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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A61K
管理番号 1352174
審判番号 不服2018-9675  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-13 
確定日 2019-06-25 
事件の表示 特願2014-561385「卵巣癌の治療のための併用療法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月19日国際公開、WO2013/135602、平成27年 4月20日国内公表、特表2015-511593、請求項の数(18)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年 3月11日(パリ条約による優先権主張 2012年 3月13日、2012年 5月31日、2012年 7月18日、いずれも米国(US))を国際出願日とする特許出願であって、平成28年11月22日付けで拒絶理由が通知され、平成29年 5月29日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年 8月 9日付けで拒絶理由が通知され、平成30年 2月22日に意見書及び手続補正書が提出され、同年 3月 7日付けで拒絶査定がなされ、同年 7月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年 8月29日に手続補正書(審判請求書)が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年 3月 7日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。
本願請求項1-18に係る発明は、以下の引用文献4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、引用文献4に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

引用文献等一覧
4.Hoffman-La Roche,”AURELIA: A Study of Avastin (Bevacizumab) Added to Chemotherapy in Patients With Platinum-resistant Ovarian Cancer”,ClinicalTrials.gov,米国,U.S. National Institutes of Health ,2011年3月15日,[平成29年8月9日検索], インターネット<URL:https://clinicaltrials.gov/archive/NCT00976911/2011_03_15>

第3 本願発明
本願請求項1-18に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明18」といい、まとめて「本願発明」ということがある。)は、平成30年 2月22日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-18に記載された事項により特定される発明である。

「 【請求項1】
抗VEGF抗体を含有し、抗VEGF抗体と化学療法剤の併用により、白金抵抗性の上皮性卵巣癌(EOC)、卵管癌(FTC)又は原発性腹膜癌(PPC)と診断された患者を治療するための医薬であって、前記患者は以前に2回以下の抗癌レジメンを受けており且つ前記患者は腹水を有し、前記抗VEGF抗体は配列番号:2のアミノ酸配列を含む可変重鎖(VH)及び配列番号:1のアミノ酸配列を含む可変軽鎖(VL)を含み、前記化学療法剤はパクリタキセルを含み、
前記治療により、前記患者の無増悪生存期間の中央値が、前記化学療法剤のみを受けている白金抵抗性のEOC、FTC又はPPC患者と比較して、延長される、医薬。

【請求項2】
前記患者は以前の白金治療に対して難治性ではない、請求項1に記載の医薬。

【請求項3】
前記患者は、RECIST1.0に従って測定可能な疾患又はGCIG基準に従ってCA-125評価可能な疾患を有する、請求項1又は2に記載の医薬。

【請求項4】
前記患者のECOGパフォーマンスステータスが0-2である、請求項1から3の何れか一項に記載の医薬。

【請求項5】
前記患者の余命が少なくとも12週間である、請求項1から4の何れか一項に記載の医薬。

【請求項6】
前記パクリタキセルは、4週間サイクルで1、8、15及び22日目に1時間の静脈注入として80mg/m^(2)で投与される、請求項1から5の何れか一項に記載の医薬。

【請求項7】
前記抗VEGF抗体がA4.6.1エピトープと結合する、請求項1から6の何れか一項に記載の医薬。

【請求項8】
前記抗VEGF抗体がベバシズマブである、請求項1から7の何れか一項に記載の医薬。

【請求項9】
前記抗VEGF抗体は、2週毎に静脈内に10mg/kgで投与される、請求項1から8の何れか一項に記載の医薬。

【請求項10】
前記抗VEGF抗体は、3週毎に静脈内に15mg/kgで投与される、請求項1から8の何れか一項に記載の医薬。

【請求項11】
前記抗VEGF抗体は、初回は90分にわたって静脈内に投与され、2回目以降は60分にわたって注入され、その後30分にわたって注入される、請求項9又は10に記載の医薬。

【請求項12】
前記抗VEGF抗体が前記患者に初回サイクルで最初に投与される、請求項1から11の何れか一項に記載の医薬。

【請求項13】
前記抗VEGF抗体のそれ以降の投与が、前記化学療法剤の前又は後のいずれかである、請求項12に記載の医薬。

【請求項14】
前記抗VEGF抗体が前記化学療法剤と同時に投与される、請求項1から11の何れか一項に記載の医薬。

【請求項15】
前記患者が65歳未満である、請求項1から14の何れか一項に記載の医薬。

【請求項16】
前記患者は白金無投薬期間(PFI)が3ヶ月未満である、請求項1から15の何れか一項に記載の医薬。

【請求項17】
抗VEGF抗体を含有し、抗VEGF抗体と化学療法剤の併用により、白金抵抗性の上皮性卵巣癌(EOC)、卵管癌(FTC)又は原発性腹膜癌(PPC)と診断された患者を治療するための医薬組成物であって、前記患者は以前に2回以下の抗癌レジメンを受けており且つ前記患者は腹水を有し、前記抗VEGF抗体は配列番号:2のアミノ酸配列を含む可変重鎖(VH)及び配列番号:1のアミノ酸配列を含む可変軽鎖(VL)を含み、
前記化学療法剤はパクリタキセルを含み、
前記治療により、前記患者の無増悪生存期間の中央値が、前記化学療法剤のみを受けている白金抵抗性のEOC、FTC又はPPC患者と比較して、延長される、医薬組成物。

【請求項18】
抗VEGF抗体を含有し、抗VEGF抗体と化学療法剤の併用により、白金抵抗性の上皮性卵巣癌(EOC)、卵管癌(FTC)又は原発性腹膜癌(PPC)と診断された患者を治療するための医薬組成物が入っている容器、及び前記併用の説明書きを伴った添付文書又はラベルを含むキットであって、前記患者は以前に2回以下の抗癌レジメンを受けており且つ前記患者は腹水を有し、前記抗VEGF抗体は配列番号:2のアミノ酸配列を含む可変重鎖(VH)及び配列番号:1のアミノ酸配列を含む可変軽鎖(VL)を含み、前記化学療法剤はパクリタキセルを含み、
前記治療により、前記患者の無増悪生存期間の中央値が、前記化学療法剤のみを受けている白金抵抗性のEOC、FTC又はPPC患者と比較して、延長される、キット。」

なお、本願発明の「白金抵抗性の上皮性卵巣癌(EOC)、卵管癌(FTC)又は原発性腹膜癌(PPC)」については、本願明細書の
「【発明の概要】
【0005】
本発明は、以前に2回又はそれより少ない抗癌レジメンを受けた患者に有効量の抗VEGF抗体及び化学療法剤を投与することを含む、白金抵抗性(プラチナ抵抗性)卵巣癌と診断された患者を治療する方法を意図し、ここで前記治療法は、前記化学療法剤単独を受けている白金抵抗性卵巣癌患者と比較して、前記患者の無増悪生存期間の中央値を延長する。一実施態様では、前記白金抵抗性卵巣癌は、上皮性卵巣癌(EOC)、卵管癌(FTC)又は原発性腹膜癌(PPC)である。」
との記載や、
出願当初の請求項1及び2
「【請求項1】
患者に有効量の抗VEGF抗体及び化学療法剤を投与することを含む、白金抵抗性卵巣癌と診断された患者を治療する方法であって、前記患者は以前に2回またはそれより少ない抗癌レジメンを受けており、前記化学療法剤単独を受けている白金抵抗性卵巣癌患者と比較して、前記治療は前記患者の無増悪生存期間の中央値を延長する方法。
【請求項2】
前記白金抵抗性卵巣癌が、上皮性卵巣癌(EOC)、卵管癌(FTC)又は原発性腹膜癌(PPC)である、請求項1に記載の方法。」が、補正されて現在の請求項1となった経緯からも明らかなとおり、「白金抵抗性の」なる用語は、「上皮性卵巣癌(EOC)」のみならず、「卵管癌(FTC)」及び「原発性腹膜癌(PPC)」にも掛かるものである。

第4 引用文献、引用発明等

1.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、次の事項が記載されている。
なお、ここに摘記するのは、引用文献4に英語で記載された事項を当審で翻訳したものである。

(1)
「簡単な標題:
AURELIA:白金抵抗性の卵巣癌患者における化学療法に加えられるアバスチン(ベバシズマブ)の研究」(1頁・Brief title)

(2)
「簡単な要約:
この無作為化非盲検2群試験では、白金治療から6ヶ月以内に進行した上皮性卵巣癌、卵管癌または原発性腹膜癌患者に対して、化学療法単独に対するアバスチンを加えた化学療法の有効性と安全性が評価される。
すべての患者は、パクリタキセルまたはトポテカンまたはリポソームドキソルビシンのいずれかを用いた標準的な化学療法を受ける。
試験の第2群に無作為に割り付けられた患者には、アバスチン(10mg/kgを2週間に1回の静脈内投与または15mg/kgを3週間に1回の静脈内投与)が同時に投与される。
試験治療に予想される時間は、疾患が進行するまでである。
その後、患者は標準治療を受け、第1群(化学療法のみ)の患者はアバスチン(15mg/kg、静脈内投与3週間)を受けることを選ぶことができる。目標サンプルサイズは100-500人。」(1頁・Brief Summary)

(3)
「詳細な説明
相 第三相
試験種別 介入
試験デザイン 治療
試験デザイン 無作為化
試験デザイン 非盲検
試験デザイン 並行群間比較試験
試験デザイン 安全性/効能試験
」(1頁・Detailed descriptionの1?8行)

(4)

群 第1群 実対照薬
群 第2群 実薬試験
介入 薬:ベバシズマブ[アバスチン] 第2群
2週間ごとに10mg/kgを静脈内投与または3週間ごとに15mg/kgを静脈内投与
介入 薬:パクリタキセル 第1群
各4週間サイクルの1、8、15及び22日目に80mg/m2を静脈内投与
介入 薬:トポテカン 第1群
各4週間サイクルの1、8及び15日目に4mg/m2、又は
各3週間サイクルの1-5日目に1.25mg/kgを静脈内投与
介入 薬:リポソームドキソルビシン 第1群
4週間ごとに40mg/m2を静脈内投与
」(2頁8?18行)

(5)
「リクルートメント情報
・・・
基準
包含基準:
-女性患者、18歳以上
-上皮性卵巣癌(EOC)、卵管癌(FTC)または原発性腹膜癌(PPC)
-白金抵抗性疾患(白金治療から6か月以内の疾患進行)
-EOCGのパフォーマンス状態 0-2

除外基準:
-非上皮性腫瘍
-悪性度の低い卵巣腫瘍
-2回超の化学療法レジメンによる以前の治療
-骨盤または腹部に対する事前の放射線療法
」(2頁・Recruitment Informationの1?16行)

ここで、引用文献4は、第三相臨床試験を実施するための計画を当局に提出するために作成された文献であって、具体的な薬理データ等は記載されていないから、同文献に接した当業者は、同文献には、所望の薬理効果と安全性を評価するための組成物が記載されていると理解すると認める。
そして、引用文献4に記載の組成物は、ベバシズマブを含有する組成物であって、パクリタキセルを含む化学療法剤との併用に係るものであり、適用対象は、白金抵抗性の上皮性卵巣癌(EOC)、卵管癌(FTC)又は原発性腹膜癌(PPC)患者であり、当該患者は以前に2回以下の化学療法レジメン、すなわち抗癌レジメンを受けていることが認められる。また同文献には、対照群にはベバシズマブを投与せず、化学療法剤のみを投与することが記載されている。
そうすると、引用文献4には、「ベバシズマブを含有する組成物であって、パクリタキセルを含む化学療法剤と併用され、白金抵抗性の上皮性卵巣癌(EOC)、卵管癌(FTC)又は原発性腹膜癌(PPC)患者に適用され、前記患者は以前に2回以下の抗癌レジメンを受けており、化学療法剤単独に対するベバシズマブと化学療法剤との併用療法の有効性と安全性を評価するための組成物」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1.本願発明1について(特許法第29条第1項第3号、同条第2項)
(1)本願発明1と引用発明との対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
本願発明1の「配列番号:2のアミノ酸配列を含む可変重鎖(VH)及び配列番号:1のアミノ酸配列を含む可変軽鎖(VL)」を含む抗VEGF抗体は、ベバシズマブの有するVHのアミノ酸配列が配列番号:2のアミノ酸配列と100%同一であり、ベバシズマブの有するVLのアミノ酸配列が配列番号:1のアミノ酸配列と100%同一であることから、引用発明のベバシズマブが包含されているといえる(必要があれば、Bevacizmab、DRUGBANK、accessin number:DB00112、2009年、[平成31年4月24日検索]、インターネット<URL:https://www.drugbank.ca/drugs/DB00112>参照)。
したがって、本願発明1と引用発明とは、「抗VEGF抗体を含有し、抗VEGF抗体と化学療法剤との併用により、白金抵抗性の上皮性卵巣癌(EOC)、卵管癌(FTC)又は原発性腹膜癌(PPC)と診断された患者に適用される組成物であって、前記患者は以前に2回以下の抗癌レジメンを受けており、前記抗VEGF抗体は配列番号:2のアミノ酸配列を含む可変重鎖(VH)及び配列番号:1のアミノ酸配列を含む可変軽鎖(VL)を含み、前記化学療法剤はパクリタキセルを含む、組成物」である点で一致し、次の点で相違している。

相違点1
適用対象の患者が、本願発明1では、腹水を有する患者に特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。

相違点2
本願発明1は、適用患者の無増悪生存期間の中央値が、化学療法剤のみを受けている白金抵抗性のEOC、FTC又はPPC患者と比較して延長される医薬であるのに対し、引用発明は、化学療法剤単独に対するベバシズマブと化学療法剤との併用療法の有効性と安全性を評価するための組成物である点。

(2)判断
(2-1)特許法第29条第1項第3号について
引用文献4には、適用患者を特に腹水を有する患者とすることなどは記載されておらず、また、以前に2回以下の抗癌レジメンを受けた、白金抵抗性の上皮性卵巣癌(EOC)、卵管癌(FTC)又は原発性腹膜癌(PPC)と診断された患者が必ず腹水を有するなどの技術常識があるとは認められないから、本願発明1と引用発明は、相違点1の点で相違する。
また、引用文献4には、上述のとおり薬理データは記載されておらず、ベバシズマブと化学療法剤との併用療法を受けた患者の無増悪生存期間の中央値が、化学療法剤のみを受けた患者と比較して延長されることなどは理解できないから、本願発明1と引用発明は、相違点2の点でも相違する。
したがって、本願発明1と引用発明との間に相違点があるから、本願発明1は、引用文献4に記載された発明であるとはいえない。

(2-2)特許法第29条第2項について
(2-2-1)
上記相違点1について検討する。
引用文献4には、患者が腹水を有する者であることは記載されておらず、また、そもそもベバシズマブとパクリタキセルを含む化学療法剤を、以前に2回以下の抗癌レジメンを受けた、白金抵抗性の上皮性卵巣癌(EOC)、卵管癌(FTC)又は原発性腹膜癌(PPC)と診断された患者に適用したことによって得られる治療効果については何ら具体的に記載されていない。
そして、白金抵抗性の卵巣癌の悪性度の程度と腹水の合併との因果関係やこれらの作用機序が必ずしも本願優先日当時当業者に明らかでないことも考慮すると、引用文献4に記載された、以前に2回以下の抗癌レジメンを受けた、白金抵抗性の上皮性卵巣癌(EOC)、卵管癌(FTC)又は原発性腹膜癌(PPC)と診断された患者から、特に腹水を有する患者を選択することは、本願優先日当時当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(2-2-2)
上記相違点2について検討する。
薬剤の併用により薬理効果が増強される場合もあるが、本願発明においては、平成30年 2月22日に提出された意見書及び平成30年 8月29日に提出された手続補正書(審判請求書)と共に出願人が提出した、本願優先日前に公知となった文献A(Lortholary A., et al., Ann. Oncol. Feb 2012, 23, pp346-352)、文献B(Richardson D.L., et al., Gynecol. Oncol. 2008, 111, pp461-466)に、それぞれ「白金抵抗性再発卵巣癌(ROC)におけるパクリタキセルとカルボプラチンまたはトポテカンとを組み合わせた併用化学療法は、パクリタキセル単独療法よりも毒性が強く、無増悪生存期間(PFS)を有意に延長させることはなかった。」(文献A:要約の結論部分)、「結論 白金抵抗性卵巣癌における、週1回のパクリタキセルと月1回のカルボプラチンによる併用療法、または週1回のパクリタキセルと週1回のトポテカンによる併用療法は、週1回のパクリタキセル単独療法よりも毒性が高いことがわかった。併用療法による無増悪生存期間(PFS)の優位性は統計的に有意ではなかった。」(文献A:351頁左欄3-8行)、「事実、白金抵抗性EOC患者におけるベバシズマブの第II相試験は、予想以上の消化管穿孔率のために早期に中止された。」(文献B:464頁右欄下から4-最終行)との記載があることを踏まえると、本願優先日当時において、白金抵抗性卵巣癌の患者に対してパクリタキセルと他の治療とを組み合わせたとしても、治療効果が向上せず、また毒性が増加する可能性があったこと、及び、ベバシズマブは白金抵抗性再発性卵巣癌の患者に対して毒性を示すことが知られていたといえるから、引用文献4に記載されたパクリタキセルを含む化学療法剤と併用されるベバシズマブを含有する組成物に接した当業者は、当該組成物を適用された白金抵抗性のEOC、FTC又はPPC患者の無増悪生存期間の中央値が、化学療法剤のみを受けている白金抵抗性のEOC、FTC又はPPC患者と比較して延長される医薬とすることができることに容易に想到し得たとはいえない。

以上のとおりであるから、上記文献A及び文献Bの記載も踏まえると、引用発明において、ベバシズマブを適用する患者として、腹水を有する患者を選択し、ベバシズマブとパクリタキセルを含む化学療法剤を併用した治療により、以前に2回以下の抗癌レジメンを受けた、白金抵抗性の上皮性卵巣癌(EOC)、卵管癌(FTC)又は原発性腹膜癌(PPC)と診断された患者の無増悪生存期間の中央値が、パクリタキセルを含む化学療法剤のみを受けている白金抵抗性のEOC、FTC又はPPC患者と比較して延長される医薬とすることは、当業者であったとしても、容易に想到し得たとはいえない。

(2-2-3)
次に効果について検討する。
本願発明1は、本願明細書【0019】や【0140】に記載があるとおり、腹水のない患者と比較して一般的に症候性の疾患及び予後不良を示す腹水のある患者に対しても有効な医薬であることが認められ、かつ、図2からも理解されるとおり、化学療法剤単独の投与よりも無増悪生存期間の中央値の延長がみられる、という引用文献4からは当業者が予測し得ない効果を奏するものである。

(3)小活
よって、本願発明1は、引用文献4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2.本願発明2-18について(特許法第29条第1項第3号、同条第2項)
本願発明2-5、15、16は、本願発明1における治療対象の患者を減縮した発明であり、本願発明6-14は、本願発明1において投与される抗VEGF抗体の種類やパクリタキセルを含む化学療法剤との組み合わせにおける用法用量を減縮した発明であり、本願発明17は、本願発明1における「医薬」を「医薬組成物」とした発明であり、本願発明18は、本願発明17の医薬組成物が入っている容器及び所定の添付文書又はラベルを含むキットに関する発明である。
よって、本願発明2-18は、上記1で述べた理由と同様の理由により、引用文献4に記載された発明であるということはできず、また、引用文献4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1-18は、引用文献4に記載された発明ではなく、また、引用文献4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-06-07 
出願番号 特願2014-561385(P2014-561385)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61K)
P 1 8・ 113- WY (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中尾 忍  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 吉田 知美
田中 耕一郎
発明の名称 卵巣癌の治療のための併用療法  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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