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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1351292
審判番号 不服2018-7934  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-08 
確定日 2019-05-09 
事件の表示 特願2015-183284「表示駆動装置、表示装置、表示駆動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月23日出願公開、特開2017- 58522〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年9月16日の出願であって、平成29年10月20日付けで拒絶理由が通知され、平成29年12月15日付けで手続補正がなされ、平成30年3月14日付けで拒絶査定がなされ(発送日:平成30年3月20日)、これに対し、平成30年6月8日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成30年6月8日付けの手続補正についての補正却下の決定
[結論] 平成30年6月8日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正
平成30年6月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び明細書に関するもので、本件補正後の請求項7は、次のとおりのものである(下線は、補正箇所を示す。)。
「【請求項7】
列方向に並ぶ複数の画素に共通に接続されたデータ線と、行方向に並ぶ複数の画素に共通に接続された走査線とが、それぞれ複数配設され、前記データ線と前記走査線の各交差点に対応して画素が形成されている表示部に対して、表示データに基づく表示駆動を行う表示駆動方法として、
前記走査線の選択タイミング毎に、前記データ線のそれぞれに対して、表示データで規定される画素の階調値に応じた時間長だけ定電流を供給するとともに、表示データで規定される階調値が非点灯を示す値である画素の全部又は一部に対して、非点灯用時間長の定電流供給を、点灯させる画素に対する前記データ線への定電流供給を行い点灯を開始させるタイミングから行うように前記データ線を駆動する
表示駆動方法。」

(2)本件補正前の請求項7
本件補正前の、平成29年12月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項7の記載は、次のとおりのものである。
「【請求項7】
列方向に並ぶ複数の画素に共通に接続されたデータ線と、行方向に並ぶ複数の画素に共通に接続された走査線とが、それぞれ複数配設され、前記データ線と前記走査線の各交差点に対応して画素が形成されている表示部に対して、表示データに基づく表示駆動を行う表示駆動方法として、
前記走査線の選択タイミング毎に、前記データ線のそれぞれに対して、表示データで規定される画素の階調値に応じた時間長だけ定電流を供給するとともに、表示データで規定される階調値が非点灯を示す値である画素の全部又は一部に対して、非点灯用時間長の定電流供給を、点灯させる画素に対する前記データ線への定電流供給の開始タイミングから行うように前記データ線を駆動する
表示駆動方法。」

2 補正の適否
上記補正は、補正前の請求項7に記載した発明を特定するために必要な事項である、「表示データで規定される階調値が非点灯を示す値である画素の全部又は一部に対して」の「非点灯用時間長の定電流供給」について、「点灯させる画素に対する前記データ線への定電流供給の開始タイミングから行う」とあったところを、「点灯させる画素に対する前記データ線への定電流供給を行い点灯を開始させるタイミングから行う」と限定するものであって、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項7に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項等
ア 引用文献1について
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2003-43997号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電流駆動型のディスプレイの駆動回路に関するもので、特に、プリチャージ用の定電流源を別途に備えて低消費電力を求める電流駆動型のディスプレイの駆動回路とその駆動方法に関する。」

「【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための本発明による電流駆動型のディスプレイの駆動回路は、有機ELピクセルと、スキャン信号によって駆動されてピクセルを発光させるスキャン駆動部と、データイネーブル信号によってオン/オフが制御されてピクセルに電流を供給する第1定電流源と、プリチャージ信号によってオン/オフが制御されてピクセルのプリチャージのための電流をピクセルに供給する第2定電流源と、定電流源の電流の量を制御する制御部とを備えることを特徴とする。」

「【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明による電流駆動型のディスプレイの駆動回路の好適な実施形態を添付の図面を参照して説明する。図2は本発明による電流駆動型のディスプレイの駆動回路を示す図である。図2を見ると、図1に示すような構成の有機EL駆動部202にプリチャージ部201を更に備える。プリチャージ部201と有機EL駆動部202は有機ELディスプレイパネルのデータラインとスキャンラインとの交差する位置に配列されるピクセルの数だけ備える。
【0015】本有機EL駆動部202は、有機ELピクセルの輝度を制御するための定電流源202aと、データイネーブル信号によってオン/オフされて定電流源の電流を有機ELピクセルに印加するピクセル用のスイッチ202cと、ピクセル用のスイッチ202cを介して電流を印加されて発光する有機ELピクセル202dと、スキャン駆動部202eとから構成される。定電流源202aには定電流源202aの電流量を制御する電流制御部202bを備えている。ここで、データイネーブル信号はPWM波形の正極性側の幅である。すなわち、データイネーブル信号のハイ区間はPWM波形のデューティに該当する。従って、データイネーブル信号のハイ区間が長くなるほどグレイスケールも高くなる。
【0016】そして、プリチャージ部201は、プリチャージ用の電流を制御するための定電流源201aと、定電流源201aの電流量を制御して有機ELピクセル202dの応答時間を調節する電流制御部201bと、そしてプリチャージのオン/オフを制御して定電流源201aの電流を有機ELピクセル202dに印加するプリチャージ用のスイッチ201cとから構成される。プリチャージ用のスイッチ201cのオン/オフ時間を制御して有機ELピクセル202dでプリチャージされる時間を制御することができる。すなわち、プリチャージされる時間を制御して全体のパワーを合わせることができる。」

「【0021】まず、図3の(a)?(e)は本発明の立ち上がり同期による各部分の動作波形図で、プリチャージレベルの最大の場合を示している。又、データ1のデータイネーブル信号は図3の(c)に示すようにパルス幅の最大(例えば、256グレイスケール)の場合であり、データ2のデータイネーブル信号は図3の(e)に示すようにパルス幅の最大でない場合(例えば、160グレイスケール)の例を示している。
【0022】図3を見ると、(a)のスキャン波形の開始時点でプリチャージが始まっていることが分かる。すなわち、スキャン波形の開始時点でプリチャージ信号がハイになってプリチャージ用のスイッチ201cをオンさせる。すると、プリチャージ信号のハイ区間の間に定電流源201aから出力される電流はスイッチ201cを介して有機ELピクセル202dのアノードに印加されて有機ELピクセル202dの内部キャパシタンスをプリチャージさせる。プリチャージ信号がローになると、プリチャージ用のスイッチ201cがオフされるため、プリチャージ用の定電流源201aの電流は有機ELピクセル202dに印加されない。
【0023】すなわち、データ1、データ2のプリチャージ時間はすべてスキャン信号の開始時点と同じ時点で開始しており、その際、有機ELピクセル202dにはプリチャージ用の定電流源201aから設定した量だけ電流が印加される。そして、上記過程によりプリチャージが終わると、データイネーブル信号によりピクセル用のスイッチ202cがオンされ、ピクセル用の定電流源202aから設定量の電流がピクセル用のスイッチ202cを介して有機ELピクセル202dに印加される。すなわち、プリチャージが終わると、データイネーブル信号はハイになってピクセル用のスイッチ202cをオンさせる。データイネーブル信号のハイ区間は既設定のグレイレベルにより決定される。このとき、有機ELピクセル202dは既にプリチャージ部201によりプリチャージされているので、ピクセル用の定電流源202aから電流が印加されると、直ぐ発光する。従って、有機EL駆動部202は有機ELピクセル202dの内部キャパシタンスのチャージのために電流を消費する必要がない。そして、データイネーブル信号がローになると、ピクセル用のスイッチ202cもオフされ、ピクセル用の定電流源202aの電流は有機ELピクセル202dに印加されなくなる。」

「【0031】図7は本発明によるプリチャージ回路図の一例を示す図であり、図8は本発明のプリチャージ回路図の一例による立ち上がり同期を示す波形図であり、図9は本発明のプリチャージ回路図の一例による立ち下がり同期を示す波形図である。本発明によるプリチャージ駆動回路は、図7に示すように、各有機ELピクセル202dのデータラインに流れる電流のオン/オフを制御するように複数のスイッチ素子D1?DNからなる第1スイッチ部30と、プリチャージに必要な電流のオン/オフを制御する第2スイッチ部32と、各々の所望の輝度に応じて電流量を調節する電流制御部33と、第1スイッチ部30の各スイッチ素子の一端に連結されて各データラインに電流を伝達するカレントミラー部31とから構成される。第1スイッチ部30とカレントミラー31と電流制御部33はグレイレベルを表現するための定電流ソースであり、第2スイッチ部32はプリチャージ用の定電流ソースである。」

「【0038】プリチャージ電流レベルはD1?DNの制御によっても調節されるが、その例を以下に説明する。D1の制御を受けて駆動するNMOSトランジスタを介して1だけの電流を流し、D2の制御を受けて駆動するNMOSトランジスタを介して2だけの電流を流し、DNの制御を受けて駆動するNMOSトランジスタを介してNだけの電流が流れるように設定した場合、D1だけハイレベルで、その他の制御信号がローである場合には1だけの電流だけカレントミラー31を介してデータラインに伝達され、D1、D2はハイで、その他の制御信号はローである場合には3だけの電流がカレントミラー31を介してデータラインに伝達される。又、上記のような方法でプリチャージ電流レベルを決定するとともに、全体電流の合計がバッテリーの最大パワー、つまりバッテリーの限界を超えない範囲でプリチャージ駆動するように外部のプリチャージコントロール信号を調整してプリチャージ時間を設定する。上記のようにバッテリーの最大パワーを超えないようにプリチャージ電流量と時間を設定するので、これを携帯用の器機に応用することができる。」

(イ)したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「電流駆動型のディスプレイの駆動方法(段落【0001】より。以下、同様。)であって、
電流駆動型のディスプレイの駆動回路は、有機ELピクセルと、スキャン信号によって駆動されてピクセルを発光させるスキャン駆動部と、データイネーブル信号によってオン/オフが制御されてピクセルに電流を供給する第1定電流源と、プリチャージ信号によってオン/オフが制御されてピクセルのプリチャージのための電流をピクセルに供給する第2定電流源と、を備え(【0009】)、
有機EL駆動部202にプリチャージ部201を更に備え、プリチャージ部201と有機EL駆動部202は有機ELディスプレイパネルのデータラインとスキャンラインとの交差する位置に配列されるピクセルの数だけ備え(【0014】)、
データイネーブル信号のハイ区間が長くなるほどグレイスケールも高くなり(【0015】)、
スキャン波形の開始時点でプリチャージ信号がハイになって、定電流源201aから出力される電流は有機ELピクセル202dのアノードに印加されて有機ELピクセル202dの内部キャパシタンスをプリチャージさせ、(【0022】)、
プリチャージ時間はすべてスキャン信号の開始時点と同じ時点で開始しており、その際、有機ELピクセル202dにはプリチャージ用の定電流源201aから設定した量だけ電流が印加され、プリチャージが終わると、データイネーブル信号により、ピクセル用の定電流源202aから設定量の電流が有機ELピクセル202dに印加され、
データイネーブル信号のハイ区間は既設定のグレイレベルにより決定され、このとき、有機ELピクセル202dは既にプリチャージ部201によりプリチャージされているので、ピクセル用の定電流源202aから電流が印加されると、直ぐ発光し、そして、データイネーブル信号がローになると、ピクセル用の定電流源202aの電流は有機ELピクセル202dに印加されなくなる(【0023】)、
電流駆動型のディスプレイの駆動方法(【0001】)。」

イ.引用文献2について
当審で新たに引用する、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2006-64717号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【0005】
図7に、パッシブマトリクス型有機ELディスプレイの原理的な構成を表す。・・・(以下、省略)」

「【0010】
本発明は、予備充電用電源を特に設けることなく、表示に用いる電流源(電流出力手段)を用いて予備充電を行う。」

「【0014】
本発明の駆動装置によれば、予備充電用電源を特に設けることなく、表示に用いる電流源(電流出力手段)を用いて予備充電を行う。したがって、予備充電のための電流源を用いることなく予備充電が可能になり、例えば、表示色ごとに異なる予備充電が可能となる。」

「【0017】
図1を用いて本発明の第1の実施の形態の駆動装置を説明する。本実施の形態の駆動装置はカラムドライバ1として実現される。カラムドライバ1は、出力端子116によって有機ELディスプレイ2のカラム電極と接続される。カラムドライバ1においては、出力端子116のそれぞれ(図1では赤、緑、青のラインに合わせて116R,116G,116Bとしている)に対して、データラッチ回路12、PWM回路13、定電流源回路14、出力切替スイッチ15が備えられている。データラッチ回路12は、クロック信号102を受けて、適切なデータサンプリングのタイミング信号を発生させるシフトレジスタ11を用いることにより、データ信号線104を通じて入力される画像データを適切なタイミングでサンプリングする。サンプリングされたデータ端子104のそれぞれ(図1では、赤、緑、青のデータに合わせて104R,104G,104Bとしている)のデータは、端子106に入力されるデータラッチ信号によりPWM回路13に一斉に出力される。この値は、PWM回路13の内部のレジスタ(図示しない)によって保持される。
【0018】
カラムドライバ1は、予備充電期間設定用レジスタ16、PWMカウンタ17、定電流源電流値設定回路18をさらに含んでいる。予備充電期間設定用レジスタ16には、予備充電時間データが端子108から入力される。また、PWMカウンタ17には、カウントスタート信号およびPWMカウンタクロックがそれぞれ端子110および112から入力される。定電流源電流値設定回路18には、電流設定データが端子114から入力される。」

「【0023】
端子110にカウンタスタート信号が入力されると、PWMカウンタ17は予備充電時間設定レジスタを参照し、その値の数だけのPWMカウンタクロックをカウントする。このとき、PWMカウンタ17はレジスタ値を変化させない。そして、予備充電時間設定レジスタの値だけのPWMカウンタクロックをカウントし終わると、PWMカウンタ17は、PWMカウンタクロックに合わせてレジスタ値をカウントアップさせてゆく。この動作により、画像データにかかわらず、予備充電時間設定レジスタの値に相当する期間の予備充電期間が得られる。こうして、寄生静電容量をまず充電し、その後画像データに比例等した時間の間、所定の電流を出力して有機EL素子を発光させる。予備充電期間においては、本実施の形態のカラムドライバ1により、有機EL素子の寄生容量を予備充電する電荷を与え、結果としてその寄生容量がしきい値電圧(Vth)を示す程度の時間となるように設定される。寄生容量は、そのカラム電極が担当する有機EL素子全てに存在するものであり、寄生容量をしきい値電圧程度まで充電するには、例えば、画素を発光させるための表示に用いる電荷量と同程度のオーダーの電荷量を送ることが必要となることがある。
【0024】
この動作を、PWMカウンタ17のレジスタ値および画像データがともに8ビットである場合を例に説明する。図2において、画像データが0(非発光)であるときの波形を符号Dによって示す。このとき、予備充電期間経過後直ぐに出力端子116の電流は0にされ、有機EL素子はVthまで充電されるが、発光する期間が殆ど無く、輝度がほぼ0となる。また、画像データが255(100%発光)である場合の波形を符号Bによって示す。このとき、予備充電期間が経過しても画像データよりもPWMカウンタ17のレジスタ値が小さいために、出力端子116の電流は、継続して出力されて、走査線切替のブランク期間になるまで続けられる。これらの中間となる例として、画像データが191(約75%発光)の波形を符号Mによって示した。このときは、予備充電期間が経過したあと、PWMカウンタ17のレジスタが画像データより大きくなると、出力端子116の電流が停止される。このように、本実施の形態のカラムドライバ1を用いれば、特段の予備充電用の電源を用いることなく、実際の発光輝度をほぼ画像データの値に比例等させるように変調することが可能になる。」

また、引用文献2の「図2(b)」の「出力端子116の電流出力波形を示す図」(段落【0021】より。以下、同様。)より、「画像データが0(非発光)であるときの波形を符号D」は、「画像データが255(100%発光)である場合の波形を符号B」や「画像データが191(約75%発光)の波形を符号M」と同じタイミング(具体的には、「端子110にカウンタスタート信号が入力される」(【0023】)タイミング)で、「0」から「I_(0)」に上昇し、その後、「画像データが191(約75%発光)」や「255(100%発光)」である場合には、「予備充電期間が経過しても」「出力端子116の電流は、継続して出力され」(【0024】)ていることが見て取れる。

したがって、引用文献2には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
「パッシブマトリクス型有機ELディスプレイにおいて(段落【0005】より。以下、同様。)、
表示に用いる電流源(電流出力手段)を用いて予備充電を行い(【0014】)、画像データが発光である場合、予備充電期間が経過しても出力端子116の電流は(【0024】)、I_(0)のまま(図2(b))、継続して出力される(【0024】)、
パッシブマトリクス型有機ELディスプレイ(【0005】)。」

(3)引用発明との対比
ア 本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明における「電流駆動型のディスプレイ」は、「データラインとスキャンラインとの交差する位置に」「ピクセル」が「配列される」ものであるから、本願補正発明における「列方向に並ぶ複数の画素に共通に接続されたデータ線と、行方向に並ぶ複数の画素に共通に接続された走査線とが、それぞれ複数配設され、前記データ線と前記走査線の各交差点に対応して画素が形成されている表示部」に相当する。

(イ)引用発明における「グレイレベル」が本願補正発明における「画素の階調値」に相当する。

(ウ)引用文献1の段落【0021】に「データ1のデータイネーブル信号は図3の(c)に示すようにパルス幅の最大(例えば、256グレイスケール)の場合であり、データ2のデータイネーブル信号は図3の(e)に示すようにパルス幅の最大でない場合(例えば、160グレイスケール)の例を示している。」(下線は、強調のため、当審で付与した。)と記載されているように、「データイネーブル信号」のパルス幅(すなわち、「ハイ区間」)は、データの「グレイスケール」により決定されるものであるから、引用発明における「ハイ区間」の「長さ」が、データに基づいていることは明らかであって、かかるデータ、及び、データの「グレイスケール」(すなわち、「グレイレベル」)が、それぞれ、本願補正発明における「表示データ」、及び「表示データで規定される画素の階調値」に相当する。

(エ)引用発明では、「発光させ」る「有機ELピクセル202dは既にプリチャージ部201によりプリチャージされているので、ピクセル用の定電流源202aから電流が印加されると、直ぐ発光」するとされている。
すると、引用発明において、「有機ELピクセル202dに印加され」る「プリチャージのための電流」と、「グレイレベル」により決定された「ハイ区間」の「電流」とは、相伴って、データに基づく「ハイ区間」の「長さ」に応じた「グレイスケール」の「発光」の実現に寄与しているといえる。
してみれば、引用発明における「ディスプレイの駆動方法」において、「スキャン信号の開始時点」から、「プリチャージ時間」と、データの「グレイレベル」により決定された「ハイ区間」の「長」さとを併せた期間だけ、それぞれの「定電流源」から電流を「有機ELピクセル202dのアノード」(つまり、「データライン」)に「供給」することと、本願補正発明における「表示データに基づく表示駆動を行う表示駆動方法として、前記走査線の選択タイミング毎に、前記データ線のそれぞれに対して、表示データで規定される画素の階調値に応じた時間長だけ定電流を供給する」こととは、「表示データに基づく表示駆動を行う表示駆動方法として、前記走査線の選択タイミング毎に、前記データ線のそれぞれに対して、表示データで規定される画素の階調値に応じた時間長だけ電流を供給する」点で共通する。

(オ)引用発明において、「発光させ」ない「有機ELピクセル」について規定された「データイネーブル信号」の「ハイ区間」が、「0」になることは明らかである。
よって、引用発明における「データイネーブル信号」の「ハイ区間」が「0」になる「有機ELピクセル202d」が、本願補正発明における「表示データで規定される階調値が非点灯を示す値である画素」に相当する。

(カ)引用発明では、「グレイスケール」(すなわち、「グレイレベル」)により決定された「ハイ区間」の値にかかわらず(つまり、「ハイ区間」が「0」の場合を特に除外することなく)、「スキャン波形の開始時点」から、「定電流源201aから出力される電流」が「プリチャージ時間」だけ「有機ELピクセル202dのアノード」(つまり、「データライン」)に「供給」されることと、本願補正発明における「表示データで規定される階調値が非点灯を示す値である画素の全部又は一部に対して、非点灯用時間長の定電流供給を、点灯させる画素に対する前記データ線への定電流供給を行い点灯を開始させるタイミングから行うように前記データ線を駆動する」こととは、「表示データで規定される階調値が非点灯を示す値である画素の全部又は一部に対して、非点灯用時間長の定電流供給を行うように前記データ線を駆動する」点で共通する。

イ 以上のことから、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「列方向に並ぶ複数の画素に共通に接続されたデータ線と、行方向に並ぶ複数の画素に共通に接続された走査線とが、それぞれ複数配設され、前記データ線と前記走査線の各交差点に対応して画素が形成されている表示部に対して、表示データに基づく表示駆動を行う表示駆動方法として、
前記走査線の選択タイミング毎に、前記データ線のそれぞれに対して、表示データで規定される画素の階調値に応じた時間長だけ電流を供給するとともに、表示データで規定される階調値が非点灯を示す値である画素の全部又は一部に対して、非点灯用時間長の定電流供給を行うように前記データ線を駆動する
表示駆動方法。」

(相違点1)
本願補正発明では、非点灯の画素に対する「非点灯用時間長の定電流供給」を、点灯させる画素に対する「定電流供給を行い点灯を開始させるタイミングから行うように」しているのに対し、引用発明では、(ピクセルを「発光させ」るか否かを区別せず)「プリチャージ時間はすべてスキャン信号の開始時点と同じ時点で開始しており」、「プリチャージが終わると、(「発光させ」るピクセルに対しては、)データイネーブル信号により、ピクセル用の定電流源202aから設定量の電流が有機ELピクセル202dに印加され」ている点。

(相違点2)
本願補正発明では、「表示データで規定される画素の階調値に応じた時間長だけ定電流を供給する」ことから、「点灯させる画素に対する」「電流供給」は、供給期間に亘って不変の「定電流」で行われているのに対し、引用発明では、ピクセルに対して「プリチャージのための電流」を供給する「第2定電流源」(定電流源201a)と、「発光させ」るために「ピクセルに電流を供給する」「第1定電流源」(定電流源202a)とが、同じ値の「定電流」を供給しているか、明らかでない点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1、2について
(ア)事案に鑑み、相違点1、2についてまとめて判断する。
引用文献2には、「パッシブマトリクス型有機ELディスプレイにおいて、表示に用いる電流源(電流出力手段)を用いて予備充電を行い、画像データが発光である場合、予備充電期間が経過しても出力端子116の電流は、I_(0)のまま、継続して出力される」技術が記載されている。
ここで、引用文献2に記載された技術において、発光する有機EL素子に対する電流出力は、予備充電期間及び「発光」期間を通して、「表示に用いる電流源(電流出力手段)」のみが継続的に行っているのであるから、発光する有機EL素子に対する継続的な電流出力の開始タイミング(つまり、予備充電の開始タイミング)は、本願補正発明における「定電流供給を行い点灯を開始させるタイミング」に相当するといえる。

(イ)そして、引用発明と引用文献2に記載された技術とは、パッシブマトリクス型有機ELディスプレイにおけるプリチャージ(予備充電)技術の点で共通し、引用文献2に記載された「予備充電用電源を特に設けることなく、表示に用いる電流源(電流出力手段)を用いて予備充電を行う」(引用文献2の段落【0010】)という技術課題は、引用発明にもあてはまることから、引用発明と引用文献2に記載された技術を適用することは当業者に動機付けられていたことであるといえる。
よって、引用発明に引用文献2に記載された技術を適用し、引用発明において、「プリチャージのための電流」を供給する「第2定電流源」(定電流源201a)を設けることなく、「発光」させるために「ピクセルに電流を供給する」「第1定電流源」(定電流源202a)のみを用いて「プリチャージ」を行い、「発光させ」る「ピクセル」に対しては、「プリチャージが終わ」っても「継続して」「第1定電流源」(定電流源202a)から電流を「供給」すること(つまり、「プリチャージ」の開始時点を、ピクセルの「発光」を開始させるタイミングとすること)で、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
また、その際、「第1定電流源」(定電流源202a)の電流の大きさを、引用文献2の図2(b)に記載されているとおり「I_(0)」のまま継続するようにし(つまり、供給期間に亘って不変の「定電流」とし)、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることも、当業者が容易になし得たことである。

イ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術が奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものいうことはできない。

ウ したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

(5)本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年6月8日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項7に係る発明は、平成29年12月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項7に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。再掲すれば、次のとおり。
「【請求項7】
列方向に並ぶ複数の画素に共通に接続されたデータ線と、行方向に並ぶ複数の画素に共通に接続された走査線とが、それぞれ複数配設され、前記データ線と前記走査線の各交差点に対応して画素が形成されている表示部に対して、表示データに基づく表示駆動を行う表示駆動方法として、
前記走査線の選択タイミング毎に、前記データ線のそれぞれに対して、表示データで規定される画素の階調値に応じた時間長だけ定電流を供給するとともに、表示データで規定される階調値が非点灯を示す値である画素の全部又は一部に対して、非点灯用時間長の定電流供給を、点灯させる画素に対する前記データ線への定電流供給の開始タイミングから行うように前記データ線を駆動する
表示駆動方法。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、理由2の概要は、次のとおりである。
「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1-8
・引用文献1-2のいずれか

<引用文献等一覧>
1.特開2003-43997号公報
2.特開2006-215099号公報」

3 引用刊行物
原査定の拒絶の理由(理由2)で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)アに記載したとおりである。

4 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 前記第2の[理由]2(3)ア、(ア)-(オ)で述べた、本願補正発明と引用発明との対比は、本願発明と引用発明との対比に、そのままあてはまる。

イ 引用発明では、「グレイスケール」(すなわち、「グレイレベル」)により決定された「ハイ区間」の値にかかわらず(つまり、「ハイ区間」が「0」の場合を特に除外することなく)、「スキャン波形の開始時点」から、「定電流源201aから出力される電流」が「プリチャージ時間」だけ「有機ELピクセル202dのアノード」(つまり、「データライン」)に「供給」されている。
つまり、引用発明における「発光させ」ないピクセルへの「第2定電流源」(定電流源201a)からの「電流」の「供給」タイミングは、「発光させ」るピクセルへの「第2定電流源」(定電流源201a)からの「定電流源201aから出力」タイミングと同じく、「スキャン波形の開始時点」であって、このことは、本願発明における「表示データで規定される階調値が非点灯を示す値である画素の全部又は一部に対して、非点灯用時間長の定電流供給を、点灯させる画素に対する前記データ線への定電流供給の開始タイミングから行うように前記データ線を駆動する」ことと、「表示データで規定される階調値が非点灯を示す値である画素の全部又は一部に対して、非点灯用時間長の定電流供給を、点灯させる画素に対する前記データ線への電流供給の開始タイミングから行うように前記データ線を駆動する」点で共通する。

したがって、本願発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。

(一致点)
「列方向に並ぶ複数の画素に共通に接続されたデータ線と、行方向に並ぶ複数の画素に共通に接続された走査線とが、それぞれ複数配設され、前記データ線と前記走査線の各交差点に対応して画素が形成されている表示部に対して、表示データに基づく表示駆動を行う表示駆動方法として、
前記走査線の選択タイミング毎に、前記データ線のそれぞれに対して、表示データで規定される画素の階調値に応じた時間長だけ電流を供給するとともに、表示データで規定される階調値が非点灯を示す値である画素の全部又は一部に対して、非点灯用時間長の定電流供給を、点灯させる画素に対する前記データ線への電流供給の開始タイミングから行うように前記データ線を駆動する
表示駆動方法。」

(相違点3)
本願発明では、「表示データで規定される画素の階調値に応じた時間長だけ定電流を供給する」ことから、「点灯させる画素に対する」「電流供給」は、データ線への電流供給の開始タイミングから供給期間に亘って不変の「定電流」で行われているのに対し、引用発明では、ピクセルに対して「プリチャージのための電流」を供給する「第2定電流源」(定電流源201a)と、「発光させ」るために「ピクセルに電流を供給する」「第1定電流源」(定電流源202a)とが、同じ値の「定電流」を供給しているか、明らかでない点。

(2)相違点3についての判断
ア 引用文献1の段落【0038】には、「プリチャージ電流レベルはD1?DNの制御によっても調節され・・・電流がカレントミラー31を介してデータラインに伝達される。」と記載され、該記載は、引用発明における「プリチャージのための電流を供給」する「第2定電流源」(定電流源201a)の電流レベルを適宜に調節すべきことを示している。

イ そして、本願出願前に頒布された刊行物である、特開2006-71858号公報の段落【0012】に「プリチャージ信号は、発光階調に応じてパルス幅変調された定電流信号よりも大きな電流値を有する定電流信号であってもよい。大きな定電流により発光素子を充電することで短期間で発光素子を充電できるため、プリチャージを行う所定の期間を短く設定することができ、高精度な階調表現を実現することができる。」(下線は、強調のため、当審で付与した。)と記載されているとおり、本願出願前において、プリチャージ信号の電流値を、発光階調に応じてパルス幅変調された定電流信号の電流値と同じにすることも、当業者には、設計における選択肢の一つと認識されていたことである。

ウ よって、引用発明における「プリチャージのための電流」を供給する「第2定電流源」(定電流源201a)の電流レベルを、「発光させ」るために「ピクセルに電流を供給する」「第1定電流源」(定電流源202a)の電流レベルと、同じレベルに「調節」し、「スキャン波形の開始時点」以降において「ピクセル」に「供給」される電流レベルが常に一定の値となるようにして、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜になし得たことである。

(3)まとめ
よって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-03-07 
結審通知日 2019-03-12 
審決日 2019-03-27 
出願番号 特願2015-183284(P2015-183284)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G09G)
P 1 8・ 121- Z (G09G)
P 1 8・ 113- Z (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野 健二  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 清水 稔
中村 説志
発明の名称 表示駆動装置、表示装置、表示駆動方法  
代理人 中川 裕人  
代理人 岩田 雅信  
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