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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12G
管理番号 1351447
異議申立番号 異議2018-700856  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-18 
確定日 2019-05-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6316587号発明「発酵麦芽飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6316587号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6316587号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成25年12月27日に出願され、平成30年4月6日にその特許権の設定登録がされ、平成30年4月25日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許の請求項1?4に係る特許について、平成30年10月18日に特許異議申立人 末吉 直子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において、平成30年12月21日付けで取消理由が通知され、それに対し、特許権者より平成31年2月22日付け意見書が提出された。

第2 本件特許の特許請求の範囲及び本件発明
本件特許の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。そして、本件特許の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ順に「本件発明1」?「本件発明4」といい、総称して「本件発明」という。)は、当該特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
発酵原料の麦芽比率が50質量%未満であり、ホルダチン類の含有量が8?10ppmであり、リナロール含有量が0.5?3ppbであり、ビールテイスト飲料であることを特徴とする、発酵麦芽飲料。
【請求項2】
リナロール含有量が0.5?1.0ppbである、請求項1に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項3】
ホップを原料とする、請求項1又は2に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項4】
前記ホルダチン類又はリナロールが原料として含有されている、請求項1?3のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料。」

第3 特許異議申立理由の概要
申立人が特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1
本件特許の請求項1?4に係る各発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていない。よって、その特許は同法第113条第4号に該当するため、取り消されるべきである。

2 申立理由2
本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許の請求項1?4に係る各発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定される要件を満たしていない。よって、その特許は同法第113条第4号に該当するため、取り消されるべきである。

3 申立理由3
本件特許の請求項1?4に係る各発明は、特許請求の範囲の記載が明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たしていない。よって、その特許は同法第113条第4号に該当するため、取り消されるべきである。

4 申立理由4
本件特許の請求項1?4に係る各発明は、甲第6号証乃至甲第8号証のいずれかに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。よって、その特許は同法第113条第2号に該当するため、取り消されるべきである。

5 申立理由5
本件特許の請求項1?4に係る各発明は、甲第6号証乃至甲第8号証のいずれかに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、その特許は同法第113条第2号に該当するため、取り消されるべきである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2015-123026号公報
甲第2号証:ビール酒造組合,「ビールの基本技術」,三版改訂,財団法人日本醸造協会,平成22年4月20日,31?32頁
甲第3号証:A.Stoessl,Canadian Journal of Chemistry,1967年,Vol.45,pp.1745-1760
甲第3号証の2:甲第3号証の抄訳
甲第4号証:Karin Gorzolka et al.,Planta,2014年,vol.239,pp.1321-1335
甲第4号証の2:甲第4号証の抄訳
甲第5号証:特開2012-87120号公報
甲第6号証:”MiNTEL New-Genre Beer 記録番号(ID#):370687(のどごし<生>)”のプリントアウト,掲載時期2005年6月,<URL : https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/370687/>
甲第7号証:”MiNTEL Draft One 記録番号(ID#):257308(ドラフトワン)”のプリントアウト,掲載時期2004年3月,<URL : https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/257308/>
甲第7号証の2:甲第7号証の抄訳
甲第8号証:”MiNTEL Jug Nama(Refreshing Dry) 記録番号(ID#):1507604(ジョッキ生)”のプリントアウト,掲載時期2011年3月,<URL : https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/1507604/>

以下、甲第1?8号証を、それぞれ「甲1」?「甲8」という。

第4 取消理由の概要
当審において、請求項1?4係る特許に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
1 取消理由1(サポート要件)
本件特許の請求項1?4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が次の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
「(1)本件発明の課題は、『発酵原料に対する麦芽の使用比率が低く、麦芽オフフレーバーが少ないにもかかわらず、充分な渋味を有し、かつ軽快感も良好な発酵麦芽飲料を提供すること』(明細書の段落【0006】以下、「本件発明の課題」という。)である。
・・・
しかしながら、麦芽にはオフフレーバーがあることは本件特許の出願時の技術常識であるところ(例えば、本件特許の明細書の段落【0003】、【0006】、【0011】を参照)、ホルダチン類及びリナロールの含有量を本件発明1?4で特定される範囲に調整するために麦芽の添加量を増やした場合は、オフフレーバーも当然に強くなるものであるため、渋味、軽快感、総合評価の高いビールテイストの発酵麦芽飲料が得られるとは理解できず、上記本件発明の課題を解決できないものを本件発明が含んでいることは、明らかである。
したがって、本件発明1?4の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(2)本件発明1?4は、発酵麦芽飲料の発酵原料がコーンスターチを含むことは特定されていない。
ここで、コーンスターチ等の副原料は、ビールの味をすっきりした味に調整するものであることが技術常識であるところ(甲2)、コーンスターチを含まない発酵原料を用いた場合にも軽快感が良好な発酵麦芽飲料が得られるとは理解されない。
したがって、コーンスターチを含まない発酵原料を包含する本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(3)よって、本件発明1?4は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。」(当審注:「・・・」は省略を意味する。以下、同様である。)

2 取消理由2(明確性)
本件特許の請求項1?4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が次の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
「請求項1?4には『ホルダチン類』と記載されているが、『ホルダチン類』に含まれる化合物の範囲が明確ではない。
・・・
よって、本件発明1?4は、明確ではない。」

第5 当審の判断
1 甲1?8の記載
(1)甲1について
甲1には、以下の記載がある。
ア 「【0033】
[参考例1]
発酵原料として麦芽粉砕物とコーンスターチを用いて、ビールテイストの発酵麦芽飲料における麦芽オフフレーバーの強さに対する麦芽比率の影響を調べた。具体的には、麦芽比率が20、40、又は60質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を、発酵原料として用いた。
まず、200Lスケールの仕込設備を用いて、発酵麦芽飲料の製造を行った。仕込槽に、40kgの発酵原料及び160Lの原料水を投入し、当該仕込槽内の混合物を常法に従って加温して糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過し、得られた濾液にホップを添加した後、煮沸して麦汁(穀物煮汁)を得た。次いで、80?99℃程度の麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約7℃に冷却した。当該冷麦汁にビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、7日間貯酒タンク中で熟成させた。熟成後の発酵液をフィルター濾過(平均孔径:0.65μm)し、目的の発酵麦芽飲料を得た。
【0034】
得られた発酵麦芽飲料の麦芽オフフレーバーについて、6名の訓練されたビール専門パネリストによる官能検査を行った。この結果、麦芽比率60質量%の発酵麦芽飲料では麦芽オフフレーバーが感じられたが、麦芽比率40質量%の発酵麦芽飲料では麦芽オフフレーバーはあまり感じられず、麦芽比率20質量%の発酵麦芽飲料では麦芽オフフレーバーは感じられなかった。すなわち、発酵原料に対する麦芽比率の低下により、麦芽オフフレーバーが低減されることが確認された。」

イ 「【0035】
[実施例1]
ホルダチン類及びリナロールを適宜添加することにより濃度を調整した麦芽比率25質量%未満のビールテイストの発酵麦芽飲料について、渋味、華やかさ等の官能評価を行った。
具体的には、麦芽比率が24質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を、発酵原料として用い、ビール酵母接種前の冷麦汁に、ホルダチン類とリナロール(香料)を飲料中の最終濃度が表1に示す濃度になるように添加した以外は参考例1と同様にして発酵麦芽飲料を製造した。」

ウ 「【0040】
得られた発酵麦芽飲料の麦芽オフフレーバー、渋味、華やかさについて、6名の訓練されたビール専門パネリストによる官能検査を行った。この結果、いずれの発酵麦芽飲料においても、麦芽オフフレーバーはあまり感じられなかった。また、各発酵麦芽飲料についての渋味、華やかさ、及び総合評価について、6名のパネリストの評価の平均を表1示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示すように、発酵麦芽飲料の渋味は、ホルダチン類の含有量が6ppmの発酵麦芽飲料と10ppmの発酵麦芽飲料では普通であったが、7ppmの発酵麦芽飲料と9ppmの発酵麦芽飲料では良好であり、8ppmでは非常に良好であった。また、発酵麦芽飲料の華やかな香りは、リナロール含有量が1ppbの発酵麦芽飲料ではほとんどしなかったが、4ppbでは良好であり、6?8ppbでは非常に良好であった。ただし、リナロール含有量が15pbの発酵麦芽飲料は、リナロール特有の香りが強すぎ、4ppbの発酵麦芽飲料よりも華やかさは弱く、普通であった。」

(2)甲2について
甲2には、以下の記載がある。
「1.ビールに使用できる副原料
・・・
ビールは,「以下に掲げる酒類でアルコール分が二十度未満のものをいう。麦芽,ホップ及び水を原料として発酵させたもの,または,麦芽,ホップ,水及び米その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの。但し,その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の十分の五を超えないものに限る。」とアルコール分の定義が追加され,麦が副原料として認められた。それに伴い,政令などで定める物品としてビール副原料と認められているのは,麦,米,とうもろこし,こうりゃん,ばれいしょ,でんぷん,糖類,苦味料,着色料(カラメル)となった。これらの物品以外のものを使用する場合や認められた物品でも麦芽の使用率が水を除く原料の合計の2/3未満になる場合は,日本ではビールと定義されなくなる。
2.日本での主な副原料
1)米
ビール副原料に使用する米の原料は主に国内産である。精米して糠を取り脂肪を除去し,米粉,破砕米の形態で使用される。蛋白質,脂肪含量が少なく,でんぶん含量の多いものが良い。
2)コーングリッツ
コーンの穀皮と脂肪含量の多い胚芽を取り除いて粉砕したものである。胚芽を除くのは,コーン油の約80%が不飽和脂肪酸であり,ビール品質に悪影響があるからである。
3) コーンスターチ
コーンのでんぷんを分離したものである。
4)糖類
代表的な糖類に液糖があげられるが,これはコーンスターチと同様の工程により得られたでんぷんをあらかじめ糖化させ,脱色などの工程を経て製造されたものである。
3.副原料使用の主な目的
副原料を使用する主な目的として,ビールの味の調整があげられる。味の調整とは,副原料を使うことによりビールの窒素含量などを調整し,すっきりした味を造り出す,また,副原料の種類,比率によって昧に変化を与えることである。副原料を使用するその他の目的として,ビール濾過性の向上,物理耐久性の向上,貯酒期間の短縮などがあげられる。」(31頁左欄13行?32頁左欄8行)

(3)甲3について
甲3には、以下の記載がある。なお、翻訳文は、甲3の2によるものである。
「Isolation of Metabolites
In a typical run, the basic material (5.7g) obtained as previously described (5), by ion-exchange of the hot-water extract of 6-day-old barley coleoptiles (4.3 kg fresh weight), was fractionated by countercurrent distribution (300 transfers). After analysis (ultraviolet and t.l.c),suitable fractions were combined (Table II), evaporated to dryness in vacuo, dissolved in 96% ethanol, and separated from insoluble material by filtration after several days.

Fraction A contained hordatine glucosides together with salts (mainly inorganic), and was used only for exploratory purposes.
Fractions B and C (hordatine M) consisted of mixtures of the glucosides of trans- and cis-hordatines A and B. ・・・
・・・
Fraction D, frequently containing small amounts of faster travelling components, was used only for relays.
Fraction E
Material derived from six runs was combined and refractionated according to Scheme 3. All final fractions, except EI8a, were purified via their picrates as described above.
Fraction EIII1 (hordatine A, 99 mg,・・・)had・・・
・・・
Fraction EIV (hordatlne B, 22 mg,・・・)had・・・
・・・
Fraction EI8a (92 mg) was recrystallized from aqueous alcohol and identified as adenine by comparison with an authentic specimen (ultraviolet infrared, ferric chloride, t.l.c.).」(1753頁右欄22行?1755頁左欄22行)
<翻訳文>
「代謝物の単離
典型的な実験では、先に記載したように(5)、6日齢の大麦の子葉鞘(4.3kg新鮮重量)の熱水抽出物のイオン交換により得られた塩基性物質(5.7kg)を、向流分配(300回の移動)によって分画した。分析後(紫外線及びt.l.c.)、適切な画分を合わせ(表II)、減圧下で蒸発乾固し、96%エタノールに溶解し、数日後に濾過によって不溶性物質を分離した。

画分Aは、 塩(主に無機物)と共にホルダチングルコシドを含み、探索目的でのみ使用された。
画分B及びC(ホルダチンM)は、トランス-及びシス-ホルダチンA及びBのグルコシドの混合物からなっていた。・・・
・・・
画分D (しばしば少量のより速い移動成分を含む) Dは、リレーにのみ使用された。
画分E
6回の操作から得られた物質を混合し、スキーム3に従って再分画した。EI8aを除く全ての最終画分を、上記のようにそれらのピクレートを介して精製した。
画分EIII1(ホルダチンA、99mg、・・・)は、・・・
・・・
画分EIV(ホルダチンB、22mg、・・・)は、・・・
・・・
画分EI8a (92mg)を水性アルコールから再結晶させ、真正の標本(紫外線、赤外線、塩化第二鉄、t.l.c)と比較してアデニンと同定した。」

(4)甲4について
甲4には、以下の記載がある。なお、翻訳文は、甲4の2によるものである。



<翻訳文>




(5)甲5について
甲5には、図面とともに以下の記載がある。
ア 「【0013】
本発明の第1特徴構成は、以下の構造式(I):

(-CH=CH-に関してはcisまたはtrans)で示される化合物である点にある

【0014】
本発明の第1特徴構成にかかる化合物の化学構造は、ホルダチンと呼ばれる抗真菌性を有する既知の生体防御物質の化学構造(米国特許第3475459号)とその骨格を同一にしている。しかし、ホルダチンとは、フェノール性ヒドロキシル基にマルトースがβグリコシド結合で付加されている点で相違している。この化学構造を報告する文献はこれまでには存在せず、従って本発明の化合物は新規の化学物質である。
【0015】
本発明の第2特徴構成は、以下の構造式(II):

(-CH=CH-に関してはcisまたはtrans)で示される化合物である点にある。
【0016】
本発明の第2特徴構成にかかる化合物の化学構造は、ホルダチンと呼ばれる抗真菌性を有する既知の生体防御物質の化学構造(米国特許第3475459号)とその骨格を同一にしている。しかし、ホルダチンとは、フェノール性ヒドロキシル基にグルコースがβグリコシド結合で付加されている点で相違している。この化学構造を報告する文献はこれまでには存在せず、従って本発明の化合物は新規の化学物質である。
【0017】
本発明の第3特徴構成は、以下の構造式(III):

(-CH=CH-に関してはcisまたはtrans、Meはメチル基)で示される化合物である点にある。
【0018】
本発明の第3特徴構成にかかる化合物の化学構造は、ホルダチンと呼ばれる抗真菌性を有する既知の生体防御物質の化学構造(米国特許第3475459号)とその骨格を同一にしている。しかし、ホルダチンのベンゾフラン骨格にあたる構造の一部がメトキシ基で修飾されている点、および、フェノール性ヒドロキシル基にグルコースがβグリコシド結合で付加されている点で相違している。この化学構造を報告する文献はこれまでには存在せず、従って本発明の化合物は新規の化学物質である。
【0019】
本発明の第4特徴構成は、前記構造式(I)?(III)で示される化合物が口腔内刺激物質である点にある。
【0020】
本発明の第4特徴構成にかかる化合物について、訓練を受けた試験官(パネル)による官能評価を行ったところ舌に残る鋭いエグミ(口腔内刺激)を有することが確認された。つまり、本発明の化合物は、口腔内刺激物質の一種である。
【0021】
従って、本発明の化合物を、エグミ等の口腔内刺激の原因となる物質(口腔内刺激物質)として入手・利用することが可能となる。つまり、化学構造が判明しているため、類似の構造をもつ既知の化合物の分析法を参考するなどして、本発明の化合物を含有し得る自然植物(例えば麦芽等)からより効率良く分離するための分離精製法が確立され得るし、あるいは直接有機合成を行って入手することも可能となる。」

イ 「【0026】
なお、麦芽(発芽大麦)を原料とする酒類・食品類は数多く存在し(例えば、ビールや発泡酒などの醸造酒、ウィスキー等の蒸留酒、ポン菓子等の菓子類など)、こうした酒類・食品類にはエグミが含まれていることが多い。従って、本発明の化合物が麦芽に由来するものである場合、本発明の化合物を、麦芽を原料とする酒類・食品類に添加すれば、そうした酒類・食品類の本来有するエグミに加えて、さらに深みのある香味や食べ応え(飲み応え)を容易に与えることができる。つまり、麦芽由来の本発明の化合物を例えばビール飲料に添加すれば、もともと含まれている本発明の化合物を増量するだけなので、他の原料に由来する口腔内刺激物質(例えば、シュウ酸やホモゲンチジン酸など)を添加する場合と比べて、ビール飲料中に安定に存在し得、且つ他のビール成分に何らかの悪影響を及ぼしてビール本来の風味を損なうということもないので、その味わい、のどごし、または後味を消費者の嗜好に合わせて自在に調整することが可能となる。」

ウ 「【0043】
以下に本発明の実施の形態として、本発明の化合物である図10?12に構造式を示す口腔内刺激物質1?3の分離・精製方法を主として説明する。
【0044】
〔実施形態〕
本発明の化合物(口腔内刺激物質1?3)を含有し得る発芽穀物としては、例えば、大麦(オオムギ)、コムギ、ライムギ、カラスムギ、オートムギ、ハトムギ、イネ、トウモロコシ、ヒエ、アワ、キビ、ソバ、ダイズ、アズキ、エンドウ、ソラマメもしくはインゲンマメなどが挙げられるがこれらに限定されない。
本実施形態における「発芽穀物」とは、完全な発芽穀物の他に、その分画物(例えば、胚乳、幼芽、穀皮など)または発芽穀物もしくはその分画物の処理物も含まれる。また前記処理物としては、発芽穀物またはその分画物に何らかの処理を加えたものであれば特に限定されないが、例えば、粉砕物、破砕物、摩砕物、乾燥物、凍結乾燥物または抽出(超臨界抽出も含む)物、その濃縮物もしくは抽出後の固形分などが挙げられる。」

エ 「【実施例1】
【0056】
〔発泡酒の製造例〕
本発明の化合物(口腔内刺激物質1?3)の多く含まれる画分を特定する試験を行った。麦芽を分画し、目視によって幼芽だけを手で分け取ったものを原料とした。
粉砕した麦芽22.0kg、幼芽3.0kgを水100Lと混合し、常法に従って麦汁を製造した。麦芽粕を濾過により除去した後、得られた麦汁に加水して、原麦汁エキス14%に調整した。その調整した麦汁22Lに糖化スターチ16.5kgを混合し、全体量が120Lになるように加水した。これにホップペレット約100gを添加して約1時間煮沸した。13℃に冷却後、この煮沸後の麦汁の原麦汁エキス濃度を加水により14%に調整した後、酵母を約300g添加して7日間発酵を行い、発泡酒を得た(試作品1)。対照として幼芽を添加しない通常の発泡酒を製造した(対照品1)。両発泡酒について官能評価を行った。
【0057】
官能評価は、10名のパネリストがエグミの度合いを3点満点で評価する方法を採用し、試作品1と対照品1それぞれについて平均点を算出した。試料の温度は5℃とした。結果を表1に示す。表1に示したとおり、試作品1は対照品1に比較して、エグミが強かった。これより、エグミ成分が幼芽に多く含まれていることが確認された。
【0058】
【表1】
・・・
【実施例2】
【0059】
〔エグミ成分の単離および構造解析〕
以下の操作を行って、麦芽を分画し本発明の化合物(口腔内刺激物質1?3)の含有量の多い幼芽画分を得た。
前記麦芽のうち、目視によって幼芽だけを手で分け取ったものを出発物質として使用した。次いで、図1に示すように、得られた幼芽40gを水160mLに溶かし、65℃で30分間保持した。抽出液を遠心分離し、上清をセップパックC18樹脂(ウォーターズ社製 Sep-Pak Vac 20cc C18カートリッジ)に供し、水20mL、20%エタノール20mL、50%エタノール20mL、100%エタノール20mLにてそれぞれ溶出した。得られた各溶出画分をエバポレータを使用して濃縮し、凍結乾燥することにより、粗分画粉末を得た。香味評価により、エグミをもつ成分は、20%エタノール溶出画分に存在することが分かった。
【0060】
この20%エタノール溶出画分(乾燥重量90.4mg)を粗分画エグミ成分として、ギルソン社製HPLCシステムを用いて再度分画を行った。カラムはDeverosil-C30-UG5(野村化学社製10×250mm)を用い、分析条件は、A液を0.05%TFA(トリフルオロ酢酸)水溶液、B液を0.05%TFA、90%アセトニトリル溶液とし、流速3mL/minにて、B液0%から50%までの150分間の直線グラジエントとした。また検出は波長300nmのUV吸収にて行った。各ピークを分取し、それぞれのピークに対して香味評価を行い、強くて鋭いエグミを持つ成分を特定し、エグミ成分粉末(乾燥重量61.2mg)を得た。
【0061】
このエグミ成分粉末を、精製を目的として、再度HPLC分析した。分析は、HPLCシステムCLASS-VPシリーズ(島津製作所社製)にて行い、カラムはDeverosil-C30-UG5(野村化学社製4.6×150mm)を用い、分析条件は、A液を0.05%TFA(トリフルオロ酢酸)水溶液、B液を0.05%TFA、90%アセトニトリル溶液とし、流速1mL/minにて、B液0%から20%までの100分間の直線グラジエントとした。また検出は波長300nmのUV吸収にて行った。このクロマトグラムを図2に示す。ピークはほぼ1本であり、香味評価でエグミ成分の濃度とエグミの強度が比例することも確認した。
【0062】
当該ピークを分取して、予備的に機器分析を行ったところ、エグミ成分は複数の物質の混合物であることがわかった。そこで、さらに当該ピークを以下の方法で分取した。
HPLCシステムCLASS-VPシリーズ(島津製作所社製)にて、Capcellpak-MF-C1(資生堂社製4.6×150mm)カラムを用いて分離した。分析条件は、流速1mL/minで0.05%TFA水溶液でのアイソクラティックにて行い、また検出は波長300nmのUV吸収にて行った。結果を図3に示す。
【0063】
図3に示した各ピークをそれぞれ分取し、それぞれに対して香味の評価を行ったところ下線に示した3つのピークにエグミを感じたことから、それぞれを口腔内刺激物質1、口腔内刺激物質2、口腔内刺激物質3(乾燥重量はそれぞれ、6.1mg、21.3mg、10.2mg)と命名した。評価は、10名のパネリストにより、精製前のエグミ成分と比較してエグミの度合いを3点満点で評価し、その平均点の比較にて行った。このときエグミ成分のエグミ度合いを1として基準とした(表2参照)。
【0064】
【表2】

【0065】
これら口腔内刺激物質1、口腔内刺激物質2、口腔内刺激物質3の化学構造をUV吸収スペクトル、質量分析、NMR解析などによって決定した。UV吸収スペクトルをそれぞれ図4、図5、図6に、質量分析の結果を以下の表3に、重メタノール中でのプロトンNMRスペクトルを図7、図8、図9に示した。
【0066】
【表3】
・・・
【0067】
これらの分析情報から、口腔内刺激物質1、口腔内刺激物質2、口腔内刺激物質3の構造を決定した。それぞれの構造式を、図10?12に示す。
【0068】
口腔内刺激物質1について、図10中、-CH=CH-に関してはcis、又はtransであり、今回の精製プロセスでは、そのミクスチャーであった。
口腔内刺激物質2について、図11中、-CH=CH-に関してはtransであった。cis体についても同様の口腔内刺激の作用が期待される。
口腔内刺激物質3について、図12中、-CH=CH-に関してはcis、又はtransであり、今回の精製プロセスでは、そのミクスチャーであった。」

(6)甲6について
ア 甲6の記載
甲6には、以下の記載がある。
(ア)「のどごし<生>」(写真)

(イ)「カテゴリー: 【アルコール飲料】
サブカテゴリー: ビール
国: 日本
掲載時期: 2005年6月」(1頁6?9行)

(ウ)「成分(標準形式): ホップ,白糖(Sugar Based),大豆蛋白(大豆由来),酵母(培養菌)」(2頁3行)

イ 甲6発明
上記アによれば、甲6には、次の事項からなる発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認める。
「成分として、ホップ及び大豆蛋白を含む、『のどごし<生>』と称するアルコール飲料。」

(7)甲7について
ア 甲7の記載
甲7には、以下の記載がある。なお、翻訳文は甲7の2によるものである。
(ア)「Draft One」(1頁1行と写真)

(イ)「カテゴリー: 【アルコール飲料】
サブカテゴリー: ビール
国: 日本
掲載時期: 2004年3月」(1頁5?8行)

(ウ)「成分(標準形式): ホップ,白糖(Sugar Based),Mangetout Protein,Caramel Colour(着色料)」(2頁9行)
<翻訳文>
「成分(標準形式) ホップ、白糖(砂糖原料)、エンドウタンパク質、カラメル色素(着色料)」

イ 甲7発明
上記アによれば、甲7には、次の事項からなる発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認める。
「成分として、ホップ及びエンドウタンパク質を含む、『Draft One』と称するアルコール飲料。」

(8)甲8について
ア 甲8の記載
甲8には、以下の記載がある。
(ア)「ジョッキ生」(写真)

(イ)「カテゴリー: 【アルコール飲料】
サブカテゴリー: ビール
国: 日本
掲載時期: 2011年3月」(1頁5?8行)

(ウ)「成分(標準形式): ホップ,コーン,砂糖ほか炭水化物系甘味料,エチルアルコール(醸造),dietary fiber,酵母エキス(エキス),とうもろこしタンパク,フレーバー,acidifier,Caramel Colour(着色料),クエン酸カリウム,sweetener(アセスルファムK,スクラロース),二酸化炭素」(2頁1?4行)

イ 甲8発明
上記アによれば、甲8には、次の事項からなる発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認める。
「成分として、ホップ、コーン及びとうもろこしタンパクを含む、『ジョッキ生』と称するアルコール飲料。」

2 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由1(特許法第36条第6項第1号)について
ア 本件発明1?4において、ホルダチン類及びリナロールの含有量を本件発明1?4で特定される範囲に調整するために麦芽の添加量を増やす場合が想定されるところ、発酵原料の麦芽比率が50質量%未満とされるのであって、麦芽の添加量が上限に達した場合には、不足したホルダチン類の含有量及びリナロール含有量を補うように他の原料が添加されることになる(本件特許の明細書の段落【0017】及び【0031】)のであるから、麦芽オフフレーバーにより、本件発明の課題が解決できないと認められる程度の麦芽の添加量が想定されるものではない。
したがって、本件発明1?4は、ホルダチン類及びリナロールの含有量を本件発明1?4で特定される範囲に調整するために麦芽の添加量を増やす場合であっても、麦芽オフフレーバーが問題となることはなく、渋味、軽快感、総合評価の高いビールテイストの発酵麦芽飲料が得られることが理解できるから、本件発明の課題を解決できないものを含んでいるとはいえず、本件発明1?4の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとはいえない。
イ 次に、本件発明1?4は、発酵麦芽飲料の発酵原料がコーンスターチを含むことは特定されていないところ、本件特許の明細書における発明の詳細な説明には、実施例1として、麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を、発酵原料として用いる例のみが記載されている(段落【0035】)。
しかしながら、ビールの味をすっきりした味に調整するために、コーンスターチのみならず、米、コーングリッツ、糖類等が一般に副原料として用いられており(上記1(2))、また、本件特許の明細書における発明の詳細な説明には、麦芽以外の発酵原料に用いられる穀物原料として、コーンスターチやコーングリッツ等の穀物粉砕物を用いることが記載されている(段落【0020】)から、コーンスターチを含む副原料を用いた場合には、麦芽使用比率が低下して、ビールの味がすっきりしたものに調整できると理解できる。
そして、本件発明は発酵原料の麦芽比率が50質量%未満であって、ホルダチン類の含有量が8?10ppmであり、リナロール含有量が0.5?3ppbであるビールテイスト飲料であれば、本件発明の課題を解決したものというのであるから、コーンスターチを含まない発酵原料を包含する本件発明1?4の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとはいえない。
ウ よって、本件発明1?4は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではないから、発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、取消理由1は理由がない。

(2)取消理由2(特許法第36条第6項第2号)について
甲3の上記1(3)の記載によれば、オオムギの子葉鞘には複数種のホルダチン及びホルダチングルコシドが含まれている。
また、甲4の上記1(4)の表1をみると、ホルダチンに分類される化合物として8種の化合物が存在し、ホルダチン類として、さらに多種の化合物が存在する。
さらに、甲5には、上記1(5)アの記載によると、米国特許第3475459号に記載されたホルダチンと骨格を同一にした、構造式(I)、(II)及び(III)の3つの化合物が示され、また、上記1(5)イ及びウの記載によると、これら3つの化合物が表2に示されたエグミ成分である口腔内刺激物質1、口腔内刺激物質2、口腔内刺激物質3として決定されたものであることが記載されている。
しかしながら、甲5に記載されているように、ホルダチン類は、エグミに影響するものであって、米国特許第3475459号に記載されているような基本的な骨格を有するホルダチン及びホルダチンと同一の骨格を有する化合物を意味するものとして理解することができるものであって、エグミ成分として3つ得られることをもって、ホルダチン及びその類縁の化合物が、香味に及ぼす影響が化合物毎に大幅に異なることまでは認められず、仮に、そのようなことが認められたとしても、本件発明の課題からみて、本件発明におけるホルダチン類は、発酵麦芽飲料の渋味(エグミ)を付与する効果を有する範囲のものであると理解できるから、本件発明1?4における「ホルダチン類」に含まれる化合物の範囲が不明確であるとはいえない。
よって、本件発明1?4は明確であるから、取消理由2は理由がない。

3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(特許法第36条第6項第1号)及び申立理由2(特許法第36条第4項第1号)について
ア 特許異議申立書22頁5行?24頁18行に記載された申立理由について
(ア)申立理由の概要
本件発明の実施例として示された麦芽比率が49重量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合したもの以外の他の発酵原料を使用した場合にも、渋味及び軽快感を最適化するホルダチン類とリナロールの添加量が本件発明で特定される範囲になるとは推定できない。
事実、甲1には、本件発明の範囲に含まれる発酵麦芽飲料であるにも関わらず、渋味、総合評価が低いビールテイストの発酵麦芽飲料が得られたことが記載されている。
したがって、麦芽比率が50質量%未満である、ありとあらゆる発酵原料を包含する本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張乃至一般化できるとはいえない。また、本件明細書の発明の詳細な説明は、麦芽比率が50質量%未満である、ありとあらゆる発酵原料を包含する本件発明について、所望の作用効果を奏する発酵麦芽飲料として製造できるように記載されておらず、当業者が本件発明を実施できるように記載されているとはいえない。
(イ)判断
本件発明は、麦芽オフフレーバーに着目したものであり、麦芽比率が49重量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合したもの以外の他の発酵原料を使用した場合であっても、麦芽比率は50質量%未満とされ、それにより不足した渋味と軽快感を補うべくホルダチン類とリナロールが添加され、ホルダチン類とリナロールの添加量は本件発明で特定される範囲になるものと理解することができる。
ここで、本件明細書における表1の結果と甲1の表1との結果が異なるとしても、双方の評価基準が同じとはいえないから、双方の結果をそのまま比較することはできず、甲1には、本件発明の範囲に含まれる発酵麦芽飲料であるにも関わらず、渋味、総合評価が低いビールテイストの発酵麦芽飲料が得られたことが記載されているとすることはできない。
したがって、上記(ア)の申立理由は、理由がない。

イ 特許異議申立書24頁19行?25頁19行に記載された申立理由について
(ア)申立理由の概要
甲3及び甲4に記載されるとおり、大麦子葉鞘又は種子に含まれるホルダチン及びそのグリコシル化誘導体だけに絞っても、極めて多種の化合物が存在する。
また、甲5には、麦芽及びその幼芽からエグミ成分を単離したところ、3つのみが得られたことが記載されている。
つまり、ホルダチン及びその類縁の化合物は、香味に及ぼす影響が化合物毎に異なると理解できる。
そうすると、本件発明において、「ホルダチン類」に含まれ得る任意の化合物の含有量を調整したとしても、香味に係る所定の作用効果(麦芽オフフレーバーが少ないにもかかわらず、充分な渋味を有し、かつ軽快感も良好)が得られるとはいえない。
したがって、ホルダチンに類する、ありとあらゆる化合物を包含する本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張乃至一般化できるとはいえない。また、本件明細書の発明の詳細な説明は、ホルダチンに類する、ありとあらゆる化合物を包含する本件発明について、所望の作用効果を奏する発酵麦芽飲料として製造できるように記載されておらず、当業者が本件発明を実施できるように記載されているとはいえない。
(イ)判断
甲3の上記1(3)の記載によれば、オオムギの子葉鞘には複数種のホルダチン及びホルダチングルコシドが含まれている。
また、甲4の上記1(4)の表1をみると、ホルダチンに分類される化合物として8種の化合物が存在し、ホルダチン類として、さらに多種の化合物が存在する。
さらに、甲5には、上記1(5)アの記載によると、米国特許第3475459号に記載されたホルダチンと骨格を同一にした、構造式(I)、(II)及び(III)の3つの化合物が示され、また、上記1(5)イ及びウの記載によると、これら3つの化合物が表2に示されたエグミ成分である口腔内刺激物質1、口腔内刺激物質2、口腔内刺激物質3として決定されたものであることが記載されている。
しかしながら、甲5に記載されているように、ホルダチン類は、エグミ等のビールの味に影響するものであり、米国特許第3475459号に記載されているような基本的な骨格を有するホルダチン及びホルダチンと同一の骨格を有する化合物を意味するものとして理解することができるものであって、エグミ成分として3つ得られることをもって、ホルダチン及びその類縁の化合物が、香味に及ぼす影響が化合物毎に大幅に異なることまでは認められず、仮に、そのようなことが認められたとしても、本件発明の課題からみて、本件発明におけるホルダチン類は、発酵麦芽飲料の渋味(エグミ)を付与する効果を有する範囲のものであると理解できる。
そうすると、本件発明において、「ホルダチン類」に含まれ得る任意の化合物について、その含有量を調整したとしても、麦芽オフフレーバーが少ないにもかかわらず、充分な渋味(エグミ)を有するものが得られるといえる。
したがって、上記(ア)の申立理由は、理由がない。

ウ まとめ
上記イ及びウのとおりであるから、取消理由通知において採用しなかった申立理由1及び申立理由2は、理由がない。

(2)申立理由4(特許法第29条第1項第3号)及び申立理由5(特許法第29条第2項)について
ア 甲6に基づく理由について
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1と甲6発明とを対比する。
・後者の「大豆蛋白」は、本件明細書の段落【0015】の記載を参酌すると、「ホルダチン類」を含むものといえ、また、後者の「ホップ」は、本件明細書の段落【0017】の記載を参酌すると、「リナロール」を含むものといえる。
そうすると、後者の「成分として、ホップ及び大豆蛋白を含む」態様は、前者の「ホルダチン類の含有量が8?10ppmであり、リナロール含有量が0.5?3ppbであり」との態様に、「ホルダチン類及びリナロールを含有する」という限りにおいて一致する。

・後者の「『のどごし<生>』と称するアルコール飲料」は、甲6の上記1(6)ア(イ)において、サブカテゴリーとして「ビール」の記載があるから、前者の「ビールテイスト飲料であることを特徴とする、発酵麦芽飲料」に、「ビールテイスト飲料」という限りにおいて一致する。

したがって、両者の間で、次の一致点及び相違点が認められる。
[一致点]
「ホルダチン類及びリナロールを含有する、ビールテイスト飲料。」

[相違点1A]
本件発明1は、「発酵原料の麦芽比率が50質量%未満であり」、「ビールテイスト飲料である」、「発酵麦芽飲料」であるのに対して、甲6発明は、「『のどごし<生>』と称するアルコール飲料」であって、発酵原料として麦芽を含んでおらず、発酵麦芽飲料ではない点。
ここで、本件発明1は、「発酵原料の麦芽比率が50質量%未満」であるところ、「発酵麦芽飲料」である以上、発酵原料として麦芽を含むものである。

[相違点2A]
本件発明1は、「ホルダチン類の含有量が8?10ppmであり、リナロール含有量が0.5?3ppb」であるのに対して、甲6発明は、「成分として、ホップ及び大豆蛋白を含む」ものであって、ホルダチン類及びリナロールを含有するものといえるものの、それらの含有量は不明である点。

b 判断
まず、相違点1Aについて検討する。
甲6には、発酵原料として麦芽を含む、発酵麦芽飲料とすることは記載も示唆もされておらず、また、甲6発明は成分に麦芽を含まない特定の商品に関するものであることを考慮すると、甲6発明を、発酵原料として麦芽を含む、発酵麦芽飲料とする動機付けは認められない。
そうすると、甲6発明において、上記相違点1Aに係る本件発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、相違点2Aの判断をするまでもなく、本件発明1は、甲6に記載された甲6発明と同一であるとはいえず、また、甲6発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(イ)本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(ア)の本件発明1についての検討を踏まえると、同様の理由により、本件発明2?4は、甲6に記載された甲6発明と同一であるとはいえず、また、甲6発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

イ 甲7に基づく理由について
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1と甲7発明とを対比する。
・後者の「エンドウタンパク質」は、本件明細書の段落【0015】の記載を参酌すると、「ホルダチン類」を含むものといえ、また、後者の「ホップ」は、本件明細書の段落【0017】の記載を参酌すると、「リナロール」を含むものといえる。
そうすると、後者の「成分として、ホップ及びエンドウタンパク質を含む」態様は、前者の「ホルダチン類の含有量が8?10ppmであり、リナロール含有量が0.5?3ppbであり」との態様に、「ホルダチン類及びリナロールを含有する」という限りにおいて一致する。

・後者の「『Draft One』と称するアルコール飲料」は、甲7の上記1(7)ア(イ)において、サブカテゴリーとして「ビール」の記載があるから、前者の「ビールテイスト飲料であることを特徴とする、発酵麦芽飲料」に、「ビールテイスト飲料」という限りにおいて一致する。

したがって、両者の間で、次の一致点及び相違点が認められる。
[一致点]
「ホルダチン類及びリナロールを含有する、ビールテイスト飲料。」

[相違点1B]
本件発明1は、「発酵原料の麦芽比率が50質量%未満であり」、「ビールテイスト飲料である」、「発酵麦芽飲料」であるのに対して、甲7発明は、「『Draft One』と称するアルコール飲料」であって、発酵原料として麦芽を含んでおらず、発酵麦芽飲料ではない点。
ここで、本件発明1は、「発酵原料の麦芽比率が50質量%未満」であるところ、「発酵麦芽飲料」である以上、発酵原料として麦芽を含むものである。

[相違点2B]
本件発明1は、「ホルダチン類の含有量が8?10ppmであり、リナロール含有量が0.5?3ppb」であるのに対して、甲7発明は、「成分として、ホップ及びエンドウタンパク質を含む」ものであって、ホルダチン類及びリナロールを含有するものといえるものの、それらの含有量は不明である点。

b 判断
まず、相違点1Bについて検討する。
甲7には、発酵原料として麦芽を含む、発酵麦芽飲料とすることは記載も示唆もされておらず、また、甲7発明は成分に麦芽を含まない特定の商品に関するものであることを考慮すると、甲7発明を、発酵原料として麦芽を含む、発酵麦芽飲料とする動機付けは認められない。
そうすると、甲7発明において、上記相違点1Bに係る本件発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、相違点2Bの判断をするまでもなく、本件発明1は、甲7に記載された甲7発明と同一であるとはいえず、また、甲7発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(イ)本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(ア)の本件発明1についての検討を踏まえると、同様の理由により、本件発明2?4は、甲7に記載された甲7発明と同一であるとはいえず、また、甲7発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 甲8に基づく理由について
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1と甲8発明とを対比する。
・後者の「コーン及びとうもろこしタンパク」は、本件明細書の段落【0015】の記載を参酌すると、「ホルダチン類」を含むものといえ、また、後者の「ホップ」は、本件明細書の段落【0017】の記載を参酌すると、「リナロール」を含むものといえる。
そうすると、後者の「成分として、ホップ、コーン及びとうもろこしタンパクを含む」態様は、前者の「ホルダチン類の含有量が8?10ppmであり、リナロール含有量が0.5?3ppbであり」との態様に、「ホルダチン類及びリナロールを含有する」という限りにおいて一致する。

・後者の「『ジョッキ生』と称するアルコール飲料」は、甲8の上記1(8)ア(イ)において、サブカテゴリーとして「ビール」の記載があるから、前者の「ビールテイスト飲料であることを特徴とする、発酵麦芽飲料」に、「ビールテイスト飲料」という限りにおいて一致する。

したがって、両者の間で、次の一致点及び相違点が認められる。
[一致点]
「ホルダチン類及びリナロールを含有する、ビールテイスト飲料。」

[相違点1C]
本件発明1は、「発酵原料の麦芽比率が50質量%未満であり」、「ビールテイスト飲料である」、「発酵麦芽飲料」であるのに対して、甲8発明は、「『ジョッキ生』と称するアルコール飲料」であって、発酵原料として麦芽を含んでおらず、発酵麦芽飲料ではない点。
ここで、本件発明1は、「発酵原料の麦芽比率が50質量%未満」であるところ、「発酵麦芽飲料」である以上、発酵原料として麦芽を含むものである。

[相違点2C]
本件発明1は、「ホルダチン類の含有量が8?10ppmであり、リナロール含有量が0.5?3ppb」であるのに対して、甲8発明は、「成分として、ホップ、コーン及びとうもろこしタンパクを含む」ものであって、ホルダチン類及びリナロールを含有するものといえるものの、それらの含有量は不明である点。

b 判断
まず、相違点1Cについて検討する。
甲8には、発酵原料として麦芽を含む、発酵麦芽飲料とすることは記載も示唆もされておらず、また、甲8発明は成分に麦芽を含まない特定の商品に関するものであることを考慮すると、甲8発明を、発酵原料として麦芽を含む、発酵麦芽飲料とする動機付けは認められない。
そうすると、甲8発明において、上記相違点1Cに係る本件発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、相違点2Cの判断をするまでもなく、本件発明1は、甲8に記載された甲8発明と同一であるとはいえず、また、甲8発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(イ)本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(ア)の本件発明1についての検討を踏まえると、同様の理由により、本件発明2?4は、甲8に記載された甲8発明と同一であるとはいえず、また、甲8発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

エ まとめ
上記ア?ウのとおりであるから、取消理由通知において採用しなかった申立理由4及び申立理由5は、理由がない。

第6 むすび
したがって、請求項1?4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-04-25 
出願番号 特願2013-271060(P2013-271060)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C12G)
P 1 651・ 113- Y (C12G)
P 1 651・ 536- Y (C12G)
P 1 651・ 121- Y (C12G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 厚田 一拓  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 槙原 進
松下 聡
登録日 2018-04-06 
登録番号 特許第6316587号(P6316587)
権利者 アサヒビール株式会社
発明の名称 発酵麦芽飲料  
代理人 大槻 真紀子  
代理人 志賀 正武  
代理人 棚井 澄雄  

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