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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23F
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23F
管理番号 1351435
異議申立番号 異議2018-700840  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-16 
確定日 2019-04-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6313071号発明「カフェイン低減茶飲料およびコーヒー飲料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6313071号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項5について訂正することを認める。 特許第6313071号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6313071号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成30年3月30日にその特許権の設定登録がされ、平成30年4月18日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年10月16日:特許異議申立人による請求項1ないし7に係る 特許に対する異議の申立て
同年12月18日:取消理由通知書
平成31年 2月 8日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 3月20日:特許異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成31年2月8日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1(下線は訂正箇所を示す。)
請求項5の「カルシウムイオン以外の陽イオン」との記載を、「カルシウムイオン以外の陽イオン(但し、水素イオンを除く)」に訂正する。

なお、本件訂正請求は、一群の請求項について請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項5に記載した事項の記載表現を残したまま陽イオンから水素イオンを除くとして、訂正前の請求項に係る発明に包含される一部の事項のみをその請求項に記載した事項から除外するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1は、請求項に係る発明と先行技術との重なりのみを除く訂正であるから、新たな技術的事項を導入するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項5について訂正することを認める。

第3 本件発明
請求項1ないし7に係る発明(以下、「本件発明1」などといい、総称して「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
茶抽出液に、下記条件AおよびB:
A 白土1g(乾燥重量)当たりの交換性カルシウムイオン含量が3mg以下である
B 白土を2重量%の濃度で純水に懸濁したときのpHが4.0?9.0である
を満たす白土を接触させる工程を含む、茶飲料の製造方法。
【請求項2】
前記白土が、交換性カルシウムイオン含量低減処理白土である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
交換性カルシウムイオン含量低減処理白土が、白土に含まれる交換性カルシウムイオンをカルシウムイオン以外の陽イオンで処理してなる白土である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
茶抽出液に含まれるカフェインが60%以上除去された、請求項1?3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
茶抽出液に、白土に含まれる交換性カルシウムイオンをカルシウムイオン以外の陽イオン(但し、水素イオンを除く)で処理してなる白土を接触させる工程を含む、茶飲料の製造方法。
【請求項6】
茶抽出液に、下記条件AおよびB:
A 白土1g(乾燥重量)当たりの交換性カルシウムイオン含量が3mg以下である
B 白土を2重量%の濃度で純水に懸濁したときのpHが4.0?9.0である
を満たす白土を接触させる工程を含む、茶飲料の濁度上昇抑制方法。
【請求項7】
茶抽出液に、下記条件AおよびB:
A 白土1g(乾燥重量)当たりの交換性カルシウムイオン含量が3mg以下である
B 白土を2重量%の濃度で純水に懸濁したときのpHが4.0?9.0である
を満たす白土を接触させる工程を含む、茶飲料の香味低減抑制方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項5に係る特許に対して、当審が平成30年12月18日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由1:本件発明5は、甲1に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、請求項5に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
理由2:本件発明5は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

2 甲第1号証(特開平6-142405号公報)について
(1)甲第1号証(以下、「甲1」という。)には、次の事項が記載されている。
・「【請求項1】 カフェインを含有する水溶液を活性白土または酸性白土と接触させることにより、水溶液から選択的にカフェインを除去する方法。」
・「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、カフェインを含有する水溶液より選択的にカフェインを除去する方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、茶あるいはコーヒーなどのカフェインを含有する水溶液を特定の吸着剤と接触させることにより、水溶液から選択的にカフェインを除去する方法を検討した結果、活性白土または酸性白土をカフェインを含有する水溶液と接触させることにより、操作が容易簡便で、かつ効率よく工業的にカフェインを除去できることを見いだした。すなわち本発明は、カフェインを含有する水溶液から選択的にカフェインを除去する方法である。本発明におけるカフェインを含有する水溶液としてはコーヒー,カカオ,コーラ,紅茶,ウーロン茶,緑茶,マテ茶などのカフェイン含有植物の抽出液が主として用いられるが、その他の植物の抽出液、あるいは合成カフェイン含有液でも用いることができる。カフェイン含有植物の抽出液を得るには温水、好ましくは熱水を用いて抽出することができるが、カフェイン含有植物を有機溶媒により抽出した後、その有機溶媒を除去して得た水溶液でもよい。抽出操作はバッチ式、またはカラムによる連続式等の従来既知の抽出方法をそのまま採用することができる。吸着剤による物質の除去手段は極めて一般的な方法であるが、通常使用され得る吸着剤、例えば活性炭、イオン交換樹脂、吸着用樹脂ではカフェイン含有水溶液中の他の成分も同時に吸着してしまい、カフェインを選択的に除去することができなかった。本発明に用いる活性白土は、天然に産出する酸性白土(モンモリロナイト系粘土)を硫酸などの鉱酸で処理したものであり、大きい比表面積と吸着能を有する多孔質構造をもった化合物である。酸性白土を更に、酸処理することにより比表面積が変化し、脱色能の改良および物性が変化することが知られている。通常活性白土は、油脂の脱色能,不純物吸着能を有することから主として、油脂及び石油鉱物油の精製に使用される。本発明において、酸性白土もその目的に適するが、より効果的な目的達成のためには活性白土の使用が望ましい。活性白土,酸性白土は、共に一般的な化学成分として、SiO_(2) ,Al_(2)O_(3) ,Fe_(2)O_(3) ,CaO,MgOなどを有するが、本発明に使用する場合、SiO_(2) /Al_(2)O_(3) 比は、3.0?12.0,望ましくは、5.0?9.0が適し、Fe_(2)O_(3) 2?5%,CaO 0?1.5%,MgO 1?7%などを含有する組成のものが望ましい。また、比表面積は、酸処理の程度により異なるが、50?350m^(2) /g,pH(5%サスペンジョン)は、2.5?3.5の範囲のものが使用される。カフェイン含有水溶液と活性白土または酸性白土との接触処理はバッチ式、カラムによる連続処理等のいかなる方法も採用することができる。一般的には粉末状活性白土または酸性白土を添加,撹拌しカフェインを吸着後、濾過操作によりカフェインを除去した濾液を得る方法、あるいは顆粒状の活性白土または酸性白土を充填したカラムを用いて連続処理によりカフェインを吸着する方法が採用される。上記接触処理の条件はカフェイン含有水溶液の種類,抽出液の濃度などに応じて適宜選択することができるが、例えばカラムによる連続処理の場合、顆粒状の活性白土または酸性白土1容量に対して、約1?100容量のカフェイン含有水溶液を通液することにより達成できる。かくして得られたカフェインを除去したカラム通過液をそのまま、または減圧あるいは常圧にて濃縮した後、噴霧乾燥,凍結乾燥,熱風乾燥等の既知の方法により乾燥して粉末状,顆粒状その他の固体形態とすることもできる。また、活性白土または酸性白土に吸着したカフェインを必要に応じて含水アセトンなどの有機溶媒を用いて、溶出することも可能である。」
・「【0005】
【実施例】
試験例1
・・・・・
【0006】
【表1】

【0007】表1に示すように活性白土(ガレオンアースNF-2,ガレオナイトNo.251)または酸性白土を用いた場合、カフェイン残存量が0.1%,5.0%,5.4%,7.0%となり、カフェインはほぼ完全に除去された。一方、主要な茶成分である(-)-エピカテキン(EC),(-)-エピカテキンガレート(ECg),(-)-エピガロカテキンガレート(EGCg)は、いずれも80%以上の残存量を示し、選択的にカフェインが除去された。他の吸着剤では、カフェインがほとんど除去されないか、あるいは他の茶成分も同時に除去されカフェインの選択的な除去効果はみられなかった。」
・「【0008】試験例2
・・・・・
【0009】
【表2】

【0010】表2に示すように活性白土(ガレオンアースNF-2)0.1gを添加することにより、カフェインの残存率は、5.2%となりカフェインはほぼ完全に除去された。また、酸性白土1gの添加でカフェインの残存率は8.9%であった。主要成分であるクロロゲン酸は各々83.1%,95.4%の残存量を示し、選択的にカフェインが除去された。他の吸着剤では、カフェインがほとんど除去されないか、あるいはクロロゲン酸も同時に除去され、カフェインの選択的な除去効果は見られなかった。」
・「【0011】実施例1
煎茶200gを85℃の熱水4リットルで30分間撹拌しながら抽出し、茶葉を濾過により除き、3,400 mlの抽出液を得た。この抽出液に活性白土200gを添加し、30分間撹拌後濾過した。濾過液を減圧濃縮によりBrix30度まで濃縮し凍結乾燥した固形物のカフェイン含量は、0.32%であった。これは除去率91.4%に相当する。」

上記記載事項から、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「カフェインを含有する水溶液を酸性白土又は活性白土と接触させることにより、水溶液から選択的にカフェインを除去する方法。」

3 当審の判断
(1)特許法29条1項3号について
ア 対比
甲1発明の「カフェインを含有する水溶液」については、甲1の発明の詳細な説明を参照すると「【0004】・・・本発明におけるカフェインを含有する水溶液としてはコーヒー,カカオ,コーラ,紅茶,ウーロン茶,緑茶,マテ茶などのカフェイン含有植物の抽出液が主として用いられる」と記載されているから、本件発明5の「茶抽出液」に相当する。
同様に、甲1発明の「水溶液から選択的にカフェインを除去する方法」は、本件発明5の「茶飲料の製造方法」に相当する。
甲1発明の「活性白土」について、甲1の発明の詳細な説明を参照すると「【0004】・・・本発明に用いる活性白土は、天然に産出する酸性白土(モンモリロナイト系粘土)を硫酸などの鉱酸で処理したものであり、大きい比表面積と吸着能を有する多孔質構造をもった化合物である。酸性白土を更に、酸処理することにより比表面積が変化し、脱色能の改良および物性が変化することが知られている。・・・本発明において、酸性白土もその目的に適するが、より効果的な目的達成のためには活性白土の使用が望ましい。活性白土,酸性白土は、共に一般的な化学成分として、SiO_(2) ,Al_(2)O_(3) ,Fe_(2)O_(3) ,CaO,MgOなどを有するが、本発明に使用する場合、SiO_(2) /Al_(2)O_(3) 比は、3.0?12.0,望ましくは、5.0?9.0が適し、Fe_(2)O_(3) 2?5%,CaO 0?1.5%,MgO 1?7%などを含有する組成のものが望ましい。」と記載されており、上記酸処理並びに活性白土及び酸性白土の化学成分から考慮すると、甲1発明の「活性白土と接触させることにより」と、本件発明5の「白土に含まれる交換性カルシウムイオンをカルシウムイオン以外の陽イオン(但し、水素イオンを除く)で処理してなる白土を接触させる工程」とは、「白土に含まれる交換性カルシウムイオンをカルシウムイオン以外の陽イオンで処理してなる白土を接触させる工程」を有することで技術が共通し、その限りにおいて一致するといえる。
したがって、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
(一致点)
茶抽出液に、白土に含まれる交換性カルシウムイオンをカルシウムイオン以外の陽イオンで処理してなる白土を接触させる工程を含む、茶飲料の製造方法。
(相違点)
白土に含まれる交換性カルシウムイオンをカルシウムイオン以外の陽イオンで処理してなる白土を接触させる工程について、
本件発明5においては、陽イオン(但し、水素イオンを除く)で処理してなる白土を用いるのに対し、甲1発明は、(酸性白土を酸処理した)活性白土を用いる点。

イ 判断
甲1発明の活性白土は、酸性白土を硫酸などの鉱酸で処理したものであるから(【0004】)、陽イオンである水素イオンの存在する水溶液により処理された白土である。そして、甲1には、水素イオン以外の陽イオンで処理することは記載されていない。
したがって、当該相違点は実質的な相違点であり、本件発明5は甲1に記載された発明とはいえない。

なお、相違点に係る本件発明5の構成は、水素イオンが存在しないことを特定したものではない。

(2)特許法29条2項について
ア 対比、判断
一致点及び相違点については、上記(1)アのとおりである。
そして、甲1の茶抽出液等に接触させる白土において、陽イオンで処理してなる白土として理解されるものは、酸性白土を酸処理した活性白土のみであるから、甲1には、白土に含まれる交換性カルシウムイオンをカルシウムイオン以外の陽イオン(但し、水素イオンを除く)で処理してなる白土についての記載ないし示唆はない。
さらに、白土に含まれる交換性イオンの中で交換性カルシウムイオンに着目し、同イオン以外の陽イオン(但し、水素イオンを除く)で処理した白土を茶抽出液に接触させてカフェインを低減することについては、周知ないし慣用技術であるともいえない。
以上から、本件発明5は、甲1発明に基づき当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

(3)まとめ
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項5に係る特許を取り消すことはできない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 甲号証の記載
(1)甲第2号証(特表2009-523748号公報。以下、「甲2」という。)には、次の事項が記載されている。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、α7ニコチン性アセチルコリン受容体(α7nAChR)アゴニスト活性を有する化合物、それらの調製方法、それらを含有する医薬組成物ならびに神経系および精神疾患の治療用のそれらの使用に関する。」
・「【0124】
b)1-(4-ブロモ-フェニル)-3-(4-アミノアルキル-ブチル)-尿素
1-(4-ブロモ-フェニル)-3-(4,4-ジエトキシ-ブチル)-尿素(0.72g、2mmol、1当量)を、室温で乾燥DCM(10mL)に溶解し、モンモリロナイトK-5(0.145g)を添加した。この反応物を、室温で2時間撹拌し、LC-MSがアルデヒドへの変換の完了を示した。」

(2)甲第3号証(特開2013-13835号公報。以下、「甲3」という。)には、次の事項が記載されている。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、金属カチオンで置換した白土を含む有害物質処理剤、該処理剤の製造方法及び該処理剤を使用した有害物質処理方法に関する。」
・「【0016】
(金属カチオンで置換した白土の製造方法)
酸性白土は、SiO_(4)四面体層-AlO_(6)八面体層-SiO_(4)四面体層から成る三層構造を基本構造とし、このような三層構造が数枚積層した微小な単結晶の集合体である。また、このような三層構造の積層層間に、Ca、K、Na等のカチオンとそれに配位している水分子が存在している。
本発明の金属カチオン置換白土の製造方法は、上記の白土の細孔内のカチオンを目的の金属カチオン、アルカリ金属カチオン及び/又はアルカリ土類金属カチオンに置換することができれば特に限定されない。
例えば、粉末状にした白土を、金属カチオン、アルカリ金属カチオン及び/又はアルカリ土類金属カチオンを含んだ水溶液中に入れ、好ましくは攪拌することにより細孔内のイオンと水溶液中の金属カチオンとのイオン交換を促進させ、その後該白土を水洗、乾燥することにより金属カチオン置換白土を製造することができる。」

(3)甲第4号証(特開平10-165096号公報。以下、「甲4」という。)には、次の事項が記載されている。
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、長期間保存しても混濁や沈澱を生じることがなく、香味に優れており、特に透明容器詰めに好適な茶の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】茶飲料、特に緑茶飲料は製造後の長期保存において濁りや沈澱を生じることがあり、このことは特に透明容器詰め飲料とする場合に問題であった。この現象は茶葉に含まれるポリフェノール、カフェイン、タンパク質、ペクチン、多糖類、カルシウムイオン等の様々な成分が関与していると言われており、特に茶葉に含まれる金属イオンは、同じく茶葉に含まれるタンパク質、ペクチン、ポリフェノール等と結合して沈澱物を形成するために問題視されてきた。すなわち、茶葉に含まれる金属イオンを除去することは茶飲料における沈澱物生成阻止の重要な鍵であった。」
・「【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題解決のため、本発明者らが茶抽出液の陽イオン交換処理について鋭意研究を重ねた結果、用いる陽イオン交換樹脂に対して一定の前処理しておくことにより茶本来の香味を維持できること、陽イオン交換処理の温度条件を一定範囲に制御すれば一層好適に維持することができること、陽イオン交換処理前に茶抽出液のpHを一定範囲に調整すれば長期保存しても全く混濁や沈澱を生じない茶を製造できることができること、更に陽イオン交換処理した茶抽出液の電導率を一定範囲に調整すれば茶本来の香味を一層確実に維持できることを見出し、これに基づいて本発明をなしたものである。すなわち、本発明は、茶葉の温水又は熱水抽出液を、予めカリウムイオンを結合させた陽イオン交換樹脂により陽イオン交換処理する工程を含む茶の製造方法である。なお、本発明における茶とは、茶飲料はもちろん、茶飲料を濃縮した茶エキス、或いは茶飲料を濃縮し乾燥させた茶エキスを包含する意である。」
・「【0014】本発明により製造された茶飲料は、長期間保存しても混濁や沈澱が発生せず、しかも茶本来の好ましい香味を維持するから、ガラス瓶やプラスチックボトルなどの透明容器用の飲料として特に好適である。また、使用した陽イオン交換樹脂は有機溶剤を使わずに容易に再生ができるから、経済的にも有利である。さらにまた、本発明によれば、茶飲料ばかりか、これを濃縮し或いは濃縮し更に乾燥させることにより茶本来の風味を維持した濃縮液状又は粉末状の茶エキスを製造することもできる。」

2 当審の判断
(1)本件発明1
ア 対比
上記第4の3(1)アで述べたことと同様に、本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
(一致点)
茶抽出液に、白土を接触させる工程を含む、茶飲料の製造方法。
(相違点)
茶抽出液に接触させる白土について、
本件発明1においては、下記条件AおよびB:
A 白土1g(乾燥重量)当たりの交換性カルシウムイオン含量が3mg以下である
B 白土を2重量%の濃度で純水に懸濁したときのpHが4.0?9.0である
を満たすものであるのに対し、甲1発明は酸性白土又は活性白土である点。

イ 判断
甲1は、単に酸性白土又は活性白土により水溶液から選択的にカフェインを除去するものであって、酸性白土又は活性白土の白土1g(乾燥重量)当たりの交換性カルシウムイオン含量及び白土を2重量%の濃度で純水に懸濁したときのpHをそれぞれ特定の範囲とすることにより、茶飲料等の濁度上昇及び香味低減をそれぞれ抑制できることについての記載ないし示唆はない。
特許異議申立人は、甲2に記載された白土の一種であるモンモリロナイトK-5の分析を行ったところ交換性カルシウムイオン含量及びpHが本件発明1の範囲であり、条件A及びBを満足する物質は公知である旨の主張をしているが、当該分析に係る実験成績証明書等の提出はないし、仮に分析値が主張するとおりであったとしても、甲1発明の酸性白土又は活性白土が同様の値であるとまではいえない。さらに、甲2は、「α7ニコチン性アセチルコリン受容体(α7nAChR)アゴニスト活性を有する化合物、それらの調製方法、それらを含有する医薬組成物ならびに神経系および精神疾患の治療用のそれらの使用に関する」(【0001】)という技術分野に属するものであって、甲1発明に甲2に記載された事項を適用する動機付けがないことは明らかである。
また、特許異議申立人は、甲3には金属カチオン白土を製造できる旨の記載があることについて主張しているが、甲3には、交換性カルシウムイオンに着目して処理を行い含量を3mg以下とすることや、そのような処理を行った白土を茶飲料に接触させてカフェインを低減させることの記載ないし示唆はない。
なお、特許異議申立人は、本件発明6及び7に係る主張として、甲4の記載により、本件出願時点において、カルシウムイオンによる濁度上昇抑制及び香味低減抑制が課題として認識されていたことは明らかである旨の主張をしているが、甲4に開示される技術的事項は、茶葉に含まれる金属イオンが同じく茶葉に含まれるタンパク質、ペクチン、ポリフェノール等と結合して沈澱物を形成するため、陽イオン交換樹脂により陽イオン交換処理をするという茶の製造方法についてであるから、甲4を参照しても、本件発明1は想到し得ない。
したがって、本件発明1は、甲1発明並びに甲2ないし甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2ないし4
本件発明2ないし4は本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項の全てを含むものであるから、上記(1)で述べたことと同様に本件発明2ないし4は、甲1発明並びに甲2ないし甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明5
甲2ないし甲4には、白土に含まれる交換性イオンの中で交換性カルシウムイオンに着目して、同イオン以外の陽イオン(但し、水素イオンを除く)で処理することについての記載ないし示唆はない。
したがって、本件発明5は、甲1発明並びに甲2ないし甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明6
本件発明6と甲1発明と対比すると、両者は、少なくとも上記(1)で述べた相違点で相違する。
したがって、上記(1)で述べたことと同様に、本件発明6は、甲1発明並びに甲2ないし甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明7
本件発明7と甲1発明と対比すると、両者は、少なくとも上記(1)で述べた相違点で相違する。
したがって、上記(1)で述べたことと同様に、本件発明7は、甲1発明並びに甲2ないし甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 まとめ
以上から、特許異議申立人の主張する特許異議申立て理由によっては、請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶抽出液に、下記条件AおよびB:
A 白土1g(乾燥重量)当たりの交換性カルシウムイオン含量が3mg以下である
B 白土を2重量%の濃度で純水に懸濁したときのpHが4.0?9.0であるを満たす白土を接触させる工程を含む、茶飲料の製造方法。
【請求項2】
前記白土が、交換性カルシウムイオン含量低減処理白土である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
交換性カルシウムイオン含量低減処理白土が、白土に含まれる交換性カルシウムイオンをカルシウムイオン以外の陽イオンで処理してなる白土である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
茶抽出液に含まれるカフェインが60%以上除去された、請求項1?3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
茶抽出液に、白土に含まれる交換性カルシウムイオンをカルシウムイオン以外の陽イオン(但し、水素イオンを除く)で処理してなる白土を接触させる工程を含む、茶飲料の製造方法。
【請求項6】
茶抽出液に、下記条件AおよびB:
A 白土1g(乾燥重量)当たりの交換性カルシウムイオン含量が3mg以下である
B 白土を2重量%の濃度で純水に懸濁したときのpHが4.0?9.0であるを満たす白土を接触させる工程を含む、茶飲料の濁度上昇抑制方法。
【請求項7】
茶抽出液に、下記条件AおよびB:
A 白土1g(乾燥重量)当たりの交換性カルシウムイオン含量が3mg以下である
B 白土を2重量%の濃度で純水に懸濁したときのpHが4.0?9.0であるを満たす白土を接触させる工程を含む、茶飲料の香味低減抑制方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-04-02 
出願番号 特願2014-39500(P2014-39500)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A23F)
P 1 651・ 121- YAA (A23F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川合 理恵  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 莊司 英史
藤原 直欣
登録日 2018-03-30 
登録番号 特許第6313071号(P6313071)
権利者 キリンビバレッジ株式会社
発明の名称 カフェイン低減茶飲料およびコーヒー飲料の製造方法  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 朝倉 悟  
代理人 柏 延之  
代理人 宮嶋 学  
代理人 永井 浩之  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 永井 浩之  
代理人 藤井 宏行  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 中村 行孝  
代理人 中村 行孝  
代理人 横田 修孝  
代理人 柏 延之  
代理人 反町 洋  
代理人 宮嶋 学  
代理人 横田 修孝  
代理人 藤井 宏行  
代理人 朝倉 悟  
代理人 反町 洋  
代理人 佐藤 泰和  

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