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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01B |
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管理番号 | 1351450 |
異議申立番号 | 異議2019-700110 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-02-08 |
確定日 | 2019-05-13 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6378147号発明「多結晶シリコン棒の製造方法およびCZ単結晶シリコンの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6378147号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第6378147号(以下、「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、平成27年9月4日に出願されたものであって、平成30年8月3日に特許権の設定登録がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項(請求項1)に係る特許に対し、平成31年2月8日付けで特許異議申立人 中川賢治(以下「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。 「 シーメンス法によりシリコン芯線上に多結晶シリコンを析出させて得られる半径Rの多結晶シリコン棒の製造方法であって、 前記シリコン芯線の近傍領域、R/2領域、最表面領域における多結晶シリコンの析出温度をそれぞれT1、T2、T3としたときに、T2<T1かつT3>T2とし、さらに、最表面領域における多結晶シリコンの析出時におけるシリコン芯線の近傍領域の温度T1´とT3との温度差をΔTとしたときに、T1<T3+ΔTとなるように設定する、多結晶シリコン棒の製造方法。」 第3 申立理由の概要 異議申立人は、以下の甲第1号証?甲第2号証を提出して、以下の申立理由1?3によって、本件特許発明1に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。 1. 申立理由1 請求項1に係る発明は、甲第1号証の実施例1に記載の発明と甲第2号証の記載事項とに基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項、同法第113条第2号の規定により、請求項1に係る特許は取り消されるべきものである。 2. 申立理由2 請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものであり、同法第113条第4号の規定により、請求項1に係る特許は取り消されるべきものである。 3. 申立理由3 請求項1の記載は特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないものであり、同法第113条第4号の規定により、請求項1に係る特許は取り消されるべきものである。 [異議申立人が提出した証拠方法] 甲第1号証:特開平11-43317号公報 甲第2号証:国際公開第97/44277号 なお、甲第1号証、甲第2号証を、以下では、それぞれ、「甲1」、「甲2」ということがある。 第4 甲1の記載事項(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下、同じ。)、及び、甲1記載の発明 甲1の記載事項は、以下のア.?エ.のとおりである。 ア. 「【0021】 【実施例】 実施例1 多結晶シリコン析出用の芯材として直径5mmの多結晶シリコンロッドを用い、その表面温度を1030℃に維持して、シーメンス法により精製トリクロロシランと水素とからそれ自体公知の方法に従って多結晶シリコンの析出を行った。その直径が85mmになった時点で電流の上昇を停止させ、一定値を保った。表面温度が970℃になった時点で、再びロッドの表面温度を1030℃に戻した。温度を元に戻す操作は、30時間かけてゆっくり行った。直径が120mmになった後、析出を終了した。この時の多結晶シリコンロッドの析出速度は、61kg/hrであった。また、このときのポップコーンの発生率を調べたところ、13%であった。ポップコーンの発生率とは、ブリッジ部を除き、ポップコーンの発生したロッドの本数を、全ロッドの本数で除した値である。」 イ. 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 高純度多結晶シリコンの円柱であって、半径方向に析出中心から周辺部に向かって長さの50%を超えた領域に、析出中心から長さ50%の位置の結晶の結晶粒径よりも小さい結晶粒径を持つ結晶が同じ半径方向に存在する多結晶シリコンロッド。 【請求項2】 析出中心から長さ50%の位置の結晶の結晶粒径よりも小さい結晶粒径の結晶が析出中心から長さ50%の位置の結晶の結晶粒径の20?80%の範囲にある結晶粒径を持つ請求項1の多結晶シリコンロッド。 【請求項3】 ロッドの析出中心から外皮までの長さ50%の位置にある結晶の結晶粒径よりも小さい結晶粒径を持つ結晶が同じ長さ方向に該長さの60?95%の範囲に存在する請求項1の多結晶シリコンロッド。」 ウ. 「【0002】 【従来の技術】高純度多結晶シリコンの製造において最も一般的な方法は、高純度のシリコンの芯線を電流加熱し、該芯線上でトリクロロシランを水素と反応させ、ロッド状の多結晶シリコンを析出する方法である。 【0003】多結晶シリコンの析出において、その生産性に最も大きな影響を及ぼす因子は、析出速度である。多結晶シリコンの析出速度は、析出温度が高い程大きいことは、知られていた。しかし析出温度を高くした場合、析出したロッドの表面状態が悪くなり、大きさ、形とも、ポップコーンに非常によく似た形状物を持つ表面状態になることも知られていた。表面状態の悪い多結晶シリコン(以下、単にポップコーンと記す)は、不純物を取り込み易く、エッチング処理後にエッチング液が残り易く、また内部に細孔が存在する等のため、…析出温度をあまり上げることはできなかった。特開昭55-16000号公報には、実際、多結晶シリコンの生産量と表面状態は両立しないことが記載されている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】…温度を上げれば更に析出速度が上がり、生産性を向上させることができるため、通常よりも高い析出温度において、ポップコーンができない析出方法を開発することが望まれてきた。 【0005】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、ポップコーンが形成されるメカニズムについて研究を行い、その機構を解明することに成功した。そしてポップコーンを形成する因子の一つを排除することにより、これまでより高い析出温度においてもポップコーンの発生しない析出技術を完成し、本発明に到達したものである。」 エ. 「【0011】本発明者らは、…実験で裏づけられた考えに立ち、ポップコーンを低減させるための方法として、大きな結晶粒が形成されても、その中心部がへこむ前に、結晶粒の中ほどに、新たなトラッピングサイトを形成する方法が有効であることを見い出した。… … 【0013】…結晶粒中にトラッピングサイトを意図的に形成させた多結晶シリコンロッドは、その操作を行った部分で、必然的に結晶粒径の小型化が起こる。…トラッピングサイトの形成を行った部分では、新たに結晶成長の端緒を作るため、その部分から先の結晶は、それまでよりも小さくなる。 … 【0017】多結晶シリコンロッドを、反応器中に多数本立てて析出を行う場合、ポップコーンの生成は、析出初期のロッドが細い時期よりも、析出の中間点を過ぎたある程度成長したロッドの表面にでき易い傾向がある。…このような事情から、トラッピングサイトを形成するタイミングは、析出の初期よりも、析出の中盤を過ぎた時点、例えば多結晶シリコンロッドの直径で表せば、半径方向に、中心から周辺部に向かって50%を超えた領域、好ましくは60%を超えた領域、更に好ましくは60?95%の領域、特に好ましくは70%から90%の間の領域でおこなわれる。トラッピングサイトの形成操作は、ロッド全体に渡ってなされるため、結晶粒径の変化は、ロッドの輪切り断面では円周上に、また、ロッドの長手方向に対しても均一に起こる。その結果、上記領域に、中心から長さの50%の位置の結晶粒径と異なる結晶粒径を持つ結晶が、円柱の円周および長さ方向の両方向に存在するものが形成される。 … 【0019】前述の通り、トラッピングサイトの形成操作の具体的な手段は特に限定されないが、析出温度を下げる手段として最も簡便な方法は、加熱手段である電流値を下げる方法である。…意識的に電流値を下げずとも、電流値をある一定の値で止めることにより、結果的にロッド温度をゆっくり下げることが実現される。」 オ. 上記ア.によれば、甲1には、実施例1として、多結晶シリコン析出用の芯材である直径5mmの多結晶シリコンロッドを用い、その表面温度を1030℃に維持して、シーメンス法により精製トリクロロシランと水素とから多結晶シリコンの析出を行い、その直径が85mmになった時点で電流の上昇を停止させ、一定値を保ち、表面温度が970℃になった時点で、再びロッドの表面温度を1030℃に戻す操作を、30時間かけてゆっくり行って、直径が120mmになった後、析出を終了したという技術事項が記載されていると認められる。 カ. 上記イ.によれば、上記エ.に示した実施例1は、多結晶シリコンロッドの製造に関する実施例であると認められる。 キ. 上記オ.?カ.の検討を踏まえ、甲1の実施例1に記載される多結晶シリコンロッドの製造方法に注目すると、甲1には、次のような発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「多結晶シリコン析出用の芯材である直径5mmの多結晶シリコンロッドを用い、その表面温度を1030℃に維持して、シーメンス法により精製トリクロロシランと水素とから多結晶シリコンの析出を行い、その直径が85mmになった時点で電流の上昇を停止させ、一定値を保ち、表面温度が970℃になった時点で、再びロッドの表面温度を1030℃に戻す操作を、30時間かけてゆっくり行って、直径が120mmになった後、析出を終了する、多結晶シリコンロッドの製造方法。」 第5 当審の判断 1. 申立理由1について 上記第3に示した、本件特許発明1は、甲第1号証の実施例1に記載の発明(甲1発明)と甲第2号証の記載事項とに基づいて、当業者が容易に発明することができたものである旨の申立理由1につき、以下に検討する。 (1) 本件特許発明1と甲1発明との対比 本件特許発明1と上記第4のキ.に示した甲1発明とを対比するに、甲1発明における「多結晶シリコンロッドの製造方法」は、本件特許発明1における「多結晶シリコン棒の製造方法」に相当し、また、甲1発明における「多結晶シリコン析出用の芯材である直径5mmの多結晶シリコンロッド」は、本件特許発明1における「シリコン芯線」に相当し、また、甲1発明の多結晶シリコンロッドの製造方法の全体は、シリコン芯線上にシーメンス法により精製トリクロロシランと水素とから多結晶シリコンの析出を行って直径120mmの多結晶シリコンロッドを製造する方法といえることからして、本件特許発明1における「シーメンス法によりシリコン芯線上に多結晶シリコンを析出させて得られる半径Rの多結晶シリコン棒の製造方法」に相当するところ、甲1発明でのシリコン芯線の近傍領域と最表面領域とにおける多結晶シリコンの析出温度は、いずれも、1030℃であることは明らかであるし、R/2領域における多結晶シリコンの析出温度は、甲1発明における直径が120mm/2=60mmになった時点の多結晶シリコンの析出温度であり、1030℃であることも明らかである。 してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。 <一致点> 「シーメンス法によりシリコン芯線上に多結晶シリコンを析出させて得られる半径Rの多結晶シリコン棒の製造方法であ」る点。 <相違点> 相違点1:前記シリコン芯線の近傍領域、R/2領域、最表面領域における多結晶シリコンの析出温度をそれぞれT1、T2、T3としたときに、本件特許発明1では、「T2<T1かつT3>T2とし」ているのに対し、甲1発明では、いずれの温度も1030℃であり、すなわち、T1=T2=T3である点。 相違点2:最表面領域における多結晶シリコンの析出時におけるシリコン芯線の近傍領域の温度T1´とT3との温度差をΔTとしたときに、本件特許発明1では、「T1<T3+ΔTとなるように設定する」のに対し、甲1発明では、「T1<T3+ΔTとなるように設定する」のか否か明らかではない点。 (2) 上記相違点についての検討 そこで、まず、上記相違点1につき検討するに、甲1発明は上記第4のキ.に示したとおりものであって、上記(1)の検討のとおり、シリコン芯線の近傍領域、R/2領域、最表面領域における多結晶シリコンの析出温度をそれぞれT1、T2、T3としたときに、T1=T2=T3とするものである。 また、上記第4のイ.?エ.に示した記載からしても、多結晶シリコン棒の製造方法に関し、甲1に記載されているのは、通常よりも高い析出温度において、ポップコーンに非常によく似た形状物を持つ表面状態(以下、単に「ポップコーン」という。)ができない析出方法を開発することを課題としているものであって、ポップコーンの生成は、析出初期の多結晶シリコン棒が細い時期よりも、析出の中間点を過ぎたある程度成長した多結晶シリコン棒の表面にでき易い傾向があるとの事情から、析出の中盤を過ぎた時点で析出温度を下げて、すなわち、多結晶シリコン棒の直径で表せば、半径方向に中心から周辺部に向かって50%を超えた領域で析出温度を下げて、当該領域に、析出中心から長さ50%の位置の結晶の結晶粒径よりも小さい結晶粒径を持つ結晶が同じ半径方向に存在するように多結晶シリコン棒を製造するものにとどまる、換言すると、R/2領域を超えた領域における多結晶シリコンの析出温度を、R/2以内の領域の多結晶シリコンの析出温度よりも下げて、当該R/2領域を超えた領域に、R/2以内の位置の結晶の結晶粒径よりも小さい結晶粒径を持つ結晶が同じ半径方向に存在するように多結晶シリコン棒を製造するものにとどまる。 そうすると、甲1発明の多結晶シリコン棒の製造に際して行われている、電流の上昇を停止させ、一定値を保って、その多結晶シリコンの析出温度を下げるという技術事項は、R/2領域を超えた領域で行われることであって、R/2以内の領域で行われることではないから、シリコン芯線の近傍領域、R/2領域における多結晶シリコンの析出温度を、それぞれ、T1、T2としたとき、T1=T2とすることは甲1発明における前提条件であるといえる。 そのため、甲1発明を上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えたものとすることには、阻害事由がある。 なお、甲2には、シーメンス法による析出を終了した後の熱処理におけるロッド内部の温度分布に関する図3等の記載はあるが、析出途中の表面温度に関する記載はない。 したがって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、本件特許の出願前に、甲1発明、及び、甲1?甲2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3) 補足 異議申立人は、申立理由1に関し、特許異議申立書において、本件特許発明1と甲1発明とは、「シーメンス法によりシリコン芯線上に多結晶シリコンを析出させて得られる半径Rの多結晶シリコン棒の製造方法であって、 前記シリコン芯線の近傍領域、R/2領域、最表面領域における多結晶シリコンの析出温度をそれぞれT1、T2、T3としたときに、T2<T1かつT3>T2である多結晶シリコン棒の製造方法。」の点で一致している旨主張している。 しかし、異議申立人の前記主張が妥当性を欠くことは、上記(2)の検討からして、明らかである。 そのため、異議申立人の前記主張を採用することはできない。 (4) 小括 よって、申立理由1によって、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 2. 申立理由2について 上記第3に示した、請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものである旨の申立理由2につき、以下に検討する。 (1) 本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載された発明 本件特許の明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)によれば(【0012】?【0013】)、本件特許発明1は、「多結晶シリコン棒の合成プロセス後ではなく、多結晶シリコン棒の合成プロセス中に残留応力制御を行い、合成後の多結晶シリコン棒の熱処理等を不要とする技術を提供すること」を、発明が解決しようとする課題(以下、単に、「課題」という。)としていると認められる。 発明の詳細な説明によれば(【0023】?【0060】)、シーメンス法によりシリコン芯線上に多結晶シリコンを析出させて得られる多結晶シリコン棒の最終的な半径をRとし、シリコン芯線の近傍領域、R/2領域、最表面領域における多結晶シリコンの析出温度をそれぞれT1、T2、T3とし、さらに、最表面領域における多結晶シリコンの析出時におけるシリコン芯線の近傍領域の温度T1´とT3との温度差をΔTとして、各種条件にて合成した、(a)炉内にて既に割れてしまったロッド、(b)ハンマーによる破砕テストにおいて割れ易かったロッド、および(c)ハンマーによる破砕テストにおいて割れ難かったロッドの三者について、XRD法による残留応力測定の結果を検討したところ、残留応力のzz方向成分に違いがあり、前記(c)のロッドにおいては圧縮応力が優勢であるのに対し、前記(a)のロッドや前記(b)のロッドにおいては引張応力が優勢であり、表1に示したとおりの分類が可能であることが判明したとされている。 【表1】(【0027】) そして、発明の詳細な説明には、表1に示されているケースのうち、引張応力が優勢であるものに対応する、第1の態様の多結晶シリコン棒の製造方法?第5の態様の多結晶シリコン棒の製造方法が、前記課題を解決するための手段として記載されており(【0013】?【0018】)、これらの方法によれば、従来は、多結晶シリコン棒育成後に行っていた熱処理等を行う必要がないと記載されており(【0020】)、また、表1に示されている全てのケースについての具体例が、実施例1?7、及び、比較例1?3として記載されている(【0061】?【0068】)。 (2) 請求項1の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に適合するか について 上記(1)の検討によれば、発明の詳細な説明には、課題を解決するための手段として、表1に示したとおりの分類に基づく、第1の態様の多結晶シリコン棒の製造方法?第5の態様の多結晶シリコン棒の製造方法が記載されているところ、請求項1に記載されるのは上記第2に示したとおりのものであって、発明の詳細な説明には、第5の態様の多結晶シリコン棒の製造方法として記載されているとおりのものであるから、請求項1の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に適合することは明らかである。 (3) 補足 異議申立人は、申立理由2に関し、特許異議申立書において、請求項1に対応する実施例は実施例7のみであり、実施例7は、T1=1150℃、T2=1100℃、T3=1150℃、T1´=1250℃という、それぞれ1点のみの測定結果であって、この1点のみの測定結果から請求項1記載の範囲内において本件特許の発明の作用効果が奏されるのか否かは全く不明であり、そもそも、実施例7の測定結果から、なぜ、請求項1記載の関係式が導き出せるのかが不明であるし、そして、この関係式を満たす数値であれば、必ず、本件特許の発明の効果が奏されるのか否かも明細書中には何ら記載がされていないことから、請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものである旨主張している。 しかしながら、上記(1)?(2)の検討によれば、請求項1記載の関係式は実施例7として記載されている一具体例の測定結果のみから導き出したわけではないことは明らかであって、異議申立人の前記の主張は発明の詳細な説明の記載を正解しないものであることから、採用し得ない。 (4) 小括 よって、申立理由2によっても、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 3. 申立理由3について 上記第3に示した、請求項1の記載は特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないものである旨の申立理由3につき、以下に検討する。 異議申立人は、申立理由3に関し、特許異議申立書において、請求項1に記載されている、「シリコン芯線の近傍領域」、「R/2領域」、「最表面領域」とは、どこの部分を示すのかが明確ではないし、本件特許の明細書中にも、これらの部分についての定義が記載されていないことから、請求項1の記載は特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないものである旨主張している。 ここで、上記第2に示したとおり、請求項1には、シーメンス法によりシリコン芯線上に多結晶シリコンを析出させて得られる半径Rの多結晶シリコン棒の製造方法について、「シリコン芯線の近傍領域、R/2領域、最表面領域における多結晶シリコンの析出温度をそれぞれT1、T2、T3としたときに、T2<T1かつT3>T2と」するとの発明特定事項が記載されているところ、このような記載によれば、技術常識からして、「T1」とは、シーメンス法によりシリコン芯線の近傍領域に多結晶シリコンを析出させる際の多結晶シリコン棒の表面温度を意味しており、「T2」とは、シーメンス法によりシリコン芯線上に多結晶シリコンを析出させて得られる多結晶シリコン棒の半径がR/2に達した際の当該多結晶シリコン棒の表面温度を意味しており、また、「T3」とは、シーメンス法によりシリコン芯線上に多結晶シリコンを析出させて得られる多結晶シリコン棒の半径がRに達した際の当該多結晶シリコン棒の表面温度を意味していることは明らかであり、異議申立人の前記の主張は請求項1の記載を正解しないものであり、採用し得ない。 よって、申立理由3によっても、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 第6 むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-04-26 |
出願番号 | 特願2015-174741(P2015-174741) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C01B)
P 1 651・ 537- Y (C01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 手島 理 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
宮澤 尚之 小川 進 |
登録日 | 2018-08-03 |
登録番号 | 特許第6378147号(P6378147) |
権利者 | 信越化学工業株式会社 |
発明の名称 | 多結晶シリコン棒の製造方法およびCZ単結晶シリコンの製造方法 |
代理人 | 片山 健一 |