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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1350943
審判番号 不服2018-9610  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-12 
確定日 2019-04-11 
事件の表示 特願2016-254763「間欠固定テープ心線の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年7月5日出願公開、特開2018-106098〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年12月28日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年12月25日付け:拒絶理由通知書
平成30年 2月19日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 4月10日付け:拒絶査定(同年同月17日送達)
平成30年 7月12日 :審判請求書の提出

第2 本願発明について
1 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成30年2月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりものであって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
複数の光ファイバ同士の間に、未硬化の被覆材が進入するように塗布して硬化させることで、前記複数の光ファイバを、前記被覆材で一括被覆する工程と、
一括被覆された前記複数の光ファイバを長手方向に速度V1で送り出しながら、長手方向に直交する幅方向に並べて配置された複数の回転刃を用いて、前記複数の光ファイバ同士の間に位置する前記被覆材を、長手方向に所定の間隔を空けて間欠的に切断する工程と、を有し、
前記複数の回転刃は、前記回転刃の外周縁の移動方向と前記複数の光ファイバの送り出し方向とが、前記回転刃と前記被覆材とが接触する部分において一致する方向に回転し、
前記速度V1が、前記回転刃の周速V2よりも大きい、間欠固定テープ心線の製造方法。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし3に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献1:特開2013-257394号公報
引用文献2:特開2016-206499号公報(周知例である。)
引用文献3:特開2005-062427号公報(周知例である。)

第4 引用文献
1 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された、引用文献1(特開2013-257394号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)

(1)「【請求項5】
複数本の光ファイバ心線が平行一列に並べられ共通被覆により一体化された光ファイバテープ心線の隣り合う光ファイバ心線間に、長手方向に間欠的な切込みが入れられた間欠切込み光ファイバテープ心線の製造方法であって、
胴部の両側部に光ファイバテープ心線の幅方向を位置決めする鍔部を有し、胴部の外周面上の円周方向に非切込み領域と切断刃を配設した切込み領域とを有する切断ローラを用い、前記光ファイバテープ心線に押しつけながら回転させて切込むことを特徴とする間欠切込み光ファイバテープ心線の製造方法。
【請求項6】
前記切断ローラの胴部の外周面の移動速度は、前記光ファイバテープ心線の走行速度より小さいことを特徴とする請求項5に記載の間欠切込み光ファイバテープ心線の製造方法。」

(2)「【0013】
図により本発明の実施の形態を説明する。図1(A)?図1(C)は、本発明による製造装置を用いて製造される間欠切込み光ファイバテープ心線の一例を示し、図において、1a?1cは間欠切込み光ファイバテープ心線(間欠切込みテープ心線)、2は光ファイバ心線、3a?3cは共通被覆、4は切込み部分、5は非切込み部分を示す。
【0014】
本発明での光ファイバ心線2とは、例えば、外径が125μmのガラスファイバに、被覆径が250μm前後のファイバ被覆を施した光ファイバ素線とも言われているもの、また、そのファイバ被覆の外面に着色層を施したものを含めた単心の光ファイバを言うものとする。
また、間欠切込み光ファイバテープ心線(以下、間欠切込みテープ心線という)1a?1cとは、3心以上の光ファイバ心線2を平行一列に並べ、共通被覆3a?3cにより一体化してテープ状としたもので、共通被覆3a?3cには、隣り合う光ファイバ心線2間で所定長さの切込み部分4と非切込み部分5が交互に形成されている形態のものを言う。
【0015】
間欠切込みテープ心線1aは、共通被覆3aのテープ面が平坦形状の例を示し、間欠切込みテープ心線1bは、共通被覆3bのテープ面が光ファイバ心線2の配列面に倣う波型形状の例を示している。また、間欠切込みテープ心線1cは、光ファイバ心線2が間隔をあけて配列された例で、共通被覆3cは光ファイバ心線2のそれぞれの全周を被覆し、連結部3c’を介して連結された例を示している。なお、間欠切込みテープ心線1b,1cは、光ファイバ心線間に谷部を有する形状であるため、この谷部で切断刃の位置決めが行いやすく、切込み部分4をさらに精度よく形成することができる。
【0016】
間欠切込みテープ心線1a?1cの共通被覆3a?3cに入れられた切込み部分4は、テープ心線の上下面を貫通するように形成されていて、この切込みが入れられた部分では、隣り合う光ファイバ心線同士が互いに分離されていて互いに引き離す方向(長手方向と直交する方向)に引っ張ることにより、湾曲させて分けることが可能な非結合部となる。一方、切込みが入れられていない非切込み部分5では、隣り合う光ファイバ心線同士が互いに共通被覆3により一体とされて、テープ状態を保持する結合部となる。
【0017】
切込み部分4と非切込み部分5は、種々の形態(パターン)で形成することができる。図1(A)の例は、隣り合う切込み部分4が全て一致する位置に形成されている例で、非切込み部分5が長手方向と直交する間欠的な位置で全光ファイバ心線が連結されている。図1(B)の例は、隣り合う切込み部分4の位置が異なるようにし、隣より1つ離れた切込み部分同士の位置が一致するように形成した例である。その他、切込み部分4と非切込み部分5の比率を変えるなど、任意のパターンで形成することができる。
なお、図1(C)では、切込み部分4と非切込み部分5が隠れて表示されていないが、図1(A)または図1(B)と同様なパターンで形成される。
【0018】
図2は、本発明による光ファイバテープ心線を位置決めする状態と、切断刃により切込みを入れる状態を示し、図3は切断ローラの一例を説明する模式図である。図2,3において、10は切断ローラ、11は胴部、12は鍔部、13はガイド溝、13aは傾斜面、14はローラ軸部、15は円盤状の切断刃を示す。
【0019】
切断ローラ10は、図3(A)に示すように、胴部11の両側部に鍔部12を有し、胴部11の外周面の所定の軸方向位置で所定の円周方向の領域に、外周面から突き出るように切断刃15が配設された構成のもので、ローラ軸部14を支持軸として回動可能に支持される。間欠切込みが入れられる前の光ファイバテープ心線(以下、テープ心線という)1は、切断ローラ10の胴部11の外周面にテープ面が接するように押圧を受けながら、走行が案内される。
【0020】
図2(A)に示すように、テープ心線1は、切断ローラ10の鍔部12で形成されるガイド溝13により、テープ幅に対応した溝幅Waで幅方向が位置決めされ、胴部11の外周面上を走行移動する。なお、ガイド溝13の壁面は、傾斜面13aで形成して、後述するようにテープ心線1の張り出しを許容できるようにしておくことが望ましい。なお、切断刃15は、所定の光ファイバ心線2の間に切込みが入れられるように、図2(B),(C)および図3(A)に示すように、切断ローラ10の所定の軸方向位置に配設される。
【0021】
すなわち、テープ心線1の幅方向の位置決めは、鍔部12のガイド溝13により行われ、このガイド溝13の底部である胴部11の外周面上の所定の位置に、切込刃15が設置されている。このため、テープ心線1の幅方向に対する切断刃15の相対的な位置関係は一義的に定まり、正確な位置で切込みを入れることができる。しかし、切断刃15が切込みのために光ファイバ心線間に割り込むと、テープ心線1は、切断刃15の厚みDの相当分が幅方向に張り出す。
【0022】
図2(B)は、切断刃15により切込みを入れる領域のガイド溝13の溝幅Waが、図2(A)に示す切込みを入れない領域と同じ幅である場合、すなわち、切断ロールのガイド溝13の溝幅Waが全周で均一な例を示している。この場合、上記したようにガイド溝13の壁面を傾斜面13aとすることにより、テープ心線1の張り出した分は、図2(B)に示すように傾斜面13aに乗り上げさせ逃がすことで許容することができる。
【0023】
図2(C)は、切断刃15により切込みを入れる領域のガイド溝13の溝幅Wbを、切断刃15の厚みDの相当分だけ、他の部分の溝幅Waより広くした例である。すなわち、切断ロール10のガイド溝13の溝幅を、切断刃を配設した領域の溝幅Wbと切断刃を配設しない領域Waで異ならせるようにする。また、この場合、切断刃の設置位置(切込みを入れる光ファイバ心線間の位置)により、切断刃15の左右の溝幅を変えるのが好ましい。例えば、4心のテープ心線の2番心と3番心の間に切断刃15が切込まれる場合は、図2(C)のように切断刃の左右両側に均等に広げればよいが、1番心と2番心の間、または3番心と4番心の間に切断刃15が切込まれる場合は、切断刃15の左右のいずれか一方の側の溝幅を広げるようにする。
【0024】
切断刃15は、図3の模式図で示すように、円盤状の切断刃を複数個用いて、切断ローラ10の胴部11の外周面上の所定の切断領域Lbで突き出るように配設される。例えば、胴部11の直径を63.7mmとすると、胴部11の円周長さは200mmとなる。ここで、図1の切込み部分4の長さの割合を6(例えば、60mm)、非切込み部分5の長さの割合を4(例えば、40mm)とすると、切断ローラ10の切断領域Lbが60mm、非切断領域Laが40mmとなるように、切断刃15が配設される。
なお、非切断領域Laと切断領域Lbの長さの比を変えることにより、切込み部分4と非切込み部分5の長さの割合を適宜変更することができる。
【0025】
切断刃15は、例えば、直径18mmで厚さ0.3mmの円盤状のものを用いるのが好ましく、上記の切断ローラ10では、切断領域Lbに3個用いればよい。円盤状の刃は、テープ面に滑らかに入りやすく、切りカスが発生しにくく、市販されていて入手しやすいという利点がある。なお、円盤状の切断刃15は、着脱可能にして交換もしくは配設の回転位置を変えて使用寿命を長くすることが好ましい。このため、切断ローラ10の胴部11を円板状の積層体で形成し、切断刃15をサンドイッチ状に挟んで保持固定するようにする。
【0026】
図4は、テープ心線1に切込み部分4を入れて間欠切込みテープ心線1a?1cとする切込機構の設置例を示す模式図である。テープ心線1は、例えば、図に示すように、紙面の右方向から左方向に向けて走行しているものとし、このテープ心線1に対して光ファイバ心線の心数に応じた複数の切込機構7a?7c(光ファイバ心線の心数が4心の場合は3台の切込機構)が製造ライン方向(テープ心線の長手方向)に位置をずらせて設置される。
【0027】
切込機構7a?7cは、図3で説明した切断ローラ10a?10cを駆動モータ等の駆動体9a?9cで回転するようにしたもので、テープ心線1の走行速度に連動して所定の回転速度に制御される。切断ローラ10a?10cの各切断刃15a?15cは、テープ幅方向の切込み位置が異ならせて配設されていて、各切断ローラ10a?10cは、所定の光ファイバ心線間のみに間欠的に切込み4を入れる。
【0028】
各切断ローラ10a?10cは、テープ心線1の一方の面に接して、この面を押圧してテープ心線1の走行をガイドし、テープ心線1の反対側の面には走行ローラ8a?8dを配してテープ心線1が切断ローラ10a?10cの外周面から離れないようにされる。なお、この走行ローラ8a?8dには、テープ心線1の幅方向の移動を抑制する鍔部を設けてもよいが、切断ローラ10a?10c側に位置決めガイド溝を有しているので設けなくてもよい。
【0029】
切断ローラ10a?10cは、例えば、テープ心線1の走行方向と逆の方向に回転させる。この場合、切断刃15a?15cは、テープ心線1の上を滑るように移動し、円弧状の刃で切込まれる形になり、確実な切込みを形成でき、切込によるに切りカスの発生を抑制することもできる。また、切断ローラの10a?10cの切断刃15a?15cの回転速度(移動速度)とテープ心線1の走行速度とを異ならせることにより、切込み部分4と非切込み部分5の長さの割合を同じにして、その長さを変えることができる。
【0030】
また、切断ローラの10a?10cの回転方向を、テープ心線1の走行方向と同じにしても切込みを入れることができる。この場合も、切断ローラの10a?10cの切断刃15a?15cの回転速度(移動速度)とテープ心線1の走行速度とを異ならせることにより、切込み部分4と非切込み部分5の長さの割合を同じにして、その長さを変えることができる。また、切断刃15a?15cの回転速度を、テープ心線1の走行速度より遅くすることにより、上記と同様に切断刃15a?15cがテープ心線1の上を滑るように移動して切込む形態とすることができる。
なお、切断刃15a?15cの移動速度とテープ心線1の移動速度を同じで移動方向が同じ場合は、切断刃はテープ心線1に面方向から押し込んで切込む形態となり、切込みが不十分となる場合もある。」

(3)引用文献1の図4において、複数の切断ローラ10a?10cが示されている。

上記の記載事項から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されていると認められる。

「複数本の光ファイバ心線が平行一列に並べられ共通被覆により一体化された光ファイバテープ心線の隣り合う光ファイバ心線間に、長手方向に間欠的な切込みが入れられた間欠切込み光ファイバテープ心線の製造方法であって、
胴部の両側部に光ファイバテープ心線の幅方向を位置決めする鍔部を有し、胴部の外周面上の円周方向に非切込み領域と切断刃を配設した切込み領域とを有する、複数の切断ローラを用い、前記光ファイバテープ心線に押しつけながら回転させて切込み、
切断ローラの回転方向を、光ファイバテープ心線の走行方向と同じにし、
切断刃の回転速度を、光ファイバテープ心線の走行速度より遅くする、
間欠切込み光ファイバテープ心線の製造方法。」

2 周知技術1
(1)周知例2
原査定の拒絶の理由で引用された、周知例2(特開2016-206499号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0019】
(実施形態1)
本発明に係る間欠テープ心線の製造装置および製造方法の好適な実施の形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内ですべての変更が含まれる。また、以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成は同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。
【0020】
図1は、本実施形態に係る間欠テープ心線の製造装置および製造方法に用いられるテープ心線の一例を示す図である。テープ心線100’は、複数本、例えば8本の光ファイバ心線1を互いに接触した状態で平行一列に並べて(並列させて)、上下の並列面を含む外面を共通被覆5により一体化してテープ状にしたものである。光ファイバ心線1は、例えば外径が125μmのガラスファイバ2に、例えばアクリレート樹脂からなる被覆層3を設け、さらに各光ファイバ心線1を識別するための着色層4を設けたもので、外径が255μm前後の大きさを有する単心の光ファイバである。
【0021】
図2は、本実施形態に係る間欠テープ心線の製造装置および製造方法により製造された間欠テープ心線の一例を示す図である。図2(A)は間欠テープ心線の平面図であり、図2(A)、(B)、および、(C)はそれぞれ、図2(A)に示すX_(1)-X_(1)、X_(2)-X_(2)、および、X_(3)-X_(3)における断面図を示している。図2に示す間欠テープ心線100は、図1に示したテープ心線100’の共通被覆5に、隣合う光ファイバ心線1間で所定長さの分離部(切込み部分)Aと結合部(非切込み部分)Bが交互に形成されている形態のものである。
【0022】
間欠テープ心線100の共通被覆5に形成された分離部Aは、間欠テープ心線100の上下の並列面を貫通している。そして、分離部Aが形成された部分では、隣合う光ファイバ心線1同士が互いに分離し、隣合う光ファイバ心線1同士を互いに引き離す方向(長手方向と直交する方向)に引っ張ることにより、光ファイバ心線1を湾曲させて分けることが可能となる。一方、分離部Aが形成されていない結合部Bでは、隣合う光ファイバ心線1同士が互いに共通被覆5により一体とされて、テープ状態を保持する。
【0023】
分離部Aと結合部Bは、種々の形態(パターン)で形成することができる。図2で示す例は、光ファイバ心線1の並列方向から見た場合、隣合う光ファイバ心線1の接触部分の共通被覆に形成した分離部Aの位置が、1つ置きに同じ位置から始まるようにし、結合部Bの位置も1つ置きに同じ位置から始まるように形成したものである。また、光ファイバ心線1の切り離しを容易にし、間欠テープ心線100を捻った時に光ファイバ心線1が適度にばらけるように、分離部Aの長さは結合部Bの長さの5?10倍の範囲になるようにしている。
【0024】
図2(A)のX_(1)-X_(1)に沿った断面では、1番目(#1)と2番目(#2)間、3番目(#3)と4番目(#4)間、5番目(#5)と6番目(#6)間、および、7番目(#7)と8番目(#8)間の4か所で光ファイバ心線1間の共通被覆5に分離部Aが形成される。また、図2(B)のX_(2)-X_(2)に沿った断面では、2番目(#2)と3番目(#3)間、4番目(#4)と5番目(#5)間、および、6番目(#6)と7番目(#7)間の3か所で光ファイバ心線1間の共通被覆5に分離部Aが形成されている。さらに、図2(A)のX_(3)-X_(3)に沿った断面では、全て(#1?#8)の光ファイバ心線1間の共通被覆に分離部Aが形成される。
【0025】
次に、間欠テープ心線の製造装置について説明する。図3は、本実施形態に係る間欠テープ心線の製造装置の一例を示す図であり、図1に示したテープ心線から図2に示した間欠テープ心線を製造するためのものであり、切断装置200を備えている。
図3に示す切断装置200は、軸受部材31、32および31’、32’を支持する本体部30を備えており、軸受部材31、32および31’、32’はそれぞれ第1回転軸20および第2回転軸20’を回転可能に軸支している。第1回転軸20と第2回転軸20’とは平行に配置されており、第1回転軸20の回転が軸方向両端に設けた歯車21、22を介して、第2回転軸20’の歯車21’、22’に伝達されるようになっている。このため、第1回転軸20と第2回転軸20’とは回転方向が逆になるように構成されている。
【0026】
第1回転軸20には、7枚の円盤状の丸刃10が軸方向に隣接させて設けられている。また、第2回転軸20’にも、丸刃10と同じ7枚の円盤状の丸刃10’が隣接させて設けられている。そして、第1回転軸20に設けた丸刃10と第2回転軸20’に設けた丸刃10’とは互いに所定の間隙を介して対をなすように対向してテープ心線100’の上下に配列されており、この間隙内をテープ心線100’が挿通される。なお、図3で示す丸刃10、10’のテープ心線100’に対する位置は、図2で示す間欠テープ心線100のX_(1)-X_(1)の部分に切込みを入れている位置に相当する。
【0027】
図4は、丸刃の構成の一例を説明するための図であり、図3に示した切断装置200の上下一対の丸刃10、10’を回転軸方向から見た図である。丸刃10、10’は、第1回転軸20または第2回転軸20’に対する軸挿通部を含む基部11、11’を有し、外周の一部には切刃12、12’が設けられている。切刃12、12’が設けられている部分は、丸刃10、10’の外周の5/6から10/11の範囲を占めている。このため、丸刃10、10’の外周部分には切刃12、12’が設けられていない切刃なし部分13、13’を有している。
【0028】
そして、第1回転軸20、第2回転軸20’が回転することにより、丸刃10、10’が回転するが、回転によって両者の間隙の近接点では常に切刃12、12’同士または切刃なし部分13、13’同士が対向するように、丸刃10、10’が第1回転軸20、第2回転軸20’に固定されている。換言すれば、対向する丸刃10、10’は、両者の間隙に挿通されるテープ心線に対して、切刃12、12’がテープ心線100’を対称面として対称な位置となるように第1回転軸20、第2回転軸20’に固定されている。これにより、テープ心線100’の光ファイバ心線1間の共通被覆5に切刃12、12’が位置した際に、分離部Aが形成され、切刃なし部分13、13’が位置した際に共通被覆5がそのまま結合部Bとして残ることになる。
隣接する丸刃に設けられた切刃が、丸刃が取り付けられた回転軸の方向から見た場合に丸刃の周方向にずれた配置とすることができる。その結果、例えば図3に示すように、ある丸刃(例えば図5で右端の丸刃)がテープ心線の共通被覆を切断するときにその隣(左隣)の丸刃はテープ心線を切断しない。テープ心線は分離部Aと結合部Bが隣合うことになる。
【0029】
先述したように、切刃12、12’が設けられている部分の比率を丸刃10、10’の外周の5/6から10/11の範囲としているが、これによって得られる間欠テープ心線100の分離部Aの長さは結合部Bの長さの5?10倍の範囲となる。
【0030】
図5は、図3に示す製造装置におけるファイバテープ心線と丸刃との関係を説明するための図である。丸刃10、10’は、基部11、11’の軸方向の厚みdが光ファイバ心線1の外径の整数倍の厚みとなるように構成される。また、第1回転軸20、第2回転軸20’にそれぞれ設けた複数の各丸刃10、10’は、互いに密着するように固定されている。丸刃10、10’はそれぞれ第1回転軸20、第2回転軸20’に対して相対的に回転しないように設けられているが、隣合う丸刃10、10’の接触箇所に凹凸を設けて、丸刃10同士、あるいは丸刃10’同士の位置決めを行うようにしてもよい。そして、テープ心線100’は、切断装置200に対して、丸刃10、10’の切刃12、12’が光ファイバ心線1同士の接触部分における共通被覆5の部分に位置するように、幅方向の位置決めを行った状態で切断装置200に送られる。
【0031】
テープ心線100’は、先述したように、光ファイバ心線1を互いに接触した状態で並列させ、上下の並列面を、共通被覆5により一体化してテープ状にしたものである。このため、各光ファイバ心線1間の接触部分には共通被覆5が介在せず、隣合う光ファイバ心線1同士は、並列面に対して上側と下側に位置する共通被覆5によって互いに固着されている。したがって、光ファイバ心線1間の並列面に対して上側と下側に位置する共通被覆5を切断することによって、隣接する光ファイバ心線1を分離することができる。このため、対向する切刃12、12’間の間隙の最小値は本実施形態では10?125μmの範囲となるようにしている。なお、図5で示す丸刃10、10’のテープ心線100’に対する位置は、図2で示す間欠テープ心線100のX3-X3の部分に切込みを入れている位置に相当する。
【0032】
本実施形態では、丸刃10、10’に設けた切刃12、12’は両刃のものを示したが、切刃12、12’は片刃によるものでもよい。これにより、丸刃10、10’の製作や強度の確保が容易となる。」

イ 周知例2の図3、4において、テープ心線100’の長手方向に直交する幅方向に丸刃10、10’の複数の回転刃が配置されることが示されている。

(3)周知例3
原査定の拒絶の理由で引用された、周知例3(特開2005-062427号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0040】
図8は、切断型の分離工具部57を有する分断装置34を説明する図である。分離工具部57は、回転軸57aと、回転軸57aに軸支されて回転軸57aとともに回転する円盤形状の複数の切断ローラ58とを備えている。切断ローラ58は、図中矢印S方向に移動する光ファイバテープ心線20の表面と接触するように配置されており、図中矢印R方向に回動する。切断ローラ58の外周縁の一部には、光ファイバテープ心線20における光ファイバ21同士の間のテープ樹脂22を切断する単数又は複数の切断刃58aが互いに同位相で設けられている。すなわち、各切断ローラ58は、テープ樹脂22を切断するカッタを構成している。分断部を形成する場合には、分離工具部57が光ファイバテープ心線20の線速に応じた回転速度で各切断ローラ58が回動し、切断刃58aが光ファイバ21間に位置するテープ樹脂22を切断することで、光ファイバ21が互いに分断される。こうして、図3に示すような分断部20aが光ファイバテープ心線20に形成される。
【0041】
なお、図8では、複数の切断刃58aが同位相で設けられている構成としたが、これに限られず、図9に示すように複数の切断刃58aが互いに異なる位相で各切断ローラ58に設けられていてもよい。このように互いに異なる位相の切断ローラ58を有する分断装置34を用いると、図10に示すように分断溝22aが長手方向に沿って幅方向にずれて複数設けられた光ファイバテープ心線20を製造することが可能となる。
また、切断刃58aを切断ローラ58の外周縁にランダムに設けることにより、光ファイバテープ心線22に分断溝22aをランダムに形成するように構成しても良い。」

イ 周知例3の図8、9において、光ファイバ21の長手方向に直交する幅方向に複数の切断刃58aが配置されることが示されている。

周知例2及び3に記載された、次の技術は周知技術(以下、「周知技術1」という。)である。

「光ファイバの長手方向に直交する幅方向に配置された複数の回転刃を用いて、被覆により一体化された光ファイバテープ心線を間欠的に切断することにより、間欠切込み光ファイバテープ心線を製造する技術。」

第5 対比・判断
1 対比
本願発明と引用文献1発明を対比する。

(1)引用文献1発明の「間欠切込み光ファイバテープ心線」は、光ファイバテープ心線において長手方向に間欠的に切込みが入れられたものであって、切り込みが入れられた部分以外の部分で間欠的に固定されているものであるから、本願発明の「間欠固定テープ心線」に相当し、引用文献1発明の「間欠切込み光ファイバテープ心線の製造方法」は、本願発明1の「間欠固定テープ心線の製造方法」に相当する。

(2)引用文献1発明の「複数本の光ファイバ心線が平行一列に並べられ共通被覆により一体化された光ファイバテープ心線」とは、複数の光ファイバ心線すなわち光ファイバを、光ファイバ同士の間にも進入するように共通被覆により一体化すなわち被覆材により一括被覆したものであって、このような一体化は未硬化の被覆材を硬化させることにより行われるものであるから、このような構成を有する引用文献1発明は、本願発明1の、「複数の光ファイバ同士の間に、未硬化の被覆材が進入するように塗布して硬化させることで、前記複数の光ファイバを、前記被覆材で一括被覆する工程」を実質的に有しているといえる。

(3)引用文献1発明の「切断刃」は、本願発明の「回転刃」に相当する。引用文献1発明の「光ファイバテープ心線の走行方向」は、光ファイバテープ心線の長手方向であって、引用文献1発明において、「光ファイバテープ心線の走行速度」があることから、光ファイバテープ心線はある速度を有しているといえ、切断刃は、切断ローラとともに複数あり、光ファイバテープ心線において、光ファイバ心線間の共通被覆を所定の間隔を空けて間欠的に切断して間欠切込み光ファイバテープ心線を製造するものであるから、引用文献1発明の「胴部の外周面上の円周方向に非切込み領域と切断刃を配設した切込み領域とを有する、複数の切断ローラを用い、前記光ファイバテープ心線に押しつけながら回転させて切込」むことは、本願発明の、「一括被覆された前記複数の光ファイバを長手方向に速度V1で送り出しながら」、「複数の回転刃を用いて、前記複数の光ファイバ同士の間に位置する前記被覆材を、長手方向に所定の間隔を空けて間欠的に切断する工程」に相当する。

(4)引用文献1発明において、切断刃は、その外周縁も含め、切断ローラとともに移動するものであるから、引用文献1発明の「切断ローラの回転方向」、「光ファイバテープ心線の走行方向」は、それぞれ本願発明の「前記回転刃の外周縁の移動方向」、「記複数の光ファイバの送り出し方向」に相当する。引用文献1発明において、「切断ローラの回転方向を、光ファイバテープ心線の走行方向と同じにし」ていることは、切断刃の外周縁が、光ファイバテープ心線と接触する部分において一致する方向に回転していることを意味するから、本願発明の、「前記複数の回転刃は、前記回転刃の外周縁の移動方向と前記複数の光ファイバの送り出し方向とが、前記回転刃と前記被覆材とが接触する部分において一致する方向に回転し」ていることに相当する。

(5)引用文献1発明の「切断刃の回転速度」、「光ファイバテープ心線の走行速度」は、それぞれ本願発明の「前記回転刃の周速V2」、光ファイバを長手方向に送り出す方向である「前記速度V1」に相当する。引用文献1発明において、「切断刃の回転速度を、光ファイバテープ心線の走行速度より遅く」していることは、光ファイバテープ心線の走行速度は切断刃の回転速度より大きいことを意味しているから、本願発明の、「前記速度V1が、前記回転刃の周速V2よりも大きい」ことに相当する。

したがって、本願発明と引用文献1発明を対比したときの一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「複数の光ファイバ同士の間に、未硬化の被覆材が進入するように塗布して硬化させることで、前記複数の光ファイバを、前記被覆材で一括被覆する工程と、
一括被覆された前記複数の光ファイバを長手方向に速度V1で送り出しながら、長手方向に直交する幅方向に並べて配置された複数の回転刃を用いて、前記複数の光ファイバ同士の間に位置する前記被覆材を、長手方向に所定の間隔を空けて間欠的に切断する工程と、を有し、
前記複数の回転刃は、前記回転刃の外周縁の移動方向と前記複数の光ファイバの送り出し方向とが、前記回転刃と前記被覆材とが接触する部分において一致する方向に回転し、
前記速度V1が、前記回転刃の周速V2よりも大きい、間欠固定テープ心線の製造方法。」

[相違点1]
複数の回転刃が、本願発明において、複数の光ファイバの「長手方向に直交する幅方向に並べて配置され」ているが、引用文献1発明において、切断刃はそのように配置されていない点。

2 判断
上記相違点1について検討する。

引用文献1発明において、光ファイバテープ心線を順次切断するか同時に切断するかのいずれを選択するかは当業者であれば適宜選択可能なものであるから、ここで、「光ファイバの長手方向に直交する幅方向に配置された複数の回転刃を用いて、被覆により一体化された光ファイバテープ心線を間欠的に切断することにより、間欠切込み光ファイバテープ心線を製造する」という周知技術1を適用し、上記相違点1に係る構成を備えたものとすることは当業者が容易になし得たことである。

ここで、審判請求人(出願人)が、審判請求書において、引用文献1発明は、1つの回転刃を入れた際に回転刃を中心として光ファイバテープ心線が左右に広がるように逃げるようにすることを前提としており、複数の回転刃を幅方向に並べて配置することを予定しておらず、引用文献1発明において、周知例2、3のように刃を幅方向に並べると、刃同士の間で挟まれた光ファイバについては幅方向で動くことができず、幅方向で圧縮されてしまったり、刃が当たることで光ファイバに損傷を与えたりすることから、このような組み合わせは当業者が容易になし得たものでないことを主張していることから、以下、この主張について検討する。

引用文献1発明は、引用文献1の請求項5に記載されているとおり、光ファイバテープ心線の幅方向の位置決めのために切断ローラに鍔部を設けたことを主たる特徴とするものである。

ローラの鍔部は位置決めのためのものであるが、引用文献1発明は、切断時に回転刃と鍔部とにより光ファイバが圧縮されないように回転刃の幅を考慮して設計したものであることは明らかである(引用文献1の図2(C)を参照)。

そうすると、引用文献1発明に周知技術1を適用する場合においても、上記事項を考慮する必要があるのであるから、その場合の設計において考慮すべき回転刃の幅は、当然、複数の回転刃のそれぞれの幅の合計となるだけであり、その場合に上記主張のような問題が生じることはなく、このような適用は当業者にとって特に困難なことではない。

これに対し、審判請求人は1つのみの回転刃の幅を前提として上記主張をしているものであるが、上記のとおり、引用文献1発明に周知技術1を適用する際には、幅方向に配置される複数の回転刃のそれぞれの幅の合計を考慮して切断ローラの鍔部を設計すればよいものであるから、審判請求人の主張は採用できない。

さらに、複数の回転刃を幅方向に並べた構成は、本願発明の構成でもあるが、本願発明と引用文献1発明を対比したときの相違点は上記相違点1のみであって、本願発明がそれ以外に相違点となる発明特定事項を有していることはなく、引用文献1発明に周知技術1を適用する場合に、かかる点で光ファイバに損傷を与えるといった不利な点を有するとすると、同様の不利な点は本願発明も有しているはずである。そうすると、上記相違点1に係る構成から、引用文献1発明への周知技術1の適用に困難性があり、本願発明が進歩性を有するとする上記主張は本願発明の構成とも矛盾するものである。このことからも審判請求人の主張は採用できない。

したがって、上記のような審判請求人の主張は採用できず、本願発明は、引用文献1及び周知例2、3に記載された周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-02-06 
結審通知日 2019-02-12 
審決日 2019-02-25 
出願番号 特願2016-254763(P2016-254763)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岸 智史  
特許庁審判長 西村 直史
特許庁審判官 古田 敦浩
野村 伸雄
発明の名称 間欠固定テープ心線の製造方法  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 清水 雄一郎  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 小室 敏雄  

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