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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1351197
審判番号 不服2018-3577  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-12 
確定日 2019-05-21 
事件の表示 特願2013-261393「歯周病診断支援装置及びその方法並びにプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月25日出願公開、特開2015-116303、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年12月18日の出願であって、平成29年8月8日付けで拒絶理由が通知され、同年10月17日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年12月4日付けで拒絶査定されたところ、平成30年3月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。その後当審において同年10月22日付けで拒絶理由が通知され、同年12月25日付けで意見書及び手続補正書が提出され、当審において平成31年1月23日付けで拒絶理由が通知され、同年4月1日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1?12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明12」という。)は、平成31年4月1日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
歯科画像を撮像する撮像装置によって撮影された撮像データから、少なくとも歯槽骨頂部、歯骨先端部、及び、歯冠先端部を含む歯部の形状を、一つの歯部位又は一つの歯グループに対して検出する歯部形状検出部と、
前記歯部の形状の情報から前記歯槽骨頂部を滑らかに結んだ歯槽骨頂部ライン、前記歯骨先端部を滑らかに結んだ歯骨先端部ライン、及び、前記歯冠先端部を滑らかに結んだ歯冠先端部ラインに基づいて複数の測定箇所分の歯槽骨吸収度を算出し、前記歯槽骨吸収度を平均して定量化された歯槽骨吸収度を得る歯槽骨吸収度算出部と、
を有する歯周病診断支援装置。」

なお、本願発明2?12の概要は、以下のとおりである。
本願発明5及び9は、それぞれ、本願発明1に対応するコンピュータプログラム及び方法の発明であり、本願発明1とカテゴリー表現が異なるだけの発明である。また、本願発明2?4、6?8及び10?12は、それぞれ、本願発明1、5及び9を減縮した発明である。

第3 引用文献等

1 引用文献1について

(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(国際公開第2013/018522号)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引1-ア)
「[0031] 以下、本発明の実施形態を、図に基づいて説明する。図1は、本発明の実施
の形態に係る歯周病の検査方法を示すフローチャートである。図2は、本発明の実施の形態に係る歯周病の検査方法に用いられる、歯科用X線撮影装置、計算機及び画像表示装置が接続された装置を示す図である。
[0032] 図1に示すように、本発明の歯周病の検査方法は、人又は犬等の動物の歯を歯科用X線によって撮影して複数のX線CT画像を得、得られた複数のCT画像を1枚ずつ読込み、表示し(S-1工程)、表示されたCT画像上で正中線を検出し(S-2工程)、各CT画像内で各歯の輪郭を検出し(S-3工程)、CT画像間で各歯の輪郭を検出し(S-4工程)、歯式を付与し(S-5工程)、根尖、歯槽骨頂部及び歯冠部を検出し(S-6工程)、検出結果を表示し(S-7工程)、検出された根尖、歯槽骨頂部及び歯冠部のデータに基づいて、距離指標、体積指標、表面積指標、1次モーメント指標及び重心指標のうちの少なくとも1つを算出し(S-8工程)、算出された少なくとも1つの指標に基づいて歯周病の進行状態を検査する。
また、図2に示すように、本発明の歯周病の進行状態を検査する歯周病の検査方法においては、例えば、X線CT撮影装置20、計算機(PC)21及び画像表示装置(モニタ)22が接続されたシステムが用いられる。X線CT撮影装置20は患者の歯を撮影する。計算機(PC)21は撮影されたX線CT画像を取り込んで得た2次元画像から根尖、歯槽骨頂部及び歯冠部を自動検出し結果を画像表示装置(モニタ)22に表示する。検出誤りがあれば表示された画像上で、例えば、ライトペン24によって修正指示する。ライトペン24の代わりにカーソルで指示してもよい。」

(引1-イ)
「[0034] 人又は動物の歯をX線によって撮影して連続した断面のX線CT画像を得るために、上述の方法が用いられる。X線CT画像では、図3、図4及び図5に示すように、歯槽骨51は撮影されるが、歯肉32はほとんど撮影されない。歯30は歯槽骨35と歯肉(歯茎)32で支持されており、健康な歯30では歯頸部33と歯肉頂部46が一致し、歯肉32は歯頸部33まで密着し、歯30を支持している。歯周病の歯40では、歯肉が歯から剥離し、ポケット45が生成されるとともに重症の場合は出血及び排膿48を生じ、歯肉頂部46からポケット45の底部までは歯30を支持することができない。歯周病が進行すると歯槽骨35も吸収されて退縮し、歯槽骨35、歯肉32ともに歯40の支持力が低下していく。」

(引1-ウ)
「[0045]工程S6は根尖、歯槽骨頂部及び歯冠部を検出する工程である。
根尖、歯槽骨頂部及び歯冠部のデータを検出する。検出は自動で行う。検出された根尖、歯槽骨頂部及び歯冠部のデータを表示する。操作者が検出結果を確認し、間違っているときは修正する。根尖は下方で輪郭が検出されなくなった位置とする。歯冠部は上方で輪郭が検出されなくなった位置とする。歯槽骨頂部は、輪郭の周囲の歯槽骨により決定される。例えば、歯の輪郭の周囲の指定する幅の中に歯槽骨が存在するもっとも上方を歯槽骨頂部とする。図13(CT画像の170番)のL7を見ると歯槽骨が歯の輪郭の周囲に見えている状態である。これより大きな番号の画像では見えないとすると、L7の歯槽骨頂部は170となる。同様にして各歯の歯槽骨頂部を検出する。」

(引1-エ)
「[0050]工程S8は距離、歯根体積、歯根表面積、歯根1次モーメント、又は、重心の指標を算出する工程である。
検出された根尖、歯槽骨頂部、及び歯冠部のデータに基づいて、距離指標、体積指標、表面積指標、1次モーメント指標及び重心指標のうちの少なくとも1つの指標を算出する。すなわち、工程S6で検出された根尖、歯槽骨頂部及び歯冠部の各位置を用い、かつ、検出した輪郭等を利用して、距離、体積、表面積、1次モーメント及び重心のうちの少なくとも1つの指標を算出する。以下、指標ごとに、順に説明する。
[0051](距離指標KDの算出方法)
歯の状態の指標である距離指標(歯根距離指標)(KD)は、以下のようにして算出することができる。距離指標(歯根距離指標)(KD)の算出に先立ち、まず、歯1本全体の長さ(DF)を以下のように計算する。すなわち、根尖34から歯冠部37までを歯の長さ(DF)とし、
これを次式:DF=根尖-歯冠部 で計算し、実単位に変換する。歯軸がz軸に平行でない場合は、z軸からの傾きがT度の時は数式(1)で補正する。
[0052][数1]
(省略)
[0053] 次に、歯槽骨に囲まれた歯根の長さ(DC)を以下のように計算する。すなわち、歯槽骨頂部35aから根尖34までの長さを歯槽骨に囲まれた歯根の長さ(DC)として、
次式:Dc=根尖-歯槽骨頂部 で計算し、実単位に変換する。この例ではX線CT画像220あたりからCT画像155あたりまでの枚数になる。また、歯軸の傾きがT度の時数式(2)により補正する。
[0054][数2]
(省略)
[0055] 歯の状態の指標である距離指標(歯根距離指標)(KD)は、以上から算出された、歯全体の長さ(DF)に対する、現在、歯を支持している歯槽骨に囲まれた歯根の長さ(DC)の割合(DC/DF)として算出される。すなわち、歯の状態の指標(距離指標)(KD)は、数式(3)で計算することができる。
[0056][数3]



(引1-オ)図3

(2)引用発明
上記(1)の記載を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「歯周病の検査方法に用いられる、X線CT撮影装置20、計算機(PC)21及び画像表示装置(モニタ)22が接続されたシステムであって、
人又は犬等の動物の歯を歯科用X線によって撮影して複数のX線CT画像を得、得られた複数のCT画像を1枚ずつ読込み、表示し(S-1工程)、表示されたCT画像上で正中線を検出し(S-2工程)、各CT画像内で各歯の輪郭を検出し(S-3工程)、CT画像間で各歯の輪郭を検出し(S-4工程)、歯式を付与し(S-5工程)、根尖、歯槽骨頂部及び歯冠部を検出し(S-6工程)、検出結果を表示し(S-7工程)、検出された根尖、歯槽骨頂部及び歯冠部のデータに基づいて、距離指標を算出し(S-8工程)、算出された距離指標に基づいて歯周病の進行状態を検査するものであり、
前記距離指標は、歯1本全体の長さ(DF)をDF=根尖-歯冠部で計算し、歯槽骨に囲まれた歯根の長さ(DC)をDc=根尖-歯槽骨頂部で計算し、歯全体の長さ(DF)に対する、現在、歯を支持している歯槽骨に囲まれた歯根の長さ(DC)の割合(DC/DF)として算出される、
システム。」

2 引用文献2について
前置報告書で引用された引用文献2(欧州特許出願公開第2452652号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引2-ア)
「[0018]Fig. 2 shows the same cross-section view as Fig. 1 , but now there are landmarks for the measuring and calculation of the periodontal bone defect added. As mentioned before, for each cross-section view there are preferably two measuring positions available, one on the right and one on the left side of the middle reference axis A0 at the respective alveolar bone 15 and the tooth 10. The landmarks are predefined as a first landmark 1 placed at the respective edge 12 of the neck of tooth 11 at a distal point merging with the enamel 13, a second landmark 2 placed at the distal outermost tip of the respective alveolar bone 15 on the right and on the left side of the tooth 10, and a third landmark 3 placed at the proximal innermost part of the respective sulcus gingivae where the alveolar bone 15 begins to align itself again with the edge 12 of the neck of tooth 11. A positioning of said first landmark 1, second landmark 2 and third landmark 3 and adding to the scan data is preferably done manually with expert skills within a displayed image, but an automatic positioning is also imaginable and possible by respective pattern recognition algorithms which is state of the art in other cases.」
(当審訳)
「[0018]図2は、図1と同じ断面図を示すが、ここでは、追加された歯周骨欠損の測定および計算のためのランドマークが示されている。上述のとおり、それぞれの断面図において、それぞれの歯槽骨15と歯10で中央基準軸A0の右側と左側の位置に利用できる2つの測定位置があることが好ましい。ランドマークは、エナメル13と合流する遠位点で歯11のネックのそれぞれの端12に配置された第1ランドマーク1、歯10の右側と左側のそれぞれの歯槽骨15の最も外側の遠位先端に配置された第2ランドマーク2、および、歯槽骨15が歯11のネックの端12で再びそれ自体を合せ始める、それぞれの歯肉溝の最も内側の近位部分に配置された第3ランドマーク3として、あらかじめ定義される。前記第1ランドマーク1、前記第2ランドマーク2および前記第3ランドマーク3の位置決めと走査データの付加は、表示された画像内で専門家により手動で行われることが望ましいが、自動位置決めも想定でき、他の事例の最先端のそれぞれのパターン認識アルゴリズムによって可能である。」

(引2-イ)
「[0019]Fig. 3 shows a part of the cross-section view of Fig. 2 with the added landmarks 1-3 on the right side of the tooth 10, wherein the tooth 10 with its middle reference axis A0 is slightly tilted to the right side. The measurement of the periodontal defect is now done by measurement respectively by calculation of the depth H1 of the sulcus gingivae 14. Therefore a first line A1 is defined between the first landmark 1 and the third landmark 3, and a second line A2 is defined including the landmark 2 and being perpendicular to the first line A1 intersecting the first line A1 at an intersection point 4. The depth H1 of the sulcus gingivae 14 can now be calculated as the section of the line A1 between the third landmark 3 and the intersection point 4. The value of the depth H1 is taken as the value for the alveolar bone defect or the alveolar bone condition, respectively.」
(当審訳)
「[0019]図3は、歯10の右側の追加されたランドマーク1-3を有する図2の断面図の一部を示し、ここでは、中央基準軸A0を有する歯10が右側へやや傾斜している。歯周欠損の測定は、現在、歯肉溝14の深さH1の計算によりそれぞれ測定することによって実行される。よって、第1線A1は、第1ランドマーク1と第3ランドマーク3との間で定義され、第2線A2は、第2ランドマーク2を含めて、交差点4で第1線A1に交差する第1線A1と垂直になるように定義される。歯肉溝14の深さH1は、現在、第3ランドマーク3と交差点4との間で第1線A1の部分として計算できる。深さH1の値は、それぞれ、歯槽骨の欠損、または、歯槽骨の状態のための値として得られる。」

(引2-ウ)Fig.2


(引2-エ)Fig.3


3 引用文献3について
前置報告書で引用された引用文献3(国際公開第2012/128121号)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引3-ア)
「[0042] 第一実施形態の診断支援システム1における診断支援コンピュータ3は、図1等に示されるように、その機能的構成として、撮影装置8を使用して下顎骨モデル提供者(図示しない)の下顎骨領域を被写体として少なくとも一つの適正撮影条件を含む複数の撮影条件で撮影されたパノラマ画像4を電子化した下顎骨モデルデータ9を取得するモデルデータ取得手段14と、取得された下顎骨モデルデータ9から下顎骨の輪郭を抽出し、輪郭モデルデータ15を生成する輪郭モデル生成手段16と、生成された輪郭モデルデータ15とともに下顎骨モデルデータ9を撮影した撮影位置、撮影姿勢、及び画像品質等の撮影情報17及び下顎骨モデル提供者に関する疾病履歴等を含む提供者情報18と併せて記憶し、輪郭モデルデータベース19を構築する輪郭データベース記憶手段20と、診断支援対象の被験者のパノラマ画像4を撮影装置8によって撮影して取得された診断画像データ6の入力を受付ける診断画像データ受付手段21と、受付けた診断画像データ6から下顎骨のエッジデータ22を抽出するエッジ抽出手段23と、エッジデータ22と輪郭モデルデータベース19に記憶された輪郭モデルデータ15とを互いに照合し、類似する輪郭モデルデータを検索する類似モデル検索手段24と、類似検索された輪郭モデルデータ15の撮影情報17に基づいて診断画像データ6の撮影位置等の適正を判定する位置判定手段25と、撮影情報17に基づいて診断画像データ6の画像品質の適正を判定する画像品質判定手段26と、位置及び画像品質が適正と判定された診断画像データ6に対し、類似検索された輪郭モデルデータ15に対応する提供者情報18の下顎骨モデル提供者の疾病履歴等に基づいて罹患リスクのある疾病を推定し、診断支援情報7として提供する診断支援情報提供手段27とを具備している。
[0043] また、類似モデル検索手段24は、抽出されたエッジデータ22を使用して下顎骨のエッジ31からの距離に応じて濃淡を変化させて描画した距離画像5を生成する距離画像生成手段32と、輪郭モデルデータ15から下顎骨の輪郭形状を復元する輪郭復元手段33と、復元された輪郭形状の復元データ34及び生成された距離画像5の距離画像データ35を重ね合わせ、平均値を算出する平均値算出手段36と、算出された平均値が最小値を示す輪郭モデルデータ15を特定し、診断画像データ6と類似する輪郭モデルデータ15とする輪郭モデル特定手段37とをさらに具備している。」

第4 対比・判断

1 本願発明1について

(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「X線CT撮影装置20」、「(X線)CT画像」、「歯槽骨頂部」、「根尖」及び「歯冠部」は、それぞれ、本願発明1の「撮像装置」、「撮像データ」、「歯槽骨頂部」、「歯骨先端部」及び「歯冠先端部」に相当する。
そして、引用発明の「根尖、歯槽骨頂部及び歯冠部」が、「歯式」が「付与」された「歯1本」ごとの形状情報であることは明らかである。
よって、引用発明の「X線CT撮影装置20」を用いて「人又は犬等の動物の歯を歯科用X線によって撮影して複数のX線CT画像を得、得られた複数のCT画像」から、「各歯」ごとに「根尖、歯槽骨頂部及び歯冠部を検出」することは、本願発明1の「歯科画像を撮像する撮像装置によって撮影された撮像データから、少なくとも歯槽骨頂部、歯骨先端部、及び、歯冠先端部を含む歯部の形状を、一つの歯部位又は一つの歯グループに対して検出する歯部形状検出部」に相当する。

イ 本願発明1の「歯槽骨吸収度」は、本願明細書の「本発明に係る歯周病診断支援装置では、歯槽骨吸収度を、歯の長さに対する歯根尖からの歯槽骨頂までの長さの割合(図1におけるD/C)として仮定義する」(段落【0021】)という記載を参酌すると、引用発明の「距離指標」は、「歯全体の長さ(DF)に対する、現在、歯を支持している歯槽骨に囲まれた歯根の長さ(DC)の割合(DC/DF)として算出される」ものであるから、本願発明1の「定量化された歯槽骨吸収度」に相当する。
そして、引用発明では、「各歯」ごとに「検出された根尖、歯槽骨頂部及び歯冠部のデータに基づいて、距離指標を算出」することから、複数の「歯」(測定箇所)のそれぞれにおいて「距離指標を算出」している。
よって、引用発明の「各歯」ごとに「検出された根尖、歯槽骨頂部及び歯冠部のデータに基づいて、距離指標を算出」することと、本願発明1の「前記歯部の形状の情報から前記歯槽骨頂部を滑らかに結んだ歯槽骨頂部ライン、前記歯骨先端部を滑らかに結んだ歯骨先端部ライン、及び、前記歯冠先端部を滑らかに結んだ歯冠先端部ラインに基づいて複数の測定箇所分の歯槽骨吸収度を算出し、前記歯槽骨吸収度を平均して定量化された歯槽骨吸収度を得る歯槽骨吸収度算出部」とは、「前記歯部の形状の情報から前記歯槽骨頂部、前記歯骨先端部、及び、前記歯冠先端部に基づいて複数の測定箇所分の歯槽骨吸収度を算出し、定量化された歯槽骨吸収度を得る歯槽骨吸収度算出部」である点で共通する。

ウ 上記ア及びイを踏まえると、引用発明の「歯周病の検査方法に用いられる、X線CT撮影装置20、計算機(PC)21及び画像表示装置(モニタ)22が接続されたシステム」は、本願発明1の「歯周病診断支援装置」に相当する。

(2)一致点、相違点
してみると、本願発明1と引用発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「歯科画像を撮像する撮像装置によって撮影された撮像データから、少なくとも歯槽骨頂部、歯骨先端部、及び、歯冠先端部を含む歯部の形状を、一つの歯部位又は一つの歯グループに対して検出する歯部形状検出部と、
前記歯部の形状の情報から前記歯槽骨頂部、前記歯骨先端部、及び、前記歯冠先端部に基づいて複数の測定箇所分の歯槽骨吸収度を算出し、定量化された歯槽骨吸収度を得る歯槽骨吸収度算出部と、
を有する歯周病診断支援装置。」

(相違点)
歯槽骨吸収度算出部が、本願発明1では、「前記歯槽骨頂部を滑らかに結んだ歯槽骨頂部ライン、前記歯骨先端部を滑らかに結んだ歯骨先端部ライン、及び、前記歯冠先端部を滑らかに結んだ歯冠先端部ラインに基づいて複数の測定箇所分の歯槽骨吸収度を算出し、前記歯槽骨吸収度を平均して」定量化された歯槽骨吸収度を得るのに対し、引用発明では、「各歯」ごとに「検出された根尖、歯槽骨頂部及び歯冠部のデータに基づいて、距離指標を算出」する点。

(3)判断
上記相違点について検討する。

上記相違点に係る本願発明1の構成は、上記引用文献2及び3(第3 2及び3を参照。)に記載も示唆もされておらず、周知技術といえる証拠もない。
よって、本願発明1は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2?12について
本願発明2?12は、上記1と同じ理由により、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、請求項1?15に係る発明は、上記引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、上記引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項により、特許を受けることができない、というものである。
しかしながら、平成31年4月1日付けの手続補正で補正された請求項1は、歯槽骨吸収度算出部が、「前記歯槽骨頂部を滑らかに結んだ歯槽骨頂部ライン、前記歯骨先端部を滑らかに結んだ歯骨先端部ライン、及び、前記歯冠先端部を滑らかに結んだ歯冠先端部ラインに基づいて複数の測定箇所分の歯槽骨吸収度を算出し、前記歯槽骨吸収度を平均して」定量化された歯槽骨吸収度を得る、という上記相違点に対応する構成を有するものとなった。
そして、上記相違点に係る本願発明1の構成は実質的な相違点であるから、本願発明1?12は、上記引用文献1に記載された発明ではなく、また、上記のとおり、本願発明1?12は、上記引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について

1 特許法第36条第4項第1号について

(1)当審では、発明の詳細な説明には、請求項1?15に記載の、「撮像データに近似するデータ」として保存装置から、どのような「画像データ」を抽出すれば、特定の患者の「撮像データ」における「歯槽骨頂の位置を特定」できるのかが、出願時の技術常識を踏まえても当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない、との拒絶の理由を通知しているが、平成31年4月1日付けの補正では、請求項の記載から、かかる記載を削除する補正がなされていることから、この拒絶の理由は解消した。

(2)当審では、発明の詳細な説明には、請求項1?15に記載の、「歯槽骨吸収度を算出する」ための「複数箇所」の特定の仕方が、出願時の技術常識を踏まえても当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない、との拒絶の理由を通知しているが、平成31年4月1日付けの補正において、請求項の記載として、歯槽骨吸収度算出部が、「前記歯槽骨頂部を滑らかに結んだ歯槽骨頂部ライン、前記歯骨先端部を滑らかに結んだ歯骨先端部ライン、及び、前記歯冠先端部を滑らかに結んだ歯冠先端部ラインに基づいて複数の測定箇所分の歯槽骨吸収度を算出し、前記歯槽骨吸収度を平均して」定量化された歯槽骨吸収度を得る、という構成に補正され、請求項の記載が、発明の詳細な説明の段落【0058】及び【0060】に記載されている実施可能な「複数箇所」の特定の仕方に対応するものとなった結果、この拒絶の理由は解消した。

2 特許法第36条第6項第2号について
当審では、請求項1に記載の「典型的歯周病画像が保存された保存装置と、歯科画像を撮像する撮像装置によって撮影された撮像データを解析して前記撮像データに近似するデータとして前記保存装置から抽出された画像データ、である歯科画像を得、前記得られた歯科画像と前記撮像データとを照合し、」という記載では、「典型的歯周病画像」、「歯科画像」、「撮像データ」及び「画像データ」との関係が不明であり、請求項6及び11も同様である、との拒絶の理由を通知しているが、平成31年4月1日付けの補正では、請求項の記載から、かかる記載を削除する補正がなされていることから、この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-07 
出願番号 特願2013-261393(P2013-261393)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (A61B)
P 1 8・ 121- WY (A61B)
P 1 8・ 537- WY (A61B)
P 1 8・ 536- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 遠藤 直恵  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
信田 昌男
発明の名称 歯周病診断支援装置及びその方法並びにプログラム  
代理人 友野 英三  
代理人 友野 英三  

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