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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B23K
管理番号 1351236
審判番号 不服2018-3740  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-15 
確定日 2019-05-21 
事件の表示 特願2014-95137「ビーム整形マスク、レーザ加工装置及びレーザ加工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月26日出願公開、特開2015-211978、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年5月2日の出願であって、平成29年10月4日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年12月8日に意見書が提出され、平成30年2月16日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成30年3月15日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成30年5月11日に審判請求人から上申書が提出されたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成30年2月16日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.本願請求項1-4に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

2.本願請求項1-4に係る発明は、以下の引用文献1に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.本願請求項5-9に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平6-328699号公報
2.特開2013-144613号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2009-61775号公報(周知技術を示す文献)


第3 本願発明
本願請求項1-7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明7」という。)は、平成30年3月15日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
被加工物にレーザ加工される孔の形状に相似形の開口を有するビーム整形マスクであって、
前記開口は、該開口内の光透過率が中央部から周縁部に向かって漸減すると共に、周縁部においても、レーザ光の複数ショットにより前記被加工物を貫通させてレーザ加工できる少なくとも最低限のレーザ強度が確保し得る光透過率を有するように形成されたことを特徴とするビーム整形マスク。
【請求項2】
前記開口は、縦横に並べて複数個が設けられていることを特徴とする請求項1記載のビーム整形マスク。
【請求項3】
前記被加工物は、樹脂製のフィルムであることを特徴とする請求項1又は2記載のビーム整形マスク。
【請求項4】
ビーム整形マスクに形成された開口を被加工物上に縮小投影して、該被加工物に孔をレーザ加工するレーザ加工装置であって、
前記ビーム整形マスクは、前記開口を、該開口内の光透過率が中央部から周縁部に向かって漸減すると共に、周縁部においても、レーザ光の複数ショットにより前記被加工物を貫通させてレーザ加工できる少なくとも最低限のレーザ強度が確保し得る光透過率を有するように形成したものであることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項5】
前記被加工物は、樹脂製のフィルムであることを特徴とする請求項4記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
ビーム整形マスクに形成された開口を被加工物上に縮小投影して、該被加工物に孔をレーザ加工するレーザ加工方法であって、
前記開口内の光透過率が中央部から周縁部に向かって漸減すると共に、周縁部においても、レーザ光の複数ショットにより前記被加工物を貫通させてレーザ加工できる少なくとも最低限のレーザ強度が確保し得る光透過率を有するように前記ビーム整形マスクに形成された前記開口を複数ショットの前記レーザ光を透過させ、前記開口を透過した前記複数ショットのレーザ光を前記被加工物に照射して前記被加工物に前記孔を加工する、ことを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項7】
前記被加工物は、樹脂製のフィルムであることを特徴とする請求項6記載のレーザ加工方法。」


第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、一般にインクジェットプリンタに関し、更に詳細には、インクジェットプリンタ用のノズル部材にテーパ付きノズルを形成するために使用するマスク、およびテーパ付きノズルの形成方法に関する。」
「【0013】マスクの一実施例では、形成しようとするノズルパターンに対応するマスクの透明な部分は、各々可変密度のドットパターンを組み込んでいるが、不透明ドット(どんな形状でもよい)は下層のポリマーノズル部材をレーザエネルギから部分的に遮蔽する働きをする。ドットパターンの下にあるノズル部分のこの部分的遮蔽によりノズル部材は遮蔽が存在しない場合より除去される深さが少くなる。
【0014】マスク開口の周辺部分の周りの不透明ドットの密度を適切に選定することにより、ポリマーノズル部材に形成される各ノズルの中心部分は完全に削り取られ、ノズルの周辺部分は部分的にしか削り取られないことになる。ドットの密度を各マスク開口の周辺に向って増大させることにより、得られるノズルを所要形状に形成することができる。」
「【0017】図1(a)はレーザ加工技術を用いてポリマーノズル部材にテーパ付きノズルを形成するのに使用することができるマスク30の一部の上面図である。図1(b)は図1(a)のA-A線矢視方向断面図である。
【0018】好適実施例では、マスク30は不透明材料34の薄層がレーザ光を遮蔽しまたは反射したい場所上に形成されている透明な水晶の基板32から構成されている。不透明材料はクロムの層、紫外線増強被膜、または他の適切な反射性の、またはそうでなければ不透明の被膜でよい。図1aのマスクに使用するのに好適なレーザの形式はエキシマ(excimer)レーザである。
【0019】不透明材料34の円形開口35は、ノズル部材に形成しようとする一つのノズルを形成する。
【0020】不透明なドット36はマスク30の円形開口35の内部に分配されている。これらドット36の分配により下層のノズル部材をレーザ光から程度を可変して効果的に覆い隠す。マスク30の放射源およびノズル部材に対する配列を図2に示してあり、これについては後に説明することにする。」
「【0022】更に高い密度のドット36がマスク30の円形開口35の周辺の周りに示されており、ノズルの周辺の周りを一層覆い隠してノズルのテーパ形成を達成する。ドット36の配列はノズル部材内のノズルの形状に直接影響する。
【0023】図2は、放射線42のビームをマスク44に導く、ビーム形成光学装置を有するエキシマレーザのような、光学系40を示している。マスク44の各開口35は図1(a)の開口35に対応し、ドット36は図1(a)に示すように分配されている。不透明部分によって遮蔽または反射されないレーザ放射線42はマスク44を通過してレンズ系45により伝えられ、ポリマーノズル部材46に照射される。好適実施例では、ポリマーノズル部材46はKapton^(TM)、Upilex^(TM)、または他の同等材料のような材料から構成されており、その厚さは約2ミルである。
【0024】好適実施例では、ノズル部材46に使用される材料はリールにより供給され、このノズル部材材料はリールから巻きほぐされ、マスク44およびレンズ系45から構成される像配送システムの下に設置される。光学システム40の中のレーザはこうしてから所定の時間だけ反復してパルスを発生してノズル部材46を削り取る。・・・」

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ポリマーノズル部材46にレーザ加工で形成されるテーパ付きノズル48の形状に対応した開口35を有するマスク30、44であって、
マスクの開口35は、開口内に不透明なドット36を分配し、高い密度のドット36が円形開口35の周辺の周りに配置されており、所定の時間だけ反復してパルスを発生するレーザ加工により、マスクの開口35の周辺のドット36がノズル部材をレーザ光から程度を可変して効果的に覆い隠し、ノズル部材の周辺の周りを一層覆い隠してノズルのテーパ形成を達成するように形成されたマスク。」

また、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「マスク30、44に形成された開口35をポリマーノズル部材46に投影して、該ポリマーノズル部材46にテーパ形状のノズルをレーザ加工するビーム形成光学装置であって、
前記マスク30、44は、前記開口35を、該開口内に不透明なドット36を分配し、高い密度のドット36が円形開口35の周辺の周りに配置されており、所定の時間だけ反復してパルスを発生するレーザ加工により、マスクの開口35の周辺のドット36がノズル部材をレーザ光から程度を可変して効果的に覆い隠し、ノズル部材の周辺の周りを一層覆い隠してノズルのテーパ形成を達成するように形成したビーム形成光学装置。」

2.引用文献2について
周知技術を示す文献として引用された上記引用文献2の段落【0067】及び第2図の記載からみて、当該引用文献2には、マスク130を通過したエキシマレーザ光190をガラス基板120に縮小投影するという技術的事項が記載されていると認められる。

3.引用文献3について
周知技術を示す文献として引用された上記引用文献3の段落【0023】及び第13図の記載からみて、当該引用文献3には、マスク26を通過したエキシマレーザ光22を加工試料29に縮小投影するという技術的事項が記載されていると認められる。


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明における「ポリマーノズル部材46」は、本願発明1における「被加工物」に相当する。
また、引用発明における、「テーパ付きノズル48の形状に対応した開口35を有するマスク30、44」は、本願発明1における「被加工物にレーザ加工される孔の形状に相似形の開口を有するビーム整形マスク」に相当する。
そして、引用発明のレーザ加工で「所定の時間だけ反復してパルスを発生する」点は、本願発明1のレーザ加工が「レーザ光の複数ショット」を行うことに相当する。
さらに、引用発明の「マスクの開口35は、開口内に不透明なドット36を分配し、高い密度のドット36が円形開口35の周辺の周りに配置されており、」「マスクの開口35の周辺のドット36がノズル部材をレーザ光から程度を可変して効果的に覆い隠し、ノズル部材の周辺の周りを一層覆い隠してノズルのテーパ形成を達成するように形成された」という技術的事項は、本願発明1における「開口は、該開口内の光透過率が中央部から周縁部に向かって漸減すると共に、周縁部においても、」「被加工物を」「レーザ加工できる少なくとも最低限のレーザ強度が確保し得る光透過率を有するように形成された」という技術的事項に限って一致する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「被加工物にレーザ加工される孔の形状に相似形の開口を有するビーム整形マスクであって、前記開口は、該開口内の光透過率が中央部から周縁部に向かって漸減すると共に、周縁部においても、レーザ光の複数ショットにより前記被加工物をレーザ加工できる少なくとも最低限のレーザ強度が確保し得る光透過率を有するように形成されたビーム整形マスク。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1は、開口の周縁部においても、被加工物を貫通させてレーザ加工できるという構成を備えるのに対し、引用発明は、開口の周縁部では、被加工物を貫通させずにテーパ形状にレーザ加工している点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討すると、引用発明は、インクジェットプリンタ用のノズル部材にテーパ付きノズルを形成するために使用するマスクであって、被加工物であるテーパ付きノズルはノズル周辺部をテーパ形状に加工する必要があることから、被加工物の開口の周縁部を貫通させることでテーパ部分をなくしてしまうことには阻害要因がある。
したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2、3について
本願発明2、3も、本願発明1が有する「開口の周縁部においても、被加工物を貫通させてレーザ加工できる」という構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明4について
(1)対比
本願発明4と引用発明2とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明2における「マスク30、44」、「ポリマーノズル部材46」は、本願発明4における「ビーム整形マスク」、「被加工物」に相当する。
また、引用発明2における、「該ポリマーノズル部材46にテーパ形状のノズルをレーザ加工するビーム形成光学装置」は、本願発明4における「該被加工物に孔をレーザ加工するレーザ加工装置」に相当する。
そして、レーザ加工について、引用発明2で「マスク30、44に形成された開口35をポリマーノズル部材46に投影」することは、本願発明4とは、「ビーム整形マスクに形成された開口を被加工物上に投影」することを限度として一致する。
引用発明2のレーザ加工で「所定の時間だけ反復してパルスを発生する」点は、本願発明4のレーザ加工が「レーザ光の複数ショット」を行うことに相当する。
さらに、引用発明2の「前記マスク30、44は、前記開口35を、該開口内に不透明なドット36を分配し、高い密度のドット36が円形開口35の周辺の周りに配置されており、」「マスクの開口35の周辺のドット36がノズル部材をレーザ光から程度を可変して効果的に覆い隠し、ノズル部材の周辺の周りを一層覆い隠してノズルのテーパ形成を達成するように形成した」という技術的事項は、本願発明4における「前記ビーム整形マスクは、前記開口を、該開口内の光透過率が中央部から周縁部に向かって漸減すると共に、周縁部においても、」「被加工物を」「レーザ加工できる少なくとも最低限のレーザ強度が確保し得る光透過率を有するように形成した」という技術的事項に限って一致する。

したがって、本願発明4と引用発明2との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「ビーム整形マスクに形成された開口を被加工物上に投影して、該被加工物に孔をレーザ加工するレーザ加工装置であって、
前記ビーム整形マスクは、前記開口を、該開口内の光透過率が中央部から周縁部に向かって漸減すると共に、周縁部においても、レーザ光の複数ショットにより前記被加工物をレーザ加工できる少なくとも最低限のレーザ強度が確保し得る光透過率を有するように形成したレーザ加工装置。」

(相違点)
(相違点2)本願発明4は、ビーム整形マスクに形成された開口を被加工物上に「縮小投影」しているのに対し、引用発明2は、ビーム整形マスクに形成された開口の被加工物上への投影が縮小であるか否か不明な点。
(相違点3)本願発明4は、開口の周縁部においても、被加工物を貫通させてレーザ加工できるという構成を備えるのに対し、引用発明2は、開口の周縁部では、被加工物を貫通させずにテーパ形状にレーザ加工している点。

(2)相違点についての判断
ア.相違点2について
相違点2に係る本願発明4のビーム整形マスクに形成された開口を被加工物上に縮小投影するという構成に関して、上記「第4」2.及び3.で示した引用文献2,3に記載されているように、マスクを通過したレーザ光を被加工物に縮小投影するという技術的事項は、本願出願日前において周知技術であったといえる。
そして、引用発明2と上記周知技術とはいずれも、マスクを介してレーザ光を投影し、被加工物をレーザ加工する微細加工の技術に係るものであって、より微細な加工を行うためにレーザ光を絞って縮小投影させることも技術常識にすぎないから、引用発明2に上記周知技術を適用し、引用発明2において、ビーム整形マスクに形成された開口を被加工物上に縮小投影することは当業者であれば容易に想到し得たことである。

イ.相違点3について
引用発明2は、インクジェットプリンタ用のノズル部材にテーパ付きノズルを形成するために使用するビーム形成光学装置であって、被加工物であるテーパ付きノズルはノズル周辺部をテーパ形状に加工する必要があることから、被加工物の開口の周縁部を貫通させることでテーパ部分をなくしてしまうことには阻害要因がある。

ウ.したがって、本願発明4は、当業者であっても引用発明2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

4.本願発明5について
本願発明5も、本願発明4が有する「開口の周縁部においても、被加工物を貫通させてレーザ加工できる」という構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明4と同じ理由により、当業者であっても、引用発明2及び上記周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

5.本願発明6、7について
本願発明6、7は、本願発明4、5に対応する方法の発明であり、本願発明4が有する「開口の周縁部においても、被加工物を貫通させてレーザ加工できる」という構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明4と同様の理由により、当業者であっても、引用発明2及び上記周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 原査定について
1.理由1(特許法第29条第1項第3号)について
審判請求時の補正により、上記「第5」の「1.(1)」で説示したとおり、本願発明1は引用発明と対比して相違点1を有するから、本願発明1-7は、引用文献1に記載された発明ではない。したがって、原査定の理由1を維持することはできない。

2.理由2(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により、本願発明1-7は開口の周縁部においても、被加工物を貫通させてレーザ加工できるという事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-3に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由2を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-08 
出願番号 特願2014-95137(P2014-95137)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B23K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩見 勤  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 小川 悟史
平岩 正一
発明の名称 ビーム整形マスク、レーザ加工装置及びレーザ加工方法  
代理人 奥山 尚一  
代理人 西山 春之  
代理人 小川 護晃  

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