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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F25B
管理番号 1351346
審判番号 不服2017-18950  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-21 
確定日 2019-05-07 
事件の表示 特願2016-514573「冷凍サイクル装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月29日国際公開、WO2015/162679〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年4月21日を国際出願日とする出願であって、その後の経緯は、概ね次のとおりである。
平成28年6月30日に手続補正書の提出
平成29年3月17日付けで拒絶理由の通知
平成29年5月18日に意見書及び手続補正書の提出
平成29年9月25日付けで拒絶査定
平成29年12月21日に拒絶査定不服審判の請求及びそれと同時に手続補正書の提出
平成30年9月6日付けで平成29年12月21日の手続補正についての補正の却下の決定及び当審による拒絶理由の通知
平成30年11月2日に意見書及び手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、平成30年11月2日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「圧縮機、水熱交換器、複数の減圧装置、及び、複数の利用側熱交換器を冷媒配管で接続した冷媒回路と、当該冷媒回路に接続された前記水熱交換器、当該水熱交換器に熱媒体を供給する熱源機、及び、ポンプを水配管で接続した水回路とを備え、前記水熱交換器では、前記水回路を流通する前記熱媒体と、前記冷媒回路を流通する冷媒との間で熱交換させており、前記複数の利用側熱交換器のそれぞれで加温運転又は冷却運転が実行可能な冷凍サイクル装置であって、
冷却運転及び加温運転の同時運転時において前記水熱交換器に循環させる水流量は、
前記水熱交換器の運転容量の合計に対する、加温運転を実行する前記利用側熱交換器の運転容量の合計と、冷却運転を実行する前記利用側熱交換器の運転容量の合計と、の差分の絶対値の割合に応じて、前記水熱交換器に対応する前記ポンプの下限流量から定格水流量までの範囲で調節される
冷凍サイクル装置。」

第3 引用文献
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載事項
当審の拒絶理由に引用された刊行物であって、本願の出願前に頒布された刊行物である国際公開第2013/144994号(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。
ア 「すなわち、冷暖同時運転が可能な多室形空気調和装置においては、減圧装置によって冷媒流量を増加させる制御だけでは、優先順位の高い室内ユニットの暖房能力を設計された容量以上の能力にすることができない。しかも、このような多室形空気調和装置では、減圧装置の制御によって、優先順位の高い室内ユニットの暖房能力を設計された容量以上の能力にしようとすると、冷媒流量制御が困難になるという別の課題が生じてしまう。
また、例えば冷媒と水などの熱媒体との間で熱交換を行い、熱媒体を加熱又は冷却する複数の熱媒体間熱交換器と、熱媒体を循環させて室内空間を冷暖房する間接式室内熱交換器と、を備えた空気調和装置も従来より提案されている。このような空気調和装置において、熱媒体間熱交換器の一部を凝縮器、残りの一部を蒸発器とした冷温水混在モードになると、間接式室内ユニットの暖房負荷が十分に大きい場合、凝縮器として機能する熱媒体間熱交換器の伝熱面積が暖房負荷に対して小さいものになっている。そのため、凝縮温度の調整を膨張装置で調整するのみでは、暖房負荷に対して熱媒体を十分に加熱できない。また、暖房に係る熱媒体を送出するポンプの熱媒体送出流量が不足して、間接式室内ユニットの暖房能力が低下するという課題があった。
本発明は、上記のような課題の少なくとも1つを解決するためになされたものであり、一部の利用側熱交換器から能力増大要求があったとき、能力増大要求があった利用側熱交換器の能力を設計容量より大きくすることが可能な空気調和装置を提供することを目的としている。」([0011]?[0013])

イ 「実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る空気調和装置の冷媒回路図である。なお、以下の説明では、同一構成を区別して記載する必要がある場合等、符号の末尾にアルファベットを付して記載することがある。本実施の形態1に係る空気調和装置は、各室内ユニットの運転モードを個別に選択、つまり冷暖同時運転が可能なものである。なお、図1では、実線矢印で全暖房運転時の冷媒の流れを、破線矢印で全冷房運転時の冷媒の流れを、それぞれ示している。
本実施の形態1に係る空気調和装置は、冷暖同時運転時において、室外熱交換器13の熱交換容量を小さくして、室外熱交換器13と同じ運転モードの室内熱交換器31の一部の能力を増大、同じモードのその他の室内熱交換器31に対しては膨張弁32を調整して冷媒流量を減少させて、能力が過剰になるのを抑制するようにしたものである。
本実施の形態1に係る空気調和装置は、圧縮機11、冷媒流路切替装置である四方弁12、熱源側熱交換器である室外熱交換器13、アキュムレータ14、逆止弁15,58,59、気液分離器51、内部熱交換器52,53、利用側熱交換器である複数の室内熱交換器31、各室内熱交換器31に対応して設けられた複数の膨張弁32(膨張装置)、膨張弁54,55、開閉装置である電磁弁56,57を配管接続して冷凍サイクルを構成している。
本実施の形態1に係る空気調和装置では、圧縮機11、四方弁12、室外熱交換器13、アキュムレータ14、逆止弁15a,15b,15c,15dを、熱源機である室外ユニット1の中に収容している。また、室外ユニット1には、室外ユニット1の制御と空気調和装置全体の制御を統制する室外コントローラ202も収容されている。本実施の形態1に係る空気調和装置では、室内熱交換器31、膨張弁32を、室内ユニット2に収容している。また、本実施の形態1に係る空気調和装置は、室外ユニット1と室内ユニット2との間に介在する中継機3を備えている。
この中継機3には、気液分離器51、内部熱交換器52,53、膨張弁54,55、開閉装置である電磁弁56,57、逆止弁58,59、圧力センサ76,77、中継機コントローラ206等が収容されている。そして、中継機3は、冷媒配管である高圧管6と低圧管7とで、室外ユニット1と接続されている。また、各室内ユニット2は、冷媒配管であるガス枝管41と液枝管42とで、中継機3に並列接続されている。この室内ユニット2には、室内ユニット2を制御する室内コントローラ203が収容されている。
なお、室内ユニット2、中継機3の台数は任意である。また、室外コントローラ202、室内コントローラ203、中継機コントローラ206については、図2で説明する。
圧縮機11は、吸入した冷媒を加圧して吐出する(送り出す)ものである。冷媒流路切替装置となる四方弁12は、圧縮機11の吐出側に設けられるものであり、冷媒の経路を切り替えるものである。なお、四方弁12は、後述する室外コントローラ202の指示に基づいて、冷暖房に係る運転モードに対応した弁の切り替えを行う。本実施の形態1では、全冷房運転時、冷房主体運転時と、全暖房運転時、暖房主体運転時とによって冷媒経路が切り替わるようにする。
室外熱交換器13は、例えば、冷媒を通過させる伝熱管及びその伝熱管を流れる冷媒と外気との間の伝熱面積を大きくするためのフィン(図示せず)と空気を搬送するファン101(送風装置)を有し、冷媒と空気(外気)との熱交換を行うものである。例えば、室外熱交換器13は、全暖房運転時、暖房主体運転時においては蒸発器として機能し、冷媒を蒸発させてガス(気体)化させる。一方、室外熱交換器13は、全冷房運転時、冷房主体運転時においては凝縮器又はガスクーラ(以下では凝縮器とする)として機能し、冷媒を凝縮させて液化させる。場合によっては、完全にガス化、液化させず、液体とガスとの二相混合(気液二相冷媒)の状態にすることもある。室外熱交換器13の構成例については図3、図4で説明する。
室内熱交換器31は、例えば、冷媒を通過させる伝熱管及びその伝熱管を流れる冷媒と外気との間の伝熱面積を大きくするためのフィン(図示せず)と空気を搬送するファン(図示せず)を有し、冷媒と空気(室内)との熱交換を行うものである。例えば、室内熱交換器31は、暖房運転時においては凝縮器またはガスクーラ(以下では凝縮器とする)として機能し、冷媒を凝縮させて液化する。一方、室内熱交換器31は、冷房運転時においては蒸発器として機能し、冷媒を蒸発させてガス(気体)化させる。場合によっては、完全にガス化、液化させず、液体とガスとの二相混合(気液二相冷媒)の状態にすることもある。
例えば電子式膨張弁等の膨張弁32は、冷媒流量を調整することにより冷媒を減圧させる。アキュムレータ14は冷凍サイクル回路中の過剰な冷媒を貯留したり、圧縮機11に冷媒液が多量に戻って圧縮機11が破損したりするのを防止する働きがある。」([0017]?[0026])

ウ 「図2は、本発明の実施の形態1に係る空気調和装置の制御回路図である。図2に示すように、室外コントローラ202には、インバータ回路201が接続されている。この室外コントローラ202は、マイクロコンピュータ及びその周辺回路等からなる。また、インバータ回路201は、室外コントローラ202の指令に応じた運転周波数(及び電圧)の交流電力を圧縮機11のモータに出力するものである。なお、室外コントローラ202は、圧力センサ71,72が検知する検知圧力に応じて、インバータ回路201に指令する運転周波数(つまり、圧縮機11の回転数)を決定する。
室内コントローラ203のそれぞれには、弁駆動回路205が接続される。この室内コントローラ203は、マイクロコンピュータおよびその周辺回路からなり、中継機コントローラ206を介して室外コントローラ202と通信する。また、弁駆動回路205は、それぞれ室内コントローラ203の指令に応じて膨張弁32の開度をそれぞれ設定するものである。なお、室内コントローラ203は、操作部204からの要求内容や温度センサ73?75の検知温度に応じて、膨張弁32の開度を決定する。この決定方法の詳細については後述する。また、室内コントローラ203は、ファン211の回転数制御も行う。
中継機コントローラ206は、中継機3に配管接続されている室内ユニット2a,2b,2c,2dの室内コントローラ203a,203b,203c,203dと通信して、室内ユニット2a,2b,2c,2dの運転情報を統合して室外コントローラ202と通信する。室内ユニット2の各種制御指令は、シリアル信号にて室外コントローラ202から中継機コントローラ206を介して、室内コントローラ203に供給されるようになっている。なお、中継機コントローラ206は、圧力センサ76,77が検知する検知圧力に応じて、膨張弁54,55の開度を決定する。」([0033]?[0035])

エ 「図3は、室外熱交換器13の構成の一例を示す部分回路図である。図4は、室外熱交換器13の構成の他の一例と示す部分回路図である。図3及び図4に基づいて、室外熱交換器13の構成について説明する。なお、図3及び図4には、実線矢印で全暖房運転時、暖房主体運時の冷媒の流れを、破線矢印で全冷房運転時、冷房主体運転時の冷媒の流れを、それぞれ示している。
図3に示す構成では、室外熱交換器13は、室外熱交換部16,17、電磁開閉装置(熱交換器開閉装置)である熱交換器開閉弁21,22,23,24、熱交換器バイパス弁25(熱交換器バイパス装置)を有している。熱交換器開閉弁21,22,23,24、熱交換器バイパス弁25は、室外コントローラ202の指示に基づいて開閉し、室外熱交換器13、つまり室外熱交換部16,17への冷媒流入出を制御する。例えば、熱交換器開閉弁21(熱交換器開閉弁22)又は熱交換器開閉弁23(熱交換器開閉弁24)のいずれか一方を室外コントローラ202により閉止する。これにより、室外熱交換部16,17のいずれか一方に冷媒を流入させず、熱交換できないようにし、室外熱交換器13全体としての熱交換容量を減らすことができる。
また、ファン101は、室外コントローラ202からの指示に基づいて回転数を変化させて風量を調整することができ、この風量変化によっても室外熱交換器13における熱交換容量を変化させることができる。例えば、ファン101の回転数を低下させると、風量が低下するため、室外熱交換器13全体としての熱交換容量を減らすことができる。
さらに、熱交換器バイパス弁25を開放することで、室外熱交換器13を通過させずに、熱交換器バイパス弁25を介して冷媒を通過させることができるため、室外熱交換器13全体としての熱交換容量を減らすことができる。
また、熱交換器開閉弁21(熱交換器開閉弁22)又は熱交換器開閉弁23(熱交換器開閉弁24)を閉止することと、ファン101の風量を変化させることと、熱交換器バイパス弁25を介して冷媒をバイパスさせることを適宜組み合わせて調整することにより、室外熱交換器13においては、熱交換容量を連続的に変化させることができる。
室外熱交換器13の室外熱交換部16,17は、2つの場合を示したが、3つ以上であってもよい。また、室外熱交換部16,17の大きさの比率は同一でも異なってもよい。また、ファン101のみで、室外熱交換器13の熱交換容量を調整するようにしてもよい。
図4に示す構成では、室外熱交換器13に、逆止弁26,27を設置することで、室外熱交換器13に流入する冷媒の流れを一方向にできる。そのため、熱交換器開閉弁22,24を、逆止弁28,29に置き換えることができ、室外コントローラ202による熱交換容量の制御が簡略化できる。」([0037]?[0043])

オ 「本実施の形態1に係る空気調和装置では、大きく4つの形態の運転が行われる。すなわち、室内ユニット2がすべて室内空間を加熱する暖房運転を行う全暖房運転、室内ユニット2がすべて室内空間を冷却する冷房運転を行う全冷房運転、室内ユニット2が冷房運転と暖房運転を混在して行い、暖房運転の容量が大きい暖房主体運転、冷房運転の容量が大きい冷房主体運転である。」([0045])

カ 「(暖房主体運転)
図5は、本発明の実施の形態1に係る空気調和装置の暖房主体運転を示す冷媒回路図である。図5において、暖房主体運転を説明する。ここでは、一例として、室内ユニット2a,2b,2cが暖房運転、室内ユニット2dが冷房運転を行うとする。
室外ユニットにおいて、圧縮機11に吸入された冷媒は、圧縮され、高圧のガス冷媒として吐出される。圧縮機11を出た冷媒は、四方弁12を流れ、さらに逆止弁15c、高圧管6を通って室外ユニットを流出する。中継機3に流入した冷媒は、気液分離器51、高圧ガス管61を通り、電磁弁56a,56b,56c、ガス枝管41a,41b,41cを通って、暖房運転する各室内ユニット2a,2b,2cに流入する。
室内ユニット2a,2b,2cに流入したガス冷媒は室内熱交換器31a,31b,31cに流入して暖房する。室内熱交換器31a,31b,31cを流出した液冷媒は、膨張弁32a,32b,32cにより中間圧まで減圧され、中間圧の液冷媒となる。中間圧の液冷媒は室内ユニット2a,2b,2cを流出して、液枝管42a,42b,42c、逆止弁59a,59b,59cを通った後、液管64で合流する。
合流した中間圧の液冷媒は、内部熱交換器53を通り、一部が液管63、逆止弁58d、液枝管42dを通って室内ユニット2dに流入する。室内ユニット2dに流入した冷媒は膨張弁32dの開度を調整することで膨張し、低温低圧の気液二相冷媒が室内熱交換器31dに流入して冷房する。流出したガス冷媒は、室内ユニット2dを出てガス枝管41d、電磁弁57dを通って、低圧管7に至る。一方で、内部熱交換器53を通った中間圧の液冷媒の他の一部は、バイパス配管65に流入し、高圧管6の高圧と液管63,64の圧力である中間圧との差を一定にするように制御される膨張弁55を通って、内部熱交換器53、内部熱交換器52を通過して低圧管7に至り、室内ユニット2dを冷房した冷媒と合流して、低温低圧の気液二相冷媒として室外ユニットへ戻る。
室外ユニットに流入した冷媒は、逆止弁15dを通って、室外熱交換器13に流入して空気と熱交換することで蒸発し、ガス冷媒もしくは気液二相冷媒で流出する。蒸発した冷媒は、四方弁12、アキュムレータ14を介して再度圧縮機11へ吸い込まれる。
このとき、高圧管6は高圧で、室外熱交換器13は低圧であり、圧縮機11と逆止弁15bの間は高圧で、低圧管7は低圧であるため、逆止弁15a,15bには冷媒が流れない。また、電磁弁56d,57a,57b,57cは閉止している。また、このサイクルのとき、バイパス配管65へ入った冷媒は、膨張弁55で減圧された後、内部熱交換器53において液管64から流入する冷媒との間で熱交換が行われるため、逆止弁58d、液枝管42dを経由して、室内ユニット2dに流入する冷媒は、冷却され過冷却度を十分につけられる。
(冷房主体運転)
図6は、本発明の実施の形態1に係る空気調和装置の冷房主体運転を示す冷媒回路図である。図6において、冷房主体運転を説明する。ここでは、一例として、室内ユニット2a,2b,2cが冷房運転、室内ユニット2dが暖房運転を行うとする。
室外ユニットにおいて、圧縮機11に吸入された冷媒は、圧縮され、高圧のガス冷媒として吐出される。圧縮機11を出た冷媒は、四方弁12を経て、凝縮器として機能する室外熱交換器13に流れ任意量凝縮し、高圧の気液二相冷媒となって流出し、逆止弁15a、高圧管6を通って室外ユニットを流出する。中継機3に流入した冷媒は、気液分離器51に流入して、ガス冷媒と液冷媒に分離される。分離されたガス冷媒は、高圧ガス管61を通り、電磁弁56d、ガス枝管41dを通って、暖房運転する室内ユニット2dに流入する。
室内ユニット2dに流入したガス冷媒は室内熱交換器31dに流入して暖房する。室内熱交換器31dを流出した液冷媒は、膨張弁32dにより中間圧まで減圧され、中間圧の液冷媒となる。中間圧の液冷媒は室内ユニット2dを流出して、液枝管42d、逆止弁59dを通った後、液管64に至る。
一方で、気液分離器51にて分離された液冷媒は、液管62から流出し、内部熱交換器52、高圧管6の高圧と液管63,64の圧力である中間圧との差を一定にするように制御される膨張弁54を通って、室内ユニット2dを暖房して液管64を通る液冷媒と合流する。合流した液冷媒は、内部熱交換器53を通って、一部は液管63に流入して、逆止弁58a,58b,58c、液枝管42a,42b,42cを通って室内ユニット2a,2b,2cに流入する。
室内ユニット2a,2b,2cに流入した冷媒は膨張弁32a,32b,32cの開度を調整することで膨張し、低温低圧の気液二相冷媒が室内熱交換器31a,31b,31cに流入して冷房する。流出したガス冷媒は、室内ユニット2a,2b,2cを出てガス枝管41a,41b,41c、電磁弁57a,57b,57cを通って合流し、低圧管7を通過して、室外ユニットに戻る。室外ユニットに流入した冷媒は、逆止弁15b、四方弁12、アキュムレータ14を介して再度圧縮機11へ吸い込まれる。
このとき、高圧管6は高圧で、圧縮機11と逆止弁15cの間は低圧であり、室外熱交換器13と逆止弁15dの間は高圧で、低圧管7は低圧であるので、逆止弁15c,15dには冷媒が流れない。また、電磁弁56a,56b,56c,57dは閉止している。
また、このサイクルのときは、液管63の冷媒の一部がバイパス配管65へ流入し、膨張弁55で減圧されて、内部熱交換器53において、膨張弁54から液管63に向かう冷媒との間で熱交換が行われる。内部熱交換器53を通過した冷媒は、さらに、内部熱交換器52において、膨張弁54に流入する冷媒との間で熱交換が行われる。内部熱交換器52における熱交換により蒸発した冷媒は、室内ユニット2a,2b,2cにおいて冷房した冷媒と低圧管7で合流し、室外ユニットへ戻る。一方、内部熱交換器52および内部熱交換器53における熱交換により冷却され過冷却度を十分につけられた冷媒は、逆止弁58a,58b,58c、液枝管42a,42b,42cを経由して、室内ユニット2a,2b,2cに流入する。
<本実施の形態1に係る空気調和装置のアクチュエータ制御>
続いて、上記のように運転される本実施の形態1に係る空気調和装置に設けられた各種アクチュエータの制御方法について説明する。
(圧縮機11の容量制御)
圧縮機11の容量制御について説明する。圧縮機11は、室外コントローラ202からの指令により回転数が制御される。具体的には、全暖房運転時、暖房主体運転時は、圧力センサ71が検知する吐出圧力を目標値にして圧縮機11の回転数が制御され、本実施の形態1に係る空気調和装置の冷凍サイクル全体の冷媒流量が調整される。換言すると、全暖房運転時、暖房主体運転時、室外コントローラ202は、冷媒の凝縮飽和温度(以下、単に凝縮温度ともいう)が所定の凝縮飽和温度目標値となるように、圧縮機11の回転数を制御する。このとき、吐出圧力は、冷媒の飽和温度に換算しておよそ50度(℃)程度とするのが望ましい。
また、全冷房運転時、冷房主体運転時は、圧力センサ72が検知する吸入圧力を目標値にして圧縮機11の回転数が制御され、本実施の形態1に係る空気調和装置の冷凍サイクル全体の冷媒流量が調整される。換言すると、全冷房運転時、冷房主体運転時、室外コントローラ202は、冷媒の蒸発飽和温度(以下、単に蒸発温度ともいう)が所定の蒸発飽和温度目標値となるように圧縮機11の回転数を制御する。このとき、吸入圧力は、飽和温度に換算しておよそ0度(℃)程度とするのが望ましい。
(室外熱交換器13の熱交換容量制御)
室外熱交換器13の熱交換容量制御について説明する。前述のように室外熱交換器13は、室外コントローラ202からの指令により熱交換容量が制御される。暖房主体運転時は、全暖房運転時に室外熱交換器13において行っていた冷媒の蒸発の一部を、冷房運転する室内ユニット2において行うことで、冷暖同時運転を実現している。このとき、圧力センサ72が検知する吸入圧力を目標値にして熱交換容量を制御することで、冷房する室内ユニット2の冷房負荷と室外熱交換器13の吸熱量とのバランスを調整することができる。例えば、吸入圧力は飽和温度に換算しておよそ0度(℃)程度とするのが望ましい。
一方で、冷房主体運転時は、全冷房運転時に室外熱交換器13において行っていた冷媒の凝縮の一部を、暖房運転する室内ユニット2において行うことで、冷暖同時運転を実現している。このとき、圧力センサ71が検知する吐出圧力を目標値にして熱交換容量を制御することで、暖房する室内ユニット2の暖房負荷と室外熱交換器13の放熱量とのバランスを調整することができる。例えば、吐出圧力は飽和温度に換算しておよそ50℃程度とするのが望ましい。
(圧縮機11の容量制御に対する冷凍サイクルの作用)
圧縮機11の容量制御に対する冷凍サイクルの作用について説明する。全暖房運転、暖房主体運転時は、暖房負荷(室内ユニット2の吸込み空気温度)が一定とすれば、圧縮機11の回転数を高くすると、暖房運転する室内ユニット2において凝縮する冷媒流量が増加する。そのため、冷媒と空気の温度差を大きくするために凝縮温度が高くなる。言い換えると、凝縮温度を目標値に圧縮機11の回転数を制御する場合、凝縮温度目標値を高くすると、圧縮機11の回転数が高くなる。
全冷房運転、冷房主体運転時は、冷房負荷(室内ユニット2の吸込み空気温度)が一定とすれば、圧縮機11の回転数を高くすると、冷房運転する室内ユニット2において蒸発する冷媒流量が増加する。そのため、空気と冷媒の温度差を大きくするために蒸発温度が低くなる。言い換えると、蒸発温度を目標値に圧縮機11の回転数を制御する場合、蒸発温度目標値を低くすると、圧縮機11の回転数が高くなる。
(室外熱交換器13の熱交換容量制御に対する冷凍サイクルの作用)
室外熱交換器13の熱交換容量制御に対する冷凍サイクルの作用について説明する。暖房主体運転時は、室内ユニット2の冷房負荷(室内吸込温度)が一定とすれば、室外熱交換器13の熱交換容量を小さくすると、室外熱交換器13と冷房運転する室内ユニット2の室内熱交換器31を合わせた冷凍サイクル全体の蒸発器の熱交換容量が減少する。このとき、蒸発器で蒸発する冷媒の熱交換量が変わらないとすれば、空気と冷媒の温度差を大きくするために蒸発温度が低くなる。
言い換えると、蒸発温度を目標値に室外熱交換器13の熱交換容量を制御する場合、蒸発温度目標値を低くすると、熱交換容量が小さくなる。冷房運転する室内ユニット2の室内熱交換器31の熱交換容量(伝熱面積)は変化していないため、蒸発温度が低くなると室内ユニット2の冷房能力が増加する。一方で、熱交換容量が小さくなった室外熱交換器13においては、熱交換量が減少する。
冷房主体運転時は、室内ユニット2の暖房負荷(室内吸込温度)が一定とすれば、室外熱交換器13の熱交換容量を小さくすると、室外熱交換器13と暖房運転する室内ユニット2の室内熱交換器31を合わせた冷凍サイクル全体の凝縮器の熱交換容量が減少する。このとき、凝縮器で凝縮する冷媒の熱交換量が変わらないとすれば、空気と冷媒の温度差を大きくするために凝縮温度が高くなる。
言い換えると、凝縮温度を目標値に室外熱交換器13の熱交換容量を制御する場合、凝縮温度目標値を高くすると、熱交換容量が小さくなる。暖房運転する室内ユニット2の室内熱交換器31の熱交換容量(伝熱面積)は変化していないため、凝縮温度が高くなると室内ユニット2の暖房能力が増加する。一方で、熱交換容量が小さくなった室外熱交換器13においては、熱交換量が減少する。」([0054]?[0077])

キ 「さらに、本実施の形態1または2に係る空気調和装置では、熱源を空気とした空気調和装置について述べたが、熱源を水またはブラインとしてもよい。この場合、熱交換容量は、例えば熱源水のポンプ回転数や流量調整弁の開度による熱源水の流量調整により制御すればよい。」([0170])

(2)上記(1)及び図面の記載から分かること
ア 上記(1)ア?キ並びに図1?7の記載によれば、引用文献1には、空気調和装置が記載されていることが分かる。

イ 上記(1)ア、イ、エ及びカ(特に、段落【0014】、【0017】?【0026】、【0038】、【0042】及び【0054】?【0066】)並びに図1及び図3?6の記載によれば、空気調和装置は、圧縮機11、複数の室外熱交換部16,17を有する室外熱交換器13、複数の膨張弁32a?32d、及び、複数の室内熱交換器31a?31dを冷媒配管で接続した冷媒回路を備えることが分かる。

ウ 上記(1)キ並びに図1及び図3?6の記載によれば、室外熱交換器13における熱交換の熱源を空気に代えて水とすると、その際の熱交換容量は、熱源水のポンプ回転数による熱源水の流量調整により制御するのであるから、室外熱交換器13は熱源水と熱交換するものであり、空気調和装置は、冷媒回路に接続された室外熱交換器13、当該室外熱交換器13に熱源水を供給する熱源水の供給手段、及び、熱源水のポンプを熱源水の配管で接続した熱源水の回路とを備えることが分かるとともに、室外熱交換器13の熱交換容量は、熱源水のポンプ回転数による熱源水の流量調整により制御されることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献1には、次の事項からなる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「圧縮機11、熱源水と熱交換する複数の室外熱交換部16,17を有する室外熱交換器13、複数の膨張弁32a?32d、及び、複数の室内熱交換器31a?31dを冷媒配管で接続した冷媒回路と、当該冷媒回路に接続された前記室外熱交換器13、当該室外熱交換器13に熱源水を供給する熱源水の供給手段、及び、熱源水のポンプを熱源水の配管で接続した熱源水の回路とを備え、前記室外熱交換器13では、前記熱源水の回路を流通する前記熱源水と、前記冷媒回路を流通する冷媒との間で熱交換させており、前記複数の室内熱交換器31a?31dのそれぞれで暖房運転又は冷房運転が実行可能な空気調和装置の冷凍サイクル装置であって、
前記室外熱交換器13の熱交換容量は、熱源水のポンプ回転数による熱源水の流量調整により制御される
空気調和装置の冷凍サイクル装置。」

2 引用文献2
当審の拒絶理由において周知技術の例証として引用された刊行物であって、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-343052号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。
「【0014】
図5において、室外機25は、圧縮機36、四方弁37、室外熱交換器として第1室外熱交換器30、第2室外熱交換器31、室外膨張弁32、33が冷媒配管で接続され、室内膨張弁40、41及び室内熱交換器38、39を有した複数の室内機26、27が並列に配管接続され、冷凍サイクルを構成している。圧縮機36は駆動周波数が可変とされ、四方弁37は冷媒の循環方向を正逆に転換させる。第1室外熱交換器30、第2室外熱交換器31にはファンモータ35で駆動されるプロペラファン34で送風が行われる。また、第1室外熱交換器30、第2室外熱交換器31は、実際には図1に示すように、室外機の前面(上図で上方向)に第1室外熱交換器30を主凝縮器、背面に第2室外熱交換器31を従蒸発器として配置され、冷房主体の運転がなされる。
【0015】
冷暖同時運転では図3に示すように室内の冷房熱交換量12と暖房熱交換量9に偏りがある際、その差分の熱交換量を室外機で補っている。そして、冷房主体時(左図)は、室内側の凝縮器熱交換量10が小さい場合に行われ、室外側の凝縮器熱交換量9を発生させ熱量を釣り合わせる。一方、暖房主体時(右図)は室内側蒸発器熱交換量17が小さい時に行われ、室外側の蒸発器熱交換量16を発生させ熱量を釣り合わせる。」

3 引用文献3
当審の拒絶理由において周知技術の例証として引用された刊行物であって、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2011-21782号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。
ア 「【0010】
以下に、(1)複数の室内機が冷房または暖房を同時に行う冷暖同時運転を行う多室型空気調和装置100の構成および動作、(2)性能計算装置1による多室型空気調和装置100の性能計算方法を述べる。
【0011】
(1)複数の室内機が冷房または暖房を同時に行う冷暖同時運転を行う多室型空気調和装置の構成および動作
図2は、この発明の実施の形態1による性能計算装置が性能を計算する多室型空気調和装置の冷媒回路の構成を示す図である。
図2において、熱源機Aは、冷媒を圧縮する圧縮機11、圧縮機11の吐出側の冷媒流路を切り替える流路切替弁である四方切替弁12、冷媒を熱交換する熱源機側熱交換器13、および冷媒を気液分離するアキュムレータ14を有する。なお、以後は熱源機側熱交換器13の一例として、冷媒と空気とを熱交換する空冷式の室外熱交換器13を用いて説明するが、冷媒が他の流体と熱交換する形態であれば水冷式等他の方式でも良い。
図2において、熱源機Aと中継機Bとは熱源機側冷媒配管16,17を介して接続され、中継機Bと室内機C,D,Eとは室内機側冷媒配管16c、16d,16e,17c,17d,17eを介して接続され、室内機C,D,Eは互いに並列に接続されている。なお、この実施の形態1では、1台の熱源機Aに1台の中継機Bおよび3台の室内機C,D,Eを接続した場合について説明するが、2台以上の熱源機に2台以上の中継機および2台以上の室内機を接続した場合も同様である。
【0012】
中継機Bは、後述する第1の分岐部20a、第2の流量制御装置23、第2の分岐部20b、第3の分岐部20c、気液分離装置22、第1の熱交換器27、第2の熱交換器26、第3の流量制御装置25を有し、室内機C,D,Eは、それぞれ第1の流量制御装置19c,19d,19e、および室内熱交換器15c,15d,15eを有する。
熱源機側冷媒配管である熱源機側第1冷媒配管16は、熱源機Aの四方切替弁12と中継機Bとを接続し、室内機側冷媒配管である室内機側第1冷媒配管16c,16d,16eは、それぞれ中継部Bと室内機C,D,Eの室内熱交換器15c,15d,15eとを接続する。また、熱源機側冷媒配管である熱源機側第2冷媒配管17は、熱源機側第1冷媒配管16より細く、熱源機Aの室外熱交換器13と中継機Bとを接続する。室内機側冷媒配管である室内機側第2冷媒配管17c,17d,17eは、それぞれ室内機C,D,Eの室内熱交換器15c,15d,15eと中継機Bとを接続する。
【0013】
電磁弁18c,18d,18e,18f,18g,18hは、室内機側第1冷媒配管16c,16d,16eが接続される流路を熱源機側第1冷媒配管16または熱源機側第2冷媒配管17のいずれかに接続するよう切り替える。室内機C,D,Eに設けられる第1流量制御装置19c,19d,19eは、一端をそれぞれの室内熱交換器15c,15d,15eに近接して接続され、他端を室内機側第2冷媒配管17c,17d,17eに接続される。また、第1流量制御装置19c,19d,19eは、冷房の際は室内熱交換器15c,15d,15eの出口側過熱度によって冷媒の流量を調整するよう制御され、暖房の際は過冷却度によって冷媒の流量を調整するよう制御される。
【0014】
第1の分岐部20aは、室内機C,D,Eそれぞれに対応する室内機側第1冷媒配管16c,16d,16eを、熱源機側第1冷媒配管16または熱源機側第2冷媒配管17に接続するよう切り替える電磁弁18c,18d,18e,18f,18g,18hを有する。第2の分岐部20bは、室内機C、D、Eそれぞれに対応する室内機側第2冷媒配管17c,17d,17eとこれらの会合部とを有する。第3の分岐部20cは、後述する中継機B内の中継機第1バイパス配管24aと中継機第2バイパス配管24bとこれらの会合部とを有する。気液分離装置22は、冷媒が流入する流入部が熱源機側第2冷媒配管17に接続され、主にガス冷媒が流出する気相部が第1の分岐部20aに接続され、主に液冷媒が流出する液相部が第2の分岐部20bに接続されている。
【0015】
中継機第1バイパス配管24aは、気液分離装置22と第2の分岐部20bとを接続し、中継機第2バイパス配管24bは、中継機Bの第2の分岐部20bと熱源機側第1冷媒配管16とを接続する。第2の流量制御装置23は、中継機第1バイパス配管24aの途中に設けられ、開閉自在であり、第3の流量制御装置25は、中継機第2バイパス配管24bの途中に設けられ、開閉自在である。第1の熱交換器27は、気液分離装置22および第2の流量制御装置23の間の冷媒と、第3の流量制御装置25および熱源機側第1冷媒配管16の間の冷媒とを熱交換させるために設けられている。第2の熱交換器26は、第2の流量制御装置23および第3の分岐部20cの間の冷媒と、第3の流量制御装置25および第1の熱交換器27の間の冷媒とを熱交換させるために設けられている。」

イ 「【0019】
この発明の実施の形態1に示す空気調和装置100が実行する各種運転の際の運転動作について説明する。空気調和装置100の運転動作には、冷房運転、暖房運転、冷房主体運転および暖房主体運転の4つのモードがある。
冷房運転モードとは、全ての室内機C,D,Eが冷房のみ可能な運転モードであり、室内機C,D,Eは、冷房もしくは停止している。暖房運転モードとは、全ての室内機C,D,Eが暖房のみ可能な運転モードであり、室内機C,D,Eは、暖房もしくは停止している。冷房主体運転モードとは、室内機C,D,Eごとに冷房または暖房を選択できる運転モードであり、暖房負荷に比べて冷房負荷が大きく、圧縮機11の吐出側が室外熱交換器13に接続され、室外熱交換器13が凝縮器(放熱器)として作用する運転モードである。暖房主体運転モードとは、室内機C,D,Eごとに冷房または暖房を選択できる運転モードであり、冷房負荷に比べて暖房負荷が大きく、圧縮機11の吐出側が中継部Bに接続され、室外熱交換器13が圧縮機11の吸入側に位置し蒸発器として作用する運転モードである。以降、各運転モードの冷媒の流れをP-h線図とともに説明する。」

ウ 「【0061】
ここで、冷房主体運転モードのサイクルについて検討する。
図14は、この発明の実施の形態1による性能計算装置が性能を計算する多室型空気調和装置の冷房主体運転モードにおける冷媒状態の変遷を表すP-h線図である。
冷房主体運転モードでは、凝縮器として室外熱交換器と暖房の室内熱交換器があり、室外熱交換器では冷房の容量と暖房の容量との差分だけ放熱するように制御される。」

エ 「【0070】
ここで、暖房主体運転モードのサイクルについて検討する。
図15は、この発明の実施の形態1による性能計算装置が性能を計算する多室型空気調和装置の暖房主体運転モードにおける冷媒状態の変遷を表すP-h線図である。
暖房主体運転モードでは、蒸発器として室外熱交換器と冷房の室内熱交換器があり、室外熱交換器では冷房の容量と暖房の容量との差分だけ放熱するように制御される。暖房主体運転では、暖房に必要な冷媒流量は冷房に必要な冷媒流量よりも多く、全体の冷媒流量は、暖房負荷によって決まる。」

第4 対比
本願発明(以下、「前者」ともいう。)と引用発明(以下、「後者」ともいう。)とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者の「圧縮機11」は、前者の「圧縮機」に相当し、以下同様に、「熱源水と熱交換する複数の室外熱交換部16,17を有する室外熱交換器13」及び「前記室外熱交換器13」は「水熱交換器」に、「複数の膨張弁32a?32d」は「複数の減圧装置」に、「複数の室内熱交換器31a?31d」は「複数の利用側熱交換器」に、「熱源水」は「熱媒体」に、「熱源水のポンプ」は「ポンプ」に、「熱源水の配管」は「水配管」に、「熱源水の回路」は「水回路」に、「暖房運転」は「加温運転」に、「冷房運転」は「冷却運転」に、「空気調和装置の冷凍サイクル装置」は「冷凍サイクル装置」に、それぞれ相当する。
・前者の「熱源機」は、本願明細書において、「熱源機1は、水熱交換器50を介して、室外機10に熱源を供給する機能を有している。熱源機1は、たとえば、クーリングタワーや地熱源、水タンク等で構成され、室外機10の水熱交換器50に水を熱媒体として供給する。」(段落【0024】)と説明されており、水熱交換器に水を熱媒体として供給するものであれば、具体的構成を問わないものであるから、後者の「熱源水の供給手段」は、前者の「熱源機」に相当する。
・後者の「前記室外熱交換器13の熱交換容量は、熱源水のポンプ回転数による熱源水の流量調整により制御される」は、前者における「冷却運転及び加温運転の同時運転時において前記水熱交換器に循環させる水流量は、前記水熱交換器の運転容量の合計に対する、加温運転を実行する前記利用側熱交換器の運転容量の合計と、冷却運転を実行する前記利用側熱交換器の運転容量の合計と、の差分の絶対値の割合に応じて、前記水熱交換器に対応する前記ポンプの下限流量から定格水流量までの範囲で調節される」に、「水熱交換器に循環させる水流量は調節される」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「圧縮機、水熱交換器、複数の減圧装置、及び、複数の利用側熱交換器を冷媒配管で接続した冷媒回路と、当該冷媒回路に接続された前記水熱交換器、当該水熱交換器に熱媒体を供給する熱源機、及び、ポンプを水配管で接続した水回路とを備え、前記水熱交換器では、前記水回路を流通する前記熱媒体と、前記冷媒回路を流通する冷媒との間で熱交換させており、前記複数の利用側熱交換器のそれぞれで加温運転又は冷却運転が実行可能な冷凍サイクル装置であって、
前記水熱交換器に循環させる水流量は調節される
冷凍サイクル装置。」の点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1]
「水熱交換器に循環させる水流量は調節される」ことに関し、本願発明においては、「冷却運転及び加温運転の同時運転時において前記水熱交換器に循環させる水流量は、前記水熱交換器の運転容量の合計に対する、加温運転を実行する前記利用側熱交換器の運転容量の合計と、冷却運転を実行する前記利用側熱交換器の運転容量の合計と、の差分の絶対値の割合に応じて、前記水熱交換器に対応する前記ポンプの下限流量から定格水流量までの範囲で調節される」のに対して、引用発明においては、「前記室外熱交換器13の熱交換容量は、熱源水のポンプ回転数による熱源水の流量調整により制御される」点(以下、「相違点1」という。)。

第5 判断
1 相違点1について
上記相違点1について検討する。
引用文献2(特に、上記第3の2における段落【0015】)及び引用文献3(特に、上記第3の3ウ及びエにおける段落【0061】及び【0070】)に記載されているように、冷凍サイクル装置において、冷却運転及び加温運転の同時運転時に、加温運転を実行する利用側熱交換器の運転容量の合計と、冷却運転を実行する利用側熱交換器の運転容量の合計との差分の運転容量を、室外熱交換器のような熱源側熱交換器の運転容量で負担することは、本願の出願前に周知の技術(以下、「周知技術」という。)である。
そして、上記周知技術は、熱源側熱交換器の負担する運転容量を抑えることにより、冷凍サイクル装置の冷却運転及び加温運転の同時運転時における効率の向上を図ることができるものと認められるところ、引用発明においても、冷却運転及び加温運転の同時運転時における効率の向上を図ることは内在する課題であって、冷却運転及び加温運転の同時運転時における室外熱交換器13の熱交換容量(運転容量)を小さくすることが可能な構成を有しているから(引用文献1の段落[0070]、[0071]及び[0074]?[0077])、引用発明において周知技術を採用することは、当業者にとって格別困難なことではない。
また、引用発明に周知技術を採用したものにおいて、室外熱交換器13(水熱交換器)に循環させる水流量は、供給側の最大の運転容量に対する、利用側で要求される運転容量の割合、すなわち、室外熱交換器13における複数の室外熱交換部16,17の運転容量の合計(水熱交換器の運転容量の合計)に対する、暖房運転(加温運転)を実行する室内熱交換器(利用側熱交換器)の運転容量の合計と、冷房運転(冷却運転)を実行する室内熱交換器の運転容量の合計と、の差分の絶対値の割合に応じて、ポンプの回転数により調節されるものとなるところ、ポンプの最大の水流量をポンプの定格水量とすることは設計上普通になされることであり、さらに、本願発明のように水配管の凍結を防止するために、ポンプにより水熱交換器には水が常時供給されている(本願明細書【0025】)ものとすることも普通になされることであって(同【0007】参照。)、そのための下限の流量を定めることは、本願の出願前に技術常識である。
そうすると、引用発明と、周知技術及び技術常識に基いて、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

2 効果について
そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明、周知技術及び技術常識から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

3 平成30年11月2日に提出された意見書における請求人の主張について
(1)請求人は、上記意見書において、各引用例の発明は、循環させる水流量を、水熱交換器の運転容量及び利用側熱交換器の運転容量に基づいて調節するものではないため、水熱交換器にポンプの定格水流量の水が供給され続け、本願発明における優れた効果(水熱交換器に供給する水流量を必要最小限にすることができ、水の無駄が低減でき、省エネ性を向上できるという優れた効果)を奏することはできず、本願発明とは相違する旨主張する。

(2)しかしながら、上記1で検討したとおり、引用発明において、周知技術を採用することにより、本願発明と同様に、循環させる水流量を、水熱交換器の運転容量及び利用側熱交換器の運転容量に基づいて調節するものとなると共に、上記周知技術は、熱源側熱交換器の負担する運転容量を抑えることにより、冷凍サイクル装置の冷却運転及び加温運転の同時運転時における効率の向上を図る技術であるから、請求人が主張する効果は、当該周知技術の適用に際して、十分に予測される程度のものである。

4 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、周知技術及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第6 むすび
上記第5のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-02-26 
結審通知日 2019-03-05 
審決日 2019-03-18 
出願番号 特願2016-514573(P2016-514573)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼藤 啓  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 槙原 進
宮崎 賢司
発明の名称 冷凍サイクル装置  
代理人 特許業務法人きさ特許商標事務所  

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