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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 一部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1351415
異議申立番号 異議2018-700163  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-23 
確定日 2019-04-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6185283号発明「フレキシブルデバイス用積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6185283号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-4]について訂正することを認める。 特許第6185283号の請求項1、2及び4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6185283号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成25年5月10日に特許出願され、平成29年8月4日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成29年8月23日)がされた。
その後、請求項1、2及び4に係る特許について、平成30年2月23日に特許異議申立人前田理(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、平成30年6月12日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年8月17日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成30年9月19日付けで申立人に対し訂正の請求があった旨の通知がされ、その指定期間内である平成30年10月17日に申立人より意見書が提出され、平成30年12月28日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成31年3月8日に意見書の提出及び訂正の請求(以下。「本件訂正請求」という。)がされたものである。
なお、平成30年8月17日になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。(訂正箇所に下線を付す。)
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ガラス基板と 、2層以上の多層構造を有するポリイミド系フィルムとの積層体」とあるのを、
「ガラス基板と 、2層以上の多層構造を有しガラス基板に接するポリイミド系フィルムとの積層体」に訂正する。
イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「ガラス基板から剥離したポリイミド系フィルム」とあるのを、
「ガラス基板に接するポリイミド系フィルム層をガラス基板から剥離したポリイミド系フィルム」に訂正する。

(2)訂正の適否
ア.一群の請求項について
訂正前の請求項1?4について、請求項2?4は直接的又は間接的に請求項1を引用し、請求項3?4は直接的又は間接的に請求項2を引用しており、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1及び訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1?4に対応する訂正後の請求項1?4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であって、訂正事項1及び2による訂正は、当該一群の請求項について請求されたものである。

イ.訂正の目的について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1における「2層以上の多層構造を有するポリイミド系フィルム」が、「ガラス基板に接する」ものであることを限定し、明確にするものであり、同請求項1を引用する請求項2?4についても同様である。
そして、訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項2における「ガラス基板から剥離したポリイミド系フィルム」が、「ガラス基板に接するポリイミド系フィルム層を」ガラス基板から剥離したものであることを限定し、明確にするものであり、同請求項2を引用する請求項3及び4についても同様である。
したがって、訂正事項1及び2による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び同第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

ウ.新規事項の有無について
訂正事項1及び2による訂正は、願書に添付した明細書(本件特許明細書)の段落【0056】の「・・・ガラス基板と厚さ約15μmのポリイミドフィルム層を有する積層体を得た。得られた積層体のポリイミドフィルムは、容易に手でガラス板から剥離することが出来た。・・・」との記載及び段落【0057】の「・・・ガラス基板と、2層からなる厚さ約20μmのポリイミドフィルム層を有する積層体を得た。得られた積層体のポリイミドフィルムは、容易に手でガラス基板から剥離することが出来た。・・・」との記載に基づくものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項1及び2による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

エ.特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1及び2による訂正は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

オ.独立特許要件
本件特許異議の申立ては、訂正前の請求項1、2、4についてされたものであるから、同請求項1、2、4に係る訂正事項1及び前記請求項2及び4に係る訂正事項2については、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項に規定された、独立特許要件、すなわち、特許出願の際に独立して特許を受けることができることとの要件は課されない。
そこで、訂正事項1及び2により訂正される請求項3(訂正後の請求項3)に係る発明が、独立特許要件を満たすかについて検討する。
訂正後の請求項3における「ガラス基板に接するポリイミド系フィルム層に離型剤が配合されていること」(以下、「請求項3特定事項」という。)は、明確な記載であって、本件特許明細書に記載された事項である(例えば、段落【0032】の「前記ポリアミック酸溶液等ポリイミド系樹脂溶液には、ガラス基板からの剥離性を向上させるために離型剤を配合することが好ましい。このようにすることにより、ガラス基板とポリイミド系フィルムとの層間の接着強度を、本発明で必要とする7N/cm以下にすることが容易に達成出来る。」との記載を参照)ところ、請求項3特定事項は、申立人が提出した甲第1号証及び第2号証等には記載されておらず、示唆もされていない。また、他に訂正後の請求項3に係る発明について特許を受けることができないとする理由は見当たらない。
したがって、訂正後の請求項3に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項?第7項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求が認められることにより、本件特許の請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1?4」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
【請求項1】
ガラス基板と 、2層以上の多層構造を有しガラス基板に接するポリイミド系フィルムとの積層体であって、ガラス基板とポリイミド系フィルムとの層間の接着強度が7N/cm以下であることを特徴とするフレキシブルデバイス用積層体。
【請求項2】
ガラス基板に接するポリイミド系フィルム層をガラス基板から剥離したポリイミド系フィルムの曲率半径が30mm以上であることを特徴とする請求項1記載のフレキシブルデバイス用積層体。
【請求項3】
ガラス基板に接するポリイミド系フィルム層に離型剤が配合されていることを特徴とする請求項1または2に記載のフレキシブルデバイス用積層体。
【請求項4】
多層構造を形成するポリイミド系フィルムが、それぞれの残留歪を打ち消すように配置されていることを特徴とする請求項1?3いずれかに記載のフレキシブルデバイス用積層体。

(2)取消理由の概要
取消理由通知書に記載した本件発明1、2及び4に係る特許に対する取消理由の概要は、以下のとおりである。
なお、異議申立人が申立てた全ての理由は通知された。
《理由1》
本件発明1及び2は、その出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記の引用文献等一覧に示す、甲1に係る発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない

《理由2》
本件発明1、2及び4は、その出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記の引用文献等一覧に示す、甲1に係る発明及び頒布された刊行物である甲2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

《刊行物》
甲1.国際公開第2012/141248号
甲2.特許第4841103号公報

《備考》
甲1及び甲2は、特許異議申立書に添付された甲第1号証及び甲第2号証であり、甲1に係る発明を甲1発明といい、甲1に係る事項及び甲2に記載された事項を甲1記載事項及び甲2記載事項という。

ア.理由1について
本件発明1及び2は、甲1発明である。

イ.理由2 について
本件発明1及び2は、上記ア.で示したとおり甲1発明であるが、仮に甲1発明ではないとしても、その差異は微差に過ぎないから、甲1発明及び甲1記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明4は、甲1発明、甲1記載事項及び甲2記載事項に例示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)判断
ア.甲1及び2の記載事項
(ア)甲1記載事項
a.「[0001] 本発明は、ポリイミドフィルムと無機物からなる支持体(以下単に「支持体」と称することもある)とから構成されてなる積層体の製造方法に関するものである。詳しくは、本発明は、ポリイミドフィルムを支持体となる無機基板に一時的ないし半永久的に貼り合わせた積層体を製造する方法に関し、かかる積層体は、半導体素子、MEMS素子、ディスプレイ素子など、薄膜からなり且つ微細な加工が必要となるデバイスをポリイミドフィルム表面に形成する際に有用である。さらに詳しくは、本発明にかかる積層体は、耐熱性と絶縁性に優れた薄いポリイミドフィルムと、それとほぼ同程度の線膨張係数を有する無機物(例えば、ガラス板、セラミック板、シリコンウエハ、金属板から選ばれた1種)からなる支持体との積層体であって、精緻な回路をマウントできる、寸法安定性と耐熱性と絶縁性に優れた積層体である。よって、本発明は、このような積層体、その製造方法、および該積層体を利用したデバイス構造体の製造方法に関する。」

b.「[0002] 近年、半導体素子、MEMS素子、ディスプレイ素子など機能素子の軽量化、小型・薄型化、フレキシビリティ化を目的として、高分子フィルム上にこれらの素子を形成する技術開発が活発に行われている。・・・
[0006] 無機物からなる支持体へ貼り合せる高分子フィルムとしては、耐熱性の観点から融点の低いフィルムは適さず、例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレンからなる高分子フィルム、ガラス繊維強化エポキシ等が用いられる。特にポリイミドからなるフィルムは、耐熱性に優れ、しかも強靭であるので薄膜化が可能になるという長所を備えている。しかしながら、ポリイミドフィルムは、一般的に線膨張係数が大きく温度変化による寸法変化が著しいため、微細な配線をもつ回路の製造に適用しにくい等の問題があり、使用できる分野が限定される。このように、耐熱性、高機械的物性、フレキシブル性を具備した基材用として十分な物性のポリイミドフィルムを使ったデバイスは未だ得られていない。」

c.「[0011] 本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、各種デバイスを積層するための基材とするためのポリイミドフィルムと支持体との積層体であって、デバイス作製時の高温プロセスにおいても剥がれることなく、しかもポリイミドフィルム上にデバイスを作製した後には容易に支持体からポリイミドフィルムを剥離することができる積層体を提供することである。」

d.「[0012] 本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討した結果、支持体とポリイミドフィルムとが対向する面の少なくとも一方に、カップリング剤処理を施してカップリング処理層を形成することにより両者の接着を可能にするとともに、その後カップリング処理層の一部を不活性化して所定のパターンを形成することにより、剥離強度が異なる良好接着部分と易剥離部分とを存在させるようにすれば、良好接着部分にてデバイス作製時の高温プロセスにおいても剥がれることない十分な剥離強度を発現させ、デバイス作製後には易剥離部分に切り込みを入れることで、デバイス付きポリイミドフィルムを支持体から容易に剥がすことができることを見出し、本発明を完成した。」

e.「[0117]<ポリイミドフィルムの評価:反り度>
得られたポリイミドフィルムから、50mm×50mmの正方形を切り出し、フィルム試験片とした。フィルム試験片を切り出すに際しては、正方形の各辺がフィルムの長手方向および幅方向と一致するようにし、かつ正方形の中心がフィルムの幅方向において(a)中央、(b)左端から全幅長の1/3に当たる点、(c)右端から全幅長の1/3に当たる点、に位置するように、3箇所から切り出した。
上記フィルム試験片(a)?(c)をそれぞれ平面上に凹状となるように静置し、四隅の平面からの距離(h1、h2、h3、h4:単位mm)を測定して、その平均値を反り量(mm)とした。この反り量を試験片の各頂点から中心までの距離(35.36mm)で除して百分率(%)で表わしたもの(100×(反り量(mm))/35.36)を反り度(%)とし、フィルム試験片(a)?(c)の反り度を平均して求めた。
<ポリイミドフィルムの評価:カール度>
ポリイミドフィルムの反り度の測定に用いたのと同様のフィルム試験片(a)?(c)に250℃のドライオーブンにて30分間熱処理を施し、その後、熱処理後のフィルムについて上記と同様に反り度を測定し、熱処理後のフィルムの反り度(%)をカール度とした。」

f.「[0123]<剥離強度>
剥離強度(180度剥離強度)は、JIS C6471に記載の180度剥離法に従い、下記条件で測定した。なお、この測定に供するサンプルには、100mm×1000mmの支持体(ガラス)に対してポリイミドフィルムのサイズを110mm×2000mmに設計することにより片側にポリイミドフィルムの未接着部分を設け、この部分を“つかみしろ”とした。
装置名 ; 島津製作所社製「オートグラフAG-IS」
測定温度 ; 室温
剥離速度 ; 50mm/分
雰囲気 ; 大気
測定サンプル幅 ; 1cm」

g.「[0124](1)UV未照射部の剥離強度
UV未照射部の剥離強度の測定には、UV照射を行わないこと以外は各実施例・比較例と同様にして別途作製した積層体を用いた。
(2)UV照射部の剥離強度
UV照射部の剥離強度の測定は、UV照射を行った積層体のUV照射部について行った。
(3)耐熱剥離強度
耐熱剥離強度の測定は、積層体(UV照射を行った積層体)を窒素雰囲気としたマッフル炉に入れ、これを昇温速度10℃/分で400℃まで加熱し、そのまま400℃で1時間保持した後、マッフル炉の扉を開放して大気中で放冷することにより得たサンプルを用いて行った。
(4)耐酸性剥離強度
耐酸性剥離強度の測定は、積層体(UV照射を行った積層体)を18質量%の塩酸溶液中に室温(23℃)にて30分間浸漬し、3回水洗した後に風乾することにより得たサンプルを用いて行った。
(5)耐アルカリ性剥離強度
耐アルカリ性剥離強度の測定は、積層体(UV照射を行った積層体)を2.38質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液(室温(23℃))中に30分間浸漬し、3回水洗した後に風乾することにより得たサンプルを用いて行った。」

h.「「0125」<剥離後のフィルム反り度>
積層体のUV照射部に切り込みを入れてポリイミドフィルムを支持体から剥離し、剥離したポリイミドフィルムの中央部分から50mm×50mmの正方形を切り出してフィルム試験片とし、該試験片の反り度(%)を上記ポリイミドフィルムの反り度と同様にして測定し、剥離後のフィルム反り度とした。」

i.「[0135]《フィルム作製例1》
ポリアミド酸溶液A1を・・・製膜支持体のPET製フィルム上に2層構成の多層ポリアミド酸フィルムを得た。
[0136] 次に、得られた2層構成の多層ポリアミド酸フィルムを製膜支持体のPET製フィルムから剥離し・・・多層構造のポリイミドフィルム1を得た。・・・得られたポリイミドフィルムの特性を表4に示す。・・・
[0137]《フィルム作製例2》
ポリアミド酸溶液A1、A2の塗布量を、それぞれ表4に示す乾燥膜厚となるように変更したこと以外は、フィルム作製例1と同様にして、ポリイミドフィルム2を得た。得られたポリイミドフィルムの特性を表4に示す。
[0138]《フィルム作製例3》
ポリアミド酸溶液A1とA2の塗布順番を入れ替える(すなわち、b層をポリアミド酸溶液A2で形成し、a層をポリアミド酸溶液A1で形成する)とともに、ポリアミド酸溶液A1、A2の塗布量を、それぞれ表4に示す乾燥膜厚となるように変更したこと以外は、フィルム作製例1と同様にして、ポリイミドフィルム3を得た。得られたポリイミドフィルムの特性を表4に示す。
[0139]《フィルム作製例4》
ポリアミド酸溶液A1、A2の塗布量を、それぞれ表4に示す乾燥膜厚となるように変更したこと以外は、フィルム作製例1と同様にして、ポリイミドフィルム4を得た。得られたポリイミドフィルムの特性を表4に示す。」

j.「表4




k.「[0148]《フィルム処理例1?4》
フィルム1?4に対し、各ポリイミドフィルムの滑材を含有していないポリイミド側(ポリアミド酸溶液A2で形成された層側)の面に真空プラズマ処理を施した。・・・」

l.「[0155](実施例1?4)
窒素置換したグローブボックス内で窒素ガスを流しながら、シランカップリング剤(SC剤)である3-アミノプロピルトリメトキシシランをイソプロピルアルコールによって0.5質量%に希釈した後、無機物からなる支持体(基板)として予め別途洗浄、乾燥しておいたガラス(コーニング社製「コーニングEAGLE XG」;100mm×100mm×0.7mm厚)をスピンコーターに設置して、シランカップリング剤(SC剤)を回転中央部に滴下させて500rpmにて回転させ、次いで2000rpmにて回転させることにより支持体全面を濡らした状態として塗布した後に、乾燥状態とした。これをクリーンベンチ内に載置した110℃に加熱したホットプレート上で1分間加熱して、厚さ11nmのカップリング処理層を備えたカップリング剤処理済支持体を得た。
[0156] 次に、上記で得たカップリング処理層を備えた支持体のカップリング処理層面に、70mm×70mm(□70mm)のパターンに切り抜いたポリイミドフィルムをマスクとして載置し、積層体の周辺15mmずつを残して70mm×70mm(□70mm)の範囲内にUV照射処理を行った。
・・・
[0157] 次に、UV照射処理後の支持体のカップリング剤処理・UV照射処理面と、フィルム処理例1?4で得られた処理後のポリイミドフィルムの各処理面(本実施例1?4ではポリアミド酸溶液A2で形成された層側の面)とが対向するように重ね合わせ、ロータリーポンプにて10^(+2)Pa以下の真空度とし300℃で10MPaの圧力にて10分間真空プレスすることにより加圧加熱処理を行い、本発明の積層体を得た。
得られた積層体の評価結果を表9に示す。
・・・」

m.「表9




n.「[請求項12] ポリイミドフィルム上にデバイスが形成されてなる構造体を製造する方法であって、支持体とポリイミドフィルムとを有する請求項9?11のいずれかに記載の積層体を用いることとし、該積層体のポリイミドフィルム上にデバイスを形成した後、前記積層体の易剥離部分のポリイミドフィルムに切り込みを入れて該ポリイミドフィルムを前記支持体から剥離することを特徴とするデバイス構造体の製造方法。」

(イ)甲2記載事項
a.「【請求項1】
ポリイミド系樹脂前駆体の溶液を導体上に直接塗布してポリイミド系樹脂前駆体層を形成し、これを熱硬化してポリイミド系樹脂層を有するフレキシブルプリント配線板用基板を製造するに際して、
2種のポリイミド系樹脂前駆体A、Bの溶液のうちの一方のポリイミド系樹脂前駆体Bの溶液を導体上に直接接するように塗布し、
その上に上記ポリイミド系樹脂前駆体Bが熱硬化して形成されるポリイミド系樹脂に生ずる残留歪を打消し得るポリイミド系樹脂前駆体Aであって、熱硬化速度が上記ポリイミド系樹脂前駆体Bよりも速いポリイミド系樹脂前駆体Aの溶液を塗布することを特徴とするフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法。」

b.「【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント配線板用基板の製造方法及びフレキシブルプリント配線板用基板に関し、詳しくは、回路形成後にカール、ねじれ、反り等を生ずることがなく、しかも、耐熱性、寸法安定性、接着性、電気的特性等に優れたフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法及びフレキシブルプリント配線板用基板に関する。」

c.「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、本発明の目的は、回路形成後にカール、ねじれ、反り等を生ずることが抑制され、しかも、耐熱性、寸法安定性、接着性に優れ、電気的特性等にも優れたフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法及びフレキシブルプリント配線板用基板を提供することにある。」

イ.本件発明1について
(ア)甲1発明
上記甲1記載事項a.及びb.によれば、i.に記載された「ポリイミドフィルム1」は、半導体素子、MEMS素子、ディスプレイ素子など、薄膜からなり且つ微細な加工が必要となるデバイスをその表面に形成するための、フレキシブルな多層構造のフィルムであるといえるところ、上記甲1記載事項a.?m.からみて、甲1には、実施例1(特に、m.の表9を参照)として以下の甲1発明が記載されているといえる。
《甲1発明》
無機物からなる支持体(基板)であるガラスと 、半導体素子、MEMS素子、ディスプレイ素子など、薄膜からなり且つ微細な加工が必要となるデバイスをその表面に形成するための、フレキシブルな多層構造のポリイミドフィルム1との積層体であって、ガラスからポリイミドフィルムを剥離する際の、UV未照射部剥離強度が2.0N/cm、UV照射部剥離強度が、0.2N/cm、耐熱剥離強度が2.1N/cm、耐酸性剥離強度が1.8N/cm、耐アルカリ性剥離強度が1.9N/cmである積層体。

(イ)対比、一致点、相違点
甲1発明における「無機物からなる支持体(基板)であるガラス」は、本件発明1の「ガラス基板」に相当する。
また、甲1発明の「半導体素子、MEMS素子、ディスプレイ素子など、薄膜からなり且つ微細な加工が必要となるデバイスをその表面に形成するための、フレキシブルな多層構造のポリイミドフィルム1」は、フレキシブルデバイス用のフィルムといえるから、甲1発明の「積層体」は、本件発明1の「フレキシブルデバイス用積層体」に相当する。
そして、甲1発明における「多層構造のポリイミドフィルム1」は、「2層以上の多層構造を有するポリイミド系フィルム」という限りにおいて、本件発明1の「2層以上の多層構造を有しガラス基板に接するポリイミド系フィルム」に相当する。
してみると、本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。
《一致点》
ガラス基板と 、2層以上の多層構造を有するポリイミド系フィルムとの積層体である、フレキシブルデバイス用積層体。

《相違点》
本件発明1は、2層以上の多層構造を有するポリイミド系フィルムが、「ガラス基板に接する」ものであって、「ガラス基板とポリイミド系フィルムとの層間の接着強度が7N/cm以下である」るのに対し、甲1発明は、2層以上の多層構造を有するポリイミド系フィルムが、ガラス基板に接することを規定しておらず、「ガラスからポリイミドフィルムを剥離する際の、UV未照射部剥離強度が2.0N/cm、UV照射部剥離強度が、0.2N/cm、耐熱剥離強度が2.1N/cm、耐酸性剥離強度が1.8N/cm、耐アルカリ性剥離強度が1.9N/cmである」点。

(ウ)判断
まず、上記《相違点》は、フレキシブルデバイス用積層体の積層構造及び接着強度ないし剥離強度に関する実質的な相違点であるから、本件発明1は甲1発明ではない。
ゆえに、理由1には理由がない。
そして、本件発明1の発明特定事項である「2層以上の多層構造を有するポリイミド系フィルムが、「ガラス基板に接する」ものであって、「ガラス基板とポリイミド系フィルムとの層間の接着強度が7N/cm以下である」」ことは、甲1及び甲2には、記載されておらず、これを示唆する記載もないから、本件発明1は、甲1発明及び甲2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、理由2にも理由がない。

なお、申立人は、平成30年10月17日付け意見書において、「ポリイミド系フィルム」が「ガラス基板に接する」ことを発明特定事項とした本件発明2については、特許を取り消すべきである旨の意見を述べていないところ、上記2.で示したように本件訂正請求が認められ、上記「ポリイミド系フィルム」が「ガラス基板に接する」ことが、本件発明1の発明特定事項となったため、本件特許1に係る特許を取り消すべき理由は、上記のとおりなくなった。

ウ.本件発明2及び4について
本件発明2及び4は、本件発明1の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としているところ、上記イ.(ウ)で示した理由と同様の理由により、甲1発明であるとはいえず、また、甲1発明及び甲2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号には該当しないから、同法第113条第2号の規定には該当せず、理由1によって取り消すことはできない。
また、本件発明1、2及び4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号の規定には該当せず、理由2によって取り消すことはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、2及び4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことができず、また、他に本件発明1、2及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板と、2層以上の多層構造を有しガラス基板に接するポリイミド系フィルムとの積層体であって、ガラス基板とポリイミド系フィルムとの層間の接着強度が7N/cm以下であることを特徴とするフレキシブルデバイス用積層体。
【請求項2】
ガラス基板に接するポリイミド系フィルム層をガラス基板から剥離したポリイミド系フィルムの曲率半径が30mm以上であることを特徴とする請求項1記載のフレキシブルデバイス用積層体。
【請求項3】
ガラス基板に接するポリイミド系フィルム層に離型剤が配合されていることを特徴とする請求項1または2に記載のフレキシブルデバイス用積層体。
【請求項4】
多層構造を形成するポリイミド系フィルムが、それぞれの残留歪を打ち消すように配置されていることを特徴とする請求項1?3いずれかに記載のフレキシブルデバイス用積層体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-03-25 
出願番号 特願2013-100282(P2013-100282)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (B32B)
P 1 652・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 渡邊 豊英
竹下 晋司
登録日 2017-08-04 
登録番号 特許第6185283号(P6185283)
権利者 ユニチカ株式会社
発明の名称 フレキシブルデバイス用積層体  
代理人 北原 康廣  
代理人 山尾 憲人  
代理人 山尾 憲人  
代理人 北原 康廣  

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