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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1351352
審判番号 不服2018-3034  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-02 
確定日 2019-05-07 
事件の表示 特願2015-185581「粘着型偏光板および画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月25日出願公開,特開2016- 28288〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,平成23年5月26日に出願した特願2011-118334号の一部を平成27年9月18日に新たな特許出願としたものであって,平成27年10月23日に手続補正書が提出され,平成28年6月22日付けで拒絶理由が通知され,同年10月21日に意見書及び手続補正書が提出され,平成29年3月30日付けで拒絶理由が通知され,同年6月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年11月29日付けで拒絶査定がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成30年3月2日に請求されたものであって,当審において,同年12月20日付けで拒絶理由が通知され,平成31年2月18日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


2 請求項1に係る発明
本件出願の請求項1ないし14に係る発明は,平成31年2月18日に提出された手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項によって特定されるものと認められるところ,請求項1の記載は次のとおりである。

「偏光板と,当該偏光板に設けられた粘着剤層を有する粘着型偏光板であって,
前記偏光板は,厚みが10μm以下である偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有し,前記粘着剤層は,前記透明保護フィルムを有しない側の偏光子に設けられており,かつ
前記粘着剤層は,架橋剤,(メタ)アクリル系ポリマー(A)およびアルカリ金属塩(B)を含有する粘着剤組成物から形成されたものであり,
前記アルカリ金属塩(B)が,リチウム塩であり,
前記架橋剤として,イソシアネート系化合物および過酸化物を含有し,
前記(メタ)アクリル系ポリマー(A)100重量部に対して,前記アルカリ金属塩(B)を0.0001?5重量部含有することを特徴とする粘着型偏光板。」(以下,当該請求項1に係る発明を「本件発明」という。)


3 当審において通知された拒絶理由の概要
当審において平成30年12月20日付けで通知された拒絶理由は,概略次の理由(以下,当該理由のうち,サポート要件違反を「当審拒絶理由1」といい,引用文献2を主引例とする進歩性欠如を「当審拒絶理由2」といい,引用文献3を主引例とする進歩性欠如を「当審拒絶理由3」という。)を含んでいる。
(1)当審拒絶理由1(サポート要件違反)
本件出願は,特許請求の範囲の記載が次の点で,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
本件出願の請求項1ないし17(平成29年6月2日に提出された手続補正書による補正後の請求項1ないし17である。)に係る発明は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなく,かつ,発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもないから,発明の詳細な説明に記載されたものでない。

(2)当審拒絶理由2(引用文献2を主引例とする進歩性欠如)
本件出願の請求項1ないし17に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物である引用文献2(特開2010-197681号公報)に記載された発明及び周知技術に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

(3)当審拒絶理由3(引用文献3を主引例とする進歩性欠如)
本件出願の請求項1ないし17に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物である引用文献3(特開2011-22202号公報)に記載された発明及び周知技術に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


4 当審拒絶理由1(サポート要件違反)についての判断
(1)特許請求の範囲の記載
請求項1の記載は,前記2に示したとおりである。
なお,請求項2ないし14は,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものである。

(2)発明の詳細な説明の記載
ア 本件出願の明細書(以下,「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,偏光板と,当該偏光板に設けられた粘着剤層を有する粘着型偏光板に関する。・・・(中略)・・・
【背景技術】
【0002】・・・(中略)・・・
【0003】
液晶表示装置の製造時,前記粘着型偏光板を液晶セルに貼り付ける際には,粘着型偏光板の粘着剤層から離型フィルムを剥離するが,当該離型フィルムの剥離により静電気が発生する。このようにして発生した静電気は,液晶表示装置内部の液晶の配向に影響を与え,不良を招くようになる。また,液晶表示装置の使用時に静電気による表示ムラが生じる場合がある。・・・(中略)・・・静電気発生の根本的な位置で発生を抑えるためには,粘着剤層に帯電防止機能を付与することが求められる。粘着剤層に帯電防止機能を付与する手段として,例えば,粘着剤層を形成する粘着剤に,イオン性化合物を配合することが提案されている(特許文献1乃至4)。特許文献1ではリチウム塩,特許文献2ではアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の少なくとも一方,特許文献3では有機カチオンを有し,室温において固体であるイオン性化合物,特許文献4ではイミダゾリウムカチオンと無機アニオンを含むイオン性固体を,偏光板に用いるアクリル系粘着剤に配合することが記載されている。また,ポリチオフェンなどの導電性ポリマーのバインダーを用い,偏光板と粘着剤層の間に帯電防止層を設ける方法などが提案されている(特許文献5)。また,粘着型偏光板には,接着状態での耐久性が求められる。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1乃至4では,イオン性化合物を含有する粘着剤組成物により形成した粘着剤層を偏光板に適用することで,帯電防止機能を付与している。特許文献1乃至4において適用されている偏光板は,いずれも偏光子の両側に透明保護フィルム等の保護基材を有するものが用いられている。
【0006】
一方,粘着型偏光板としては,偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを設け,他の片側には透明保護フィルムを設けることなく,粘着剤層を設けた粘着型偏光板を用いる場合がある。かかる粘着型偏光板は,透明保護フィルムが片側にのみあるため,両側に透明保護フィルムを有する場合に比べて,透明保護フィルム一層分のコストが削減可能であるが,粘着剤層がイオン性化合物を含有させて帯電防止機能を付与する場合には,当該粘着剤層中のイオン性化合物の偏光子への影響が大きく,例えば,イオン性化合物として,イオン性液体およびイオン性固体を用いた場合には,偏光子を劣化させて,加湿試験後には光学特性が大きく低下する問題がある。
【0007】
また,特許文献5のように,ポリチオフェンなどの導電性ポリマーを含有する層を偏光板と粘着剤層に設けた場合も,偏光子が劣化し,光学特性が低下する。
【0008】
本発明は,帯電防止機能を有し,かつ耐久性を満足する粘着剤層を有し,光学特性の劣化が小さい粘着型偏光板を提供することを目的とする。」

(イ) 「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果,下記粘着型偏光板を見出し,本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち本発明は,偏光板と,当該偏光板に設けられた粘着剤層を有する粘着型偏光板であって,
前記偏光板は,偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有し,前記粘着剤層は,前記透明保護フィルムを有しない側の偏光子に設けられており,かつ
前記粘着剤層は,(メタ)アクリル系ポリマー(A)およびアルカリ金属塩(B)を含有する粘着剤組成物から形成されたものであることを特徴とする粘着型偏光板,に関する。
【0012】
上記粘着型偏光板において,前記アルカリ金属塩(B)が,リチウム塩であることが好ましい。」

(ウ) 「【発明の効果】
【0023】・・・(中略)・・・
【0024】
本発明の粘着型偏光板の粘着剤層を形成する粘着剤組成物は,ベースポリマーである(メタ)アクリル系ポリマー(A)に加えて,帯電防止機能を付与することができる,アルカリ金属塩(B)を含有しており,当粘着剤組成物により形成された粘着剤層は,帯電防止機能に優れている。また,本発明では,アルカリ金属塩(B)を用いることで,偏光子の劣化を招くことなく,帯電防止機能を付与できることが分かった。」

(エ) 「【0047】
本発明の粘着剤組成物は,前記(メタ)アクリル系ポリマー(A)に加えて,アルカリ金属塩(B)を含有する。アルカリ金属塩(B)は1種を単独でまたは複数を併用することができる。アルカリ金属塩(B)は,アルカリ金属の有機塩および無機塩を用いることができる。
【0048】
アルカリ金属塩(B)のカチオン部を構成するアルカリ金属イオンとしては,リチウム,ナトリウム,カリウムの各イオンが挙げられる。これらアルカリ金属イオンのなかでもリチウムイオンが好ましい。
【0049】
アルカリ金属塩(B)のアニオン部は有機物で構成されていてもよく,無機物で構成されていてもよい。有機塩を構成するアニオン部としては,例えば,CH_(3)COO^(-),CF_(3)COO^(-),CH_(3)SO_(3)^(-),CF_(3)SO_(3)^(-),(CF_(3)SO_(2))_(2)N^(-),(CF_(3)SO_(2))_(3)C^(-),C_(4)F_(9)SO_(3)^(-),(C_(2)F_(5)SO_(2))_(2)N^(-),C_(3)F_(7)COO^(-),(CF_(3)SO_(2))(CF_(3)CO)N^(-),^(-)O_(3)S(CF_(2))_(3)SO_(3)^(-),PF_(6)^(-),CO_(3)^(2-),などが用いられる。特に,フッ素原子を含むアニオン部は,イオン解離性の良いイオン化合物が得られることから好ましく用いられる。無機塩を構成するアニオン部としては,Cl^(-),Br^(-),I^(-),AlCl4^(-),Al_(2)Cl_(7)^(-),BF_(4)^(-),PF_(6)^(-),ClO_(4)^(-),NO_(3)^(-),AsF_(6)^(-),SbF_(6)^(-),NbF_(6)^(-),TaF_(6)^(-),(CN)_(2)N^(-),などが用いられる。アニオン部としては,(CF_(3)SO_(2))_(2)N^(-),(C_(2)F_(5)SO_(2))_(2)N^(-)等の(ペルフルオロアルキルスルホニル)イミドが好ましく,特に(CF_(3)SO_(2))_(2)N^(-),で表わされる(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが好ましい。
【0050】
アルカリ金属の有機塩としては,・・・(中略)・・・特に(ペルフルオロアルキルスルホニル)イミドリチウム塩が好ましい。
【0051】
また,アルカリ金属の無機塩としては,過塩素酸リチウム,ヨウ化リチウムが挙げられる。
【0052】
本発明の粘着剤組成物におけるアルカリ金属塩(B)の割合は,(メタ)アクリル系ポリマー(A)100重量部に対して,0.001?5重量部が好ましい。前記アルカリ金属塩(B)が0.001重量部未満では,帯電防止性能の向上効果が十分ではない場合がある。前記アルカリ金属塩(B)は,0.01重量部以上が好ましく,さらには0.1重量部以上であるのが好ましい。一方,前記アルカリ金属塩(B)は5重量部より多いと,耐久性が十分ではなくなる場合がある。前記アルカリ金属塩(B)は,3重量部以下が好ましく,さらには1重量部以下であるのが好ましい。前記アルカリ金属塩(B)の割合は,前記上限値または下限値を採用して好ましい範囲を設定できる。」

(オ) 「【実施例】
【0113】
以下に,実施例によって本発明を具体的に説明するが,本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお,各例中の部および%はいずれも重量基準である。以下に特に規定のない室温放置条件は全て23℃65%RHである。
・・・(中略)・・・
【0115】
<偏光板(1)の作成>
薄型偏光膜を作製するため,まず,非晶性PET基材に9μm厚のPVA層が製膜された積層体を延伸温度130℃の空中補助延伸によって延伸積層体を生成し,次に,延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し,さらに着色積層体を延伸温度65度のホウ酸水中延伸によって総延伸倍率が5.94倍になるように非晶性PET基材と一体に延伸された4μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成した。このような2段延伸によって非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され,染色によって吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された高機能偏光膜を構成する,厚さ4μmのPVA層を含む光学フィルム積層体を生成することができた。更に,当該光学フィルム積層体の偏光膜の表面にポリビニルアルコール系接着剤を塗布しながら,けん化処理した40μm厚のトリアセチルセルロースフィルムを貼合せたのち,非晶性PET基材を剥離して,薄型偏光膜を用いた偏光板を作製した。以下,これを薄型偏光板(1)という。
【0116】
<偏光板(2)の作成>
厚さ80μmのポリビニルアルコールフィルムを,速度比の異なるロール間において,30℃,0.3%濃度のヨウ素溶液中で1分間染色しながら,3倍まで延伸した。その後,60℃,4%濃度のホウ酸,10%濃度のヨウ化カリウムを含む水溶液中に0.5分間浸漬しながら総合延伸倍率が6倍まで延伸した。次いで,30℃,1.5%濃度のヨウ化カリウムを含む水溶液中に10秒間浸漬することで洗浄した後,50℃で4分間乾燥を行い,厚さ20μmの偏光子を得た。当該偏光子の片面に,けん化処理した厚さ40μmのトリアセチルセルロースフィルムを,ポリビニルアルコール系接着剤により貼り合せて偏光板を作成した。以下,これをTAC系偏光板(2)という。
【0117】
製造例1
<アクリル系ポリマー(A1)の調製>
攪拌羽根,温度計,窒素ガス導入管,冷却器を備えた4つ口フラスコに,ブチルアクリレート82部,ベンジルアクリレート15部,4-ヒドロキシブチルアクリレート3部を含有するモノマー混合物を仕込んだ。さらに,前記モノマー混合物(固形分)100部に対して,重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.1部を酢酸エチルと共に仕込み,緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入して窒素置換した後,フラスコ内の液温を60℃付近に保って7時間重合反応を行った。その後,得られた反応液に,酢酸エチルを加えて,固形分濃度30%に調整した,重量平均分子量100万のアクリル系ポリマー(A-1)の溶液を調製した。
【0118】
製造例2
<アクリル系ポリマー(A-2)の調製>
製造例1において,モノマー混合物として,ブチルアクリレート76.8部,ベンジルアクリレート10部,フェノキシエチルアクリレート10部,4-ヒドロキシブチルアクリレート3部およびアクリル酸0.2部を含有するモノマー混合物を用いたこと以外は,製造例1と同様にして,重量平均分子量100万のアクリル系ポリマー(A2)の溶液を調製した。
【0119】
製造例3
<アクリル系ポリマー(A-3)の調製>
製造例1において,モノマー混合物として,ブチルアクリレート81.9部,ベンジルアクリレート13部,2-ヒドロキシエチルアクリレート0.1部およびアクリル酸5部を含有するモノマー混合物を用いたこと以外は,製造例1と同様にして,重量平均分子量100万のアクリル系ポリマー(A2)の溶液を調製した。
【0120】
実施例1
(粘着剤組成物の調製)
製造例1で得られたアクリル系ポリマー(A-1)溶液の固形分100部に対して,リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(日本カーリット社製)0.002部を配合し,さらに,トリメチロールプロパンキシリレンジイソシアネート(三井化学社製:タケネートD110N)0.1部と,ジベンゾイルパーオキサイド0.3部と,γ-グリシドキシプロピルメトキシシラン(信越化学工業社製:KBM-403)0.075部を配合して,アクリル系粘着剤溶液を調製した。
【0121】
(粘着型偏光板の作製)
次いで,上記アクリル系粘着剤溶液を,シリコーン系剥離剤で処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(セパレータフィルム)の表面に,ファウンテンコータで均一に塗工し,155℃の空気循環式恒温オーブンで2分間乾燥し,セパレータフィルムの表面に厚さ20μmの粘着剤層を形成した。次いで,上記で作成した薄型偏光板(1)の偏光子の偏光膜の側に,セパレータフィルム上に形成した粘着剤層を転写して,粘着型偏光板を作製した。
【0122】
実施例2?17,比較例1?4
実施例1において,粘着剤組成物の調製にあたり,各成分の使用量を表1に示すように変えたこと,粘着型偏光板の作製にあたり偏光板の種類を表1に示すように変えたこと以外は,実施例1と同様にして,粘着型偏光板を作製した。
【0123】
上記実施例および比較例で得られた,粘着型偏光板について以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
・・・(中略)・・・
【0127】
<偏光の測定>
粘着型偏光板のセパレータフィルムを剥がし厚さ0.7mmの無アルカリガラス(コーニング社製,1737)にラミネーターを用いて貼着した。次いで,50℃,0.5MPaで,15分間のオートクレーブ処理を行って,上記粘着型偏光板を完全に無アクリルガラスに密着させた。次いで,60℃/95%RHの恒温恒湿機に500時間投入した。投入前と投入後の偏光板の偏光度を,日本分光(株)製のV7100を用いて測定し,変化量ΔP=(投入前の偏光度)-(投入後の偏光度),を求めた。
【0128】
【表1】

【0129】
表1において,アルカリ金属塩(B)における,「B-1」は日本カーリット社製のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド,「B-2」は日本カーリット社製のリチウムパークロライド,「B-3」は関東化学社製の1-ヘキシル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩,を示す。
架橋剤(C)における,「C-1」は三井武田ケミカル社製のイソシアネート架橋剤(タケネートD110N,トリメチロールプロパンキシリレンジイソシアネート),「C-2」は日本ポリウレタン工業社製のイソシアネート架橋剤(コロネートL,トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネートのアダクト体),「C-3」は日本油脂社製のベンゾイルパーオキサイド(ナイパーBMT),を示す。
シランカップリング剤(D)における「D-1」は信越化学工業社製のKBM403を示す。
その他の化合物(E)における「E-1」はカネカ社製のサイリルSAT10(数平均分子量4000),を示す。「E-2」はポリプロピレングルコール(数平均分子量5000),を示す。」

イ 前記ア(ア)で摘記した記載から,
液晶表示装置の製造時に粘着型偏光板を液晶セルに貼り付ける際に,粘着型偏光板の粘着剤層から離型フィルムを剥離すると静電気が発生し,当該静電気が液晶表示装置内部の液晶の配向に影響を与え,不良を招くことから,静電気の発生を抑えるために,粘着剤層を形成する粘着剤にイオン性化合物を配合する従来技術があったこと(【0003】),
前記従来技術の粘着型偏光板は,いずれも偏光子の両側に透明保護フィルム等の保護基材を有するものであるが,偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを設け,他の片側には粘着剤層を設けた粘着型偏光板(以下,便宜上「特定粘着型偏光板」という。)において,粘着剤層にイオン性化合物を含有させる場合,イオン性化合物の種類によっては,偏光子を劣化させ,加湿試験後に光学特性が大きく低下してしまうことがあるという問題があったこと(【0005】,【0006】),及び,
本件発明が解決しようとする課題が,「特定粘着型偏光板」における光学特性の低下を抑制することであること
が,理解される。
また,前記ア(イ)及び(ウ)で摘記した記載では,粘着剤層に含有させるイオン性化合物としてアルカリ金属塩(好ましくはリチウム塩)を用いることによって,偏光子の劣化を招くことなく,帯電防止機能を付与できること(すなわち,前記課題が解決できること)が分かったとされている。
そして,前記ア(オ)で摘記した記載には,「リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド」及び「リチウムパークロライド」(いずれもリチウム塩に該当する。)の一方のみを,(メタ)アクリル系ポリマー100重量部に対して0.002ないし4重量部含有し,他のイオン性化合物は含有しない粘着剤組成物によって粘着剤層を形成した実施例1ないし17の「特定粘着型偏光板」と,1-ヘキシル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩(リチウム塩には該当しない。)を(メタ)アクリル系ポリマー100重量部に対して0.02ないし0.2重量部含有し,他のイオン性化合物は含有しない粘着剤組成物によって粘着剤層を形成した比較例1ないし4の「特定粘着型偏光板」とが開示され,【0128】の【表1】に,60℃/95%RHの恒温恒湿機に500時間投入したときの偏光度の低下を表す「△P」が,実施例1ないし17では0.01ないし0.05の範囲にあるのに対して,比較例1ないし4では0.8ないし2.6の範囲にあることが示されている。当該各実施例及び各比較例に関する記載から,当業者は,「リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド」及び「リチウムパークロライド」(いずれもリチウム塩に該当する。以下,「リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド」及び「リチウムパークロライド」を総称して「特定リチウム塩」ということがある。)の一方のみを,(メタ)アクリル系ポリマー100重量部に対して4重量部程度以下の量含有し,他のイオン性化合物は含有しない粘着剤組成物によって形成された粘着剤層を有する「特定粘着型偏光板」は,前述した課題を解決できることを認識することができる。また,技術的に考えれば,当業者は,「特定リチウム塩」の双方を,合計で(メタ)アクリル系ポリマー100重量部に対して4重量部程度以下の量含有し,他のイオン性化合物は含有しない粘着剤組成物によって形成された粘着剤層を有する「特定粘着型偏光板」や,「特定リチウム塩」の一方又は双方と,「特定リチウム塩」以外のイオン性化合物とを含有し,「特定リチウム塩」の含有量が,「特定リチウム塩」以外のイオン性化合物による偏光度の低下を実質的に抑制することができるような量である粘着剤組成物によって形成された粘着剤層を有する「特定粘着型偏光板」については,前述した課題を解決できるであろうと類推することができると認められる。
しかしながら,前記ア(ア)ないし(オ)で摘記した記載を含め,本件明細書の発明の詳細な説明には,粘着剤層に含有させるイオン性化合物としてリチウム塩を用いることで,なぜ,偏光度の低下「△P」の低下が抑制されるのか,その作用機序を説明したり示唆したりする記載は,一切存在しない。また,当該作用機序が,本件出願の出願時の技術常識に基づいて当業者が理解できることであったとも認められない。そうすると,たとえ技術常識を考慮しても,「特定リチウム塩」以外のリチウム塩についてまで,偏光度の低下を抑制する作用を奏するものと当業者が認識することはできないというべきである。
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載や本件出願の出願時の技術常識から,発明の課題を解決できると当業者が認識できるのは,「特定リチウム塩」の一方のみ又は双方を,合計で(メタ)アクリル系ポリマー100重量部に対して4重量部程度以下の量含有し,他のイオン性化合物は含有しないか,他のイオン性化合物を含有するとしても,「特定リチウム塩」の含有量が,「特定リチウム塩」以外のイオン性化合物による偏光度の低下を実質的に抑制することができるような量である粘着剤組成物によって形成された粘着剤層を有する「特定粘着型偏光板」に止まり,「特定リチウム塩」以外のリチウム塩を含有し,「特定リチウム塩」はどちらも含有しない粘着剤組成物によって形成された粘着剤層を有する「特定粘着型偏光板」や,「特定リチウム塩」を含有するものであっても,その含有量がごくわずかであり,さらに,「特定リチウム塩」以外のイオン性化合物(例えば,各比較例で用いている「1-ヘキシル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩」)を,偏光度を大きく低下させるような量で含有する粘着剤組成物によって形成された粘着剤層を有する「特定粘着型偏光板」等については,これらの「特定粘着型偏光板」が発明の課題を解決できると当業者が認識することはできないと認められる。

(3)発明の詳細な説明に記載された発明と本件発明の対比
本件発明は,請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの「特定粘着型偏光板」であって,粘着剤組成物が含有するリチウム塩が「特定リチウム塩」であることは限定されていない。したがって,本件発明は,「特定リチウム塩」以外のリチウム塩を含有し,「特定リチウム塩」はどちらも含有しない粘着剤組成物によって形成された粘着剤層を有する「特定粘着型偏光板」を包含しているが,このような「特定粘着型偏光板」が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載や本件出願の出願時の技術常識から,発明の課題を解決できると当業者が認識することができるものでないことは,前記(2)で述べたとおりである。
また,本件発明では,粘着剤組成物が含有するイオン性化合物がリチウム塩のみであることは限定されておらず(つまり,リチウム塩とリチウム塩以外のイオン性化合物とを含有するものは排除されておらず),かつ,粘着剤組成物が含有するリチウム塩の含有量は,(メタ)アクリル系ポリマー(A)100重量部に対して0.0001?5重量部である。したがって,本件発明は,例えば,「特定リチウム塩」の一方のみ又は双方を,(メタ)アクリル系ポリマー(A)100重量部に対して0.0001重量部含有するとともに,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された各比較例で用いている「1-ヘキシル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩」を,(メタ)アクリル系ポリマー(A)100重量部に対して0.2重量部含有する粘着剤組成物によって形成された粘着剤層を有する「特定粘着型偏光板」を包含している。しかるに,このような「特定粘着型偏光板」は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された「比較例2」(偏光度の低下「△P」が2.6)において,「1-ヘキシル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩」の含有量の1/2000の量の「特定リチウム塩」を含有させるという変更を行ったものに該当するが,そのようなごくわずかの「特定リチウム塩」を含有させたからといって,「1-ヘキシル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩」を含有させたことによる偏光度の低下(「比較例2」では「△P」が2.6)を実質的に抑制できるとは,技術常識からは考えられないから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載や本件出願の出願時の技術常識から,発明の課題を解決できると当業者が認識することができるものでないといわざるを得ない。
したがって,本件発明は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなく,かつ,発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもないから,発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。

(4)小括
以上のとおりであるから,本件出願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件に適合しない。


5 当審拒絶理由2(引用文献2を主引例とする進歩性欠如)についての判断
(1) 引用例
ア 引用文献2
(ア)引用文献2の記載
当審拒絶理由2で引用された引用文献2(特開2010-197681号公報)は,本件出願の出願前である平成22年9月9日に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献2には次の記載がある。(下線部は,後述する「引用文献2発明」の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【技術分野】
【0001】
本発明は,偏光フィルムの一方の面に保護フィルムが積層され,もう一方の面に粘着剤層が積層されてなる粘着剤付き偏光板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は,液晶表示装置における偏光の供給素子として,また偏光の検出素子として,広く用いられている。かかる偏光板としては,従来,偏光フィルムの両面に保護フィルムを積層したものが一般に使用されているが,近年,液晶表示装置のノート型パーソナルコンピュータや携帯電話などのモバイル機器への展開,さらには大型テレビへの展開に伴い,薄肉軽量化が求められている。このため,保護フィルムを1枚省略し,偏光フィルムの一方の面のみに保護フィルムを積層したものが種々検討されている(例えば特許文献1,2参照)。
【0003】
偏光フィルムの一方の面のみに保護フィルムが積層されてなる偏光板は,その偏光フィルム側の面に粘着剤層を積層し,この粘着剤層の上に剥離フィルムを積層した状態で,製品として流通することが多く,液晶セルなどの部材に貼合する際に,剥離フィルムを剥がして使用されるが,カールが発生し易いという問題がある。ここで,カールには,保護フィルム側が凹面になり,粘着剤層側が凸面になる正カールと,保護フィルム側が凸面になり,粘着剤層側が凹面になる逆カールとがあり,逆カールが大きいと,液晶セルなどの部材に貼合する際に,粘着剤層と部材との間に気泡が生じ易くなる・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで,本発明の目的は,偏光フィルムの一方の面に保護フィルムが積層され,もう一方の面に粘着剤層が積層されてなる粘着剤付き偏光板であって,カールの発生が抑制された粘着剤付き偏光板を,生産性良く製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため,本発明は,偏光フィルムの一方の面に保護フィルムが積層されてなる偏光板に,粘着剤層の一方の面に剥離フィルムが積層されてなる剥離フィルム付き粘着剤を,その粘着剤層側の面が前記偏光板の偏光フィルム側の面と対向するように積層することにより,粘着剤付き偏光板を製造する方法であって,前記粘着剤層は,その含水率が,23℃,相対湿度55%における前記粘着剤層の飽和含水率に対する比の値で表して,1.0以上の状態にあることを特徴とする粘着剤付き偏光板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば,偏光フィルムの一方の面に保護フィルムが積層され,もう一方の面に粘着剤層が積層されてなる粘着剤付き偏光板であって,カールの発生が抑制された粘着剤付き偏光板を,生産性良く製造することができる。」

b 「【発明を実施するための形態】
【0009】
<偏光フィルム>
偏光フィルムとして,ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに一軸延伸及び二色性色素による染色処理を施して,その二色性色素を吸着配向させたものが好ましく用いられる。・・・(中略)・・・
【0010】
・・・(中略)・・・偏光フィルムの厚みは,通常5?50μmである。
・・・(中略)・・・
【0029】
<保護フィルム>
前記偏光フィルムの一方の面に,接着剤層を介して,保護フィルムが積層され,偏光板とされる。保護フィルムとしては,シクロオレフィン系樹脂フィルム,トリアセチルセルロース,ジアセチルセルロースのような酢酸セルロース系樹脂フィルム,ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート,ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂フィルム,ポリカーボネート系樹脂フィルム,アクリル系樹脂フィルム,ポリプロピレン系樹脂フィルムなど,当分野において従来より広く用いられてきているフィルムを挙げることができる。
・・・(中略)・・・
【0037】
<偏光フィルムと保護フィルムの貼合>
偏光フィルムと保護フィルムとは,例えば,ポリビニルアルコール系樹脂水溶液,水系二液型ウレタン系エマルジョン接着剤などを用いた水系接着剤層を介して貼合される。
・・・(中略)・・・
【0055】
<粘着剤層>
このようにして得られた偏光板は,その偏光フィルム側の面に粘着剤層が積層される。本発明では,この偏光板と粘着剤層との積層を,粘着剤層の一方の面に剥離フィルムが積層されてなる剥離フィルム付き粘着剤を用い,その粘着剤層側の面が偏光板の偏光フィルム側の面と対向するように積層することにより行う。
【0056】
粘着剤層を構成する粘着剤としては,透明性,耐候性,耐熱性などに優れるアクリル系樹脂をベースポリマーとした粘着剤が好適である。・・・(中略)・・・
【0057】
粘着剤には,架橋剤を含有させるのがよい。架橋剤としては,2価以上の金属イオンであって,カルボン酸金属塩を形成するもの,アミノ基を含む化合物であって,アミド結合を形成するもの,エポキシ基を含む化合物やヒドロキシル基を含む化合物であって,エステル結合を形成するもの,イソシアネート基を含む化合物であって,アミド結合を形成するもの,カルボキシル基を含む化合物であって,アミド結合やエステル結合を形成するものが例示される。特にイソシアネート基を含む化合物が有機系架橋剤として広く使用されている。
・・・(中略)・・・
【0062】
<粘着剤層の含水率調整>
そして,本発明では,偏光板と剥離フィルム付き粘着剤とを積層する際,粘着剤層の含水率が,当該粘着剤層の23℃,相対湿度55%における飽和含水率に対する比の値で表して,1.0以上,好ましくは1.5以上であるようにする。このように粘着剤層の水分率が所定値以上の状態にある剥離フィルム付き粘着剤を,偏光板の偏光フィルム側の面に積層することにより,カールの発生が抑制された粘着剤付き偏光板を生産性良く製造することができる。なお,粘着剤層の含水率の前記比の値は,通常5以下,好ましくは3以下である。
【0063】
粘着剤層の含水率を前記所定値以上として,剥離フィルム付き粘着剤を偏光板に積層する方法としては,例えば,粘着剤層の両側を剥離フィルムで保護してなる両面剥離フィルム付きシート状粘着剤のロールを,ロールごと23?45℃,相対湿度55?95%の槽内に3時間以上保持し,粘着剤層の含水率が前記所定値以上になるように調湿した後,当該両面剥離フィルム付きシート状粘着剤の片方の剥離フィルムを剥しながら,粘着剤層を偏光板にロール トゥ ロールで貼り合わせる方法や,シート状に切り出した両面剥離フィルム付きシート状粘着剤の片方の剥離フィルムを剥がして,同じくシート状の偏光板と枚葉で貼り合わせる方法が挙げられる。
【0064】
また,偏光板のロールと剥離フィルム付き粘着剤を貼り合わせる工程で,粘着剤層を調湿しながら,偏光板に貼り合わせてもよい。例えば,貼り合わせ前に,粘着剤層に水を噴霧する,又は粘着剤層を水に浸漬してから,偏光板に積層すればよい。粘着剤層を水に浸漬する方法としては,粘着層の両側を剥離フィルムで保護してなる両面剥離フィルム付きシート状粘着剤のロールを,ロールごと水槽に浸漬してもよいし,ロールから当該両面剥離フィルム付きシート状粘着剤を巻き出しながら,水槽の中に通過させてもよい。この時,剥離フィルムは粘着剤層の両側についていてもよいし,水槽を通過させる前に片方を剥離していてもよい。後者の方が,水分調整が容易であるため好ましい。」

c 「【実施例】
【0075】
以下,実施例により本発明をさらに詳細に説明するが,本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中,含有量ないし使用量を表す%及び部は,特記ないかぎり重量基準である。
・・・(中略)・・・
【0080】
(剥離フィルム付きシート状粘着剤(A)の作製)
アクリル酸ブチルとアクリル酸との共重合体にイソシアネート系架橋剤及び光散乱性を持たせるための微粒子を添加してなるアクリル系粘着剤(A)の有機溶剤溶液を,離型処理が施された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(剥離フィルム)の離型処理面に,ダイコーターにて乾燥後の厚みが15μmとなるように塗工してなる剥離フィルム付きシート状粘着剤。当該粘着剤の23℃における貯蔵弾性率は3.97MPaであり,当該剥離フィルム付きシート状粘着剤の粘着剤層の23℃,相対湿度55%で3時間保持することにより測定した飽和含水率は4.3%であった。
・・・(中略)・・・
【0084】
実施例1?8,比較例1?4
平均重合度約2,400,ケン化度99.9モル%以上で厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルムを,乾式で約5倍に一軸延伸し,さらに緊張状態を保ったまま,60℃の純水に1分間浸漬した後,ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.1/5/100の水溶液に28℃で60秒間浸漬した。その後,ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が810.5/7.5/100の水溶液に72℃で300秒間浸漬した。引き続き10℃の純水で5秒間洗浄した後,95℃で152秒乾燥して,ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向されてなる偏光フィルムを得た。
【0085】
別途,100部の水に,ポリビニルアルコール樹脂〔(株)クラレ製の“クラレポバール117H”〕3部,〔日本合成化学工業(株)製の“ゴーセファイマーZ-200”〕3部,塩化亜鉛〔ナカライテスク(株)より販売〕0.18部,グリオキサール〔ナカライテスク(株)より販売〕1.4部を溶解させて,ポリビニルアルコール系接着剤を調製した。
【0086】
先に得られた偏光フィルムの片面に,ケン化処理が施されたトリアセチルセルロースからなる厚さ40μmのフィルム(コニカミノルタオプト(株)製の“KC4UY”)を上記接着剤を介して,ニップロールにより貼合した。得られた偏光板の逆カール量を測定すると10mmであった。
【0087】
表1に示す剥離フィルム付きシート状粘着剤を,表1に示す温度及び相対湿度のオーブン中で3時間調湿し,ただちに,先に得られた偏光板の偏光フィルム側の面に貼り合わせ,粘着剤付き偏光板を得た。調湿後の粘着剤層の含水率と,その飽和含水率に対する比の値を表1に示した。また,得られた粘着剤付き偏光板の逆カール量を測定し,結果を表1に示した。
【0088】
【表1】



(イ)引用文献2に記載された発明
前記(ア)aないしcで摘記した記載から,引用文献2には,【0007】に記載された「課題を解決するための手段」を具備し,【0008】に記載された「発明の効果」を奏する実施例1の粘着剤付き偏光板に関する発明として,次の発明が記載されていると認められる。なお,調湿後の含水率/飽和含水率の値は,【0088】の【表1】に記載のものである。

「偏光フィルムの一方の面に保護フィルムが積層されてなる偏光板に,粘着剤層の一方の面に剥離フィルムが積層されてなる剥離フィルム付き粘着剤を,その粘着剤層側の面が前記偏光板の偏光フィルム側の面と対向するように積層されてなるとともに,前記粘着剤層の含水率が,23℃,相対湿度55%における前記粘着剤層の飽和含水率に対する比の値で表して,1.0以上の状態にあるように構成することによって,カールの発生を抑制した粘着剤付き偏光板であって,
前記剥離フィルム付き粘着剤として,アクリル酸ブチルとアクリル酸との共重合体にイソシアネート系架橋剤及び光散乱性を持たせるための微粒子を添加してなるアクリル系粘着剤(A)の有機溶剤溶液を,離型処理が施された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(剥離フィルム)の離型処理面に,ダイコーターにて乾燥後の厚みが15μmとなるように塗工してなる,前記飽和含水率が4.3%のものを用い,
前記偏光フィルムとして,平均重合度約2,400,ケン化度99.9モル%以上で厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルムを,乾式で約5倍に一軸延伸し,さらに緊張状態を保ったまま,60℃の純水に1分間浸漬した後,ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.1/5/100の水溶液に28℃で60秒間浸漬しその後,ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が810.5/7.5/100の水溶液に72℃で300秒間浸漬しき続き10℃の純水で5秒間洗浄した後,95℃で152秒乾燥して得られたものを用い,
前記剥離フィルム付きシート状粘着剤を温度23℃及び相対湿度55%のオーブン中で3時間調湿し,ただちに,前記偏光フィルム側の面に貼り合わせるという方法で製造することによって,前記粘着剤層の飽和含水率に対する含水率の比が1.0に調整されている,
粘着剤付き偏光板。」(以下,当該発明を「引用文献2発明」という。)

イ 周知の技術事項
(ア)特開2003-279748号公報の記載
当審拒絶理由2において周知例として例示された特開2003-279748号公報(以下,「周知例1-1」という。)は,本件出願の出願前である平成15年10月2日に頒布された刊行物であるところ,当該周知例1-1には次の記載がある。(下線は後述する「第1周知技術」の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【請求項1】 弾性率が3,500N/mm^(2)以下であることを特徴とする偏光フィルム。
【請求項2】 二色性物質が吸着された延伸フィルムを含む請求項1記載の偏光フィルム。
・・・(中略)・・・
【請求項8】 前記延伸フィルムの厚みが,20μm以下である請求項2?7のいずれか一項に記載の偏光フィルム。」

b 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,液晶表示装置(以下,「LCD」という)等の各種画像表示装置に使用する偏光フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】LCDは,広く,卓上電子計算機,電子時計,パーソナルコンピューター,ワードプロセッサ,自動車や機械の計器類等に使用されている。そして,近年においては,その需要が急激に増加しており,パネルの大型化,軽量化,薄型化等に対する要求がさらに強くなっている。
【0003】このようなLCDは,通常,液晶の配向変化を可視化させるために,偏光子と透明保護層の積層体である偏光板を備えており,この偏光板は,LCDの表示特性に非常に大きな影響を与えている(例えば,特許文献1および特許文献2)。」

c 「【0020】本発明における前記偏光子は,例えば,未延伸のフィルムを延伸することによって得られ,前記未延伸のフィルムの厚みが,50μm以下であることが好ましく,より好ましくは5?40μmの範囲であり,特に好ましくは5?35μmの範囲である。・・・(中略)・・・
【0021】そして,最終的に得られる前記偏光子の厚みは,例えば,20μm以下であることが好ましく,より好ましくは1?18μmであり,特に好ましくは,1?15μmの範囲である。・・・(中略)・・・
【0022】本発明において,前記偏光子の最終的な延伸倍率(合計)は,例えば,前記未延伸フィルムの厚みや,形成する偏光子の所望厚み等に応じて適宜決定できるが,その延伸方向(MD方向)において,前記未延伸フィルムに対して,3.0?7.0倍であることが好ましく,より好ましくは5.5倍?6.0倍である。」

c 「【0126】(実施例3)厚み40μmのPVAフィルム(重合度2,400,ケン化度99.9%)を,乾式延伸により長手方向に5倍延伸し,このフィルムを前記実施例1と同様に染色し,さらに,前記ホウ酸水溶液に浸漬して長手方向に1.2倍に延伸を行った。このフィルムを,表面の水分を取り除いた後,50℃で乾燥し,偏光子とした(厚み8μm)。前記偏光子を一度巻き芯に巻き取り,40℃で乾燥しながら,その両面に,前記粘着剤を介して,ポリオレフィン系の透明フィルム(厚み50μm)を貼り合わせ,偏光板を作製した。」

(イ)特開2001-350021号公報の記載
当審拒絶理由2において周知例として例示された特開2001-350021号公報(以下,「周知例1-2」という。)は,本件出願の出願前である平成13年12月21日に頒布された刊行物であるところ,当該周知例1-2には次の記載がある。
a 「【請求項1】ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする厚さ10μm 以下の偏光フィルムと,光学機能性のフィルム又はシートとが積層されていることを特徴とする薄型光学積層体。
・・・(中略)・・・
【請求項9】基材樹脂フィルムにポリビニルアルコール系樹脂を塗布する工程,得られる積層フィルムを,ポリビニルアルコール系樹脂層の厚さが10μm 以下となるように一軸延伸する工程,厚さが10μm 以下となったポリビニルアルコール系樹脂層の側に光学機能性のフィルム又はシートを貼り合わせる工程,及び該光学機能性のフィルム又はシートが貼り合された後に基材樹脂フィルムを剥離除去する工程を包含することを特徴とする薄型光学積層体の製造方法。」

b 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,光学用の薄型積層体及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】平面表示装置,特に液晶表示装置は,・・・(中略)・・・軽量薄肉化の要求もますます強くなってきているのが現状である。通常,液晶表示装置に用いられる光学用積層体は,偏光板と光学機能性のフィルム又はシートが積層されている。そのうちで通常,偏光板は,かかる積層体の厚みを大きくする要因の一つとなっている。
【0003】・・・(中略)・・・現在工業的に製造されている偏光フィルムの厚みは,15μm から30μm 程度であり,保護フィルムが貼合された後の偏光板の膜厚は,100μm から200μm にもなる。・・・(中略)・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】・・・(中略)・・・本発明の目的は,軽量薄肉化の要求に応え,偏光フィルム層を有し,薄肉で,しかも温度や湿度の変化によるカールなどの変形が小さい光学積層体を提供し,また従来とは異なる方法でこれを製造する方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は,ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする厚さ10μm以下の偏光フィルムと,光学機能性のフィルム又はシートとが積層されてなる薄型光学積層体を提供し,さらには,基材樹脂フィルムにポリビニルアルコール系樹脂を塗布する工程,得られる積層フィルムを,ポリビニルアルコール系樹脂層の厚さが10μm 以下となるように一軸延伸する工程,厚さが10μm 以下となったポリビニルアルコール系樹脂層の側に光学機能性のフィルム又はシートを貼り合わせる工程,及び光学機能性のフィルム又はシートが貼り合された後に基材樹脂フィルムを剥離除去する工程を包含する上記光学積層体の製造方法を提供するものである。」

c 「【0037】実施例1
帯電防止処理が施された厚さ250μm の非晶性ポリエチレンテレフタレートシートの表面をコロナ処理した。このコロナ処理面に,重合度2400,ケン化度99.9%以上の5重量%ポリビニルアルコール水溶液をバーコーターで塗工した後,50℃の熱風乾燥オーブンで5分間乾燥して,厚み5μm のポリビニルアルコール層を設けた。このシートに,テンター延伸機を用いて100℃で横一軸に5倍の延伸を施し,染色用ウェブとした。この染色用ウェブを25℃の純水に1分間浸漬した後,水100重量部あたりヨウ素を0.25重量部及びヨウ化カリウムを5重量部それぞれ含有する水溶液に,温度28℃で180秒間浸漬した。次いで,水100重量部あたりホウ酸を7.5重量部及びヨウ化カリウムを6重量部それぞれ含有するホウ酸水溶液に,温度40℃で300秒間浸漬した。その後,15℃の純水で2秒間洗浄した。水洗したフィルムを50℃で300秒間乾燥し,基材樹脂フィルム付き偏光フィルムを得た。このとき,基材樹脂フィルムを除いた偏光フィルムの膜厚は1μm であった。」

(ウ)周知例1-1及び1-2の記載から把握される周知の技術事項
前記(ア)及び(イ)で摘記した周知例1-1及び1-2の記載等から,次の技術事項が,本件出願の出願前に周知であったと認められる。

「厚みが10μm以下の偏光子を製造する技術。」(以下,「第1周知技術」という。)

(エ)特表2007-536427号公報の記載
当審拒絶理由2において周知例として例示された特表2007-536427号公報(以下,「周知例2-1」という。)は,本件出願の出願前である平成19年12月13日に頒布された刊行物であるところ,当該周知例2-1には次の記載がある。(下線部は,後述する「第2周知技術」の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【請求項1】
アクリル系粘着剤組成物において,
a) アクリル系共重合体100重量部;
b) 下記化学式1で表される一つ以上のエーテル結合を有するエステル系可塑剤0.01?20重量部;
c) アルカリ金属塩0.001?7重量部;及び
d) 多官能性架橋剤0.01?10重量部;
を含むことを特徴とする,アクリル系粘着剤組成物。」

b 「【技術分野】
【0001】
本発明は,帯電防止性能を有するアクリル系粘着剤組成物に関するもので,さらに詳細には,耐久信頼性などの主要特性に優れていると同時に,帯電防止性能を有するアクリル系粘着剤樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
・・・(中略)・・・
【0005】
特に,液晶表示装置の製造時,偏光板を付着する工程において,粘着剤層から離型フィルムを剥離してから静電気が発生するようになるが,このように発生した静電気は,液晶表示装置内部の液晶の配向に影響を与え,不良を招くようになる。
【0006】
このような静電気の発生は,偏光板の外面に帯電防止層を形成することにより抑えることができるが,その効果は微々たるもので,静電気発生を根本的に防止できないという問題点がある。したがって,静電気発生の根本的な位置で発生を抑えるためには,粘着剤に帯電防止機能が必要である。
【0007】
これを解決するために,一般に,電気的に導電性のある金属粉末や炭素粒子のような伝導性成分を有する物質を添加する方法,界面活性剤のようなイオン性物質を粘着剤に添加する方法が行われている。しかしながら,前記導電性粒子や炭素を添加する場合は,静電気防止性を付与するために多い量を添加しなければならないため,透明性を低下させることになる。また,後者の界面活性剤を添加する場合は,湿度に影響され易く,また粘着剤表面への移行性により,粘着物性を低下させるという短所がある。
・・・(中略)・・・
【0010】
したがって,相溶性に優れていながら,耐久信頼性などの物性を大きく変化させることなく,帯電防止性能に優れている粘着剤が強く要望されている。・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0011】・・・(中略)・・・
【0012】
本発明の目的は,耐久信頼性などの主要特性に優れていると同時に,帯電防止性能を有する偏光板用アクリル系粘着剤樹脂組成物に関するものである。」

c 「【0039】
前記アルカリ金属塩は,a)のアクリル共重合体100重量部に対し,0.001?7重量部含むことが好ましい。アルカリ金属塩の使用量が0.001重量部未満である場合は,エステル系可塑剤のエーテル結合と錯体を形成し難いため,帯電防止性能が低下して,7重量部以上である場合は,結晶化が発生し,透明性が低下するだけではなく,粘着耐久性が低下するという問題が生じる。
【0040】
前記アルカリ金属塩は,カチオンとアニオンとからなる。例えば,リチウム,ナトリウム,カリウム,マグネシウム,カルシウム,バリウム,セシウムなどのカチオンと,クロライド,ブロマイド,ヨウ化物,パークロレート(perchlorate),トリフルオロメタンスルホネート,ヘキサフルオロフォスフェート,四フッ化ホウ酸塩,カーボネートなどからなるアニオンとからそれぞれ選択される一種のイオン組み合わせによりなるアルカリ金属塩であって,これらは,単独または混合して使用することができる。」

d 「【0063】
[実施例1]
<アクリル系共重合体の製造>
・・・(中略)・・・
【0064】
<配合過程>
上記製造されたアクリル系共重合体100重量部に対して,架橋剤としてイソシアネート系トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物(TDI-1)0.5重量部,テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノアート5重量部,リチウムパークロレート4.0重量部を投入し,コーティング性を考慮して適正の濃度に希釈し,均一に混合した後,離型紙にコーティングして乾燥し,25ミクロンの均一な粘着層を得た。
【0065】
<合板過程>
上記製造された粘着層を185ミクロン厚のヨード系偏光板に粘着加工した。得られた偏光板を適切な大きさに切断して評価に使用して,その結果を表2に示した。
【0066】
[実施例2?4]
下記表1のように,実施例1の組成を基準に,各成分の一部を添加しないか部分添加して共重合する。また,粘着剤組成物の配合時,実施例1の組成を基準に,各成分の一部を添加しないか部分添加したことを除いては,前記実施例1と同様な方法により,アクリル系共重合体の製造,配合,合板過程を施した。その後,実施例1と同様の方法により,耐久信頼性,表面抵抗を評価して,その結果を表2に示した。
・・・(中略)・・・
【0070】
【表1】

【0071】
前記表1において,略語は,次のようである。
・・・(中略)・・・
LiClO_(4):リチウムパークロレート
LiSO_(3)CF_(3):リチウムトリフルオロメタンスルホネート
NaClO_(4): 過塩素酸ナトリウム
・・・(中略)・・・
【0072】
【表2】

【0073】
前記表2の結果から分かるように,本発明の実施例1?4は,比較例1?7に比べ,耐久信頼性に優れていると同時に帯電防止性能に優れている。」

(オ)特開2010-65217号公報の記載
当審拒絶理由2において周知例として例示された特開2010-65217号公報(以下,「周知例2-2」という。)は,本件出願の出願前である平成22年3月25日に頒布された刊行物であるところ,当該周知例2-2には次の記載がある。(下線部は,後述する「第2周知技術」の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【請求項1】
水酸基含有モノマーを15重量%以上含有する重合成分が重合してなるアクリル系樹脂(A)と,アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の少なくとも一方(B)を含有することを特徴とする光学部材用粘着剤樹脂組成物。」

b 「【技術分野】
【0001】
本発明は,液晶表示装置,有機EL表示装置,PDP等の画像表示装置に好適に用いられる光学フィルム(偏光フィルム,位相差フィルム,光学補償フィルム,輝度向上フィルム等)等,・・・(中略)・・・とりわけ粘着剤層付き偏光板に関するものである。・・・(中略)・・・
【背景技術】
【0002】・・・(中略)・・・
【0003】
そして,上記偏光板等の光学部材の表面に設けた粘着剤層には,傷や汚れを防止する目的でセパレーターが設けられたり,加工および搬送過程で生じる傷や汚れ等を防止する目的で表面保護フィルム等が設けられたりするが,液晶セル等に貼り合わせる際にはこれらセパレーターや表面保護フィルムは不要となり,剥離除去されることになる。このような光学部材からセパレーターや表面保護フィルムを剥離する際に静電気が発生することとなり,この静電気により,光学部材にゴミが付着したり,液晶配向の乱れによる異常表示が生じたり,周辺回路素子の静電破壊が起きたりする等の不具合が生じるという問題がある。
【0004】
また,上記の粘着剤層を設けた光学部材を液晶セルに貼り合わせる際に,異物混入や損傷,接着ミス等が生じた場合,剥離して再貼合することになるが,この剥離に際しても上記と同様,静電気が生じ不具合が生じることとなる。・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】・・・(中略)・・・
【0009】
本発明は,このような事情に鑑みなされたもので,帯電防止性能に優れ,さらには,高温,高湿の条件下においても,光学積層体,とりわけ偏光板とガラス基板との接着性に優れ,粘着剤層とガラス基板との間に発泡や剥離が生じないうえに,偏光フィルムの収縮により生じる光漏れ現象を防止することができる等の耐久性に優れた光学部材用粘着剤樹脂組成物および光学部材用粘着剤ならびにそれを用いて得られる粘着剤層付き光学部材の提供を目的とする。」

c 「【0044】
上記アクリル系樹脂(A)とともに用いられるアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の少なくとも一方(B)(以下,「帯電防止剤(B)」と記すことがある。)は,帯電防止剤としての作用を奏するものであるが,併せて耐久性の低下を招かないといった作用も奏するものである。
・・・(中略)・・・
【0047】
上記カチオンおよびアニオンを組み合わせて得られるアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の少なくとも一方(B)の中でも,帯電防止性能以外の物性を悪化させることなく帯電防止性能を付与できる点で,トリフルオロメタンスルホニルイミドリチウム,トリフルオロメタンスルホニルイミドカリウムを用いることが特に好ましい。
【0048】
上記アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の少なくとも一方(B)の含有量は,アクリル系樹脂(A)100重量部に対して,通常,0.001?20重量部に設定する。より好ましくは0.1?10重量部であり,特に好ましくは1?5重量部である。すなわち,アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の少なくとも一方(B)の含有量が少な過ぎると,充分な帯電防止能を付与することが困難となり,多過ぎると,耐久性が低下する傾向がみられるからである。」

d 「【実施例】
【0131】
以下,実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが,本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお,例中,「部」,「%」とあるのは,断りのない限り重量基準を意味する。
【0132】
まず,下記のようにして各種アクリル系樹脂を調製した。・・・(中略)・・・
【0134】
〔帯電防止剤(B-1)〕
過塩素酸リチウム
〔帯電防止剤(B-2)
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム[Li(CF_(3)SO_(2))_(2)N](森田化学社製)
〔帯電防止剤(B-3)
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドカリウム[K(CF_(3)SO_(2))_(2)N](森田化学社製)
〔帯電防止剤(B’-1)〕
MOI+ Br- :メタクリロイルオキシエチルオクチルイミダゾリウムブロマイド
・・・(中略)・・・
【0140】
〔実施例1?10,比較例1?5〕
上記のようにして調製,準備した各配合成分を,下記の表2に示す割合で配合することにより光学部材用粘着剤形成材料となる樹脂組成物を調製し,これを酢酸エチルにて塗工できる粘度〔1000?10000mPa・s(25℃)〕に希釈して光学部材用粘着剤樹脂組成物溶液を作製した。
【0141】
【表2】

【0142】
そして,上記樹脂組成物溶液を,ポリエステル系離型シートに,乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し,90℃で3分間乾燥した後,形成された樹脂組成物層側を偏光板(厚み190μm)上に転写し,フュージョン社製無電極ランプ[LH6UVランプのHバルブ(有効照射幅150mm×1列)]にてピーク照度:600mW/cm^(2) ,積算露光量:240mJ/cm^(2 )で紫外線照射を行ない,23℃×65%R.H.の条件下で14日間エージングさせて粘着剤層付き偏光板を得た。・・・(中略)・・・
【0144】
このようにして得られた粘着剤層付き偏光板,あるいは粘着剤層付きPETフィルムを用いて,その物性〔表面抵抗率,ゲル分率,耐久性(耐熱試験,耐湿熱試験),粘着力〕を下記に示す各方法に従って測定・評価した。これらの結果を後記の表3に併せて示す。
・・・(中略)・・・
【0151】
【表3】

【0152】
上記結果から,実施例は,表面抵抗率が低く帯電防止性能に優れるとともに,耐熱試験および耐湿熱試験のいずれの項目(発泡,剥離,耐熱試験のみ光漏れ)においても良好な評価結果が得られており,優れた耐久性を備えることは明らかである。しかも,粘着力に関しても問題のない充分満足のいく数値が得られた。
【0153】
さらに,帯電防止剤(B)として,フッ素原子およびスルホニル基を含有するイミド塩を用いた実施例6?10で,帯電防止性能と,耐熱試験・耐湿熱試験が高いレベルで両立できる点で非常に好ましい事も確認できる。」

(カ)特開2010-189489号公報の記載
当審拒絶理由2において周知例として例示された特開2010-189489号公報(以下,「周知例2-3」という。)は,本件出願の出願前である平成22年9月2日に頒布された刊行物であるところ,当該周知例2-3には次の記載がある。(下線部は,後述する「第2周知技術」の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【請求項1】
モノマー構成単位として1.0?15質量%の水酸基含有モノマーを有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A),モノマー構成単位としてカルボキシル基含有モノマーを有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B),リチウム塩(C),およびオキシアルキレン鎖の繰り返し単位が2?10であるアルキレングリコールジアルキルエーテル(D)を含有し,かつ,前記共重合体(B)のカルボキシル基含有モノマーが前記共重合体(A)の水酸基含有モノマーに対して当量比で0.3以上であることを特徴とする粘着剤組成物。」

b 「【技術分野】
【0001】
本発明は,帯電防止性を有する粘着剤組成物及び粘着シートに関する発明であり,より具体的には,特に液晶ディスプレイ等に使用される偏光板や位相差板に好適に適用される帯電防止性を有する粘着剤組成物及び粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶セルに偏光板や位相差板等の光学部材を積層して液晶ディスプレイを作製する場合,粘着剤層を介して貼合する方法が好ましく利用されている。このような方法を具体的に説明すると,例えば,光学部材上に粘着剤層を形成して粘着シートを為し,その粘着剤層の露出面側が液晶セルと接するように貼り合せるといった態様が挙げられる。また,前記態様の前段階として,粘着剤層が形成された光学部材からなる粘着シートを得る場合,剥離フィルム上に粘着剤層を形成して,その粘着剤層を光学部材上に転写するという態様も挙げられる。さらに,上記夫々の態様の粘着剤層の露出面は,ゴミ等の付着を防止する観点から他の被着体と貼合するまでは剥離フィルムによって保護する態様も挙げられる。
ここで,前記剥離フィルムや光学部材は,電気絶縁性の高いプラスチック材料により構成されていることが多い。そうすると,前記のとおり各態様において貼合や剥離の工程を伴い,その際に静電気が発生する。特に,剥離によって発生する静電気は,剥離帯電圧と称され大きく問題視されている。
このようにして発生した静電気によって帯電した粘着シートは,周囲のゴミを巻き込むといった問題が指摘されている。さらに,この際に発生した静電気が残ったままの状態で粘着シートを液晶セルに貼付すると,液晶分子の配向に乱れが生じるといった問題も指摘されている。また,上記のようにして生じた液晶分子の配向乱れを回復させることができる場合であっても,回復しない間は次の液晶ディスプレイ製造工程に進めず,製造工程の遅延をもたらすといった問題も指摘されている。このような問題は,特に,近年の液晶ディスプレイの大型化,駆動方式の改良に伴い,大きくクローズアップされるようになってきた。
これらの問題解決に当たり,静電気帯電防止対策として粘着剤層への帯電防止性付与が切望されており,具体的には,表面抵抗率が5×10^(10)Ω/□以下となる粘着剤層を形成する粘着剤組成物が求められている。・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況の下,本発明の目的は,表面抵抗率が5×10^(10)Ω/□以下という優れた帯電防止性を有するとともに十分な耐光漏れ性や耐久性を有する粘着剤層を形成するための粘着剤組成物,および該粘着剤組成物により形成された粘着剤層を有する粘着シートを提供することにある。
従来の帯電防止性を有する粘着シート類においては,表面抵抗率が5×10^(10)Ω/□以下という優れた帯電防止性を発現させるためには,多量の帯電防止剤の添加が必要となり,耐久性への悪影響が顕著になるため,帯電防止性と耐久性の両立が難しいという問題があった。」

c 「【0013】
次に,成分(C)であるリチウム塩について説明する。本発明においては,帯電防止性を付与するためにリチウム塩を含有させる。リチウム塩を構成するリチウムイオンは,各種金属イオンの中でも原子半径が小さく,形成される粘着剤層中を移動しやすく,帯電防止性を発揮させることに優れている。
リチウム塩としては,・・・(中略)・・・中でも粘着剤組成物との親和性の観点からLiCF_(3)SO_(3),Li(CF_(3)SO_(2))_(2)N,Li(CF_(3)SO_(2))_(3)Cが特に好ましい。
・・・(中略)・・・
リチウム塩(C)とアルキレングリコールジアルキルエーテル(D)の混合物は,共重合体(A)中に含有させておくことも可能であるし,共重合体(B)中に含有させておくこともできる。あるいは,共重合体(A)および(B)の混合時に添加することもできる。リチウム塩(C)とアルキレングリコールジアルキルエーテル(D)の合計の含有量は,共重合体(A)100質量部(固形分換算)に対して,1?30質量部が好ましく,より好ましくは2?20質量部,特に好ましくは3?15質量部である。リチウム塩(C)とアルキレングリコールジアルキルエーテル(D)の合計の含有量を1質量部以上とすることにより,帯電防止性が確保され,30質量部以下とすることにより,リチウム塩の析出を防止し,耐久性の低下及びブリードアウトによる汚染を防止する。」

d 「【実施例】
【0022】
次に,本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが,本発明は,これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0023】
<実施例1?11>及び<比較例1?4>
表1に示す配合組成(固形分換算)の粘着剤組成物を調製して以下の加工手順によりサンプルを調製した。
次いで,ポリエチレンテレフタレート製,厚さ38μmの剥離フィルム〔リンテック社製,『SP-PET3811』〕の剥離層上に粘着剤組成物〔トルエンを加えて固形分が20質量%になるように希釈〕を乾燥後の厚さが25μmになるようにナイフ式塗工機で塗布した。乾燥温度は90℃,乾燥時間は1分間とした。
その後ディスコティック液晶層(視野角拡大機能層)付偏光板を粘着剤とディスコティック液晶層が接するように貼合した。貼合から1時間以内に剥離フィルム側からUV照射を行って目的とする粘着剤層付き偏光板(以下,単に偏光板)のサンプルを得た。
・・・(中略)・・・
【0025】
【表1】

【0026】
表1の結果から明らかなように,実施例で得られた本発明の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シート(粘着剤層付き偏光板)は,比較例におけるそれより十分な耐久性を有しながら表面抵抗率が5×10^(10)Ω/□以下という優れた帯電防止性を有していることがわかる。さらに,共重合体(A)を構成する水酸基含有モノマーの割合を5質量%以上とした実施例5?11においては,耐久性を維持しながら,表面抵抗率が10^(9)Ω/□オーダーに達する非常に優れた帯電防止性を有していることがわかる。
【0027】
表1に記載の使用材料および使用した光重合開始剤は以下の通りである。
・・・(中略)・・・
(3)リチウム塩(C):Li(CF_(3)SO_(2))_(2)N
(4)アルキレングリコールジアルキルエーテル(D):テトラエチレングリコールジメチルエーテル」

(キ)特開2010-229342号公報の記載
当審拒絶理由2において周知例として例示された特開2010-229342号公報(以下,「周知例2-4」という。)は,本件出願の出願前である平成22年10月14日に頒布された刊行物であるところ,当該周知例2-4には次の記載がある。(下線部は,後述する「第2周知技術」の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【請求項1】
(A)アクリル系共重合体,(B)一分子中に,炭素数2?4のオキシアルキレン基を3?40個有するオキシアルキレン変性多官能(メタ)アクリレート系モノマー,及び(C)アルカリ金属塩を含む粘着性材料に,活性エネルギー線を照射してなる光学用粘着剤。
【請求項2】
(C)アルカリ金属塩がリチウム塩である請求項1に記載の光学用粘着剤。」

b 「【背景技術】
【0002】・・・(中略)・・・
【0003】・・・(中略)・・・このような偏光板を前記液晶セルに貼付する場合には,まず剥離シート4を剥がし,露出した粘着剤層3を介して液晶セルに貼付したのち,表面保護フィルム5を剥離する。
前記剥離シート4や表面保護フィルム5を剥離する場合,これらのシートやフィルム,及び偏光板はプラスチック材料により構成されているため,電気絶縁性が高く,静電気が発生する。この際に生じた静電気が残ったままの状態で液晶セルに貼合すると,液晶分子の配向に乱れが生じるおそれがある。このようにして生じた液晶分子の配向の乱れは,回復しないおそれもあり,また,回復する場合であっても液晶ディスプレイ製造工程にあっては,回復するまで次工程に進めず,製造工程の遅延をもたらす問題が指摘されている。また,静電気の存在は,埃や塵を吸引してしまうなどの問題を引き起こす。
【0004】
このような問題に対処するために,従来から剥離シートの基材に帯電防止剤を練り込むなどの対策がとられているが,このような対策だけでは充分な効果が得られず,粘着剤層にも帯電防止性能を付与することが求められている。・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は,このような状況下になされたもので,偏光板などの光学部材を被着体に積層する際に用いられる,帯電防止性能を有すると共に,良好な粘着力と再剥離性及び耐久性を備え,かつ透明性及び帯電防止剤のブリード防止性(非析出性)をも兼ね備えた光学用粘着剤,それを用いた光学用粘着シートと粘着剤付き光学部材を提供することを目的とするものである。」

c 「【0031】
((C)アルカリ金属塩)
当該粘着性材料においては,(C)成分として導電剤のアルカリ金属塩が用いられる。このアルカリ金属塩を構成するアルカリ金属カチオンとしては,Li^(+),Na^(+),K^(+)を挙げることができ,これらの中で,特にLi^(+)が帯電防止性能の点から,好適である。
一方,該アルカリ金属塩を構成するアニオンとしては,特に制限はないが,例えばF^(-),Cl^(-),Br^(-),I^(-),BF^(4-),PF^(6-),SCN^(-),ClO^(4-),CF_(3)SO_(3)^(-),(CF_(3)SO_(2))_(2)N^(-),(CF_(3)SO_(2))_(3)C^(-),RSO_(3-)(R:アリール基)などを好ましく挙げることができる。これらの中で性能の点から,特にClO_(4)^(-)が好適である。
この(C)成分として用いられるアルカリ金属塩の具体例としては・・・(中略)・・・これらの中でLi塩が好ましく,特にLiClO_(4)(過塩素酸リチウム)が好ましい。」

d 「【実施例】
【0047】
次に,本発明を実施例により,さらに詳細に説明するが,本発明は,これらの例によってなんら限定されるものではない。・・・(中略)・・・
【0052】
実施例1?6及び比較例1?4
第1表に示す組成(固形分換算)の粘着性材料を調製し,さらに溶媒としてトルエンを加えて固形分を20質量%に調整した塗工液を得た。該塗工液を用いて,剥離シートとしての厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート製剥離シート[リンテック社製,「SP-PET382050」]の剥離層上に,乾燥後の厚さが25μmになるように,ナイフ式塗工機で塗布したのち,90℃で1分間乾燥処理して粘着性材料層を形成した。
次いで,ディスコティック液晶層(視野角拡大機能層)付偏光フィルムからなる偏光板を,粘着性材料層とディスコティック液晶層が接するように貼合した。貼合してから30分後に剥離シート側から,紫外線(UV)を下記の条件で照射し,粘着剤付き偏光板を作製した。粘着剤層の厚さは25μmであった。
・・・(中略)・・・
粘着剤の性能,粘着剤付き偏光板の性能及びアルカリ金属塩の非析出性の評価結果を第2表に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

・・・(中略)・・・
【0056】
【表3】

【0057】
第1表及び第2表から以下のことが分かる。
実施例の粘着剤は,いずれも比較例のものに比べて表面抵抗率が低く,帯電防止性能に優れている。また,実施例の粘着剤は,貼付24時間後の粘着力が1.30?2.40N/25mmの範囲にあり,十分な粘着力を有すると共に,再剥離性も良好である。また,アルカリ金属塩の非析出性が良好である。さらに,実施例の粘着剤付き偏光フィルムは,いずれも耐久性及び光漏れ防止性が良好で,合格である。」

(ク)周知例2-1ないし2-4の記載から把握される周知の技術事項
前記(エ)ないし(キ)で摘記した周知例2-1ないし2-4の記載等からみて,次の技術事項が,本件出願の出願前に周知であったと認められる。

「液晶表示装置に用いる偏光板の貼り付けに使用される粘着剤層を,(メタ)アクリル系樹脂に対して,リチウム塩を帯電防止剤として機能する分量で含有するアクリル系粘着剤組成物により形成して,前記粘着剤層に帯電防止性を付与することで,
粘着剤層から離型フィルムを剥離するときに発生する静電気が,液晶表示装置内部の液晶の配向に影響を与え,不良を招くといった問題や,周辺回路素子の静電破壊を起こすといった問題が生じないようにする技術。」(以下,「第2周知技術」という。)

(ケ)特開2006-143858号公報の記載
特開2006-143858号公報(以下,「周知例3-1」という。)は,本件出願の出願前である平成18年6月8日に頒布された刊行物であるところ,当該周知例3-1には次の記載がある。(下線部は,後述する「第3周知技術」の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【請求項1】
モノマー単位として,炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルを50重量%以上および不飽和カルボン酸を0.2?10重量%含有する,重量平均分子量100万以上の(メタ)アクリル系ポリマー100重量部に対し,
脂肪族および/または脂環族イソシアネート系架橋剤0.01?5重量部,過酸化物0.02?2重量部,ならびにシランカップリング剤0.01?1重量部を含有してなることを特徴とする光学部材用粘着剤組成物。」

b 「【背景技術】
【0002】
液晶表示装置に用いる光学部材,たとえば偏光板や位相差板などは,液晶セルに粘着剤を用いて貼り付けられる。このような光学部材に用いられる光学材料は,加熱条件下や加湿条件下では伸縮が大きいため,貼り付け後には,それに伴う浮きや剥がれが生じやすい。そのため,光学部材用粘着剤には,前記条件下においても対応できる耐久性が要求される。
【0003】
また,前記光学部材を液晶セルに貼り付ける場合,光学部材に粘着剤が貼り合された状態で,打ち抜き加工やスリット加工のような各種加工処理がなされる。このような場合,粘着剤が切断刃に取られたり,切断面からはみ出したりする恐れがあるため,エージング処理する必要があり,生産性を著しく阻害していた。すなわち,粘着剤付光学部材が製造された後エージング処理なしにこのような加工処理が速やかにできることは,生産性の面で非常に有利である。
【0004】
さらに,長期の使用や加熱処理工程などにより粘着剤が着色しないことも要求される。
【0005】
光学部材貼り付け用の粘着剤としては,その耐久性や透明性などの利点のためにアクリル系粘着剤が一般的に使用され,適度の凝集力を与えるために架橋処理が施されるのが通常である。このようなアクリル系粘着剤の架橋方法としては,各種架橋剤が選択されて使用されており,アクリルポリマーの官能基と架橋方法の総説が公表されている(たとえば,非特許文献1参照)。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
・・・(中略)・・・
【0016】
そこで本発明は,光学部材を画像表示装置に貼付けた後,光学部材を剥がして画像表示装置を再利用する場合でも大幅な接着力の増大や被着体への汚染が見られず,高温高湿に保存されても剥がれや浮きが発生しない耐久性に優れ,かつ,粘着剤付光学部材が製造された後,速やかに打ち抜き加工処理ができる生産性に優れるとともに,長期の保存や加熱状態,高温処理においても着色のない透明性に優れた粘着剤組成物を提供することを目的とする。」

c 「【0020】
本発明によると,実施例の結果に示すように,重量平均分子量が100万以上である,特定の不飽和カルボン酸のモノマー単位の組成からなる(メタ)アクリル系ポリマー,特定のイソシアネート系架橋剤,ならびに,特定量の過酸化物およびシランカップリング剤を含む光学部材用粘着剤組成物を用いた粘着剤付光学部材は,長期の過酷な状態に保存された場合,または高温・高湿条件下で保存された場合にも,容易に液晶セルから剥離でき,特に大型の液晶セルでも剥離が容易であり,液晶セルなどを損傷させたりすることなく,耐久性に優れ,優れた生産性(打ち抜き加工性)と,長期の透明性・非着色性を有するものとなる。
【0021】
上記光学部材用粘着剤組成物が,かかる特性を発現する理由の詳細は明らかではないが,上記(メタ)アクリル系ポリマーを,特定量の脂肪族および/または脂環族イソシアネート系架橋剤および過酸化物により架橋することにより,白化(たとえば,特許文献4参照)および過酸化物による着色を生じることなく速やかに架橋形成を行うことができ,その結果,再剥離性,耐久性,長期の透明性・非着色性,打ち抜き加工性を並立できると推測される。」

d 「【実施例】
【0165】
以下,本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない。・・・(中略)・・・
【0190】
〔実施例1〕
(光学部材用粘着剤溶液の調製)
上記アクリル系ポリマー(A)溶液の固形分100重量部に,シランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.1重量部,架橋剤としてイソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(三井武田ケミカル社製,タケネートD-140N)0.5重量部,およびジベンゾイルパーオキシド(1分間半減期温度:130.0℃)0.1重量部を加えて均一に混合撹拌し,アクリル系粘着剤溶液(1)を調製した。
【0191】
(粘着剤付光学部材の作製)
上記アクリル系粘着剤溶液(1)を,シリコーン処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製,厚さ:38μm)の片面に塗布し,130℃で3分間(理論計算により算出される過酸化物の分解量は約88重量%)加熱して,乾燥後の厚さが25μmの粘着剤層を形成した。
【0192】
次いで,ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を含浸させ,延伸した後に,両側に接着剤を介してトリアセチルセルロースフィルムを接着して作製した偏光フィルムの表面に,上記粘着剤層を転写し,粘着剤付光学部材を作製した。なお,上記粘着剤層のゲル分率は76重量%であった。
・・・(中略)・・・
【0210】
上記方法に従い,作製した粘着剤付光学部材の接着力の測定(初期剥離接着力,および70℃加熱処理後の剥離接着力),ならびに耐久性,加工性,および着色性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0211】
【表1】

上記表1の結果より,本発明によって作製された粘着剤付光学部材を用いた場合(実施例1?5),いずれの実施例においても,70℃加熱処理後の剥離接着力の増加が小さく液晶セルに貼り付けた際の剥離接着力の増加がほとんどなく,被着体の汚染もなく再剥離性に優れていることがわかる。また,長期の高温高湿処理後の耐久性(剥がれや発泡が発生しない)を有し,塗布,乾燥,架橋,転写の工程を経た後にエージング処理などを必要とすることなく,打ち抜き加工性にすぐれるとともに,粘着剤層の着色もみられないことが明らかとなった。」

(コ)特開2007-112839号公報の記載
特開2007-112839号公報(以下,「周知例3-2」という。)は,本件出願の出願前である平成19年5月10日に頒布された刊行物であるところ,当該周知例3-2には次の記載がある。(下線部は,後述する「第3周知技術」の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【請求項1】
モノマー単位として,一般式CH_(2)=C(R_(1))COOR_(2)(ただし,R_(1)は水素またはメチル基,R_(2)は炭素数2?14のアルキル基である)で表される(メタ)アクリル系モノマー50?98重量%含有する(メタ)アクリル系ポリマー100重量部に対し,
過酸化物0.02?2重量部,イソシアネート系架橋剤0.02?2重量部,および軟化点が80℃以上である粘着付与樹脂1?40重量部含有してなることを特徴とする粘着剤組成物。」

b 「【背景技術】
【0002】
一般に,液晶ディスプレイは,液晶層の着色による補償や視野角による位相差の変化を補償するために位相差フィルムを積層することが通常である。このような光学材料は,高熱や高湿度下条件では伸縮が大きく,それに伴うズレや浮きや剥がれが生じやすくなり,粘着剤にはこれに対応できる耐久性が要求される。
【0003】
近年,液晶ディスプレイの薄型化は進んでおり,更なる薄型化のためにはこれらの位相差フィルム等を積層する際の粘着剤厚みを薄くする必要があるが,厚みを薄くすると上記のような耐久性を満足することはできない。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで本発明は,上述の問題に対処すべく,架橋処理後に優れた粘着特性を発揮し,特に粘着剤層を薄層化した場合であっても,加熱処理や高湿処理により浮きや剥がれの生じない,耐久性に優れた粘着剤組成物を提供することを目的とする。」

c 「【0018】
本発明によると,実施例の結果に示すように,特定のモノマー組成を有する(メタ)アクリル系ポリマー,特定量のイソシアネート系架橋剤,過酸化物,および特定の粘着付与樹脂を含む粘着剤組成物を架橋することにより,特に薄層化した場合であっても,加熱処理や高湿処理により浮きや剥がれの生じない,耐久性に優れた粘着剤層となる。
【0019】
上記粘着剤組成物が,かかる特性を発現する理由の詳細は明らかではないが,上記(メタ)アクリル系ポリマーを,特定量のイソシアネート系架橋剤および過酸化物により架橋することにより,上記(メタ)アクリル系ポリマーには過酸化物による架橋(過酸化物架橋)と,イソシアネート架橋剤による架橋(イソシアネート架橋)に両方が存在する構造になる。この際,過酸化物架橋やイソシアネート架橋の単独では上記の特性は十分に発現されない。これは,過酸化物による緩和性に優れる主鎖架橋(過酸化物架橋)と,イソシアネート架橋剤による強固なウレタン結合(イソシアネート架橋)がバランスよく並存するによって,十分な凝集力と粘着剤に加わる応力を緩和できる挙動を示すものと推測される。また,さらに粘着付与樹脂が存在するため,接着性をより向上させたものとなる。そのため,特に粘着剤層を薄層化した場合であっても,加熱処理や高湿処理により浮きや剥がれの生じない,耐久性に優れたものとなると推測される。」

d 「【実施例】
【0200】
以下,本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。・・・(中略)・・・
【0210】
〔実施例1〕
(粘着剤層(B)付位相差フィルムの作製)・・・(中略)・・・
【0213】
(粘着剤層(A1)付偏光板の作製)
上記アクリル系ポリマー(a1)溶液の固形分100重量部に対して,架橋剤としてジベンゾイルパーオキシド(1分間半減期:130℃)0.15重量部,トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物からなるポリイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業社製,コロネートL)0.6重量部,およびスチレン系樹脂(イーストマンケミカル社製,クリスタレック3085,軟化点:85℃,粘着付与樹脂1)30重量部を配合したアクリル系粘着剤溶液(1)を調整した。
【0214】
次いで,上記アクリル系粘着剤溶液(1)を,シリコーン処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱化学ポリエステルフィルム社製,厚さ:38μm)の片面に塗布し,150℃で3分間乾燥・架橋処理をおこない,乾燥後の厚さが5μmの粘着剤層(A1)を形成した。なお,このときの粘着剤層(A1)のゲル分率は74重量%,乾燥後の過酸化物の分解量は87重量%であった。
【0215】
上記粘着剤層(A1)を偏光板(日東電工社製,SEG5224DU)に転写し,粘着剤層(A1)付偏光板を作製した。
【0216】
(積層サンプルの作製)
上記粘着剤層(A1)付偏光板の粘着剤層面を,上記粘着剤層(B)付位相差フィルムの粘着剤層(B)と反対の面にラミネートし,偏光板と位相差フィルムの積層サンプルを作製した。
・・・(中略)・・・
【0259】
上記方法にしたがい,作製した積層サンプルの耐久性の評価(耐熱試験,耐湿試験)および接着力の測定を行った。得られた結果を表1に示す。
【0260】
【表1】

【0261】
上記表1の結果より,本発明によって作製された積層サンプルを用いた場合(実施例1?7),いずれの実施例においても,粘着剤層が薄い場合であっても,耐熱試験および耐湿試験のいずれにおいても浮きや剥がれが生じることがなく,加熱処理や高湿処理に対する耐久性に優れることがわかる。」

(サ)特開2007-138147号公報の記載
特開2007-138147号公報(以下,「周知例3-3」という。)は,本件出願の出願前である平成19年6月7日に頒布された刊行物であるところ,当該周知例3-3には次の記載がある。(下線部は,後述する「第3周知技術」の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【請求項1】
モノマー単位として,一般式CH_(2)=C(R_(1))COOR_(2)(ただし,R_(1)は水素またはメチル基,R_(2)は炭素数2?14のアルキル基である)で表される(メタ)アクリル系モノマー50?98重量%,および窒素含有モノマー0.1?35重量%含有する(メタ)アクリル系ポリマー100重量部に対し,
過酸化物0.02?2重量部,およびイソシアネート系架橋剤0.02?2重量部含有してなることを特徴とする粘着剤組成物。」

b 「【背景技術】
【0002】
一般に,液晶ディスプレイは,液晶層の着色による補償や視野角による位相差の変化を補償するために位相差フィルムを積層することが通常である。このような光学材料は,高熱や高湿度下条件では伸縮が大きく,それに伴うズレや浮きや剥がれが生じやすくなり,粘着剤にはこれに対応できる耐久性が要求される。
【0003】
近年,液晶ディスプレイの薄型化は進んでおり,更なる薄型化のためにはこれらの位相差フィルム等を積層する際の粘着剤厚みを薄くする必要があるが,厚みを薄くすると上記のような耐久性を満足することはできない。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで本発明は,上述の問題に対処すべく,架橋処理後に優れた粘着特性を発揮し,特に粘着剤層を薄層化した場合であっても,加熱処理や高湿処理により浮きや剥がれの生じない,耐久性に優れた粘着剤組成物を提供することを目的とする。」

c 「【0018】
本発明によると,実施例の結果に示すように,特定のモノマー組成を有する(メタ)アクリル系ポリマー,特定量のイソシアネート系架橋剤および過酸化物を含む粘着剤組成物を架橋することにより,特に薄層化した場合であっても,加熱処理や高湿処理により浮きや剥がれの生じない,耐久性に優れた粘着剤層となる。
【0019】
上記粘着剤組成物が,かかる特性を発現する理由の詳細は明らかではないが,上記(メタ)アクリル系ポリマーを,特定量のイソシアネート系架橋剤および過酸化物により架橋することにより,上記(メタ)アクリル系ポリマーには過酸化物による架橋(過酸化物架橋)と,イソシアネート架橋剤による架橋(イソシアネート架橋)に両方が存在する構造になる。この際,過酸化物架橋やイソシアネート架橋の単独では上記の特性は十分に発現されない。これは,過酸化物による緩和性に優れる主鎖架橋(過酸化物架橋)と,イソシアネート架橋剤による強固なウレタン結合(イソシアネート架橋)がバランスよく並存するによって,十分な凝集力と粘着剤に加わる応力を緩和できる挙動を示すものと推測される。そのため,特に粘着剤層を薄層化した場合であっても,加熱処理や高湿処理により浮きや剥がれの生じない,耐久性に優れたものとなると推測される。」

d 「【実施例】
【0171】
以下,本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。・・・(中略)・・・
【0187】
〔実施例1〕
(粘着剤層(B)付位相差フィルムの作製)
・・・(中略)・・・
【0190】
(粘着剤層(A1)付偏光板の作製)
上記アクリル系ポリマー(a1)溶液の固形分100重量部に対して,架橋剤としてジベンゾイルパーオキシド(1分間半減期:130℃)0.15重量部,およびトリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物からなるポリイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業社製,コロネートL)0.6重量部を配合したアクリル系粘着剤溶液(1)を調整した。
【0191】
次いで,上記アクリル系粘着剤溶液(1)を,シリコーン処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱化学ポリエステルフィルム社製,厚さ:38μm)の片面に塗布し,150℃で3分間乾燥・架橋処理をおこない,乾燥後の厚さが5μmの粘着剤層(A1)を形成した。なお,このときの粘着剤層(A1)のゲル分率は80重量%,乾燥後の過酸化物の分解量は88重量%であった。
【0192】
上記粘着剤層(A1)を偏光板(日東電工社製,SEG5224DU)に転写し,粘着剤層(A1)付偏光板を作製した。
【0193】
(積層サンプルの作製)
上記粘着剤層(A1)付偏光板の粘着剤層面を,上記粘着剤層(B)付位相差フィルムの粘着剤層(B)と反対の面にラミネートし,偏光板と位相差フィルムの積層サンプルを作製した。
・・・(中略)・・・
【0236】
上記方法にしたがい,作製した積層サンプルの耐久性の評価(耐熱試験,耐湿試験)および接着力の測定を行った。得られた結果を表1に示す。
【0237】
【表1】

【0238】
上記表1の結果より,本発明によって作製された積層サンプルを用いた場合(実施例1?6),いずれの実施例においても,粘着剤層が薄い場合であっても,耐熱試験および耐湿試験のいずれにおいても浮きや剥がれが生じることがなく,加熱処理や高湿処理に対する耐久性に優れることがわかる。」

(シ)特開2008-189838号公報の記載
特開2008-189838号公報(以下,「周知例3-4」という。)は,本件出願の出願前である平成20年8月21日に頒布された刊行物であるところ,当該周知例3-4には次の記載がある。(下線部は,後述する「第3周知技術」の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【請求項1】
粘着剤組成物を過酸化物架橋処理して得られる光学部材用粘着剤層であって,
前記粘着剤組成物が,ガラス転移温度が-45℃以下でありかつ重量平均分子量が100万以上である(メタ)アクリル系ポリマー100重量部に対し,
過酸化物0.02?2重量部,イソシアネート系架橋剤0.01?2重量部,ならびに,ガラス転移温度が20?150℃であり,かつ,数平均分子量が300?7000である水素化粘着付与樹脂および/またはビニル系ポリマー1?100重量部含有するものであって,かつ,
前記粘着剤層の動的粘弾性測定(基準温度20℃)における1000(rad/sec)における貯蔵弾性率(G’)が130000?350000Paであることを特徴とする光学部材用粘着剤層。」

b 「【背景技術】
【0003】・・・(中略)・・・
【0004】
これら液晶表示装置等に用いる光学部材,たとえば偏光板や位相差板などは,液晶セルに粘着剤を用いて貼り付けられる。このような光学部材に用いられる材料は,加熱条件下や加湿条件下では伸縮が大きいため,貼り付け後には,それに伴う浮きや剥がれが生じやすい。そのため,光学部材用粘着剤には,加熱条件や加湿条件下においても対応できる耐久性が要求される。
【0005】
また,また,液晶表示装置に使用されている光学部材は,片面に粘着剤がついており,このような粘着剤付き光学部材は,ロール状で作製し,所定のサイズに打ち抜き加工処理がなされるため,粘着剤が切断刃に取られたり,切断面からはみ出したりする恐れがないような加工性も要求されている。
【0006】
光学部材貼り付け用の粘着剤としては,その耐久性や透明性などの利点のためにアクリル系粘着剤が一般的に使用され,適度の凝集力を与えるために,架橋処理が施されるのが通常である。このようなアクリル系粘着剤の架橋方法としては,各種架橋剤が選択されて使用されており,アクリルポリマーの官能基と架橋方法の総説が公表されている(たとえば,非特許文献1参照)。
・・・(中略)・・・
【0012】
上述したように,加熱条件下や加湿条件下で伸縮する光学フィルムにおいて,その光学特性自体にゆがみが生じないような,またあるいは液晶セルに対してゆがみを生じさせないような,光学フィルの変形に伴う応力を緩和することが,光学部材用粘着剤に要求されるようになってきている。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
そこで本発明は,長期の過酷条件下に対する,耐久性,光学部材(偏光板,液晶セル(ガラス)など)の寸法変化(液晶セル(ガラス)の反り)に起因する応力の緩和性,ならびに加工性に優れる光学部材用粘着剤層およびその製造方法を提供することを目的とする。」

c 「【0027】
本発明によると,実施例の結果に示すように,上述のように,特定量のイソシアネート系架橋剤,過酸化物,および特定の粘着付与樹脂および/またはビニル系ポリマーを含むアクリル系粘着剤組成物を,動的粘弾性測定(基準温度20℃)における1000(rad/sec)における貯蔵弾性率(G’)が上述の範囲内となるように架橋することにより,再剥離性,切断加工性(加工性)に優れ,長期の渦酷な状態に保存された場合,または高温・高湿条件下で保存された場合にも,耐久性に優れ,光学部材などの寸法変化に起因する応力の緩和性,特に大型の液晶セルでも反りを生じることなく,画面の均一性に優れに優れたものとなる。
【0028】
上記粘着剤層が,かかる特性を発現する理由の詳細は明らかではないが,上記(メタ)アクリル系ポリマーを,特定量のイソシアネート系架橋剤および過酸化物により架橋することにより,上記(メタ)アクリル系ポリマーには過酸化物による架橋(過酸化物架橋)が存在する構造になり,十分な凝集力と粘着剤に加わる応力を緩和できる挙動を示すものと推測される。また,さらに特定の粘着付与樹脂および/またはビニル系ポリマーが存在するため,接着性や色ムラ等の耐久性をより向上させたものとなる。そのため,長期の過酷条件下に対する,耐久性,応力の緩和性,ならびに加工性に優れたものとなると推測される。」

d 「【実施例】
【0212】
以下,本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。・・・(中略)・・・
【0234】
〔実施例1〕
(光学部材用粘着剤溶液の調製)
上記アクリル系ポリマー(A)溶液の固形分100重量部に対して,クリスタレックス3085(イーストマンケミカル社製,スチレンとα-メチルスチレンの共重合体,Tg:41℃,数平均分子量(Mn):604)10重量部,過酸化物としてジベンゾイルパーオキシド(和光純薬社製,1分間半減期:130℃)0.25重量部,イソシアネート系架橋剤としてヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(三井武田ケミカル社製,D160N)0.5重量部,およびシランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製,KBM403)0.08重量部を配合し,均一に混合撹拌してアクリル系粘着剤溶液(1)を調整した。
【0235】
(粘着剤付光学部材の作製)
上記アクリル系粘着剤溶液(1)を,シリコーン処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製,厚さ:38μm)の片面に塗布し,130℃で3分間乾燥をおこない,乾燥後の厚さが25μmの粘着剤層を形成した。ここで,理論計算により算出される過酸化物の分解量は約88重量%であった。次いで,偏光板の表面に上記粘着剤層を転写し,粘着剤付光学部材を作製した。なお,上記粘着剤層のゲル分率は68重量%であった。
・・・(中略)・・・
【0258】
上記方法にしたがい,作製した粘着剤付光学部材の加工性,耐久性,応力緩和性(ガラス板の反り),および色ムラの評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0259】
【表1】

【0260】
上記表1の結果より,本発明によって作製された粘着剤付光学部材を用いた場合(実施例1?8),いずれの実施例においても,長期の過酷試験に対しても,光学部材の寸法変化に起因する応力の緩和性および優れた耐久性を有しており,特に偏光板の色ムラもなく,さらには加工性にも優れることがわかった。」

(ス)周知例3-1ないし3-4の記載から把握される周知の技術事項
前記(ケ)ないし(シ)で摘記した周知例3-1ないし3-4の記載等から,次の技術事項が,本件出願の出願前に周知であったと認められる。

「液晶表示装置に用いられる偏光板等の光学部材に用いられる材料は,加熱条件下や加湿条件下では伸縮が大きいため,このような光学部材用の粘着剤には,加熱条件や加湿条件下においても対応できる耐久性が要求されるところ,
粘着剤層を形成する粘着剤組成物として,(メタ)アクリル系ポリマーを含有するとともに,架橋剤としてイソシアネート系架橋剤と過酸化物とを含有するアクリル系粘着剤組成物を用いることによって,加熱処理や高湿処理によっても浮きや剥がれが生じない,耐久性に優れた粘着剤層とする技術。」(以下,「第3周知技術」という。)

(2)対比
ア 技術的にみて,引用文献2発明の「偏光板」,「粘着剤層」,「粘着剤付き偏光板」,「偏光フィルム」,「保護フィルム」,「イソシアネート系架橋剤」,「アクリル酸ブチルとアクリル酸との共重合体」及び「アクリル系粘着剤(A)」は,本件発明の「偏光板」,「粘着剤層」,「粘着型偏光板」,「偏光子」,「透明保護フィルム」,「架橋剤」,「(メタ)アクリル系ポリマー(A)」及び「粘着剤組成物」にそれぞれ対応する。

イ 引用文献2発明の「保護フィルム」が透明であることは,技術常識からみて自明である。
しかるに,引用文献2発明は,「偏光フィルム」(本件発明の「偏光子」に対応する。以下,「(2)対比」欄において,「」で囲まれた引用文献2発明の構成に付した()中の文言は,当該引用文献2発明の構成に対応する本件発明の発明特定事項を表す。)の一方の面に透明な「保護フィルム」(透明保護フィルム)が積層されてなる「偏光板」(偏光板)に,「粘着剤層」(粘着剤層)の一方の面に剥離フィルムが積層されてなる剥離フィルム付き粘着剤を,その粘着剤層側の面が前記「偏光板」(偏光板)の偏光フィルム側の面と対向するように積層されてなる「粘着剤付き偏光板」(粘着型偏光板)であるから,引用文献2発明は,本件発明と,「偏光板と,当該偏光板に設けられた粘着剤層を有する粘着型偏光板」である点で一致し,引用文献2発明の「偏光板」は,本件発明の「偏光板」と,「偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有し,前記粘着剤層は,前記透明保護フィルムを有しない側の偏光子に設けられて」いる点で,共通する。
また,引用文献2発明の「偏光フィルム」は,その製造方法からみて,厚みが10μmを越えていることは明らかであるから,「厚みが10μm以下」との本件発明の「偏光子」に係る発明特定事項に相当する構成は具備していない。

ウ 引用文献2発明の「アクリル酸ブチルとアクリル酸との共重合体」がポリマーであることは,技術常識からみて自明である。
しかるに,引用文献2発明の「粘着剤層」は,「アクリル酸ブチルとアクリル酸との共重合体」((メタ)アクリル系ポリマー(A))に「イソシアネート系架橋剤」(架橋剤)及び光散乱性を持たせるための微粒子を添加してなる「アクリル系粘着剤(A)」(粘着剤組成物)から形成されたものであるところ,「イソシアネート系架橋剤」とは,引用文献2の【0057】の表現を用いると,「イソシアネート基を含む化合物」のことであり,「イソシアネート系化合物」にほかならないから,引用文献2発明の「粘着剤層」は,本件発明の「粘着剤層」と,「架橋剤,(メタ)アクリル系ポリマー(A)を含有する粘着剤組成物から形成されたものであ」り,「前記架橋剤として,イソシアネート系化合物を含有する」点で共通する。

エ 前記アないしウに照らせば,本件発明と引用文献2発明は,
「偏光板と,当該偏光板に設けられた粘着剤層を有する粘着型偏光板であって,
前記偏光板は,偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有し,前記粘着剤層は,前記透明保護フィルムを有しない側の偏光子に設けられており,かつ
前記粘着剤層は,架橋剤,(メタ)アクリル系ポリマー(A)を含有する粘着剤組成物から形成されたものであり,
前記架橋剤として,イソシアネート系化合物を含有する粘着型偏光板。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1-1:
本件発明では,「偏光子」の厚みが10μm以下であるのに対して,
引用文献2発明では,「偏光フィルム」の厚みが10μmを越えている点。

相違点1-2:
本件発明の「粘着剤組成物」は,アルカリ金属塩(B)を含有し,当該アルカリ金属塩(B)が,リチウム塩であり,その含有量が,(メタ)アクリル系ポリマー(A)100重量部に対して0.0001?5重量部であるのに対して,
引用文献2発明の「アクリル系粘着剤(A)」は,アルカリ金属塩を含有しない点。

相違点1-3:
本件発明の「粘着剤組成物」に含有される架橋剤が,「イソシアネート系化合物」以外に過酸化物をも含有するのに対して,
引用文献2発明の「アクリル系粘着剤(A)」に含有される架橋剤は,「イソシアネート系架橋剤」のみであって,過酸化物を含有していない点。

(3)相違点1-1について
引用文献2の【0002】等の記載からみて,引用文献2発明の「粘着剤付き偏光板」は,液晶表示装置に用いることが予定されたものであって,液晶表示装置の薄肉軽量化のために,偏光フィルムの一方の面のみに保護フィルムを設けるという構成を採用したものといえる。
しかるに,保護フィルムの枚数ばかりでなく,偏光フィルムの厚みを薄いものとすれば,粘着剤付き偏光板の厚みをさらに薄くすることができ,これを用いた液晶表示装置のさらなる薄肉軽量化が実現できることは,当業者がただちに理解できることである。
そして,引用文献2の【0010】には,偏光フィルムの厚みが通常5?50μmであることが記載され,前記(1)イ(ウ)で認定したように,厚みが10μm以下の偏光子を製造する技術(第1周知技術)が本件出願の出願前に周知であったと認められるところ,引用文献2発明において,これを用いた液晶表示装置のさらなる薄肉軽量化を図るために,前記第1周知技術を用いて,偏光フィルムの厚みを5ないし10μm以下の範囲内の値にすること,すなわち,相違点1-1に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備させることは,当業者が適宜行う設計変更にすぎない。しかるに,当該偏光フィルムの厚みの変更は,引用文献2の【0010】の記載が示唆する範囲内で行うものであるから,カールの発生が抑制された粘着剤付き偏光板を生産性良く製造するという,【0008】に記載された効果を引き続き維持することができると考えられる。

(4)相違点1-2について
引用文献2の【0002】,【0003】等の記載からみて,引用文献2発明の「粘着剤付き偏光板」は,粘着剤層から剥離フィルムを剥がし,当該粘着剤層によって液晶表示装置の液晶セルに貼合されることが予定されたものといえる。
しかるに,引用文献2発明において,剥離フィルムを剥がす際に,静電気が発生するおそれがあり,当該静電気によって,前記(1)イ(ク)で認定した第2周知技術における解決課題である,液晶表示装置内部の液晶の配向に影響を与え,不良を招くといった問題や,周辺回路素子の静電破壊を起こすといった問題が生じるおそれがあることは,第2周知技術を熟知する当業者がただちに理解できることである。
そうすると,引用文献2発明において,前記問題が生じないようにするために,第2周知技術を適用し,粘着剤層を形成するためのアクリル系粘着剤(A)に,リチウム塩を帯電防止剤として機能する分量で含有させるよう構成することは,当業者が容易になし得たことである。しかるに,周知例2-1ないし2-4のそれぞれに記載された各実施例におけるリチウム塩の分量を考慮すると,引用文献2発明において,帯電防止剤として機能するリチウム塩の分量は,アクリル酸ブチルとアクリル酸との共重合体100重量部に対して,「0.0001?5重量部」という範囲内にあると認められる。
したがって,引用文献2発明を,相違点1-2に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,第2周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

(5)相違点1-3について
引用文献2の【0002】等の記載からみて,引用文献2発明の「粘着剤付き偏光板」は,液晶表示装置に用いることが予定されたものといえるところ,当該引用文献2発明の粘着剤層に,加熱条件や加湿条件下においても対応できる耐久性が要求されることは,前記(1)イ(ス)で認定した第3周知技術を熟知する当業者がただちに理解できることである。
そうすると,引用文献2発明において,加熱処理や高湿処理によっても浮きや剥がれが生じないようにするために,イソシアネート系架橋剤のみ含有するアクリル系粘着剤(A)に代えて,架橋剤としてイソシアネート系架橋剤と過酸化物とを併用した第3周知技術のアクリル系粘着剤組成物を用いて粘着剤層を形成すること,すなわち,引用文献2発明を,相違点1-3に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(6)効果について
本件発明が奏する効果が,本件発明における進歩性の存在を裏付けるような異質なものや格別顕著なものとは認められない。
なお,前記4で述べたように,本件発明は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなく,かつ,発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもないから,本件明細書の【0024】に記載された「偏光子の劣化を招くこと」がないとの効果を,本件発明が奏する効果と認めることはできない。

(7)小括
以上のとおり,本件発明は,引用文献2発明及び第1ないし第3周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


6 当審拒絶理由3(引用文献3を主引例とする進歩性欠如)についての判断
(1) 引用例
ア 引用文献3
(ア)引用文献3の記載
当審拒絶理由3で引用された引用文献3(特開2011-22202号公報)は,本件出願の出願前である平成23年2月3日に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献3には次の記載がある。(下線部は,後述する「引用文献3発明」の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【請求項1】
偏光子の一方の面に透明保護フィルムが接着剤層を介して形成され,偏光子の他方の面には粘着剤層が形成された偏光板であって,該偏光板の外周端面が紫外線硬化樹脂または熱硬化樹脂を含む封止剤が硬化した封止剤層で被覆されていることを特徴とする偏光板。」

b 「【技術分野】
【0001】
本発明は,液晶表示装置などの画像表示装置に用いられる偏光板,およびそれを用いた画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光板は,液晶表示装置における偏光の供給素子として,また偏光の検出素子として,広く用いられている。・・・(中略)・・・
【0003】
一方で,液晶表示装置をさらに薄型軽量化する強い市場要求をうけて,液晶表示装置を構成する液晶パネル,拡散板,バックライトユニット,および駆動IC等の薄型化や小型化が進められている。このような状況下,液晶パネルを構成する部材である偏光板も10μmの単位で薄型化することが要求される。ところが偏光板の薄型化に伴い高温高湿環境下に保持した場合,偏光板の切断端面(外周端面)からの水分の浸入により,偏光板周囲の色抜けが発生したり,また高熱環境下に保持した場合は,偏光子の収縮による偏光板端部の盛り上がりが発生するといった問題があった。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は,偏光子の一方の面に透明保護フィルムが接着剤層を介して形成され,偏光子の他方の面に粘着剤層が形成された偏光板であって,偏光板の品質を維持しながら高温高湿環境下における色抜けや,偏光板端部の盛り上がりの発生を抑えることができる偏光板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は,偏光子の一方の面に透明保護フィルムが接着剤層を介して形成され,偏光子の他方の面には粘着剤層が形成された偏光板であって,当該偏光板の外周端面が紫外線硬化樹脂または熱硬化樹脂を含む封止剤が硬化した封止剤層で被覆されていることを特徴とする偏光板である。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0013】
本発明では偏光板の外周端面を疎水性の紫外線硬化樹脂または熱硬化樹脂を含む封止剤が硬化した封止剤層で被覆することで,湿熱条件下での偏光板端部からの水分の浸入ならびに,高温下での偏光子の収縮の抑制ができるため,端部の色抜けおよび端部の盛り上がりを同時に抑制する効果が得られる。」

c 「【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の偏光板の一例を示す模式断面図である。」

d 「【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の偏光板は,ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素が吸着配向した偏光子の片面に透明保護フィルムが接着剤層を介して形成され,偏光子の他面には粘着剤層が形成されており,偏光板の外周端面(切断端面)が封止剤層で被覆されている。
【0016】
図1は,本発明の偏光板の一例を示す模式断面図である。偏光子1の片面に接着剤層2を介して透明保護フィルム3が形成され,透明保護フィルム3の反対側には粘着剤層4が形成されており,粘着剤層4の外側には画像表示素子等に貼り合わせるまでその表面を仮着保護する剥離フィルム7が設けられている。また偏光板の断面には封止剤層5が形成されている。なお,本発明において,外周端面とは,偏光板の主面(図1で言えば透明保護フィルム3の外表面および粘着剤層4の外表面)を除く外周面を意味する。
・・・(中略)・・・
【0020】
<偏光子>
偏光子として,ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに一軸延伸および二色性色素による染色処理を施して,その二色性色素を吸着配向させたものが好ましく用いられる。・・・(中略)・・・
【0021】
・・・(中略)・・・この未延伸フィルムを,膨潤処理,染色処理,ホウ酸処理および水洗処理の順に処理し,ホウ酸処理までの工程で一軸延伸を施し,最後に乾燥して得られる偏光子の厚みは,通常5?50μmである。
【0040】
<透明保護フィルム>
上記偏光子の一方の面に,接着剤層を介して,透明保護フィルムが積層され,偏光板とされる。透明保護フィルムとしては,シクロオレフィン系樹脂フィルム,トリアセチルセルロース,ジアセチルセルロースのような酢酸セルロース系樹脂フィルム,ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート,ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂フィルム,ポリカーボネート系樹脂フィルム,アクリル系樹脂フィルム,ポリプロピレン系樹脂フィルムなど,当分野において従来より広く用いられてきているフィルムを挙げることができる。
・・・(中略)・・・
【0048】
<偏光子と透明保護フィルムの貼合>
偏光子と透明保護フィルムとは,例えば,ポリビニルアルコール系樹脂水溶液,水系二液型ウレタン系エマルジョン接着剤などを用いた水系接着剤層を介して貼合される。
・・・(中略)・・・
【0066】
<粘着剤層>
このようにして得られた偏光板は,その偏光子側の面に液晶セル等の他部材と接着するための粘着剤層が積層される。
【0067】
粘着剤層を構成する粘着剤としては,透明性,耐候性,耐熱性などに優れるアクリル系樹脂をベースポリマーとした粘着剤が好適である。アクリル系樹脂は,公知のものから選択することができる。例えば,(メタ)アクリル酸ブチル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸イソオクチル,(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルのような(メタ)アクリル酸アルキルを1種用いた単独重合体や,これらの(メタ)アクリル酸アルキルを2種以上用いた共重合体,さらには(メタ)アクリル酸アルキルを1種または2種以上と他のモノマーを1種または2種以上用いた共重合体が好適に用いられる。また,(メタ)アクリル酸アルキルと共重合可能な他のモノマーとしては,例えば,(メタ)アクリル酸,(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル,(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル,(メタ)アクリルアミド,N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート,グリシジル(メタ)アクリレートのような,カルボキシ基,水酸基,アミド基,アミン基,エポキシ基などを有する極性モノマーが好ましく用いられる。
【0068】
粘着剤には,架橋剤を含有させるのがよい。架橋剤としては,2価以上の金属イオンであって,カルボン酸金属塩を形成するもの,アミノ基を含む化合物であって,アミド結合を形成するもの,エポキシ基を含む化合物やヒドロキシル基を含む化合物であって,エステル結合を形成するもの,イソシアネート基を含む化合物であって,アミド結合を形成するもの,カルボキシル基を含む化合物であって,アミド結合やエステル結合を形成するものが例示される。特にイソシアネート基を含む化合物が有機系架橋剤として広く使用されている。
・・・(中略)・・・
【0078】
<封止剤層>
本発明では上記で得られた偏光板の外周端面を封止剤層で被覆しており,以下用いられる封止剤層について説明する。
【0079】
本発明において,封止剤層の形成に用いられる封止剤としては,加工時には流動性を有し,加工後には硬化して封止機能を持つもの,例えば,紫外線硬化樹脂や熱硬化樹脂,または両方の作用で硬化する樹脂などが例示できる。加工時に流動性を有する樹脂を使用する場合,その樹脂の硬化前の粘度としては,20Pa・s以下であり,好ましくは,0.01Pa・s以上5Pa・s以下である。粘度が20Pa・s以下のものを用いることにより,その高い流動性から封止に要する時間が短縮され,0.01Pa・s以上のものを用いることにより,封止する際に封止剤が透明基板や外部などに流れ出すことを防止することができる。
・・・(中略)・・・
【0087】
本発明においては紫外線硬化樹脂あるいは熱硬化樹脂のいずれを用いてもよい。とりわけ紫外線硬化樹脂は,硬化工程において高温状態を必要とせず,偏光板の光学性能を低下させないことから好適に用いられる。」

e 「【図1】



(イ)引用文献3の記載から把握される発明
前記(ア)aないしeで摘記した記載から,引用文献3に,図1に示された偏光板に関する発明であって,粘着剤層2が,アクリル系樹脂をベースポリマーとし,架橋剤を含有する粘着剤で構成されたものである発明を把握することができるところ,当該発明の構成は次のとおりである。

「偏光子1の片面に接着剤層2を介して透明保護フィルム3が形成され,透明保護フィルム3の反対側には粘着剤層4が形成されており,粘着剤層4の外側には剥離フィルム7が設けられた偏光板であって,
該偏光板の外周端面が,紫外線硬化樹脂または熱硬化樹脂を含む封止剤が硬化した封止剤層5で被覆されており,かつ,
前記粘着剤層2は,アクリル系樹脂をベースポリマーとし,架橋剤を含有する粘着剤で構成されたものである偏光板。」(以下,当該発明を「引用文献3発明」という。)

イ 周知の技術事項
前記5(1)イ(ウ),(ク)及び(ス)で認定したとおり,第1周知技術,第2周知技術及び第3周知技術が,本件出願の出願前に周知であった。

(2)対比
ア 技術的にみて,引用文献3発明の「粘着剤層2」,「偏光板」,「偏光子1」,「透明保護フィルム3」,「架橋剤」,「アクリル系樹脂」及び「粘着剤」は,本件発明の「粘着剤層」,「粘着型偏光板」,「偏光子」,「透明保護フィルム」,「架橋剤」,「(メタ)アクリル系ポリマー(A)」及び「粘着剤組成物」にそれぞれ対応する。

イ 引用文献3発明は,「偏光子1」(本件発明の「偏光子」に対応する。以下,「(2)対比」欄において,「」で囲まれた引用文献3発明の構成に付した()中の文言は,当該引用文献3発明の構成に対応する本件発明の発明特定事項を表す。)の片面に接着剤層2を介して「透明保護フィルム3」(透明保護フィルム)が形成され,「透明保護フィルム3」(透明保護フィルム)の反対側には「粘着剤層4」(粘着剤層)が形成されており,「粘着剤層4」(粘着剤層)の外側には剥離フィルム7が設けられた「偏光板」(粘着型偏光板)であり,引用文献3発明の「偏光子1」(偏光子)と接着剤層2と「透明保護フィルム3」(透明保護フィルム)とからなる構成が,本件発明の「偏光板」に相当するから,引用文献3発明は,本件発明と,「偏光板と,当該偏光板に設けられた粘着剤層を有する粘着型偏光板」である点で一致し,引用文献3発明の「偏光子1と接着剤層2と透明保護フィルム3とからなる構成」は,本件発明の「偏光板」と,「偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有し,前記粘着剤層は,前記透明保護フィルムを有しない側の偏光子に設けられて」いる点で,共通する。

ウ 引用文献3発明の「粘着剤層2」(粘着剤層)は,「アクリル系樹脂」((メタ)アクリル系ポリマー(A))をベースポリマーとし,「架橋剤」(架橋剤)を含有する「粘着剤」(粘着剤組成物)で構成されたものであるから,引用文献3発明の「粘着剤層2」は,本件発明の「粘着剤層」と,「架橋剤,(メタ)アクリル系ポリマー(A)を含有する粘着剤組成物から形成されたものである」点で共通する。

エ 前記アないしウに照らせば,本件発明と引用文献3発明は,
「偏光板と,当該偏光板に設けられた粘着剤層を有する粘着型偏光板であって,
前記偏光板は,偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有し,前記粘着剤層は,前記透明保護フィルムを有しない側の偏光子に設けられており,かつ,
前記粘着剤層は,架橋剤および(メタ)アクリル系ポリマー(A)を含有する粘着剤組成物から形成されたものである粘着型偏光板。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点2-1:
本件発明では,「偏光子」の厚みが10μm以下であるのに対して,
引用文献3発明では,「偏光フィルム」の厚みは特定されていない点。

相違点2-2:
本件発明の「粘着剤組成物」は,アルカリ金属塩(B)を含有し,当該アルカリ金属塩(B)が,リチウム塩であり,その含有量が,(メタ)アクリル系ポリマー(A)100重量部に対して0.0001?5重量部であるのに対して,
引用文献3発明の「粘着剤」は,アルカリ金属塩を含有しない点。

相違点2-3:
本件発明の「粘着剤組成物」に含有される「架橋剤」が,イソシアネート系化合物および過酸化物を含有するのに対して,
引用文献3発明の「粘着剤」に含有される「架橋剤」は,そのようなものに特定されていない点。

(3)相違点2-1について
引用文献3の【0002】,【0003】等の記載からみて,引用文献3発明の「偏光板」は,液晶表示装置に用いることが予定されたものといえる。また,引用文献3の【0003】には,液晶表示装置をさらに薄型軽量化する強い市場要求をうけて,偏光板についても薄型化することが要求されることが記載されている。
ここで,偏光板を薄型化するためには,その構成要素である偏光子1も薄型化したほうが有利であることは,明らかである。
しかるに,引用文献3の【0021】には,偏光子の厚みが通常5ないし50μmであることが記載され,さらに,前記5(1)イ(ウ)で認定したように,厚みが10μm以下の偏光子を製造する技術(第1周知技術)が本件出願の出願前に周知であったと認められるのであるから,引用文献3発明において,液晶表示装置の薄肉軽量化を図るために,前記第1周知技術を用いて,偏光子1の厚みを10μm以下とすること,すなわち,相違点2-1に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備させることは,当業者が適宜行う設計変更にすぎない。

(4)相違点2-2について
引用文献3の【0016】の「粘着剤層4の外側には画像表示素子等に貼り合わせるまでその表面を仮着保護する剥離フィルム7が設けられている。」という記載からみて,引用文献3発明の「偏光板」は,粘着剤層2から剥離フィルム7を剥がし,当該粘着剤層2によって液晶表示装置の画像表示素子に貼合されることが予定されたものといえる。
しかるに,引用文献3発明において,剥離フィルムを剥がす際に,静電気が発生するおそれがあり,当該静電気によって,前記5(1)イ(ク)で認定した第2周知技術における解決課題である,液晶表示装置内部の液晶の配向に影響を与え,不良を招くといった問題や,周辺回路素子の静電破壊を起こすといった問題が生じるおそれがあることは,第2周知技術を熟知する当業者がただちに理解できることである。
そうすると,引用文献3発明において,前記問題が生じないようにするために,第2周知技術を適用し,粘着剤層を形成するためのアクリル系粘着剤(A)に,リチウム塩を帯電防止剤として機能する分量で含有させるよう構成することは,当業者が容易になし得たことである。しかるに,周知例2-1ないし2-4のそれぞれに記載された各実施例におけるリチウム塩の分量を考慮すると,引用文献3発明において,帯電防止剤として機能するリチウム塩の分量は,アクリル系樹脂100重量部に対して,「0.0001?5重量部」という範囲内にあると認められる。
したがって,引用文献3発明を,相違点2-2に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,第2周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

(5)相違点2-3について
引用文献3の【0002】,【0003】等の記載からみて,引用文献2発明の「粘着剤付き偏光板」は,液晶表示装置に用いることが予定されたものといえるところ,当該引用文献3発明の粘着剤層に,加熱条件や加湿条件下においても対応できる耐久性が要求されることは,前記5(1)イ(ス)で認定した第3周知技術を熟知する当業者がただちに理解できることである。
そうすると,引用文献3発明において,加熱処理や高湿処理によっても浮きや剥がれが生じないようにするために,架橋剤としてイソシアネート系架橋剤と過酸化物とを併用した第3周知技術のアクリル系粘着剤組成物を用いて粘着剤層2を形成すること,すなわち,引用文献3発明を,相違点2-3に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(6)効果について
本件発明が奏する効果が,本件発明における進歩性の存在を裏付けるような異質なものや格別顕著なものとは認められない。
なお,本件明細書の【0024】に記載された「偏光子の劣化を招くこと」がないとの効果については,前記5(6)で述べたとおり,本件発明が奏する効果と認めることはできない。

(7)小括
以上のとおり,本件発明は,引用文献3発明及び第1ないし第3周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


7 むすび
本件出願は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
また,本件発明は,引用文献2発明及び第1ないし第3周知技術に基づいて,又は引用文献3発明及び第1ないし第3周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は,同法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-03-07 
結審通知日 2019-03-12 
審決日 2019-03-25 
出願番号 特願2015-185581(P2015-185581)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G02B)
P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 関根 洋之
清水 康司
発明の名称 粘着型偏光板および画像表示装置  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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