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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A41D
管理番号 1351899
審判番号 無効2018-800098  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-08-02 
確定日 2019-05-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第5065448号発明「電気工事作業に使用する作業用手袋」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5065448号(以下「本件特許」という。)は、平成22年6月15日の出願であって、その請求項1及び2に係る発明について、平成24年8月17日に特許権の設定登録がなされ、その後、訂正2016-390105号審決が確定したことにより、明細書及び特許請求の範囲の訂正が認められた。

これに対して、ヨツギ株式会社(以下「請求人」という。)から平成30年8月2日に、本件特許の請求項1及び2に係る発明の特許について、無効審判が請求されたものであり、その後の手続は以下のとおりである。

審判請求書 平成30年 8月 2日
手続補正書 平成30年 9月13日
審判事件答弁書 平成30年11月26日
審理事項通知書 平成30年12月27日付け
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成31年 1月31日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成31年 2月 4日
審理事項通知書 平成31年 2月 7日付け
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成31年 2月22日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成31年 2月25日
第1回口頭審理 平成31年 3月 4日

第2 審判請求人の主張
1 審判請求書における無効理由の概要
請求人は、「特許第5065448号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、以下の無効理由を主張している。

<無効理由>
請求項1及び2に係る発明は、ヨツギ株式会社(ヨツギテクノ株式会社)製電気用手袋「YS-102-11-1」において公然実施された発明、及び甲第4号証記載の事項又は甲第5?7号証の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

2 証拠方法
請求人が提出した証拠方法は以下のとおりである。

(1)甲第1号証:”YOTSUGI 電力安全用品カタログ”、平成16年2月、p.6
(2)甲第2号証:型式検定合格証
(3)甲第3号証の1:YS-102-11-1の写真
(4)甲第3号証の2:YS-102-11-1の写真
(5)甲第3号証の3:YS-102-11-1と称する写真
(6)甲第3号証の4:YS-102-11-1と称する写真
(7)甲第3号証の5:YS-102-11-1と称する写真
(8)甲第4号証:特開2008-248439号公報
(9)甲第5号証:特開2002-201511号公報
(10)甲第6号証:特開2005-264395号公報
(11)甲第7号証:”HYPER GRIPS ハイパーグリップス”のカタログ、アトム株式会社、2008.9.3、p.7
(12)甲第8号証:訂正2016-390105号の特許審決公報(本件特許に係る特許審決公報)
(13)甲第9号証:YS-102-11-1と称する写真
(14)甲第10号証:YS-102-11-1と称する写真
(15)甲第11号証:YS-102-11-1と称する写真

第3 被請求人の主張
被請求人は答弁書において、「本件特許無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、請求人の主張する上記無効理由はいずれも理由がない旨主張している。

第4 無効理由についての判断
1 本件発明
訂正2016-390105号審決により訂正された請求項1及び2に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
弾性材料により形成された手袋基体と、アラミド繊維などの難燃性を有する素材によりなり、前記手袋基体の外側に装着して貼着されている手袋状に形成された所定の面積を有する生地体とを備える電気工事作業に使用する作業用手袋であって、
前記生地体は、前記手袋基体の掌部に貼着されている部位と、前記手袋基体の親指部及び人差し指部に貼着されている指袋状の部位とを少なくとも備え、
前記生地体を構成する繊維内に前記生地体の表面側から含浸し、かつ接着機能を有するコーティング材料により、前記生地体の表面に、同生地体の厚み以下に形成されたコーティング被膜を有し、
前記コーティング被膜は、前記生地体よりも摩擦係数が高く、
前記コーティング被膜により前記生地体の繊維や目部に沿って凹凸が形成されている
ことを特徴とする電気工事作業に使用する作業用手袋。
【請求項2】
前記コーティング被膜の一部は、前記生地体の目部において、薄膜状の目部膜体を形成していることを特徴とする請求項1に記載の電気工事作業に使用する作業用手袋。」

2 甲各号証に記載の事項
(1)甲第1号証(以下「甲1」という。)には、以下の記載がある。
ア 表紙には「YOTSUGI 電力安全用品カタログ」と記載されている。
イ 6頁の第1行には、「電気用手袋・長靴」と記載されている。
ウ 6頁の2行から、「低圧二層手袋」、「600V以下用」、「600V以下の電気回路の活線作業になどに使用するものです。」、「中間部に合成繊維の層をはさんでいますので、作業時に破れにくくしかも作業性の良い手袋です。」、「(使用電圧600V以下・試験電圧3,000V/1分間)」、表中「サイズ」の欄が「大」、「形式品番」の欄が「YS-102-11-1」と記載されている。
エ 裏表紙、最下行に「平成16年2月現在」と記載されている。

(2)甲第2号証(以下「甲2」という。)には、以下の記載がある。
ア 1頁1行目に「型式検定合格証」と記載されている。
イ 1頁の表中、「申請者」の欄に、住所と共に「ヨツギテクノ株式会社」と記載されている。
ウ 1頁の表中、「品名」の欄に、「電気用手袋」と記載されている。
エ 1頁の表中、「型式の名称」の欄に、「YS-102-11-1」と記載されている。
オ 1頁の表中、「構造」の欄に、「材質 外層部 天然ゴム混合物」「中間部 合成繊維布」「内層部 天然ゴム混合物」と記載されている。
カ 1頁の表中、「性能」の欄に、「使用電圧 600V以下」、「耐電圧試験値 3,000V」と記載されている。
キ 1頁の表中、「型式検定合格番号」の欄に、「第TF373号」と記載されている。
ク 1頁の表中、「有効期間」の欄に、「昭和61年6月25日から昭和64年6月24日まで」、「平成1年6月25日から平成4年6月24日まで」、「平成4年6月25日から平成7年6月24日まで」、「平成7年6月25日から平成10年6月24日まで」と記載されている。
ケ 1頁の表の下には、「機械等検定規則による型式検定に合格したことを証明する。」「昭和61年 6月25日」と記載されている。
コ 1頁の最下行には、「労働大臣指定型式検定代行機関 社団法人 産業安全技術協会長」と記載されている。
サ 2頁1行目には、「型式検定合格証(続)」と記載されている。
シ 2頁の表中、「有効期間」の欄に、「平成10年6月25日から平成13年6月24日まで」、「平成13年6月25日から平成16年6月24日まで」、「平成16年6月25日から平成19年6月24日まで」、「平成19年6月25日から平成22年6月24日まで」、「平成22年6月25日から平成25年6月24日まで」、「平成25年6月25日から平成28年6月24日まで」、「平成28年6月25日から平成31年6月24日まで」と記載されている。
ス 3頁1行目には、「添付図面一覧表」と記載されている。
セ 3頁の表中、「項目」「1」の欄に、「図面名称」「電気用手袋図」、「図面番号」「A-0146」、「備考」「試供品」と記載されている。
ソ 4頁には、以下の図が記載されている。



タ 4頁の図の下に、「備考」「(1)図中の破線は、中間部合成繊維布の縫目を示す。」「(2)手袋の厚さは、内層部において0.3?1.4mmとする。」「掌部及び手首部の寸法は、試料をおさえて偏平にしたときの値を示す。」
チ 4頁右下の表中、「図面名称」の欄に「電気用手袋図」、「型式名称」の欄に「YS-102-11-1」、「図面番号」の欄に「A-0146」、「作図年月日」の欄に「昭和61年5月22日」、最下欄に「ヨツギゴム株式会社」と記載されている。

(3)甲第3号証の1(以下「甲3の1」という。)には、以下の記載がある。
ア 黄色の右の手袋の下側の表には、「型式検定合格番号 TF373号」、「製造者 ヨツギテクノ(株)」「600V以下」、「3,000V 1分間」「2018年6月」、「大」、「YS102-11-1」と記載されている。
イ 手袋の下端は、波形である。

(4)甲第3号証の2(以下「甲3の2」という。)には、以下の記載がある。
ア 黄色の手袋表面の下側に印字された表には、「型式検定合格番号 TF373号」、「製造者 ヨツギテクノ(株)」「600V以下」、「試験電圧 3,000V 1分間」「製造年月 2018年6月」、「大」、「型式の名称 YS102-11-1」と記載されている。
イ 手袋の手首側端面には、赤色の層とその外側に黄色の層が看取できる。
ウ 手袋の下端は、波形である。

(5)甲第3号証の3(以下「甲3の3」という。)には、以下の記載がある。
ア 赤色の層とその左側に黄色の層が看取できる。
イ 黄色の層のところどころには、白色半透明の部分が看取できる。
ウ 黄色の層の左側には、凹凸が看取できる。

(6)甲第3号証の4(以下「甲3の4」という。)には、以下の記載がある。
ア 左側に、赤色の手袋が看取でき、その下端は直線である。
イ 右側に、白色半透明の手袋が看取でき、その下端は直線である。
ウ 左側の赤色の手袋は、右側白色半透明の手袋より大きい。

(7)甲第3号証の5(以下「甲3の5」という。)には、以下の記載がある。
ア 右側に、赤色の手袋が看取でき、その下端は直線である。
イ 左側には、赤色の手袋の上に白色半透明の手袋を重ねたものが看取でき、その下端は直線である。
ウ 左側の赤色の手袋下端より、左側白色半透明の手袋の下端の方が長い。

(8)甲第4号証(以下「甲4」という。)には、以下の記載がある。
ア 「【0006】
本発明は上記の課題を解決するために、例えば、本発明の実施の形態を示す図1から図5に基づいて説明すると、次のように構成したものである。
即ち、本発明1は作業用手袋に関し、内層手袋(2)とその外側の少なくとも一部に配置したシームレス手袋(3)とを備え、このシームレス手袋(3)には予め撥水加工を施してあり、この撥水加工を施したシームレス手袋(3)の編糸(5)の表面を高分子材料(4)で覆うとともに編目(6)内に高分子材料(4)を浸透させてあり、このシームレス手袋(3)の編目(6)を通して上記の高分子材料(4)を上記の内層手袋(2)の外面側の一部に浸透させてあることを特徴とする。
【0007】
本発明2は作業用手袋の製造方法に関し、内層手袋(2)の外側の少なくとも一部に、撥水加工を施したシームレス手袋(3)を配置したのち、このシームレス手袋(3)の編目(6)に液状の高分子材料(4)を浸透させるとともに、この編目(6)を通して上記の高分子材料(4)を上記の内層手袋(2)の外面側の一部に浸透させ、その後にこの高分子材料(4)を固化させることを特徴とする。
【0008】
上記のシームレス手袋は撥水加工を施してあるので、編糸の表面に撥水層が形成されている。このため、高分子材料は編糸内部の繊維間へは浸透せず、編糸の表面を覆うとともに編目内に浸透する。そしてこのシームレス手袋の編目内に浸透した高分子材料は、その編目を通過して内層手袋に浸透する。このとき、シームレス手袋の編糸には高分子材料が浸透していないので、この高分子材料は、内層手袋の外面側のうちの、編糸に対面する部位には浸透し難いが、シームレス手袋の編目に対面する部位には容易に浸透する。この結果、内層手袋の外面側の一部に高分子材料が浸透し、この浸透した高分子材料により内層手袋とシームレス手袋とが互いに確りと接着する。
【0009】
ここで上記の高分子材料は、内層手袋やシームレス手袋に浸透させる際には液状で、その後に乾燥等で固化できるものであればよく、特定の材料に限定されない。具体的には、例えば天然ゴムラテックス、NBR(アクリロニトリル・ブタジエン・ラバー)等の合成ゴムラテックス、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂などを挙げることができ、所望の耐油性や耐薬品性等に応じて適宜選定される。」
イ 「【0022】
図1に示すように、この作業用手袋(1)は、内層手袋としての縫製手袋(2)と、その外側配置したシームレス手袋(3)とを備え、外側から天然ゴムラテックスや、NBR等の合成ゴムラテックスなどの、高分子材料(4)を含浸させて固化してある。
【0023】
上記の縫製手袋(2)は、ウーリーナイロン糸やポリエステル糸などの合成繊維糸と綿糸とを50:50の比率で合わせた糸を用いて編成してある。一方、上記のシームレス手袋(3)は、アラミド繊維や超高強力ポリエチレン繊維などの高機能繊維を用いて、例えば15ゲージ編みや18ゲージ編みなどの薄い手袋に編成してある。このため、この作業用手袋全体も薄く形成され、素手に近い使用感が得られる。また、上記のシームレス手袋(3)は、手袋に編成したのち、フッ素系撥水剤やシリコン系撥水剤により撥水加工が施してある。
【0024】
図2と図3に示すように、上記の高分子材料(4)は、シームレス手袋(3)の編糸(5)の表面を覆うとともに、このシームレス手袋(3)の編目(6)内に浸透している。しかしシームレス手袋(3)は撥水加工が施されているので、編糸(5)の表面に撥水層(7)が形成されており、上記の高分子材料(4)はこの編糸(5)内の繊維間へは浸透しない。
【0025】
そして図3に示すように、上記のシームレス手袋(3)の編目(6)内へ浸透した高分子材料(4)は、この編目(6)を通して上記の縫製手袋(2)の外面側(シームレス手袋との境界面側)の一部に浸透している。即ち、上記の高分子材料(4)は、縫製手袋(2)の外面側のうちの、シームレス手袋(3)の編目(6)と対面する部位に浸透しており、シームレス手袋(3)の編糸(5)に対面する部位には殆ど浸透しない。
なお、上記の縫製手袋(2)に含まれる綿は、合成繊維に比べて高分子材料(4)の浸透性が低いので、この高分子材料(4)は縫製手袋(2)の外面側にのみ浸透しており、縫製手袋(2)の内面にまでは浸透していない。このため、この作業用手袋(1)は、縫製手袋(2)の優れたフィット性を備えている。」
ウ 「【0030】
次いで、図5に示すように、上記の立体手型(10)に装着した両手袋(2・3)を、浸漬槽(11)内へ収容されたラテックス等の液状の高分子材料(4)に必要回数浸漬する。そして所定の温度で加硫して高分子材料(4)を固化したのち、両手袋(2・3)を立体手型(10)から取外して乾燥を行う。その後、裾口(12)の不要部分をカットすることで、図1に示す作業用手袋(1)が得られる。」
エ「



(9)甲第5号証(以下「甲5」という。)には、以下の記載がある。
ア 「【0034】そこで、本発明の難燃衣4は、高圧充電路1A,1Bに対峙する表面側に、裏面に65重量%のシリカを混入したシリコーンゴム5を膠着したアラミド繊維製布地6を耐火層付難燃層7として配置する。即ち、耐火層付難燃層7はアラミド繊維製布地でなる難燃層6とシリカ混入シリコーンゴム製耐火層5とで構成される。」
イ 「【0056】図5に示す難燃絶縁衣4、8製の安全衣の装着により、作業者24は、高圧充電路の活線作業において、線路接触による感電事故から保護されると共に、線路短絡により発生したアークから保護される。即ち、アーク発生に伴い発生するファイアボールを難燃衣4で受止めて、絶縁衣8表面の温度が40℃以上に昇温するのが防止される。作業者24は直接的及び間接的アーク火傷から共に保護される。ゴム製絶縁長ぐつ25は、底部を除いた表面を難燃衣4で覆っている。ゴム製絶縁手袋26については、作業性を悪化することのないよう手の内側部分をを除いて難燃衣4で外張りしている。」

(10)甲第6号証(以下「甲6」という。)には、以下の記載がある。
ア 「【0032】
合成繊維としては、ナイロン、ポリエステル、アクリル、アラミド、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ビニリデン、ポリエチレン、ポリクラール、フッ素樹脂、生分解性樹脂等を挙げることができる。」
イ 「【0051】
また、本発明の導電繊維は、制電手袋にも使用することができる。当該制電手袋は、プラスチック、紙、合成繊維、合成皮革、ゴム製品等の製造及び加工の分野において使用でき、電撃防止等の効果を有する。」

(11)甲第7号証(以下「甲7」という。)には、以下の記載がある。
ア 7頁の右の上側には、「HG-50 10Gゴム引き手袋」について、「●材料名:ケブラー○R(当審注:○内にR)紡績糸100%」と記載されている。

(12)甲第9号証(以下「甲9」という。)には、以下の記載がある。
ア 赤色の層とその上側に黄色の層が看取できる。
イ 黄色の層のところどころには、白色半透明の部分が看取できる。
ウ 黄色の層の上側には、凹凸が看取できる。

(13)甲第10号証(以下「甲10」という。)には、以下の記載がある。
ア 左側に、赤色の手袋が看取でき、その下端は直線である。
イ 右側に、白色半透明の手袋が看取でき、その下端は直線である。
ウ 左側の赤色の手袋は、右側白色半透明の手袋より大きい。

(14)甲第11号証(以下「甲11」という。)には、以下の記載がある。
ア 右側より、赤色の層の上に白色の層、黄色の層が看取できる。

3 公然実施発明について
請求人は、甲1に示される電気用手袋「YS-102-11-1」から把握される発明が、本件特許出願前に公然実施された発明であって、この電気用手袋「YS-102-11-1」は、甲2の型式検定合格証、並びに甲3の1?甲3の5及び甲9?甲11の写真に示される手袋と同じである旨主張する。以下、検討する。

(1)電気用手袋「YS-102-11-1」が掲載された甲1は、ヨツギ株式会社の電気安全用品カタログであって、このようなカタログに掲載された製品は、広くユーザーに対して譲渡等の申出がされ、実際に譲渡等が行われたことが推認されるから、甲1に掲載された電気用手袋「YS-102-11-1」は、甲1のカタログに表記された「平成16年2月」の時点において、公然実施されたものといえる。

(2)そして、甲2は、電気用手袋「YS-102-11-1」に係る型式検定合格証であって、その発行日と「有効期間」の欄の記載から、「昭和61年6月25日」に型式検定に合格した後、更新され、平成31年現在も有効である旨看取できる。
甲2に示す型式検定合格証は、労働安全衛生法第42条及び第44条の2に基づき、厚生労働大臣の登録を受けた型式検定機関が発行したものであって、登録を受けた型式の電気用手袋については、その型式のとおりに製造しなければ、労働安全衛生法第42条の規定に違反することになる(審判請求書の手続補正書13頁1行?下から5行)ことからすれば、甲2の型式検定合格証の対象である電気用手袋「YS-102-11-1」は、型式検定合格証に記載した事項の範囲内で、平成16年2月に販売されていた電気用手袋「YS-102-11-1」と同じであるといえる。

(3)甲3の1及び甲3の2は、2018年6月製造の「YS-102-11-1」の写真である。そして、甲2より「YS-102-11-1」は、平成16年2月以前から現在まで製造されていることは、理解できる。そして、通常同じ形式のものは、ユーザーへの配慮から大きな変更は行われないとしても、用いられる原材料を改良する等、品質向上のための改良が行われ得ることを考慮すると、甲3の1及び甲3の2の2018年6月製造の「YS-102-11-1」が、平成16年2月以前から現在まで型式検定合格証に記載されていないことまで同じであるとは、直ちにはいえない。

ここで、請求人は、「YS-102-11-1」は、労働安全衛生法第42条第44条の2及び第119条の規定により、甲2の形式検定合格証のとおり製造しなければならず、甲2の有効期間の欄に示されるとおり、平成16年2月以前から平成30年まで形式検定合格証に示すとおり製造販売されているのであるから、甲3の1及び甲3の2の2018年6月製造の「YS-102-11-1」は、甲1に示される電気用手袋「YS-102-11-1」と同じである旨主張する(審判請求書の手続補正書13頁下から4行?14頁6行)。
しかし、平成16年2月に販売された甲1に示される電気用手袋「YS-102-11-1」が、その後10年以上にわたって、原材料を含め何ら改良されずに製造されていることは証されていないから、請求人の主張は採用できない。

(4)請求人は、甲3の3は、甲3の1及び甲3の2の掌部の断面の写真であると説明する(平成31年2月4日の口頭審理陳述要領書3頁5?10行)。
しかし、甲3の1及び甲3の2の写真からは、黄色の層の表面に凹凸があることは看取できず、手首の端面において黄色の層は、赤色の層と比較して相当薄いのに対して、甲3の3では、黄色の層の表面には凹凸があり、黄色の層は、赤い層の厚さの半分程度であり、甲3の3が、掌部の断面斜視の写真であるとは直ちにいえない。そして、甲3の3が、甲1及び甲2に示す電気用手袋「YS-102-11-1」の掌部の断面の写真であることを示す証拠も示されていない。

(5)請求人は、甲3の1及び甲3の2の「YS-102-11-1」が、手の型に嵌めた赤色の層の手袋の外側に白色半透明の手袋を被せて、その後、黄色の層を形成する液体をコーティングし、製造するものであって、甲3の4及び甲3の5は、その際の部材の写真であって、赤色の層が、甲2の内層部に相当し、白色半透明の層が、甲2の合成繊維布(中間部)に相当する旨主張する(審判請求書の手続補正書6頁下から3行?8頁5行、平成31年2月4日の口頭審理陳述要領書3頁11?15行)。
しかし、甲3の4及び甲3の5は、甲3の1及び甲3の2の「YS-102-11-1」に用いられた部材であることを示す証拠は提出されておらず、また、請求人の主張する製造方法により甲3の1及び甲3の2の「YS-102-11-1」が製造されること、甲3の4及び甲3の5の部材から「YS-102-11-1」が製造されることは、何ら証明されていないのであるから、甲3の4及び甲3の5が、甲3の1及び甲3の2の「YS-102-11-1」の構造を示しているとすることはできない。
また、甲10は、甲3の4の写真に注釈を追加したものであるから、同様に、甲3の1及び甲3の2の「YS-102-11-1」の構造を示しているとはいえない。

(6)甲9は、甲3の3の拡大写真であるが、上記(4)で検討したとおりであるから、甲3の1及び甲3の2の掌部の断面の写真であるとすることはできない。

(7)甲11は、「YS-102-11-1」の製造において、黄色い層のコーティングを途中まで行ったものである旨主張する(平成31年2月25日の口頭審理陳述要領書4頁18?22行)が、上記(5)で検討したのと同じ理由により、甲3の1及び甲3の2の「YS-102-11-1」の構造を示しているとはいえない。

(8)そうすると、甲1に示される電気用手袋「YS-102-11-1」により、平成16年2月の時点で公然と実施されていた発明といえるのは、甲1及び甲2の記載事項から認定できる事項である。

(9)そして、甲2には、「(1)図中の破線は、中間部合成繊維布の縫目を示す。」と記載され、図には、破線が手首端部から指の先端まで記載されている事から、中間部合成繊維布が手袋形状であることが看取できる。
したがって、上記2の(1)及び(2)の記載事項を総合すると、以下の発明(以下「公然実施発明」という。)が、本件特許出願前に公然実施されていたと認められる。

「天然ゴム混合物である内層部と、合成繊維布である中間部と、天然ゴム混合物である外層部と、を備える電気用手袋であって、
中間部に合成繊維布をはさんでいるため、作業時に破れにくく、作業性も良く、
合成繊維布である中間部が手袋状である電気用手袋。」

(10)上記(4)?(7)のとおり、甲3の1?甲3の5及び甲9?甲11は、甲1及び甲2の電気用手袋「YS-102-11-1」を示しているとはいえないが、仮に、当該甲各号証がその構造を示しているとして、以下、予備的に、請求人の主張を検討する。

ア 請求人は、甲3の3及び甲9から、合成繊維布に外層部が含浸していることが看取できる旨主張する(平成31年2月25日の口頭審理陳述要領書2頁18?24行)。
しかし、甲3の3において、黄色の層の中に白色島状の部分がいくつか看取できるが、当該白色島状の部分に黄色の層が含浸していることまでは、看取できない。
また、甲3の3を拡大した甲9においても、同様に、白色島状の部分に黄色の層が含浸していることまでは、看取できない。
イ 請求人は、甲3の3及び甲9から、外層部の厚さが合成繊維布(中間部)の厚さ以下であることが看取できる旨主張する(平成31年2月25日の口頭審理陳述要領書2頁25?30行)。
しかし、甲3の3及び甲9において、白色島状の部分の表面を明確に把握することができないから、白色島状の部分の厚さ(長さ)と白色島状の部分の端から黄色い層の表面までの厚さ(長さ)を比較することができない。
さらに、甲9に示される(ウ)と(イ)の長さを比較すると、(ウ)が(イ)より長いともいえない。
よって、請求人の主張は採用できない。
ウ 請求人は、甲3の2、甲3の3及び甲9から、外層部により中間部の合成繊維布の目部に沿って凹凸形成されていることが看取できる旨主張する(平成31年2月25日の口頭審理陳述要領書2頁31行?3頁1行)。
しかし、甲3の2からは、黄色の層の表面に凹凸があることは看取できない。
また、甲3の3及び甲9から、黄色の層の表面に凹凸があることは看取できるものの、白色島状の部分と黄色の層表面の凹凸とが対応して形成していることまでは看取できず、外層部により中間部の合成繊維布の目部に沿って凹凸形成されていることは看取できない。
エ そうすると、上記2の(1)?(7)及び(12)?(14)の記載を総合しても、上記公然実施発明より詳細な発明が記載されているとはいえない。

4 対比
本件発明1と公然実施発明とを対比する。
(1)公然実施発明の「天然ゴム混合物である内層部」は、天然ゴム混合物が弾性を有することは明らかであるから、本件発明1の「弾性材料により形成された手袋基体」に相当する。
(2)公然実施発明は、「内層部」、「中間部」及び「外装部」が一体となって「電気用手袋」を構成するものであるから、中間部は内層部の外側に貼着されているといえる。
したがって、公然実施発明の「手袋状」であって「合成繊維布である中間部」は、「前記手袋基体の外側に装着して貼着されている手袋状に形成された所定の面積を有する生地体」に相当する。
(3)公然実施発明の「電気用手袋」は、本件発明1の「電気工事作業に使用する作業用手袋」に相当する。
(4)公然実施発明の「合成繊維布である中間部が手袋状である」ことは、掌部と、親指部及び人差し指部に貼着される指袋状の部位とを有しているから、本件発明1の「前記生地体は、前記手袋基体の掌部に貼着されている部位と、前記手袋基体の親指部及び人差し指部に貼着されている指袋状の部位とを少なくとも備え」ることに相当する。
(5)公然実施発明の「天然ゴム混合物である外層部」は、本件発明1の「コーティング被膜」に相当する。

そうすると、本件発明1と公然実施発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「弾性材料により形成された手袋基体と、前記手袋基体の外側に装着して貼着されている手袋状に形成された所定の面積を有する生地体とを備える電気工事作業に使用する作業用手袋であって、
前記生地体は、前記手袋基体の掌部に貼着されている部位と、前記手袋基体の親指部及び人差し指部に貼着されている指袋状の部位とを少なくとも備え、
コーティング被膜を有する電気工事作業に使用する作業用手袋。」

<相違点1>
生地体が、本件発明1は、「アラミド繊維などの難燃性を有する素材によりな」るのに対して、公然実施発明は、合成繊維布の具体的な材料が不明な点。
<相違点2>
コーティング被膜について、本件発明1は、「前記生地体を構成する繊維内に前記生地体の表面側から含浸し、かつ接着機能を有するコーティング材料により、前記生地体の表面に、同生地体の厚み以下に形成され」ているのに対して、公然実施発明は、そのように特定されていない点。
<相違点3>
コーティング被膜について、本件発明1は、「前記生地体よりも摩擦係数が高」いのに対して、公然実施発明は、中間部と外層部の摩擦係数が不明である点。
<相違点4>
本件発明1は、「前記コーティング被膜により前記生地体の繊維や目部に沿って凹凸が形成されている」のに対して、公然実施発明は、そのように凹凸を形成しているか不明である点。

5 当審の判断
(1)上記相違点について検討する。
<相違点2について>
甲4には、「上記のシームレス手袋は撥水加工を施してあるので、編糸の表面に撥水層が形成されている。このため、高分子材料は編糸内部の繊維間へは浸透せず、編糸の表面を覆うとともに編目内に浸透する。そしてこのシームレス手袋の編目内に浸透した高分子材料は、その編目を通過して内層手袋に浸透する。このとき、シームレス手袋の編糸には高分子材料が浸透していないので、この高分子材料は、内層手袋の外面側のうちの、編糸に対面する部位には浸透し難いが、シームレス手袋の編目に対面する部位には容易に浸透する。この結果、内層手袋の外面側の一部に高分子材料が浸透し、この浸透した高分子材料により内層手袋とシームレス手袋とが互いに確りと接着する。」(【0008】)と記載されており、繊維内に高分子材料は含浸していない。また、図3から、高分子材料4の厚さがシームレス手袋の厚み以下であることは看取できない。
そして、本件発明1は、相違点2に係る構成を備えることで、繊維内部にコーティング材料が含浸しているため、繊維表面のコーティング被膜が摩耗して繊維本体が露出しても、防滑性を可及的に維持することができ(【0051】)、コーティング被膜の厚さを生地体の厚み以下とすることで、繊維や目部による凹凸を形成することで作業用手袋の表面に優れた滑り止め効果を付与する(【0040】、【0057】)という効果を有するものである。
そうすると、コーティング被膜を、生地体を構成する繊維内に前記生地体の表面側から含浸し、生地体の厚み以下に形成することについて、何ら証拠が示されておらず、公然実施発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成を備えることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
<相違点4について>
本件発明1は、「前記コーティング被膜により前記生地体の繊維や目部に沿って凹凸を形成されている」ことで、生地体表面に形成するコーティング層は、生地体の目部による凹凸を残しつつ形成され、優れた滑り止め効果を有するものである。
そして、繊維や目部に沿って凹凸を形成することについて、何ら証拠が示されていないのであるから、公然実施発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成を備えることは、当業者が容易に想到し得たものではない。

(2)上記のとおりであるから、上記相違点1及び相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、公然実施発明、及び甲第4号証記載の事項又は甲第5?7号証の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるとはいえず、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきであるとはいえない。

(3)本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を付加した発明であるから、上記本件発明1について検討したのと同じ理由により、公然実施発明、及び甲第4号証記載の事項又は甲第5?7号証の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるとはいえず、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきであるとはいえない。


第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によって、本件発明1及び2に係る特許を無効とすることはできない。また、他に本件発明1及び2に係る特許を無効にすべき理由を発見しない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-03-20 
結審通知日 2019-03-25 
審決日 2019-04-12 
出願番号 特願2010-135942(P2010-135942)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A41D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 龍平白土 博之  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 佐々木 正章
西藤 直人
登録日 2012-08-17 
登録番号 特許第5065448号(P5065448)
発明の名称 電気工事作業に使用する作業用手袋  
代理人 鈴木 祐輔  
代理人 市川 泰央  
代理人 山上 祥吾  
代理人 水原 博久  
代理人 松尾 憲一郎  
代理人 山下 幸彦  
代理人 八木 健一  
代理人 特許業務法人 エビス国際特許事務所  

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