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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23Q |
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管理番号 | 1350931 |
審判番号 | 不服2018-4652 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-04-05 |
確定日 | 2019-04-18 |
事件の表示 | 特願2015-150341「加工時間測定機能とオンマシン測定機能を有する制御装置付き加工装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年2月 9日出願公開、特開2017-30067〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2015年(平成27年)7月30日の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。 平成28年10月12日付け:拒絶理由通知 平成28年12月15日 :意見書及び手続補正書の提出 平成29年 3月 2日付け:拒絶理由通知 平成29年 5月12日 :意見書の提出 平成29年 8月 4日付け:拒絶理由通知 平成29年10月10日 :意見書の提出 平成29年12月28日付け:拒絶査定 平成30年 4月 5日 :審判請求 第2 本願発明 本願の請求項1-5に係る発明は,平成28年12月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定されたとおりのものであると認められるところ,その請求項1には,次のとおり記載されている(以下,本願請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。 「【請求項1】 ワークの加工形状をオンマシンで測定するオンマシン測定部と、ワークの加工時間を測定する加工時間測定部とを備えた加工装置において、 前記加工形状と前記ワークの設計データとの間の加工精度、および前記加工時間を入力として機械学習し、該機械学習の結果に基づいて、前記加工精度が向上するように、また、前記加工精度を保てる範囲で前記加工時間を最短にするように加工条件を調整する機械学習器を備え、 前記加工装置は、前記加工条件に基づいて前記ワークの加工を行い、 前記機械学習器は、前記ワークの加工の結果として得られた前記加工精度及び前記加工時間とに基づいて機械学習する、 ことを特徴とする加工装置。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由(平成29年8月4日付けの拒絶理由通知の理由)は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1.特開2007-69330号公報 引用文献2.特表2012-509190号公報(周知技術を示す文献) 引用文献3.岩村幸治,他3名,"自律分散型リアルタイムスケジューリングへのマルチエージェント強化学習の適用",システム制御情報学会論文誌,システム制御情報学会,2013年4月23日,第26巻,第4号,p.129-137(周知技術を示す文献) 引用文献4.特開平10-296590号公報(周知技術を示す文献) 第4 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された引用文献である、特開2007-69330号公報(平成19年3月22日出願公開。以下「引用文献1」という。上記引用文献2ないし4についても、以下「引用文献2」等という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、理解の便宜のため、当審にて付与)。 (1)段落【0001】?【0004】 「【0001】 本発明は、ワイヤ放電加工装置あるいは型彫り放電加工装置等の放電加工装置に関し、特に加工条件を自動的に設定する放電加工装置における加工条件設定方法に関する。 【背景技術】・・・ 【0004】 さらに、面粗度を向上させると加工速度が遅くなることから、面粗度を指定するだけでは、加工速度(加工時間)が分からないことから、いたずらに長時間の加工となる場合がある。そのため、面粗度を変更し、所望する加工速度(加工時間)を得るようにするために、加工プログラムNo、ワイヤ径、ワーク材質、ワーク板厚等の設定データを入力し、予め実験的に求められ設定されている加工条件基礎データに基づいて加工速度と加工精度の相関関係を示すグラフを表示し、該グラフ上の位置を指定することによって、その加工速度と加工精度が得られる実加工条件を加工条件基礎データと設定データにより決定し、加工プログラムを自動的に作成するようにした放電加工装置も開発されている(特許文献2参照)。」 (2)段落【0018】 「そこで、キーボード17上のカーソルキーを操作して、該欄31c上に表示されたカーソル31eを移動させて、加工速度、加工精度を指定し選択する。図2に示す例ではカーソル31eを3回加工の位置に移動させた例を示している。こうして、加工速度、加工精度が指定されると、加工条件表示欄31dに、加工速度、加工精度を指定するカーソルの位置(3回加工)に対応して登録保存されている加工条件を表示する。図2に示す例では、標準加工条件データとして予め設定されている加工条件データ3H1,3H2が加工速度順に2つ表示され、さらに、ユーザが追加して設定登録している追加加工条件データがカスタム加工条件データ3S1として、1つ表示されている。 そこで、この加工条件表示欄31dにカーソルを移動させ、いずれかの加工条件を選択し、実行加工条件として指定する。こうして、加工条件が設定されると、プロセッサ11は選択指定された加工条件に基づいて、指定したメインプログラムによる加工の予想加工時間を算出し、設定欄31bに加工時間として表示する。」 (3)段落【0019】 「カスタム加工条件データ3S1がなく標準加工条件データのみを表示し、標準加工条件データのみを選択設定できるようにしたものは、特許文献1に示されているが、本発明は、放電加工装置のユーザが独自に設定登録したカスタム加工条件データ3S1をも表示して、この加工条件データ3S1を実行加工条件として設定できるようにした点に特徴を有するものである。」 (4)段落【0020】 「図3は、ユーザがカスタム加工条件データを設定登録する手順の流れ図である。 まず、前述したように、加工特定データ(ワイヤ径、ワーク材料、ワーク板厚)を含む設定データを設定入力し、カーソルを用いて、加工速度(加工精度)を選択指定し、表示された加工条件の中から1つを選択して実行加工条件として指定する(工程a1)。」 (5)段落【0021】 「この指定した実行加工条件の元で実際に加工を行い(工程a2)、得られた加工物よりオペレータは加工精度を測定する(工程a3)。又、表示装置16の表示画面を加工状態表示画面に切り換えて、該画面に表示されている実際の加工に要した実加工時間を読み取り、加工精度が目標とするものの許容範囲内か、又、実加工時間が目標とする加工時間の許容範囲内かを判断する(工程a4)。加工精度、加工時間が目標の許容範囲内に達していないときは、オペレータはキーボード17等を使用して加工条件を手動変更設定し(工程a7)、この変更した加工条件で再度加工を行う。」 (6)段落【0022】 「以下、この繰り返しを行い、所望の加工速度、加工精度に達したときには、このときの加工精度と、加工速度の情報と共に、加工条件を登録し(工程a5)、カスタム加工条件データの登録処理は終了する(工程a6)。」 (7)図2 図2から、設定される加工精度として、精度、面粗さ等が見て取れる。 (8)図3 図3から、上記(4)ないし(6)の各ステップが見て取れる。 2 引用文献1記載の技術的事項 上記1での記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されている。 (1)上記1(7)から、引用文献1で測定される加工精度は精度、面粗さ等であり、これらはワークの加工形状に関するものであるから、引用文献1では、何らかの測定部においてワークの加工形状が測定されていると認められる。 また、上記1(7)から、引用文献1で測定された加工精度の結果は画面に表示されると認められる。 (2)上記1(5)から、引用文献1では、画面に表示されている実際の加工に要した実加工時間を読み取っていることから、ワークの実加工時間を測定する実加工時間測定部を備えていると認められる。 (3)上記1(5)から、引用文献1では、加工形状とワークの設計データとの間の加工精度、及び加工時間とが目標の許容範囲内かを判断して、加工条件を調整し、放電加工装置は、当該加工条件に基づいてワークの加工を行うと認められる。 3 引用発明 したがって、引用文献1には、以下の発明が記載されている。(以下「引用発明」という。) 「ワークの加工形状を測定する測定部と、ワークの実加工時間を測定する実加工時間測定部とを備えた放電加工装置において、オペレータが、前記加工形状と前記ワークの設計データとの間の加工精度、および加工時間とが目標の許容範囲内かを判断して、加工条件を調整し、放電加工装置が前記加工条件に基づいて前記ワークの加工を行うこと。」 第5 対比 本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。 引用発明の「ワークの実加工時間」、「放電加工装置」は、それぞれ、本願発明の「ワークの加工時間」、「加工装置」に相当する。 本願発明と引用発明は、以下の構成において一致する。 「ワークの加工形状を測定する測定部と、ワークの加工時間を測定する加工時間測定部とを備えた加工装置において、 前記加工形状と前記ワークの設計データとの間の加工精度、および前記加工時間を入力として加工条件を調整し、加工装置が前記加工条件に基づいて前記ワークの加工を行うこと。」 本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。 1 相違点1 本願発明の加工装置は、ワークの加工形状をオンマシンで測定するオンマシン測定部を備えているのに対して、引用発明のワークの加工形状を測定する測定部は、オンマシンかどうかが明らかでない点。 2 相違点2 本願発明はワークの加工の結果として得られた加工精度及び加工時間とに基づいて機械学習する機械学習器を備え、前記機械学習器が、前記機械学習の結果に基づいて、前記加工精度が向上するように、また、前記加工精度を保てる範囲で前記加工時間を最短にするように加工条件を調整するのに対して、引用発明は、機械学習機を備えておらず、オペレータが、加工精度及び加工時間が目標の許容範囲内かを判断して、加工条件を調整する点。 第6 判断 1 相違点について (1)相違点1について ワークの加工形状をオンマシンで測定するオンマシン測定部は、原査定の拒絶の理由(平成29年8月4日付けの拒絶理由通知の理由)において示したように、周知の技術であり(引用文献4の段落【0002】?【0004】等参照)。)、引用発明の加工装置の画面には加工精度が表示されるのであるから、引用発明の加工装置に測定装置を直接つないで測定結果を測定装置から直接取得できるようにすること、すなわちオンマシン測定部を備え、相違点1に係る構成とすることに格別の困難性は認められない。 (2)相違点2について 加工精度及び加工時間に基づいて様々な加工条件等を学習することは、オペレータが経験則として従来から当然に行っていた事項といえる。 そして、そのように学習した経験則に基づいて、オペレータが加工条件を調整することは、引用文献1の段落【0021】等に記載されている。 一方、機械が学習し、加工時の品質や精度を向上させることは、加工装置のプロセス制御分野において、周知技術であった(例えば、引用文献2の段落【0028】、【0032】及び【0082】-【0083】、並びに引用文献3の第1頁左欄第1行?第2頁左欄第5行及び第2頁右欄第9行?第8頁左欄第44行等参照)。 人が行っていた学習や、経験則に基づく調整を機械に行わせることは、省力化や生産効率の向上に繋がることから、引用発明の加工精度および加工時間に基づいて加工条件を調整することを機械に行わせる動機があると言える。 以上のとおり、引用発明の学習を機械に行わせるという点に動機があり、また、機械が扱う入力パラメータ及び出力パラメータの種類が従来から使用されていたものであるから、これらパラメータを扱う機械学習を行うことに、すなわち、単に従来から人が試行錯誤していたことを人工知能が行うことに進歩性は認められない。 したがって、引用発明の加工精度と加工時間に基づく加工条件の調整を、コンピュータ等を用いて単にシステム化することは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。 なお、本願発明の「加工時間を最短にする」という記載の「最短」の技術的意義について検討すると、本願発明の「前記加工精度が向上するように、また、加工精度を保てる範囲で前記加工時間を最短にするように加工条件を調整する」構成について、請求人は平成28年12月15日に提出された意見書において、当該構成が補正により追加された根拠を、出願当初の明細書における「本発明において、制御装置付き加工装置に対して機械学習を導入することにより加工状況に合わせて加工精度を保ちながらより短時間で加工を行うことができる適切な加工条件を求めることが可能となる。」(段落【0012】)等と説明している。 加えて、出願当初の明細書には、「なお、加工時間により得られる報酬と、加工精度により得られる報酬に、その重要度に応じた重み付けをするようにしても良い。このようにすることで、加工時間を重視する加工条件の調整を行うように学習をさせたり、加工精度を重視した加工条件の調整を行うように学習させたりすることができる。・・・」(段落【0041】)と記載されている。 出願当初の明細書におけるこれら記載を参酌すれば、本願発明の「最短」の技術的意義は、加工時間を加工精度より重視するというものではなく、加工精度及び加工時間のいずれをも重視し得る前提で、加工精度を保ちながらより短時間で加工を行うことのできるように加工条件が調整されるというものであると理解する。(仮に、上記構成が加工時間を加工精度より重視して最短にすることを指すとすれば、上記構成は当初明細書等の範囲内のものとは認められない。) ここで、引用文献1の段落【0004】に「面粗度を向上させると加工速度が遅くなることから、面粗度を指定するだけでは、加工速度(加工時間)が分からないことから、いたずらに長時間の加工となる場合がある。そのため、面粗度を変更し、所望する加工速度(加工時間)を得るようにする」と記載されている(第4の1(1)参照)ように、より高精度かつ短時間に加工を行うよう加工条件を設定するのは当然であり、引用発明に基づいて、本願発明の「加工精度が向上するように、また、前記加工精度を保てる範囲で前記加工時間を最短にするように加工条件を調整する」ことは格別でない。 以上の事情に基づけば、引用発明に上記周知技術を適用して人が行っていた、加工精度および加工時間に基づいて加工条件等を学習し、加工精度および加工時間に基づいて加工条件を調整することをシステム化し、機械学習器が、加工精度が向上するように、また、前記加工精度を保てる範囲で加工時間を最短にするように加工条件を調整するよう構成することは、当業者が容易に想到することができたことである。そして、本願発明の効果は当業者が予測し得る程度のものである。 (3)上記(1)及び(2)より、本願発明は、引用発明並びに引用文献2-3、引用文献4に示された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2 請求人の主張について 請求人は、審判請求書の3.(c)において、以下のとおり主張する。 「しかしながら、第1引用例に記載された発明は、機械学習器などの構成を備えたものではなく、作業者による作業(加工条件の選択、加工速度・加工精度の評価、加工条件のカスタマイズ、加工条件の登録)を単に支援(登録された加工条件の提示、加工速度・加工精度の測定及び表示)しているに留まる。つまり、加工条件の調整や加工速度・加工精度の評価を第1引用例に記載された発明が行うものではない。 なお、審査官殿は拒絶査定の備考欄で『一般に機械の制御において、人の試行錯誤により行われていたパラメータの算出を、機械学習を用いて自律的に行わせるものとすることは、例示をするまでもなく周知の技術である。したがって、引用文献1に記載された発明に基づき、ワークの加工の結果として得られた加工精度及び加工時間とに基づいて機械学習を行い、機械学習の結果に基づいて、加工精度と加工時間が許容範囲内となるように加工条件を調整する構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことにすぎない(調整するパラメータの組合せが既知であるから、調整に際しそのパラメータを入力とした機械学習を行うことに進歩性は認められない。)。』と認定しているが、これが仮に周知であったとしても、そもそも第1引用例に記載された発明では、繰返し行われる加工に用いた加工条件とそれぞれの加工精度・加工速度との表示の仕方や加工条件の保存機能等で作業者の支援を行なう発明であり、第1引用例に記載された発明のいずれにも加工条件の調整や加工速度・加工精度の評価等を機械に行なわせるという課題は示されておらず、また、第1引用例に記載された発明に対して機械学習を導入する動機についても示されていない。また、そうすると、第1引用例の記載及び審査官殿が周知であるとご指摘の事項からは、第1引用例に記載された発明に対して加工精度が向上するように、また、加工精度を保てる範囲で加工時間を最短にするように加工条件を調整する機械学習器を導入することが容易であると言うことはできないと思料する。」 この点、引用文献1の段落【0001】には、特に加工条件を自動的に設定する加工装置に関するものである旨記載されているものの、引用文献1には、加工条件の調整や加工速度・加工精度の評価等を機械に行なわせるという具体的な構成は示されていない。 しかしながら、引用文献1の段落【0021】及び【0022】等には、人が、ワークの加工の結果として得られた加工精度と加工時間が許容範囲内となるまで加工条件の手動変更設定と実際の加工とを繰り返すことにより、加工精度と加工時間の両方が許容範囲内となるような実加工条件を設定することが示されている。 したがって、引用発明に基づき、ワークの加工の結果として得られた加工精度及び加工時間とに基づいて機械学習を行い、機械学習の結果に基づいて、加工精度と加工時間が許容範囲内となるように加工条件を調整する構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことに過ぎない。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-02-12 |
結審通知日 | 2019-02-19 |
審決日 | 2019-03-05 |
出願番号 | 特願2015-150341(P2015-150341) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B23Q)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 貞光 大樹、木原 裕二、中田 善邦、藤井 浩介 |
特許庁審判長 |
刈間 宏信 |
特許庁審判官 |
齋藤 健児 平岩 正一 |
発明の名称 | 加工時間測定機能とオンマシン測定機能を有する制御装置付き加工装置 |
代理人 | あいわ特許業務法人 |