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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1351721
審判番号 不服2018-2599  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-23 
確定日 2019-05-13 
事件の表示 特願2016-534143「階段構造のハイブリッド電極組立体」拒絶査定不服審判事件〔平成27年7月9日国際公開、WO2015/102221、平成29年1月26日国内公表、特表2017-503311〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)11月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年1月6日 大韓民国(KR))を国際出願日とする出願であって、平成29年6月8日付けで拒絶の理由が通知され、同年8月1日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものの、同年10月17日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、これに対して、平成30年2月23日に請求された拒絶査定不服審判であって、同日付けで手続補正がなされ、その後、同年6月6日及び同年9月3日に上申書が提出されたものである。

第2 平成30年2月23日付けの手続補正書による手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年2月23日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正事項について
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、そのうち、特許請求の範囲の請求項1の補正は、本件補正前の
「【請求項1】
正極又は負極からなる極板の間に分離膜が介在した構造の極板積層体で構成されたユニットセルを含む電極組立体であって、
前記電極組立体は、大きさが互いに異なる2種類以上のユニットセルの組み合わせからなっており、
前記ユニットセルが、平面を基準として高さ方向に積層されている構造で構成されており、
前記ユニットセルのうち電極組立体の下部に位置するベースユニットセルは、一つのシート状の分離フィルムによって2つ以上のベースユニットセルが巻き取られて一体型のベース構造をなしており、
前記ベースユニットセルを除いた残りのサブユニットセルは、それぞれ分離膜が介在した状態で積層されている構造からなっており、
前記ベースユニットセルは、1つ以上の正極と1つ以上の負極が、分離膜が介在した状態で積層された構造において、両面に位置した電極の種類が同一であるバイセルからなっており、
前記サブユニットセルは、両面に位置した極板の電極の種類が互いに異なるフルセルであることを特徴とする、電極組立体。」を
「【請求項1】
正極又は負極からなる極板の間に分離膜が介在した構造の極板積層体で構成されたユニットセルを含む電極組立体であって、
前記電極組立体は、大きさが互いに異なる2種類以上のユニットセルの組み合わせからなっており、
前記ユニットセルが、平面を基準として高さ方向に積層されている構造で構成されており、
前記ユニットセルのうち電極組立体の下部に位置するベースユニットセルは、一つのシート状の分離フィルムによって2つ以上のベースユニットセルが巻き取られて一体型のベース構造をなしており、
前記ベースユニットセルを除いた残りのサブユニットセルは、それぞれ分離膜が介在した状態で積層されている構造からなっており、
前記ベースユニットセルは、1つ以上の正極と1つ以上の負極が、分離膜が介在した状態で積層された構造において、両面に位置した電極の種類が同一であるバイセルからなっており、
前記サブユニットセルは、両面に位置した極板の電極の種類が互いに異なるフルセルであり、
前記バイセルは、同じ大きさで構成されていることを特徴とする、電極組立体。」と補正するものである(下線は当審で付した。)。

2 補正の目的の適否についての検討
本件補正は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である、「1つ以上の正極と1つ以上の負極が、分離膜が介在した状態で積層された構造において、両面に位置した電極の種類が同一であるバイセルからなって」いる「ベースユニットセル」について、当該「バイセル」が「同じ大きさで構成されている」との事項を特定するものである。
そうすると、当該補正事項は、明らかに、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。

3 本件補正発明
本件補正発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(上記1参照。)。

4 引用文献
(1)引用文献1の記載事項及び引用発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された、国際公開第2013/176533号(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
なお、訳文は当審による仮訳である。また、下線は当審で付した(以下、同じ。)。
「[15]


(訳)
(本発明は、多様なデザインを具現することができ、薄型、且つ優れた電気容量特性を有する電極組立体を提供する。)

「[43]


(訳)
(本発明の一具現例によると、多様な形態の電極組立体を提供することができ、急激なモバイル機器のデザイン変化に対し、より効果的に対応できる。従って、多様なデザインの電池を具現することができる。)

「[63]


(訳)
(本発明の電極組立体は、複数のユニットセルを積層することで得ることができる。このとき、上記ユニットセルは、負極と正極が交互に順次積層されているもので、上記ユニットセルを構成するそれぞれの電極は、両面に少なくとも一つの分離膜が配置される。従って、上記正極と負極の間に分離膜が介在されており、また、電極組立体の最外郭に配置される電極のように電極の一面に他の電極が配置されない場合でも、上記分離膜は電極表面を覆うように配置されることができる。よって、以下、分離膜を含むことに対して特に記載されていなくても、他の説明がない限り、電極はその両面に分離膜が配置されることができると理解すべきである。)

「[79]


(訳)
(本発明において、上記ユニットセルは、負極と正極が分離膜を境界として交互に順次積層されているものであって、上記負極及び正極が一つずつ積層されたユニットセル(モノセル)であってもよく、負極及び正極のうち少なくとも一つは複数個であってもよい。即ち、両面に負極が配置され、上記負極の間に正極が配置されるユニットセル(C型バイセル)、または両面に正極が配置され、上記正極の間に負極が配置されたユニットセル(A型バイセル)であってもよい。さらに、上記モノセル、A型バイセルまたはC型バイセルが複数個組み合わさったような多様な形態のユニットセルであってもよい。)

「[109]


(訳)
(このとき、上記段差を形成する対面電極は、面積の大きいユニットセルの対面電極として負極20が配置されることが好ましい。即ち、電極組立体1において、面積の異なるユニットセルが分離膜を境界として対面する場合、分離膜が積層された状態で、面積の大きいユニットセルの表面の一部が外部を向くようになるが、このとき、上記外部を向くユニットセルの電極が負極20となるように配置することが好ましい。これは、正極30の表面にコーティングされる正極活物質32はリチウムを含み、正極30が外部を向くようになると、正極30の表面からリチウム金属が析出されて電池寿命が短縮するか、電池の安定性が低下する問題点が発生し得るためである。)

「[111]


(訳)
(これと同様の理由で、図1に示したように、ユニットセルの積層により得られた電極組立体1において、電極組立体1の上端及び下端の両面には、負極20が位置するようにユニットセルを配置することが好ましい。また、電極組立体1の両面には上記負極20の他に正極30が配置されてもよいが、この場合には、上記正極30は、外部を向く面に正極活物質32がコーティングされていない無地部を有する単面コーティング正極33であってもよい。)


「[124]


(訳)
(本発明の段差を有する電極組立体1はユニットセルであって、スタック・アンド・フォールディング型ユニットセル61、62、ジェリーロール型ユニットセル63またはこれらが組み合わせられたユニットセルを含んで段差を形成することができる。上記スタック・アンド・フォールディング型ユニットセル61、62は、長方形分離膜40上に単一電極10またはユニットセルを配列し、これを折り畳むことで形成されたもので、一定方向に巻取して形成するワインディング型とジグザグ方向に折り畳んで形成するZフォールディング型のいずれであってもよい。このとき、上記ワインディング型のユニットセル62は一方向に巻取されてもよく、巻取方向が変更されてもよい。例えば、時計回りに巻取してから反時計回りに巻取することもできる。)

「[126]


(訳)
(これに対する一例を図4?図6に示した。図4に示された電極組立体1は、スタック型ユニットセル53とZフォールディング型のスタック・アンド・フォールディング型ユニットセル61を組み合わせて製造された段差を有する電極組立体1の一例である。図5に示された電極組立体1は、スタック型のユニットセル51とワインディング型のスタック・アンド・フォールディング型ユニットセル62を組み合わせて製造された段差を有する電極組立体1の一例であり、また、図6には、スタック型ユニットセル51、53とジェリーロール型ユニットセル63を組み合わせて製造された段差を有する電極組立体1の一例を示した。)

「[Fig.1]


「[Fig.4]


「[Fig.5]


「[Fig.6]



ア 引用文献1には、電極組立体1について記載されている。
イ 上記[126]より、上記Fig.5の例に注目すると、電極組立体1は、スタック型のユニットセル51とワインディング型のスタック・アンド・フォールディング型ユニットセル62を組み合わせて製造された段差を有するものであるといえる。
また、上記Fig.5より、スタック型のユニットセル51は電極組立体1の上部に位置し、ワインディング型のスタック・アンド・フォールディング型ユニットセル62は電極組立体1の下部に位置することが看取できる。
ウ 上記[79]より、電極組立体1について、ユニットセルは、負極と正極が分離膜を境界として交互に順次積層されているものである。
エ 上記[124]より、ワインディング型のスタック・アンド・フォールディング型ユニットセル61、62は、長方形分離膜40上に単一電極10またはユニットセルを配列し、これを折り畳むことで形成されたもので、一定方向に巻取して形成するものであって、この点に照らせば、上記Fig.5より、ワインディング型のスタック・アンド・フォールディング型ユニットセル62は、長方形分離膜40上に単一電極10を配列し、これを折り畳むことで形成されたものであることが看取できる。
オ 上記Fig.5より、スタック型のユニットセル51は、互いに大きさの異なる、2つのスタック型のユニットセル51が積層されており、それぞれのユニットセル51が上から分離膜40、負極20、分離膜40、正極30の順で積層されていることが看取できる。
カ 上記Fig.5に記載された電極組立体1に注目すると、上記ア?オより、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「上部のスタック型のユニットセル51と下部のワインディング型のスタック・アンド・フォールディング型ユニットセル62を組み合わせて製造された段差を有する電極組立体1であって、
ユニットセル51は、負極と正極が分離膜を境界として交互に順次積層されているものであり、
ワインディング型のスタック・アンド・フォールディング型ユニットセル62は、長方形分離膜40上に単一電極10を配列し、これを折り畳むことで形成されたもので、一定方向に巻取して形成するものであり、
スタック型のユニットセル51は、互いに大きさの異なる、2つのスタック型のユニットセル51が積層されており、それぞれのユニットセル51が上から分離膜40、負極20、分離膜40、正極30の順で積層されている、
電極組立体1。」

(3)引用文献2の記載事項及び引用事項
また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された、特表2003-523059号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0017】
本発明の重畳される電気化学セルはフルセルまたはバイセルを基本単位として重畳される。」
「【0020】
図1に示すフルセル17の単位構造は正極、分離膜、負極が順次に構成され、この時分離膜15は自然にセルの中央に位置する。このような単位セルを使用して実用的な容量の電池を製造する時には、この単位セルを複数使って重ねて実現しようとする電池の容量によって所望の数だけ積層することができる。一例として、図2は5個のフルセルを順次に積層したことを示す。この時、各フルセルの間に前述の分離膜15のように高分子分離膜または高分子電解質用高分子フィルムなどの多くの微細多孔を含む高分子分離フィルムを介在させる方式が非常に重要であるが、図2は本発明が提供する一つの方式を示している。中にあるフルセルを始めとして長く裁断された分離フィルム19を巻きながら各フルセル17を一つずつ積層していく。このようにすると一つのフルセル内で活用されない外側のコーティング活物質が、隣接する他のフルセルの反対電極コーティング活物質と、互いに共有して新たな一つのフルセルを形成する非常に効率的な構造となる。」
「【0025】
図3の構造29は、図2の構造28において、予め、使用できない最外郭の電極活物質を、除去することによって空間の効率性を最大限に保つようにする構造を示す。また、一つのフルセル17´は一側電極を両面コーティングし他側電極を断面コーティングして形成するフルセル構造であると定義する時、図3の構造29はこのようなフルセル17´を導入して、図2の構造28に示す最外郭電極活物質が活用されない部分を箔のまま残す。これは結果的に投入される各極の物質容量を損なわず厚さを追加的に減少させるため空間の効率性をさらに増加させる。しかし積層するフルセルの数字が増加すれば図2の構造28が有する空間効率性と大きく差異を見せない。それにも拘わらず最近議論される非常に薄くする薄膜カード形電池では図3の構造29が効果的である。
【0026】
本発明ではバイセルを単位セルとして複数重ねる場合に前記のフルセル構造で示した空間効率的なセルの構造を同じ方式で応用する。このために図4a及び図4bに示したように全て両面コーティングされた電極を使用して二種類のバイセル23、24を各々定義する。一つのバイセル23は負極を中央に位置して正極を両外側に構成したバイセルで、他のバイセル24は正極を中央に位置して負極を両外側に構成するバイセルである。使用できる電極活物質と分離膜15としての高分子分離膜あるいは高分子電解質用高分子フィルムに関する事項は前記フルセルで説明した通りである。図5の構造30はこのような二種類のバイセルを基本単位セルとして電池を構成する方式を示す。バイセル23と24を交互に重畳する時、前記フルセルで説明したような高分子分離膜あるいは高分子電解質用高分子フィルムなどの分離フィルム19を導入すれば一つのバイセル内で活用されない外側コーティング活物質が隣接する他の種類のバイセルと互いに自然に反対の極性で共有されて新たな一つのフルセルを形成する非常に効率的な構造となる。図5の構造30で示すように多層に重畳し高分子フィルム19が継続して導入されながら二つの異なるバイセルが交互に重畳だけすれば電池のための極性が自然に合致するようになっている。重畳された電池の最も外側の方向バイセル23あるいは24そのいずれに終わっても構わない。ただし活用されない電極物質が負極であるかあるいは正極であるかの問題に過ぎない。このように活用されない電極の比率は重畳の数が増加するほど少なくなり実際的な電極の厚さではその影響が微小である。そして他の構造30で分離フィルム19が導入される方式と構造は前のフルセルで説明した全てのものと同一であり、このような構造で作用する分離フィルム19とテープ27の役割も、やはり同じ脈絡とみる。」
「【図1】


「【図2】


「【図3】


「【図4A】


「【図4B】


「【図5】



ア 引用文献2には、電気化学セルについて記載されている。
イ 上記【0026】より、電気化学セルについて、バイセル23、24は二種類のものが定義され、一つのバイセル23は負極を中央に位置して正極を両外側に構成したバイセルで、他のバイセル24は正極を中央に位置して負極を両外側に構成するバイセルである。
ウ 上記【0020】より、電気化学セルについて、中にあるフルセルを始めとして長く裁断された分離フィルム19を巻きながら各フルセル17を一つずつ積層していくものである。
エ 上記図5より、電気化学セルについて、中心にあるバイセル23が1枚の分離フィルム19により周囲を巻かれており、その上下に該分離フィルム19を介してそれぞれバイセル24が積層するように該分離フィルムにより巻かれ、さらにその上下に該分離フィルム19を介してそれぞれバイセル23が積層するように該分離フィルムにより巻かれていることが看取できる。
オ 上記図5より、電気化学セルについて、バイセル23、24は同じ大きさであることが看取できる。
カ 上記ア?オより、引用文献2には、次の事項(以下、「引用事項」という。)が記載されていると認められる。
「電気化学セルにおいて、
中心にあるバイセル23が1枚の分離フィルム19により周囲を巻かれており、その上下に該分離フィルム19を介してそれぞれバイセル24が積層するように該分離フィルムにより巻かれ、さらにその上下に該分離フィルム19を介してそれぞれバイセル23が積層するように該分離フィルム19により巻かれているものであり、
一つのバイセル23は負極を中央に位置して正極を両外側に構成したバイセルで、他のバイセル24は正極を中央に位置して負極を両外側に構成するバイセルであり、
バイセル23、24は同じ大きさである事項。」

5 対比
ここで、本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「電極組立体1」において、「ユニットセル51は、負極と正極が分離膜を境界として交互に順次積層されているものであ」る事項は、本件補正発明の「正極又は負極からなる極板の間に分離膜が介在した構造の極板積層体で構成されたユニットセルを含」み、「前記ユニットセルが、平面を基準として高さ方向に積層されている構造で構成されて」いるとの事項に相当する。
イ 引用発明の「スタック型のユニットセル51は、互いに大きさの異なる、2つのスタック型のユニットセル51が積層されて」いるから、引用発明は、本件補正発明の「電極組立体は、大きさが互いに異なる2種類以上のユニットセルの組み合わせからなって」いるとの事項を有するものである。
ウ 引用発明は、「上部のスタック型のユニットセル51と下部のワインディング型のスタック・アンド・フォールディング型ユニットセル62を組み合わせて製造された段差を有する電極組立体1であ」るから、本件補正発明の「ユニットセルのうち電極組立体の下部に位置するベースユニットセル」を有するものであるといえる。
エ 引用発明の「スタック型のユニットセル51は、」「2つのスタック型のユニットセル51が積層されており、それぞれのユニットセル51が上から分離膜40、負極20、分離膜40、正極30の順で積層されている」との事項は、本件補正発明の「ベースユニットセルを除いた残りのサブユニットセルは、それぞれ分離膜が介在した状態で積層されている構造からなっており、前記サブユニットセルは、両面に位置した極板の電極の種類が互いに異なるフルセルであ」る事項に相当する。
オ 上記ア?エを考慮して、本件補正発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「正極又は負極からなる極板の間に分離膜が介在した構造の極板積層体で構成されたユニットセルを含む電極組立体であって、
前記電極組立体は、大きさが互いに異なる2種類以上のユニットセルの組み合わせからなっており、
前記ユニットセルが、平面を基準として高さ方向に積層されている構造で構成されており、
前記ユニットセルのうち電極組立体の下部に位置するベースユニットセルを有し、
前記ベースユニットセルを除いた残りのサブユニットセルは、それぞれ分離膜が介在した状態で積層されている構造からなっており、
前記サブユニットセルは、両面に位置した極板の電極の種類が互いに異なるフルセルである、電極組立体。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点)
「ユニットセルのうち電極組立体の下部に位置するベースユニットセル」が、本件補正発明は、「一つのシート状の分離フィルムによって2つ以上のベースユニットセルが巻き取られて一体型のベース構造をなしており、」「1つ以上の正極と1つ以上の負極が、分離膜が介在した状態で積層された構造において、両面に位置した電極の種類が同一であるバイセルからなっており、」「前記バイセルは、同じ大きさで構成されている」のに対し、引用発明は、「ワインディング型のスタック・アンド・フォールディング型ユニットセル62」であって、「長方形分離膜40上に単一電極10を配列し、これを折り畳むことで形成されたもので、一定方向に巻取して形成するものであ」る点。

6 判断
ア 引用文献1には、「スタック・アンド・フォールディング型ユニットセル61、62は、長方形分離膜40上に単一電極10またはユニットセルを配列し、これを折り畳むことで形成されたもの」(上記4(1)[124])であると記載されているから、引用発明の「スタック・アンド・フォールディング型ユニットセル62」は、「単一電極10」に代えて、「ユニットセル」を折り畳むことで形成することが示唆されているといえる。
イ また、引用文献1には、「ユニットセルは、負極と正極が分離膜を境界として交互に順次積層されているものであって、上記負極及び正極が一つずつ積層されたユニットセル(モノセル)であってもよく、負極及び正極のうち少なくとも一つは複数個であってもよい。即ち、両面に負極が配置され、上記負極の間に正極が配置されるユニットセル(C型バイセル)、または両面に正極が配置され、上記正極の間に負極が配置されたユニットセル(A型バイセル)であってもよい」(上記4(1)[79])と記載され、この記載から、ユニットセルはモノセルでもバイセルでもよいことが読み取れる。
ウ そうすると、上記ア及びイから、引用文献1には、引用発明の「スタック・アンド・フォールディング型ユニットセル62」を、「単一電極10」を折り畳むことに代えて、「バイセル」の「ユニットセル」を折り畳むことで形成することが示唆されているといえる。
エ 一方、上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項(以下、「相違事項」という。)に関し、引用事項の「電気化学セルにおいて、中心にあるバイセル23が1枚の分離フィルム19により周囲を巻かれており、その上下に該分離フィルム19を介してそれぞれバイセル24が積層するように該分離フィルムにより巻かれ、さらにその上下に該分離フィルム19を介してそれぞれバイセル23が積層するように該分離フィルム19により巻かれているものであり、一つのバイセル23は負極を中央に位置して正極を両外側に構成したバイセルで、他のバイセル24は正極を中央に位置して負極を両外側に構成するバイセルであり、バイセル23、24は同じ大きさである事項」は、相違事項の「一つのシート状の分離フィルムによって2つ以上のベースユニットセルが巻き取られて一体型のベース構造をなしており、」「1つ以上の正極と1つ以上の負極が、分離膜が介在した状態で積層された構造において、両面に位置した電極の種類が同一であるバイセルからなっており、」「前記バイセルは、同じ大きさで構成されている」事項とは、「一つのシート状の分離フィルムによって2つ以上のベースユニットセルが巻き取られて一体型の」「構造をなしており、」「ベースユニット」が「1つ以上の正極と1つ以上の負極が、分離膜が介在した状態で積層された構造において、両面に位置した電極の種類が同一であるバイセルからなっており、」「前記バイセルは、同じ大きさで構成されている」との事項で一致するものである。
オ また、引用文献1には、「本発明の一具現例によると、多様な形態の電極組立体を提供することができ、急激なモバイル機器のデザイン変化に対し、より効果的に対応できる」(上記4(1)[43])と記載されている。
カ したがって、引用発明の「ワインディング型のスタック・アンド・フォールディング型ユニットセル62」において、「長方形分離膜40上に単一電極10を配列し、これを折り畳むことで形成されたもの」に代えて、「バイセル」の「ユニットセル」を配列したものを折り畳むようにするにあたり、引用事項を適用して、当該「バイセル」として、同じ大きさのバイセル23,24を積層しながら分離フィルム19を巻いた電気化学セルとすること、すなわち、相違点に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。
キ そして、本件補正発明によって奏される効果も、引用発明と引用事項から予測し得る範囲のものであって格別のものとはいえない。
ク よって、本件補正発明は、引用発明と引用事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

ケ なお、本件補正発明は、各ユニットセルがどの電極で積層されるのか特定されていないが、仮に、請求項8のような限定がなされている場合について以下検討する。
コ 引用発明は、「ユニットセル51が上から分離膜40、負極20、分離膜40、正極30の順で積層されている」から、「ユニットセル51」の最下部の電極は「正極30」であるのに対し、引用事項は、「中心にあるバイセル23が1枚の分離フィルム19により周囲を巻かれており、その上下に該分離フィルム19を介してそれぞれバイセル24が積層するように該分離フィルムにより巻かれ、さらにその上下に該分離フィルム19を介してそれぞれバイセル23が積層するように該分離フィルム19により巻かれているものであり、一つのバイセル23は負極を中央に位置して正極を両外側に構成したバイセルで、他のバイセル24は正極を中央に位置して負極を両外側に構成するバイセルであ」って、最も外側の電極は「正極」であるから、上記カのように、引用発明において、仮に、引用事項の「バイセル」をそのままの構成で適用した場合、引用発明の「ユニットセル51」の最下部の「正極30」と、引用発明の「ユニットセル62」の最上部の「正極」とが重なってしまい、電池として機能しない部分が生成されることとなり不合理である。
サ しかしながら、引用文献1には、「段差を形成する対面電極は、面積の大きいユニットセルの対面電極として負極20が配置されることが好ましい」(【0058】)、「電極組立体1の上端及び下端の両面には、負極20が位置するようにユニットセルを配置することが好ましい」(【0059】)と記載されているし、引用文献2には、「重畳された電池の最も外側の方向バイセル23あるいは24そのいずれに終わっても構わない」(【0026】)とも記載されているから、上記カの「バイセル」の適用の際に、「ユニットセル62」の最も外側方向のバイセルとして、正極を中央に位置して負極を両側に構成するバイセル24が配置されるように適用することは、当業者が容易になし得たことである。

7 審判請求人の主張について
審判請求人は、平成30年9月3日に提出した上申書(以下、単に「上申書」という。)において、「引用文献1及び2には、剛性の向上に関する開示も示唆もない為、やはり、本願発明には剛性における以下の優位性ポイントが存在します」(【上申の内容】の2.の2-2の(1)第14?15行)、「電極の数(又はセルの数)、また、電極の分離フィルム、電極板、及び電極の材質が同等の場合、電極板の数がより多くなるバイセルの方の剛性がより高くなります」(同第30?32行)と主張している。
確かに、本願明細書には、「バイセルは、同じ大きさで形成され、一つのシート状の分離フィルムによって巻き取られて一体型のベース構造をなすので、所望の水準の剛性を確保することができる」(【0024】)、「バイセルがシート状の分離膜210によって巻き取られる一体型のベース構造220の上端に、矢印方向にフルセル構造のサブユニットセル231,232が積層されるハイブリッド型構造を有することによって、・・・(略)・・・フルセルのみで構成する電極組立体と比較して一体型のベース構造220を含むことによって、電池セルに所望の水準の剛性を確保することができる」(【0110】)と記載されている。
しかしながら、通常、セルの剛性は、その素材、厚み、積層方法等の物理的条件で決定されるものであるところ、本件補正発明には、これらの物理的条件が特定されていない。
また、セルの素材、厚み、積層方法等の物理的条件が同じ条件であったとしても、同程度の出力の電極組立体を形成しようと考えた場合、バイセルであってもフルセルであっても正極、負極及びその間の分離フィルムの数は同じ数が必要となり、両者の電極組立体の厚さは変わらないこととなるから、必ずしも、フルセルに比してバイセルの剛性が向上するとはいえない。むしろ、一つのシート状の分離フィルムで各セルを巻くことを考えると、3つの電極を有するバイセルよりも2つの電極を有するフルセルの方が、より多くのセルを用いることとなり一つのシート状の分離フィルムの券回数が多くなって、バイセルの電極組立体の剛性に比して、フルセルの電極組立体の剛性の方が高くなるとも考えられるから、この点からもフルセルに比してバイセルの剛性が向上するとはいえない。
よって、審判請求人の主張に根拠はない。

また、審判請求人は上申書において、請求項8に記載された事項を請求項1に組み入れることを提案している。
しかしながら、上記6で検討したように、引用発明において、引用事項を適用し、その際に、「ユニットセル62」の最も外側方向のバイセルとして、正極を中央に位置して負極を両側に構成するバイセル24が配置されるように適用することは、当業者が容易になし得たことであるから、結局請求項8に記載された事項を請求項1に組み入れたとしても、結論は変わらない。

8 本件補正についての補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年2月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成29年8月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(上記第2の1参照。)。

2 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された引用文献1、2、その記載事項、引用発明及び引用事項は、上記第2の4に記載したとおりである。

3 対比及び判断
本願発明は、本件補正発明の発明特定事項である「1つ以上の正極と1つ以上の負極が、分離膜が介在した状態で積層された構造において、両面に位置した電極の種類が同一であるバイセル」について、「同じ大きさで構成されている」との事項を省いたものである。
ここで、本願発明の発明特定事項を全て含み、上記事項を限定した本件補正発明が、上記第2の4?6に記載したとおり、引用発明及び引用事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び引用事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-12-12 
結審通知日 2018-12-17 
審決日 2018-12-28 
出願番号 特願2016-534143(P2016-534143)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01M)
P 1 8・ 572- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 知宏  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 板谷 一弘
土屋 知久
発明の名称 階段構造のハイブリッド電極組立体  
代理人 渡部 崇  
代理人 実広 信哉  

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