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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A23L |
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管理番号 | 1351382 |
異議申立番号 | 異議2018-700679 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-08-14 |
確定日 | 2019-03-14 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6283446号発明「ティリロサイド含有炭酸飲料」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6283446号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の〔1,2〕について訂正することを認める。 特許第6283446号の請求項1,2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯の概略 特許第6283446号の請求項1,2に係る特許(以下「本件特許」という。)についての手続の経緯は,概ね,次のとおりである。すなわち,平成29年7月27日に出願され,平成30年2月2日に特許権の設定登録がされ,平成30年2月21日に特許掲載公報が発行されたところ,これに対し,平成30年8月14日に特許異議申立人鷲澤威則より,特許異議の申立てがされた。そして,平成30年10月17日付けで取消理由が通知され,平成30年12月18日に特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され,平成31年2月12日に特許異議申立人より意見書が提出された。以下,平成30年12月18日付け訂正請求書に係る訂正を「本件訂正」という。 第2 本件訂正の適否 1 本件訂正の内容 本件訂正の請求は,本件特許の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1,2について訂正することを求めるものであって,その訂正の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。 (訂正事項) 特許請求の範囲の請求項1に,「Brixが8.0以下である,炭酸飲料」と記載されているのを,「Brixが8.0以下であり,炭酸ガス圧が1.0?5.0kgf/cm^(2)である,炭酸飲料」に訂正する。 2 本件訂正の適否について (1) 前記訂正事項は,本件訂正後の請求項1に係る発明の「炭酸飲料」について,「炭酸ガス圧が1.0?5.0kgf/cm^(2)である」と特定するものであるから,本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。 そして,本件特許の明細書(以下「本件明細書」という。)に「本発明の炭酸飲料の炭酸ガス圧は,…温度20℃において,例えば1.0?5.0kgf/cm^(2),…とすることができる。」(【0019】),「冷却した飲料原液に所定のガス圧(例えば,1.0?5.0kgf/cm^(2))となるように炭酸ガスを混入した後,容器に充填して容器詰飲料とする。」(【0030】)と記載されている。 よって,本件訂正は,新規事項を追加するものではなく,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 (2) さらに,本件訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。 (3) 以上のとおりであるから,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであって,本件訂正の請求は同条4項,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので,訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1,2〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 前記第2のとおり本件訂正は認められるから,本件特許の請求項1,2に係る発明(以下,総称して「本件発明」という。)は,特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。 「【請求項1】 0.01?1.0mg/100mLの濃度のティリロサイドを含有し,Brixが8.0以下であり,炭酸ガス圧が1.0?5.0kgf/cm^(2)である,炭酸飲料。 【請求項2】 高甘味度甘味料をさらに含有する,請求項1に記載の飲料。」 第4 取消理由についての判断 1 取消理由の概要 本件特許に対し通知した取消理由は,概ね,次のとおりである。 すなわち,請求項1において炭酸ガス圧について具体的に特定されていないが,本件明細書の発明の詳細な説明においては,炭酸ガス圧3.6kgf/cm^(2)(実験2?4)のものについて効果が確認されたことが記載されているのみである。 そして,炭酸ガス圧が炭酸感に影響することは明らかであるから,炭酸ガス圧の特定のない請求項1に係る発明のすべての範囲において,課題を解決することができるものとは認められない。例えば,炭酸ガス圧が低い場合,請求項1に特定された濃度のティリロサイドを含有する飲料が,良好な炭酸感を知覚することのできる炭酸飲料であるとは認められない。 この点は,請求項1を引用する請求項2についても同様である。 よって,本件発明は,出願時の技術常識に照らしても,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとは認められないから,本件特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,取り消すべきものである。 2 判断 (1) 本件明細書の発明の詳細な説明(【0001】?【0008】)には,次のように記載されている。 ・蔗糖などに代わって高甘味度甘味料が使用されている低カロリー及至ノンカロリーの炭酸飲料が多く開発されているが,高甘味度甘味料を使用した炭酸飲料はBrixが低く,Brixが高い炭酸飲料と比べて,炭酸感を感じにくいという問題がある。 ・蔗糖は良質な甘味とコク感(ボディ感)を有するため,これを用いた炭酸飲料に炭酸感増強剤等の添加剤を配合しても飲料自体の呈味に影響を及ぼすことは少ないが,Brixが低い炭酸飲料の場合には,添加剤に起因する呈味が目立ちやすくなり飲用しがたくなることがある。 ・そこで,本件発明は,Brixの低い炭酸飲料において,飲料自体の香味を損なうことなく,良好な炭酸感を知覚することのできる炭酸飲料を提供することを目的としてなされた。 ・本件発明者らは,上記課題を解決するために炭酸飲料の炭酸感を増強する素材を検討した結果,フラボノイド配糖体の一種であるティリロサイドを炭酸飲料に所定量添加することにより,炭酸ガスによる好ましい炭酸刺激が増強され,結果としてBrixの低い炭酸飲料において良好な炭酸感が感じられることを見出した。また,本件発明において添加される量のティリロサイドは,飲料自体が有する呈味に影響を及ぼすことなく,好ましい炭酸刺激を付与できることを本件発明者らは見出し,これらの知見に基づき,本件発明を完成した。 ・本件発明によれば,Brixの低い炭酸飲料において,飲料自体の香味を損なうことなく,良好な炭酸感を知覚することのできる炭酸飲料を提供することができる。 以上の記載からすると,本件発明は,Brixの低い炭酸飲料において,飲料自体の香味を損なうことなく,良好な炭酸感を知覚することのできる炭酸飲料を提供することを課題とするものであると認められる。 (2) また,本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の点が記載されている。 ・本件発明の飲料は,0.01?1.0mg/100mLの濃度のティリロサイドを含有する。飲料中のティリロサイドの濃度(含有量)が上記の範囲内であれば,炭酸飲料の炭酸感を効果的に増強することができ,且つ炭酸飲料自体が有する香味にも悪影響を及ぼさない。なお,飲料中のティリロサイドの含有量が1.0mg/100mLを超えた場合は,ティリロサイドの苦味や収斂味が飲料自体に影響を及ぼし,飲用しがたくなることがある(【0013】)。 ・本件発明の炭酸飲料の炭酸ガス圧は,温度20℃において,例えば1.0?5.0kgf/cm^(2)とすることができる(【0019】)。 ・本件発明の炭酸飲料は,飲料のBrixが8.0以下である。Brixが8.0以下のような低Brixの炭酸飲料は,それよりもBrixの高い炭酸飲料と比較して添加剤の香味による影響を受けやすく,それにより飲料自体の香味が損なわれることがあるが,上述した量のティリロサイドは,低Brixの炭酸飲料であっても余計な呈味を付与することがない(【0022】)。 ・低Brix炭酸飲料の中でも,高甘味度甘味料を使用した炭酸飲料は,本件発明の好適な態様の一つである。(【0024】)。 ・飲料水に適している水にティリロサイドを加えて,飲料原液を調製する。必要に応じて,適量の高甘味度甘味料,酸味料,香料,及び酸化防止剤等をさらに加えて,飲料原液を調製する。次いで,必要に応じ,脱気及び殺菌処理を行った後,冷却する。冷却した飲料原液に所定のガス圧(例えば,1.0?5.0kgf/cm^(2))となるように炭酸ガスを混入した後,容器に充填して容器詰飲料とする(【0030】)。 (3) そして,本件明細書の発明の詳細な説明には本件発明について,実験1?4(試料1-1,1-2,2-1?2-7,3-1,3-2,4-1,4-2)の結果が開示されているところ(【0032】?【0041】),試料2-2?2-6として, ・【表1】の配合に従い調整された,pH2.5,炭酸ガス圧3.6kgf/cm^(2),Brix0.2の無糖炭酸飲料(試料1-2)に,ティリロサイドを配合し, (【表1】) ・ティリロサイド含量を0.01mg/100ml(試料2-2)?1.0mg/100ml(試料2-6)に調整した, 炭酸飲料が記載されている。 また,試料3-2として,pH4.1,炭酸ガス圧3.6kgf/cm^(2),Brix0の市販の炭酸水に,ティリロサイド濃度が0.02mg/100mlとなるようにティリロサイドを配合して得られた炭酸飲料,試料4-2として,試料3-2に砂糖を配合してBrix3.0に調整して得られた炭酸飲料が記載されている。 そして,これらの炭酸飲料に関し,3名のパネルによる炭酸感の強さについての評価はいずれも良好で,飲料の香味や呈味が損なわれることはなかったものである。 (4) 本件訂正前の請求項1において炭酸ガス圧について具体的に特定されていなかったが,前記第2のとおり本件訂正により,本件発明は,炭酸ガス圧が1.0?5.0kgf/cm^(2)であることが特定された。 そして,こうした本件発明について,前記(2),(3)のように,発明の詳細な説明に記載がなされている上,0.01?1.0mg/100mLの濃度のティリロサイドを含有し,Brixが8.0以下であり,炭酸ガス圧が3.6kgf/cm^(2)である,炭酸飲料に関し,飲料自体の香味を損なうことなく,良好な炭酸感を知覚することのできるといった効果を奏することが具体的に裏付けられていることがわかる。 また,試料2-1(ティリロサイドの濃度:0mg/100ml)と試料2-2(同:0.01mg/100ml,),試料3-1(同0mg/100ml)と試料3-2(同0.02mg/100ml),試料4-1(同0mg/100ml)と試料4-2飲料(同0.02mg/100ml)の各結果からすると,ティリロサイドを含有させることで,より強い炭酸感を感じることができることが理解できる。 なお,実験2?4において,炭酸ガス圧を3.6kgf/cm^(2)とした炭酸飲料について検討しているが,この炭酸ガス圧は市販の炭酸水と同じであることからして(【0039】),実験が一般的な炭酸飲料の炭酸ガス圧を想定したに過ぎないのであって,炭酸ガス圧の多少の違いによって,特定の濃度のティリロサイドの作用が格別に変化するとは直ちに解することはできない。 さらに,本件発明の課題は前記(1)のとおりであるが,Brixの低い炭酸飲料において,炭酸感が特定の炭酸ガス圧において相対的に改善されていれば足り,その意味において,特定量のティリロサイドを含有させることで,炭酸ガス圧が3.6kgf/cm^(2)以外の,炭酸ガス圧1.0?5.0kgf/cm^(2)の炭酸飲料についても,課題を解決することができるものといえる。 (5) 以上のとおりであるから,本件発明は,出願時の技術常識に照らしても,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないとは認められない。 第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立ての理由について 1 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立ての理由は,概ね,以下のとおりである。すなわち,本件特許は,本件明細書の発明の詳細な説明,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法36条4項1号又は同法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから,取り消すべきである。 (証拠方法) 甲第1号証:特開2010-68749号公報 甲第2号証:特許5500664号公報 (1) 炭酸飲料に含有される成分の種類や含有量が炭酸感に影響を及ぼすことは明らかであるし,炭酸増強剤(甲第1,2号証)のような炭酸感に有意な影響を与える成分が存在する。炭酸飲料に含有される成分の種類,その含有量が異なれば,炭酸感の評価が異なることは明らかであるから,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された試料以外に,任意の成分を任意の含有量で含む炭酸飲料について,本件発明の課題が達成できるとは認められない。 よって,出願時の技術常識に照らしても,本件発明の範囲まで,発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化することができるとはいえないので,本件発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)イ(ア))。 (2) 本件明細書の発明の詳細な説明において,Brixが3.0よりも大きく8.0以下の場合に本件発明の効果を奏することが実証されていない。 よって,出願時の技術常識に照らしても,「Brixが8.0以下である」ことを充足すれば本件発明の課題を解決することができるということを,当業者が理解することができないから,本件発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 また,発明の詳細な説明の記載を参酌しても,当業者は,本件発明が発明の課題を解決することができるものであることを理解することができないから,発明の詳細な説明は,当業者が本件発明を実施することができるように記載されたものではなく,同法36条4項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)イ(イ))。 (3) 本件発明は,任意の香味を有する炭酸飲料を包含する。一方,発明の詳細な説明において発明の効果を奏するものとして記載された炭酸飲料は,無糖の炭酸水(試料3-2),砂糖を含む炭酸水(試料4-2),詳細不詳の香料などを含む特定の配合の炭酸飲料(試料2-2?2-6)のみである。無糖及び砂糖を含む炭酸水は香味を有するものか不明であるから,飲料自体の香味を損なわないとの課題が解決されたものであるか明らかでない。試料2-2?2-6の炭酸飲料にどのような香料が配合されているか明らかでないから,どのような炭酸飲料について課題が解決し得るのか理解することができず,使用されたもの以外の任意の香料を含む場合に,課題が解決されるかは不明である。 よって,出願時の技術常識に照らしても,本件発明の範囲まで,発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化することができるとはいえないので,本件発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)イ(ウ))。 (4) 本件明細書の発明の詳細な説明の記載では,飲料自体の香味を損なうことなく,良好な炭酸感を知覚することのできるとの風味を得るためには,ティリロサイド含有量及びBrixの範囲を特定すれば足り,他の成分及び物性の特定は要しないことを,当業者が理解することができるとはいえず,実施例の結果から,直ちに,ティリロサイド含有量及びBrixについて規定される範囲と,飲料自体の香味を損なうことなく,良好な炭酸感を知覚することのできるという風味との関係の技術的な意味を,当業者が理解することができるとはいえない。 したがって,出願時の技術常識を考慮しても,ティリロサイド含有量及びBrixが本件発明の数値範囲内にあることにより,ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善されるという風味が得られることが裏付けられていることを理解することができるとはいえない。 よって,本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)イ(エ))。 (5) 発明の詳細な説明における実験2?4において,飲料自体の香味又は呈味自体がどのようなものであるか明らかでなく,どのような指標についてどの程度の影響が見られた場合に呈味や香味が損なわれていないと判断するのか不明である。 実験3,4の試料においては,ティリロサイド以外の成分を含む実験2の試料よりも,ティリロサイドを含有することによる香味や呈味への影響が大きくなると推測される。実験2において,ティリロサイドの濃度1.5mg/100mlの試料で効果が確認されていないことを考慮すると,実験3,4において,ティリロサイド濃度の上限値である1.0mg/100mlでも発明の効果を奏するとは考えられない。 よって,本件発明は,本件明細書の開示を超えて特許を請求しようとするものであるから,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 また,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明を実施することができるように記載されたものではなく,同法36条4項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)イ(オ))。 (6) 試料2-2と試料2-3とでティリロサイド含有量が1.5倍になったときに炭酸感が1点上がるのに対し,試料2-3と試料2-7とでティリロサイド含有量が100倍となったのになぜ炭酸感が同じ3点であるのか理解することができないから,炭酸感の評価方法及び評価基準が妥当であるかがわからず,本件発明が発明の課題を解決することができているのか理解することができない。 よって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明の実施をすることができるようには記載されたものではなく,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)イ(カ))。 (7) 本件明細書には,実施例として,詳細不詳の香料などを含む特定の配合の炭酸飲料(試料1-2,2-1?2-7)が記載されているが,香味に有意な影響を及ぼす香料がどのようなものであるのかがわからなければ,当業者は発明の課題が解決されているかを理解することができない。香料の詳細がわからなければ,当業者は実施例を追試することもできず,本件発明を実施することもできず,本件発明が発明の課題を解決したものであることを理解することができない。 よって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明の実施をすることができるようには記載されたものではなく,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)イ(キ))。 2 判断 (1) 理由(1)について 本件明細書の発明の詳細な説明において開示された実験2?4の結果からすると,炭酸ガス圧一定の条件下で,特定量のティリロサイドを含有させることで,Brixが低い炭酸飲料に関し,飲料自体の香味を損なうことなく,良好な炭酸感を知覚することのできるといった,本件発明の課題が解決されていることがわかる(【0036】?【0041】)。 また,本件発明は,Brixが0又は3.0で,市販の炭酸水にティリロサイドを配合したのみの,水のような,炭酸飲料において効果が確認されており(試料3-2,4-2),特定量のティリロサイドを含有させることが,課題との関係で重要であることがわかる。 そして,他に,ティリロサイドが奏する当該効果に影響を与えるような成分が存在することは立証されておらず,当該炭酸増強剤がティリロサイドが奏する当該効果に影響を与えると直ちに解することはできない。 よって,任意の成分を任意の含有量で含む炭酸飲料について,本件発明の課題を達成することができないとは認められないから,出願時の技術常識に照らしても,本件発明の範囲まで,発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化することができないとはいえず,本件発明が,発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。 (2) 理由(2)について 既に述べたとおり,高甘味度甘味料を使用した炭酸飲料はBrixが低く,Brixが高い炭酸飲料と比べて,炭酸感を感じにくい,Brixが低い炭酸飲料の場合には,添加剤に起因する呈味が目立ちやすくなり飲用しがたくなる,といったことがあるところ(前記第4・2(1)),実験2?4では,Brixが0?3.0である,Brixがより低い炭酸飲料について効果が確認されている(【0036】?【0040】)。すなわち,より問題点が顕著となり得る炭酸飲料において,本件発明の効果が確認されているものである。 そして,Brixが0?3.0で効果を奏することが確認されているのであるから,より条件が緩和されている,Brixが3.0より大きく8.0以下である炭酸飲料においても,本件発明は効果を奏するものと認められる。 よって,出願時の技術常識に照らしても,「Brixが8.0以下である」ことを充足すれば本件発明の課題を解決することができるということを,当業者が理解することができないとはいえない。 また,発明の詳細な説明の記載を参酌しても,当業者は,本件発明が発明の課題を解決することができるものであることを理解することができないとはいえない。 (3) 理由(3)について 既に述べたとおり,本件発明は,Brixが低い炭酸飲料の場合に,添加剤に起因する呈味が目立ちやすくなり飲用しがたくなることがある,といった問題を踏まえてなされたものであって,本件発明において添加される量のティリロサイドは,飲料自体が有する呈味に影響を及ぼすことなく,好ましい炭酸刺激を付与できることを本件発明者らは見出し,これらの知見に基づき,本件発明を完成したものである(前記第4・2(1))。 発明の詳細な説明によれば,ティリロサイドの含有量が1.0mg/100mlを超えた場合は,ティリロサイドの苦味や収斂味が飲料自体に影響を及ぼし,飲用しがたくなることがあるが(【0013】,【0037】(試料2-7)),特定量のティリロサイドは,低Brixの炭酸飲料であっても,余計な呈味を付与することがない(【0022】,【0037】(試料2-2-6))。 つまり,本件発明は,ティリロサイドの苦味や収斂味が,Brixが低い炭酸飲料自体が本来有する香味や呈味に影響を及ぼし,炭酸飲料に余計な呈味を付与し飲用しがたくなることがなく,好ましい炭酸刺激を付与することをもって,本件発明の課題(Brixの低い炭酸飲料において,飲料自体の香味を損なうことなく,良好な炭酸感を知覚することのできる炭酸飲料を提供すること)を解決したものであることがわかる。 そして,官能評価に係るパネルであれば,炭酸飲料中のティリロサイドの苦味や収斂味を識別することが可能であると認められ,ティリロサイドの苦味や収斂味が,炭酸飲料自体が本来有する香味や呈味に影響を及ぼし,炭酸飲料に余計な呈味を付与し飲用しがたくなる(余計な呈味を付与し,飲用しがたくなる程度に,ティリロサイドの苦味や収斂味が感じられる)か否かを評価することは可能であると認められる。 そうすると,実験2?4において,無糖及び砂糖を含む炭酸水の香味自体や,試料2-2?2-6の炭酸飲料に配合された香料が具体的には明らかにされていないとしても,特定量のティリロサイドの含有量とすることで,ティリロサイドの苦味や収斂味が,炭酸飲料自体が本来有する香味や呈味に影響を及ぼし,余計な呈味を付与することがなく,飲用しがたくなることがない点が確認されていることから,本件発明は課題を解決することができたものであると理解することができる。 また,ティリロサイドが奏する当該効果に影響を与えるような香料が存在することは立証されていないから,実験2において使用されたもの以外の任意の香料を含む場合にも,本件発明は課題を解決することができるものと認められる。 よって,出願時の技術常識に照らしても,本件発明の範囲まで,発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化することができないとはいえない。 (4) 理由(4)について 本件明細書の発明の詳細な説明によれば,実験2?4において,Brixが0?3.0の炭酸飲料について,本件発明の効果が確認されているが,実験2?4において,ティリロサイドの含有量以外の条件をそろえた上で実験が行われているといえる(【0033】?【0041】)。 そして,Brixの低い炭酸飲料において,飲料自体の香味を損なうことなく,良好な炭酸感を知覚することのできることに関し,他に要因が存在することは立証されていないから,ティリロサイド含有量及びBrixについて規定される範囲と,飲料自体の香味を損なうことなく,良好な炭酸感を知覚することのできるという風味との関係の技術的な意味を,当業者は理解することができるものと認められる。 よって,本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。 (5) 理由(5)について 既に述べたとおり,本件明細書の発明の詳細な説明において,実験2?4における飲料自体の香味又は呈味自体がどのようなものであるか明らかでないとしても,本件発明は課題を解決することができたものであると理解することができる(前記(3))。 また,実験2におけるティリロサイド以外の成分が,ティリロサイドの苦味や収斂味に関し影響を及ぼしていることは立証されていないから,実験3,4において,実験2に比し,ティリロサイドを含有することによる香味や呈味への影響が大きくなるものとは解されず,ティリロサイド濃度が1.0mg/100mlでも当該効果を奏するものと認められる。 よって,本件発明は,本件明細書の開示を超えて特許を請求しようとするものであるとはいえない。 また,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明を実施することができるように記載されたものではないとはいえない。 (6) 理由(6)について 本件明細書の発明の詳細な説明には,官能評価に関し,試料について,3名のパネルにより炭酸感の強さについて3段階評価法にて評価したこと,官能評価基準は,実験1のBrixの高い炭酸飲料(試料1-1)の炭酸感を3点:炭酸感がとても強い(炭酸感が十分にある),実験1の無糖炭酸飲料(試料1-2)の炭酸感を1点:炭酸感が弱い,2点:炭酸感があるとして,各パネルそれぞれが評価した結果を,再度全員で自由討議し,全員の合意のもとに整数値で表記し,評価点は,2点以上のものが炭酸飲料として良好な炭酸感であると判定したことが記載されている(【0036】,【0039】,【0040】)。 こうした官能評価の場合,試料1-1の炭酸感と同等以上のものは同じ評価となり得ると解されるし,ティリロサイドの含有量の増加による効果がパネルの味覚との関係において飽和することもあり得るから,ティリロサイドの含有量が100倍の範囲にわたり同じ評価となることが,必ずしも不合理ということはない。 よって,炭酸感の評価方法及び評価基準が妥当でないとはいえず,本件発明が発明の課題を解決することができているのか理解することができないとは認められないから,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明の実施をすることができるようには記載されたものではないとはいえない。 (7) 理由(7)について 既に述べたとおり,本件明細書の発明の詳細な説明において,実験2における香料自体がどのようなものであるか明らかでないとしても,本件発明は課題を解決することができたものであると理解することができる(前記(3))。 また,実験2に係る香料は,常識的に炭酸飲料に添加される香料であると解され,当業者にとって追試が不可能というほどの事情とは認められない。 よって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明の実施をすることができるようには記載されたものではないとはいえない。 (8) そして,本件明細書の発明の詳細な説明,本件特許請求の範囲には,特段不備は認められない。 第6 むすび 以上のとおり,本件特許は,特許法36条4項1号又は同法36条6項1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとは認められないから,前記取消理由及び特許異議申立ての理由により取り消すことはできない。 また,他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 0.01?1.0mg/100mLの濃度のティリロサイドを含有し、Brixが8.0以下であり、炭酸ガス圧が1.0?5.0kgf/cm^(2)である、炭酸飲料。 【請求項2】 高甘味度甘味料をさらに含有する、請求項1に記載の飲料。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-03-04 |
出願番号 | 特願2017-145491(P2017-145491) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(A23L)
P 1 651・ 536- YAA (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小林 薫 |
特許庁審判長 |
松下 聡 |
特許庁審判官 |
窪田 治彦 槙原 進 |
登録日 | 2018-02-02 |
登録番号 | 特許第6283446号(P6283446) |
権利者 | サントリーホールディングス株式会社 |
発明の名称 | ティリロサイド含有炭酸飲料 |
代理人 | 中村 充利 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 宮前 徹 |
代理人 | 中西 基晴 |
代理人 | 中村 充利 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 武田 健志 |
代理人 | 中西 基晴 |
代理人 | 武田 健志 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 宮前 徹 |