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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02F |
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管理番号 | 1351271 |
審判番号 | 不服2017-11474 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-08-02 |
確定日 | 2019-05-09 |
事件の表示 | 特願2016-511740「光漏れを低減した液晶ディスプレイ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月13日国際公開、WO2014/182387、平成28年 6月23日国内公表、特表2016-518627〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、2014年(平成26年)3月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年(平成25年)5月6日、米国)を国際出願日とする国際出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。 平成28年 8月25日付け:拒絶理由通知(同年同月29日発送) 平成28年11月25日 :意見書、手続補正書の提出 平成29年 3月22日付け:拒絶査定(同年4月3日送達) 平成29年 8月 2日 :審判請求書、手続補正書の提出 平成30年 8月17日付け:当審拒絶理由通知(最初、同年同月20日 発送) 平成30年11月20日 :意見書、手続補正書の提出 2 当審拒絶理由の概要 平成30年8月17日付け当審拒絶理由通知の理由の概要は次のとおりである。 本願の請求項1に係る発明は、以下の引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許を受けることができない。 引用文献:特開平11-149071号公報 周知例1:M. Guignard,et al.,「Zero-Stress Optic Glass without Lead」,Chem.Mater.,2007,vol.19,p286-p290 周知例2:特開2001-201736号公報 周知例3:特開2008-112004号公報 周知例4:特開2007-147931号公報 3 本願発明の認定 本願の請求項に係る発明は、平成30年11月20日に提出された手続補正書によって補正された請求項1?12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりであると認められる。 「上部偏光子と、 下部偏光子と、 液晶層と、 前記上部偏光子と前記液晶層の間に挟入された第1のガラス層と、 前記下部偏光子と前記液晶層の間に挟入された第2のガラス層と、 前記上部偏光子と前記第1のガラス層の間に配置された第3のガラス層と、 前記第3のガラス層は、負の光弾性定数を有し、前記第1のガラス層及び前記第2のガラス層における応力誘発性複屈折を補償し、 前記第3のガラス層を前記第1のガラス層に取り付ける接着剤材料であって、前記第3のガラス層と前記第1のガラス層との間で矩形環状の接着剤を形成する接着剤材料をさらに備えることを特徴とする、ディスプレイ。」 4 引用文献の記載事項及び引用発明の認定 (1)当審拒絶理由通知が引用した、本願の優先権主張の日前に日本国内または外国において頒布された刊行物である特開平11-149071号公報(以下「引用文献」という。)には、次の事項が記載されていると認められる(下線は当審が付した。以下同じ。)。 ア 「【特許請求の範囲】」、 「2枚の基板間に液晶層を挟持した液晶セルと、この液晶セルに近接または接触して配置され、前記液晶セルの前記基板のもつ光弾性係数の温度に対する変化特性と反対の変化特性の光弾性係数をもつコントラストむら補償板とからなる液晶表示装置。」(【請求項1】)、 「マトリクス状に配列された画素電極を有する第1の電極基板と、対向電極を有し前記第1の電極基板に間隙を隔てて対向配置されこの間隙に液晶層を配置した第2の電極基板とを有する液晶表示装置において、前記第1および第2の電極基板の光弾性係数と符号が異なるコントラストむら補償板が第1の電極基板と第2の電極基板の少なくとも一方に接着層を介して張り合わされていることを特徴とする液晶表示装置。」(【請求項2】) イ 「【課題を解決するための手段】・・・」(【0008】)、 「以上のように本発明は液晶セルの基板のもつ光弾性係数と符号を異にする光弾性係数をもつコントラストむら補償板を組合わせることによって、高輝度光源照射により発生する液晶表示装置内の温度むらによる応力むらを打ち消すように作用させることができる。」(【0014】)、 「基板を透過する光に対する光弾性効果は基板の応力ひずみによって顕著に現れる。したがって基板の温度むらにより基板内に応力ひずみが発生すると、ひずみに応じた応力むらとなる。ところがこの基板に近接または接触して基板の光弾性係数と異なる符号の光弾性係数をもつ板状体を配置すると、相互に光弾性効果を相殺する。したがって、この板状体をコントラストむら補償板として用いることにより、応力むらを改善し、表示のコントラストを向上することができる。」(【0015】)、 「発生する光弾性効果は板状体の光弾性係数と厚みの積できまる。例えば液晶セルを構成する液晶層を挟持する2枚のガラス液晶基板は正の光弾性係数をもち、一方、液晶層は数μmと非常に薄いので温度に対する応力むらはこれらの2枚のガラス基板に依存する。基板厚は0.5mmから2mmであり、これにガラスのマイクロレンズアレイが組合わされるとその分、総合的な厚みが増える。コントラストむら補償板は例えばアクリル系樹脂のような負の光弾性係数をもつ材料で構成し、厚みを選択することで光弾性効果を相殺することができる。」(【0016】) ウ 「【発明の実施の形態】」、 「以下、本発明の実施の形態を図1および図2を参照して説明する。」(【0020】)、 「図1は液晶表示パネルの概略断面図、図2は液晶セルの要部の概略断面図である。図において、アクティブマトリクス型の液晶表示パネル20は液晶セル30前面にマイクロレンズアレイ基板71、背面にコントラストむら補償板72を配置し、さらにその両外面に偏光板70、74を配置している。」(【0021】)、 「液晶セル30は駆動素子としてp-SiTFT31を用いる第1の電極基板であるアクティブマトリクス基板32および第2の電極基板である対向基板33の間に、ポリイミドからなる配向膜(図示せず)を介して、液晶組成物であるネマチック型液晶37が保持されている。」(【0022】)、 「ここで、アクティブマトリクス基板32は、ガラス基板38上に、p-SiTFT31を有するが、このp-SiTFT31は次のように形成される。即ちガラス基板38の上にCVD法によりアモルファスシリコン(以下a-Siと称する)膜を成膜後、このa-Si膜をレーザーアニール法により多結晶シリコン(以下p-Siと称する)膜に形成し、さらにパターン形成して、マトリクス状にになるように島状に半導体層40を形成する。ついで、半導体層40の上にゲート絶縁膜となる第1の絶縁層41を被覆し、さらにp-SiTFT31に走査信号を印加する走査線(図示せず)およびその一部であり、ゲート電圧を印加するためのゲート電極42と補助容量電極43を形成した後、半導体層にセルフアラインにより不純物を注入してソース領域40sおよびドレイン領域40dを形成した後、第2の絶縁層45を被覆する。」(【0023】)、 「但し、ここでp-SiTFT31はn-chのトランジスタで構成し場合によっては活性層とソース・ドレイン領域との間に低不純物濃度領域(n-領域)を形成してLLD(Lightly Doped Drain )構造とする方が望ましいためn-領域の不純物注入はソース・ドレイン領域とは別工程で行った。」(【0024】)、 「また、後述する走査線駆動回路および信号線駆動回路はn-chおよびp-chのCMOS構造であることが望ましいため、ソース領域40sおよびドレイン領域40d形成のためには不純物の注入は、n-chおよびp-chとに分けて行つた。さらにp-SiTFT31に映像信号を印加するための信号線44をパターン形成し第1のコンタクトホール46を介してドレイン領域40dに接続し、信号線44と同一の材料でソース領域40sにも第1のコンタクトホール48で接続する。」(【0025】)、 「その上に第3の絶縁層51を形成し、第2のコンタクトホール49を形成し、さらに第4の絶縁層52を形成して第2のコンタクトホール49と同じ位置にコンタクトホール形成してそのコンタクトホール49を介して、前記ソース領域40sとインジウム錫酸化物(以下ITOと称する)からなる画素電極47を接続した。また、アクティブマトリクス基板32上の画素電極47がマトリクス状に配列されるに表示領域の隣接する2辺には、走査線42の引き出し線に接続される走査線駆動回路(図示せず)、および信号線44の引き出し線に接続される信号線駆動回路(図示せず)が形成されている。」(【0026】)、 「ー方、対向基板33は、ガラス基板60上にクロム(Cr)等の遮光部材を成膜し、アクテイブマトリクス基板32上のp-SiTFT31と対向するようにマトリクス状にパターン形成し、遮光層61を形成し、スパッタ法によりITOからなる対向電極62を前面に形成する。続いて、アクティブマトリクス基板32および対向基板33の画素電極47側および対向電極62側全面にポリイミドからなる配向膜63、64を印刷塗布し、ラビング処理を行う。アクテイブマトリクス基板32にあっては、液晶注入口を除き表示領域の周囲の接着領域にディスペンサを用いて紫外線硬化型のシール剤65を印刷塗布した後、アクティブマトリクス基板32に対向基板33を積み重ねて位置合わせをし、両基板32,33間の間隙が均一となるように加圧した後に、紫外線を照射してシール剤65を硬化して空液晶セルを形成する。」(【0027】)、 「次いで、液晶注入口より空液晶セルの間隙にネマチック型液晶37を注入し液晶注入口を封止して液晶セルを完成する。」(【0028】)、 「そして、次に対向基板33の上に2mm厚のイオン交換型のガラス製マイクロレンズアレイ基板71を紫外線硬化型接着剤を介して画素と一致するように合わせた後に紫外線を照射して固定した。マイクロレンズアレイ基板71は凸レンズのマイクロレンズ71aを一表面に多数配置しており、基板がガラスの場合は、この凸レンズ部分をイオン交換により形成している。 この各凸レンズは液晶セルの画素に対応して配置されて単板式カラー表示では赤、緑、青各画素に1つのレンズが対応する。」(【0029】)、 「さらに、アクティブマトリクス基板32に紫外線硬化型接着剤を介して1?2mm厚のアクリル樹脂基板72をコントラストむら補償板として張り合わせ紫外線を照射して固定した。さらにアクリル樹脂基板72に表面側に反射防止層75が形成された偏光板74を粘着層を介して張り合わせた。」(【0030】)、 「このようにガラス製アクティブマトリクス基板32、対向基板33、そしてガラス製マイクロレンズアレイ基板71のような正の光弾性係数(使用温度範囲で2.6?3.7cm^(2) /dyne)を有するガラス基板で構成されている液晶パネルに、負の光弾性係数を有するアクリル樹脂製コントラストむら補償板72(-6cm^(2) /dyne)を張り合わせるようにすれば、マイクロレンズアレイ基板71側から高照度の光の入射によって発生する温度むら起因のコントラストむらの原因である入射側偏光板70後の直線偏向光が液晶パネル通過時に楕円偏光化されることが抑制される。」(【0031】)、 「コントラストむらとは、黒表示した時に温度むらによる応力発生がなければTN液晶では入射側の偏光板で直線偏光となった光は出射側偏光板74で遮られるだけでコントラストはほぼ一様であるが、温度むらが発生すると液晶パネル(ガラス基板)を通過する際に位相差を生じてしまいコントラストの小さい部分とコントラストの高い帯状部分ができるコントラストむらが生じてしまうものである。例えば、図3のように上下対称に発生し、この現象は液晶パネル内の温度むらが2℃(中央と周辺の温度差)を越えると顕著に視認されるようになってくるものである。」(【0032】)、 「この光弾性効果による互いに直交する偏光面を持つ2偏光の角位相差δは、基板厚をtとし、厚さ方向での応力状態が一様で変化のない場合はに2偏光に対する光路長がそれぞれ σ1方向の偏光に対してはn1t σ2方向の偏光に対してはn2t (n1、n2は直交するそれぞれの偏光に対する屈折率) であるからδ=(2π/λ)(n1-n2)・t ここで、上記n1 ,n2 と主応力との間には n1-n0=Aσ1+Bσ2 n2-n0=Bσ1+Aσ2 n0:無応力状態の屈折率 A:直接応力光定数 B:横応力光定数 の関係があるから、δ=(2π/λ)・(A-B)・(σ1-σ2)・t C=A-B δ=(2π/λ)・C・(σ1-σ2)・t C:光弾性係数 のような関係になる。」(【0033】)、 「このため、液晶パネルの温度むらにより発生した面内応力で生じた角位相差を打ち消すようにするには正の光弾性係数を有する部材の総合厚さと光弾性係数の積と等しくなるように、負の光弾性係数を有する部材厚と光弾性係数との積を設定すればよいことが分かる。」(【0034】)、 「また、図2のようなポリシリコンTFT31を用いた液晶パネルではアクティブマトリクス基板32の出射界面での反射光が画素TFTの裏面から入射してリーク電流が発生しやすい。このため、出射側界面に偏光板73を張り付け、かつ、この出射界面に反射防止膜75を形成することでリーク電流低減できるために反射防止膜付き偏光板をアクリル樹脂基板72の上に張り付けた方が望ましい。」(【0035】)、 「もちろん、出射側偏光板73を液晶パネルに張り付けずに離して配置して、アクリル樹脂基板72の上に反射防止膜を付けてもよいことはいうまでもない。」(【0036】)、 「さらに、反射防止膜の分光特性としてはp-Siの吸収係数の高い青側の反射率を低くすることが望ましい。」(【0037】)、 「また、偏光スクリーンとの組み合わせを考慮すると液晶の配向が45度ラビングである場合に偏光軸を45度回転させて偏光スクリーンと一致させるような位相差板を偏光板とラミネートしたものに反射防止膜を付けて張り合わせてもよいことはいうまでもない。」(【0038】)、 「また、投射型表示装置では投射レンズで大きく拡大投影するために表示装置の上に積もったゴミや埃により表示品位が劣化するという問題が生じるが、図1のように入射側にはマイクロレンズアレイ基板が、そして出射側にはアクリル樹脂基板が配置されていることからゴミや埃の位置がフォーカス位置からずれることから表示品位の劣化が抑制されるという利点もある。」(【0039】)、 「本発明の他の実施の形態はマイクロレンズアレイ基板をコントラストむら補償板を兼ねる構成とすることである。図4に示すように、多数の凸レンズ81を一表面に形成したマイクロレンズアレイ基板80をアクリル樹脂で形成する場合、屈折率は1.54であるから液晶セルのガラス基板にレンズ側を接着しても接着剤に屈折率が1.34のフッ素系樹脂を用いると、レンズ作用を損なうことがない。上記したように、アクリル樹脂はガラスに対して光弾性係数の温度に対する変化特性が反対であるから、適切な厚さを選ぶことにより、コントラストむらを十分に取り除くことができる。」(【0040】)、 「なお、本発明はマイクロレンズを用いないものにも有効であることは言うまでもない。もし、マイクロレンズを用いない液晶パネルの場合のゴミや埃の影響を抑制するためにコントラストむら補償板となるアクリル樹脂基板を入射側と出射側の両方に張り合わせてもよいことは言うまでもなく、その場合は前後のアクリル樹脂の厚さを上記の関係式に基づき実験的に最適化を計ればよい。また、アクリル樹脂以外の材料でコントラストむら補償板を形成することができ、本発明を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることはいうまでもない。」(【0041】)、 「図5は本発明の他の実施の形態を示すもので、コントラストむら補償板72に視野角の拡大や色付き防止のために設ける位相差板76、偏光板74および反射防止膜75を一体形成したものを示しており、これを液晶パネルに接着することで、製造の簡素化をはかることができる。」(【0042】) エ 「【発明の効果】」、 「以上説明したように本発明によれば、投射型液晶パネルでの高照度光の入射に伴う温度むらに起因するコントラストむらを抑制することができ高品位の投射型表示装置を実現できる。」(【0043】) (2)上記(1)の各事項によれば、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考までに、引用発明の認定に用いた段落番号等を括弧内に付記してある。 「マトリクス状に配列された画素電極を有する第1の電極基板と、対向電極を有し前記第1の電極基板に間隙を隔てて対向配置されこの間隙に液晶層を配置した第2の電極基板とを有する液晶表示装置において、前記第1および第2の電極基板の光弾性係数と符号が異なるコントラストむら補償板が第1の電極基板と第2の電極基板の少なくとも一方に接着層を介して張り合わされている液晶表示装置であって、(【請求項2】) 液晶セルの両外面に偏光板が配置され、(【0021】) コントラストむら補償板が前記第1の電極基板に張り合わされており、(【0030】) 液晶セルの基板のもつ光弾性係数と符号を異にする光弾性係数をもつコントラストむら補償板を組合わせることによって、高輝度光源照射により発生する液晶表示装置内の温度むらによる応力むらを打ち消すように作用させることができるものであって、(【0014】) 発生する光弾性効果は板状体の光弾性係数と厚みの積できまるものであり、液晶セルを構成する液晶層を挟持する2枚のガラス液晶基板は正の光弾性係数をもち、一方、液晶層は数μmと非常に薄いので温度に対する応力むらはこれらの2枚のガラス基板に依存し、(【0016】) コントラストむら補償板は例えばアクリル系樹脂のような負の光弾性係数をもつ材料で構成し、厚みを選択することで光弾性効果を相殺することができ、(【0016】) アクリル樹脂以外の材料でコントラストむら補償板を形成することができる、(【0041】) 液晶表示装置。」 3 対比 (1)本願発明と引用発明との対比 ア 本願発明の「上部偏光子と、」との特定事項について 引用発明は、「液晶セルの両外面に偏光板が配置され」ているから、本願発明の「上部偏光子と、」との特定事項を備える。 イ 本願発明の「下部偏光子と、」との特定事項について 上記アと同様の理由で、引用発明は、本願発明の「下部偏光子と、」との特定事項を備える。 ウ 本願発明の「液晶層と、」との特定事項について 引用発明の「液晶層」は、本願発明の「液晶層」に相当する。 よって、引用発明は、本願発明の「液晶層と、」との特定事項を備える。 エ 本願発明の「前記上部偏光子と前記液晶層の間に挟入された第1のガラス層と、」との特定事項について 引用発明の「第1の電極基板」は、上記アにも照らせば、「前記上部偏光子と前記液晶層の間に挟入された」ものといえるとともに、「液晶セルを構成する液晶層を挟持する2枚のガラス液晶基板」のうちの1枚の「ガラス液晶基板」でもあるから、「第1のガラス層」ともいえる。 よって、引用発明は、本願発明の「前記上部偏光子と前記液晶層の間に挟入された第1のガラス層と、」との特定事項を備える。 オ 本願発明の「前記下部偏光子と前記液晶層の間に挟入された第2のガラス層と、」との特定事項について 引用発明の「第2の電極基板」は、上記イにも照らせば、「前記下部偏光子と前記液晶層の間に挟入された」ものといえるとともに、「液晶セルを構成する液晶層を挟持する2枚のガラス液晶基板」のうちの1枚の「ガラス液晶基板」でもあるから、「第2のガラス層」ともいえる。 よって、引用発明は、本願発明の「前記下部偏光子と前記液晶層の間に挟入された第2のガラス層と、」との特定事項を備える。 カ 本願発明の「前記上部偏光子と前記第1のガラス層の間に配置された第3のガラス層と、」との特定事項について (ア)引用発明の「前記第1の電極基板に張り合わされて」いる「コントラストむら補償板」は、上記エにも照らせば、「前記上部偏光子と前記第1のガラス層の間に配置され」ているといえる。そして、本願発明の「第3のガラス層」と引用発明の「コントラストむら補償板」とは、「第3の層」である点で共通する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、「前記上部偏光子と前記第1のガラス層の間に配置された第3の層」を備える点で一致する。 (イ)しかし、引用発明は、「第3の層」である「コントラストむら補償板」が、「ガラス」からなっていることを特定せず、「例えばアクリル系樹脂のような」「材料」であることを特定する。 キ 本願発明の「前記第3のガラス層は、負の光弾性定数を有し、前記第1のガラス層及び前記第2のガラス層における応力誘発性複屈折を補償し、」との特定事項について (ア)引用発明の「コントラストむら補償板」は、「負の光弾性係数をもつ材料で構成」されるから、「負の光弾性定数を有」する。 (イ)引用発明は、「液晶セルを構成する液晶層を挟持する2枚のガラス液晶基板は正の光弾性係数をもち、一方、液晶層は数μmと非常に薄いので温度に対する応力むらはこれらの2枚のガラス基板に依存」するものであるとともに、「コントラストむら補償板は例えばアクリル系樹脂のような負の光弾性係数をもつ材料で構成し、厚みを選択することで光弾性効果を相殺することができ」るものである。 そうすると、引用発明の「コントラストむら補償板」が「相殺する」「光弾性効果」は、「正の光弾性係数をも」つ「(液晶層を挟持する)2枚のガラス液晶基板」による光弾性効果、すなわち「第1の電極基板」及び「第2の電極基板」による「光弾性効果」、であると解される。 よって、引用発明の「コントラストむら補償板」は、「前記第1のガラス層及び前記第2のガラス層における応力誘発性複屈折を補償」するものである。 (ウ)上記(ア)及び(イ)によれば、本願発明と引用発明とは、「前記第3の層は、負の光弾性定数を有し、前記第1のガラス層及び前記第2のガラス層における応力誘発性複屈折を補償」する点で一致する。 (エ)しかし、引用発明は、上記カ(イ)と同様に、「第3の層」である「コントラストむら補償板」が、「ガラス」からなっていることを特定せず、「例えばアクリル系樹脂のような」「材料」であることを特定する。 (オ)a 上記(イ)の認定に関連して、請求人は、平成30年11月20日提出の意見書において、要するに、引用発明の「コントラストむら補償板」が補償する光弾性効果は、「第1の電極基板」及び「第2の電極基板」のうちの一方(コントラストむら補償板からみて液晶層よりも近い位置にある側)によって生じる光弾性効果であって、「第1の電極基板」及び「第2の電極基板」のうちの他方(同じく液晶層よりも遠い位置にある側)によって生じる光弾性効果を含まない旨主張しているものと解される。 b しかしながら、上記(イ)のとおりであるというべきである。 そして、(イ)の認定は、引用文献の【0034】の「このため、液晶パネルの温度むらにより発生した面内応力で生じた角位相差を打ち消すようにするには正の光弾性係数を有する部材の総合厚さと光弾性係数の積と等しくなるように、負の光弾性係数を有する部材厚と光弾性係数との積を設定すればよいことが分かる。」との記載からも裏付けられる。なぜならば、当該記載は、光弾性効果が補償されるべき部材に関して、「正の光弾性係数を有する部材の『総合』厚さ」との表現を用いたものであるところ、この「『総合』厚さ」が、「第1の電極基板」及び「第2の電極基板」の双方を考慮したという意味での「厚さ」であることが、明らかだからである。 c 請求人は、引用文献の【0015】には、「この基板に近接または接触して基板の光弾性係数をもつ板状体を配置すると、相互に光弾性効果を相殺する。」と記載されているにとどまり、ディスプレイの反対側(「コントラストむら補償板からみて液晶層よりも遠い位置にある側」の意味であると解される。)の応力ばらつきを補償することができることは開示されていない旨も主張するけれども、当該記載は、「接触」のみならず、「近接」についてもふれる以上、上記(イ)の認定を左右するものではない。 d したがって、請求人の主張は採用できない。 キ 本願発明の「前記第3のガラス層を前記第1のガラス層に取り付ける接着剤材料であって、前記第3のガラス層と前記第1のガラス層との間で矩形環状の接着剤を形成する接着剤材料をさらに備える」との特定事項について 引用発明は、「コントラストむら補償板が第1の電極基板」「に接着層を介して張り合わされている」ものであるから、本願発明と引用発明とは、「前記第3の層を前記第1のガラス層に取り付ける接着剤材料であって、前記第3の層と前記第1のガラス層との間で」「接着剤を形成する接着剤材料をさらに備える」点で一致するといえる。 しかし、引用発明は、上記カ(イ)で認定した事項のほか、「接着剤」が「矩形環状」であることを備えない。 ク 本願発明の「ディスプレイ」との特定事項について 引用発明の「液晶表示装置」は、本願発明の「ディスプレイ」に相当する。 よって、引用発明は、本願発明の「ディスプレイ」との特定事項を備える。 (2)一致点及び相違点の認定 上記(1)によれば、本願発明と引用発明とは、 「上部偏光子と、 下部偏光子と、 液晶層と、 前記上部偏光子と前記液晶層の間に挟入された第1のガラス層と、 前記下部偏光子と前記液晶層の間に挟入された第2のガラス層と、 前記上部偏光子と前記第1のガラス層の間に配置された第3の層と、 前記第3の層は、負の光弾性定数を有し、前記第1のガラス層及び前記第2のガラス層における応力誘発性複屈折を補償し、 前記第3の層を前記第1のガラス層に取り付ける接着剤材料であって、前記第3の層と前記第1のガラス層との間で」「接着剤を形成する接着剤材料をさらに備える、 ディスプレイ。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 「第3の層」について、本願発明は「ガラス」からなるのに対し、引用発明は、「例えばアクリル系樹脂のような」「材料」からなる点。 [相違点2] 「前記第3の層と前記第1のガラス層との間で」「形成」される「接着剤」について、本願発明は、「矩形環状」であるのに対し、引用発明は、そうとは特定されていない点。 4 相違点の判断 (1)相違点1について 引用発明の「コントラストむら補償板」は、「例えばアクリル系樹脂のような負の光弾性係数をもつ材料」で構成されているとともに、「アクリル樹脂以外の材料」でもよいから、結局、「負の光弾性係数をもつ材料」であれば、適宜の材料を選択できるといえる。 そして、「負の光弾性係数をもつ材料」として、ガラスが存在することは周知である(例えば、当審拒絶理由通知が提示した上記2における周知例1の286頁左欄下から2行?右欄5行などを参照。)。 そうすると、当業者であれば、引用発明の「コントラストむら補償板」のための「負の光弾性係数をもつ」材料として、「ガラス」を適宜選択できたものといえる。 (2)相違点2について 液晶表示装置の技術分野において、光学要素同士を接着する際に矩形環状の接着剤を用いることは周知技術である(必要ならば、例えば、当審拒絶理由通知が提示した上記2の周知例2の【請求項1】・【請求項8】・【0051】・図1、同周知例3の【請求項1】・【0035】・図4(a)、同周知例4の段落【0083】・図7・図8を参照。)。 したがって、引用発明において、コントラストむら補償板を第1の電極基板(本願発明の「第1のガラス層」に該当。)に接着する際の接着剤として上記周知技術のような矩形環状の接着剤を採用することは、当業者が適宜なし得たことである。そして、このことは、引用発明におけるコントラストむら補償板の材料として、相違点1のように「ガラス」を選択した場合であっても変わるものではない。 (3)本願発明の効果について 本願発明の効果は、引用発明及び上記各周知技術に比して、格別顕著なものということはできない。 (4)小括 したがって、本願発明は、引用発明及び上記各周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2018-12-07 |
結審通知日 | 2018-12-10 |
審決日 | 2018-12-21 |
出願番号 | 特願2016-511740(P2016-511740) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G02F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 洋允 |
特許庁審判長 |
西村 直史 |
特許庁審判官 |
山村 浩 星野 浩一 |
発明の名称 | 光漏れを低減した液晶ディスプレイ |
代理人 | 田中 伸一郎 |
代理人 | 弟子丸 健 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 西島 孝喜 |