ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P |
---|---|
管理番号 | 1351781 |
審判番号 | 不服2018-996 |
総通号数 | 235 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-07-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-01-24 |
確定日 | 2019-05-16 |
事件の表示 | 特願2015-222107「主電源電圧の異常判定機能を有するモータ駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月25日出願公開、特開2017- 93190〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、平成27年11月12日の出願であって、平成29年7月20日に手続補正書が提出され、同年8月24日付けで拒絶理由が通知され、同年10月31日に意見書が提出されたが、同年11月7日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成30年1月24日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされた。 そして、当審から同年12月5日付けで拒絶理由が通知され、平成31年2月12日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 平成30年12月5日付け拒絶理由通知の概要 平成30年12月5日付けで当審が通知した拒絶の理由のうちの理由1(新規性)、理由2(進歩性)は次のとおりである。 ●理由1(新規性) この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 ●理由2(進歩性) この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 また、この出願の請求項4、5に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び下記の引用文献2に例示された周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1.特開平5-342977号公報 引用文献2.特開平4-355627号公報 第3 本願発明 この出願の請求項1?5に係る発明は、平成31年2月12日に提出された手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「電磁接触器を介してモータ駆動に用いられる交流電源が供給されるモータ駆動装置であって、 前記電磁接触器の接点が開離している状態において、前記交流電源から前記電磁接触器の接点に至るまでの経路における電圧である前記電磁接触器の交流電源入力側における交流電源電圧を監視する監視部と、 前記監視部により監視された前記交流電源電圧が正常であるか否かを判定する判定部と、 前記電磁接触器の接点の開閉を制御する指令を出力する電磁接触器制御部と、 を前記モータ駆動装置内に備え、 前記判定部により前記交流電源電圧が異常であると判定された場合、前記電磁接触器制御部は、前記電磁接触器の接点が閉成するよう制御する閉指令を出力せずに、前記電磁接触器の接点が開離するよう制御する開指令の出力を維持することを特徴とするモータ駆動装置。」 第4 引用文献に記載された事項 1 引用文献1の記載 ア.当審が通知した拒絶の理由で引用された引用文献1には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付した。)。 (ア)「【0006】 【実施例】図1において、本発明にかかわる電磁スイッチ用の適正電圧検出保護装置1は、電磁スイッチ2が有する励磁コイル3の途中に設けられるとともに、例えば3相交流の電源電圧Pからなる回路電圧Vを開閉制御するコイル電源スイッチ4を有して、電源電圧Pが適正な定格電圧範囲である場合にのみ励磁コイル3に電流Iを流して、電磁スイッチ2の可動接点20を固定接点22に接触させることで、例えば3相交流のインダクション・モータMを有する負荷装置5を稼働させる。 【0007】適正電圧検出保護装置1は、整流回路10と、入力電圧検出回路12と、スイッチング回路14と、駆動回路16とを基本的な回路構成とするもので、電源電圧Pが適正な定格電圧範囲(この範囲は負荷装置5により変化するが、例えば、90%?110%)である場合にのみ励磁コイル3に電流Iを流して電磁スイッチ2を導通させて電源電圧Pを負荷装置5に供給するとともに、電源電圧Pが定格電圧の90%以下の過小範囲にある場合、あるいは電源電圧Pが定格電圧の110%以上の過大範囲にある場合には、励磁コイル3への電流供給を停止して電磁スイッチ2を遮断し、負荷装置5が適正な定格電圧範囲内で稼働するように保護する回路構成となっている。」 (イ)「【0009】図1と図2とにおいて、適正電圧検出保護装置1の整流回路10は、交流または直流の電源電圧Pから回路電圧Vを得て、入力電圧検出回路12、スイッチング回路14および駆動回路16に作動電源Vccを提供する。入力電圧検出回路12は、少なくとも3つの電圧比較手段として、例えば適正電圧比較手段12a、過大電圧比較手段12bおよび過小電圧比較手段12cを備えて、それぞれ電源電圧Pの過小、適正および過大を検出して、それぞれの設定電圧値に達している部分はハイ・レベル信号Hを出力しそれぞれの設定電圧値に達していない場合はロー・レベル信号Lを出力する。スイッチング回路14は、論理判別手段14aを備えて、入力電圧検出回路12からのハイまたはロー・レベル信号H,Lの組合せにより電源電圧Pが過小、適正または過大であるかを判別して、電源電圧Pが適正範囲にある場合にのみハイ・レベルの駆動信号HDを出力し、電源電圧Pが過小または過大である場合はロー・レベルの駆動信号LDを出力する。駆動回路16は、電流増幅手段16aを備えて、スイッチング回路14がハイ・レベルの駆動信号HDを出力する場合にのみオン状態となって電磁スイッチ2の励磁コイル3に電流Iを流して電磁スイッチ2の接点20,22を閉じて負荷装置5に電源電圧Pを提供し、スイッチング回路14がロー・レベルの駆動信号LDを出力する場合はオフ状態となって電源スイッチ2の磁励気コイル3に流れる電流Iを遮断して電磁スイッチ2の接点20,22を開いて電源電圧Pの提供を停止する。」 (ウ)「【0010】図3において、図2を参照しながら、本発明にかかわる適正電圧検出保護装置1の具体的な回路構成例を説明する。整流回路10は、ブリッジ整流器BG1を採用しているので直流でも交流でも使用可能で、直流の場合は入力電流の極性を考慮する必要がなく、図示のような直流の場合は、ブリッジ整流器BG1から比較的高圧の直流電流(h)が出力されるとともに、その電圧値が回路電圧Vの約1.41倍となるように設定している。そして、この直流電流(h)は抵抗R1を介して入力電圧検出回路12に比較用電圧V2を提供するとともに、抵抗R17およびツェナー・ダイオードZD4を介して入力電圧検出回路12、スイッチング回路14および駆動回路16に作動電源Vccを提供する。」 (エ)「【0011】入力電圧検出回路12は、電圧比較手段として、図2の入力電圧検出回路12aに対応する第1コンパレータOP1と、同じく過大電圧検出回路12bに対応する第2コンパレータOP2と、同じく過小電圧検出回路12cに対応する第3コンパレータOP3とを備えて、比較用電圧V2から第1コンパレータPO1により適正電圧V_(E)を、同様に第2コンパレータOP2により過大電圧V_(O)を、同様に第3コンパレータOP3により過大電圧V_(R)をそれぞれ検出するとともに、V_(O)>V_(E)>V_(R)という関係が成立するので、比較用電圧V2が各コンパレータOP1,OP2,OP3の設定電圧値に達した時に、各コンパレータOP1,OP2,OP3はハイ・レベル信号Hをそれぞれのラインa,b,cに出力し、各設定電圧値に達しない時にはロー・レベル信号Lをそれぞれのラインa,b,cに出力する。」 (オ)「【0017】また、このスイッチング回路14がスタート時にハイ・レベル信号HDを出力することがないように、抵抗R18およびコンデンサC3により積分回路を形成して出力ラインQがロー・レベル信号LDを初期出力するように構成するとともに、電源電圧P→回路電圧V→比較用電圧V2の値により、比較用電圧V2が過小電圧V_(R)より小さい時、つまりV2<V_(R)の場合、各コンパレータOP1,OP2,OP3ともロー・レベル信号Lを出力して、回路内のロジック状態は表2のようになる。回路中、eラインをフリップ・フロップIC4のリセット・ラインRに接続し、fラインをセット・ラインに接続しており、出力ラインQはロー・レベル信号LDを出力している。」 イ.記載事項(ア)?(オ)及び図1?図3の記載からみて、以下の事項が理解できる。 (カ)整流回路10は、電磁スイッチ2の接点20,22の入力側における電源電圧Pから回路電圧Vを得ている。 (キ)整流回路10は、入力電圧検出回路12に比較用電圧V2を提供している。 (ク)入力電圧検出回路12は、適正電圧比較手段12a、過大電圧比較手段12bおよび過小電圧比較手段12cを備え、整流回路10から提供された比較用電圧V2がそれぞれの設定電圧値に達している場合はハイ・レベル信号Hを出力し、それぞれの設定電圧値に達していない場合はロー・レベル信号Lを出力している。 (ケ)スイッチング回路14は、入力電圧検出回路12からのハイまたはロー・レベル信号H,Lの組合せにより前記電源電圧Pが過小、適正または過大であるかを判別して、電磁スイッチ2の接点20,22を閉じるハイ・レベルの駆動信号HD又は電磁スイッチ2の接点20,22を開くロー・レベルの駆動信号LDを出力し、前記電源電圧Pが過小または過大であると判別すると、電磁スイッチ2の接点20,22を開くロー・レベルの駆動信号LDを出力する。 2 引用発明 引用文献1の前記記載事項(ア)?(ケ)及び図面の図示内容を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「電磁スイッチ2が導通されて3相交流の電源電圧Pが供給される3相交流のインダクション・モータMを有する負荷装置5と、前記負荷装置5を適正な定格電圧範囲内で稼働するように保護する適正電圧検出保護装置1とを備える装置であって、 前記電磁スイッチ2の接点20,22の入力側における3相交流の電源電圧Pから回路電圧Vを得て、入力電圧検出回路12に比較用電圧V2を提供する整流回路10と、 適正電圧比較手段12a、過大電圧比較手段12bおよび過小電圧比較手段12cを備え、前記整流回路10から提供された比較用電圧V2がそれぞれの設定電圧値に達している場合はハイ・レベル信号Hを出力し、それぞれの設定電圧値に達していない場合はロー・レベル信号Lを出力する入力電圧検出回路12と、 前記入力電圧検出回路12からのハイまたはロー・レベル信号H,Lの組合せにより前記電源電圧Pが過小、適正または過大であるかを判別して、前記電磁スイッチ2の接点20,22を閉じるハイ・レベルの駆動信号HD又は前記電磁スイッチ2の接点20,22を開くロー・レベルの駆動信号LDを出力するスイッチング回路14と、 を前記適正電圧検出保護装置1が備え、 前記スイッチング回路14が、前記電源電圧Pが過小または過大であると判別すると、前記電磁スイッチ2の接点20,22を開くロー・レベルの駆動信号LDを出力する装置。」 第5 対比 以下、本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「電磁スイッチ2」、「3相交流の電源電圧P」及び「3相交流のインダクション・モータM」は、それぞれ本願発明の「電磁接触器」、「交流電源」及び「モータ」に相当する。 そして、引用発明の「電磁スイッチ2が導通されて3相交流の電源電圧Pが供給される3相交流のインダクション・モータMを有する負荷装置5と、前記負荷装置5を適正な定格電圧範囲内で稼働するように保護する適正電圧検出保護装置1とを備える装置」と、本願発明の「電磁接触器を介してモータ駆動に用いられる交流電源が供給されるモータ駆動装置」とを対比すると、引用発明の3相交流の電源電圧Pが、3相交流のインダクション・モータMの駆動に用いられるものであることは明らかであるから、両者は「電磁接触器を介してモータ駆動に用いられる交流電源が供給される装置」である点において共通する。 引用発明の「電磁スイッチ2の接点20,22」は、本願発明の「電磁接触器の接点」に相当し、引用発明の「ハイ・レベルの駆動信号HD」及び「ロー・レベルの駆動信号LD」は、それぞれ本願発明の「閉指令」及び「開指令」に相当する。また、引用文献1の記載事項(オ)によると、スイッチング回路14は、スタート時にハイ・レベルの駆動信号HDを出力することがないように、ロー・レベルの駆動信号LDが初期出力されるように構成されており、このとき電磁スイッチ2の接点20,22は開いているから、引用発明の「整流回路10」は、少なくともスタート時において、電磁スイッチ2の接点20,22が開いた状態で、3相交流の電源電圧Pから回路電圧Vを得て、入力電圧検出回路12に比較用電圧V2を提供しているから、引用発明の「前記電磁スイッチ2の接点20,22の入力側における3相交流の電源電圧Pから回路電圧Vを得て、入力電圧検出回路12に比較用電圧V2を提供する整流回路10」は、本願発明の「前記電磁接触器の接点が開離している状態において、前記交流電源から前記電磁接触器の接点に至るまでの経路における電圧である前記電磁接触器の交流電源入力側における交流電源電圧を監視する監視部」に相当する。 引用発明の「入力電圧検出回路12」と「スイッチング回路14」とは、全体として、整流回路10から提供された比較用電圧V2を用いて、電源電圧Pが過小、適正または過大であるかを判別することにより、電磁スイッチ2の接点20,22を閉じるハイ・レベルの駆動信号HD又は電磁スイッチ2の接点20,22を開くロー・レベルの駆動信号LDを出力するものであるから、引用発明の「適正電圧比較手段12a、過大電圧比較手段12bおよび過小電圧比較手段12cを備え、前記整流回路10から提供された比較用電圧V2がそれぞれの設定電圧値に達している場合はハイ・レベル信号Hを出力し、それぞれの設定電圧値に達していない場合はロー・レベル信号Lを出力する入力電圧検出回路12」と「前記入力電圧検出回路12からのハイまたはロー・レベル信号H,Lの組合せにより前記電源電圧Pが過小、適正または過大であるかを判別して、前記電磁スイッチ2の接点20,22を閉じるハイ・レベルの駆動信号HD又は前記電磁スイッチ2の接点20,22を開くロー・レベルの駆動信号LDを出力するスイッチング回路14」とを合わせたものが、本願発明の「前記監視部により監視された前記交流電源電圧が正常であるか否かを判定する判定部」と「前記電磁接触器の接点の開閉を制御する指令を出力する電磁接触器制御部」とを合わせたものに相当する。 引用発明の「前記電源電圧Pが過小または過大であると判別」するという事項は、本願発明の「前記交流電源電圧が異常であると判定」されるという事項に相当する。また、引用文献1の記載事項(オ)によると、前記したようにスイッチング回路14は、スタート時にハイ・レベルの駆動信号HDを出力することがないように、ロー・レベルの駆動信号LDが初期出力されるように構成されており、この状態におけるスタート直後に、スイッチング回路14が、電圧電源Pが過小または過大であることを判別した場合には、(ハイ・レベルの駆動信号HDを出力せずに)ロー・レベルの駆動信号LDを出力することになるが、この時、初期出力のロー・レベルの駆動信号LDが維持されることになる。さらに、引用文献1の記載事項(オ)によると、引用発明のハイ・レベルの駆動信号HD及びロー・レベルの駆動信号LDは、フリップ・フロップIC4の出力ラインQから出力されるものであるから、一方の駆動信号が出力された後は、他方の駆動信号が出力されるまで、一方の駆動信号の出力が維持されるものと解される。すると、引用発明の「前記スイッチング回路14が、前記電源電圧Pが過小または過大であると判別すると、前記電磁スイッチ2の接点20,22を開くロー・レベルの駆動信号LDを出力する」という事項は、本願発明の「前記判定部により前記交流電源電圧が異常であると判定された場合、前記電磁接触器制御部は、前記電磁接触器の接点が閉成するよう制御する閉指令を出力せずに、前記電磁接触器の接点が開離するよう制御する開指令の出力を維持する」という事項に相当する。 したがって、本願発明と引用発明とは、 「電磁接触器を介してモータ駆動に用いられる交流電源が供給される装置であって、 前記電磁接触器の接点が開離している状態において、前記交流電源から前記電磁接触器の接点に至るまでの経路における電圧である前記電磁接触器の交流電源入力側における交流電源電圧を監視する監視部と、 前記監視部により監視された前記交流電源電圧が正常であるか否かを判定する判定部と、 前記電磁接触器の接点の開閉を制御する指令を出力する電磁接触器制御部と、 を備え、 前記判定部により前記交流電源電圧が異常であると判定された場合、前記電磁接触器制御部は、前記電磁接触器の接点が閉成するよう制御する閉指令を出力せずに、前記電磁接触器の接点が開離するよう制御する開指令の出力を維持する装置。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点] 本願発明は「モータ駆動装置」の発明であって、監視部、判定部及び電磁接触器制御部が「モータ駆動装置内」に備えられているのに対して、引用発明は負荷装置5と適正電圧検出保護装置1とを備える装置の発明であって、「3相交流のインダクション・モータMを有する負荷装置5」を備えるものの、この負荷装置5がモータ駆動装置を備えるか不明であり、また、整流回路10、入力電圧検出回路12及びスイッチング回路14を備えた適正電圧検出保護装置1が負荷装置5内に備えられていない点。 第6 判断 1 相違点について 以下、相違点ついて検討する。 モータを駆動する装置において、モータ駆動装置を設けるとともに、このモータ駆動装置内にモータに関する異常や故障を監視・判定し、この異常や故障に対応する制御指令を出力する構成を設けることは、例えば特開2013-219875号公報(特に段落【0026】、【0028】、【0036】-【0037】及び図5を参照)、特開2004-140919号公報(特に段落【0007】-【0008】及び図1を参照)、特開2007-306758号公報(特に段落【0018】及び図1を参照)及び特開2009-148065号公報(特に段落【0019】-【0022】及び図1を参照)に記載されているように、この出願の出願前から周知の事項である。 そして、引用発明と前記した周知の事項とは、モータを駆動する装置に関するものである点で技術分野が共通する上、モータに関する保護を行うという共通の作用・機能を備えるものである。 ここで、引用発明の「3相交流のインダクション・モータMを有する負荷装置5」がモータ駆動装置を備えるものであるか、引用文献1に明示されてはいないが、引用発明はモータを駆動するものであるから、「負荷装置5」は、インバータ等のモータ駆動装置を備えているといえる。そして、異なる構成や機能を有する複数の装置を別々の装置に分離して設けるか、単一の装置内にまとめて設けるかは、当業者が装置を設置する空間の形状や大きさ等を勘案して、適宜、選択し得る事項であるから、引用発明と技術分野や作用・機能が共通する前記周知の事項にならい、引用発明のモータ駆動装置を当然に備えた負荷装置5内に、その負荷装置5を保護するための整流回路10、入力電圧検出回路12及びスイッチング回路14を設け、又はモータ駆動装置を当然に備えた負荷装置5内に、その負荷装置5を保護する整流回路10、入力電圧検出回路12及びスイッチング回路14と同様の機能を備えさせ、本願発明の前記相違点に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものである。 2 本願発明の効果について 本願発明の作用効果については、引用発明及び前記周知の事項から当業者が予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 3 請求人の主張について 審判請求人は、平成31年2月12日に提出した意見書において、「引用文献1に記載された発明によれば、監視・判定のためのスイッチング回路14は、モータ駆動装置の外部に設けられますので、設備が大型化する欠点があります。 これに対し、本願の新請求項1に係る発明によれば、監視部、判定部、及び電磁接触器制御部はモータ駆動装置内に設けられますので、その結果、モータ駆動装置が設けられる装置や建物に占める占有面積を小さくすることができるという、引用文献1に記載された発明では得られない利点があります。 仮に監視部、判定部、及び電磁接触器制御部をモータ駆動装置の外部に設けるとした場合、監視部、判定部、及び電磁接触器制御部を絶縁するための筐体もしくは外部ノイズから保護するための筐体が必要となり、その結果、装置の大型化は避けられないと思料します。加えて、監視部、判定部、及び電磁接触器制御部に電源を供給するための電力線やノイズ対策のための接地線を別途配線する必要があります。本願の新請求項1に係る発明によれば、監視部、判定部、及び電磁接触器制御部はモータ駆動装置内に内蔵されますので、上述の電力線及び接地線をモータ駆動装置内の制御系の電力線及び接地線と共有することできますので、配線を削減することができます。上述のように引用文献1に記載された発明では、監視・判定のためのスイッチング回路14はモータ駆動装置の外部に設けられますので、スイッチング回路14のための電力線及び接地線の配線が別途必要になるという欠点があります。仮にスイッチング回路14を負荷装置5(モータ駆動装置)に内蔵しかつ当該内蔵に伴い発生し得る判定処理回路へのノイズや熱の問題を回避できたとしても、引用文献1の出願当時の技術では負荷装置5(モータ駆動装置)の大型化は避けられないことから、引用文献1に記載された発明においてスイッチング回路14はモータ駆動装置の内部ではなく外部に設けられたものと思料いたします。」と主張している。 しかしながら、前記「1」の相違点についての検討で示したように、モータ駆動装置内にモータに関する異常や故障を監視・判定し、この異常や故障に対応する制御指令を出力する構成を設けることは、この出願の出願前から周知の事項であり、引用発明の適正電圧検出保護装置1の構成や機能を周知の事項にならい、負荷装置5内に備えるようにすれば、装置全体の小型化や配線の削減が図れることは、当業者が予測し得ることにすぎない。すると、審判請求人の主張する本願発明の利点は、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものとはいえないから、審判請求人の前記主張を採用することはできない。 また、審判請求人は、前記意見書において、「本願の新請求項1に係る発明によれば、交流電源から電磁接触器の接点に至るまでの経路における電圧である電磁接触器の交流電源入力側における交流電源電圧を監視しますので、交流電源が三相である場合も三相すべてについて監視することができます。これに対し、引用文献1に記載された発明は、異常監視対象が一相分であると思料いたします。」と主張している。 しかしながら、本願発明の発明特定事項には、交流電源が三相であることや、三相すべてについて監視することが特定されておらず、「交流電源が三相である場合も三相すべてについて監視することができます。」という審判請求人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づく主張とはいえず、採用することができない。 4 まとめ したがって、本願発明は、引用発明及び前記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、このような特許を受けることができない発明を包含するこの出願は、この出願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-03-13 |
結審通知日 | 2019-03-19 |
審決日 | 2019-04-01 |
出願番号 | 特願2015-222107(P2015-222107) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WZ
(H02P)
P 1 8・ 536- WZ (H02P) P 1 8・ 537- WZ (H02P) P 1 8・ 121- WZ (H02P) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 池田 貴俊 |
特許庁審判長 |
佐々木 芳枝 |
特許庁審判官 |
柿崎 拓 堀川 一郎 |
発明の名称 | 主電源電圧の異常判定機能を有するモータ駆動装置 |
代理人 | 廣瀬 繁樹 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 三橋 真二 |