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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01R
管理番号 1351330
審判番号 不服2018-5333  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-18 
確定日 2019-05-08 
事件の表示 特願2016- 70501「ICデバイス検査用ソケット」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月25日出願公開、特開2016-153796〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年9月29日の出願である特願2009-224929号の一部を、平成28年3月31日に新たな特許出願としたものであって、平成29年1月11日付けの拒絶理由通知に対して平成29年7月18日付けで手続補正がなされたが、平成29年12月6日付けで拒絶査定がなされ(謄本送達日 平成29年12月19日)、これに対し、平成30年4月18日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成29年7月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
基板と、
前記基板に形成された貫通孔に摩擦力によって保持される複数の導電性のコンタクトピンと、を有し、
前記基板は、
基材と、
前記基材に包埋され、各々が該基材よりも高い誘電率を有する複数の層状誘電体と、
前記基材に包埋され、前記複数の層状誘電体の各々の両側に形成されて、前記基材に包埋された複数のコンデンサを構成する導電層とを有し、
前記少なくとも1つの層状誘電体は、0.5マイクロメートル以上かつ20マイクロメートル以下の厚みを有し、10以上30以下の比誘電率を有し、
前記複数のコンタクトピンの少なくとも1つは前記導電層のいずれか1つに電気的に接続されている、ICデバイス検査用基板状ソケット。」

第3 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由2は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1-3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.国際公開第99/041812号
引用文献2.特開2003-023257号公報
引用文献3.特開2009-043769号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。以下同様。)。
a 「従来のICソケット1ではプローブコンタクト3a、3b、3c自身のインダクタンスがDUT4への接続ラインに直列に挿入されるため、インピーダンスの不整合が発生するという欠点があった。このインピーダンスの不整合は、高速な信号波形を歪ませて測定精度を低下させたり、電源波形を歪ませて電源ノイズを発生させたりする原因となる。
発明の開示
この発明の1つの目的は、従来技術のICソケットが有する上記の問題点を解決したICソケットを提供することである。
この発明の他の目的は、インピーダンスの不整合が発生しないICソケットを提供することである。
この発明のさらに他の目的は、多層プリント基板に形成したグラウンド用導体層と電源用導体層との間に電源雑音をバイパスさせるためのキャパシタンスを生成し、電源の波形歪みや電源ノイズの発生を抑圧したICソケットを提供することである。」(第3頁第7-20行)

b 「図1はこの発明によるICソケットの第1の実施例の構成及び電気的接続を原理的に示す断面図である。この実施例でも図6に示した従来のICソケットと同様に、ICソケット1の上部のコンタクト3Aに接触する被試験IC(DUT)4はボール・グリッド・アレイ型のIC(BGA・IC)とする。
この実施例においては、ICソケット1は、グラウンド用導体層(配線パターン)と電源用導体層(配線パターン)とが所定の間隔で交互に積層されている少なくとも4層の導体層(配線パターン)を有し、かつ垂直方向に複数個のスルーホールが形成されている多層プリント基板20と、この多層プリント基板20の複数個のスルーホールにそれぞれ形成されたスルーホール導体21a、21a’、21b、21cと、これらスルーホール導体の内の少なくとも1つのスルーホール導体(この実施例では21a’)を除く残りのスルーホール導体(この実施例では21a、21b、21c)に、例えば圧入によりそれぞれ取り付けられた、DUT4の端子に電気接触されるプローブコンタクト3a、3b、3cとによって構成されており、上記グラウンド用導体層(以下、グラウンド用パターン又はGND用パターンと称す)23及び25はスルーホール導体21a及び21a’にそれぞれ電気的に接続されており、上記電源用導体層(以下、電源用パターンと称す)22及び24はスルーホール導体21bにそれぞれ電気的に接続されている。従って、スルーホール導体21a及び21a’はグラウンド用スルーホール導体を構成し、これらスルーホール導体21a及び21a’に取り付けられたプローブコンタクト3aはグラウンド用プローブコンタクトを構成し、また、スルーホール導体21bは電源用スルーホールを構成し、このスルーホール導体21bに取り付けられたプローブコンタクト3bは電源用プローブコンタクトを構成し、また、スルーホール導体21cは信号用スルーホールを構成し、このスルーホール導体21cに取り付けられたプローブコンタクト3cは信号用プローブコンタクトを構成する。」(第7頁第4-28行)

c 「上記構成のICソケット1においては、グラウンド用スルーホール導体21a及び21a’が接続されているGND用パターン23と電源用スルーホール導体21bが接続されている電源用パターン22との間にプリント基板20の材料を誘電体としたキャパシタ(コンデンサ)CAが形成され、また、グラウンド用スルーホール導体21a及び21a’が接続されているGND用パターン25と電源用スルーホール導体21bが接続されている電源用パターン24との間にプリント基板20の材料を誘電体としたキャパシタ(コンデンサ)CBがそれぞれ形成される。これらキャパシタCA及びCBはそれぞれ電源雑音をバイパスさせる機能を有する。なお、必要に応じてキヤパシタCA、CBと並列に、外付け用のキャパシタ(図示せず)を接続してもよい。」(第8頁第10-19行)


図1

図1から、GND用パターン23、25及び電源用パターン22、24は、多層プリント基板20内に形成されていることが見て取れる。

したがって、上記引用文献1に記載された事項及び図面の記載を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている(括弧内は、認定に用いた引用文献1の記載箇所である。)。

「ICソケット1は、グラウンド用導体層(GND用パターン)と電源用導体層(電源用パターン)とが所定の間隔で交互に積層されている少なくとも4層の導体層を有し、かつ垂直方向に複数個のスルーホールが形成されている多層プリント基板20と、
この多層プリント基板20の複数個のスルーホールにそれぞれ形成されたスルーホール導体21a、21bと、
スルーホール導体21a、21bに、圧入によりそれぞれ取り付けられたプローブコンタクト3a、3bとによって構成されており、
GND用パターン23及び25はスルーホール導体21aに電気的に接続されており、
電源用パターン22及び24はスルーホール導体21bにそれぞれ電気的に接続されており、
スルーホール導体21aに取り付けられたプローブコンタクト3aはグラウンド用プローブコンタクトを構成し、
スルーホール導体21bに取り付けられたプローブコンタクト3bは電源用プローブコンタクトを構成し(上記b)、
GND用パターン23と電源用パターン22との間にプリント基板20の材料を誘電体としたコンデンサCAが形成され、
GND用パターン25と電源用パターン24との間にプリント基板20の材料を誘電体としたコンデンサCBがそれぞれ形成され(上記c)、
GND用パターン23、25及び電源用パターン22、24は、多層プリント基板20内に形成されている(図1)、
ICソケット1。」

2 引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】これまで、プリント配線板における電源層と接地層(グラウンド層)との間で生じるノイズを減少させるためには、バイパスコンデンサを形成する方法が採られてきた。すなわちバイパスコンデンサの電気容量によって、上記のノイズ成分を減衰させることができるのである。
【0003】そして、上記のバイパスコンデンサとしては、従来はプリント配線板の外面に実装されるコンデンサが用いられてきたが、近年はデジタル機器の高速化に伴って、プリント配線板自体に形成されるコンデンサ積層体が用いられるようになってきており、この方法が注目されている。」

「【0005】一方、プリント配線板自体に形成されるコンデンサ積層体をバイパスコンデンサとして用いる場合は、これまでプリント配線板の外面に実装されてきた多くのコンデンサを除くことができるものである。すなわち、このコンデンサ積層体は、誘電体とこの両側を挟む2つの導電層から形成されると共に、この2つの導電層がそれぞれ電源層及び接地層となっている。そして、このようにして形成されたコンデンサ積層体をプリント配線板の内部に1つ又はそれ以上設けると共に、プリント配線板の表面に設けられた個々の電子デバイスを、一対の配線によって、プリント配線板における電源層と接地層に電気的に接続することにより、電子デバイスとプリント配線板の内部に設けたコンデンサ積層体とを接続するようにしているものである。
【0006】つまり、上記のような方法によって、プリント配線板の外面に実装されるコンデンサは、全てではないにしても、ほとんどその必要性が失われ、このようにプリント配線板の外面からコンデンサを除くことにより、他の電子デバイスをより効率よく配置できるようになるのである。また、プリント配線板の内部に電源層と接地層とを有するコンデンサ積層体を設けることによって、配線又はスルーホールの数や長さを減少させ、プリント配線板の製造を容易にしたり、コストを最小にしたりするだけでなく、信号信頼性をも大きく改善することができたのである。
【0007】ところで、一般にプリント配線板に実装される電子デバイスが、ノイズを発生させる主要因となっていることから、個々の電子デバイスについてノイズ抑制を実現するためには、通常、コンデンサ積層体としては、比較的高い誘電率を有する誘電材料で形成されたものが用いられており、また誘電体の厚さやコンデンサ積層体の面積を適宜変更することによって、ノイズ抑制を保証できる電気容量に調節されている。なお、誘電率といえば慣用的には比誘電率を意味するものであり、本明細書においても同様とする。」

「【0028】ここで、上記のようにして製造されるコンデンサ積層体20,21にあって、1枚又は複数枚のプリプレグを積層することによって、誘電体3である絶縁層が形成されており、この絶縁層を以下では特に断らない限り誘電体3という。一方、金属箔によって導電層30が形成されているものである。なお、この導電層30は誘電体3の表面にめっき処理等を施すことによって形成しても良い。そして、上記のコンデンサ積層体20,21の誘電率すなわち誘電体3の誘電率は10?100、また、単位面積当たりの電気容量は0.155?3.10nF/cm2であることが好ましい。コンデンサ積層体20,21の誘電率が10未満であると、高誘電率を有し、かつ高電気容量を有するコンデンサ積層体20,21を得ることができないおそれがあり、逆に誘電率が100を超えると、熱硬化性樹脂に添加する無機充填材の量を増加しなければならなくなり、熱硬化性樹脂本来の特性を損なうおそれがある。・・・」

「【0029】また、上記のコンデンサ積層体20,21における誘電体3の厚さは10μm?1.0mmであるのが好ましく、より好ましくは10?60μmである。特に誘電体3の厚さが10?60μmである場合は、上記のような、単位面積当たりの電気容量が0.155?3.10nF/cm2であるコンデンサ積層体20,21を得るのが容易となり、従ってこのコンデンサ積層体20,21を備えたプリント配線板10を実現することができる。・・・」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 引用発明の「多層プリント基板20」、「スルーホール」、「プローブコンタクト3a、3b」、「プリント基板20の材料」は、それぞれ、本願発明の「基板」、「貫通孔」、「導電性のコンタクトピン」、「基材」に相当する。

2 本願の明細書の「各コンタクトピンは基板に摩擦力によって保持(好ましくは圧入)されているので」(【0026】)の記載を参酌すると、引用発明の「多層プリント基板20の複数個のスルーホールにそれぞれ形成された」「スルーホール導体21a、21bに、圧入によりそれぞれ取り付けられたプローブコンタクト3a、3b」は、本願発明の「前記基板に形成された貫通孔に摩擦力によって保持される複数の導電性のコンタクトピン」に相当する。

3 引用発明のICソケット1が、「多層プリント基板20と、」「プローブコンタクト3a、3bとによって構成されて」いることは、本願発明のICデバイス検査用基板状ソケットが、「基板と、」「複数の導電性のコンタクトピンと、を有」することに相当する。

4 引用発明は「GND用パターン23と電源用パターン22との間にプリント基板20の材料を誘電体としたコンデンサCAが形成され、GND用パターン25と電源用パターン24との間にプリント基板20の材料を誘電体としたコンデンサCBがそれぞれ形成され」ているので、引用発明の「GND用パターン23と電源用パターン22との間」の「誘電体」及び「GND用パターン25と電源用パターン24との間」の「誘電体」は、層状の「誘電体」であるといえる。
また、引用発明は「GND用パターン23、25及び電源用パターン22、24」が、「多層プリント基板20内に形成されている」ので、「GND用パターン23と電源用パターン22との間」の「誘電体」及び「GND用パターン25と電源用パターン24との間」の「誘電体」は、「プリント基板20の材料」に包埋された、層状の「誘電体」であるといえる。
したがって、引用発明の「GND用パターン23と電源用パターン22との間」の「誘電体」及び「GND用パターン25と電源用パターン24との間」の「誘電体」と、本願発明の「前記基材に包埋され、各々が該基材よりも高い誘電率を有する複数の層状誘電体」とは、「前記基材に包埋された複数の層状誘電体」である点で共通する。

5 上記4を踏まえると、引用発明の「GND用パターン23と電源用パターン22との間」の「誘電体」及び「GND用パターン25と電源用パターン24との間」の「誘電体」は、層状の「誘電体」であるといえるので、「GND用パターン23と電源用パターン22」及び「GND用パターン25と電源用パターン24」は、複数の層状の「誘電体」の各々の両側に形成されているといえる。
また、引用発明は「GND用パターン23、25及び電源用パターン22、24」が、「多層プリント基板20内に形成されている」ので、「GND用パターン23と電源用パターン22との間」の「コンデンサCA」及び「GND用パターン25と電源用パターン24との間」の「コンデンサCB」は、「プリント基板20の材料」に包埋された「コンデンサCA」及び「コンデンサCB」であるといえ、「GND用パターン23、25及び電源用パターン22、24」は、「プリント基板20の材料」に包埋され、「プリント基板20の材料」に包埋された「コンデンサCA」及び「コンデンサCB」を構成する「GND用パターン23、25及び電源用パターン22、24」であるといえる。
したがって、引用発明の「GND用パターン23、25及び電源用パターン22、24」は、本願発明の「前記基材に包埋され、前記複数の層状誘電体の各々の両側に形成されて、前記基材に包埋された複数のコンデンサを構成する導電層」に相当する。

6 引用発明の「多層プリント基板20」は、「プリント基板20の材料」と、「GND用パターン23と電源用パターン22との間」の「誘電体」及び「GND用パターン25と電源用パターン24との間」の「誘電体」と、「GND用パターン23、25及び電源用パターン22、24」とを有することは、本願発明の「前記基板は、基材と、」「複数の層状誘電体と、」「導電層とを有」することに相当する。

7 引用発明の「GND用パターン23及び25はスルーホール導体21aに電気的に接続されており、電源用パターン22及び24はスルーホール導体21bにそれぞれ電気的に接続されており、スルーホール導体21aに取り付けられたプローブコンタクト3aはグラウンド用プローブコンタクトを構成し、スルーホール導体21bに取り付けられたプローブコンタクト3bは電源用プローブコンタクトを構成」することは、本願発明の「前記複数のコンタクトピンの少なくとも1つは前記導電層のいずれか1つに電気的に接続されている」ことに相当する。

8 引用発明の「ICソケット1」は、本願発明の「ICデバイス検査用基板状ソケット」に相当する。

すると、本願発明と引用発明1とは、次の(一致点)及び(相違点)を有する。
(一致点)
「基板と、
前記基板に形成された貫通孔に摩擦力によって保持される複数の導電性のコンタクトピンと、を有し、
前記基板は、
基材と、
前記基材に包埋された複数の層状誘電体と、
前記基材に包埋され、前記複数の層状誘電体の各々の両側に形成されて、前記基材に包埋された複数のコンデンサを構成する導電層とを有し、
前記複数のコンタクトピンの少なくとも1つは前記導電層のいずれか1つに電気的に接続されている、ICデバイス検査用基板状ソケット。」

(相違点)
複数の層状誘電体が、本願発明は、「各々が該基材よりも高い誘電率を有する複数の層状誘電体」であり、「0.5マイクロメートル以上かつ20マイクロメートル以下の厚みを有し、10以上30以下の比誘電率を有」するのに対して、引用発明は、「プリント基板20の材料」であり、厚み及び比誘電率の特定がない点。

第6 判断
1 上記相違点について検討する。
引用文献2には「プリント配線板における電源層と接地層(グラウンド層)との間で生じるノイズを減少させるためには、バイパスコンデンサを形成する方法が採られてきた。」(上記「第4 2【0002】」)、「従来はプリント配線板の外面に実装されるコンデンサが用いられてきたが、近年はデジタル機器の高速化に伴って、プリント配線板自体に形成されるコンデンサ積層体が用いられるようになってきており」(上記「第4 2【0003】」)、「プリント配線板の内部に電源層と接地層とを有するコンデンサ積層体を設けることによって、」「信号信頼性をも大きく改善することができたのである。」(上記「第4 2【0006】」)、「ノイズ抑制を実現するためには、通常、コンデンサ積層体としては、比較的高い誘電率を有する誘電材料で形成されたものが用いられており」(上記「第4 2【0007】」)と、プリント配線板における電源層と接地層(グラウンド層)との間で生じるノイズを減少させるために、プリント配線板の内部に形成されるコンデンサ積層体に、高い誘電率を有する誘電材料を用いる技術が記載されている。
さらに、引用文献2には「コンデンサ積層体20,21の誘電率すなわち誘電体3の誘電率は10?100」(上記「第4 2【0028】」)、「誘電体3の厚さは」「10?60μmである。」(上記「第4 2【0029】」)と、「誘電体3」の厚みと比誘電率において、本願発明の「0.5マイクロメートル以上かつ20マイクロメートル以下の厚み」「10以上30以下の比誘電率」と一部重複するものが示されている。

ここで、引用発明の目的の一つが、多層プリント基板に形成したグラウンド用導体層と電源用導体層との間に電源雑音をバイパスさせるためのキャパシタンスを生成し、電源の波形歪みや電源ノイズの発生を抑圧したICソケットを提供することであるので(上記「第4 1 a」)、引用発明の「ICソケット1」において、電源ノイズの発生を抑圧するために、上記技術を適用し、「多層プリント基板20」「内」に形成した「グラウンド用導体層(GND用パターン)と電源用導体層(電源用パターン)」との間の「コンデンサCA」及び「コンデンサCB」の「誘電体」を、プリント基板20の材料よりも高い誘電率を有するものとすることは、当業者が容易に想到し得たことであり、その際に、「コンデンサCA」及び「コンデンサCB」に必要な電気的特性等を考慮して、「誘電体」の厚みと比誘電率を、それぞれ、「0.5マイクロメートル以上かつ20マイクロメートル以下」、「10以上30以下」と限定することは、適宜なし得る設計的事項である。

したがって、引用発明に引用文献2に記載された技術を適用し、「コンデンサCA」及び「コンデンサCB」の「誘電体」を、プリント基板20の材料よりも高い誘電率を有するものとし、「0.5マイクロメートル以上かつ20マイクロメートル以下の厚みを有し、10以上30以下の比誘電率を有」するものとして、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

さらに、本願発明が奏する効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。

よって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 請求人の主張について
請求人は、審判請求書の「3.原査定の理由に対する審判請求人の主張」「(2) 本発明の課題について」において、
「(2-1) 基板の薄型化
上記相違点のうち、『各々が該基材よりも高い誘電率を有する複数の層状誘電体』に関して、本発明ではこのような構成を採用することにより、隣接するコンデンサ間の距離を小さくすることができ、これにより静電容量を大きくしながら基板を薄型化するという課題を解決しようとするものである(本願明細書〔0018〕参照)。
(2-2) ICソケットの高性能化
また、本発明では、コンデンサを構成する高誘電体及び導電層とそれらを包埋する基材とにより実質一体物の基板が形成されるようにすることで、コンタクトピンとコンデンサの距離を短くしてICソケットの性能を高めるという課題を解決しようとするものである(本願明細書〔0011〕参照)。
(2-3) 信号伝送特性を高めること
また、本発明では、コンデンサを構成する高誘電体及び導電層とそれらを包埋する基材とにより実質一体物の基板が形成されるようにすることで、コンデンサを基板の表面近傍に配置できるようにしことで信号伝送特性をより高めるという課題を解決しようとするものである(本願明細書〔0027〕参照)。
(2-4) コンタクトピンの交換作業性
さらに本発明では、基板に形成された貫通孔に摩擦力によって保持される構成を採用することで基板だけでコンタクトピンを保持できるようにし、これにより、長いピンを使用できるようにしてコンタクトピンの交換作業性を高めるという課題を解決しようとするものである(本願明細書〔0007〕及び〔0029〕)。」と主張している。

上記主張について検討する。
(1)上記主張のうち、基板の薄型化、ICソケットの高性能化及び信号伝送特性の向上については、引用発明に引用文献2に記載された技術を適用し、「コンデンサCA」及び「コンデンサCB」の「誘電体」を、プリント基板20の材料よりも高い誘電率を有するものとしたものにおいて、何れも、予測できる効果であり、格別なものではない。
(2)上記主張のうち、コンタクトピンの交換作業性の向上については、引用発明の「ICソケット1」の「多層プリント基板20」は、「スルーホール導体21a、21bに、圧入によりそれぞれ取り付けられたプローブコンタクト3a、3bとによって構成されて」いるものであり、「多層プリント基板20」に形成された「スルーホール」に、「プローブコンタクト3a、3b」を摩擦力によって保持するものであるので、引用発明は、コンタクトピンの交換作業性が高いものと認められる。
よって、請求人の主張は、何れも、採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、 本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶するべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-12-03 
結審通知日 2018-12-04 
審決日 2018-12-17 
出願番号 特願2016-70501(P2016-70501)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 續山 浩二  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 須原 宏光
小林 紀史
発明の名称 ICデバイス検査用ソケット  
代理人 佃 誠玄  
代理人 赤澤 太朗  
代理人 吉野 亮平  
代理人 野村 和歌子  

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