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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23K
管理番号 1350909
審判番号 不服2018-309  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-11 
確定日 2019-04-19 
事件の表示 特願2013-166476「補修方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年2月19日出願公開、特開2015-33717〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年8月9日に出願された特願2013-166476号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成29年 4月12日付け:拒絶理由通知書
平成29年 6月13日 :意見書及び手続補正書の提出
平成29年11月 1日付け:拒絶査定
平成30年 1月11日 :審判請求書と同時に手続補正書の提出
平成30年11月27日付け:当審の拒絶理由通知書
平成31年 1月25日 :意見書及び手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)の提出

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「上側に開口を有するチャンバー内に配置され、不活性ガス雰囲気に置かれた母材の全体を、前記チャンバー内でその融点より低い所定の温度範囲に加熱するステップと、
前記母材の材料から形成される粉末を、前記不活性ガスと共に前記チャンバー外から前記開口を介して補修領域に吹き付けるステップと、
前記母材の前記補修領域が前記所定の温度範囲に加熱されている状態で、前記粉末が吹きつけられている間に、前記チャンバー外から前記開口を介して前記補修領域にレーザーを照射する第1回照射を行って第1照射領域を前記融点より高い温度にして前記第1照射領域の前記粉末を熔融させて1つのビードを形成するステップと、
前記レーザーの照射領域を前記補修領域に沿って前記第1照射領域から第2照射領域に移動させるステップと、
前記第1回照射から所定の時間後、前記母材の前記補修領域が前記所定の温度範囲に加熱されている状態で、前記粉末が吹きつけられている間に、前記第2照射領域にレーザーを照射する第2回照射を行って第2照射領域を前記融点より高い温度にして前記第2照射領域の前記粉末を熔融させて次のビードを形成するステップと
を具備する
補修方法。」

第3 拒絶の理由
平成30年11月27日付けの当審が通知した拒絶の理由は、概略、次のとおりのものである。
本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明並びに引用文献2に記載された事項及び引用文献3に示す周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特表平9-506039号公報
引用文献2:米国特許出願公開第2013/0143068号明細書
引用文献3:特開平1-268854号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は理解の便のため当審にて付与)。
ア.第5頁第6?12行
「ジェットエンジン部品類の開発につれ、該エンジンにおけるこれら部品類に対する高温度要求により、益々高くなる高温度に耐える能力の改善が絶えず要求されている。現在の高圧タービンブレードまたは羽根は、極めて不利な高温状態(例えば、2000°F、1093°C以上)にさらされる。これらのジェットエンジン部品類は、コンポーネンツ製造中、または、エンジン動作点検後で溶接処理を必要とすることがあり、摩耗及びクラッキングの結果として補修を必要とする。」

イ.第6頁第23行?第7頁第7行
「この発明は、超合金製品、特に、ブレード、羽根およびローターを含むタービンエンジンの部品類を溶接するプロセスを提供する。該超合金は、現在の技術水準のプロセスでは溶接が困難であるニッケルおよび/またはコバルトをベースとする超合金である。これらの超合金は、ガンマープライム・フェーズを有し、ガンマープライム・ニッケルをベースとする析出硬化合金の方向性凝固および単結晶合金ならびに合金のMCrAlYファミリー(ここでMは、少なくともNiCoCrAlYおよびNiCrAlY合金のようなNiまたはCoからなるグループから選ばれた少なくとも一つの金属を示す)を含む。概略的には、ガンマープライム析出-強化合金は、少なくとも約5%のコンバインされた量でチタンとアルミニウムとを含む。適切な超合金は、R’80、DSR’80h、R’108、R’125、DSR’142、R’N4、R’N5 Mar-M-247DS、In 792Hf、およびCMX-2/3を含む。次の表Iは、これらの超合金のいくつかの公称組成を確認するものである。」

ウ.第8頁最終行?第9頁第6行
「まず図1を参照すると、符号10により、まとめてアイデンティファイされた発明のシステムは、粉末供給部12をもつレーザー11、インダクション加熱コイル14をもつ誘導ヒーター13および製品20を据付けるモーションシステム15を備える。製品は、通例のように、クランプを用いて、極めて精確にステージ16に装着されて据え付けられる。高温計17と、不活性ガス供給ライン19をもつ不活性ガスシュラウド(シールド)18およびガスディフューザー20もまた図示されている。」

エ.第9頁第7?24行
「図2に示すように、製品20(例えば、羽根またはブレード)がインダクション加熱コイル14により予備加熱される。この段階においては、レーザー11と粉末フィーダー12は、動作していない。この予熱ステージの間、超合金の全溶接域と溶接域に隣位した領域は、インダクション加熱コイル14で1400°Fから2100°F、好ましくは、1725°Fから1975°Fの範囲にある延ばしやすくなる温度に加熱される。製品の溶接域を加熱する延ばしやすくなる温度は、エージングまたは析出硬化温度より上であるが、特定の超合金サブストレートの初期溶融温度以下である。このプロセスにとってクリティカルな点は、溶接/クラッディングの前、間、後において、熱平衡を維持し、溶接される、または、近接のベース金属の温度勾配をきつくならないようにして、内部応力と、その後のクラッキングを減らすことである。温度勾配を和らげることで、加熱されるゾーンへの溶接熱のインパクトを弱め、即ち、該プロセスは、熱の影響を受けるゾーンを融接ラインから離すように”再位置”する。全溶接域と隣接領域は、析出硬化温度より高く予備加熱されることで、温度分布が均一になり、加熱作用を受け難いゾーンで問題になる収縮と内部応力を排除できる。全溶接域と隣接領域は、内部応力とのエージング反応の結果として、温度収縮するが、この内部応力は、溶接スポットに集中するのみならず、よりずっと広い領域にわたり分布する、エージング反応から生ずる。」

オ.第9頁第25行?第10頁第4行
「全溶接域と溶接部に近接した領域は、誘導加熱により、延ばしやすい温度まで加熱される。加熱される溶接域に隣接の領域は、少なくとも、熱作用の影響を受けるゾーンを包囲することができる充分な広さ、好ましくは、それよりも広くなっている。熱に影響をされるゾーンは、溶融しないが、その機械的特性または微細構造が溶接の熱で変えられてしまっているベース金属の部分として定義される(1983年ASM、メタルズ・ハンドブック9版6巻参照)。概略的には、この加熱される近接領域は、溶接部から少なくとも0.25インチ、好ましくは、0.5?1インチである。」

カ.第10頁第5?16行
「製品が所望の温度に予熱されると、レーザー11と粉末フィーダー12は、図3に示すように、溶接に従事する。レーザー11からの放射21がサブストレートの小さなモルテンプールを形成し、粉末フィーダー12からの粉末が該モルテンプールに分散され、レーザービーム21により該部分に溶接(クラッド)される。凝固プロセスは、レーザービームとインダクションコイルにより発される加熱エネルギーの放射およびレーザービームと製品との相対運動によって精確にコントロールされて、温度および発生するストレインと応力をコントロールし、凝固プロセスの間と後、クラックがない溶接部を形成する。操作中、製品溶接域は、供給ライン19とガスディフューザー20によって、シュラウド18へ供給される不活性ガス(例えば、アルゴンまたはヘリウム)で囲まれ、加熱および溶接プロセスにおける酸化と、ベースの超合金およびフィラー金属合金粉末の酸化物汚染をなくす。」

キ.第10頁第17?28行
「溶接域の温度は、レーザービームから熱が加えられても、プロセスを通じて、誘導ヒーター13をコントロールするフィードバック電圧ループ(インフェロメーター)をもつ光学高温計を用いてコントロールされる。予熱される部分の温度は、1400°Fから2100°Fの範囲であり、局部的にレーザー加熱されても、この範囲に留まる。さらに、インフェロメーター(フィイドバックループ)は、溶接に先立ち、ランプアップ(加熱)レートをコントロールし、溶接完了すれば、ランプダウン(冷却)レートをコントロールする。この予熱プロセスによって、溶接からのストレスとクラックを減らし、ベースの超合金製品を、超合金、即ち、ガンマープライム析出強化超合金またはMCrAlYからなる粉末合金供給ものでレーザー溶接(クラッド)することができるようになる。有利な点としては、超合金製品の合金と実質的に同じものである粉末合金を使用することができることである。」

ク.第11頁第15行?第12頁第9行
「該コントロールシステムは、種々の複雑な形状のものを溶接可能にする溶接プロセスの効率的で、経済的操作の鍵である。使用されるヴィジョンシステムは、溶接される特定の製品の溶接域に対し分けられているレーザー溶接システムのための精確なパスを設定する。これは、製品についてのプログラムを用いるコンピューター数値制御でなされるが、精確なパスは,ヴィジョンシステムによって設定される。製品が固定位置に確保されると、溶接(クラッディング)の間必要なビルドアップを確かめるため、高さがチェックされる。ついで溶接域のコントラストを設定した後、ヴィジョンシステムのカメラによって溶接域をビュウし(即ち、撮影し)、数値的にコンバートされる複数のポイントをとってその輪郭をトレースして、その輪郭をデジタル化し、製品の特定の溶接域をレーザーが辿る精確な輪郭パスを付与する。このパスは、精確に設定されているから溶接に無駄なものが生ずることがなく、余分な溶接物を除去するために後加工が必要なマシニング(例えば、ミリング、グラインディング)を減らす。特に有利な引き続いてのマシニングも同じ装置を利用し、レーザー溶接のためにヴィジョンシステムによって最初に設定したように、特定製品のためのパラメーターをコントロールして、精確に制御できる。これによって、プロセスの効率を増進させる引き続いての計測と制御についての条件が緩和される。
パスがコントロールシステムによって設定されるモーションシステムは、少なくとも3軸、好ましくは、4または5軸のモーションシステムであって、種々複雑な溶接域面に必要なこまかな動きができるようになっている。3軸方向の動きは、X,Y,Z方向にそったものであり、もっと複雑なフラットな面に対しての4軸方向の動きは、Y,Y,Z方向と回転とを組み合わせたもの(図1参照)であり、輪郭がつけられた面に対する5軸の動きは、X,Y,Z方向に回転と傾斜方向とが組み合わせられたものである。」

ケ.図3
図3からは、不活性ガスシュラウド(シールド)18が上側に開口を有し、粉末供給部12を、不活性ガスシュラウド(シールド)18外から開口を介して補修領域に供給することがみてとれる。


(2)引用発明
上記(1)からみて、引用文献1には、以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「上側に開口を有する不活性ガスシュラウド(シールド)18内に配置され、不活性ガスで囲まれた製品20を、不活性ガスシュラウド(シールド)18内で初期溶融温度以下で加熱するステップと、製品の合金と実質的に同じものである粉末合金を不活性ガスシュラウド(シールド)18外から開口を介して補修領域に供給するステップと、製品が所望の温度に予熱されると、レーザー11からの放射21がモルテンプールを形成し、粉末フィーダー12からの粉末が該モルテンプールに分散され、レーザービーム21により溶接(クラッド)されるステップと、製品20を据付けるモーションシステム15を備える補修方法。」

2 引用文献2
(1)引用文献2には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は理解の便のため当審にて付与)。なお、括弧内に当審での翻訳文を併記する。
ア.段落[0001]
「The present invention relates to a method for depositing layers of material on a workpiece made of TiAl, in particular for purposes of surface enhancement, hardfacing, repair, or for manufacturing workpieces from TiAl, and to a corresponding apparatus, as well as to a workpiece manufactured using such a method.」(本発明は、TiAlからなるワークピースの上に材料の層を堆積させる方法、とりわけ、表面強化、表面硬化、補修、またはTiAlからなるワークピースを製造する目的のための方法、及びこれに対応する装置、並びに、このような方法を用いて製造されたワークピースに関する。)」

イ.段落[0027]
「An apparatus for depositing layers of material on a workpiece made of a material which contains or consists of a titanium aluminide, where the deposition is accomplished by build-up welding, in particular laser build-up welding, plasma build-up welding, micro-plasma build-up welding, TIG build-up welding or micro-TIG build-up welding, includes a holding device for holding a workpiece, a feeding device for feeding an additive powder including a titanium aluminide, a melting device for melting the additive, which melting device may be adapted to produce a laser beam or a plasma jet and to direct the laser beam or plasma jet toward the workpiece, the apparatus further including a preheating device for preheating the workpiece and being configured and adapted to perform the above-described method, said preheating device in particular being configured and adapted for localized inductive heating of a surface of the workpiece.」(チタンアルミナイドを含むか、チタンアルミナイドから構成される材料からなるワークピースに、材料の層を堆積させるための装置であって、堆積は肉盛溶接、特に、レーザー肉盛溶接、プラズマ肉盛溶接、マイクロプラズマ肉盛溶接、TIG肉盛溶接またはマイクロTIG肉盛溶接により達成され、上記装置は、ワークピースを保持する装置、チタンアルミナイドを含む添加剤粉末を供給する装置、添加剤を溶融するための溶融装置を含み、溶融装置は、レーザービームまたはプラズマジェットを生成し、レーザービームまたはプラズマジェットをワークピースに向けるように構成し、上記装置は更にワークピースを予熱し、上述の方法を達成するように構成及び適合されている予熱装置をさらに含む装置であって、前記予熱装置は、特にワークピースの表面の局所的誘導加熱のために構成および適合されている。)

ウ.段落[0037]
「A mixture of TiAl powder with TiC particles is used as the additive. The TiAl powder has an average grain size of 25μm to 75μm, and the TiC particles have a size from 3 μm to 45μm. The content of TiC particles in the TiAl/TiC mixture is between 15% and 90%. 」(TiAlとTiC粉末の混合物は添加剤として使用される。TiAl粉末は 25μmから75μmの平均粒子サイズを有しており、TiC粒子は3μmから45μmサイズを有する。TiAl/TiC混合物中のTiC粒子の含有量は、15%と90%との間である。)

エ.段落[0038]
「The powder mixture is transported by an inert material, preferably a noble gas such as argon, deposited on the preheated region of shoulder 16 through a nozzle coaxially or laterally with respect to a laser beam, and is melted and fusion-bonded by the laser beam. ・・・」(粉末混合物は、不活性物質(好ましくは、アルゴンのような希ガス)によって、レーザビームに対して同軸的に又は横方向のノズルを通って、搬送され、肩16の予熱された領域上に堆積され、レーザ光により溶融されて融着される。・・・)

(2)上記(1)からみて、引用文献2には以下の技術的事項が記載されていると認められる。
「ワークピースを予熱温度に加熱する予熱装置と、粉末を不活性物質(好ましくは、アルゴンのような希ガス)と共に補修領域に吹き付けるノズルを含む、粉末を供給する装置と、ワークピースの補修領域に搬送され堆積される粉末に向けてレーザ光を照射することにより、粉末を溶融し、融着させる溶融装置とを具備する補修装置。」(以下、「引用文献2記載の技術的事項」という。)

第5 対比
1 本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
(1)引用発明の「上側に開口を有する不活性ガスシュラウド(シールド)18」、「不活性ガスで囲まれた製品20」、「不活性ガスシュラウド(シールド)18内で初期溶融温度以下で加熱する」構成、「製品の合金と実質的に同じものである粉末合金」は、本願発明の「上側に開口を有するチャンバー」、「不活性ガス雰囲気に置かれた母材」、「チャンバー内でその融点より低い所定の温度範囲に加熱する」構成、「母材の材料から形成される粉末」に相当する。

(2)引用発明の「粉末合金を不活性ガスシュラウド(シールド)18外から開口を介して補修領域に供給する」構成は、本願発明の「粉末を、前記不活性ガスと共に前記チャンバー外から前記開口を介して補修領域に吹き付ける」構成と対比すると、「粉末を、前記チャンバー外から前記開口を介して補修領域に供給する」構成という点で一致する。

(3)引用発明の「製品が所望の温度に予熱されると、レーザー11からの放射21がモルテンプールを形成し、粉末フィーダー12からの粉末が該モルテンプールに分散され、レーザービーム21により溶接(クラッド)される」構成は、本願発明の「前記母材の前記補修領域が前記所定の温度範囲に加熱されている状態で、前記粉末が吹きつけられている間に、前記チャンバー外から前記開口を介して前記補修領域にレーザーを照射する第1回照射を行って第1照射領域を前記融点より高い温度にして前記第1照射領域の前記粉末を熔融させて1つのビードを形成する」構成と対比すると、「母材の前記補修領域が前記所定の温度範囲に加熱されている状態で、前記粉末が供給されている間に、前記チャンバー外から前記開口を介して前記補修領域にレーザーを照射して照射領域を前記融点より高い温度にして前記照射領域の前記粉末を熔融させて1つのビードを形成する」構成という点で一致する。

(4)引用発明の「製品20を据付けるモーションシステム15」は、本願発明の「レーザーの照射領域を前記補修領域に沿って移動させる」構成に相当する。

2 したがって、本願発明と引用発明とは、「上側に開口を有するチャンバー内に配置され、不活性ガス雰囲気に置かれた母材を、前記チャンバー内でその融点より低い所定の温度範囲に加熱するステップと、前記母材の材料から形成される粉末を、前記チャンバー外から前記開口を介して補修領域に供給するステップと、前記母材の前記補修領域が前記所定の温度範囲に加熱されている状態で、前記粉末が供給されている間に、前記チャンバー外から前記開口を介して前記補修領域にレーザーを照射して照射領域を前記融点より高い温度にして前記照射領域の前記粉末を熔融させて1つのビードを形成するステップと、前記レーザーの照射領域を前記補修領域に沿って移動させるステップとを具備する補修方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(1)相違点1
本願発明では、母材の全体を加熱するのに対し、引用発明では、製品20の全体を加熱するか明らかでない点で相違する。

(2)相違点2
本願発明では、粉末が不活性ガスと共に吹き付けられるのに対し、引用発明では、粉末は供給されているものの、不活性ガスと共に吹き付けられるか明らかでない点で相違する。

(3)相違点3
本願発明では、母材の補修領域が所定の温度範囲に加熱されている状態で、粉末が吹きつけられている間に、チャンバー外から開口を介して前記補修領域にレーザーを照射する第1回照射を行って第1照射領域を融点より高い温度にして前記第1照射領域の前記粉末を熔融させて1つのビードを形成するステップと、前記レーザーの照射領域を前記補修領域に沿って前記第1照射領域から第2照射領域に移動させるステップと、前記第1回照射から所定の時間後、前記母材の前記補修領域が前記所定の温度範囲に加熱されている状態で、前記粉末が吹きつけられている間に、前記第2照射領域にレーザーを照射する第2回照射を行って第2照射領域を前記融点より高い温度にして前記第2照射領域の前記粉末を熔融させて次のビードを形成するステップとを具備するのに対して、引用発明では、母材の補修領域が所定の温度範囲に加熱されている状態で、粉末が供給されている間に、チャンバー外から開口を介して前記補修領域にレーザーを照射して前記照射領域を融点より高い温度にして前記照射領域の前記粉末を熔融させてビードを形成するステップを備えているものの、当該ステップが複数回に分けられているのか明らかでないとともに、その分けられた間にレーザーの照射領域を移動させているのか明らかでない点で相違する。

第6 判断
以下、相違点について検討する。
1 相違点1について
チャンバー内で母材の全体を加熱することは従来周知の技術である(例えば、引用文献3の第2頁右上欄第2?9行及び第1図等)。また、引用文献1には、全溶接域と溶接部に近接した領域を誘導加熱することが記載され(上記第4の1(1)オ参照)、その領域は、「少なくとも、熱作用の影響を受けるゾーンを包囲することができる充分な広さ、好ましくは、それよりも広くなっている」というように、できるだけ広い領域を加熱することが示唆されているから、引用発明の母材となる製品20の全体を加熱するようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

2 相違点2について
レーザー溶接分野において、溶接部分に粉末を供給する際に、ノズルを通じて不活性ガスと共に粉末を供給することは、引用文献2記載の技術的事項に示されたように周知である。
引用発明はレーザー溶接に関するものであり、溶接部分に、より正確に粉末を供給しようとすれば、ノズルを通してガスを吹き付けて粉末を供給しようと当業者は当然考えることから、引用発明において粉末を供給する構成について、上記周知技術を勘案して、粉末を不活性ガスと共に吹き付けられるように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

3 相違点3について
引用発明は、「溶接(クラッド)されるステップ」を有しており、「クラッド」(Clad)は表面を覆う意味であるから、引用発明は、補修領域の表面を合金で覆う補修方法であるといえる。
引用発明は、表面を覆う層を1層だけとするのか、複数層を積層するのか明らかではないが、溶接層を複数設けることは、いわゆる肉盛り溶接やクラッディングとして知られていることは技術常識である(例えば、特開2008-264841号公報の段落【0026】?【0036】等、特開2012-620号公報の段落【0028】?【0042】等、特開平4-210892号公報の第2頁左上欄第7行?右上欄第19行等、特開平4-89189号公報の第2頁右下欄第13行?第3頁右下欄第10行、第1図等参照)。
そして、補修領域を1層だけで補修するか、複数層で積層して補修するかは、補修の対象となる製品の損耗の程度に応じて決定すればよい程度の事項であるし、複数層で積層するのであれば、引用発明の照射を複数回に分け、その分けられた間にレーザーの照射領域を移動させることは、上記の技術常識から見て、通常の態様であるといえる。
また、本願発明の第2回照射は、「第1回照射から所定の時間後」であり、「所定の時間」には、上記の通常の態様におけるレーザーの照射領域を移動させるための時間が含まれているといえる。
さらに、引用文献1には、予熱の温度を1400°Fから2100°Fに留めるように制御することの示唆があるから(上記第4の1(1)キ参照)、上記の通常の態様におけるレーザーの照射領域を移動させるための時間の後における予熱の温度を、上記の1400°Fから2100°Fの所定の温度範囲とすることは、当業者が当然に想到できる事項である。

以上より、本願発明は、引用発明並びに引用文献2記載の技術的事項及び上記従来周知の技術に基づいて、容易に発明をすることができたものである。

4 請求人の主張について
(1)請求人は、平成31年1月25日に提出された意見書において、「ここで、第2回照射は、第1回照射から所定の時間後に行われています。これにより、粉末が不活性ガスと共に母材に照射された結果、母材の温度が所定の温度範囲より低い温度になったとしても、その所定の時間の間に所定の温度範囲に戻ることが想定され、安定した溶接を行うことが出来ます。
例えば、実際の溶接を行う前に、実験的に温度の回復具合を測定して、回復に必要な時間を設定することにより、確実に安定して溶接を行うことが出来るでしょう。」「本願発明では、溶接におけるビードの形成回数を複数回とし、2回の間で常に温度の回復を図りながら、確実に溶接が行われることが出来ます。」と主張しているが、上記3のとおり、第2回照射が「第1回照射から所定の時間後」である点について、所定の時間が何のための時間であるか本願発明では特定されておらず、当該主張は特許請求の範囲の記載に基づくものとは認められない。

(2)また、請求人は、「引用文献1(特表平9-506039号公報)では、12頁10?17行では、『レーザービームとパウダーフィーダーのモーションは、概ね毎分10?30インチのオーダーであり、これにより、サブストレートの溶融と、その面における溶接が所望のレートで行われる。』と記載されています。また、12頁21行?13頁11行では、『毎分18インチで動く4軸モーションシステムが使用され』と記載されています。
従って、レーザーのビーム径から考えて、かなりの速度でビーム照射領域は連続的に移動していることになります。あるビーム照射領域でレーザーを照射した後、次のレーザーの照射まで待つことの記載がありません。」と主張しているが、引用発明のレーザービームが、毎分10?30インチ等で間断なく連続的に移動するという必然性は無く、上記3に示したように、肉盛り溶接の技術常識に鑑みれば、引用発明のレーザービームによる照射が複数回に分けて行われることがむしろ通常の態様である。

(3)さらに、請求人は、「引用文献1の10頁17?19行には、『溶接域の温度は、レーザービームから熱が加えられても、プロセスを通じて、誘導ヒーター13をコントロールするフィードバック電圧ループ(インフェロメーター)をもつ光学高温計を用いてコントロールされる。』と記載されている。光学高温計17は、面積効果を持つといわれており、溶接域のどの部分の温度を測定しているか記載がない。例えば、溶接域と近接域を含む領域の温度を測定するのであれば、検出画面の平均温度が出力されると思われます。その場合、局所的に温度が上がっていても温度の低い部分が同時に計測されれば、平均値として、設定温度範囲に入っている可能性があります。一方、溶接域のみを計測しているとすると、近接域の温度は計測していないことになり、溶接域と近接域の間に想定外の温度差が発生している可能性があります。
引用文献1の10頁19?21行には、『予熱される部分の温度は、1400°Fから2100°Fの範囲であり、局部的にレーザー加熱されても、この範囲に留まる。』と記載され、9頁9?14行では、『この予熱ステージの間、超合金の全溶接域と溶接域に隣位した領域は、インダクション加熱コイル14で1400°Fから2100°F、好ましくは、1725°Fから1975°Fの範囲にある延ばしやすくなる温度に加熱される。
製品の溶接域を加熱する延ばしやすくなる温度は、エージングまたは析出硬化温度より上であるが、特定の超合金サブストレートの初期溶融温度以下である。』と記載されています。予熱される部分とは、溶接域と近接域を合わせた領域であり、その範囲は広くなる。
その温度に関して、温度範囲に留まると言っているので、その温度を計測しているものと考えられます。その場合には、局所的に温度が上がっても平均値に影響しなければ、計測できないことになります。そのような状況の中で、連続的に溶接を行いビードを形成していけば、溶接の効率はいいかもしれませんが、熱応力の発生等の問題が発生しないとは言えません。」
と主張している。
しかしながら、本願発明にも、また、本願明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、補修装置の具体的にどの部分の温度を測定しているのか、温度は局所的な温度なのか平均値の温度なのか、いずれの温度にせよ具体的にどのような手法で測定しているのか等について何ら特定されておらず、当該主張が特許請求の範囲の記載に基づくとは認められない。
なお、引用文献1には、「予熱される部分の温度は、1400°Fから2100°Fの範囲であり、局部的にレーザー加熱されても、この範囲に留まる。」(第4の1(1)キ参照)、「・・・この予熱ステージの間、超合金の全溶接域と溶接域に隣位した領域は、インダクション加熱コイル14で1400°Fから2100°F、好ましくは、1725°Fから1975°Fの範囲にある延ばしやすくなる温度に加熱される。このプロセスにとってクリティカルな点は、溶接/クラッディングの前、間、後において、熱平衡を維持し、溶接される、または、近接のベース金属の温度勾配をきつくならないようにして、内部応力と、その後のクラッキングを減らすことである。温度勾配を和らげることで、加熱されるゾーンへの溶接熱のインパクトを弱め、・・・全溶接域と隣接領域は、析出硬化温度より高く予備加熱されることで、温度分布が均一になり、加熱作用を受け難いゾーンで問題になる収縮と内部応力を排除できる。」(第4の1(1)エ参照)と記載されており、引用発明では、熱応力の問題が留意された上で、溶接前、間、後において、全溶接域と溶接域に隣位した領域の温度が計測され、温度勾配がきつくならないように当該温度が所定の範囲内に入るように管理されていると認められる。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-02-15 
結審通知日 2019-02-20 
審決日 2019-03-05 
出願番号 特願2013-166476(P2013-166476)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 黒石 孝志  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 齋藤 健児
栗田 雅弘
発明の名称 補修方法  
代理人 狩野 芳正  

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