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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B23K
管理番号 1351455
異議申立番号 異議2019-700153  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-27 
確定日 2019-05-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第6381753号発明「超高速のレーザーパルスのバーストによるフィラメンテーションを用いた透明材料の非アブレーション光音響圧縮加工の方法および装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6381753号の請求項1ないし20に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6381753号の請求項1ないし20に係る特許についての出願は、平成26年7月31日(パリ条約による優先権主張2013年8月2日、米国)に出願した特願2014-156252号の一部を平成29年7月28日に新たに特許出願したものであって、平成30年8月10日にその特許権の設定登録がされ、平成30年8月29日付けで特許掲載公報が発行され、その後、平成31年2月27日に特許異議申立人石井良夫(以下、「特許異議申立人」という。)により全請求項に係る特許について異議申立てがされたものである。

第2.本件発明
特許第6381753号の請求項1ないし20に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明20」という。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
対象物をレーザー加工する方法であって、
超短レーザーパルスのバーストを有するレーザービームを提供するステップであり、前記対象物が前記レーザービームに対して透明な材料で作成され、各バーストが2?50個のレーザーパルスを有し、各レーザーパルスが10ナノ秒未満のパルス幅を有するステップと、
前記レーザービームを集束レンズに通すステップと、
前記集束レンズを使用して、前記レーザービームを、長手方向のビーム軸に沿って分散する態様で集束させるステップと、
分散焦点を前記対象物に対して位置させるステップと、
レーザービームの自己集束を開始するのに十分なフルエンスを有する集束した前記レーザービームを前記対象物に伝送して、前記長手方向のビーム軸に沿って伝搬するレーザーフィラメントを生成するステップと、
前記レーザーフィラメントを前記対象物内の所望の起点と所望の終点との間で案内および維持するように、パルスエネルギーおよび分散集束を調節するステップであり、前記レーザーフィラメントが、前記透明な材料を前記長手方向のビーム軸を中心にして環状に圧縮することにより、前記レーザーフィラメントに一致する空洞を作成するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記分散焦点が、前記対象物の上方または下方に位置する主焦点を含む複数の焦点を有する、請求項1に記載のレーザー加工方法。
【請求項3】
前記レーザービームが、1ヘルツから2メガヘルツまでの範囲のバースト反復率を有し、バースト内のレーザーパルス間の時間間隔が、1ナノ秒から100マイクロ秒までの範囲である、請求項1に記載のレーザー加工方法。
【請求項4】
前記透明な材料が、セラミック、ガラス、結晶、および半導体のいずれかである、請求項1に記載のレーザー加工方法。
【請求項5】
前記レーザービームが、5ミクロン未満の波長を有する、請求項1に記載のレーザー加工方法。
【請求項6】
各レーザーパルスが0.5マイクロジュールから100マイクロジュールまでの範囲のエネルギーを有する、請求項1に記載のレーザー加工方法。
【請求項7】
各バーストが5マイクロジュールから500マイクロジュールまでの範囲のエネルギーを有する、請求項1に記載のレーザー加工方法。
【請求項8】
前記対象物に作成された前記空洞が、1ミリメートルよりも長い、請求項1に記載のレーザー加工方法。
【請求項9】
前記集束レンズが収差レンズであり、当該収差が前記分散焦点を発展させる、請求項1に記載のレーザー加工方法。
【請求項10】
前記集束レンズが、非球面レンズまたはアキシコンである、請求項1に記載のレーザー加工方法。
【請求項11】
前記集束レンズが、非球面プレートを含む集束装置である、請求項1に記載のレーザー加工方法。
【請求項12】
前記集束レンズが、前記レーザービームに対して傾斜した光学要素を含む、請求項1に記載のレーザー加工方法。
【請求項13】
前記対象物が、2つ以上の層を含み、前記分散集束を調節する前記ステップが、前記層の少なくとも1つの内部に前記レーザーフィラメントを選択的に生成する、請求項1に記載のレーザー加工方法。
【請求項14】
前記空洞が、5ミクロン未満の平均側壁粗さを有する、請求項1に記載のレーザー加工方法。
【請求項15】
前記空洞が、線形対称であり、該空洞の長さに沿って実質的に一定の直径を有する、請求項1に記載のレーザー加工方法。
【請求項16】
前記空洞が、前記対象物から前記透明な材料を除去せずに、前記対象物に作成される、請求項1に記載のレーザー加工方法。
【請求項17】
前記空洞が、前記対象物の表面まで延長してオリフィスを形成する、請求項1に記載のレーザー加工方法。
【請求項18】
材料を該材料の所望の深さまでアブレーションするように前記パルスエネルギーおよび分散集束を調節することにより、前記オリフィスの先細りした入口が作成される、請求項17に記載のレーザー加工方法。
【請求項19】
犠牲層が、前記オリフィスを作成する前に前記対象物の前記表面に適用され、前記オリフィスを作成した後に前記表面から除去される、請求項17に記載のレーザー加工方法。
【請求項20】
前記対象物を前記長手方向のビーム軸に対して移動する追加のステップを含み、前記伝送するステップと前記移動するステップとを繰り返すことにより複数の穴が前記対象物に穴あけされる、請求項1に記載のレーザー加工方法。」

第3.申立理由の概要
特許異議申立人は、主たる証拠として下記甲第1号証を、従たる証拠として下記甲第2号証を、周知技術を示す証拠として下記甲第3号証ないし甲第8号証を提出し、請求項1ないし20に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし20に係る特許を取り消すべきものである旨(以下、「理由1」という。)主張する。
また、特許異議申立人は、請求項14の「前記空洞が、5ミクロン未満の平均側壁粗さを有する」点に関し、本件特許明細書には、当業者が本件発明14を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、請求項14に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、請求項14に係る特許を取り消すべきものである旨(以下、「理由2」という。)主張する。
さらに、特許異議申立人は、請求項11及び15は、技術的に明確ではない記載事項を含んでいるため、明確性要件を満足していないから、請求項11及び15に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項11及び15に係る特許を取り消すべきものである旨(以下、「理由3」という。)主張する。

甲第1号証:国際公開第2008/126742号
甲第2号証:国際公開第2012/006736号
甲第3号証:特表2012-522374号公報
甲第4号証:特表2003-519933号公報
甲第5号証:特開2005-14059号公報
甲第6号証:特開2005-28438号公報
甲第7号証:特開2011-161491号公報
甲第8号証:特開2006-130691号公報

第4.甲各号証の記載
1.甲第1号証
(1)記載事項
ア.「[0008] 加工物体内部に自己集束作用を発生させ、レーザ光による加工幅を小さくしたまま、レーザ光の進行方向の加工距離を通常のアブレーション加工よりも格段に大きくすることによって上記課題を解決する。
[0009] 上記課題を解決するため、本発明はレーザ加工方法であって、第1の面及び第2の面を有する被加工物体に対して透明となる波長を有する超短パルスレーザ光を集光手段を通して集光し、第1の面の側から、集光された前記レーザ光のビームウェスト位置が前記被加工物体の第1の面と第2の面の間に形成されるように前記レーザ光を照射し、前記被加工物体内部の超短パルス高ピークレーザ光伝播による自己集束作用により前記レーザ光の進行方向に集光チャンネルが形成されることにより、前記集光チャネル部分に第2の面に達する空洞、もしくは第2の面近傍に達する空洞が形成されることを特徴とする。それによって、レーザ光進行方向の加工距離を通常のアブレーション加工よりも大きくすることができる。」(下線は、理解の一助のため当審で付したものである。以下、同じ。)

イ.「[0019] 以下、本発明の実施形態を説明する。図1は本発明による加工方法の実施形態を示す図である。超短パルスレーザ発生装置1から出力される超短パルス15であるレーザ光(ビーム)2をコリメータ(図示されず)によって平行にし、集光レンズ3などの集光手段に入射し、集束レーザビーム5として被加工物体4のオモテ面45から入射させる。超短パルスのレーザとはパルス幅100ps以内のレーザとする。前記被加工物体4の例としては、ガラス、サファイア、もしくはダイヤモンドなどの誘電体材料、またはシリコンもしくは窒化ガリウムなどの半導体材料があげられる。また、被加工物体4は基板など平板状の物体が好適である。このため、以下、被加工物体4を基板と称することもある。レーザは、被加工物体に対して透明となる波長となるものを選ぶ。ここで透明とは、かならずしも100%光を透過するという意味とは限らない。レーザ光がある程度透過できる場合も含まれるものとする。例えば、被加工物体をシリコン基板とすると、波長が1μmないし2μmである赤外の領域であればよい。レーザ媒体の例として、チタンサファイア結晶(中心波長780nm)のほか、エルビウム添加ファイバー、イットリビウム添加ファイバー、Nd:YAG結晶、Nd:YVO_(4)結晶、Nd:YLF結晶などがあげられる。また、ガラス基板を被加工物体とする場合、レーザ媒体はチタンサファイア結晶(中心波長780nm)とするのが好ましい。
なお、オモテ面とは、レーザ光が入射する側の面であり、それとは反対側の面をウラ面と称する。集束レーザビーム5は被加工物体4の内部に集光点であるビームウェスト6を形成する。被加工物体4に収束レーザビーム5を照射し、そのビームウェスト6をオモテ面45からウラ面44までの被加工物体内部の適当な位置に合わせてビームを照射する。
[0020] 収束レーザビーム5のエネルギー、波長及びパルス幅並びに前記集光レンズ3の焦点距離や集光位置を調整し、被加工物体4の内部において超短パルスを高パワー密度に集光すると、ビームウェスト6から進行方向に向かってカー効果に基づく自己集束作用が発生し、ビームウェスト6程度の直径を有する細いビームの伝播チャンネル8が形成される。図1において、被加工物体4の厚さ7の内部でウラ面44からオモテ面方向に、レーザビームウェスト6を形成するように照射条件を設定すると、入射する集束レーザビーム5はビームウェスト6からは、パワー密度が微弱でカー効果による自己集束作用が発生しない領域では、一旦ビームウェストで集光された後は発散性のビーム10として伝播するが、カー効果が現れる十分高いパワー密度の集光点がビームウェストに形成されると、フィラメント状のチャンネル8が距離13に渡って形成される、被加工物体内部のチャンネル8に沿って伝播し、レーザビームエネルギーを消費しながらウラ面44に向かって進み、ウラ面44においてもカー効果が維持できる程度のエネルギーが維持されていれば、チャンネル8にある被加工物体の一部は衝撃波により周囲に圧縮される結果、細い空洞が形成され、残りはウラ面から外部に排出され、または排出されない場合はウラ面44に盛り上がりが形成され、細長い空洞がチャンネル8に沿ってビームウェスト6からウラ面44までの距離14に渡って形成される。ウラ面44まで被加工物体に吸収されないで到達したビームは、もはや自己集束作用により閉じ込められることがないので発散性ビーム11として放出される。
[0021] 被加工物体中での自己収束作用によるビームの集光効果が顕著になる条件として、文献J. H. Marburger, Prog. Quantum Electron., Vol. 4, p.35 (1975).によると自己収束の臨界閾値パワーP_(cr)と呼ばれる数式1で示す指標がある。
[数1] P_(cr)=3.77λ^(2)/8πn_(0)n_(2)
数式1において、λはレーザ波長、n_(0)は物体の屈折率、n_(2)は物体の非線形屈折率とする。
数式1によると、例えば石英ガラスの自己収束の臨界閾値パワーは2.3MWであり、被加工物体に入射されたレーザパルスのピーク出力(レーザパルスエネルギーをレーザパルス幅で除算した値)がこの値よりも大きくなると自己収束作用が顕著に起こる。
[0022] 超短パルスレーザのエネルギー、波長、パルス幅、及び集光レンズの焦点距離、集光位置の調整を図ることにより、自己収束作用の発生状況を変えることができる。これにより、ウラ面に達する空洞、もしくはウラ面近傍に達する空洞が形成される。ここで面近傍とは、その面から内部方向に基板などの被加工対象である物体の厚さの1/10程度の距離まで含めるものとする。空洞形成状態はつぎのように設定可能である。
(1)空洞はウラ面まで達しないのでウラ面が周辺の表面よりも高く盛り上がっている機械強度の弱い盛り上がり構造が形成される。
(2)前記集光チャネルがウラ面まで形成されることにより、空洞がウラ面まで形成される。
(3)前記集光チャネルがオモテ面からウラ面まで形成されることにより、空洞がオモテ面からウラ面まで形成される。
(4)集光チャネルがオモテ面から加工物体内部までのみに形成されることにより、空洞がオモテ面から加工物体内部までのみ形成される。
[0023] 本発明によれば、被加工物体に対して透明な波長を有する超短パルスレーザ光を集光光学系により、基板内に十分小さなレーザ光断面積に集光させることで、集光点には高いパワー密度の集光点を実現し、それによって基板内に伝播するレーザ光は一旦集光されると、カー効果による自己集束作用を生じ、一方集光点にプラズマによるデフォーカス作用が発生し、この2作用のバランスによってレーザパルス光の伝播は、自己集束作用の自己トラップされたフィラメントを形成する。このトラップされる範囲は、通常のパワーレベルでの自己集束作用の現れない条件での焦点付近に形成されるビームウェストの焦点深度より、何倍も大きな距離の値まで自己集束作用によるレーザ光伝播チャンネルを形成できる。チャンネルの長さは、材料特性、レーザビームのパワー密度、エネルギーなどのパラメータで変化する。チャンネルのレーザ光伝播方向の端部がウラ面に到達し、その後にチャネル内部に蓄積されたエネルギーにより局所的な高温、高圧力状態が作り出され内部から外部に向かう力が働くため、上記自己集束作用の集光チャンネルの通過跡には空洞が形成されて残る。
[0024] 図2に示すように、超短パルスレーザ光2を被加工物体4内のレーザ光の集光点から進行方向16に長く形成される自己集束作用による長い円筒型チャンネルによる空洞を走査線48に沿って形成する。さらに、形成後走査線48に直角方向に曲げ応力49を印加してブレーキングを行う場合、穴径に比べて非常に深い穴が形成されるため、その溝に沿った線(スクライブ線)がブレーキングの起点として作用し、スクライブ線に沿って比較的弱い応力でも切断することができる。基板のウラ面には連続した浅い溝や構造的に弱い盛り上がり構造が形成されているので、ブレーキング方向は走査線48、言い換えればスクライブ線に沿ってだけ確実に生じることになる。ウラ面近くで表面に穴が空く場合や、チャネル出口部が周囲の表面よりも高く盛り上がる機械強度が弱い構造となる場合があるが、いずれの場合でもレーザ光を基板の切断したい方向に走査することにより基板内部奥深くからウラ面に到る加工形状が、走査線48、言い換えればスクライブ線に沿って形成される。加工溝の深さが十分得られるので、その後少ない曲げ応力49で走査線48に沿って基板を切断することができる。スクライブ線の形成は、レーザ光の移動でなく、被加工物体4の移動によっても可能である。何れかの移動を相対的走査と称する。また破断したい方向にレーザ光を走査する場合、走査速度を調整することにより、破断面を連続的にスクライブ線を設けることも、また間隔を空けて離散的にスクライブ線を設けることも可能であり、いずれの場合も少ない曲げ応力によってスクライブ線に沿って基板を切断することが可能である。
[0025] 図3には、被加工物体のある高さにレーザ光を集光しながら一度被加工物体を走査して加工した後にレーザ光集光点の集光位置を変更し、再度加工を行う方法を示す。まず、(a)に示すように、被加工物体4のウラ面44から内部へ空洞形成距離57(135μm程度)程度離れた個所にレーザ光のビームウェストを合わせ、自己収束作用によるチャネル8を形成し、走査方向47に沿って直線的に一度走査する。これにより、空洞列を直線的に形成する。つぎに(b)に示すように集光レンズ3を光軸方向に沿って移動し、空洞形成距離58程度だけビームウェストが形成される高さをオモテ面側にずらしてチャネル8を形成して再度走査する。このとき、初回の走査による加工線35の上を走査するので、空洞列が、初回の走査で形成された空洞列とほぼ連続的につながるように形成される。さらに、必要であれば、(c)に示すように、ビームウェストの高さ移動と空洞列形成のための走査を行う。高さ移動と走査は必要な回数だけ繰り返すものとする。この操作の繰り返しにより被加工物体4の内部に合体した直線状の空洞の壁が形成される。最後に被加工物体4に曲げ応力を与えて空洞の壁に沿って切断する。初回の走査は、必ずしも空洞がウラ面に到達する必要はない。また、ビームウェストがオモテ面に到達するまで高さ移動及び走査を繰り返すことも可能である。このような方法により、被加工物体に深部に渡って空洞形成を繰り返すため、部分切断から全切断までの加工を施すことが可能である。」

ウ.「[0034] ここで下部ガラス基板92上の金属薄膜配線89を外部から接近可能にするために、構造体70を分離する。まず、上部ガラス基板91の上面側から超短パルスレーザビーム2を集光レンズ3により集光し、レーザビームウェストが下部ガラス板92の上面(レーザ光入射側の面)上または内部の適当な位置に来るように照射する(図ではレーザビームウェストが上面上にあるがこれに限らない、以下同様)。ただし、下部ガラス板のうち金属薄膜配線89がない位置とする。レーザビーム2は上部ガラス基板91を通過し、下部ガラス基板92内に自己収束作用による空洞64を形成する。レーザビーム2を相対的に移動することにより、連続的または離散的に空洞を形成し、下部ガラス基板92に第1のスクライブ線88を形成する。
[0035] 次いで、集光レンズ3を上方に移動し、レーザビームウェストを上部ガラス板91上面(レーザ光入射側の面)上または内部の適当な位置に来るように照射する。上部ガラス板91内に自己収束作用による空洞63を形成する。レーザビーム50を相対的に移動することにより、連続的または離散的に空洞を形成し、第2のスクライブ線87を上部ガラス基板91に形成する。第2のスクライブ線87は、第1のスクライブ線88の真上に形成される。次いで、または第1と第2のスクライブ線88及び87形成に先立って、第2のスクライブ線87と同様な方法にて、第3のスクライブ線86を上部ガラス板91に作成する。この過程では空洞62が形成される。第3のスクライブ線86は、上部及び下部のガラス基板91及び92間の気密封止材またはスペーサ94に接近した位置に設けるのが好ましく、通常下部ガラス基板92上面の金属薄膜配線89を跨るように形成される。また第3のスクライブ線86は、第2のスクライブ線87と距離77(ΔY)離して平行に形成する。」

エ.「[0049] 図9は、ベベル(傾斜面)加工方法の実施形態を示す。超短パルスレーザ発生装置1からの超短パルスレーザビーム2を回転ミラー51を用いて回転軸55の周りに一定角度θだけ偏向させながら回転52させる。回転するレーザビーム53及び54の光路と光軸が一致しながら回転ミラー51と一体的に回転する集光レンズ3を用いると、集光レンズ3の焦点は円軌跡を描く。ステージなどの加工物体搭載手段(図示せず)に基板状の被加工物体4を配置しておく。該円軌跡と加工物体搭載手段の搭載面とを平行にしておくなどによって基板状の被加工物体4をそのオモテ面に対する法線が回転軸55と平行になるよう配置すると、レーザ光照射位置を被加工物体4の上で回転走査させ円形軌跡の照射を行うことが可能となる。この場合、被加工物体4には回転軸55から角度θ傾けて傾斜加工を行うことになる。まず、被加工物体4のウラ面56から内部へ空洞形成距離57(135μm程度)程度離れた個所にビームウェストを合わせ、円形に走査することにより、法線から角度θずれた方向にフィラメント上の空洞列を円状に形成する。さらに集光レンズ3を光軸方向に沿って回転ミラー51の方向に移動させることにより、順次空洞形成距離58、59程度移動して移動のたびに空洞列を形成して走査を繰り返し、被加工物体4のオモテ面からウラ面にわたる円形の空洞の壁を形成する。その後、曲げて分離することによって、周囲が傾斜面の加工をされ、円形に切り出される。このように、本発明は被加工物体の表面近傍だけでなく、内部に渡っても、空洞形成を繰り返すことにより可能となり、部分切断から全切断までの加工を施すことが可能である。
[0050] 以上のレーザ加工において、パルスエネルギーは1mJ以下が好ましく、さらには10μJ以下とすることが好ましい。10μJ以下の場合、きれいで滑らかな切断面を得られ、クラックの発生が少なく破壊強度が高い。クラックなどが存在するとガラスなど被加工物体の強度が弱くなるため不都合を来す場合がある。パルスエネルギーが大きい場合には、オモテ面付近を加工しようとすると、パルス先端部がオモテ面付近に作り出す自由電子プラズマによってパルス中心部ないし後端部が反射や散乱、吸収されてしまうため、ガラス内部に空洞を形成することが困難な場合がある。パルスエネルギーが小さい場合、オモテ面付近で発生する自由電子プラズマの密度が低くなり、パルスの伝搬を大きく阻害することがなくなるので、ガラス内部に空洞チャネルを容易に形成することが可能である。
[0051]また、超短パルスのレーザとはパルス幅100ps以内のレーザであり、またパルス幅は500fsないし10psとすることが好ましく、さらには2ps程度にした場合に最も好ましい。破断面を連続的に形成した後にガラス基板を割断する際に必要となる応力が低くなり、割断面の品質が良いためである。
また、ガラス基板を被加工物体とする場合、パルス幅150フェムト秒、出力エネルギー1μJ以上で好適であった。」

オ.「実施例1
[0053] レーザ媒体はチタンサファイア結晶(中心波長780nm)とし、パルス幅150フェムト秒、出力エネルギー1μJ以上とした。また、加工対象はガラス基板であるCorning Eagle 2000であり、厚さ700μmとした。各実施例にこれと相違する記述がない場合には、これらはすべての実施例で共通である。
[0054] 本実施例は、図1に示した構成で、被加工物体にレーザ照射したときの集光位置をオモテ面から内部に移動した場合に被加工物体に生じる変化を観察し、本加工方法の原理を実証する実験例である。
被加工物体内に生じる変化を観察した断面図の顕微鏡写真を図10及び図11に示す。図10は被加工物体である基板のオモテ面45、図11はウラ面44近傍を示す。図1の構成に対してレンズの入射ビーム直径は6mm、集光レンズ3の焦点距離fは約3.1mmの収差補正された非球面レンズを使用した。レーザビームの横モードをガウス分布のビームとすると集光点におけるビーム直径は約1μmであり、ビームウェストにおけるエネルギーの90%を含む範囲の焦点深度は1μm以下であると算出される。このように焦点深度の小さな値を有する超短パルスレーザビームを被加工物体4に照射する場合、オモテ面45にビームウェストの位置が置かれるように集束してビームを照射する場合は、図10にオモテ面45から内部に深さ23で示される浅い部分21が除去加工され、更に内部にビームウェストを移動すると表面除去量は減少し、さらに内部にビームウェストの位置を移動すると被加工物体4の内部に光学的な歪みの生じる範囲24,25などがビームウェストの置かれる深さ方向の位置に応じてその周辺部分に発生した。内部にビームウェストを置くと、表面の除去加工は減少し、その代わり内部の光学的な歪が現れて、範囲24,25が現れた。
[0055] 図11はさらに基板内部にビームウェストを移動させた場合の断面観察写真である。オモテ面45には変化のない条件ではビームウェスト部分に光学的変化を起こした部位31、32が生じていることが観察された。さらに被加工物体のウラ面44に接近するにしたがって内部からウラ面にわたり数100μmの範囲で光学的変化を起こした部位33が観察された。さらにビームウェストがウラ面44から約135μm近くになると、フィラメント状に内部からウラ面に渡り直線的に空洞34が形成された。さらにレーザビームウェストをウラ面44に合わせると、ウラ面の近傍だけが除去加工された。このような加工結果から、レーザビームの焦点深度37が前記のように1μm程度であるにもかかわらず、ビームウェストの直径であるフィラメント状の空洞34がビームの進行方向に向かって空洞形成距離(135μm程度)で形成され、自己集束作用が発現しない場合は、ビームの焦点深度(1μm程度)の範囲でのみ加工が行われるのに比べ、本方法では2桁程度長い範囲にわたりフィラメント状の空洞加工が行われた。」

カ.「実施例2
[0056] 本実施例は、ウラ面付近に空洞チャネルを形成しながらレーザ光を走査し、空洞チャネルによる切断面を形成した場合である。
自己集束作用によるフィラメント状空洞が形成される場合、図12内の図に示すよう、ウラ面に漏斗形の部分43があわせて形成される場合がある。該漏斗形の部分43を互いに隣接部の重なりを持たせて、フィラメント状空洞はチャンネル8と同一箇所に個別に形成して、被加工物体のウラ面44に沿って、超短レーザパルスを相対的に走査することにより、走査方向に沿って所定の加工深さの包絡線46に並べられた多数のフィラメント状空洞を形成した。図12にはこのようにして形成したフィラメント状空洞による切断面の顕微鏡写真を合わせて示す。この例では3mm/sの走査速度でレーザパルスの走査後、走査線に沿って折り曲げて分割することにより断面を観察した。この図には、被加工物体の厚さ41の加工において、ウラ面44から深さ42に渡る範囲の包絡線46に渡りフィラメント状の空洞チャンネルの多数を形成し、そこを起点として分割した被加工物体の加工断面が示される。図13は空洞61の断面を撮影した走査型顕微鏡写真であり、また図14はウラ面近傍を特に拡大した走査型顕微鏡写真である。空洞61が形成されている箇所の表面が周囲より盛り上がった機械強度の弱い盛り上がり構造71を示している。」

キ.「実施例3
[0057] 図3に示すような構成で、ビームウェストの高さを変えて、複数回の走査を行い、ウラ面付近に加工を行った。走査回数4回、パルスエネルギー10μJ、パルス幅2psとした場合の断面を図15に示す。パルスエネルギーを小さくし、パルス幅を最適化することにより、品質の高い加工領域36がウラ面付近に形成された。
実施例4
[0058] この実施例でも図3に示すような構成で、ビームウェストの高さを変えて、複数回の走査を行い加工を行った。この実施例では、ガラス基板のオモテ面付近に加工領域を設定するようにビームウェストを形成した。図16には走査回数10回パルスエネルギー1μJ、パルス幅2psとした場合の断面を示す。パルスエネルギー及びパルス幅を最適化することにより、オモテ面へわたる良好な加工領域36が得られた。」

ク.「請求の範囲
[1]第1の面及び第2の面を有する被加工物体に対して透明となる波長を有する超短パルスレーザ光を集光手段を通して集光し、第1の面の側から、集光された前記レーザ光のビームウェスト位置が前記被加工物体の第1の面と第2の面の間に形成されるように前記レーザ光を照射し、前記被加工物体内部の超短パルス高ピークレーザ光伝播による自己集束作用により前記レーザ光の進行方向に集光チャンネルが形成されることにより、前記集光チャネル部に第2の面に達する空洞、もしくは第2の面近傍に達する空洞が形成されることを特徴とするレーザ加工方法。」

ケ.「[8] 前記被加工物体がガラス、サファイア、もしくはダイヤモンドなどの誘電体材料、またはシリコンもしくは窒化ガリウムなどの半導体材料であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。」

(2)甲1発明
甲第1号証の記載事項ア.ないしケ.及び、[図1]、[図2]、[図3]、[図9]、[図12]の図示事項、並びに、技術常識を勘案すると、甲第1号証には以下の発明が記載されていると認められる。

「被加工物をレーザ加工する方法であって、
超短パルスレーザによるレーザビームを提供し、前記被加工物が前記レーザビームに対して透明な材料で作成され、各レーザパルスが100ps以内のパルス幅を有し、
前記レーザビームを集光レンズに通し、
前記集光レンズを使用して、前記レーザビームを、長手方向にビームウェストの焦点深度より何倍も大きな距離の値まで自己集束作用によるチャンネルを形成し、
前記集光レンズの焦点距離や集光位置を前記被加工物に対して調整し、
レーザビームの自己集束を開始するのに十分なパワー密度を有する集光した前記レーザビームを前記被加工物に伝送して、前記長手方向のチャンネルに沿って伝播し、フィラメント状の前記チャンネルを生成し、
前記フィラメント状のチャンネルを前記被加工物内の任意の位置に案内および維持するように、パルスレーザのエネルギーおよび集光位置を調節し、前記フィラメント状のチャンネルが、前記長手方向の前記チャンネルにある前記被加工物の一部を周囲に圧縮し、残りをウラ面から外部に排出することにより、前記フィラメント状のチャンネルの通過跡に空洞を形成すること
を含む方法。」(以下、「甲1発明」という。)

2.甲第2号証
(1)記載事項
ア.「 A location of a beam focus of the focused laser beam may be selected to generate the filaments within the substrate, wherein at least one surface of the substrate is substantially free from ablation. A location of a beam focus of the focused laser beam may be selected to generate a V groove within at least one surface of the substrate.
The substrate may be a glass or a semiconductor and may be selected from the group consisting of transparent ceramics, polymers, transparent conductors, wide bandgap glasses, crystals, crystal quartz, diamond, and sapphire.」(明細書第6ページ第9ないし17行)
(収束レーザービームのビーム焦点の場所は、基板内にフィラメントを生成するように選択されてもよく、基板の少なくとも一つの表面はアブレーションを実質的に有さない。収束レーザービームのビーム焦点の場所は、基板の少なくとも一つの表面にV字溝を生成するように選択されてもよい。
基板は、ガラス又は半導体であってもよく、透明セラミックス、ポリマー、透明導体、広バンドギャップガラス、水晶、結晶石英、ダイヤモンド、及びサファイアから成る群から選択されてもよい。)
この明細書の引用箇所に続く( )内の記載は、対応する特表2013-536081号公報の記載である。以下、同じ。

イ.「 Figure 1 presents a schematic arrangement shown in (a) front and (b) side views for forming laser filaments in a transparent substrate. Short duration laser pulses 10 are focused with objective lens 12 inside transparent substrate 14. At appropriate laser pulse energy, the laser pulse, or sequence of pulses, or burst- train of pulses, a laser filament 18 is generated within the substrate, producing internal microstructural modification with a shape defined by the laser filament volume. By moving the sample relative to the laser beam during pulsed laser exposure, a continuous trace of filament tracks 20 are permanently inscribed into the glass volume as defined by the curvilinear or straight path followed by the laser in the sample.
Without intending to be limited by theory, it is believed that the filaments are produced by weak focusing, high intensity short duration laser light, which can self-focus by the nonlinear Kerr effect, thus forming a so-called filament. This high spatio-temporal localization of the light field can deposit laser energy in a long narrow channel, while also being associated with other complex nonlinear propagation effects such as white light generation and formation of dynamic ring radiation structures surrounding this localized radiation. 」(明細書第11ページ末行ないし第12ページ第16行)
( 図1は、透明基板にレーザーフィラメントを形成する、(a)正面図及び(b)側面図で示される概略配置を示す。持続時間の短いレーザーパルス10は、対物レンズ12によって透明基板14内部で収束される。適切なレーザーパルスエネルギー、レーザーパルス、又はパルスのシーケンス、或いはパルスのバースト列では、レーザーフィラメント18が基板内に生成されて、レーザーフィラメントの体積によって規定される形状を有する内部微小構造の変性が作り出される。パルスレーザー露光中にレーザービームに対してサンプルを移動させることによって、サンプル中のレーザーが追随する曲線又は直線経路によって規定されるような、フィラメントトラック20の連続的なトレースがガラス体積内に恒久的に刻み付けられる。
理論によって限定されることを意図しないが、フィラメントは、非線形のカー効果によって自己収束することができ、結果としていわゆるフィラメントを形成する、収束が弱く高強度の持続時間が短いレーザー光によって作り出されると考えられる。光照射野のこの空間的・時間的に高度な局所化は、長く狭いチャネルにレーザーエネルギーを蓄積させることができ、また、白色光の生成、及びこの局所的放射を取り囲む動的な環状の放射構造の形成など、他の複雑な非線形伝搬効果と関連付けられる。)

ウ.「 In contrast, laser filamentation offers a new direction for internal laser processing of transparent materials that can avoid ablation or surface damage, dramatically reduce kerf width, avoid crack generation, and speed processing times for such scribing applications. Further, high repetition rate lasers defines a new direction to enhance the formation of laser beam filaments with heat accumulation and other transient responses of the material on time scales faster than thermal diffusion out of the focal volume (typically <10 microseconds).
Accordingly, embodiments disclosed herein harnesses short duration laser pulses (preferably with a pulse duration less than about 100 ps) to generate a filament inside a transparent medium. The method avoids dense plasma generation such as through optical break down that can be easily produced in tight optical focusing conditions as typically applied and used in femtosecond laser machining. In weak focusing, which is preferential, the nonlinear Kerr effect is believed to create an extended laser interaction focal volume that greatly exceeds the conventional depth of focus, overcoming the optical diffraction that normally diverges the beam from the small self-focused beam waist.
Once a filamentation array is formed in the transparent substrate, only small mechanical pressure is required to cleave the substrate into two parts on a surface shape that is precisely defined by the internal laser-filamentation curtain. The laser-scribed facets typically show no or little cracking and microvoids or channels are not evident along the scribed zone. There is substantially no debris generated on the top or bottom surfaces since laser ablation at the surfaces can be avoided by confining the laser filament solely within the bulk glass. On the other hand, simple changes to the laser exposure or sample focusing conditions can move the filament to the surface and thus induce laser ablation machining if desired, as described further below. This assists in creating very sharp V groves on the surface of the substrate. To scribe very thin substrates (less than 400 urn thick) creating a sharp V groove is desired. Other common ablation techniques generally create U grooves or rounded V grooves. V grooves also can form on both top and bottom surface of the sample making scribed edges chamfered.
Laser energy deposited along such filaments leads to internal material modification that can be in the form of defects, color centers, stress,microchannels, microvoids, and/or microcracks. The present method entails lateral translation of the focused laser beam to form an array of closely positioned filament-induced modification tracks. This filament array defines a pseudo-continuous curtain of modification inside the transparent medium without generating laser ablation damage at either of the top or bottom surfaces. This curtain renders the glass plate highly susceptible to cleaving when only very slight pressure (force) is applied, or may spontaneously cleave under internal stress. The cleaved facets are devoid of ablation debris, show minimal or no microcracks and microvents, and accurately follow the flexible curvilinear or straight path marked internally by the laser with only very small kerf width as defined by the self-focused beam waist.
The application of high repetition rate bursts of short-pulse lasers offers the advantage of heat accumulation and other transient effects such that thermal transport and other related mechanisms are not fully relaxed prior to the arrival of subsequent laser pulses [US 6,552,301 B2 Burst-UF laser Machining]. In this way, heat accumulation, for example, can present a thin heated sheath of ductile glass to subsequent laser pulses that prevents the seeding of microcracks while also retaining the advantages (i.e. nonlinear absorption, reduced collateral damage) of short pulse ablative machining in an otherwise brittle material. In all the above laser ablation methods, the cutting, scribing, or dicing of transparent materials will generate ablation debris contamination and consume a kerf width to accommodate the removed material, while also generating collateral laser damage. Therefore, a non-ablative method of laser processing would be desirable.
The application of high repetition rate short-pulse lasers thus offers a means for dramatically increasing the processing (scan) speed for such filamentation cleaving. However, at sufficiently high repetition rate (transition around 100 MHz to 1 MHz), the modification dynamics of the filament is dramatically enhanced through a combination of transient effects involving one or more of heat accumulation, plasma dynamics, temporary and permanent defects, color centers, stresses, and material defects that accumulate and do not relax fully during the train of pulses to modify the sequential pulse-to-pulse interactions. Laser filaments formed by such burst trains offer significant advantage in lowering the energy threshold for filament formation, increasing the filament length to hundreds of microns or several millimeters, thermally annealing of the filament modification zone to minimize collateral damage, improving process reproducibility, and increasing the processing speed compared with the use of low repetition rate lasers. In one non-limiting manifestation at such high repetition rate, there is insufficient time (i.e. 10 nsec to 1 μs) between laser pulses for thermal diffusion to remove the absorbed laser energy, and heat thereby accumulates locally with each laser pulse. In this way, the temperature in the interaction volume rises during subsequent laser pulses, leading to laser interactions with more efficient heating and less thermal cycling. In this domain, brittle materials become more ductile to mitigate crack formation. Other transient effects include temporary defects and plasma that survive from previous laser pulse interactions. These transient effects then serve to extend the filamentation process to long interaction lengths, and/or improve absorption of laser energy in subsequent pulses.
As shown below, the laser filamentation method can be tuned by various methods to generate multi-filament tracks broken with non-filamenting zones through repeated cycles of Kerr-lens focusing and plasma defocusing. Such multi-level tracks can be formed in a thick transparent sample, across several layers of glasses separated by transparent gas or other transparent materials, or in multiple layers of different transparent materials. By controlling the laser exposure to only form filaments in the solid transparent layers, one can avoid ablation and debris generation on each of the surfaces in the single or multi-layer plates. This offers significant advantages in manufacturing, for example, where thick glasses or delicate multilayer transparent plates must be cleaved with smooth and crack free facets. 」(明細書第14ページ第3行ないし第18ページ第1行)
(対照的に、レーザーフィラメント形成は、かかるスクライビング用途のアブレーション又は表面損傷を回避し、切溝幅を劇的に低減させ、割れの生成を回避し、且つ加工時間を速めることができる、透明材料の内部レーザー加工の新しい方向性を提示する。更に、高繰返し数レーザーは、焦点体積外への熱拡散(一般的に、10マイクロ秒未満)よりも速い時間スケールにおける、材料の熱蓄積及び他の過渡応答を用いたレーザービームフィラメントの形成を向上させる新しい方向性を規定する。
従って、本明細書に開示する実施形態は、持続時間の短いレーザーパルス(好ましくは、約100ps未満のパルス持続時間)を活用して、透明媒体内部にフィラメントを生成する。方法は、フェムト秒レーザー機械加工において一般的に適用され使用されるような緊密な光収束条件で簡単に生じる可能性がある、光学的破壊などによる稠密なプラズマ生成を回避する。収束が弱い場合、これは好ましいことであるが、非線形のカー効果が、従来の焦点深度を大幅に超える拡張されたレーザー相互作用の焦点体積を作り出して、通常はビームを小さな自己収束ビームウェストから分散させる光回折を克服すると考えられる。
フィラメント形成配列が透明基板内に形成されれば、内部のレーザーフィラメント形成カーテンによって精密に規定される表面形状上で基板を二つの部分に劈開するのに必要な機械的圧力は小さい。レーザースクライブされたファセットは、一般的に割れを全く又はほとんど示さず、スクライブされた領域に沿った微小空隙又はチャネルは明らかではない。表面のレーザーアブレーションは、レーザーフィラメントをバルクガラス内のみに制限することによって回避できるので、上面又は下面に屑は実質的に生成されない。他方では、レーザー露光又はサンプル収束条件への単純な変更によってフィラメントを表面に移動し、その結果、所望であれば、後述するようにレーザーアブレーション機械加工を引き起こすことができる。これは、基板の表面に非常に鋭いV字溝を作る助けとなる。超薄型基板(厚さ400μm未満)をスクライブして鋭いV字溝を作成するのが望ましい。他の共通のアブレーション技術は、一般にU字溝又は丸み付けられたV字溝を作成する。V字溝は、サンプルの上面及び下面の両方に形成して、スクライブされた縁部を面取りすることもできる。
かかるフィラメントに沿って蓄積したレーザーエネルギーは、欠陥、色中心、応力、マイクロチャネル、微小空隙、及び/又は微小割れの形態であり得る内部の材料変性に結び付く。本発明の方法は、近接して位置付けられたフィラメントによって引き起こされる変性トラックの配列を形成するため、収束レーザービームの横方向の並進を要する。このフィラメント配列は、上面又は下面のどちらかにレーザーアブレーションの損傷を生成することなく、透明媒体内部の変性の疑連続的なカーテンを規定する。このカーテンによって、ガラスプレートは、非常にわずかな圧力(力)のみが適用されたときに劈開に関して非常に脆くなり、又は内部応力を受けて自然に劈開することがある。劈開したファセットは、アブレーション屑がなく、微小割れ及び微小ベントが最小限であるか又は全く示されず、また、自己収束ビームウェストによって規定されるような非常に小さな切溝幅のみで、レーザーによって内部に印付けられた柔軟な曲線又は直線経路に正確に追随する。
短パルスレーザーの高繰返し数のバーストを適用することで、熱蓄積及び他の過渡効果という利点が提供されるので、熱輸送及び他の関連するメカニズムは、後続のレーザーパルスが到達する前に完全には緩和されない(米国特許第6,552,301号B2 Burst-UF laser Machining)。このように、熱蓄積は、例えば、微小割れのシーディングを防ぐとともに、別の方法では脆性である材料の短パルスアブレーティブ機械加工の利点(即ち、非線形吸収、付随的な損傷の低減)も保持する、後続のレーザーパルスに対して延性ガラスの薄い加熱シースを示すことができる。上述の全てのレーザーアブレーション方法では、透明材料の切断、スクライビング、又はダイシングは、アブレーション屑による汚染を発生させ、除去された材料を受け入れる切溝幅を消費するとともに付随的なレーザー損傷も発生させることになる。従って、レーザー加工の非アブレーティブ方法が望ましいこととなる。
従って、高繰返し数の短パルスレーザーの適用は、かかるフィラメント形成劈開の加工(走査)速度を劇的に増加させるための手段を提示する。しかし、十分に高い繰返し数(約100MHz?1MHzの遷移)では、フィラメントの変性力学は、パルス列の間蓄積し、且つ完全には緩和せずに連続的なパルス間相互作用を修正する、熱蓄積、プラズマ力学、一時的及び恒久的な欠陥、色中心、応力、並びに材料欠陥のうち一つ又は複数を伴う過渡効果の組合せによって劇的に向上する。かかるバースト列によって形成されるレーザーフィラメントは、フィラメント形成のエネルギー閾値を低下させ、フィラメント長を数百ミクロン又は数ミリメートルまで増加させ、フィラメント変性域を熱アニーリングして付随的な損傷を最小限に抑え、加工の再現性を改善し、低繰返し数レーザーを使用した場合に比べて加工速度を増加させるという顕著な利点を提供する。かかる高繰返し数の一つを非限定的に表明すると、レーザーパルス間の時間は吸収されたレーザーエネルギーを除去する熱拡散には不十分な時間(即ち、10nsec?1μs)であり、それによって熱がレーザーパルス毎に局所的に蓄積する。このように、相互作用体積における温度が後続のレーザーパルスの間に上昇して、加熱がより効率的で熱サイクルが少ないレーザー相互作用に結び付く。この領域では、脆性材料はより延性になって割れの形成を緩和する。他の過渡効果としては、前のレーザーパルス相互作用から残存する、一時的欠陥及びプラズマが挙げられる。これらの過渡効果は、次に、フィラメント形成加工を長い相互作用長さに延長する、且つ/又は後続のパルスにおけるレーザーエネルギーの吸収を改善するのに役立つ。
後述するように、レーザーフィラメント形成方法は、様々な方法によって、カーレンズ収束及びプラズマ発散の繰返しサイクルを通してフィラメント非形成域を備えた多重フィラメントトラックを生成するように調整することができる。かかる多重レベルトラックは、厚い透明なサンプルに、透明ガス又は他の透明材料によって分離された複数層のガラスにわたって、或いは異なる透明材料の多層に形成することができる。固体透明層のみにフィラメントを形成するようにレーザー露光を制御することによって、単層又は多層のプレートの表面それぞれにおけるアブレーション及び屑の生成を回避することができる。これによって、例えば、厚いガラス又は繊細な多層透明プレートを平滑で割れがないファセットで劈開しなければならない場合の製造に著しい利点が提供される。)

エ.「 The length and position of the filament is readily controlled by the lens focusing position, the numerical aperture of objective lens, the laser pulse energy, wavelength, duration and repetition rate, the number of laser pulses applied to form each filament track, and the optical and thermo-physical properties of the transparent medium. Collectively, these exposure conditions can be manipulated to create sufficiently long and strong filaments to nearly extend over the full thickness of the sample and end without breaking into the top or bottom surfaces. In this way, surface ablation and debris can be avoided at both surfaces and only the interior of the transparent substrate is thus modified. With appropriate beam focusing, the laser filament can terminate and cause the laser beam to exit the glass bottom surface at high divergence angle 16 such that laser machining or damage is avoided at the bottom surface of the transparent plate. 」(明細書第18ページ第20行ないし第19ページ第9行)
(フィラメントの長さ及び位置は、レンズ収束位置、対物レンズの開口数、レーザーパルスエネルギー、波長、持続時間及び繰返し数、各フィラメントトラックを形成するのに適用されるレーザーパルス数、並びに透明媒体の光学特性及び熱・物理特性によって容易に制御される。集合的に、これらの露光条件は、サンプルのほぼ全厚にわたって延在し、上面又は下面に入り込まずに終わる、十分に長く強いフィラメントを作成するように操作することができる。このように、表面のアブレーション及び屑は両方の表面で回避することができ、従って透明基板の内部のみが変性される。適切なビーム収束によって、レーザーフィラメントが終端し、透明プレートの下面におけるレーザー機械加工又は損傷が回避されるように、レーザービームが高い発散角16でガラスの下面を出るようにすることができる。)

オ.「 Figure 6 presents an example of a focusing arrangement for delivering multiple converging laser beams into a transparent plate for creating multiple filaments simultaneously. The beams 10 and 34 maybe separated from a single laser source using well know beam splitter devices and focused with separate lenses 12 and 36 as shown. Alternatively, diffractive optics, multi-lens systems and hybrid beam splitting and focusing systems may be employed in arrangements well known to an optical practitioner to create the multiple converging beams that enter the plate at different physical positions, directions, angles, and depths. In this way, filamentation modification tracks 18 are created in parallel in straight or curvilinear paths such that multiple parts of the plate can be laser written at the same time and subsequently scribed along the multiple modification tracks for higher overall processing speed.
Figure 7 presents a schematic arrangement for two different focusing conditions for laser filamentation writing that confines the array 38 of modification tracks 40 solely in a top transparent substrate 42 (Figure 7(a)) as a first laser exposure step, and followed sequentially by filamentation writing that solely confines the array 44 of modification tracks 46 inside a lower transparent plate 48 (Figure 7(b)) in a second laser pass. The laser exposure is tuned to avoid ablation or other laser damage and generation of ablation debris on any of the four surfaces during each laser pass. During scribing of the top plate, no damage occurs in the bottom layer, and visa versa.」(明細書第21ページ第5行ないし第22ページ第2行)
(図6は、複数のフィラメントを同時に作成するため、透明プレートに複数の集中するレーザービームを送達する収束配置の一例を示す。ビーム10及び34は、周知のビームスプリッタデバイスを使用して単一のレーザー源から分離され、図示されるような別個のレンズ12及び36によって収束されてもよい。或いは、回折光学系、多重レンズ系、及びハイブリッドビームスプリット及び収束系を、光学専門家には周知の配置に用いて、異なる物理的位置、方向、角度、及び深さでプレートに入る複数の集中するビームが作成されてもよい。このように、プレートの複数部分に同時にレーザー書込みし、加工速度を全体的に高めるため、複数の変性トラックに沿って後でスクライブできるように、フィラメント形成変性トラック18が直線又は曲線経路に平行に作成される。
図7は、第一のレーザー露光ステップとして、変性トラック40の配列38を上側透明基板42のみに制限するレーザーフィラメント形成書込み(図7(a))と、それに続く、第二のレーザーパスにおける変性トラック46の配列44を下側透明基板48内部のみに制限するフィラメント形成書込み(図7(b))との二つの異なる収束条件に対する概略配置を示す。レーザー露光は、各レーザーパスの間、四つの表面のいずれにおいてもアブレーション又は他のレーザー損傷及びアブレーション屑の生成を回避するように調整される。上側プレートのスクライビング中、下層には損傷は起こらず、その逆も起こらない。)

カ.「 To demonstrate selected embodiments, a glass plate was laser processed using a pulsed laser system with an effective wavelength of about 800 nm, producing 100 fs pulses at a repetition rate of 38 MHz. The laser wavelength was selected to be within the infrared spectral region, where the glass plate is transparent. Focusing optics were selected to provide a beam focus of approximately 10 μm. Initially, the laser system was configured to apply a pulse train of 8 pulses, where the burst of pulses forming the pulse train occurred at a repetition rate of 500 Hz. Various configurations of aforementioned embodiments were employed, as described further below.
Figures 12 (a)-(c) shows microscope images in a side view of 1 mm thick glass plates viewed through a polished edge facet immediately after laser exposure. The plate was not separated along the filament track for this case in order to view the internal filament structure. As noted above, a single burst of 8 pulses at 38 MHz repetition rate was applied to form each filament track. Furthermore, the burst train was presented at 500 Hz repetition rate while scanning the sample at a moderate speed of 5 mm/s, such that filament tracks were separated into individual tracks with a 10 μm. period. The filamentation modification tracks were observed to have a diameter of less than about 3 μm., which is less than the theoretical focal spot size of 10 μιη for this focusing arrangement, evidencing the nonlinear self focusing process giving rise to the observed filamentation.」(明細書第26ページ第11行ないし第27ページ第8行)
(選択された実施形態を実証するため、38MHzの繰返し数で100fsのパルスを生成する有効波長約800nmのパルスレーザー系を使用して、ガラスプレートをレーザー加工した。レーザー波長は、ガラスプレートが透明である赤外線スペクトル領域内にあるように選択した。収束光学系は、およそ10μmのビーム焦点を提供するように選択した。最初に、8パルスのパルス列を適用し、パルスのバーストが繰返し数500Hzで生じるパルス列を形成するようにレーザー系を構成した。更に後述するように、上述の実施形態の様々な構成を用いた。
図12(a)?(c)は、レーザー露光直後に研磨した縁部ファセットを通して見た、厚さ1mmのガラスプレートの側面図の顕微鏡画像を示す。内部フィラメント構造を見るため、この例ではプレートをフィラメントトラックに沿って分離しなかった。上述したように、繰返し数38MHzの8パルスの単一のバーストを適用して、各フィラメントトラックを形成した。更に、バースト列を繰返し数500Hzで示す一方、5mm/sの中速でサンプルを走査し、それによって10μm周期でフィラメントトラックを個々のトラックに分離した。フィラメント形成変性トラックは、この収束配置の場合の理論上は焦点スポット径である10μmよりも小さい約3μm未満の直径を有することが観察され、非線形の自己収束プロセスが観察されたフィラメント形成を生じさせることが証明された。)

キ.「 Figure 12 thus demonstrates the controlled positioning of the filamentation tracks relative to the surfaces of the plate. In Figure 12(a), where the beam focus was located near the bottom of the plate, the filaments were formed in the top half of the plate and do not extend across the full thickness of the plate. In Figure 12(c), where the beam focus was positioned near the top of the plate, relative short filaments 92 of approximately 200 μm are formed in the center of the plate, and top surface ablation and ablation debris are evident. A preferably form for scribing is depicted in Figure 12(b) where approximately 750 μm long bands of filaments extend through most of the transparent plate thickness without reaching the surfaces. In this domain, ablative machining or other damage was not generated at both of these surfaces. 」(明細書第27ページ第17行ないし第28ページ第4行)
(このように、図12は、プレートの表面に対するフィラメント形成トラックの制御された位置付けを実証している。図12(a)では、ビーム焦点がプレートの下部付近に置かれ、フィラメントはプレートの上半分に形成され、プレートの全厚にわたって延在しない。図12(c)では、ビーム焦点がプレートの上部付近に位置付けられ、およそ200μmの比較的短いフィラメント92がプレートの中央に形成され、上面アブレーション及びアブレーション屑が明白である。スクライビングの好ましい形態が図12(b)に示され、この図では、表面に達することなく透明プレート厚さのほとんどを通しておよそ750μmのフィラメントの長い帯が延在する。この領域では、アブレーション機械加工又は他の損傷はこれら表面の両方において発生しなかった。)

ク.「The laser filamentation and scribing examples presented in Figures 12-14 for glass clearly demonstrate the aforementioned embodiments in a high-repetition rate method of forming filaments with short pulses lasers is employed. Each filament was formed with a single burst of 8 pulses, with pulses separated by 26 ns and with each pulse having 40-μJ energy. Under such burst conditions, heat accumulation and other transient effects do not dissipate in the short time between pulses, thus enhancing the interaction of subsequent laser pulses with in the filamentation column (plasma channel) of the prior pulse. As such, filaments were formed much more easily, over much longer lengths, and with lower pulse energy, higher reproducibility and improved control than for the case when laser pulses were applied at low repetition rate.」 (明細書第31ページ第22行ないし第32ページ第9行)
(ガラスに関して図12?14に示されるレーザーフィラメント形成及びスクライビングの実施例は、短パルスレーザーを用いてフィラメントを形成する高繰返し数の方法において上述の実施形態が用いられることを明白に実証している。各フィラメントは、8パルスの単一のバーストを用いて形成し、パルスは26nsの差で分離され、各パルスは40μJのエネルギーを有していた。かかるバースト条件下では、熱蓄積及び他の過渡効果はパルス間の短時間では散逸しないので、先行するパルスのフィラメント形成カラム(プラズマチャネル)内において、後に続くレーザーパルスの相互作用が向上する。そのため、レーザーパルスが低い繰返し数で適用された場合よりも、はるかに簡単に、はるかに長い長さにわたって、低いパルスエネルギーで、高い再現性で、且つ制御が改善されてフィラメントが形成された。)

(2)甲第2号証に記載された事項
甲第2号証の記載事項ア.ないしク.及び、Figure6(図6)、Figure7(図7)の図示事項、並びに、技術常識を勘案すると、甲第2号証には以下の事項が記載されていると認められる。

「ガラス等の透明基板を加工するためのレーザーフィラメント形成による材料加工方法として、8パルスのバースト列で、バーストの繰り返しが500Hz、レーザーパルスが38MHzで100fSであるパルスレーザー系を使用し、該レーザーパルスを透明基板に照射して、非線形のカー効果による自己集束で以てレーザーフィラメントを基板内に形成し、バーストによって形成される該レーザーフィラメントは、フィラメント長を増加させ、また、該フィラメントの長さ及び位置は、レンズ収束位置、レーザーパルスエネルギー、レーザーパルス数等によって制御されること。」(以下、「甲第2号証に記載された事項」という。)

3.甲第3号証
(1)記載事項
ア.「【請求項1】
レーザパルスのバーストを生成するステップと、
ターゲット箇所における第1の特徴形状の加工特性に基づいて、前記バースト内の1つ以上の第1のレーザパルスを第1の振幅に選択的に調整すること、及び前記ターゲット箇所における第2の特徴形状の加工特性に基づいて、前記バースト内の1つ以上の第2のレーザパルスを第2の振幅に選択的に調整することによって、前記レーザパルスのバーストのエンベロープを調整するステップと、
前記レーザパルスの振幅が調整されたバーストを前記ターゲット箇所に方向付けるステップとを有するレーザマイクロマシニング方法。」

イ.「【0017】
ある実施の形態では、ターゲット構造のマイクロマシニングのために、一連のレーザパルスバンドル又はバーストを使用する。ターゲット構造は、半導体デバイス上にあっても、半導体デバイス内にあってもよく、例えば、異なるレーザ加工特性を有する複数の層を有する半導体デバイス内にあってもよい。或いは、ターゲット構造は、複数のレーザ加工特性を有する単一の材料を含んでいてもよい。例えば、材料の上面、材料のバルク又は内部、及び材料の底面は、異なるレーザ加工特性を有することがある。更に、材料内の深さが異なれば、レーザ加工特性が異なることがある。
【0018】
各バーストは、時間的パルス幅が約1ナノ秒未満である短レーザパルスを含む。幾つかの実施の形態では、各レーザパルスは、約1ナノ秒?約100フェムト秒の範囲の時間的パルス幅を有する。ここでは、約10ピコ秒未満の時間的パルス幅を「超短」又は「超高速」レーザパルスと呼ぶ。」

ウ.「【0021】
図1A及び図1Bは、一実施の形態に基づくレーザパルスバースト110を図式的に示している。各バースト110は、複数の短レーザパルス又は超短レーザパルス112を含む。この具体例では、各バースト110は、4つのレーザパルス112を含む。なお、この開示から、バースト110は、幾つのレーザパルス112を含んでもよいことは当業者にとって明らかである。例えば、一実施の形態においては、各バースト110は、3?10個のレーザパルス112を含んでいてもよい。
【0022】
上述のように、各レーザパルス112は、約1ナノ秒未満の時間的パルス幅を有する。ある実施の形態では、各レーザパルス112の時間的パルス幅は、約1ナノ秒?約100フェムト秒の範囲内にある。これに加えて、又は他の実施の形態では、バースト110内のレーザパルス112のパルス繰返し率は、約100kHz?約300MHzの範囲内にある。他の実施の形態では、バースト110内のレーザパルス112のパルス繰返し率は、約100kHz?約500MHzの範囲内にある。これに加えて、又は他の実施の形態では、各レーザパルス112の波長は、約2μm?約0.2μmの範囲内にある。これに加えて、又は他の実施の形態では、連続したバースト110は、約1kHz?約500kHzの間の繰返し率で繰り返してもよい。これに加えて、又は他の実施の形態では、各バースト110の時間的幅は、約1ナノ秒?約1マイクロ秒の範囲内にある。」

エ.【図1A】、【図1B】には、レーザパルスバーストが図式的に示されている。

4.甲第4号証
(1)記載事項
ア.「【0015】
本発明は、従来のリンク加工システムにおける単一の多重ナノ秒レーザパルスを用いる代わりに、超短パルスレーザのバーストを用いてICリンクを切断する。バーストの時間間隔は好ましくは10-500ナノ秒の範囲に設定する。バーストを構成する各レーザパルスのパルス幅は25ピコ秒よりも小さく、好ましくは10ピコ秒よりも小さく、特に好ましくは10ピコ秒から100フェムト秒の間に設定する。前記レーザパルスのパルス幅は極めて小さいので、ターゲット材料(保護膜や金属リンク)との相互作用は熱的なものとはならない。各レーザパルスはそのレーザエネルギー、レーザ波長、及び材料の種類などに応じて、前記材料の約100-2000Åの厚さの薄いサブレイヤーを除去する。各バーストにおけるレーザパルスのパルス数は最後のパルスによってリンクの下部が除去できるように設定し、下方に位置する保護膜や基板には何ら影響を与えないようにする。バーストの時間間隔は10-500ナノ秒であるので、前記バーストは従来のリンク切断レーザ位置決めシステムにおいては単一のパルスとして取り扱われる。したがって、本発明のレーザシステムによれば、高速でリンクを切断することができる。すなわち、前記レーザシステムによって各リンクにレーザパルスのバーストを照射している間に、前記位置決め装置を連続的に駆動させる。」

イ.「【0018】
(好ましい態様の詳細な説明)
図3から図5は、本発明に従ってリンク22を切断するために用いた超短パルスレーザ52a、52b及び52c(一般的なレーザパルス52)のバースト50a、50b及び50c(一般的なバースト50)の例を示すパワー及び時間の関係を示すグラフである。各バースト50の持続時間は好ましくは500ナノ秒以下であり、さらに好ましくは10-200ナノ秒の間である。バースト50間におけるレーザパルス52のパルス幅は一般的には25ピコ秒以下であり、さらには10ピコ秒以下であることが好ましく、特には10ピコ秒から100フェムト秒の間であることが好ましい。レーザパルス52を用いた材料加工は長パルス幅のレーザ光を用いた場合と異なり、非熱的に材料を加工する。」

ウ.【図3】には、超短パルスレーザのバーストのパワー及び時間の関係が示されている。

5.甲第5号証
(1)記載事項
ア.「【請求項1】
500ピコ秒以下の時間幅を持つ単一のパルスレーザ光を複数のパルスレーザ光に分け、それぞれのパルスレーザ光に対して時間遅延を発生させる分割・遅延光学系と、前記分割した複数のパルスレーザ光それぞれに関して、加工面照射形状、強度分布および加工面照射位置を調整するためのビーム整形光学系およびビーム伝播光学系を備え、それぞれのパルスレーザ光の加工面照射形状を一部空間的に重ねてあるいは完全に同位置に重ねて被照射物の加工を行うレーザ加工方法において、
それぞれのパルスが加工面に照射される時間をパルス幅乃至1ナノ秒の間隔とすることを特徴とするレーザ加工法。

イ.「【請求項12】
前記被加工物として、レーザ光に対して透明な材料を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項11記載のレーザ加工法。」

ウ.【図2】には、入射レーザ加工強度および加工面形態変化量と時間の関係が示されている。

6.甲第6号証
(1)記載事項
ア.「【請求項1】
被加工物を保持するための保持手段と、レーザ光線発生手段と、該レーザ光線発生手段からのレーザ光線を該保持手段に保持された被加工物に照射するための光学手段とを具備する、レーザ光線を利用する加工装置において、
該光学手段は、該レーザ光線発生手段からの該レーザ光線を、光軸方向に変位せしめられた少なくとも2個の集光点に集光せしめる、ことを特徴とする加工装置。
【請求項2】
該光学手段は光軸方向に縦列配置された、口径が異なる少なくとも2個の集光レンズを含んでいる、請求項1記載の加工装置。」

イ.「【0006】
本発明によれば、レーザ光線発生手段からのレーザ光線を、単一の集光点に集光せしめるのではなくて、光軸方向に変位せしめられた少なくとも2個の集光点に集光せしめることによって上記主たる技術的課題を達成する。」

ウ.「【0013】
レーザ光線発生手段6は、被加工物2を透過し得るレーザ光線を生成するものであることが重要であり、被加工物2がシリコン基板、サファイア基板、炭化珪素基板、リチウム
タンタレート基板、ガラス基板、或いは石英基板の如き基板を含むウエーハである場合、例えば波長が1064nmであるレーザ光線を生成するYVO4パルスレーザ或いはYAGパルスレーザから好都合に構成することができる。図示の実施形態においては、レーザ光線発生手段6は保持手段4上に保持された被加工物2に向けてパルスレーザ光線12を発信する。」

エ.【図1】には、加工装置の第一の実施形態が示されている。

7.甲第7号証
(1)記載事項
ア.「【請求項1】
被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物に該被加工物に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段とを具備し、
該レーザー光線照射手段は、パルスレーザー光線発振手段と、該パルスレーザー光線発振手段が発振するパルスレーザー光線を集光して該チャックテーブルに保持された被加工物に照射せしめる集光器とを含んでいる、レーザー加工装置において、
集光器は、該パルスレーザー光線発振手段から発振されたパルスレーザー光線を該チャックテーブルに保持された被加工物の厚さ方向に変位せしめられた複数個の集光点に集光せしめるように構成されており、
該パルスレーザー光線発振手段は、発振するパルスレーザー光線のパルス幅を複数個の集光点によって形成する変質層の生成時間より短く設定されている、
ことを特徴とするレーザー加工装置。」

イ.「【発明の効果】
【0010】
本発明によるレーザー加工装置においては、レーザー光線照射手段の集光器はパルスレーザー光線発振手段から発振されたパルスレーザー光線をチャックテーブルに保持された被加工物の厚さ方向に変位せしめられた複数個の集光点に集光せしめるように構成されており、パルスレーザー光線発振手段が発振するパルスレーザー光線のパルス幅を複数個の集光点によって形成する複数個の変質層の生成時間より短く設定されているので、複数個の変質層を基点として伝播する亀裂が変質層間に誘導され、亀裂がパルスレーザー光線が入射された側に変質層間を外れて不規則な方向に伝播して形成されることがない。従って、変質層が形成されたウエーハがストリートに沿って分割されたデバイスは、外周面が均一化され抗折強度が低下することがないとともに、特にウエーハが光デバイスウエーハの場合には分割された光デバイスの輝度が低下することもない。
更に、本発明によるレーザー加工装置においては、レーザー光線照射手段の集光器はチャックテーブルに保持された被加工物の厚さ方向に変位して複数個の集光点を形成するのでパルスレーザー光線のエネルギーが集光点の数に応じて分散されるとともに、被加工物としてのウエーハの裏面側から照射されたパルスレーザー光線は集光点から円錐状に広がりデバイスが形成された表面に同心円状に分散して抜けるためデバイス層を損傷させることがない。」

ウ.「【0020】
図2を参照して説明を続けると、レーザー光線照射手段6を構成する集光器63は、パルスレーザー光線発振手段62から発振されたパルスレーザー光線を図2において下方即ちチャックテーブル36に向けて方向変換する方向変換ミラー631と、該方向変換ミラー631によって方向変換されるパルスレーザー光線の光軸上に配設された複屈折レンズ632および集光レンズ633とからなっている。複屈折レンズ632は、YVO4(632a)とS-LAH79(632b)とからなっている。この複屈折レンズ632および集光レンズ633は、方向変換ミラー631によって方向変換されたパルスレーザー光線をチャックテーブル36に保持された被加工物Wの厚さ方向に変位せしめられた2個の集光点Pa,Pbに集光せしめる。」

エ.「【0030】
上述した変質層形成工程においては、パルスレーザー光線のパルス幅を集光点Pa,Pbによって形成する2個の変質層W1およびW2の生成時間より短く設定することが重要であり、図示の実施形態におけるパルスレーザー光線発振手段62は、発振するパルスレーザー光線のパルス幅を図7に示すように10psに設定している。このようにパルス幅を集光点Pa,Pbによって形成する2個の変質層W1およびW2の生成時間より短く設定することにより、図8に示すように変質層W1およびW2を形成する際に変質層W1およびW2を基点として伝播する亀裂Cが変質層W1、W2間に誘導され、亀裂Cがパルスレーザー光線が入射された側に変質層W1、W2間を外れて不規則な方向に伝播して形成されることがない。なお、本発明者等の実験によると、パルス幅が500ps近傍においては上記効果が見られないことから、変質層の生成時間は500ps未満と考えられ、パルス幅は500ps未満に設定することが望ましい。また、レーザー光線照射手段6の集光器63はチャックテーブル36に保持された光デバイスウエーハ10の厚さ方向に変位して2個の集光点Pa,Pbを形成するのでパルスレーザー光線のエネルギーが分散されるとともに、光デバイスウエーハ10を構成するサファイア基板100の裏面100b側から照射されたパルスレーザー光線は図9に示すように集光点Pa,Pbから円錐状に広がり光デバイス層(エピ層)110の表面110aに同心円状に分散して抜けるため光デバイス層(エピ層)110を損傷させることがない。」

オ.【図2】には、レーザ光線照射手段の一実施形態が示されている。

8.甲第8号証
(1)記載事項
ア.「【0005】
また、本発明に係る脆性材料の割断装置は、レーザ光を発振するレーザ発振器と、レーザ発振器からのレーザ光を集光する集光手段と、上記集光手段と脆性材料とを相対移動させる移動手段とを備え、集光手段により集光されたレーザ光を、移動手段によって板状の脆性材料の割断予定線に沿って移動させ、上記脆性材料の割断を行う脆性材料の割断装置において、
上記集光手段を、上記レーザ光をその光軸方向に線状に集光させて集光線を形成する集光手段から構成して、上記集光線が脆性材料の内部に形成されるようにレーザ光を脆性材料に照射させて脆性材料の割断を行うことを特徴としている。」

イ.「【0007】
以下図示実施例について説明すると、図1は本発明に係る割断装置1を示し、この割断装置1により、透明な液晶ガラス基板等の脆性材料2を割断予定線Qに沿って割断するようになっている。
この割断装置1は、板状の脆性材料2を支持する加工テーブル3と、この加工テーブル3の上方に配置されて該加工テーブル3上の脆性材料2に対してレーザ光Lを照射する照射手段4と、この照射手段4を加工テーブル3上の脆性材料2に対して相対移動させる移動手段5とを備えている。
上記脆性材料2として、上述した液晶ガラス基板の他、半導体用のウェハなどの板状の脆性材料2を割断できるようになっており、本実施例の割断装置1によれば、上記脆性材料2の板厚が1000μmを越えていても、高精度で短時間に割断することが可能となっている。
加工テーブル3は工場内等の所定位置に固定されており、脆性材料2を下面から吸着保持して、脆性材料2が加工テーブル3上でずれないようになっている。
【0008】
次に、図2に示すように、照射手段4は移動手段5に固定されたハウジング11と、当該ハウジング11内に配置されてレーザ光Lを発振するレーザ発振器12と、レーザ光Lを集光する集光手段13とを備えている。
上記移動手段5は、ハウジング11と共に、上記レーザ発振器12および集光手段13を平面方向及び垂直方向に移動させるようになっている。なお、上記移動手段5は従来公知であるため、詳細な説明は省略する。
上記レーザ発振器12は、短パルスUVレーザ光を発振し、本実施例では波長を紫外領域とし、パルス幅10ナノ秒以下、繰り返し周波数10kHz以上、平均出力2W以上の範囲で調節したレーザ光Lを発振するようになっている。
そして上記集光手段13はレーザ発振器12から発振されたレーザ光Lの光軸上に設けられており、本実施例の集光手段13は3枚の第1?第3アキシコンレンズ14A?14Cと、1枚の凸レンズ15とから構成されている。
またこれらのレンズはそれぞれ図示しない昇降手段によって相互に上下方向に移動可能となっており、レーザ光Lの集光を調節するようになっている。」

ウ.【図2】には、照射手段の側面図が示されている。

第5.当審の判断
1.理由1(特許法第29条第2項 )について
(1)本件発明1
ア.対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「被加工物」と本件発明1における「対象物」とは、共に、レーザ加工する対象である点において共通し、また、レーザビームに対して透明な材料で作成される点において共通するから、甲1発明における「被加工物」は請求項1に係る発明における「対象物」に相当する。
甲1発明における「超短パルスレーザ」は、レーザパルスが100ps以内のパルス幅を有し、レーザビームを集光レンズに通すものであり、集光レンズはレーザ光(ビーム)を集束する手段としての集束レンズに他ならないから、甲1発明と本件発明1とは、「超短レーザーパルスのレーザーパルスが10ナノ秒未満のパルス幅を有するステップおよびレーザービームを集束レンズに通すステップ」を有する点において一致する。
甲1発明における「前記集光レンズを使用して、前記レーザビームを、長手方向にビームウェストの焦点深度より何倍も大きな距離の値まで自己集束作用によるチャンネルを形成」させることと、本件発明1における「前記集束レンズを使用して、前記レーザービームを、長手方向のビーム軸に沿って分散する態様で集束させる」こととは、「前記集束レンズを使用して、前記レーザービームを、長手方向のビーム軸に沿って集束させる」点において一致する。
甲1発明における「前記集光レンズの焦点距離や集光位置を前記被加工物に対して調整する」ことは、本件発明1における「レーザビームの焦点を対象物に対して位置させる」ことに相当する。
甲1発明における「レーザビームの自己集束を開始するのに十分なパワー密度を有する集光した前記レーザビームを前記被加工物に伝送して、長手方向のチャンネルに沿って伝播し、フィラメント状のチャンネルを生成すること」は、本件特許明細書の段落【0041】や【0045】によれば、本件発明1における「フルエンス」とは、レーザビームのパワー密度といえるものであることから、本件発明1における「レーザービームの自己集束を開始するのに十分なフルエンスを有する集束した前記レーザービームを前記対象物に伝送して、前記長手方向のビーム軸に沿って伝搬するレーザーフィラメントを生成することに相当する。
甲1発明における「前記フィラメント状のチャンネルを前記被加工物内の任意の位置に案内および維持するように、パルスレーザのエネルギーおよび集光位置を調節し、フィラメント状のチャンネルが、長手方向のチャンネルにある被加工物の一部を周囲に圧縮し、残りをウラ面から外部に排出することより、フィラメント状のチャンネルの通過跡に空洞を形成すること」と、本件発明1における「前記レーザーフィラメントを前記対象物内の所望の起点と所望の終点との間で案内および維持するように、パルスエネルギーおよび分散集束を調節するステップであり、前記レーザーフィラメントが、前記透明な材料を前記長手方向のビーム軸を中心にして環状に圧縮することにより、前記レーザーフィラメントに一致する空洞を作成する」こととは、「前記レーザーフィラメントを前記対象物内の所望の起点と所望の終点との間で案内および維持するように、パルスエネルギーおよび集束を調節するステップであり、前記レーザーフィラメントが、前記レーザーフィラメントに一致する空洞を作成する」点で一致する。

したがって、両者は、以下の点で一致する。
「対象物をレーザー加工する方法であって、
超短レーザーパルスのレーザービームを提供するステップであり、前記対象物が前記レーザービームに対して透明な材料で作成され、レーザーパルスが10ナノ秒未満のパルス幅を有するステップと、
前記レーザービームを集束レンズに通すステップと、
前記集束レンズを使用して、前記レーザービームを、長手方向のビーム軸に沿って集束させるステップと、
焦点を前記対象物に対して位置させるステップと、
レーザービームの自己集束を開始するのに十分なフルエンスを有する集束した前記レーザービームを前記対象物に伝送して、前記長手方向のビーム軸に沿って伝搬するレーザーフィラメントを生成するステップと、
前記レーザーフィラメントを前記対象物内の所望の起点と所望の終点との間で案内および維持するように、パルスエネルギーおよび集束位置を調節するステップであり、前記レーザーフィラメントが、前記レーザーフィラメントに一致する空洞を作成するステップと
を含む方法。」

そして、両者は、以下の各点で相違する。
[相違点1]
超短レーザーパルスのレーザービームが、本件発明1においては、「バーストを有し、各バーストが2?50個のレーザーパルスを有する」のに対して、甲1発明においては、バーストを有するか否か不明である点。

[相違点2]
本件発明1においては、対象物に対して「分散焦点を」「位置させる」のに対して、甲1発明においては、対象物に対して位置させる焦点が分散焦点であるか否か不明である点。

[相違点3]
レーザーフィラメントを対象物内の所望の起点と所望の終点との間で案内および維持するように、パルスエネルギーと共に調節する対象である集束位置が、本件発明1においては、「分散集束」であるのに対して、甲1発明においては、「分散集束」であるか否か不明である点。

[相違点4]
空洞が、本件発明1においては、「前記透明な材料を前記長手方向のビーム軸を中心にして環状に圧縮すること」により形成されるのに対して、甲1発明においては、「被加工物の一部を周囲に圧縮し、残りをウラ面から外部に排出する」ことにより形成される点。

イ.判断
事案に鑑み、まず相違点4について検討する。
本件発明1は、「透明な材料を長手方向のビーム軸を中心にして環状に圧縮すること」により、本件特許明細書の段落【0020】に記載されているように「噴出物が最小化または除去され」るものであり、「残りをウラ面から外部に排出する」甲1発明とは異なるものである。
そして、甲第2号証には、「ガラス等の透明基板を加工するためのレーザーフィラメント形成による材料加工方法として、8パルスのバースト列で、バーストの繰り返しが500Hz、レーザーパルスが38MHzで100fSであるパルスレーザー系を使用し、該レーザーパルスを透明基板に照射して、非線形のカー効果による自己集束で以てレーザーフィラメントを基板内に形成し、バーストによって形成される該レーザーフィラメントは、フィラメント長を増加させ、また、該フィラメントの長さ及び位置は、レンズ収束位置、レーザーパルスエネルギー、レーザーパルス数等によって制御されること。」が記載されているものの、「透明な材料を長手方向のビーム軸を中心にして環状に圧縮すること」により「空洞」を形成することは記載も示唆もない。
そうすると、甲1発明に甲第2号証に記載された事項を適用できたとしても、相違点4に係る本件発明1の発明特定事項とはならない。
また、甲第3ないし8号証にも、「透明な材料を長手方向のビーム軸を中心にして環状に圧縮すること」により「空洞」を形成することは記載も示唆もない。
よって、相違点4に係る本件発明1の構成については、甲1発明及び甲第2ないし8号証に記載された事項から、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、他の相違点1ないし3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2ないし8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。
よって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

(2)本件発明2ないし本件発明20
本件発明2ないし本件発明20は、本件発明1を直接的または間接的に引用しており、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに構成を限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲第2ないし8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。
よって、請求項2ないし20に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

2.理由2(特許法第36条第4項第1号)について
(1)請求項14について
特許異議申立人は、請求項14の「前記空洞が、5ミクロン未満の平均側壁粗さを有する」との記載に関し、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「5ミクロン」以下または未満を達成するための実施態様については何らの説明もなく、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない旨主張する。
この点について検討すると、本件特許明細書の段落【0061】に「レーザー特性のさまざまなパラメータ、主焦点ウエストの位置、および最終的な集束レンズの配置と作成されるオリフィスの特徴とを次の表に示す。これらは対象材料の種類、対象材料の厚さ、ならびに所望のオリフィスのサイズおよび位置によって値が大きく異なるため、範囲で表されていることに注意されたい。次の表は、多様な透明材料のいずれかに均一のオリフィスを穴あけするために使用される、さまざまなシステム変数の範囲を詳細に示している。」と記載されたうえで、「レーザー特性」等が記載された表に、「オリフィス即壁の滑らかさ」が「5ミクロン以下の平均粗さ」である旨記載されている。
そうすると、表に記載された「レーザー特性」等に従えば、空洞が「5ミクロン以下の平均粗さ」であるものが得られると解されるのであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「空洞が、5ミクロン未満の平均側壁粗さを有する」ものとするための実施態様についての説明がないとはいえない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明14を実施し得る程度に、明確かつ十分に記載されていると認められる。
よって、請求項14に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願にされたものであるとはいえない。

3.理由3(特許法第36条第6項第2号)について
(1)請求項11
特許異議申立人は、請求項11に記載された「非球面プレート」とは、一般的な技術用語ではない旨主張する。
この点について検討すると、「非球面プレート」なる用語は、レンズの分野において一般的に使用されている(例えば、特開平7-140381号公報の段落【0022】、特開2003-1472号公報の【請求項3】、特開2003-42731号公報の段落【0033】)と解される。
したがって、請求項15における「非球面プレート」とは、一般的な技術用語であって、請求項11が、技術的に明確ではない記載事項を含むとはいえない。
よって、請求項11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願にされたものであるとはいえない。

(2)請求項15
特許異議申立人は、請求項15の「該空洞の長さに沿って実質的に一定の直径を有する」における「実質的に一定」が、何を意味しているのか明確でない旨主張する。
この点について検討すると、材料を加工する場合において、一定の長さに加工しようとしても若干の加工誤差が発生するものであるから、「実質的」とはそのようなものを含むものとしたにすぎないと解される。
したがって、請求項15において「実質的」という語句が用いられることにより、請求項15が、技術的に明確ではない記載事項を含むものとなるとはいえない。
よって、請求項15に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願にされたものであるとはいえない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、本件の請求項1ないし20に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件の請求項1ないし20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-05-09 
出願番号 特願2017-147128(P2017-147128)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B23K)
P 1 651・ 536- Y (B23K)
P 1 651・ 537- Y (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩見 勤  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 栗田 雅弘
中川 隆司
登録日 2018-08-10 
登録番号 特許第6381753号(P6381753)
権利者 ロフィン-シナール テクノロジーズ エルエルシー
発明の名称 超高速のレーザーパルスのバーストによるフィラメンテーションを用いた透明材料の非アブレーション光音響圧縮加工の方法および装置  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 健策  
代理人 飯田 貴敏  
代理人 石川 大輔  

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