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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05G
管理番号 1352112
審判番号 不服2018-11540  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-27 
確定日 2019-06-28 
事件の表示 特願2016-500294「ターゲット材料の供給および回収のための方法ならびに装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月 2日国際公開、WO2014/158464、平成28年 4月25日国内公表、特表2016-512381、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の概要
本願は、2014年2月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年3月14日、米国、2014年1月9日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年9月15日に手続補正がなされ、平成29年9月21日付けで拒絶理由が通知され、同年11月30日に意見書が提出されるとともに、手続補正(以下、「補正」という。)がなされたが、平成30年4月23日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされた。
本件は、これに対して、平成30年8月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。


第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願請求項1に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特表2008-532228号公報


第3 本願発明
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
EUV光源の照射領域にターゲット材料を送出するターゲット材料送出システムを備えるEUV光源ターゲット材料取扱システムであって、
前記ターゲット材料送出システムは、ターゲット材料リザーバと、前記ターゲット材料リザーバと流体連通する第1部分を有する導管と、前記導管の第2部分と流体連通するノズルと、前記ノズルおよび前記第2部分を、前記ノズルおよび前記第2部分内の前記ターゲット材料の溶融温度よりも低くない第1温度に維持することが可能なヒータと、を備え、
前記導管は、前記第1部分の温度が前記第1温度を実質的に下回る周囲温度である時、前記第2部分を前記第1温度に維持し得るように温度差を維持することができ、
前記導管は、前記第1部分と前記第2部分との間にセクションを含み、前記セクションは断熱材から作成されている、EUV光源ターゲット材料取扱システム。」


第4 引用文献、引用発明等
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の事項が記載されている。(下線は、当審が付したものである。)

(1)「【0009】
ここで図1を参照すると、EUV光源、例えば、本発明の態様によるレーザ生成プラズマEUV光源20の広義の全体的概念の概略図が示されている。光源20は、パルスレーザシステム22、例えば高出力高パルス繰り返し率で動作する1つ又はそれ以上のガス放電エキシマレーザ又はフッ素分子レーザを含むことができ、例えば、米国特許第6,625,191号、米国特許第6,549,551号、米国特許第6,567,450号に示すような1つ又はそれ以上のMOPA構成レーザシステムとすることができる。また、光源20は、例えば、液体液滴、固体微粒子、又は液体液滴内に含まれる固体微粒子の形態でターゲットを供給するターゲット供給システム24を含むことができる。ターゲットは、ターゲット供給システム24によって、例えばチャンバ26内部に入り、プラズマ形成部位又は火球の形態として知られる照射部位28に供給することができ、ここでレーザによる照射によってプラズマがターゲット材料から形成される。ターゲット供給システム24の実施形態を以下で更に詳細に説明する。」

(2)「【0016】
本発明の実施形態の態様に従って、出願人らは、例えば材料貯蔵能力を増大させる目的で液滴発生器作動時間を向上させることを提案する。出願人らは、液体錫又は液体リチウムなど、プラズマ原料のターゲット液滴物質の液体金属の溶融貯蔵量を低減するオンデマンド溶融システムを提案する。容積貯蔵要件に加えて、ターゲット液滴形成における利用に向けて貯蔵される大容積の液体金属は、材料を維持するためのシステムとオペレータの相互作用の必要性、ドロス及びスラグの堆積並びにターゲット材料処理及び供給システムにおいて比較的小さな開口部を詰まらせる可能性をも含めて、その容積を液体として維持するための加熱に関する問題、及び当業者には理解されるであろう他の関連する問題を引き起こす。
【0017】
一例として、出願人らの譲受人であるCymerによって試験された試作の錫液滴発生器は、24,000/秒の液滴形成速度で約3時間から4時間の有限作動時間を有することが判った。試作発生器の再充填には、冷却、分解、再組付け、再加熱にかなりの量の時間が必要であることが判った。発生器チャンバ容積の増大は、これらの運転効率に関する問題を解決するように働くことができるが、これを行う能力は、例えば上記の他の問題に加えて生じる静水頭によって制限される。静水頭によって滴下が誘起されて、液滴発生器による液滴形成の迅速な遮断を妨げる可能性がある。
【0018】
本発明の実施形態の態様に従って、出願人らは、図1と図3(当審註:図2の誤記と認められる。)とに部分概略的か部分横断面にて示すようなバルク材リザーバ112を含むターゲット材料処理システム110を提案し、これによりオペレータが最短の停止時間と努力でターゲット液滴発生器92内のリザーバ114を再充填することが可能になる。
【0019】
液滴発生器92リザーバチャンバ114は、例えば弁120を介して、第2のバルクリザーバチャンバ112に結合することができる。両方のチャンバ112、114は、独立した能動圧力制御システム(図示せず)を用いて閉鎖容積とすることができる。このようなシステムにおいては、オペレータは、バルクリザーバチャンバ112を充填するとリッド116を閉じ、プラズマ源材料を加熱して液体形態にすると例えばヒータ124でチャンバ112、114間のパイプ122を加熱することによって弁120を開いて、パイプ122内に液体金属を形成した後にチャンバ114を減圧してチャンバ112を加圧(又は他の方法でチャンバ112をチャンバ114よりも加圧)し、ターゲット発生器92チャンバ114をバルクリザーバチャンバ112から充填することができる。バルクチャンバの定期的な再充填は、例えば、ターゲット液滴発生器チャンバ112(当審註:114の誤記と認められる。)内のレベル検出器130によって低レベルが検出されたときに必要とされるが、液滴発生器が高温である間に行なうことができ、これによって時間が節約される。しかしながら、バルクチャンバには、それでも尚定期的な再充填が必要であり、これによって、頻度及び使用する材料のタイプによってはオペレータに不都合さを感じさせる可能性がある。例えば、リチウムには、反応性に起因する幾つかの特定の問題があり、例えば、不活性環境で処理することが必要となる。バルクチャンバ114がより大きくなるほど、次の再充填までの時間が長くなる。残念ながら、このような大型バルクリザーバチャンバ112を使用するためには、幾つかの必要となるトレードオフがあり、例えば、バルクリザーバ内の溶融金属の質量が大きいので、例えば、多量のスラグ/ドロスが生成される可能性があり、その結果、歩留まり及び場合によっては作動時間に影響を及ぼし、大きな静水頭が形成され、結果的に、発生器リザーバからの過剰充填及び上述の問題が生じる可能性があり、短尺で且つ幅広のチャンバを使用して、静水頭を最小に抑えることができるが、表面積が大きいことによりスラグ/ドロス形成が最大となる。更に、例えば、バルクチャンバは、オペレータを保護し且つ高純度を維持するために再充填時に冷却を必要とするので、加熱及び冷却のダウンタイムを長くする必要がある。
【0020】
本発明の実施形態の態様に従って、出願人らは、オペレータの相互作用を最小限に抑える、例えば所要の再充填の頻度を最小限に抑えると同時に、大きすぎるリザーバチャンバ112の問題を回避することができるバルクリザーバシステム118を提案する。本発明の実施形態の態様に従って、出願人らは、長期間、例えば最大6ヵ月又はそれ以上の間利用して、例えばリチウムを供給し、より頻繁にバルクリザーバ112を再充填するという作業からユーザーを解放することができるバルクリザーバシステム118を提案する。バルクリザーバ112は、例えば、半導体マイクロリソグラフィ製造設備よりも更に制御された環境で例えば製造業者がリチウムを充填し、この設備に移送して、使用中のバルクリザーバシステム118と置き換えることによって、例えば汚染物質がないことを意図した環境での汚染を引き起こすユーザー設備内の周囲材料と反応するような、加熱及び液体形態でリチウムなどの反応性の高いターゲット原料物質の処理に係わる問題が低減される。或いは、プラズマ原料ターゲット物質が涸渇した時には、液滴発生器システム110全体をバルクリザーバシステム118及び液滴発生器92と共に新たなユニットと交換することができる。
【0021】
本発明の実施形態の態様に従って、出願人らは、例えば、ターゲットプラズマ源材料の固体部片140の底部のみを加熱し、これにより溶融物142の少量を生成することを含むことができる、「溶融オンデマンド」バルクリザーバ112供給システムを提案する。レベルセンサー132は、液滴発生器92内の溶融物容積144が最少レベルに到達した時点を検出することができる。この時点で、チャンバ弁120を開き、溶融金属142をバルクリザーバチャンバ112から液滴発生器チャンバ114に移送することができる。
【0022】
ターゲット供給制御システム90は、レベルセンサー130、132から入力を受け取り、例えば所与の量の液体材料142がバルクリザーバ112内に存在することをレベルセンサー132が示すまで所与の量の固体材料140を溶融するようにヒータ(例えば、底部ヒータ150)を制御し、更に、バルクリザーバ112内の新たに形成された及び/又は再溶融された材料142を許容することを目的として弁を開くように、或いは例えば別のタイプの弁(図示せず)を使用して他の方法でリザーバ112とリザーバ114との間の流体連通を開始するようにヒータ124を制御することができ、この間又はその後、底部ヒータをオフにすることができ、その結果、固体材料140が溶融しなくなり、リザーバ112内に残っている液体材料142がある場合には、しばらくして固化することもできるようになる。底部ヒータ150及び弁120ヒータはまた、コントローラ90が次に材料を要求するまではオフにすることができる。液滴発生器リザーバ114の周りのヒータ160は、コントローラ90によって連続的にオンにしておくか、又は必要に応じてコントローラ90によってサイクル的に動作させ、プラズマ源材料144の温度を液滴発生器リザーバ114内で溶融状態に保つある選択範囲内に維持することができる。溶融材料142は、本質的に全てリザーバ112から排出され、底部ヒータ150はコントローラ90によってオフにすることができる。次回の補充時には、ヒータ150をオンにし、レベルセンサー132を使用して所要量の溶融材料が生成されたことを示すことができ、その後、弁120を開いてこの溶融材料142の全てを本質的にリザーバ114内に排出し、次いで、ヒータ150を再びオフにして、リザーバ114の次の必要とされる補充を待機することができる。
【0023】
次に、溶融材料144は、圧力を加えて強制的に毛細管164に送ることができ、これは、毛細管164を含むノズル166の出力オリフィス168にて液滴94を形成するようにコントローラ90が制御する圧電アクチュエータ162によって作動させることができる。
【0024】
或いは、本発明の実施形態の態様によれば、図3に一例として示すように、例えば、開口部182を有するワイヤメッシュによって形成された多孔ヒータ180を使用して、溶融材料の上に固体材料140を溶融させることができる。これは、コントローラ90の制御下で様々な方法で利用することができ、例えば、底部ヒータ150を連続的にオンにし又はサイクル的に動作させ、液滴発生器リザーバチャンバ114に移送される必要が生じるまで、溶融材料142をバルクリザーバチャンバ112内に保持することができ、その後、弁120を閉じて、ヒータ180を使用してバルクリザーバ112内の溶融材料142の供給量を補充することができる。また、溶融材料142は、コントローラ90によって制御される補充時毎にバルクリザーバ112から本質的に完全に排出することができ、その後、次の補充が必要となったときに、ヒータ180を起動させて十分な溶融材料142を生成することができ、該溶融材料は、底部ヒータ150によって溶融維持が助けられ(或いは底部ヒータ150は排除してもよい)、チャンバ弁120を介して溶融材料142をチャンバ114に排出することができる。
【0025】
本発明の実施形態の態様に従って、出願人らは、液滴発生器92リザーバ114内の例えば液体材料144表面上のスラグ蓄積/スラスト形成に対する解決策を提案し、例えば、バルクプラズマ源材料リザーバシステム114からの再充填を利用する運転をより延長できるようにする。出願人らは、図4に部分的に概略的且つ断面で示すように、例えばスラグ/クラスト蓄積を最小にしてリザーバ114内の液体材料144の補充を可能にし、更にスラグ/クラスト形成の影響を限定するよう提案する。さもなければ、クラストはフィルタ及び場合によってはノズルを詰まらせる可能性がある。図4を参照すると、例えば新たに追加される材料がスラグ/クラスト上に載ることができるように上からリザーバを充填するのではなく、容器チャンバ114を管200を介して中央から充填することができる実施形態が示されている。この構成には幾つかの利点があり、例えば、供給物は底部から補充されるので、上部にスラグ/クラストが形成されても、図4に示すノズル166又は図5の実施形態に示すフィルタ210領域に到達することは困難となる。更に、クラストが形成されても、新しい材料内に埋れず、古い材料と新しい材料との間の障壁として
作用することになる。また、追加される材料は大気に晒されることがないので、取り込まれる汚染が低減される。
【0026】
本発明の実施形態の態様に従って、出願人らは、オンライン及び原位置での再充填及びスラグ低減に対する多重容器システムの利点を利用することを提案する。これは、例えば、液体金属噴射システムの作動時間を延長すると共に、噴射材料の純度を高め、噴射に使用されるターゲット液滴発生器の液体金属リザーバ114内でのスラグ蓄積を低減することができる。図5には、2つ以上の液体金属容器142及び144を備えた液体金属処理システム110が示されている。図5は、下部容器212が噴射に使用され、上部容器214から補充される2つの容器構成を部分的に概略的且つ断面で示している。例えば弁(機械式又は凝固)(図示せず、ただし、例えばフィルタ組立体210に組み込むことができる)を2つの容器212、214の間で利用することによるこの多重容器構成の利点の1つは、上部容器214は、図2及び図3のバルクリザーバ容器のように下部容器212を稼動中に再充填、通気、その他を行って、液滴形成噴射の動作を本質的に中断せずに行うことができる点である。また、第2の/下部容器212に液体のフィルタ処理金属を充填することにより、汚染量が低減され、より長く且つ安定した運転が可能となる。単一の容器システムでは、容積の制限によって時間期間を延長して運転することが通常はできない。容積は、例えば自己噴射が起こる前の最大許容静水頭を含む、上述の実施上の検討事項によって制限されることになる。特定の液体金属冷却原子炉においては、実験的な核融合反応炉内の壁保護として、及び高エネルギー粒子加速器内のターゲットとして複雑な液体金属処理システムが見られる。しかしながら、出願人らは、プラズマ源材料ターゲット供給において本明細書で提案するような多重容器構成に類似した利用を認識していない。」

(3)「【図1】

【図2】

【図3】



(4)引用文献1の上記記載から、下記のような技術事項を読み取ることができる。
ア 引用文献1では、同じ技術事項を複数の異なる用語で記載しているところ、以下、次のように用語を統一して使用することとする。
・「ターゲット供給機構92」、「ターゲット液滴発生器92」、「液滴発生器92」、「液滴発生器」などを、「液滴発生器92」に統一する。
・「バルク材リザーバチャンバ112」、「第2のバルクリザーバチャンバ112」、「バルクリザーバチャンバ112」、「バルクリザーバ112」などを、「バルクリザーバチャンバ112」に統一する。
・「リザーバ114」、「液滴発生器92リザーバチャンバ114」、「ターゲット液滴発生器チャンバ114」、「バルクチャンバ114」、「液滴発生器リザーバチャンバ114」、「液滴発生器リザーバ114」などを、「液滴発生器リザーバチャンバ114」に統一する。
・「プラズマ源材料144」、「溶融材料144」などを、「溶融材料144」に統一する。

イ 「ターゲット」に関する用語について、引用文献1の記載では、「照射部位28」に供給されるものが「ターゲット」であり、この「ターゲット」の材料が「ターゲット材料」であるが、そのうち、「バルクリザーバチャンバ112」内の溶融していないものが「個体材料140」、溶融したものが「溶融材料142」であって、「液滴発生器リザーバチャンバ114」内の溶融したものが「溶融材料144」であると整理される。

ウ 【0009】及び【図1】の記載から、「ターゲット供給システム24」は、「ターゲット」を「レーザ生成プラズマEUV光源20」の「チャンバ26」内部の「プラズマ形成部位として知られる照射部位28」に供給すると認められる。
また、【0018】の「バルク材リザーバ112を含むターゲット材料処理システム110を提案し、これによりオペレータが最短の停止時間と努力でターゲット液滴発生器92内のリザーバ114を再充填することが可能になる。」という記載、【図2】及び【図3】の記載から、「ターゲット材料処理システム110」は、「液滴発生器92」及び「バルクリザーバチャンバ112」を含むと認められる。
そして、「ターゲット材料処理システム110」は、「ターゲット供給システム24の実施形態」(【0009】)であると認められるから、「ターゲット材料処理システム110」は、「ターゲット」を「レーザ生成プラズマEUV光源20」の「チャンバ26」内部の「プラズマ形成部位として知られる照射部位28」に供給すると認められる。

エ 【0022】の記載から、「ターゲット材料処理システム110」は、
「液滴発生器リザーバチャンバ114」への「溶融材料142」の補充時には、所与の量の「溶融材料142」が「バルクリザーバチャンバ112」内に存在することを「レベルセンサー132」が示すまで所与の量の「固体材料140」を溶融するように「底部ヒータ150」をオンにし、その後、「バルクリザーバチャンバ112」と「液滴発生器リザーバチャンバ114」との間の流体連通を開始するように「ヒータ124」を制御して「パイプ122」を加熱し、「弁120」を開いてこの「溶融材料142」の全てを本質的に「液滴発生器リザーバチャンバ114」内に排出し、次いで、「底部ヒータ150」を再びオフにして、「リザーバ114」の次の必要とされる補充を待機することができ、
「液滴発生器リザーバチャンバ114」の周りの「ヒータ160」を連続的にオンにして、「溶融材料144」の温度を「液滴発生器リザーバチャンバ114」内で溶融状態に保つある選択範囲内に維持することができると認められる。

オ 【0023】、【図2】及び【図3】の記載から、「液滴発生器92」は、「液滴発生器リザーバチャンバ114」及び「ノズル166」を含み、また、「ノズル166」は「毛細管164」、「出力オリフィス168」及び「圧電アクチュエータ162」を含むと認められる。
そして、「ノズル166」を構成する「毛細管164」は「液滴発生器リザーバチャンバ114」に通じていて、「溶融材料144」が「液滴発生器リザーバチャンバ114」から圧力を加えて強制的に送られ、「圧電アクチュエータ162」によって「液滴94」を形成するものと認められる。

カ 上記エ及びオでの認定のとおり、「液滴発生器リザーバチャンバ114」で溶融された「溶融材料144」は、「毛細管164」に圧力を加えて強制的に送られ、「圧電アクチュエータ162」によって「液滴94」を形成するものであるから、「毛細管164」及び「出力オリフィス168」を含む「ノズル166」も「溶融材料142」が溶融状態を保つための温度に保たれなければならないことは、当業者には自明の事項である。
そして、【図2】及び【図3】の「ヒータ,制御された閉ループ」の矢印がノズル部分周辺を指していること、【図4】の「「ヒータ,制御された閉ループ」の矢印がチャンバ部分とノズル部分の両方を指していること、【図2】?【図4】にはノズル周りにもヒータが設けられたことが図示されていることが読み取れることも併せて考慮すると、「液滴発生器リザーバチャンバ114の周りのヒータ160」は、「液滴発生器リザーバチャンバ114」のみならず、「毛細管164」及び「出力オリフィス168」を含む「ノズル166」をも加熱するものであると認められる。

すると、上記引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「バルクリザーバチャンバ112及び液滴発生器92を有し、ターゲットをレーザ生成プラズマEUV光源20のチャンバ26内部のプラズマ形成部位として知られる照射部位28に供給するターゲット材料処理システム110であって、
液滴発生器92は、液滴発生器リザーバチャンバ114及びノズル166を含み、
液滴発生器リザーバチャンバ114は、弁120及びパイプ122を介して、バルクリザーバチャンバ112に結合され、
ノズル166は、毛細管164、出力オリフィス168及び圧電アクチュエータ162を含み、毛細管164は液滴発生器リザーバチャンバ114に通じていて、溶融材料144を液滴発生器リザーバチャンバ114から圧力を加えて強制的に毛細管164に送り、圧電アクチュエータ162によって液滴94を形成することができ、
液滴発生器リザーバチャンバ114への溶融材料142の補充時には、所与の量の溶融材料142がバルクリザーバチャンバ112内に存在することをレベルセンサー132が示すまで所与の量の固体材料140を溶融するように底部ヒータ150をオンにし、その後、バルクリザーバチャンバ112と液滴発生器リザーバチャンバ114との間の流体連通を開始するようにヒータ124を制御してパイプ122を加熱し、弁120を開いてこの溶融材料142の全てを本質的に液滴発生器リザーバチャンバ114内に排出し、次いで、底部ヒータ150を再びオフにして、液滴発生器リザーバチャンバ114の次の必要とされる補充を待機することができ、
液滴発生器リザーバチャンバ114の周りのヒータ160を連続的にオンにして、溶融材料144の温度を液滴発生器リザーバチャンバ114及びノズル166内で溶融状態に保つある選択範囲内に維持することができる、
ターゲット材料処理システム110。」


第5 対比・判断
1 対比
(1)引用発明の「ターゲット」、「液滴発生器92」、「レーザ生成プラズマEUV光源20のチャンバ26内部のプラズマ形成部位として知られる照射部位28」及び「ターゲット材料処理システム110」は、それぞれ、本願発明1の「ターゲット材料」、「ターゲット材料送出システム」、「EUV光源の照射領域」及び「EUV光源ターゲット材料取扱システム」に相当する。
すると、引用発明の
「バルクリザーバチャンバ112及び液滴発生器92を有し、ターゲットをレーザ生成プラズマEUV光源20のチャンバ26内部のプラズマ形成部位として知られる照射部位28に供給するターゲット材料処理システム110」は、
本願発明1の
「EUV光源の照射領域にターゲット材料を送出するターゲット材料送出システムを備えるEUV光源ターゲット材料取扱システム」
に相当する。

(2)引用発明の「出力オリフィス168」及び「液滴発生器リザーバチャンバ114」が、それぞれ、本願発明1の「ノズル」及び「ターゲット材料リザーバ」に相当する。
そして、引用発明の「毛細管164」は、「出力オリフィス168」と「液滴発生器リザーバチャンバ114」とをつなぐ管であるから、本願発明1の「ターゲット材料リザーバ」と「ノズル」に「流体連通する」「導管」に相当するものであり、さらに、「毛細管164」の「液滴発生器リザーバチャンバ114」側部分、「出力オリフィス168」側部分は、それぞれ、本願発明1の「導管」の「前記ターゲットリザーバと流体連通する第1部分」及び「ノズル」と「流体連通する」「第2部分」に相当するものといえる。
すると、引用発明の「液滴発生器92は、液滴発生器リザーバチャンバ114及びノズル166を有し、」
「ノズル166は、毛細管164、出力オリフィス168及び圧電アクチュエータ162を含み、毛細管164は液滴発生器リザーバチャンバ114に通じていて、溶融材料142を液滴発生器リザーバチャンバ114から圧力を加えて強制的に毛細管164に送り、圧電アクチュエータ162によって液滴94を形成することができ」ることは、
本願発明1の
「前記ターゲット材料送出システムは、ターゲット材料リザーバと、前記ターゲット材料リザーバと流体連通する第1部分を有する導管と、前記導管の第2部分と流体連通するノズルと、前記ノズルおよび前記第2部分を、」「備え」ることに相当する。

(3)上記(2)で認定したとおり、引用発明の「出力オリフィス168」及び「毛細管164」の「出力オリフィス168」側部分が、それぞれ、本願発明1の「ノズル」及び「第2部分」に相当し、また、引用発明の「溶融材料144の温度を液滴発生器リザーバチャンバ114及びノズル166内で溶融状態に保つある選択範囲」は、本願発明1の「前記ターゲット材料の溶融温度よりも低くない第1温度」に相当する。
すると、引用発明の「液滴発生器リザーバチャンバ114の周りのヒータ160を連続的にオンにして、溶融材料144の温度を液滴発生器リザーバチャンバ114及びノズル166内で溶融状態に保つある選択範囲内に維持することができる」ことは、
本願発明1の「前記ノズルおよび前記第2部分を、前記ノズルおよび前記第2部分内の前記ターゲット材料の溶融温度よりも低くない第1温度に維持することが可能なヒータと、を備え」ることに相当する。

(4)原査定での対比について
原査定では、
「本願発明と、引用文献1に記載された発明とを対比すると、引用文献1に記載された発明における「パイプ122」及び「液滴発生器チャンバ114」からなる部分は、本願発明における「導管」に相当する。そして、引用文献1に記載された発明における「バルクリザーバチャンバ112」、「パイプ122におけるバルクリザーバチャンバ112との接続部分」、「液滴発生器チャンバ114」、「ノズル166」、「EUV光源ターゲット材料処理システム110」は、それぞれ、本願発明における「ターゲット材料リザーバ」、「導管における第1部分」、「導管における第2部分」、「ノズル」、「EUV光源の照射領域にターゲット材料を送出するターゲット材料送出システムを備えるEUV光源ターゲット材料取扱システム」に相当する。」
と認定しているが、引用発明と本願発明1との対比は上述のとおりであり、さらに、引用発明の「バルクリザーバチャンバ112」、「弁120」及び「パイプ122」は、本願の「外部リザーバ110」(補正により削除された請求項3の「ターゲット材料を保有する貯蔵庫」)、「弁114」(補正により削除された請求項4の「選択的に隔離する弁」)及び「パイプ112」(補正により削除された請求項3の「移送するための径路」)などに相当するというべきである。

(一致点)
本願発明1と引用発明を対比すると、両者は、
「EUV光源の照射領域にターゲット材料を送出するターゲット材料送出システムを備えるEUV光源ターゲット材料取扱システムであって、
前記ターゲット材料送出システムは、ターゲット材料リザーバと、前記ターゲット材料リザーバと流体連通する第1部分を有する導管と、前記導管の第2部分と流体連通するノズルと、前記ノズルおよび前記第2部分を、前記ノズルおよび前記第2部分内の前記ターゲット材料の溶融温度よりも低くない第1温度に維持することが可能なヒータと、を備える、EUV光源ターゲット材料取扱システム。」
で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
本願発明1では、「前記導管は、前記第1部分の温度が前記第1温度を実質的に下回る周囲温度である時、前記第2部分を前記第1温度に維持し得るように温度差を維持することができ、前記導管は、前記第1部分と前記第2部分との間にセクションを含み、前記セクションは断熱材から作成されている」のに対して、引用発明は、そのような技術事項を有さない点。

2 相違点についての判断
上記相違点について検討する。
引用発明は、
「液滴発生器リザーバチャンバ114への溶融材料142の補充時には、所与の量の溶融材料142がバルクリザーバチャンバ112内に存在することをレベルセンサー132が示すまで所与の量の固体材料140を溶融するように底部ヒータ150をオンにし、その後、バルクリザーバチャンバ112と液滴発生器リザーバチャンバ114との間の流体連通を開始するようにヒータ124を制御してパイプ122を加熱し、弁120を開いてこの溶融材料142の全てを本質的に液滴発生器リザーバチャンバ114内に排出し、次いで、底部ヒータ150を再びオフにして、リザーバ114の次の必要とされる補充を待機することができ、
液滴発生器リザーバチャンバ114の周りのヒータ160を連続的にオンにして、溶融材料144の温度を液滴発生器リザーバチャンバ114及びノズル166内で溶融状態に保つある選択範囲内に維持することができる」
ものである、すなわち、「固体材料140を溶融するように底部ヒータ150をオンにし」た「液滴発生器リザーバチャンバ114への溶融材料142の補充時に」も、「底部ヒータ150を再びオフにして、リザーバ114の次の必要とされる補充を待機する」ときにも、「液滴発生器リザーバチャンバ114の周りのヒータ160を連続的にオンにして、溶融材料144の温度を液滴発生器リザーバチャンバ114及びノズル166内で溶融状態に保つある選択範囲内に維持することができる」ものであって、「液滴発生器リザーバチャンバ114及びノズル166」はともに「溶融状態に保つある選択範囲内に維持」されているものである。
そして、EUV光源を停止するなどの際、「ターゲット材料処理システム110」を停止するときは、「液滴発生器リザーバチャンバ114及びノズル166」をともに溶融状態を保つ温度より低くするものと解される。
すると、「毛細管164」の「液滴発生器リザーバチャンバ114」側部分(本願発明1の「導管」の「前記ターゲットリザーバと流体連通する第1部分」に相当)、「出力オリフィス168」側部分(「ノズル」と「流体連通する」「第2部分」に相当)には温度差が生じないものといえる。
したがって、引用発明においては、本願発明1のように、
「前記導管は、前記第1部分の温度が前記第1温度を実質的に下回る周囲温度である時、前記第2部分を前記第1温度に維持し得るように温度差を維持することができ」る必要も、
「前記導管は、前記第1部分と前記第2部分との間にセクションを含み、前記セクションは断熱材から作成されている」必要もないことは明らかである。
よって、引用発明において、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本願発明1は、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明1の効果について
本願発明1では、上記相違点に係る発明特定事項により、「ターゲット材料リザーバ」(「リザーバ94」)に「ターゲット材料」を供給するための「貯蔵庫」(「外部リザーバ110」など)を有さない場合において、「ターゲット材料リザーバ」に溶融していない「ターゲット材料」を直接供給するために「ターゲット材料リザーバ」を冷却する際にも、「前記ノズル及び前記第2部分」を「ターゲット材料」の「溶融温度よりも低くない第1温度に維持する」ことにより、「ノズル」内に「汚染物質粒子」の形成を引き起こさないという当業者が予測し得ない効果を奏し得ると認められる。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-06-18 
出願番号 特願2016-500294(P2016-500294)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 原 俊文  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 伊藤 昌哉
渡戸 正義
発明の名称 ターゲット材料の供給および回収のための方法ならびに装置  
代理人 内藤 和彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 江口 昭彦  

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