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審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する D04H
管理番号 1351678
審判番号 訂正2019-390031  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2019-02-22 
確定日 2019-04-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5986584号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5986584号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.手続の経緯
特許第5986584号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、平成24年12月14日(パリ条約による優先権主張2011年12月14日(韓国)、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年8月12日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成31年2月22日に本件訂正審判の請求がされたものである。

2.請求の趣旨
(1)本件訂正審判の請求の趣旨は、本件特許の明細書を本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものである。

(2)本件訂正審判の請求に係る訂正の内容は、以下のとおりである。
[訂正事項1]
訂正前の明細書の段落【0015】に、「温度190℃、管内径D_(1)がφ1.0mm、長さ10mmのキャピラリーの上から圧力をかけ、押出量3g/10minで原料樹脂を押し出す。」と記載されているのを、
「温度190℃、管内径D_(1)がφ1.0mm、長さ10mmのキャピラリーの上から圧力をかけ、原料樹脂を押し出す。」に訂正する(以下「本件訂正」という。)。

3.当審の判断
(1)ア.本件特許の明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0015】の記載は、スウェル比の測定方法、測定装置について説明する記載であり、スウェル比の測定方法は、「温度190℃、管内径D_(1)がφ1.0mm、長さ10mmのキャピラリーの上から圧力をかけ、原料樹脂を押し出」し、「原料樹脂のせん断速度別にスウェル比を測定」するものとされる。
イ.本件明細書の段落【0016】には、そのスウェル比とせん断速度との関係について記載され、「スウェル比はせん断速度に対して依存し、せん断速度が増加するとスウェル比も増加する」ものとされる。
このせん断速度は、半径r(cm)のキャピラリーから押し出した場合、本件明細書に記載されるように、下式(a)により算出されることが知られている。
γ=4Q/πr^(3) ・・・(a)
(γはせん断速度(1/s)、rはキャピラリー半径(cm)、Qはフローレート(cm^(3)/s))
上記式(a)を、フローレートQについて求めると、下式(b)となる。
Q=πr^(3)γ/4 ・・・(b)
ここで、10min当たりの原料樹脂の押出量をq(g/10min)とすると、密度ρ(g/cm^(3))の原料樹脂の場合、押出量qとフローレートQとの関係式は、下式(c)となることが明らかである。
q=600ρQ ・・・(c)
この押出量qについての式(c)に、上記フローレートQについての式(b)を代入すると、下式(d)となる。
q=150πr^(3)ργ ・・・(d)
この式(d)から、押出量q(g/10min)は、原料樹脂の密度ρ(g/cm^(3))とともに、せん断速度γ(1/s)により変化する値であることが理解される。
ウ.本件特許明細書の段落【0017】に「表1にスウェル比のせん断速度依存性に関する測定結果を示す。」と記載され、段落【0019】に表1が記載されている。
この表1には、異なる樹脂製品A?Gの、せん断速度「24.3」、「60.8」、「121.6」、「243.2」、「608.0」、「1216」でのスウェル比の測定結果が示されている。

エ.上記イ.で述べたように、押出量q(g/10min)は、原料樹脂の密度ρ(g/cm^(3))とともに、せん断速度γ(1/s)により変化する値であるから、キャピラリーの上から圧力をかけて原料樹脂を押し出し、測定対象の原料樹脂について、同じせん断速度での測定結果を求めるには、上記式(d)によれば、原料樹脂の押出量q(g/10min)を、原料樹脂毎に、密度ρと、測定するせん断速度γとから算出する必要がある。
すなわち、上記ウ.の表1のように、樹脂製品A?G毎の、せん断速度「24.3」、「60.8」、「121.6」、「243.2」、「608.0」、「1216」でのスウェル比の測定結果を求めるには、上記式(d)より算出される押出量q(g/10min)で原料樹脂を押し出す必要があり、原料樹脂の密度と、測定するせん断速度が変われば、当然、押出量q(g/10min)も変わることが明らかである。
オ.ところが、スウェル比の測定方法について説明する本件明細書の段落【0015】には、「温度190℃、管内径D1がφ1.0mm、長さ10mmのキャピラリーの上から圧力をかけ、押出量3g/10minで原料樹脂を押し出す。」と記載されている。
上記エ.で述べたように、密度が異なる原料樹脂の複数のせん断速度でのスウェル比を測定するためには、キャピラリーから押し出す原料樹脂の押出量を、密度とせん断速度に応じて算出された量に変える必要があり、段落【0015】の「押出量3g/10minで」と単一の押出量とする記載は、それと整合しないものである。仮に「押出量3g/10minで」固定して測定した場合、複数のせん断速度について測定することができない。また、原料樹脂が変わり密度が異なると、固定された押出量から逆算すると、せん断速度も変わることとなり、表1に示されるような、同じせん断速度でのスウェル比を測定して、原料樹脂の物性を比較することができなくなる。
そうすると、本来、押出量を、原料樹脂の密度とせん断速度に応じて変えることにより、同じせん断速度でのスウェル比を測定して、原料樹脂の物性を比較することができるところ、訂正前の段落【0015】は、スウェル比を、「押出量3g/10minで」と単一の押出量によってのみ、測定するように記載されていたため、スウェル比の測定方法が不明瞭となっていたものであり、このような記載を削除して明瞭なものとする本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。

(2)また、本件訂正は、上記のように明瞭でない記載の釈明をするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)さらに、上記(1)で述べたように、本件明細書には、せん断速度別のスウェル比を測定するために、押出量を、原料樹脂の密度とせん断速度に応じて変えるものとして記載されているから、「押出量3g/10minで」との記載を削除して、複数の押出量を取り得るものとする本件訂正により、本件明細書に記載された技術的事項に変更を生じさせているものとはいえず、本件訂正が本件明細書に開示された技術的事項に新たな技術的事項を付加したものではないことは明らかである。
よって、本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
三次元網状構造体
【技術分野】
【0001】
本発明は、クッション、ソファ、ベッド等に使用する三次元網状構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無端ベルトで樹脂糸を巻き込むことで空隙を有する三次元網状構造体、三次元網状構造体の製造方法及び製造装置として特許文献1に示す発明が挙げられる。またポリエチレンを材料とする、三次元網状構造体として特許文献2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7625629号
【特許文献2】米国特許第7892991号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、介護用ベッド、ソファタイプベッド等に使用されるマットレスとして利用する場合、ベッドの変形に対応して、マットレスを円滑に曲げる必要性がある。原材料の種類がポリエチレンなど、特定種類の場合、組織表面の密度が高いため、曲げようとしたときに途中の部分で皺が寄ったり、折れて、三次元網状構造体の組織が不自然に変形してしまい、介護用ベッド等の形状に沿って円滑に曲げることが困難であるという問題があった。また医療、介護の現場における一般的な要望として、看護婦、介護士の負担を軽減するために更に軽くて耐久性の良いマットレスを製造するという課題もあった。
【0005】
そこで、本発明は、熱可塑性樹脂から構成される三次元網状構造体を円滑に曲げることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、せん断速度に対してスウェル比が依存する超低密度ポリエチレン(VLPE)または直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のフィラメントを不規則に接触絡合させたカール状のスプリング構造を有し、押し出し方向に対して横方向に疎の部分と密の部分とを繰り返す立体筋状疎密構造を有し、押し出し方向に表面層を有する、線径φ0.2?1.3mm、嵩密度0.01?0.2g/cm^(3)である三次元網状構造体であり、前記スウェル比が、温度190℃、管内径D_(1)がφ1.0mm、長さ10mmのキャピラリーから溶融した前記ポリエチレンを押し出し、押し出された該ポリエチレンの前記フィラメントを冷却し、該フィラメントの切断面の直径をD_(2)としたとき、せん断速度に対してD_(2)/D_(1)で表され、前記ポリエチレンのせん断速度24.3sec^(-1)に対するスウェル比が0.93?1.16であり、せん断速度60.8sec^(-1)に対するスウェル比が1.00?1.20であり、せん断速度121.6sec^(-1)に対するスウェル比が1.06?1.23であり、せん断速度が243.2sec^(-1)に対するスウェル比が1.11?1.30であり、せん断速度608.0sec^(-1)に対するスウェル比が1.15?1.34であり、せん断速度が1216sec^(-1)に対するスウェル比が1.16?1.38である。
【0008】
前記ポリエチレンのメルトフローレート(以下、MFRと略す)が3.0?35g/10min、密度が0.82?0.95g/cm^(3)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるスウェル比と密度とを有するポリエチレンを原料として三次元網状構造体を製造すると、三次元網状構造体は製造中における押出方向において、嵩密度が粗部分と密部分とが交互に表われる立体筋状疎密構造を備えることとなる。これにより、三次元網状構造体は、押出方向において適度に撓みやすくなり、介護用ベッドやソファタイプベッド等に使用されるマットレスとして利用しても、円滑に曲げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明実施形態の三次元網状構造体のスウェル比のせん断速度依存性を示すグラフである。
【図2】本発明実施形態の三次元網状構造体の溶融粘度のせん断速度依存性を示すグラフである。
【図3】本発明実施形態の三次元網状構造体の曲げ状態の側面写真図である。
【図4】本発明実施形態の三次元網状構造体の非曲げ状態の側面写真図である。
【図5】本発明実施形態の三次元網状構造体の曲げ状態の側面写真図である。
【図6】本発明実施形態の三次元網状構造体の非曲げ状態の平面写真図である。
【図7】比較例の三次元網状構造体の非曲げ状態の側面写真図である。
【図8】比較例の三次元網状構造体の非曲げ状態の側面写真図である。
【図9】比較例の三次元網状構造体の非曲げ状態の平面写真図である。
【図10】比較例の三次元網状構造体の曲げ状態の側面写真図である。
【図11】比較例の三次元網状構造体の曲げ状態の側面写真図である。
【図12】本発明実施形態の三次元網状構造体に表面層(外周の濃い網かけ部分)を設ける場合の説明図である。(a)が斜視図であり、(b)が製造時の押出方向からの正面図である。
【図13】本発明実施形態の三次元網状構造体の両側部(両端の濃い網かけ部分)の嵩密度を高めた場合の説明図である。(a)が斜視図であり、(b)が製造時の押出方向からの正面図である。
【図14】本発明実施形態の三次元網状構造体に表面層(外周の濃い網かけ部分)を設け、両側部(両端の濃い網かけ部分)の嵩密度を高めた場合の説明図である。(a)が斜視図であり、(b)が製造時の押出方向からの正面図である。
【図15】本発明実施形態の三次元網状構造体を座椅子に用いる場合の嵩密度の設定例を示す斜視図である。長手方向が製造時の押出方向である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態は、せん断速度に対してスウェル比が増加する特性を有し、せん断速度24.3sec^(-1)に対するスウェル比が0.93?1.16、せん断速度608.0sec^(-1)に対するスウェル比が1.15?1.34、MFR3.0?35g/10min、密度が0.82?0.95g/cm^(3)であるポリエチレンから製造され、フィラメントを不規則に接触絡合させたカール状のスプリング構造を有し、押し出し方向に対して横方向に立体筋状疎密構造を有し、線径φ0.2?1.3mm、嵩密度0.01?0.2g/cm^(3)である三次元網状構造体である。ここでいうスウェル比は、温度190℃、管内径D_(1)がφ1.0mm、長さ10mmのキャピラリーから溶融したポリエチレンを押し出し、押し出されたポリエチレンのフィラメントを冷却し、フィラメントの切断面の直径をD_(2)としたとき、せん断速度に対してD_(2)/D_(1)で表される。
【0012】
本発明は、所定のスウェル比、MFR、密度を備える熱可塑性樹脂を原料とすることにより、立体筋状疎密構造を形成して、これを備える三次元網状構造体の曲げやすさを向上させるものである。本発明では熱可塑性樹脂原料としてポリエチレンを用いる。具体的には、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLPE)等が挙げられる。ポリエチレン原料の密度は0.82?0.95g/cm^(3)であることが好ましく、0.85?0.94g/cm^(3)であることがより好ましい。
【0013】
三次元網状構造体の詳細な製造方法は特許文献1、2等を参照されたい。本発明は外周部に他の部分よりも嵩密度の大きな表面層を備える三次元網状構造体(図12参照)にも適用可能である。また、本発明は両側部の嵩密度を他の部分よりも高めた三次元網状構造体(図13参照)にも適用可能である。さらに、本発明は表面層を備え、両側部の嵩密度を他の部分よりも高めた三次元網状構造体(図14参照)にも適用可能である。三次元網状構造体の嵩密度は0.01?0.2g/cm^(3)であることが好ましいが、表面層等の嵩密度を大きくした部分においては、その嵩密度であることを要しない。
【0014】
スウェル比は、溶融した樹脂を細い円筒管であるキャピラリーから押し出した時、押し出された樹脂の直径をキャピラリーの直径で割った値であり、せん断速度に依存する。ここでは、溶融した熱可塑性樹脂をフィラメントとして押し出すキャピラリーの直径(管内径)をD_(1)、押し出したフィラメントの切断面の直径をD_(2)とすると、スウェル比はD_(2)/D_(1)により表される。以下、スウェル比のせん断速度依存性と、関連するものとして溶融粘度のせん断速度依存性についての測定試験について説明する。試料A?Fが本発明実施形態によるものである。試料A?Dは材料として超低密度ポリエチレン(VLPE)を用いており、試料E,Fは材料として直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いた。試料Gが従来品による比較例でありエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を用いた。
【0015】
スウェル比の測定方法、測定装置について説明する。スウェル比の測定装置は、メルトフローレート(MFR)を測定するメルトインデクサー(MI)と同じ測定装置を利用する。ここではキャピログラフ1D(東洋精機製)を使用した。温度190℃、管内径D_(1)がφ1.0mm、長さ10mmのキャピラリーの上から圧力をかけ、原料樹脂を押し出す。押し出された原料樹脂のフィラメントをアルコールで冷却し、横断面で切断したフィラメントの直径をD_(2)とする。スウェル比=D_(2)/D_(1)で計算する。原料樹脂のせん断速度別にスウェル比を測定した。
【0016】
スウェル比とせん断速度との関係を説明する。スウェル比はせん断速度に対して依存し、せん断速度が増加するとスウェル比も増加する。せん断速度はせん断変形の時間的変化を表すもので、速度勾配と同義である。互いにa(cm)隔てた2つの平行な層の速度差がb(cm/sec)であるとき、せん断速度はb/a(1/sec)となる。
見掛けのせん断速度の計算式は次式である。本明細書中ではせん断速度として、平均的な値である見掛けのせん断速度を用いる。
γ=4Q/πr^(3)
γは見掛けのせん断速度(sec^(-1))、rはキャピラリー半径(cm)、Qはフローレート(cm^(3)/sec)である。
また、見掛けのせん断応力τ、見掛けの溶融粘度ηとすると、
η=τ/γ
ここでは、測定温度を190℃とし、キャピラリーの長さLと直径D_(1)との比がL/D_(1)=10mm/φ1.0mmのフラットノズルを用いた。測定機は東洋精機製のキャピログラフを使用した。
【0017】
表1にスウェル比のせん断速度依存性に関する測定結果を示す。また表1に対応するグラフを図1に示す。図1のグラフは、せん断速度の増加に伴ってスウェル比が増加する傾向を示している。なお、この測定結果では、せん断速度の増加に対してスウェル比が減少するような箇所はないが、本発明は具体的な測定における測定誤差等によって、せん断速度の増加に対してスウェル比が例外的に減少するような場合があっても適用されるものである。
【0018】
スウェル比の好ましい範囲は、せん断速度が24.3sec^(-1)ではスウェル比が0.93?1.16であり、せん断速度が60.8sec^(-1)ではスウェル比が1.00?1.20であり、せん断速度が121.6sec^(-1)ではスウェル比が1.06?1.23であり、せん断速度が243.2sec^(-1)ではスウェル比が1.11?1.30であり、せん断速度が608.0sec^(-1)ではスウェル比が1.15?1.34であり、せん断速度が1216sec^(-1)ではスウェル比が1.16?1.38である。スウェル比が好適な範囲であれば、図3?図6に示す通り、押し出し方向と直交する方向に立体筋状疎密構造が形成され、曲げやすい三次元網状構造体を作ることができる。
【0019】
【表1】

【0020】
表2に溶融粘度のせん断速度依存性に関する測定結果を示す。また表2に対応するグラフを図2に示す。図2のグラフは減少曲線を描く。
【0021】
【表2】

【0022】
一般にポリマーのような有機高分子量物は流動時に分子の絡まりを生じ、この絡まりは流動時のせん断力によりほぐれ易くなるため、表2に示されるように、せん断速度が大きいほど溶融粘度は低下する。そのように溶融粘度が低下すると、スウェル比が小さくなる効果もあるが、スウェル比は押出圧力の影響をより大きく受け易いため、表1に示されるように、せん断速度が大きくなるほどスウェル比が大きくなる傾向がある。特に分子の絡まりが少ないポリエチレンを用いると、低せん断速度におけるスウェル比は小さく、せん断速度が大きくなるにつれてスウェル比が上昇する傾向が顕著となる。
【0023】
三次元網状構造体の製造におけるスウェル比D_(2)/D_(1)の制御について説明する。表1からわかるように、せん断速度を大きくするほど、すなわち押出速度を大きくするほど、スウェル比は大きくなる。せん断速度を一定とした場合で考えると、MFRが小さな原料ほど、スウェル比は大きくなる。また、せん断速度を一定とした場合、成形温度を低くするほど、スウェル比は大きくなる。せん断速度、原料や成形温度を一定とした場合、引取速度を小さくするほど、スウェル比は大きくなる。また、エアーギャップ(キャピラリーと冷却水面との距離)を小さくすると、スウェル比は大きくなる。キャピラリーの長さLと直径D_(1)との比L/D_(1)を大きくすると、スウェル比は大きくなる。
【0024】
本発明実施形態による三次元網状構造体の反発力について説明する。三次元網状構造体の反発力は、材料のスウェル比や嵩密度の大きさによって変化する。反発力は、φ150mmの円板を介して試料を10mm圧縮した際にかかる荷重によって測定した。ここでは、試料となるマットレスの中央に荷重を加え、マットレスが10mm、20mm、30mm沈み込んだ際に加わっている力を反発力としてそれぞれ測定した。使用した測定器具は株式会社イマダ製のデジタルフォースゲージZPSとロードセルZPS-DPU-1000Nである。引取機の引き取り速度等の製造条件が同一の場合、EVAを原材料とする三次元網状構造体の製品と比べ、本発明実施形態によるスウェル比、密度を有するポリエチレンの三次元網状構造体では、8万回繰り返し50%圧縮試験で14?30%、凹みが少なかった。三次元網状構造体の製造時、樹脂流れ方向で繊維が筋状組織構造になり、同じような反発力で原料の樹脂量を10?25%減らすことができる。製品重量も同じ反発力で10%以上、軽量化することが出来る。
【0025】
本発明実施形態において、三次元網状構造体に表面層を設ける場合、表面層の嵩密度が大きいと曲がらないか、曲がりにくい。三次元網状構造体を良好に曲げるためには、表面層の厚みを0.3?3.5mmとすることが好ましい。また、表面層の重さ範囲が0.05?1.0g(縦30mm×横30mm×厚み4mmとして計量。嵩密度に換算すると0.014?0.278g/cm^(3))、表面層のフィラメントの径がφ0.1?2.0mmであることが好ましい。特に、三次元網状構造体の表面層の重さ範囲が0.10?0.9g(同じく嵩密度に換算すると0.028?0.250g/cm^(3))、表面層のフィラメントの径がφ0.2?1.3mmであることが好ましい。最適には三次元網状構造体の表面層の重さ範囲が0.4?0.8g(同じく嵩密度に換算すると0.111?0.222g/cm^(3))、表面層のフィラメントの径がφ0.3?1.0mmであることが好ましい。
【0026】
図3?6に本発明実施形態の三次元網状構造体の曲げ状態または非曲げ状態を示し、図7?11に従来品比較例の三次元網状構造体の曲げ状態または非曲げ状態を示す。本発明実施形態による三次元網状構造体は立体筋状疎密構造を備え(図4,6参照)、これにより曲げ状態においても曲げ部の内側に皺が発生することはない(図3参照)。一方、従来品は立体筋状疎密構造を備えず(図7?9参照)、曲げ状態において曲げ部の内側に不規則な皺が発生してしまう(図10,11参照)。このような皺は、三次元網状構造体をベッドのマットレス等に使用した場合、使用感を低下させる要因となり、また製品の劣化を早めてしまうこととなる。そこで、本発明実施形態による三次元網状構造体を使用すると、不規則な皺の発生を防止してこのような問題点を解決することができる。
【0027】
また従来、引取機の引き取り速度を速めたり遅めたりすることにより、疎密な構造を備える三次元網状構造体を製造することも可能であったが、これにより出来上がる疎密な構造は、粗密の繰り返し単位が不規則であったり大きくなったりしてしまって円滑に曲げることは難しく、また、引取機のスピード調整により生産効率の低下を招いていた。しかし、本発明実施形態により、上記したスウェル比と密度とを有するポリエチレンを原料とすると、粗密の繰り返し単位が適切な立体筋状疎密構造を形成することができ、生産効率の低下を招くことなく、円滑に曲げることができる三次元網状構造体を製造することが可能となる。さらに本発明実施形態は引取機の引き取り速度が一定の場合に適用できるのはもちろん、引取機の引き取り速度を速めたり遅めたりする場合においても適用することができ、より多彩な性質の三次元網状構造体を製造することに寄与する。
【0028】
一般に表面層を備える三次元網状構造体は曲がりにくくなり、曲げ荷重を大きくすると不規則な皺が発生してしまう。しかし、本発明実施形態は、図12に示すような表面層を備える三次元網状構造体についても適用することができ、そうすることで従来よりも曲がりやすくなり、また、曲げて皺が発生したとしても、立体筋状疎密構造を備えることにより、組織が不自然に変形することが無くなって立体筋状疎密構造に沿った規則的な筋となり、上述したような使用感の低下や製品劣化を最小限に抑えることができる。また、立体筋状疎密構造によって、水の通り、水切れが良好で乾燥が早いため、本発明実施形態による三次元網状構造体を医療用マットレス等に用いると洗浄が容易となって好適である。
【0029】
また、両側部の嵩密度を高めた三次元網状構造体も曲がりにくくなるが、本発明実施形態はそのような三次元網状構造体においても適用することができる(図13参照)。これによる三次元網状構造体を医療用マットレスに用いると、マットレスを曲げることにより長座位の姿勢を補助できる上、両側部が硬いことにより、身体を安定させてベッドから起き上がることができ、また、ベッドの端に腰掛ける端座位がとりやすくなる。さらに本発明実施形態は、表面層を備え、両側部の嵩密度を高めた三次元網状構造体にも適用することができる(図14参照)。
【0030】
本発明実施形態は、湾曲した異形状を有する立体網状構造体を製造する際にも適用することができ、座席用クッション等に用いることも好適である。立体網状構造体からなる座席用クッションが立体筋状疎密構造を備えることにより、好適に曲げることができ、軽量で通気性の富んだものとすることができる。立体筋状疎密構造のうち空隙率の特に大きな疎部分は密部分に比べ通気性が良好であるので、そのような座席用クッションに消毒剤、消臭剤を噴霧する際にも容易に全体に均質に広がることとなり効率的である。
【0031】
本発明実施形態による立体網状構造体を座席用クッション等に使用する場合、立体筋状疎密構造による凹凸感が着座面に表われることが考えられる。そのような点が問題となる場合には、立体網状構造体に表面層を設けることにより、これを和らげることができる。また、本発明実施形態による立体網状構造体と他の材質や同材質の積層材とを接着、熱成型することもでき、これによりそのような着座面の問題を解決することもできる。
【0032】
立体網状構造体を自動車用の座椅子などに用いる場合、通常の立体網状構造体では曲げることが難しいため、座部および背もたれ部はそれぞれ別個に形成した立体網状構造体により構成することとなる。しかし、本発明実施形態の立体網状構造体は曲げることが容易であるため、一枚の立体網状構造体を折り曲げて座部および背もたれ部を形成することができる。この際、本発明実施形態により立体筋状疎密構造を形成するとともに、さらに引き取り速度を速めたり遅めたりすることにより、より大きく嵩密度を調節したりすることもできる。例えば図15に示すように、Aの区間は大きな嵩密度で形成して座部とし、Bの区間は小さな嵩密度で形成して座部と背もたれ部との間の曲げ部とし、Cの区間は曲げ部よりは大きく座部よりも小さな嵩密度で形成して背もたれ部とすることができ、座り心地等の座椅子としての性能を満たしつつ、一体的な立体網状構造体の製造や組み付けの簡素化により低コスト化が図られる。
【0033】
原料の熱可塑性樹脂に抗菌剤、難燃剤、不燃材を混合すると、比重、粘度が変わって曲がりにくい三次元網状構造体になるが、本発明実施形態はそのような添加物を原料に加えても適用可能である。よって、不燃、難燃、抗菌機能を備え、しかも立体筋状疎密構造を備えることにより曲げやすさの向上した三次元網状構造体を製造することも可能となる。
【0034】
三次元網状構造体を測定試料として、これを製造するのに使用した押出機、引取機の諸条件と三次元網状構造体が良好に曲がる際の嵩密度との関係について説明する。スクリュー径40mmの押出機でキャピラリー径(ノズル径)φ1.0mmの口金を用いて、厚み80mm、幅270mmの三次元網状構造体を製造した。スクリューの回転数60r.p.m(押し出し量毎時約14kg)のとき、三次元網状構造体が良好に曲がる引き取り速度および嵩密度を範囲で示すと、引取機の引き取り速度1.7?3.2mm/sec、嵩密度0.0303?0.0563g/cm^(3)となった。例えば、スクリューの回転数60r.p.m、引取機の引き取り速度2.9mm/sec、嵩密度0.0502g/cm^(3)の場合、三次元網状構造体を曲げた際に表面に皺が寄った。スクリューの回転数60r.p.m、引取機の引き取り速度3.1mm/sec、嵩密度0.0446g/cm^(3)の場合、三次元網状構造体は良好に曲がった。ただし、表面層を設ける場合、三次元網状構造体が良好に曲がる表面層の嵩密度およびフィラメントの径の範囲は、嵩密度が0.13?0.27g/cm^(3)、フィラメントの径がφ0.1?1.2mmとなった。例えば、スクリューの回転数60r.p.m、引取機の引き取り速度2.9mm/sec以下の場合、表面層の嵩密度が0.27g/cm^(3)を超え、三次元網状構造体を曲げたときに皺が寄る。なお、ここでいう表面層とは上記の厚み80mm、幅270mmの三次元網状構造体の表面から厚み4mmまでの範囲のものとして上記数値を測定した。この範囲の嵩密度およびフィラメントの径の組み合わせであれば、ノズル径やノズル穴数等により厚み方向における嵩密度を変化させた三次元網状構造体であっても良好に曲がる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の三次元網状構造体はクッション、ソファ、ベッド(マットレス)、座席(ソファと違えば)等に適用される。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-03-26 
結審通知日 2019-03-28 
審決日 2019-04-09 
出願番号 特願2013-549127(P2013-549127)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (D04H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 横溝 顕範
井上 茂夫
登録日 2016-08-12 
登録番号 特許第5986584号(P5986584)
発明の名称 三次元網状構造体  
代理人 尾崎 隆弘  
代理人 尾崎 隆弘  

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