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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1351186
審判番号 不服2018-1774  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-07 
確定日 2019-05-21 
事件の表示 特願2012-249370「半導体エピタキシャルウェーハの製造方法,半導体エピタキシャルウェーハ,および固体撮像素子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月29日出願公開,特開2014- 99457,請求項の数(16)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成24年11月13日の出願であって,平成28年5月16日付けで拒絶理由通知がされ,平成28年7月25日に意見書と手続補正書が提出され,平成28年12月26日付けで拒絶理由通知がされ,平成29年5月11日に意見書と手続補正書が提出され,平成29年10月31日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,平成30年2月7日に拒絶査定不服審判の請求がされ,平成30年12月20日付けで拒絶理由通知がされ,平成31年2月12日に意見書と手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1-16に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明16」という。)は,平成31年2月12日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-16に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1-本願発明16は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
半導体ウェーハの表面にゲッタリングに寄与する構成元素を含む第1クラスターイオンを照射して,該半導体ウェーハの表面に,前記第1クラスターイオンの構成元素が固溶してなる第1改質層を形成する第1工程と,
前記半導体ウェーハの第1改質層上にエピタキシャル層を形成する第2工程と,
該エピタキシャル層の表面の一部にゲッタリングに寄与する構成元素を含む第2クラスターイオンを照射して,前記エピタキシャル層の表面の一部に,前記第2クラスターイオンの構成元素が固溶してなる第2改質層を形成する第3工程と,
を有し,該第3工程後の前記第1改質層および第2改質層における前記ゲッタリングに寄与する構成元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅がともに100nm以下である半導体エピタキシャルウェーハを得ることを特徴とする半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記半導体ウェーハが,シリコンウェーハである請求項1に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記半導体ウェーハが,シリコンウェーハの表面にシリコンエピタキシャル層が形成されたエピタキシャルシリコンウェーハであり,前記第1工程において前記第1改質層は前記シリコンエピタキシャル層の表面に形成される請求項1に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記第1工程の後,前記半導体ウェーハに対して結晶性回復のための熱処理を行うことなく,前記半導体ウェーハをエピタキシャル成長装置に搬送して前記第2工程を行う請求項1?3のいずれか1項に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記第1および/または第2クラスターイオンが,構成元素として炭素を含む請求項1?4のいずれか1項に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記第1および/または第2クラスターイオンが,構成元素として炭素を含む2種以上の元素を含む請求項5に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項7】
前記第1クラスターイオンの照射条件は,炭素1原子あたりの加速電圧が50keV/atom以下,クラスターサイズが100個以下,炭素のドーズ量が5.0×10^(15)atoms/cm^(2)以下である請求項5または6に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項8】
前記第2クラスターイオンの照射条件は,炭素1原子あたりの加速電圧が50keV/atom以下,クラスターサイズが100個以下,炭素のドーズ量が1.0×10^(14)atoms/cm^(2)以上である請求項5?7のいずれか1項に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項9】
半導体ウェーハと,該半導体ウェーハの表面に形成された,該半導体ウェーハ中にゲッタリングに寄与する所定元素が固溶してなる第1改質層と,該第1改質層上のエピタキシャル層と,該エピタキシャル層の表面の一部に形成された,前記エピタキシャル層中にゲッタリングに寄与する所定元素が固溶してなる第2改質層と,を有し,
前記第1改質層および第2改質層における前記ゲッタリングに寄与する所定元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅がともに100nm以下であることを特徴とする半導体エピタキシャルウェーハ。
【請求項10】
前記半導体ウェーハが,シリコンウェーハである請求項9に記載の半導体エピタキシャルウェーハ。
【請求項11】
前記半導体ウェーハが,シリコンウェーハの表面にシリコンエピタキシャル層が形成されたエピタキシャルシリコンウェーハであり,前記第1改質層は前記シリコンエピタキシャル層の表面に位置する請求項9に記載の半導体エピタキシャルウェーハ。
【請求項12】
前記半導体ウェーハの表面からの深さが150nm以下の範囲内に,前記第1改質層における前記濃度プロファイルのピークが位置し,前記エピタキシャル層の表面からの深さが150nm以下の範囲内に,前記第2改質層における前記濃度プロファイルのピークが位置する請求項9?11のいずれか1項に記載の半導体エピタキシャルウェーハ。
【請求項13】
前記第1および/または第2改質層における前記濃度プロファイルのピーク濃度が,1×10^(15)atoms/cm^(3)以上である請求項9?12のいずれか1項に記載の半導体エピタキシャルウェーハ。
【請求項14】
前記所定元素が炭素を含む請求項9?13のいずれか1項に記載の半導体エピタキシャルウェーハ。
【請求項15】
前記所定元素が炭素を含む2種以上の元素を含む請求項14に記載の半導体エピタキシャルウェーハ。
【請求項16】
請求項1?8のいずれか1項に記載の製造方法で製造されたエピタキシャルウェーハまたは請求項9?15のいずれか1項に記載のエピタキシャルウェーハの,表面に位置するエピタキシャル層に,固体撮像素子を形成することを特徴とする固体撮像素子の製造方法。」

第3 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2010-118709号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0026】
これに対して,ゲッター部60のように,画素間のチャネルストップ部50の領域内に局所的に形成でき,電気的に中性でかつ拡散が小さいゲッタリングサイトとしては,4族の不純物元素をイオン注入して形成するゲッタリング技術が一番望ましい。具体的には,4族の不純物元素として例えば炭素イオンを5×10^(13 )cm^(-2)以上,好ましくは5×10^(13) ?5×10^(15) cm^(-2)のドーズ量で注入し,ゲッタリングサイトとする。但し,イオン注入する4族の不純物元素としては,炭素に限られるものではなく,ゲルマニウム,錫,鉛等であっても良い。
【0027】
炭素をイオン注入するに際し,炭素のドーズ量を5×10^(13) cm^(-2) 以上にすることで,この炭素のイオン注入による高密度の結晶欠陥の形成と応力の発生とを十分に行うことができるため,電子を捕獲するゲッタリング能力を高めることができる。また,炭素のドーズ量を5×10^(15) cm^(-2)以下にすることで,エピタキシャル基板10の表面の結晶性の劣化を少なく抑えることができる。
【0028】
ゲッター部60の形成に当たっては,チャネルストップ部50の領域からはみ出さないように,当該チャネルストップ部50の内部に形成する必要がある。何故ならば,ゲッター部60がチャネルストップ部50の領域からはみ出ると,当該ゲッター部60が有する欠陥や準位によって電子が発生し,白傷欠陥や暗電流成分の原因となってしまうためである。チャネルストップ部50の領域からはみ出さないようにゲッター部60を形成するには,イオン注入する際のドーズ量,エネルギーあるいは角度などを適宜選定するようにすれば良い。
【0029】
このように,ゲッター部60をチャネルストップ部50の領域からはみ出さないように形成することで,チャネルストップ部50とゲッター部60との間にはP^(+)層のみの領域が残り,この領域を介して入射光によって基板表面で発生した電子が拡散し得るが,平均自由工程が従来構造に比べて長くなるため,電子/正孔の再結合が起こる確率が増える。これにより,転送チャネル領域31に漏れ込む電子数を低減でき,結果としてスミア特性を改善できる。
【0030】
上述したように,受光部20と隣りの受光部の垂直電荷転送部30との間に,当該垂直電荷転送部30の転送方向に沿ってチャネルストップ部50を形成してなるCCD固体撮像素子において,チャネルストップ部50の内部にゲッター部60を形成することにより,入射光によってエピタキシャル基板10の表面で発生した電子が基板表面に沿って横方向(水平方向)に拡散し,読み出し側と反対側のチャネルストップ部50を通過する際にゲッター部60によって捕獲されるため,チャネルストップ部50を通過して転送チャネル領域31に漏れ込むスミア成分を確実に抑制できる。」

「【0034】
本実施形態に係るCCD固体撮像素子は,受光部20,垂直電荷転送部30,読み出しゲート部40,チャネルストップ部50およびゲッター部60を形成する半導体基板として,エピタキシャル層12を形成する前のシリコン基板であるn型CZ基板11の表面に,炭素イオンを1×10^(15) cm^(-2)のドーズ量でイオン注入して炭素注入領域14を形成した後,エピタキシャル層12を形成してなるエピタキシャル基板10′を用いた構成を採っており,それ以外の構成は基本的に第1実施形態に係る固体撮像素子の構成と同じである。
【0035】
かかる構成のCCD固体撮像素子において,炭素注入領域14中の炭素が酸素の析出を加速してCZ基板11に高密度の結晶欠陥を形成しており,この結晶欠陥がゲッタリングサイトになっている。また,CZ基板11を形成している元素(シリコン)と炭素注入領域14中の炭素とで共有結合半径が異なることによって応力が発生しており,この応力自体もゲッタリングサイトになっている。このため,CZ基板11中に元々存在している不純物および結晶欠陥や,エピタキシャル層12を形成する際およびその後に固体撮像素子を形成する際に導入される不純物および結晶欠陥が強力にゲッタリングされる。」

「【0038】
先ず,図5(A)に示すように,CZ法で成長させたシリコン基板であるn型のCZ基板11を準備する。このCZ基板11は,主面が(100)面を有し,例えば比抵抗10Ωcmの直径200mmの基板である。このCZ基板11に対して,その表面に熱酸化膜81を介して4族の不純物元素,例えば炭素を1×10^(15)cm^(-2)のドーズ量で注入して炭素注入領域14を形成する。炭素のイオン注入後アニールを施し,しかる後熱酸化膜81を除去する。
【0039】
次に,図5(B)に示すように,CZ基板11の一主面にSiHC1_(3)ソースガスによる水素還元法を用いて,例えば1110℃のエピタキシャル成長温度にて,例えば8μmのn型シリコンエピタキシャル層2を成長させる。次いで,図5(C)に示すように,n型シリコンエピタキシャル層12に第1のp型ウェル領域13を形成する。
【0040】
次に,図5(D)に示すように,p型ウェル領域13の表面上にONO膜(SiO_(2)/SiN/SiO_(2))構造のゲート絶縁膜71を形成し,第1のp型ウェル領域13内にn型およびp型不純物を選択的にイオン注入して,垂直電荷転送部30を構成するn型の転送チャネル領域31およびp型のチャネルストップ部50と,第2のp型ウェル領域32をそれぞれ形成する。また,チャネルストップ部50の内部に,炭素イオンを選択的に5×10^(13 )cm-^(2)以上,好ましくは5×10^(13 )?5×10^(15) cm^(-2)のドーズ量で注入してゲッター部60を形成する。
【0041】
次に,図6(A)に示すように,垂直電荷転送部30の2層構造の転送電極33(図2の第1層目,第2層目の転送電極33-1,33-2)を多結晶シリコンで形成する。次いで,図6(B)に示すように,転送電極33をマスクとして用いて第1のp型ウェル領域13内にn型およびp型不純物を選択的にイオン注入して,受光部20を構成するn型不純物拡散領域21およびp型の正電荷蓄積領域17を形成する。」

図5(A)は,引用文献1に記載された発明の第2実施形態に係るCCD固体撮像素子の製造方法の手順を示す工程図の一部であって,上記摘記及び同図から,CZ基板11に対して,その表面に熱酸化膜81を介して炭素を注入して,前記CZ基板11の内部の一平面の全部に炭素注入領域14を形成することを見てとることができる。

(1)したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明1-1」及び「引用発明1-2」という。)が記載されていると認められる。

〔引用発明1-1〕
「CZ法で成長させたシリコン基板であるn型のCZ基板11を準備するA1工程と,
前記CZ基板11に対して,その表面に熱酸化膜81を介して4族の不純物元素,例えば炭素を1×10^(15)cm^(-2)のドーズ量で注入して,前記CZ基板11の内部の一平面の全部に炭素注入領域14を形成し,前記炭素のイオン注入後アニールを施し,しかる後熱酸化膜81を除去するA2工程と,
次に,CZ基板11の一主面にSiHC1_(3)ソースガスによる水素還元法を用いて,例えば1110℃のエピタキシャル成長温度にて,例えば8μmのn型シリコンエピタキシャル層2を成長させるA3工程と,
次いで,前記n型シリコンエピタキシャル層12に第1のp型ウェル領域13を形成するA4工程と,
次に,p型ウェル領域13の表面上にONO膜(SiO_(2)/SiN/SiO_(2))構造のゲート絶縁膜71を形成するA5工程と,
前記第1のp型ウェル領域13内にn型およびp型不純物を選択的にイオン注入して,垂直電荷転送部30を構成するn型の転送チャネル領域31およびp型のチャネルストップ部50と,第2のp型ウェル領域32をそれぞれ形成するA6工程と,
また,前記チャネルストップ部50の内部に,炭素イオンを選択的に5×10^(13 )cm^(-2)以上,好ましくは5×10^(13 )?5×10^(15) cm^(-2)のドーズ量で注入してゲッター部60を形成するA7工程と,
次に,前記垂直電荷転送部30の2層構造の転送電極33を多結晶シリコンで形成するA8工程と,
次いで,前記転送電極33をマスクとして用いて第1のp型ウェル領域13内にn型およびp型不純物を選択的にイオン注入して,受光部20を構成するn型不純物拡散領域21およびp型の正電荷蓄積領域17を形成するA9工程と
を含むCCD固体撮像素子の製造方法。」

〔引用発明1-2〕
「CZ法で成長させたシリコン基板であるn型のCZ基板11を準備するA1工程と,
前記CZ基板11に対して,その表面に熱酸化膜81を介して4族の不純物元素,例えば炭素を1×10^(15)cm^(-2)のドーズ量で注入して,前記CZ基板11の内部の一平面の全部に炭素注入領域14を形成し,前記炭素のイオン注入後アニールを施し,しかる後熱酸化膜81を除去するA2工程と,
次に,CZ基板11の一主面にSiHC1_(3)ソースガスによる水素還元法を用いて,例えば1110℃のエピタキシャル成長温度にて,例えば8μmのn型シリコンエピタキシャル層2を成長させるA3工程と,
次いで,前記n型シリコンエピタキシャル層12に第1のp型ウェル領域13を形成するA4工程と,
次に,p型ウェル領域13の表面上にONO膜(SiO_(2)/SiN/SiO_(2))構造のゲート絶縁膜71を形成するA5工程と,
前記第1のp型ウェル領域13内にn型およびp型不純物を選択的にイオン注入して,垂直電荷転送部30を構成するn型の転送チャネル領域31およびp型のチャネルストップ部50と,第2のp型ウェル領域32をそれぞれ形成するA6工程と,
また,前記チャネルストップ部50の内部に,炭素イオンを選択的に5×10^(13 )cm^(-2)以上,好ましくは5×10^(13 )?5×10^(15) cm^(-2)のドーズ量で注入してゲッター部60を形成するA7工程と,
次に,前記垂直電荷転送部30の2層構造の転送電極33を多結晶シリコンで形成するA8工程と,
次いで,前記転送電極33をマスクとして用いて第1のp型ウェル領域13内にn型およびp型不純物を選択的にイオン注入して,受光部20を構成するn型不純物拡散領域21およびp型の正電荷蓄積領域17を形成するA9工程と
を含む製造方法によって作製されたCCD固体撮像素子。」

(2)また,引用文献1には,以下の技術的事項が記載されていると認められる。
ア ゲッター部60の形成により,入射光によってエピタキシャル基板10の表面で発生した電子が基板表面に沿って横方向(水平方向)に拡散し,読み出し側と反対側のチャネルストップ部50を通過する際に捕獲されるため,チャネルストップ部50を通過して転送チャネル領域31に漏れ込むスミア成分が抑制される(【0030】)こと。

イ ゲッター部60をチャネルストップ部50の領域からはみ出さないように形成することで,チャネルストップ部50とゲッター部60との間にはP^(+)層のみの領域が残り,この領域を介して入射光によって基板表面で発生した電子が拡散し得るが,平均自由工程が従来構造に比べて長くなるため,電子/正孔の再結合が起こる確率が増える(【0029】)こと。

ウ 炭素のドーズ量を5×10^(15) cm^(-2)以下にすることで,エピタキシャル基板10の表面の結晶性の劣化を少なく抑えることができる(【0027】)こと。

2.引用文献2について
また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特表2009-518869号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0005】
従来技術のイオン源
従来,Bernas型イオン源がイオン注入装置に用いられてきた。そのようなイオン源は,ドーパントを含んだ供給ガス,例えばBF_(3),AsH_(3)またはPH_(3)などをそれらの原子またはモノマー構成要素に分解して,以下のイオンを大量にもたらすことが公知である:B^(+),As^(+)およびP^(+)。Bernas型イオン源はホットプラズマまたはアーク放電源として知られ,典型的にはフィラメントがむきだしの陰極(naked filament cathode)または傍熱陰極のいずれかの電子エミッタが組み込まれている。このタイプのイオン源は,磁界により限定されているプラズマを発生させる。最近,クラスター注入イオン源が装置市場に導入されている。これらのイオン源は,“クラスター”,すなわち分子の形態にあるドーパント原子の集塊,例えば,AS_(n)^(+),P_(n)^(+),またはB_(n)H_(m)^(+)[式中,nおよびmは整数であり,2≦n≦18である]の形態のイオンを生じるように設計されている点で,Bernas型源と異なっている。そのようなイオン化されたクラスターは,それらのモノマー(n=1)対応物と比べ,シリコン基板のはるかに表面近くにより高いドーズ量で注入することができ,したがって,極浅p-nトランジスタ接合を例えば65nm,45nmまたは32nm世代のトランジスタデバイスに形成するのに非常に興味深い。これらのクラスター源は,イオン源に導入される供給ガスおよび蒸気の親分子を保持する。これらのうちもっとも有効なものでは電子衝撃イオン化が用いられており,緻密なプラズマは生じず,むしろ,従来のBernas源により生じるものより少なくとも100倍小さい低いイオン密度がもたらされる。例えば,クラスター注入法およびクラスターイオン源は,本明細書中で参考として援用する米国特許第6452338号および米国特許第6686595号においてHorsky et al.により記載されている。PMOSデバイスの作成においてB_(18)H_(x)^(+)のイオン注入のための注入材料としてB_(18)H_(22)を使用することが,米国特許出願公開第US2004/0002202 A1号として公開されている係属中の米国特許出願第10/251491号においてHorsky et al.により開示されており,これを本明細書中で参考として援用する。」

「【0014】
炭素注入(ゲッタリング注入)
炭素注入は,かねて欠陥または汚染物をゲッタリングする方法として用いられてきた。例えば,Stolk et alおよびUeda et alの上記参考文献参照。欠陥はシリコン中のBおよびPの拡散を一時的に増大させることが示されているので,格子間欠陥の捕捉は拡散を制限するための方法の候補であると考えられてきた。従来のプロセスでは,CO_(2)またはCOガス源のいずれかが従来のプラズマイオン源に用いられている。C^(+)のビームを発生させ,注入を工業的イオン注入システムで実施することができる。CO_(2)またはCOガスを使用すると,従来のプラズマ源の有効寿命は短くなる。これは,酸化作用および該源に見いだされる絶縁体の炭素トラッキングが原因である。
【0015】
炭素インプラントの従来の施用の一つは,高エネルギー(MeV)の炭素をシリコン中に深く,トランジスタ構造から離して注入することにより,金属不純物のゲッタリングを提供することである。シリコン中では,存在するあらゆる金属原子が,おもに漏れを増大させることにより活性構造の電気性能を低下させる可能性がある。活性デバイス領域から金属不純物を除去する方法は数多く研究されている。用いられているアプローチの一つは,活性デバイスから離してシリコン中に炭素を注入することである。シリコン中の炭素は不純物トラップとして働くので,炭素と相互作用する金属原子はすべて高温を経てもその位置にそのまま残る。このメカニズムはゲッタリングとよばれ,炭素インプラントはゲッタリングの選択肢の一つである。
【0016】
発明の概要
簡潔に述べると,本発明は,集積回路中のPMOSトランジスタ構造の製造において基板にホウ素,ヒ素およびリンをドープする場合に,炭素クラスターを基板中に注入してトランジスタの接合特性を改善することを包含するプロセスに関する。この新規アプローチに由来するプロセスは二つある:(1)USJ形成のための拡散制御;および(2)ストレスエンジニアリングのための高ドーズ量炭素注入。USJ形成のための拡散制御を,PMOS中のソース/ドレイン構造のホウ素または浅いホウ素クラスターインプラントと併せて説明する。より詳細には,C_(16)H_(x)^(+)のようなクラスター炭素イオンを,これに続くホウ素インプラントとほぼ同じドーズ量でソース/ドレイン領域中に注入し;その後,好ましくはB_(18)H_(x)^(+)またはB_(10)H_(x)^(+)のようなホウ化水素クラスターを用いて浅いホウ素インプラントを行って,ソース/ドレインエクステンションを形成する。これに続くアニーリングおよび活性化において,炭素原子による格子間欠陥のゲッタリングによりホウ素の拡散は低減する。Stolk et al.およびRobertson et alの上記参考文献では,一時的に増大したホウ素の拡散はシリコン格子中の格子間欠陥によりもたらされると主張されている。」

「【0040】
図3は,6kV(ホウ素1個あたり300eVの実効インプラントエネルギーをもたらす)で引き出したB_(18)H_(x)^(+)によりシリコン中に注入したホウ素の二次イオン質量分析法(SIMS)での深さプロファイルおよび活性化プロファイルに対するC_(16)H_(x)^(+)共注入の効果を示している。B_(18)H_(x)^(+)のドーズ量5.6E13,すなわちホウ素の実効ドーズ量(注入されたB18とよぶ)1E15の注入された状態でのプロファイルを,Axcelis Summit高速熱アニーリングシステム(AxcelisのRapid Thermal Annealingシステムの説明については,例えばwww.axcelis.com/products/summitXT.html参照)で5秒間にわたり950℃でアニールした。アニール後のホウ素プロファイルを(B18)とよぶ。実効接合深さは,アニール中にホウ素の拡散が一時的に増大するため,約10nmから約25nmまで拡散した(接合深さの基準点として5E18cm^(-2)のドーパント濃度を使用)。他のウエハは,炭素クラスターC_(16)H_(x)^(+)を用いて1keV,2keV,3keV,4keVまたは5keVのいずれかの実効炭素ドーズ量の1E15ドーズ量で最初に注入し,このプロセスでアニールした。(B18+1keV C)および(B18+5keV C)に関するアニールしたホウ素のSIMSプロファイルを図3に示す。これらの接合深さははるかに浅く,炭素インプラントがホウ素拡散を順調に制限したことを示している。これらのプロファイルの形状はまた,まったく異なっている。約15nmのもっとも浅い(炭素がない場合の25nmの接合深さと比較して)アニールされた接合は(B18+1keV C)により得られたが,非常に急激で箱のような接合はプロセス(B18+5keV C)により約18nmの接合深さで得られた。」

「【0046】
図9は,3つの異なるドーズ量(2E15,4E15および8E15原子/cm^(2))に関する10keVでのC_(7)H_(7)インプラントのSIMSプロファイル(炭素濃度対深さ)を示している。図10は,ドーズ量2e15で700℃,900℃および1100℃において5secにわたりアニールしたC_(7)H_(7)インプラント(炭素原子1個あたり10keV)のラマンスペクトルを示している。各試料に関しラマンピークのシフトを測定し,Gダイン/cm^(2)での応力値に変換した。得られた値は,700℃でのより低いアニール温度が,より高いアニール温度と比較してより高い応力値を与えたことを示している。この炭素分子インプラントを用いて,かなりの置換炭素を達成しうることが示されている。」

したがって,上記引用文献2には,以下の技術的事項が記載されていると認められる。
(1)イオン化されたクラスターは,それらのモノマー(n=1)対応物と比べ,シリコン基板のはるかに表面近くにより高いドーズ量で注入することができ,したがって,極浅p-nトランジスタ接合を例えば65nm,45nmまたは32nm世代のトランジスタデバイスに形成するのに非常に興味深い(【0005】)こと。

(2)引用文献2に記載された発明は,集積回路中のPMOSトランジスタ構造の製造において基板にホウ素,ヒ素およびリンをドープする場合に,炭素クラスターを基板中に注入してトランジスタの接合特性を改善することを包含するプロセスに関するものである(【0016】)こと。

(3)C_(16)H_(x)^(+)のようなクラスター炭素イオンを,これに続くホウ素インプラントとほぼ同じドーズ量でソース/ドレイン領域中に注入し;その後,好ましくはB_(18)H_(x)^(+)またはB_(10)H_(x)^(+)のようなホウ化水素クラスターを用いて浅いホウ素インプラントを行って,ソース/ドレインエクステンションを形成することで,これに続くアニーリングおよび活性化において,炭素原子による格子間欠陥のゲッタリングによりホウ素の拡散は低減する(【0016】)こと。

(4)C_(7)H_(7)インプラントと,その後の700℃でのより低い温度でのアニールが,より高い温度でのアニールと比較してより高い応力値を与えることから,この炭素分子インプラントを用いて,かなりの置換炭素を達成しうる(【0046】)こと。

3.引用文献3について
また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特表2007-502541号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0044】
本発明のいくつかの実施の形態では,複数のゲッタリング部位が,好ましくは異なるエネルギーで実施される2つの別個のイオン打ち込み過程を用いて,ウェハー中に生み出される。例として,図7および図8Aを参照すると,最初のステップ50では,ウェハー52は,約5×10^(15)cm^(-2)から約10^(18)cm^(-2)までの範囲内の,より好ましくは,約5×10^(16)cm^(-2)から約1.5×10^(17)cm^(-2)までの範囲内のドーズ量の酸素をウェハー52に打ち込むために,約30keVから約300keVまでの範囲内の,より好ましくは約120keVから約220keVまでの範囲内のエネルギーの酸素イオンのビーム54にさらされる。打ち込まれた酸素イオンは,ウェハーの上面の下の選択された深さでピーク値を有する例示的な曲線56のような分布曲線を示す。この打ち込みステップは,複数の酸素の析出および/または関連する構造上の欠陥58を,打ち込み曲線56と同程度のウェハーの深さの範囲内に生み出す。
【0045】
図7および図8Bを参照すると,次に,ステップ60で,約5×10^(15)cm^(-2)から約10^(18)cm^(-2)までの範囲内の,より好ましくは,約5×10^(16)cm^(-2)から約2×10^(17)cm^(-2)までの範囲内の別のドーズ量の酸素イオンが,典型的には,第1の打ち込みステップで用いられたエネルギーよりも低い,異なるエネルギーの酸素イオンのビームにウェハーをさらすことで,ウェハーに打ち込まれる。第2の打ち込みステップの酸素ビームのエネルギーは,約30keVから約300keVまでの範囲内にあり,より好ましくは,約120keVから約220keVまでの範囲内とすることができる。この例では,第2の打ち込みステップは,第2の打ち込みステップで打ち込まれたイオンの分布を示す曲線64と同程度のウェハーの深さの範囲に亘って分布した複数の酸素の析出および/または構造上の欠陥62を生み出す。この第2の集合の酸素の析出および/または構造上の欠陥を含むこの領域は,本明細書では,第2のゲッタリング層と呼ばれる。第1および第2のゲッタリング層が,ある程度重なっていても,または,実質的に空間的に分離していてもよいことが,理解されなければならない。さらに,上述された実施の形態と同じように,両ゲッタリング層の遮蔽部位は,好ましくは,連続的な酸化物層を形成するのではなく,基板中に存在する金属不純物の析出のためのより広い析出面積を提供するように,分離した析出の形態をとる。
【0046】
図7,図8C,および,図8Dを参照すると,2つのゲッタリング層を形成した後に,ステップ66では,シリコンのエピタキシャル層68が,例えば,公知の付着方法を用いて,上述されたように,基板上面の上に形成される。次に,連続的な埋め込まれた酸化物層70が,例えば,SIMOXプロセスを用いて,エピ層の上面の下の選択された深さで生み出される。
【0047】
例として,図9は,ゲッタリング部位が上述されたように2つのイオン打ち込みステップを用いて生み出された,本発明の方法に基づく例示的なSOIウェハー中のニッケル不純物の濃度に関連する実験データを示している。SOIウェハーのゲッタリング部位は,最初に,約212keVのエネルギーの酸素ビームにウェハーをさらすことによって,ウェハーに約7×10^(16)cm^(-2)のドーズ量の酸素イオンを打ち込み,次に,約150keVのエネルギーの酸素ビームにウェハーをさらすことによって,ウェハーに1×10^(17)cm^(-2)の別のドーズ量の酸素イオンを打ち込んで,生み出された。例示されたデータは,約0.4μmの深さでのこのウェハー中のニッケルの濃度が,約3×10^(10)原子/cm^(2) であることを示している。前述された実験データと同様に,この実験データは,異なるエネルギーで実行される複数の打ち込みステップによる本発明のSOIウェハーで得られる最適なゲッタリング効率を提供することを意図するものでないことが,理解されなければならない。より詳しく言うと,打ち込みエネルギーおよび/または打ち込まれる酸素のドーズ量は,基板内に存在する金属不純物を遮蔽する際の,生み出されたゲッタリング部位の効率を最適化するように,上記の範囲内で変えられてよい。さらに,本発明の上記の実施の形態では,2つの打ち込みステップが用いられたが,別の実施の形態では,3つ以上の打ち込みステップが,好ましくは異なるエネルギーで,用いられて,金属不純物を遮蔽するための3つ以上のゲッタリング層が生み出されてよい。」

したがって,上記引用文献3には,金属不純物を遮蔽するための2つのゲッタリング層を形成した後に,シリコンのエピタキシャル層を,公知の付着方法を用いて,基板上面の上に形成するという技術的事項が記載されていると認められる。

4.引用文献4について
また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開2010-114409号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0211】
[SOI基板の製造方法の第8例]
第2の実施の形態に係るSOI基板の製造方法の第8例を,図22の概略構成断面図によって説明する。
【0212】
図22(1)に示すように,シリコン基板23の内部にゲッター層14を形成する。上記ゲッター層14は,炭素(C),酸素(O),アルゴン(Ar),シリコン(Si),ヘリウム(He),リン(P),ヒ素(As),アンチモン(Sb),ホウ素(B)のいずれかの元素がイオン注入されて形成される。
上記ゲッター層14は,上記第2基板22中に炭素を,例えば5×10^(13)cm^(-2)以上の炭素ドーズ量で,望ましくは5×10^(14)cm^(-2)以上の炭素ドーズ量でイオン注入して形成される。
その後,ダメージ回復の熱処理を行う。例えば1000℃,10分の熱処理を行う。
【0213】
次いで,上記シリコン基板23上にエピタキシャル成長によってシリコン層からなる第1シリコンエピタキシャル成長層18を形成する。
上記エピタキシャル成長は,例えば基板温度を1100℃にして,例えば約2μmのシリコンエピタキシャル成長層を形成する。この第1シリコンエピタキシャル成長層18の膜厚は,適宜選択される。
【0214】
上記シリコンエピタキシャル成長に用いるシリコン原料ガスには,四塩化シリコン(SiCl_(4)),トリクロロシラン(SiHCl_(3)),ジクロロシラン(SiH_(2)Cl_(2)),モノシラン(SiH_(4))等の通常の半導体プロセスで用いられる材料を使用することが可能である。例えば,トリクロロシラン(SiHCl_(3)),ジクロロシラン(SiH_(2)Cl_(2))を用いる。
【0215】
次に,図22(2)に示すように,上記シリコン基板23と上記第1シリコンエピタキシャル成長層18の表面に酸化膜36を形成する。
次に,酸素をイオン注入して,上記第1シリコンエピタキシャル成長層18中に酸化シリコン層19を形成する。すなわち,酸素イオンを約1×10^(17)cm^(-2)のドーズ量でイオン注入した後,1200℃以上の高温熱処理を施して,いわゆるSIMOX構造を形成する。
【0216】
次に,図22(3)に示すように,イオン注入法を用いて,上記酸化シリコン層19に不純物を注入して不純物注入領域からなるダメージ層15を形成する。上記ダメージ層15は,平面レイアウト上,上記酸化シリコン層19の全域にわたって,かつ,上記酸化シリコン層19の厚さ方向の全域もしくは一部に形成されている。すなわち,上記ダメージ層15は,上記酸化シリコン層19内に形成され,上記第1シリコンエピタキシャル成長層18側にはみ出して形成されない。例えば,上記第1シリコンエピタキシャル成長層18側に例えば1μm以下の膜厚の上記酸化シリコン層19を残した状態に形成される。したがって,上記ダメージ層15が上記酸化シリコン層19内から上記酸化シリコン層19と上記第1シリコンエピタキシャル成長層18の界面まで形成されることは差し支えない。その詳細は,前記図5によって説明した通りである。
上記イオン注入は,例えば不純物(イオン注入種)に炭素を用い,上記第1シリコンエピタキシャル成長層18の厚さが約0.3μm,上記酸化シリコン層19の厚さが約0.3μmの場合,注入エネルギーを200keV,ドーズ量を1×10^(14)cm^(-2)に設定する。この炭素のイオン注入条件は,第1シリコンエピタキシャル成長層18,酸化シリコン層19等の膜厚や,前記第5図に示した酸化シリコン層19に相当する酸化シリコン層12とダメージ層15の位置関係をどのケースにするかで決まり,上述の条件に限定されるものではない。
【0217】
上記ダメージ層15を形成するイオン注入に用いる不純物は,上記炭素(C)の他に,シリコン(Si),ゲルマニウム(Ge),スズ(Sn),ヘリウム(He),ネオン(Ne),アルゴン(Ar),クリプトン(Kr),キセノン(Xe),ホウ素(B),アルミニウム(Al),ガリウム(Ga),インジウム(In),窒素(N),リン(P),ヒ素(As),アンチモン(Ab),水素(H)もしくは酸素(O)を用いることができる。または上記元素の化合物もしくは上記元素のクラスターもしくは数十?数千の分子状クラスターイオンであってもよい。上記元素の化合物としては,CO,CH_(3),SiF,PH_(2)等があり,上記クラスターとしては,H_(2),Ar_(2),P_(4),P_(3)等がある。
【0218】
次に,図22(4)に示すように,露出している上記酸化膜36(前記図22(2)参照)を除去し,第1シリコンエピタキシャル成長層18やシリコン基板23を露出させる。図面は,酸化膜36を除去した後の状態を示した。
【0219】
次に,図22(5)に示すように,上記第1シリコンエピタキシャル成長層18上にエピタキシャル成長によってシリコン層からなる第2シリコンエピタキシャル成長層20を形成する。
このようにして,SOI基板10(10C)が完成する。」

したがって,上記引用文献4には,炭素等をイオン注入して,内部にゲッター層を形成したシリコン基板上にエピタキシャル成長によってシリコン層からなる第1シリコンエピタキシャル成長層を形成する工程を含むSOI基板10の製造方法という技術的事項が記載されていると認められる。

5.引用文献5について
また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5(国際公開第2010/016457号)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「[0005]このようなことから,結晶欠陥をほぼ完全に含まないエピタキシャル層をCZ-Si基板上に成長させたエピタキシャルシリコンウェーハが,高集積化デバイスに多用されている。」

「[0021]《第1実施形態》
図1A?図1Eは第1実施形態に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を示すウェーハの断面図である。
[0022]本例の製造方法では,まずCZ法により育成されたシリコン単結晶にスライス,研削,エッチング,鏡面研磨等の処理を施し,シリコン単結晶基板1を得る。シリコン単結晶基板1の直径や厚さは特に限定されないが,固溶度から初期格子間酸素濃度は2.7×10 ^(18) atoms/cc(ASTM F-121,1979)以下に限定される。
[0023]次いで,上記シリコン単結晶基板1をイオン注入装置にセットし,図1Aに示すようにシリコン単結晶基板1の一方の表面(同図の上面)に炭素イオンをイオン注入し,図1Bに示すようにシリコン単結晶基板1の表面近傍に非キャリア性ドーパントを含む第1の層2を形成する。
[0024]炭素イオンの注入は,加速エネルギが1?2000keV,ピーク密度が10^( 15 )?10^( 22) atoms/cc,表面からの深さが0.01?2.0μmの条件ですることができる。
[0025]また,イオン注入されるイオンは炭素以外にも非キャリア性を有するドーパントであればよく,Si,Ge,Sn,Pb,He,Ne,Ar,Kr,Xeなども用いることができる。ただし,本例の非キャリア性ドーパントを含む第1の層2はシリコン単結晶基板1に存在する酸素を捕獲する機能を司ることから,当該酸素と結合し易い炭素などのドーパントを用いることがより好ましい。
[0026]また,非キャリア性ドーパントを含む第1の層2の深さは特に限定されないが,シリコン単結晶基板1に存在する酸素の捕獲機能を考慮すると,できる限りシリコン単結晶基板1の表面近傍に形成することがより好ましい。
[0027]次いで,非キャリア性ドーパントを含む第1の層2が形成されたシリコン単結晶基板1を気相成長装置にセットし,図1Cに示すようにシリコン単結晶基板1の表面にシリコンエピタキシャル層3を形成する。
[0028]この気相成長反応の原料ガスとしては,目的とするデバイスに応じて,モノシランガスや水素希釈したクロロシラン系ガスにジボラン(P型)又はホスフィンやアルシン(N型)のドーパント原料ガスを添加したものを使用することができる。これにより,シリコン単結晶基板1の表面において熱CVD反応によるシリコンエピタキシャル層3が形成される。なお,シリコンエピタキシャル層3の厚さは目的とするデバイスに応じて適宜選択される。
[0029]次いで,上記シリコンエピタキシャル層3が形成されたシリコン単結晶基板1をイオン注入装置にセットし,図1Dに示すようにシリコンエピタキシャル層3の表面(同図の上面)に炭素イオンをイオン注入し,図1Eに示すようにシリコンエピタキシャル層3に非キャリア性ドーパントを含む第2の層4を形成する。
[0030]この炭素イオンの注入は,加速エネルギが1?2000keV,ピーク密度が10 ^(15) ?10 ^(22) atoms/cc,表面からの深さが0.01?2μmの条件ですることができる。
[0031]また,イオン注入されるイオンは炭素以外にも非キャリア性を有するドーパントであればよく,Si,Ge,Sn,Pb,He,Ne,Ar,Kr,Xeなども用いることができる。特に上述した非キャリア性ドーパントを含む第1の層2とは異なり,本例の非キャリア性ドーパントを含む第2の層4は,デバイスプロセスにおける金属不純物を捕獲する機能を司ることから,当該金属不純物と結合し易いドーパントを用いることがより好ましい。
[0032]また,非キャリア性ドーパントを含む第2の層4の深さは特に限定されないが,金属不純物の捕獲機能を考慮すると,デバイス活性領域より深い位置であって当該デバイス活性領域の近傍に形成することがより好ましい。
[0033]以上の工程により,シリコン単結晶基板1に非キャリア性ドーパントを含む第1の層2が形成され,シリコンエピタキシャル層3に非キャリア性ドーパントを含む第2の層4が形成されたウェーハが得られる。
[0034]このウェーハによれば,上述した気相成長工程の熱処理やその後のデバイス工程の熱処理によって,シリコン単結晶基板1に存在する酸素は外方拡散しようとするが,図1Eに矢印で示すように,非キャリア性ドーパントを含む第1の層2よりも裏面側に存在する酸素は非キャリア性ドーパントを含む第1の層2により発生している歪に引き寄せられて炭素と結合する。
[0035]これにより非キャリア性ドーパントを含む第1の層2の歪みは緩和され金属不純物の捕獲機能は低下するものの,シリコンエピタキシャル層3に形成された非キャリア性ドーパントを含む第2の層4にはごく少数の酸素が捕獲されるだけであるため(非キャリア性ドーパントを含む第1の層2よりシリコン単結晶基板1の表面側の領域に存在する酸素が捕獲される),当該非キャリア性ドーパントを含む第2の層4の金属不純物の捕獲機能の低下を抑制することができる。
[0036]また,シリコン単結晶基板1の初期酸素濃度が高くても非キャリア性ドーパントを含む第1の層2により酸素を捕獲でき,非キャリア性ドーパントを含む第2の層4がゲッタリング機能を発揮するので,初期酸素濃度が低いシリコン単結晶を用いなくても高いゲッタリング能力を有するウェーハを得ることができる。
[0037]特に,ウェーハ自体が薄型化しても非キャリア性ドーパントを含む第1の層2及び非キャリア性ドーパントを含む第2の層4は形成可能であることから,たとえばMCPなどのデバイス用ウェーハに適用することができる。」

図1D及び図1Eは,引用文献5に記載された発明の実施形態に係る製造方法を示す断面図であって,上記摘記及びこれらの図から,シリコンエピタキシャル層3の表面の一部に炭素イオンを照射して,前記シリコンエピタキシャル層3の内部の一平面の全部に,前記炭素イオンが固溶してなる第2の層4を形成することを見てとることができる。

(1)したがって,上記引用文献5には次の発明(以下,「引用発明5-1」及び「引用発明5-2」という。)が記載されていると認められる。

〔引用発明5-1〕
「CZ法により育成されたシリコン単結晶にスライス,研削,エッチング,鏡面研磨等の処理を施し,シリコン単結晶基板1を得るB1工程と,
次いで,上記シリコン単結晶基板1をイオン注入装置にセットし,シリコン単結晶基板1の一方の表面に炭素イオンをイオン注入し,シリコン単結晶基板1の表面近傍に非キャリア性ドーパントを含む第1の層2を形成するB2工程であって,
炭素イオンの注入は,加速エネルギが1?2000keV,ピーク密度が10^( 15 )?10^( 22) atoms/cc,表面からの深さが0.01?2.0μmの条件ですることができるものであり,
前記炭素を含む第1の層2はシリコン単結晶基板1に存在する酸素を捕獲する機能を司ることから,当該酸素と結合し易いドーパントとして炭素を用いるものであり,
前記第1の層2の深さは特に限定されないが,シリコン単結晶基板1に存在する酸素の捕獲機能を考慮すると,できる限りシリコン単結晶基板1の表面近傍に形成することがより好ましいB2工程と,
次いで,非キャリア性ドーパントを含む第1の層2が形成されたシリコン単結晶基板1を気相成長装置にセットし,シリコン単結晶基板1の表面にシリコンエピタキシャル層3を形成するB3工程であって,
シリコンエピタキシャル層3の厚さは目的とするデバイスに応じて適宜選択されるB3工程と,
次いで,上記シリコンエピタキシャル層3が形成されたシリコン単結晶基板1をイオン注入装置にセットし,シリコンエピタキシャル層3の表面の全部に炭素イオンをイオン注入し,シリコンエピタキシャル層3の内部の一平面の全部に炭素を含む第2の層4を形成するB4工程であって,
前記炭素イオンの注入は,加速エネルギが1?2000keV,ピーク密度が10 ^(15) ?10 ^(22) atoms/cc,表面からの深さが0.01?2μmの条件ですることができるものであり,
前記第2の層4は,第1の層2とは異なり,デバイスプロセスにおける金属不純物を捕獲する機能を司るものであり,
前記第2の層4の深さは特に限定されないが,金属不純物の捕獲機能を考慮すると,デバイス活性領域より深い位置であって当該デバイス活性領域の近傍に形成することがより好ましいものであるB4工程と,を含む,
シリコン単結晶基板1に炭素を含む第1の層2が形成され,シリコンエピタキシャル層3に炭素を含む第2の層4が形成されたウェーハの製造方法。」

〔引用発明5-2〕
「CZ法により育成されたシリコン単結晶にスライス,研削,エッチング,鏡面研磨等の処理を施し,シリコン単結晶基板1を得るB1工程と,
次いで,上記シリコン単結晶基板1をイオン注入装置にセットし,シリコン単結晶基板1の一方の表面に炭素イオンをイオン注入し,シリコン単結晶基板1の表面近傍に非キャリア性ドーパントを含む第1の層2を形成するB2工程であって,
炭素イオンの注入は,加速エネルギが1?2000keV,ピーク密度が10^( 15 )?10^( 22) atoms/cc,表面からの深さが0.01?2.0μmの条件ですることができるものであり,
前記炭素を含む第1の層2はシリコン単結晶基板1に存在する酸素を捕獲する機能を司ることから,当該酸素と結合し易いドーパントとして炭素を用いるものであり,
前記第1の層2の深さは特に限定されないが,シリコン単結晶基板1に存在する酸素の捕獲機能を考慮すると,できる限りシリコン単結晶基板1の表面近傍に形成することがより好ましいB2工程と,
次いで,非キャリア性ドーパントを含む第1の層2が形成されたシリコン単結晶基板1を気相成長装置にセットし,シリコン単結晶基板1の表面にシリコンエピタキシャル層3を形成するB3工程であって,
シリコンエピタキシャル層3の厚さは目的とするデバイスに応じて適宜選択されるB3工程と,
次いで,上記シリコンエピタキシャル層3が形成されたシリコン単結晶基板1をイオン注入装置にセットし,シリコンエピタキシャル層3の表面の全部に炭素イオンをイオン注入し,シリコンエピタキシャル層3の内部の一平面の全部に炭素を含む第2の層4を形成するB4工程であって,
前記炭素イオンの注入は,加速エネルギが1?2000keV,ピーク密度が10 ^(15) ?10 ^(22) atoms/cc,表面からの深さが0.01?2μmの条件ですることができるものであり,
前記第2の層4は,第1の層2とは異なり,デバイスプロセスにおける金属不純物を捕獲する機能を司るものであり,
前記第2の層4の深さは特に限定されないが,金属不純物の捕獲機能を考慮すると,デバイス活性領域より深い位置であって当該デバイス活性領域の近傍に形成することがより好ましいものであるB4工程と,を含む製造方法によって作製された,
シリコン単結晶基板1に炭素を含む第1の層2が形成され,シリコンエピタキシャル層3に炭素を含む第2の層4が形成されたウェーハ。」

(2)また,引用文献5には,以下の技術的事項が記載されていると認められる。
シリコン単結晶基板1に非キャリア性ドーパントを含む第1の層2が形成され,シリコンエピタキシャル層3に非キャリア性ドーパントを含む第2の層4が形成されたウェーハによれば,気相成長工程の熱処理やその後のデバイス工程の熱処理によって,シリコン単結晶基板1に存在する酸素は外方拡散しようとするものの,第1の層2よりも裏面側に存在する酸素は非キャリア性ドーパントを含む第1の層2により発生している歪に引き寄せられて炭素と結合することから,シリコンエピタキシャル層3に形成された第2の層4にはごく少数の酸素が捕獲されるにとどまり,第2の層4の金属不純物の捕獲機能の低下が抑制される([0033]ないし[0035])こと。

6.引用文献6について
また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6(特開2001-177086号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0002】
【従来の技術】従来より,通常の撮像素子において,基板のSi中に取り込まれる重金属類(Fe,Cu,Ni,Ca,Zn,Mo等)が撮像部分の光電交換を行うフォトセンサ部の近辺に存在すると,撮像画面上で白キズの発生原因となる。これらの重金属は,撮像素子の製造過程で加えられる熱により拡散するものである。そこで従来より,例えば図4に示すように,重金属類のフォトセンサ部への影響をなくすため,撮像素子を形成したエピタキシャル成長基板(Siをエピタキシャル成長させた基板)10の内部にゲッタ層12を設けるようにしている。
【0003】このゲッタ層12は,CイオンやNイオン等のイオン注入によって形成したものであり,エピタキシャル成長の前工程で形成され,エピタキシャル成長層14より深部(基板10の裏面近傍)に,エピタキシャル成長基板10の全面にわたって形成されている。なお,図4において,エピタキシャル成長基板10の上層部には,撮像素子を構成するフォトセンサ部やCCD転送部(共に図示せず)等が形成されている。また,エピタキシャル成長基板10の表面には,配線電極や遮光膜,さらにはマイクロレンズ等を配置した上部成膜層16が設けられている。また,このような撮像素子は,中央の撮像領域18Aとその周辺の素子分離領域18Bとに分かれており,撮像領域18Aには,各フォトセンサ部に対する受光膜や遮光膜,マイクロレンズやCCD垂直転送部等が配置され,素子分離領域18Bには,CCD水平転送部,出力アンプ,リセットゲート,素子保護トランジスタ等が配置されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで,上述のようなゲッタ層は,通常,エピタキシャル成長前に形成されるため,エピタキシャル成長の膜厚が厚い場合,ゲッタ層の位置は撮像素子表面より遠いものとなる。一方,熱工程による熱履歴にはある程度の制約があり,無制限な加熱を行うことはできないため,重金属類の拡散距離には一定の限界があり,ゲッタ層に取り込まれる有効範囲は比較的狭いものとなってしまう。また同時に,近年における撮像素子の小型化,高密度化により,熱工程の低温プロセス化が進み,熱拡散を押さえる傾向がある。そのため,さらにゲッタ層に取り込まれる有効範囲が狭くなっている。また,エピタキシャル成長時には,一般的に重金属が基板に入り込み易い傾向があるので,その結果,特に重金属類がセンサ領域に影響を与えやすく,白キズ等の不良となってしまう。
【0005】本発明は,以上のような実情に鑑みてなされたものであり,その目的は,フォトセンサ部に影響する重金属類のゲッタリングを容易に行うことができ,重金属類による白キズの発生を有効に抑制することができるゲッタ構造を有する撮像素子及びその製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は前記目的を達成するため,エピタキシャル成長基板に複数の撮像画素より構成された撮像領域と,前記撮像領域の周辺に設けられた素子分離領域とを形成するとともに,前記エピタキシャル成長基板に重金属のゲッタリングを行うためのゲッタ層を設けた撮像素子において,前記エピタキシャル成長基板内に複数層のエピタキシャル成長層を有するとともに,前記複数層のエピタキシャル成長層の間にゲッタ層を有し,前記ゲッタ層が前記撮像領域の周辺領域に形成されていることを特徴とする。
【0007】また本発明は,エピタキシャル成長基板に複数の撮像画素より構成された撮像領域と,前記撮像領域の周辺に設けられた素子分離領域とを形成するとともに,前記エピタキシャル成長基板に重金属のゲッタリングを行うためのゲッタ層を設けた撮像素子の製造方法において,前記エピタキシャル成長基板内に第1エピタキシャル成長層を形成する第1エピタキシャル成長工程と,前記エピタキシャル成長基板内の前記第1エピタキシャル成長層の上層に第2エピタキシャル成長層を形成する第2エピタキシャル成長工程と,第1エピタキシャル成長工程の後であって前記第2エピタキシャル成長工程の前に,前記第1エピタキシャル成長層と第2エピタキシャル成長層との中間にゲッタ層を形成するゲッタ層形成工程とを有し,前記ゲッタ層を前記撮像領域の周辺領域に形成するようにしたことを特徴とする。
【0008】上述のような本発明による撮像素子では,エピタキシャル成長基板内に複数層のエピタキシャル成長層を有し,このエピタキシャル成長層の間にゲッタ層を有することから,このゲッタ層が撮像領域のフォトセンサ部の近い位置に配置される。また,このゲッタ層が撮像領域の周辺領域に形成されたことから,撮像領域の素子構造には影響を与えることなく,ゲッタ層を設けることができる。したがって,フォトセンサ部に影響する重金属類のゲッタリングを容易に行うことができ,重金属類による白キズの発生を有効に抑制することができる。
【0009】また,上述のような本発明による撮像素子の製造方法では,第1エピタキシャル成長工程の後,第2エピタキシャル成長工程の前に,ゲッタ層形成工程によって第1エピタキシャル成長層と第2エピタキシャル成長層との中間で撮像領域の周辺領域にゲッタ層を形成することから,このゲッタ層が撮像領域のフォトセンサ部の近い位置に配置される。また,このゲッタ層を撮像領域の周辺領域に形成することから,撮像領域の素子構造には影響を与えることなく,ゲッタ層を設けることができる。したがって,フォトセンサ部に影響する重金属類のゲッタリングを容易に行うことができ,重金属類による白キズの発生を有効に抑制することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】以下,本発明による撮像素子及びその製造方法の実施の形態について詳細に説明する。本実施の形態による撮像素子は,エピタキシャル成長させた基板を用いる撮像素子の2段階のエピタキシャル成長途中にイオン注入によるゲッタ層形成を行うことにより,白キズ抑制を行うことを目的としたものである。ここでは具体例として,本発明をCCD撮像素子に適用した場合について説明する。図1は,本発明の実施の形態による撮像素子の層構造を示す断面図であり,図2は,図1に示す撮像素子の撮像領域の形状を示す平面図である。また,図3は,図1に示す撮像素子を作製する場合の製造工程を示す断面図である。
【0011】まず,図1,図2を用いて本形態によるCCD固体撮像素子の構造について説明する。図2に示すように,このCCD固体撮像素子100は,方形状の撮像領域100Aを有し,この周辺部に非撮像領域である素子分離領域100Bを設けたものである。また,CCD固体撮像素子100の外周縁部は,複数のCCD固体撮像素子100を共通の半導体基板から分断した基板分断部100Cとなっている。すなわち,このCCD固体撮像素子100は,その形成工程において,多数の撮像素子を共通基板である半導体ウェーハに形成するとともに,この半導体ウェーハに素子分断用のスクライブラインを設け,このスクライブラインで半導体ウェーハを分断することにより,個々のCCD固体撮像素子100として作製されたものである。また,CCD固体撮像素子100の撮像領域100Aには,各フォトセンサ部に対する受光膜や遮光膜,マイクロレンズやCCD垂直転送部等が配置され,素子分離領域100Bには,CCD水平転送部,出力アンプ,リセットゲート,素子保護トランジスタ等が配置されている。
【0012】次に,図1に示すように,CCD固体撮像素子100の内部には,基板110の深層部に第1ゲッタ層120が基板全面にわたって設けられ,この第1ゲッタ層120の上層に第1エピタキシャル成長層130が基板全面にわたって設けられている。また,この第1エピタキシャル成長層130の上層であって,素子分離領域100Bから基板分断部100Cにわたる領域に第2ゲッタ層140が設けられている。さらに,第1エピタキシャル成長層130及び第2ゲッタ層140の上層に第2エピタキシャル成長層150が設けられている。
【0013】このようなCCD撮像素子100では,エピタキシャル成長基板110内の第1,第2エピタキシャル成長層130,150の中間に第2ゲッタ層140を有することから,この第2ゲッタ層140が撮像領域のフォトセンサ部の近い位置に配置される。また,この第2ゲッタ層140を撮像領域100Aの周辺領域,すなわち素子分離領域100Bから基板分断部100Cかけて形成されたことから,撮像領域の素子構造には影響を与えることなく,第2ゲッタ層140を設けることができる。したがって,フォトセンサ部に影響する重金属類のゲッタリングを容易に行うことができ,重金属類による白キズの発生を有効に抑制することができる。なお,第1ゲッタ層120によるゲッタリングの作用は従来と同様である。
【0014】なお,このような層構造を有する基板110の第1,第2エピタキシャル成長層130,150には,撮像素子を構成するフォトセンサ部やCCD転送部(共に図示せず)等が形成されている。また,基板110の表面には,さらに配線電極や遮光膜,さらにはマイクロレンズ等を配置した上部成膜層160が設けられている。
【0015】次に,図3を用いて本形態によるCCD固体撮像素子100の製造方法について説明する。なお,図3は1つの撮像素子を独立して示しているが,図3に示す各工程は,上述のように半導体ウェーハ上に設けられた分断前の複数の撮像素子について行われるものである。まず,図3(A)では,エピタキシャル成長前のシリコン基板110にイオン注入を行い,第1ゲッタ層120を形成する。なお,このイオン注入工程では,ゲッタ用元素として,例えば炭素(C),窒素(N),燐(P)等を用いるものとする。これにより,半導体ウェーハの全面にわたって第1ゲッタ層120が形成される。
【0016】次に,図3(B)では,第1エピタキシャル成長工程によって第1エピタキシャル成長層130を形成する。これにより,半導体ウェーハの全面にわたって第1エピタキシャル成長層130が形成される。次に,図3(C)では,第1エピタキシャル成長層130の上層の素子分離領域100Bから基板分断部100Cにわたる領域にイオン注入を行い,第2ゲッタ層140を形成する。なお,このイオン注入工程においても,ゲッタ用元素として,例えば炭素(C),窒素(N),燐(P)等を用いるものとする。これにより,撮像領域100Aの周辺領域に第2ゲッタ層140が形成される。
【0017】次に,図3(D)では,第2エピタキシャル成長工程によって第2エピタキシャル成長層150を形成する。これにより,半導体ウェーハの全面にわたって第2エピタキシャル成長層150が形成される。この後,各エピタキシャル成長層130,150等に撮像素子のフォトセンサ部等を形成する工程を行い,さらに,この基板100上に上部成膜層160を形成する工程を経て,図1に示す撮像素子100を得ることができる。なお,以上の例では,第2ゲッタ層140を素子分離領域100Bから基板分断部100Cにわたる領域に設けたが,素子分離領域100Bだけに設けたり,あるいは基板分断部100Cだけに設けるようにしてもよい。
【0018】
【発明の効果】以上説明したように本発明の撮像素子では,エピタキシャル成長基板内に複数層のエピタキシャル成長層を有し,このエピタキシャル成長層の間にゲッタ層を有することから,このゲッタ層が撮像領域のフォトセンサ部の近い位置に配置されるとともに,撮像領域の素子構造には影響を与えることなく,ゲッタ層を設けることができる。したがって,フォトセンサ部に影響する重金属類のゲッタリングを容易に行うことができ,重金属類による白キズの発生を有効に抑制することができる効果がある。」

図3(A)及び(C)は,引用文献6に記載された発明の実施の形態による撮像素子を作製する場合の製造工程を示す断面図であって,上記摘記及びこれらの図から,エピタキシャル成長前のシリコン基板110にイオン注入を行い,前記シリコン基板110の内部の一平面の全面にわたって第1ゲッタ層120が形成されること,及び,第1エピタキシャル成長層130の表面の一部にイオン注入を行い,前記第1エピタキシャル成長層130の内部の一平面の一部に第2ゲッタ層140を形成することを見てとることができる。

(1)したがって,上記引用文献6には次の発明(以下,「引用発明6-1」及び「引用発明6-1」という。)が記載されていると認められる。

〔引用発明6-1〕
「シリコン基板110に,ゲッタ用元素として炭素Cを用いてイオン注入を行い,シリコン基板110の内部の一平面の全面にわたって第1ゲッタ層120を形成するC1工程と,
次に,第1エピタキシャル成長工程によって第1エピタキシャル成長層130を形成するC2工程と,
次に,第1エピタキシャル成長層130の上層の素子分離領域100Bから基板分断部100Cにわたる領域に,ゲッタ用元素として炭素(C)を用いてイオン注入を行い,撮像領域100Aの周辺領域であって前記第1エピタキシャル成長層130の内部の一平面の一部に第2ゲッタ層140を形成するC3工程と,
次に,第2エピタキシャル成長工程によって半導体ウェーハの全面にわたって第2エピタキシャル成長層150を形成するC4工程と,
この後,各エピタキシャル成長層130,150等に撮像素子のフォトセンサ部等を形成するC5工程と,
さらに,この基板100上に上部成膜層160を形成するC6工程とを含む,
CCD固体撮像素子100の製造方法。」

〔引用発明6-2〕
「シリコン基板110に,ゲッタ用元素として炭素Cを用いてイオン注入を行い,シリコン基板110の内部の一平面の全面にわたって第1ゲッタ層120を形成するC1工程と,
次に,第1エピタキシャル成長工程によって第1エピタキシャル成長層130を形成するC2工程と,
次に,第1エピタキシャル成長層130の上層の素子分離領域100Bから基板分断部100Cにわたる領域に,ゲッタ用元素として炭素(C)を用いてイオン注入を行い,撮像領域100Aの周辺領域であって前記第1エピタキシャル成長層130の内部の一平面の一部に第2ゲッタ層140を形成するC3工程と,
次に,第2エピタキシャル成長工程によって半導体ウェーハの全面にわたって第2エピタキシャル成長層150を形成するC4工程と,
この後,各エピタキシャル成長層130,150等に撮像素子のフォトセンサ部等を形成するC5工程と,
さらに,この基板100上に上部成膜層160を形成するC6工程とを含む製造方法で作製されたCCD固体撮像素子100。」

(2)また,上記引用文献6には,以下の技術的事項が記載されていると認められる。
ア エピタキシャル成長基板内の複数層のエピタキシャル成長層の間に設けたゲッタ層は,撮像領域のフォトセンサ部の近い位置に配置されることから,撮像領域の素子構造には影響を与えることなく,ゲッタ層を設けることができ,したがって,フォトセンサ部に影響する重金属類のゲッタリングを容易に行い,重金属類による白キズの発生を有効に抑制することができる(【0008】)こと。

イ 第1エピタキシャル成長工程の後,第2エピタキシャル成長工程の前に,ゲッタ層形成工程によって第1エピタキシャル成長層と第2エピタキシャル成長層との中間で撮像領域の周辺領域にゲッタ層を形成して,ゲッタ層を撮像領域のフォトセンサ部の近い位置に配置することから,撮像領域の素子構造には影響を与えることなく,ゲッタ層を設けることができ,したがって,フォトセンサ部に影響する重金属類のゲッタリングを容易に行い,重金属類による白キズの発生を有効に抑制することができる(【0009】)こと。

7.引用文献7について
また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7(特開2010-062529号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0052】
ここで,図11は,炭素クラスターイオン(C_(7)H_(7))がイオン注入されたシリコン(100)基板の深さと,熱処理後の炭素濃度と,の関係を示す図である。なお,図11においては,Xeフラッシュランプアニールによりシリコン(100)基板の基板表面温度を,0.8m秒間,1250℃に制御することにより,シリコン(100)基板を熱処理した。
【0053】
図11に示すように,炭素クラスターイオンを注入したSi(100)基板を,Xeフラッシュランプアニールで熱処理することにより,深さ20nm?30nm近傍で,炭素濃度がピーク値(2×10^(21)cm^(-3))になっている。この炭素濃度がピーク値に到達している領域は,シリコン固相成長が止まっている領域であり,積層欠陥,双晶などの結晶欠陥が多数形成されている。なお,基板表面温度1350℃,処理時間0.8msecのレーザーアニールでも同様の結果が得られた。」

したがって,上記引用文献7には,炭素クラスターイオンを注入したSi(100)基板を,Xeフラッシュランプアニールで熱処理することにより,深さ20nm?30nm近傍で,炭素濃度がピーク値(2×10^(21)cm^(-3))になっていること,及び,この炭素濃度がピーク値に到達している領域は,シリコン固相成長が止まっている領域であり,積層欠陥,双晶などの結晶欠陥が多数形成されているという技術的事項が記載されていると認められる。

8.引用文献8について
また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献8(国際公開第2011/125305号)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「[0068]図10に,シリコン基板に炭素イオンを注入し熱処理をする前と後の炭素濃度プロファイルの変化を示す。図10に示した熱処理後の炭素濃度プロファイルは,単純なガウス形の拡散プロファイルになっていないことがわかる。このように,炭素イオンの拡散も空孔型拡散と格子間型拡散の両方の機構でおこると考えられる。そのため,炭素イオンを高濃度でシリコン基板に注入することにより,シリコン基板からエピタキシャル層へのドーパント(リン,ボロン)の浮き上がり現象をエピタキシャル成長工程と素子製造工程において抑制することが可能となる。結果として,縦型トランジスタのオン抵抗低減,リーク電流の低減が実現できるようになる。
[0069]また,一方で炭素イオンを1×10 ^(15) atoms/cm^( 2) 前後のドーズ量でイオン注入すると,その領域が強力なゲッタリングサイトとなることが知られている。そのため,上記の炭素イオン注入されたエピタキシャル層-シリコン基板領域は,安定かつ強力なゲッタリングサイトにもなり,この手法を用いたデバイスの歩留まり,電気特性の向上にも寄与するという副次的な効果も当然期待される。」

「[0090]ここで,炭素イオンをシリコン基板表面に注入したときの注入エネルギーと形成される炭素濃度分布の関係を図7に示す。このように,注入エネルギーが低いほどシリコン基板表面近傍に炭素イオン注入層を形成することができる。」

「[0110]以下,実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない。
[0111](実施例1)
直径200mm,赤燐ドープ,抵抗率が1.2mΩcmのCZ単結晶からエピタキシャル用のシリコン基板を作製した。
そして裏面側に300nmの厚さのCVD酸化膜を形成した。
[0112]その後,このシリコン基板に大電流イオン注入装置を用いて炭素イオンの注入を行った。具体的には,シリコン基板のイオン注入を行う表面にはパッド酸化膜を形成せずに,5°のチルティングでチャネリング対策を行った。加速電圧を60keV,ドーズ量を1.0×10 ^(15) atoms/cm ^(2) とした。
そしてイオン注入後に,RTA装置を用いて回復熱処理を行った。この熱処理条件は,昇温速度30℃/sec,窒素雰囲気1200℃,30秒とした。
[0113]その後,基板洗浄を実施し,エピタキシャル成長を行った。このエピタキシャル成長は,枚葉式反応機を用い,トリクロロシランをシリコンソースに用いて1150℃で厚さ5μmのエピタキシャル層を形成した。 形成したエピタキシャル層の厚さを赤外線の干渉法で調べた結果,5.0?5.2μmの範囲であった。また,エピタキシャル層の抵抗率はショットキーダイオードによるCV法により測定した結果,ウエーハ中央で10.0Ωcmであった。
[0114]作製したエピタキシャルウエーハについて,以下に示す様な評価を行った。
作製したエピタキシャルウエーハのエピタキシャル層の欠陥を,プレファレンシャルエッチングで評価した。
また,プレファレンシャルエッチングを行ったウエーハについて,オートドープの影響を比較的強く受ける外周10?20mmの位置からそれぞれチップを切り出し,それぞれ角度研摩を行い,スプレデイングレジスタンスによりドーパントプロファイルを測定した。ここでスプレデイングレジスタンスは補正データで抵抗値から不純物濃度に換算した。その結果を図3に示した。なお,エピタキシャル層の厚さはプレファレンシャルエッチングでエッチングした分,約1.0μm薄くなっている。
[0115](比較例1,2)
比較のために,実施例1で用いたシリコン基板と同じ製造方法(同一ロット)のシリコン基板を1枚ずつ準備し,このうち一方には裏面側にCVD酸化膜を形成して,炭素イオン注入を行わずにエピタキシャルウエーハを製造し(比較例1),残りの一方には裏面側にCVD酸化膜を形成せずに炭素イオン注入を行ってエピタキシャルウエーハを製造した(比較例2)。
なお,CVD酸化膜の形成条件,炭素イオン注入条件,エピタキシャル層の形成条件は,各々実施例と同じとした。
[0116]比較例1のエピタキシャルウエーハのウエーハ中心のエピタキシャル層の厚さは5.1?5.3μmの範囲であった。また,抵抗率は9.9Ωcmから9.2Ωcmの範囲であった。
また,比較例2のエピタキシャルウエーハのウエーハ中心のエピタキシャル層の厚さは5.1?5.3μmの範囲であった。そして抵抗率は9.9Ωcmであった。
そして比較例1,2のシリコンエピタキシャルウエーハに対して,実施例と同様の評価を行った。その結果を図3に示す。
[0117]エピタキシャル層の欠陥をプレファレンシャルエッチングで調査した結果,実施例,比較例1,2何れのエピタキシャルウエーハも,積層欠陥の密度は平均的なレベルの範囲内であった。
[0118]そして図3に示すように,エピタキシャル層のリン濃度は,実施例,比較例1,比較例2の順に少ない結果であり,スプレデイングレジスタンスの測定結果からは,オートドープについては有意な差が見られた。
エピタキシャル成長時の基板からエピタキシャル層へのアウトディフュージョンについては,シリコン基板とエピタキシャル層との界面が明確でないので,差異を明確に確認できないが,比較例2,比較例1,実施例の順に少ない。
なお図3では,角度研摩の精度が必ずしもよくないので,エピタキシャル層と基板の界面については,プロファイルが一致するように重ねて示している。
[0119]以上の結果から,裏面をノンドープのCVD酸化膜でシールした高濃度リンドープシリコン基板を用い,かつ表面側に炭素イオン注入を行うことにより,アウトディフュージョン,オートドープを大幅に抑制できることが分かった。
また,低抵抗率のシリコン基板にイオン注入を行った場合には,素子製造工程中の基板側からエピタキシャル層側へのドーパントの拡散も抑制することができ,素子の耐圧を確保するため必要以上にエピタキシャル層の厚さを厚くすることが必要ないことも判った。
[0120](実施例2)
直径200mm,ボロンドープ,抵抗率が3.2mΩcm(ボロンドープ濃度:0.25×10^( 20) atoms/cm ^(3) )のCZ単結晶からシリコン基板を作製した。シリコン基板製造工程途中で裏面側に,500nmの厚さのCVD酸化膜を形成した。
[0121]その後,この基板に大電流イオン注入装置を用いて炭素イオンの注入を行なった。パッド酸化膜は形成せず5℃のチルティングでチャネリング対策を行なった。加速電圧は60keV,ドーズ量は1.0×10 ^(15) atoms/cm^( 2) とした。イオン注入後にRTA装置や拡散炉による回復熱処理は行なわなかった。その後,基板洗浄を実施した後に,エピタキシャル成長を行なった。エピタキシャル成長は,輻射加熱方式の枚葉式反応機を用い,トリクロロシランをシリコンソースに用いて1000℃までは20℃/secの昇温速度で加熱し,1150℃でプリベークを行なった後,同じ温度で,ボロンが1.5×10 ^(15 )atoms/cm ^(3) でドープされたエピタキシャル層を形成してシリコンエピタキシャルウエーハを製造した。赤外線の干渉法でこのエピタキシャル層の厚さを調べた結果,5.5?5.8μmの範囲であった。エピタキシャル層の抵抗率はショットキーダイオードによるCV法により測定した結果,ウエーハ中央で10.0Ωcmであった。
[0122](比較例3)
比較のために,上記炭素イオンの注入を行わない以外は実施例2と同様にしてシリコンエピタキシャルウエーハを製造した。このときのウエーハ中心のエピタキシャル層の厚さは5.2?5.6μmの範囲であった。また,抵抗率は中央部で9.9Ωcmであった。
[0123]実施例2及び比較例3により製造されたシリコンエピタキシャルウエーハのエピタキシャル層の欠陥をプレファレンシャルエッチングで調査した。結果として,実施例2においては炭素イオン注入によるダメージはエピタキシャル層に積層欠陥を誘起していないことが確認された。また,実施例2及び比較例3においてエピタキシャル層の欠陥密度は平均的なレベルの範囲内であった。
[0124]実施例2及び比較例3のシリコンエピタキシャルウエーハについて,熱処理をしていないもの,950℃,20時間及び1100℃,1時間で3%の酸素を含んだ窒素ガス雰囲気下の熱処理条件で縦型の拡散炉を用いて熱処理をしたものを用意した。これらについて,オートドープの影響を比較的強く受ける外周10?20mmの位置からそれぞれチップを切り出し,四重極型のSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)により,エピタキシャル層表面からシリコン基板方向へ約8μmのボロンのデプスプロファイルを測定した。その結果を図8に示す。図8から,比較例3ではリンドーパントの拡散は抑制されていないことが示された。一方で,熱処理をしていない場合にはエピタキシャル層へのボロンドーパントの拡散は抑制されていることが分かり,これよりエピタキシャル成長工程においてのボロンドーパントの拡散抑制が推察される。また,擬似素子作製工程として950℃,20時間の熱処理をした場合も,ボロンドーパントの拡散が抑制されていることがわかる。しかし,1100℃,1時間の熱処理をした場合では,ボロンドーパント拡散の減速はわずかであった。
[0125]以上の結果から,裏面をノンドープの酸化膜でシールした高濃度にボロンがドープされたシリコン基板を用い,表面側に炭素イオン注入を行ない,エピタキシャル成長後の熱処理を950℃近傍の温度で長時間かけて行なうことにより,ボロンのシリコン基板からエピタキシャル層中への拡散(外方拡散)が抑制できることが解った。
[0126](実施例3)
直径200mm,赤燐ドープ,抵抗率が1.2mΩcm(リンドープ濃度:0.6×10 ^(20) atoms/cm ^(3) )のCZ単結晶からシリコン基板を作製した。シリコン基板製造工程途中で裏面側に,300nmの厚さのCVD酸化膜を形成した。
[0127]その後,この基板に大電流イオン注入装置を用いて炭素イオンの注入を行なった。パッド酸化膜を形成した。加速電圧は60keV,ドーズ量は2.0×10^( 15 )atoms/cm ^(2) としてイオン注入を行った。イオン注入後にRTA装置や拡散炉による回復熱処理は行なわなかった。その後,基板洗浄を実施した後に,エピタキシャル成長を行なった。エピタキシャル成長は,輻射加熱方式の枚葉式反応機を用い,トリクロロシランをシリコンソースに用いて1000℃までは20℃/secの昇温速度で加熱し,1150℃でプリベークを行なった後,同じ温度で,リンが0.5×10 ^(16) atoms/cm^( 3) でドープされたエピタキシャル層を形成してシリコンエピタキシャルウエーハを製造した。赤外線の干渉法でこのエピタキシャル層の厚さを調べた結果,中心の厚さは5.2?5.4μmの範囲にあった。エピタキシャル層の抵抗率はショットキーダイオードによるCV法により測定した結果,ウエーハ中央付近で1.0Ωcmであった。
[0128](比較例4)
比較のために,上記炭素イオンの注入を行わない以外は実施例3と同様にしてシリコンエピタキシャルウエーハを製造した。このときのウエーハ中心のエピタキシャル層の厚さは5.2?5.5μmの範囲であった。また,抵抗率は中央部で0.99Ωcmであった。
[0129]実施例3及び比較例4により製造されたシリコンエピタキシャルウエーハのエピタキシャル層の欠陥をプレファレンシャルエッチングで調査した。結果として,実施例3においては炭素イオン注入によるダメージはエピタキシャル層に積層欠陥を誘起していないことが確認された。また,実施例3及び比較例4においてエピタキシャル層の欠陥密度は平均的なレベルの範囲内であった。
[0130]実施例3及び比較例4のシリコンエピタキシャルウエーハについて,熱処理をしていないもの,950℃,20時間及び1100℃,1時間で3%の酸素を含んだ窒素ガス雰囲気下の熱処理条件で縦型の拡散炉を用いて熱処理をしたものを用意した。これらについて,オートドープの影響を比較的強く受ける外周10?20mmの位置からそれぞれチップを切り出し,四重極型のSIMSにより,エピタキシャル層表面からシリコン基板方向へ約8μmのボロンのデプスプロファイルを測定した。その結果を図9に示す。図9から,比較例4ではリンドーパントの拡散は抑制されていないことが示された。一方で,熱処理をしていない場合にはエピタキシャル層へのリンドーパントの拡散は抑制されていることが分かり,これよりエピタキシャル成長工程においてのリンドーパントの拡散抑制が推察される。また,擬似素子作製工程として950℃,20時間の熱処理をした場合も,リンドーパントの拡散が抑制されていることがわかる。しかし,1100℃,1時間の熱処理をした場合では,リンドーパント拡散の減速はわずかであった。
[031]この図9から,上述のシリコン基板界面から離れたところで,リンの減速拡散が観察されなかったのは,炭素濃度の低い部位に相当している。つまり,炭素イオン注入条件が同じである場合には,ボロンシリコン基板(実施例2)の場合より実施例3のシリコンエピタキシャルウエーハのリンドーパント濃度が高くなり,その結果,シリコン基板-エピタキシャル界面からある程度離れた部位では炭素濃度が低くなり,リンドーパントの拡散抑制効果が弱くなる。」

「[請求項8]シリコンエピタキシャルウエーハの製造方法であって,
リンまたはボロンが2.0×10 ^(19) atoms/cm^( 3) 以上の濃度でドープされたシリコン基板を準備し,
該準備したシリコン基板に,裏面側にCVD酸化膜を形成する工程と,表面側に炭素イオンを注入して炭素イオン注入層を形成する工程とを順不同で行った後,
前記炭素イオン注入を行った表面にエピタキシャル層を形成することを特徴とするシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法。」

したがって,上記引用文献8には,以下の技術的事項が記載されていると認められる。

(1)炭素イオンの拡散が空孔型拡散と格子間型拡散の両方の機構でおこると考えられることから,炭素イオンを高濃度でシリコン基板に注入することにより,シリコン基板からエピタキシャル層へのドーパント(リン,ボロン)の浮き上がり現象をエピタキシャル成長工程と素子製造工程において抑制することが可能となり,結果として,縦型トランジスタのオン抵抗低減,リーク電流の低減が実現できるようになる([0068])こと。

(2)炭素イオンを1×10 ^(15) atoms/cm^( 2) 前後のドーズ量でイオン注入すると,その領域が強力なゲッタリングサイトとなることが知られている([0069])こと。

(3)裏面をノンドープの酸化膜でシールした高濃度にボロンがドープされたシリコン基板を用い,表面側に炭素イオン注入を行ない,エピタキシャル成長後の熱処理を950℃近傍の温度で長時間かけて行なうことにより,ボロンのシリコン基板からエピタキシャル層中への拡散(外方拡散)が抑制できる([0125])こと。

9.引用文献9について
また,原査定で引用された引用文献9(特開2011-151318号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0036】
本実施の形態において,イオン注入する不純物は,たとえばカーボンとすることができる。カーボンは,シリコン中でいくつかの形態のSi-Cクラスタを形成し,このSi-Cクラスタが歪み場を誘起して金属元素をゲッタリングすることができる。また,カーボンは,シングルカーボンイオンとすることもできるが,シングルカーボンイオンではなく,クラスタカーボンイオンとすることもできる。クラスタカーボンイオンとしては,たとえば,C_(7)H_(7),C_(14)H_(14),C_(16)H_(10)等とすることができる。クラスタカーボンを用いることにより,不純物を浅く注入することができ,ゲッタリング層12が,基板1とソース・ドレイン領域7とのPN接合に達しないように形成しやすくすることができる。」

したがって,上記引用文献9には,クラスタカーボンを用いることにより,不純物を浅く注入することができ,ゲッタリング層が,基板とソース・ドレイン領域とのPN接合に達しないように形成しやすくすることができるという技術的事項が記載されていると認められる。

第4 対比・判断
1.本願発明1について
(1)引用文献1を主引例とした検討
ア 対比
本願発明1と引用発明1-1とを対比すると,次のことがいえる。

(ア)引用発明1-1における「CZ法で成長させたシリコン基板であるn型のCZ基板11」,「n型シリコンエピタキシャル層2」は,それぞれ,本願発明1における「半導体ウェーハ」,「エピタキシャル層」に相当する。

(イ)引用発明1-1の「炭素」及び「注入」は,本願発明1の「ゲッタリングに寄与する構成元素」及び「イオンを照射」に相当する。
そうすると,引用発明1-1の「前記CZ基板11に対して,その表面に熱酸化膜81を介して4族の不純物元素,例えば炭素を1×10^(15)cm^(-2)のドーズ量で注入して,前記CZ基板11の内部の一平面の全部に炭素注入領域14を形成」と,本願発明1の「ゲッタリングに寄与する構成元素を含む第1クラスターイオンを照射して,該半導体ウェーハの表面に,前記第1クラスターイオンの構成元素が固溶してなる第1改質層を形成する第1工程」とは,「ゲッタリングに寄与する構成元素を含む第1のイオンを照射して,該半導体ウェーハに,前記第1のイオンの構成元素が固溶してなる第1改質層を形成する工程」である点で一致し,また,
引用発明1-1の「前記チャネルストップ部50の内部に,炭素イオンを選択的に5×10^(13 )cm^(-2)以上,好ましくは5×10^(13 )?5×10^(15) cm^(-2)のドーズ量で注入してゲッター部60を形成」と,本願発明1の「該エピタキシャル層の表面の一部にゲッタリングに寄与する構成元素を含む第2クラスターイオンを照射して,前記エピタキシャル層の表面の一部に,前記第2クラスターイオンの構成元素が固溶してなる第2改質層を形成する第3工程」とは,「該エピタキシャル層の表面の一部にゲッタリングに寄与する構成元素を含む第2のイオンを照射して,前記エピタキシャル層の表面の一部に,前記第2のイオンの構成元素が固溶してなる第2改質層を形成する工程」である点で一致するといえる。

したがって,本願発明1と引用発明1-1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「半導体ウェーハの表面にゲッタリングに寄与する構成元素を含む第1のイオンを照射して,該半導体ウェーハに,前記第1のイオンの構成元素が固溶してなる第1改質層を形成する第1工程と,
前記半導体ウェーハの第1改質層上にエピタキシャル層を形成する第2工程と,
該エピタキシャル層の表面の一部にゲッタリングに寄与する構成元素を含む第2のイオンを照射して,前記エピタキシャル層の表面の一部に,前記第2のイオンの構成元素が固溶してなる第2改質層を形成する第3工程と,
を有する半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1では,第1改質層が,半導体ウェーハの「表面」に形成されるのに対して,引用発明1-1では,CZ基板11の「内部の一平面」に形成される点。

(相違点2)本願発明1では,第1及び第2のイオンの照射が「クラスターイオン」の照射であり,「該第3工程後の前記第1改質層および第2改質層における前記ゲッタリングに寄与する構成元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅がともに100nm以下である」という構成を備えるのに対し,引用発明1-1はそのような構成を備えていない点。

イ 相違点についての判断
事案にかんがみ,最初に相違点2について検討する。
上記第3の1.(2)の記載から,引用発明1-1の「ゲッター部60」を,チャネルストップ部50とゲッター部60との間にP^(+)層のみの領域が残るように形成することで,電子/正孔の再結合が起こる確率を増やし,入射光によってエピタキシャル基板10の表面で発生した電子が基板表面に沿って横方向(水平方向)に拡散し読み出し側と反対側のチャネルストップ部50を通過する際に捕獲することで,チャネルストップ部50を通過して転送チャネル領域31に漏れ込むスミア成分を抑制するものといえる。
そして,引用発明1-1における,「前記チャネルストップ部50の内部に,炭素イオンを選択的に5×10^(13 )cm^(-2)以上,好ましくは5×10^(13 )?5×10^(15) cm^(-2)のドーズ量で注入」との構成における「5×10^(15) cm^(-2)」というドーズ量の上限は,エピタキシャル基板10の表面の結晶性の劣化を少なく抑えることを目的としたものといえる。

してみれば,引用発明1-1の「ゲッター部60」は,電子/正孔の再結合が起こる確率を増やすことで,電子を捕獲するために設けられたものであって,そのドーズ量は,エピタキシャル基板10の表面の結晶性の劣化を少なく抑えることの必要性から,単純に高いほど望ましいものとはいえず,さらに,「ゲッター部60」の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅が狭いことが望まれているものとも理解することはできない。また,このことは,引用文献2-9の記載を参酌しても左右されるものではない。

すなわち,引用発明1-1において,イオンの照射を,「クラスターイオン」により行い,「該第3工程後の前記第1改質層および第2改質層における前記ゲッタリングに寄与する構成元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅がともに100nm以下」となるように「ゲッター部60」を形成する動機を見いだすことはできない。
したがって,引用発明1-1において,上記相違点2について,本願発明1の構成を採用することを当業者が容易になし得たとは認められない。

一方,本願発明1は,上記構成を備えることによって,本願明細書に記載された,「第1クラスターイオン16を照射した結果形成される第1改質層18は,クラスターイオン16の構成元素が半導体ウェーハの表面の結晶の格子間位置または置換位置に固溶して局所的に存在する領域であり,ゲッタリングサイトとして働く。同様に,第2クラスターイオン24を照射した結果形成される第2改質層26もゲッタリングサイトとして働く。その理由は,以下のように推測される。すなわち,クラスターイオンの形態で照射された炭素やホウ素などの元素は,シリコン単結晶の置換位置・格子間位置に高密度で局在する。そして,シリコン単結晶の平衡濃度以上にまで炭素やホウ素を固溶すると,重金属の固溶度(遷移金属の飽和溶解度)が極めて増加することが実験的に確認された。つまり,平衡濃度以上にまで固溶した炭素やホウ素により重金属の固溶度が増加し,これにより重金属に対する捕獲率が顕著に増加したものと考えられる。ここで,本発明では第1クラスターイオン16および第2クラスターイオン24を照射するため,モノマーイオンを注入する場合に比べて,より高いゲッタリング能力を得ることができる。そのため,本製法により得られる半導体エピタキシャルウェーハ100,200から製造した裏面照射型固体撮像素子は,従来に比べ白傷欠陥発生の抑制が期待できる。」(【0035】,【0036】)という効果を奏するものと認められる。

したがって,本願発明1は,他の相違点について検討するまでもなく,当業者であっても引用発明1-1,引用文献2-9に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)引用文献5を主引例とした検討
ア 対比
本願発明1と引用発明5-1とを対比すると,次のことがいえる。

(ア)引用発明5-1における「シリコン単結晶基板1」,「シリコンエピタキシャル層3」は,それぞれ,本願発明1における「半導体ウェーハ」,「エピタキシャル層」に相当する。

(イ)引用発明5-1の「炭素」及び「注入」は,本願発明1の「ゲッタリングに寄与する構成元素」及び「イオンを照射」に相当する。
そうすると,引用発明5-1の「次いで,上記シリコン単結晶基板1をイオン注入装置にセットし,シリコン単結晶基板1の一方の表面に炭素イオンをイオン注入し,シリコン単結晶基板1の表面近傍に非キャリア性ドーパントを含む第1の層2を形成するB2工程」と,本願発明1の「ゲッタリングに寄与する構成元素を含む第1クラスターイオンを照射して,該半導体ウェーハの表面に,前記第1クラスターイオンの構成元素が固溶してなる第1改質層を形成する第1工程」とは,「ゲッタリングに寄与する構成元素を含む第1のイオンを照射して,該半導体ウェーハに,前記第1のイオンの構成元素が固溶してなる第1改質層を形成する工程」である点で一致し,また,
引用発明5-1の「次いで,上記シリコンエピタキシャル層3が形成されたシリコン単結晶基板1をイオン注入装置にセットし,シリコンエピタキシャル層3の表面の全部に炭素イオンをイオン注入し,シリコンエピタキシャル層3の内部の一平面の全部に炭素を含む第2の層4を形成するB4工程」と,本願発明1の「該エピタキシャル層の表面の一部にゲッタリングに寄与する構成元素を含む第2クラスターイオンを照射して,前記エピタキシャル層の表面の一部に,前記第2クラスターイオンの構成元素が固溶してなる第2改質層を形成する第3工程」とは,「該エピタキシャル層の表面にゲッタリングに寄与する構成元素を含む第2のイオンを照射して,前記エピタキシャル層に,前記第2のイオンの構成元素が固溶してなる第2改質層を形成する工程」である点で一致するといえる。

したがって,本願発明1と引用発明5-1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「半導体ウェーハの表面にゲッタリングに寄与する構成元素を含む第1のイオンを照射して,該半導体ウェーハに,前記第1のイオンが固溶してなる第1改質層を形成する第1工程と,
前記半導体ウェーハの第1改質層上にエピタキシャル層を形成する第2工程と,
該エピタキシャル層の表面にゲッタリングに寄与する構成元素を含む第2のイオンを照射して,前記エピタキシャル層に,前記第2のイオンの構成元素が固溶してなる第2改質層を形成する第3工程と,
を有する半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。」

(相違点)
(相違点3)本願発明1では,第1改質層が,半導体ウェーハの「表面」に形成されるのに対して,引用発明5-1では,第1の層2が,シリコン単結晶基板1の「表面近傍」に形成される点。

(相違点4)本願発明1では,第2のイオンが,エピタキシャル層の表面の「一部」に照射され,第2改質層が,エピタキシャル層の「表面の一部」に形成されるのに対して,引用発明5-1では,炭素イオンが,シリコンエピタキシャル層3の表面の「全部」に照射され,第2の層4が,シリコンエピタキシャル層3の「内部の一平面の全部」に形成される点。

(相違点5)本願発明1では,第1及び第2のイオンの照射が「クラスターイオン」の照射であり,「該第3工程後の前記第1改質層および第2改質層における前記ゲッタリングに寄与する構成元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅がともに100nm以下である」という構成を備えるのに対し,引用発明5-1はそのような構成を備えていない点。

イ 相違点についての判断
事案にかんがみ,最初に相違点4について検討する。
引用発明5-1において,「シリコンエピタキシャル層3の厚さは目的とするデバイスに応じて適宜選択される」ものであって,「前記第2の層4の深さは特に限定されないが,金属不純物の捕獲機能を考慮すると,デバイス活性領域より深い位置であって当該デバイス活性領域の近傍に形成することがより好ましいものである」と特定されている。
そうすると,引用発明5-1において,「第2の層4」を,「シリコンエピタキシャル層3」の表面に形成すると,「シリコンエピタキシャル層3」の内部であって,「第2の層4」よりも浅い領域に位置する,デバイス活性領域を形成する空間的な領域を確保できなくなることは明らかである。
また,第2の層4が果たす,デバイス活性領域より深い位置であって当該デバイス活性領域の近傍において金属不純物を捕獲するという機能を鑑みれば,当該第2の層4を,「一平面の全部」ではなく,「一部」とすることで,上記機能を十分に果たすことができなくなることも明らかである。
してみれば,引用発明5-1において,上記相違点4について,本願発明1の構成を採用することを当業者が容易になし得たこととは認められない。このことは,引用文献1-4,6-9の記載を参酌しても左右されるものではない。
したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明5-1,引用文献1-4,6-9に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(3)引用文献6を主引例とした検討
ア 対比
本願発明1と引用発明6-1とを対比すると,次のことがいえる。

(ア)引用発明6-1における「シリコン基板110」,「第1エピタキシャル成長層130」は,それぞれ,本願発明1における「半導体ウェーハ」,「エピタキシャル層」に相当する。

(イ)引用発明6-1の「炭素(C)」及び「イオン注入」は,本願発明1の「ゲッタリングに寄与する構成元素」及び「イオンを照射」に相当する。
そうすると,引用発明6-1の「シリコン基板110に,ゲッタ用元素として炭素Cを用いてイオン注入を行い,シリコン基板110の内部の一平面の全面にわたって第1ゲッタ層120を形成するC1工程」と,本願発明1の「ゲッタリングに寄与する構成元素を含む第1クラスターイオンを照射して,該半導体ウェーハの表面に,前記第1クラスターイオンの構成元素が固溶してなる第1改質層を形成する第1工程」とは,「ゲッタリングに寄与する構成元素を含む第1のイオンを照射して,該半導体ウェーハに,前記第1のイオンの構成元素が固溶してなる第1改質層を形成する工程」である点で一致し,また,
引用発明6-1の「第1エピタキシャル成長層130の上層の素子分離領域100Bから基板分断部100Cにわたる領域に,ゲッタ用元素として炭素(C)を用いてイオン注入を行い,撮像領域100Aの周辺領域であって前記第1エピタキシャル成長層130の内部の一平面の一部に第2ゲッタ層140を形成するC3工程」と,本願発明1の「該エピタキシャル層の表面の一部にゲッタリングに寄与する構成元素を含む第2クラスターイオンを照射して,前記エピタキシャル層の表面の一部に,前記第2クラスターイオンの構成元素が固溶してなる第2改質層を形成する第3工程」とは,「該エピタキシャル層の表面の一部にゲッタリングに寄与する構成元素を含む第2のイオンを照射して,前記エピタキシャル層の一部に,前記第2のイオンの構成元素が固溶してなる第2改質層を形成する工程」である点で一致するといえる。

したがって,本願発明1と引用発明6-1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「半導体ウェーハの表面にゲッタリングに寄与する構成元素を含む第1のイオンを照射して,該半導体ウェーハに,前記第1のイオンの構成元素が固溶してなる第1改質層を形成する第1工程と,
前記半導体ウェーハの第1改質層上にエピタキシャル層を形成する第2工程と,
該エピタキシャル層の表面の一部にゲッタリングに寄与する構成元素を含む第2のイオンを照射して,前記エピタキシャル層の一部に,前記第2のイオンの構成元素が固溶してなる第2改質層を形成する第3工程と,
を有する半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。」

(相違点)
(相違点6)本願発明1では,第1及び第2のイオンの照射が「クラスターイオン」の照射であり,第1改質層及び第2改質層が,いずれも半導体ウェーハ及びエピタキシャル層の「表面」に形成され「該第3工程後の前記第1改質層および第2改質層における前記ゲッタリングに寄与する構成元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅がともに100nm以下である」という構成を備えるのに対し,引用発明6-1では,そのような構成を備えていない点。

イ 相違点についての判断
上記第3の6.(2)イの記載から,引用発明6-1の第2ゲッタ層140は,第1エピタキシャル成長工程の後,第2エピタキシャル成長工程の前に,ゲッタ層形成工程によって第1エピタキシャル成長層と第2エピタキシャル成長層との中間で撮像領域の周辺領域にゲッタ層を形成して,ゲッタ層を撮像領域のフォトセンサ部の近い位置に配置することから,撮像領域の素子構造には影響を与えることなく,ゲッタ層を設けることができ,したがって,フォトセンサ部に影響する重金属類のゲッタリングを容易に行い,重金属類による白キズの発生を有効に抑制することができるというものである。
そして,このような,第1エピタキシャル成長工程の後,第2エピタキシャル成長工程の前に形成される,撮像領域の周辺領域においてフォトセンサ部に影響する重金属類のゲッタリングするゲッタ層の形状として,ゲッタリングに寄与する構成元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅を100nm以下の薄いものとする動機を見いだすことはできない。このことは,引用文献1-5,7-9の記載を参酌しても左右されるものではない。

すなわち,引用発明6-1において,イオンの照射を,「クラスターイオン」により行い,「該第3工程後の前記第1改質層および第2改質層における前記ゲッタリングに寄与する構成元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅がともに100nm以下」となるように「第2ゲッタ層140」を形成する動機を見いだすことはできない。
したがって,引用発明6-1において,上記相違点6について,本願発明1の構成を採用することを当業者が容易になし得たとは認められない。

一方,本願発明1は,上記構成を備えることによって,本願明細書に記載された,「第1クラスターイオン16を照射した結果形成される第1改質層18は,クラスターイオン16の構成元素が半導体ウェーハの表面の結晶の格子間位置または置換位置に固溶して局所的に存在する領域であり,ゲッタリングサイトとして働く。同様に,第2クラスターイオン24を照射した結果形成される第2改質層26もゲッタリングサイトとして働く。その理由は,以下のように推測される。すなわち,クラスターイオンの形態で照射された炭素やホウ素などの元素は,シリコン単結晶の置換位置・格子間位置に高密度で局在する。そして,シリコン単結晶の平衡濃度以上にまで炭素やホウ素を固溶すると,重金属の固溶度(遷移金属の飽和溶解度)が極めて増加することが実験的に確認された。つまり,平衡濃度以上にまで固溶した炭素やホウ素により重金属の固溶度が増加し,これにより重金属に対する捕獲率が顕著に増加したものと考えられる。ここで,本発明では第1クラスターイオン16および第2クラスターイオン24を照射するため,モノマーイオンを注入する場合に比べて,より高いゲッタリング能力を得ることができる。そのため,本製法により得られる半導体エピタキシャルウェーハ100,200から製造した裏面照射型固体撮像素子は,従来に比べ白傷欠陥発生の抑制が期待できる。」(【0035】,【0036】)という効果を奏するものと認められる。

したがって,本願発明1は,当業者であっても引用発明6-1,引用文献1-5,7-9に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2-8について
本願発明2-8は,本願発明1の構成を全て含み,これに更に限定を加えたものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用文献1-9に記載された発明及び技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明9について
本願発明9と,引用発明1-2,引用発明5-2,又は引用発明6-2とを対比すると,それぞれ上記1(1)ア,上記1(2)ア,又は上記1(3)アと同様であるから,それぞれ,少なくとも下記の点で相違する。
(相違点2’)本願発明9では,「前記第1改質層および第2改質層における前記ゲッタリングに寄与する所定元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅がともに100nm以下である」という構成を備えるのに対し,引用発明1-2はそのような構成を備えていない点。
(相違点4’)本願発明9では,第2改質層が,エピタキシャル層の「表面の一部」に形成されるのに対して,引用発明5-2では,第2の層4が,シリコンエピタキシャル層3の「内部の一平面の全部」に形成される点。
(相違点6’)本願発明9では,「前記第1改質層および第2改質層における前記ゲッタリングに寄与する所定元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅がともに100nm以下である」という構成を備えるのに対し,引用発明6-2はそのような構成を備えていない点。
そこで,上記(相違点2’),(相違点4’)又は(相違点6’)について検討すると,それぞれ,上記1(1)イ,上記1(2)イ,又は上記1(3)イと同様であるから,本願発明9は,当業者であっても,引用文献1-9に記載された発明及び技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4.本願発明10-15について
本願発明10-15は,本願発明9の構成を全て含み,これに更に限定を加えたものであるから,本願発明9と同じ理由により,当業者であっても,引用文献1-9に記載された発明及び技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

5.本願発明16について
本願発明16は,本願発明1又は本願発明9の構成を全て含み,これに更に限定を加えたものであるから,本願発明1及び本願発明9と同じ理由により,当業者であっても,引用文献1-9に記載された発明及び技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は,請求項1-16について上記引用文献1-9に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら,平成31年2月12日付け手続補正により補正された請求項1-16に記載された本願発明1-16は,上記第4のとおり,引用文献1-9に記載された発明及び技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1.特許法第36条第6項第2号について
当審では,請求項9及び請求項9を引用する請求項10-16の「所定元素」という記載の意味が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年2月12日付けの補正において,「ゲッタリングに寄与する所定元素」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

2.特許法第36条第6項第1号について
当審では,請求項1の「第1クラスターイオン」及び「第2クラスターイオン」の構成元素,及び,請求項9の「所定元素」が何ら特定されていないことから,請求項1,9及び請求項1,9を引用する請求項2-8,10-16に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載されていないとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年2月12日付けの補正において,それぞれ「ゲッタリングに寄与する構成元素を含む第1クラスターイオン」,「ゲッタリングに寄与する構成元素を含む第2クラスターイオン」及び「ゲッタリングに寄与する所定元素」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明1-16は,当業者が引用文献1-9に記載された発明及び技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-08 
出願番号 特願2012-249370(P2012-249370)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 桑原 清  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 加藤 浩一
梶尾 誠哉
発明の名称 半導体エピタキシャルウェーハの製造方法、半導体エピタキシャルウェーハ、および固体撮像素子の製造方法  
代理人 川原 敬祐  
代理人 杉村 憲司  

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