ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
---|---|
管理番号 | 1352179 |
審判番号 | 不服2017-13942 |
総通号数 | 235 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-07-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-09-20 |
確定日 | 2019-06-06 |
事件の表示 | 特願2013- 88565「ダイシングテープ一体型接着シート,及び,ダイシングテープ一体型接着シートを用いた半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月24日出願公開,特開2014-135468〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成25年4月19日(優先権主張 平成24年12月10日)に出願された特願2013-88565号であり,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。 平成29年 1月17日付け:拒絶理由通知 平成29年 3月17日 :意見書 平成29年 3月17日 :手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。) 平成29年 8月23日付け:拒絶査定 平成29年 9月20日 :審判請求 平成31年 1月 7日 :最後の拒絶理由通知 平成31年 2月21日 :意見書 第2 本願発明 本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。 「【請求項1】 基材上に粘着剤層が積層されたダイシングテープと,前記粘着剤層上に形成された接着シートとを有するダイシングテープ一体型接着シートであって, 前記基材が多層構造を有しており,前記多層構造の基材のうち,前記粘着剤層とは反対側の最外層にのみ帯電防止剤が含有されており, 前記基材,及び,前記粘着剤層のうちの少なくとも1つの表面における表面固有抵抗値が,1.0×10^(11)Ω以下であることを特徴とするダイシングテープ一体型接着シート。」 第3 拒絶の理由 平成31年1月7日付けで当審が通知した拒絶理由は,本願発明は,本願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし7に記載された事項に基づいて,本願の優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 引用文献1.特開2012-209595号公報 引用文献2.特開平10-067971号公報 引用文献3.特開2010-163586号公報 引用文献4.特開2007-103616号公報 引用文献5.特開2012-211314号公報 引用文献6.特開2000-183140号公報 引用文献7.特開2008-001817号公報 第4 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献1 本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2012-209595号公報(引用文献1)には,図面とともに,次の記載がある。(下線は,当審で付した。以下同じ。)。 (1)「【0019】 (ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム) 図1で示されるように,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム1は,基材31上に粘着剤層32が設けられたダイシングテープ3と,前記粘着剤層上に設けられたフリップチップ型半導体裏面用フィルム(以下,「半導体裏面用フィルム」という場合がある)2とを備える構成である。」 「【0041】 半導体裏面用フィルム2は接着性を有していることが重要である。すなわち,半導体裏面用フィルム2自体が接着剤層であることが重要である。」 「【0083】 (ダイシングテープ) 前記ダイシングテープ3は,基材31上に粘着剤層32が形成されて構成されている。このように,ダイシングテープ3は,基材31と,粘着剤層32とが積層された構成を有していればよい。基材(支持基材)は粘着剤層等の支持母体として用いることができる。前記基材31は放射線透過性を有していることが好ましい。前記基材31としては,例えば,紙などの紙系基材;布,不織布,フェルト,ネットなどの繊維系基材;金属箔,金属板などの金属系基材;プラスチックのフィルムやシートなどのプラスチック系基材;ゴムシートなどのゴム系基材;発泡シートなどの発泡体や,これらの積層体[特に,プラスチック系基材と他の基材との積層体や,プラスチックフィルム(又はシート)同士の積層体など]等の適宜な薄葉体を用いることができる。」 「【0086】 前記基材31は,同種又は異種のものを適宜に選択して使用することができ,必要に応じて数種をブレンドしたものを用いることができる。また,基材31には,帯電防止能を付与する為,前記の基材31上に金属,合金,これらの酸化物等からなる厚さが30?500Å程度の導電性物質の蒸着層を設けることができる。基材31は単層あるいは2種以上の複層でもよい。」 「【0088】 なお,基材31には,本発明の効果等を損なわない範囲で,各種添加剤(着色剤,充填材,可塑剤,老化防止剤,酸化防止剤,界面活性剤,難燃剤など)が含まれていてもよい。」 「【0101】 なお,本発明では,フリップチップ型半導体裏面用フィルム2や,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム1には,帯電防止能を持たせることができる。これにより,その接着時及び剥離時等に於ける静電気の発生やそれによる半導体ウエハ等の帯電で回路が破壊されること等を防止することができる。帯電防止能の付与は,基材31,粘着剤層32乃至半導体裏面用フィルム2へ帯電防止剤や導電性物質を添加する方法,基材31への電荷移動錯体や金属膜等からなる導電層を付設する方法等,適宜な方式で行うことができる。」 (2)上記(1)の記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。 ア ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムに,帯電防止能を持たせることにより,その接着時及び剥離時等に於ける静電気の発生やそれによる半導体ウエハ等の帯電で回路が破壊されること等を防止することができること。(【0101】) イ 引用文献1に記載された発明において,基材,粘着剤層乃至半導体裏面用フィルムへ帯電防止剤や導電性物質を添加する方法,基材への電荷移動錯体や金属膜等からなる導電層を付設する方法等,適宜な方式によって,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムに帯電防止能を持たせて,その接着時及び剥離時等に於ける静電気の発生やそれによる半導体ウエハ等の帯電で回路が破壊されること等を防止することができること。(【0101】) (3)上記(1)から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「基材上に粘着剤層が設けられたダイシングテープと,前記粘着剤層上に設けられたフリップチップ型半導体裏面用フィルム(以下,「半導体裏面用フィルム」という場合がある)とを備える構成であるダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムであって, 前記半導体裏面用フィルム自体が接着剤層であり, 前記基材としては,プラスチックフィルム(又はシート)同士の積層体などの2種以上の複層からなる薄葉体を用いることができる, ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム。」 2 引用文献2 本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開平10-067971号公報(引用文献2)には,図面とともに,次の記載がある。 (1)「【請求項1】 母材上に粘着剤を有してなり,該粘着剤表面の表面抵抗値が1×10^(12)Ω/sq以下であることを特徴とするダイシングテープ。 〔途中省略〕 【請求項4】 上記母材の表面抵抗値が1×10^(12)Ω/sq以下である請求項1?3いずれかに記載のダイシングテープ。」 「【0007】図5に示す半導体基板1の切断工程における切削砥石薄片6とダイシングテープ2との摩擦,及び,図6に示す洗浄工程における高圧吐出された洗浄液9とダイシングテープ2との摩擦,更には,図7に示す剥離工程におけるチップのダイシングテープ2からの剥離により,ダイシングテープ2の表面には局所的に電荷がたまり,約数kVの静電気が発生する。これにより,ダイシングテープ2上に固定された半導体基板1に作り込まれた半導体デバイスが破壊,或いは特性劣化を引き起こすという問題を生じていた。 【0008】本発明は,上記問題点を解決し,各工程におけるダイシングテープの静電気の発生を防止し,該静電気による半導体デバイスの破壊及び特性劣化を防止することを目的とするものであり,更に具体的には,各工程において摩擦等を受けても電荷をためないダイシングテープを提供するものである。 【0009】 【課題を解決するための手段】本発明のダイシングテープは,母材上に粘着剤を有してなり,該粘着剤表面の表面抵抗値が1×10^(12)Ω/sq以下であることを特徴とする。即ち,本発明のダイシングテープは,その表面に電気的拡散性を持たせることにより,摩擦等により発生した電荷をダイシングテープ表面に拡散し,グランド電位に落とすことが可能となり,上記局所的に発生した電荷による半導体デバイスの破壊及び特性の劣化を防止するのである。」 「【0016】 【実施例】 [実施例1]本発明第1の実施例として,図1に示す構成のダイシングテープを作製した。本実施例に用いたダイシングテープは,100μm厚のPETフィルムを母材とし,該フィルム上に30μmの膜厚で制御されたアクリル系粘着剤層で構成されている。該アクリル系粘着剤層中には粒径5μmのカーボン粒子が混入されている。 【0017】上記構成により,ダイシングテープの粘着剤表面の表面抵抗値は2×10^(6) Ω/sq以下であった。 【0018】上記ダイシングテープを用いて,図4?図7に示した従来と同じ半導体基板のダイシング工程を行なった。その結果,従来ダイシングテープ表面の帯電位が-2?3kVであったのに対して,本実施例のダイシングテープは-10Vであり大幅に低減されて半導体デバイスの破壊及び特性劣化は認められなかった。」 「【0022】[実施例3]本発明第3の実施例として,図3に示す構成のダイシングテープを作製した。本実施例に用いたダイシングテープは,母材として100μm厚のPVCフィルムを用い,粘着剤には30μm厚のアクリル系粘着剤を用い,両者に5μm粒径のカーボン粒子を混入した。 【0023】上記構成により,ダイシングテープの粘着剤表面及び母材表面の表面抵抗値は,それぞれ,1×10^(11)Ω/sq以下,2×10^(6) Ω/sq以下であった。 【0024】上記ダイシングテープを用いて,図4?図7に示した従来と同じ半導体基板のダイシング工程を行なった。その結果,実施例1と同様にダイシングテープ表面の帯電位は-10Vであり大幅に低減されて半導体デバイスの破壊及び特性劣化は認められなかった。」 「【0026】 【発明の効果】本発明によると,ダイシング工程における摩擦等による半導体デバイスの表面の帯電位が大幅に低減され,該帯電位による半導体デバイスの破壊及び特性劣化が防止されて該工程における製造歩留,及び半導体デバイスの信頼性が著しく向上する。 【0027】さらに本発明においては,母材表面の表面抵抗値も粘着剤表面と同様に1×10^(12)Ω/sq以下に設定して構成することにより,より良好に半導体デバイス表面の帯電位を低減することができ,また,切断の深さが粘着剤層を超えて母材に達した場合に発生する静電気についても同様に低減することができ,半導体デバイス製造歩留,及び信頼性をより高めることができる。」 (2)上記(1)から,引用文献2には,以下の技術的事項が記載されているものと認められる。 ア 半導体基板の切断工程における摩擦,剥離工程におけるチップのダイシングテープからの剥離により,ダイシングテープの表面には局所的に電荷がたまり,約数kVの静電気が発生し,これにより,ダイシングテープ上に固定された半導体基板に作り込まれた半導体デバイスが破壊,或いは特性劣化を引き起こすという問題が生じることが知られていたこと。(【0007】) イ ダイシングテープは,その表面に電気的拡散性を持たせることにより,摩擦等により発生した電荷をダイシングテープ表面に拡散し,グランド電位に落とすことが可能となり,上記局所的に発生した電荷による半導体デバイスの破壊及び特性の劣化を防止することができること。(【0009】) ウ 粘着剤層中にカーボン粒子を混入して,ダイシングテープの粘着剤表面の表面抵抗値を2×10^(6) Ω/sq以下とすると,従来と同じ半導体基板のダイシング工程を行なっても,ダイシングテープ表面の帯電位は大幅に低減されて,半導体デバイスの破壊及び特性劣化が認められなかったこと。(【0016】-【0018】) エ 母材と粘着剤の両者にカーボン粒子を混入して,ダイシングテープの粘着剤表面及び母材表面の表面抵抗値を,それぞれ,1×10^(11)Ω/sq以下,2×10^(6) Ω/sq以下とすると,従来と同じ半導体基板のダイシング工程を行なっても,ダイシングテープ表面の帯電位は大幅に低減されて,半導体デバイスの破壊及び特性劣化が認められなかったこと。(【0022】-【0024】) オ 母材表面の表面抵抗値も粘着剤表面と同様に1×10^(12)Ω/sq以下に設定して構成することにより,より良好に半導体デバイス表面の帯電位を低減することができ,また,切断の深さが粘着剤層を超えて母材に達した場合に発生する静電気についても同様に低減することができ,半導体デバイス製造歩留,及び信頼性をより高めることができること。(【0026】) 3 引用文献3 本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である,特開2010-163586号公報(引用文献3)には,図面とともに,次の記載がある。 (1)「【0002】 従来から,電気部品,電子部品,半導体部品を生産する際に,ダイシングなどの処理工程において部品の固定や,回路などの保護を目的として粘着テープが使用されている。 このような粘着テープとしては,基材フィルムに再剥離性のアクリル系粘着層が設けられた粘着テープや,貼付後の処理工程においては強い剥離抵抗性があるが,剥離時には小さい力で剥離可能な光架橋型再剥離性粘着剤層が設けられた粘着テープなどがある。 【0003】 これらの粘着テープは,所定の処理工程が終了すると剥離されるが,このとき部品と粘着テープとの間に剥離帯電と呼ばれる静電気が発生する。この静電気による被着体への悪影響(例えば,回路の破壊)を抑えるため,基材フィルムの背面側を帯電防止処理した粘着テープや,粘着剤層へ帯電防止剤を添加混合した粘着テープ,基材フィルムと粘着剤層との間に帯電防止中間層を設けた粘着テープが使用されている。」 「【0013】 本発明の粘着剤組成物には,粘着剤と,カーボンナノ材料と,導電性ポリマーが含有されており,粘着剤中に,カーボンナノ材料及び導電性ポリマーが均一に分散されている。ここで,均一に分散とは,粘着剤組成物及びそれを用いて形成された粘着剤層において,目視でカーボン材料及び導電性ポリマーが凝集することなく,分散している状態をいう。カーボンナノ材料及び導電性ポリマーが均一に分散していると,良好な帯電防止性又は導電性を発揮する。 ここで,帯電防止性を有するとは,表面抵抗率が10^(13)Ω/□未満であることをいい,導電性を有するとは,表面抵抗率が10^(8)Ω/□未満であることをいう。なお,粘着剤組成物がエネルギー線重合性基を有する化合物を含む場合,粘着剤組成物の硬化前及び/又は硬化後の表面抵抗率が前記の範囲であれば帯電防止性又は導電性を有するものとする。」 「【0061】 (2)帯電圧の測定 40mm×40mmサイズの粘着シートを,電荷減衰測定装置((株)宍戸商会製,商品名「STATIC HONESTMER」)の上に設置し,1300rpmで回転させ,その回転中に粘着剤面に10kVの電圧を印加させて,60秒後の帯電圧を測定し,紫外線(UV)照射前の帯電圧とした。 また,同様な粘着シートを,フュージョンHバルブ240W/cm1灯付きベルトコンベア式紫外線照射機により,コンベアスピード10m/minの条件で10回(積算光量1000mJ/cm^(2)),基材面から紫外線を照射し,その紫外線照射後の粘着シートの帯電圧を上記と同様な方法で測定した。 【0062】 (3)表面抵抗率の測定 100mm×100mmサイズの粘着シートを,表面抵抗計((株)ADVANTEST製,商品名「R8252 ELECTROMETER」)に設置し,粘着シートの粘着剤面の表面抵抗率を測定し,紫外線(UV)照射前の表面抵抗率とした。 また,同様な粘着シートを,フュージョンHバルブ240W/cm1灯付きベルトコンベア式紫外線照射機により,コンベアスピード10m/minの条件で10回(積算光量1000mJ/cm^(2)),基材面から紫外線を照射し,その紫外線照射後の粘着シートの粘着剤面の表面抵抗率を上記と同様な方法で測定した。 【0063】 」 (2)上記(1)から,引用文献3には,以下の技術的事項が記載されているものと認められる。 ア 電気部品,電子部品,半導体部品を生産する際に,ダイシングなどの処理工程において部品の固定や,回路などの保護を目的として使用される粘着テープは,所定の処理工程が終了すると剥離されるが,このとき部品と粘着テープとの間に剥離帯電と呼ばれる静電気が発生することから,この静電気による被着体への悪影響(例えば,回路の破壊)を抑えるため,基材フィルムの背面側を帯電防止処理した粘着テープや,粘着剤層へ帯電防止剤を添加混合した粘着テープ,基材フィルムと粘着剤層との間に帯電防止中間層を設けた粘着テープが,従来から使用されていたこと。(【0002】,【0003】) イ 実施例1?4,6?9から,粘着剤層の表面抵抗率を,UV照射前で,2.21×10^(6)Ω/□?2.42×10^(10)Ω/□,UV照射後で,1.15×10^(4)Ω/□?1.03×10^(9)Ω/□とした粘着シートの帯電圧が下がること。(【0063】) 4 引用文献4 本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である,特開2007-103616号公報(引用文献4)には,図面とともに,次の記載がある。 (1)「【請求項1】 A層/B層/C層の3層から構成されるフィルムにおいて,各層がそれぞれ下記成分及び帯電防止剤を含むダイシングシート用基体フィルム。 A層:アクリル酸エステル成分が60?80重量%であり,メタクリル酸エステル成分が20?40重量%であるアクリル系樹脂。 B層:酸変性水添スチレン系熱可塑性エラストマー。 C層:熱可塑性エチレン系樹脂。」 「【0002】 予め大面積でつくられた半導体ウエハは,チップ状に切断(ダイシングという)される。このダイシング工程では,該半導体ウエハを固定する必要がある。この固定のためにダイシングシートが使用される。 このダイシングシートに静電気が帯電してしまうと,周辺にある粉塵やダイシングの際に発生する切削粉等を吸着して半導体ウエハ自身が汚染されてしまう,また,帯電した静電気によりウエハに形成したIC(集積回路)が破壊されてしまうという問題があった。 【0003】 かかる問題を解決する手段として,界面活性剤を含有した帯電防止剤を基材シートと粘着剤層の間,又は基材シートとオーバーコート剤層の間に成層した半導体ウエハ固定用シートが報告されている(例えば,特許文献1)。 さらに,帯電防止剤層の耐水性向上のために,基材シートと粘着剤の間および/または該基材シートの該粘着剤層の成層されていない面に,ベースポリマ100重量部,光硬化性化合物10?200重量部,帯電防止剤0.055?25重量部および光開始剤0.1?10重量部を配合した光硬化型帯電防止剤を0.1?20g/m^(2)の積層量で積層し光重合させ該光硬化型帯電防止剤層の構造を3次元網目構造とすることが報告されている(例えば,特許文献2)。」 (2)上記(1)から,引用文献4には,以下の技術的事項が記載されているものと認められる。 ア ダイシングシートに静電気が帯電してしまうと,周辺にある粉塵やダイシングの際に発生する切削粉等を吸着して半導体ウエハ自身が汚染されてしまう,また,帯電した静電気によりウエハに形成したIC(集積回路)が破壊されてしまうという問題を解決する手段として,基材シートの粘着剤層の成層されていない面に,ベースポリマ100重量部,光硬化性化合物10?200重量部,帯電防止剤0.055?25重量部および光開始剤0.1?10重量部を配合した光硬化型帯電防止剤を0.1?20g/m^(2)の積層量で積層し光重合させ,3次元網目構造の光硬化型帯電防止剤層を設ける方法が知られていたこと。(【0002】,【0003】) 5 引用文献5 本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である,特開2012-211314号公報(引用文献5)には,図面とともに,次の記載がある。 (1)「【請求項1】 基層と, 前記基層上に形成される粘着層とを備え, 前記粘着層は,該粘着層を硬化させる硬化成分を含有し, 前記基層は,主に,高分子型帯電防止剤が練り込まれた樹脂から成り, 前記高分子型帯電防止剤のメルトマスフローレート(MFR)が,JIS K7210に準拠して190℃,21.18Nの測定条件で測定したとき,10.0g/10min以上15.0g/10min以下である半導体ウエハ等加工用粘着テープ。 【請求項2】 基層と, 前記基層上に形成される粘着層とを備え, 前記粘着層は,該粘着層を硬化させる硬化成分を含有し, 前記基層は,主に,高分子型帯電防止剤が分散した樹脂から成り, 前記高分子型帯電防止剤のメルトマスフローレート(MFR)が,JIS K7210に準拠して190℃,21.18Nの測定条件で測定したとき,10.0g/10min以上15.0g/10min以下である半導体ウエハ等加工用粘着テープ。」 「【0003】 ところで,半導体チップ等の製造工程において,ダイシングテープが帯電すると,製品破壊または作業上の不具合が発生するという問題がある。例えば,セパレータをダイシングテープから剥離するときや,ダイシング時のブレードとダイシングテープとが接触したときにダイシングテープが帯電しやすい。また,ダイシング後にダイシングテープを吸着テーブルから取り外すときや,チップまたはパッケージをピックアップするときにダイシングテープが帯電することもある。 【0004】 そこで,例えば,特許文献1には,基材層の片面に粘着層を有し,他方の面に摩擦低減剤を含有する帯電防止層を有するダイシングテープが開示されている。このダイシングテープは,帯電防止層によって帯電を抑制することができる。」 「【0006】 しかし,外部に露出する層である帯電防止層は,機械などと接触して擦れることにより,基材層から剥離するおそれがある。そのため,上記のダイシングテープでは,安定して帯電を抑制することができないおそれがある。 【0007】 本発明の目的は,安定して帯電を抑制することができる半導体ウエハ等加工用粘着テープを提供することである。」 「【0046】 <本実施形態における効果> この高分子型帯電防止剤は,樹脂に練り込まれ,基層200中に分散している。そのため,基層200が機械などと接触して擦れても,基層200から高分子型帯電防止剤が脱落しにくい。よって,ダイシングテープ100は,安定して帯電を抑制することができる。さらに,この高分子型帯電防止剤は,高分子型ではない従来の帯電防止剤に比べて,帯電防止効果を発現する分子鎖が長い。そのため,ダイシングテープ100は,良好な帯電防止性能を有する。」 「【0051】 (実施例1) 〔途中省略〕 【0061】 上記の測定を行った結果,基層200のいずれの面の表面抵抗値も1.0E+10Ω/□であり,体積抵抗値が1.0E+12Ωmであった(下記表1参照)。 〔途中省略〕 【0067】 <半導体ウエハの帯電圧の評価> 除電した半導体ウエハを除電したダイシングテープ100に貼付けた後,半導体ウエハの表面から10mmの距離で,表面電位計(SUNX社製,品名:S1HS)を用いて帯電圧を測定した。測定した帯電圧の絶対値が,50V未満であれば○,50V以上100V未満であれば△,100V以上であれば×で評価した。 【0068】 上記の評価を行った結果,半導体ウエハの帯電圧が-6Vであった。そのため,半導体 ウエハの帯電圧の評価は○であった(下記表1参照)。」 「【0071】 (実施例2) 下記以外については実施例1と同様にして,ダイシングテープ100を得た。基層200を構成する材料として,MFRが12g/10minである高分子型帯電防止剤のポリエーテル/ポリオレフィンブロックポリマー(三洋化成工業株式会社製,品名:ペレスタット212)を準備した。 【0072】 このダイシングテープ100について,実施例1と同様にして,帯電防止剤の脱落性の評価,表面抵抗値および体積抵抗値の測定,1%減衰時間の測定,粘着力比率の評価,半導体ウエハの帯電圧の評価,フィルム加工性の評価を行った。 【0073】 その結果,本実施例に係るダイシングテープ100のクロスカット法の結果は「分類0」であり,帯電防止剤の脱落性の評価は○であった。基層200のいずれの面の表面抵抗値も1.0E+11Ω/□であり,体積抵抗値が1.0E+13Ωmであった。基層200側の面の1%減衰時間が0.02秒であり,粘着層300側の面の1%減衰時間が0.02秒であった。第1の粘着力が150cN/25mmであり,第2の粘着力が110cN/25mmであり,ダイシングテープ100の粘着力比率の評価は○であった。半導体ウエハの帯電圧が-4Vであり,半導体ウエハの帯電圧の評価は○であった。目視でのダイシングテープ100の外観が均一であり,かつ,1m×1m範囲の厚み公差が3μmであり,フィルム加工性の評価は○であった(下記表1参照)。」 (2)上記(1)から,引用文献5には,以下の技術的事項が記載されているものと認められる。 ア セパレータをダイシングテープから剥離するときや,ダイシング時のブレードとダイシングテープとが接触したとき,また,ダイシング後にダイシングテープを吸着テーブルから取り外すときや,チップまたはパッケージをピックアップするときにダイシングテープが帯電することがあり,このように半導体チップ等の製造工程において,ダイシングテープが帯電すると,製品破壊または作業上の不具合が発生するという問題があることから,基材層の片面に粘着層を有し,他方の面に摩擦低減剤を含有する帯電防止層を有するようにしたダイシングテープを用いることで,前記帯電防止層によって帯電を抑制する方法が知られていること。(【0003】,【0004】) イ 基材層の片面に粘着層を有し,他方の面に摩擦低減剤を含有する帯電防止層を有するようにしたダイシングテープを用いる従来の方法では,外部に露出する層である帯電防止層が,機械などと接触して擦れることにより,基材層から剥離するおそれがあり,安定して帯電を抑制することができないおそれがあること。(【0006】,【0007】) ウ 高分子型帯電防止剤を,樹脂に練り込み,基層中に分散させることで,基層が機械などと接触して擦れても,基層から高分子型帯電防止剤が脱落しにくいことから,ダイシングテープが,安定して帯電を抑制することができること。(【0046】) エ 基層200の表面抵抗値が,1.0E+10Ω/□,あるいは,1.0E+11Ω/□であるダイシングテープの,半導体ウエハの帯電圧の評価が○であったこと。(【0051】-【0073】) 6 引用文献6 本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である,特開2000-183140号公報(引用文献6)には,図面とともに,次の記載がある。 (1)「【請求項1】 基材シート(2)と,該基材シート(2)の一方の面に積層された粘着剤層(3)を有する半導体ウエハ固定用シートにおいて,該基材シート(2)と該粘着剤層(3)の間および/または該基材シート(2)の該粘着剤層(3)の成層されていない面に,ベースポリマ100重量部,光硬化性化合物10?200重量部,帯電防止剤0.055?25重量部および光開始剤0.1?10重量部を配合した光硬化型帯電防止剤層(1)を0.1?20g/m^(2)の積層量で積層し,紫外線照射により該光硬化型帯電防止剤層(1)の構造を3次元網目状構造としたことを特徴とする半導体ウエハ固定用シート。」 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】ここで,該半導体ウエハ固定用シートに静電気が帯電してしまうと,周辺にある粉塵やダイシングの際に発生する切削粉等を吸着して半導体ウエハ自身が汚染されてしまうという課題があった。また,帯電した静電気によりウエハに形成したIC(集積回路)が破壊されてしまうという課題があった。該半導体ウエハ固定用シートに静電気が帯電する場合としては,半導体ウエハ固定用シートの剥離紙を剥がした際,該半導体ウエハ固定用シートに固定された該半導体ウエハをバックグラインドする際,さらに,ダイシングの際に発生する切削粉を洗い流すために,電気絶縁性の高い超純水を噴射させた際などがある。 【0005】かかる課題を解決する手段として,界面活性剤を含有した帯電防止剤層を基材シートと粘着剤層の間または基材シートとオーバーコート剤層の間に成層した半導体ウエハ固定用シートが知られている(例えば特開平9-190990号公報)。 【0006】該手段における帯電防止剤層は,通常の使用では問題はないが,長期耐水型ではないためダイシングの際に該超純水による洗浄を長時間行うと,該半導体チップ裏面に糊残り(帯電防止剤層に浸入した超純水により該帯電防止剤層の凝集力が低下し,半導体チップの粘着剤層貼付け面に粘着剤が移行すること)が発生してしまう場合があった。また,該洗浄により該界面活性剤が該超純水中に漏洩し,帯電防止効果が低減してしまう場合もあった。 【0007】ここで,帯電防止剤層の耐水性向上のために該帯電防止剤層へ光硬化性化合物を配合するという方法が考えられるが,単に配合するだけでは該光硬化性化合物自体に硬化性があるため,半導体ウエハ固定用シートのエキスパンド性が低下してしまうという新たな課題が生じた。 【0008】したがって本発明の目的は,該帯電防止剤層の耐水性を向上させて上記界面活性剤の漏洩を抑え帯電防止効果を維持するとともに,エキスパンド性を低下させない半導体ウエハ固定用シートを提供することにある。また,副次的な効果としてプライマ剤が不要となる半導体ウエハ固定用シートを提供することにある。」 「【0043】また,より効果的な帯電防止効果を得るために,該基材シート100重量部に対して上記帯電防止剤を0.05?10重量部配合しても良い。この範囲が好ましいのは,あまりに少なすぎると何の効果も得られず,あまりに多すぎると該基材シートのエキスパンド性を阻害してしまうためである。」 「【0061】さらに帯電圧および半減期は,該半導体ウエハ固定用シートを帯電させた際の初期帯電圧および帯電半減期であり,帯電圧測定器ドメストメーターアナライザU(シシド静電気社製)により測定したものである。なお,糊面とは基材シート2の粘着剤層3が成層されている面をさし,背面とは基材シート2の粘着剤層3が成層されていない面をさす。 〔途中省略〕 【0066】実施例2は,図2に示すように,基材シート2の背面に光硬化型帯電防止剤層1を成層したものであり,実施例1と比較して背面における帯電圧,半減期が低い値を示し帯電防止効果が発揮されることが確認された。」 (2)上記(1)から,引用文献6には,以下の技術的事項が記載されているものと認められる。 ア 半導体ウエハ固定用シートにおいて,基材シートの背面,すなわち,基材シートの粘着剤層が成層されていない面に光硬化型帯電防止剤層を成層したものは,背面における帯電圧,半減期が低い値を示し帯電防止効果が発揮されること。 7 引用文献7 本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である,特開2008-001817号公報(引用文献7)には,図面とともに,次の記載がある。 (1)「【0002】 IC等の電子部品の製造方法として,半導体ウエハや絶縁物基板を母材としてチップを製造し,チップをピックアップし,リードフレーム等に接着剤等で固定し,樹脂等で封止して電子部品とする方法が知られている。電子部品の製造方法としては,シリコン,ガリウム-ヒ素等の半導体ウエハや絶縁物基板上に回路パターンを形成して電子部品集合体とし,電子部品集合体を粘着シートに貼付け,更にリングフレームに固定してから個々のチップに切断分離(ダイシング)し,必要に応じてフィルムを引き延ばし(エキスパンド),チップをピックアップし,チップを接着剤でリードフレーム等に固定する方法が広く行われている(例えば非特許文献1等参照)。 【0003】 ダイシング用の粘着シートと,チップをリードフレーム等に固定する接着剤の機能を兼ね備えた多層粘着シート(ダイアタッチフィルム一体型シート)を用いる方法が提案されている。ダイアタッチフィルム一体型シートは,粘着シートとダイアタッチフィルムを一体化した多層粘着シートである。ダイアタッチフィルム一体型シートを電子部品の製造に用いることにより,接着剤の塗布工程を省略できる。 【0004】 ダイアタッチフィルム一体型シートは,接着剤を用いる方法に比べ,接着剤部分の厚み制御やはみ出し抑制ができるという利点がある。ダイアタッチフィルム一体型シートは,チップサイズパッケージ,スタックパッケージ,及びシステムインパッケージ等の半導体パッケージの製造に使用されている(特許文献1?3及び非特許文献2等参照)。」 「【0046】 (粘着シート) 粘着シートは基材フィルム上に粘着剤を塗布して製造する。基材フィルムの厚さは30?300μmが好ましく,60?200μmがより好ましい。 【0047】 基材フィルムの素材は特に限定されず,例えばポリ塩化ビニル,ポリエチレンテレフタレート,エチレン-酢酸ビニル共重合体,エチレン-アクリル酸-アクリル酸エステルフィルム,エチレン-エチルアクリレート共重合体,ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレン-アクリル酸共重合体,及び,エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体やエチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等を金属イオンで架橋してなるアイオノマ樹脂が挙げられる。基材フィルムにはこれらの樹脂の混合物,共重合体,及び多層フィルム等を使用できる。 〔途中省略〕 【0050】 基材フィルムには,ダイアタッチフィルム剥離時における帯電を防止するために,基材フィルムのダイアタッチフィルム接触面及び/又は非接触に帯電防止処理を施してもよい。帯電防止剤は樹脂中に練り込んでもよい。帯電防止処理には,四級アミン塩単量体等の帯電防止剤を用いることができる。 〔途中省略〕 【0052】 滑り剤及び帯電防止剤の使用方法は特に限定されないが,例えば基材フィルムの片面に粘着剤を塗布し,その裏面に滑り剤及び/又は帯電防止剤を塗布してもよく,滑り剤及び/又は帯電防止剤を基材フィルムの樹脂に練り込んでシート化しても良い。」 (2)上記(1)から,引用文献7には,以下の技術的事項が記載されているものと認められる。 ア ダイシング用の粘着シートと,チップをリードフレーム等に固定する接着剤の機能を兼ね備えたダイアタッチフィルム一体型シートにおいて,前記粘着シートは基材フィルム上に粘着剤を塗布して製造するものであり,帯電防止剤の使用方法は特に限定されないが,例えば基材フィルムの片面に粘着剤を塗布し,その裏面に帯電防止剤を塗布してもよく,帯電防止剤を基材フィルムの樹脂に練り込んでシート化しても良いこと,及び,前記基材フィルムとして,多層フィルムを使用できること。 第5 対比 ア 本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。 (ア)引用発明の「フリップチップ型半導体裏面用フィルム(以下,「半導体裏面用フィルム」という場合がある)」は,「半導体裏面用フィルム自体が接着剤層」である。 したがって,引用発明の「フリップチップ型半導体裏面用フィルム(以下,「半導体裏面用フィルム」という場合がある)」は,本願発明の「接着シート」に相当し,また,引用発明の「ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム」は,本願発明の「ダイシングテープ一体型接着シート」に相当する。 (イ)引用発明の「前記基材としては,プラスチックフィルム(又はシート)同士の積層体などの2種以上の複層からなる薄葉体を用いることができる」は,本願発明の「前記基材が多層構造を有しており」に相当する。 イ 以上のことから,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 【一致点】 「基材上に粘着剤層が積層されたダイシングテープと,前記粘着剤層上に形成された接着シートとを有するダイシングテープ一体型接着シートであって, 前記基材が多層構造を有する, ダイシングテープ一体型接着シート。」 【相違点】 <相違点1> 本願発明のダイシングテープ一体型接着シートは,「前記基材,及び,前記粘着剤層のうちの少なくとも1つの表面における表面固有抵抗値が,1.0×10^(11)Ω以下である」のに対して,引用発明は,当該構成について特定されていない点。 <相違点2> 本願発明の多層構造の基材は,「多層構造の基材のうち,前記粘着剤層とは反対側の最外層にのみ帯電防止剤が含有されて」いるのに対して,引用発明は,当該構成について特定されていない点。 第6 判断 1 上記相違点について,判断する。 ア 相違点1について 上記第4の1(2)イのとおり,引用文献1には,引用文献1に記載された発明において,粘着剤層へ帯電防止剤や導電性物質を添加して,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムに帯電防止能を持たせて,その接着時及び剥離時等に於ける静電気の発生やそれによる半導体ウエハ等の帯電で回路が破壊されることを防止する方法が記載されている。 一方,上記第4の2(2)ウのとおり,引用文献2には,粘着剤層中にカーボン粒子を混入して,ダイシングテープの粘着剤表面の表面抵抗値を2×10^(6) Ω/sq以下とすると,従来と同じ半導体基板のダイシング工程を行なっても,ダイシングテープ表面の帯電位は大幅に低減されて,半導体デバイスの破壊及び特性劣化が認められなかったことが記載されており,さらに,上記第4の3(2)イのとおり,引用文献3には,粘着剤層の表面抵抗率を,UV照射前で,2.21×10^(6)Ω/□?2.42×10^(10)Ω/□,UV照射後で,1.15×10^(4)Ω/□?1.03×10^(9)Ω/□とした粘着シートの帯電圧が下がることが記載されている。そして,引用文献2,3の「表面抵抗値」は,本願発明の「表面固有抵抗値」に相当する。 してみれば,引用発明において,引用文献1に記載された,粘着剤層へ帯電防止剤や導電性物質を添加して,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムに帯電防止能を持たせて,その接着時及び剥離時等に於ける静電気の発生やそれによる半導体ウエハ等の帯電で回路が破壊されることを防止する方法を適用するに際して,前記粘着剤層の表面における表面固有抵抗値の値として,引用文献2に記載された,2×10^(6) Ω/sq以下の値,あるいは,引用文献3に記載された,UV照射前で,2.21×10^(6)Ω/□?2.42×10^(10)Ω/□,UV照射後で,1.15×10^(4)Ω/□?1.03×10^(9)Ω/□の範囲に含まれる値を選定すること,すなわち,相違点1について本願発明の構成を採用することは,当業者が適宜なし得たことである。 イ 相違点2について (ア)上記第4の1(2)イのとおり,引用文献1には,引用文献1に記載された発明において,基材,粘着剤層乃至半導体裏面用フィルムへ帯電防止剤や導電性物質を添加する方法,基材への電荷移動錯体や金属膜等からなる導電層を付設する方法等,適宜な方式によって,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムに帯電防止能を持たせて,その接着時及び剥離時等に於ける静電気の発生やそれによる半導体ウエハ等の帯電で回路が破壊されること等を防止することができることが記載されている。 (イ)一方,上記第4の4(2)アのとおり,引用文献4に,ダイシングシートに静電気が帯電してしまうと,周辺にある粉塵やダイシングの際に発生する切削粉等を吸着して半導体ウエハ自身が汚染されてしまう,また,帯電した静電気によりウエハに形成したIC(集積回路)が破壊されてしまうという問題を解決する手段として,基材シートの粘着剤層の成層されていない面に,帯電防止剤層を設ける方法が記載されており, 上記第4の6(2)アのとおり,引用文献6に,半導体ウエハ固定用シートにおいて,基材シートの背面,すなわち,基材シートの粘着剤層が成層されていない面に帯電防止剤層を成層したものは,背面における帯電圧,半減期が低い値を示し帯電防止効果が発揮されることが記載されており, さらに,上記第4の7(2)アのとおり,引用文献7に,ダイシング用の粘着シートと,チップをリードフレーム等に固定する接着剤の機能を兼ね備えたダイアタッチフィルム一体型シートにおいて,帯電防止剤の使用方法は特に限定されないが,例えば基材フィルムの片面に粘着剤を塗布し,その裏面に帯電防止剤を塗布してもよいことが記載されている。 そして,前記帯電防止剤層,及び,前記帯電防止剤の塗布により形成された層は,いずれも,帯電防止剤を含有する層といえる。 そうすると,基材シートの粘着剤層の成層されていない面に,帯電防止剤を含有する層を設けることによってダイシングシートの帯電を防止して,ウエハに形成したIC(集積回路)の破壊を抑制する方法が広く知られていたもの(周知技術)といえる。 (ウ)してみれば,引用発明に,引用文献1に記載された,前記「適宜な方式によって,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムに帯電防止能を持たせて,その接着時及び剥離時等に於ける静電気の発生やそれによる半導体ウエハ等の帯電で回路が破壊されること等を防止する」との技術的事項を適用して,引用発明に係る「ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム」を用いた半導体装置の製造において回路が破壊されること等を防止するために,前記(イ)の帯電の防止に係る周知技術を採用して,前記「ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム」の粘着剤層が成層されていない側の面に「帯電防止剤を含有する層」を設けることは当業者が容易になし得たことである。 そして,このように,引用発明において,「ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム」の粘着剤層が成層されていない側の面に「帯電防止剤を含有する層」を設けた場合には,当該「帯電防止剤を含有する層」を設けることによって得られる「プラスチックフィルム(又はシート)同士の積層体などの2種以上の複層からなる薄葉体」と,「帯電防止剤を含有する層」とからなる「多層構造」は,粘着剤層が積層される「基材」であるということができるから,前記「帯電防止剤を含有する層」は,本願発明の「帯電防止剤が含有されて」いる「前記多層構造の基材のうち,前記粘着剤層とは反対側の最外層」に相当するといえる。 すなわち,「ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム」の粘着剤層が成層されていない側の面に「帯電防止剤を含有する層」を設けて,これを「最外層」とすることは当業者が容易になし得たことである。 なお,前記(イ)の周知技術は,基材シートの「面」に,帯電防止剤を含有する層を設けるというものであり,基材シートが一層であろうが多層構造であろうが,そこに「面」は存在するから,引用発明が多層構造であることは,前記(イ)の周知技術を採用するにあたって阻害要因となるものではない。 そして,前記「プラスチックフィルム(又はシート)同士の積層体などの2種以上の複層からなる薄葉体」と「帯電防止剤を含有する層」とからなる多層構造の基材のうち,粘着剤層とは反対側の前記最外層以外の層に帯電防止剤を添加するか否かは設計事項である。そして,前記最外層以外の層に帯電防止剤を添加しないものとすることにより,格別の効果を奏するとも認められない。 審判請求人が,意見書等で主張する「コストの削減」は,本願の明細書に記載されたものではなく採用することはできないが,仮に,審判請求人が意見書で主張するように,「『コストの削減』との明記がなくても,多層のすべてに帯電防止剤を含有させることと比較すれば,最外層にのみ帯電防止剤を含有させることの方がコストの削減になるのは,技術常識を考慮すれば当業者であれば当然に把握できる」として,「コストの削減」を,本願発明の効果として認めたとしても,「コストの削減」という効果が,「技術常識を考慮すれば当業者であれば当然に把握できる」ものである以上,当該効果は,当業者が予測する範囲内のものといえるから,そのような効果に基づいて本願発明が進歩性を有しているとの判断をすることはできない。 したがって,相違点2について本願発明の構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。 ウ そして,本願発明の奏する作用効果は,引用発明,引用文献2ないし7に記載された事項から予測される範囲内ものであり,格別顕著であるということはできない。 エ したがって,本願発明は,引用発明,引用文献2ないし7に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 むすび 以上のとおり,本願発明は,その優先権主張の日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし7に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-04-04 |
結審通知日 | 2019-04-05 |
審決日 | 2019-04-16 |
出願番号 | 特願2013-88565(P2013-88565) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01L)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 内田 正和 |
特許庁審判長 |
深沢 正志 |
特許庁審判官 |
加藤 浩一 河合 俊英 |
発明の名称 | ダイシングテープ一体型接着シート、及び、ダイシングテープ一体型接着シートを用いた半導体装置の製造方法 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |