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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D21H
管理番号 1351007
審判番号 不服2018-5056  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-12 
確定日 2019-04-17 
事件の表示 特願2013- 74157号「顔料塗工紙の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月23日出願公開、特開2014-198919号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年3月29日の出願であって、平成30年1月30日付けで拒絶査定がされた。これに対し、平成30年4月12日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、当審より平成30年10月25日付けで拒絶理由が通知され、平成30年12月14日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明について
1 本願発明
特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明は、平成30年12月14日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「カーテン塗工により塗工白板紙を製造する方法であって、
連続真空脱泡機を用いて泡を散乱飛散させて顔料塗工液を脱泡し、顔料塗工液中のエアー量を0.10%以下にすることと、
坪量が100g/m^(2)以上である多層抄き原紙に顔料塗工液を100?800m/分の塗工速度でカーテン塗工することと、
を含み、顔料塗工液が、顔料100重量部当たり60?100重量部の紡錘状軽質炭酸カルシウムを含有し、顔料塗工液の固形分濃度が40?75重量%である、上記方法。」

2 引用例
(1)引用例1
当審の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特表2010-504851号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 特許請求の範囲
(ア)「【請求項1】
カーテンコータで繊維ウェブにコーティングする方法であって、
塗工カラーは、前記コータに供給される前に、脱ガス処理され、
当該方法は、脱ガス処理プロセスにおいて、真空脱ガス器を使用して、前記塗工カラーのガス成分によって生じる有害な欠陥を除去するステップを有し、
前記脱ガス器には、約2から35%の範囲の前記ガス成分を有する塗工カラーが供給され、
前記脱ガス処理プロセスは、前記塗工カラーの空気量が約0から約0.25%まで低減されるように行われ、
当該方法は、前記塗工カラーに残留し得るガスバブルの寸法が、約0.1mm未満となるように、ガスバブルを除去するステップを有し、これにより、ガスバブルによって生じ、繊維ウェブの上部に存在するコーティングに生じ得る前記欠陥の寸法は、それぞれ、約0.1mm未満となることを特徴とする方法。」
(イ)「【請求項2】
前記真空脱ガス器を使用するステップを有する当該方法において、前記塗工カラーは、真空タンク内に収容された、実質的に鉛直シャフトの周囲を回転するドラムの底部区画に供給され、
前記ドラムの回転の動きにより、前記塗工カラーは、前記ドラムの内壁に沿って上昇し、前記ドラムの上端から前記真空タンクの内壁の方に、薄膜状に排出され、
ここから、前記塗工カラーは、下向きに流れ、
当該方法は、前記塗工カラーが前記ドラムの壁に沿って、階段状に上昇するように適合され、前記塗工カラーは、少なくとも2つの異なる階段上に、薄いかすんだ膜を形成し、
これにより、前記塗工カラーに含まれる前記ガスバブルは、崩壊し、および/または前記塗工カラーから逸散し、前記タンクから排出されることを特徴とする請求項1に記載の方法。」
(ウ)「【請求項8】
コーティング印刷紙、または印刷表面厚紙を形成するための、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の方法の使用。」
イ 明細書
(ア)「【0004】
多くの品質の紙及び厚紙があり、これらは、秤量により、2つのクラスに分類される:紙は、単一の層(ply)の状態であり、秤量は、25?300g/m^(2)である;厚紙は、複数の技術により製造され、秤量は、100?600g/m^(2)である。前述の通り、紙と厚紙の間の区別は、恣意的なものであり、最軽量の秤量の厚紙は、最重量の紙よりも軽い。一般に、紙は、印刷に使用され、厚紙は、梱包に使用される。紙および厚紙は、コーティングされてもされなくても良い。」
(イ)「【0012】
厚紙は、秤量に関して、不均一な群で構成され、秤量が500g/m^(2)以上の高品質、及び秤量が約120g/m^(2)の低品質を含み、想定される品質の範囲は、新品ストックから、100%リサイクルストックまでの範囲であり、未コーティングから複数コーティングまでの範囲である。コーティング厚板は、以下を含む:新品ストックを基本とする折り畳みボール紙(FBB)、ソリッド漂白厚紙(SBB)、リサイクルストックを基本とする液体梱包厚紙(WLC)、コーティングリサイクル厚紙。」
(ウ)「【0014】
プロセス産業分野では、通常、空気のようなガスと、処理プロセスに使用される液体および組成物との混合処理は、多くの問題の発生原因となる。特に、紙または対応する繊維ウェブ材料のカーテンコーティング処理プロセスでは、塗工カラー内のガスまたはガスバブルの存在は、コーティング処理プロセスに影響を及ぼし、紙の表面に、不規則性、さらにはシミが生じ、これらは、最終的にコーティングの穴となる。複数のカーテンコーティング処理において、脱ガスの意味は、より重要となる。すなわち、コーティングの回数が、例えば3または4回の場合、各層を形成する際に使用されるコーティング処理では、できる限り、脱ガス化させる必要がある。」
(エ)「【0027】
供給タンク4に塗工カラーを通過させずに、塗工カラーを貯蔵タンクに戻す手段は、適当なバルブ素子(図示されていない)を有しても良く、これを使用して、通常作動において、脱ガス処理プロセス2から供給された、余分な塗工カラーが貯蔵タンク1に戻される。
【0028】
通常作動状態の機器を用いて、塗工カラーは、標準的な量が貯蔵タンク1から、ポンプ6Aを用いて、脱ガス処理プロセス2に供給される。これにより、脱ガス器の作動が安定化され、より一定な結果が得られる。同様に、標準的な量が脱ガス処理された塗工カラーは、脱ガス処理プロセスから、ポンプ6Bにより、供給タンク4に供給される。供給タンク4は、例えば、レベル測定機器を備え、得られたデータに基づいて、供給タンクには、特定の時間に、塗工カラーの必要量が供給され、余分な塗工カラーは、貯蔵タンク1の方に誘導される。脱ガス処理プロセスからの塗工カラーの供給量は、0から、コーティング処理プロセスに必要な量の約200%の範囲内であることが好ましい。また、脱ガス器からの塗工カラーの供給量は、供給タンク4を介さず、直接コーティング処理プロセスに送られるように適合されても良い。
【0029】
図2を参照すると、この図には、本発明の方法を実施することが可能な真空脱ガス器の一実施例の原理の概略図が示されている。この真空脱ガス器は、出願人の先の出願である、FI20055280号に、より詳しく示されている。機器は、真空タンク13の内部に設置された回転可能なドラム18を有し、このドラムは、モータ21により駆動される。ドラムは、階段状に構成された内表面を有し、本発明の実施例では、これは、3つのステージ10、11、12を有する。塗工カラーは、前記各ステージの回転の動きに応じて、上方に上がり、薄いかすんだ状態の膜を形成する。最終ステージに到達した際、塗工カラーの膜は、ドラムの上端から、真空タンクの内壁に供給され、さらにこれに沿って、タンクの底部区画に供給され、排出開口17により、適用部位に搬送される。この上部区画において、タンク13には、機器20が提供されることが好ましく、これにより、かすんだ膜は、そのままの状態で画像化され、塗工カラーには、空気バブルが残らなくなる。画像化手段20によって形成される視覚化情報を用いて、脱ガス器の作動パラメータが制御される。
【0030】
例えば図2に示すように、ステージは、一連の凹部底部区画により構成され、この前方端部10a、11a、12aは、ステージの高さを定め、すなわち得られる薄いかすんだ膜の高さを定める。効率的な脱ガス処理および小型機器構造を提供するため、一連のステージ同士のレベルの差は、20mmら150mmの範囲内であることが好ましく、40mmから100mmの範囲であることがより好ましい。ステージ同士の半径方向の距離、すなわち得られるかすんだ膜の幅は、20mmから200mmの範囲であることが好ましく、40mmから120mmの範囲であることがより好ましい。
【0031】
脱ガス器のこの対策により、塗工カラーの脱ガス処理が助長され、容量が向上する。また、この対策により、処理プロセスの初期の追跡が可能となり、機器の作動パラメータ全体が、この追跡に基づいて、制御されるようになる。作動パラメータには、例えば、ドラム18の回転速度、タンク13の真空レベル、タンク13の底部に存在する液体のレベルが含まれる。液体レベルは、ドラムに入る塗工カラーの供給速度、およびタンクから放出される脱ガス処理後の塗工カラーの放出速度に、影響を受ける。
【0032】
塗工カラーのかすみ状態の多ステージ化により、空気の除去が助長され、これにより、絶対圧力レベルを、従来の値よりも高い、所与の下限に設定することが可能となり、これにより、塗工カラー品質の劣化が回避される。従来の技術では、極めて低い圧力レベルのため、ある塗工カラー成分が気化してしまうおそれがある。
【0033】
そのような多ステージの実施例では、塗工カラーからガスバブルが逸散する際の、十分な時間が提供され、これにより、0.1mm未満のオーダーの直径のガスバブルに対しても、塗工カラーから排出されるのに十分な時間が提供され、塗工カラーに残留するガスバルブは、視認できない程十分に小さな寸法となり、これにより、繊維ウェブの上部に、コーティングが施工されるようになる。また、真空脱ガス器は、例えば、本願出願人の先の出願であるFI20055713号及びFI20055704号に記載されているような対策を有しても良く、これは、FI20055704号に記載されているような、マルチ作動対策であっても良く、この例では、単一の機器を使用して、2つの別個の作動の際に脱ガスが行われる、2つの別個のコンパートメントが形成された真空作動脱ガス器が使用される。」
(オ)「



(2) 引用例1に記載された発明
引用例1の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項8には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「カーテンコータで繊維ウェブにコーティングすることで、コーティング印刷紙、または印刷表面厚紙を形成する方法であって、
塗工カラーは、前記コータに供給される前に、脱ガス処理され、
当該方法は、脱ガス処理プロセスにおいて、真空脱ガス器を使用して、前記塗工カラーのガス成分によって生じる有害な欠陥を除去するステップを有し、
前記脱ガス器には、約2から35%の範囲の前記ガス成分を有する塗工カラーが供給され、
前記脱ガス処理プロセスは、前記塗工カラーの空気量が約0から約0.25%まで低減されるように行われ、
当該方法は、前記塗工カラーに残留し得るガスバブルの寸法が、約0.1mm未満となるように、ガスバブルを除去するステップを有し、これにより、ガスバブルによって生じ、繊維ウェブの上部に存在するコーティングに生じ得る前記欠陥の寸法は、それぞれ、約0.1mm未満となることを特徴とする方法。」

(3)引用例2
当審の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2012-197545号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、印刷用塗工紙およびその製造方法に関する。特に、本発明はカーテン塗工方式により得られる印刷用塗工紙およびその製造方法に関する。」
イ 「【0055】
[顔料]
本発明で用いる塗工液のうち一の塗工液は顔料を含むことが望ましい。顔料は制限されず、塗工紙用に従来から用いられている顔料を使用できる。例えば、カオリン、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、ケイ酸、ケイ酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイト等の無機顔料、プラスチックピグメント等の有機顔料、有機・無機複合顔料等を使用することができる。中でも重質炭酸カルシウムまたは軽質炭酸カルシウムが好ましい。これらの顔料は単独で使用できるが、必要に応じて二種以上を混合して使用してもよい。
【0056】
本発明においては、塗工紙品質や塗工液の脱泡性の点から、板状の形状を有する顔料よりも球状の形状に近い顔料を塗工液に配合することが好ましい。具体的には、以下に定義される扁平率が2.0以下の顔料を使用することが好ましく、1.5以下の顔料を使用することがより好ましい。
【0057】
扁平率は、BET法で求めた顔料の比表面積を、レーザー回析式で測定した粒度分布から顔料粒子が完全球体であると仮定して算出して求めた比表面積で除した値で定義され、以下の式で表される。
【0058】
扁平率=BET法で求めた比表面積/レーザー回析式粒度分布から顔料粒子が完全球体であると仮定して算出した比表面積
扁平率の数値が高いほど顔料の扁平度が高く、扁平率の数値が1に近いほど顔料が完全球体に近いことを意味する。扁平率が2.0以下の顔料を用いると塗工紙品質が良好になる理由の詳細は明らかでないが、以下のように推察される。非接触式の塗工方式であるカーテン塗工は、接触式の塗工方式と比較して、扁平な顔料を使用した場合に顔料が原紙の進行方向へ配向しづらい傾向がある。そのため、扁平な顔料を多く使用すると顔料が規則的に配向できず、塗工紙表面の平滑性が低下し、また、塗工層の空隙が多くなり、印刷時におけるインキの浸透が激しくなり、印刷光沢度が低下すると考えられる。ただし、本発明はこの考察に拘束されない。
【0059】
扁平率が2.0以下の顔料を使用すると、塗工液の脱泡性が向上し、クレーターの発生も抑制される。すなわち、扁平率が2.0を超える扁平な顔料を使用すると、脱泡する際に扁平な顔料によって泡の移動が妨げられるため脱泡性が低下しやすいが、扁平率が2.0以下の球状に近い顔料を使用すると泡の移動が阻害されにくく、脱泡性が低下しにくい。
【0060】
また、本発明においては、顔料として、紡錘状カルサイト結晶の軽質炭酸カルシウムを湿式粉砕することにより得られる炭酸カルシウムであって、X線透過式粒度分布測定器で測定される平均粒子径(d50:積算50重量%の粒子径)が0.1?0.5μmであり、BET比表面積が10?30m^(2)/gであり、X線透過式粒度分布測定器で以下のように測定される粒度分布のシャープ度が50以上である炭酸カルシウムを使用することが好ましい。このような炭酸カルシウムを顔料として用いると、裏抜けに優れた印刷用塗工紙が得られる。
【0061】
シャープ度=(d30/d70)×100
式中、d30は積算30重量%の粒子径であり、d70は積算70重量%の粒子径である。
【0062】
前記の粉砕前の軽質炭酸カルシウムとしては、紡錘状の一次粒子が凝集してロゼッタ形状の二次粒子を形成したカルサイト結晶を用いることが好ましい。また、粉砕前の軽質炭酸カルシウムのX線透過式粒度分布測定器で測定される平均粒子径(d50)は1.4?3.0μmであり、BET比表面積は4?12m^(2)/gであることがより好ましい。さらに、湿式粉砕にはマルチパス型粉砕機を使用することが好ましい。このように粉砕して得られる炭酸カルシウムの添加量は、顔料100重量部当たり40?100重量部が好ましく、60?90重量部がより好ましい。」

(4)引用例3
当審の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、国際公開第2011/105552号(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「本発明は、印刷用塗工紙および印刷用塗工紙の製造方法に関し、特に、カーテン塗工方式により得られる印刷用塗工紙および印刷用塗工紙の製造方法に関する。」([0001])
イ 「また、本発明においては、顔料として、紡錘状カルサイト結晶の軽質炭酸カルシウムを湿式粉砕することにより得られる炭酸カルシウムであって、X線透過式粒度分布測定器で測定される平均粒子径(d50:積算50重量%の粒子径)が0.1?0.5μmであり、BET比表面積が10?30m^(2)/gの範囲であり、X線透過式粒度分布測定器で測定される下式: シャープ度=(d30/d70)×100 [式中、d30は積算30重量%の粒子径であり、d70は積算70重量%の粒子径である]
で表される粒度分布のシャープ度が50以上である炭酸カルシウムを使用することが好ましい。このような炭酸カルシウムを顔料として使用すると、裏抜けに優れた印刷用塗工紙が得られる。
また、本発明において上記の炭酸カルシウムを使用する場合、粉砕前の軽質炭酸カルシウムとして、紡錘状の一次粒子が凝集してロゼッタ形状の二次粒子を形成したカルサイト結晶を用いることが好ましい。この際、粉砕前の軽質炭酸カルシウムのX線透過式粒度分布測定器で測定される平均粒子径(d50)が1.4?3.0μmであり、BET比表面積が4?12m ^(2) /gであることがより好ましい。さらに、本発明において上記の炭酸カルシウムを使用する場合、マルチパス型粉砕機を使用して湿式粉砕を行なうことが好ましい。この粉砕した炭酸カルシウムの配合量は、顔料100重量部当たり40?100重量部が好ましく、60?90重量部がより好ましい。」([0041]、[0042])
ウ 「本発明において、カーテン塗工の塗工速度は、いずれの速度でもよいが、1000m/分以下とするとより優れた効果が奏されるので好ましい。
本発明の印刷用塗工紙の製造方法は、白板紙などの板紙にも適用できる。」([0058]、[0059])

(5) 引用例4
当審の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2009-41131号公報(以下「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
少なくとも2層以上抄き合わされた原紙の片面または両面に顔料と接着剤を主成分とする顔料塗工層を設ける塗工白板紙の製造方法において、該顔料塗工層をカーテン塗工方式により塗設し、かつ該顔料塗工層の不透明度が50%以上であることを特徴とする塗工白板紙の製造方法。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、古紙を配合した原紙に顔料塗工層を設ける塗工白板紙に関し、古紙由来のチリ、黒点を隠蔽し、白色ムラを抑え白紙面感が良化した塗工白板紙の製造方法およびその塗工白板紙に関するものである。」
ウ 「【0021】
実施例1
(原紙の抄造)
LBKP70%、NBKP20%、脱墨古紙10%の割合で配合したパルプを使用して白色度79.7%、米坪40g/m^(2)の表層、LBKP40%、脱墨古紙60%の割合で配合したパルプを使用して白色度66.7%、米坪40g/m^(2)の表下層、脱墨しない雑誌古紙のパルプを使用して米坪150g/m^(2)の中層および脱墨しない新聞古紙50%、雑誌古紙25%、段ボール古紙25%の割合で配合したパルプを使用して米坪50g/m^(2)の裏層を、それぞれ抄造し抄合わせ、プレス、乾燥処理を行い米坪280g/m^(2)の塗工白板紙原紙を得た。
【0022】
(顔料塗被液1の調製)
顔料として、No1カオリン(商品名:UW-90、BASF社製)50%、軽質炭酸カルシウム(商品名:TP-123CS、奥多摩工業社製)50%を使用し、分散剤として、顔料に対しポリアクリル酸ソーダ0.2%を添加して、コーレス分散機を用いて固形分濃度が68%の顔料スラリーを調製した。そして、顔料スラリー中の顔料100部に対して、酸化澱粉(商品名:エースA、王子コーンスターチ社製)3部、ガラス転移温度が8℃のスチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:L-1825、旭化成社製)20部(各固形分換算)をそれぞれ添加し、さらに水を加えて固形分濃度が60%、B型粘度が900mPa・sの顔料塗被液1を調製した。
【0023】
(塗工白板紙の作成)
上記原紙の表層に、顔料塗被液1に界面活性剤(商品名:オルフィンWE-003、日信化学株式会社製)を0.2%添加し、固形分濃度30%に希釈した後、カーテンコーターを用いて、片面当たり乾燥質量で7g/m^(2)となるように塗被、乾燥した後、金属ロール表面温度が150℃、2ニップのソフトキャレンダーに通紙して塗工白板紙を得た。この時カーテン塗工における顔料塗被液のB型粘度が60mPa・s、表面張力が30mN/mであった。
【0024】
実施例2
LBKP25%、脱墨古紙75%の割合で配合したパルプを使用して白色度61.9%、米坪40g/m^(2)の表下層とした以外は実施例1と同様にして行い米坪280g/m^(2)の塗工白板紙原紙を得た。
【0025】
上記の原紙に、実施例1の顔料塗被液1に界面活性剤(商品名:オルフィンWE-003、前出)を0.2%添加し、固形分濃度40%に希釈した後、カーテンコーターを用いて、片面当たり乾燥質量で10g/m^(2)となるように塗被、乾燥した以外は実施例1と同様にして行い塗工白板紙を得た。このときの顔料塗被液のB型粘度が200mPa・s、表面張力が30mN/mであった。
【0026】
実施例3
LBKP10%、脱墨古紙90%の割合で配合したパルプを使用して白色度56.1%、米坪40g/m^(2)の表下層とした以外は実施例1と同様にして米坪280g/m^(2)の塗工白板紙原紙を得た。
【0027】
上記の原紙に、実施例1の顔料塗被液1に界面活性剤(商品名:オルフィンWE-003、前出)を0.2%添加し、固形分濃度55%に希釈した後、カーテンコーターを用いて、片面当たり乾燥質量で14g/m^(2)となるように塗被、乾燥した以外は実施例1と同様にして行い塗工白板紙を得た。このときの顔料塗被液のB型粘度が400mPa・s、表面張力が30mN/mであった。」

3 本願発明と引用発明の対比及び当審の判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「コーティング印刷紙、または印刷表面厚紙」と、本願発明の「塗工白板紙」とは、「塗工厚紙」の限りで一致するから、引用発明の「カーテンコータで繊維ウェブにコーティングすることで、コーティング印刷紙、または印刷表面厚紙を形成する」ことと、本願発明の「カーテン塗工により塗工白板紙を製造する」こととは、「カーテン塗工により塗工厚紙を製造する」ことの限りで一致する。

(イ)引用発明の「塗工カラー」と本願発明の「顔料塗工液」とは、「塗工液」の限りで一致する。
そして、引用発明の「前記塗工カラーの空気量が約0から約0.25%まで低減されるように」、「真空脱ガス器を使用して、前記塗工カラーのガス成分によって生じる有害な欠陥を除去するステップ」と、本願発明の「連続真空脱泡機を用いて泡を散乱飛散させて顔料塗工液を脱泡し、顔料塗工液中のエアー量を0.10%以下にすること」とは、「真空脱泡機を用いて塗工液を脱泡すること」の限りで一致する。

(ウ)引用発明の「カーテンコータで繊維ウェブにコーティングする」ことと、本願発明の「坪量が100g/m^(2)以上である多層抄き原紙に顔料塗工液を100?800m/分の塗工速度でカーテン塗工すること」とは、「原紙に塗工液をカーテン塗工すること」の限りで一致する。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「カーテン塗工により塗工厚紙を製造する方法であって、
真空脱泡機を用いて塗工液を脱泡すること、
原紙に塗工液をカーテン塗工することと、
を含む、上記方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
塗工厚紙が、本願発明は、「坪量が100g/m^(2)以上である多層抄き原紙に」カーテン塗工した「塗工白板紙」であるのに対して、引用発明は、コーティング印刷紙、または印刷表面厚紙である点。
<相違点2>
真空脱泡機について、本願発明は、「泡を散乱飛散させて」脱泡する「連続真空脱泡機」であって、「顔料塗工液中のエアー量を0.10%以下にする」のに対して、引用発明は、空気量を約0から約0.25%まで低減するものの、真空脱ガス器が具体的に特定されていない点。
<相違点3>
塗工液について、本願発明では、「顔料塗工液」であって、「顔料塗工液が、顔料100重量部当たり60?100重量部の紡錘状軽質炭酸カルシウムを含有し、顔料塗工液の固形分濃度が40?75重量%であ」って、「100?800m/分の塗工速度で」カーテン塗工されるものであるのに対して、引用発明は、具体的な組成や使用のされ方が不明である点。

(2) 当審の判断
以下、上記相違点について検討する。
<相違点1について>
引用例1には、【0004】に「多くの品質の紙および厚紙があり、これらは、秤量により、2つのクラスに分類される:紙は、単一の層(ply)の状態であり、秤量は、25?300g/m^(2)である;厚紙は、複数の技術により製造され、秤量は、100?600g/m^(2)である。」「厚紙は、梱包に使用される。」、及び【0012】に「コーティング厚板は、以下を含む:新品ストックを基本とする折り畳みボール紙(FBB)、・・・。」(「・・・」は省略を意味する。以下同じ。)と記載されており、100?600g/m^(2)の多層抄き原紙にカーテン塗工した塗工板紙を製造することが示唆されている。
また、塗工白板紙は、周知(例えば、引用例3の[0059]、引用例4の【請求項1】等参照。)である。
したがって、引用発明において、引用例1の上記示唆及び周知の事項から、上記相違点1に係る本願発明の事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである

<相違点2について>
引用例1の【0029】?【0033】及び図2には、ドラムを回転させることで脱ガスを行う真空脱ガス器が記載されており、泡を散乱飛散させて脱泡する連続真空脱泡機といえるものである。
また、泡を散乱飛散させて脱泡する連続真空脱泡機は、周知(必要があれば、特開2012-71259号公報、特開昭56-76214号公報も参照。)である。
そして、引用例1の【0014】には、「特に、紙または対応する繊維ウェブ材料のカーテンコーティング処理プロセスでは、塗工カラー内のガスまたはガスバブルの存在は、コーティング処理プロセスに影響を及ぼし、紙の表面に、不規則性、さらにはシミが生じ、これらは、最終的にコーティングの穴となる。・・・すなわち、コーティングの回数が、例えば3または4回の場合、各層を形成する際に使用されるコーティング処理では、できる限り、脱ガス化させる必要がある。」と記載されており、カーテン塗工において、塗工液中のエアー量が少ないほど好ましいことは技術常識であるから、引用発明において、具体的な脱ガスの程度として、エアー量を0.10%以下に設定することは、当業者であれば設計上適宜なし得たことである。
したがって、引用発明において、真空脱ガス器として、泡を散乱飛散させて脱泡する連続真空脱泡機を用いて、エアー量を0.10%以下にすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点3について>
引用例2(【0055】?【0062】等)、引用例3([0041]?[0042])には、カーテン塗工において、脱泡性の観点から、紡錘状カルサイト結晶の軽質炭酸カルシウムを湿式粉砕した炭酸カルシウムを、顔料100重量部当たり40?100重量部、好ましくは60?90重量部含む塗工液を用いる点が記載されており、顔料100重量部当たり60?100重量部の紡錘状軽質炭酸カルシウムを含有する顔料塗工液を用いることが、記載されている。
また、引用例4(【0021】?【0027】等)には、カーテン塗工において、固形分濃度40%、55%の顔料塗被液を用いる点が記載されている。
さらに、引用例3には、「カーテン塗工の塗工速度は、いずれの速度でもよいが、1000m/分以下とするとより優れた効果が奏されるので好ましい。」([0058])と記載されている。
そして、本願明細書の【0066】を参酌すると、本願発明の塗工速度は、過度に高速になると、クレーターが生じる傾向にあることから、100?800m/分としたものであり、実施例及び比較例においても、300m/分のものしか示されておらず、当該範囲に臨界的意義は認められない。
したがって、引用発明は、カーテン塗工における、塗工液の泡を問題とするものであるから、脱泡性の観点から周知である上記引用例2、3記載の事項を適用することは、当業者が容易に想到し得たことであり、その際に塗工液の固形分濃度及び塗工速度を、上記周知の事項を参酌して、上記相違点3に係る本願発明の程度とすることは、当業者が設計上適宜なし得たことである。

<本願発明の奏する効果について>
そして、本願発明の奏する効果は、引用発明、引用例1?3記載の事項、及び周知の事項から、当業者が予測し得る範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

3 むすび
したがって、本願発明は、引用発明、引用例1?3記載の事項及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


第3 まとめ
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-02-14 
結審通知日 2019-02-15 
審決日 2019-03-06 
出願番号 特願2013-74157(P2013-74157)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (D21H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 大輔  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 竹下 晋司
佐々木 正章
発明の名称 顔料塗工紙の製造方法  
代理人 小笠原 有紀  
代理人 中村 充利  
代理人 新井 規之  
代理人 小野 新次郎  

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