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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B21D
管理番号 1351369
審判番号 不服2018-4294  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-30 
確定日 2019-05-28 
事件の表示 特願2016-230785「ライナ付キャップの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年4月20日出願公開、特開2017-74623、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年6月19日に出願した特願2013-128368号の一部を平成28年11月29日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成29年 9月13日付け:拒絶理由通知
平成29年10月27日 :意見書及び手続補正書の提出
平成29年12月22日付け:拒絶査定(原査定)
平成30年 3月30日 :審判請求
平成30年12月28日付け:拒絶理由通知
平成31年 2月28日 :意見書及び手続補正書の提出
平成31年 3月14日 :刊行物等提出書の提出

第2 原査定の概要
原査定(平成29年12月22日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1?2に係る発明は、本願の出願前に頒布された引用文献1に記載された発明並びに引用文献2に記載された発明及び引用文献3に示された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2011-240937号公報
2.特開2009-78842号公報
3.特開2013-53297号公報(周知技術を示す文献)

第3 当審拒絶理由の概要
平成30年12月28日付け当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

1 新規性について
本願請求項1?2に係る発明は、本願の出願前に頒布された以下の引用文献Aに記載された発明であるから(以下(1)及び(2)参照)、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2015-3325号公報

(1)分割出願の実体的要件についての判断
本願の段落【0012】には、「前記摺動層成形工程よりも前に前記天面部の内面に前記摺動層の接着防止措置を施す接着防止措置工程を備えるとよい。」と、接着防止措置工程を任意付加的なものとして記載されている。
他方で、本願の原出願である特願2013-128368号の当初明細書等には、接着防止措置工程を任意付加的なものとする記載は無く、接着防止措置工程が摺動層を形成するための必須の構成として記載されている以上、上記の接着防止措置工程を任意付加的とすることは原出願の当初明細書等から自明な事項とはいえない。
したがって、上記記載は、原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内でない新たな技術的事項である接着防止措置工程を備えない製造方法を含むものであり、本願は分割出願の実体的要件を満たさない。

よって、本願については、出願日の遡及を認めず、現実の出願日である平成28年11月29日にしたものとする。

(2)本願の原出願の公開特許公報である引用文献Aの段落【0009】、段落【0029】-【0032】のそれぞれには、本願請求項1で特定された各工程、請求項2で特定されたキャップ本体成形工程が記載されている。 したがって、本願請求項1-2に係る発明は、引用文献Aに記載された発明である。

2 実施可能要件について
本願は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



請求項1には、「キャップ本体の天面部と摺動可能な摺動層を該天面部内面に樹脂のモールド成形により形成する摺動層成形工程」と記載されているが、上記1(1)で示したように、接着防止措置工程は任意付加的なものとして記載されているところ、接着防止措置工程を備えずに、具体的にどのようにして、キャップ本体の天面部と接着されない摺動可能な層を形成するのか、発明の詳細な説明には、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されていない。
なお、特段の工夫無く、モールド成形すれば摺動可能となるのであれば、引用文献2(特開2009-78842号公報)の技術も摺動可能と理解でき、審判請求書の主張と矛盾することになる点に留意されたい。

第4 刊行物等提出の概要
平成31年3月14日に提出された刊行物等提出書の概要は次のとおりである。

本願請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された引用文献4に記載された発明並びに引用文献5に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

引用文献等一覧
4.特開2006-27663号公報
5.特開2004-244087号公報
2.特開2009-78842号公報

第5 本願発明
本願請求項1?2に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明2」という。)は、平成31年2月28日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1?2は以下のとおりの発明である(下線は請求人が付与)。

「 【請求項1】
天面部と該天面部の周縁から略垂下されてなる円筒部とを備えるキャップ本体と、前記天面部の内面に設けられたライナとを有し、容器の口部を密封可能なライナ付キャップを製造する方法であって、アルミニウム又はアルミニウム合金の板材をカップ状に打抜いて、天面部の内面にエポキシフェノール樹脂からなる塗料が塗装されてなるキャップ本体を成形するキャップ本体成形工程と、前記キャップ本体の天面部と摺動可能な摺動層を該天面部内面にポリエチレン又はポリプロピレンからなる樹脂のモールド成形により形成する摺動層成形工程と、前記摺動層に積層され該摺動層よりも軟質で前記容器の口部と接触する密封層を樹脂のモールド成形により形成して、前記摺動層と前記密封層とからなる前記ライナを形成する密封層成形工程とを備えることを特徴とするライナ付キャップの製造方法。
【請求項2】
前記キャップ本体成形工程では、前記円筒部の前記天面部近傍に半径方向内方に向かって突出して前記摺動層を係止するためのフック部を形成し、前記摺動層成形工程では、前記天面部内面に配置した溶融樹脂を前記フック部先端により構成される内接円よりも外径が小さいパンチで押圧することにより前記摺動層を前記内接円よりも大きい外径に成形し、前記密封層成形工程では、前記密封層を前記内接円よりも小さい外径に成形することを特徴とする請求項1記載のライナ付キャップの製造方法。」

第6 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は理解の便のため当審にて付与。以下同)。

ア 段落【0016】
「本実施形態の金属キャップ1は、図1及び図2に示すように、例えば直径38mm口径のアルミニウム又はアルミニウム合金製(金属製)ボトル本体の口金部(口部)に被着されて密栓するピルファープルーフキャップ(以下、PPキャップとも称す)となるものである。この金属キャップ1は、アルミニウム又はアルミニウム合金板材をカップ状に成形したもので、上方に配された天板部2と、該天板部2の周縁から略垂下されてなる円筒部3と、を備えている。」

イ 段落【0017】
「この金属キャップ1は、天板部2の内面にライナー9が非接着状態で挿入された後にボトル本体の口部を密栓するものである。
上記円筒部3は、周方向に断続的に形成されたスリット4を介して上下に分割された筒上部5と筒下部6とを有し、隣接するスリット4間に形成される複数のブリッジ4aによって筒上部5と筒下部6とを連結した形状としたものである。」

ウ 段落【0022】
「この金属キャップ1に挿入されるライナー9は、天板部2の内面側に配された摺動層9aと、挿入後にモールド成形によって摺動層9aに直接またはバリアー層等の中間層を介して積層され摺動層9aよりも柔軟で外径の小さい密封層9bと、を備えている。上記摺動層9aは、ポリプロピレン等で形成された円盤状の硬質シートで構成され、上記密封層9bは、硬質シート上にモールド成形で積層状態にエラストマー樹脂等で形成される。
また、ナールスリット8の上部突起部8aの先端は、挿入された際のライナー9の摺動層9aの外周縁よりも半径方向内方に位置し、下部突起部8bの先端は、密封層9bの外周縁よりも半径方向外方に位置している。」

エ 段落【0023】
「このライナー9は、図2の(b)に示すように、金属キャップ1内に挿入して硬質シートの摺動層9aを天板部2の内面に接して配置した状態で、モールド成形用の金型Mを金属キャップ1内に挿入し、該金型Mを用いてエラストマー樹脂等を樹脂成形することで、密封層9bを形成する。このモールド成形用の金型Mを挿入する際に、ナールスリット8の下部突起部8bが金型Mのガイドの役割を果たし、金型Mのセンタリング(位置決め)が行われる。」

オ 段落【0024】
「なお、この密封層9bは、ボトルの口部に密着する外周部が中心部よりも厚く形成されている。・・・」

カ 段落【0034】
「次に、本実施形態の金属キャップ及びキャップ付きボトルを実際に作製し、開栓時におけるライナーの脱落について評価した。」

キ 図3

(2)上記(1)での記載から,引用文献1には,次の技術的事項が開示されていると認められる。

ア 上記(1)アから、天板部2と該天板部2の周縁から略垂下されてなる円筒部3とを備える金属キャップ1が開示されていると認められる。

イ 上記(1)イ及びカから、前記天板部2の内面に設けられたライナー9とを有し、ボトル本体の口部を密栓する金属キャップ1を作製する方法が開示されている。

ウ 上記(1)アから、アルミニウム又はアルミニウム合金板材をカップ状に金属キャップ1を成形する工程が開示されている。

エ 上記(1)イ、ウ及びエから、前記金属キャップ1の天板部2の内面に、ポリプロピレン等からなる硬質シートを非接着状態で挿入することで、摺動層9aを形成する工程が開示されている。

オ 上記(1)ウ、エ及びオから、前記摺動層に積層され該摺動層よりも柔軟で前記ボトルの口部に密着する密封層をエラストマー樹脂等のモールド成形により形成して、前記摺動層と前記密封層とからなる前記ライナを形成する密封層成形工程が開示されている。

(3)上記(2)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が開示されていると認められる。

「天板部2と該天板部2の周縁から略垂下されてなる円筒部3とを備える金属キャップ1と、前記天板部2の内面に設けられたライナー9とを有し、ボトル本体の口部を密栓する金属キャップ1を作製する方法であって、アルミニウム又はアルミニウム合金板材をカップ状に金属キャップ1を成形する工程と、前記金属キャップ1の天板部2の内面に、ポリプロピレン等からなる硬質シートを非接着状態で挿入することで、摺動層9aを形成する工程と、前記摺動層9aに積層され該摺動層9aよりも柔軟で前記ボトルの口部に密着する密封層9bをエラストマー樹脂等のモールド成形により形成して、前記摺動層9aと前記密封層9bとからなる前記ライナー9を形成する密封層成形工程とを備えること。」

2 引用文献2について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 段落【0013】
「本発明では、上記ライナー10が、容器口頂部31の少なくとも中央より外側に接する部分が滑り性のよい第1ライナー材で形成されている第1ライナー部11と、容器口開口部の全面を覆い且つ容器口頂部の中央より内側に接する部分が前記第1ライナー材よりもガスバリア性の高い第2ライナー材で形成された第2ライナー部12とから構成されている。本実施形態では、前記第1ライナー部11は、図1及び図2に示すように、容器口頂部31の外周面側から少なくとも容器口頂部幅の1/2幅以上に接する部分が厚肉環状に形成された厚肉環状部11-1となっており、該厚肉環状部から内方に延びてキャップ天壁パネル内面を覆う部分が薄肉パネル状に形成された薄肉円盤状部11-2となっており、該薄肉円盤状部11-2の内方側に前記第2ライナー部12が層状に形成されている。・・・」

イ 段落【0014】
「第1ライナー部11は比較的柔らく変形し易いゴム状の材料で形成され、その厚肉環状部11-1が、図1に示すように、キャップ1を容器口部30に螺合した状態で少なくとも容器口頂部の幅(肉厚)をtとすると、外周側から(1/2)t以上容器口頂部に圧接し、且つ該容器口頂部から延びて容器口外周面に所定高さh(略0.5?4mm)圧接するように、断面略鉤状の肉厚環状に形成され、キャップ1を容器口部30に巻締することによって、図1に示すように断面略鉤状が容器口部の形状に沿って変形して、容器口頂部31から外周面上部にかけて圧接して、容器を密封する機能を果たす。したがって、このキャップにおける内容液に対する密封構造は、第1ライナー部11が容器口頂部から外周面上部にかけて圧接することによって構成される。薄肉円盤状部11-2は、厚肉環状部11-1の内周縁からキャップ本体の天壁内面に接するように段差面となっている円盤状に形成され、該段差面に第2ライナー部12が接着されている。」

ウ 段落【0017】
「上記第1ライナー部及び第2ライナー部を構成する第1ライナー材及び第2ライナー材としては、例えば次の合成樹脂が採用できる。
第1ライナー材:
・オレフィン系
低密度ポリエチレン
線状低密度ポリエチレン・・・
なお、第2ライナー材は、第1ライナー材と接着しやすくするために、少量の第1ライナー材とのブレンドで使用するのが望ましい。」

エ 段落【0020】
「図1又は図3に示すライナー10は、予め第1ライナー部と第2ライナー部を別途成形して一体に構成されたものを、キャップ本体2に嵌合して天壁3の内方側に装着することも可能であるが、製造工程の効率化の点でキャップ本体に天壁内方側を第1ライナー部の成形の型として、直接キャップ本体の内側に溶融樹脂を供給して、第1ライナー部及び第2ライナー部を順に圧縮成形又は射出成形によって形成するのが望ましい。」

オ 図1

(2)上記(1)での記載から,引用文献2には,次の技術的事項が開示されていると認められる。

ア 上記(1)ア及びエから、キャップ本体2の天壁の内側に、第1ライナー部11及び第2ライナー部12を順に圧縮成形又は射出成形によって形成することが開示されている。

イ 上記(1)ウから、第1ライナー部11及び第2ライナー部12は、例えば、ポリエチレンを含む樹脂からなることが開示されている。

(3)上記(2)から、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が開示されていると認められる。

「キャップ本体2の天壁の内側に、例えば、ポリエチレンを含む樹脂からなる第1ライナー部11及び第2ライナー部12を順に圧縮成形又は射出成形によって形成すること。」

3 その他の文献について
原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献3の段落【0002】には、難接着性材料としてポリエチレンやポリプロピレンが記載されている。
当審拒絶理由通知において引用された、本願の原出願の公開特許公報である引用文献Aの段落【0009】、【0020】?【0021】及び【0029】?【0032】等には、本願請求項1で特定された各工程及び請求項2で特定されたキャップ本体成形工程が記載されている。

刊行物等提出書において引用された引用文献4の段落【0002】、【0016】、【0018】、【0023】、【0025】等には、天面壁13と該天面壁13から垂下されてなる筒状のスカート壁14とを備えるキャップ10と、前記天面壁13の内面に設けられたライナー1とを有し、ボトル口12を密封可能なライナー付キャップを製造する方法であって、アルミ製のキャップ基材にエポキシ樹脂をコーティングしてなるキャップ本体を形成する工程と、前記キャップ本体の天面壁13と非接合状態である支持層2をポリエチレン又はポリプロピレンからなる樹脂を押出成形、射出成形、圧縮成形等の注型成形により積層したシートにより形成する支持層形成工程と、前記支持層2に積層され前記ボトル口12と接触する機能層3を前記注型成形で積層したシートにより形成して、前記支持層2と前記機能層3とからなるシートを裁断した前記ライナ-1を形成する機能層形成工程とを備えることが記載されている。
刊行物等提出書において引用された引用文献5の段落【0009】?【0011】等には、天板部内面側の中央部に、ポリエチレン又はポリプロピレンからなる樹脂を圧縮成形することにより、ライナーを成形すること、キャップ本体の内面側にはライナーの樹脂材料と接着性のある保護皮膜を設けることにより接着剤を不要とするのが望ましいことが記載されている。

第7 対比・判断
1 本願発明1について
(1)引用発明1との対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明1における「天板部2」、「円筒部3」、「金属キャップ1」、「ライナー9」、「ボトル本体」及び「ボトル」、「密栓する」、「作製する方法」、「アルミニウム合金板材」、「非接着状態で挿入する」構成、「摺動層9a」、「柔軟」、「密着」、「密封層9b」、「エラストマー樹脂等」は、それぞれ、本願発明1における「天面部」、「円筒部」、「キャップ本体」及び「ライナ付キャップ」、「ライナ」、「容器」、「密封可能な」、「製造する方法」、「アルミニウム合金の板材」、「摺動可能な」構成、「摺動層」、「軟質」、「接触」、「密封層」、「樹脂」に相当する。

イ 引用発明1における「カップ状に金属キャップ1を成形する工程」について、当該成形後にライナー9が挿入されること(引用文献1の段落【0022】参照)から、当該成形の際に打ち抜かれるのは自明であり、上記アの相当関係を踏まえ、当該工程は、本願発明1の「カップ状に打抜いて、」「キャップ本体を成形するキャップ本体成形工程」と一致する。

ウ 引用発明1における「前記金属キャップ1の天板部2の内面に、ポリプロピレン等からなる硬質シートを非接着状態で挿入して、摺動層9aを形成する」構成は、上記アの相当関係から、本願発明1の「前記キャップ本体の天面部と摺動可能な摺動層を該天面部内面に」「ポリプロピレン」「により形成する」構成と一致する。

エ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「天面部と該天面部の周縁から略垂下されてなる円筒部とを備えるキャップ本体と、前記天面部の内面に設けられたライナとを有し、容器本体の口部を密封可能なライナ付キャップを製造する方法であって、アルミニウム又はアルミニウム合金の板材をカップ状に打抜いて、キャップ本体を成形するキャップ本体成形工程と、前記キャップ本体の天面部と摺動可能な摺動層を該天面部内面にポリプロピレンにより形成する工程と、前記摺動層に積層され該摺動層よりも柔軟で前記容器の口部と接触する密封層を樹脂のモールド成形により形成して、前記摺動層と前記密封層とからなる前記ライナを形成する密封層成形工程とを備えるライナ付キャップの製造方法。」

(相違点1)
本願発明1のキャップ本体の天面部の内面にエポキシフェノール樹脂からなる塗料が塗装されているのに対して、引用発明の金属キャップ1(「キャップ本体」に相当)の天板部2(「天面部」に相当)の内面には塗料が塗装されていない点。

(相違点2)
本願発明1のキャップ本体の天面部と摺動可能な摺動層を該天面部内面にモールド成形により形成するのに対して、引用発明の摺動層9a(「摺動層」に相当)は、天板部2(「天面部」に相当)内面に、硬質シートを挿入することで形成されるものであり、天面部内面にモールド成形により形成するものではない点。

(2)相違点についての判断
(上記相違点1について)
以下「第9 当審拒絶理由について」とも関係するが、ライナーの材料であるポリプロピレン系樹脂とは非接着性のエポキシフェノール樹脂からなる塗料をキャップ本体の天面部の内面に塗装することは周知であり(特開2001-261054号公報の段落【0019】及び【0046】等、特開2002-264957号公報の段落【0003】?【0006】等参照)、引用発明のライナーは、金属キャップ1(「キャップ本体」に相当)の天板部2(「天面部」に相当)の内面に非接着状態で挿入されていることから(上記「第6」1(1)イ参照)、当該内面にライナート非接着性のエポキシフェノール樹脂からなる塗料を塗装することに格別の困難性は認められない。

(上記相違点2について)
キャップ本体2の天壁の内側に、例えば、ポリエチレンを含む樹脂からなる第1ライナー部11及び第2ライナー部12を順に圧縮成形又は射出成形によって形成することは、上記「第6」2(3)のとおり、引用文献2に記載されているといえるものの、引用文献2において、第1ライナー部11が滑り性のよく接触している対象として開示されているのは、容器口頂部31であって、キャップ本体の天壁に対してではない。また、第1ライナー部11は容器を密封する機能を果たす(上記「第6」2(1)イ)から、本願発明1の密封層に相当するものである。したがって、本願発明1の「キャップ本体の天面部と摺動可能な摺動層」に対応するものと認定できない。

そして、引用文献2の第1ライナー部11は、容器口頂部との間の滑り性を高めることで、開栓性を良好に維持するものであって、キャップ本体の内面との間の滑り性までは求められていないことを考えると、引用文献2の圧縮成形又は射出成形はキャップ本体の内面に密着させることを前提とした技術であり、密着しにくい塗装が施されたキャップ本体の内面に対して適用する動機はなく、むしろ阻害要因が存在する。

以上から、引用文献1に接した当業者が、上記相違点1に係る構成を採用するとともに、引用文献2のようにライナーを成形によって形成し、上記相違点2に係る構成とすることの動機付けを認めることはできない。

また、刊行物等提出書において引用された引用文献4には、キャップ本体の天面壁13(「天面部」に相当)と非接合状態である支持層2(「摺動層」に相当)をポリエチレン又はポリプロピレンからなる樹脂を押出成形、射出成形、圧縮成形等の注型成形により積層したシートにより形成することも記載されているが、本願発明1のように「キャップ本体の天面部と摺動可能な摺動層を該天面部内面に」「モールド成形により形成する」ものではない。

刊行物等提出書において引用された引用文献5には、天板部(「天面部」に相当)内面側の中央部に、ポリエチレン又はポリプロピレンからなる樹脂を圧縮成形することにより、ライナーを成形することが記載されているものの、引用文献5の段落【0010】には、キャップ本体の内面側にはライナーの樹脂材料と接着性のある保護皮膜を設けることにより接着剤を不要とするのが望ましい旨、すなわち、本願発明1とは異なり、キャップ本体の天面部に対してライナーは摺動可能としないことが開示されている。

以上のように、引用文献1及び引用文献2?5のいずれにおいても、天面部内面にポリエチレン又はポリプロピレンからなる樹脂のモールド成形により摺動部を形成し、内面にエポキシフェノール樹脂からなる塗料が塗装されたキャップ本体の天面部と摺動可能とすることは開示されていないので、本願発明1は、引用発明1、引用文献2に記載された技術的事項等に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は、本願発明1を引用するものであり、本願発明1の「天面部の内面にエポキシフェノール樹脂からなる塗料が塗装されてなるキャップ本体を成形するキャップ本体成形工程と、前記キャップ本体の天面部と摺動可能な摺動層を該天面部内面にポリエチレン又はポリプロピレンからなる樹脂のモールド成形により形成する摺動層成形工程」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2等に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第8 原査定についての判断
平成31年2月28日に提出された手続補正書による補正により、補正後の請求項1の「キャップ本体」は、「天面部の内面にエポキシフェノール樹脂からなる塗料が塗装されてなる」(下線は請求人が付与。以下同)という事項を有するものとなり、「摺動層」は、「前記キャップ本体の天面部と摺動可能な摺動層を該天面部内面にポリエチレン又はポリプロピレンからなる樹脂のモールド成形により形成する」という事項を有するものとなり、また、補正後の請求項1を引用する補正後の請求項2もこれら事項を有するものとなった。
そして、当該事項は、原査定における引用文献1?3には記載されておらず、本願出願日前における周知技術でもないので、本願発明1?2は、当業者であっても、原査定における引用文献1?3に基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第9 当審拒絶理由について
1 新規性について
(1)分割出願の実体的要件について
上記「第3」1(1)のとおり、当審では、本願は、原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内でない新たな技術的事項である接着防止措置工程を備えない製造方法を含むものであり、本願は分割出願の実体的要件を満たさないとの拒絶理由を通知した。
平成31年2月28日に提出された手続補正書による補正により、請求項1で特定された「キャップ本体」が「天面部の内面にエポキシフェノール樹脂からなる塗料が塗装されてなる」こと及び「摺動層」が「前記キャップ本体の天面部と摺動可能な摺動層を該天面部内面にポリエチレン又はポリプロピレンからなる樹脂のモールド成形により形成する」ことは、原出願の当初明細書等に記載された事項であり(段落【0020】、【0021】、【0029】)、ライナーの材料としてのポリプロピレン系樹脂とキャップ内面に塗装するエポキシフェノール系塗料が非接着性を有することは技術常識であること(特開2001-261054号公報の段落【0019】及び【0046】等、特開2002-264957号公報の段落【0003】?【0006】等参照)を勘案すれば、本願の段落【0012】で「前記接着防止措置工程は、例えば、前記天面部の内面にマスキングインキを塗布することにより前記摺動層と前記天面部との接着を防止したり、天面部の内面に不揮発性有機液体(グリセリンやシリコーンオイル等)を塗布したり、さらにレーザー照射により天面部内面の塗装面を変質させて非接着性を施す工程」と定義された接着防止措置工程を備えなくとも、キャップ本体の天面部と接着されない摺動可能な層を形成し得ることは、原出願の当初明細書等から自明である。
したがって、本願は分割出願の実体的要件を満たし、出願日の遡及を認めるものとする。

なお、この点に関して、請求人は、平成31年2月28日に提出された意見書の第2頁において、「・・・前述したキャップ本体の塗料と摺動層の樹脂との組み合わせを選択することにより、キャップ本体の天面部に接着した摺動層が、開栓時には摺動できるようになりますので、積極的な接着防止措置を設けずとも摺動層としての機能を発揮させることが可能です。」と主張している。

(2)上記(1)のとおり、本願は、出願日の遡及を認めるので、本願の原出願の公開特許公報である引用文献Aは本願出願前に頒布されたものではなく、新規性に関する拒絶の理由を有しない。

2 実施可能要件について
上記1(1)のとおり、接着防止措置工程を備えなくとも、キャップ本体の天面部と接着されない摺動可能な層を形成し得るから、本願の発明の詳細な説明には、当業者が本願発明を実施可能な程度に明確かつ十分に記載されている。

第10 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由及び当審で通知した拒絶理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-10 
出願番号 特願2016-230785(P2016-230785)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石川 健一  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 刈間 宏信
齋藤 健児
発明の名称 ライナ付キャップの製造方法  
代理人 青山 正和  

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