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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C10B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C10B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C10B |
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管理番号 | 1351430 |
異議申立番号 | 異議2018-700569 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-07-13 |
確定日 | 2019-04-10 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6260260号発明「コークスの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6260260号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第6260260号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6260260号の請求項1に係る特許についての出願は、平成25年12月24日の出願であって、平成29年12月22日にその特許権の設定登録がされ、平成30年1月17日に特許掲載公報が発行され、平成30年7月13日に、その特許について、特許異議申立人豊田敦子により、特許異議の申立てがされ(以下、特許異議申立人を単に「申立人」ということもある。)、当審より、同年10月5日付けで取消理由が通知され、特許権者は同年12月7日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人から意見書が提出されなかったものである。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、次のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記粉砕した石炭を全配合炭に対して0質量%を超え、25質量%以下となるように、かつ0.3mm以下が9質量%以下になるように」と記載されているのを、「前記粉砕した石炭を全配合炭に対して20質量%以上、25質量%以下となるように、かつ0.3mm以下が5.3質量%以下になるように」に訂正する。 (2)訂正事項2 明細書の段落【0008】に、「(1)揮発分が30質量%以上で、ジラトメータ測定による全膨張率が5%以下、ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭を、3mm以下が85質量%以上に粉砕し、 前記粉砕した石炭を全配合炭に対して0質量%を超え、25質量%以下となるように、かつ0.3mm以下が9質量%以下になるように配合することを特徴とするコークスの製造方法。」と記載されているのを、「(1)揮発分が30質量%以上で、ジラトメータ測定による全膨張率が5%以下、ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭を、3mm以下が85質量%以上に粉砕し、 前記粉砕した石炭を全配合炭に対して20質量%以上、25質量%以下となるように、かつ0.3mm以下が5.3質量%以下になるように配合することを特徴とするコークスの製造方法。」に訂正する。 (3)訂正事項3 明細書の段落【0023】の【表2】の1行3列目の「非粘結炭Cの0.3mm以下(質量%)」と記載されているのを、「非粘結炭Cの3mm以下(質量%)」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び、一群の請求項について (1)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について ア 訂正事項1について 訂正前の請求項1に係る発明では、「前記粉砕した石炭を全配合炭に対して0質量%を超え、25質量%以下となるように、かつ0.3mm以下が9質量%以下になるように」として、粉砕した石炭の全配合炭に対する配合量の下限を「0質量%を超え」と規定し、0.3mm以下の石炭の配合量の上限を「9質量%以下」と規定していたのに対し、訂正事項1に係る訂正では、本件明細書の【0021】?【0023】に記載されたシリーズX(粉砕した石炭の配合量:20質量%)の実施例1(非粘結炭Cの0.3mm以下の量:4.1質量%)、実施例2(非粘結炭Cの0.3mm以下の量:5.3質量%)、及び、シリーズY(粉砕した石炭の配合量:25質量%)の実施例3(非粘結炭Cの0.3mm以下の量:4.8質量%)に基いて、粉砕した石炭の配合量の下限を「20質量%以上」と規定し、0.3mm以下の石炭の配合量の上限を「5.3質量%以下」と訂正するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 イ 訂正事項2について 訂正事項2は、訂正事項1に対応して、明細書の【0008】に記載された、粉砕した石炭の配合量の下限を「20質量%以上」と規定し、0.3mm以下の石炭の配合量の上限を「5.3質量%以下」と訂正するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 訂正事項3について 訂正事項3は、明細書の【0022】の「実施例1?実施例3は、非粘結炭Cの3mm以下が85質量%以上で・・・比較例1及び比較例2は、膨張率が低い非粘結炭Cの3mm以下が85質量%以下で・・・比較例2は、膨張率が低い非粘結炭Cの3mm以下が85質量%以上」という記載等に基いて、【0023】の【表2】の1行3列目の「非粘結炭Cの0.3mm以下(質量%)」という記載のうち、明らかな誤記である「0.3mm」を「3mm」と訂正するものであって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第2号の「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)まとめ 上記(1)より、訂正事項1?3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1?3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項までの規定に適合するので、本件訂正を認める。 第3 訂正後の本件発明 特許請求の範囲について、上記のとおり訂正が認められるから、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「揮発分が30質量%以上で、ジラトメータ測定による全膨張率が5%以下、ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭を、3mm以下が85質量%以上に粉砕し、 前記粉砕した石炭を全配合炭に対して20質量%以上、25質量%以下となるように、かつ0.3mm以下が5.3質量%以下になるように配合することを特徴とするコークスの製造方法。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由の概要 訂正前の本件発明に係る特許に対して、平成30年10月5日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 1.理由1(新規性)訂正前の本件請求項1に係る発明(以下、「訂正前の本件発明」という。)は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記4の甲1又は2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、訂正前の請求項1に係る特許(以下、「訂正前の本件特許」という。)は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 2.理由2(進歩性)訂正前の本件発明は、本件特許出願前日本国内又は外国において頒布された下記4の甲1、3に記載された発明又は甲2、3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 3.理由3(サポート要件)訂正前の本件特許は、その特許請求の範囲の記載が次の(1)及び(2)の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 (1)訂正前の請求項1における0.3mm以下の比率についての記載不備 本件の訂正前の請求項1には、「・・・の石炭を、3mm以下が85質量%以上に粉砕し、前記粉砕した石炭を全配合炭に対して0質量%を超え、25質量%以下となるように、かつ0.3mm以下が9質量%以下になるように配合する」と記載されている。 一方、本件明細書には、【発明が解決しようとする課題】として、「本発明の目的は、膨張率が低い非粘結炭を適切に粉砕することにより高強度のコークスの製造を可能とするコークスの製造方法を提供することである。」(【0005】)と記載され、【発明の効果】として、「本発明によれば、膨張率が低い非粘結炭を3mm以下に粉砕し、かつ、過粉砕により0.3mm以下が増加しない程度に、適切に粉砕することにより、高強度のコークスの製造が可能となる。」(【0009】)と記載されている。 しかし、訂正前の請求項1で特定される粉砕した石炭の配合比率が小さい場合には、どのような粉砕条件であっても0.3mm以下の比率が9質量%以下になる。例えば、上記の粉砕した石炭(膨張率が低い非粘結炭)の配合比率が全配合炭に対して9質量%以下であれば、膨張率が低い非粘結炭を「3mm以下が85質量%以上に粉砕」する際に、どのような粉砕条件であっても、例えば、0.3mm以下が0%になるように粉砕しても100%になるように粉砕しても、必ず全配合炭に対して「0.3mm以下の比率が9質量%以下」となる。 すなわち、訂正前の請求項1で特定される石炭の配合比率が小さい場合には、「膨張率が低い非粘結炭を適切に粉砕する」条件が示されているとはいえないから、上記の課題を解決することができず、「過粉砕により0.3mm以下が増加しない程度に、適切に粉砕することにより、高強度のコークスの製造が可能となる」という効果を奏するとはいえない。 また、本件明細書には、実施例として、膨張率が低い非粘結炭の配合比率が20質量%と25質量%の粉砕条件が示されているだけで、配合比率が20質量%未満の粉砕条件は示されていない。 したがって、配合比率が20質量%未満の場合、訂正前の請求項1の全配合炭に対して「0.3mm以下が9質量%以下になるように配合する」という特定では、「膨張率が低い非粘結炭を適切に粉砕することにより高強度のコークスの製造を可能とする」という発明の課題を解決できるかどうか明らかでないから、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えている。 さらに、本件明細書の【0015】には、「0.3mm以下粉の発生を抑制することがコークス強度低下抑制に繋がると考えらえる。このことから、膨張率が低い非粘結炭の粉砕は、微粉(0.3mm以下)を抑制する必要があることが分かった。」と記載されている。 しかし、訂正前の請求項1の全配合炭に対して「0.3mm以下が9質量%以下になるように配合する」という特定では、上記のように、膨張率が低い非粘結炭の配合比率が小さい場合、粉砕がどのような条件で行われてもよい場合が含まれるから、膨張率が低い非粘結炭を「3mm以下が85質量%以上に粉砕」する際に、0.3mm以下の微粉の発生を抑制するように粉砕することが特定されているとはいえない。 したがって、訂正前の請求項1の「前記粉砕した石炭を全配合炭に対して0質量%を超え、25質量%以下となるように、かつ0.3mm以下が9質量%以下になるように配合する」という特定では、「膨張率が低い非粘結炭を適切に粉砕することにより高強度のコークスの製造を可能とするコークスの製造方法を提供する」という発明の課題を解決することができない。 (2)訂正前の請求項1における非粘結炭の添加量が少ない場合の記載不備 コークス強度は、コークス原料となる配合炭への粘結性の劣る非粘結炭や微粘結炭の添加量によって影響を受ける。すなわち、粘結性の劣る石炭の添加量が多ければ強度低下が大きく、添加量が少なければ強度低下は小さくなる。この傾向は公知であり、本件明細書の【0002】にも「非粘結炭は・・・コークス強度低下の要因となる」と記載されており、非粘結炭の添加量が多くなればコークス強度が低下することは自明である。 これに対し、本件の訂正前の請求項1には、「前記粉砕した石炭を全配合炭に対して0質量%を超え、25質量%以下となるように、かつ0.3mm以下が9質量%以下になるように配合する」と記載されているが、これには、以下の2つのケースが含まれる。 (ケース1)訂正前の請求項1に特定された石炭(膨張率が低い非粘結炭)の粉砕粒度を適正化する(粗粒と微粉をともに減らす)ことによってコークス強度を向上させるケース(本件明細書に記載された効果) (ケース2)訂正前の請求項1に特定された石炭(膨張率が低い非粘結炭)の粉砕粒度を問わず、膨張率が低い非粘結炭の配合炭への添加量を減らすことによってコークス強度を向上させるケース(本件明細書において無視されている効果) 上記ケース2の場合、上記(1)に記載したとおり、「0.3mm以下が9質量%以下」という特定は意味がなく、コークス強度の向上は、粘結性の劣る(訂正前の請求項1で特定された)石炭の添加量を少なくする(例えば、9質量%以下)ことによってもたらされたと考えられるものであり、これは、上記公知の方法を単に適用したに過ぎず、本件明細書の発明の詳細な説明にサポートされていない。 本件明細書のデータは、膨張率が低い非粘結炭の添加量が20?25質量%であり、添加量が少ない場合のコークス強度については言及がない。仮に、非粘結炭の添加量が少なく(9質量%以下)、その粒度が微粉ばかり(0.3mm以下100%)である場合、本件特許の訂正前の請求項1の特定事項は満足するが、非粘結炭の添加量が少ないことによる強度向上効果と、非粘結炭の微粉が多いことによる強度低下のどちらが上回るかは明確になっていない。仮に強度低下の方が大きかったとすると、高強度のコークスを製造するという本件特許発明の課題が解決できないことになる。 いずれにしても、膨張率が低い非粘結炭の添加量が20質量%未満のコークス強度についてデータによる裏付けがない以上、「前記粉砕した石炭を全配合炭に対して0質量%を超え、25質量%以下となるように」配合すると特定した訂正前の本件発明は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えている。 以上のとおり、訂正前の本件発明は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えているから、訂正前の本件発明と、本件特許の発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが、実質的に対応しているとはいえず、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていない。 したがって、訂正前の本件特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 4.引用刊行物 甲1:「鉄と鋼」、Vol.92(2006)、No.3、p.223-231 甲2:「鉄と鋼」、Vol.96(2010)、No.5、p.265-271 甲3:特開2001-181644号公報 第5 取消理由通知に記載した取消理由についての判断 1.理由1、2について (1)引用例の記載 ア 甲1 甲1には、次の記載がある。 (甲1ア) 「2. 触媒添加高強度・高反応性塊コークス製造技術に関する基礎検討 2・ 1 実験方法 2・1. 1 石炭および添加物特性 実験には,A?Fの6種類の石炭を用いた(Table 1)。A炭およびB炭は冶金用コークス製造に通常用いられる粘結炭,C炭は低石炭化度かつ低流動性の非微粘結炭である。ここで,低石炭化度(ビトリニットの平均反射率≦0.8)かつ低流動性(log(MF/ddpm)≦2.5)の石炭を「(低石炭化度)非微粘結炭」(SCC;a low rank and slightly caking coal)と呼ぶことにする。D炭,E炭およびF炭は流動性を示さない非粘結炭であり,F炭は,灰中のカルシウム含有量が高いことが特徴である(今後高Ca炭と呼ぶ)。また,各種アルカリ土類金属化合物の添加がコークス反応性に及ぼす影響について検討するため,5種類の化合物試薬(SrCO_(3),CaCO_(3),MgCO_(3),CaO,MgO)を用いた。」(224頁右欄15?26行) (甲1イ) 「 」(225頁 Table 1) (甲1ウ) 「 」(225頁左欄 Table 2) (甲1エ) 「(2 ) 高Ca炭配合乾留試験 次に,高Ca炭(F炭)配合がコークス強度,反応性に及ぼす影響について検討するため,各石炭試料を粉砕粒度-3mm85%に粉砕後に,Table2に示すような比率で配合し,水分3%に調整後,装入密度850dry.kg-coal/m^(3)で装入して試験コークス炉で乾留した。 Test 1?3は,粘結炭であるB炭70%と非微粘結炭であるC炭30%の配合炭(Test 1)に対し,B炭とF炭の二銘柄配合炭(F炭配合比率10%,20%)の比較である。Test4?9は, A炭20%,B炭50%,C炭30%の配合炭をベース(Test4)とし,C炭をF炭に5?15%,あるいはD炭,E炭に10%振り替えた配合炭を調整した。」(225頁左欄8?18行) イ 甲2 甲2には、次の記載がある。 (甲2ア)「2.試験室規模での基礎試験 2 ・ 1 実験方法 2 ・ 1 ・ 1 試験コークス炉による軟化溶融層内ガス圧測定 今回の基礎試験,実機試験で用いた石炭の性状をTable 1に示す。A炭,B炭,C炭が高膨張圧炭であり,試験コークス炉^(6))で測定した各単味炭の最大軟化溶融層内ガス圧はそれぞれ170 kPa,370 kPa,50 kPaであった(石炭粉砕粒度3 mm 85%,装入密度850 kg/m^(3))。 また,Table 2 に石炭配合条件を示す。ここでは,各単味炭を目標粒度に粉砕してから配合する粉砕配合方式(Test1?4)と,所定比率に配合してから目標粒度に粉砕する配合粉砕方式(Test 5, 6)により高膨張圧炭の粉砕粒度を調整した。粉砕粒度の目標値をTable 3に示す。石炭の粉砕には試験室規模の反撥式粉砕機を用い,目標粒度となるように粉砕機の回転数を調整して粉砕した。1.5 mm 100%の試料については,粉砕後に1.5mmの篩いで篩い分け,篩い上石炭を粉砕機で再び粉砕することを繰り返して調整した。また,Test 3,4では,粉砕したB炭の1mmのみを用いる試験も実施した。 配合した石炭は,装入密度850 dry, kg/m^(3)で電気加熱式試験コークス炉(炉幅420mm;炉長600mm;炉高400mm)^(15))に装入し,実コークス炉におけるフリュー温度1250°Cでの炭中昇温パターンに合うように電気発熱体の温度を調整し,18.5時間乾留した。」 (甲2イ)「 」(266頁右欄 Table 1) (甲2ウ) 「 」(266頁右欄) (甲2エ)「 」(266頁右欄) (甲2オ)「 」(267頁左欄) ウ 甲3 甲3には、次の記載がある。 (甲3ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 非微粘結炭粒子を20?80重量%含み、前記粒子の粒径が所定の範囲にあることを特徴とするコークス炉装入用石炭。 【請求項2】 前記非微粘結炭粒子の最大粒径が6mm以下であることを特徴とする請求項1記載のコークス炉装入用石炭。 【請求項3】 前記非微粘結炭粒子の0.5mm以下の粒子の割合が、非微粘結炭粒子全体の40重量%以下であることを特徴とする請求項2記載のコークス炉装入用石炭。」 (甲3イ)「【0013】本装入用石炭に含まれる非微粘結炭粒子の最大粒径は6mm以下であることが好ましい。その理由は、以下の通りである。図2は、コークス内の非微粘結炭と粘結炭の粒子について、気孔平均径および単位粒子内の気孔数と、石炭粒子径との間の関係を、本発明者らが測定した結果である。図2に示すように、非微粘結炭粒子内の気孔は、粘結炭粒子内の気孔と比べて、気孔径は小さく気孔数は大きい。特に、非微粘結炭粒子内の気孔は、粒径が6mmを越えると、気孔径はそれほど変化せずに気孔数が大きく増加する。つまり、コークス内に径の小さな気孔が多数存在する。その結果、気孔壁が薄くなってコークスの基質強度が低下する可能性が増える。」 (甲3ウ)「【0016】また、非微粘結炭のような粘結性の乏しい石炭は、コークス強度を維持するために粘結性の高い石炭と配合する必要がある。特に、非微粘結炭の微粉粒子が多いと粒子の比表面積が増加してコークス強度が低下するため、多くの粘結炭成分を必要とする。従って、非微粘結炭の微粉粒子はあまり多くない方が良く、例えば0.5mm以下の粒子の割合が40重量%以下であることが好ましい。」 (甲3エ)「【0021】【表2】 」 (2)引用発明の認定 ア 甲1発明 (ア)甲1のTable 1には、コークスの製造に用いる石炭(Coal)について、D炭、E炭及びF炭の特性について、次のように記載されている。 D炭:「VM」が43.2mass%、「Total dilatation(vol.%)」が0、「Maximum fluidity(log MF/ddpm)」が「-」、 E炭:「VM」が48.6mass%、「Total dilatation(vol.%)」が0、「Maximum fluidity(log MF/ddpm)」が「-」、及び、 F炭:「VM」が37.4mass%、「Total dilatation(vol.%)」が0、「Maximum fluidity(log MF/ddpm)」が「-」。 ここで、技術常識に照らして、上記表1における「VM」は、「揮発物質(Volatile Matter)」であるから「揮発分」を示し、「mass%」は「質量%」、「vol.%」は「体積%」、「Total dilatation」は「全膨張率」、「Maximum fluidity」は「最大流動度」を示すものであり、「Maximum fluidity」の欄の「-」とは、流動度が測定限界以下といった、非常に小さい値であることを意味することは明らかである。 また、技術常識に照らして、上記「Total dilatation」は、その測定方法は明らかではないものの、通常、「ジラトメータ測定による全膨張率」を示すものであり、上記「Maximum fluidity(log MF/ddpm)」は、その測定方法は明らかではないものの、「ギーセラー流動度(ddpm)の対数値」を示すことも明らかである。 そうすると、甲1には、「揮発分が30質量%以上で、ジラトメータ測定による全膨張率が5%以下、ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭(D炭、E炭、F炭)」が記載されているといえる。 (イ)また、甲1には、「各石炭試料を粉砕粒度-3mm85%に粉砕後に,Table 2に示すような比率で配合し,水分3%に調整後,装入密度850dry.kg-coal/m^(3)で装人して試験コークス炉で乾留した」ことが記載され、甲1のTable 2から、「Test2、3、5、6、7」は、F炭を全配合炭に対して、それぞれ10%、20%、5%、10%、15%配合したものであり、「Test8」は、D炭を全配合炭に対して10%配合したものであり、「Test9」は、E炭を全配合炭に対して10%配合したものであるといえる。なお、技術常識に照らして、「%」は、「質量%」であることは明らかである。 そうすると、D炭、E炭及びF炭に着目すると、甲1には、「石炭を、3mm以下が85質量%に粉砕し、前記粉砕した石炭を全配合炭に対して5質量%以上、20質量%以下となるように」配合することが記載されているといえる。 (ウ)以上のことから、甲1には、「揮発分が30質量%以上で、ジラトメータ測定による全膨張率が5%以下、ギーセラー流動度(ddPm)の対数値が1.5以下の石炭(D炭、E炭、F炭)を、3mm以下が85質量%に粉砕し、前記粉砕した石炭を全配合炭に対して5質量%以上、20質量%以下となるように配合するコークスの製造方法。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 イ 甲2発明 (ア)甲2の表1(Table 1)には、コ-クスの製造に用いる石炭(Coal)について、「M炭」として、「VM(db)(%)」が「34.9」、「Total Dilatation(vol.%)」が「5」、「Maximum fluidity(log MF/ddpm)」が1.06であることが示されている。 ここで、技術常識に照らして、上記「VM(db)」、「Total Dilatation」及び「Maximum fluidity(log MF/ddpm)」は、それぞれ、「揮発分」、「ジラトメータ測定による全膨張率」及び「ギーセラー流動度(ddpm)の対数値」であることは、明らかである。 そうすると、甲2には、「揮発分が30質量%以上で、ジラトメータ測定による全膨張率が5%以下、ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭(M炭)」が記載されているといえる。 (イ)石炭の粉砕粒度の目標値は表3(Table 3)に記載され、「Test5」では、B炭、E炭、H炭及びM炭のすべての石炭が、配合後に粉砕されるものであり、粉砕後の粒度がFig.3に記載されている。 ここで、Fig.3において、▲実線のデータ(目標粒度度が-1.5mm100%)に着目すると、3mm以下は100%であり、3mm以上の粒子が存在しないことが看取され、M炭も3mm以下に粉砕されていることになる。 そして、Fig.3において、▲実線のデータによれば、配合炭の0.3mm以下の割合は、約36質量%と読み取れる。M炭のみの0.3mm以下の微粉の割合は示されていないが、B炭、E炭、H炭及びM炭のすべての石炭を配合した後に粉砕していることから、M炭が他の石炭と同様に粉砕され、M炭の0.3mm以下の微粉の割合は36質量%程度である蓋然性が高い。 そこで、M炭の0.3mm以下の割合を36質量%と仮定すると、Test5におけるM炭の配合率は25質量%(Table2)であるから、全配合炭に対するM炭の0.3mm以下の微粉の割合は、25質量%×0.36=9質量%となる。 (ウ)以上のことから、甲2には、「揮発分が30質量%以上で、ジラトメ一夕測定による全膨張率が5%以下、ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭が、3mm以下が100%に粉砕され、全配合炭に対して25質量%となるように、かつ0.3mm以下が9質量%になるように配合されているコークスの製造方法。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 (3)対比・判断 ア 甲1発明を主引用発明とした場合 本件発明と甲1発明とを対比する。 本件発明と甲1発明とは、「揮発分が30質量%以上で、ジラトメータ測定による全膨張率が5%以下、ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭を、3mm以下が85質量%に粉砕」する点、及び、「粉砕した石炭を20質量%配合する」点で重複するから、本件発明と甲1発明とは、「揮発分が30質量%以上で、ジラトメータ測定による全膨張率が5%以下、ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭を、3mm以下が85質量%以上に粉砕し、前記粉砕した石炭を20質量%以上、25質量%以下配合するコークスの製造方法。」である点で共通し、次の相違点1-1?3で相違が認められる。 (相違点1-1) 「ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭」を、「3mm以下」に粉砕する量が、本件発明は「85質量%以上」であるのに対し、甲1発明は「85質量%」である点。 (相違点1-2) 粉砕した「ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭」の全配合炭に対する配合割合について、本件発明は「20質量%以上、25質量%以下」であるのに対し、甲1発明は「5質量%以上、20質量%以下」である点。 (相違点1-3) 0.3mm以下に粉砕した「ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭」の全配合炭に対する配合について、本件発明は「5.3質量%以下になるように」配合するのに対し、甲1発明においては、そのような石炭の配合割合は不明な点。 ここで、事案に鑑み、まず、上記相違点1-2及び1-3について検討する。 相違点1-2に関し、甲1発明において、粉砕した「ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭」の全配合炭に対する配合割合が、本件発明1で規定する「20質量%以上、25質量%以下」を満たすものは、甲1の「Table 2」に示された「Test 3」に係る配合炭のみである。 ここで、この「Test 3」に係る配合炭は、B炭(冶金用コークス製造に用いられる粘結炭)とF炭(流動性を示さない非粘結炭。すなわち、ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭)とを、それぞれ、粉砕粒度-3mm85%に粉砕し、粉砕されたB炭を80質量%、粉砕されたF炭を20質量%配合したものである((1)ア(甲1ウ、エ))。 そうすると、「Test 3」に係る配合炭において、3mm以下に粉砕されたF炭の割合は、17質量%(85%×20質量%)であるということができるものの、0.3mm以下に粉砕される割合は不明というほかなく、「Test 3」に係る配合炭において、0.3mm以下に粉砕されたF炭の割合が、5.3質量%以下となると解し得る技術常識の存在も見当たらない。 したがって、上記相違点1-3は、実質的な相違点であって、本件発明と甲1発明とが同一であるとすることはできない。 また、甲1発明において、0.3mm以下に粉砕された同「石炭」を、5.3質量%以下となるように配合する動機付けは見出すことができない。 一方、甲3には、非微粘結炭粒子を20?80重量%含み、前記非微粘結炭粒子の最大粒径が6mm以下であり、前記非微粘結炭粒子の0.5mm以下の粒子の割合が、非微粘結炭粒子全体の40重量%以下であるコークス炉装入用石炭の発明が記載されている(【請求項1】)。 そして、粒径が6mmを越えると、コークス内に径の小さな気孔が多数存在する結果、気孔壁が薄くなってコークスの基質強度が低下する可能性が増えるので、非微粘結炭粒子の最大粒径は6mm以下であることが好ましい(【0013】)ことが記載され、また、非微粘結炭は、コークス強度を維持するために粘結性の高い石炭と配合する必要があり、特に、非微粘結炭の微粉粒子が多いと粒子の比表面積が増加してコークス強度が低下するため、多くの粘結炭成分を必要とするので、非微粘結炭の微粉粒子はあまり多くない方が良く、例えば0.5mm以下の粒子の割合が40重量%以下であることが好ましい(【0016】)ことが記載されている。 また、甲3の表2には、実施例1及び2として、粉砕後の粒度分布が、-0.5mmが30%、0.5-1.5mmが45重量%、1.5-3mmが17重量%、3-6mmが8重量%、6-10mmが0%である非微粘結炭が示されている。 すなわち、甲3には、3mm以下の微粉粒子が92重量%(3-10mmが8重量%)、0.5mm以下の微粉粒子が30重量%に粉砕した非微粘結炭が示されている。 そうすると、甲3には、コークス強度を低下させないために、3mm以下が92重量%、0.5mm以下の微粉粒子が30重量%に粉砕した非微粘結炭を全配合炭に対して20?80重量%となるように配合し、コークス炉装入用石炭とすることが記載されているといえる。 しかしながら、甲3には、全配合炭に対する粉砕された非微粘結炭の割合を、甲3に記載されたものよりも、さらに狭い範囲である、20質量%を超え、25質量%以下とすること、及び、粉砕された非微粘結炭の0.3mm以下の割合が、5.3質量%以下になるように配合することは記載も示唆もされていない。なお、「質量%」と「重量%」とは等価である。 したがって、甲3の記載を参酌したとしても、甲1発明において、0.3mm以下が5.3質量%以下となるように、「粉砕した石炭」を配合することは当業者が容易に想到し得ることである、とすることはできない。 そして、本件発明は、上記相違点1-3に係る発明特定事項を備えることで、「高強度のコークスの製造が可能となる」(本件明細書【0009】)という、格別顕著な作用効果を奏するものと認められる。 そうすると、甲1発明において、上記相違点1-3に係る本件発明の発明特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得ることであるとすることはできない。 以上のとおり、上記相違点1-1について検討するまでもなく、本件発明は、甲1発明であるとはいうことができないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることもできない。 イ 甲2発明を主引用発明とした場合 本件発明と甲2発明とを対比する。 本件発明と甲2発明とは、「揮発分が30質量%以上で、ジラトメータ測定による全膨張率が5%以下、ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭を、3mm以下が100質量%に粉砕」する点、及び「粉砕した石炭を25質量%配合」する点で重複するから、本件発明と甲2発明とは、「揮発分が30質量%以上で、ジラトメータ測定による全膨張率が5%以下、ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭を、3mm以下が85質量%以上に粉砕し、前記粉砕した石炭を20質量%以上、25質量%以下配合するコークスの製造方法。」である点で共通し、次の相違点2-1?3で相違が認められる。 (相違点2-1) 「ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭」を、「3mm以下」に粉砕する量が、本件発明は「85質量%以上」であるのに対し、甲2発明は「100質量%」である点。 (相違点2-2) 粉砕した「ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭」の全配合炭に対する配合割合について、本件発明は「20質量%以上、25質量%以下」であるのに対し、甲2発明は「25質量%」である点。 (相違点2-3) 0.3mm以下に粉砕した「ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭」の全配合炭に対する配合について、 (a)0.3mm以下に粉砕した同「石炭」の全配合炭に対する配合割合が、本件発明は、「5.3質量%以下」であるのに対し、甲2発明は、「9質量%」である点(なお、該「9質量%」は、甲2の「Fig.3」から看取された値に基づくものである)、及び、 (b)配合の仕方が、本件発明は、同「石炭」を3mm以下が85質量%以上に粉砕し、前記粉砕した「石炭」を「0.3mm以下が9質量%」になるように配合するのに対して、甲2発明は、同「石炭」を所定比率に配合してから目標粒度となるように粉砕して、「0.3mm以下が9質量%」になるようにしている点。 ここで、事案に鑑み、まず、上記相違点2-3の上記配合割合に関する相違点(a)について検討する。 上記相違点2-3の相違点(a)は、実質的な相違点であって、本件発明と甲2発明とが同一であるとすることはできない。 また、甲2発明において、0.3mm以下に粉砕した「ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭」の全配合炭に対する配合割合である「9質量%」は、甲2の「Fig.3」から看取された値に基づくものであり、甲2には、上記配合割合をどのような値のものとするかについて記載がなく、甲2発明において、上記配合割合を「9質量%」からさらに小さい「5.3質量%以下」ものとする動機付けは見出すことができない。 また、上述したように、甲3には、0.3mm以下に粉砕された非微粘結炭を、5.3質量%以下となるように全配合炭に配合することは記載も示唆もされていない、というべきであるから、甲3の記載を参酌したとしても、甲2発明において、0.3mm以下が5.3質量%以下となるように、同「石炭」を配合することは当業者が容易に想到し得ることである、とすることはできない。 そして、本件発明は、上記相違点2-3に係る発明特定事項を備えることで、「高強度のコークスの製造が可能となる」(本件明細書【0009】)といった、格別顕著な作用効果を奏するものと認められる。 そうすると、甲2発明において、上記相違点2-3に係る本件発明の発明特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得ることであるとすることはできない。 以上のとおり、上記相違点2-1?2について検討するまでもなく、本件発明は、甲2発明であるとはいうことができないし、甲2発明及び甲3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることもできない。 ウ まとめ 以上のとおり、理由1、2には、理由がない。 2.理由3について 本件訂正により、本件発明は、粉砕した石炭の全配合炭に含まれる割合が20質量%未満となる場合が除外され、発明の詳細な説明の実施例に則したものとなったことにより、本件発明は、当業者が「膨張率が低い非粘結炭を適切に粉砕することにより高強度のコークスの製造を可能とするコークする製造方法を提供すること」(本件明細書【0005】)という本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではない、ということはできない。 したがって、理由3には、理由がない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。 第6 むすび 以上のとおり、請求項1に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 そして、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 コークスの製造方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、コークスの製造方法に関する。特に、膨張率が低い非粘結炭を使用するコークスの製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 コークスの製造では、安価原料である非粘結炭を多量に使用することが望まれている。非粘結炭は高揮発分であるが故に、軟化溶融-再固化後の(セミ)コークス収縮率が高く、その結果、コークス塊内の亀裂生成およびコークス強度低下の要因となる。そのため、石炭を粉砕し、粒子サイズを小さくすることで亀裂サイズを低下させ、コークス強度の向上を図ることができる。 一方、石炭は過粉砕すると粘結性が低下することが知られている。そのため、粘結性低下によるコークス強度低下を引き起こさずに、粉砕による効果を享受することが望まれる。 平均反射率0.6%以上1.1%以下、かつ、膨張率-10%以上の弱粘結炭を粒度2mm以下90%に粉砕する方法が開示されている。従来の技術範囲(3mm以下60%?90%)よりも細かく粉砕することで亀裂抑制効果が大きく、コークス強度が向上するとしている(特許文献1)。 無機成分の高い石炭の粉砕粒度を無機成分の低い石炭より細かく粉砕してコークスを製造する方法の記載がある(特許文献2)。 また、粘結炭、非粘結炭を問わず、0.6mm以上の最大長さを有する粗大イナート組織を区分化し、区分毎に粉砕し、石炭粉砕に伴う粒径0.3mm以下の微粉炭の増加による配合炭全体の嵩密度の低下を抑制することで、安定的かつ効果的にコークス強度を高める高炉用コークスの製造方法の記載がある(特許文献3)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0003】 【特許文献1】特開2002-121567号公報 【特許文献2】特許第5045082号公報 【特許文献3】特許第4551494号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 膨張率が低い非粘結炭は、非粘結性が著しい。かかる非粘結性が著しい非粘結炭を使用するコークスの製造においては、非粘結炭の粉砕が重要である。非粘結炭を細粒に粉砕すると、コークス強度は向上するが、過粉砕すると粘結性が低下してしまい、かえって、コークス強度は低下すると考えられる。以下、細粒とは、略3mm以下の石炭をいい、微粉とは、略0.3mm以下の石炭をいう。 特許文献1には、非粘結炭を粒度2mm以下90%に粉砕するが、粉砕により発生する微粉に関しての記載がない。 特許文献2または特許文献3は、石炭の性状に対応した粉砕方法を提案する。特許文献2は、無機成分に着目するもので、特許文献3は、粗大イナート組織に着目し、その特性に応じて粉砕する。しかし、これらの文献は、非粘結炭の粉砕に伴う細粒と微粉の粉砕方法についての記述はない。 【0005】 膨張率が低い非粘結炭の使用では、非粘結炭をどの程度、粉砕して、コークス強度を確保するかが課題である。 本発明の目的は、膨張率が低い非粘結炭を適切に粉砕することにより高強度のコークスの製造を可能とするコークスの製造方法を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明者等は、膨張率が低い非粘結炭を粉砕する実験を繰り返すことにより、適切な粉砕により高強度のコークスの製造が可能となることを見出した。 本発明は、これらの知見に基づくものである。 【0007】 本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。 【0008】 (1)揮発分が30質量%以上で、ジラトメータ測定による全膨張率が5%以下、ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭を、3mm以下が85質量%以上に粉砕し、 前記粉砕した石炭を全配合炭に対して20質量%以上、25質量%以下となるように、かつ0.3mm以下が5.3質量%以下になるように配合することを特徴とするコークスの製造方法。 【発明の効果】 【0009】 本発明によれば、膨張率が低い非粘結炭を3mm以下に粉砕し、かつ、過粉砕により0.3mm以下が増加しない程度に、適切に粉砕することにより、高強度のコークスの製造が可能となる。 【図面の簡単な説明】 【0010】 【図1】添加した膨張率が低い非粘結炭の粒度区分の平均値とコークスのI型強度、膨張比容積の関係を示す図。 【図2】膨張率が低い非粘結炭の0.3mm以下の割合とコークス強度(DI^(150)_(15))の関係を示す図。 【発明を実施するための形態】 【0011】 (非粘結炭の粉砕がコークス強度に及ぼす影響について) 石炭は、一般的に400℃近傍で軟化溶融を開始し500℃近傍で再固化する。その時点でのコークスはセミコークスと呼ばれ、その後の昇温により残留揮発分が放出されながら収縮し、1000℃近傍で完全に焼き締まったコークスとなる。非粘結炭は一般的に高揮発分であるため、セミコークス収縮率が高く、それがコークス塊内の亀裂生成を誘発しコークス強度低下の要因となる。したがって、そのような石炭を細かく粉砕することでコークス塊内の亀裂サイズが低下し、コークス強度を増加させることができる。 以上の考え方に従って、コークス強度を確保するため、非粘結炭は、細粒化することが重要である。 【0012】 (非粘結炭の過粉砕がコークス強度に及ぼす影響について) 一方、粉砕強化の結果として微粉の量が増加する。石炭は粒度が小さくなりすぎると発生ガスが粒子内に内包されにくくなるため、膨張性が低下する。そのため、粉砕を強化しすぎると、微粉発生による膨張性低下の悪影響が粗粒のサイズ低下に伴う亀裂サイズ低下の効果を上回り、結果としてコークス強度が低下する。しかし、具体的な粒度と膨張率の関係は明らかではない。 【0013】 非粘結炭の過粉砕がコークス強度に及ぼす影響について調査した。 図1に、対象とする膨張率が低い非粘結炭の粒度とコークス強度および配合炭の膨張性との関係を示す。小型の試験コークス炉により乾留した結果である。試験コークス炉は石炭装炭容積144cm^(3)(W40mm、L60mm、H60mm)の小型の乾留装置を使用した。 用いた膨張率が低い非粘結炭Cの特性を表1に示す。表1には、後述する図2及び実施例(表2)で用いた非粘結炭の特性も示す。尚、非粘結炭D,非粘結炭Fは、膨張率が大きく、本発明に係る粉砕対象の非粘結炭ではない。 【0014】 【表1】 【0015】 非粘結炭Cは、3mm篩下重量比率75%に粉砕し、粉砕後、1mm,0.6mm,0.3mm,0.1mmの篩で5粒度区分に篩い分けた。篩分け後の各粒度の非粘結炭30乾質量%と、1mm以下100%の粘結炭70乾質量%の配合炭を作成した。その配合炭100gを用い、昇温速度3℃/minにて1000℃まで昇温し、1000℃で30分保持することで乾留を行い、コークス強度を調査した。コークス強度の評価にはI型強度試験を用い、膨張性評価には膨張比容積を用いた。 I型強度試験とは、内径132mm×長さ600mmの円筒容器にコークスを入れ、長さ方向に600回転させた後の9.52mm上残存率を求めるものである。本試験では、得られたコークス塊の半分である略72cm^(3)で略40gのコークスをいれ、I型強度を測定した。また、膨張比容積とは、特開平5-60707に記載されている石炭質量あたりの石炭膨張後体積(cm^(3)/g)である。 図1から、非粘結炭Cの粒径が0.3mm以下になると配合炭の膨張性が低下し、それに応じてコークス強度が低下する。0.3mm以下粉の発生を抑制することがコークス強度低下抑制に繋がると考えらえる。このことから、膨張率が低い非粘結炭の粉砕は、微粉(0.3mm以下)を抑制する必要があることが分かった。 【0016】 (膨張率が低い非粘結炭の粉砕方法がコークス強度に及ぼす影響について) 膨張率が低い非粘結炭の軽粉砕又は過粉砕の程度により、粉砕後の3mm以下、又は、0.3mm以下が変化する。そこで、分級粉砕法により、非粘結炭の粉砕の程度を変更する試験を行った。 【0017】 粉砕粒度3mm以下80%の粘結炭の乾質量60%と、膨張率が高い非粘結炭Dの乾質量20%、および本発明において粉砕対象となる膨張率が低い非粘結炭Cの乾質量20%から成る配合炭80kgを、炭化室内寸法がW450mm×L500mm×H500の試験コークス炉に嵩密度0.76t/m^(3)で装炭し、乾留温度1000℃で21時間乾留を行った。排出後のコークスは一昼夜窒素流通下で冷却し、その後JIS-K2151に規定のドラム強度測定試験に供した。 【0018】 図2に、粉砕後の膨張率が低い非粘結炭の3mm以下、又は、0.3mm以下のコークス強度への影響を示す。図2で、Pは、粉砕の程度は最も強く、Q,R,Sの順で、粉砕の程度は弱くなっている。 P(-0.5mm100%)は、-0.3mmが多く(14.5%)、コークス強度が低い。Q(-1mm100%)は、-0.3mmは、少なく(5.6%)で、コークス強度が高い。R(-3mm100%)、S(-3mm80%)に粉砕すると、粉砕不十分で、粗粒が増え、コークス強度が低下する。 【0019】 Pの強粉砕では、微粉(0.3mm以下)が多く、R,Sの弱粉砕では、粗粉(3mm以上)が多く、それぞれ、コークス強度(DI^(150)_(15))が低下した。 【0020】 なお、粉砕の方法および粉砕機の種類は任意であるが、微粉の量を制御しつつ粗粉のみを効率よく粉砕するには、予め篩にかけて篩上のみを粉砕し、その後さらに篩にかけて篩上のみを粉砕する分級粉砕法などが効果的である。 【実施例】 【0021】 コークス強度の目標値を(DI^(150)_(15))≧84.5とし、膨張率が低い非粘結炭の粉砕によるコークス実験を行った。 粉砕対象の非粘結炭は、非粘結炭Cを用いた。非粘結炭Cを、3mm以下が75質量%?100質量%に変更して粉砕した。粉砕は、反発式粉砕機を用い実施した。 シリーズXでは、粘結炭の乾質量60%と、膨張率が高い非粘結炭Dの乾質量20%、および本発明にて粉砕対象となる膨張率が低い非粘結炭Cの乾質量20%からなる配合炭とし、シリーズYでは、粘結炭の乾質量50%と、膨張率が高い非粘結炭Fの乾質量25%、および本発明にて粉砕対象となる膨張率が低い非粘結炭Cの乾質量25%からなる配合炭とした。 上記に準備した配合炭80kgを、炭化室内寸法がW450mm×L500mm×H500の試験コークス炉に嵩密度0.80t/m^(3)で装炭し、乾留温度1000℃で21時間乾留を行った。排出後のコークスは一昼夜窒素流通下で冷却し、その後JIS-K2151に規定のドラム強度測定試験に供した。 それぞれのケースに対応した膨張率が低い非粘結炭Cの0.3mm以下とコークス強度(DI^(150)_(15))を表1に示す。ここで、非粘結炭Cの0.3mm以下とは、全配合炭に対する非粘結炭Cの0.3mm以下(質量%)である。 【0022】 実施例1?実施例3は、非粘結炭Cの3mm以下が85質量%以上で、かつ、全配合炭に対して0.3mm以下が9質量%以下であり、粉砕が適切で、コークス強度の目標値を達成することができた。 比較例1及び比較例2は、膨張率が低い非粘結炭Cの3mm以下が85質量%以下で、粉砕が不十分で、粗粒が多く、コークス強度の目標値を達成することができなかった。 比較例3は、膨張率が低い非粘結炭Cの3mm以下が85質量%以上であるが、全配合炭に対して0.3mm以下が9質量%以上であり、微粉(0.3mm以下)が多く、コークス強度の目標値を達成することができなかった。 【0023】 【表2】 【産業上の利用可能性】 【0024】 膨張率が低い非粘結炭を適切に粉砕することにより高強度のコークスの製造を可能とするコークスの製造に利用することができる。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 揮発分が30質量%以上で、ジラトメータ測定による全膨張率が5%以下、ギーセラー流動度(ddpm)の対数値が1.5以下の石炭を、3mm以下が85質量%以上に粉砕し、 前記粉砕した石炭を全配合炭に対して20質量%以上、25質量%以下となるように、かつ0.3mm以下が5.3質量%以下になるように配合することを特徴とするコークスの製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-03-29 |
出願番号 | 特願2013-265972(P2013-265972) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C10B)
P 1 651・ 121- YAA (C10B) P 1 651・ 537- YAA (C10B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 森 健一 |
特許庁審判長 |
冨士 良宏 |
特許庁審判官 |
川端 修 木村 敏康 |
登録日 | 2017-12-22 |
登録番号 | 特許第6260260号(P6260260) |
権利者 | 新日鐵住金株式会社 |
発明の名称 | コークスの製造方法 |
代理人 | 特許業務法人樹之下知的財産事務所 |
代理人 | 特許業務法人樹之下知的財産事務所 |