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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 F16H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1351962
審判番号 不服2018-949  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-24 
確定日 2019-05-22 
事件の表示 特願2015-520323「二重湿式クラッチトランスミッション」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月 3日国際公開、WO2014/004274、平成27年 7月30日国内公表、特表2015-521726〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)6月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年(平成24年)6月26日 仏国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。
平成26年12月12日 :国内書面(翻訳文)の提出
平成28年12月26日付け:拒絶理由通知書
平成29年 4月 3日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 9月20日付け:拒絶査定
平成30年 1月24日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成30年1月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年1月24日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲は次のとおり補正された。(下線部は、本件補正による補正箇所を示す。)
「【請求項1】
車両ギヤボックス用の二重湿式クラッチトランスミッション(3)であって、前記二重湿式クラッチトランスミッション(3)が駆動軸(12)に連結され、かつ前記駆動軸(12)からトルクを受け取ることができ、
-前記車両ギヤボックスの第1のギヤ装置(6)を作動するために、自由位置と、前記駆動軸(12)との係合位置との間で移動可能な第1の湿式クラッチ(8)と、
-前記車両ギヤボックスの第2のギヤ装置(6)を作動するために、自由位置と、前記駆動軸(12)との係合位置との間で移動可能な第2の湿式クラッチ(9)と、
-加圧流体を供給するポンプ(20)によって供給を受ける液圧回路と、
-前記液圧回路に属する、前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)の動きを制御するための手段と、
を含み、
前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)の動きを制御するための前記手段が、
比例流量弁(14、15)であって、ばね手段(27、28)によって前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)にかかる復帰力に対抗して前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)内に噴射される液圧を前記比例流量弁(14、15)の出力部(S1)において提供する前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)用の比例流量弁(14、15)、
を含み、
前記比例流量弁(14、15)が、
前記比例流量弁(14、15)の前記出力部(S1)における圧力を調整するように閉ループ制御を行い、
可動磁気コアによって駆動される可動トロリー(36)を含み、前記可動磁気コアが、制御ユニット(33)から送られる電気命令(S3)に応答して前記可動磁気コアを取り囲むソレノイド(31)に発生する電気信号の関数としてスリーブ(37)内で移動させる二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項2】
各々の比例流量弁(14、15)が、前記比例流量弁(14、15)の前記出力部(S1)において0?60barの安定した圧力を提供する請求項1に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項3】
前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)内に噴射された前記液圧が、回転ディスク(29、30)のスタックに圧力をかけ、前記回転ディスク(29、30)間の摩擦が所定の摩擦閾値を超えると、前記トルクが前記駆動軸(12)から伝達される請求項1又は2に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項4】
前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)を備えるクラッチシステムは、回転ディスク(29、30)を備え、
当該クラッチシステムは、
前記比例流量弁(14、15)からなる第1の比例流量弁が属する第1の流体回路と、
前記第1の流体回路とは別の第2の流体回路に属する第2の比例流量弁(13)と、
を備え、
前記第2の比例流量弁は前記回転ディスク(29,30)に潤滑流体を供給し、
前記第1の流体回路の圧力は、20?60barであり、
前記第2の流体回路の圧力は、最大で6barである、
請求項1?3のいずれか一項に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項5】
前記摩擦閾値が検出されたときに、前記比例流量弁(14、15)の前記出力部(S1)における流量が、1.5アンペアの入力電気信号について10L/分であり、前記比例流量弁(14、15)の応答時間が20ms未満である請求項3に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項6】
前記可動トロリー(36)と前記比例流量弁(14、15)の前記スリーブ(37)との間の遊びが4?8ミクロンである請求項1に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項7】
各々の比例流量弁(14、15)の前記閉ループ制御が中央電子制御ユニット(39)によって管理され、前記中央電子制御ユニットが、
-前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)の前記出力部におけるデータを測定することができる少なくとも1つのセンサ(16、17)からの少なくとも1つの信号(E2)と、
-設定値(E3)と
を入力として受け取り、
前記信号(E2)と前記設定値(E3)とを比較して、前記制御ユニット(33)に差(ε)を出力し、前記制御ユニットが前記それぞれのソレノイド(31)用に意図された電気命令(S3)に情報を変換する請求項3又は4に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項8】
前記中央電子制御ユニット(39)が、前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)の出力部(S2)において前記トルクを測定するトルクセンサであるセンサ(16、17)から入力信号(E2)を受け取り、前記トルクセンサが摩擦閾値を検出することができる請求項7に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項9】
前記中央電子制御ユニット(39)が、前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)の出力部(S2)において相対速度を測定する相対速度センサであるセンサ(16、17)から入力信号(E2)を受け取り、前記相対速度センサが摩擦閾値を検出することができる請求項7に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項10】
前記中央電子制御ユニット(39)が、前記比例流量弁(14、15)の前記出力部(S1)において前記圧力を測定する圧力センサであるセンサ(16、17)から入力信号(E2)を受け取る請求項7に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項11】
前記中央電子制御ユニット(39)が、
-前記比例流量弁(14、15)の前記出力部(S1)において前記圧力を測定する圧力センサであるセンサ(16、17)と、
-前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)の前記回転ディスク(29、30)間の摩擦が摩擦閾値に少なくとも等しいときに前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)の出力部(S2)における相対速度又は前記トルクを測定する相対速度センサ又はトルクセンサであるセンサ(16、17)と、
から入力信号(E2)を受け取り、
前記摩擦閾値が前記相対速度センサ又はトルクセンサの少なくとも1つによって検出される請求項7に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項12】
前記センサ(16、17)が、前記中央電子制御ユニット(39)以外の前記車両ギヤボックスの構成要素に信号を送る前記二重湿式クラッチトランスミッション(3)に存在しているセンサである請求項7?11のいずれか一項に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成29年4月3日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
車両ギヤボックス用の二重湿式クラッチトランスミッション(3)であって、前記二重湿式クラッチトランスミッション(3)が駆動軸(12)に連結され、かつ前記駆動軸(12)からトルクを受け取ることができ、
-前記車両ギヤボックスの第1のギヤ装置(6)を作動するために、自由位置と、前記駆動軸(12)との係合位置との間で移動可能な第1の湿式クラッチ(8)と、
-前記車両ギヤボックスの第2のギヤ装置(6)を作動するために、自由位置と、前記駆動軸(12)との係合位置との間で移動可能な第2の湿式クラッチ(9)と、
-加圧流体を供給するポンプ(20)によって供給を受ける液圧回路と、
-前記液圧回路に属する、前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)の動きを制御するための手段と、
を含み、
前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)の動きを制御するための前記手段が、
比例流量弁(14、15)であって、ばね手段(27、28)によって前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)にかかる復帰力に対抗して前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)内に噴射される液圧を前記比例流量弁(14、15)の出力部(S1)において提供する前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)用の比例流量弁(14、15)、
を含み、
前記比例流量弁(14、15)が、前記比例流量弁(14、15)の前記出力部(S1)における圧力を調整するように閉ループ制御される、二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項2】
各々の比例流量弁(14、15)が、前記比例流量弁(14、15)の前記出力部(S1)において0?60barの安定した圧力を提供する請求項1に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項3】
前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)内に噴射された前記液圧が、回転ディスク(29、30)のスタックに圧力をかけ、前記回転ディスク(29、30)間の摩擦が所定の摩擦閾値を超えると、前記トルクが前記駆動軸(12)から伝達される請求項1又は2に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項4】
各々の比例流量弁(14、15)が、可動磁気コアによって駆動される可動トロリー(36)を含み、前記可動磁気コアが、制御ユニット(33)から送られる電気命令(S3)に応答して前記可動磁気コアを取り囲むソレノイド(31)に発生する電気信号の関数としてスリーブ(37)内で移動させることができる請求項1?3のいずれか一項に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項5】
前記摩擦閾値が検出されたときに、前記比例流量弁(14、15)の前記出力部(S1)における流量が、1.5アンペアの入力電気信号について10L/分であり、前記比例流量弁(14、15)の応答時間が20ms未満である請求項3に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項6】
前記可動トロリー(36)と前記比例流量弁(14、15)の前記スリーブ(37)との間の遊びが4?8ミクロンである請求項4に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項7】
各々の比例流量弁(14、15)の前記閉ループ制御が中央電子制御ユニット(39)によって管理され、前記中央電子制御ユニットが、
-前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)の前記出力部におけるデータを測定することができる少なくとも1つのセンサ(16、17)からの少なくとも1つの信号(E2)と、
-設定値(E3)と
を入力として受け取り、
前記信号(E2)と前記設定値(E3)とを比較して、前記制御ユニット(33)に差(ε)を出力し、前記制御ユニットが前記それぞれのソレノイド(31)用に意図された電気命令(S3)に情報を変換する請求項4に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項8】
前記中央電子制御ユニット(39)が、前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)の出力部(S2)において前記トルクを測定するトルクセンサであるセンサ(16、17)から入力信号(E2)を受け取り、前記トルクセンサが摩擦閾値を検出することができる請求項7に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項9】
前記中央電子制御ユニット(39)が、前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)の出力部(S2)において相対速度を測定する相対速度センサであるセンサ(16、17)から入力信号(E2)を受け取り、前記相対速度センサが摩擦閾値を検出することができる請求項7に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項10】
前記中央電子制御ユニット(39)が、前記比例流量弁(14、15)の前記出力部(S1)において前記圧力を測定する圧力センサであるセンサ(16、17)から入力信号(E2)を受け取る請求項1?7のいずれか一項に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項11】
前記中央電子制御ユニット(39)が、
-前記比例流量弁(14、15)の前記出力部(S1)において前記圧力を測定する圧力センサであるセンサ(16、17)と、
-前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)の前記回転ディスク(29、30)間の摩擦が摩擦閾値に少なくとも等しいときに前記第1の湿式クラッチ(8)及び第2の湿式クラッチ(9)の出力部(S2)における相対速度又は前記トルクを測定する相対速度センサ又はトルクセンサであるセンサ(16、17)と、
から入力信号(E2)を受け取り、
前記摩擦閾値が前記相対速度センサ又はトルクセンサの少なくとも1つによって検出される請求項1?6のいずれか一項に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。
【請求項12】
前記センサ(16、17)が、前記中央電子制御ユニット(39)以外の前記車両ギヤボックスの構成要素に信号を送る前記二重湿式クラッチトランスミッション(3)に存在しているセンサである請求項7?11のいずれか一項に記載の二重湿式クラッチトランスミッション(3)。」

2 補正の適否
2-1 補正の目的について
本件補正後の請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「比例流量弁」について、補正前の請求項4に記載されたすべての事項に基いて限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
次に、本件補正後の請求項4についての補正は、補正前の請求項において何ら特定されていなかった「第2の比例流量弁」に係る構成を新たに付加した請求項を本件補正後の請求項4として追加する補正である。
してみると、請求項4に関して、補正前後の請求項の間で一対一又はこれに準ずるような対応関係が成立しなくなることから、本件補正はいわゆる増項補正に該当することとなる。すなわち、たとえ本件補正後の請求項4の記載により特定される発明が、全体として補正前の請求項1(又は4)の記載により特定される発明よりも限定されたものとなっているとしても、上記のような一対一又はこれに準ずるような対応関係がない限り、特許法17条の2第5項2号に規定される「特許請求の範囲の減縮」(いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮)に該当するとはいえない。
また、当該補正は、同項に規定される「請求項の削除」(1号)、「誤記の訂正」(3号)、「明りょうでない記載の釈明」(4号)の何れの事項を目的とする補正にも該当しない。
よって、本件補正は、特許法17条の2第5項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

2-2 独立特許要件について
仮に本件補正が特許法17条の2第5項の規定に適合するとして、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)の請求項1に記載したとおりのものである。

(2)引用文献1の記載及び引用発明
ア 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2009-236309号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線部は、当審で付した。以下同様。)
「【0002】
従来から、動力源の回転駆動力を変速機との間で断接する油圧クラッチを電気的に制御する変速装置において、油圧ポンプからなる油圧供給源とクラッチとの間に電磁弁等からなるアクチュエータを設け、このアクチュエータによって作動油の流量を制御することで、クラッチに生じる油圧を制御するようにした構成が知られている。このような変速装置では、作動油の粘度が変化すると、アクチュエータに同じ駆動指令を与えた場合でもクラッチの接続タイミング等に変化が生じて、走行フィーリングが変化する可能性がある。」
「【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、油圧供給源から供給される油圧で駆動され、車両の動力源から駆動輪へ伝達される回転駆動力を断接する油圧クラッチを制御するクラッチ制御装置において、前記油圧供給源と油圧クラッチとの間に設けられて、前記油圧クラッチに供給する作動油の油圧を制御するアクチュエータと、車両の状態に応じて設定される目標油圧と実油圧の偏差を用いたフィードバック制御により前記アクチュエータの操作量を制御するクラッチ制御手段と、前記油圧クラッチに生じる油圧を検知する油圧検知手段と、前記油圧クラッチへの油圧供給を開始してから、前記油圧検知手段によって検知される油圧が所定値に達するまでの時間を計測する計測手段と、前記計測手段で計測された時間に基づいて、前記アクチュエータの操作量の制御補正値を算出するクラッチ制御補正値算出手段とを具備し、前記クラッチ制御手段は、前記アクチュエータ操作量の制御補正値を適用して前記油圧クラッチの油圧に対しフィードバック制御する点に第1の特徴がある。」
「【0029】
本実施形態に係るエンジン100は、エンジン100と変速機との間で回転駆動力の断接を行う油圧クラッチを、第1クラッチおよび第2クラッチからなるツインクラッチ式とすると共に、該ツインクラッチに供給する油圧をアクチュエータで制御する構成を有している。そして、エンジン100の左側部には、両クラッチを制御するアクチュエータとしての第1バルブ107aおよび第2バルブ107bが取り付けられている。ツインクラッチを適用した変速機の構成に関しては後述する。
【0030】
図3は、自動変速機としての自動マニュアル変速機(以下、AMT)1およびその周辺装置のシステム構成図である。AMT1は、主軸(メインシャフト)上に配設された2つのクラッチによってエンジンの回転駆動力を断接するツインクラッチ式変速装置として構成される。クランクケース46に収納されるAMT1は、クラッチ用油圧装置110およびAMT制御ユニット120によって駆動制御される。AMT制御ユニット120には、バルブ107を駆動制御するクラッチ制御手段が含まれる。また、エンジン100は、スロットル・バイ・ワイヤ形式のスロットルボディ102を有し、スロットルボディ102にはスロットル開閉用のモータ104が備えられている。」
「【0035】
本実施形態に係るクラッチ用油圧装置110は、エンジン100の潤滑油と、ツインクラッチを駆動する作動油とを兼用する構成を有している。クラッチ用油圧装置110は、オイルタンク114と、このオイルタンク114内のオイル(作動油)を第1クラッチCL1および第2クラッチCL2に給送するための管路108とを備えている。管路108上には、油圧供給源としての油圧ポンプ109、アクチュエータとしてのバルブ(電磁制御弁)107が設けられており、管路108に連結される戻り管路112上には、バルブ107に供給する油圧を一定値に保つためのレギュレータ111が配置されている。バルブ107は、第1クラッチCL1および第2クラッチCL2に個別に油圧をかけることができる第1バルブ107aおよび第2バルブ107bとからなり、それぞれにオイルの戻り管路113が設けられている。
【0036】
第1バルブ107aと第1クラッチCL1とを連結している管路には、この管路に生じる油圧、すなわち、第1クラッチCL1に生じる油圧を計測する第1油圧センサ63が設けられている。同様に、第2バルブ107bと第2クラッチCL2とを連結している管路には、第2クラッチCL2に生じる油圧を計測する第2油圧センサ64が設けられている。さらに、油圧ポンプ109とバルブ107とを連結する管路108には、主油圧センサ65および油温検知手段としての油温センサ66が設けられている。」
「【0039】
クラッチ用油圧装置110においては、油圧ポンプ109によってバルブ107に油圧がかけられており、この油圧が上限値を超えないようにレギュレータ111で制御されている。AMT制御ユニット120からの指示でバルブ107が開かれると、第1クラッチCL1または第2クラッチCL2に油圧が印加されて、プライマリ従動ギヤ3が、第1クラッチCL1または第2クラッチCL2を介して内主軸7または外主軸6と連結される。そして、バルブ107が閉じられて油圧の印加が停止されると、第1クラッチCL1および第2クラッチCL2は、内蔵されている戻りバネ(不図示)によって、内主軸7および外主軸6との連結を断つ方向へ付勢されることとなる。」
「【0042】
本実施形態に係るAMT1では、第1クラッチCL1と結合される内主軸7が奇数段ギヤ(1,3,5速)を支持し、第2クラッチCL2と結合される外主軸6が偶数段ギヤ(2,4,6速)を支持するように構成されている。したがって、例えば、奇数段ギヤで走行している間は、第1クラッチCL1への油圧供給が継続されて接続状態が保たれている。そして、シフトチェンジが行われる際には、シフトドラム30の回動によってギヤの噛み合わせを予め変更しておくことにより、両クラッチの接続状態を切り換えるのみで変速動作を完了することが可能となる。
【0043】
図4は、変速機TMの拡大断面図である。前記と同一符号は同一または同等部分を示す。エンジン100のクランク軸105から、プライマリ駆動ギヤ106を介して、衝撃吸収機構5を有するプライマリ従動ギヤ3に伝達される回転駆動力は、ツインクラッチTCLから、外主軸6および外主軸6に回動自在に軸支される内主軸7、そして、主軸(外主軸6および内主軸7)13とカウンタ軸9との間に設けられる6対の歯車対を介して、傘歯車56が取り付けられたカウンタ軸9に出力される。傘歯車56に伝達された回転駆動力は、傘歯車57と噛合されることでその回転方向が車体後方側に屈曲されてドライブシャフト58に伝達される。
【0044】
変速機TMは、主軸およびカウンタ軸の間に6対の変速歯車対を有しており、各軸の軸方向に摺動可能に取り付けられた摺動可能ギヤの位置と、第1クラッチCL1および第2クラッチCL2の断接状態との組み合わせによって、どの歯車対を介して回転駆動力を出力するかを選択することができる。ツインクラッチTCLは、プライマリ従動ギヤ3と一体的に回動するクラッチケース4の内部に配設されている。第1クラッチCL1は、内主軸7に回転不能に取り付けられ、他方、第2クラッチCL2は、外主軸6に回転不能に取り付けられており、クラッチケース4と両クラッチとの間には、クラッチケース4に回転不能に支持された4枚の駆動摩擦板と、両クラッチに回転不能に支持された4枚の被動摩擦板とからなるクラッチ板12が配設されている。
【0045】
第1クラッチCL1および第2クラッチCL2は、油圧ポンプ109(図3参照)からの油圧が供給されると、クラッチ板12に摩擦力を生じて接続状態に切り替わるように構成されている。クランクケース46に取り付けられるクラッチカバー50の壁面には、内主軸7の内部に二重管状の2本の油圧経路を形成する分配器8が埋設されている。そして、第1バルブ107aによって分配器8に油圧が供給されて、内主軸7に形成された油路A1に油圧が供給されると、ばね等の弾性部材11の弾発力に抗してピストンB1が図示左方に摺動して第1クラッチCL1が接続状態に切り替わる。一方、油路A2に油圧が供給されると、ピストンB2が図示左方に摺動して第2クラッチCL2が接続状態に切り替わる。両クラッチCL1,CL2のピストンB1,B2は、油圧の印加が停止されると、弾性部材11の弾発力によって初期位置に戻るように構成されている。
【0046】
上記したような構成により、プライマリ従動ギヤ3の回転駆動力は、第1クラッチCL1または第2クラッチCL2に油圧が供給されない限りクラッチケース4を回転させるのみであるが、油圧が供給されることにより、外主軸6または内主軸7を、クラッチケース4と一体的に回転駆動させることとなる。なお、この時、供給油圧の大きさを調整することによって、半クラッチ状態を得ることもできる。
【0047】
第1クラッチCL1に接続される内主軸7は、奇数変速段(1,3,5速)の駆動ギヤM1,M3,M5を支持している。第1速駆動ギヤM1は、内主軸7に一体的に形成されている。第3速駆動ギヤM3は、スプライン噛合によって軸方向に摺動可能かつ周方向に回転不能に取り付けられており、第5速駆動ギヤM5は、軸方向に摺動不能かつ周方向に回転可能に取り付けられている。
【0048】
一方、第2クラッチCL2に接続される外主軸6は、偶数変速段(2,4,6速)の駆動ギヤM2,M4,M6を支持している。第2速駆動ギヤM2は、外主軸6に一体的に形成されている。第4速駆動ギヤM4は、スプライン噛合によって軸方向に摺動可能かつ周方向に回転不能に取り付けられており、第6速駆動ギヤM6は、軸方向に摺動不能かつ周方向に回転可能に取り付けられている。
【0049】
また、カウンタ軸9は、前記駆動ギヤM1?M6に噛合する被動ギヤC1?C6を支持している。第1?4速の被動ギヤC1?C4は、軸方向に摺動不能かつ周方向に回転可能に取り付けられており、第5,6速の被動ギヤC5,C6は、軸方向に摺動可能かつ周方向に回転不能に取り付けられている。」
「【0073】
本実施形態に係るAMT制御ユニット120は、両クラッチを駆動するための作動油の粘度変化を検知して制御補正値を算出し、この制御補正値を適用して両クラッチをフィードバック制御できる点に特徴がある。具体的には、クラッチに油圧供給を開始してから、クラッチに発生する油圧が所定値に達するまでの応答時間を計測し、この応答時間に基づいて制御補正値を算出するものである。これにより、作動油の劣化や交換等のために作動油の特性が変化した場合でも、作動油の粘度変化を適切に検知することが可能となり、より理想的なクラッチ制御を実行できるようになる。
【0074】
走行状態検知部140は、変速制御部180に入力される各センサの出力情報に基づいて、自動二輪車1の走行状態(停車中、走行中、変速ギヤ段位、エンジン始動直後等)を判定する。クラッチ制御補正値算出手段150には、主油圧センサ65、第1油圧センサ63、第2油圧センサ64、油温センサ66からの各出力情報が入力される。前記したクラッチの制御補正値は、このクラッチ制御補正値算出手段150によって算出される。応答時間-補正ゲインテーブル160および油温-補正ゲインテーブル170は、クラッチの制御補正値を算出する際に参照されるものである。
【0075】
図8は、作動油の粘度と油圧応答時間との関係を示すグラフである。クラッチを駆動するための作動油は、エンジン熱等による温度変化のほか、作動油の種類、経年変化による劣化等でその粘度が変化する。このグラフでは、管路を開閉するバルブに時刻t1で矩形状に立ち上がる駆動信号を与えた際に、粘度の違いによって、クラッチ油圧が所定値に達するまでの時間に差異が生じる例を示している。
【0076】
このグラフによれば、作動油が高温であったり劣化が進んだりして粘度が低い場合には、時刻t1から応答時間T1後の時刻t2において目標油圧P1に到達するが、一方、作動油が低温であったり新品であったりして粘度が高い場合には、時刻t1から応答時間T2後の時刻t3において目標油圧P1に到達する。このような応答時間の差が生じると、同じ駆動指令を与えた場合でも、クラッチの接続タイミングが変化して、発進時や変速時の走行フィーリングに差異が生じることとなる。
【0077】
図9は、AMT制御ユニット120に格納されている応答時間-補正ゲインテーブル160の一例である。本実施形態では、クラッチ制御補正値算出手段150のタイマ151(図7参照)によって、クラッチへの油圧供給を開始してから、クラッチに生じる油圧が所定値に達するまでの応答時間を計測し、この応答時間を、応答時間-補正ゲインテーブル160に適用することで補正ゲインを導出するように構成されている。この応答時間-補正ゲインテーブル160は、応答時間tが長くなるほど補正ゲインGhが大きくなるように設定されている。これにより、作動油の粘度が高くなるほどバルブ107の駆動電流を大きくして、バルブ107を開く速度を高めることが可能となる。なお、タイマ151による時間計測の開始タイミングは、クラッチ制御手段182がバルブ107に駆動信号を出力したタイミングとすることができる。
【0078】
図10は、作動油の粘度が高い場合に、ゲイン補正を行わない場合のクラッチ油圧の推移を示すグラフ(a)と、ゲイン補正を行った場合のクラッチ油圧の推移を示すグラフ(b)である。両グラフ共に、時刻t10から時刻t20までの間に、初期油圧P2を直線的に上昇させて目標油圧P3に到達させることを目標とするものである。
【0079】
図10(a)では、時刻t10においてバルブ操作信号値をG10から直線的に上昇させて、時刻t20でバルブ操作信号値がG20に到達するようにバルブを駆動制御するものの、作動油の粘度が高いために油圧の立ち上がりが遅れる。これにより、クラッチに生じる実油圧の推移は、目標油圧に追従できないものとなる。このような追従遅れが生じると、クラッチの接続タイミングが遅れて、その間にエンジン回転数が上昇する可能性がある。そして、その後に油圧が急激に高まってクラッチが急に接続されるので、発進時および変速時のフィーリングが大きく変化することとなる。
【0080】
これに対し、制御補正値を適用した図10(b)では、時刻t10においてバルブ操作信号値を、通常より大きなG11に至る値とし、その後、時刻t11までの間にG20まで上昇させることで、目標油圧に沿った実油圧を発生させることを可能としている。
【0081】
なお、応答時間-補正ゲインテーブル160で導出された補正ゲインGhが同一である場合でも、制御補正値として算出されるクラッチ操作信号値は、車両の走行状態によって異なる。例えば、発進時と走行中とは適切なクラッチ制御が異なるだけでなく、走行中の変速時においても、車速や変速段位によって適切なクラッチ制御は異なる。本実施形態では、作動油が所定の粘度にある場合の種々の走行状態に応じた基準クラッチ操作信号ゲインのデータテーブルを用意しておき、前記した応答時間の計測によって導出される補正ゲインは、この基準クラッチ操作信号ゲインに対する補正値として適用される。前記クラッチ制御補正値算出手段150は、走行状態判定部140で検知される車両の走行状態と、応答時間-補正ゲインテーブル160で導出される補正ゲインGhとに基づいて、最適な制御補正値を算出するように構成されている。
【0082】
上記したように、本発明に係るクラッチ制御装置においては、クラッチへの油圧供給を開始してから油圧が所定値に達するまでの時間を計測することで、作動油の粘度変化を推測検知し、この粘度変化に基づいた制御補正値を用いて油圧クラッチをフィードバック制御することができる。これにより、作動油の交換や温度変化によってその粘度が変化した場合でも、油圧クラッチの断接タイミング等が変わることがなく安定した走行フィーリングを得ることができる。」
「【0097】
そして、ステップS11では、油圧を用いたフィードバック制御によりアクチュエータ操作量が求められ、続くステップS12では、前記ステップS4,S8,S10で導出または更新された補正ゲインを適用してアクチュエータ操作量が補正されて、一連の制御を終了する。」

イ 上記記載から、引用文献1には、次の事項が記載されていると認められる。
(ア)引用文献1に記載された技術は、車両の自動マニュアル変速機1用のツインクラッチ式変速装置に関するものであり(段落【0006】、【0030】)、ツインクラッチ式変速装置はクランク軸105に連結され、かつクランク軸105から回転駆動力を受け取ることができる(段落【0043】)。
(イ)第1クラッチCL1は、クランク軸105からの回転駆動力を伝達しない初期位置と、回転駆動力を伝達して奇数段ギヤ(1,3,5速)を作動させる接続状態との間で移動可能であり、第2クラッチCL2は、クランク軸105からの回転駆動力を伝達しない初期位置と、回転駆動力を伝達する偶数段ギヤ(2,4,6速)を作動させる接続状態との間で移動可能である(段落【0042】?【0049】)。
(ウ)バルブ107(第1バルブ107a、第2バルブ107b)は、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2に油圧を印可したり、油圧の印可を停止したりすることで、その動きを制御しているから(段落【0035】、【0039】)、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2の動きを制御するための手段であるといえる。
(エ)第1バルブ107a及び第2バルブ107bは、ばね等の弾性部材11によって第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2にかかる弾発力に抗して第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2に印加される油圧を、第1バルブ107aと第1クラッチCL1とを連結している管路(すなわち第1バルブ107aの出力部)及び第2バルブ107bと第2クラッチCL2とを連結している管路(すなわち第2バルブ107bの出力部)にそれぞれ供給するものである(段落【0036】、【0039】、【0045】及び図3)。
(オ)引用文献1に記載された技術は、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2の油圧が目標油圧となるようにアクチュエータであるバルブ107の操作量をフィードバック制御するものであるから(段落【0006】、【0073】、【0080】、【0097】)、上記(エ)の認定事項にも鑑みると、バルブ107は、バルブ107の出力部における油圧を調整するように閉ループ制御を行うものといえる。

ウ 図4からは、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2には、ピストンB1,B2に油圧を供給する油路A1,A2以外にも油路が設けられていることが看取できることから、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2は湿式クラッチであるといえる。

エ 上記の記載事項、認定事項及び図面の記載を総合し、本件補正発明の記載振りに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「車両の自動マニュアル変速機1用のツインクラッチ式変速装置であって、ツインクラッチ式変速装置がクランク軸105に連結され、かつクランク軸105から回転駆動力を受け取ることができ、
-車両の自動マニュアル変速機1の奇数段ギヤ(1,3,5速)を作動するために、クランク軸105からの回転駆動力を伝達しない初期位置と、回転駆動力を伝達する接続状態との間で移動可能な第1クラッチCL1と、
-車両の自動マニュアル変速機1の偶数段ギヤ(2,4,6速)を作動するために、クランク軸105からの回転駆動力を伝達しない初期位置と、回転駆動力を伝達する接続状態との間で移動可能な第2クラッチCL2と、
-油圧供給源としての油圧ポンプ109から油圧の供給を受ける管路108と、
-管路108に設けられた、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2の動きを制御するための手段と、
を含み、
該第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2の動きを制御するための手段が、
バルブ107であって、ばね等の弾性部材11によって第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2にかかる弾発力に抗して第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2に印加される油圧を、バルブ107の出力部において供給する、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2用のバルブ107、
を含み、
バルブ107が、
バルブ107の出力部における圧力を調整するように閉ループ制御を行う電磁制御弁であり、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2は湿式クラッチであるツインクラッチ式変速装置。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「車両の自動マニュアル変速機1」は、本件補正発明の「車両ギヤボックス」に相当し、以下同様に、「クランク軸105」は「駆動軸」に、「回転駆動力」は「トルク」に、「奇数段ギヤ(1,3,5速)」は「第1のギヤ装置」に、「クランク軸105からの回転駆動力を伝達しない初期位置」は「自由位置」に、「回転駆動力を伝達する接続状態」は「駆動軸との係合位置」に、「偶数段ギヤ(2,4,6速)」は「第2のギヤ装置」に、「油圧供給源としての油圧ポンプ109」は「加圧流体を供給するポンプ」に、「管路108」は「液圧回路」に、「管路108に設けられた」は「液圧回路に属する」に、「ばね等の弾性部材11」は「ばね手段」に、「弾性力に抗して」は「復帰力に対抗して」に、「供給する」は「提供する」にそれぞれ相当する。
(イ)引用発明の「第1クラッチCL1」及び「第2クラッチCL2」は湿式クラッチであるから、それぞれ本件補正発明の「第1の湿式クラッチ」、「第2の湿式クラッチ」に相当し、同様に、「ツインクラッチ式変速装置」は「二重湿式クラッチトランスミッション」に相当する。また、引用発明の「第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2に印加される油圧」は、本件補正発明の「第1の湿式クラッチ及び第2の湿式クラッチ内に噴射される液圧」に相当する。
(ウ)引用発明の「バルブ107」は、「出力部における圧力を調整するように閉ループ制御を行う電磁制御弁」である限りにおいて、本件補正発明の「比例流量弁」と一致する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「車両ギヤボックス用の二重湿式クラッチトランスミッションであって、前記二重湿式クラッチトランスミッションが駆動軸に連結され、かつ前記駆動軸からトルクを受け取ることができ、
-前記車両ギヤボックスの第1のギヤ装置を作動するために、自由位置と、前記駆動軸との係合位置との間で移動可能な第1の湿式クラッチと、
-前記車両ギヤボックスの第2のギヤ装置を作動するために、自由位置と、前記駆動軸との係合位置との間で移動可能な第2の湿式クラッチと、
-加圧流体を供給するポンプによって供給を受ける液圧回路と、
-前記液圧回路に属する、前記第1の湿式クラッチ及び第2の湿式クラッチの動きを制御するための手段と、
を含み、
前記第1の湿式クラッチ及び第2の湿式クラッチの動きを制御するための前記手段が、
電磁制御弁であって、ばね手段によって前記第1の湿式クラッチ及び第2の湿式クラッチにかかる復帰力に対抗して前記第1の湿式クラッチ及び第2の湿式クラッチ内に噴射される液圧を前記電磁制御弁の出力部において提供する前記第1の湿式クラッチ及び第2の湿式クラッチ用の電磁制御弁、
を含み、
前記電磁制御弁が、
前記電磁制御弁の前記出力部における圧力を調整するように閉ループ制御を行う二重湿式クラッチトランスミッション。」

<相違点>
「電磁制御弁」について、本件補正発明は、「比例流量弁」であって、「可動磁気コアによって駆動される可動トロリーを含み、前記可動磁気コアが、制御ユニットから送られる電気命令に応答して前記可動磁気コアを取り囲むソレノイドに発生する電気信号の関数としてスリーブ内で移動させる」構造を有していると特定されているのに対して、引用発明は、バルブ107が「比例流量弁」であるか否か不明であり、その具体的な構造も不明な点。

(4)判断
ア 以下、相違点について検討する。
車両制御装置の技術分野において、油圧回路の油圧を制御する際に、比例流量弁(流量制御弁)と圧力制御弁が互いに代用しうることは、本願の優先日前に技術常識であった(必要であれば、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2009-228865号公報の段落【0016】、特開平8-285021号公報の段落【0066】、特表平10-507256号公報の第6ページ第9行?第19行等を参照。)。また、クラッチに供給する油圧を流量制御弁を用いて閉ループ制御することも、本願の優先日前に周知の技術であった(必要であれば、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭64-16440号公報(原査定の拒絶の理由で引用された引用文献4)の第2ページ右下欄第6行?第3ページ右上欄第7行及び第1図、特開昭64-12942号公報の第2ページ左下欄第1行?第3ページ右上欄第4行及び第1?3図、実願昭58-61373号(実開昭59-167098号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの第10ページ第6行?第13ページ第8行及び第1図等を参照。)。
してみると、引用発明において、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2に印加される油圧を制御するためのバルブである電磁制御弁として、比例流量弁を用いるか圧力制御弁を用いるかは当業者が適宜選択し得た設計的事項に過ぎず、比例流量弁を用いてその出力部における圧力を調整するように閉ループ制御を行う構成とすることに格別の困難性は認められない。
そして、「可動磁気コアによって駆動される可動トロリーを含み、前記可動磁気コアが、制御ユニットから送られる電気命令に応答して前記可動磁気コアを取り囲むソレノイドに発生する電気信号の関数としてスリーブ内で移動させる」構造は、電磁制御弁としてごくありふれた構造に過ぎず(例えば、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2010-71414号公報の段落【0008】?【0009】、図6?7には、可動ヨーク10(可動磁気コア)、弁体6(可動トロリー)、コイル8(ソレノイド)からなる電磁ソレノイド式の比例制御弁である流量制御弁が記載されている。)、引用発明における電磁制御弁としてこのようなありふりれた構造の比例流量弁を採用することも、当業者が適宜なし得た設計的事項である。
したがって、引用発明を相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当該技術分野における技術常識や周知技術に鑑み、当業者が容易に想到し得たことである。

イ そして、上記相違点を勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、技術常識及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

ウ 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において次のとおり主張する。
「引用文献1には、
『・・・』
と記載されているように、引用発明は一貫して油圧の制御に係るものであることが明らかにされています。
そして、バルブについても、
『・・・』、
ことが記載され、一貫してバルブが圧力弁であることが明らかにされています。
これに対して、本願発明は、エンジントルクをシャフトに伝達するためにトランスミッションのディスク間の摩擦を検出することを目的としており、これによって、エンジントルクが伝達された際に、トランスミッションシステムを減衰するように、バルブ流量を増加されることができます。圧力弁に比べて比例流量弁によってもたらされる利点は、より強固なトランスミッションを提供し、かつ漏れが制限されたトランスミッションを得ることにあります(段落0016)。
電磁制御弁として比例流量弁が当業者に、よく知られたものであったとしても、引用文献1に記載された発明において、第1バルブ107a及び第2バルブ107bは、『前記油圧クラッチに供給する作動油の油圧を制御するアクチュエータ』(請求項1)であり、一貫して圧力弁として説明されていることから、圧力弁に代えて比例流量弁を採用することに動機付けがあるものではありません。」(審判請求書の4-2.参照。)

しかしながら、上記アで説示したとおり、油圧の制御において比例流量弁(流量制御弁)と圧力制御弁(圧力弁)は代用しうるものであり、どちらを用いるかは精度やコスト等を考慮して当業者が適宜決定し得た設計的事項といわざるを得ない。
また、引用文献1の段落【0002】における「このアクチュエータによって作動油の流量を制御することで、クラッチに生じる油圧を制御するようにした構成が知られている」との記載に鑑みると、引用発明において、油圧の制御に比例流量弁を用いることは排除されておらず、むしろ示唆されているともいえる(なお、引用文献1の【要約】には、「作動油の流量を制御する第1バルブ107aおよび第2バルブ107b」との記載もある。)。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

エ 以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明、技術常識及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年1月24日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成29年4月3日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の[理由]1(2)の請求項1に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし12に係る発明は、本願の優先日前に頒布された下記の引用文献1に記載された発明、及び引用文献4に記載された技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものであるとともに(理由4)、請求項10ないし12に係る発明は明確でないから、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない(理由1)、というものである。

引用文献1:特開2009-236309号公報
引用文献4:特開昭64-16440号公報

3 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記第2の[理由]2-2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2-2で検討した本件補正発明から、「比例流量弁」についての限定事項(「可動磁気コアによって駆動される可動トロリー(36)を含み、前記可動磁気コアが、制御ユニット(33)から送られる電気命令(S3)に応答して前記可動磁気コアを取り囲むソレノイド(31)に発生する電気信号の関数としてスリーブ(37)内で移動させる」)を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2-2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明、技術常識及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明、技術常識及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-12-17 
結審通知日 2018-12-18 
審決日 2019-01-07 
出願番号 特願2015-520323(P2015-520323)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (F16H)
P 1 8・ 121- Z (F16H)
P 1 8・ 575- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 訓  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 内田 博之
藤田 和英
発明の名称 二重湿式クラッチトランスミッション  
代理人 百本 宏之  
代理人 大賀 眞司  

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