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審決分類 |
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 H04N |
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管理番号 | 1351957 |
審判番号 | 不服2017-15669 |
総通号数 | 235 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-07-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-10-23 |
確定日 | 2019-05-22 |
事件の表示 | 特願2014-549122「ビデオコーディングのための動きベクトル予測の実行」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月27日国際公開、WO2013/096018、平成27年 3月 2日国内公表、特表2015-506606〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2012年(平成24年)12月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年12月22日 米国、2012年1月6日 米国、2012年12月10日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成26年12月15日:手続補正書の提出 平成27年11月16日:手続補正書の提出 平成28年10月21日:拒絶理由通知 平成29年 1月31日:意見書の提出 平成29年 6月13日:拒絶査定 平成29年 6月27日:拒絶査定の謄本の送達 平成29年10月23日:審判請求書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成27年11月16日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 なお、A?Fについては、説明のために当審にて付したものである。 (以下、「構成A」?「構成F」という。) 「A ビデオデータを符号化する方法であって、 B 動きベクトル予測プロセスを行うために前記ビデオデータの現在のブロックに関する複数の候補動きベクトルを特定することと、 C 前記ビデオデータの前記現在のブロックに関して特定された前記複数の候補動きベクトルのうちの1つまたは複数をスケーリングして1つまたは複数のスケーリングされた候補動きベクトルを生成することと、 D 前記スケーリングされた候補動きベクトルを1/4ピクセル単位で[-32768,32767]である指定範囲内になるように修正することと、 E 前記ビデオデータの前記現在のブロックに関する動きベクトル予測子として前記複数の候補動きベクトルのうちの1つを選択することと、 F 前記選択された動きベクトル予測子に基づいて前記ビデオデータの現在のブロックを符号化することと A を備える方法。」 第3 原査定の拒絶の理由 請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は、以下のとおりである。 この出願の請求項1に係る発明は、その出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた下記の日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)。 記 PCT/JP2012/007895号(国際公開第2013/088697号)(以下、「先願1」という。) 第4 先願1について (1)先願1の記載事項 原査定の拒絶理由において引用された、本件出願の優先日前の優先権を主張する特許出願であって、その出願後に国際公開がされた特許出願である先願1の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という。)には、「動画像符号化方法、動画像符号化装置、動画像復号方法、動画像復号装置、および動画像符号化復号装置」として、次の事項が記載されている。 なお、下線は、説明のために当審にて付したものである。 ア「[0001] 本発明は、複数のピクチャをブロック毎に符号化する動画像符号化方法、および複数のピクチャをブロック毎に復号する動画像復号方法に関する。」 イ「[0007]非特許文献1:ITU-T H.264 03/2010 非特許文献2:WD4:Working Draft 4 of High-Efficiency Video Coding Joint Collaborative Team on Video Coding(JCT-VC) of ITU-T SG16 WP3 and ISO/IEC JTC1/SC29/WG11 6th Meeting:Torino,IT, 14-22 July,2011、Document:JCTVC-F803_d2」 ウ「[0060] そこで、本発明の一態様に係る動画像符号化方法は、複数のピクチャをブロック毎に符号化する動画像符号化方法であって、符号化対象ピクチャに含まれ符号化対象ブロックに空間的に隣接する、または、前記符号化対象ピクチャとは異なるピクチャに含まれる時間的に隣接する1以上の対応ブロックのそれぞれについて、リストに前記対応ブロックの動きベクトルを選択的に追加する追加ステップと、前記リストから、前記符号化対象ブロックの符号化のために用いる動きベクトルを選択する選択ステップと、前記選択ステップにおいて選択された前記動きベクトルを用いて前記符号化対象ブロックを符号化する符号化ステップとを含み、前記追加ステップでは、前記時間的に隣接する対応ブロックの第1の動きベクトルをスケーリング処理することにより第2の動きベクトルを算出し、算出した前記第2の動きベクトルが、所定の大きさの範囲に含まれるか否かを判定し、前記第2の動きベクトルが前記所定の大きさの範囲内に含まれれば、前記第2の動きベクトルを前記対応ブロックの動きベクトルとして前記リストに追加する。」 エ「[0062] また、前記追加ステップでは、前記第2の動きベクトルが前記所定の大きさの範囲内に含まれなければ、前記第2の動きベクトルを前記所定の大きさの範囲内に収まるようにクリップし、クリップ後の動きベクトルを前記対応ブロックの動きベクトルとして前記リストに追加してもよい。」 オ「[0091] ここでは、符号化制御部108が、符号化対象ブロックを(1)インター符号化(MODE_INTER)し、かつ、(2)マージモード(MergeMODE)を利用すると判定した(あるいは利用した場合の結果を得る)場合のマージモード符号化動作について説明する。 [0092] HEVCのマージモードは、観念的にはH.264で導入されたダイレクトモードと等しい。動きベクトルの導出に関して、H.264のダイレクトモード同様に符号列を利用することなく、空間的(S)または時間的(T)に他のブロックの動きベクトルを利用して導出する。 [0093] H.264のダイレクトモードとの主な違いは以下である。 [0094] (a)処理単位:マージモードを利用するか否かを、スライス単位より細かいPreduicitionUnit(PU)単位のmerge_flagにより切り替えることができる。 [0095] (b)選択単位:(S)空間ダイレクトを利用するか(T)時間ダイレクトを利用するか、を2拓ではなく、より多数の候補値からmerge_idxにより指定することができる。具体的には、符号化・復号プロセスにおいてマージモードで利用される動きベクトルの候補リストであるマージ候補リスト(mergeCandList)を導出する。このリスト中の符号列から指定されるインデクスの値(merge_idxの値)により、どの動きベクトル候補を用いるかを特定する。」 カ「[0139] また、本実施の形態では、ステップS305において、動きベクトルmvL0の水平成分、または垂直成分のいずれかが、あるビット精度で表すことが可能な範囲を超えている場合には、co-locatedブロックから算出するマージブロック候補をマージ候補リストに追加しないようにしたが、必ずしもこれに限らない。例えば、図15のステップS401に示すように、動きベクトルmvL0の水平成分、または垂直成分の値を、あるビット精度で表すことが可能な大きさにクリップし、クリップ後の動きベクトルを持つマージブロック候補として、マージ候補リストに追加するようにしても構わない。例えば、あるビット精度として16bit精度を仮定した場合に、スケーリング処理後の動きベクトルの水平成分の値が+32767を超えた場合は、クリップ後の動きベクトルの水平成分として+32767を用いて、マージブロック候補を算出するようにしても構わない。また、例えば、スケーリング処理後の動きベクトルの水生成分の値が-32768を下回った場合は、クリップ後の動きベクトルの水平成分として-32768を用いて、マージブロック候補を算出するようにしても構わない。」 キ「[0168] また、本実施の形態では、非特許文献2で検討が進められているHEVCのマージモードを用いて、スケーリング処理後の動きベクトルの大きさの範囲を、あるビット精度で表すことが可能な範囲に収める例を示したが、同様に、非特許文献2で検討が進められているHEVCのAMVPの予測動きベクトル候補を算出する方式に対しても適用可能である。」 (2)先願1の優先権の主張の基礎とされた出願の出願書類の記載事項 先願1の優先権の主張の基礎とされた出願である米国出願番号61/576501(出願日 2011年12月16日)の出願書類(以下、「基礎出願書類」という。)には、上記(1)ア?キに記載した先願明細書等の記載事項に対応する以下の記載がある。 ア「本発明は、動画像符号化方法および動画像復号化方法に関する。」(1頁5行) イ「【非特許文献2】WD4:Working Draft 4 of High-Efficiency Video Coding Joint Collaborative Team on Video Coding(JCT-VC) of ITU-T SG16 WP3 and ISO/IEC JTC1/SC29/WG11 6th Meeting:Torino,IT, 14-22 July,2011、Document:JCTVC-F803 d2 」(5頁6行?9行) ウ「【請求項1】 複数のピクチャをブロック毎に符号化する画像符号化方法であって、 符号化対象ピクチャに含まれ符号化対象ブロックに空間的に隣接する、または、前記符号化対象ピクチャとは異なる1以上のピクチャに含まれる時間的に隣接する1以上の対応ブロックのそれぞれについて、リストに対応ブロックの動きベクトルを選択的に追加する追加ステップと、 前記リストから、前記符号化対象ブロックにマージされる動きベクトルを選択する選択ステップと、 前記選択ステップで選択された前記動きベクトルを前記符号化対象ブロックにマージし、マージされた前記動きベクトルを用いて前記符号化対象ブロックを符号化する符号化ステップとを含み、 前記追加ステップは、前記時間的に隣接する対応ブロックの第1の動きベクトルから算出した第2の動きベクトルが、所定の大きさの範囲に含まれるかどうかを判定する判定ステップと、 を含むことを特徴とする画像符号化方法。」(34頁2行?15行) エ「【請求項3】 前記追加ステップは、前記時間的に隣接する対応ブロックの第1の動きベクトルをスケーリング処理することにより前記第2の動きベクトルを算出し、前記判定ステップは、前記第2の動きベクトルが前記所定の大きさの範囲内に入らなければ、前記第2の動きベクトルを前記所定の大きさ内に収まるようにクリッピングし、前記クリッピング後の動きベクトルを前記リストに追加する、 ことを特徴とする請求項1に記載の画像符号化方法。」(34頁24行?30行) オ「特に、符号化制御部が、符号化対象ブロックを (1)インター符号化(MODE_INTER)し、かつ、 (2)マージモード(MergeMODE)を利用すると判定した(あるいは利用した場合の結果を得る)場合のマージモード符号化動作である(ステップS200)。 HEVCのマージモードは、観念的にはH.264で導入されたダイレクトモードと等しい。動きベクトルの導出に関して、H.264のダイレクトモード同様に符号列を利用することなく、空間的Sまたは時間的Tに他のブロックの動きベクトルを利用して導出する。 H.264のダイレクトモードとの主な違いは以下である。 (a)処理単位:マージモードを利用するか否かを、スライス単位より細かい PreduicitionUnit(PU)単位のmerge_flagにより切り替えることができる。 (b)選択単位:(S)空間ダイレクトを利用するか(T)時間ダイレクトを利用するか、を2拓ではなく、より多数の候補値からmerge_idxにより指定することができる。具体的には、符号化・復号プロセスでマージモードで利用される動きベクトルの候補リストであるマージ候補リスト(mergeCandList)を導出する。このリスト中の符号列から指定されるインデクスの値(merge_idxの値)により、どの動きベクトル候補を用いるかを特定する。」(6頁31行?7頁9行) カ「また、本実施の形態では、S720において、mvL0の水平、垂直成分のいずれかが、あるビット精度で表すことが可能な範囲を超えている場合には、co-locatedブロックから算出するマージブロック候補をマージ候補リストに追加しないようにしたが、必ずしもこれに限らず、例えば、図8のS820に示すように、mvL0の水平、垂直成分の値を、あるビット精度で表すことが可能な大きさにクリップし、クリップ後の動きベクトルを持つマージブロック候補として、マージ候補リストに追加するようにしても構わない。例えば、あるビット精度として16bit精度を仮定した場合に、スケーリング処理後の動きベクトルの水平成分の値が+32767を超えた場合は、クリップ後の動きベクトルの水平成分として+32767を用いて、マージブロック候補を算出するようにしても構わない。また、例えば、スケーリング処理後の動きベクトルの水生成分の値が-32768を下回った場合は、クリップ後の動きベクトルの水平成分として-32768を用いて、マージブロック候補を算出するようにしても構わない。」(11頁26行?36行) キ「また、本実施の形態では、非特許文献2で検討が進められているHEVCのマージモードを用いて、スケーリング処理後の動きベクトルの大きさの範囲を、あるビット精度で表すことが可能な範囲に収める例を示したが、同様に、非特許文献2で検討が進められているHEVCのAMVPの予測動きベクトル候補を算出する方式に対しても適用可能である。」(13頁36行?14頁3行) (3)先願発明 上記(1)ア?キ及び上記(2)ア?キの記載のとおり、基礎出願書類及び先願明細書等には、動画像符号化方法について、共通した記載がされている。 基礎出願書類及び先願明細書等に共通して記載されている発明(以下、「先願発明」という。)について、以下に検討する。 (a)上記(1)ア及び上記(2)アの記載から、先願1には、動画像符号化方法についての発明が記載されている。 (b)上記(1)ウ、オ、キ及び上記(2)ウ、オ、キの記載から、先願1の動画像符号化方法は、マージモードやAMVPのために、動きベクトルの候補リストに符号化対象ピクチャに含まれ符号化対象ブロックに空間的に隣接する、または、前記符号化対象ピクチャとは異なるピクチャに含まれる時間的に隣接する1以上の対応ブロックの動きベクトルを選択的に追加するものである。 (c)上記(1)ウ及び上記(2)ウの記載から、先願1の動画像符号化方法は、前記時間的に隣接する対応ブロックの第1の動きベクトルをスケーリング処理することにより第2の動きベクトルを算出するものである。 (d)上記(1)ウ、エ、カ及び上記(2)ウ、エ、カの記載から、先願1の動画像符号化方法は、スケーリング処理後の第2の動きベクトルの水平成分の値が-32768を下回った場合は、クリップ後の動きベクトルの水平成分として-32768を用いて、+32767を超えた場合は、クリップ後の動きベクトルの水平成分として+32767を用いて、クリップ後の動きベクトルを前記対応ブロックの動きベクトルとして前記動きベクトルの候補リストに追加するものである。 (e)上記(1)ウ及び上記(2)ウの記載から、先願1の動画像符号化方法は、前記動きベクトルの候補リストから、前記符号化対象ブロックの符号化のために用いる動きベクトルを選択し、選択された前記動きベクトルを用いて前記符号化対象ブロックを符号化するものである。 (f)上記(a)?(e)より、基礎出願書類及び先願明細書等には、以下の先願発明が記載されている。 なお、a?fについては、説明のために当審にて付したものである。 (以下、「構成a」?「構成f」という。) ここで、先願発明は、基礎出願書類及び先願明細書等に共通して記載されている発明であるから、本願発明に対する特許法第29条の2の規定の適用については、先願発明は、先願1の優先権の主張の基礎とされた出願である米国出願番号61/576501の出願日である2011年12月16日に我が国へ出願がされたものとして扱う。 (先願発明) 「a 動画像符号化方法であって、 b マージモードやAMVPのために、動きベクトルの候補リストに符号化対象ピクチャに含まれ符号化対象ブロックに空間的に隣接する、または、前記符号化対象ピクチャとは異なるピクチャに含まれる時間的に隣接する1以上の対応ブロックの動きベクトルを選択的に追加することと、 c 前記時間的に隣接する対応ブロックの第1の動きベクトルをスケーリング処理することにより第2の動きベクトルを算出することと、 d スケーリング処理後の第2の動きベクトルの水平成分の値が-32768を下回った場合は、クリップ後の動きベクトルの水平成分として-32768を用いて、+32767を超えた場合は、クリップ後の動きベクトルの水平成分として+32767を用いて、クリップ後の動きベクトルを前記対応ブロックの動きベクトルとして前記動きベクトルの候補リストに追加することと、 e 前記動きベクトルの候補リストから、前記符号化対象ブロックの符号化のために用いる動きベクトルを選択することと、 f 選択された前記動きベクトルを用いて前記符号化対象ブロックを符号化することと a を備える動画像符号化方法。」 第5 本願発明と先願発明との対比と、一致点・相違点の認定 (1)本願発明の構成Aと先願発明の構成aとの対比 構成aの「動画像符号化方法」は、構成Aの「ビデオデータを符号化する方法」に一致する。 (2)本願発明の構成Bと先願発明の構成bとの対比 構成bの「マージモードやAMVP」は、符号化対象ブロックの動きベクトルの予測を行うことであるから、構成bの「マージモードやAMVP」は、構成Bの「動きベクトル予測プロセス」に対応する。 構成bにおいて「動きベクトルの候補リストに符号化対象ピクチャに含まれ符号化対象ブロックに空間的に隣接する、または、前記符号化対象ピクチャとは異なるピクチャに含まれる時間的に隣接する1以上の対応ブロックの動きベクトルを選択的に追加する」ために、「符号化対象ピクチャに含まれ符号化対象ブロックに空間的に隣接する、または、前記符号化対象ピクチャとは異なるピクチャに含まれる時間的に隣接する1以上の対応ブロックの動きベクトル」を特定する必要があることは、当業者にとって明らかなものである。 そして、構成bの「符号化対象ピクチャに含まれ符号化対象ブロックに空間的に隣接する、または、前記符号化対象ピクチャとは異なるピクチャに含まれる時間的に隣接する1以上の対応ブロックの動きベクトル」は、符号化対象ブロックの1以上の予測の候補である動きベクトルであるといえる。 ここで、構成bの「符号化対象ブロック」は、動画像のうちの現在符号化を実施しようとするブロックであるから、構成Bの「ビデオデータの現在のブロック」に相当する。 また、「1以上」は、複数を含むものである。 したがって、構成bの「動きベクトルの候補リストに符号化対象ピクチャに含まれ符号化対象ブロックに空間的に隣接する、または、前記符号化対象ピクチャとは異なるピクチャに含まれる時間的に隣接する1以上の対応ブロックの動きベクトルを選択的に追加すること」は、構成Bの「前記ビデオデータの現在のブロックに関する複数の候補動きベクトルを特定すること」に相当する処理を含むといえる。 よって、構成bの「マージモードやAMVPのために、動きベクトルの候補リストに符号化対象ピクチャに含まれ符号化対象ブロックに空間的に隣接する、または、前記符号化対象ピクチャとは異なるピクチャに含まれる時間的に隣接する1以上の対応ブロックの動きベクトルを選択的に追加すること」は、構成Bの「動きベクトル予測プロセスを行うために前記ビデオデータの現在のブロックに関する複数の候補動きベクトルを特定すること」に相当する処理を含むといえる。 (3)本願発明の構成Cと先願発明の構成cとの対比 構成cの「前記時間的に隣接する対応ブロックの第1の動きベクトル」は、構成bの「符号化対象ピクチャに含まれ符号化対象ブロックに空間的に隣接する、または、前記符号化対象ピクチャとは異なるピクチャに含まれる時間的に隣接する1以上の対応ブロックの動きベクトル」のうちの「前記符号化対象ピクチャとは異なるピクチャに含まれる時間的に隣接する1以上の対応ブロックの動きベクトル」すなわち、「符号化対象ピクチャに含まれ符号化対象ブロックに空間的に隣接する、または、前記符号化対象ピクチャとは異なるピクチャに含まれる時間的に隣接する1以上の対応ブロックの動きベクトル」のうちの一部の動きベクトルである。 そして、上記(2)の検討より、構成bの「符号化対象ピクチャに含まれ符号化対象ブロックに空間的に隣接する、または、前記符号化対象ピクチャとは異なるピクチャに含まれる時間的に隣接する1以上の対応ブロックの動きベクトル」が、構成Bの「前記ビデオデータの現在のブロックに関する複数の候補動きベクトル」に相当することから、構成cの「前記時間的に隣接する対応ブロックの第1の動きベクトル」は、構成Cの「前記ビデオデータの前記現在のブロックに関して特定された前記複数の候補動きベクトルのうちの1つまたは複数」に相当する。 構成cの「第2の動きベクトル」は、第1の動きベクトルをスケーリング処理した動きベクトルであるから、構成Cの「1つまたは複数のスケーリングされた候補動きベクトル」に相当する。 したがって、構成cの「前記時間的に隣接する対応ブロックの第1の動きベクトルをスケーリング処理することにより第2の動きベクトルを算出すること」は、構成Cの「前記ビデオデータの前記現在のブロックに関して特定された前記複数の候補動きベクトルのうちの1つまたは複数をスケーリングして1つまたは複数のスケーリングされた候補動きベクトルを生成すること」に一致する。 (4)本願発明の構成Dと先願発明の構成dとの対比 上記(3)の検討より、構成dの「スケーリング処理後の第2の動きベクトル」は、構成Dの「前記スケーリングされた候補動きベクトル」に相当する。 また、構成dの「水平成分の値が-32768を下回った場合は、クリップ後の動きベクトルの水平成分として-32768を用いて、+32767を超えた場合は、クリップ後の動きベクトルの水平成分として+32767を用いて、クリップ後の動きベクトルを前記対応ブロックの動きベクトルとして前記動きベクトルの候補リストに追加すること」は、スケーリング処理後の第2の動きベクトルを-32768から+32767の範囲内に修正していることといえるので、構成Dの「[-32768,32767]である指定範囲内になるように修正すること」に相当する。 したがって、構成dと構成Dは、「前記スケーリングされた候補動きベクトルを[-32768,32767]である指定範囲内になるように修正すること」という点で共通する。 しかしながら、構成dは、修正の単位が特定されておらず、構成Dのような、「1/4ピクセル単位」であるか否か不明な点で、一応の相違が認められる。 (5)本願発明の構成Eと先願発明の構成eとの対比 上記(2)の検討より、構成eの「符号化対象ブロック」は、構成Eの「前記ビデオデータの前記現在のブロック」に相当する。 そして、構成eの「前記動きベクトルの候補リストから、符号化対象ブロックの符号化のために用いる動きベクトルを選択すること」は、符号化対象ブロックに関する動きベクトルとして、複数の候補の動きベクトルから1つを選択することであり、構成Eの「前記ビデオデータの前記現在のブロックに関する動きベクトル予測子として前記複数の候補動きベクトルのうちの1つを選択すること」に一致する。 (6)本願発明の構成Fと先願発明の構成fとの対比 上記(5)の検討より、構成fの「選択された前記動きベクトル」は、構成Fの「前記選択された動きベクトル予測子」に相当する。 上記(2)、(5)の検討より、構成fの「前記符号化対象ブロック」は、構成Fの「前記ビデオデータの現在のブロック」に相当する。 したがって、構成fの「選択された前記動きベクトルを用いて前記符号化対象ブロックを符号化すること」は、構成Fの「前記選択された動きベクトル予測子に基づいて前記ビデオデータの現在のブロックを符号化すること」に相当する。 (7)一致点・相違点 上記(1)?(6)から、本願発明と先願発明は、以下の点で一致ないし相違する。 <一致点> 「A ビデオデータを符号化する方法であって、 B 動きベクトル予測プロセスを行うために前記ビデオデータの現在のブロックに関する複数の候補動きベクトルを特定することと、 C 前記ビデオデータの前記現在のブロックに関して特定された前記複数の候補動きベクトルのうちの1つまたは複数をスケーリングして1つまたは複数のスケーリングされた候補動きベクトルを生成することと、 D’前記スケーリングされた候補動きベクトルを[-32768,32767]である指定範囲内になるように修正することと、 E 前記ビデオデータの前記現在のブロックに関する動きベクトル予測子として前記複数の候補動きベクトルのうちの1つを選択することと、 F 前記選択された動きベクトル予測子に基づいて前記ビデオデータの現在のブロックを符号化することと A を備える方法。」 <相違点> 「前記スケーリングされた候補動きベクトルを[-32768,32767]である指定範囲内になるように修正すること」に関して、本願発明は、「1/4ピクセル単位」であるのに対し、先願発明は、修正の単位が特定されていない点。 第6 判断 相違点について検討する。 先願明細書等には、上記第4(1)イのように、非特許文献2が提示されており、上記第4(1)キのように、非特許文献2のHEVCのマージモード又はAMVPにおいて、スケーリング処理後の動きベクトルの大きさの範囲を、あるビット精度で表すことが可能であることが記載されている。 ここで、非特許文献2の116頁の8.4.2.2.2には、「a luma motion vector mvLX given in quarter-luma-sample units,」と記載されており、Lumaの動きベクトルは、1/4ピクセル単位である。 また、上記非特許文献2とはバージョンが異なるだけであるJCTVC-F803のワーキングドラフトであり、拒絶査定で周知技術を示す文献として提示した引用文献2(WD4:Working Draft 4 of High-Efficiency Video Coding JCT-VC JCTVC-F803_d1)にも、同じ記載がある。 したがって、非特許文献2の技術が前提である先願発明においても、動きベクトルが1/4ピクセル単位で表されていることは自明のことであるから、上記相違点は実質的な相違点ではない。 よって、本願発明は、先願発明と同一である。 また、発明者及び出願人が同一でもない。 第7 まとめ 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、先願1の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本願の発明者が先願1に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本願の出願の時において、本願の出願人が先願1の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2018-12-11 |
結審通知日 | 2018-12-18 |
審決日 | 2019-01-07 |
出願番号 | 特願2014-549122(P2014-549122) |
審決分類 |
P
1
8・
16-
Z
(H04N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 堀井 啓明 |
特許庁審判長 |
清水 正一 |
特許庁審判官 |
坂東 大五郎 渡辺 努 |
発明の名称 | ビデオコーディングのための動きベクトル予測の実行 |
代理人 | 岡田 貴志 |
代理人 | 井関 守三 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 福原 淑弘 |