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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B63H
管理番号 1350949
審判番号 不服2016-6542  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-02 
確定日 2019-04-12 
事件の表示 特願2014-543440号「船舶用エンジンのハイブリッド燃料供給システム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年5月1日国際公開、WO2014/065617、平成27年1月8日国内公表、特表2015-500759号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯及び本願発明
本願は、2013年10月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年10月24日 韓国(KR)、2013年5月23日 韓国(KR))を国際出願日とする出願であって、平成27年12月22日付けで拒絶査定がされ、平成28年5月2日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成29年3月22日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年7月25日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1?4に係る発明は、平成29年7月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

「LNG貯蔵タンクに貯蔵されたLNGから発生するBOGを圧縮する圧縮装置と、
前記LNG貯蔵タンクに貯蔵されたLNGが供給されて加圧する高圧ポンプと、
前記高圧ポンプで加圧された前記LNGを気化させる気化器と、を含み、
前記圧縮装置が、複数のコンプレッサ及び複数のインタークーラを含む多段圧縮機であって、BOGを多段圧縮機だけで150乃至400barに圧縮可能である燃料供給システムにて、少なくとも天然ガスを燃料として使用可能な二元燃料エンジンと、150乃至400barに圧縮された高圧ガスを燃料として使用する船舶用エンジンとに燃料を供給するための燃料供給方法において、
前記二元燃料エンジンに、前記多段圧縮機に含まれる複数のコンプレッサのうちの一部を経て圧縮された前記BOGを供給し、
前記LNG貯蔵タンクから発生する前記BOGを1セットのみの前記多段圧縮機により150乃至400barに圧縮してから前記船舶用エンジンまで供給する経路を第1流路、前記LNG貯蔵タンクに貯蔵された前記LNGを前記高圧ポンプにより150乃至400barに加圧してから前記気化器を介して前記船舶用エンジンまで供給する経路を第2流路とし、これら二元化された燃料供給流路の第1流路と第2流路との少なくとも一方により前記船舶用エンジンに燃料を供給し、
前記多段圧縮機に故障が生じた場合に、第2流路によりLNG貯蔵タンクに貯蔵された前記LNGを前記船舶用エンジンに燃料として供給することで前記多段圧縮機に対して前記高圧ポンプが重複性を満たすようにしたことを特徴とする燃料供給方法。」

第2.刊行物
1.刊行物に記載された事項
当審拒絶理由で引用した、本願の優先日前に頒布された(「Japanese Shipyards' Technical Seminar from 2nd September to 8th September 2012 in Copenhagen」におけるTuesday 4th September 12:30?15:45のセッションで配布された。)刊行物である「LNG as fuel for 2-stroke propulsion of Merchant ships. Sept.2012 MAN Diesel&Turbo」には以下の事項が記載されている。

(1a)「LNG as fuel for 2-stroke propulsion of Merchant Ships.」(1頁中央欄:当審訳「商業船の2ストローク推進用燃料としてのLNG」)

(1b)スライド番号〈20〉には以下の図が示されている。


(1c)引用文献1には、上記(1b)のとおり、LNGカーゴタンクに貯蔵されたLNGから発生するBOGを圧縮するBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)と、前記LNGカーゴタンクに貯蔵されたLNGが供給されて加圧するHP LNGポンプ(HP LNG Pump)と、前記HP LNGポンプで加圧された前記LNGを気化させるHP気化器(HP Vaporiser)と、を含む燃料供給システムにて、DF発電機(DF Gensete)とME-GIエンジン(ME-GI)とに燃料を供給するための燃料供給方法が図示されているといえるところ、かかる図面により、さらに以下の事項が認定できる。
ア.BCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)が、複数のコンプレッサを含む多段圧縮機であって、BOGを多段圧縮機だけで300barに圧縮可能であること。

イ.BOGを燃料として使用可能なDF発電機(DF Gensete)は、並列的に2セット配置された各々のBCA Laby-GI圧縮機に含まれる複数のコンプレッサのうちの一部を経て圧縮されたBOGが供給可能であること。

ウ.LNGカーゴタンク(LNG Cargo Tanks)から発生するBOGを並列的に2セット配置された各々の多段圧縮機により300barに圧縮してからME-GIエンジン(ME-GI)まで供給可能な経路をBOGの流路、前記LNGカーゴタンク(LNG Cargo Tanks)に貯蔵されたLNGをHP LNGポンプ(HP LNG Pump)とHP気化器(HP Vaporiser)を介して300barに加圧してから前記ME-GIエンジン(ME-GI)まで供給する経路をLNGの流路とし、二元化された燃料供給流路によりBOGの流路とLNGの流路によりME-GIエンジン(ME-GI)に燃料を供給すること。

したがって、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「LNGカーゴタンクに貯蔵されたLNGから発生するBOGを圧縮するBCA Laby-GI圧縮機と、
前記LNGカーゴタンクに貯蔵されたLNGが供給されて加圧するHP LNGポンプと、
前記HP LNGポンプで加圧された前記LNGを気化させるHP気化器と、を含み、
前記BCA Laby-GI圧縮機が、複数のコンプレッサを含む多段圧縮機であって、BOGを多段圧縮機だけで300barに圧縮可能である燃料供給システムにて、BOGを燃料として使用可能なDF発電機と、300barに圧縮された高圧ガスを燃料として使用するME-GIエンジンとに燃料を供給するための燃料供給方法において、
前記DF発電機に、並列的に2セット配置された各々の前記BCA Laby-GI圧縮機に含まれる複数のコンプレッサのうちの一部を経て圧縮された前記BOGが供給可能であり、
前記LNGカーゴタンクから発生する前記BOGを並列的に2セット配置された各々の前記BCA Laby-GI圧縮機により300barに圧縮してから前記ME-GIエンジンまで供給可能な経路をBOGの流路、前記LNGカーゴタンクに貯蔵された前記LNGを前記HP LNGポンプとHP気化器を介して300barに加圧してから前記ME-GIエンジンまで供給する経路をLNGの流路とし、これら二元化された燃料供給流路のBOGの流路とLNGの流路とにより前記ME-GIエンジンに燃料を供給する燃料供給方法。」

第3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、
1.後者の「LNGカーゴタンク」は前者の「LNG貯蔵タンク」に相当し、以下同様に「BCA Laby-GI圧縮機」は「圧縮装置」に、「HP LNGポンプ」は「高圧ポンプ」に、「HP気化器」は「気化器」に、「燃料供給システム」は「燃料供給システム」に、「ME-GIエンジン」は「船舶用エンジン」に、それぞれ相当する。

2.後者の「300bar」は前者の「150乃至400bar」の数値範囲を充足するから、後者の「前記BCA Laby-GI圧縮機が、複数のコンプレッサを含む多段圧縮機であって、BOGを多段圧縮機だけで300barに圧縮可能である」ことと前者の「前記圧縮装置が、複数のコンプレッサ及び複数のインタークーラを含む多段圧縮機であって、BOGを多段圧縮機だけで150乃至400barに圧縮可能である」こととは、「前記圧縮装置が、複数のコンプレッサ含む多段圧縮機であって、BOGを多段圧縮機だけで150乃至400barに圧縮可能である」ことの限度で共通する。

3.後者の「BOG」が天然ガスであること及び「DF発電機」の「DF」は「Duel Fuel」(二元燃料)の略称であることは、船舶用エンジンの分野において技術常識であるから、後者の「BOGを燃料として使用可能なDF発電機」は前者の「少なくとも天然ガスを燃料として使用可能な二元燃料エンジン」に相当し、後者の「前記DF発電機に、並列的に2セット配置された各々の前記BCA Laby-GI圧縮機に含まれる複数のコンプレッサのうちの一部を経て圧縮された前記BOGが供給可能であ」ることは前者の「前記二元燃料エンジンに、前記多段圧縮機に含まれる複数のコンプレッサのうちの一部を経て圧縮された前記BOGを供給」することに相当する。

4.後者の「前記LNGカーゴタンクから発生する前記BOGを並列的に2セット配置された各々の前記BCA Laby-GI圧縮機により300barに圧縮してから前記ME-GIエンジンまで供給可能な経路をBOGの流路」とすることと前者の「前記LNG貯蔵タンクから発生する前記BOGを1セットのみの前記多段圧縮機により150乃至400barに圧縮してから前記船舶用エンジンまで供給する経路を第1流路」とすることとは、「前記LNG貯蔵タンクから発生する前記BOGを前記多段圧縮機により150乃至400barに圧縮してから前記船舶用エンジンまで供給する経路を第1流路」とすることの限度で共通する。
また、前者の「前記LNGを前記高圧ポンプにより150乃至400barに加圧してから前記気化器を介して前記船舶用エンジンまで供給する」ことは、本願明細書の段落【0044】の「高圧ガス噴射エンジン100は、150乃至400barの高圧に圧縮された高圧ガスを燃料として使用する。」との記載によれば、気化器を介した後のLNGの圧力が150乃至400barであると解されるから、後者の「前記LNGカーゴタンクに貯蔵された前記LNGを前記HP LNGポンプとHP気化器を介して300barに加圧してから前記ME-GIエンジンまで供給する経路をLNGの流路」とすることは前者の「前記LNG貯蔵タンクに貯蔵された前記LNGを前記高圧ポンプにより150乃至400barに加圧してから前記気化器を介して前記船舶用エンジンまで供給する経路を第2流路と」することに相当する。
さらに、後者の「これら二元化された燃料供給流路のBOGの流路とLNGの流路とにより前記ME-GIエンジンに燃料を供給」することと前者の「これら二元化された燃料供給流路の第1流路と第2流路との少なくとも一方により前記船舶用エンジンに燃料を供給」することとは、「これら二元化された燃料供給流路の第1流路と第2流路とにより前記船舶用エンジンに燃料を供給」することの限度で共通する。

そうすると、両者は、本願発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「LNG貯蔵タンクに貯蔵されたLNGから発生するBOGを圧縮する圧縮装置と、
前記LNG貯蔵タンクに貯蔵されたLNGが供給されて加圧する高圧ポンプと、
前記高圧ポンプで加圧された前記LNGを気化させる気化器と、を含み、
前記圧縮装置が、複数のコンプレッサを含む多段圧縮機であって、BOGを多段圧縮機だけで150乃至400barに圧縮可能である燃料供給システムにて、少なくとも天然ガスを燃料として使用可能な二元燃料エンジンと、150乃至400barに圧縮された高圧ガスを燃料として使用する船舶用エンジンとに燃料を供給するための燃料供給方法において、
前記二元燃料エンジンに、前記多段圧縮機に含まれる複数のコンプレッサのうちの一部を経て圧縮された前記BOGを供給し、
前記LNG貯蔵タンクから発生する前記BOGを前記多段圧縮機により150乃至400barに圧縮してから前記船舶用エンジンまで供給する経路を第1流路、前記LNG貯蔵タンクに貯蔵された前記LNGを前記高圧ポンプにより150乃至400barに加圧してから前記気化器を介して前記船舶用エンジンまで供給する経路を第2流路とし、これら二元化された燃料供給流路の第1流路と第2流路とにより前記船舶用エンジンに燃料を供給これら二元化された燃料供給流路の第1流路と第2流路とにより前記船舶用エンジンに燃料を供給する燃料供給方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
「多段圧縮機」に関し、
本願発明は、「複数のインタークーラを含」み、かつ「1セットのみ」が設けられるのに対し、
引用発明は、インタークーラを含むものであるか明らかでなく、「並列的に2セット配置され」ていて、各々のBCA Laby-GI圧縮機によりDF発電機及びME-GIエンジンに燃料が供給可能である点。

[相違点2]
本願発明は、「二元化された燃料供給流路の第1流路と第2流路との少なくとも一方により前記船舶用エンジンに燃料を供給」する構成であり、「前記多段圧縮機に故障が生じた場合に、第2流路によりLNG貯蔵タンクに貯蔵された前記LNGを前記船舶用エンジンに燃料として供給することで前記多段圧縮機に対して前記高圧ポンプが重複性を満たすようにした」のに対し、
引用発明は、かかる事項が特定されていない点。

[相違点1]についての検討
LNGタンクから発生するBOGを圧縮するための多段圧縮機おいて、複数のインタークーラを含ませることは、例えば、当審拒絶理由で引用した、本願の優先日前に電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった引用文献3である国際公開第2012/128447号の段落[84](仮訳として特表2014-515072号公報の段落【0062】を参照。)及び【図3a】に記載されているように従来周知の技術である。
また、BCA Laby-GI圧縮機(本願発明の「多段圧縮機」に相当。)を1セットのみにするか、並列的に2セット配置されていて、各々のBCA Laby-GI圧縮機によりDF発電機及びME-GIエンジンに燃料を供給可能にするかは、BCA Laby-GI圧縮機の点検時の代替やフェイルセルフ等の必要性、コスト、設置スペース等の条件によりユーザが選択し得る程度ものである。
以上のことから、引用発明の「BCA Laby-GI圧縮機」において、複数のインタークーラを含み、かつ上記必要性、コスト、設置スペース等の条件を勘案して、1セットのみを設けることに変更することは当業者であれば適宜になし得ることである。
よって、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点2]についての検討
LNG船において、燃料ガス調整プラントの重要な構成要素(高圧ガス圧縮機、熱交換器)の故障に対する対応として、代替の供給システムのバックアップにより通常航海に支障をきたさないシステム構成にすることは技術常識である。(例えば、「高圧噴射式二元燃料ディーゼル機関の安全基準」角張昭介、日本舶用機関学会誌、第23巻、第8号、昭和63年8月発行の特に(15)ページの左欄26行?末行を参照。)
そして、上記相違点1で検討したように、引用発明において、BCA Laby-GI圧縮機を1セットのみを設けることに変更した際に、該BCA Laby-GI圧縮機が故障した場合には、BOGの流路からME-GIエンジンまでのガス供給が停止若しくは滞ることになるから、LNG船の航行を継続するためには、ME-GIエンジンへの代替の燃料供給方法を構築することは上記技術常識に照らし自然な発想といえる。
そして、ME-GIエンジンへの代替の燃料供給方法を構築するにあたり、BOGの量はLNGカーゴタンク内のLNGの量や温度等に応じて変化することは技術常識であるから、引用発明は、BOGの量が不足する場合に、LNGの流路からME-GIエンジンへ燃料を供給することが当業者であれば容易に理解できるものであるところ、既にME-GIエンジンへの代替の燃料供給方法として「前記LNGカーゴタンクに貯蔵された前記LNGを前記HP LNGポンプとHP気化器を介して300barに加圧してから前記ME-GIエンジンまで供給する経路をLNGの流路とし」て燃料供給することが確立されていること、上記引用文献3の段落[153](仮訳として特表2014-515072号公報の段落【0123】を参照。)には「ボイルオフガス再液化装置が作動しない、または貯蔵タンク11で発生するボイルオフガスの量が少ない場合、貯蔵タンク11内に設置されたLNG供給ポンプ57及びLNG供給ラインL7を介して貯蔵タンク11に収容されたLNGをバッファタンク31に供給することによって燃料を供給できる。」と記載されているように、BOGの流路を構成するシステムに故障がある場合に、LNGの流路から燃料供給することが従来周知の技術と捉えられることを勘案して、引用発明において、二元化された燃料供給流路のBOGの流路とLNGの流路との少なくとも一方により前記船舶用エンジンに燃料を供給する構成にするとともに、BCA Laby-GI圧縮機に故障が生じた場合に、LNGの流路によりLNGカーゴタンクに貯蔵されたLNGをME-GIエンジンに燃料として供給することで前記BCA Laby-GI圧縮機に対してHP LNGポンプが重複性を満たすようにすることは、当業者であれば適宜になし得ることである。
よって、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

本願発明の作用効果をみても、引用発明、各周知技術及び技術常識から予測し得る範囲内のものであって、格別でない。

したがって、本願発明は引用発明、各周知技術及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

第4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、各周知技術及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-08 
結審通知日 2017-11-14 
審決日 2017-11-27 
出願番号 特願2014-543440(P2014-543440)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B63H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 亮赤間 充  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 島田 信一
和田 雄二
発明の名称 船舶用エンジンのハイブリッド燃料供給システム及び方法  
代理人 特許業務法人青莪  

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