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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F02M
管理番号 1351865
審判番号 不服2018-4289  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-30 
確定日 2019-06-12 
事件の表示 特願2014-208645「パイロット油噴射を備えたガス燃料供給系を有する自己着火内燃機関」拒絶査定不服審判事件〔平成27年4月27日出願公開、特開2015-81600、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年10月10日(パリ条約による優先権主張2013年(平成25年)10月23日(DK)デンマーク王国)の出願であって、その手続は以下のとおりである。
平成29年8月15日 :手続補正書の提出
平成29年8月31日(発送日) :拒絶理由通知書
平成29年11月8日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年12月21日(発送日):拒絶査定
平成30年3月30日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成30年12月10日(発送日):拒絶理由通知書(以下、「当審拒絶 理由」という。)
平成31年2月4日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(平成29年12月15日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1ないし9に係る発明は、以下の引用文献1ないし4に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.実願昭62-179586号(実開平1-85453号)のマイクロフィルム
2.特開2010-270719号公報
3.特開平6-33784号公報
4.国際公開第2013/153842号

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

1(明確性)本願は、特許請求の範囲(特に、請求項2、3及び6ないし8)の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明9」という。)は、平成31年2月4日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
複数のシリンダ(1)と、前記シリンダ(1)の各々に少なくとも一つ設けられるパイロット油専用弁(55)とを備える自己着火内燃機関であって、
前記シリンダ(1) は、ノズルからシリンダ内にガス燃料を噴射する、少なくとも一つのガス燃料弁(50)を備え、
前記少なくとも一つのガス燃料弁(50)は、加圧ガス燃料を前記ガス燃料弁(50)に供給するガス燃料供給導管(62、63、64)に接続する入口を有し、
前記パイロット油専用弁(55)は、加圧パイロット油の供給源(57)に接続する入口を有し、
前記パイロット油専用弁(55)は更に、パイロット油を前記ガス燃料供給導管(62、63、64)の中に噴射及び霧化するためのノズルを有する、
内燃機関。
【請求項2】
前記複数のシリンダ(1)は、各々ガス燃料アキュムレータ(60)を備え、
前記ガス燃料供給導管(62、63、64)は、前記ガス燃料アキュムレータ(60)と、前記少なくとも一つのガス燃料弁(50)との間を走る、
請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
ウインドウ弁(61)が前記ガス燃料アキュムレータ(60)の出口に配置され、
前記ウインドウ弁(61)は、前記ガス燃料アキュムレータ(60)から前記ガス燃料供給導管(62、63、64)までのガス燃料の流れを制御する、
請求項2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記少なくとも一つのガス燃料弁(50)が閉じているときに、前記少なくとも一つのパイロット油専用弁(55)が前記パイロット油を噴射するように構成される請求項2または3に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記ガス燃料弁(50)がガス燃料噴射イベントを実行する前に、前記少なくとも一つのパイロット油専用弁(55)が前記パイロット油を噴射するように構成される請求項2?4のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項6】
前記シリンダには少なくとも一つの小型燃料油弁が設けられ、該小型燃料油弁は、ガス燃料系の調子が悪いときの帰港パワーか非常用パワーのために、前記シリンダの中に燃料を直接噴射するように構成される、請求項1から5のいずれかに記載の内燃機関。
【請求項7】
前記シリンダ(1)のうちの一つ以上が、燃料油を前記シリンダ(1)の中に噴射するために複数の燃料油噴射弁(52)を備えている請求項1から6のいずれかに記載の内燃機関。
【請求項8】
前記少なくとも一つのパイロット油専用弁(55)は、前記少なくとも一つのガス燃料弁(50)のいずれかのための前記ガス燃料供給導管の中に前記パイロット油を噴射及び霧化する、請求項1から7のいずれかに記載の内燃機関。
【請求項9】
前記少なくとも一つのガス燃料弁(50)および前記少なくとも一つのパイロット油専用弁(55)を制御し作動させるように構成される電子制御ユニット(ECU)をさらに備える請求項1から8のいずれかに記載の内燃機関。」

第5 当審拒絶理由についての判断
平成31年2月4日の手続補正により、特許請求の範囲及び明細書が補正された結果、特許請求の範囲(特に、請求項2、3及び6ないし8)の記載が明確になったので、この拒絶の理由は解消した。

第6 原査定についての判断
1 引用文献、引用発明等
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献1(実願昭62-179586号(実開平1-85453号)のマイクロフィルム)には、「ガス焚きデイーゼルエンジンの燃料供給装置」に関して、図面(特に第1図、第3図ないし第5図)とともに以下の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。

ア 「以下第1?4図を参照し本考案の一実施例について説明する。
第1図はセタン価が高く圧縮着火性のよい燃料を吐出する点火用のパイロット燃料噴射弁1と主燃料であるガス燃料を供給するガス燃料噴射弁2を独立にシリンダカバー10にそなえたガス焚きディーゼルエンジンを示している。3はパイロット燃料噴射弁1へ高圧油を供給するパイロット燃料噴射ポンプ、4はガス燃料噴射弁2を駆動するアクチュエータとしての油圧コントロールポンプ、5は高セタン化油の燃料タンク、6は高圧ガス燃料ボンベ、7はアクチュエータ用の作動油タンク、8はパイロット燃料油の噴射ポンプ3及びガス燃料噴射弁2のアクチュエータポンプ4を制御するコントローラ、9はピストン、10はシリンダカバー、11はシリンダライナ、12は排気弁を示す。」(明細書4ページ13行ないし5ページ9行)

イ 「次に前記実施例の作用について説明する。
上記のような構成のガス燃料弁駆動用油圧コントロールポンプ4を用いると、ガス噴射始めとガス噴射終りの中間において、一時期プランジャリードみぞ403により油の吐出が中断され、油圧がゼロとなりガス燃料弁2の針弁が一時的に閉鎖されるので、第3図に示すようにガス噴射時期を前期と後期に分離することができ、予混合燃焼と拡散燃焼がミックスされた燃焼タイプとなり、熱効率が高く排気中のNOxも少ない良好なガス焚きディーゼルエンジンが実現できる。」(明細書5ページ19行ないし6ページ9行)

ウ 第1図及び第4図の図示内容並びに上記アの記載事項を踏まえると、ガス燃料噴射弁2は、シリンダカバー10及びシリンダライナ11内にガス燃料を供給するためのノズルを備えているといえる。

エ 第1図及び第4図の図示内容並びに上記アの記載事項を踏まえると、パイロット燃料噴射弁1はシリンダカバー10に少なくとも一つ設けられ、シリンダカバー10は少なくとも一つのガス燃料噴射弁2を備えているといえる。

オ 第1図及び第4図の図示内容並びに上記アの記載事項を踏まえると、ガス燃料噴射弁2はガス燃料供給導管に接続する入口を有し、ガス燃料供給導管により高圧ガス燃料ボンベ6からガス燃料が供給されているといえる。

カ 第1図及び第4図の図示内容並びに上記アの記載事項を踏まえると、パイロット燃料噴射弁1は、油燃料タンク5に接続する入口を有するといえる。

以上から、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「シリンダカバー10及びシリンダライナ11と、前記シリンダカバー10及びシリンダライナ11に設けられる少なくとも一つのパイロット燃料噴射弁1とを備えるガス焚きディーゼルエンジンであって、
前記シリンダカバー10及びシリンダライナ11は、ノズルからシリンダカバー10及びシリンダライナ11内にガス燃料を供給する、少なくとも一つのガス燃料噴射弁2を備え、
前記少なくとも一つのガス燃料噴射弁2は、ガス燃料を前記ガス燃料噴射弁2に供給するガス燃料供給導管に接続する入口を有し、
前記パイロット燃料噴射弁1は、油燃料タンク5に接続する入口を有する、
ガス焚きディーゼルエンジン。」

(2)引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献2(特開2010-270719号公報)には、図面(特に、図1ないし図3を参照。)とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0010】
請求項2に対応した燃料噴射装置は、船舶のディーゼル機関の気筒内に燃料を噴射する燃料噴射装置であって、燃料を噴射する主燃料系と、燃料噴射期間の初期において主燃料系の噴射圧力より高い圧力で燃料を噴射する副燃料系と、主燃料系と副燃料系が共有した一つの電気制御式燃料噴射弁と、電気制御式燃料噴射弁の上流側で主燃料系と副燃料系が合流する合流部と、主燃料系の燃料及び副燃料系の燃料の性状、気筒内圧力、機関の負荷条件、地理的条件のうち少なくとも一つに基づき電気制御式燃料噴射弁の噴射条件を変更する制御手段と、を有する。主燃料系の燃料及び副燃料系の燃料の性状、気筒内圧力、機関の負荷条件、地理的条件のうち少なくとも一つに基づき、副燃料系から高い圧力で燃料を噴射することによって、燃料はより微細な粒子として噴射される。例えば、噴射条件として主燃料と副燃料の比や噴射時期を変更する。
【0011】
請求項3に対応した燃料噴射装置は、燃料を噴射する主燃料系と、燃料噴射期間の初期において主燃料系の噴射圧力より高い圧力で燃料を噴射するか、あるいは主燃料系と同時に噴射する際には主燃料系の噴射圧力より高い圧力で燃料を噴射する副燃料系と、主燃料系の燃料又は副燃料系の燃料を燃料性状に応じて前処理する前処理手段と、を有する。前処理手段における前処理によって、目標とする燃焼特性に応じて燃料の性状が調整される。」

イ 「【0021】
本発明の燃料噴射装置によれば、燃料を噴射する主燃料系と、燃料噴射期間の初期において主燃料系の噴射圧力より高い圧力で燃料を噴射する副燃料系と、主燃料系と副燃料系が一つの電気制御式燃料噴射弁を共有し、この電気制御式燃料噴射弁の上流側で主燃料系と副燃料系を合流させた構成を有することにより、初期において主燃料系の圧力が不十分な場合であっても、燃料粒子を微細とすることができる。また、主、副の燃料系で同時に噴射する際には、副燃料系が主燃料系より高い圧力で燃料を噴射することで、微細な燃料粒子をより多く供給することができる。
【0022】
また、本発明の燃料噴射装置によれば、船舶のディーゼル機関の気筒内に燃料を噴射する燃料噴射装置であって、燃料を噴射する主燃料系と、燃料噴射期間の初期において主燃料系の噴射圧力より高い圧力で燃料を噴射する副燃料系と、主燃料系と副燃料系が共有した一つの電気制御式燃料噴射弁と、電気制御式燃料噴射弁の上流側で主燃料系と副燃料系が合流する合流部と、主燃料系の燃料及び副燃料系の燃料の性状、気筒内圧力、機関の負荷条件、地理的条件のうち少なくとも一つに基づき電気制御式燃料噴射弁の噴射条件を変更する制御手段と、を有することにより、主燃料系の燃料及び副燃料系の燃料の性状、気筒内圧力、機関の負荷条件、地理的条件のうち少なくとも一つに応じて、副燃料系から高い圧力で燃料を噴射して燃料をより微細な粒子として供給することができる。例えば、現在位置が港湾内、陸地から近い位置であれば、排気ガス浄化を優先した運転モードとし、外洋であれば、燃料消費率を優先した運転モードとするようにできる。また、地理的位置や沿岸からの距離により排気ガス規制や環境規制等が異なる場合に、地理的条件に従った運航を行うことができる。」

ウ 「【0034】
以下、本発明の実施の形態を、図面に従って説明する。図1は、内燃機関、特に船舶用ディーゼル機関10の概略の断面図である。ディーゼル機関10は多気筒機関であり、図1の紙面を貫く方向に複数の気筒が直列に配置されている。ピストン12は、シリンダライナ14の円筒内周面に沿って摺動しつつ往復運動し、この往復運動が連接棒16を介し
てクランク軸18の回転運動に変換される。シリンダライナ14はエンジンフレーム20に支持され、シリンダライナ14とエンジンフレーム20の間には、冷却水の流れる水ジャケットが形成される。このエンジンフレーム20の、シリンダライナを囲みこれを支持する部分と、シリンダライナ14とでシリンダが構成される。エンジンフレーム20には、クランク軸18を支持する軸受が設けられているが、図1においては省略されている。
【0035】
エンジンフレーム20の上部には、シリンダヘッド22がヘッドボルト24(図7,9参照)により締結されており、これによりシリンダヘッド22がシリンダライナ14の上部の開口に当接し、密着している。ピストン12の頭頂面と、これに対向するシリンダヘッド22の下面と、シリンダライナ14の内周面により燃焼室が形成される。シリンダヘッド22の燃焼室の中央にあたる部分に燃料噴射弁26が設けられている。燃料噴射弁の配置は、噴射される燃料の噴霧の拡がり方など、燃焼状況により適切に定められればよく、中央以外に部分に設けられてもよい。シリンダヘッド22には、燃焼室に通じる吸気ポートおよび排気ポートが形成されており、さらに、これらのポートの燃焼室に対する開口を開閉するための吸気弁28、排気弁30(図7,9参照)が配置される。吸排気弁28,30は、燃料噴射弁26の紙面奥側と手前側に配置されており、図1においては示されていない。吸気ポートは吸気管32に連通しており、排気ポートは排気管34に連通している。」

エ 「【0037】
燃料噴射弁26には、燃料供給系48により燃料が供給される。このディーゼル機関10には、二つの燃料供給系が設けられる。一つの燃料供給系は機械式燃料噴射ポンプ50を備え、このポンプは燃料タンク52内の燃料を加圧して、逆止弁51を備えた燃料供給管54を介して燃料噴射弁26に供給する。この燃料供給系を主燃料供給系と記し、燃料タンク52を主燃料タンク52、燃料供給管54を主燃料供給管54、さらに主燃料供給系で供給される燃料を主燃料として以下説明する。さらに、この主燃料供給系と、主燃料を供給する燃料噴射弁を含めて主燃料系と記す。
【0038】
また、燃料供給管54には安全弁53を設けてもよい。安全弁53は、燃料供給管54内の燃料の内圧が一定以上になると、スプリングの作用等により燃料を燃料タンク52へ戻して内圧が上がり過ぎることを防ぐ。
【0039】
もう一つの燃料供給系を副燃料供給系と記す。副燃料供給系は、燃料噴射弁26に供給される副燃料を蓄える燃料タンク56、副燃料を加圧し送る加圧ポンプ58、加圧ポンプにより送られる加圧された燃料を蓄える蓄圧部としてのコモンレール60を含む。コモンレール60内に蓄えられた加圧燃料が、逆止弁63及び副燃料供給弁64を有する燃料供給管62を介して主燃料供給管54に送出される。主燃料供給管54に送出された燃料は、更に燃料噴射弁26に向かい、ここから燃焼室内に向けて噴射される。この副燃料タンク56から燃料噴射弁26に至る、副燃料を噴射するための系を副燃料系と記し、燃料タンク56を副燃料タンク56、燃料供給管62を副燃料供給管62として以下説明する。
【0040】
また、副燃料系には安全弁61を設けてもよい。安全弁61は、例えばコモンレール60に設けられ、コモンレール60内の燃料の内圧が一定以上になると、スプリングの作用等により燃料を副燃料タンク56へ戻して内圧が上がり過ぎることを防ぐ。
【0041】
したがって、この燃料供給系48においては、主、副の燃料供給管54,62の合流部65より下流においては、主、副燃料系が構成要素(例えば燃料噴射弁26)を共有している。」

オ 「【0048】
図3は、燃料供給系48および燃料噴射弁26を示す図である。主燃料系においては、主燃料タンク52に蓄えられている主燃料は、機械式燃料噴射ポンプ50により加圧されて送出され、主燃料供給管54を介して燃料噴射弁26に送られる。なお、逆止弁51より下流へ送り出された主燃料は、逆止弁51によって機械式燃料噴射ポンプ50側へ逆流することが防がれている。
【0049】
副燃料系においては、副燃料タンク56に蓄えられた副燃料は、加圧ポンプ58で加圧、送出され、圧力が高い状態でコモンレール60に蓄えられる。コモンレール60から主燃料供給管54に向かう副燃料供給管62の途中には副燃料供給弁64が設けられており、この副燃料供給弁64を開放することによって、合流部65より下流に副燃料が供給される。副燃料供給弁64は、電気的に制御される電気制御式とする。なお、合流部65より下流へ送り出された副燃料は、逆止弁63によってコモンレール60へ逆流することが防がれている。コモンレール60に蓄えられた燃料が、主燃料供給管54を介して燃料噴射弁26に送られる。加圧ポンプ58およびコモンレール60は全気筒または複数の気筒に共通に設けられ、副燃料供給弁64が各気筒ごとに設けられる。
【0050】
副燃料供給弁64として電気的に制御できるものを付加することにより、自動車用のコモンレールシステムの導入が容易となる。また、電気制御式とすることで、燃料噴射タイミングや、燃料噴射期間(噴射量)、燃料噴射パターン等が電気信号で制御可能となり、制御の自由度が拡大する。また、船舶においては、波の影響により、波の周期に関連した負荷変動を生じる場合があるが、制御の自由度が高い電気制御式を採用することで、これに好適に対応できる。
【0051】
燃料噴射弁26は、燃料の噴射に電気的制御を行う電気制御式燃料噴射弁とする。電気制御式噴射弁は、気筒内に燃料を噴射する噴射弁として機能すると共に、主燃料及び副燃料の供給を制御する燃料制御弁としても機能する。電気制御式燃料噴射弁は、制御信号を受けて、電磁弁を備えた噴射ノズルから制御信号で示される噴射量の燃料を噴射する。噴射された燃料は、細かな粒子(液滴)となってシリンダ内を拡がり、ピストンによる圧縮で気筒内の温度が上昇すると自己着火して燃焼する。主燃料系は、カム92によるプランジャ74のストロークのたびに燃料が加圧される。
【0052】
上述のように、主燃料系においては、燃料の加圧は、燃料噴射のたびにそれぞれ独立して行われるのに対し、副燃料系においては、燃料は予め加圧されて、加圧された状態で蓄えられており、燃料噴射のタイミングで予め加圧されていた燃料が供給される。主燃料系においては、燃料噴射の初期においては、圧力が低く、噴射される燃料の粒子が比較的大きい。一方、副燃料系においては、燃料は予め加圧されているので、噴射期間の初期から高い圧力で噴射することが可能であり、燃料の粒子はより微細となる。また、コモンレール内の圧力は、変更することができる。具体的には、例えば、加圧ポンプ58に電気式のポンプを採用した場合は、ポンプを駆動するモータの回転速度を変更して、コモンレール内圧力を調整する。また、加圧ポンプ58として機械式のポンプを用いる場合には、コモンレール60から副燃料タンク56に副燃料を戻すリターン経路に調圧弁を設け、この調圧弁が開放する圧力を変更して、コモンレール内圧力を調整する。」

カ 「【0059】
主、副燃料は、同種の燃料を用いることも、異種の燃料の組み合わせとすることもできる。同種の燃料を用いる場合であっても、前述のように、副燃料系においては、噴射初期から高い圧力で噴射でき、燃料粒子が微細となって、着火性が改善される。特に、前述の燃料噴射弁による低負荷時の着火性の悪化を改善することができる。
【0060】
同種の燃料を副燃料系により噴射しても、十分な着火性を得られない場合に、主、副燃料に異種の燃料を使用することもできる。この場合、副燃料に着火性の良い燃料を使用し、副燃料を火種として、着火性の悪い燃料を燃焼させるようにすることができる。ディーゼル機関における着火性は、セタン価で評価され、この場合は、セタン価の高い燃料を副燃料として使用し、低い燃料を主燃料として使用する。主燃料に着火性の悪い燃料を使用する場合、副燃料として軽油、バイオディーゼル油、GTL(Gas To Liquid)、DME(ジメチルエーテル)を使用することが好適である。主燃料として重油を使用した場合、相対的に着火性のよい菜種油等を用いてもよい。」

キ 図3の図示事項及び上記ウ、エの記載事項からみて、燃焼噴射弁26は、シリンダ内に燃料を噴射するノズルを備えているといえる。

以上から、引用文献2には次の事項が記載されていると認められる。

「複数のシリンダと、前記シリンダの各々に設けられる副燃料供給系とを備えるディーゼル機関であって、
前記シリンダは、ノズルからシリンダ内に燃料を噴射する、燃料噴射弁26を備え、
燃料噴射弁26は、燃料を燃料噴射弁26に供給する主燃料供給管54に接続する入口を有し、
前記副燃料供給系は、コモンレール60に接続する燃料供給管62を有し、
前記副燃料供給系は、燃料を前記燃料噴射弁26に供給する主燃料供給管54に接続する合流部65を有すること。」

(3)引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献3(特開平6-33784号公報)の段落【0018】ないし段落【0019】及び図1の記載からみて、当該引用文献3には、「ガスエンジンにおいて、蓄圧室6の出口に燃料弁5を配置し、エンジン負荷に応じてガス燃料が蓄圧室6から必要量だけ副室2に供給される点」が記載されていると認められる。

(4)引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献4(国際公開第2013/153842号)の段落[0024]及び[0027]ないし[0029]ならびに図1、図2A及び図2Bの記載からみて、当該引用文献4には、「ガスエンジンにおいて、燃料ガス噴射装置8と燃料油噴射装置10を夫々シリンダヘッド3に設ける点」が記載されていると認められる。

2 対比・判断
(1)本願発明1
本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「シリンダカバー10及びシリンダライナ11」はその機能、構成および技術的意義からみて前者の「シリンダ(1)」に相当し、以下同様に、「パイロット燃料噴射弁1」は「パイロット油専用弁(55)」に、「ガス焚きディーゼルエンジン」は「自己着火内燃機関」又は「内燃機関」に、「供給」は「噴射」に、「ガス燃料噴射弁2」は「ガス燃料弁(50)」に、「ガス燃料」は、「ガス燃料」又は「加圧ガス燃料」に、「油燃料タンク5」は「加圧パイロット油の供給源(57)」にそれぞれ相当する。

したがって、両者は、
「シリンダと、前記シリンダに少なくとも一つ設けられるパイロット油専用弁とを備える自己着火内燃機関であって、
前記シリンダは、ノズルからシリンダ内にガス燃料を噴射する、少なくとも一つのガス燃料弁を備え、
前記少なくとも一つのガス燃料弁は、加圧ガス燃料を前記ガス燃料弁に供給するガス燃料供給導管に接続する入口を有し、
前記パイロット油専用弁は、加圧パイロット油の供給源に接続する入口を有する、
内燃機関。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
前者はシリンダが「複数のシリンダ」であり、シリンダの「各々」にパイロット油専用弁を備えるのに対し、後者はかかる事項を備えるか不明な点。

[相違点2]
前者は、「前記パイロット油専用弁(55)は更に、パイロット油を前記ガス燃料供給導管(62、63、64)の中に噴射及び霧化するためのノズルを有する」のに対し、後者は、かかる構成を備えていない点。

相違点について検討する。
事案に鑑み、先ず相違点2について検討する。
引用文献2の記載事項は、
「複数のシリンダと、前記シリンダの各々に設けられる副燃料供給系とを備えるディーゼル機関であって、
前記シリンダは、ノズルからシリンダ内に燃料を噴射する、燃料噴射弁26を備え、
燃料噴射弁26は、燃料を燃料噴射弁26に供給する主燃料供給管54に接続する入口を有し、
前記副燃料供給系は、コモンレール60に接続する燃料供給管62を有し、
前記副燃料供給系は、燃料を前記燃料噴射弁26に供給する主燃料供給管54に接続する合流部65を有すること。」
である。
そして、本願発明1と引用文献2の記載事項とを対比すると、後者の「副燃料供給系」は、その機能、構成および技術的意義からみて前者の「パイロット油専用弁(55)」に相当し、以下同様に、「コモンレール60」は「加圧パイロット油の供給源(57)」に、「ディーゼル機関」は「自己着火内燃機関」にそれぞれ相当する。
また、後者の「燃料供給管62」が、前者の「入口」に相当する部分を備えていることは明らかである。
さらに、後者の「燃料」と前者の「ガス燃料」及び「加圧ガス燃料」とは、「燃料」という限りで一致し、同様に、「燃料噴射弁26」と「ガス燃料弁(50)」とは、「燃料弁」という限りで一致し、「主燃料供給管54」と「ガス燃料供給導管(62、63、64)」とは、「燃料供給導管」という限りで一致する。

そうすると、引用文献2の記載事項は、以下のものということができる。

「複数のシリンダと、前記シリンダの各々に設けられるパイロット油専用弁とを備える自己着火内燃機関であって、
前記シリンダは、ノズルからシリンダ内に燃料を噴射する、燃料弁を備え、
燃料弁は、燃料を燃料弁に供給する燃料供給導管に接続する入口を有し、
前記パイロット油専用弁は、加圧パイロット油の供給源に接続する入口を有し、
前記パイロット油専用弁は、燃料を前記燃料弁に供給する燃料供給導管に接続する合流部を有すること。」

してみると、引用文献2の記載事項は、少なくとも、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項における、「パイロット油を燃料供給導管の中に噴射及び霧化する」という事項を備えていない。
そうすると、このような引用文献2の記載事項を引用発明に適用しても、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項にはならない。
また、上記「パイロット油を燃料供給導管の中に噴射及び霧化する」という事項は、当該技術分野における周知技術でもない。
したがって、引用発明及び引用文献2記載の技術事項を総合しても、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を容易になし得ることはできない。

また、引用文献3の記載事項及び引用文献4の記載事項についても、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項は記載されておらず、示唆もない。

したがって、相違点1の検討をするまでもなく、本願発明1は、当業者が引用発明及び引用文献2ないし引用文献4の記載事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)本願発明2ないし本願発明9について
本願の特許請求の範囲における請求項2ないし9は、請求項1の記載を直接又は間接的に、かつ、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本願発明2ないし本願発明9は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。

したがって、本願発明2ないし本願発明9は、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び引用文献2ないし引用文献4の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

したがって、原査定を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、当審が通知した理由及び原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-27 
出願番号 特願2014-208645(P2014-208645)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (F02M)
P 1 8・ 121- WY (F02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 家喜 健太齊藤 公志郎  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 水野 治彦
鈴木 充
発明の名称 パイロット油噴射を備えたガス燃料供給系を有する自己着火内燃機関  
代理人 川守田 光紀  

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