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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F |
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管理番号 | 1351093 |
審判番号 | 不服2018-7749 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-06-05 |
確定日 | 2019-04-25 |
事件の表示 | 特願2016-224416号「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成29年2月9日出願公開、特開2017-29866号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯の概要 本願は、平成24年10月3日に出願した特願2012-221066号の一部を平成28年11月17日に新たな特許出願(特願2016-224416号)としたものであって、平成29年8月4日付けで拒絶の理由が通知され、同年10月17日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成30年2月22日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、それに対して、同年6月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成30年6月5日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成30年6月5日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1?2のうち、請求項1を補正する内容を含むものであり、平成29年10月17日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1における 「【請求項1】 挿入された記憶媒体に記録されている情報に基づいて、遊技球を貸し出すための処理を実行する遊技球貸出処理手段と、 第1の種別に対応する特定遊技状態の生起が決定されたことを含む所定条件が成立した場合に、当該特定遊技状態の終了後における所定契機の発生に応じて、前記記憶媒体の取り出しに関する情報を報知する第1報知制御を実行し、所定の異常の発生を検出した場合に、異常の発生に関する情報を報知する第2報知制御を実行する報知制御手段と、を備え、 前記報知制御手段は、第1報知制御による報知よりも第2報知制御による報知を優先して実行し、第2の種別に対応する特定遊技状態の生起が決定された場合には、第1報知制御による報知を実行しないことを特徴とする遊技機。」は、 審判請求時に提出された手続補正書(平成30年6月5日付け)における 「【請求項1】 挿入された記憶媒体に記録されている情報に基づいて、遊技球を貸し出すための処理を実行する遊技球貸出処理手段と、 特定入球口が開放される特定遊技状態のうち第1の種別に対応する特定遊技状態の生起が決定されたことを含む所定条件が成立した場合に、当該特定遊技状態の終了後における所定契機の発生に応じて、前記記憶媒体の取り出しに関する情報を報知する第1報知制御を実行し、所定の異常の発生を検出した場合に、異常の発生に関する情報を報知する第2報知制御を実行する報知制御手段と、を備え、 前記報知制御手段は、第1報知制御による報知よりも第2報知制御による報知を優先して実行し、特定入球口が開放される特定遊技状態のうち第2の種別に対応する特定遊技状態の生起が決定された場合には、第1報知制御による報知を実行しないことを特徴とする遊技機。」に補正された(下線は、補正箇所を明示するために審決にて付した。)。 2 補正の適否 本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第1の種別に対応する特定遊技状態」、「第2の種別に対応する特定遊技状態」に関して、それぞれ、「特定入球口が開放される特定遊技状態のうち第1の種別に対応する特定遊技状態」、「特定入球口が開放される特定遊技状態のうち第2の種別に対応する特定遊技状態」と限定することを含むものである。 そして、補正後の請求項1に係る発明は、補正前の請求項1に係る発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。 また、本件補正は、願書に最初に添付した明細書の【0114】?【0116】、【0120】?【0121】等の記載からみて、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。 3 独立特許要件 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否かについて、以下に検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、次のとおりのものであると認める(記号A?Cは、分説するため当審にて付した。)。 「A 挿入された記憶媒体に記録されている情報に基づいて、遊技球を貸し出すための処理を実行する遊技球貸出処理手段と、 B 特定入球口が開放される特定遊技状態のうち第1の種別に対応する特定遊技状態の生起が決定されたことを含む所定条件が成立した場合に、当該特定遊技状態の終了後における所定契機の発生に応じて、前記記憶媒体の取り出しに関する情報を報知する第1報知制御を実行し、所定の異常の発生を検出した場合に、異常の発生に関する情報を報知する第2報知制御を実行する報知制御手段と、を備え、 C 前記報知制御手段は、第1報知制御による報知よりも第2報知制御による報知を優先して実行し、特定入球口が開放される特定遊技状態のうち第2の種別に対応する特定遊技状態の生起が決定された場合には、第1報知制御による報知を実行しないことを特徴とする遊技機。」 (2)刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の遡及日前に頒布された刊行物である特開2011-45402号公報(以下「刊行物1」という。)には、遊技機に関して、図面と共に以下の事項が記載されている(下線は審決にて付した。以下同じ。)。 ・記載事項 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、弾球式の遊技機に関するものであり、特に、併設されたカードユニットに、球貸し料となる代金が記録されたカードを挿入して球貸しを受ける遊技機に関するものである。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかしながら、特許文献3に係る発明では、遊技の終了を検出する必要があり、このために発射装置の稼動状態や玉箱が置かれているか否かなどから判断しているが、いずれも遊技の終了を検出する方法として不確実である。仮に遊技の終了を検出できたとしても、その時はカードは盗難にあった後かもしれない。 本発明は係る課題に鑑みなされたものであり、遊技者がカードをカードユニットから排出し忘れるのを防止することを目的とする。」 ウ 「【0011】 請求項3に記載の遊技機によれば、大当たり遊技状態において、排出報知手段が報知動作を行なう際に、賞球停止手段が賞球の遊技者への払出を中断する。このため、遊技者は報知動作を停止させない限り賞球を得られないこととなり、カードの排出を遊技者に強く喚起することができる。なお、賞球停止手段により中断された賞球の払出は、遊技者が排出指示手段を操作すると、再開されるようにするのが好適である。あるいは、遊技者が排出指示手段を操作し、これによりカードが実際に排出されたことがカード有無判定手段によって判定された場合に、賞球の払出が再開されるようにしても良い。 前後するが、請求項1または2に記載の遊技機において、賞球を得るのが困難な大当たり状態(例えば、ラウンド数が少ないとか、大入賞口が短時間しか開かない等)においても、前記報知動作を行なって、カードの排出を促す構成とすると、持ち球が少ない状況において、こうした大当たり状態になり、報知動作にしたがってカードを排出する場合に、その後なおも遊技を続行するには、再びカードをカードユニットに挿入して球貸しを受ける必要が生じ、煩わしい。そこで、請求項1または2に記載の遊技機における大当たり状態を、請求項3における大当たり状態の如く、大入賞口を入球可能な状態にすることにより、非大当たり状態よりも、遊技者が賞球を容易に得られる状態としてもよい。こうすれば、大当たり状態において容易に賞球が得られるので、報知動作にしたがってカードをカードユニットから排出させても、その賞球を用いて遊技を続行することができる。」 エ 「【0027】 なお、払出制御装置81は満杯スイッチ22、球切れスイッチ23からの信号が入力される構成で、満杯スイッチ22により下皿63が満タンであることを示す信号が入力された場合及び球切れスイッチ23により球タンク71に遊技球が少ないあるいは無いことを示す信号が入力されると払出モータ20を停止させ、賞球の払出動作を停止させる。なお、満杯スイッチ22、球切れスイッチ23も、その状態が解消されるまで信号を出力し続ける構成になっており、払出制御装置81は、その信号が出力されなくなることに起因して払出モータ20の駆動を再開させる。・・・」 オ 「【0042】 図9?10に、主制御装置80のCPUにより実行される特別遊技処理のフローチャートを示す。本処理が起動されると、S300にて役物連続作動装置が作動中か否かを判定する。役物連続作動装置が作動していない場合(S300:no)は、本処理を終了(リターン)する。役物連続作動装置が作動している場合(S300:yes)は、大入賞口14が開放中か否かを判定する(S305)。大入賞口14が開放中であれば(S305:yes)、S330に移行し、大入賞口14に10個入賞したか否かを判定する。大入賞口14に10個入賞していない場合(S330:no)は、S335にて大入賞口14の開放時間が終了したか否かを判定し、終了していない場合(S335:no)は、本処理を終了する。大入賞口14に10個入賞している場合(S330:yes)または大入賞口14の開放時間が終了している場合(S335:yes)は、S340に進み、大入賞口14の閉鎖を設定する処理を行い(S340)、大当たりインターバル処理(S345)を実行して本処理を終了する。」 カ 「【0054】 図14に、S360の大当たり終了演出処理のフローチャートを示す。本処理が起動されると、S600にてカードフラグが1か否かを判定する。カードフラグが1であれば(S600:yes)、S605にてカード排出要求信号1を払出制御装置81に送信する処理を行い、S610にてカード排出を報知する信号をサブ制御装置83に送信する処理を行い、S615にて大当たり終了演出開始処理を実行して、本処理を終了(リターン)する。カードフラグが1でなければ(S600:no)、S615に直行して大当たり終了演出開始処理を実行して、本処理を終了する。 【0055】 つまり大当たり終了演出処理によれば、カードフラグが1(CRユニット56にカードが挿入されている状態)の場合に、カード排出を払出制御装置81に要求し、カード排出を報知する要求をサブ制御装置83に送信する処理となっている。それ以外は従前の大当たり終了演出処理と同様である。 【0056】 図15に、サブ制御装置83のCPUにより実行されるカード排出報知処理のフローチャートを示す。本処理はタイマ割り込みにより繰り返し起動される。本処理が起動されると、まずS650にて、排出要求を報知中か否かを判定し、報知中であれば(S650:yes)、S655にて排出要求報知終了信号を受信したか否かを判定する。排出要求報知終了信号とは図11の主カード処理のS470で主制御装置80から送信される信号である。排出要求報知終了信号を受信した場合(S655:yes)は、排出要求終了処理を実行(S660)し、本処理を終了(リターン)する。排出要求報知終了信号を受信していない場合(S655:no)は、S665に移行し、インターバルコマンドを受信したか否かを判定する。インターバルコマンドとは図9の特別遊技処理のS345で主制御装置80から送信される信号である。インターバルコマンドを受信した場合(S665:yes)は、排出要求終了処理(S660)を実行してから、本処理を終了する。インターバルコマンドを受信していない場合(S665:no)は、そのまま本処理を終了する。 ・・・ 【0058】 排出要求報知信号を受信していない場合(S670:no)は、S680に移行し、カード排出報知信号を受信したか否かを判定する。カード排出報知信号とは図14の大当たり終了演出処理のS610で主制御装置80から送信される信号である。カード排出報知信号を受信した場合(S680:yes)は、排出報知処理を実行(S685)してから、本処理を終了する。排出報知処理では、図20(b)に示すような画像が画面6aに出力される。カード排出報知信号を受信していない場合(S680:no)は、そのまま本処理を終了する。 【0059】 つまりカード排出報知処理によれば、主制御装置80からの信号に基づいて、カードの排出を報知する画像(図20(b))を画面6aに出力したり(S685)、カードの排出を促す画像(図20(a))を画面6aに出力したり(S675)、該画像の出力を停止させたり(S660)する処理となっている。また、図20(a)は5ラウンド目で表示される画像となっており、10ラウンド目で表示される画像では左上に「ラウンド10」と表示される。」 ・認定事項 キ 【0056】に「サブ制御装置83のCPUにより実行されるカード排出報知処理・・・」と記載され、 【0058】に「カード排出報知信号とは・・・主制御装置80から送信される信号である。カード排出報知信号を受信した場合・・・は、排出報知処理を実行・・・し」と記載され、 【0059】に「カード排出報知処理によれば、主制御装置80からの信号に基づいて、カードの排出を報知する画像(図20(b))を画面6aに出力したり(S685)、カードの排出を促す画像(図20(a))を画面6aに出力したり(S675)、・・・」と記載され、 また、画面6aに表示される報知画像を例示する説明図である【図20】 には、 (a)に「カードを排出してください。」の文字画像を含む画像が画面6aに表示されることが示され、 (b)に「カードを排出します。取り忘れ注意!」の文字画像を含む画像が画面6aに表示されることが示されている。 さらに、サブ制御装置83にて実行されるカード排出報知処理のフローチャートを示す【図15】に、 カード排出報知処理において、カードの排出を報知する画像(図20(b))を画面6aに出力する「排出報知処理(S685)」と、カードの排出を促す画像(図20(a))を画面6aに出力する「排出要求報知処理(S675)」とを実行可能なことが示されている。 したがって、刊行物1には、「サブ制御装置83は、カード排出報知処理において、 主制御装置80からカード排出報知信号を受信した場合、「カードを排出します。取り忘れ注意!」の文字画像を含む、カードの排出を報知する画像を画面6aに出力する排出報知処理(S685)と、 「カードを排出してください。」の文字画像を含む、カードの排出を促す画像を画面6aに出力する排出要求報知処理(S675)とを実行可能」なことが示されているものと認められる。 上記ア?カの記載事項、上記キの認定事項、及び、図面の図示内容を総合すると、刊行物1には次の発明(以下「刊行物発明」という。)が記載されていると認められる(a?cは、本件補正発明のA?Cに対応させて付与した。)。 「a 球貸し料となる代金が記録されたカードを挿入して球貸しを受けるカードユニットが併設され(【0001】)、 b 主制御装置80は、大入賞口14の開放、閉鎖を行う特別遊技処理において、カードフラグが1(CRユニット56にカードが挿入されている状態)であると、カード排出を報知する信号をサブ制御装置83に送信する大当たり終了演出処理を実行し(【0042】、【0054】、【0055】)、 サブ制御装置83は、カード排出報知処理において、 主制御装置80からカード排出報知信号を受信した場合、「カードを排出します。取り忘れ注意!」の文字画像を含む、カードの排出を報知する画像を画面6aに出力する排出報知処理(S685)と、 「カードを排出してください。」の文字画像を含む、カードの排出を促す画像を画面6aに出力する排出要求報知処理(S675)とを実行可能とし(認定事項キ)、 満杯スイッチ22により下皿63が満タンであることを示す信号が入力された場合及び球切れスイッチ23により球タンク71に遊技球が少ないあるいは無いことを示す信号が入力されると払出モータ20を停止させ、賞球の払出動作を停止させ、満杯スイッチ22、球切れスイッチ23も、その状態が解消されるまで信号を出力し続ける構成になっており、払出制御装置81は、その信号が出力されなくなることに起因して払出モータ20の駆動を再開させ(【0027】)、 c 賞球を得るのが困難な大当たり状態(例えば、ラウンド数が少ないとか、大入賞口が短時間しか開かない等)においても、報知動作を行なって、カードの排出を促す構成とすると、持ち球が少ない状況において、こうした大当たり状態になり、報知動作にしたがってカードを排出する場合に、その後なおも遊技を続行するには、再びカードをカードユニットに挿入して球貸しを受ける必要が生じ、煩わしい遊技機(【0011】)。」 (3)対比 本件補正発明と刊行物発明とを、分説に従い対比する。 (a)刊行物発明における「挿入」された「カード」に「記録された」「球貸し料となる代金」は、本件補正発明における「挿入された記憶媒体に記録されている情報」に相当する。 そして、刊行物発明における「球貸しを受ける」ことは、本件補正発明における「遊技球を貸し出すための処理を実行する」ことに相当する。 したがって、刊行物発明における構成aの「カードユニット」は、本件補正発明における構成Aの「遊技球貸出処理手段」に相当する。 (b)刊行物発明において、「大入賞口14の開放、閉鎖を行う特別遊技処理」は、大入賞口14の開放、閉鎖を制御する遊技状態を実行するという何らかの決定がなされたことに基づいて行われる処理であることは、当業者にとって明らかである。 したがって、刊行物発明における「大入賞口14の開放、閉鎖を制御する特別遊技処理」が実行される場合と、本件補正発明における「特定入球口が開放される特定遊技状態のうち第1の種別に対応する特定遊技状態の生起が決定されたことを含む所定条件が成立した場合」とは、「特定入球口が開放される特定遊技状態の生起が決定されたことを含む所定条件が成立した場合」である点で共通する。 そして、刊行物発明において、「サブ制御装置83」は、「主制御装置80」により実行される「大入賞口を入球可能な状態にする大当たり遊技状態」が終了した後に実行される「大当たり終了演出処理」により「送信」される「カード排出報知信号を受信」することにより、「排出報知処理を実行」するものであるから、刊行物発明における「主制御装置80からカード排出報知信号を受信した場合」は、本件補正発明における「特定遊技状態の終了後における所定契機の発生に応じ」ることに相当する。 また、刊行物発明における「「カードを排出します。取り忘れ注意!」の文字画像を含む、カードの排出を報知する画像」は、排出されたカードの取り出しを忘れないように遊技者に注意するものであることから、本件補正発明における「記憶媒体の取り出しに関する情報」に相当する。 したがって、刊行物発明における「主制御装置80からカード排出報知信号を受信した場合、「カードを排出します。取り忘れ注意!」の文字画像を含む、カードの排出を報知する画像を画面6aに出力する排出報知処理(S685)」「を実行可能」とすることは、本件補正発明における「特定遊技状態の終了後における所定契機の発生に応じて、記憶媒体の取り出しに関する情報を報知する第1報知制御を実行」「する報知制御手段」に相当する。 さらに、刊行物発明における「満杯スイッチ22により下皿63が満タンであることを示す信号が入力された場合及び球切れスイッチ23により球タンク71に遊技球が少ないあるいは無いことを示す信号が入力される」場合は、本件補正発明における「所定の異常の発生を検出した場合」に相当する。 したがって、刊行物発明における「満杯スイッチ22により下皿63が満タンであることを示す信号が入力された場合及び球切れスイッチ23により球タンク71に遊技球が少ないあるいは無いことを示す信号が入力されると払出モータ20を停止させ、賞球の払出動作を停止させ、満杯スイッチ22、球切れスイッチ23も、その状態が解消されるまで信号を出力し続ける構成になっており、払出制御装置81は、その信号が出力されなくなることに起因して払出モータ20の駆動を再開させ」ることと、本件補正発明における「所定の異常の発生を検出した場合に、異常の発生に関する情報を報知する第2報知制御を実行する」こととは、「所定の異常の発生を検出する手段」を備えることで共通する。 よって、刊行物発明における構成bと、本件補正発明における構成Bとは、「特定入球口が開放される特定遊技状態の生起が決定されたことを含む所定条件が成立した場合に、当該特定遊技状態の終了後における所定契機の発生に応じて、記憶媒体の取り出しに関する情報を報知する第1報知制御を実行する報知制御手段と、所定の異常の発生を検出する手段」を備えることで共通する。 上記(a)?(b)によれば、本件補正発明と刊行物発明は、 「A 挿入された記憶媒体に記録されている情報に基づいて、遊技球を貸し出すための処理を実行する遊技球貸出処理手段と、 B 特定入球口が開放される特定遊技状態の生起が決定されたことを含む所定条件が成立した場合に、当該特定遊技状態の終了後における所定契機の発生に応じて、前記記憶媒体の取り出しに関する情報を報知する第1報知制御を実行する報知制御手段と、所定の異常の発生を検出する手段とを備える遊技機。」の点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1](構成B) 第1報知制御の実行条件に関し、本件補正発明は、特定入球口が開放される特定遊技状態のうち第1の種別に対応する特定遊技状態の生起が決定されたことを含む所定条件が成立した場合に実行されるのに対して、刊行物発明は、特定入球口が開放される特定遊技状態の生起が決定されたことを含む所定条件が成立した場合に実行されるが、本件補正発明のような構成を備えていない点。 [相違点2](構成B) 本件補正発明は、報知制御手段が、所定の異常の発生を検出した場合に、異常の発生に関する情報を報知する第2報知制御を実行するのに対して、刊行物発明は、所定の異常の発生を検出するが、異常の発生に関する情報を報知するか否か不明である点。 [相違点3](構成C) 本件補正発明は、報知制御手段が、第1報知制御による報知よりも第2報知制御による報知を優先して実行するのに対して、刊行物発明は、そのような構成を備えない点。 [相違点4](構成C) 本件補正発明は、特定入球口が開放される特定遊技状態のうち第2の種別に対応する特定遊技状態の生起が決定された場合には、第1報知制御による報知を実行しないのに対して、刊行物発明は、そのような構成を備えない点。 (4)当審判合議体における判断 ア 相違点1、4について 相違点1、4は、特定遊技状態の種別に応じた、第1報知制御の報知の実行可否に関する技術であって、互いに関連しているのでまとめて検討する。 刊行物発明は、「c 賞球を得るのが困難な大当たり状態(例えば、ラウンド数が少ないとか、大入賞口が短時間しか開かない等)においても、前記報知動作を行なって、カードの排出を促す構成とすると、持ち球が少ない状況において、こうした大当たり状態になり、報知動作にしたがってカードを排出する場合に、その後なおも遊技を続行するには、再びカードをカードユニットに挿入して球貸しを受ける必要が生じ、煩わしい」というものである。 当該cの構成によると、大当たり状態を発生させる大当たりのうち、「ラウンド数が少ない」大当たりや、「大入賞口が短時間しか開かない」大当たり等は、大当たり遊技において持ち玉が増えない大当たりであることから、遊技者が、「カードの排出を促す」「報知動作」に従いカードの排出を行っても、大当たり遊技の終了後において、貸球を得るために排出されたカードを再度カードユニットに挿入し直す操作が必要とされ、遊技者にとって不都合が生じるものといえる。 ところで、上記「(2)刊行物1」の認定事項キによれば、【図15】に図示される「排出要求報知処理(S675)」は、「排出報知処理(S685)」と共に、共通の「カード排出報知処理」において実行されるものである。 また、刊行物発明における「カード排出報知処理」は、大当たり状態を発生させる大当たりのうち、「ラウンド数が少ない」大当たりや、「大入賞口が短時間しか開かない」大当たり等が発生した場合も、ラウンド数が多く、大入賞口が長時間開放する種類の大当たりの生起が決定された場合も実行可能な処理であるといえる。 したがって、大当たり状態を発生させる大当たりのうち、「ラウンド数が少ない」大当たりや、「大入賞口が短時間しか開かない」大当たり等が発生した場合、上記不都合が生じないように、遊技者にカードの排出を促す「排出要求報知処理(S675)」を実行しないと共に、同じ「カード排出報知処理」において実行される、遊技者にカードの排出を報知する「排出報知処理(S685)」についても実行しないことは、当業者が必要に応じて適宜なし得たものである。 ゆえに、刊行物発明において、ラウンド数が多く、大入賞口が長時間開放する種類の大当たりの生起が決定された場合には、カードの排出を促す報知動作を実行するが、大当たり状態を発生させる大当たりのうち、「ラウンド数が少ない」大当たりや、「大入賞口が短時間しか開かない」大当たり等の生起が決定された場合には、カードの排出を促す報知動作を実行しないことに加え、カードの排出を報知する報知動作を実行しないようにし、上記相違点1、4に係る本件補正発明の構成とすることは当業者が容易になし得たものである。 イ 相違点2?3について 相違点2?3は、異常の報知についての技術であって、互いに関連しているのでまとめて検討する。 刊行物発明は、構成bより、「下皿63が満タンである」ことや、「球タンク71に遊技球が少ないあるいは無い」といった異常の発生が検出された場合、異常が発生している間、払出モータ20を停止させ、賞球の払出動作を停止させるものである。 そして、このような異常が発生した場合、刊行物発明は、異常の発生により賞球の払出動作が停止している状態であることを、遊技者に対して知らせる必要のあるという課題を内在するものである。 一方、遊技機の技術分野において、異常の報知を、他に実行中の報知よりも優先して実行することは、本願の遡及日前に周知の技術事項である(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-137024号公報の【0670】に「大当たり用の演出が行われている状況において異常が発生したとしても、即座に異常報知を開始することができる」ことが記載され、 特開2012-157587号公報の【0005】に「エラー発生時には、遊技進行を中断してエラー報知を最優先するよう構成されている」ことが記載され、 特開2011-167535号公報の【0072】に「特別図柄の変動やリーチ時等に行われる固有の音声発生やランプによる演出よりも異常報知が優先され、異常報知が行われている際には音声やランプによる遊技の演出は行われないように構成され、異常報知が他の演出で目立たなくなるのが抑制されている」ことが記載され、 特開2005-65824号公報の【0040】に「各種ランプ16?18は、発光演出又は入賞報知よりも優先してエラー報知を行うことになる」ことが記載されている。)。 そして、刊行物発明と上記周知の技術事項とは、異常の発生を検出する手段を備え、異常発生時に異常に対応する処理を行う点で共通するものである。 したがって、刊行物発明に上記周知の技術事項を適用して、異常の発生が検出された場合、異常に対応する処理として、カード排出報知処理の排出報知処理による報知に優先して、異常の発生の報知を実行し、上記相違点2?3に係る本件補正発明の構成とすることは当業者が容易になし得たものである。 ウ 請求人の主張について 請求人は、平成30年6月5日付けの審判請求書において、「引用文献1,2に記載された構成では、本発明に係る「遊技者が賞球を獲得していない状態で、記憶媒体の取り出しに関する情報の報知が実行されることを防止でき、不適切なタイミングで記憶媒体の取り出しに関する情報が報知されることを防止することが可能となる」作用・効果を奏することはありません。」((3)の(b)本発明と引用発明との比較)と主張する。 そこで、請求人の上記主張について検討する。 上記「ア 相違点1及び相違点4について」において検討したように、刊行物発明において、「賞球を得るのが困難な大当たり状態」「においても、前記報知動作を行なって、カードの排出を促す構成」とすると、遊技者にとって不都合が生じるものであるから、このような不都合を生じさせないために、「ラウンド数が少ない」大当たりや、「大入賞口が短時間しか開かない」大当たり等の場合、カードの排出を促す報知動作を実行しないことは、当業者が必要に応じてなし得たものである。 したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。 (5)小括 本件補正発明により奏される効果は、当業者が、刊行物発明、及び、上記周知の技術事項から予測し得る効果の範囲内のものであって、格別なものではない。 よって、本件補正発明は、刊行物発明、及び、周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。 4 まとめ 上記1?3より、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たさないものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されることとなったので、平成29年10月17日付け手続補正書の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものと認める。 「A 挿入された記憶媒体に記録されている情報に基づいて、遊技球を貸し出すための処理を実行する遊技球貸出処理手段と、 B’第1の種別に対応する特定遊技状態の生起が決定されたことを含む所定条件が成立した場合に、当該特定遊技状態の終了後における所定契機の発生に応じて、前記記憶媒体の取り出しに関する情報を報知する第1報知制御を実行し、所定の異常の発生を検出した場合に、異常の発生に関する情報を報知する第2報知制御を実行する報知制御手段と、を備え、 C’前記報知制御手段は、第1報知制御による報知よりも第2報知制御による報知を優先して実行し、第2の種別に対応する特定遊技状態の生起が決定された場合には、第1報知制御による報知を実行しないことを特徴とする遊技機。」 2 原査定の拒絶の理由の概要 (1)(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物1?2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.特開2011-45402号公報 2.特開2010-137024号公報 3 引用文献に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(前記「第2 3(2)」における「刊行物1」に対応する。)の記載事項及び引用発明の認定については、前記「第2 3(2)刊行物1」に記載したとおりである。 そして、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、遊技機に関するものである。 ・・・ 【0670】 また、遊技回用の演出としてスーパーリーチB表示が行われる場合や、大当たり用の演出として15R確変大当たり結果又は通常大当たり結果に対応した演出が行われる場合には、演出用のデータ群の一部が常用エリア137に上書きされることとなる構成において、この上書きに際して異常報知用データ群は消去の対象から除外されている。遊技回用の演出が行われている状況や大当たり用の演出が行われている状況であっても異常が発生することは考えられ、かかる事情において上記のように上書きに際しての消去対象から異常報知用データ群が除外されていることにより、遊技回用の演出が行われている状況や大当たり用の演出が行われている状況において異常が発生したとしても、即座に異常報知を開始することができる。」 したがって、刊行物2には、次の技術事項(以下「刊行物2に記載された技術事項」という。)について記載されている。 「大当たり用の演出が行われている状況において異常が発生したとしても、即座に異常報知を開始することができる。」 4 対比・判断 本願発明は、前記「第2 3(1)」で検討した本件補正発明の「第1の種別に対応する特定遊技状態」、「第2の種別に対応する特定遊技状態」に関して、「特定入球口が開放される特定遊技状態のうち」との限定を省いたものである。 そうすると、本願発明と刊行物発明とは、本件補正発明と同様に、次の相違点1’、4’、及び、前記「第2 3(3)対比」において抽出した相違点2?3において相違し、その余の点において一致する。 [相違点1’](構成B’) 第1報知制御の実行条件に関し、本願発明は、第1の種別に対応する特定遊技状態の生起が決定されたことを含む所定条件が成立した場合であるのに対して、刊行物発明は、特定入球口が開放される特定遊技状態の生起が決定されたことを含む所定条件が成立した場合であるが、本願発明のような構成を備えない点。 [相違点4’](構成C’) 本願発明は、第2の種別に対応する特定遊技状態の生起が決定された場合には、第1報知制御による報知を実行しないのに対して、刊行物発明は、そのような構成を備えない点。 そこで、上記相違点1’、2、3、4’について検討する。 上記相違点1’、4’については、本願発明が、「第1の種別に対応する特定遊技状態」、「第2の種別に対応する特定遊技状態」に関して、それぞれ、本件補正発明の「特定入球口が開放される特定遊技状態のうち」との限定を省くものであることから、上記第2の3「(4)当審による判断」において検討したと同様に、刊行物発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。 次に、上記相違点2?3について検討する。 刊行物2に記載された技術事項は、大当たり用の演出に優先して、異常報知を行うというものである。 ここで、本願発明と刊行物2に記載された技術事項とは、異常の発生を検出する手段を備え、異常発生時に異常に対応する処理を行う点で共通すると共に、大当たり中に行われる演出の実行中に異常が発生している状態であることを、遊技者に対して報知するという自明の課題を有するものである。 したがって、刊行物発明の異常検出に、刊行物2に記載された技術事項を適用して、異常検出を行い、異常発生時にカード排出報知に優先して異常報知を行い、上記相違点2?3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に発明できたものである。 4 むすび 上記1?3より、本願発明は、特許法第29条第2項の規定に基づいて特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-02-19 |
結審通知日 | 2019-02-26 |
審決日 | 2019-03-12 |
出願番号 | 特願2016-224416(P2016-224416) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A63F)
P 1 8・ 575- Z (A63F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 宮川 数正、木村 隆一 |
特許庁審判長 |
鉄 豊郎 |
特許庁審判官 |
蔵野 いづみ 長崎 洋一 |
発明の名称 | 遊技機 |
代理人 | 吉村 徳人 |
代理人 | 吉村 公一 |