℃で1?5時間保持する熱処理」について「酸素の存在下400℃?430℃で2時間保持する熱処理」に限定し、窒化物層の最表面側に形成されている空孔を埋める「酸化物粒子」の「平均粒径」を、「1μm以下」から「0.5μm以上0.8μm以下」に限定し、「緻密層」の厚さを「0.5μm以上5μm以下」から「3μm」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 明細書の段落【0017】の【表1】には、実施例5の保持器が、窒化処理として「520℃、1時間の塩浴窒化処理」を施し、熱処理として「条件A」の処理を施すことが記載されており、明細書の段落【0016】には、表1の「条件A」が「400℃?430℃で2時間加熱」することが記載されている。そして、明細書の段落【0017】の【表1】には、実施例5の保持器が、処理後の酸化物粒子の平均粒径が「0.5?0.8μm」であり、緻密層の厚さが「3μm」であったことも記載されている。 したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。 また、訂正事項2は、請求項2に係る発明の発明特定事項である、窒化処理と熱処理の条件及び酸化物粒子の平均粒径と緻密層の厚さをそれぞれさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)独立特許要件 訂正事項2は、請求項2に係る発明の発明特定事項である、窒化処理と熱処理の条件及び酸化物粒子の平均粒径と緻密層の厚さをそれぞれさらに限定するものであるところ、請求項2に係る発明の特許について平成22年4月9日に特許権の設定がされて以降、その独立特許要件について見直すべき新たな事情は存在しない。 3.訂正事項3について (1)訂正の目的 訂正前明細書の段落【0006】には、訂正前の請求項1に対応する記載がなされていたところ、訂正事項1による請求項1の削除及び訂正事項2による訂正後の請求項2の記載内容と一致せず、不明瞭となる。 訂正事項3は、明細書の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項3は、明細書の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるものにすぎず、上記1.(2)及び2.(2)をも踏まえれば、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 4.訂正事項4について (1)訂正の目的 訂正前明細書段落【0007】には、訂正前の請求項1及び2に対応する記載がなされていたところ、訂正事項1による請求項1の削除及び訂正事項2による訂正後の請求項2の記載内容と一致せず不明瞭となる。 訂正事項4は、明細書の段落【0007】の記載を訂正後の請求項2の記載に整合させるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項4は、明細書の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるものにすぎず、上記1.(2)及び2.(2)をも踏まえれば、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 5.訂正事項5について (1)訂正の目的 訂正事項1及び2により、訂正前明細書に記載されている「実施例1」?「実施例4」及び「実施例6」?「実施例8」は、もはや実施例ではなくなる。 訂正事項5は、訂正後の特許請求の範囲に含まれなくなる「実施例1」?「実施例4」及び「実施例6」?「実施例8」を、「参考例1」?「参考例4」及び「参考例6」?「参考例8」とすることにより、訂正後の特許請求の範囲と明細書の記載の整合を図るものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項5は、明細書の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるものにすぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 なお、本件訂正審判請求の請求の趣旨は、上記「第4」のとおりであり、特許権全体に対して訂正審判を請求する場合に該当するといえる。 第6 むすび 以上のとおり、本件訂正請求に係る訂正事項1?5は、特許法第126条第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項?第7項の規定に適合するものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 転がり軸受用保持器及びその製造方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、転がり軸受に組み込まれる鋼製の保持器及びその製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 従来から、負荷が作用する転がり軸受には、強度に優れる高力黄銅製のもみ抜き保持器がよく使用されている。しかしながら、高力黄銅は自己潤滑性を有し摺動性,耐摩耗性に優れるものの高価であるので、高力黄銅製のもみ抜き保持器は材料コストが高いという問題点があった。また、もみ抜きにより加工されるため、加工費が高く、材料歩留まりも低い。よって、高力黄銅製のもみ抜き保持器は、特殊用途に限定されていた。 そのため、近年においては、保持器の設計を最適化してコストダウンや保持器強度の向上を図ることによって、SPCC材に代表される冷間圧延鋼板やSPHD材に代表される熱間圧延鋼板から製造されたプレス保持器が使用されるようになっている。 【0003】 一般にSPCC材は高力黄銅と比較して摺動性,耐摩耗性が劣るため、潤滑条件が厳しい場合には、転動体と保持器ポケットとの接触部や、保持器の案内面と軌動輪との接触部で摩耗が著しく進行して、回転精度が低下する場合があり、最悪の場合には焼付きが生じて破損に至る場合があった。このため、SPCC材製又はSPHD材製の保持器には、塩浴窒化処理やガス軟窒化処理に代表される軟窒化処理を施して、鉄と窒素の化合物からなる硬質な窒化物層を保持器表面に形成して耐摩耗性を向上させる努力がなされてきた。 【0004】 例えば、特許文献1には、鋼板製プレス保持器に軟窒化処理を施して表面に窒化物層を形成し、耐摩耗性を改善する技術が開示されている。窒化物層の耐摩耗性は窒化物層の構造に支配されるので、表面側に形成される多孔質層と、多孔質層の直下に形成される緻密層との厚さを規定することにより、多孔質層の油溜まりとしての効果を高め、保持器の耐摩耗性を改善している。 【特許文献1】特開2001-90734号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら、特許文献1に記載の保持器は、転がり軸受の使用条件が通常の条件である場合は、多孔質層の油溜まりの効果によって安定した耐摩耗性を発揮することができるが、転がり軸受が許容回転速度に近い高速で回転され、保持器と転動体との滑り速度が15m/sとなるような高PV領域で使用される場合は、強度が低い最表面側の多孔質層が脱落し、耐摩耗性が不十分となる場合があった。 そこで、本発明は前述のような従来の転がり軸受用保持器が有する問題点を解決し、高速回転,高PV領域で使用される転がり軸受にも適用可能な耐摩耗性に優れた転がり軸受用保持器及びその製造方法を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る転がり軸受用保持器は、鋼製の転がり軸受用保持器において、520℃、1時間の塩浴窒化処理による窒化物層が表面に形成され、酸素の存在下400℃?430℃で2時間保持する熱処理による緻密層が前記窒化物層の外側にさらに形成されており、前記緻密層は、前記窒化物層の最表面側に形成されている空孔を平均粒径0.5μm以上0.8μm以下の酸化物粒子が埋めて緻密化することにより形成されたものであり、その厚さが3μmであり、前記窒化物層は、前記緻密層を形成する前記熱処理により、前記空孔を埋めるように窒化物の拡散が進行して緻密化していることを特徴とする。 窒化処理により形成された窒化物層は、通常は表面側の多孔質層と母材側の緻密層とを有しているが、本発明の転がり軸受用保持器は、その最表面に(すなわち多孔質層の外側に)酸化物粒子で構成された緻密層が形成されているので、表面に形成されている被膜全体(窒化物層及び酸化物粒子で構成された緻密層)としての強度が高い。よって、本発明の転がり軸受用保持器は、耐摩耗性が優れている。 【0007】 酸化物粒子で構成された緻密層は、酸化物粒子が多孔質層の空孔を埋めるようにして形成される。酸化物粒子の粒径が大きすぎると、多孔質層の空孔が酸化物粒子で完全に充填されず、酸化物粒子で構成された緻密層の緻密さが不十分となる場合があるので、酸化物粒子の平均粒径は1μm以下が好ましく、800nm以下がより好ましい。 また、緻密層の厚さが0.5μm未満であると、緻密層が薄いため、表面に形成されている被膜全体(窒化物層及び酸化物粒子で構成された緻密層)としての強度が低くなるおそれがある。一方、緻密層の厚さが5μm超過であると、酸化物粒子で構成された緻密層は窒化物層よりも硬さが低いので、耐摩耗性が劣化するおそれがある。 さらに、本発明に係る転がり軸受用保持器の製造方法は、鋼製の転がり軸受用保持器を製造するに際して、520℃、1時間の塩浴窒化処理を施して表面に窒化物層を形成した後に、酸素の存在下400℃?430℃で2時間保持する熱処理を施すことにより、前記窒化物層の最表面側に形成されている空孔を平均粒径0.5μm以上0.8μm以下の酸化物粒子で埋めて緻密化させて、前記窒化物層の外側に厚さ3μmの緻密層をさらに形成するとともに、前記空孔を埋めるように窒化物の拡散を進行させて前記窒化物層を緻密化させることを特徴とする。 【発明の効果】 【0008】 本発明の転がり軸受用保持器は、耐摩耗性が優れている。また、本発明の転がり軸受用保持器の製造方法は、耐摩耗性に優れる転がり軸受用保持器を製造することができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0009】 本発明に係る転がり軸受用保持器及びその製造方法の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。 SPCC材やSPHD材に代表される低炭素鋼板に軟窒化処理等の窒化処理を施すと、鋼表面で窒素と鉄とが反応し、窒素原子が鋼中に拡散して行き、最表面では窒素濃度に応じてFe_(2)N,Fe_(3)N,Fe_(4)N等の鉄と窒素との化合物からなる硬質な窒化物層が形成される。窒化物層の硬さは一般的にはHv400以上で、母材に比較して硬度が増している。また、窒化物層が形成された鋼製の転がり軸受用保持器においては、転動体と保持器との間の金属接触や、摺動する案内面と保持器との間の金属接触が窒化物層により防止されるので、耐摩耗性,耐焼付性が改善される。 【0010】 図1に、鋼の表面に形成された窒化物層の模式的な断面図を示す。冷間圧延鋼板,熱間圧延鋼板から製造された転がり軸受用保持器に軟窒化処理を施すと、鋼である母材1の上に拡散層2が形成され、さらにその上に窒化物層3が形成される。そして、この窒化物層3は、表面側の多孔質層4と母材側の緻密層5とで構成されている(二層構造)。 多孔質層4はポーラスであり多数の空孔4aを有しているので、前述したように油溜まりとして機能する。よって、このような保持器は、転がり軸受に組み込んで潤滑油やグリースの潤滑下で使用すると、摩擦摩耗特性が優れている。しかしながら、転がり軸受が高速回転,高PV領域で使用される場合には、多孔質層の強度が低いために転動体や案内面との接触により脱落してしまい、油溜まりの効果があっても耐摩耗性が不十分となってしまう。したがって、転がり軸受用保持器に優れた耐摩耗性を付与するためには、窒化物層の最表面を緻密化し、被膜の強度を向上させることが有効である。 【0011】 多孔質層が少なく緻密な窒化物層を形成するためには、被膜の形成速度を遅くする方法が有効であり、具体的には、480℃以下の低温での軟窒化処理や、イオン窒化法等のような特殊な窒化方法があげられる。しかしながら、これらの方法では、十分な厚さの窒化物層を形成するために非常に長い時間を要する。また、これらの方法を用いても、窒化物層の厚さが増すと、最表面には多孔質層が形成される傾向がある。さらに、イオン窒化法は特殊な設備を必要とするので、処理コストが大きくなり量産には適していない。 【0012】 このように、一般的な軟窒化処理のみを施した場合には、窒化物層の最表面に形成される多孔質層を無くして、窒化物層の全体を緻密層とすることは困難である。そこで、本実施形態においては、前述のような特殊な窒化方法を用いることなく、480?570℃程度の比較的高温条件での窒化処理により窒化物層を形成させた後に、緻密化処理を施すことにより、最表面に形成された多孔質層を緻密化させた。この緻密化処理としては、例えば、酸素の存在下(例えば空気中)において軟窒化処理温度よりも低温の350?450℃で1?5時間保持する熱処理があげられる。 【0013】 図2に、熱処理により緻密化した後の窒化物層の模式的な断面図を示す。上記のような熱処理により、窒化物層3の表面から内部に向かって酸化反応が進行し、窒化物層3の最表面に緻密な酸化物層6が形成される。このときに形成される酸化物は、非常に微細な粒子であり、酸化物粒子が多孔質層4の空孔4aを埋めて多孔質層4を緻密化することにより酸化物層6(本発明の構成要件である「酸化物粒子で構成された緻密層」である)が形成される。このようにして、従来の軟窒化処理のみでは形成することが困難であった緻密層を、窒化物層の最表面に形成することができる。 【0014】 さらに、この熱処理においては、加熱により、多孔質層4の空孔4aを埋めるように窒化物の拡散が進行して、多孔質層4自体が緻密化されるという現象も起きる。すなわち、熱処理によって、酸化物粒子が多孔質層4の空孔4aを埋めて緻密な酸化物層6が形成されるとともに、窒化物の拡散による窒化物層3の緻密化が生じて、窒化物層3の最表面に緻密層が形成されるのである。その結果、摩耗の原因となる多孔質層の脱落が抑制されることとなり、保持器の耐摩耗性が著しく改善される。 【0015】 また、前述の熱処理は、酸素の存在下で加熱保持するだけでよいので、特別な設備を必要とせず、安価に処理が可能である。 なお、軟窒化処理の種類は特に限定されるものではなく、例としては、一般的な軟窒化処理であるガス軟窒化処理や塩浴窒化処理があげられる。また、熱処理は、軟窒化処理がどのような種類のものであっても同様の効果があり、窒化物層の最表面に緻密層を形成することができる。 【0016】 〔実施例〕 以下に、さらに具体的な実施例を示して、本発明を説明する。 冷間圧延鋼板SPCC材からプレス成形にて自動調心ころ軸受(呼び番号22211)用のプレス保持器を作製し、その保持器に軟窒化処理及び熱処理を表1及び表2に示すように種々組み合わせて施した。軟窒化処理を施した後に行う熱処理は、空気中で加熱するというものである。その条件は、表1及び表2中の条件Aは400?430℃で2時間加熱した後に放冷するというものであり、条件Bは400?430℃で0.5時間加熱した後に放冷するというものであり、条件Cは550℃で1時間加熱した後に放冷するというものである。なお、表1及び表2に記載のような条件で各種窒化処理を施した後の冷却は、ガス軟窒化処理の場合は炉冷であり、その他の窒化処理の場合は油冷である。 【0017】 【表1】 ![]() 【0018】 【表2】 ![]() 【0019】 このような条件で軟窒化処理を施すことにより、保持器の表面に、多孔質層と緻密層との二層構造を有する窒化物層が形成される。そして、さらに熱処理を施すことにより、窒化物層の最表面部分が酸化され、酸化物粒子からなる緻密な緻密層が形成される。 酸化物粒子からなる緻密層の厚さは、以下のようにして測定した。熱処理後の保持器を小さく切断し、樹脂に埋め込んで切断面を研磨した。研磨した切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、顕微鏡写真を解析することにより、酸化物粒子からなる緻密層の厚さを測定した。また、酸化物粒子の平均粒径は、熱処理後の保持器の表面をSEMで観察し、顕微鏡写真を解析することにより測定した。 【0020】 酸化物粒子の平均粒径と、酸化物粒子からなる緻密層の厚さとを、表1及び表2に示す。また、保持器の切断面(切断部位は保持器の柱である)の拡大図(SEMによる顕微鏡写真)の例を、図3,4に示す。図3は実施例5の保持器であり、図4は比較例5の保持器である。軟窒化処理のみである比較例5の保持器は、最表面に多孔質層が形成されているのに対し、軟窒化処理及び熱処理が施された実施例5の保持器は、多孔質層の外側に酸化物粒子で構成された緻密層が形成されていることが分かる。 【0021】 次に、実施例5、参考例1?4及び6?8及び比較例1?10の保持器の耐摩耗性を評価した。すなわち、保持器を自動調心ころ軸受(呼び番号22211)に組み込んで高速回転試験を行い、回転試験後の保持器の摩耗状況を質量変化によって評価した。回転試験の条件は、以下の通りである。 ・荷重 :15415N ・回転速度:6750min^(-1) ・潤滑条件:グリース潤滑 ・試験時間:24時間 【0022】 保持器の摩耗量を表1及び表2に併せて示す。なお、保持器の摩耗量は、比較例1の保持器の摩耗量を1とした場合の相対値で示してある。 実施例5、参考例1?4及び6?8の保持器は、平均粒径0.5?0.8μmの酸化物粒子で構成された厚さ0.5μm以上の緻密層が形成されているため、酸化物粒子で構成された緻密層が形成されていない比較例1?8の保持器と比較して、摩耗量が少なく耐摩耗性が大幅に優れていた。また、軟窒化処理の種類に関係なく、熱処理による耐摩耗性の向上効果があることも分かる。 【0023】 比較例9の保持器は、熱処理の時間が短く、酸化物粒子で構成された緻密層の厚さが0.5μm未満であるため、耐摩耗性が不十分であった。また、比較例10の保持器は、熱処理の温度が高すぎるため、酸化物粒子が粗大となった。そのため、緻密層が構成されにくくなり、酸化物粒子で構成された緻密層がポーラスとなって、耐摩耗性が不十分となった。 なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、保持器を構成する鋼の種類は特に限定されるものではなく、冷間圧延鋼板や熱間圧延鋼板以外の材料を用いて保持器を製造してもよい。また、保持器の製造法も特に限定されるものではなく、プレス保持器に限らず、もみ抜き保持器でもよい。 【0024】 さらに、本実施形態においては、自動調心ころ軸受用の保持器を例示して説明したが、転がり軸受の種類は自動調心ころ軸受に限定されるものではなく、本発明は様々な種類の転がり軸受に対して適用することができる。例えば、深溝玉軸受,アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。 【産業上の利用可能性】 【0025】 本発明の転がり軸受用保持器は、一般産業機械,工作機械,振動篩,鉄鋼用機械等に使用される転がり軸受に好適である。 【図面の簡単な説明】 【0026】 【図1】窒化処理後の保持器の表面の構造を説明する模式的断面図である。 【図2】熱処理後の保持器の表面の構造を説明する模式的断面図である。 【図3】実施例5の保持器の切断面の拡大図である。 【図4】比較例5の保持器の切断面の拡大図である。 【符号の説明】 【0027】 3 窒化物層 4 多孔質層 6 酸化物層(酸化物粒子で構成された緻密層) (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】(削除) 【請求項2】 鋼製の転がり軸受用保持器を製造するに際して、520℃、1時間の塩浴窒化処理を施して表面に窒化物層を形成した後に、酸素の存在下400℃?430℃で2時間保持する熱処理を施すことにより、前記窒化物層の最表面側に形成されている空孔を平均粒径0.5μm以上0.8μm以下の酸化物粒子で埋めて緻密化させて、前記窒化物層の外側に厚さ3μmの緻密層をさらに形成するとともに、前記空孔を埋めるように窒化物の拡散を進行させて前記窒化物層を緻密化させることを特徴とする転がり軸受用保持器の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2019-02-26 |
結審通知日 | 2019-02-28 |
審決日 | 2019-03-12 |
出願番号 | 特願2003-341353(P2003-341353) |
審決分類 |
P
1
41・
853-
Y
(F16C)
P 1 41・ 851- Y (F16C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 山崎 勝司 |
特許庁審判長 |
大町 真義 |
特許庁審判官 |
尾崎 和寛 小関 峰夫 |
登録日 | 2010-04-09 |
登録番号 | 特許第4487530号(P4487530) |
発明の名称 | 転がり軸受用保持器及びその製造方法 |
代理人 | 松山 美奈子 |
代理人 | 松山 美奈子 |