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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02C
管理番号 1351836
審判番号 不服2018-5291  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-18 
確定日 2019-05-15 
事件の表示 特願2016-526266「高温荷重下でのクリープ滑り耐性を向上させる加工表面を有するシリカ賦形物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年5月7日国際公開、WO2015/065573、平成28年12月1日国内公表、特表2016-537548〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)8月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年10月31日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成29年5月23日付け(発送日:平成29年5月30日)で拒絶の理由が通知され、その指定期間内の平成29年8月30日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成29年12月8日付け(発送日:平成29年12月19日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成30年4月18日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成30年4月18日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成30年4月18日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について
(1)本件補正前の平成29年8月30日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
耐環境皮膜(EBC)系を有する物品を形成する方法であって、当該方法が、
物品の基材の表面のケイ素含有領域上にケイ素含有層を形成することと、
ケイ素含有層にケイ素含有材料を付加すること又はケイ素含有層の一部を取り去ることによってケイ素含有層に複数の溝部と隆条部を形成することと、
ケイ素含有層を覆う1以上の外側層を形成すること
を含んでおり、ケイ素含有層にケイ素含有材料を付加することがマスクを介してケイ素含有層にケイ素含有材料を溶射することを含んでおり、ケイ素含有層から材料を取り去ることがマスクを介してケイ素含有層に粒子を吹き付けることを含んでおり、マスクが60?120ミル(1.5?3mm)の厚さを有する、方法。」

(2)そして、本件補正により、上述の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおり補正された(下線は、請求人が補正箇所を示すために付したものである。)。
「【請求項1】
耐環境皮膜(EBC)系を有する物品を形成する方法であって、当該方法が、
複数の溝部と隆条部が形成された物品の基材の表面のケイ素含有領域上にケイ素含有層を形成することと、
ケイ素含有層にケイ素含有材料を付加すること又はケイ素含有層の一部を取り去ることによってケイ素含有層に、前記基材の表面の複数の溝部と隆条部にそれぞれ重複する複数の溝部と隆条部を形成することと、
ケイ素含有層を覆う1以上の外側層を形成すること
を含んでおり、ケイ素含有層にケイ素含有材料を付加することがマスクを介してケイ素含有層にケイ素含有材料を溶射することを含んでおり、ケイ素含有層から材料を取り去ることがマスクを介してケイ素含有層に粒子を吹き付けることを含んでおり、マスクが60?120ミル(1.5?3mm)の厚さを有する、方法。」

2.補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「物品の基材の表面」について「複数の溝部と隆条部が形成された物品の基材の表面」との限定を付加し、さらに「ケイ素含有層に複数の溝部と隆条部を形成すること」について「ケイ素含有層に、前記基材の表面の複数の溝部と隆条部にそれぞれ重複する複数の溝部と隆条部を形成すること」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下、「本件補正発明」という。)が、同法同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1.(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2013-516552号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「環境障壁コーティングに加わる熱又は機械的応力を軽減するための特徴体」に関して、図面(特に、図2及び図3を参照。)とともに次の記載がある。(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)

(ア)「【0013】
一般に、本開示は、環境障壁コーティング(EBC)でコーティングされた物品内の熱及び/又は機械的応力を軽減するための技術を対象とする。いくつかの実施例では、本明細書で説明されている技術は、EBCの寿命を延ばすことができる。上で説明されているように、ガス・タービン・エンジンの動翼などの物品は、使用時に大きく変化する温度の効果を受けうる。これらの温度変化は、異なる熱膨張率を有する2つの層及び/又は温度勾配により異なる温度の効果を受ける2つの層の間の界面において熱応力を引き起こしうる。例えば、物品は、基材上に形成されるボンド・コート及びそのボンド・コート上に形成されるEBCでコーティングされうる。いくつかの実施例において、基材/ボンド・コート及びEBCは、異なる熱膨張率を有し、そのため、物品の温度が変化したときに異なる量の熱膨張及び/又は収縮を被る可能性がある。それに加えて、又は代替えとして、EBCは、基材/ボンド・コートにある種の断熱効果をもたらし、その結果、EBC及び基材/ボンド・コートは異なる温度の効果を受ける可能性がある。これは、ボンド・コート及びEBC又は基材及びEBCの界面のところ、又はそれより上のところに熱応力を引き起こし、これは時間の経過とともにEBC内に亀裂を形成し、亀裂を成長させることにつながりうる。最終的に、亀裂が十分なサイズにまで成長すると、EBCの一部が基材/ボンド・コートから剥離する可能性がある。これは、基材又はボンド・コートにとって有害な作用を及ぼしうる、水蒸気などの、環境化学種に曝される基材若しくはボンド・コートの領域を残しうる。いくつかの実施例では、EBCは、EBCを損傷し、EBCにおける亀裂の原因となりうる、破片の影響を受ける可能性がある。これは、基材/ボンド・コートからのEBCの層剥離、及び水蒸気などの、環境化学種への基材/ボンド・コートの曝露も引き起こしうる。
【0014】
本明細書で開示されるのは、EBCにおける亀裂の成長の効果を低減するか、最小にするための技術である。これらの技術は、オーバーレイ又はボンド・コートなどの、基材上に形成される層の表面内に特徴体を形成することを含む。これらの特徴体は、表面の相対的平面性を乱し、亀裂成長若しくは亀裂伝播を遅らせる。特に、亀裂がEBC内に形成され、基材の表面に実質的に平行な平面内で伝播し始めるときに、特徴体は亀裂が成長する必要のある2つの材料間の界面、例えば、EBCとボンド・コート又はボンド・コートと基材との間の界面を与えることによってさらなる亀裂成長を妨げるものとして機能する。実質的に、これらの特徴体は、基材及びEBCを複数のより小さな領域に分離する。亀裂成長は、個別の領域内に発生しうるが、これらの特徴体は、隣接する領域の間の亀裂成長を隠す。」

(イ)「【0025】
図2は、図1に示されているガス・タービン動翼10などのガス・タービン動翼の一実例の一部の断面図である。タービン動翼10は、基材32、基材32上に形成された層34、及び層34上に形成されたEBC36を備える。
【0026】
基材32は、セラミック又はセラミック・マトリックス複合材料(CMC)を含みうる。基材32がセラミックを含む実施例では、セラミックは実質的に均質であってよく、また実質的に単一の相の材料を含みうる。いくつかの実施例では、セラミックを含む基材32は、例えば、シリカ(SiO_(2))、炭化ケイ素(SiC)、又は窒化ケイ素(Si_(3)N_(4))、アルミナ(Al_(2)O_(3))、アルミノケイ酸塩、又は同様のものなどのシリコン含有セラミックを含むことができる。他の実施例では、基材32は、モリブデン・シリコン合金(例えば、MoSi_(2))又はニオブ・シリコン合金(例えば、NbSi_(2))などの、シリコンを含む金属合金を含みうる。
【0027】
基材32がCMCを含む実施例では、基材32は、マトリックス材38及び強化材40を含みうる。マトリックス材38は、例えば、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、アルミノケイ酸塩、シリカ、又は同様の物質を含む、セラミック材料を含みうる。CMCは、所望の強化材40をさらに含むことができ、強化材40は、連続強化材又は不連続強化材を含みうる。例えば、強化材40は、不連続のホイスカ、プレートレット、又は微粒子を含むことができる。他の実例として、強化材40は、連続単繊維又は多繊維織物を含むことができる。
【0028】
強化材40の組成、形状、サイズ、及び同様のものは、基材32に望ましい特性を付与するように選択されうる。例えば、強化材40は、脆いマトリックス材38の強靭性を高めるように選択されうる。強化材40は、基材32の熱伝導率、電気伝導率、熱膨張率、堅さ、又は同様の特性を変更するようにも選択されうる。
【0029】
いくつかの実施例では、強化材40の組成は、マトリックス材38の組成と同じであってもよい。例えば、炭化ケイ素を含むマトリックス材38が、炭化ケイ素ホイスカを含む強化材40を囲むものとしてよい。他の実施例では、強化材40は、アルミナマトリックス中のアルミノケイ酸塩繊維、又は同様のものなどの、マトリックス材38の組成と異なる組成を備えるものとしてよい。基材32の一組成として、炭化ケイ素を含むマトリックス材38中に埋め込まれた炭化ケイ素連続繊維を含む強化材40が挙げられる。
【0030】
基材32に使用することができるいくつかの例示的なCMCとして、マトリックス材38アルミナ又はアルミノケイ酸塩及びNEXTEL(商標)Ceramic Oxide Fiber 720(3M Co.(ミネソタ州セントポール所在)から入手可能)を含む強化材40などの、SiC又はSi_(3)N_(4)及び酸窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素アルミニウム、及び酸化物-酸化物セラミックスの組成物が挙げられる。
【0031】
いくつかの実施例では、強化材40は、基材32の表面のところで確実に露出されないことが望ましい場合がある。そのような実施例では、層34は、基材32の表面42上に形成されうる。層34があれば、強化材40の実質的にどれもが、特徴体46が形成される表面44のところで露出されない可能性が高まりうる。
【0032】
いくつかの実施例では、層34は、基材32のマトリックス材38と同じ材料を含みうる。層34は、例えば、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、シリカ、又は同様の物質を含みうる。このようにして、層34は、基材32の厚さを増やす働きをし、また基材32内の強化材40の上にマトリックス材38の一種の緩衝層を形成することができる。いくつかの実施例では、層34は、基材32の形成時に基材32の表面42上に形成されうる。他の実施例では、層34は、別の製造工程において基材32の表面42上に形成されうる。」

(ウ)「【0034】
EBC36は、層34及び基材32を環境劣化から保護する材料を含みうる。例えば、EBC36は、酸化又は水蒸気攻撃に耐性のある材料を備え、及び/又は水蒸気安定性、化学安定性、及び環境耐久性の少なくとも1つを基材32に付与することができる。EBC36として、例えば、アルミナ・ケイ酸バリウム・ストロンチウム(BaO_(x)-SrO_(1-x)-Al_(2)O_(3)-2SiO_(2)、BSAS)、アルミナ・ケイ酸バリウム(BaO-Al_(2)O_(3)-2SiO_(2)、BAS)、アルミナ・ケイ酸カルシウム(CaO-Al_(2)O_(3)-2SiO_(2)、CAS)、アルミナ・ケイ酸ストロンチウム(SrO-Al_(2)O_(3)-2SiO_(2)、SAS)、アルミナ・ケイ酸リチウム(Li_(2)O-Al_(2)O_(3)-2SiO_(2)、LAS)、及びアルミナ・ケイ酸マグネシウム(2MgO-2Al_(2)O_(3)-5SiO_(2)、MAS)、希土類ケイ酸塩、又は同様のものなどの、ガラス・セラミックスが挙げられる。EBC36は、プラズマ溶射、電子ビーム物理気相成長(EB-PVD)、及び指向性蒸着(DVD)を含む物理気相成長(PVD)、化学蒸着(CVD)、陰極アーク蒸着、スラリー・ディッピング、ゾル・ゲル・コーティング、電気泳動析出、及び同様のものなどの、さまざまな技術によって施され、EBC36の少なくとも一部は、実質的に非多孔性の構造として蒸着されるものとしてよく、これにより、水蒸気若しくは他のガスが基材32に接触する可能性が低減されるか、又は実質的に防止される。いくつかの実施例では、EBC36は、約0.025mm(0.001インチ)から約2.54mm(0.1インチ)までの範囲の厚さを備えることができる。いくつかの好ましい実施例では、EBC36は、約0.076mm(0.003インチ)から約1.27mm(0.05インチ)までの範囲の厚さを備えることができる。
【0035】
図2に示されている実施例では、層34の表面44に、5つの特徴体46a、46b、46c、46d、及び46e(「特徴体46」と総称する)が形成される。特徴体46は、表面44内に形成された溝、隆起部、凹部、又は突起部を備えることができ、これは、例えば、超音波加工、ウォーター・ジェット加工、機械的加工、化学エッチング、フォトリソグラフィ、レーザー加工、レーザー・クラッディング、電解加工、放電加工、微細加工、バイブロピーニング、又は同様のものによって形成されうる。図2に示されている実例では、特徴体46は、層34の表面44上に形成された隆起部若しくは突起部を備えることができる。
【0036】
特徴体46のそれぞれは、表面44の相対的平面性を乱す、例えば、特徴体46のそれぞれは、表面44内に不連続部を形成する。特徴体46は、表面44に対して平行な平面内でのEBC36内の亀裂成長を妨げることができる。特定の理論によって拘束されるものではないが、特徴体46は、結果として、層34とEBC36との間の界面を形成し、この界面上で亀裂は伝播し表面44のプラトー部分の上に配置されたEBC36の一部から層34内に形成された特徴体46のうちの1つまで成長する必要がある。異種材料間の、例えば、層34とEBC36との間の遷移は、これら2つの材料の界面上の亀裂成長を妨げることができ、単一の領域、例えば、層34のプラトー部の上に配置されているEBC36の一部又は特徴体46のうちの1つの上に配置されているEBC36の一部への亀裂成長を含むことができる。したがって、EBC36の一部が基材32からの層剥離を起こす程度にまで亀裂が成長した場合、層剥離するEBC36の部分は、特徴体46のうちの1つの上の部分又は表面44のプラトー部の上の部分に限定されうる。」

(エ)「【0037】
いくつかの実施例では、ガス・タービン動翼10などの、物品は、図2に示されていない少なくとも1つの追加の層を含みうる。例えば、図3に示されているように、ガス・タービン動翼50は、基材32、基材32の表面42上に形成された上張層52、上張層52の表面56上に形成されたボンド・コート54、及びボンド・コート54上に形成されたEBC36を備えることができる。
【0038】
図2に関して上で説明されているように、基材32は、いくつかの実施例において、マトリックス材38及び強化材40を含むCMCを備えることができる。マトリックス材38は、例えば、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、アルミノケイ酸塩、シリカ、又は同様の物質を含む、セラミック材料を含みうる。いくつかの実施例では、強化材40の組成は、マトリックス材38の組成と同じであってもよい。例えば、炭化ケイ素を含むマトリックス材38が、炭化ケイ素ホイスカを含む強化材40を囲むものとしてよい。他の実施例では、強化材40は、アルミナマトリックス中のアルミノケイ酸塩繊維、又は同様のものなどの、マトリックス材38の組成と異なる組成を備えるものとしてよい。基材32の一組成として、炭化ケイ素を含むマトリックス材38中に埋め込まれた炭化ケイ素連続繊維を含む強化材40が挙げられる。
【0039】
上張層52は、基材32のマトリックス材38と同じ組成を備えることができる。例えば、上張層52は、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、アルミノケイ酸塩、シリカ、又は同様の物質を含みうる。このようにして、上張層52は、基材32の厚さを増やす働きをし、また基材32内の強化材40の上にマトリックス材38の一種の緩衝層を形成することができる。いくつかの実施例では、上張層52は、基材32の形成時に基材32の表面42上に形成されうる。他の実施例では、上張層52は、別の製造工程において基材32の表面42上に形成されうる。」

(オ)「【0041】
図3に示されている実例では、特徴体58a、58b、58c(「特徴体58」と総称する)は、上張層52の表面56内に形成された凹部若しくは溝を備える。特徴体58は、超音波加工、ウォーター・ジェット加工、機械的加工、化学エッチング、フォトリソグラフィ、レーザー加工、レーザー・クラッディング、電解加工、放電加工、微細加工、バイブロピーニング、又は同様のものによって形成されうる。」

(カ)「【0071】
最初に、上張層52が、基材32上に形成される(122)。上張層52は、基材32のマトリックス材38と同じ材料を備える。上張層52は、基材32の形成時に基材32上に形成されうるか、又はその後の蒸着工程において基材32上に形成されうる。基材32の形成時に基材32上に形成される場合、上張層52は、例えば、化学蒸気浸透法、化学気相成長法、溶解浸透法、ポリマー前駆物質プロセス、又は同様の方法によって蒸着されうる。上張層52の形成は、強化材40の実質的に完全なカプセル封入が確実になされるように強化材40が覆われた後、追加量のマトリックス材38を蒸着することを含みうる。
【0072】
基材32の形成後に基材32上に形成される場合、上張層52は、例えば、CVD、ポリマー前駆物質プロセス、ゾル・ゲル・プロセス、スラリー・プロセス、プラズマ溶射、PVD、又は同様の方法によって蒸着されうる。上で説明されているように、上張層52は、上張層52内に形成された特徴体58の深さ又は高さより大きい厚さを備えるように形成され、これにより、特徴体が上張層52内に形成されたときに強化材40が露出しない可能性を高めるか、又は確実に露出しないようにすることができる。
【0073】
上張層52が、基材32上に形成された(122)後、特徴体58の配列が上張層52内に形成される(124)。配列は、例えば、直線的な溝若しくは隆起部、正弦波状の溝若しくは隆起部、直線的な、若しくは正弦波状の溝若しくは隆起部によって形成されたグリッド、円形の凹部若しくは突起部、六角形の凹部若しくは突起部、楕円形の凹部若しくは突起部、矩形の凹部若しくは突起部、又はこれらの特徴体58の組み合わせなどの複数の特徴体58を備えることができる。特徴体58が凹部又は溝を備える場合、特徴体58は、例えば、超音波加工、ウォーター・ジェット加工、機械的加工、化学エッチング、フォトリソグラフィ、レーザー加工、電解加工、放電加工、微細加工、バイブロピーニング、又は同様のものによって形成されうる。化学エッチング及びフォトリソグラフィでは、上張層52の一部分が、上張層52と反応する化学薬品に曝され、上張層52から材料が取り除かれる。化学薬品によってエッチングされる場所及び上張層52が化学薬品に曝される時間の長さを制御することによって、特徴体58の深さ及び形状を制御することができる。エッチングされる場所は、化学エッチング液に関して不活性である材料の層で、エッチングされるべきでない上張層52の部分を被覆することによって制御されうる。
【0074】
レーザー加工では、エキシマー・レーザーなどの電磁エネルギーの発生源を使用して、上張層52によって吸収される波長の一連の電磁パルスを発生する。パルスは、エネルギーを吸収する上張層52の部分を蒸発させるのに十分な強さのものである。上張層52の異なる部分の順序曝露を使用して、上張層52の一部又はいくつかの部分を蒸発させて、特徴体58を形成することができる。
【0075】
特徴体58を形成する他の方法として、例えば、加圧水流、研磨剤、研磨剤を混ぜた水、又は上張層52を変形するか、若しくは上張層52から材料を取り除くのに十分に硬いツールによって、上張層52のいくつかの部分を機械的に取り除く方法が挙げられる。
【0076】
特徴体58が隆起部若しくは突起部を備える実施例では、特徴体58は、例えば、レーザー・クラッディングによって形成されうる。レーザー・クラッディングでは、レーザー又は他の電磁エネルギー源が上張層52上に蒸着された材料の領域上に合焦され、これにより、材料を溶融するか、又は焼結し、特徴体58を形成する。上張層52に相対的なレーザー及び追加された材料の位置及び移動を制御することによって、上張層52上に特徴体58の所望の形状を形成するためにレーザー・クラッディングが使用されうる。」

(キ) 上記(エ)及び図3の図示内容からみて、上張層52の表面56上に形成されたボンド・コート54には、上張層52の表面56内に形成された特徴部58に重複する特徴が形成されているといえる。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)並びに以下の記載事項A及びB(以下、「引用文献1の記載事項A」及び「引用文献1の記載事項B」という。)が記載されている。

[引用発明]
「環境障壁コーティング(EBC)でコーティングされた物品のための技術であって、当該技術が、
炭化ケイ素、窒化ケイ素を含むマトリックス材38及び強化材40を含む基材32の強化材40が表面に露出されないように、基材32の表面42上に炭化ケイ素、窒化ケイ素を含む層34を形成することと、
炭化ケイ素、窒化ケイ素を含む層34の表面44に超音波加工、ウォーター・ジェット加工、機械的加工、化学エッチング、フォトリソグラフィ、レーザー加工、レーザー・クラッディング、電解加工、放電加工、微細加工、バイブロピーニング、又は同様のものによって、複数の、溝、隆起部、凹部、又は突起部を備える特徴体46を形成することと、
炭化ケイ素、窒化ケイ素を含む層34上にEBC36を形成することを含む、技術。」

[引用文献1の記載事項A]
「基材32の厚さを増やす働きをし、基材32のマトリックス材38と同じ材料を備える上張層52の表面56内に凹部若しくは溝である特徴体58を形成し、上張層52の表面56上に形成されたボンド・コート54に、上張層52の表面56内に形成された特徴部58に重複する特徴を形成すること。」

[引用文献1の記載事項B]
「特徴体58を形成する方法として、例えば、加圧水流、研磨剤、研磨剤を混ぜた水によって、上張層52のいくつかの部分を機械的に取り除くこと。」

イ 引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2006-36632号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「7FA+e第1段アブレイダブル被膜及びその作製方法」に関して、図面(特に図3を参照。)とともに次の記載がある。

(ア)「【0012】
本発明は、FクラスS1シュラウドのような、第1段(「S1」)ガスタービンシュラウドに用いられる耐熱用(1700゜F以上)アブレイダブル被膜システムに特に適用可能である。被膜システムは、本質的にブレード/バケットの摩耗がゼロ又はわずかで、且つブレード/バケットチッピングを要せずに、1700゜F以上の作動温度で長寿命(最大24,000時間)である利点を有する。このことは、バケット先端にわたる高温ガス漏洩の実質的な低減と、タービン効率の全体的な向上とをもたらす。
【0013】
更に別の態様において、本発明は、ガスタービンシュラウドに適用されるようなグリッド被膜、特に本明細書で説明されるような山形紋又はダイアモンド状グリッド構成を有する被膜のための例示的な設計パラメータを含む。本発明はまた、種々の幾何学的構成の輪郭付けられたアブレイダブル被膜を施工する方法のためのある範囲の好ましい操作条件、並びに種々の構成を用いたグリッドパターン、特に山形紋又はダイアモンド状パターンを形成するために使用される一連の加工段階を含む。」

(イ)「【0020】
図3aは、本発明の1つの手法を示し、ここでは輪郭付けられた被膜16が、基材18、例えば、金属ボンドコート或いはYSZ又はBSASのような別のセラミック層にマスク20を用いて大気プラズマ溶射のような溶射プロセスで施工される。プラズマトーチ22が、矢印26で示されるようにマスク20上を移動し、輪郭付けられた被膜16がボンドコート24上に形成される。該マスクによって生成された山形紋形状が参照符号28で示される。
【0021】
或いは、図3bに表されるような、ダイアモンド形状のアブレイダブル被膜は、2ステップ溶射プロセス、すなわち90゜山形紋金属マスクを通過する第1のプラズマ溶射に続いて、該マスクを180゜回転させて、第1の層の上に第2の90゜山形紋パターンを溶射することによって生成することができる。」

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、整理すると、引用文献2には、以下の事項(以下、「引用文献2の記載事項」という。)が記載されている。

「ボンドコート24上に被膜16を施工することが、マスク20を用いてボンドコート24に被膜16を溶射することによること。」

ウ 引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、米国特許出願公開第2010/0003894号明細書(以下、「引用文献3」という。)には、「Method and apparatus for selectively removing portions of an abradable coating using a water jet」に関して、図面(特にFig.5、Fig.5A、Fig.6及びFig.7)とともに次の記載がある。

(ア)「[0002] The present invention relates to a method for selectively removing portions of an abradable coating from a substrate using a mask or stencil and a water jet, or an abrasive water jet to create a pattern of raised ridges on the abradable coating of the substrate. In typical applications of the present invention, the abradable coating may be a thermal barrier coating (TBC) bonded over a bond coat, or it may be a more abradable coating applied over the TBC, such as a TBC having a filler. A typical bond coat applied to turbine components is known in the trade as a MCrAIY coating.
[0003] Materials for gas turbine combustion components, such as liners, shrouds, blades, and the like, have reached their limits relative to heat in the turbine which may exceed the melting point of the components. Two methods are currently used to increase component life in the turbine. The first method is to add holes to the component so that air or other cooling gas can exit the holes and create a film of air across the surface which helps keep it cool. The second method is to add a coating, such as a TBC coating, to the surface of the part. The present invention relates to turbine components or other substrates that have a coating added using the second method. By way of example, the shroud of a turbine usually is in the form of a continuous ring or a series of panels sequentially arranged in a cylindrical pattern to form an enclosure for a rotating turbine rotor having radially extending turbine blades. Somewhat recently, an abradable coating has been added to the surface of the TBC on a turbine shroud to allow a better seal between the blade tips and housing. Upon initial rotation, the rotating blades on the turbine rotor actually cut into the abradable coating, creating a better seal which improves compression in the turbine. There are a variety of abradable materials that may be used depending on the particular application, such as, for example, a TBC coating having a polyester filler that makes the coating more abradable, nickel graphite and AlSi-polyester. However, the abradable coating may be formed of a variety of other similar and known materials, depending on the application of the present invention.」

(イ)「[0020] FIG.5 illustrates the arrangement of the shroud panel 11, the mask 16, and the water jet nozzle 32. The water jet nozzle 32 will be moved relative to the workpiece holding system 35 and the shroud panel 11 by the control system 38 of the water jet apparatus 23 as shown in the exploded view of 5A. The direction of movement of the water jet nozzle 32 by the control system 38, which is indicated by the direction arrow 19, results in the water jet nozzle 32 being moved along the extent of each of the openings 18, and the water jet 34 will penetrate the mask 16 by passing through each of the openings 18 and the cutting force of the water jet 34 will remove portions of the abradable coating located beneath the openings 18 while leaving in place the portions of the abradable coating 12 that are not located beneath the openings 18 to thereby form the raised ridges 22 on the outer surface of the shroud panel 11. Thus, by using the high pressure water jet 34 to remove selected portions of the abradable coating 12, furrows or grooves 24 are formed in the surface of the abradable coating 12 that correspond to the openings 18 in the masks 16, and the remaining raised ridges 22 of the abradable coating 12 are thereby formed between these furrows.
[0021] FIG.6 shows a plan view of the shroud panel 11 after it has been processed in accordance with the present invention, with the resulting pattern of raised ridges 22 on the surface of the TBC coating 13 due to the removal of the sections of the abradable coating 12 below the openings 18 of the mask 16. FIG.7 is a cross-section view of the shroud panel 11 taken along line A-A in FIG.6 of the finished shroud panel 11 that further shows the resultant ridges 22 left on the surface of the TBC 13. Where the turbine component is one panel 11 of a turbine shroud that forms an enclosure for a rotating turbine blade, the raised ridges 22 will provide a seal for the rotating turbine blade as described above. When the jet 34 passes through the openings 18 in the mask 16 the abrasive effect caused by the jet 34 dissipates somewhat as the jet 34 penetrates the abrasive coating 12, and as a result the furrows are usually formed as inverse pyramids as best seen in FIG.7. Preferably, in turbine shroud panels, the ridges 22 will typically have a height of about 0.045-inch, a width of about 0.075-inch at the base of the ridges, and a width of about 0.020-inch at the top of the ridges 22, but these dimensions may vary.
[0022] It will be expressly understood, however, that the configuration of the ridges 22 as illustrated in FIG.6 are representative only, and the mask 16 may also be designed to form ridges in a wide variety of shapes, sizes and patterns, depending on the application of the present invention. Likewise, the mask may be designed to form the furrows or spaces between the ridges in a wide variety of shapes, sizes and patterns, depending on how the furrows are to be used.」

なお、当審で作成した段落[0002]、[0003]、[0020]ないし[0022]の仮訳は以下のとおりである。

(ア)「[0002] 本発明は、基材のアブレイダブルコーティング上に隆起リッジのパターンを作成するためのマスクまたはステンシルとウォータージェットあるいはアブレイシブウォータージェットを使用して基材からアブレイダブルコーティングの一部を選択的に除去する方法に関する。本発明の典型的な応用例では、アブレイダブルコーティングは、ボンドコートの上に結合された遮熱コーティング(TBC)であってもよいし、フィラーを有するTBC のようなTBC上に施工されるアブレイダブルコーティングでもよい。タービン部品に適用される典型的なボンドコートは、MCrAlYコーティングとして公知である。
[0003] ライナ、シュラウド、ブレードのようなガスタービン燃焼構成部品の材料は、部品の融点を超えるタービンの熱により限界に達している。現在、タービンの構成要素の寿命を増加させるための2つの方法が使われている。第1の方法は、部品に穴を開け、穴から出た空気または他の冷却ガスが、表面を冷えた状態に維持するのを補助する空気膜を表面に形成する。第2の方法は、TBCコーティングのようなコーティングを、部品の表面に加えることである。本発明は第2の方法を用いて加えられたコーティングを有するタービン構成部品または他の基材に関する。一例として、タービンシュラウドは連続的なリング、または、一連の半径方向に延びるタービンブレードを有する回転タービンロータのエンクロージャを形成する、円筒形に配置されたパネルの形態である。最近、アブレイダブルコーティングは、ブレード先端部と筐体の間を良好にシールするためにタービンシュラウド上のTBCの表面に追加されている。初期回転時に、タービンロータ上の回転ブレードは、実際にはアブレイダブルコーティング内へ切り込まれ、タービン内の圧縮を向上させる良好なシールを形成する。例えばコーティングをよりアブレイダブルにするポリエステルフィラーであるニッケル-黒鉛とAlSi-ポリエステルを有するTBCコーティングのような特定の用途に応じて使用する様々なアブレイダブルな材料がある。しかしながら、アブレイダブルコーティングは、種々の他の形態と公知の材料で形成され、本発明の用途に依存する。」

(イ)「[0020] 図5は、シュラウドパネル11、マスク16、及びウォータージェットノズル32の配置を示している。図5Aの分解図に示すように、ウォータージェットノズル32がウォータージェット装置23の制御システム38によってワークピース保持装置35とシュラウドパネル11を移動する。制御システム38によるウォータージェットノズル32の移動方向は、方向矢印19で示されるように、ウォータージェットノズル32の各開口18の長さに沿って移動されることになり、ウォータージェット34は開口部18の各々を通過させることにより、マスク16を貫通し、そしてウォータージェット34の切削力がシュラウドパネル11の外表面上に突出した隆起部22を形成するために開口部18の下方に配置されていないアブレイダブルコーティング12の部分を残したまま、開口部18の下に配置されたアブレイダブルコーティングの一部を除去する。このように、アブレイダブルコーティング12の選択部分を除去するための高圧のウォータージェット34の使用により、マスク16の開口部18に対応するアブレイダブル皮膜12の表面に溝24が形成され、アブレイダブルコーティング12の隆起部22は、これらの溝の間に形成される。
[0021] 図6は、本発明に従って処理され、マスク16の開口部18の下のアブレイダブルコーティング12の部分的な除去により、TBCコーティング13の表面上の隆起部22のパターンとされた後のシュラウドパネル11の平面図を示す。図7は、TBCの表面13上に残された得られた隆起部22を示し、さらに完成したシュラウドパネル11の図6のA-A線に沿って取られたシュラウドパネル11の断面図である。タービン部品は、回転するタービンブレード用のエンクロージャを形成するタービンシュラウドの1つのパネル11であり、隆起部22は、上述したような回転するタービンブレードのシールを提供する。ジェット34がマスク16の開口部18を通過する時、ジェット34によるアブレイダブルの効果は、ジェット34のアブレイダブルコーティング12を貫通するといくぶん消散し、その結果、溝は、通常、図7に最もよく見られるような逆ピラミッドに形成される。好ましくは、タービンシュラウドパネルにおいて、隆起部22は、典型的には、約0.045インチの高さ、尾根の基部で約0.075インチの幅、隆起部22の上面には約0.020インチの幅を有する。これらの寸法は変更することができる。
[0022] 明確に理解される図6に示すような隆起部22の構成は代表的なものにすぎず、またマスク16は、本発明の用途に応じて、様々な形状、サイズ、及びパターンの隆起部を形成するためにデザインされる。同様に、マスクは、溝の用途に応じて様々な形状、サイズ、及びパターンの隆起部間の溝又は空間を形成するためにデザインされる。」

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、整理すると、引用文献3には、以下の事項(以下、「引用文献3の記載事項」という。)が記載されている。

「マスク16の開口部18を介してアブレイダブルコーティング12にウォータージェット34を使用し、アブレイダブルコーティング12を部分的に除去すること。」

(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「環境障壁コーティング(EBC)でコーティングされた」はその機能、構成及び技術的意義からみて前者の「耐環境皮膜(EBC)系を有する」に相当し、以下同様に、「基材32」は「基材」に、「表面42」は「表面」に、「炭化ケイ素、窒化ケイ素を含む層34」は「ケイ素含有層」に、「EBC36」は「外側層」に、「溝、隆起部、凹部、又は突起部を備える特徴体46」は「溝部と隆条部」にそれぞれ相当する。
後者の「炭化ケイ素、窒化ケイ素を含むマトリックス材38及び強化材40を含む基材32の強化材40が基材32の表面に露出されないように、基材32の表面42上に炭化ケイ素、窒化ケイ素を含む層34を形成すること」は、基材32の炭化ケイ素、窒化ケイ素を含む強化材40すなわちケイ素含有領域の上に炭化ケイ素、窒化ケイ素を含む層34を形成することであるから、前者の「物品の基材の表面のケイ素含有領域上にケイ素含有層を形成すること」に相当する。
後者の「炭化ケイ素、窒化ケイ素を含む層34の表面44に超音波加工、ウォーター・ジェット加工、機械的加工、化学エッチング、フォトリソグラフィ、レーザー加工、レーザー・クラッディング、電解加工、放電加工、微細加工、バイブロピーニング、又は同様のものによって」は、ここにレーザー・クラッディングのような材料を付加する加工、或いはウォーター・ジェット加工のような材料の一部を取り去る加工が含まれることに鑑みれば、前者の「ケイ素含有層にケイ素含有材料を付加すること又はケイ素含有層の一部を取り去ることによって」に相当する。
後者の「炭化ケイ素、窒化ケイ素を含む層34上にEBC36を形成すること」は、これにより炭化ケイ素、窒化ケイ素を含む層34がEBC36に覆われることになるから、前者の「ケイ素含有層を覆う1以上の外側層を形成すること」に相当する。
また、このような後者の「環境障壁コーティング(EBC)でコーティングされた物品のための技術」は前者の「耐環境皮膜(EBC)系を有する物品を形成する方法」に相当するといえる。

したがって、両者は、
「耐環境皮膜(EBC)系を有する物品を形成する方法であって、当該方法が、
物品の基材の表面のケイ素含有領域上にケイ素含有層を形成することと、
ケイ素含有層にケイ素含有材料を付加すること又はケイ素含有層の一部を取り去ることによってケイ素含有層に、複数の溝部と隆条部を形成することと、
ケイ素含有層を覆う1以上の外側層を形成することを含む、方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
前者は、「複数の溝部と隆条部が形成された」基材の表面であり、ケイ素含有層に形成される複数の溝部と隆条部が「前記基材の表面の複数の溝部と隆条部にそれぞれ重複する」ものであるのに対し、後者はかかる事項を備えていない点。

[相違点2]
「ケイ素含有層にケイ素含有材料を付加すること又はケイ素含有層の一部を取り去ること」に関し、前者は「ケイ素含有層にケイ素含有材料を付加することがマスクを介してケイ素含有層にケイ素含有材料を溶射することを含んでおり、ケイ素含有層から材料を取り去ることがマスクを介してケイ素含有層に粒子を吹き付けることを含んでおり、マスクが60?120ミル(1.5?3mm)の厚さを有する」のに対し、後者はかかる構成を備えているか不明な点。

(4)判断
相違点について検討する。
相違点1について検討する。
引用文献1には、引用発明と共に以下の引用文献1の記載事項Aが記載されている。
「基材32の厚さを増やす働きをし、基材32のマトリックス材38と同じ材料を備える上張層52の表面56内に凹部若しくは溝である特徴体58を形成し、上張層52の表面56上に形成されたボンド・コート54に、上張層52の表面56内に形成された特徴部58に重複する特徴を形成すること。」
ここで、引用文献1の記載事項Aの上張層52の表面56内に形成される「凹部若しくは溝である特徴体58」は、本件補正発明の基材の表面に形成される「複数の溝部と隆条部」に相当する。
引用文献1の記載事項Aの上張層52は、「基材32の厚さを増やす働きをし」、「基材32のマトリックス材38と同じ材料を備える」ものであり(段落【0039】)、その上に形成されるボンド・コート及びそのボンド・コート上に形成されるEBCでコーティングされるものであるから(段落【0013】及び図3)、引用発明の基材32としての機能を有する層であることが理解できる。また、引用発明の基材32に引用文献1の記載事項Aの上張層52に係る技術が採用できない格別な技術上の困難性も見出せない。
してみると、引用発明の基材32において、引用文献1の記載事項Aの「上張層52の表面56内に凹部もしくは溝である特徴体58を形成する」ことを参酌し、基材32の表面内に「凹部もしくは溝である特徴体」を形成することは、当業者の通常の創作能力の範囲で容易になし得たことである。
そして、引用文献1の記載事項Aは「上張層52の表面56上に形成されたボンド・コート54に、上張層52の表面56内に形成された特徴部58に重複する特徴を形成する」ものであるから、引用発明の基材32の表面内に形成した「凹部もしくは溝である特徴体」を、引用発明の層34の表面44に形成した「溝、隆起部、凹部、又は突起部を備える特徴体46」と重複するように形成することも、当業者であれば容易になし得たことである。
そうすると、引用発明及び引用文献1の記載事項Aに基づいて、当業者の通常の創作能力の範囲で上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

相違点2について検討する。
引用文献1には、引用発明と共に以下の引用文献1の記載事項Bが記載されている。
「特徴体58を形成する方法として、例えば、加圧水流、研磨剤、研磨剤を混ぜた水によって、上張層52のいくつかの部分を機械的に取り除くこと。」
ここで、「研磨剤、研磨剤を混ぜた水」によって「いくつかの部分を機械的に取り除くこと」は本件補正発明の「材料に粒子を吹き付けること」で「材料を取り去ること」に相当する。そして、引用発明における特徴体46の形成は「超音波加工、ウォーター・ジェット加工、機械的加工、化学エッチング、フォトリソグラフィ、レーザー加工、レーザー・クラッディング、電解加工、放電加工、微細加工、バイブロピーニング、又は同様のもの」によるものであり、引用文献1の記載事項Bを「同様のもの」に含めることは、当業者であれば理解し得たことである。
他方、引用文献2の記載事項は
「ボンドコート24上に被膜16を施工することが、マスク20を用いてボンドコート24に被膜16を溶射することによること。」、すなわち、「材料の付加をマスクを介して材料を溶射することで行うこと」であり、引用文献3の記載事項は
「マスク16の開口部18を介してアブレイダブルコーティング12にウォータージェット34を使用し、アブレイダブルコーティング12を部分的に除去すること。」、すなわち「材料の除去をマスクを介して材料に水を吹き付けることで行うこと」である。
ここで、引用文献2の記載事項及び引用文献3の記載事項は、それぞれ材料の付加及び材料の除去により溝部あるいは隆条部を形成する技術に関するものであるから、引用発明と共通する。そして、引用発明に、引用文献2の記載事項及び引用文献3の記載事項が採用できない格別な技術上の困難性を見出すこともできない。
してみると、引用発明において、引用文献2の記載事項及び引用文献3の記載事項を参酌して、炭化ケイ素、窒化ケイ素を含む層34の表面44に「マスクを介して溶着を行う」こと、及び「マスクを介して材料の除去を取り去る」こととすることは、当業者の通常の創作能力の範囲で容易になし得たことである。
そして、「マスクが60?120ミル(1.5?3mm)の厚さを有する」ことについて、本願の明細書の発明の詳細な説明における段落【0023】、【0024】、【0026】、【0027】及び【0029】ないし【0031】をみても、ここに、格別な技術的意義あるいは臨界的意義を見出すことはできないことから、当業者が通常の創作能力の範囲内で必要とされる溝部と隆条部を形成するために適宜決定し得た事項といえる。

そうすると、引用発明、引用文献1の記載事項B、引用文献2の記載事項、及び引用文献3の記載事項に基いて相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

また、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明、引用文献1の記載事項A、引用文献1の記載事項B、引用文献2の記載事項、及び引用文献3の記載事項から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献1の記載事項A、引用文献1の記載事項B、引用文献2の記載事項、及び引用文献3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成30年4月18日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成29年8月30日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2 1.(1)に記載のとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前に発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献A.特表2013-516552号公報(本審決の引用文献1)
引用文献B.特開2006-36632号公報(本審決の引用文献2)
引用文献C.米国特許出願公開第2010/0003894号明細書(本審決の引用文献3)

3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献及びその記載事項は、前記第2[理由]2.(2)に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は前記第2[理由]2.で検討した本件補正発明から、「物品の基材の表面」についての「複数の溝部と隆条部が形成された」との限定及び「ケイ素含有層に複数の溝部と隆条部を形成すること」についての「ケイ素含有層に、前記基材の表面の複数の溝部と隆条部にそれぞれ重複する」との限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2[理由]2.(3)及び(4)に記載したとおり、引用発明、引用文献1の記載事項A、引用文献1の記載事項B、引用文献2の記載事項、及び引用文献3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用文献1の記載事項B、引用文献2の記載事項、及び引用文献3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-12-10 
結審通知日 2018-12-11 
審決日 2018-12-25 
出願番号 特願2016-526266(P2016-526266)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬戸 康平西中村 健一  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 鈴木 充
水野 治彦
発明の名称 高温荷重下でのクリープ滑り耐性を向上させる加工表面を有するシリカ賦形物の製造方法  
代理人 田中 拓人  
代理人 荒川 聡志  
代理人 小倉 博  

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