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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G02F 審判 全部申し立て 2項進歩性 G02F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G02F |
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管理番号 | 1351403 |
異議申立番号 | 異議2018-700258 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-03-27 |
確定日 | 2019-03-29 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6205089号発明「液晶表示装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6205089号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6205089号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第6205089号の請求項1?6に係る出願(特願2017-531407号)は,2017年3月24日を国際出願日(優先権主張 平成28年3月31日)とするものであって,平成29年9月8日付けで設定登録がされ,同年9月27日にその特許掲載公報が発行され,平成30年3月27日に,その特許に対し,特許異議申立人 鈴木美香(以下「申立人」という。)により請求項1ないし6に対して特許異議の申立てがされたものである。以後の手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年 5月30日:取消理由通知(同年6月4日発送) 平成30年 8月 3日:意見書 平成30年 8月22日:取消理由通知(同年8月27日発送) 平成30年10月26日:訂正請求書・意見書 平成30年11月22日:通知書(同年11月28日発送) 平成30年12月25日:意見書 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 平成30年10月26日にされた訂正請求(以下「本件訂正請求」という。また,その訂正を「本件訂正」という。)は,特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?6について訂正することを求めるものであって,以下の訂正事項1ないし6からなる(下線は当審で付加。以下同様。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「前記偏光板Aは,偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行であり,偏光子の少なくとも片面にポリエステルフィルムが積層された構造であり, 前記偏光板Bは,偏光子の吸収軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行であり,偏光子の少なくとも片面に保護フィルムが積層された構造であり, 前記ポリエステルフィルムの液晶表示装置の長辺方向の収縮力F_( f )と,偏光板Bが有する偏光子の液晶表示装置の長辺方向の収縮力F_( p )が下記式(1)を満たすことを特徴とする液晶表示装置。 式(1) 0.1≦F_(f)/F_(p )≦2」 と記載されているのを 「前記偏光板Aは,下記の特徴(A1)?(A4)を満たし, (A1)偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行であり, (A2)偏光子の液晶セルに対して遠位側の面にはポリエステルフィルムAが積層され, (A3)ポリエステルフィルムAは,一軸延伸され,熱固定後の冷却過程において前記一軸延伸と同じ方向に再度延伸されたものであり,前記延伸の方向は,前記偏光子の透過軸と平行であり, (A4)偏光子の液晶セル側の面には,保護フィルム又は光学補償フィルムとして,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムは積層されておらず, 前記偏光板Bは,下記特徴(B1)?(B4)を満たし, (B1)偏光子の吸収軸方向は液晶表示装置の長辺方向と平行であり, (B2)偏光子の液晶セル側の面には,保護フィルム又は光学補償フィルムとして,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムは積層されておらず, (B3)偏光子の液晶セルに対して遠位側の面には,ポリエステルフィルムAが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムとして,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されており, (B4)ポリエステルフィルムAの延伸の方向は偏光板Bが有する偏光子の透過軸と平行であり, 偏光板Aが有するポリエステルフィルムAの液晶表示装置の長辺方向の収縮力F_(f )と,偏光板Bが有する偏光子の液晶表示装置の長辺方向の収縮力F_( p )が下記式(1)を満たす,液晶表示装置。 式(1) 0.1≦F_(f)/F_(p)_( )<1.0」 に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に 「前記ポリエステルフィルムの液晶表示装置の長辺方向の弾性率が1000?9000N/mm^(2)であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。」 と記載されているのを 「偏光板Aが有するポリエステルフィルムAの液晶表示装置の長辺方向の弾性率が1000?9000N/mm^(2)であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。」 に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に 「前記ポリエステルフィルムの液晶表示装置の長辺方向の熱収縮率が0.1?5%であることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶表示装置。」 と記載されているのを 「偏光板Aが有するポリエステルフィルムAの液晶表示装置の長辺方向の熱収縮率が0.1?5%であることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶表示装置。」 に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に 「前記ポリエステルフィルムの厚みが40?200μmであることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の液晶表示装置。」 と記載されているのを 「前記ポリエステルフィルムAの厚みが40?200μmであり,前記ポリエステルフィルムAの面内リタデーションは3000nm以上30000nm以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の液晶表示装置。」 に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に 「前記ポリエステルフィルムの配向主軸の傾きが15度以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の液晶表示装置。」 と記載されているのを 「偏光板Aが有するポリエステルフィルムAの配向主軸の傾きが15度以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の液晶表示装置。」 に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に 「前記ポリエステルフィルムの収縮主軸の傾きが15度以下であることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の液晶表示装置。」 と記載されているのを 「偏光板Aが有するポリエステルフィルムAの収縮主軸の傾きが15度以下であることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の液晶表示装置。」 に訂正する。 2 当審の判断 (1)訂正事項1 以下においては,訂正事項1について,訂正事項1-1ないし訂正事項1-5に分けて検討する。 ア 訂正の目的の適否 a 訂正事項1-1 本件訂正前の請求項1に係る発明は,偏光板Aに関し,偏光子のいずれの面にポリエステルフィルムが積層されているのかを規定していない。これに対し,本件訂正後の請求項1は,「(A2)偏光子の液晶セルに対して遠位側の面にはポリエステルフィルムAが積層され,」との記載により,本件訂正後の請求項1に係る発明(以下,「訂正発明1」とする)において,偏光子の液晶セルに対して遠位側の面にポリエステルフィルムが積層されていることを特定し,限定するものである。 b 訂正事項1-2 訂正前の請求項1に係る発明は,偏光板Aに含まれるポリエステルフィルムの延伸条件や延伸方向を規定していない。これに対し,訂正後の請求項1は,「(A3)ポリエステルフィルムAは,一軸延伸され,熱固定後の冷却過程において前記一軸延伸と同じ方向に再度延伸されたものであり,前記延伸の方向は,前記偏光子の透過軸と平行であり,」との記載により,訂正発明1において,ポリエステルフィルムが,一軸延伸され,熱固定後の冷却過程において前記一軸延伸と同じ方向に再度延伸されたものであり,前記延伸の方向は,偏光板Aに含まれる偏光子の透過軸と平行であることを特定し,限定するものである。 c 訂正事項1-3 訂正前の請求項1に係る発明は,偏光板Aに含まれる偏光子の液晶セル側の面に関し,特段規定していない。これに対し,訂正後の請求項1は,「(A4)偏光子の液晶セル側の面には,保護フィルム又は光学補償フィルムとして,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムは積層されておらず」との記載により,訂正発明1において,偏光子の液晶セル側の面に,保護フィルム又は光学補償フィルムとしてTACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムは積層されていないことを特定し,限定するものである。 d 訂正事項1-4 訂正前の請求項1に係る発明は,偏光板Bに関し,偏光子の少なくとも片面に保護フィルム積層されていることのみを規定し,保護フィルムの種類や配置される面は規定されていない。これに対し,訂正後の請求項1は, 「(B2)偏光子の液晶セル側の面には,保護フィルム又は光学補償フィルムとして,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムは積層されておらず, (B3)偏光子の液晶セルに対して遠位側の面には,ポリエステルフィルムAが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムとして,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されており, (B4)ポリエステルフィルムAの延伸の方向は偏光板Bが有する偏光子の透過軸と平行であり,」 との記載により,偏光板Bが有する偏光子の液晶セル側の面には,保護フィルム又は光学補償フィルムとして,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムは積層されておらず,偏光子の反対側の面には,偏光板Aに含まれるポリエステルフィルムと同じポリエステルフィルムが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムとして,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されており,ポリエステルフィルムが積層されている場合,その延伸の方向は偏光板Bが有する偏光子の透過軸と平行であることを特定し,限定するものである。 e 訂正事項1-5 訂正前の請求項1に係る発明は,偏光板Aが有するポリエステルフィルムの長辺方向の収縮力Ffと偏光板Bが有する偏光子の長辺方向の収縮料Fpについて,0.1≦F_( f )/F_( p )≦2の関係を満たすことを規定する。これに対し,訂正後の請求項1は,「0.1≦F_(f)/F_(p )<1.0」との記載により,訂正発明1におけるF_(f)とF_(p)の関係をさらに限定するものである。 f 小括 以上のとおりであるから,訂正事項1-1ないし1-5から成る訂正事項1は,訂正前の請求項1の発明特定事項をさらに特定し,限定するものである。よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 新規事項追加の有無 a 訂正事項1-1 偏光板Aが有する偏光子の液晶セルに対して遠位側の面にポリエステルフィルムが積層されることは,願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0015】の「ポリエステルフィルムは,偏光子の液晶セル側,液晶セルとは遠位側(外側)のいずれか(又は両側)に配置することができるが,偏光子の液晶セルとは遠位側(外側)に配置することが好ましい。」との記載から導き出される構成である。 b 訂正事項1-2 偏光板Aが有するポリエステルフィルムが,一軸延伸され,熱固定後の冷却過程において前記一軸延伸と同じ方向に再度延伸されたものであり,前記延伸の方向は,偏光板Aに含まれる偏光子の透過軸と平行であることに関して,本件明細書の段落【0042】?【0045】,【0065】,【0066】,【0074】?【0080】,【0082】,及び【0083】から導き出されるといえる。 すなわち,段落【0042】には, 「偏光板Aに偏光子保護フィルムとして使用するポリエステルフィルムの弾性率は,偏光子透過軸方向(即ち,液晶表示装置の長辺方向)がポリエステルフィルムの製膜時のMDと一致する場合にはMDの弾性率を,ポリエステルフィルムの製膜時のTDと一致する場合にはTDの弾性率を,延伸ポリエステルフィルムの従来公知の方法で調整すればよい。具体的には,該方向が延伸方向の場合には,延伸倍率を高く,該方向が延伸方向と直交方向の場合には延伸倍率を低く設定すればよい。」と記載されている。 段落【0043】には, 「ポリエステルフィルムの熱収縮率は,偏光子の透過軸方向(即ち,液晶表示装置の長辺方向)がポリエステルフィルムの製膜時のMDと一致する場合にはMDの熱収縮率を,ポリエステルフィルムの製膜時のTDと一致する場合にはTDの熱収縮率を,延伸ポリエステルフィルムの従来公知の方法で調整すればよい。」と記載されている。 段落【0044】には,「ポリエステルフィルムのMDの熱収縮率を調整する場合は,例えば,延伸・熱固定後の冷却過程において・・・MDに延伸する」と記載されている。 段落【0045】には, 「ポリエステルフィルムのTDの熱収縮率を調整する場合は,例えば,延伸・熱固定後の冷却過程において・・・TDに延伸する」と記載されている。 段落【0065】には,「・・・未延伸フィルムをテンター延伸機に導き,フィルムの端部をクリップで把持しながら,温度105℃の熱風ゾーンに導き,TDに4 .0倍に延伸した。次に,・・・フィルム厚み約80μmの一軸配向PETフィルムからなるジャンボロールを採取し,・・・偏光子保護フィルム1を得た」と記載されている。 段落【0066】には 「PVAとヨウ素とホウ酸からなる偏光子(偏光子の吸収軸方向の収縮力が5100N/m)の片側に偏光子保護フィルム1を偏光子の透過軸とフィルムのMDが平行になるように貼り付けた。また,偏光子の反対の面にTACフィルム(富士フィルム(株)社製,厚み80μm)を貼り付けた。このようにして,長辺方向が偏光子の透過軸方向と一致する偏光板(偏光板A)と,長辺方向が偏光子の吸収軸方向と一致する偏光板(偏光板B)を作成した。厚さ0.4mmのガラス基板を用いた50インチサイズのIPS型液晶セルの視認側に偏光板Bを,光源側に偏光板Aを,それぞれ偏光子保護フィルム1が液晶セルとは遠位側(反対側)となるようにPSAを介して貼り合わせて液晶パネルを作成した。この液晶パネルを筐体に組み込んで液晶表示装置を作成した。」と記載されている。 段落【0074】には, 「100℃まで冷却したフィルムを幅方向に2 .5%延伸とした以外は偏光子保護フィルム8と同様にして偏光子保護フィルム9を得た。次に,吸収軸方向の収縮力が5100N/mの偏光子から11200N/mの偏光子に代えたこと,偏光子の透過軸と偏光子保護フィルムのTDが平行になるように貼り合わせて偏光板A及び偏光版Bを作成したこと,及び,偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム9に代えたこと以外は,実施例1と同様にして液晶表示装置を得た。」と記載されている。 前記段落【0065】及び【0066】の記載を踏まえれば,段落【0074】には,ポリエステルフィルムをTD方向に4.0倍に延伸し,更に熱固定後の冷却工程において幅方向(TD方向)に2.5%延伸したポリエステルフィルムを偏光子の透過軸と延伸方向(TD方向)が平行となるように偏光子の一方の面にに貼り合わせ,他方の面にTACフィルムを貼り合わせた偏光板A及び偏光板Bを作成し,それらのポリエステルフィルムが液晶セルに対して遠位側になるように配置して液晶表示装置を作成したことが記載されているといえる。 また,段落【0074】と同様の記載が【0075】?【0080】,【0082】及び【0083】の実施例10?15,17及び18にもあり,これらの記載からも同様のことがいえる。 c 訂正事項1-3 偏光板Aが有する偏光子の液晶セル側に,保護フィルム又は光学補償フィルムとして,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムは積層されていないことは,本件明細書の段落【0015】から導き出される構成といえる。 すなわち,段落【0015】には, 「偏光子のポリエステルフィルムを積層した面とは反対側の面には,TACフィルム,環状オレフィンフィルム,アクリルフィルム等のリタデーションの低い保護フィルムや光学補償フィルムを積層することができる。 ・・・偏光板Aは,偏光子の片面のみポリエステルフィルムが積層され,偏光子のもう一方の面には保護フィルムや光学補償フィルムが積層されない構造も好ましい形態の一つである。」と記載されている。 d 訂正事項1-4 偏光板Bが有する偏光子の液晶セル側の面には,保護フィルム又は光学補償フィルムとして,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムは積層されておらず,偏光子の反対側の面には,偏光板Aに含まれるポリエステルフィルムと同じポリエステルフィルムが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムとして,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されており,ポリエステルフィルムが積層されている場合,その延伸の方向は偏光板Bが有する偏光子の透過軸と平行であることは,本件明細書の段落【0017】,【0018】,【0065】,【0066】, 【0074】?【0080】,【0082】,及び【0083】から導き出される構成といえる。 すなわち,段落【0017】には, 「偏光板Bは,偏光子の吸収軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行(即ち,偏光子の吸収軸が偏光板Bの長辺方向と平行であることと同義)であり,偏光子の少なくとも片面に保護フィルムが積層された構造である。保護フィルムには,TACフィルム,環状オレフィンフィルム,アクリルフィルム等のリタデーションの低い保護フィルムや光学補償フィルムを積層することができる。・・・また,保護フィルムとして,ポリエステルフィルムを偏光子に積層することもできる。ポリエステルフィルムを用いる場合は,偏光子の液晶セルとは遠位側に積層することが好ましい。」と記載されている。 段落【0018】には, 「偏光板Bは,偏光子の片面にポリエステルフィルムが積層され,もう一方の面に上述の保護フィルムや光学補償フィルムが積層された構造であってもよい。また,偏光版Bは,偏光子の片面のみポリエステルフィルムが積層され,偏光子のもう一方の面には保護フィルムや光学補償フィルムが積層されない構造も好ましい形態の一つである。」と記載されている。 本件明細書の段落【0065】,【0066】,及び【0074】?【0080】には,前記bのとおり,偏光板Aと偏光板Bとして長辺方向のみが異なる2つの偏光板を,それぞれのポリエステルフィルムが積層されている側が液晶セルに対して遠位になるよう配置した液晶表示装置が記載されている。 e 訂正事項1-5 偏光板Aが有するポリエステルフィルムの長辺方向の収縮力Ffと偏光板Bが有する偏光子の長辺方向の収縮力F_(p) が0.1≦F_(f)/F_(p )<1.0という関係を満たすことは,本件明細書の段落【0021】の記載から導き出される構成といえる。すなわち,段落【0021】には,「・・・0.1≦F_(f)/F_(p )<1.0・・・であることが好ましい。」と記載されている。 f 小括 以上のとおり,訂正事項1を構成する訂正事項1-1?1-5は,いずれも本件明細書の記載から導き出される事項である。よって,訂正事項1は,本件明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否 訂正事項1は,上記アのとおり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2 ア 訂正の目的の適否 訂正事項2は,本件訂正前の請求項2における「前記ポリエステルフィルム」が,本件訂正前の請求項1の「前記偏光板Aは,偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行であり,偏光子の少なくとも片面にポリエステルフィルムが積層された構造」における「ポリエステルフィルム」であったところ,上記訂正事項1によって,偏光板Aが有するポリエステルフィルムAと同じポリエステルフィルムAを偏光板Bも有し得ることが規定されたことを受け,本件訂正前の請求項2のポリエステルフィルムの弾性率に関する規定が,偏光板Aが有するポリエステルフィルムAに関するものであることを明らかにするものである。よって,訂正事項2は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 イ 新規事項追加の有無 上記アのとおり,訂正事項2は,訂正事項1に伴って「ポリエステルフィルムA」を備え偏光板が「偏光板A」であることを明らかにするものであり,本件明細書の段落【0023】の「偏光板Aに使用するポリエステルフィルムは,液晶表示装置の長辺方向の弾性率が1000?9000N/mm^(2)であることが好ましい。」との記載から導き出される事項である。 よって,訂正事項2は,本件明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否 訂正事項2は,上記アのとおり,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正あり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。よって,訂正事項2は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。 (3)訂正事項3 ア 訂正の目的の適否 訂正事項3は,本件訂正前の請求項3における「前記ポリエステルフィルム」が,本件訂正前の請求項1の「前記偏光板Aは,偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行であり,偏光子の少なくとも片面にポリエステルフィルムが積層された構造」における「ポリエステルフィルム」であったところ,上記訂正事項1によって,偏光板Aが有するポリエステルフィルムAと同じポリエステルフィルムAを偏光板Bも有し得ることが規定されたことを受け,本件訂正前の請求項3のポリエステルフィルムの熱収縮率に関する規定が,偏光板Aが有するポリエステルフィルムAに関するものであることを明らかにするものである。よって,訂正事項2は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 イ 新規事項追加の有無 上記アのとおり,訂正事項3は,訂正事項1に伴って「ポリエステルフィルムA」を備える偏光板が「偏光板A」であることを明らかにするものであり,本件明細書の段落【0024】の「偏光板Aに使用するポリエステルフィルムは,100℃,30分熱処理時の液晶表示装置の長辺方向の熱収縮率が0.1?5%であることが好ましい。」との記載から導き出される事項である。よって,訂正事項3は,本件明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否 訂正事項3は,上記アのとおり,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正あり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。よって,訂正事項3は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。 (4)訂正事項4 ア 訂正の目的の適否 訂正事項4は,本件訂正前の請求項4における「前記ポリエステルフィルム」が,本件訂正前の請求項1における「ポリエステルフィルム」であったところ,上記訂正事項1によって「ポリエステルフィルムA」とされたことを受け,本件訂正前の請求項4における規定が,ポリエステルフィルムAに関するものであることを明らかにするとともに,ポリエステルフィルムAの面内リタデーションが3000nm以上30000nm以下であることを限定するものである。よって,訂正事項4は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明,及び同第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 新規事項追加の有無 訂正事項4のうち,訂正事項1に伴って「ポリエステルフィルムA」とする点については,本件明細書の段落【0025】の「偏光板Aに使用するポリエステルフィルムは,厚みが40?200μmであることが好ましい。」との記載から導き出される事項である。また,訂正事項4のうち,ポリエステルフィルムAの面内リタデーションが3000nm以上30000nm以下であることについては,本件明細書の段落【0028】の「偏光板Aに使用するポリエステルフィルムは,液晶表示装置の画面上に観察される虹斑を抑制する観点から,面内リタデーションが特定範囲にあることが好ましい。面内リタデーションの下限は,3000nm以上,5000nm以上,6000nm以上,7000nm以上,又は8000nm以上であることが好ましい。面内リタデーションの上限は,30000nm以下が好ましく,より好ましくは18000nm以下,さらに好ましくは15000nm以下である。」との記載から導き出される事項である。よって,訂正事項4は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否 訂正事項4は,上記アのとおり,明瞭でない記載の釈明,及び特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正あり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。 (5)訂正事項5 ア 訂正の目的の適否 訂正事項5は,本件訂正前の請求項5における「前記ポリエステルフィルム」が,本件訂正前の請求項1の「前記偏光板Aは,偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行であり,偏光子の少なくとも片面にポリエステルフィルムが積層された構造」における「ポリエステルフィルム」であったところ,上記訂正事項1によって,偏光板Aが有するポリエステルフィルムAと同じポリエステルフィルムAを偏光板Bも有し得ることが規定されたことを受け,本件訂正前の請求項5のポリエステルフィルムの配向主軸の傾きに関する規定が,偏光板Aが有するポリエステルフィルムAに関するものであることを明らかにするものである。よって,訂正事項5は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 イ 新規事項追加の有無 上記アのとおり,訂正事項5は,訂正事項1に伴って「ポリエステルフィルムA」を備える偏光板が「偏光板A」であることを明らかにするものであり,本件明細書の段落【0026】の「偏光板Aに使用するポリエステルフィルムは,ポリエステルフィルムの配向主軸と液晶表示装置の長辺方向または短辺方向との傾きが15度以下であるであることが望ましい。」との記載から導き出される事項である。よって,訂正事項5は,本件明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否 訂正事項5は,上記アのとおり,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正あり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。よって,訂正事項2は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。 (6)訂正事項6 ア 訂正の目的の適否 訂正事項6は,本件訂正前の請求項6における「前記ポリエステルフィルム」が,本件訂正前の請求項1の「前記偏光板Aは,偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行であり,偏光子の少なくとも片面にポリエステルフィルムが積層された構造」における「ポリエステルフィルム」であったところ,上記訂正事項1によって,偏光板Aが有するポリエステルフィルムAと同じポリエステルフィルムAを偏光板Bも有し得ることが規定されたことを受け,本件訂正前の請求項6のポリエステルフィルムの収縮主軸の傾きに関する規定が,偏光板Aが有するポリエステルフィルムAに関するものであることを明らかにするものである。よって,訂正事項6は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 イ 新規事項追加の有無 上記アのとおり,訂正事項6は,訂正事項1に伴って「ポリエステルフィルムA」を備える偏光板が「偏光板A」であることを明らかにするものであり,本件明細書の段落【0027】の「偏光板Aに使用するポリエステルフィルムは,ポリエステルフィルムの収縮主軸について,液晶表示装置の長辺方向または短辺方向との狭角が15度以下であることが望ましい。」との記載から導き出される事項である。よって,訂正事項6は,本件明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否 訂正事項6は,上記アのとおり,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正あり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。よって,訂正事項6は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。 (7)一群の請求項について 訂正事項1に係る訂正前の請求項1?6について,請求項2?6は,請求項1を引用しているものであって,訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1?6に対応する訂正後の請求項1?6は,特許法120条の5第4項の規定する一群の請求項である。 (8)むすび 以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-6〕について訂正を認める。 第3 訂正発明 上記のとおり,本件訂正が認められたので,本件特許の訂正後の請求項1?6に係る発明は,請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下「訂正発明1」?「訂正発明6」という。)。 「【請求項1】 液晶セル,液晶セルの一方の面に貼り合わされた偏光板A,液晶セルのもう一方の面に貼り合わされた偏光板Bを有する液晶表示装置において, 前記偏光板Aは,下記の特徴(A1)?(A4)を満たし, (A1)偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行であり, (A2)偏光子の液晶セルに対して遠位側の面にはポリエステルフィルムAが積層され, (A3)ポリエステルフィルムAは,一軸延伸され,熱固定後の冷却過程において前記一軸延伸と同じ方向に再度延伸されたものであり,前記延伸の方向は,前記偏光子の透過軸と平行であり, (A4)偏光子の液晶セル側の面には,保護フィルム又は光学補償フィルムとして,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムは積層されておらず, 前記偏光板Bは,下記特徴(B1)?(B4)を満たし, (B1)偏光子の吸収軸方向は液晶表示装置の長辺方向と平行であり, (B2)偏光子の液晶セル側の面には,保護フィルム又は光学補償フィルムとして,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムは積層されておらず, (B3)偏光子の液晶セルに対して遠位側の面には,ポリエステルフィルムAが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムとして,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されており, (B4)ポリエステルフィルムAの延伸の方向は偏光板Bが有する偏光子の透過軸と平行であり, 偏光板Aが有するポリエステルフィルムAの液晶表示装置の長辺方向の収縮力Ffと,偏光板Bが有する偏光子の液晶表示装置の長辺方向の収縮力Fp下記式(1)を満たす,液晶表示装置。 式(1) 0.1≦F_(f)/F_(p)<1.0 (ただし,収縮力F_(f)(N/m)は,ポリエステルフィルムの厚み(mm)×弾性率(N/mm2)×熱収縮率(%)÷100×1000であり,収縮力F_(p)(N/m)は,偏光板Bの偏光子の厚み(mm)×弾性率(N/mm2)×熱収縮率(%)÷100×1000である。) 【請求項2】 偏光板Aが有するポリエステルフィルムAの液晶表示装置の長辺方向の弾性率が1000?9000N/mm2であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。 【請求項3】 偏光板Aが有するポリエステルフィルムAの液晶表示装置の長辺方向の熱収縮率が0.1?5%であることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶表示装置。 【請求項4】 前記ポリエステルフィルムAの厚みが40?200μmであり,前記ポリエステルフィルムAの面内リタデーションは3000nm以上30000nm以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項5】 偏光板Aが有するポリエステルフィルムAの配向主軸の傾きが15度以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項6】 偏光板Aが有するポリエステルフィルムAの収縮主軸の傾きが15度以下であることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の液晶表示装置。」 第4 取消理由の概要 本件訂正前の請求項1?6に係る特許に対して,当審が特許権者に通知した取消理由(以下,単に「取消理由」という。また,本件訂正前の請求項1?6に係る発明を,以下「本件特許発明1」?「本件特許発明6」という。)の概要は以下のとおりである。 (特許法第36条第6項第1号) 本件特許発明1?6に記載された偏光板A及び偏光板Bについて,各偏光板に含まれる保護フィルム等の構成が有する「収縮力」を考慮することなく,「偏光板A」の少なくとも片面に積層された「ポリエステルフィルム」,及び「偏光板Bが有する偏光子」の各々の「長辺方向の収縮力」に関する条件のみで,「偏光板/液晶セル/偏光板からなる積層体の反り」を解決することができるのかが不明である。よって,本件特許発明1?6に包含される全ての範囲について,課題が解決できることまでは記載されているとはいえないから,本件特許発明1(本件特許発明2?6についても同様。)は,発明の詳細な説明に記載したものではない。 第5 取消理由についての判断 1 前記「第3 訂正発明」に記載したとおり,訂正発明1においては, 偏光板Aについて,偏光子の液晶セルに対して遠位側の面に積層された「ポリエステルフィルムAは,一軸延伸され,熱固定後の冷却過程において前記一軸延伸と同じ方向に再度延伸されたものであり,前記延伸の方向は前記偏光子の透過軸と平行であり」, また,偏光板Bについて,「偏光子の液晶セルに対して遠位側の面に,前記ポリエステルフィルムAが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムとして,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層され,ここで,前記ポリエステルフィルムAが積層された場合には当該ポリエステルフィルムAの延伸の方向は偏光板Bが有する偏光子の透過軸と平行であ」ることが特定されている。 2 上記1の各特定事項を含む訂正発明1において,偏光板BにおいてポリエステルフィルムAが積層された場合は,偏光板Bにおける長辺方向は,その偏光子の吸収軸方向と平行であるところ,「当該ポリエステルフィルムAの延伸の方向は偏光板Bが有する偏光子の透過軸と平行であ」り,吸収軸方向と直交するから,偏光板Bに係るポリエステルフィルムAの長辺方向は,その延伸方向とは直交する方向となる。 ここで,ポリエステルフィルムAの収縮力は,その「一軸延伸され,熱固定後の冷却過程において前記一軸延伸と同じ方向に再度延伸された」方向に大きく発現するのに対して,当該方向と直交する方向についてはそれよりも小さいものとなる。 すなわち,偏光板Bに積層されたポリエステルフィルムAの長辺方向の収縮力は,偏光板Aにおいて積層されたポリエステルフィルムAの長辺方向の収縮力よりも小さくなるから,偏光板Bに積層されたポリエステルフィルムAの長辺方向の収縮力は,偏光板Aに積層されたポリエステルフィルムAの長辺方向の収縮力に対抗しうるものとはいえない。 3 また,偏光板Bに係る偏光子の長辺方向の収縮力に比べると,訂正発明1に係る式(1)から,偏光板Aにおいて積層されたポリエステルフィルムAの長辺方向の収縮力はより小さく,偏光板Bに積層されたポリエステルフィルムAの長辺方向の収縮力はさらに小さいのであるから,偏光板Bに積層されたポリエステルフィルムAは,偏光板Bに係る偏光子よりも収縮しにくいものといえる。それゆえ,偏光板Bにおいて,ポリエステルフィルムAは,長辺方向について,偏光子の収縮を阻害するように作用し,当該偏光子の収縮による液晶表示装置のカールを抑制する作用を奏するものともいえる。 4 また,偏光板Bにおいて,ポリエステルフィルムA以外のものである,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層された場合,当該各材料は,ポリエステルフィルムAよりも収縮力が極めて小さいものであるから,上記2と同様に,偏光板Aに積層されたポリエステルフィルムAの長辺方向の収縮力に対抗しうるものとはいえず,また,上記3と同様に,偏光板Bにおける偏光子の収縮を阻害するように作用し,当該偏光子の収縮による液晶表示装置のカールを抑制する作用を奏するものともいえる。 5 よって,上記偏光板BにおいてポリエステルフィルムAが積層された場合,及び偏光板BにおいてTACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層された場合のいずれの場合においても,偏光板Bにおける偏光子の収縮による液晶表示装置のカールを抑制する作用が得られるから,前記第4の取消理由は解消されたといえる。 6 小括 以上のとおりであるから,訂正発明1?6は,取消理由によっては,特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものとはいえない。 第6 申立人の意見書における主張について 1 申立人は,平成30年12月25日に提出した意見書において次の主張をする。 液晶パネルのカールは長辺方向及び短辺方向の収縮力のバランスで決定されるものであるところ,訂正発明1?6は,長辺方向のみの収縮力に着目しており,短辺方向の収縮力を全く考慮していないため,依然として発明の課題を解決できない範囲を含んでいる。 2 上記主張を検討する。 本件特許明細書には以下の記載がある。 「【0006】 即ち,本発明が解決しようとする課題は,液晶表示装置内の偏光板/液晶セル/偏光板からなる積層体のカールを高度に制御可能な液晶表示装置を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0007】 液晶表示装置は,通常,液晶セルの一方の面に,偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行となるよう偏光板が積層され,もう一方の面に,偏光子の吸収軸方向が液晶表示装置の長辺と平行となるよう偏光板が積層されている。市販の各種液晶表示装置を用いて鋭意検討を行った結果,収縮力の大きい偏光子吸収軸方向が長辺となる偏光板が収縮することでカールが発生しやすくなる形状因子の問題(カールは一般的に長辺方向に発生しやすい)や,液晶パネル内の上下の偏光板の非対称構成による影響により,液晶パネルは,クロスニコルに配置される上下偏光板の偏光子透過軸が長辺となる偏光板側に凸になることが問題の本質であることを本発明者らは見出した。 【0008】 更に,鋭意検討を行った結果,偏光子透過軸が長辺になる偏光板の長辺方向の収縮力は,保護フィルムの残留歪によって制御出来ることが明らかになり,この収縮力によって,液晶表示装置のカールを制御出来ることが分った。」 上記記載から,訂正発明1?6は,カールが発生しやすい長辺方向に着目したものであって,長辺方向の収縮力を制御することで,液晶表示装置のカールを制御するものであり,短辺方向のカールについてまでも制御しようとするものではないから,前記1の申立人の主張はあたらない。 3 よって,前記1の申立人の主張は,前記第5 6の結論を左右するものではない。 第7 平成30年5月30日付け取消理由通知及び平成30年8月22日付け取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由2および3について 1 異議申立理由2及び3の要旨 (1)理由2(特許法第29条第2項) 本件特許発明1?6は,甲第1号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 甲第1号証:国際公開第2013/187134号 (2)理由3(特許法第29条第1項3号) 本件特許発明1,3?6は,甲第2号証に記載された発明である。 甲第2号証:特開2014-206702号公報 甲第3号証:特開2002-6133号公報 2 異議申立理由2及び3の検討 (1)理由2について ア 甲第1号証に記載された発明 (ア)甲第1号証には以下の記載がある。 a 「[請求項1] 厚さ0.5mm以下のガラス基板2枚の間に液晶層を設けた液晶セル,該液晶セルの両面に設けた偏光板,及び該液晶セルのリア側に設けたバックライトを有する液晶表示装置であって, 該液晶セルのフロント側に設けた偏光板の,下記[ア]の湿度寸法変化率,下記条件(B)後の弾性率及び厚みを乗じて算出される,フロント側偏光板の吸収軸方向の収縮力Dと, 該液晶セルのリア側に設けた偏光板の,下記[イ]の湿度寸法変化率,下記条件(B)後の弾性率及び厚みを乗じて算出される,リア側偏光板の透過軸方向の収縮力Hと の差(D-H)が365×10N/m以下である,液晶表示装置。 [ア]下記条件(A)後のフロント側偏光板の吸収軸方向の寸法値から下記条件(C)後のフロント側偏光板の吸収軸方向の寸法値を引いた値で表される湿度寸法変化率 [イ]下記条件(A)後のリア側偏光板の透過軸方向の寸法値から下記条件(B)後のリア側偏光板の透過軸方向の寸法値を引いた値で表される湿度寸法変化率 (A)60℃相対湿度90%の環境に48時間放置した後,25℃相対湿度80%の環境に48時間放置 (B)60℃相対湿度90%の環境に48時間放置した後,25℃相対湿度60%の環境に48時間放置 (C)60℃相対湿度90%の環境に48時間放置した後,25℃相対湿度10%の環境に48時間放置」 b 「[0008] 本発明が解決しようとする課題は,液晶セルを構成するガラス基板の厚みが0.5mm以下の大型(例えば,32インチ以上)の液晶表示装置で顕在化している高湿環境下での保存後に点灯すると発生するパネルの反りに基づくムラの問題を解消し得る液晶表示装置を提供することにある。」 「[0009] 液晶表示装置のパネルは液晶セルとその両面に設けた2枚の偏光板を有する。液晶表示装置を高湿環境下(例えば,60℃相対湿度90%で48時間,50℃相対湿度80%で72時間)に置くとフロント側及びリア側のいずれの偏光板も含水し膨潤する。その後,液晶表示装置を高湿環境下から取り出すと,前記含水し膨潤した偏光板が乾燥し収縮する。ここで,リア側の偏光板は,フロント側の偏光板よりも気密性が高い環境に置かれている等の理由から,フロント側の偏光板がより早く乾燥するため,より大きな収縮力が発生するのに対し,リア側の偏光板は乾燥が遅く,収縮力の発生が小さい。そのフロント側の偏光板の収縮力と,リア側の偏光板の収縮力との差により,前記パネルの反りが発生し,その結果,パネルの四隅がベゼルに接触するなどしてワープ(パネル四隅の光漏れ)が発生することを本発明者らは見出した。 そこで,本発明者らは,フロント側の偏光板の収縮力と,リア側の偏光板の収縮力との差を小さくし,ワープの発生を抑制することについて鋭意検討した結果,高湿環境下に置かれた液晶表示装置が乾燥する際に,フロント側の偏光板の湿度寸法変化が,乾燥が遅いリア側の偏光板の湿度寸法変化よりも大きいことに着目し,フロント側の偏光板の特定の大きな湿度寸法変化で発生する収縮力と,リア側の偏光板の特定の小さな湿度寸法変化で発生する収縮力との差を所定の範囲に規定することでパネルの反りを抑制しワープの発生を抑制し得ることを見出した。 本発明は上記知見に基づきなされるに至ったものである。」 c 「[0016] 液晶表示装置またはそのパネルの長手方向が,フロント側偏光板の吸収軸方向に,リア側偏光板の透過軸方向に,相当し得る。 フロント側偏光板の吸収軸方向の収縮力Dと,リア側偏光板の透過軸方向の収縮力Hとの差(D-H)を365×10N/m以下とすることにより,パネルの長手方向の反りを抑制し,ワープの発生を抑制することができる。 パネルの長手方向の反りを更に抑制し,ワープの発生を更に抑制する観点から収縮力Dと収縮力Hとの前記差(D-H)は,330×10N/m以下であることが好ましく,300×10N/m以下であることがより好ましい。 収縮力Dと収縮力Hとの前記差(D-H)の下限としては特に制限はないが,パネルの長手方向の逆反りを抑制する観点から,0N/m以上であることが好ましい。」 d 「[0137] 本発明における偏光板の偏光板保護フィルムの前記偏光子への貼り合せ方は,偏光子の透過軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸が実質的に平行又は垂直となるように貼り合せることが好ましい。 ここで,実質的に平行であるとは,前記偏光板保護フィルムの主屈折率nxの方向と偏光板の透過軸の方向とのずれが,5°以内であることをいい,1°以内であることが好ましく,0.5°以内であることがより好ましい。また,実質的に垂直であるとは,前記偏光板保護フィルムの主屈折率nxの方向と偏光板の透過軸の方向とのずれが,95°以内であることをいい,91°以内であることが好ましく,90.5°以内であることがより好ましい。偏光板保護フィルムの主屈折率nxの方向と偏光板の透過軸の方向とのずれが1°以内であれば,偏光板クロスニコル下での偏光度性能が低下しにくく,光抜けが生じにくく好ましい。」 e 「[0254]〔液晶表示装置の作製〕 (実施例1の液晶表示装置の作製) 市販のIPS型液晶テレビ(LG電子製42LS5600)の2枚の偏光板をはがし,フロント側に,実施例1の液晶表示装置で使用するフロント側偏光板を,リア側に実施例1の液晶表示装置で使用するリア側偏光板を,フィルム8がそれぞれ液晶セル側となるように,粘着剤を介して,フロント側およびリア側に一枚ずつ貼り付けた。フロント側偏光板の吸収軸が長手方向(左右方向)に,そして,リア側偏光板の透過軸が長手方向(左右方向)になるように,クロスニコル配置とした。液晶セルに使用されているガラスの厚さは0.5mmであった。 このようにして,実施例1の液晶表示装置を得た。 [0255](実施例2?26,32?34,比較例1及び2の液晶表示装置の作製) 実施例1の液晶表示装置の作製において,実施例1の液晶表示装置で使用するフロント側偏光板を,下記表に示した視認側保護フィルム,偏光子及びセル側保護フィルムの構成となるように構築したフロント側偏光板に変更し,かつ,実施例1の液晶表示装置で使用するリア側偏光板を,下記表に示したセル側保護フィルム,偏光子及び光源側保護フィルムの構成となるように構築したリア側偏光板に変更した以外は実施例1の液晶表示装置の作製と同様にして,実施例2?26,32?34,比較例1及び2の液晶表示装置を製造した。」 (イ)上記各記載から,甲第1号証には次の発明が記載されているといえる(以下「甲1発明」という。)。 「厚さ0.5mm以下のガラス基板2枚の間に液晶層を設けた液晶セル,該液晶セルの両面に設けた偏光板,及び該液晶セルのリア側に設けたバックライトを有する液晶表示装置であって, 該液晶セルのフロント側に設けた偏光板の,下記[ア]の湿度寸法変化率,下記条件(B)後の弾性率及び厚みを乗じて算出される,フロント側偏光板の吸収軸方向の収縮力Dと, 該液晶セルのリア側に設けた偏光板の,下記[イ]の湿度寸法変化率,下記条件(B)後の弾性率及び厚みを乗じて算出される,リア側偏光板の透過軸方向の収縮力Hと の差(D-H)が365×10N/m以下である,液晶表示装置。 [ア]下記条件(A)後のフロント側偏光板の吸収軸方向の寸法値から下記条件(C)後のフロント側偏光板の吸収軸方向の寸法値を引いた値で表される湿度寸法変化率 [イ]下記条件(A)後のリア側偏光板の透過軸方向の寸法値から下記条件(B)後のリア側偏光板の透過軸方向の寸法値を引いた値で表される湿度寸法変化率 (A)60℃相対湿度90%の環境に48時間放置した後,25℃相対湿度80%の環境に48時間放置 (B)60℃相対湿度90%の環境に48時間放置した後,25℃相対湿度60%の環境に48時間放置 (C)60℃相対湿度90%の環境に48時間放置した後,25℃相対湿度10%の環境に48時間放置」 イ 訂正発明1と甲1発明との対比 訂正発明1と甲1発明とを対比すると,少なくとも以下の各相違点がある。 《相違点1》 訂正発明1は, 「前記偏光板Aは,下記の特徴(A1)?(A4)を満たし, (A1)偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行であり, (A2)偏光子の液晶セルに対して遠位側の面にはポリエステルフィルムAが積層され, (A3)ポリエステルフィルムAは,一軸延伸され,熱固定後の冷却過程において前記一軸延伸と同じ方向に再度延伸されたものであり,前記延伸の方向は,前記偏光子の透過軸と平行であり, (A4)偏光子の液晶セル側の面には,保護フィルム又は光学補償フィルムとして,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムは積層されておらず, 前記偏光板Bは,下記特徴(B1)?(B4)を満たし, (B1)偏光子の吸収軸方向は液晶表示装置の長辺方向と平行であり, (B2)偏光子の液晶セル側の面には,保護フィルム又は光学補償フィルムとして,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムは積層されておらず, (B3)偏光子の液晶セルに対して遠位側の面には,ポリエステルフィルムAが積層されているか,或いは,保護フィルム又は光学補償フィルムとして,TACフィルム,環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されており, (B4)ポリエステルフィルムAの延伸の方向は偏光板Bが有する偏光子の透過軸と平行であ」るとの構成を備えるが,甲1発明は,当該構成を備えることが明らかでない点。 《相違点2》 訂正発明1は,「偏光板Aが有するポリエステルフィルムAの液晶表示装置の長辺方向の収縮力Ffと,偏光板Bが有する偏光子の液晶表示装置の長辺方向の収縮力Fp下記式(1)を満たす,液晶表示装置。 式(1) 0.1≦F_(f)/F_(p)<1.0 (ただし,収縮力F_(f)(N/m)は,ポリエステルフィルムの厚み(mm)×弾性率(N/mm2)×熱収縮率(%)÷100×1000であり,収縮力F_(p)(N/m)は,偏光板Bの偏光子の厚み(mm)×弾性率(N/mm2)×熱収縮率(%)÷100×1000である。)」との構成を備えるが,甲1発明は,当該構成を備えることが明らかでない点。 ウ 判断 (ア)まず,前記相違点2について検討する。 訂正発明1は,一方の偏光板の偏光子の熱収縮力と,他方の偏光板に積層されたポリエステルフィルムの熱収縮力に着目して,前記各熱収縮力の比を一定の範囲に収めるものである。これに対して,甲1発明は,各偏光板全体の湿度変化に係る収縮力に着目して表裏バランスをとるものであるから,湿度変化に係る収縮力についてのバランスに代えて,熱収縮率についてのバランスをとり,相違点2に係る式(1)を満たすものとすることは,当業者が容易になし得たこととはいえない。 (イ)申立人は,特許異議申立書において,熱収縮によるカールの発生も周知の課題であるから,熱収縮に着目することは適宜になし得たことであり,また,上記相違点2に係る式(1)は,それを満たさないと収縮力のバランスをとることは困難であると主張する。 しかしながら,甲1発明が各偏光板全体の湿度変化に係る収縮力に着目して表裏バランスをとるものであるところ,甲1発明において,一方の偏光板の偏光子の熱収縮力と,他方の偏光板に積層されたポリエステルフィルムの熱収縮力に着目して,前記式(1)を満たすことが,どのような理由により,当業者にとって容易になし得たことであるのか,具体的な説示がされていない。 (ウ)よって,相違点1について検討するまでもなく,訂正発明1は,異議申立理由2によっては,特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。 エ 訂正発明2?6について 訂正発明2?6は,訂正発明1に係る構成を全て含むものであるから,上記ア?ウと同じ理由により,異議申立理由2によっては,特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。 (2)理由3について ア 甲第2号証に記載された事項 甲第2号証には以下の記載がある。 「【請求項1】 偏光性能を有する偏光子と, 前記偏光子の一方の面に接着層1を介して貼合された第一の保護フィルムと, 前記偏光子の他方の面に接着層2を介して貼合された第二の保護フィルムとを含み, 前記第1の保護フィルムの面内方向のレターデーションが3000nm以上であり, 下記式(A)および(B)のうち少なくとも一方を満たし, 下記式(2)を満たすことを特徴とする偏光板。 E_(1) ≠ E_(3)・・・式(A) y_(1) ≠ y_(3)・・・式(B) 【数1】(略) 【数2】(略) 【数3】(略) ・・・(中略)・・・ 【請求項4】 前記第一の保護フィルムがポリエステル樹脂またはポリカーボネート樹脂を主成分として含む請求項1?3のいずれか一項に記載の偏光板。」 「【0025】 本発明の偏光板は,偏光子の吸収軸方向の弾性率E2が10?30GPaであることが好ましく,15?29GPaであることがより好ましく,15?28GPaであることが特に好ましい。」 「【0045】 (第一の保護フィルムの特性) -位相差- ・・・(中略)・・・ 【0054】 -弾性率- 第一の保護フィルムの弾性率は,MD方向において,1.8?8.0GPaが好ましく,1.8?6.0GPaであることがより好ましく,1.8?5.0GPaであることが,偏光板のカール抑制およびフィルム作製時の搬送性,端部スリット性や破断のし難さ等の製造適性の観点から,特に好ましい。 ここで,フィルムの搬送方向(MD方向,長手方向)とは,フィルム作製時の搬送方向(MD方向)であり,幅方向とはフィルム作製時の搬送方向に対して垂直な方向(TD方向)である。第一の保護フィルムの搬送方向(MD方向,長手方向)は,本発明の偏光板では前記偏光子の吸収軸と平行であることが好ましい。なお,本明細書中における平行には,完全な平行の態様のみならず,完全な平行の態様から光学的に許容できる程度の角度のずれがある態様も含まれる。 第一の保護フィルムの搬送方向に対して垂直な方向(TD方向)は,第一の保護フィルムの面内の弾性率の最大方向であることが好ましい。保護フィルムの面内の弾性率の最大方向は,音速測定装置“SST-2501,野村商事(株)”を用い,25℃,相対湿度60%の雰囲気中で2時間以上調湿したフィルムについて,25℃,相対湿度60%の雰囲気にて,360度方向を32分割して音速を測定し,最大速度方向を面内の弾性率の最大方向と決定できる。 ・・・(中略)・・・ 【0056】 第一の保護フィルムの弾性率のMD/TD弾性率比は,0.01?0.8であることが,好ましい。さらに0.01?0.7であることがより好ましく,0.01?0.6であることが特に好ましい。 【0057】 (第一の保護フィルムの製造方法) 前記第一の保護フィルムは幅方向に延伸されてなることが好ましい。第一の保護フィルムの製造方法としては特に制限はない。前記第一の保護フィルムに上記特性を付与するためには,以下の方法で製造することが好ましい。 まず,第一の保護フィルムに用いられる樹脂(例えばポリエステル樹脂)をフィルム状に溶融押出し,キャスティングドラムで冷却固化させて未延伸フィルムとした後に,必要であれば,易接着層を形成するための塗液を塗布し,この未延伸フィルムを,ポリエステルフィルムのTg?(Tg+60)℃の温度で,幅方向に3?10倍,好ましくは3倍?7倍になるよう延伸することが好ましい。前記第一の保護フィルムは幅方向に一軸延伸されてなることが,面内方向のレターデーションReを大きく発現させる観点から好ましい。 【0058】 次に,140℃以上220℃以下で,1?60秒間熱処理(ここでは熱固定という。)を行うことが好ましい。前記熱固定の温度は150℃以上220℃以下であることがより好ましく,150℃以上220℃未満であることが特に好ましい。 【0059】 さらに,熱固定温度より10?20℃低い温度で長手方向または/および幅方向に0?20%収縮させながら再熱処理(弛緩処理という。)を行うことが好ましい。この方法では,フィルムがロールに接触することが少なくなるため,フィルム表面に微小な傷等が前述の方法よりもできにくく,光学用途への適用に有利である。なお,フィルムのガラス転移温度をTgと表記する。熱固定温度が150℃以上220℃未満では,ポリエステルの配向方向のずれが小さくなり,熱寸法変化も小さくなるので,ハードコート層の剥がれや割れなどが発生しにくくなる。」 「【0179】 [実施例1] <<第一の保護フィルムの作製>> ・・・(中略)・・・ 【0189】 -フィルム成形工程- ・・・(中略)・・・ ダイから押出した溶融樹脂は,温度25℃に設定された冷却キャストドラム上に押出し,静電印加法を用い冷却キャストドラムに密着させた。冷却キャストドラムに対向配置された剥ぎ取りロールを用いて剥離し,未延伸ポリエステルフィルム1を得た。 【0190】 得られた未延伸ポリエステルフィルム1を,テンター(横延伸機)に導き,フィルムの端部をクリップで把持しながら,下記の方法,条件にてTD方向(フィルム幅方向,横方向)に下記の条件にて横延伸し,厚さ80μm,幅1330mmのPETフィルム1(以降,PET1と略す)を製造した。 《条件》 ・横延伸温度:90℃ ・横延伸倍率:4.3倍 【0191】 (熱固定部) 次いで,ポリエステルフィルムの膜面温度を下記範囲に制御しながら,熱固定処理を行った。 <条件> ・熱固定温度:180℃ ・熱固定時間:15秒 【0192】 (熱緩和部) 熱固定後のポリエステルフィルムを下記の温度に加熱し,フィルムを緩和した。 ・熱緩和温度:170℃ ・熱緩和率:TD方向(フィルム幅方向,横方向)2% 【0193】 (冷却部) 次に,熱緩和後のポリエステルフィルムを50℃の冷却温度にて冷却した。」 「【0210】 [実施例7] 実施例1において,第一の保護フィルムとしてPET1の代わりに以下に示すPETフィルム6(以降,PET6と略す)を用い,第二の保護フィルムとしてCOP1の代わりに比較例2で製造したCOP2を用い,かつ,第二の保護フィルムと偏光子との間の接着層2の膜厚を1.5μmから2.0μmに変更した以外は実施例1と同様にして,実施例7の偏光板と,画像表示装置1および2とを製造した。 【0211】 <PETフィルム6の製造> -フィルム成形工程- ・・・(中略)・・・ ダイから押出した溶融樹脂は,温度25℃に設定された冷却キャストドラム上に押出し,静電印加法を用い冷却キャストドラムに密着させた。冷却キャストドラムに対向配置された剥ぎ取りロールを用いて剥離し,未延伸ポリエステルフィルム2を得た。このとき,I層,II層,III層の厚さの比は10:80:10となるように各押出機の吐出量を調整した。 【0212】 得られた未延伸ポリエステルフィルム2を,実施例1と同じ条件で横延伸し,厚さ80μmのPETフィルム6を製造した。」 イ 甲第2号証に記載された事項についての検討 上記アに摘記した甲第2号証の記載によれば,実施例7においては,実施例1と同様に横延伸して厚さ80μmとして製造した「第一の保護フィルム」であるPETフィルム6について,そのフィルム成形工程は,段落【0190】?【0193】に記載された条件によっているといえる。 ここで,段落【0192】に記載された「熱固定後のポリエステルフィルムを下記の温度に加熱し,フィルムを緩和した」「熱緩和部」は,甲第2号証の段落【0059】の記載を参酌すると,「熱固定温度より10?20℃低い温度で長手方向または/および幅方向に0?20%収縮させながら再熱処理(弛緩処理という。)を行うこと」にあたると解される。 すなわち,段落【0192】に記載された「熱緩和部」においては,ポリエステルフィルムの延伸はされておらず,「収縮」させており,同段落の「熱緩和率:TD方向(フィルム幅方向,横方向)2%」とは,TD方向(フィルム幅方向)に2%収縮させているといえる。 ウ 異議申立書における記載について 異議申立書における理由3の記載(特に47ページ8行から49ページ「表C」まで)によれば,甲第2号証に記載された発明のF_(f)/F_(p)が,本件特許発明1に規定された範囲内にあることを示すために,甲第2号証に記載された実施例7に係るPETフィルム6の熱収縮率を推定するにあたり,その熱固定後のMD倍率を1.02とし(表A),本件特許明細書に記載された各実施例に係るフィルムの延伸条件等とおおむね共通しているものとして,熱収縮率についても同程度の0.5%?1.5%であるとしている。 しかしながら,前記イのとおり,PETフィルム6の熱固定後の延伸は,TD方向にもMD方向にもされておらず,TD方向に収縮させているのであるから,その熱固定後のMD倍率を1.02としたことは誤りであり,上記異議申立書における推定はなりたたないといえる。 よって,異議申立書において,甲第2号証に記載された実施例7に係るPET6の熱収縮率が,本件特許明細書に記載された各実施例と同等の0.5%?1.5%としたことは,その根拠を欠くものであり,甲第2号証に記載された発明のF_(f)/F_(p)が,本件特許発明1に規定された範囲内にあるとはいえない。 エ そして,訂正発明1に係るF_(f)/F_(p)の数値範囲は,本件特許発明1に係るF_(f)/F_(p)の数値範囲よりも狭いから,甲第2号証に記載された発明のF_(f)/F_(p)が,訂正発明1に規定された範囲内にあるともいえない。 オ よって,前記異議申立書の理由3に係る記載によっては,訂正発明1が甲第2号証に記載された発明であるとはいえないから,訂正発明1は特許法第29条第1項第3号に該当せず,異議申立理由3によっては,その発明に係る特許を取り消すことはできない。 カ 訂正発明2?6について 訂正発明2?6は,訂正発明1に係る構成を全て含むものであるから,上記ア?オと同じ理由により,訂正発明2?6が甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。よって,訂正発明2?6は特許法第29条第1項第3号に該当せず,異議申立理由3によっては,その発明に係る特許を取り消すことはできない。 第8 むすび よって,取消理由通知に記載した取消理由及び異議申立書に記載された理由によっては,訂正発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に訂正発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 液晶セル、液晶セルの一方の面に貼り合わされた偏光板A、液晶セルのもう一方の面に貼り合わされた偏光板Bを有する液晶表示装置において、 前記偏光板Aは、下記の特徴(A1)?(A4)を満たし、 (A1)偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行であり、 (A2)偏光子の液晶セルに対して遠位側の面にはポリエステルフィルムAが積層され、 (A3)ポリエステルフィルムAは、一軸延伸され、熱固定後の冷却過程において前記一軸延伸と同じ方向に再度延伸されたものであり、前記延伸の方向は、前記偏光子の透過軸と平行であり、 (A4)偏光子の液晶セル側の面には、保護フィルム又は光学補償フィルムとして、TACフィルム、環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されているか、或いは、保護フィルム又は光学補償フィルムは積層されておらず、 前記偏光板Bは、下記特徴(B1)?(B4)を満たし、 (B1)偏光子の吸収軸方向は液晶表示装置の長辺方向と平行であり、 (B2)偏光子の液晶セル側の面には、保護フィルム又は光学補償フィルムとして、TACフィルム、環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されているか、或いは、保護フィルム又は光学補償フィルムは積層されておらず、 (B3)偏光子の液晶セルに対して遠位側の面には、ポリエステルフィルムAが積層されているか、或いは、保護フィルム又は光学補償フィルムとして、TACフィルム、環状オレフィンフィルム若しくはアクリルフィルムが積層されており、 (B4)ポリエステルフィルムAの延伸の方向は偏光板Bが有する偏光子の透過軸と平行であり、 偏光板Aが有するポリエステルフィルムAの液晶表示装置の長辺方向の収縮力F_(f)と、偏光板Bが有する偏光子の液晶表示装置の長辺方向の収縮力F_(p)が下記式(1)を満たす、液晶表示装置。 式(1) 0.1≦F_(f)/F_(p)<1.0 (ただし、収縮力F_(f)(N/m)は、ポリエステルフィルムの厚み(mm)×弾性率(N/mm^(2))×熱収縮率(%)÷100×1000であり、収縮力F_(p)(N/m)は、偏光板Bの偏光子の厚み(mm)×弾性率(N/mm^(2))×熱収縮率(%)÷100×1000である。) 【請求項2】 偏光板Aが有するポリエステルフィルムAの液晶表示装置の長辺方向の弾性率が1000?9000N/mm^(2)であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。 【請求項3】 偏光板Aが有するポリエステルフィルムAの液晶表示装置の長辺方向の熱収縮率が0.1?5%であることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶表示装置。 【請求項4】 前記ポリエステルフィルムAの厚みが40?200μmであり、前記ポリエステルフィルムAの面内リタデーションは3000nm以上30000nm以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項5】 偏光板Aが有するポリエステルフィルムAの配向主軸の傾きが15度以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項6】 偏光板Aが有するポリエステルフィルムAの収縮主軸の傾きが15度以下であることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の液晶表示装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-03-19 |
出願番号 | 特願2017-531407(P2017-531407) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(G02F)
P 1 651・ 537- YAA (G02F) P 1 651・ 113- YAA (G02F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岸 智史 |
特許庁審判長 |
森 竜介 |
特許庁審判官 |
近藤 幸浩 古田 敦浩 |
登録日 | 2017-09-08 |
登録番号 | 特許第6205089号(P6205089) |
権利者 | 東洋紡株式会社 |
発明の名称 | 液晶表示装置 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |