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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01Q 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01Q |
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管理番号 | 1351326 |
審判番号 | 不服2018-1122 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-01-26 |
確定日 | 2019-05-08 |
事件の表示 | 特願2013-105627「マルチバンドアンテナ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月20日出願公開、特開2014- 53885〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成25年5月17日(優先権主張 平成24年8月8日)の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成29年 3月13日付け:拒絶理由通知書 平成29年 5月12日 :意見書,手続補正書の提出 平成29年10月20日付け:拒絶査定 平成30年 1月26日 :拒絶査定不服審判の請求,手続補正書の提出 平成30年12月12日付け:拒絶理由通知書 平成31年 2月 6日 :意見書,手続補正書の提出 第2 本願発明 平成31年2月6日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである(下線は請求人による。)。 「複数の周波数帯で動作するマルチバンドアンテナであって, 給電点と, 線形の形状を有する第1の導体部と, 線形の形状を有する第2の導体部と, グランドと, を有し, 前記マルチバンドアンテナは誘電体基板上に配置され, 前記第1の導体部は,前記給電点に接続され, 前記第2の導体部は,前記第1の導体部から分岐し, 前記第1の導体部及び前記第2の導体部は,それぞれ複数の屈曲部を有し, 前記第1の導体部と前記第2の導体部は,導体間距離が第1の距離である一部と,当該第1の距離よりも短い第2の距離である他の一部とを有し, 前記第1の導体部の前記他の一部と前記第2の導体部の前記他の一部とは,それぞれ前記グランドを構成する領域の複数の辺のうち前記給電点に最も近い一辺に対して略平行で,且つ,前記第1の導体部と前記第2の導体部のそれぞれの開放端部に向かう方向で略同一の方向を向き, 前記第1の導体部と前記第2の導体部は,少なくとも前記他の一部において電磁的に結合し, 前記第1の導体部の前記他の一部は,前記誘電体基板の第1の面に配置され,前記第2の導体部の前記他の一部は前記誘電体基板の前記第1の面とは異なる面に配置され, 前記第1の導体部と前記第2の導体部は,前記第1の面の垂直方向から見た場合に,前記一部において互いに重なり合わず,前記他の一部のうちの少なくとも一部において,互いに重なり合う, ことを特徴とするマルチバンドアンテナ。」 第3 拒絶の理由 当審が通知した平成30年12月12日付けの拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうちの理由1の概要は,次のとおりのものである。 請求項1に係る発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2や引用文献3に示される周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 1.特開2011-9836号公報 2.特開2012-85215号公報 3.特開2009-17284号公報 第4 引用文献の記載,引用発明,周知技術 1 引用文献1及び引用発明 (1)当審拒絶理由で引用された特開2011-9836号公報(以下,上記第3と同じく「引用文献1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。 ア 「【0019】 以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。 [第1実施形態] <全体構成> 図1は,第1実施形態の多周波共用アンテナ(以下単に「アンテナ」という)10の全体構成図である。 【0020】 図1に示すようにアンテナ10は,平板状の金属からなる地板Gに接地された給電部11と,金属製の線材により構成され,給電部11からの給電を受けて電波を放射する放射素子部12とからなる。 【0021】 <放射素子部の構成> 放射素子部12は,各々がL字状に形成され,それぞれの一端を接続することによってコの字状に形成された第1及び第2個別部位121,122と,地板Gに対して垂直に立設され,一端(以下「給電端」ともいう)が給電部11に,他端(以下「分岐端」ともいう)が第1及び第2個別部位121,122の接続端に接続された共用部位123とからなる。 【0022】 また,第1及び第2個別部位121,122のL字を構成する二つの直線部分のうち,接続端を有する側の直線部分(以下「接続部」ともいう)121a,122aは,互いに一直線に且つ地板Gに対して平行となるように設置されている。また,両個別部位121,122の他方の直線部分(以下「放射部」ともいう)121b,122bは,互いに平行に且つ地板Gに対して垂直となるように設置されている。 【0023】 以下では,第1個別部位121と共用部位123とで構成されるクランク状の線状アンテナを第1放射素子,第2個別部位122と共用部位123とで構成されるクランク状の線状アンテナを第2放射素子,第1個別部位121と第2個別部位122とで構成されるコ字状の部分を両端開放素子とも言う。」 イ 「【0048】 <変形例> 本実施形態では,放射素子部22を金属製の線材によって構成したが,図6(a)に示すように,地板Gに対してパターン形成面が垂直となるように立設された誘電体基板P上のパターンによって構成してもよい。 【0049】 本実施形態では,放射素子部22を構成する放射素子が二つである場合について説明したが,図6(b)に示すアンテナ20aのように,放射素子部22を構成する放射素子が三つ以上存在してもよい。 【0050】 この場合,放射素子がN個であるとすると,互いに隣接した放射部を有する放射素子対がN-1個存在することになり,そのうちの少なくとも一つ(図6(b)では全部)の放射素子対の間にリアクタンス素子224を接続すればよい。 【0051】 本実施形態では,第1及び第2個別部位221,222間のリアクタンスを,リアクタンス素子224を設けることによって調整しているが,リアクタンス素子224を設ける代わりに,図7(a)に示すアンテナ20bのように,第1及び第2個別部位221,222の放射部221b,222bを,地板Gに対する垂直方向から傾斜させることで,放射部221b,222b間のリアクタンス(ここでは容量分)を調整するように構成してもよい。 【0052】 また,図7(b)に示すアンテナ20cのように,第1及び第2個別部位221,222の放射部221b,222bの形状を屈曲させることで,放射部221b,222b間のリアクタンス(ここでは容量分)を調整するように構成してもよい。 【0053】 即ち,アンテナ20b,20cのいずれの場合も,両個別部位の放射部間の距離を近づけることにより容量分を増大させ,遠ざけることにより容量分を減少させることができる。 【0054】 また,アンテナ20a,20b,20cの放射素子部22を,図6(a)に示した場合と同様に,地板Gに立設された誘電体基板P上のパターンによって構成してもよい。」 ウ 図7(b) (2)上記(1)の各記載及び図7(b)について,以下のことがいえる。 「変形例」についての記載である上記(1)イの段落【0052】に記載されている「図7(b)に示すアンテナ20c」も,「第1実施形態」についての記載である上記(1)アの段落【0019】に記載のとおり,多周波共用アンテナであるものと解される。 図7(b)のアンテナ20cは,上記(1)イの段落【0052】?【0054】に記載のとおり,誘電体基板P上に配置されるものであり,第1及び第2個別部位221,222の形状を屈曲させられ,両個別部位の放射部間の距離を近づけることにより容量分を増大させている。 図7(b)に示されている番号等が「21」,「223」,「G」の箇所は,それぞれ,上記(1)アの「給電部11」,「共用部位123」,「地板G」と同様に,給電部,共用部位,地板であり,段落【0021】に記載のように,共用部位の一端が給電部に接続されていることが明らかである。 図7(b)から,共用部位223及び第1個別部位221の全体から,第2個別部位222が分岐していること,第1個別部位221及び第2個別部位222がそれぞれ3つの屈曲部を有していること,第1個別部位221と第2個別部位222との導体間距離を近づけた部分における当該距離が,第1個別部位221と第2個別部位222のその余の部分における導体間距離よりも短いこと,及び,第1個別部位221と第2個別部位222とが,上記距離を近づけた部分において,それぞれの開放端部に向かう方向で略同一の方向を向いていることが読み取れる。 (3)上記(1)及び(2)から,引用文献1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「多周波共用アンテナであって, 給電部と, 共用部位及び第1個別部位と, 第2個別部位と, 地板と, を有し, 前記多周波共用アンテナは誘電体基板上に配置され, 前記共用部位は,前記給電部に接続され, 前記第2個別部位は,前記共用部位及び前記第1個別部位の全体から分岐し, 前記第1個別部位及び前記第2個別部位は,それぞれ3つの屈曲部を有し, 前記第1個別部位と前記第2個別部位は,導体間距離が第1の距離である一部と,当該第1の距離よりも短い第2の距離である他の一部とを有し, 前記第1個別部位の前記他の一部と前記第2個別部位の前記他の一部とは,前記第1個別部位と前記第2個別部位のそれぞれの開放端部に向かう方向で略同一の方向を向き, 前記第1個別部位と前記第2個別部位は,両個別部位の距離を近づけることにより容量分を増大させた, 多周波共用アンテナ。」 2 周知技術 (1)周知技術1 ア 特開2005-269301号公報には,図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審による。以下同様。)。 (ア)「【0009】 次に,本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。 [第1の実施の形態] 図1は本発明の第1の実施の形態の内蔵アンテナを示す斜視図である。同図に示されるように,本実施の形態の内蔵アンテナは,板状で逆L形状を有する第1のアンテナエレメント1および第2のアンテナエレメント2と,基板6上に形成された,グランドとなる導体パターン7とにより構成される。第1のアンテナエレメント1と第2のアンテナエレメント2とは,第1の周波数帯および第2の周波数帯のそれぞれの中心周波数の約1/4波長に相当する長さを有する。第1のアンテナエレメント1は,水平部1aと垂直部1bとを有し,また第2のアンテナエレメント2は,水平部2aと垂直部2bとを有しており,第2のアンテナエレメント2の水平部2aの上に第1のアンテナエレメント1の水平部1aが重なるように配置されている。第1のアンテナエレメント1の水平部1aが形成されている平面と第2のアンテナエレメント2の水平部2aが形成されている平面とは,導体パターン7が形成されている平面と直交している。第1のアンテナエレメント1の水平部1aには,第2のアンテナエレメント2の水平部2aと重なる範囲においてその両サイドに第2のアンテナエレメント2の方向に延びる垂下部1cが付設されている。そして,第1のアンテナエレメント1と第2のアンテナエレメント2は,共通に接続され,給電線4を介して給電点5より給電される。前記第1および第2のアンテナエレメントは,アンテナエレメント幅が電子機器の厚さ方向となるように配置される。」 (イ)「【0011】 次に,このように構成されたデュアルバンド対応内蔵アンテナの動作について説明する。第1の周波数帯において動作させる場合,共振電流は主として第1のアンテナエレメント上に分布し,その共振周波数はほぼ第1のアンテナエレメントの長さで決定され,周波数帯域は第1のアンテナエレメントの幅およびグランドとの電磁結合度により決定される。従って,電子機器の厚さを最大限に利用して第1のアンテナエレメントの幅を広げることによりインダクタンス成分が低下し,周波数帯域が拡大する。 第2の周波数帯において動作させる場合,共振電流は第2のアンテナエレメント上に分布する他に,この共振電流に対する誘導電流が第1のアンテナエレメント上に生じる。その共振周波数は第2のアンテナエレメントの長さと第1のアンテナエレメントと第2のアンテナエレメントとの距離により決定され,周波数帯域は第2のアンテナエレメントの幅およびグランドとの電磁結合度,更に第1のアンテナエレメントと第2のアンテナエレメントとの距離により決定される。第1の周波数帯での動作と同様に,第2のアンテナエレメントの幅を最大限に広げることによりインダクタンス成分が低下し,周波数帯域を拡大することが可能となる。更に第1のアンテナエレメントと第2のアンテナエレメントとの距離を近づけることで,両者の電磁結合度が強まり,第1のアンテナエレメントが無給電素子と同等に作用するため,周波数帯域を拡大することが可能となる。」 (ウ)図1 イ 特開2009-4847号公報には,図面とともに以下の事項が記載されている。 (ア)「【0033】 第1の実施形態のアンテナにおいては,図1に示すように,アンテナ素子部である放射素子1が給電回路3を介して,無線通信回路の主要部であるRF回路(図示は省略する。)に接続されており,さらに,回路基板2のグランドが地板になることにより,アンテナとして動作するようになされている。 【0034】 また,放射素子1は,分岐した第1,第2の二つのブランチ素子11,12を有し,それら第1,第2の二つのブランチ素子11,12が基部13で一体化され,その基部13が給電回路3に接続されている。すなわち,放射素子1は,第1,第2の二つのブランチ素子11,12により,二共振アンテナとして動作するようになされている。 【0035】 ここで,第1の実施形態では,放射素子1を構成する第1,第2の二つのブランチ素子11,12のうち,一方のブランチ素子(例えば第1のブランチ素子11)が所望の無線周波数帯で共振し,他方のブランチ素子(例えば第2のブランチ素子12)が上記所望の無線周波数帯外で且つ第1,第2のブランチ素子11,12の両共振周波数の間で放射特性が劣化するピーク部が上記所望の無線周波数帯外になるように所定間隔だけ離れた周波数で共振するように(一例として所望の無線周波数帯よりも例えば低い周波数帯で共振するように),それら二つのブランチ素子11,12の電気的な長さが決められていると共に給電回路3内の整合回路の最適化(例えばインダクタやキャパシタの調整による最適化)がなされている。」 (イ)図1 ウ 上記ア,イによれば,次の技術事項は周知技術(以下「周知技術1」という。)と認められる。 「マルチバンドアンテナの第1の導体部と第2の導体部とを,それぞれ,グランドを構成する領域の複数の辺のうち給電点に最も近い一辺に対して略平行とすること。」 (2)周知技術2 ア 当審拒絶理由で引用された特開2012-85215号公報(上記第3の引用文献2)には,図面とともに以下の事項が記載されている。 (ア)「【0011】 (実施の形態) 図1は,本実施の形態にかかるアンテナ装置の斜視図である。図2は,図1に示すアンテナ装置の平面図である。図3は,図2におけるZ-Z部の断面図である。以下,本実施の形態のアンテナ装置の基本構成について説明する。 【0012】 図1に示すように,本実施の形態のアンテナ装置は,基板1,第1のアンテナ素子3,第2のアンテナ素子2,第1の地線4,第1のスルーホール5,第2のスルーホール6,給電部7,第1のグランド素子8a,第2のグランド素子8b,および容量結合部11を備えている。 【0013】 基板1は,略平板状の誘電体基板で構成されている。基板1は,一定の誘電率を持つ絶縁体(ガラスエポキシ基板,コンポジット基板,ハロゲンフリー基板,ポリ四フッ化エチレン樹脂基板など)を含む一般的な回路基板を用いることができる。代表的なFR4基板では比誘電率は4.5?5.0(1MHz),誘電正接は0.02程度である。基板1は,少なくとも2面に導体をパターニングすることができる配線面を有する。また,基板1は,誘電率が高いほど波長短縮効果が大きくアンテナを小形化できるのに対し,帯域は狭くなる特徴を持つが,一般的な基板を用いて構成できるため小形化と広帯域化を両立する最適な基板厚と誘電率の組み合わせを容易に選択できる。また,基板1は,少なくとも2つの配線面を持つ両面基板,多層基板,ビルドアップ基板などで基板厚(例えば0.1mm以上)(10-1mmオーダーよりも大)にて用途に合わせて構成できる。また,基板1は,多層基板の場合,任意の2層を選択して本実施の形態にかかるアンテナ素子等を配置することで,本実施の形態と同様の効果を得ることができる。また,基板1は,ソルダーレジスト(Solder Resist)などの保護剤で覆われても良い。 【0014】 第1のアンテナ素子3は,基板1の第1面1aに形成されている導電パターンである。第2のアンテナ素子2は,基板1の第2面1bに形成されている導電パターンである。第1のアンテナ素子3と第2のアンテナ素子2とは,基板1を挟んで一部が対向(重畳または近接)している。第1のアンテナ素子3と第2のアンテナ素子3とは,第1のスルーホール5を介して電気的に接続されている。第1のアンテナ素子3と第2のアンテナ素子2は,例えば金(Au)や銅(Cu)などの導体で形成することができる。」 (イ)「【0019】 図2及び図3に示すように,第1のアンテナ素子3と第2のアンテナ素子2とで,第1の容量結合部11を形成している。第1の容量結合部11は,第1のアンテナ素子3の一部と第2のアンテナ素子2の一部とが基板1の厚み方向において重畳して容量的に結合している部分である。なお,第1の容量結合部11は,必ずしも第1のアンテナ素子3の一部と第2のアンテナ素子2の一部とが基板1の厚み方向において完全に重畳している必要はなく,高周波領域における電磁界の影響を受ける程度に十分近接して,例えば,第1のアンテナ素子3が第2のアンテナ素子2の平行な面内から僅かに外れた位置に配置されていても,本実施の形態における第1の容量結合部11を形成することができる。 【0020】 なお,本明細書では,第1のアンテナ素子3と第2のアンテナ素子2とが基板1を介して重畳している状態を「重畳」と称する。また,本明細書では,第1のアンテナ素子3と第2のアンテナ素子2とが重畳せず高周波的に容量結合している状態を,基本的に「近接」と称するが,「重畳」と称する場合がある。すなわち,本明細書における「重畳」は,第1のアンテナ素子3と第2のアンテナ素子2とが重畳していない状態を含む広義な意味とする。また,アンテナ素子以外の素子についても,上記「重畳」の定義を適用する。」 イ 当審拒絶理由で引用された特開2009-17284号公報(上記第3の引用文献3)には,図面とともに以下の事項が記載されている。 (ア)「【0015】 以下,本発明の実施形態について,添付図面を参照しながら詳細に説明する。 (第1の実施形態) 図1及び図2は,本発明の第1の実施形態に係るRFIDタグのアンテナ部分を構成するアンテナ装置10を示すものであり,このアンテナ装置10は,基板を構成するプリント基板11と,このプリント基板11の一面(以下,表面11Aとよぶ)に取り付けた給電素子を構成する第1の導体12と,プリント基板11の同一面である表面11Aに設けた高周波電源からなる給電部13と,プリント基板11の反対面(以下,裏面11Bとよぶ)に設けた無給電素子を構成する第2の導体14と,GNDである地板15とを備えている。」 (イ)「【【0022】 第2の導体14は,X,Y方向に沿って略L字形に形成したものであって,互いに交差する第5の導体(以下,「X導体部141」とよぶ)と第6の導体(以下,「Y導体部142」とよぶ)で構成されているとともに,プリント基板11を介して第1の導体12(特に,X導体部121)と容量結合可能な距離に離間して配設されている。なお,第2の導体14も,本実施形態のRFIDで使用する波長(λ。)315mmに対して,約1/4程度の長さに形成されている。 【0023】 このうち,X導体部141は,一端部寄りの定点141Aがマイクロストリップ線路123と高周波的に接続される箇所となっている。本実施形態のX導体部141は,長さL2xが45mm,幅W2xが5mmの大きさであって,プリント基板11の裏面11BにおいてX方向に沿って形成した銅板(又は銅箔)などからなる。なお,このX導体部141は,プリント基板11を挟んで第1の導体12のX導体部121と一部重合して容量結合するようになっており,本実施形態では,その容量結合部分Aを構成する重合領域Bがおよそ8mm形成されている。」 ウ 上記ア,イによれば,次の技術事項は周知技術(以下「周知技術2」という。)と認められる。 「アンテナの第1の導体部と第2の導体部との容量結合のため,第1の導体部を誘電体基板の第1の面に配置し,第2の導体部を前記誘電体基板の前記第1の面とは異なる面に配置し,前記第1の導体部と前記第2の導体部が,前記第1の面の垂直方向から見た場合に,容量結合を行わない領域である一部において互いに重なり合わず,容量結合を行う領域である他の一部において互いに重なり合うようにすること。」 第5 対比・判断 1 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「多周波共用アンテナ」,「給電部」,「第2個別部位」,「地板」は,それぞれ,本願発明の「複数の周波数帯で動作するマルチバンドアンテナ」,「給電点」,「線形の形状を有する第2の導体部」,「グランド」に相当する。 (2)引用発明の「共用部位及び第1個別部位」は,全体として,本願発明の「線形の形状を有する第1の導体部」に相当する。 (3)引用発明における「第1個別部位」及び「第2個別部位」が「それぞれ3つの屈曲部を有し」ていることは,本願発明における「第1の導体部」及び「第2の導体部」が「それぞれ複数の屈曲部を有」することに含まれる。 (4)引用発明の「第1個別部位」と「第2個別部位」が「両個別部位の距離を近づけることにより容量分を増大させた」ものであることは,本願発明の「第1の導体部」と「第2の導体部」が「少なくとも前記他の一部において電磁的に結合し」ていることに含まれる。 (5)そうすると,本願発明と引用発明とは, 「複数の周波数帯で動作するマルチバンドアンテナであって, 給電点と, 線形の形状を有する第1の導体部と, 線形の形状を有する第2の導体部と, グランドと, を有し, 前記マルチバンドアンテナは誘電体基板上に配置され, 前記第1の導体部は,前記給電点に接続され, 前記第2の導体部は,前記第1の導体部から分岐し, 前記第1の導体部及び前記第2の導体部は,それぞれ複数の屈曲部を有し, 前記第1の導体部と前記第2の導体部は,導体間距離が第1の距離である一部と,当該第1の距離よりも短い第2の距離である他の一部とを有し, 前記第1の導体部の前記他の一部と前記第2の導体部の前記他の一部とは,前記第1の導体部と前記第2の導体部のそれぞれの開放端部に向かう方向で略同一の方向を向き, 前記第1の導体部と前記第2の導体部は,少なくとも前記他の一部において電磁的に結合する, マルチバンドアンテナ。」 という点で一致する。 (6)また,両者は以下の点で相違する。 (相違点1)本願発明では,第1の導体部の他の一部と第2の導体部の他の一部とが,「それぞれ前記グランドを構成する領域の複数の辺のうち前記給電点に最も近い一辺に対して略平行で」あるのに対し,引用発明では,第1個別部位及び第2個別部位の地板に対する配置の関係が特定されない点。 (相違点2)本願発明では,「前記第1の導体部の前記他の一部は,前記誘電体基板の第1の面に配置され,前記第2の導体部の前記他の一部は前記誘電体基板の前記第1の面とは異なる面に配置され,前記第1の導体部と前記第2の導体部は,前記第1の面の垂直方向から見た場合に,前記一部において互いに重なり合わず,前記他の一部のうちの少なくとも一部において,互いに重なり合う」ものであるのに対し,引用発明では,第1個別部位及び第2個別部位の誘電体基板に対する配置の関係が特定されず,第1個別部位と第2個別部位とが「互いに重なり合う」ものでもない点。 2 判断 (1)まず,相違点1について検討する。 上記第4の2(1)ウのとおり,「マルチバンドアンテナの第1の導体部と第2の導体部とを,それぞれ,グランドを構成する領域の複数の辺のうち給電点に最も近い一辺に対して略平行とすること。」は周知技術(周知技術1)である。 そして,引用発明と周知技術1とはマルチバンドアンテナに係るものである点で共通するから,引用発明の第1個別部位及び第2個別部位の地板に対する具体的な配置の関係に,当該周知技術1を適用して,第1個別部位及び第2個別部位における,両個別部位の距離を近づけるようにされた部位が,地板を構成する領域の複数の辺のうち給電点に最も近い一辺に対して略平行であるものとすることは,当業者が容易に想到し得ることである。 (2)次に,相違点2について検討する。 上記第4の2(2)ウのとおり,「アンテナの第1の導体部と第2の導体部との容量結合のため,第1の導体部を誘電体基板の第1の面に配置し,第2の導体部を前記誘電体基板の前記第1の面とは異なる面に配置し,前記第1の導体部と前記第2の導体部が,前記第1の面の垂直方向から見た場合に,容量結合を行わない領域である一部において互いに重なり合わず,容量結合を行う領域である他の一部において互いに重なり合うようにすること。」は周知技術(周知技術2)である。 そして,引用発明における,第1個別部位と前記第2個別部位との容量分を増大させることは,誘電体基板上に配置された複数のアンテナ導体間の容量結合に基づくものであり,第1個別部位及び第2個別部位の一部の領域において容量結合を発生させるものである点で周知技術2と共通するから,容量結合を発生させる手段に周知技術2を適用して,第1個別部位を誘電体基板の第1の面に配置し,第2個別部位を前記誘電体基板の前記第1の面とは異なる面に配置し,前記第1個別部位と前記第2個別部位が,前記第1の面の垂直方向から見た場合に,前記第1個別部位及び前記第第2個別部位の,両個別部位の距離を近づけることにより容量分を増大させた領域以外の領域に対応する一部において,互いに重なり合わず,両個別部位の距離を近づけることにより容量分を増大させた領域に対応する他の一部のうちの少なくとも一部において,互いに重なり合うようにすることは,当業者が容易に想到し得ることである。 (3)引用発明において,第1個別部位及び第2個別部位はそれぞれ3つの屈曲部を有しているところ,引用発明に周知技術(周知技術1及び2)を適用する結果として屈曲部の個数が変化し得るが,第1個別部位と第2個別部位の両個別部位の距離を近づけることは,第1個別部位及び第2個別部位のそれぞれについて所要の回数の屈曲により行われるものであり,この点は周知技術を適用しても変わらないといえる。 そうすると,引用発明に周知技術を適用する際の屈曲の個数は設計的事項であり,第1個別部位,第2個別部位がそれぞれ複数の屈曲部を有するものとすることは,当業者が適宜なし得ることである。 (4)本願発明の作用効果は,引用発明及び周知技術から当業者が予測できる程度のものである。 第6 むすび 以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-02-27 |
結審通知日 | 2019-03-01 |
審決日 | 2019-03-20 |
出願番号 | 特願2013-105627(P2013-105627) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(H01Q)
P 1 8・ 121- WZ (H01Q) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 橘 均憲、米倉 秀明、西村 純、宮田 繁仁 |
特許庁審判長 |
北岡 浩 |
特許庁審判官 |
富澤 哲生 古河 雅輝 |
発明の名称 | マルチバンドアンテナ |
代理人 | 大塚 康徳 |
代理人 | 下山 治 |
代理人 | 永川 行光 |
代理人 | 木村 秀二 |
代理人 | 高柳 司郎 |
代理人 | 大塚 康弘 |