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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1352272
異議申立番号 異議2018-700671  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-13 
確定日 2019-04-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6279792号発明「ねり胡麻の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6279792号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。 特許第6279792号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6279792号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成29年5月31日(優先権主張:平成29年1月26日)に特許出願され、平成30年1月26日にその特許権の設定登録がされ、平成30年2月14日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成30年8月13日に特許異議申立人アクシス国際特許業務法人(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成30年10月18日付け取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年12月14日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、申立人から平成31年2月6日に意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。

特許請求の範囲の請求項1に「前記1次工程の条件は、加熱温度が120℃未満で」と記載されているのを、「前記1次工程の条件は、加熱温度が90℃以上120未満で」に訂正する。

2.本件訂正の適否
本件訂正は、請求項1の焙煎工程の1次工程の加熱温度を「120℃未満」から「90℃以上120未満」へとより狭い範囲に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件明細書の段落【0011】には、「・・・『加熱温度』は、焙煎を行う加熱装置における加熱装置内雰囲気温度である。」と記載され、本件明細書の段落【0036】には、「・・・焙煎工程として、下記表1に示す各条件で2段階焙煎を行った。各段階は加熱装置を用いて、表中の加熱装置内雰囲気温度(加熱温度)で同表中の時間加熱して行った。」と記載され、本件明細書の段落【0039】の【表1】には、「1次工程」の「加熱装置内雰囲気温度」として、実施例1,2,5が「90℃」、また実施例3,4が「100℃」と記載されている。
してみれば、本件訂正は上記各記載に基づくものであるから、新規事項を付加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。
また、請求項2は、請求項1を引用するものであるから、本件訂正は一群の請求項毎に請求されたものである。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1及び2に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された、以下のとおりのものである。
(以下、請求項1及び2に係る発明を、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」ともいう)。

「【請求項1】
胡麻を粉砕してペースト状にしてなるねり胡麻の製造方法であって、
原料となる胡麻に対する、水洗および脱水工程と、焙煎工程と、粉砕およびねり工程とを備えてなり、
前記焙煎工程は、加熱温度が異なる1次工程と2次工程の2段階の工程からなり、
前記1次工程の条件は、加熱温度が90℃以上120℃未満で、かつ、該1次工程後における胡麻処理物の全重量に対する水分量が4重量%未満であり、
前記2次工程の条件は、加熱温度が前記1次工程の加熱温度よりも高く、かつ、200℃未満であることを特徴とするねり胡麻の製造方法。
【請求項2】
前記水洗および脱水工程の前、または、前記水洗および脱水工程の後に、原料となる胡麻に対する脱皮工程を有し、
該脱皮工程は、摩擦力で胡麻の皮を剥く工程であることを特徴とする請求項1記載のねり胡麻の製造方法。」

2.取消理由の概要
訂正前の請求項1及び2に係る発明に対して、平成30年10月18日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

請求項1及び2に係る発明は、その優先日前に日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消されるべきものである。


甲第1号証:特公昭44-790号公報
甲第2号証:特公昭55-32353号公報
甲第3号証:特開2001-231478号公報
甲第4号証:特開2005-176807号公報
甲第5号証:特公昭58-53911号公報
甲第6号証:特公昭61-27034号公報
以下、甲第1号証ないし甲第6号証を、それぞれ「甲1」ないし「甲6」という。

3.甲号証の記載
(1)甲1の記載
甲1には、以下の事項が記載されている。
ア.「その製法は次のとおりである。白胡麻を水洗して乾燥したものを焙焼して、次に摩砕してバター状とした後、これの1に対して醤油(・・・)1.3?1.6、砂糖0.6?1.0の割合で混和し、93?97℃で30?50分間処理して乳化状態とすることを特徴とする胡麻から即席用調味料の製造法である。
その製造工程を詳述すると、最初白胡麻を水洗して砂その他の不純物を除去して乾燥する。乾燥は日乾、加熱乾燥いずれにてもよいが、常温日蔭乾燥等の低温乾燥が風味の点から良好である。乾燥した胡麻は炒り機にかけて炒る。胡麻を炒焼するのは胡麻独自の風味を発生させるためである。次いで、胡麻を摩砕してバター状としたものは醤油、砂糖を添加して加熱乳化する・・・」(1頁左欄下から15?1行)

イ.「次に本発明の実施例を述べると、先ず白胡麻を水洗して不純物を除去し、これを自然乾燥した後約11分間電気焙焼機に入れ、195℃で黄色となる程度に焙焼する。次に摺潰し機にて約200メッシュの粒子に至るまで摺潰しバター状にする。」(2頁左欄10?14行)

ウ.「特許請求の範囲
1 白胡麻を水洗して乾燥したものを焙焼して摩砕してバター状とした後、このバター状の白胡麻1に対して醤油(・・・)1.3?1.6、砂糖0.6?1.0の割合となるように混和し、これを93?97℃で30?50分間加熱処理することにより、前記バター状の白胡麻、醤油、砂糖を乳化状態とする即席用調味料の製造法。」(2頁右欄8?16行)

以上の記載からすると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「白胡麻を摩砕してバター状としたものの製造法であって、白胡麻を水洗して乾燥した後195℃で焙焼し、次に摺潰しバター状とする製造法。」

(2)甲2の記載
甲2には、以下の事項が記載されている。
ア.「特許請求の範囲
1 主原料たる胡麻を水洗脱皮して天日乾燥し、各粒子の大小により数組に分別して各別に均質焙焼し、之れを冷却して摺潰することにより油質クリーム状物となし、之れに澱粉を加え、更に天日乾燥して顆粒状に製成したものに副原料たる昆布の粉末状物を混合し、之れに適量の糖分を混和して錠型に賦型する全工程を特徴とする毛髪の栄養食品を製造する方法。」(1頁左欄18?26行)

イ.「本発明は主原料の胡麻約1kgを約30分間水洗して夾雑物を除去し、膨軟化した胡麻粒を特殊な攪拌機等により粒子の肉質部に損傷を起さないように外皮を剥離し、その酵素を破壊しない程度で天日乾燥し、次工程の焙焼を均質に行わせる為にその粒型の大小により略4種類に分け、各別に焙焼機に掛けて各粒の肉質部の蛋白質に悪影響を及ぼさないように高温に過ぎることなく、又低温でも長時間に過ぎることなく、時間と温度を調整して(例えば4,50分間で80℃?100℃が好ましい)淡黄色になる迄炊り上げ之等を混合して、冷却した後、練合せ機にて摺潰し之をメツシユ120の篩を通して濾した微粒子から成るクリーム状の練液となし、・・・」(1頁右欄23?36行)

(3)甲3の記載
甲3には、以下の事項が記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】殻から取出された薄皮付き落花生を50℃以上の水と接触させ薄皮を軟化させて除去し、得られた落花生を焙焼することを特徴とする煎り落花生の製造方法。
【請求項2】上記薄皮付き落花生の水との接触方法が、薄皮付き落花生を70℃から100℃の水に浸漬して行なうものであることを特徴とする請求項1に記載の煎り落花生の製造方法。
【請求項3】上記落花生の焙焼方法が、薄皮を除去した落花生を60℃?80℃の温度にて7分?8分間焙焼し、次に110℃?120℃の温度にて12分?13分間焙焼するものであることを特徴とする請求項1?2のいずれかに記載の煎り落花生の製造方法。」

イ.「【0014】<焙焼>上記のように脱皮された落花生は、次いで焙焼工程に移される。焙焼は、一工程でもよいが、均一に煎りあげるには複数回に分けて焙焼するのが望ましい。例えば、次のように二回に分けて焙焼を行なうのが、簡便で効率がよい。二回に分けて焙焼工程を行なう場合には、まず、第一焙焼工程では、100℃以下の温度、好ましくは60?80℃の温度で、5?10分間、好ましくは7?8分間、上記脱皮工程を経た落花生を焙焼する。このような温度で上記時間の第一焙焼工程を行なうことにより、個々の落花生の水分値を、生の落花生の水分量と同様の値、例えば7?9%に調整して、水分含量の均一化を図ることができる。これにより、品質が安定した煎り落花生が得られる。このような第一焙焼工程では、例えば、連続式煎り機が用いられる。
【0015】上記の第一焙焼工程を経て水分含量を均一にコントロールされた落花生を次の第二焙焼工程で煎りあげると、従来品の薄皮付き落花生、薄皮なしローストピー、および殻付き落花生と変わらない外形や色あいを有する落花生を製造することが可能となる。すなわちこの第二焙焼工程においては、上記第一焙焼工程を経た落花生(実)を、第一焙焼工程と比較してより高温に設定された煎り機で焙焼して落花生に煎りあげの風味食感を付与する。第二焙焼工程では、100?140℃、好ましくは110?120℃の温度で、10?18分間、好ましくは 12?13分間、落花生を焙焼する。この工程によって、煎り落花生は、その最終水分含有量が従来のローストピーと同様に、1.5?2.5%に仕上げられる。」

ウ.「【0019】
【実施例1】本発明に係る煎り落花生の製造法を以下のとおり実施した。すなわち、殻を除去した薄皮付き落花生から不良品など製造に不適なものを除外した後、90℃の熱湯に1分間浸漬した。次いでこれを取り出して水で常温、35?40℃まで冷却した。次に、この薄皮付き落花生を脱皮機に通してその薄皮を除去した。脱皮後の落花生には、破損はほとんど見られなかった。次いで、コンベア-上での搬送の間に薄皮のない落花生の表面を乾燥させた後、第一焙焼工程に移した。」

エ.「【0029】
【発明の効果】
・・・
(3)本発明においては、脱皮後に表面乾燥した後、焙焼工程を二段階で行い、このうち、第一焙焼工程では落花生の水分を生の落花生の水分量と同程度(7?9%)まで下げ、次いで上記したような第二焙焼工程を行なっているので、品質の安定及び食感の改善が可能となった。
・・・」

オ.「【0030】とくに本発明の好ましい態様においては、薄皮付き落花生を上述した温度の水と接触させることにより軟化した薄皮を除去した後、上記のように低温と高温に分けた2段階の焙焼工程を行なっているので、落花生の水分量が好都合よくコントロールされ、しかも複雑な工程や面倒な処理を含まないので、品質が均一に保持された煎り落花生が効率よく製造できるようになった。」

(4)甲4の記載
甲4には、以下の事項が記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
水相部の上に油相部が積載されてなる水相部と油相部が分離した分離型液体調味料であって、焙煎した粒状食材又はその粉砕物を、水相部と接触することなく油相部に充填してなる分離型液体調味料。」

イ.「【0011】
本発明の粒状食材にごまを用いる場合は、洗いごまを皮を剥かずに焙煎することが好ましい。皮を剥かないことにより、焙煎した後の特有な風味が得られる。
【0012】
ごまの焙煎の方法は、通常の方法で好ましい焙煎香が得られる程度に焙煎する。焙煎度合いは、焙煎した胡麻を摺った後に明度により判断する。この方法によれば、白ごまの洗い胡麻の場合は、明度がL=48?58程度であることが好ましい。明度の具体的な測定方法を以下に記載する。まず、焙煎ごま10g程度をごま摺り器(象印 CB-AA10)により、粗粉砕と細粉砕の中間で摺り、ガラス瓶(底が平らで直径5cm程度のもの)に入れる。直ちにガラス瓶の底部分5ヶ所について、場所を変えて、ハンディータイプの測色計(ミノルタ Color Readre CR-13 みそ用測色計)にて明度を測定する。その明度の平均値により焙煎度合いを判断する。
【0013】
本発明の食材に粒ごまを用いる場合は、粒ごまが油相の上部に浮きにくいよう以下の処理をすることが好ましい。その処理としては、粒ごまを焙煎前に乾熱乾燥、又は減圧乾燥等により脱水してから焙煎する手段、又は粒ごまを入れ、加圧・減圧する手段等が挙げられる。前者は粒ごま内部で焙煎時の水蒸発による気泡が入りにくくなり、後者は粒ごま内部に油が浸透し、いずれの場合も粒ごまが油相の上部に浮きにくい状態となり、これを使用する際に簡単に手振りするだけで、調味料全体に粒ごまが均一に分散しやすい状態になる。」

(5)甲5の記載
甲5には、以下の事項が記載されている。
ア.「特許請求の範囲
1 原料ごまを150℃?200℃で焙煎後、すり潰し、主としてこのすり潰したごまからなるペースト状物をつくり、このペースト状物をゼラチンで被覆することを特徴とするペースト状ごまカプセルの製造方法。」(1頁左欄15?20行)

イ.「まず原料のごまを精選し、夾雑物を除去したのち水洗する。この精選、水洗の工程は必須ではないが、製品の品質を高めるためには好ましいものである。次にこのごまを150?200℃、好ましくは160?180℃の温度で焙煎する。焙煎温度が150℃以下の場合はごまの香りが十分出ないし、200℃を越えると炭化が生じ風味が失なわれる。焙煎時間は温度によつて異なるが通常10分?20分間が好ましい。次に焙煎したいわゆる煎りごまをすり潰し、ペースト状にする。」(2頁左欄7?16行)

以上の記載からすると、甲5には次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ごまをすり潰しペースト状としたものの製造方法であって、原料ごまを水洗して、次にこのごまを150?200℃で焙煎し、次に焙煎したいわゆる煎りごまをすり潰し、ペースト状にする製造方法。」

(6)甲6の記載
甲6には、以下の事項が記載されている。
ア.「特許請求の範囲
1 焙煎した胡麻を高速カツターにてペースト状になるまでカツテイングし、次にペースト状に加工したごまを加えながら攬拌することにより乳状に調整し、次にこの乳状のごま液から遠心分離機等を利用して表皮や繊維質及びその他の不溶解固形物等を除去し、次に表皮等を除去したごま液を加熱殺菌して製品とするごま乳液の製造方法。」(1頁左欄1?8行)

イ.「先ず原料胡麻に混入している土砂および、夾雑物等の異物を除去したるのち、水洗浄、脱水等の工程を過て、120℃から150℃の焙煎とする。焙煎温度にてごま香味の変化を付けることができるが、試験の結果前記焙煎温度がごま乳液製造の適温であり、良好の香味が得られる。」(1頁右欄12?17行)

4.判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア.甲1発明を主引用発明とする場合について
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「白胡麻」は本件発明1の「胡麻」に相当し、本件発明1の胡麻を「ペースト状」にすることと、甲1発明の白胡麻を「バター状」にすることは技術的に同義と認められる。また、本件発明1の「粉砕」は摩砕機で行われている(【0030】)から、甲1発明の「白胡麻を摩砕してバター状としたものの製造法」は、本件発明1の「胡麻を粉砕してペースト状にしてなるねり胡麻の製造方法」に相当する。
また、甲1発明の「摩砕」は、摺潰し機による摺潰で行われており(上記3.(1)ア.イ.参照。)、摺潰し機による摺潰は作用上「ねり」を伴うことは自明であるから、当該「摩砕」は、本件発明1の「粉砕およびねり」にあたる。
さらに、本件明細書の段落【0026】には、「1次工程(S21)は、仕上げ焙煎工程となる2次工程(S22)の前に、胡麻処理物中におけるある程度の水分を除去する工程である。すなわち、仕上げ焙煎前の乾燥工程ともいえる。」との記載があるから、甲1発明の「乾燥」及び「焙焼」は、それぞれ本件発明1の「焙煎工程」の「1次工程」及び「2次工程」に相当し、甲1発明の「焙焼」は195℃で行われているから、甲1発明においても「2次工程(焙焼)の条件は、加熱温度が200℃未満である」ものと認められる。
よって、本件発明1と甲1発明は、次の一致点及び相違点を有するものと認められる。

【一致点】
胡麻を粉砕してペースト状にしてなるねり胡麻の製造方法であって、
原料となる胡麻に対する、水洗工程と、焙煎工程と、粉砕およびねり工程とを備えてなり、
前記焙煎工程は、1次工程と2次工程の2段階の工程からなり、
前記2次工程の条件は、加熱温度が200℃未満であるねり胡麻の製造方法。

【相違点】
相違点1:
本件発明1は、水洗及び脱水工程を備えているのに対して、甲1発明は水洗するものの、脱水工程を備えていない点
相違点2:
本件発明1は、1次工程の条件は、加熱温度が90℃以上120℃未満で、かつ、該1次工程後における胡麻処理物の全重量に対する水分量が4重量%未満であるのに対して、甲1発明は、乾燥温度及び乾燥後の白胡麻の水分量の具体的な値が不明である点
相違点3:
本件発明1は、1次工程と2次工程の加熱温度が異なり、2次工程の条件は、加熱温度が1次工程の加熱温度よりも高いのに対して、甲1発明では乾燥温度の具体的な値が不明であり、195℃の焙焼が乾燥温度よりも高いか否か不明である点

事案に鑑み、先ず相違点2について検討する。
むきごまの水分量が4.1重量%である(食品成分分析表(文部科学省)参照。)ことからすれば、加熱乾燥後のゴマの水分量は通常それ以下になるものと認められ、乾燥(1次)工程後の胡麻処理物の水分量は4重量%未満である可能性はある。
しかし、甲1には、乾燥の例示として日乾と加熱乾燥を掲げ、常温日蔭乾燥等の低温乾燥が風味の点から良好としている(1頁左欄下から15?1行参照。)から、乾燥は低温加熱を意図しているものと認められ、乾燥温度を90℃以上120℃未満とすることは想定していない。
これに対し、本件明細書によれば本件発明1は、添加剤などを別途添加することなしに、所定期間静置後においても固形分と油分とが分離しにくい難分離性であり、必要に応じて風味の低下も防止したねり胡麻およびその製造方法を提供することを目的とし(【0009】)、当該目的を達成するため、従来のねり胡麻は、脱水後に湿った状態や水分が多く含まれる状態で高温に曝されるため、内部で水蒸気爆発が起きやすいと推測し、この水蒸気によりタンパク質が変性・凝集することで、分離しやすくなるとの考えのもと、2段階の焙煎工程とすることで、難分離性を実現しているのであり(【0029】)、そのための具体的な加熱温度として、1次工程の加熱温度には90℃以上120℃未満の範囲の加熱温度を採用しているものである(【0036】?【0049】)。
他方、甲1発明は、ねり胡麻の難分離性を目的としたものではなく、乾燥温度についても、上記のとおり風味の観点から低温乾燥が良好であるとするものであるから、甲1発明において乾燥温度を90℃以上とすることは当業者が容易に想到することができたとはいえない。
甲2及び甲4においても、胡麻の焙煎工程前に乾燥工程を備える点が記載されているが、いずれも甲1同様、乾燥工程の加熱温度を具体的に90℃以上120℃未満にする旨の記載はなく、また、ねり胡麻の難分離性の実現を意図したものではないから、甲2及び甲4の記載に照らしても、相違点2に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到することができたとはいえない。
甲3には、第1焙煎工程(本件発明1の1次工程に相当。)で100℃以下の温度で焙煎する旨の記載があるが、甲3は、落花生の焙煎を意図したものであり、ねり胡麻の難分離性の実現を意図したものではないから、甲3の記載に照らしても、相違点2に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到することができたとはいえない。

この点に関し、申立人は平成31年2月6日付け意見書(以下、「意見書」という。)において、加熱乾燥温度を高くすれば、乾燥時間が短縮できることは技術常識であるから、風味より時間短縮などを目的として加熱乾燥温度を90℃以上とすることは、甲第1号証の記載から当業者が必要に応じて適宜なし得ることであると主張している(意見書3頁5?15行)。
しかし、甲1発明は風味の点から低温乾燥を意図したものであり、乾燥温度を90℃以上120℃未満とする動機付けがあるとはいえない。
そして、本件発明1は単に時間短縮のためではなく、ねり胡麻の難分離性の実現を課題として加熱温度の温度範囲を設けたものであるから、ねり胡麻の難分離性の実現を課題としない甲第1号証に接した当業者が低温乾燥とはいえない90℃以上120℃未満の乾燥温度とすることが容易であるということはできない。

また、申立人は意見書において、添付参考資料、特開2007-330129号公報、特開平10-234345号公報及び特開昭64-5477号公報を示して、乾燥工程の加熱温度の下限値を90℃以上にすることは当業者が必要に応じて適宜なし得ることであるとも主張している(意見書3頁16行?下から2行)。
しかし、これら文献にも焙煎後のねり胡麻の難分離性を意図して焙煎前に90℃以上で乾燥させる旨の記載はなく、高温で胡麻を乾燥する公知例を示すにすぎない。そして、上記したとおり甲1発明には焙煎前に90℃以上で乾燥することについての動機付けがないのであるから、これら文献に基づいて、甲1発明の1次工程の加熱温度の下限値を90℃以上にすることが容易であるとはいえない。

さらに、申立人は意見書において、1次工程の加熱温度の下限値を90℃以上にすることについて技術的意義がない旨主張している(意見書3頁最終行?4頁16行)。
しかし、本件発明1は焙煎後のねり胡麻の難分離性を意図したものであり、焙煎前に90℃以上120℃未満の温度で乾燥することで当該課題を解決できることは実施例に記載されているのであるから、技術的意義がないとはいえず、申立人の主張は採用できない。

以上のとおりであるから、相違点1及び3について検討するまでもなく、本件発明1を甲1発明及び甲1ないし甲4の記載事項並びに周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(イ)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、更に限定を加えたものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明及び甲1ないし甲4の記載事項並びに周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

イ.甲5発明を主引用発明とする場合について
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲5発明を対比すると、甲5発明の「ごま」は本件発明1の「胡麻」に相当し、「すり潰し」することと、「粉砕」することは技術的に同義と認められ、甲5発明は「ごま」を「すり潰し」て「ペースト状」にするものであるから、すり潰し後のごまは本件発明1の「ねり胡麻」にあたり、甲5発明の「ごまをすり潰しペースト状としたものの製造方法」は、本件発明1の「胡麻を粉砕してペースト状にしてなるねり胡麻の製造方法」に相当する。
また、甲5発明の「すり潰し」はごまをペースト状にするのであるから、本件発明1の「粉砕及びねり工程」に相当する、
よって、本件発明1と甲5発明は、次の一致点及び相違点を有するものと認められる。

【一致点】
胡麻を粉砕してペースト状にしてなるねり胡麻の製造方法であって、
原料となる胡麻に対する、水洗工程と、焙煎工程と、粉砕およびねり工程とを備えてなるねり胡麻の製造方法。

【相違点】
相違点1:
本件発明1は、水洗及び脱水工程を備えているのに対して、甲5発明は水洗するのみであり、脱水工程を備えていない点
相違点2:
本件発明1は、焙煎工程は、加熱温度が異なる1次工程と2次工程の2段階の工程からなり、前記1次工程の条件は、加熱温度が90℃以上120℃未満で、かつ、該1次工程後における胡麻処理物の全重量に対する水分量が4重量%未満であり、前記2次工程の条件は、加熱温度が前記1次工程の加熱温度よりも高く、かつ、200℃未満であるのに対して、甲5発明は、焙煎を150?200℃でする点

事案に鑑み、先ず相違点2について検討すると、甲5には、焙煎工程を2段階の工程とする点の記載はない。
そして、上記ア.(ア)で検討したとおり、焙煎工程の1次工程の加熱温度の下限値を90℃以上とする点については、甲1ないし甲4には記載されておらず、上記相違点2の「焙煎工程は、加熱温度が異なる1次工程と2次工程の2段階の工程からなり、前記1次工程の条件は、加熱温度が90℃以上120℃未満」とする点を甲1ないし甲5の記載から当業者が容易に想到することができたということはできない。
よって、相違点1については検討するまでもなく、本件発明1を甲5発明及び甲1ないし甲5の記載事項並びに周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(イ)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、更に限定を加えたものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲5発明及び甲1ないし甲5の記載事項並びに周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、特許異議申立書において、本件発明1は、甲第1号証に実質的に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないと主張している。
しかし、上記(1)ア.(ア)で検討したように、本件発明1の焙煎工程の1次工程の加熱温度を「90℃以上120℃未満」とする点については甲1に記載はなく、当該点は自明の事項ともいえないから、本件発明1が甲1に実質的に記載されたものであり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないとすることはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由及び特許異議申立理由によっては、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胡麻を粉砕してペースト状にしてなるねり胡麻の製造方法であって、
原料となる胡麻に対する、水洗および脱水工程と、焙煎工程と、粉砕およびねり工程とを備えてなり、
前記焙煎工程は、加熱温度が異なる1次工程と2次工程の2段階の工程からなり、
前記1次工程の条件は、加熱温度が90℃以上120℃未満で、かつ、該1次工程後における胡麻処理物の全重量に対する水分量が4重量%未満であり、
前記2次工程の条件は、加熱温度が前記1次工程の加熱温度よりも高く、かつ、200℃未満であることを特徴とするねり胡麻の製造方法。
【請求項2】
前記水洗および脱水工程の前、または、前記水洗および脱水工程の後に、原料となる胡麻に対する脱皮工程を有し、
該脱皮工程は、摩擦力で胡麻の皮を剥く工程であることを特徴とする請求項1記載のねり胡麻の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-04-03 
出願番号 特願2017-108431(P2017-108431)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高山 敏充  
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 窪田 治彦
井上 哲男
登録日 2018-01-26 
登録番号 特許第6279792号(P6279792)
権利者 九鬼産業株式会社
発明の名称 ねり胡麻の製造方法  
代理人 和気 光  
代理人 和気 光  
代理人 寺本 諭史  
代理人 和気 操  
代理人 寺本 諭史  
代理人 和気 操  

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