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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1352198
審判番号 不服2019-2212  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-18 
確定日 2019-06-06 
事件の表示 特願2015- 82881「二軸延伸シート及び成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月 6日出願公開、特開2016-175394〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成27年4月14日の出願であって、平成30年8月10日付けで拒絶理由が通知され、平成30年10月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年11月15日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)され、平成31年2月18日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.原査定の理由
原査定のうち、「(B)理由1(特許法第29条第2項)について」に示された、平成30年10月1日の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に関する理由は、本願の出願前に頒布された刊行物である、引用文献3(特開2005-126631号公報)及び引用文献2(特開2001-105489号公報)を引用し、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、引用文献3に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとしたものである。

3.当審の判断
(1)本願発明
「【請求項1】
アクリロニトリル及びスチレンをモノマー単位として含み、前記アクリロニトリル/前記スチレンの質量比が18/82?30/70である共重合体を含有する樹脂組成物を二軸延伸してなる二軸延伸樹脂層と、
前記二軸延伸樹脂層の少なくとも一方の表面を被覆する被覆層であって、(A)ショ糖脂肪酸エステル、及び(B)ケン化度が85?95モル%、重合度が300?2000であるポリビニルアルコールを含有し、前記(A)ショ糖脂肪酸エステル/前記(B)ポリビニルアルコールの質量比が80/20?50/50である被覆層と、を備える二軸延伸シート。」

(2)引用文献3及び2の記載事項並びに引用発明
ア 引用文献3には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショ糖脂肪酸エステル30質量%以上99質量%以下と残メタノールと残酢酸メチルの合計が4質量%以下であるポリビニルアルコール(以下、PVAと略す)1質量%以上70質量%以下とを含有してなる防曇剤をスチレン系樹脂シートの少なくとも一方の面に塗布することを特徴とするスチレン系樹脂シート。
・・・・
【請求項6】
スチレン系樹脂シートとして2軸延伸GPポリスチレンシートを用いることを特徴とする請求項1乃至5記載のいずれか1項記載のスチレン系樹脂シート。
・・・・
【請求項8】
請求項1乃至7記載のいずれか1項記載のスチレン系樹脂シートを用いて得られることを特徴とする成形品。
【請求項9】
成形品が食料品包装容器であることを特徴とする請求項8記載の成形品。
・・・・」
(イ)「【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂シートやその成形品は包装、被覆材として広く使用されているが、その表面が疎水性の為に気温や湿度の変化により凝集した水分が微小水滴となり表面に付着する、いわゆる曇りが発生することがある。その曇りにより収納物の見分けが困難となり、商品価値を低下させる原因となる場合が多かった。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、成形時の熱板汚れ性、成形品の透明性、初期防曇効果、防曇効果の持続性、成形品の打ち抜き性に優れたスチレン系樹脂シートとその成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
・・・・
【発明の効果】
【0007】
本発明のスチレン系樹脂シートとその成形品及びその製造方法に関するものは熱板の汚れ性、成形品の透明性、初期防曇効果、防曇持続性、成形品の打ち抜き性に優れているので食料品の包装等に広く使用でき、非常に有用である。」
(エ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳しく説明する。
防曇剤はショ糖脂肪酸エステルと残メタノールと残酢酸メチルの合計が4質量%以下であるPVAを必須とする。ショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖と脂肪酸とのエステルである。ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、モンタン酸などの炭素数6?30程度の飽和脂肪酸、リンデン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、イソオレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸などの炭素数10?24程度の不飽和脂肪酸が挙げられ、これら脂肪酸は単独でも併用してもよい。その中でもショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸がラウリン酸であり、ラウリン酸成分としての割合が50質量%以上、更に好ましくは55質量%以上、特に好ましくは65質量%以上である。ラウリン酸成分としての割合が50質量%以上の場合、防曇効果にも優れる傾向が見られる。・・・・
【0009】
PVAはビニルアルコール単位からなるホモポリマー又はビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位からなるコポリマーでありビニルアルコール単位の含有量は50質量%以上である。
【0010】
PVAはケン化度、4%水溶液20℃における粘度は特に制限は無いが、ケン化度は好ましくは70質量%以上、更に好ましくは70質量%以上95質量%以下である。また、4%水溶液20℃における粘度は好ましくは4cps以上、更に好ましくは4cps以上60cps以下である。」
(オ)「【0012】
防曇剤中のショ糖脂肪酸エステルとPVAの割合はショ糖脂肪酸エステルが30質量%以上99質量%以下でPVAが1質量%以上70質量%以下である。好ましくはショ糖脂肪酸エステルが45質量%以上95質量%以下でPVAが5質量%以上55質量%以下、更に好ましくはショ糖脂肪酸エステルが60質量%以上80質量%以下でPVAが20質量%以上40質量%以下である。ショ糖脂肪酸エステルとPVAの併用割合が上記以外の場合は初期防曇効果又は防曇の持続性に劣る。」
(カ)「【0014】
スチレン系樹脂シートとは、スチレン系樹脂を成形加工して得た防曇剤で処理する前のシートである。スチレン系樹脂には、スチレン系単量体の単独重合体、スチレン系単量体の部分架橋重合体、スチレン系単量体の共重合体、スチレン系単量体に共重合可能な単量体を共重合して得た共重合体及びそれらの混合物が挙げられる。
【0015】
上記の(共)重合体に用いられるスチレン系単量体にはスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン等が挙げられ、また、スチレン系単量体と共重合可能な単量体としてはアクリル酸、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)等が挙げられる。
【0016】
これらスチレン系単量体の単独重合体又は、スチレン系単量体の共重合体としてはスチレンを重合して得られるGP(一般用)ポリスチレンが好ましい。また、スチレン系単量体に共重合可能な単量体を共重合して得た共重合体としては、メタクリル酸-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-メタクリル酸-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体が好ましい。」
(キ)「【0022】
防曇剤処理した本発明のスチレン系樹脂シート表面の防曇剤の固形分は好ましくは0.01?0.5g/m^(2)、更に好ましくは0.01?0.4g/m^(2)、特に好ましくは0.01?0.25g/m^(2)である。チレン系樹脂シートの防曇剤の固形分が0.01g/m^(2)より少ないと防曇効果に劣る傾向が見られ、また、0.5g/m^(2)より多いとシート表面の塗工ムラが目立ち易く、そのシートを成形した成形品の透明性が低下し易い。
【0023】
スチレン系樹脂シートも食料品の包装材或いは被覆材として使用する場合、このスチレン系透明樹脂シートを通して収納物が確認出来る透明性が必要である。好ましくはHazeが5%以下、更に好ましくはHazeが3%以下、特に好ましくはHazeが2%以下である。また、このスチレン系樹脂シートの厚みは特に限定されることはなく、一般に100μm?1mmである。このシートは成形して容器にも用いられる。
【0024】
本発明の成形品とはスチレン系樹脂シートを圧空成形、真空成形、真空圧空成形等を用いて成形された食料品を包装する蓋容器やフードパックである。」
(ク)「【0033】
実施例1
スチレン系樹脂シートに内部潤滑剤分は0.6質量%、スチレンオリゴマー分は0.7質量%を含有し、シート厚み0.4mmの2軸延伸GPポリスチレンシートを用いた。また、防曇剤としてはショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の70質量%がラウリン酸であるショ糖ラウリン酸エステルで、かつその40質量%水溶液を用い、PVAには残メタノールと残酢酸メチルの合計が3.0質量%であるPVAを用い、ショ糖ラウリン酸エステルとPVAを固形分割合で70質量%と30質量%になるように調整して得た。更にこの防曇剤を1.0質量%水溶液に希釈して、シート片方の面に防曇剤の固形分が0.05g/m^(2)に塗布したシートを得た。また、そのシートを用い、蓋容器(200mm長×120mm幅×50mm高さ)を成形した。なお、内部潤滑油は10mmHg減圧下における初溜温度が230℃である白色鉱油、ショ糖ラウリン酸エステルの40質量%水溶液に三菱化学フーズ社製ショートーシュガーエステルLWA1570、PVAはケン化度88%、4%水溶液の20℃における粘度が23cps品を用いた。表1に防曇剤の固形分の配合割合を質量%で示し、得られた物性も示した。」

イ 引用文献3には、上記記載事項(ア)によれば、「防曇剤」を、シートの少なくとも一方の面に塗布した「スチレン系樹脂シート」に関して記載されている。
また、引用文献3には、上記記載事項(ク)によれば、このシートには「2軸延伸GPポリスチレンシート」を用い、「防曇剤」には、「ショ糖ラウリン酸エステル」と「ケン化度88%、4%水溶液の20℃における粘度が23cps」である「PVA」を、「ショ糖ラウリン酸エステルとPVAを固形分割合で70質量%と30質量%になるように調整」したものを用いて、その「防曇剤」を、「シート片方の面に防曇剤の固形分が0.05g/m^(2)に塗布」して、「スチレン系樹脂シート」を得たことが記載されている。
そうすると、引用文献1には、以下の「引用発明」が記載されているものと認められる。
「防曇剤を、シートの少なくとも一方の面に塗布したスチレン系樹脂シートに関し、
このシートには2軸延伸GPポリスチレンシートを用い、防曇剤には、ショ糖ラウリン酸エステルとケン化度88%、4%水溶液の20℃における粘度が23cpsであるPVAを、ショ糖ラウリン酸エステルとPVAを固形分割合で70質量%と30質量%になるように調整したものを用いて、その防曇剤を、シート片方の面に防曇剤の固形分が0.05g/m^(2)に塗布して得た、スチレン系樹脂シート。」

ウ また、引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0002】
【従来の技術】スチレン系樹脂をベースとする二軸延伸シートは、成形性および透明性が高いため、食品容器のなどの種々の用途に利用されている。しかし、スチレン系樹脂は、耐熱性および耐油性が十分でない。また、スチレン系樹脂の二軸延伸シートを折り曲げ加工すると、折り曲げ部が白化する。そのため、折り曲げ加工により容器(例えば、箱など)を作製しても、外観および商品価値を損なう。」
(イ)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、機械的強度、耐衝撃性、耐熱性および耐油性の高いスチレン系樹脂シートおよびその製造方法、ならびに前記シートを用いた容器を提供することにある。」
(ウ)「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、AS樹脂を特定の条件で延伸処理すると、成形性や加工性を高めつつ、機械的特性、耐熱性、耐油性および透明性に優れたAS樹脂の特性を有効に発現できる二軸延伸シートが得られることを見いだし、本発明を完成した。」
(エ)「【0016】前記シアン化ビニル単量体と芳香族ビニル単量体との使用割合は、耐熱性および耐油性を向上でき、しかも折り曲げ部の白化を抑制できる範囲で選択でき、通常、5/95?35/65(重量比)、好ましくは10/90?35/65(重量比)、特に15/85?35/65(重量比)程度である。・・・・」
(オ)「【0025】スチレン系樹脂シートは、AS樹脂をベースとしているため、透明性も高く、例えば、JIS K 7105に準拠して測定したヘーズ値は、厚み180μmにおいて、20%以下(0?20%、例えば、0.3?20%)、好ましくは0.3?10%、さらに好ましくは0.3?5%、特に0.3?1.5%程度である。・・・」
(カ)「【0031】なお、前記スチレン系樹脂シートには、押し出しラミネート、又は接着剤(酢酸ビニル系接着剤,エチレン-酢酸ビニル系共重合体接着剤,ウレタン系接着剤など)を用いるドライラミネートなどによりフィルム(ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレンなど)を積層してもよい。さらに、スチレン系樹脂シートの表面には、表面改質剤、防曇剤、帯電防止剤、離型剤(エマルジョンなどの形態のポリシロキサンなど)などを塗布してもよい。」
(キ)「【0033】本発明のスチレン系樹脂シートは、種々の用途、例えば、種々の成形品、例えば、容器(トレー類、箱やボックスなど)の製造に利用できる。」
(ク)「【0034】
【発明の効果】本発明のスチレン系樹脂シートは、AS樹脂をベースとし、かつ二軸延伸されているので、機械的強度、耐衝撃性、耐熱性および耐油性が高い。また、透明性、成形加工性及び折り曲げ加工性に優れ、折り曲げ部の白化を防止できる。」
(ケ)「【0036】実施例1
スチレン-アクリロニトリル共重合体(ダイセル化学工業(株)製、品名;セビアンN 050、アクリロニトリル(AN)24重量%)を押出し機により、Tダイを用いてシート状に押出し、二軸延伸機で延伸温度125℃、延伸速度10%/秒で縦方向及び横方向にそれぞれ2倍に延伸して、厚さ180μmの二軸延伸シートを得た。
【0037】実施例2
スチレン-アクリロニトリル共重合体(ダイセル化学工業(株)製、品名;セビアンN 020SF、AN26重量%)を押出し機により、Tダイを用いてシート状に押出し、二軸延伸機で延伸温度125℃、延伸速度10%/秒にて縦方向及び横方向にそれぞれ2.5倍に延伸して、厚さ180μmの二軸延伸シートを得た。
【0038】実施例3
スチレン-アクリロニトリル共重合体(ダイセル化学工業(株)製、品名;セビアンN 080SF、AN30重量%)を押出し機により、Tダイを用いてシート状に押出し、二軸延伸機で延伸温度125℃、延伸速度35%/秒にて縦方向及び横方向にそれぞれ3倍に延伸して、厚さ180μmの二軸延伸シートを得た。」

(3)本願発明について
ア 本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「2軸延伸GPポリスチレンシート」は、2軸延伸されたスチレン系樹脂の層をなすものともいえるから、引用発明の「2軸延伸GPポリスチレンシート」と、本願発明の「アクリロニトリル及びスチレンをモノマー単位として含み、前記アクリロニトリル/前記スチレンの質量比が18/82?30/70である共重合体を含有する樹脂組成物を二軸延伸してなる二軸延伸樹脂層」とは、二軸延伸されたスチレン系樹脂層という限りで一致する。
また、引用発明の「防曇剤」は、シート片方の面に防曇剤の固形分が0.05g/m^(2)に塗布され、シート片方の面に固形分として残り被覆する「防曇剤」の層をなすから、本願発明の二軸延伸樹脂層の少なくとも一方の表面を被覆する「被覆層」に相当するものである。
そして、引用発明の「ショ糖ラウリン酸エステル」は、ショ糖脂肪酸エステルであり、引用発明の「ショ糖ラウリン酸エステルとケン化度88%、4%水溶液の20℃における粘度が23cpsであるPVAを、ショ糖ラウリン酸エステルとPVAを固形分割合で70質量%と30質量%になるように調整したもの」と、本願発明の「(A)ショ糖脂肪酸エステル、及び(B)ケン化度が85?95モル%、重合度が300?2000であるポリビニルアルコールを含有し、前記(A)ショ糖脂肪酸エステル/前記(B)ポリビニルアルコールの質量比が80/20?50/50である」こととは、ショ糖脂肪酸エステル、及びケン化度が85?95モル%であるポリビニルアルコールを含有し、ショ糖脂肪酸エステル/ポリビニルアルコールの質量比が80/20?50/50であることで一致する。
さらに、引用発明の、防曇剤を2軸延伸GPポリスチレンシートの少なくとも一方の面に塗布した「スチレン系樹脂シート」は、本願発明の「二軸延伸樹脂層」を「被覆層」により被覆した「二軸延伸シート」に相当するものといえる。

イ そうすると、本願発明と引用発明は、
「二軸延伸されたスチレン系樹脂層と、
この二軸延伸されたスチレン系樹脂層の少なくとも一方の表面を被覆する被覆層であって、ショ糖脂肪酸エステル、及びケン化度が85?95モル%であるポリビニルアルコールを含有し、ショ糖脂肪酸エステル/ポリビニルアルコールの質量比が80/20?50/50である被覆層と、を備える二軸延伸シート。」
であることで一致し、以下の点で相違する。

《相違点1》
ポリビニルアルコールについて、本願発明が「重合度が300?2000」のポリビニルアルコールと特定されているのに対し、引用発明は、4%水溶液の20℃における粘度が23cpsのポリビニルアルコールであるものの、重合度については特定されていない点。
《相違点2》
二軸延伸されたスチレン系樹脂層の材料について、本願発明が「アクリロニトリル及びスチレンをモノマー単位として含み、前記アクリロニトリル/前記スチレンの質量比が18/82?30/70である共重合体を含有する樹脂組成物」であるのに対し、引用発明は「ポリスチレン」である点。

ウ まず、上記相違点1について検討する。
本願発明のポリビニルアルコールについて、本願明細書には、重合度は、「外観(例えば成形時の外観、塗工外観)に優れる観点から、300?2000である。PVAの重合度は、好ましくは400?1700、より好ましくは400?1500、更に好ましくは400?1000である。重合度が上記の下限値以上であると、外観(例えば成形時の外観)の点で更に優れる。重合度が上記の上限値以下であると、外観(例えば塗工外観)の点で更に優れる。」(段落【0036】)と記載され、粘度は、「PVAを4%水溶液にしたときの該水溶液の20℃における粘度は、特に制限はないが、好ましくは4cps以上、より好ましくは4cps以上60cps以下である。」(段落【0037】)と記載されている。
一方、引用発明は、ポリビニルアルコールの重合度について特定されていないものの、4%水溶液20℃における粘度が23cpsと特定され、このポリビニルアルコールの粘度について、引用文献3(段落【0010】)には、「4%水溶液20℃における粘度は好ましくは4cps以上、更に好ましくは4cps以上60cps以下」と記載されており、この値は本願発明のものと同程度である。樹脂の分子量が大きくなると粘度も増す傾向があることは技術常識であり、同じポリビニルアルコールであれば、その重合度の大小は分子量の大小に連動するから、ポリビニルアルコールの粘度と重合度が相関することは明らかである。
そうすると、本願発明と同程度の粘度を示すことが好ましいとされている引用発明のポリビニルアルコールは、本願発明と同程度の重合度のものであるといえ、ポリビニルアルコールを、具体的に重合度300?2000のものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

エ 次に、上記相違点2について検討する。
(ア)引用文献3(上記記載事項(3)ア(カ))には、防曇剤を塗布するシートの材料として、引用発明のポリスチレンのほか、アクリロニトリル-スチレン共重合体等のスチレン系の共重合体を用い得ることが記載されている。
そして、引用発明の「スチレン系樹脂シート」は、「食料品を包装する蓋容器やフードパック」の成形品(引用文献3の上記記載事項(3)ア(キ))に用いられ、引用発明は、「成形品の透明性、初期防曇効果、防曇効果の持続性、成形品の打ち抜き性に優れたスチレン系樹脂シートとその成形品及びその製造方法を提供することを目的」(同じく上記記載事項(3)ア(ウ))としてなされたものである。また、食料品を包装する蓋容器やフードパックは、油を含む食料品や加熱された食料品を包むことも想定されることから、所定の耐油性及び耐熱性が必要であり、商品として流通させる以上、ある程度の機械的強度も求められることが明らかである。
(イ)この点、引用文献2には、「機械的特性、耐熱性、耐油性および透明性に優れたAS樹脂の特性を有効に発現できる二軸延伸シート」(段落【0008】)と記載され、そのような特性を有するスチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)からなるシートは、食品などの容器の製造に利用できる(段落【0002】、【0033】)とされている。
さらに、引用文献2の段落【0016】には、耐熱性および耐油性の向上のため、シアン化ビニル単量体(アクリロニトリル)と芳香族ビニル単量体(スチレン)との使用割合を、特に15/85?35/65(重量比)程度とすることが好ましいと記載され、実施例として、アクリロニトリルを、24重量%(実施例1)、26重量%(実施例2)、30重量%(実施例3)、それぞれ含むスチレン-アクリロニトリル共重合体からなる二軸延伸シートが記載されている。ここで、アクリロニトリル24重量%のスチレン-アクリロニトリル共重合体とは、アクリロニトリルとスチレンの含有割合が、24/76(重量比)を指すものと理解できる。
(ウ)引用文献3には、防曇剤を塗布するシートの材料として、引用発明のポリスチレンのほか、アクリロニトリル-スチレン共重合体等のスチレン系の共重合体を用い得ることが記載されているところ、引用発明の「スチレン系樹脂シート」を、食料品を包装する蓋容器やフードパックとして用いる上で求められる透明性や、機械的特性、耐熱性及び耐油性について、引用文献2には、スチレン-アクリロニトリル共重合体を用いてシートを構成したときに、優れた特性を持つことが記載されていることから、当該記載事項を引用発明に適用しようとする動機は十分にあり、この引用文献2の記載を踏まえ、引用発明の「スチレン系樹脂シート」のシートの材料として、アクリロニトリル-スチレン共重合体を採用することは、当業者にとって容易である。
その際、アクリロニトリル-スチレン共重合体中のアクリロニトリルとスチレンとの含有割合を具体的に設定するにあたり、引用文献2には、アクリロニトリルとスチレンとの含有割合について、好適なアクリロニトリルの含有割合の例として、アクリロニトリルを24重量%、26重量%、30重量%とすることが記載されているから、アクリロニトリル/スチレンの重量比の範囲を、18/82?30/70の範囲内である、24/76(重量比)、26/74(重量比)または30/70(重量比)に限定して設定することも、当業者にとって困難なこととはいえない。また、重量比と質量比は、同義である。
よって、引用発明の「スチレン系樹脂シート」のシートの材料として、アクリロニトリル及びスチレンをモノマー単位として含み、アクリロニトリル/スチレンの質量比が18/82?30/70である共重合体を含有する樹脂組成物を選択することは、当業者が容易に想到することができたものである。
(エ)請求人は、審判請求書(11頁16行?12頁5行)において、色相、耐油性及び耐熱性に優れるという本願発明の効果は、「熱板の汚れ性、成形品の透明性、初期防曇効果、防曇持続性、成形品の打ち抜き性に優れているので食料品の包装等に広く使用でき、非常に有用である。」という引用文献3に記載の発明の効果(引用文献3の段落[0007])とは異質な効果であり、この効果は、出願時の技術水準(例えば、原査定で指摘の引用文献2の段落[0016])から当業者が予測することできたものではない旨、主張する。
しかし、耐油性及び耐熱性に係る効果については、前記(イ)で述べたように、引用文献2の実施例の記載等に基づき、アクリロニトリルの含有割合を調整することにより、当業者であれば予測し得る効果である。
また、前記(ウ)で述べたように、引用文献2には、本願発明にアクリロニトリル/スチレンの質量比として特定される「18/82?30/70」の範囲内である、24/76、26/74または30/70に設定することが記載されており、アクリロニトリルの含有割合を調整することで得られる色相に係る効果についても、当業者にとって予測される範囲を超えた顕著なものとはいえない。

オ よって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)まとめ
以上のように、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-03-19 
結審通知日 2019-03-26 
審決日 2019-04-11 
出願番号 特願2015-82881(P2015-82881)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 團野 克也  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 井上 茂夫
門前 浩一
発明の名称 二軸延伸シート及び成形品  
代理人 吉住 和之  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 中塚 岳  
代理人 阿部 寛  

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