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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08G
管理番号 1352268
異議申立番号 異議2016-701074  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-22 
確定日 2018-12-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5923887号発明「ポリイミド、及びポリイミド前駆体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5923887号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし9〕について訂正することを認める。 特許第5923887号の請求項1ないし9に係る特許を取り消す。 
理由 第1 主な手続の経緯等

特許第5923887号(設定登録時の請求項の数は9。以下、「本件特許」という。)は、平成23年7月21日にされた特願2011-159837号の出願に係るものであって、平成28年4月28日に設定登録された。
本件特許に対して、平成28年11月22日に特許異議申立人川島克之(以下、「異議申立人01」という。)から、同年11月25日に特許異議申立人古川興輝(以下、「異議申立人02」という。)、特許異議申立人伊東多永子(以下、「異議申立人03」という。)及び特許異議申立人野村恒(以下、「異議申立人04」という。)から、それぞれ特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がなされた。
当合議体において、平成29年2月14日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、同年4月18日に訂正請求書及び意見書を提出したので、異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、同年5月23日に異議申立人02から、同年5月24日に異議申立人01及び異議申立人04から、同年5月24日(受入日:同月25日)に異議申立人03から、それぞれ意見書が提出された。
当合議体において、平成29年6月19日付けで取消理由(決定の予告)を通知したところ、特許権者は、同年8月25日に訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)及び意見書を提出したので、異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、同年10月6日(受入日:同月10日)に異議申立人03から、同年同月10日に異議申立人01及び異議申立人04から、同年同月同日(受入日:同月11日)に異議申立人02から、それぞれ意見書が提出されたものである。
なお、平成29年4月18日に提出した訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。



第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項(1)ないし(6)のとおりである。
なお、下線部は訂正個所であり、当合議体で付与した。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「(i)
前記ジアミン誘導体が、光透過率が90%以上である芳香環を有しないジアミン誘導体を含有し(但し、ジアミン誘導体の透過率は、純水もしくはN、N-ジメチルアセトアミドに10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの光透過率を表す。以下、同じ。)、」
とあるのを、
「(i)
光透過率が90%以上である芳香環を有しないジアミン誘導体(但し、ジアミン誘導体の透過率は、純水もしくはN、N-ジメチルアセトアミドに10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの光透過率を表す。以下、同じ。)、および」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に
「前記テトラカルボン酸誘導体が、光透過率が75%以上であるテトラカルボン酸誘導体を含有する(但し、テトラカルボン酸誘導体の透過率は、2規定水酸化ナトリウム溶液に10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの透過率を表す。以下、同じ。)、」
とあるのを、
「光透過率が80%以上であるテトラカルボン酸誘導体(但し、テトラカルボン酸誘導体の透過率は、2規定水酸化ナトリウム溶液に10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの透過率を表す。以下、同じ。)、」
に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に
「(ii)
前記ジアミン誘導体が、光透過率が80%以上である芳香環を有するジアミン誘導体を含有し、」
とあるのを、
「(ii)
光透過率が80%以上である芳香環を有するジアミン誘導体、および」
に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に
「前記テトラカルボン酸誘導体が、光透過率が75%以上である脂環式テトラカルボン酸誘導体(但し、ビシクロ[2,2,2]オクタンテトラカルボン酸二無水物を除く)を含有するか、」
とあるのを、
「光透過率が80%以上である脂環式テトラカルボン酸誘導体(但し、ビシクロ[2,2,2]オクタンテトラカルボン酸二無水物を除く)、」
に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に
「または光透過率が75%以上であって且つ3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、(1,1’:3’,1”-ターフェニル)-3,3”,4,4”-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物および4,4’-(1,4-フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸二無水物からなる群より選ばれる芳香族テトラカルボン酸誘導体を含有する」
とあるのを、
「または光透過率が80%以上であって且つ3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、(1,1’:3’,1”-ターフェニル)-3,3”,4,4”-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物および4,4’-(1,4-フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸二無水物からなる群より選ばれる芳香族テトラカルボン酸誘導体
を使用し、」
に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1に
「ことを特徴とするポリイミドの製造方法。」
とあるのを、
「 N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、およびジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる溶媒を使用し、
イミド化反応は、200℃?500℃の温度で実施する
ことを特徴とするポリイミドの製造方法。」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載の発明では、ジアミン誘導体として、「光透過率が90%以上である芳香環を有しないジアミン誘導体を含有し」と特定し、他のジアミン誘導体を併用する場合を包含していたのに対して、訂正後の請求項1に記載の発明では、「光透過率が90%以上である芳香環を有しないジアミン誘導体を使用し」と特定することにより、ジアミン誘導体として、光透過率が90%以上である芳香環を有しないジアミン誘導体のみを使用するものに限定し、他のジアミン誘導体を併用する場合を除外し、もって特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項1は、本件特許明細書の「ジアミン誘導体を構成するジアミン成分(1種または2種以上)の好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは100%が、上記の光透過率を満たす。」(段落【0026】)という記載に基づいて、100%の場合を規定したものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載の発明では、テトラカルボン酸誘導体として、「光透過率が75%以上であるテトラカルボン酸誘導体を含有する」と特定し、他のテトラカルボン酸誘導体を併用する場合を包含していたのに対して、訂正後の請求項1に記載の発明では、光透過率を「75%以上」から「80%以上」に減縮すると共に、「光透過率が80%以上であるテトラカルボン酸誘導体を使用し」と特定することにより、テトラカルボン酸誘導体として、光透過率が80%以上であるテトラカルボン酸誘導体のみを使用するものに限定し、他のテトラカルボン酸誘導体を併用する場合を除外し、もって特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項2は、本件特許明細書の「テトラカルボン酸誘導体が、光透過率が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上であるテトラカルボン酸誘導体(前述のとおり、テトラカルボン酸類及びそれらの誘導体を含む。)を含有する」(段落【0026】)という記載に基づくものであり、また、本件特許明細書の「テトラカルボン酸誘導体を構成するテトラカルボン酸成分(1種または2種以上)の好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは100%が、上記の光透過率を満たす。」(段落【0026】)という記載に基づいて、100%の場合を規定したものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項1に記載の発明では、ジアミン誘導体として、「光透過率が80%以上である芳香環を有するジアミン誘導体を含有し」と特定し、他のジアミン誘導体を併用する場合を包含していたのに対して、訂正後の請求項1に記載の発明では、「光透過率が80%以上である芳香環を有するジアミン誘導体を使用し」と特定することにより、ジアミン誘導体として、光透過率が80%以上である芳香環を有するジアミン誘導体のみを使用するものに限定し、他のジアミン誘導体を併用する場合を除外し、もって特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項3は、本件特許明細書の「ジアミン誘導体を構成するジアミン成分(1種または2種以上)の好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは100%が、上記の光透過率を満たす。」(段落【0026】)という記載に基づいて、100%の場合を規定したものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項1に記載の発明では、テトラカルボン酸誘導体として、「光透過率が75%以上である脂環式テトラカルボン酸誘導体(但し、ビシクロ[2,2,2]オクタンテトラカルボン酸二無水物を除く)を含有する」と特定し、他のテトラカルボン酸誘導体を併用する場合を包含していたのに対して、訂正後の請求項1に記載の発明では、光透過率を「75%以上」から「80%以上」に減縮すると共に、「光透過率が80%以上である脂環式テトラカルボン酸誘導体(但し、ビシクロ[2,2,2]オクタンテトラカルボン酸二無水物を除く)を使用し」と特定することにより、テトラカルボン酸誘導体として、光透過率が80%以上であるテトラカルボン酸誘導体のみを使用するものに限定し、他のテトラカルボン酸誘導体を併用する場合を除外し、もって特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項4は、本件特許明細書の「テトラカルボン酸誘導体が、光透過率が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上であるテトラカルボン酸誘導体(前述のとおり、テトラカルボン酸類及びそれらの誘導体を含む。)を含有する」(段落【0026】)という記載に基づくものであり、また、本件特許明細書の「テトラカルボン酸誘導体を構成するテトラカルボン酸成分(1種または2種以上)の好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは100%が、上記の光透過率を満たす。」(段落【0026】)という記載に基づいて、100%の場合を規定したものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項1に記載の発明では、テトラカルボン酸誘導体として、「光透過率が75%以上であって且つ3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、(1,1’:3’,1”-ターフェニル)-3,3”,4,4”-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物および4,4’-(1,4-フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸二無水物からなる群より選ばれる芳香族テトラカルボン酸誘導体を含有する」と特定し、他のテトラカルボン酸誘導体を併用する場合を包含していたのに対して、訂正後の請求項1に記載の発明では、光透過率を「75%以上」から「80%以上」に減縮すると共に、「光透過率が80%以上であって且つ3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、(1,1’:3’,1”-ターフェニル)-3,3”,4,4”-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物および4,4’-(1,4-フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸二無水物からなる群より選ばれる芳香族テトラカルボン酸誘導体を使用し」と特定することにより、テトラカルボン酸誘導体として、光透過率が80%以上であるテトラカルボン酸誘導体のみを使用するものに限定し、他のテトラカルボン酸誘導体を併用する場合を除外し、もって特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項5は、本件特許明細書の「テトラカルボン酸誘導体が、光透過率が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上であるテトラカルボン酸誘導体(前述のとおり、テトラカルボン酸類及びそれらの誘導体を含む。)を含有する」(段落【0026】)という記載に基づくものであり、また、本件特許明細書の「テトラカルボン酸誘導体を構成するテトラカルボン酸成分(1種または2種以上)の好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは100%が、上記の光透過率を満たす。」(段落【0026】)という記載に基づいて、100%の場合を規定したものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項1に記載の発明では、ジアミン誘導体とテトラカルボン酸誘導体を反応させてポリイミドを製造する際の溶媒及びイミド化反応温度について特に特定していなかったのに対して、訂正後の請求項1に記載の発明では、溶媒について「N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、およびジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる溶媒を使用し」と特定することにより、ポリイミドを製造する際の溶媒として、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、およびジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる溶媒を使用するものに限定すると共に、イミド化反応の温度について「200℃?500℃の温度で実施する」と特定することにより、イミド化反応を200℃?500℃の温度で実施するもののみに限定し、もって特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項6は、本件特許明細書の「前記製造方法で使用する有機溶媒は、具体的にはN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホオキシド等の非プロトン性溶媒が好ましいが、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体が溶解すれば問題はなく使用できるので、特にその構造には限定されない。N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが好ましく採用される。」(段落【0039】)及び「次いで得られたポリイミド前駆体フィルムを基材上で、もしくはポリイミド前駆体フィルムを基材上から剥離し、そのフィルムの端部を固定した状態で、真空中、窒素等の不活性ガス中、或いは空気中で、熱風もしくは赤外線を用い、200?500℃、より好ましくは250?450℃程度の温度で加熱イミド化することでポリイミドフィルム/基材積層体、もしくはポリイミドフィルムを製造することができる。」(段落【0049】)という記載に基づくものであり、また、本件特許明細書の「テトラカルボン酸誘導体を構成するテトラカルボン酸成分(1種または2種以上)の好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは100%が、上記の光透過率を満たす。」(段落【0026】)という記載に基づいて、100%の場合を規定したものである。
なお、当該訂正事項6により特定される溶媒のうち「N-エチル-2-ピロリドン」については、当該段落【0039】に明記はされていないものの、当該段落【0039】に「前記製造方法で使用する有機溶媒は、…原料モノマーと生成するポリイミド前駆体が溶解すれば問題はなく使用できるので、特にその構造には限定されない。N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド溶媒…などが好ましく採用される。」(下線は、当合議体による。)と記載されている一方で、測定に用いる溶媒についてではあるものの、本件特許明細書の段落【0033】に「ここで測定に用いる極性溶剤は、ポリイミド前駆体を溶解できる溶剤であれば、特に限定されないが、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン等のアミド溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが好ましく採用される。」(下線は、当合議体による。)と記載されていることから、これらの記載を併せて読めば、ポリイミド前駆体を溶解できる溶剤としてのアミド系溶媒の1種である「N-エチル-2-ピロリドン」についても、ポリイミドを製造する際の溶媒として本件特許明細書に記載されていたに等しいものということができる。
したがって、当該訂正事項6は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 一群の請求項について
請求項2ないし9は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1ないし6によって連動して訂正されるものである。
そして、訂正前の請求項2ないし9は、訂正前の請求項1を引用するものであり、訂正前の請求項1ないし9は一群の請求項である。
したがって、訂正事項1ないし6は一群の請求項ごとにされている。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項の規定並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、平成29年8月25日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし9〕について訂正することを認める。



第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認容されるので、本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明9」といい、総称して「本件発明」ともいう。)は、平成29年8月25日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ジアミン誘導体(ジアミン類及びそれらの誘導体を含む。以下同じ)とテトラカルボン酸誘導体(テトラカルボン酸類及びそれらの誘導体を含む。以下同じ)を反応させてポリイミドを製造する方法であって、
(i)
光透過率が90%以上である芳香環を有しないジアミン誘導体(但し、ジアミン誘導体の透過率は、純水もしくはN、N-ジメチルアセトアミドに10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの光透過率を表す。以下、同じ。)
、および
光透過率が80%以上であるテトラカルボン酸誘導体(但し、テトラカルボン酸誘導体の透過率は、2規定水酸化ナトリウム溶液に10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの透過率を表す。以下、同じ。)、
または
(ii)
光透過率が80%以上である芳香環を有するジアミン誘導体、および
光透過率が80%以上である脂環式テトラカルボン酸誘導体(但し、ビシクロ[2,2,2]オクタンテトラカルボン酸二無水物を除く)、または光透過率が80%以上であって且つ3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、(1,1’:3’,1”-ターフェニル)-3,3”,4,4”-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物および4,4’-(1,4-フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸二無水物からなる群より選ばれる芳香族テトラカルボン酸誘導体
を使用し、
N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、およびジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる溶媒を使用し、
イミド化反応は、200℃?500℃の温度で実施する
ことを特徴とするポリイミドの製造方法。
【請求項2】
ジアミン誘導体の波長400nm、光路長1cmの光透過率が95%以上であり、テトラカルボン酸誘導体の波長400nm、光路長1cmの光透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項3】
ジアミン誘導体が芳香環を有しないジアミン誘導体であるか、またはテトラカルボン酸誘導体が脂環式テトラカルボン酸誘導体(但し、ビシクロ[2,2,2]オクタンテトラカルボン酸二無水物を除く)であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項4】
テトラカルボン酸誘導体が芳香族テトラカルボン酸誘導体であり、ジアミン誘導体が脂肪族ジアミン誘導体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項5】
テトラカルボン酸誘導体が、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、(1,1’:3’,1”-ターフェニル)-3,3”,4,4”-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物および4,4’-(1,4-フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸二無水物からなる群より選ばれることを特徴とする請求項1、2又は4に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項6】
テトラカルボン酸誘導体がビフェニルテトラカルボン酸誘導体であることを特徴とする請求項1、2、4又は5に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項7】
ジアミン誘導体がトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサンであることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載のポリイミドの製造方法。
【請求項8】
膜厚10μmのフィルムにしたときの400nmにおけるポリイミドの光透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載のポリイミドの製造方法。
【請求項9】
前記ポリイミドが、光学材料用途であることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載のポリイミドの製造方法。」



第4 取消理由(決定の予告)の概要
平成29年6月19日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、以下1ないし3のとおりである。

1 本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
3 本件特許は、明細書の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。


刊行物1:日本ポリイミド・芳香族系高分子研究会編、「新訂 最新ポリイミド-基礎と応用-」、2010年8月25日株式会社エヌ・ティー・エス発行、i頁、102?113及び126頁
刊行物2:Qiu Jin et.al, ”Polyimides with Alicyclic Diamines.I.Syntheses and Thermal Properties”Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry,Vol.31(1993),p.2345-2351



第5 当合議体の判断
当合議体は、以下述べるように、本件訂正発明1ないし9は、取消理由(決定の予告)で通知した刊行物1又は2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものであり(取消理由1)、そして、本件訂正発明1ないし9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものであり(取消理由2)、また、本件訂正発明1ないし9に係る特許は、明細書の記載が同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(取消理由3)、と判断する。
以下において、異議申立人01が提出した特許異議申立書の中において挙げた証拠である甲第1号証を、「甲01-1」などといい、異議申立人02ないし異議申立人04が提出した特許異議申立書の中において挙げた証拠についても同様にいう。

1 特許法第29条第2項(進歩性)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。


刊行物1:日本ポリイミド・芳香族系高分子研究会編、「新訂 最新ポリイミド-基礎と応用-」、2010年8月25日株式会社エヌ・ティー・エス発行、i頁、102?113及び126頁
刊行物2:Qiu Jin et.al, ”Polyimides with Alicyclic Diamines.I.Syntheses and Thermal Properties”Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry,Vol.31(1993),p.2345-2351

(1)刊行物1の記載と刊行物1に記載された発明
刊行物1は、異議申立人02が提出した証拠である甲第1号証(甲02-1)である。
ア 甲02-1には、以下のとおりの記載がある。
(甲02-1ア)「ポリイミドが酸二無水物とジアミンとの反応により温和な条件で容易に合成することができる」(i頁4?5行)

(甲02-1イ)「1.はじめに
…また光エレクトロニクスの分野でPIを用いる場合には、光通信波長(近赤外域)での光透過性とともに、屈折率や複屈折の精密な制御が必須となる。本章では、PIの紫外?可視域での光透過性(光吸収)と蛍光発光をPIの電子構造、特に電荷移動(CT)遷移と局所励起(LE)遷移に基づいて説明し、また近赤外域での光透過性を赤外振動吸収に基づいて説明して、近年行われつつある高透明性や高屈折率を示すPIの分子設計と合成、物性評価について解説する。

2.ポリイミドの光透過性
2.1 ポリイミドの化学構造と光透過率
芳香族ポリイミド(PI)薄膜の可視域における光透過性は、PIの化学構造によって決まる分子内の電荷移動(CT)相互作用の強さと薄膜の作成条件(硬化温度、モノマー純度、溶媒の種類、熱処理の雰囲気等)に依存することが知られている。」(102頁左欄1行?右欄16行)

(甲02-1ウ)「脂環式構造を有する酸無水物またはジアミンを用いると高い光透過性を有するPIが得られることが知られており」(103頁左欄23行?右欄1行)

(甲02-1エ)「

」(103頁図2)

(甲02-1オ)「全芳香族<半芳香族<全脂環式PIの順に紫外?可視域の光透過性が増加する。」(105頁下から2?下から1行)

(甲02-1カ)「

」(106頁表1)

(甲02-1キ)「

」(107頁表2)

(甲02-1ク)「

」(108頁表2(続き))

(甲02-1ケ)「

」(109頁図9)

(甲02-1コ)「

」(110頁図10)

(甲02-1サ)「2.4 含フッ素酸無水物から合成されるPIの光透過性
…しかし、同じ含フッ素酸無水物である6FDAがPIの無色透明化に寄与することは良く知られており、6FDAから合成されるPIは高透明性PIの代名詞のようになっている。」(111頁左欄下から10?下から1行)

(甲02-1シ)「2.5 脂環式PIの電子構造と光学的性質
脂環式PIは紫外?可視域での高い光透過性から、液晶配向膜、光学レンズ、光導波路部品、眼内レンズ、航空宇宙部品など種々の応用が期待されている」(112頁左欄1?5行)

イ 甲02-1の(甲02-1ア)の摘示によれば、甲02-1には、次の発明(以下「甲02-1発明」という。)が記載されているといえる。

(甲02-1発明)
「酸二無水物とジアミンとを反応させてなるポリイミドの合成方法。」

(2)刊行物2の記載と刊行物2に記載された発明
刊行物2は、異議申立人02が提出した証拠である甲第4号証(甲02-4)である。
ア 甲02-4には、以下のとおりの記載がある。なお、翻訳は、当合議体が作成した。
(甲02-4ア)「脂環式ジアミンのポリイミド I.合成及び熱特性」(2345頁タイトル)

(甲02-4イ)「我々は、ポリイミドの主鎖に脂環式ジアミンを使用して分子間電荷移動錯体の形成を抑制し、透明性を改良し、誘電率を低くすることを試みた。…本論文では、シクロへキシル部分を使用してジアミンの芳香環を置き換え、ピロメリット、ベンゾフェノンテトラカルボキシル、又はビフェニルテトラカルボキシル部分を含有する新しい脂環式ポリイミドを製造した。」(2345頁右欄15行?2346頁左欄7行)

(甲02-4ウ)「材料
ポリアミック酸及びポリイミドを製造するために本研究で使用する酸二無水物及びジアミンを図1に示す。芳香族酸二無水物、例えばピロメリット酸二無水物(PMDA)、ビフェニルテトラカルボン二無水物(BPDA)及びベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)は、再結晶によって精製した。trans-及びcis-1,4-ジアミノシクロヘキサンの混合物(mix-1,4-CHDA、沸点181℃)を、使用前に減圧下で蒸留し、暗室に保存した。trans-1,4-ジアミノシクロヘキサン(trans-1,4-CHDA、沸点197℃)をmix-1,4-CHDAと同様な方法で蒸留し保存した。4,4’-ジアミノシクロヘキシルメタン(DCHM)は、立体異性体の混合物として市販され、trans-trans:trans-cis比が約65:35である。…そのtrans-trans異性体を、立体異性体の混合物からヘキサン溶液からの再結晶によって分離した。再結晶されたtrans-trans異性体は、trans-cis異性体=94:6の組成を有する。」(2346頁左欄17行?2346頁右欄15行)

(甲02-4エ)「ポリアミック酸の調製
窒素充填され機械的攪拌機が装着された、乾燥した100mLの3つ口丸底フラスコ中で、酸二無水物又は脂環式ジアミンを、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)又はN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)の様な非プロトン性溶媒に溶解した。この溶液に、DMF又はDMAc中の化学量論的な量の脂環式ジアミン又は酸二無水物を、窒素雰囲気下に氷冷浴中で攪拌下でシリンジにより滴下して加えた(図2)。この溶液が均質で粘稠になった時にポリアミック酸が調製される。脂環式ジアミンの付加重合反応は芳香族ジアミンのそれよりも多くの時間が掛かった。
当該ポリアミック酸溶液をガラス板上にキャストし、50℃に加熱し、乾燥し、そしてポリアミック酸フィルムをガラス板から剥がした。ポリアミック酸フィルムを、真空中、50℃12時間、100℃1時間、170℃1時間、200℃1時間、そして250℃1時間と段階的に加熱した。赤外分光計(Jasco Model IR-G)を用いて、2900cm^(-1)の-CH_(2)-バンドと比較して、1780cm^(-1)のイミド環バンドの赤外吸収の増加によって、イミド化の度合いを評価した。これらの条件下では、ほとんど全てのポリアミック酸がポリイミドに変化した。」(2346頁右欄16?41行)

イ 甲02-4の(甲02-4ア)及び(甲02-4イ)の摘示によれば、ポリイミドの主鎖に脂環式ジアミンを使用して透明性を改良することが記載されており、同じく(甲02-4ウ)の摘示によれば、酸二無水物としてBPDAが、ジアミンとしてtrans-1,4-CHDAがそれぞれ記載されており、BPDAは再結晶により精製したこと、trans-1,4-CHDAは蒸留・再結晶によって分離したことが記載されており、同じく(甲02-4エ)の摘示によれば、得られた酸二無水物及びジアミンを反応させて、ポリアミック酸を経て、その後加熱してポリイミドを製造しているから、これらの記載を総合すると、甲02-4には、当該ポリイミドの製造方法をもとにした次の発明(以下「甲02-4発明」という。)が記載されているといえる。

(甲02-4発明)
「酸二無水物として再結晶により精製されたBPDAとジアミンとして蒸留・再結晶されたtrans-1,4-CHDAとを、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)又はN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)である溶媒中で反応させ、
しかる後、得られたポリアミック酸フィルムを、真空中、50℃12時間、100℃1時間、170℃1時間、200℃1時間、そして250℃1時間と段階的に加熱してなる、透明性が改良されたポリイミドの製造方法。」

(3)他の証拠(周知技術を示す文献)の記載(下線は、当合議体による。)
ア 甲01-2(特開2007-80885号公報)には、以下のとおりの記載がある。
(甲01-2ア)「【請求項1】
(A)テトラカルボン酸二無水物と(B)ジアミンとをイミド化して得られるポリイミド、及び有機溶剤を含有する光半導体封止剤であって、該ポリイミドが、
(i)脂環構造を有するテトラカルボン酸二無水物が、(A)成分中の50モル%以上であるか、
(ii)脂環構造を有するジアミンが、(B)成分中の50モル%以上であるか、又は、
(iii)脂環構造を有するテトラカルボン酸二無水物が、(A)成分中の50モル%以上であり、且つ、脂環構造を有するジアミンが、(B)成分中の50モル%以上である、
ポリイミドであることを特徴とする光半導体封止剤。

光半導体封止樹脂の400nm光線透過率が、60?99.5%である請求項11?13のいずれかに記載の光半導体封止樹脂。」(請求項1?14)

(甲01-2イ)「本発明の目的は、白色発光ダイオードを初めとする光半導体用の封止材料として、近紫外領域から可視領域にかけて光吸収がなく、耐熱性を有し、且つ硬度に優れた封止剤、特に、表面実装型の光半導体を封止するのに適した上記物性を有する封止剤、該封止剤によって封止された光半導体、及びその製造方法を提供することを目的とする。」(段落【0005】)

(甲01-2ウ)「さらに、(A)成分に脂環式テトラカルボン酸二無水物を用い、且つ(B)成分に脂環式ジアミンを用いて得られる全脂環式ポリイミドは、特に透明性と耐黄変性に優れる点で好ましい。特に、(A)成分が、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物であり、且つ(B)成分が、4,4’-ジアミノシクロヘキシルメタン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン又は1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサンである全脂環式ポリイミドが好ましい。
イミド化反応の方法には、特に制限はなく、従来公知の方法に従って行うことができる。
例えば100℃未満の温度で、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを有機溶剤中で、重合させて、ポリアミド酸(ポリイミド前駆体)を調製した後、脱水閉環してポリイミドを調製する二段法や、ポリアミド酸を調製することなく、直接ポリイミドを合成する一段法などが例示される。これらの方法の中でも、色相が良好なポリイミドが得られる点で、二段法が推奨される。
以下に、二段法によるイミド化反応について説明する。二段法は上記の通り、ポリアミド酸への重合反応工程と、閉環イミド化工程と二つの工程からなる。まず、前者のポリアミド酸の重合反応工程について記載する。アルゴン、窒素等の不活性ガス気流下、ジアミンを有機溶剤に溶解した後、-10℃?100℃、好ましくは40?80℃の温度範囲で、テトラカルボン酸ニ無水物を徐々に添加する。又は、テトラカルボン酸二無水物を有機溶剤に溶解した後、ジアミンを徐々に添加してもよい。この際、高重合度のポリアミド酸が得られやすい点で、(A)テトラカルボン酸二無水物成分と、(B)ジアミン成分とのモル比は、(A)/(B)=0.7?1.3であることが好ましく、特に0.9?1.1の範囲が好ましい。又、本発明に係るポリイミドとエポキシ樹脂とを併用する場合には、得られる封止樹脂成形体の硬度に優れる点から、(A)/(B)=0.9?1.3の範囲が好ましく、特に1.0?1.2の範囲が好ましい。

有機溶剤としては、例えば、非プロトン系極性溶剤、フェノール系溶剤、グリコール系溶剤が挙げられる。非プロトン性極性溶剤の具体例としては、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタム、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のアミド系溶剤、γ-ブチロラクトン等のラクトン系溶剤、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、ヘキサメチルホスフィントリアミド、等の含リン系アミド系溶剤、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶剤、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶剤等が挙げられる。
フェノール系溶剤の具体例として、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール等が挙げられる。
グリコール系溶剤の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。
上記の有機溶剤の中でも、重合反応中に不溶塩の発生が少なく、高重合度のポリアミド酸が得られ易い点で、アミド系溶剤、ラクトン系溶剤が好ましく、特にN-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチルイミダゾリジン-2-オン、N,N-ジメチルアセトアミド、クレゾール、及びγ-ブチロラクトンが好ましい。」(段落【0041】?【0048】)

(甲01-2エ)「(f)400nm光線透過率
各実施例又は比較例で得られたフィルム1又は硬化物から、30mmx30mmの測定試料を切り出し、分光光度計(Shimadzu UV-2100、積分球使用)を用いて400nm光線透過率を測定した。また、空気中、150℃で24時間熱処理した後、再度測定した。」(段落【0096】)

イ 甲01-3(特開2009-191253号公報)には、以下のとおりの記載がある。
(甲01-3ア)「本発明は高透明性、十分な膜靭性、低誘電率及び高ガラス転移温度を併せ持つ、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜及び液晶ディスプレー(LCD)用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、半導体素子の層間絶縁膜及び保護膜、液晶配向膜、光導波路材料、特にディスプレー用基板、半導体素子の層間絶縁膜及び保護膜、液晶配向膜として有益なポリイミドとその前駆体のモノマーとなる新規の(1S,2S,4R,5R)-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、そのテトラカルボン酸、それらの製造方法、そのポリイミド前駆体、そのポリイミド及びそれらポリマーの用途に関するものである。
【背景技術】
1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸及びその二無水物は高耐熱、高透明性、低誘電率、高靭性ポリイミドの原料として有用な化合物である(例えば特許文献1参照)。」(段落【0001】?【0002】)

(甲01-3イ)「重合反応の際に使用される溶媒としてはN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホオキシド等の非プロトン性溶媒が好ましいが、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体が溶解し、且つモノマーと反応しなければ問題はなく特に限定されない。具体的に例示するならば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシド等が好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、o-クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、プチルセロソルブ、2-メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒等も添加して使用できる。」(段落【0081】)

(甲01-3ウ)「一例として、本発明に係るポリイミドのフィルムを製造する方法について述べる。ポリイミド前駆体の重合溶液(ワニス)をガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に流延し、オーブン等を用いて乾燥する。乾燥の温度は40?180℃が好ましく、より好ましくは50?150℃である。得られたポリイミド前駆体フィルムを基板上で、真空中、窒素等の不活性ガス中、又は空気中において、加熱することで本発明に係るポリイミドのフィルムを製造することができる。加熱温度はイミド化の閉環反応を十分に行なうという観点から200℃以上、生成したポリイミドフィルムの熱安定性の観点から400℃以下が好ましい。より好ましくは250?350℃である。またイミド化は、真空中又は不活性ガス中で行なうことが望ましいが、イミド化温度が高すぎなければ空気中で行なってもよい。」(段落【0089】)

(甲01-3エ)「〔実施例6〕
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中にp-フェニレンジアミン(以下「PDA」と称する)5mmolをNMPに溶解し、この溶液に実施例2で得たtt-CHTCAの粉末5mmolを徐々に加え、室温で72時間攪拌することで均一・透明で粘稠なポリイミド前駆体溶液が得られた。この際の溶質濃度は12.2重量%である。このポリイミド前駆体溶液は室温及び-20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、極めて高い溶液貯蔵安定を示した。NMP中、30℃で測定したポリイミド前駆体の固有粘度は1.60/gであり、高重合体であった。
このポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、80℃、2時間で温風乾燥して得たポリイミド前駆体膜を真空中200℃で20分、250℃で30分、続いて320℃又は350℃で1時間熱処理することでイミド化した。これにより膜厚約20μmの透明で強靭なポリイミド膜を得た。イミド化の完結は赤外吸収スペクトルから確認した。180°折り曲げ試験によりこのポリイミド膜は破断せず、可撓性を示した。表1にポリイミドフィルムの物性値を示す。ガラス転移温度407℃、カットオフ波長292nm、400nmでの透過率64.6%、破断伸び30.8%、複屈折Δn=0.0056、誘電率は2.82であり優れた特性を示した。」(段落【0152】?【0153】)

ウ 甲01-4(特開2006-188502号公報)には、以下のとおりの記載がある。
(甲01-4ア)「【請求項1】
投影面積円相当径が5?20μmの不溶性微粒体の含有量が1g当り3000個以下であり、かつ、アセトニトリルに4g/Lで溶解した溶液の光路長1cmにおける400nmの光線透過率が98.5%以上である高純度オキシジフタル酸無水物。

【請求項10】
請求項1?3および9のいずれか1項に記載の高純度オキシジフタル酸無水物とジアミンとを重合して得られるポリイミド。」(請求項1?10)

(甲01-4イ)「本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の方法によって精製したODPAを用いて製造したポリイミドは、その強度並びに透明性が向上することを見出し、更には、ポリイミドの強度の低下が特定の不純物に起因することを見出して本発明を達成した。」(段落【0006】)

(甲01-4ウ)「2.高純度ODPA
上記の処理により、投影面積円相当径が5?20μmの不溶性微粒体の含有量が1g当り3000個以下であり、かつ、アセトニトリルに溶解された濃度が4g/Lである溶液の光路長1cmにおける400nmの光線透過率が98.5%以上である高純度ODPAが得られる。更には、ハロゲン原子の全含有量を9μmol/g以下、窒素原子の含有量を14μmol/g以下、および/またはリン原子含有量を40μmol/g以下とすることができる。」(段落【0069】)

(甲01-4エ)「(2)光線透過率
アセトニトリルに4g/Lで溶解した溶液の、光路長1cmにおける400nmの光線透過率が98.5%以上、好ましくは98.7%以上、より好ましくは99.0%以上である。
高純度ODPAの透過率は、アセトニトリルに4g/Lとなるように溶解させたサンプルを、光路長1cmの石英セルで波長800-200nmにわたり紫外可視吸光光度計により室温、常圧下で測定される。ODPAの透過率は、不純物の含有量に関係がある。これら着色性不純物は400nm付近で大きな透過率の低下を起こし、ODPAとジアミン類との重合を阻害し、ポリイミドフィルムの強度を低下させ、フィルムの色調を悪化させる原因となる。」(段落【0072】)

(甲01-4オ)「以下にポリイミドの製造方法を示す。
窒素雰囲気下、循環水で25℃に保たれた500ccの反応器に、予め蒸留精製した4,4’-オキシジアニリン(0.0182mol、和歌山精化社製)3.638g及び脱水グレードのN,N-ジメチルアセトアミド(和光純薬社製、ポリマー濃度を15重量%とする)52.0gを入れ溶解させた。その後、実施例1で作成した高純度ODPA5.633g(0.0182mol)を約30分間にわたり粉末のまま分割投入した。その後6時間25℃で攪拌した。
得られるポリアミック酸溶液1.3063gを室温でN,N-ジメチルアセトアミドに希釈溶解させ、25ccに定容し、粘度測定サンプルとした。サンプル濃度Cは0.7?0.8g/dLに調製した。本サンプルのCは0.791g/dLである。本サンプルを30℃の恒温水槽に浸したウベローデ型粘度計(柴田科学社製、使用動粘度範囲2?10cSt)に入れて、10分以上静置したあと、標線間の流下時間Tを計測したところ、350秒であった。なお、溶媒であるN,N-ジメチルアセトアミドの流下時間Tsは90秒であった。対数粘度は次の式で計算した。対数粘度={ln(T/Ts)}/C
得られたポリアミック酸溶液を、クラス1000のクリーンボックス内で、ガラス板上に、ドクターナイフ(塗布厚254μm、幅50mm)で流延したのち、室温で12時間以上乾燥させた。ガラス板よりフィルムを剥離した後、アルミ板枠(0.5mm厚、外寸法110mm×70mm、開口部寸法70mm×30mm)にフィルムをクリップで固定し、内部を窒素置換した電気炉で、120℃で1時間、続いて250℃で1時間、続いて320℃で5分間加熱し、熱イミド化した。室温まで冷却した後、板枠開口部からフィルムを切り出した。フィルム厚は0.0019?0.0020mmであった。
このフィルムを23℃、湿度55%の環境に12時間以上静置した後、フィルムを幅10mmに切り出し試験片とした。この試験片を、引張り強度試験機((株)オリエンテック社製、テンシロンRTC-1210A型)を用いて破断強度を測定した(加重フルスケール:100N、試験速度:10mm/min、引張り部長さ20mm、温度23℃、湿度55%)。試験は6回実施し、その測定値を平均した。ポリアミック酸の透過率、対数粘度、ポリイミドフィルムの平均破断伸び、および平均破断応力の値を表1に示す。

」(段落【0102】?【0105】)

エ 甲03-2(国際公開2009/107429号)には、以下のとおりの記載がある。
(甲03-2ア)「[1] 下記化学式(I)
[化1]

[式(I)中、R _(1) 、R _(2) は、相互独立的に、-H、-(CF _(2) ) n -CF _(3) 、-O(CF _(2) ) n -CF_( 3) から選択される一種であって、少なくとも1つはフッ素を含有する基(nは0以上7以下の整数)である。]で示される含有フッ素芳香族ジアミン(a1)とトランス-1,4-シクロヘキシルジアミン(a2)とを含むジアミン成分(A)と、
脂肪族テトラカルボン酸二無水物(b1)と芳香族テトラカルボン酸二無水物(b2)とを含む酸二無水物成分(B)とを反応させて形成される構造を有するポリイミド前駆体を含有することを特徴とするポリイミド前駆体組成物。

[8] 請求項1又は7に記載のポリイミド前駆体組成物を用いて得られたポリイミドフィルムであって、膜厚10μm換算で400nmの光透過率が80%以上であり、熱膨張係数が100℃?200℃の範囲で20ppm/℃以下であり、ガラス転移温度が250℃以上であることを特徴とするポリイミドフィルム。」(請求項1?8)

(甲03-2イ)「本発明に用いられるジアミン成分(A)を構成する他の必須成分であるトランス-1,4-シクロヘキシルジアミン(a2)は、ポリイミドフィルムの透明性の向上だけでなく、ガラス転移温度の向上に効果がみられる。このトランス-1,4-シクロヘキシルジアミン(a2)は、ジアミン成分(A)の5モル%以上、望ましくは30モル%以上、さら
に望ましくは50モル%以上95モル%以下含んでいることが好ましい。トランス-1,4-シクロヘキシルジアミン(a2)は未精製品のままだとポリイミドフィルムの色が濃色になるので、必要に応じてn-ヘキサン等によって再結晶、精製することが好ましい。」(段落[0054])

(甲03-2ウ)「(溶媒成分(C))
本発明のポリイミド前駆体組成物に用いる溶媒成分(C)は、不活性溶媒であり、この溶媒成分(C)としては、成分(A)および(B)の単量体の全てを溶解する必要はないが、生成するポリイミド前駆体を溶解するものが好ましく、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-カプロラクトン、γ-バレロラクトン、ジメチルスルホキシド、1,4-ジオキサン、シクロヘキサノンなどが挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。
また、ポリイミド前駆体組成物を生成後、粘度を調整するために用いられる溶媒成分(C)としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルアセテート、プロピレングリコールモノエチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、トルエン、キシレン、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノールなどが挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。」(段落[0062]?[0063])

(甲03-2エ)「(成膜方法およびポリイミドフィルム)
本発明のポリイミド前駆体組成物は、加熱乾燥、脱水閉環してポリイミドを形成する。その加熱温度としては、通常100?400℃、好ましくは200?350℃、さらに好ましくは250?300℃の範囲を任意に選択することができる。
また、加熱時間は、通常、1分?6時間、好ましくは5分?2時間、さらに好ましくは15分?1時間とされる。
硬化雰囲気は、空気ガス、窒素ガス、酸素ガス、水素ガス、窒素/水素混合ガスが挙げられるが、硬化フィルムの表面の着色を抑えるためには、酸素濃度が少ない窒素ガス、窒素/水素混合ガスが好ましい。さらに好ましくは、酸素濃度が100ppm以下の窒素ガス、水素濃度が0.5%以下含む窒素/水素混合ガスが好ましい。」(段落[0072])

(甲03-2オ)「このポリイミドフィルムは、膜厚10μm換算で400nm地点の光透過率が80%以上であり、熱膨張係数が100℃?200℃の範囲で20ppm/℃以下であり、ガラス転移温度が250℃以上であり、TEモードでの屈折率とTMモードでの屈折率との差が0.05以下であるという各種フィルム特性を実現することができる。」(段落[0074])

(甲03-2カ)「このポリイミドフィルムは、上記優れたフィルム特性を実現できるので、寸法調整や必要に応じて表面処理等を施して、各種電子装置用の透明フレキシブルフィルムとして用いることができる。具体的には、このポリイミドフィルムは、電子ペーパーなどの電子ディスプレイ、有機EL表示装置、LED(発光ダイオード)照明装置、CMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサーなどの電子装置の電子装置に用いる透明フレキシブルフィルムとして用いることができる。
すなわち、本発明の透明フレキシブルフィルムは、電子ペーパーなどの電子ディスプレイ、有機EL表示装置などの電子表示装置の透明フレキシブル基板;LED照明装置、CMOSセンサーなどの保護膜として、用いることができる。」(段落[0075])

(甲03-2キ)「(実施例1)
0.5リットルのガラス製の4つ口フラスコを用い、30mL/分の流量で乾燥窒素を流しながら、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン((a1)成分)32.024g(0.1モル)と、再結晶済みのトランス-1,4-シクロへキシルジアミン((a2)成分)11.419 g(0.1モル)とに、N,N-ジメチルアセトアミド(溶媒成分(C))を310.49g加え、70℃に加熱させ溶解させた。
その後再結晶済みの3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物((b1)成分)30.631g(0.1モル)及び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物((b2)成分)29.421 g(0.1モル)をゆっくり加えた後、80℃で15分間攪拌した後、自然冷却して室温で60時間撹拌してポリスチレン換算分子量Mw133200のポリイミド前駆体を含む粘度130ポイズのポリイミド前駆体組成物(ワニス)Aを得た。なお、ポリスチレン換算分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法によった。
上記ワニスAを、表面が酸化シリコン層である直径6インチのシリコンウェハ上にスピンコートし、窒素雰囲気下、縦型拡散炉(光洋リンドバーグ社製、商品名「μTF」)で200℃で0.5時間、300℃で0.5時間加熱し、シリコンウェハ上に膜厚約15μmのポリイミドフィルムを得た。シリコンウェハ上のポリイミドフィルムは、0.49%フッ酸水溶液で酸化シリコン層をエッチングしてシリコンウェハから回収した。得られたポリイミドフィルムの膜厚10μmに換算した波長400nm地点の光透過率、熱膨張係数、ガラス転移温度、屈折率差は、下記の方法で測定し、(表1)に結果をまとめて示した。
光透過率は、日立製作所製の光透過率測定装置(商品名「U-3310」)を用いて測定した。」(段落[0077]?[0079])

(甲03-2ク)「[表1]

」(段落[0090]表1)

オ 甲03-4(特開2006-45198号公報)には、以下のとおりの記載がある。
(甲03-4ア)「【請求項1】
ビフェニルテトラカルボン酸を加熱処理してビフェニルテトラカルボン酸二無水物を製造するにあたり、前記加熱処理を、
1×10^(2)Pa?1.1×10^(5)Paの圧力下において、最高到達温度を210℃?250℃の範囲内とし、60℃から210℃まで昇温する時間の1/4以上で昇温速度を50℃/hrより大きくし、かつ150℃?250℃に0.5時間以上10時間以下保持することにより行う、
ことを特徴とするビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理に続いて昇華精製処理を行う、請求項1に記載のビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項3】
前記昇華精製処理を250℃以上で行う、請求項2に記載のビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項4】
前記昇華精製処理を行って得られたビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、2規定のNaOH水溶液に0.05g/mLの濃度に溶解して得られた溶液の波長400nmの光透過率が90%以上である、請求項2又は3に記載のビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項5】
前記昇華精製処理を行って得られたビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、2規定のNaOH水溶液に0.05g/mLの濃度に溶解して得られた溶液の波長400nmの光透過率が98%以上である、請求項2又は3に記載のビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造方法。

【請求項13】
2規定のNaOH水溶液に0.05g/mLの濃度に溶解して得られた溶液の波長400nmの光透過率が98%以上であることを特徴とする、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物。
【請求項14】
パラジウム含有量が0.2重量ppm以下である、請求項13に記載のビフェニルテトラカルボン酸二無水物。
【請求項15】
前記ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、ビフェニルテトラカルボン酸を加熱処理及び昇華精製処理して得られてなり、前記加熱処理は、1×10^(2)Pa?1.1×10^(5)Paの圧力下において、最高到達温度を210℃?250℃の範囲内とし、60℃から210℃まで昇温する時間の1/4以上で昇温速度を50℃/hrより大きくし、かつ150℃?250℃に0.5時間以上10時間以下保持することにより行われてなる、請求項13又は14に記載のビフェニルテトラカルボン酸二無水物。
【請求項16】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の製造方法により得られたビフェニルテトラカルボン酸二無水物又は請求項13乃至15のいずれか1項に記載のビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとを反応させることを特徴とする、ポリイミドの製造方法。
【請求項17】
前記ポリイミドは、厚さ11μmのフィルムとしたときの波長400nmの光透過率が20%以上である、請求項16に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項18】
請求項13乃至15のいずれか1項に記載のビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとを反応させて得られてなることを特徴とする、ポリイミド。
【請求項19】
厚さ11μmのフィルムとしたときの波長400nmの光透過率が20%以上である、請求項18に記載のポリイミド。」(請求項1?19)

(甲03-4イ)「[BPDA]
本発明において、BPDAは、前記昇華精製処理を経た後の状態で、2規定のNaOH水溶液に0.05g/mLの濃度に溶解して得られた溶液の、波長400nmの光透過率が90%以上のものが容易に得られ、ポリイミド製造原料として優れる。好ましくは光透過率が98%以上である。ポリイミドは高い耐熱性、低誘電率、高寸法安定性、高機械強度、耐薬品性等の優れた性質を有することから、マイクロエレクトロニクス関連分野で様々な用途に用いられており、液晶ディスプレイの配向膜、光導波路や光部品等の光学用途への適用も検討されている。しかしながら、ポリイミド製造時に高温に曝されること等から、従来、淡黄色系の着色が避けられず、光学用途への適用の阻害要因となっていた。
本発明者らの検討によれば、原料となるBPDAの着色がポリイミドの着色原因の一つであることが判った。すなわち、2規定のNaOH水溶液に0.05g/mLの濃度に溶解して得られた溶液の波長400nmの光透過率が90%以上であるBPDAを原料とすることで、ポリイミドの着色を抑制できるのである。好ましくは光透過率が98%以上のBPDAを用いる。」(段落【0042】?【0043】)

(甲03-4ウ)「ポリイミドは、一般的に、重合度が高いほど優れた耐熱性及び機械強度を示すが、発明者らの検討によれば、原料となるBPDAに高純度のものを使うと、重合度が高いポリイミドが得られることが判った。また、ポリイミド樹脂は高耐熱性、高寸法安定性等の特長から精密な電子回路基板用の部材として用いられることも多いため、原料となるBPDAにも、不純物、特に金属含有量の少ないものを用いることが望ましい。更に、原料となるBPDAに着色が少なく透明性が高いものを用いることで、淡黄色系の着色が少なく透明性に優れたポリイミドが得られることが判った。」(段落【0052】)

(甲03-4エ)「BPDAと反応させるジアミン成分は特に限定されないが、例えば、ジアミノジフェニルエーテル、p-フェニレンジアミン、ビスアミノフェノキシフェニルプロパン、o-トリジン等の公知の芳香族ジアミン成分が挙げられる。2種以上を併用してもよい。BPDAに対するジアミン成分の量は特に限定されないが、通常、BPDAとジアミン成分とを等モル前後で反応させる。なおジアミン成分も着色の少ないものを用いることが好ましい。」(段落【0055】)

(甲03-4オ)「BPDAとジアミン成分とは、有機溶媒中で反応させて、先ず、ポリアミック酸を製造する。使用される有機溶媒は特に限定されないが、通常、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等のジアミン成分を溶解し得るものが好適に用いられる。反応温度は通常、0?50℃である。また反応時間は通常、1?50時間程度である。
かくして得られたポリアミック酸溶液は、用途に応じて種々の方法でイミド化することができる。その方法は特に限定されないが、例えば、ポリアミック酸溶液をそのまま100?500℃で数分?1時間程度加熱脱水してイミド化する方法を用いうる。また、ポリアミック酸溶液をガラス板等の上に流延した後、100?500℃で数分?1時間程度加熱脱水してイミド化する方法も用いうる。
更に、ポリアミック酸溶液にトリエチルアミン、ピリジン、イソキノリン、N,N-ジメチルアミノピリジン等の第3級アミン等の脱水触媒及び無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸等の酸無水物等の脱水剤をイミド化触媒として添加混合した後、ガラス板等の上に流延し、通常、室温(20℃程度)?500℃で、通常、1時間?1昼夜加熱脱水してイミド化する方法も用いうる。
また、ポリアミック酸溶液を大量のアセトン、トルエン、メタノール、ベンゼン等のポリアミック酸に対する貧溶媒に投入して析出、濾別した粉末を100?500℃で1時間?一昼夜加熱乾燥させてイミド化する方法も用いうる。更に、ポリアミック酸溶液をトリエチルアミン、ピリジン、イソキノリン、N,N-ジメチルアミノピリジン等の第3級アミン等の脱水触媒及び無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸等の酸無水物等の脱水剤からなるイミド化触媒中またはそれらを含む有機溶媒中(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒等)で室温(20℃程度)?200℃で1時間?一昼夜加熱脱水してイミド化する方法も用いうる。」(段落【0056】?【0059】)

(甲03-4カ)「<光透過率>
BPDAの着色度の指標として、BPDAの溶液の光透過率を測定した。具体的には、先ず、2規定のNaOH水溶液に試料を0.05g/mLの濃度で溶解した溶液を調製した。次いで、内径10mmの石英セルを使用し、水を対照液とし、分光光度計(島津製作所製「UV-265FW型」)で波長400nmの光を用いて測定した。NaOHとしては試薬特級品を使用し、サンプル溶液の調製や対照液のための水は、蒸留水またはイオン交換樹脂処理水を使用した。」(段落【0061】)

(甲03-4キ)「[実施例7:ポリイミドフィルムの調製]
攪拌機及び加熱器を備えた500mL反応器に、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(以下、DDEと称する。)9.66g及びN-メチルピロリドン(以下、NMPと称する。)175.0gを仕込み均一溶液とした後、これに実施例3で得た昇華精製後のBPDA結晶14.20gを添加し、攪拌下、25℃の温度で24時間反応を行い、粘稠なポリアミック酸溶液を得た。得られた溶液をNMPにより希釈し、粘度が300ポイズの溶液としたのち、ガラス板上にキャスティングし、これを熱風乾燥機中で100℃から300℃まで段階的に加熱し厚さ11μmのポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの400nmにおける光透過率を分光光度計(島津製作所製「UV-265FW型」)を用いて測定したところ、30%であった。」(段落【0083】)

カ 甲04-1(特開2005-163012号公報)には、以下のとおりの記載がある。
(甲04-1ア)「【請求項1】
3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と一般式(1)
(省略)
で表されるトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン化合物から得られる一般式(2)
(省略)
で表される重合構造単位を有し、0.5dL/g以上の還元粘度を有するポリイミド前駆体。
【請求項2】
還元粘度が、2.0dL/g以上である請求項1に記載のポリイミド前駆体。
【請求項3】
R^(1)が、水素である請求項1又は2に記載のポリイミド前駆体。
【請求項4】
3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と一般式(1)で表されるトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン化合物とを有機溶媒中、重合反応させることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項5】
請求項1?3のいずれかに記載のポリイミド前駆体を、イミド閉環反応させることにより得られる一般式(3)
(省略)
で表されるポリイミド。
【請求項6】
ガラス転移温度が350℃以上である請求項5に記載のポリイミド。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のポリイミドを主たる構成成分とするポリイミドフィルム。
【請求項8】
請求項4に記載の製造方法において得られるポリイミド前駆体の有機溶媒溶液を支持体の上に流延塗布し、イミド閉環してなる請求項7に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項5又は6に記載のポリイミドを主たる基材とするフレキシブルフィルム液晶ディスプレー用基材。」(請求項1?9)

(甲04-1イ) 「本発明は、高透明性、高ガラス転移温度、低複屈折及び高靭性などの特性を兼ね備えたフレキシブルフィルム液晶ディスプレー用基材として有用なポリイミドを与えるポリイミド前駆体、及びポリイミドを提供することを目的とする。」(段落【0007】)

(甲04-1ウ) 「また、これらのトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン化合物は、得られるポリイミドフィルムが著しく着色する場合があるため必要に応じてn-ヘキサン等の溶媒を用いて着色油性分を分離後、再結晶・精製して使用することが好ましい。」(段落【0027】)

(甲04-1エ) 「ここでポリイミド前駆体の生成反応に用いられる有機溶媒としては、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の非プロトン性極性溶媒が挙げることができ、これらは単独で又は混合物として用いられる。溶媒は、ポリイミド前駆体を溶解するものであれば特に限定されない。
上記ポリイミド前駆体溶液は室温及び-20℃で1ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、極めて高い溶液貯蔵安定性を示す。
次に、ポリミド前駆体をイミド閉環反応する工程について説明する。ポリイミド前駆体がイミド閉環する際には、水が生成する。この生成した水は、ポリイミド前駆体を容易に加水分解し分子量低下を引き起こす。この水を系外に除去しながらイミド閉環する方法として、通常、100?400℃において0.5?24時間加熱する方法、又は無水酢酸等の脂肪族酸二無水物、及び必要に応じてトリエチルアミン、ピリジン、ピコリン等の3級アミンを加える化学的方法により一般式(3)で表されるポリイミドを得ることができる。得られたポリイミドのガラス転移温度としては、350℃以上が特に好ましい。」(段落【0033】?【0035】)

キ 甲04-3(「ポリイミド樹脂」株式会社技術情報協会、1991年2月25日発行)には、以下のとおりの記載がある。
(甲04-3ア) 「[5]無色透明ポリイミド
-芳香族ポリイミドの着色の要因と無色透明化-

1. 着色の要因
芳香族ポリイミドにおいて、光の吸収の原因となる発色団基としては以下のものが挙げられる。
(a)イミド環に2つあるカルボニル基
(b)イミド環に隣接するフェニル基
(c)ジアミン残基および酸二無水物残基に含まれる官能基
カルボニル基、フェニル基自体の最大吸収波長(λmax)は紫外領域であるが、芳香族ポリイミドを構成すると、上記の発色団基が複雑に作用して深色移動(赤シフト)を起こし、可視光領域において吸収を起こすことになる。この挙動の要因について以下にまとめた。…
1.1 分子骨格の効果
…これら官能基の構造により、芳香族ポリイミドの分子鎖方向の電子の流れやすさ、あるいは分子鎖間のCT錯体の形成しやすさが変わり、光の吸収に大きく影響を及ぼすことになるのである。
1.1.1 置換位置の効果

図2より、m-、m-置換の構造が最も光の透過率が良いことがわかる。…
このように、一般にジアミン残基としてはm-置換構造の方が着色を抑える効果が高いと言える。…
1.1.2 CT錯体の効果

ジアミン残基の電子供与性が強く、酸二無水物残基の電子吸引性が強い程、CT錯体の形成度合が大きくなり、光を吸収しやすくなる。…
以上のように、CT錯体の形成に関しては酸二無水物残基およびジアミン残基の電子供与性、吸引性が大きく関与しているが、CT錯体形成の難易にはさらに分子鎖の屈曲性も効いてくるためにある種の構造においては上述の結果と逆になることも考えられる。
1.1.3 分離基の効果
1.1.1においては、電子の流れを阻害し共役を緩和するために置換位置の効果を述べたが、同様な効果を得るものに分離基の存在がある。この分離基として最も有効なものとして「ヘキサフルオロプロピレン基(CF_(3)CCF_(3))が挙げられる。この分離基が酸二無水物残基および/またはジアミン残基に導入されると、図6に示したように光透過性が良好になる。これはフッ素原子の大きな電子陰性度により分子中の電子が大きく極在化しており、電子雲を分断して共役を破壊することにより光を吸収しにくくしているのである。
1.2 製造上の影響
芳香族ポリイミドの透明性は、上記の分子骨格の効果に加えて製造条件にも影響を受ける。
1.2.1 溶媒の影響
芳香族ポリイミドの透明性に関し、分子骨格と同等の効果を有するのがポリイミド合成時に使用する溶媒である。…図7より、同じ構造のポリイミドであっても光透過性に非常に大きな差が生じる。…
ポリイミド合成で一般的に用いられるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いた場合、極めて光透過率が悪く(着色大)なるが、これは加熱イミド化時にポリイミド中に微量残存したNMPが分解生成物に変化して着色の原因となることが知られている。
一方、このような分解物を生成しない場合でも、用いた溶媒により光透過性が異なるのは、溶媒の種類により生成するポリイミド分子鎖のパッキング状態が微妙に異なり、分子間相互作用(CT錯体の形成)が違ってくることに要因があると考えられる。

1.2.2 モノマーの純度
モノマーの純度も需要なファクターであり、見た目きれいな結晶をしていても僅かな不純物が光透過性を悪化する原因となる。図8には用いたジアミンの再結晶前後の光透過性について示したものである。活性炭を用いて再結晶した後のモノマーを用いた方が光透過性にやや優れている。光透過性では僅かな差ではあるが、着色の差としてはっきりと表れる。

1.2.3 イミド化条件
芳香族ポリイミドのイミド化にはイミド化剤を用いる化学イミド化と加熱イミド化がある。一般的には加熱イミド化が行われるが、その場合 300℃以上に加熱する必要があり、そのときの雰囲気として、空気中と窒素中では光透過性に差が認められる。透過曲線は省略するが、窒素雰囲気下で加熱イミド化したものの方が光透過性が若干良好な結果となる。…
1.3 まとめ
芳香族ポリイミドを透明化していくには、ポリイミドの光透過性を良くしていけばよく、そのためには光(可視光)を吸収する要因を排除すればよい。2.1では分子骨格に関してその要因の効果をまとめたが、実際には2.2の製造上の効果も含めてそれぞれの効果が複雑に影響し合うために、個々のポリイミドの透明性についてみれば矛盾する結果となる場合もある。
以下に、芳香族ポリイミドの透明化のために分子設計上並びに製造上の指針をまとめた。
(i)ジアミンは電子吸引性基を含み、且つm-置換構造のものを用いる。
(ii)酸二無水物は電子供与性基を含むものを用いる。
(iii)ジアミン、酸二無水物ともに分離基を有するものを用いる。
(iv)着色を起こさない溶媒を用いる。
(v)モノマーは充分に精製した純度の高いものを用いる。
(vi)イミド化法としては化学イミド化または不活性雰囲気下の加熱イミド化を行なう。」(103頁1行?110頁10行)

(4) 本件訂正発明1について
ア 甲02-1発明との対比
(ア) 本件訂正発明1と甲02-1発明とを対比する。
甲02-1発明における「酸二無水物」は、本件訂正発明1における「テトラカルボン酸誘導体」に、「ジアミン」は「ジアミン誘導体」に、各々一致するものであることは明らかである。
そうすると、本件訂正発明1と甲02-1発明とは、「ジアミン誘導体(ジアミン類及びそれらの誘導体を含む。以下同じ)とテトラカルボン酸誘導体(テトラカルボン酸類及びそれらの誘導体を含む。以下同じ)を反応させてポリイミドを製造する方法。」である点で一致し、次の相違点1-1ないし1-3で相違するものであると認められる。

相違点1-1:本件訂正発明1では、「(i)
光透過率が90%以上である芳香環を有しないジアミン誘導体(但し、ジアミン誘導体の透過率は、純水もしくはN、N-ジメチルアセトアミドに10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの光透過率を表す。以下、同じ。)
、および
光透過率が80%以上であるテトラカルボン酸誘導体(但し、テトラカルボン酸誘導体の透過率は、2規定水酸化ナトリウム溶液に10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの透過率を表す。以下、同じ。)、
または
(ii)
光透過率が80%以上である芳香環を有するジアミン誘導体、および
光透過率が80%以上である脂環式テトラカルボン酸誘導体(但し、ビシクロ[2,2,2]オクタンテトラカルボン酸二無水物を除く)、または光透過率が80%以上であって且つ3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、(1,1’:3’,1”-ターフェニル)-3,3”,4,4”-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物および4,4’-(1,4-フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸二無水物からなる群より選ばれる芳香族テトラカルボン酸誘導体
を使用し」と特定されているのに対し、甲02-1発明では特に特定されていない点。

相違点1-2:本件訂正発明1では、「N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、およびジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる溶媒を使用し」と特定されているのに対し、甲02-1発明では特に特定されていない点。

相違点1-3:本件訂正発明1では、「イミド化反応は、200℃?500℃の温度で実施する」と特定されているのに対し、甲02-1発明では特に特定されていない点。

(イ) 相違点1-1についての検討
a 甲02-1には、光エレクトロニクスの分野で光透過性が求められているとして、高透明性のポリイミドについて記載されており、斯かるポリイミドの可視域における光透過性がモノマー純度等に依存することも記載されている(摘示甲02-1イ)。
ここで、当該モノマー純度の純度とは、少なくとも可視域における光透過性に影響を与える不純物量に着目した純度のことを意味し、高透明性ポリイミドを得る観点からは、当該モノマー純度が高いとは、少なくとも可視域における光透過性に影響を与える不純物量が少ないモノマーのことを意味するものと解するのが自然である。このことは、甲04-3における「モノマーの純度も需要なファクターであり、見た目きれいな結晶をしていても僅かな不純物が光透過性を悪化する原因となる。…光透過性では僅かな差ではあるが、着色の差としてはっきりと表れる。」との記載(摘示(甲04-3ア))からも裏付けられるところである。
b そして、甲02-1には、脂環式構造を有する酸無水物またはジアミンを用いると高い光透過性を有するポリイミドが得られることも記載されており(摘示(甲02-1ウ))、光吸収スペクトルの図(摘示(甲02-1エ))と共に、全芳香族<半芳香族<全脂環式PIの順に紫外?可視域の光透過性が増加することも記載されており(摘示(甲02-1オ))、6FDAから合成されるポリイミドが高透明性ポリイミドの代名詞のようになっていることも記載されている(摘示(甲02-1サ))。また、甲02-1には、ポリイミドの原料モノマーである酸二無水物またはジアミンとして、表1、2及び図9、10に多数の化合物が記載されており(摘示(甲02-1カ?コ))、それらの中には、本件特許明細書の実施例で用いられているs-BPDA、6FDA、a-BPDA、SIDA、i-BPDA、CHAも記載されている。
c 一般に、可視光とは、波長域が約400?800nmのものであることは良く知られたことである。また、ポリイミドの透明性について、可視域における吸収スペクトルにより評価・判断することは周知慣用のことにすぎないものと認められる。実際のところ、摘示(甲02-1エ)からも、ポリイミドに関し透明性に影響を与えるのは可視光の短波長側(紫外部との境界部分)であることが理解され、摘示(甲02-1ウ)及び(甲02-1オ)の記載を併せて読めば、ポリイミドの透明性については、可視光の短波長側(紫外部との境界部分)、すなわち波長400nm付近の光透過率が重要であることが理解されるところである。
そして、ポリイミドが一般に溶剤に不溶であるという技術常識に鑑みれば、摘示(甲01-2ア、イ及びエ)、(甲01-3エ)、(甲03-2ア)、(甲03-2ウ)、(甲03-2キ)、(甲03-2ク)、(甲03-4ア)及び(甲03-4キ)からも、透明性に優れたポリイミドにおける透明性の指標として「フィルムとしたときの波長400nmの光透過率」を採用することは、周知のことにすぎないと認められる。
d そして、例えば、摘示(甲01-4イ)、(甲01-4エ)、(甲03-2イ)、(甲03-4イ)、(甲03-4ウ)及び(甲04-1ウ)にも示されるとおり、透明性に優れるポリイミドを製造するには、その原料モノマーである酸二無水物及びジアミンも共に透明性に優れたものを使用する必要があることは明らかであって、波長400nm付近の光透過率が高いポリイミドを製造するには、その原料モノマーである酸二無水物及びジアミンも共に同じく波長400nm付近の光透過率が高いものを使用する必要があることは当然に想起する事項にすぎない。
また、摘示(甲01-4ア)、(甲01-4ウ)、(甲01-4エ)、(甲03-4ア)、(甲03-4イ)及び(甲03-4カ)の記載から、透明性ポリイミドの原料において、透明度の指標として、「溶液の光路長10mmにおける波長400nmの光透過率」を採用することは、周知技術(以下、「周知透明度指標」という。)であると認められる。
e そうすると、甲02-1発明において、高い透明性を有するポリイミドを製造することの動機は十分に存在しているといえ、その際、原料モノマーである酸二無水物及びジアミンとして、甲02-1に記載されたものの中から、適宜選択し、(さらに蒸留や昇華といった周知慣用の手段によって精製することにより、)それらの純度が高いもの、すなわち少なくとも可視域における光透過性に影響を与える不純物量が少ないものを使用することは、当業者が当然に想起することであって、上記のとおり、当該純度(少なくとも可視域における光透過性に影響を与える不純物量)の指標としてポリイミドの透明度において重要であると理解され、また採用されてもいる「フィルムとしたときの波長400nmの光透過率」と全く同じ波長である波長400nmにおける指標である周知透明度指標を採用し、その透明度を測定する際の溶媒の種類や溶液の濃度を適宜設定することで、本件訂正発明1において特定する測定条件とする程度のことは、当業者であれば容易になし得ることであり、それによる効果も格別のものとはいえない。
f 特許権者は、平成29年8月25日に提出した意見書(4?9頁)において、(a)モノマーの光透過率はモノマーの純度で表せない(s-BPDA及びDACHを例として、DACHについて実験証明書(乙第1号証。以下、「乙1」という。)を提出)、(b)本発明により透明性とコストの両立が図れるのであり、その効果は極めて大きい、(c)甲02-1では、光透過性に対して影響の異なる不純物を区別して認識していたとする記載はないから、甲02-1では、モノマー化合物そのものの含有率を述べたと理解するよりない、(d)甲02-1の図2はポリイミドの吸収スペクトルであって、モノマーの吸収スペクトルではないから、モノマーにおける400nmの透過率の重要性を見出せない、(e)甲01-4及び甲03-4は、高い透明性のポリイミドを得るために指標としてモノマー溶液の400nm透過率を採用することは何ら開示しておらず、周知技術であるとはいえない、(f)ジアミン誘導体についてモノマー溶液の400nm透過率を指標として使用することを記載した文献は一切なく、ジアミン誘導体とテトラカルボン酸誘導体とは性質の全く異なる化合物であるので、両者を完全に同一視するのは根拠がない、と主張している。
しかしながら、以下に述べるとおり、これらの主張はいずれも採用できない。
上記(a)の点は、s-BPDAの例の場合には、純度99.9%が高純度かどうかはさておき、仮に、純度99.9%のs-BPDAを使用して製造したポリイミドの透明性が満足できないものであったとしたら、さらに精製したs-BPDAを使用して高透明性なポリイミドを製造してみようとすることは、極く自然なことであって、何ら困難なことではない。そして、当該精製したs-BPDAの指標として、モノマー溶液の400nm光透過率を用いる点については、上記d及びeのとおりである。また、DACHの例の場合には、乙1において、シグマ社の分析証明書における純度100.0%はGC(ガスクロ)分析によるものであって、気化しない成分は検出されないものであるから、斯かる純度100.0%との値をそのまま採用できるものではない。よって、乙1は採用できるものではなく、モノマー純度と溶液の光透過率に関連性がないとする特許権者の主張は採用できない(上記a参照。)。そもそも、仮にDACHの場合にモノマー純度と溶液の光透過率に関連性がないとしても、斯かる1例の結果をもってして、本件訂正発明1に包含されるあらゆるモノマー(ジアミン誘導体とテトラカルボン酸誘導体)について、モノマー純度と溶液の光透過率に関連性がないとまではいえない。
上記(b)の点は、透明性に優れたポリイミドを製造するためにモノマー溶液の400nm光透過率を指標とすることは、上記dでも述べたとおり、周知技術であると認められることにすぎず、その点に格別の意義があるとはいえないし、コストの点についても格別顕著なものであるともいえない。
上記(c)及び(d)の点は、上記aで述べたとおり、甲02-1における斯かる部分の記載は、高透明性のポリイミドについて述べていることが前提となっており、高透明性とは可視域における透明度が高いことを意味し、すなわち可視域における光透過性に影響を与える要因について種々述べていることに鑑みれば、甲02-1における当該モノマー純度の純度とは、少なくとも可視域における光透過性に影響を与える不純物量に着目した純度のことを意味し、当該モノマー純度が高いとは、少なくとも可視域における光透過性に影響を与える不純物量が少ないモノマーのことを意味するものと解するのが自然である。そして、当該不純物量を少なくすれば、得られるポリイミドの透明性が向上することは明らかである。
上記(e)の点は、確かに、甲01-4には、実施例においてポリイミドの光透過率について測定したことが記載されていないものの、ポリアミック酸の光線透過率(400nm)については測定しており、摘示(甲01-4イ)及び(甲01-4エ)の記載からみても、モノマー溶液の400nm光透過率が高い原料ODPAを使用することでポリイミドの透明性の向上がもたらされることが理解できるものである。また、確かに、甲03-4には、「内径10mmの石英セル」と記載されており、光路長との記載はないものの、当業者であれば、斯かる記載をもってして、光路長10mmのことを意味するものと理解するものである。そして、甲03-4には、「原料となるBPDAに着色が少なく透明性が高いものを用いることで、淡黄色系の着色が少なく透明性に優れたポリイミドが得られることが判った。」(段落【0052】)、「厚さ11μmのフィルムとしたときの波長400nmの光透過率が20%以上である」(請求項17)と記載されており、実施例7では得られたポリイミドフィルムの400nmにおける光透過率が30%であって、比較例2の7%よりも透明性に優れたものであることが記載されているのであるから、透明性に優れたポリイミドを得るための指標としてモノマー溶液の400nm透過率を採用することを開示しているといえるものである。
上記(f)の点は、確かに、ジアミンに関しては、モノマー溶液の400nm光透過率を透明度の指標とすることを明記する文献はないものの、上記dで述べたとおり、透明性に優れるポリイミドを製造するには、その原料モノマーである酸二無水物及びジアミンも共に透明性に優れたものを使用する必要があることは明らかであって、波長400nm付近の光透過率が高いポリイミドを製造するには、その原料モノマーである酸二無水物及びジアミンも共に波長400nm付近の光透過率が高いものを使用する必要があることも明らかである。そして、例えば、摘示(甲03-2イ)、(甲03-2キ)、(甲03-4オ)及び(甲04-1ウ)にも示されるとおり、透明性に優れるポリイミドを製造するに際し、酸二無水物のみならず、ジアミンについても少なくとも可視域における光透過性に影響を与える不純物量が出来るだけ少ないものを使用することが好ましいことも、当業者が当然に想起することにすぎない。そうすると、酸二無水物のみならず、ジアミンについても周知透明度指標を採用することに格別の困難性は見当たらない。

よって、相違点1-1に係る発明特定事項は当業者が想到容易である。

(ウ) 相違点1-2についての検討
a 甲02-1発明において、酸二無水物とジアミンとを反応させて、ポリイミドを合成するに際し、使用する溶媒に関して検討する。
摘示(甲01-2ウ)、(甲01-3イ及びエ)、(甲01-4オ)、(甲01-4ウ)、(甲03-2ウ及びキ)、(甲03-4オ及びキ)並びに(甲04-1エ)の記載から、酸二無水物とジアミンとを反応させて、ポリアミック酸を経てポリイミドを製造するに際し、使用する溶媒として、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトンなどの非プロトン性溶媒は周知のものであると認められる。
b そして、甲02-1には、酸二無水物とジアミンとを反応させるに際し、特に特定の溶媒を使用するなどといった記載もないから、甲02-1発明において、酸二無水物とジアミンとを反応させて、ポリイミドを合成するに際し、使用する溶媒として、斯かる周知の非プロトン性溶媒を採用する程度のことは、当業者であれば容易になし得ることであり、それによる効果も格別のものとはいえない。

よって、相違点1-2に係る発明特定事項は当業者が想到容易である。

(エ) 相違点1-3についての検討
a 甲02-1発明において、酸二無水物とジアミンとを反応させて、ポリイミドを合成するに際し、イミド化の温度に関して検討する。
摘示(甲01-3ウ及びエ)、(甲01-4オ)、(甲03-2エ及びキ)、(甲03-4オ及びキ)並びに(甲04-1エ)の記載から、酸二無水物とジアミンとを反応させて、ポリアミック酸を経てポリイミドを製造するに際し、イミド化の温度として、250?350℃程度の温度は周知のものであると認められる。
b そして、甲02-1には、酸二無水物とジアミンとを反応させるに際し、特に特定のイミド化の温度を採用するなどといった記載もないから、甲02-1発明において、酸二無水物とジアミンとを反応させて、ポリイミドを合成するに際し、イミド化の温度として、斯かる周知の温度である250?350℃程度の温度を採用する程度のことは、当業者であれば容易になし得ることであり、それによる効果も格別のものとはいえない。

よって、相違点1-3に係る発明特定事項は当業者が想到容易である。

(オ) 小括
したがって、本件訂正発明1は、甲02-1に記載された発明、甲02-1の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

イ 甲02-4発明との対比
(ア) 本件訂正発明1と甲02-4発明とを対比する。
甲02-4発明における「酸二無水物として再結晶により精製されたBPDA」は、本件訂正発明1における「テトラカルボン酸誘導体」に、「ジアミン」は「ジアミンとして蒸留・再結晶されたtrans-1,4-CHDA」に、各々一致するものであることは明らかである。
そして、甲02-4発明における「N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)又はN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)である溶媒」は、本件訂正発明1における「N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド…からなる群より選ばれる溶媒を使用し」に、「50℃12時間、100℃1時間、170℃1時間、200℃1時間、そして250℃1時間と段階的に加熱してなる」は「イミド化反応は、200℃?500℃の温度で実施する」に、各々一致するものであることも明らかである。
そうすると、本件訂正発明1と甲02-4発明とは、「ジアミン誘導体(ジアミン類及びそれらの誘導体を含む。以下同じ)とテトラカルボン酸誘導体(テトラカルボン酸類及びそれらの誘導体を含む。以下同じ)を反応させてポリイミドを製造する方法であって、
N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、およびジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる溶媒を使用し、
イミド化反応は、200℃?500℃の温度で実施する、
ポリイミドの製造方法。」の点で一致し、次の相違点4-1で相違するものであると認められる。

相違点4-1:本件訂正発明1では、「(i)
光透過率が90%以上である芳香環を有しないジアミン誘導体(但し、ジアミン誘導体の透過率は、純水もしくはN、N-ジメチルアセトアミドに10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの光透過率を表す。以下、同じ。)
、および
光透過率が80%以上であるテトラカルボン酸誘導体(但し、テトラカルボン酸誘導体の透過率は、2規定水酸化ナトリウム溶液に10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの透過率を表す。以下、同じ。)、
または
(ii)
光透過率が80%以上である芳香環を有するジアミン誘導体、および
光透過率が80%以上である脂環式テトラカルボン酸誘導体(但し、ビシクロ[2,2,2]オクタンテトラカルボン酸二無水物を除く)、または光透過率が80%以上であって且つ3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、(1,1’:3’,1”-ターフェニル)-3,3”,4,4”-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物および4,4’-(1,4-フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸二無水物からなる群より選ばれる芳香族テトラカルボン酸誘導体
を使用し」と特定されているのに対し、甲02-4発明では、酸二無水物としてのBPDAが再結晶により精製されたものであり、ジアミンとしてのtrans-1,4-CHDAが蒸留・再結晶されたものであると特定されている点。

(イ) 相違点4-1についての検討
a 甲02-4には、(甲02-4ア)及び(甲02-4イ)の摘示によれば、ポリイミドの主鎖に脂環式ジアミンを使用して透明性を改良することが記載されており、同じく(甲02-4ウ)の摘示によれば、酸二無水物としてBPDAが、ジアミンとしてtrans-1,4-CHDAがそれぞれ記載されており、BPDAは再結晶により精製したこと、trans-1,4-CHDAは蒸留・再結晶によって分離したことが記載されている。これらの記載に鑑みれば、甲02-4では、単に脂環式ジアミンを使用することのみならず、さらに当該脂環式ジアミンであるtrans-1,4-CHDAを蒸留・再結晶するとともに、併せて、酸二無水物であるBPDAを再結晶により精製することにより、高い透明性を有するポリイミドを製造していることからみて、さらに高い透明性を有するポリイミドを製造することの動機は十分に存在しているといえ、そうであれば、甲02-4発明において、原料モノマーである酸二無水物としてのBPDAとジアミンとしてのtrans-1,4-CHDAについて、蒸留や昇華・再結晶といった周知の手段によって精製することは、少なくとも可視域における光透過性に影響を与える不純物量に着目し、斯かる不純物量を少なくすることを意味するものと解するのが自然である。
そうすると、それらの原料モノマーの少なくとも可視域における光透過性に影響を与える不純物量を少なくするに際して、その不純物量の程度の指標として周知透明度指標を採用し、本件訂正発明1において特定する測定条件とする程度のことは、上記ア(イ)相違点1-1についての検討で述べたとおり、当業者であれば容易になし得ることであり、それによる効果も格別のものとはいえない。
b 特許権者は、平成29年8月25日に提出した意見書(9?10頁)において、上記ア(イ)fで主張したことに加えて、(g)甲02-4は、ポリイミドの透明性を改良するために、脂環式ジアミンを使用する文献であって、モノマーの純度を上げることでポリイミドの透明性を改良することを開示した文献ではない、(h)確かに、甲02-4では、PMDA及びBPDAを再結晶して精製したこと、CHDAを蒸留したことが記載されているものの、不純物の種類を区別して認識していたとする記載はない、(i)甲02-4は、原料のモノマーについては、純度が高ければ高い程よいという一般論に基づいて精製しているにとどまるものであり、決定における「可視域における光透過性に影響を与える不純物量を少なくすることを意味する」というのは、甲02-4の開示及び教唆を超えた解釈である、と主張している。
しかしながら、以下に述べるとおり、これらの主張はいずれも採用できない。
上記ア(イ)fで主張した(a)?(f)については、上記ア(イ)fで述べたとおりである。
上記(g)?(i)の点は、上記イ(イ)aで述べたとおり、甲02-4は、単に脂環式ジアミンを使用することを開示するに留まらず、さらに当該脂環式ジアミンであるtrans-1,4-CHDAを蒸留・再結晶するとともに、併せて、酸二無水物であるBPDAを再結晶により精製することにより、高い透明性を有するポリイミドを製造しているのであるから、特許権者が主張する、甲02-4は、モノマーの純度を上げることでポリイミドの透明性を改良することを開示した文献ではないとはいえない。そして、確かに、CHDAを蒸留するに際し、不純物の種類を区別していることは明記されていないものの、甲02-4は、高い透明性を有するポリイミドを製造することをその前提とするものであることに鑑みれば、原料モノマーに含まれる不純物としては、当然に少なくとも可視域における光透過性に影響を与える不純物量に着目することが自然である以上、斯かる不純物を意味すると解することも自然なことである。

よって、相違点4-1に係る発明特定事項は当業者が想到容易である。

(ウ) 小括
したがって、本件訂正発明1は、甲02-4に記載された発明、甲02-4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

ウ 本件訂正発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正発明1は、甲02-1又は甲02-4に記載された発明並びに甲02-1又は甲02-4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(5) 本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、「ジアミン誘導体の波長400nm、光路長1cmの光透過率が95%以上であり、テトラカルボン酸誘導体の波長400nm、光路長1cmの光透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドの製造方法。」と特定するものである。
そして、上記(4)ア(イ)及び(4)イ(イ)で述べたのと同様の理由により、原料モノマーである酸二無水物とジアミンとして、(さらに蒸留や昇華といった周知の手段によって精製することにより、)それらの少なくとも可視域における光透過性に影響を与える不純物量が少ないものを使用することは、当業者が当然に想起することであって、当該不純物量の指標を本件訂正発明2において特定する測定条件とする程度のことは、当業者であれば容易になし得ることであり、それによる効果も格別のものとはいえない。
したがって、本件訂正発明2は、本件訂正発明1と同様の理由により、甲02-1又は甲02-4に記載された発明並びに甲02-1又は甲02-4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(6) 本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、「ジアミン誘導体が芳香環を有しないジアミン誘導体であるか、またはテトラカルボン酸誘導体が脂環式テトラカルボン酸誘導体(但し、ビシクロ[2,2,2]オクタンテトラカルボン酸二無水物を除く)であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミドの製造方法。」と特定するものである。
そして、甲02-1及び甲02-4には、上記(4)ア(イ)及び(4)イ(イ)で述べたとおり、ジアミン誘導体が芳香環を有しないジアミン誘導体であるか、またはテトラカルボン酸誘導体が脂環式テトラカルボン酸誘導体(但し、ビシクロ[2,2,2]オクタンテトラカルボン酸二無水物を除く)であるものが記載されているから、本件訂正発明3と甲02-1又は甲02-4に記載された発明との対比において、新たな相違点はない。
したがって、本件訂正発明3は、本件訂正発明1と同様の理由により、甲02-1又は甲02-4に記載された発明並びに甲02-1又は甲02-4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(7) 本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、「テトラカルボン酸誘導体が芳香族テトラカルボン酸誘導体であり、ジアミン誘導体が脂肪族ジアミン誘導体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミドの製造方法。」と特定するものである。
そして、甲02-1及び甲02-4には、上記(4)ア(イ)及び(4)イ(イ)で述べたとおり、テトラカルボン酸誘導体が芳香族テトラカルボン酸誘導体であり、ジアミン誘導体が脂肪族ジアミン誘導体であるものが記載されているから、本件訂正発明4と甲02-1又は甲02-4に記載された発明との対比において、新たな相違点はない。
したがって、本件訂正発明4は、本件訂正発明1と同様の理由により、甲02-1又は甲02-4に記載された発明並びに甲02-1又は甲02-4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(8) 本件訂正発明5について
本件訂正発明5は、「テトラカルボン酸誘導体が、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、(1,1’:3’,1”-ターフェニル)-3,3”,4,4”-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物および4,4’-(1,4-フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸二無水物からなる群より選ばれることを特徴とする請求項1、2又は4に記載のポリイミドの製造方法。」と特定するものである。
そして、甲02-1及び甲02-4には、上記(4)ア(イ)及び(4)イ(イ)で述べたとおり、これらのテトラカルボン酸誘導体が記載されているから、本件訂正発明5と甲02-1又は甲02-4に記載された発明との対比において、新たな相違点はない。
したがって、本件訂正発明5は、本件訂正発明1と同様の理由により、甲02-1又は甲02-4に記載された発明並びに甲02-1又は甲02-4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(9) 本件訂正発明6について
本件訂正発明6は、「テトラカルボン酸誘導体がビフェニルテトラカルボン酸誘導体であることを特徴とする請求項1、2、4又は5に記載のポリイミドの製造方法。」と特定するものである。
そして、甲02-1及び甲02-4には、上記(4)ア(イ)及び(4)イ(イ)で述べたとおり、ビフェニルテトラカルボン酸誘導体が記載されているから、本件訂正発明6と甲02-1又は甲02-4に記載された発明との対比において、新たな相違点はない。
したがって、本件訂正発明6は、本件訂正発明1と同様の理由により、甲02-1又は甲02-4に記載された発明並びに甲02-1又は甲02-4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(10) 本件訂正発明7について
本件訂正発明7は、「ジアミン誘導体がトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサンであることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載のポリイミドの製造方法。」と特定するものである。
そして、甲02-1及び甲02-4には、上記(4)ア(イ)及び(4)イ(イ)で述べたとおり、トランス-1,4-ジアミノシクロヘキサンが記載されているから、本件訂正発明7と甲02-1又は甲02-4に記載された発明との対比において、新たな相違点はない。
したがって、本件訂正発明7は、本件訂正発明1と同様の理由により、甲02-1又は甲02-4に記載された発明並びに甲02-1又は甲02-4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(11) 本件訂正発明8について
本件訂正発明8は、「膜厚10μmのフィルムにしたときの400nmにおけるポリイミドの光透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載のポリイミドの製造方法。」と特定するものである。
高透明性のポリイミドの透明性の指標として、「ポリイミドフィルムの400nmにおける光透過率」を使用することは、上記(4)ア(イ)cで述べたとおり、周知の指標にすぎないと認められる(そもそも、「膜厚10μmのフィルムの400nmにおける光透過率が80%以上である」ことも、摘示(甲03-2ア?ク)に記載されている。)。
そうすると、甲02-1発明及び甲02-4発明において、高い透明性を有するポリイミドを製造することの動機は十分に存在しているといえ、その際、目標とする高透明性のポリイミドの透明性の指標として、上記した周知の指標を採用することは、当業者であれば容易になし得ることであり、そのフィルムの膜厚や光透過率の最低値を設定することは当業者が適宜なし得ることにすぎない。そして、それによる効果も格別のものとはいえない。
したがって、本件訂正発明8は、本件訂正発明1と同様の理由により、甲02-1又は甲02-4に記載された発明並びに甲02-1又は甲02-4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(12) 本件訂正発明9について
本件訂正発明9は、「前記ポリイミドが、光学材料用途であることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載のポリイミドの製造方法。」と特定するものである。
高透明性ポリイミドが、光学材料用途に用いられるものであることは、例えば、摘示(甲02-1シ)、(甲01-3ア)、(甲03-2カ)及び(甲04-1ア?イ)にも記載されているとおり、周知の事項にすぎない。
したがって、本件訂正発明9は、本件訂正発明1と同様の理由により、甲02-1又は甲02-4に記載された発明並びに甲02-1又は甲02-4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(13) まとめ
以上のとおり、本件訂正発明1ないし9は、甲02-1又は甲02-4に記載された発明並びに甲02-1又は甲02-4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号、「偏光フィルムの製造法」事件)。
そこで、本件訂正発明1ないし9に関して、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かを検討する。

(1) 本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1ないし9の課題として、本件特許明細書には、「本発明の目的は、フレキシブルディスプレイ用や、太陽電池用、タッチパネル用の透明基材に適した優れた透明性と高い機械強度、低熱線膨張係数を併せ持つポリイミド及びそのポリイミド前駆体を提供するであり、ジアミン、テトラカルボン酸二無水物の透過率を厳密に制御することで、従来のポリイミドの透明性を大幅に改良するに至った。」(段落【0009】)と記載されている。
そして、同じく本件特許明細書には、本件訂正発明1ないし9の効果として、「表2に示した結果から分かるとおり、本発明のポリイミドは、400nmにおける光透過率が80%以上であり、光学材料用途ポリイミドとして好適である。」(段落【0071】)とも記載されている。
また、本件特許明細書の実施例及び比較例(段落【0054】ないし【0070】)においては、以下のとおり記載されている。
「【実施例】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
以下の各例で使用した原材料は、次のとおりである。
トランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン:ZHEJIANG TAIZHOU QINGQUAN MEDICAL & CHEMICAL株式会社製 純度 99.1%(GC分析)
1,4-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)ベンゼン(BABB):三國製薬工業株式会社製 BABB
3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA):宇部興産株式会社製 純度99.9%(開環後した3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸のHPLC分析で求めた純度)、酸無水化率 99.8%、Na,K,Ca,Al,Cu,Si:それぞれ<0.1ppm、Fe:0.1ppm、Cl:<1ppm
2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a-BPDA):宇部興産株式会社製 純度99.6%(開環後した2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸のHPLC分析で求めた純度)、酸無水化率 99.5%、Na,K,Al,Cu,Si:それぞれ<0.1ppm、Ca,Fe:それぞれ0.1ppm、Cl:<1ppm
2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(i-BPDA):CHANGZHOU WEIJIA CHEMICAL株式会社製 純度 99.9%(開環後した2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸のHPLC分析で求めた純度)、酸無水化率 99%
4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピレン)ジフタル酸二無水物(6FDA):ダイキン工業株式会社製 純度99%
4,4’-(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物、(DPSDA):東レ・ファインケミカル株式会社製 純度99.8%(開環後した3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸のHPLC分析で求めた純度)、酸無水化率 99%
各溶剤:和光純薬株式会社製 特級、1級相当品もしくは、それらを精製したもの
2N 水酸化ナトリウム水溶液:東京化成株式会社製 水酸化ナトリウム水溶液
吸着剤:日本ノリット株式会社製 活性炭 Norit SX Plus BET法で求めた比表面積1100m^(2)/g
以下の各例において評価は次の方法で行った。
ジアミン粉末、テトラカルボン酸無水物粉末の評価
[光透過率]
所定量のジアミン粉末、テトラカルボン酸無水物粉末を測定溶剤に溶解し、10質量%溶液を得た。大塚電子製MCPD-300、光路長1cmの標準セルを用いて、測定溶剤をブランクとし、ジアミン粉末、テトラカルボン酸無水物粉末の400nmにおける光透過率を測定した。
ポリイミド前駆体の評価
[対数粘度]
0.5g/dLのポリイミド前駆体 N,N-ジメチルアセトアミド溶液を、ウベローデ粘度計を用いて、30℃で測定した。
[光透過率]
10質量%のポリイミド前駆体溶液となる様に、ポリイミド前駆体をN,N-ジメチルアセトアミドで希釈した。大塚電子製MCPD-300、光路長1cmの標準セルを用いて、N,N-ジメチルアセトアミドをブランクとし、10質量%のポリイミド前駆体溶液の400nmにおける光透過率を測定した。
ポリイミドの評価
[光透過率]
大塚電子製MCPD-300を用いて、膜厚約10μmのポリイミド膜の400nmにおける光透過率を測定した。
[弾性率、破断伸度]
ポリイミド膜をIEC450規格のダンベル形状に打ち抜いて試験片とし、ORIENTEC社製TENSILONを用いて、チャック間 30mm、引張速度 2mm/minで、初期の弾性率、破断伸度を測定した。
[熱膨張係数(CTE)]
ポリイミド膜を幅4mmの短冊状に切り取って試験片とし、島津製作所製TMA-50を用い、チャック間長15mm、荷重2g、昇温速度20℃/minで300℃まで昇温した。得られたTMA曲線から、50℃から200℃までの平均熱膨張係数を求めた。
〔参考例1〕 t-DACH粉末の精製
ガラス製昇華装置に未精製のトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン 10.0gを仕込み、1Torr以下に減圧した。トランス-1,4-ジアミノシクロヘキサンが接している壁下面の温度を50℃に加熱し、5℃に温調された対面した壁上面に昇華物を得た。収量は、8.2gであった。この方法で得られたトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン粉末の光透過率の結果を表1に示す。
〔参考例2〕 BABB粉末の精製
ガラス製容器にBABB 20.0g、N,N-ジメチルアセトアミド 140gを仕込み、60℃に加熱し溶解した。溶液に吸着剤(Norit SX Plus)0.20gを加え、2時間攪拌した。吸着剤をろ過で取り除き、純水を加え、5℃まで冷却し、析出物を回収した。さらに、得られた析出物 10.0gをガラス製昇華装置に仕込み、1Torr以下に減圧した。BABBが接している壁下面の温度を300?350℃に加熱し、25℃に温調された対面した壁上面に昇華物を得た。収量は、8.5gであった。この方法で得られたBABBの光透過率の結果を表1に示す。
〔参考例3〕 s-BPDA粉末の精製
ガラス製容器に未精製のs-BPDA 10.0g、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン 10.0gを仕込み、25℃で3時間、十分に攪拌した。溶液をろ別し、得られた固体を100℃ 2時間真空乾燥し、着色が低減されたs-BPDA粉末を得た。光透過率の結果を表1に示す。
〔参考例4〕 a-BPDA粉末の精製
ガラス製容器に未精製のa-BPDA 10.0g、溶媒としてアセトン 10.0gを仕込み、25℃で3時間、十分に攪拌した。溶液をろ別し、得られた固体を100℃ 2時間真空乾燥し、着色が低減されたa-BPDA 9.4gを得た。光透過率の結果を表1に示す。
〔参考例5〕 i-BPDA粉末の精製
ガラス製容器に未精製のi-BPDA 10.0g、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン 10.0gを仕込み、25℃で3時間、十分に攪拌した。溶液をろ別し、得られた固体を100℃ 2時間真空乾燥し、着色が低減されたi-BPDAを得た。光透過率の結果を表1に示す。
【表1】

〔実施例1〕
反応容器中に参考例1と同様の方法で精製したトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン(t-DACH) 1.40g(0.0122モル)を入れ、モレキュラーシーブを用いて脱水したN,N-ジメチルアセトアミド 28.4gに溶解した。この溶液を50℃に加熱し、参考例3と同様の方法で精製した3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA) 3.50g(0.0119モル)と、参考例4と同様の方法で精製したa-BPDA 0.09g(0.0003モル)とを徐々に加えた。50℃で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下120℃で1時間、150℃で30分、200℃で30分、350℃で5分 まで昇温して熱的にイミド化を行なって、無色透明なポリイミド/ガラス積層体を得た。次いで、得られた共重合ポリイミド/ガラス積層体を水に浸漬した後剥離し、膜厚が10μmのポリイミドフィルムを得た。このフィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
〔実施例2?6〕
表2に記載したジアミン成分、酸成分を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体溶液及び、ポリイミドフィルムを得た。特性を測定した結果を表2に示す。
〔比較例1?3〕
表2に記載したジアミン成分、酸成分を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体溶液及び、ポリイミドフィルムを得た。特性を測定した結果を表2に示す。
【表2】



イ これらの記載からすると、本件訂正発明1ないし9の課題である優れた透明性を持つポリイミドとは、膜厚約10μmのポリイミド膜の400nmにおける光透過率で80%以上であることを意味するものであると解される。
しかしながら、一般に、ポリイミドにおいて、透明性を改良するに際して、モノマーであるジアミン及び酸二無水物各々の純度(少なくとも可視域における光透過性に影響を与える不純物量)のみならず、それらの化学構造の違いやモノマーの組み合わせ、溶媒の違いあるいはイミド化(製膜)条件の違いによっても、得られるポリイミドの透明性が変化すること、そのため、透明性を持つポリイミドを具体的に製造するためには、(i)ジアミンは電子吸引性基を含み、且つm-置換構造のものを用いる、(ii)酸二無水物は電子供与性基を含むものを用いる、(iii)ジアミン、酸二無水物ともに分離基を有するものを用いる、(iv)N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの着色を起こす溶媒を使用せず、着色を起こさない溶媒を用いる、(v)モノマーは見た目きれいな結晶をしていても僅かな不純物が光透過性を悪化する原因となるので充分に精製した純度の高いものを用いる、(vi)イミド化法としては化学イミド化または不活性雰囲気下の加熱イミド化を行なう、ことが指針とされ、実際上はこれら複数の要因が複雑に影響し合うものであることは技術常識であるといえる(例えば、甲04-3アの摘示を参照のこと。)。
そうすると、膜厚約10μmのポリイミド膜の400nmにおける光透過率で80%以上であるという優れた透明性を持つポリイミドを製造するに際し、当該透明性に影響を与える要因が多数存在し、しかもそれらが複雑に影響し合っているという状況、特に、モノマー(ジアミン誘導体やテトラカルボン酸誘導体)自体の透明性のみならず、モノマーに含まれる官能基が複雑に作用した結果としてのポリイミドの分子鎖方向の電子の流れやすさや分子鎖間のCT錯体の形成しやすさの影響もポリイミドの光の吸収に大きく作用することが技術常識である(例えば、甲04-3アの摘示を参照のこと。)という状況において、上記した他の複数の要因が複雑に影響し合ったことの影響の結果として、製造されたポリイミドの光透過率が80%を下回る場合があると想定されるのであるから、当該高いレベルでの透明性を有するポリイミドを製造するためには、本件訂正発明1で特定する光透過率の条件を満たすジアミン誘導体やテトラカルボン酸誘導体を使用することに加えて、「N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、およびジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる溶媒を使用し」と種々の広範囲の溶媒を特定しつつ、「イミド化反応は、200℃?500℃の温度で実施する」とイミド化反応の温度を広範囲に特定するのみでは、ジアミン誘導体やテトラカルボン酸誘導体のモノマーの種類についても多岐に亘るものであって、上記した(i)?(iii)に該当しないものも包含するものであるし、溶媒の種類についても上記した(iv)で適当でないとされたN-メチル-2-ピロリドン等を包含するものであるし、加熱イミド化についても上記した(vi)で適当でないとされた空気中での加熱イミド化を包含するものであるし、そもそも、上記のとおり、透明性に優れたモノマー(ジアミン誘導体やテトラカルボン酸誘導体)を反応させて製造されたポリイミドが必ずしも透明性に優れたものとはいえないことからみれば、本件請求項1の記載は、本件訂正発明1の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているものである。

ウ 仮に、本件特許明細書の実施例において良好な結果が得られているとしても、それらはあくまでも、当該実施例における精製後のモノマーの特定の組み合わせ、すなわち、溶媒として「N,N-ジメチルアセトアミド」を使用し、「窒素雰囲気下120℃で1時間、150℃で30分、200℃で30分、350℃で5分まで昇温して熱的にイミド化を行った」と低温から段階的に特定温度及び時間の組み合わせで加熱しつつ温度を上昇させてなるただ1つの製造条件において実施した場合に限られるものといえ、斯かる良好な結果が、本件訂正発明1で特定する光透過率の条件を満たすあらゆるジアミン誘導体やテトラカルボン酸誘導体の選択の組み合わせ、溶媒の選択及びイミド化温度条件の選択の全ての組み合わせにおいてまでも達成されるものとはいえない。

エ 特許権者は、平成29年8月25日に提出した意見書(3頁)において、「化学構造については、(i)と(ii)に分けてジアミン誘導体とテトラカルボン酸誘導体の組み合わせが限定されており、ジアミン誘導体とテトラカルボン酸誘導体のそれぞれが規定の透過率を満たすものは、上記の優れた透明性を持つポリイミドを製造することが可能です。
一方、溶媒の違い、イミド化(製膜)条件については、どのようなジアミン誘導体とテトラカルボン酸誘導体の組み合わせを持ってきても、適切な溶媒とイミド化条件を選ばない場合は、ポリイミドの透過率が低下する可能性があります。そこで、本意見書と同日付けで提出する訂正請求書により、溶媒およびイミド化条件を限定しました。

以上のとおり、訂正後の発明1については、当業者であれば、本件明細書の開示と技術常識と当業者の通常の設計能力に基づいて、透明性の高いポリイミドを製造することができるものであるので、本件発明1は、明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であります。」と主張している。
しかしながら、以下に述べるとおり、この主張は採用できない。
上記イで述べたとおり、一般に、ポリイミドにおいて、透明性を改良するに際して、モノマーであるジアミン及び酸二無水物各々の純度(少なくとも可視域における光透過性に影響を与える不純物量)のみならず、それらの化学構造の違いやモノマーの組み合わせ、溶媒の違いあるいはイミド化(製膜)条件の違いによっても、得られるポリイミドの透明性が変化すること、そのため、具体的に透明性を持つポリイミドを製造するためには、(i)ジアミンは電子吸引性基を含み、且つm-置換構造のものを用いる、(ii)酸二無水物は電子供与性基を含むものを用いる、(iii)ジアミン、酸二無水物ともに分離基を有するものを用いる、(iv)N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの着色を起こさない溶媒を用いる、(v)モノマーは見た目きれいな結晶をしていても僅かな不純物が光透過性を悪化する原因となるので充分に精製した純度の高いものを用いる、(vi)イミド化法としては化学イミド化または不活性雰囲気下の加熱イミド化を行なう、ことが指針とされ、実際上はこれらの要因が複雑に影響し合うものであることは技術常識であるといえ、その影響の結果、製造されたポリイミドの光透過率が80%を下回る場合があると想定される。
そうすると、ジアミン誘導体とテトラカルボン酸誘導体との組み合わせ、溶媒の選択やイミド化反応の温度などの製造条件の組み合わせは、複雑に影響し合うことによって、得られるポリイミドの光透過率に影響を与える重要な要因であるということができるから、光透過率が80%という高いレベルでの透明性を有するポリイミドを製造するという本件訂正発明1における課題解決のためには、ジアミン誘導体とテトラカルボン酸誘導体としてそれぞれの光透過率が80(90)%以上であるものを使用すると特定し、種々の広範囲の溶媒を特定しつつ、イミド化反応の温度を広範囲に特定するのみでは、これらの要因は当業者の適宜設計できる程度のものであるとはいえない。

オ してみると、当業者が、本件特許に係る出願時の技術常識を参酌したとしても、優れた透明性を有する当該ポリイミドの製造方法として、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容から、請求項1に係る、ジアミン誘導体あるいはテトラカルボン酸誘導体の光透過率が特定範囲であるものを使用すること、特定の種類の溶媒を使用すること、及び特定の温度範囲でイミド化反応を行うこと以外に何ら特定していない全般の範囲にまで、本件訂正発明1の課題が解決できることを当業者が認識できるとはいえない。
したがって、本件出願時の技術常識に照らしても、本件請求項1の記載は、本件訂正発明1の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているものであるから、本件訂正発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということはできない。

(2) 本件訂正発明2ないし9について
本件訂正発明2ないし9は、直接的あるいは間接的に本件訂正発明1を引用してなるものであって、上記(1)で述べた点についてさらに特定するものでもない(本件訂正発明7はジアミン誘導体がトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサンであることを特定するものの、テトラカルボン酸誘導体について光透過率を特定するのみで、その構造について特に特定するものではない。)から、本件訂正発明1について述べたのと同じ理由によって、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということもできない。

(3) まとめ
以上のとおり、本件訂正発明1ないし9に関して、特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件に適合しない。
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件違反)
本件特許は、明細書の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用することができる程度の記載を要する。
そこで、本件訂正発明1ないし9に関して、明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かを検討する。

(1) 本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1においては、「 ジアミン誘導体(ジアミン類及びそれらの誘導体を含む。以下同じ)とテトラカルボン酸誘導体(テトラカルボン酸類及びそれらの誘導体を含む。以下同じ)を反応させてポリイミドを製造する方法であって、
(i)
光透過率が90%以上である芳香環を有しないジアミン誘導体(但し、ジアミン誘導体の透過率は、純水もしくはN、N-ジメチルアセトアミドに10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの光透過率を表す。以下、同じ。)
、および
光透過率が80%以上であるテトラカルボン酸誘導体(但し、テトラカルボン酸誘導体の透過率は、2規定水酸化ナトリウム溶液に10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの透過率を表す。以下、同じ。)、
または
(ii)
光透過率が80%以上である芳香環を有するジアミン誘導体、および
光透過率が80%以上である脂環式テトラカルボン酸誘導体(但し、ビシクロ[2,2,2]オクタンテトラカルボン酸二無水物を除く)、または光透過率が80%以上であって且つ3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、(1,1’:3’,1”-ターフェニル)-3,3”,4,4”-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物および4,4’-(1,4-フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸二無水物からなる群より選ばれる芳香族テトラカルボン酸誘導体
を使用し、
N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、およびジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる溶媒を使用し、
イミド化反応は、200℃?500℃の温度で実施する
ことを特徴とするポリイミドの製造方法。」と特定されている。

イ そして、本件訂正発明1の課題は、上記2(1)ア?イで述べたとおりのものであって、当該課題の優れた透明性を持つポリイミドとは、膜厚約10μmのポリイミド膜の400nmにおける光透過率で80%以上であることを意味するものであると解される。
しかしながら、上記2(1)イで述べたとおり、一般に、ポリイミドにおいて、透明性を改良するに際して、モノマーであるジアミン及び酸二無水物各々の純度(少なくとも可視域における光透過性に影響を与える不純物量)のみならず、それらの化学構造の違いやモノマーの組み合わせ、溶媒の違いあるいはイミド化(製膜)条件の違いによっても、得られるポリイミドの透明性が変化すること、そのため、透明性を持つポリイミドを具体的に製造するためには、(i)ジアミンは電子吸引性基を含み、且つm-置換構造のものを用いる、(ii)酸二無水物は電子供与性基を含むものを用いる、(iii)ジアミン、酸二無水物ともに分離基を有するものを用いる、(iv)N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの着色を起こさない溶媒を用いる、(v)モノマーは見た目きれいな結晶をしていても僅かな不純物が光透過性を悪化する原因となるので充分に精製した純度の高いものを用いる、(vi)イミド化法としては化学イミド化または不活性雰囲気下の加熱イミド化を行なう、ことが指針とされ、実際上はこれらの要因が複雑に影響し合うものであること、特に、モノマー(ジアミン誘導体やテトラカルボン酸誘導体)自体の透明性のみならず、モノマーに含まれる官能基が複雑に作用した結果としてのポリイミドの分子鎖方向の電子の流れやすさや分子鎖間のCT錯体の形成しやすさの影響もポリイミドの光の吸収に大きく作用することが技術常識であるといえる(例えば、甲04-3アの摘示を参照のこと。)。
そうすると、膜厚約10μmのポリイミド膜の400nmにおける光透過率で80%以上であるという優れた透明性を持つポリイミドを製造するに際し、ジアミン誘導体とテトラカルボン酸誘導体との組み合わせ、溶媒の選択やイミド化反応の温度などの製造条件の組み合わせは、複雑に影響し合うことによって、得られるポリイミドの光透過率に影響を与える重要な要因であるということができ、上記した他の複数の要因が複雑に影響し合ったことの影響の結果として、製造されたポリイミドの光透過率が80%を下回る場合があると想定され、特に、上記のとおり、透明性に優れたモノマー(ジアミン誘導体やテトラカルボン酸誘導体)を反応させて製造されたポリイミドが必ずしも透明性に優れたものとはいえないのであるから、当該高いレベルでの透明性を有するポリイミドを製造するためには、ポリイミドの光透過率に影響を与える各要因(原料モノマーの選択及びそれらの組み合わせ並びに製造条件)について、本件訂正発明1で特定する光透過率の条件を満たすジアミン誘導体やテトラカルボン酸誘導体を選択しかつ組み合わせることに加えて、列挙された広範囲の溶媒から最適なものを選択しつつ、イミド化反応の温度として200℃?500℃の中から最適な温度を選択するという、それらの条件等を変更した実験を逐次行い、得られるポリイミドの透明性について、膜厚約10μmのポリイミド膜の400nmにおける光透過率が80%以上であるかどうか逐一測定することを繰り返す必要がある。
してみると、斯かる高いレベルでの透明性を有するポリイミドを得るためには、たとえ当業者であっても過度の試行錯誤を要するものであるというべきである。

ウ 仮に、本件特許明細書の実施例において良好な結果が得られているとしても、それらはあくまでも、当該実施例における精製後のモノマーの特定の組み合わせ、すなわち、溶媒として「N,N-ジメチルアセトアミド」を使用し、「窒素雰囲気下120℃で1時間、150℃で30分、200℃で30分、350℃で5分まで昇温して熱的にイミド化を行った」と低温から段階的に特定温度及び時間の組み合わせで加熱しつつ温度を上昇させてなるただ1つの製造条件において実施した場合に限られるものといえ、斯かる良好な結果をもってして、本件訂正発明1で特定する光透過率の条件を満たすあらゆるジアミン誘導体やテトラカルボン酸誘導体を使用するものの組み合わせの全て、特定する溶媒の全て、及び特定するイミド化温度の全ての組み合わせにおいてまでも、実施例と同様に当業者が容易に実施可能なものであるとはいえない。

エ 特許権者は、平成29年8月25日に提出した意見書(4頁)において、「上記(4)で説明したとおり、本意見書と同日付けの訂正請求書により、溶媒およびイミド化条件を限定し、且つジアミン誘導体およびテトラカルボン酸誘導体それぞれが全体として所定の光透過率を有する旨を規定しましたので、訂正後の本件発明1は、当業者であれば過度の試行錯誤を要することなく実施できるものであります。」と主張している。
しかしながら、以下に述べるとおり、この主張は採用できない。
上記イで述べたとおり、一般に、ポリイミドにおいて、透明性を改良するに際して、モノマーであるジアミン及び酸二無水物各々の純度(少なくとも可視域における光透過性に影響を与える不純物量)のみならず、それらの化学構造の違いやモノマーの組み合わせ、溶媒の違いあるいはイミド化(製膜)条件の違いによっても、得られるポリイミドの透明性が変化すること、そのため、具体的に透明性を持つポリイミドを製造するためには、(i)ジアミンは電子吸引性基を含み、且つm-置換構造のものを用いる、(ii)酸二無水物は電子供与性基を含むものを用いる、(iii)ジアミン、酸二無水物ともに分離基を有するものを用いる、(iv)N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの着色を起こさない溶媒を用いる、(v)モノマーは見た目きれいな結晶をしていても僅かな不純物が光透過性を悪化する原因となるので充分に精製した純度の高いものを用いる、(vi)イミド化法としては化学イミド化または不活性雰囲気下の加熱イミド化を行なう、ことが指針とされ、実際上はこれらの要因が複雑に影響し合うものであることは技術常識であるといえる(例えば、甲04-3アの摘示を参照のこと。)。
そうすると、膜厚約10μmのポリイミド膜の400nmにおける光透過率で80%以上であるという優れた透明性を持つポリイミドを製造するに際し、ジアミン誘導体とテトラカルボン酸誘導体との組み合わせ、溶媒の選択やイミド化反応の温度などの製造条件の組み合わせは、複雑に影響し合うことによって、得られるポリイミドの光透過率に影響を与える重要な要因であるということができ、上記した他の複数の要因が複雑に影響し合ったことの影響の結果として、製造されたポリイミドの光透過率が80%を下回る場合があると想定されるのであるから、当該高いレベルでの透明性を有するポリイミドを製造するためには、ポリイミドの光透過率に影響を与える各要因(原料モノマーの選択及びそれらの組み合わせ並びに製造条件)について、本件訂正発明1で特定する光透過率の条件を満たすジアミン誘導体やテトラカルボン酸誘導体を選択しかつ組み合わせることに加えて、列挙された広範囲の溶媒から最適なものを選択しつつ、イミド化反応の温度として200℃?500℃の中から最適な温度を選択するという、それらの条件等を変更した実験を逐次行い、得られるポリイミドの透明性について、膜厚約10μmのポリイミド膜の400nmにおける光透過率が80%以上であるかどうか逐一測定することを繰り返す必要があり、たとえ当業者であっても過度の試行錯誤を要するものであるというべきである。
これらの要因は当業者が適宜設計することで解決できる程度のものであるとはいえない。

オ してみると、本件特許明細書の記載及び本件出願時における技術常識に基づいても、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明1を当業者が容易に実施することができる程度に記載されているとはいえない。

(2) 本件訂正発明2ないし9について
本件訂正発明2ないし9は、直接的あるいは間接的に本件訂正発明1を引用してなるものであるから、本件訂正発明1について述べたのと同じ理由によって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明2ないし9を当業者が容易に実施することができる程度に記載されているとはいえない。

(3) まとめ
以上のとおり、本件訂正発明1ないし9について、本件特許明細書の記載は、当業者が容易に発明をすることができる程度に記載されたものではない。
したがって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。



第6 むすび
以上のとおり、本件訂正発明1ないし9は、取消理由(決定の予告)で通知した刊行物1又は刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものであり、そして、本件特許は、特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものであり、また、本件特許は、明細書の記載が同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン誘導体(ジアミン類及びそれらの誘導体を含む。以下同じ)とテトラカルボン酸誘導体(テトラカルボン酸類及びそれらの誘導体を含む。以下同じ)を反応させてポリイミドを製造する方法であって、
(i)
光透過率が90%以上である芳香環を有しないジアミン誘導体(但し、ジアミン誘導体の透過率は、純水もしくはN、N-ジメチルアセトアミドに10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの光透過率を表す。以下、同じ。)、および
光透過率が80%以上であるテトラカルボン酸誘導体(但し、テトラカルボン酸誘導体の透過率は、2規定水酸化ナトリウム溶液に10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの透過率を表す。以下、同じ。)、
または
(ii)
光透過率が80%以上である芳香環を有するジアミン誘導体、および
光透過率が80%以上である脂環式テトラカルボン酸誘導体(但し、ビシクロ[2,2,2]オクタンテトラカルボン酸二無水物を除く)、または光透過率が80%以上であって且つ3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、(1,1’:3’,1”-ターフェニル)-3,3”,4,4”-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物および4,4’-(1,4-フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸二無水物からなる群より選ばれる芳香族テトラカルボン酸誘導体
を使用し、
N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、およびジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる溶媒を使用し、
イミド化反応は、200℃?500℃の温度で実施する
ことを特徴とするポリイミドの製造方法。
【請求項2】
ジアミン誘導体の波長400nm、光路長1cmの光透過率が95%以上であり、テトラカルボン酸誘導体の波長400nm、光路長1cmの光透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項3】
ジアミン誘導体が芳香環を有しないジアミン誘導体であるか、またはテトラカルボン酸誘導体が脂環式テトラカルボン酸誘導体(但し、ビシクロ[2,2,2]オクタンテトラカルボン酸二無水物を除く)であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項4】
テトラカルボン酸誘導体が芳香族テトラカルボン酸誘導体であり、ジアミン誘導体が脂肪族ジアミン誘導体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項5】
テトラカルボン酸誘導体が、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、(1,1’:3’,1”-ターフェニル)-3,3”,4,4”-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物および4,4’-(1,4-フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸二無水物からなる群より選ばれることを特徴とする請求項1、2又は4に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項6】
テトラカルボン酸誘導体がビフェニルテトラカルボン酸誘導体であることを特徴とする請求項1、2、4又は5に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項7】
ジアミン誘導体がトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサンであることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載のポリイミドの製造方法。
【請求項8】
膜厚10μmのフィルムにしたときの400nmにおけるポリイミドの光透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載のポリイミドの製造方法。
【請求項9】
前記ポリイミドが、光学材料用途であることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載のポリイミドの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-11-09 
出願番号 特願2011-159837(P2011-159837)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (C08G)
P 1 651・ 536- ZAA (C08G)
P 1 651・ 537- ZAA (C08G)
最終処分 取消  
前審関与審査官 海老原 えい子  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 守安 智
小野寺 務
登録日 2016-04-28 
登録番号 特許第5923887号(P5923887)
権利者 宇部興産株式会社
発明の名称 ポリイミド、及びポリイミド前駆体  
代理人 小野 暁子  
代理人 小野 暁子  
代理人 伊藤 克博  
代理人 伊藤 克博  

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