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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C12Q
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12Q
管理番号 1351452
異議申立番号 異議2018-700987  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-05 
確定日 2019-05-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6338235号発明「低分子化抗体のスクリーニング方法及び製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6338235号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6338235号の請求項1ないし8に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成25年11月22日に出願され、平成30年5月18日にその特許権の設定登録がされ、同年6月6日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年12月5日に特許異議申立人浜俊彦は特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
本件特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
【請求項1】 低分子化抗体の可変領域を含む抗原免疫された脊椎動物の塩基配列ライブラリーについて抗原抗体間の相互作用検出プロセスを実施する工程、大規模配列解析による前記塩基配列の出現頻度を前記プロセスの前後で比較する工程、前記相互作用検出プロセスの前後で塩基配列出現頻度が一定以上上昇した低分子化抗体を選別する工程を含むことを特徴とする、抗原特異的低分子化抗体のスクリーニング方法。
【請求項2】 前記低分子化抗体がscFv抗体、ラクダ科動物由来VHH抗体又はサメ由来IgNAR抗体である、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】 前記低分子化抗体がラクダ科動物由来VHH抗体である、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】 前記相互作用検出プロセスがファージディスプレイ法、インビトロウイルス法又はリボソームディスプレイ法である、請求項1?3のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項5】 低分子化抗体の可変領域を含む抗原免疫された脊椎動物の塩基配列ライブラリーについて抗原抗体間の相互作用検出プロセスを実施する工程、大規模配列解析による前記塩基配列の出現頻度を前記プロセスの前後で比較する工程、前記相互作用検出プロセスの前後で塩基配列出現頻度が一定以上上昇した低分子化抗体を選別する工程、選別された低分子化抗体をコードするDNAを発現させて低分子化抗体を得る工程を含むことを特徴とする、抗原特異的低分子化抗体の製造方法。
【請求項6】 前記低分子化抗体がscFv抗体、ラクダ科動物由来VHH抗体又はサメ由来IgNAR抗体である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】 前記低分子化抗体がラクダ科動物由来VHH抗体である、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】 前記相互作用検出プロセスがファージディスプレイ法、インビトロウイルス法又はリボソームディスプレイ法である、請求項5?7のいずれかに記載の製造方法。
(以下、これらの請求項に係る各発明をそれぞれの請求項の番号に対応させて「本件発明1」、「本件発明2」、・・・「本件発明8」といい、また、これらの発明をまとめて「本件発明」という場合がある。)

第3 申立理由の概要
特許異議申立人浜俊彦は、以下の証拠を提出し、請求項1、2、4ないし6及び8に係る特許は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、請求項1ないし8に係る特許は、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明に、他の証拠に記載された発明又は技術常識若しくは周知技術を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、本件特許を取り消すべきものである旨主張する。
甲第1号証;Nucleic Acids Res, 2010,Vol.38, e193.
甲第2号証;Methods, 2013-March-15, Vol.60, No.1, pp.99-110.
甲第3号証;2018年10月29日に異議申立人が印刷した、第86回日本生化学会大会、演題番号2P-375の抄録が記載されたウエブページ(http://member.jbsoc.or.jp/jbs2013/index.php?t_no=2P-375+%282T14p-13%29&btn_syousai=on)の印刷物。
甲第4号証;Nat Biotech, 2010, Vol.28, pp.965-969.
甲第5号証;Barbas, C. F. III外編、"Phage Display: A Laboratory Manual", Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001, pp.3.8-3.9, 3.17.
(以下、これらの証拠を順に「引用例1」、・・・「引用例5」という。)

第4 引用例の記載及び引用発明(下線は当審で付与。)
1 引用例1
引用例1には以下の事項が記載されている。
(1) 表題
「in vitroスクリーニングの回避 - 抗体ディスプレイ及びin silico候補選択に適用される次世代シーケンシング技術」(1ページ)

(2) 「ABSTRACT(要約)」
「近年、次世代シーケンシング(NGS)によって提供される前例のないDNA配列解析能力がゲノム研究に革命をもたらした。イルミナ社のシーケンシングプラットフォームと多様性を2つのCDR3に限定するように設計されたscFvライブラリーを組み合わせることにより、1.9×10^(7)を超える配列が生成した。このアプローチは、ライブラリーの多様性についての詳細な分析を可能にし、2種の標的との結合による選択過程における実質的にすべてのscFvの配列情報、及びこれら濃縮プロセスの全体像を提供した。最も出現頻度の高い重鎖CDR3配列を使用して、ラウンド3からscFvをレスキューするためのプライマーを設計した。配列の出現頻度に基づく同定は、最も有力なscFvと古典的なin vitroスクリーニングでは見逃された大切な候補を回収した。したがって、NGSとディスプレイ技術を組み合わせることにより、面倒で時間のかかる事前スクリーニングを回避又は補完することができ、ライブラリー設計と抗体レパートリーの理解を向上させるために、選択プロセスについての貴重な洞察を得ることができる。」(1ページ)

(3) 「MATERIALS AND METHODS(材料と方法)」
ア 「Library construction(ライブラリー構築)」
「ヒトVH及びVL生殖系列は、PCRによってNEB由来のJurkat、HeLa及びHEK293細胞のヒトゲノムから増幅された。フラグメントは、CDR3挿入物、ヒトFR4配列、及びVHのための制限部位NcoI/XhoI及びVLのためのSalI/NotIを導入するためにPCR(付録のデータ)によって拡張された。これらの制限部位はファージミドベクターpNDS1へのクローニングに用いた。pHEN1ファージミドベクター(21)に由来するpNDS1ベクター。クローニング部位は、VHクローニングのための制限酵素部位NcoI/XhoI及びVLクローニングのためのSalI/NotIに隣接する(Gly_(4)Ser)_(3)リンカー配列を含む。・・・CDR3挿入物は、任意の機能的scFvの発現を損なうフレームシフトを導入する。・・・CDR3は4?10残基でランダム化された。得られたカセットは、CDR3配列及び長さの両方において人工的な多様性を創出する。オリゴをビオチン化し(Microsynth)、消化されたインサートをStreptaBeads (Dynal)を用いて精製した。」(2ページ左欄下から21行?右欄5行)

イ 「Phage selection(ファージ選択)」
「TG1細胞を、2xTYAG(100μg/mlアンピシリン、2%グルコース)培地中37℃(240rpm)で増殖させた。OD_(600)=0.4?0.5において、37℃(100rpm)で1時間、M13K07ヘルパーファージによる超感染により、AE1ライブラリーを回収した。次いで培養培地を2xTYAK(100μg/mlアンピシリン、50μg/mlカナマイシン)に交換し、TG1を30℃(280rpm)でo/n増殖させた。ファージを単離し、20%PEG-8000/2.5M NaCl(Sigma)の1/3 v/vで2回沈殿させて培養上清から濃縮し、TE緩衝液に再懸濁し、TE緩衝液に対して透析し、TG1細胞に感染させて滴定した。ファージ(10^(12)pfu)は、3%(w/v)スキムミルクを含有するリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)でブロックされ、5E3に対する選択のためのラットIgG2bアイソタイプ抗体で被覆した免疫チューブ(Nunc)及びヒトインターフェロンγ(hIFNγ)に対する選択のためストレプトアビジン被覆磁気ビーズ(Invitrogen)上で選択解除された。選択解除されたファージは、10μg/mlの抗マウスTLR4ラットモノクローナル抗体5E3で被覆した免疫チューブ又は200nMのビオチン化hIFNγで被覆したストレプタビーズ(Invitrogen)のいずれかで2時間(RT)インキュベートした。PBS/0.1% Tween-20で5回洗浄し、PBSで2回洗浄することにより非特異的ファージを除去した。結合したファージは10mMトリエチルアミンTEA(Sigma)で溶出し、1Mトリス-HCl pH7.4(Sigma)で中和された。溶出液を10mlの指数関数的に増殖する大腸菌TG1細胞に添加し、37℃(100rpm)で1時間インキュベートした。感染されたTG1の試料は選択結果を力価測定するために連続希釈された。残りの感染されたTG1を2xTYAG寒天バイオアッセイプレート上に広げた。30℃で一晩インキュベートした後、細菌を2xTY培地でこすり落とし、試料を17%グリセロール中で-80℃で保存した。その後のラウンドのパニングのために、10^(10)pfuを使用した。」(2ページ右欄15?49行)

ウ 「Screening ELISA(ELISAスクリーニング)」
「個々のクローンを、96穴プレート中の2xTYAG培地で増殖させた。IPTG(1mM)を用いて30℃(150rpm)で一晩scFv発現を誘導した。scFvを含有する上清をELISAで使用して、5E3に対するそれらの結合特異性及び親和性を評価した。96穴 MaxiSorpプレート(Nunc)は50ng/ウェルの5E3又はラットアイソタイプ抗体で一晩(4℃)被覆された。上清及びアッセイプレートをPBS/3%ミルクで1時間(RT)ブロックした。アッセイプレートをPBS/0.05% Tween-20で3回洗浄した後、scFvを含む50μlのブロックされた上清をウェルに移し、室温で2時間インキュベートした。scFvの結合は、マウス抗cmyc抗体及び抗マウスIgGFcγ-HRP抗体で検出した。このアッセイをTMB基質(Sigma)で展開し、反応をH_(2)SO_(4) 2Nで停止させ、吸光度を450nmで読み取った。」(3ページ左欄30?45行)

(4) 「RESULTS(結果)」
ア 「Generation of a scFv library with diversity restricted to CDR3(多様性がCDR3に限定されたscFvライブラリーの作製)」
「免疫グロブリン分子の2つの相補性決定領域3(CDR3)は抗原結合部位の中心を形成し、他の相補性決定領域(CDR)がしばしば結合エネルギーに寄与するのに対し、CDR3領域の多様化は抗原特異的抗体を生み出すのに十分である(22-24)。したがって、我々は、重鎖及び軽鎖のCDR3にのみ多様性が導入された、限られた数のヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子に基づくヒトscFvのライブラリーを作製した。これらの領域の多様性をコードする生殖細胞系を含めるために、天然のヒトレパートリーにおける頻度、安定性、並びに異なるCDR1及びCDR2配列を有することに基づいて、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の双方から、7つのヒト生殖細胞系遺伝子(VH1-2, VH1-18, VH1-69, VH3-30.3, VH3-48, VH3-23, VH5-51, VK1-33, VK1-39, VK3-11, VK3-15, VK3-20, VL1-44, VL1-51; IMGTデータベースによる命名)を選択した。可変遺伝子の3'末端に、2つのBsmBI制限部位を含むDNA配列を導入し、得られる構築物が機能的な免疫グロブリン可変領域をコードできないように読み枠を変更した。これらの重鎖及び軽鎖の「アクセプターフレームワーク」を使用して、IISタイプ制限クローニングを介して多様な配列を導入し、抗体可変領域の正しい読み枠を復元した(図1A)。長さが9?15アミノ酸の重鎖CDR3(CDRのIMGTの定義による)をコードする多様な配列を7つのVHアクセプターフレームワークに導入した(25)。同様に、8?11アミノ酸のCDR3をVLアクセプターフレームワークにクローニングした。AE1と命名された7×10^(9)形質転換体からなるライブラリーは、多様化された重鎖及び軽鎖可変領域をファージミドベクターpNDS1に組み合わせることによって得られ、これは、M13糸状バクテリオファージ表面でのscFv発現及びディスプレイを可能にした(7)。」(3ページ右欄4?39行)

イ 「Next generation sequencing of the antibody library and selection rounds(抗体ライブラリーと選択ラウンドの次世代シーケンシング)」
「AE1ライブラリーを、ラット抗マウスTLR4モノクローナル抗体5E3(26)に対する抗イディオタイプscFvフラグメントの同定に使用した。免疫チューブ上に固定化された5E3に対する古典的なパニングを3ラウンド行い、選択した。各ラウンドにおいて、選択を5E3の可変領域に向けるために、入力ファージを同じアイソタイプ(IgG2b)の別の固定化ラット抗体に対して最初に選択解除した。
現在、イルミナ社のシーケンシングプラットフォームはリード長が約76bpである(15)。我々の研究では、偏りを避けるために、全てのクローンに共通の領域に対して特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを使用した。重鎖に関して、プライマーはFR4に特異的で、決定された配列はCDR3全体をカバーし、ほとんどの場合、VHファミリーを同定するのに十分なFR3配列情報を提供した(図1A)。・・・ファージミドDNAを、AE1ライブラリー及び各ラウンドでの選択後に回収された細菌から単離した。次いで、scFvコード領域を、4塩基配列タグを導入したプライマーを用いて増幅し、これにより、同じイルミナチャンネルによる、ライブラリー及び異なる選択ラウンドからのDNA断片の同時固相配列決定が可能となった。・・・重鎖及び軽鎖について、それぞれ合計6 635 657及び8 896 028の塩基配列が読まれ、10億塩基を超える塩基の配列が決定された(表1)」(3ページ右欄42行?4ページ右欄10行)

ウ 「Sequence evolution during phage selection against 5E3(5E3によるファージ選択過程での配列の進化)」
「標的5E3へのファージ結合の選択の間、ラウンド1、ラウンド2及びラウンド3の後に回収されたファージ粒子の数は、それぞれ1.8×10^(5)、3.4×10^(5)及び1.1×10^(5)であった。したがって、後の選択ラウンドで存在する異なる配列の最大数は最初のラウンドの出力によって制限され、この場合は10^(5)の範囲内にある。NGSを使用して、VHについて3.5×10^(5)?6.4×10^(5)のリード、VLについて10^(6)より大きなリードが、各選択ラウンド後に得られた(表1)。このように、各ラウンドで配列決定されたクローンのこの非常に大きな割合は、プロセス全体を通して個々のVH及びVL配列の出現頻度と進化の前例のない見解を提供した。
・・・
また、ラウンド3の後に、2815?37017倍で存在していた10個の最も頻度の高いVH_(FR3-CDR3-FR4)配列の濃縮プロファイルも確認した(図4A)。ラウンド1及びラウンド2の後に増加して最も多くなった配列#3を除いて、ほとんどの場合、ラウンド3の選択後に主要な濃縮が観察された(図4A)。これらのトップ10の配列はラウンド3の後の全配列の17%超を占め、また、3つの最も豊富な配列は14%で、このことは、これらの配列が標的への結合についてスクリーニング中に容易に同定されることを示唆する。」(5ページ右欄12行?6ページ左欄38行)

エ 「Hit identification by classical primary target binding screening(古典的な標的結合スクリーニングによる候補の同定)」
「ファージ選択において古典的に行われているように、ラウンド3の後、96個のクローンを選び、培地へのscFv分泌を誘導して、標的5E3に対する特異的な結合についてELISAでスクリーニングした。scFvを精製し、用量反応実験でその特異性を確認するために、陽性クローンを配列決定し、大量に増殖させた。5E3対しナノモルオーダーの結合EC_(50)を有する6つのscFvが同定された(図5)。次に、我々はAE1ライブラリーと各選択ラウンド後におけるこれらのクローンのVH_(FR3-CDR3-FR4)配列とVL_(CDR3-FR4)配列の出現頻度を求めた。予想したとおり、これらの配列は選択中に濃縮され、D11とD6ではラウンド3の後に2?6%の最大頻度が観察された(図5)。また、これら2つのクローンは、用量応答ELISAにおいて最高の見かけの結合親和性を有し、このことは、標的への結合に基づく選択プロセスが、標的に対して高い親和性を有するファージを実際に濃縮することを示した(図5)。各クローンのVH_(CDR3)とVL_(CDR3)の頻度の平行した増加は、それが両方のCDR3配列を有する選択されたクローンの濃縮によるものであることを示唆する(図5)。しかし、軽鎖と重鎖の配列はそれぞれ独立して読み取られたので、異なる配列と組になった1つのCDR3(すなわち、VH_(CDR3)又はVL_(CDR3))のみを有するクローンの寄与を排除することはできない。」(6ページ左欄41行?右欄8行)

オ 「ScFv rescue via VH_(CDR3) amplification(VH_(CDR3)増幅によるScFvのレスキュー)」
「スクリーニングによって同定された6つのscFvのVH_(FR3-CDR3-FR4)配列は、すべて、シーケンシングデータで同定することができ、そしてラウンド3後の出現頻度と対応付けることができた(図5)。クローンD11、D6及びD4に対応する配列が、10個の最も出現頻度の高い配列の中に見出され、また、最も高い見かけの親和性を有するD11は選択の過程で最も濃縮された(図4)。しかし、ラウンド3の後に見いだされるいくつかの配列は、ELISAスクリーニングでは同定されなかった。特に、ラウンド3後に、全ての配列の6%近くを占め2番目に出現頻度の高い配列であるクローン#2は、同定されなかった(図4)。我々は、これらのクローンが見逃された理由が、テストしたscFvの数が限られているためであるのか、又は、ELISAスクリーニングによる同定を妨げるいくつかの特徴があるためであるのかについて、理解したかった。そこで、我々はPCR増幅により6つの出現頻度の高いVH_(CDR3)配列を有するscFvをレスキューした。これらには、スクリーニングによって同定された3つのscFv(5E3R-1、5E3R-3及び5E3R-6)、並びに、同定されなかった3つのscFv(5E3R-2、5E3R-4及び5E3R-5、図4A)が含まれた。完全なscFv配列又はこれらの高頻度VH_(CDR3)を有する配列をラウンド3後に回収するために、scFvコード領域の上流と下流に位置するプライマーと組み合わせて、これら6つのVH_(CDR3)に特異的な相補オリゴヌクレオチドプライマー対を設計し使用した(図1B)。増幅産物をpNDS1ベクターにクローニングし、レスキューされた各scFvの10個の独立したクローンの配列を決定した。すべてのクローンはVH_(CDR3)とVL_(CDR3)の同じペアを含み、これは、観察された2つのVH_(CDR3)とVL_(CDR3)配列のパラレルな濃縮は主に単一クローンの濃縮によるもので、様々なVL_(CDR3)配列と組み合わせたVH_(CDR3)を有する種々のscFvによるものではなかったことを示唆する。これらのレスキューされた6つのscFvを発現させ、異なるフォーマットのELISAを用いて標的5E3への結合について試験した。最初に我々は、選択プロセスと同じ状況での結合状態を試験するために、ファージの表面に提示されたscFvを用いてELISAを行った。分泌されたscFvとの結合も、細菌上清又はペリプラズム画分を使用して試験した。ここで、後者の調製物は、より濃縮された粗scFvの供給源を提供する。最後に、各クローンを大規模に発現させ、固定化金属イオンクロマトグラフィーを用いてペリプラズム空間から精製し、定量化し、完全性と純度をSDS-PAGEで検証した。次に、見かけの結合親和性を決定するために、精製したscFvの用量反応実験を行った。異なるフォーマットと素材を用いたこれらの実験の結果を表2に要約する。選択プロセスによる濃縮と一致するようにファージ上に提示した実験では、全てのscFvは5E3に結合した。対照的に、粗上清又はペリプラズム調製物による実験では、5E3R-1、5E3R-3及び5E3R-6クローンのscFvのみが陽性シグナルを示し、このことは、5E3R-2、5E3R-4及び5E3R-5クローンがスクリーニングステップで同定されなかった理由を説明する。これらの3つのscFvは、大規模生産後の低い収率に反映されているように、おそらく十分に発現又は分泌されなかった(表2)。興味深いことに、5E3R-4と5E3R-5はscFv形式では5E3と結合し、EC_(50)はそれぞれ2.3及び140nMであった。可溶性scFvとして、5E3R-2はいかなるシグナルも与えず、これは標的への結合のためファージが必要であることを示唆している。これらの結果は、VH_(CDR3)配列頻度に基づくレスキューアプローチを用いることにより、ELISA法で同定された最良のscFv候補を得、さらに重要なことに、古典的スクリーニングアプローチを行わずに見逃した2つのさらなる候補を得ることができた。」(6ページ右欄10行?9ページ左欄3行)

カ 「Bypassing primary screening(一次スクリーニングの回避)」
「このアプローチをさらに検証するために、他のターゲットに対し同じ手順を適用した。AE1ライブラリーを、可溶性ビオチン化hIFNγに対し、3ラウンドのファージ選択を行った。各ラウンドの結果をシーケンシングし、VH_(FR3-CDR3-FR4)領域をカバーする100万を超えるリードを得た。予想したとおり、一度しか出現しない配列の数は減少し、複数回出現する配列の頻度はラウンド3の後に25%に達するまで増加し、選択が行われたことが示された(表1)。VHファミリーは、95%を超える配列について同定することができ、この場合、VH1についての明らかな濃縮が観察された(図2C)。VH_(CDR3)の長さの分布は、5E3に対する選択で観察されたものと異なっており、この例では、異なるCDRの長さが標的依存的に優先的に濃縮されたことを示した(図3E-G)。次に、ラウンド3の後に、それぞれのVH_(CDR3)配列に対応するプライマーを使用したオーバーラップPCRにより、最も頻度の高い10個のクローンをレスキューした(図4B)。結合特性を特徴付けるために、これらのレスキューされたscFvは可溶性形態で発現するか、又は繊維状バクテリオファージの表面に提示された。全ての候補は、ファージ又は精製scFvを用い、特異的な方法でhIFNγと結合した(表2)。しかし、細胞上清又はペリプラズム調製物をELISAで試験した場合、4つの候補(IFNR-1、2、8及び9)はシグナルを示さず、これらの候補は一次スクリーニングの工程で同定されなかったことを示している。さらに、この第2の実験は、無作為に選んだクローンを事前にスクリーニングすることなく、抗体候補を回収できることを示した。加えて、それらの高い出現頻度を考慮して繰り返しスクリーニングされていたが標準的なスクリーニングアプローチでは見逃されていたであろう、最も濃縮されたクローンのかなりの割合(10個中4個)が、このアプローチで同定できた。」(9ページ左欄5行?右欄3行)

(5) 「DISCUSSION(考察)」
「我々は、事実上、全てのVH_(CDR3)及びVL_(CDR3)配列のファージディスプレイ選択プロセス中の進化を追跡することが可能であることを初めて説明する。ELISAスクリーニングによって同定されたヒットの配列とVH_(CDR3)及びVL_(CDR3)の頻度を比較することにより、いくつかのクローンでは見かけの結合親和性と濃縮が相関することを我々は見出した。しかし、一次スクリーニング中にいくつかの高度に濃縮されたクローンが見逃され、そしてこれらの『失われた』クローンがコードする抗体が有用な候補であることは明らかであった。
近年、各工程(すなわち、ライブラリー生成、選択及びスクリーニング)を最適化又は単純化することにより、in vitro進化アプローチを改善するために多くの努力が費やされてきた。例えば、ハイスループット抗体アレイスクリーニングを用いることにより、選択ラウンドを劇的に減らすことができ、場合によっては省略することさえできることが示された(32)。ここでは、NGSプラットフォームの能力を用い、一次スクリーニングを完全に回避することが可能で、このことは、より関連性のあるアッセイにおいて詳細な特徴付けに直接進むために最も頻繁な配列に焦点を合わせる。さらに、古典的なELISAスクリーニングによって同定されなかった標的特異的scFvは、それらの頻度に基づいて同定できる。この論文に記載された全てのscFvは、ファージ上に提示された場合、標的と結合することができ、そしてファージELISAにおいて陽性シグナルを与える(表2)。標的との結合により駆動されるファージ選択プロセス中にそれらが濃縮されたので、このことは予想される。しかし、マイクロタイタープレート上での最適ではない増殖条件により、これらのscFvの発現が十分ではないことから、かなりの割合のクローンが古典的可溶性scFv ELISAスクリーニングにおいて陰性であった。対照的に、我々は、配列決定及び頻度分析に基づいてレスキューされたすべてのクローンが、より最適な曝気及び増殖条件で、より大きな培養容量から可溶性scFvとして発現され、精製され得ることを示した。さらに、これらの精製scFvの大多数は、用量応答ELISAにおいて、ナノモル範囲のIC_(50)で陽性であった(表2)。scFvの初期の親和性にかかわらず、機能的に関連するエピトープに結合するために標的タンパク質上のエピトープ範囲を最大にするために広範なscFvを回収することが重要であることから、選択プロセスからより多くの候補を同定する能力は重要である。」(9ページ右欄26行?10ページ左欄10行)

(6) 図とその説明文
ア 図4

「図4 上位10配列の頻度と進化。5E3(A)、hIFNγ(B)に対するラウンド3後に最も多く存在した10個のVH_(CDR3)配列の頻度。IMGT命名法によるVH_(CDR3)のアミノ酸配列とその長さ及びVHファミリーを示す。VH_(CDR3)配列及び頻度に基づいてレスキューされたクローンであるとともにELISAによるスクリーニングでも同定された配列が示される。」(8ページ)

2 引用発明1
上記1の下線部より、引用例1には、「重鎖及び軽鎖のCDR3にのみ多様性が導入された、ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子に基づくヒトscFvのファージディスプレイライブラリーAE1を構築し、ラット抗マウスTLR4モノクローナル抗体5E3に対するパニングを3ラウンド行い、選択されたクローンからscFvを分泌させ、標的5E3に対する特異的な結合についてELISAでスクリーニングすることにより、標的に対しナノモルオーダーの結合EC_(50)を有する6種類のscFvを同定するとともに、イルミナ社の次世代シーケンシングプラットフォームを用いて上記ライブラリー及び各選択ラウンド後のscFvのCDR3の塩基配列を決定し、ラウンド3後に最も出現頻度の高い10個のVH_(FR3-CDR3-FR4)配列を特定し、かつ、それらの濃縮プロファイルについても確認する(図4)、抗原特異的scFv抗体のスクリーニング方法。」についての発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

3 引用例2
引用例2には以下の事項が記載されている。
(1) 表題
「抗体発見を支援するためのファージディスプレイライブラリーの詳細な配列決定」

(2) ABSTRACT(要約)
「ファージディスプレイライブラリー及びin vitro選択プロセスの両方における抗体配列の分析のための次世代シーケンシング(NGS)の使用は、ここ数年でますます普及している。ここでは、DNAの調製、シーケンシング及びデータ解析のために開発された方法を紹介する。重要なパラメータは、公に利用可能なツールと組み合わせて使用されるハイスループット抗体配列分析用に設計された新しいソフトウェアを開発することでもあった。我々の方法の例として、異なる重鎖CDR3多様化戦略を使用して生成された5つのscFvライブラリーの広範な分析からのデータを提供する。この結果は、ライブラリーの設計が正しいことを確認するだけでなく、標準DNAシーケンシングアプローチによって容易に同定されない品質の差異を明らかにする。読み取り回数が非常に多いため、選択プロセス後に広範なシーケンスカバレッジが可能である。さらに、サンプルを多重化することができるため、コストは減少し、NGSの実行ごとに多くの情報が得られる。2つの抗原に対するファージディスプレイ選択後に得られた結果の例を使用した、頻度及びクラスタリング分析は、標的抗原に特異的であることが示された新規抗体断片を同定した。要約すると、ここに記載された方法は、NGS分析がどのようにして複雑な抗体ライブラリーの品質管理を高め、抗体発見プロセスを容易にするかを実証する。」

(3) 「1. Introduction(序論)」
「ここでは、イルミナGAIIx及びHiSeqシーケンサーと、ファージディスプレイを用いた抗体検出の様々なステップで適用した抗体に合わせたシーケンシングデータ解析手法の組合せについて説明する(図1)。最初に、多様化戦略を用いて生成された一連の抗体ライブラリーに存在する配列の多様性と品質をよりよく評価するために、NGSを使用した。次いで、我々は、標的抗原に対するいくつかのファージディスプレイ選択ラウンドのアウトプットをプロセス中の抗体配列の頻度の進展に沿うように広範に配列決定した。分析後、データを用いて選択ラウンドから回収する濃縮された抗体配列を同定するのに使用し、抗原結合について試験した。」(100ページ左欄9?20行)

(4) 「2. Materials and Methods(材料と方法)」
ア 「2.1 Libraries(ライブラリー)」
「この研究では、天然ヒト抗体レパートリーにおけるそれらの表現及びscFvフォーマットにおけるそれらの安定性に基づいて選択された限られた数のヒト抗体可変ドメイン生殖系列遺伝子を用いて構築された、ヒトscFvを含む5つのファージミドライブラリーを使用した。可変重鎖ドメイン及び可変軽鎖ドメインをコードする遺伝子をpNDS1ベクターにクローニングし、グリシン-セリンリンカー配列を介して連結した。重鎖に用いられるV遺伝子は、H1-2、H1-18、H1-69、H3-23、H3-30、H3-48及びH5-51であった。軽鎖に使用されるV遺伝子は、L1-44、L1-51、K1-33、K1-39、K3-11、K3-15及びK3-20であった(IMGT命名法[18])。すべてのライブラリーにおいて、多様性は重鎖及び軽鎖の両方のCDR3に限定され、可変鎖のすべてのフレームワーク(FR)、CDRl及びCDR2配列はヒト生殖系列配列(図2)に既知であり、同一である。CDR3配列の多様性は、合成縮重オリゴヌクレオチドを使用して、又はヒト若しくは動物起源の天然のCDRH3配列を組み込むことによってのいずれかで生成された[12,19] (i)ライブラリーAE1(7×10^(9)の形質転換体)を合成NNS、DVK、NVT又はDVT多様化戦略を用いて縮退オリゴを設計し、VHについては9?15アミノ酸、VLについては8?11アミノ酸のCDR3長をもたらす; (ii)3人の健康なヒトドナーからのPCRによって回収された天然のCDRH3配列を挿入することによって、半合成ライブラリーAD1(1.5×10^(10)の形質転換体)を生成し、CDRL3はライブラリーAE1と同じ合成多様性を含む; (iii)CDRH3配列が50人の健康なドナーから単離されたことを除いて、ライブラリーAD1と同じ方法でライブラリーAP1(5.4×10^(9)の形質転換体)を生成した; (iv)ウサギ脾細胞からのPCRによって検索された天然のCDRH3配列を挿入することにより、ライブラリMnN(3.9×10^(8)の形質転換体)を生成し、CDRL3は、ライブラリーAE1と同じ合成多様性を有する; (v)内部ジスルフィド架橋及び3?5個のランダム化位置を含む天然に存在する長いCDRH3を模倣する13?26アミノ酸の6つの異なる合成CDRH3配列を挿入することによってライブラリーMnO(5.2×10^(9)の形質転換体)を生成し、CDRL3はライブラリAE1と同じ合成多様性を有する。AE1ライブラリは[12]に記述されており、AD1、AP1、MnN及びMnOライブラリの設計と構築の詳細な説明は別の場所で発表される予定である。」(100ページ左欄23行?右欄23行)

(5) 「3. Results(結果)」
ア 「3.1 Preparation of samples for NGS(NGS用サンプルの調製)」
「この研究で使用されたscFvライブラリーは、VH及びVLのみのCDR3において多様化され、他のCDR及びフレームワーク領域は、ヒト生殖系列配列と同一である。CDR3は、イルミナシーケンサーで得られる100bpの長さの単一の読み取りでカバーすることができる。」(104ページ右欄5?9行)」

イ 「3.3 Sequence analysis(配列解析)」
「NGSデータの分析に利用可能なソフトウェアは、主にNGSの主なアプリケーションの1つとして残っているゲノムの組立てに専念している。したがって、Microsoft SQL ServerをベースにしたソフトウェアであるN^(2)GSAbを開発し、抗体可変配列の解析に専念した。このソフトウェアは、品質管理FASTQ生データファイルを使用して、標準デスクトップコンピュータで約10分で>10^(7)個のシーケンスを処理できる。N^(2)GSAbは以下のタスクを実行する: (i)それぞれの頻度に従ってソートされた配列のリストの生成; (ii)V生殖系列遺伝子同定; (iii)全てのリーディングフレームにおけるDNAのタンパク質配列への翻訳; (iv)正しいリーディングフレームにおけるCDR3の同定; (v)それらの頻度を有する唯一のCDR3のリストの生成; (vi)CDR3の長さの決定。分析中に実行される手順については、『材料と方法』の項で詳しく説明している。アウトプットCSVファイルはExcelで視覚化し、分析の目的に応じてさらに処理することができる(下記参照)。」(105ページ左欄2?18行)

ウ 「3.5 Following sequence enrichment during selection(選択中の配列濃縮の追跡)」
「原則として、選択プロセス中、標的に特異的なscFvを提示するファージは、徐々に保持され、濃縮され、非特異的ファージは洗い流される。典型的には、最初の選択ラウンドのアウトプットにおいて、10^(4)?10^(6)個のファージ粒子が回収され、この工程は、その後のラウンドで見出され得る最大配列多様性を制限する。したがって、ほとんどの場合、選択ラウンドに存在する大部分の配列をカバーするには10^(6)回の読み取りで十分であり、バーコーディング(図2A及びB)を介して異なるラウンドに対応するサンプルの多重化は、単一のイルミナランの使用を最大にし、コストを削減する。以前に記載したように、AElライブラリーを用いてヒトインターフェロンγ(hIFNγ)に対する3ラウンドのファージディスプレイ選択を行い、一方で、AD1ライブラリーをモノクローナル抗体5E3に対する抗イディオタイプ候補を生成するために用いた[12,19]。両方の選択において、10^(6)以上の配列が得られ、3ラウンドのそれぞれについて分析された。上記のように、2つのライブラリーはデザインと多様性が異なっていた。しかしながら、両方の場合において、増加する頻度で見出される配列のサブセットの濃縮及び全体的な多様性の劇的な減少が観察された(図8)。hlFNγに対する選択の第3ラウンドのアウトプットでは、171の配列が1000を超えるコピーで存在し、全配列の>70%を表した(図8A)。さらに顕著なのは、5E3に対する3ラウンドの選択後の単一のCDRH3配列の劇的な濃縮であり、これは全配列の47%を表していた(図8B及び9B)。CDRH3の長さ分布の進展も追跡することができ、ライブラリーAE1を用いたhlFNγの選択については別の場所で説明されている[12]。ここでは、5E3の第3ラウンド後のAD1ライブラリーについてのこの進化を示し、VH3ファミリーの文脈における短いCDRH3に対する強いバイアス並びに単一の21アミノ酸長CDRH3の優性が観察され得る(図9)。」(107ページ右欄2」行?108ページ左欄最下行)

エ 「3.6 Identification of candidates(候補の特定)」
「古典的アプローチでは、選択ラウンドからのランダムな個々の候補を結合アッセイ又は機能アッセイで試験する(図1)。スクリーニング能力及びアッセイの複雑さに応じて、数百から数千の候補を評価することができる。明らかに、最も富化された配列は、特に、AD1ライブラリーを用いた5E3での選択に関して上記のように選択ラウンドを支配する少数の配列が優勢である場合に、繰り返し選択され、試験される。さらに、ファージディスプレイ選択の限界は、発現されたscFvの毒性及び細菌増殖の差などの他の因子が、標的抗原に対する高い親和性を有するscFvを提示しないファージの増幅をもたらし得ることである[3,4,24,25]。
代わりに、NGS分析に基づけば潜在的な候補を選択することができる。候補を同定するための第1の簡単なアプローチは、標的に特異的に結合するscFvをコードする可能性のある最も頻繁に、したがって、最も濃縮された配列を選択することである。ライブラリー品質管理(3.4節)とは対照的に、非常に低い頻度の配列(<0.1‰)は、選択中に有意に濃縮されていないシーケンシングエラー又はクローンを表す可能性があるため無視された。適用される候補選択の頻度閾値は調整することができ、配列決定されたラウンドに残っている濃縮及び多様性に依存する。あまり頻繁でない配列を考慮し、候補のより多様性を評価するために、濃縮されたCDRH3パターンを同定するためのクラスタリング分析を行った。私たちはCD-HITを使用してクラスタリングを迅速かつ簡単に実行した[26,27]。クラスタメンバーとN^(2)GSAbファイル間のリンクを維持できるという利点がある。CDHITの性能を向上させるために、CDRH3は、クラスタリング手順の偏りを避けるために、独立してアップロードする前に、長さに従ってソートされた。」(108ページ左欄2?32行)

オ 「3.7 Clone rescue(クローンのレスキュー)」
「短い読み取り長さのために、分析はscFvの小さな部分に対して行われ、CDRL3又はVL生殖細胞系列に関する情報を提供しない。しかし、CDRH3配列は、2ステップPCRアプローチ(図2C)によって選択ラウンドからscFv全体を増幅及び回収するための特異的オリゴヌクレオチドを設計するために使用することができる。次いで、増幅されたscFvをファージミド又は発現ベクターにクローニングし、サンガー法を用いて完全に配列決定することができる。単一のVHが複数のVLとの組合せで見出される可能性があるので、異なる組合せが見いだされるかどうかを決定するためにいくつかのコロニーを配列決定すべきである。次いでscFvを産生及び精製して、ELISA又は他のアッセイによって標的特異的結合を評価することができる。我々は、モノクローナル抗体5E3に対するライブラリーAD1を用いて3回目の選択で見出されたクラスター番号1及び5の主要なCDRH3配列を表す2つのscFvをレスキューした(表2)。10個のコロニーをシーケンシングした後、以前に観察されたように、各scFvについてただ1つのVH-VL対が見出された[12]。両方のscFvは、発現され、固定化された金属イオン親和性クロマトグラフィーを用いて、そのC末端ヒスチジンタグを介して精製された。これらのscFvの特異性をELISAによって試験した(図10)。両方のscFvは5E3に特異的に結合し、対照抗体には結合せず、それらがさらに特性決定できる抗イディオタイプ候補であることを示唆している。これらの結果は、標的特異的抗体が、NGSデータの分析に基づいて同定及び回収され得ることを実証する。」(109ページ左欄4?27行)

(6) 「4. Discussion(考察)」
「古典的ファージディスプレイ法で同定されるためには、抗体断片は、抗体の最終的使用に必ずしも関連しない選択基準を満たさなければならない。抗体フラグメントは、バクテリオファージの表面での表示と一致しなければならず、スクリーニング目的のためにマイクロプレート形式で可溶性フラグメントとして発現され、IgGとして再構築されたときにその特性を保持する必要があり、これは最終用途に最も一般的に使用される形態である。選択プロセス中に濃縮されているが、スクリーニングによって同定することができなかったいくつかの配列は、発現され、精製され、優れた標的結合能力を有することが示されている[12]。したがって、NGSに基づいた選択及びレスキュー手順は、抗体発見プロセス(図1)における代替的かつ相補的な経路を表す。さらに、データ解析後、レスキューされた配列はIgGに直接再構築することができ、不安定になる傾向があるためにscFvが好ましい形態ではないため、scFv評価工程を回避することができる。」(109ページ左欄下から5行?右欄)

(7) 図又は表とその説明文
ア 図1

「図1 ファージディスプレイによる抗体発見プロセス及びNGSの可能な適用。古典的アプローチでは、ファージ上に提示された抗体断片のライブラリーを標的に対する複数の選択ラウンドで使用し、標的へのファージ結合の累進的な濃縮をもたらす。富化後、ランダムな個々の候補を所望の活性について試験し、そして陽性のものを配列決定する。NGSは初期ライブラリーの広範な特徴付けを可能にし、選択プロセス中の配列の濃縮に従う。NGSデータ分析後に得られた頻度及びクラスタリング情報に基づいて、潜在的な標的特異的候補物を回収し、活性について試験することができる。」(100ページ左欄)

イ 表2

「表2 IFNγに対してAElライブラリー及びモノクローナル抗体5E3に対してAD1ライブラリーを使用した第3ラウンドの選択のためのCDRH3配列のクラスター化。
各選択の5つの最も頻繁なクラスターが表される。アミノ酸はそれらの化学的特性により色分けされる。・・・」(107ページ)

4 引用発明2
上記3の下線部より、引用例2には、「多様性が重鎖及び軽鎖のCDR3に限定されたヒトscFvを含むAD1半合成ファージディスプレイライブラリーについて、標的抗原であるモノクローナル抗体5E3に特異的なscFvを提示するファージが濃縮され非特異的ファージは洗い流される3ラウンドの選択プロセスを実施し、各選択プロセスの終了後に、次世代シーケンシング(NGS)技術を使用して標的に特異的に結合したscFvのCDRH3の塩基配列を決定し、ラウンド3後には塩基配列のクラスタリング分析と主要な塩基配列を決定するとともに、その出現頻度順に順位づけを行い、出現頻度の多い5つのクラスター化された主要な塩基配列を表2に示すとともに、最も頻繁に出現する配列を選択する、標的抗原特異的scFv抗体のスクリーニング方法。」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

5 引用例3
引用例3自体は、本件特許の出願後に異議申立人が印刷したウエブページの印刷物であるものの、これと同内容の事項が、本件特許の出願前に頒布された刊行物に記載されていたか、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていたと仮定して、以下に引用例3についての検討を行う。
引用例3には以下の事項が記載されている。
(1) タイトル
「抗原免疫動物から構築したアルパカVHH抗体ファージライブラリからの抗原特異的抗体の単離と機能解析」

(2) 抄録本文
ア 目的
「抗体医薬や臨床診断薬で使用されている抗体は、通常IgG抗体である。IgG抗体は、製造過程において動物細胞やハイブリドーマを使用する必要があり高コストである。この問題を解決する1つの方法として、本研究では、自然界に存在する抗体で最小の抗原認識ドメイン構造を持つラクダ科動物由来VHH抗体に注目し、抗原免疫動物由来の抗体ファージライブラリを使った免疫抗原特異的な抗体の単離を試みたので報告する。」
イ 結果・考察
「アルパカの免疫にはモデル抗原として、精子由来タンパク質であるIzumo sperm-egg fusion protein 1 precursorのN末端フラグメント及びキャリアータンパク質として一般的に使用されているKLHを用いた。免疫後のアルパカ血清から重鎖抗体を分離精製し、抗原に対して重鎖抗体力価が上昇している事を確認した。その後、採血を行いアルパカ末梢血リンパ球由来のmRNAを基に、ファージディスプレイ技術を用いて、10^(7)の多様性を持つVHH抗体ライブラリを構築した。この免疫ライブラリを用いて抗原に対してバイオパニングを行ったところ、わずか1ラウンドで抗原特異的結合活性を持つファージの濃縮を確認した。1ラウンド後のライブラリから単離したクローンの特異性を解析したところ、驚くべきことに約5割が抗原特異的なクローンであった。現在、単離クローンの配列解析をはじめ、VHH抗体の特性解析を行っているところである。さらにナイーブライブラリから得られた抗体との親和性等の観点からも、免疫ライブラリの有用性について議論したい。」
ウ 結論
「ナイーブライブラリに比べ、免疫ライブラリでは、バイオパニングの際の濃縮効率も高く、目的抗原に対して確実に抗体を単離する場合に非常に有効であると考えられる。本研究において、免疫ライブラリから単離されたVHH抗体の特性を明らかにすることでVHH抗体の産業的な応用に貢献できると思われる。」

6 引用発明3
上記5より、引用例3には、「Izumo sperm-egg fusion protein 1 precursorのN末端フラグメントで免疫されたアルパカ由来のVHH抗体ファージライブラリーを構築し、このライブラリーを用いて前記抗原に対してバイオパニングを1ラウンド行い、抗原特異的結合活性を持つファージを濃縮する方法。」についての発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。

7 引用例4
引用例4には以下の事項が記載されている。
(1) 表題
「スクリーニングではなく、形質細胞の可変領域遺伝子レパートリーの分析により得たモノクローナル抗体」

(2) 要約の項
「抗原特異的モノクローナル抗体(mAb)及び抗体フラグメントの単離は、不死化B細胞^(1,2)又は組換え抗体ライブラリー^(3-6)のハイスループットスクリーニングに頼る。我々は、ハイスループットDNA配列決定及びバイオインフォマティクス分析を用いて、免疫マウスの骨髄形質細胞(BMPC)由来の抗体可変領域(V)遺伝子レパートリーを調査することにより、スクリーニング工程を回避した。不死化することができないBMPCは、循環する抗体の大半を産生する。我々は、BMPCのV遺伝子レパートリーが免疫後に高度に偏り、最も豊富な配列が全レパートリー中の?1%から>10%の間の出現頻度となることを見出した。我々は、最も豊富な可変重鎖(V_(H))と可変軽鎖(V_(L))遺伝子をそれらの相対頻度に基づいてペアにし、自動遺伝子合成を用いてそれらを再構築し、組換え抗体を細菌又は哺乳類細胞で発現させた。3つの抗原のうちの1つで免疫化した6匹のマウスからこのようにして生成された抗体は、圧倒的に抗原特異的であった(21/27又は78%)。高い血清力価を有するマウスから生成されたものは、ナノモルの結合親和性を有した。」

(3) 本文の項
ア 「我々は、スクリーニングを必要とせずに、抗体単離のための簡単で迅速な方法を開発した。我々は、ハイスループットDNA配列決定を利用して、免疫マウスからの完全に分化した成熟B細胞である抗体分泌BMPCのmRNA転写産物から誘導されたV_(L)及びV_(H)遺伝子レパートリーを解析した。バイオインフォマティクス分析の後、いくつかの豊富なV_(L)及びV_(H)遺伝子配列を各免疫マウスのレパートリー内で同定することができた。V_(L)及びV_(H)遺伝子は、レパートリー内のそれらの相対頻度に従ってペアにされた。抗体遺伝子は、自動液体ハンドリングロボットによるオリゴヌクレオチド及びPCRアセンブリによって迅速に合成された。組換え抗体は、一本鎖可変断片(scFv)及び全長IgGとして細菌及び哺乳動物系で発現された(図1)。最後に、得られた抗体が抗原特異性が圧倒的に(21/27又は78%)特異的であることを確認し、スクリーニングなしでmAbの迅速かつ直接的な単離を可能にすることが確認された。」(965頁右欄7?21行)

イ 「我々のアプローチは、動物の循環する免疫グロブリンの大部分の合成を担うB細胞の集団であるBMPCの抗体レパートリーを調査することを利用している^(16)。我々はマウスでこの方法を検証したが、同じアプローチがヒトを含む霊長類に容易に拡大できないと考える理由はない。さらに、これらの状況でBMPCは依然として偏りを生じる可能性があるので、この技術はウイルスや細菌病原体などのより複雑な抗原による抗体発見のために拡張することが可能である。」(968頁左欄下から7行?右欄2行)

8 引用例5
引用例5の「Section 1, Phage Display(第1節 ファージディスプレイ)」、「Chapter 3, Antibody Libraries(第3章 抗体ライブラリー)」には以下の事項が記載されている。
(1) 「ANTIBODY LIBRARIES(抗体ライブラリー)」
ア 「Immune Versus Nonimmune Libraries(免疫対非免疫ライブラリー)」
「原則として、非常に大きなナイーブ又は半合成確立ライブラリーは、免疫を必要とせず、又はライブラリー構築に関わる研究者を必要とせずに、所望の特異性の高親和性抗体の選択の可能性を提供する。・・・しかしながら、もし有用な親和性の抗体がそのようなライブラリーから簡単に単離できないか、特定の分子に対する一定範囲の抗体を望む場合には、免疫がベストの選択かもしれない。」(3.8ページ下から2行?3.9ページ8行)

イ 「Species for Immune Libraries(免疫ライブラリーのための種)」
「抗体に治療目的が要求される場合には、ヒトライブラリーは明白な選択である。」(3.9ページ19?20行)

第5 判断
1 本件発明1
(1) 新規性について
ア 本件発明1と引用発明1とを対比する。前記第2に示した本件発明の請求項1及び2の記載より、引用発明1におけるscFvは本件発明1における低分子化抗体の一種である。また、本件特許の明細書(以下、単に「本件明細書」という。)の段落【0015】に、「相互作用検出プロセスとしては、ファージディスプレイ法・・・が挙げられる。このプロセスは1回のみ行ってもよく、複数回行ってもよい。例えばファージディスプレイにおけるパニング工程は、1回のみ行ってもよく、複数回行うこともできる。」と記載されていることから、引用発明1におけるラット抗マウスTLR4モノクローナル抗体5E3に対するパニングを3ラウンド行う工程は、本件発明1における抗原抗体間の相互作用検出プロセスを実施する工程に相当し、本件明細書の段落【0018】に、「大規模配列解析は、従来公知の方法に従い行うことができ、例えば・・・ギガシーケンサーなどの大量の塩基配列情報を処理できるDNAシーケンサーを用いることにより行うことができる。このようなシーケンサーとしては、イルミナ社製の次世代DNAシーケンサーMiSeqが挙げられる。」と記載されていることから、引用発明1におけるイルミナ社の次世代シーケンシングプラットフォームを用いた塩基配列決定は、本件発明1における大規模配列解析による塩基配列決定に相当する。そうしてみると、両発明は、「低分子化抗体の可変領域を含む、脊椎動物の塩基配列ライブラリーについて抗原抗体間の相互作用検出プロセスを実施する工程、及び、大規模配列解析により前記塩基配列の出現頻度を求める工程を含む、抗原特異的低分子化抗体のスクリーニング方法。」の点で一致し、脊椎動物の塩基配列ライブラリーについて、本件発明1が抗原免疫された脊椎動物のライブラリー、いわゆる免疫ライブラリーを使用するのに対し、引用発明1は重鎖及び軽鎖のCDR3にのみ多様性が導入されたライブラリー、いわゆる合成ライブラリーを使用する点で相違し(相違点1)、また、本件発明1が大規模配列解析による前記塩基配列の出現頻度を前記プロセスの前後で比較する工程、及び前記相互作用検出プロセスの前後で塩基配列出現頻度が一定以上上昇した低分子化抗体を選別する工程を有するのに対し、引用発明1では、大規模配列解析によりライブラリーと相互作用検出プロセス後の低分子化抗体のCDR3の塩基配列を決定し、3回目の相互作用検出プロセス後に最も出現頻度の高い10個のVH_(CDR3)配列を特定している点で相違する(相違点2)。

イ 本件発明1と引用発明2とを対比する。前記アで示した本件発明及び本件明細書の記載より、両発明は、「低分子化抗体の可変領域を含む、脊椎動物の塩基配列ライブラリーについて抗原抗体間の相互作用検出プロセスを実施する工程、及び、大規模配列解析により前記塩基配列の出現頻度を求める工程、当該出現頻度を利用して低分子化抗体を選別する工程を含む、抗原特異的低分子化抗体のスクリーニング方法。」の点で一致し、脊椎動物の塩基配列ライブラリーについて、本件発明1がいわゆる免疫ライブラリーを使用するのに対し、引用発明2は半合成ライブラリーを使用する点で相違し(相違点1)、また、出現頻度を利用して低分子化抗体を選別する工程について、本件発明1では、前記プロセスの前後で出現頻度を比較し、出現頻度が一定以上上昇した低分子化抗体を選別する工程を有するのに対し、引用発明2では、ラウンド3後に最も頻繁に出現する塩基配列を選択する工程を有する点で相違する(相違点2’)。

ウ 小活
前記ア及びイのとおり、本件発明1と引用発明1又は引用発明2には上述した相違点があることから、本件発明1が引用例1に記載された発明又は引用例2に記載された発明であるということはできない。

(2) 進歩性について
ア 引用例1又は引用例2を主引用例とする場合
本件発明1と引用発明1の相違点2及び本件発明1と引用発明2の相違点2’は、いずれも、低分子化抗体の選別において、大規模配列解析による塩基配列の出現頻度を相互作用プロセスの前後で比較し、出現頻度が一定以上上昇した低分子化抗体として選別する工程が、引用発明1及び引用発明2には記載されていないというものであることから、これらの相違点をまとめて検討する。
引用発明1では、イルミナ社の次世代シーケンシングプラットフォームを用いてライブラリー及び各選択ラウンド後のscFvのCDR3の塩基配列を決定し、ラウンド3後に最も出現頻度の高い10個のVH_(FR3-CDR3-FR4)配列を特定し、かつ、それらの濃縮プロファイルについても確認しているところ、その結果は、「ラウンド1及びラウンド2の後に増加して最も多くなった配列#3を除いて、ほとんどの場合、ラウンド3の選択後に主要な濃縮が観察された(図4A)。これらのトップ10の配列はラウンド3の後の全配列の17%超を占め、また、3つの最も豊富な配列は14%で」あった(前記第4の1(4)ウ)ことから、配列#1や配列#2を有する抗体は、配列#3を有する抗体と比較して、配列の出現頻度が一定以上上昇したものと認められる。ここで、引用例1では、「ラウンド3の後に見いだされるいくつかの配列は、ELISAスクリーニングでは同定されなかった。特に、ラウンド3後に、全ての配列の6%近くを占め2番目に出現頻度の高い配列であるクローン#2は、同定されなかった(図4)。」ことから、その理由を理解するために、「我々はPCR増幅により6つの出現頻度の高いVH_(CDR3)配列を有するscFvをレスキューし」、「これらのレスキューされた6つのscFvを発現させ、異なるフォーマットのELISAを用いて標的5E3への結合について試験した」ところ、「可溶性scFvとして、5E3R-2はいかなるシグナルも与えず、これは標的への結合のためファージが必要であることを示唆している」と記載されている(前記第4の1(4)オ)。ここで、上記記述のうち、「2番目に出現頻度の高い配列であるクローン#2」は配列#2のことであり、また、「5E3R-2」は、表4Aより、2番目に出現頻度の高い配列であるクローン#2、すなわち、配列#2のことである。そうしてみると、引用例1には、ライブラリー及び各選択ラウンド後のscFvのCDR3の塩基配列を決定し、ラウンド3後に配列の出現頻度が一定以上上昇した抗体(配列#1及び配列#2を有する抗体)の中で、配列#2を有する抗体は、単独では標的5E3と結合することができなかったこと、すなわち、抗原に特異的な抗体ではなかったことが記載されている。
このように、引用発明1では、相互作用検出プロセスの最終段階の後における塩基配列の出現頻度を大規模配列解析により求めているものの、当該プロセスの最終段階の後に配列の出現頻度が一定以上上昇した抗体には、抗原に特異的な抗体ではない抗体が含まれていることから、引用例1に接した当業者は、「相互作用検出プロセスの前後で塩基配列出現頻度が一定以上上昇した低分子化抗体を選別する」ことにより、「抗原特異的低分子化抗体」をスクリーニングすることが可能となると理解するものではなく、引用例1には、塩基配列の出現頻度を相互作用検出プロセスの前後で比較し、かつ、前記プロセスの前後で塩基配列の出現頻度が一定以上上昇した低分子化抗体を選別することにより、抗原特異的低分子化抗体をスクリーニングするという技術思想が開示されているものとは認められない。
また、引用例2には、大規模配列解析を利用した低分子化抗体の選別について、「NGS分析に基づけば潜在的な候補を選択することができる。候補を同定するための第1の簡単なアプローチは、標的に特異的に結合するscFvをコードする可能性のある最も頻繁に出現する、したがって、最も濃縮された配列を選択することである。」(前記第4の3(5)エ)と、相互作用検出プロセス後に最も出現頻度が高いものを選別することが明記されている一方、引用例2には、相互作用プロセスの前後で塩基配列の出現頻度を比較して、出現頻度が一定以上上昇した低分子化抗体として選別するという技術思想は記載も示唆もされていない。
さらに、引用例3ないし5には、抗体のライブラリーや抗原抗体間の相互作用検出プロセス後の抗体について、大規模配列解析によってその塩基配列を検討することは記載も示唆もされていない。
このように、引用例1ないし5には、抗原特異的低分子化抗体のスクリーニングに際して、大規模配列解析による前記塩基配列の出現頻度を抗原抗体間の相互作用検出プロセスの前後で比較する工程、及び前記相互作用検出プロセスの前後で塩基配列出現頻度が一定以上上昇した低分子化抗体を選別する工程を含めることについての記載も示唆もない。

イ 引用例3を主引用例とする場合
本件発明1と前記第4の6に示した引用発明3とを対比すると、両発明は、「低分子化抗体の可変領域を含む抗原免疫された脊椎動物の塩基配列ライブラリーについて抗原抗体間の相互作用検出プロセスを実施する工程を含む抗原特異的低分子化抗体のスクリーニング方法。」の点で一致するものの、本件発明1が大規模配列解析による前記塩基配列の出現頻度を前記プロセスの前後で比較する工程、及び前記相互作用検出プロセスの前後で塩基配列出現頻度が一定以上上昇した低分子化抗体を選別する工程を有するのに対し、引用発明3はこれらの工程を有しない点で相違する。
そして、引用例1ないし5には、相互作用プロセスの前後で塩基配列の出現頻度を比較して、出現頻度が一定以上上昇した低分子化抗体として選別する点が記載も示唆もされていないことは、上記アにおいて述べたとおりである。

ウ 本件発明の効果について
本件明細書には「本発明で発現頻度の向上により見出された抗体は、結合性により見出された抗体よりも優れた結合特性を有していた。従って、発現頻度による複数の抗体の選別により、複数の優れた特異性を有する抗体が得られることが明らかになった。」(段落【0012】)、「低分子化抗体の可変領域をコードする塩基配列において、プロセス前後で出現頻度が上昇したものを本発明では選択する。これにより、抗原に対する高い特異性を有する低分子化抗体を多数獲得することができる。」(段落【0019】)と記載されており、このことは、実施例1の「(8)特異的抗体配列候補の選択方法」の項において、「パニング後の出現数上位8配列の内、VHH抗体のホールマーク配列(・・・)を有する、パニング前後で出現頻度が50倍以上向上した2つの配列(I_1R_013、I_1R_038)を選んだ(表1)。」(段落【0048】)と記載されている配列について、「(11)活性測定」の項において、「I_1R_013とI_1R_038は抗原であるIZUMO1PFFに強固に結合することが明らかとなった。しかし出現頻度のスクリーニング前後の出現頻度の増加が少なかったI_1R_003は抗原と結合しなかった(図2)。」(段落【0053】)と記載されていることからも裏付けられているように、本件発明1は、引用発明1ないし3と相違する構成を採用することによる有利な効果を有している。

エ 小活
したがって、本件発明1は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明又は引用例3に記載された発明に、他の証拠に記載された発明又は技術常識若しくは周知技術を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(3) 特許異議申立人の主張について
ア 申立人は、引用例1の図4には、パニングのラウンド1の前後、ラウンド2の後、ラウンド3の後の塩基配列の出現頻度が比較され、クローンD11、D6及びD4が富化されたことが確認されているので、本件発明1と引用例1に記載された発明の間に相違点はない旨を主張する。しかし、図4の折れ線グラフからクローン#1?#10で示された塩基配列の出現頻度を読み取ることはできるものの、引用例1には各パニング工程前後でのこれらの塩基配列の出現頻度を比較することは記載されていないし、申立人が富化されたことが確認されているというクローンD11等は、通常のパニング工程により富化されたものであって塩基配列の出現頻度を比較することにより特定されたクローンではない。したがって、申立人の上記主張は失当である。

イ 申立人は、引用例2に「増加する頻度で見出される配列のサブセットの濃縮及び全体的な多様性の劇的な減少が観察された(図8)」と記載されている(前記第4の3(5)ウ)ことが、パニング前後の配列出現頻度の比較された結果であることから、本件発明1と引用例2に記載された発明の間に相違点はない旨を主張する。しかし、申立人が指摘する図8は、特定の塩基配列についてのパニング前後の出現頻度を示したものではなく、申立人が指摘する引用例2の記述から、抗原特異的低分子化抗体のスクリーニングに際して、大規模配列解析による塩基配列の出現頻度をパニング前後で比較し、出現頻度が一定以上上昇した低分子化抗体を選別することが記載ないし示唆されているということはできない。したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。

2 本件発明2ないし8
本件発明2ないし4は本件発明1をさらに特定する発明であり、本件発明5は、本件発明1において特定された各工程に、選別された低分子化抗体をコードするDNAを発現させて低分子化抗体を得る工程を追加して抗原特異的低分子化抗体の製造方法とする発明であり、本件発明6ないし8は、上記本件発明5をさらに特定する発明であるが、前記1のとおり、本件発明1が新規性及び進歩性を有するものであることから、本件発明2ないし8に新規性又は進歩性欠如の拒絶の理由があるということはできない。

3 まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし8は、引用例1ないし3に記載された発明ではなく、また、引用例1ないし5に記載された発明並びに技術常識及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-04-23 
出願番号 特願2013-247023(P2013-247023)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C12Q)
P 1 651・ 113- Y (C12Q)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 勇介  
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 澤田 浩平
大宅 郁治
登録日 2018-05-18 
登録番号 特許第6338235号(P6338235)
権利者 国立大学法人 鹿児島大学 株式会社MOLCURE 国立大学法人京都大学 アーク・リソース株式会社 国立研究開発法人産業技術総合研究所
発明の名称 低分子化抗体のスクリーニング方法及び製造方法  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
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代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
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