• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 出願日、優先日、請求日  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更  B32B
管理番号 1352284
異議申立番号 異議2018-700533  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-04 
確定日 2019-05-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6256444号発明「離型フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6256444号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第6256444号の請求項1ないし4、6ないし10に係る特許を維持する。 特許第6256444号の請求項5に係る特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6256444号に係る出願等の手続の経緯は以下のとおりである。
平成25年 6月 6日 優先基礎出願(特願2013-119521号)
平成26年 3月26日 原出願(特願2014-63033号)
平成27年 9月30日 原出願を分割出願した本件特許出願(特願2015-194766号)
平成29年 5月11日 上申書の提出と共に手続補正
平成29年12月15日 特許権の設定登録
平成30年 1月10日 特許掲載公報の発行
平成30年 7月 4日 森谷晴美(以下「申立人」という。)から特許異議の申立て
平成30年 9月26日付 当審から取消理由通知
平成30年11月27日 特許権者の意見書及び訂正の請求
平成30年12月 4日付 当審から訂正拒絶理由通知
平成31年 1月 7日 意見書の提出及び訂正請求書の手続補正(この補正後の訂正の内容を以下「本件訂正」という。)
平成31年 2月 4日 申立人の意見書(以下「申立人意見書」という。)の提出

第2 本件訂正について
1 本件訂正前の特許請求の範囲、明細書等の記載
(1)本件訂正前の特許請求の範囲は以下のとおりである。
「【請求項1】
第1離型層と、第2離型層とを備える離型フィルムであって、
当該離型フィルムは、前記第1離型層を成形される対象物表面に配置し、前記第2離型層を当て板に配置して用いられ、
前記第1離型層は、第1ポリエステル樹脂を含み、
前記第2離型層はオレフィン系樹脂または第2ポリエステル樹脂を含み、
指示薬滴定法により測定した、前記第1離型層の末端カルボン酸量が14.3以上40未満であり、
前記第1離型層の表面10点平均粗さ(Rz)が、1.23μm以上6.1μm以下であり、前記第2離型層の表面10点平均粗さ(Rz)が、0.62μm以上9.5μm以下であり、
前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が、前記第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)よりも大きい、離型フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の離型フィルムであって、
ASTM D2857に準じて35℃で測定した前記第1離型層の固有粘度が、0.9以上1.5以下である、離型フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の離型フィルムであって、
前記第1離型層の入射角度60°における光の反射率である光沢度が6以上150以下である、離型フィルム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の離型フィルムであって、
前記第1離型層の厚みが20μm以上30μm以下であり、
前記第2離型層の厚みが5μm以上60μm以下である、離型フィルム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の離型フィルムであって、
前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が92.1μm以上328μm以下である、離型フィルム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の離型フィルムであって、
前記第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が197μm以上400μm以下である、離型フィルム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の離型フィルムであって、
当該離型フィルムは、前記第1離型層と、クッション層と、前記第2離型層とがこの順で積層され、
前記クッション層は、αオレフィン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリブチレンテレフタレート及び1,4シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレートの混合物、αオレフィン系重合体及びエチレン等のαオレフィン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体の混合物、または、ポリプロピレン及びエチレン-メチルメタクリレート共重合体との混合物である、離型フィルム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の離型フィルムであって、
前記成形される対象物は熱硬化性樹脂を含み、
前記熱硬化性樹脂は、イミド樹脂である、離型フィルム。
【請求項9】
請求項8に記載の離型フィルムであって、
前記熱硬化性樹脂は、半硬化状態である、離型フィルム。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の離型フィルムであって、
前記第1ポリエステル樹脂は、ポリブチレンテレフタレートである、離型フィルム。」
(2)本件訂正前の明細書の記載
ア「【0037】
図1および2は、本実施形態に係る離型フィルム10の断面図である。
本実施形態に係る離型フィルム10は、単層構造を形成したものであっても、多層構造を形成したものであってもよい。図1に示すように、離型フィルム10が単層構造を形成したものである場合、離型フィルム10の製造工程を簡略化することができる。これに対し、図2に示すように、離型フィルム10の層構造が多層構造であれば、対象物との離型性や追従性を、適宜調節することができる。
【0038】
以下、本実施形態に係る離型フィルム10として、図2に示す多層構造を形成したものを例に挙げて説明する。
【0039】
図2に示すように、本実施形態に係る離型フィルム10は、離型層1と、クッション層2と、離型層3(第2離型層)とがこの順で積層されている。以下、各層について順に説明する。」
イ「【0040】
まず、離型層1は、対象物表面との離型性を保持するものである。また、当該離型フィルム10を配置する対象物の形状に応じて離型層1が追従するパターン追従性の機能も備えている。なお、離型層1は、離型面を形成する層であって、ポリエステル樹脂材料によって形成されている。
【0041】
また、離型層1を形成する方法としては、例えば空冷または水冷インフレーション押出法、Tダイ押出法等の公知の方法が挙げられる。」
ウ 離型層1について
(ア)「【0044】
離型層1は、入射角度60°における光の反射率である光沢度が6?150であることが好ましく、6?145であることがより好ましい。
光沢度は、具体的には、日本工業規格(JIS)Z8741に準拠して設定することができる。即ち、この規格は、入射角度20°、60°又は85°の幾何条件の反射率計を用いて塗膜の鏡面光沢度を測定する試験方法について規定し(メタリック塗料の光沢度測定には適さず)、屈折率が1.567である表面において60°の入射角度の場合における反射率10%を光沢度100(グロス(60°)=100%)、20°の入射角度の場合における反射率5%を光沢度100(グロス(20°)=100%)としている。このうち、60°の入射角度における光の反射率をもって、光沢度を定める。
なお、離型層1の光沢度とは、離型層1のプレスする対象物側にあたる面の数値である。」
(イ)「【0045】
離型層1の固有粘度を、0.9以上1.5以下にしつつ、光沢度を上記値とすることで、良好な離型性が得られ、加熱プレスする際、離型フィルム10の離型面を形成する材料の官能基と、当該離型フィルム10を配する対象物表面を形成する材料の官能基とが、反応して相互作用することを抑制し、良好な品質を有した成型品を得ることができる。
この場合、離型層3の光沢度は、10?150が好ましい。これにより、離型層1と離型層3との識別が容易となり、離型フィルム10の表裏の区別が容易となる。」
(ウ)「【0046】
また、離型層1の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)は、良好な離型性を得る観点から、90μm以上であることが好ましく、良好な品質の成型品を得る観点から、450μm以下であることが好ましく、350μm以下であることがより好ましい。
粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)は、JIS-B0601-2001に準じて測定することができる。
なお、離型層1の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)とは、離型層1のプレスする対象物側にあたる面の数値である。」
(エ)「【0047】
離型層1の固有粘度を、0.9以上1.5以下にしつつ、粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)を上記値とすることで、良好な離型性が得られ、加熱プレスする際、離型フィルム10の離型面を形成する材料の官能基と、当該離型フィルム10を配する対象物表面を形成する材料の官能基とが、反応して相互作用することを抑制し、良好な品質を有した成型品を得ることができる。
この場合、離型層3の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)は90μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましく、一方、450μm以下であることが好ましく、400μm以下であることがより好ましい。これにより、離型層1と離型層3との識別が容易となり、離型フィルム10の表裏の区別が容易となる。」
(オ)「【0048】
また、離型層1の表面10点平均粗さ(Rz)は、離型層1の強度を確保しつつ良好な離型性を得る観点から、0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上がより好ましく、1.2μm以上がさらに好ましい。一方、表面粗さが転写されるのを抑制する観点から、15μm以下であることが好ましく、10μm以下がより好ましく、8μm以下がさらに好ましい。
表面10点平均粗さ(Rz)は、JIS-B0601-2001に準じて測定することができる。
なお、離型層1の表面10点平均粗さ(Rz)は、離型層1のプレスする対象物側にあたる面の数値である。」
(カ)「【0049】
離型層1の固有粘度を、0.9以上1.5以下にしつつ、表面10点平均粗さ(Rz)を上記値とすることで、良好な離型性が得られ、加熱プレスする際、離型フィルム10の離型面を形成する材料の官能基と、当該離型フィルム10を配する対象物表面を形成する材料の官能基とが、反応して相互作用することを抑制し、良好な品質を有した成型品を得ることができる。
この場合、後述する離型層3の表面10点平均粗さ(Rz)は、0.5μm以上であることが好ましく、0.6μm以上がより好ましく、一方、15μm以下であることが好ましく、10μm以下がより好ましい。これにより、離型層1と離型層3との識別が容易となり、離型フィルム10の表裏の区別が容易となる。」
エ 離型層3について
(ア)「【0062】
離型層3は、加熱プレス等の成型時に使用される当て板との離型性を保持している。
離型層3は、第2樹脂よりも軟化点が高い第3樹脂で構成されている。これにより、当て板との離型性をより一層向上させることができる。」
(イ)「【0064】
また、第3樹脂と、離型層1を形成するポリエステル樹脂材料は、同じであっても異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。」
(ウ)「【0065】
また、第3樹脂の軟化点は、特に限定されないが、100℃以上であることが好ましく、特に120℃以上であるとさらに好ましい。これにより、離型性に加えて、SUS板等で構成されている当て板に、第3樹脂に起因する揮発成分または第3樹脂が付着することを低減することができる。」
(エ)「【0067】
なお、離型層3を形成する方法としては、例えば空冷または水冷インフレーション押出法、Tダイ押出法等の公知の方法が挙げられる。」
オ 実施例
(ア)「【0094】
(実施例5?11)
次に、離型層1、クッション層2、離型層3として、表2に示したものを使用した以外は、実施例1と同様の方法で離型フィルムを作製し、同様に評価を行った。
なお、PBTは、実施例1で使用したものと同じものである。」
(イ)「【0095】
<評価項目>
光沢度:日本工業規格(JIS)Z8741に準拠して入射角60°における光の反射率を測定した。
Rz:JIS-B0601-2001に準じて測定した。
Rsm:JIS-B0601-2001に準じて測定した。
評価結果を表2に示す。」
(ウ)【表2】



(エ)「【0097】
実施例の離型フィルムは、比較例の離型フィルムと比べ、加熱プレスする際、離型フィルムの離型面を形成する材料の官能基と、当該離型フィルムを配する対象物表面を形成する材料の官能基とが、反応して相互作用することを抑制し、良好な品質を有した成型品を得ることができた。
【0098】
実施例5?11では、いずれも、離型性、追従性、CL接着剤染み出し量、成形性の評価が○であった。また、実施例11は、他の実施例5?10よりも、追従性においてやや劣るものであった。」
(3)図面に関する記載
ア「【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る離型フィルムの断面図である。
【図2】本実施形態に係る離型フィルムの断面図である。」
イ「【符号の説明】
【0099】
1 離型層
2 クッション層
3 離型層
10 離型フィルム」
ウ 【図1】



エ 【図2】



2 本件訂正
(1)訂正請求書等の補正について
ア 申立人は、平成31年1月7日に提出された手続補正書による補正について、請求の要旨変更である旨主張するので、検討する。
イ 前記第1にあるように、特許権者は、平成30年11月27日に訂正の請求を行い、当審からの特許法第120条の5第6項の規定に基づく訂正拒絶理由への応答期間内である平成31年1月7日に、特許法第17条の5第1項の規定により訂正特許請求の範囲を補正し、特許法第120条の5第9項の規定により準用される特許法第131条の2第1項の規定により訂正請求書を補正した。
ウ 前記補正により、訂正事項2が次のように補正された。
(ア)前記補正前
「前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が、前記第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)よりも大きい、離型フィルム。」とあるのを、
「前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が、前記第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)よりも小さい、離型フィルム。」
と訂正する。
(イ)前記補正後
「前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が、前記第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)よりも大きい、離型フィルム。」とあるのを、
「前記第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が、前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)よりも大きい、離型フィルム。」
と訂正する。
エ 検討
(ア)前記補正前後を比較すると、表現上の変更はあるけれども、発明特定事項としては、全く同じであるから、これを訂正請求の要旨の変更ということはできない。
(イ)申立人は、前記補正により、訂正事項1との関係で不整合が生じているなどと主張するが、結局訂正事項2の訂正要件についての主張であると解される。後記(2)にて検討する。
(2)本件訂正の訂正事項(当審注:訂正箇所に下線を付した。)
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記第1離型層の表面10点平均粗さ(Rz)が、1.23μm以上6.1μm以下であり、前記第2離型層の表面10点平均粗さ(Rz)が、0.62μm以上9.5μm以下であり、
前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ・・・」とあるのを、
「前記第1離型層の表面10点平均粗さ(Rz)が、1.23μm以上6.1μm以下であり、前記第2離型層の表面10点平均粗さ(Rz)が、0.62μm以上9.5μm以下であり、
前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が92.1μm以上328μm以下であり、
前記第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ・・・」
と訂正する(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2?4及び6?10も同様に訂正する。)
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が、前記第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)よりも大きい、離型フィルム。」とあるのを、
「前記第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が、前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)よりも大きい、離型フィルム。」
と訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に、
「請求項1から5のいずれか1項に記載の離型フィルムであって、」とあるのを、
「請求項1から4のいずれか1項に記載の離型フィルムであって、」と訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に、
「請求項1から6のいずれか1項に記載の離型フィルムであって、」とあるのを、
「請求項1から4および6のいずれか1項に記載の離型フィルムであって、」と訂正する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に、
「請求項1から7のいずれか1項に記載の離型フィルムであって、」とあるのを、
「請求項1から4、および6から7のおよびのいずれか1項に記載の離型フィルムであって、」と訂正する。
キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10に、
「請求項1から9のいずれか1項に記載の離型フィルムであって、」とあるのを、
「請求項1から4および6から9のいずれか1項に記載の離型フィルムであって、」と訂正する。
(4)訂正要件についての判断
ア 一群の請求項について
訂正事項1?7に係る訂正前の請求項1?10について、請求項2?10はそれぞれ請求項1を直接または間接に引用しているものであって、訂正事項1および訂正事項2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正される請求項である。
したがって、訂正前の請求項1?10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であるから、本件訂正は特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
イ 訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)について、訂正前の請求項1では、第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)との大小関係は特定されているが、その値自体は特定されていない。
これに対して、訂正後の請求項1は、第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)その値自体を具体的に特定し、発明を限定するものである。すなわち、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められる。
(イ)新規事項の追加の有無
訂正事項1は、実質上、訂正前の請求項5(訂正前の請求項1を直接的または間接的に引用)に特定されていた事項により、訂正前の請求項1を訂正するものである。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
(ウ)実質上の拡張変更の有無
訂正事項1は、第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)との大小関係のみが規定されていた第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)の値を、訂正前の請求項5で特定されていた数値により具体的に特定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的について
a 訂正事項2は、後記するように、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する「誤記または誤訳の訂正」を目的とするものと解される。
b このことは、前記1(2)オに摘記した本件明細書の実施例5?11のすべてにおいて、第1離型層に相当する離型層1のRsmが、第2離型層に相当する離型層3のRsmよりも小さいことから、大小関係(以下「本件大小関係」という。)が逆であることは当業者が読み取り得ることである。
c 訂正前の本件大小関係が、正しいと仮定すると、特許権者が作用効果を実証した実施例5?11に係る離型フィルムは、本件特許の範囲外となり、不整合・不自然である。したがって、前記仮定には誤りがあり、訂正前の本件大小関係に誤記があると解さざるを得ない。
d 申立人の主張について
(a)申立人は、申立人意見書において「特許権者は、訂正事項2について、誤記の訂正が目的であると主張していますが、第1離型層と第2離型層のRsmの大小関係をどちらかにするかは、上述のとおり実施例とは関係なく、出願人が合理的に補正できるものであり、また、かかる補正ができないとする根拠があるともいえないことから、訂正事項2が誤記の訂正であるとは到底いえません。」と主張する。
(b)確かに、特許請求の範囲の補正は、出願人が自由になし得るものであるが、拒絶理由を受けての補正でもない、自発補正で請求項を補正する際に、サポート要件を失うような補正であると認識して、請求項を補正することは実務上およそ考えられないから、訂正前の本件大小関係には誤りがあるとするのが妥当である。したがって、本件訂正の訂正事項2は誤記の訂正を目的とするものと認める。
e 以上のとおり、本件訂正の訂正事項2は、誤記の訂正を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する目的要件を充足する。
(イ)新規事項の追加の有無
a 法規
特許法第120条の5第9項の規定によって準用される特許法第126条第5項括弧書きの規定により、誤記または誤訳を訂正する場合には、新規事項の追加の有無の判断は、出願当初の明細書等が基準とされる。
b 本件特許に係る出願は、原出願の日に出願日が遡及するから、原出願の出願当初の明細書等が基準となる。
c 原出願の出願当初の明細書について
(a)前記第2、1(2)は、同じ文章が、原出願の出願当初明細書に記載されている。
(b)前記第2、1(2)ウ(エ)?(オ)に摘記した、本件明細書の段落【0047】?【0048】は、原出願の出願当初明細書に記載されており、その必要部分を摘記すると以下のとおりである。
(c)「離型層1の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)は、良好な離型性を得る観点から、90μm以上であることが好ましく、良好な品質の成型品を得る観点から、450μm以下であることが好ましく、350μm以下であることがより好ましい。・・・この場合、離型層3の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)は90μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましく、一方、450μm以下であることが好ましく、400μm以下であることがより好ましい。これにより、離型層1と離型層3との識別が容易となり、離型フィルム10の表裏の区別が容易となる。」
(d)前記(c)から、より好ましい範囲を比較すると、離型層1については、「90?350μm」、一方、離型層3については、「150?400μm」となるから、離型層1(第1の離型層)よりも離型層3(第2の離型層)のRsmを大きくすることが示唆されているといえる。
(e)また、前記1(2)オに摘記した本件明細書の実施例5?11も原出願の明細書に記載されており、Rsmの大小関係を示唆するものである。
d 以上のとおり、訂正事項2は、原出願の出願当初の明細書等を基準として、新規事項を追加するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項括弧書きの規定に適合する。
(ウ)実質上の拡張変更の有無
a 解釈
(a)特許法第120条の5第9項の規定により準用される特許法第126条第6項には、「・・・訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない。」と規定する。
(b)ここで、「実質上」とされているのは、「特許請求の範囲を拡張し、又は変更」する訂正が一切許されないとすると、特許請求の範囲の誤記の訂正ができなくなるため、形式上「特許請求の範囲を拡張し、又は変更」する場合であっても、実質上「特許請求の範囲を拡張し、又は変更」でない場合は、訂正が認められるということと解される。
b 当てはめ
前記(ア)で検討したように、本件特許の請求項1に接した当業者にとって、明細書の記載と対比すると、本件大小関係が誤りであることは明らかであって、これを正す訂正は、上記a(b)における形式上「特許請求の範囲を拡張し、又は変更」する場合であっても、実質上「特許請求の範囲を拡張し、又は変更」でない場合に当てはまるということができる。
c 以上から、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合する。
ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的について
訂正事項3は、請求項5を削除する訂正であるから、当該訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の追加の有無
上記(ア)の理由から明らかなように、訂正事項3は、請求項5を削除するというものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。
(ウ)実質上の拡張変更の有無
上記(ア)の理由から明らかなように、訂正事項3は、請求項5を削除するというものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合する。
エ 訂正事項4?7について
(ア)訂正の目的について
訂正事項4?7は、訂正前の請求項6?8および10が訂正前の請求項5を引用するものであったものを、訂正事項3により、請求項5が削除されたことに対応するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
(イ)新規事項の追加の有無
訂正事項4?7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、何ら実質的な内容の変更を伴うものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
(ウ)実質上の拡張変更の有無
訂正事項4?7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、何ら実質的な内容の変更を伴うものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立て及び取消理由について
1 本件発明
前記第2で検討したように、本件訂正は認められるから、以下、訂正後の請求項1?4、6?10に記載された発明(以下「本件発明1」?「本件発明10」という。)について検討する。そのうち、本件発明1は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
第1離型層と、第2離型層とを備える離型フィルムであって、
当該離型フィルムは、前記第1離型層を成形される対象物表面に配置し、前記第2離型層を当て板に配置して用いられ、
前記第1離型層は、第1ポリエステル樹脂を含み、
前記第2離型層はオレフィン系樹脂または第2ポリエステル樹脂を含み、
指示薬滴定法により測定した、前記第1離型層の末端カルボン酸量が14.3以上40未満であり、
前記第1離型層の表面10点平均粗さ(Rz)が、1.23μm以上6.1μm以下であり、前記第2離型層の表面10点平均粗さ(Rz)が、0.62μm以上9.5μm以下であり、
前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が92.1μm以上328μm以下であり、
前記第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が、前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)よりも大きい、離型フィルム。」
2 取消理由通知の概要
平成30年9月26日付けの取消理由通知の概要は以下の理由を通知したものである。
(1)特許法第36条第6項第1号の要件を満たさない
本件特許に係る出願は、特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。したがって、本件特許1?4、6?10は、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(2)特許法第29条第2項について
ア 分割要件を満たさない場合
本件発明1?4、6?10は、本件特許出願日前日本国内または外国において頒布された下記1?6の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本件発明1?4、6?10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
イ 分割要件を満たす場合の予備的理由
本件発明1?4、6?10は、本件特許出願日前日本国内または外国において頒布された下記2?6の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本件発明1?4、6?10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
<引用文献一覧>
1.特開2015-13465号公報
2.特開2010-253854号公報(甲第1号証)
3.特開2009-66984号公報(甲第2号証)
4.特開2009-90647号公報(甲第3号証)
5.特開2008-246882号公報(甲第4号証)
6.特開2009-241410号公報(甲第5号証)
3 検討
(1)前記2(1)の理由について
ア 前記2(1)の特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないという取消理由は、本件大小関係が本件発明1と本件明細書記載の実施例5?11とで異なっているということである。
イ この取消理由は、第2で検討したように訂正事項2が認められることで解消した。
(2)前記2(2)アの理由について
ア 前記2(2)アの進歩性欠如の取消理由は、本件特許が分割要件を欠如することを前提に、上記引用文献1の原出願の公開公報に記載された発明から進歩性がないという理由である。
イ この取消理由は、第2で検討したように訂正事項2が認められることで解消した。
(3)前記2(2)イの理由について
以下に検討する。
ア 引用文献2の記載事項
引用文献2には、以下の記載がある。(当審注:段落最初の文字を字下げしている。)
(ア)「【請求項1】
中間層と、該中間層の両面に積層された2つの表層とを有する多層離型フィルムであって、
前記2つの表層は、一方の厚さが5μm以上25μm未満であり、かつ、他方の厚さが25μm以上50μm未満である
ことを特徴とする多層離型フィルム。
【請求項2】
厚さが5μm以上25μm未満である表層は、JIS B0601:2001に準拠する方法で、先端半径2μm、円錐のテーパ角60°の触針を用い、測定力0.75mN、カットオフ値λs=2.5μm、λc=0.8mmの条件にて測定される粗さ曲線要素の平均長さRSmが300μm以下であることを特徴とする請求項1記載の多層離型フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の多層離型フィルムを用いたプリント基板の製造方法であって、熱プレス成形において、厚さが5μm以上25μm未満である表層がプリント基板本体の回路面側に、厚さが25μm以上50μm未満である表層が熱プレス板側になるように多層離型フィルムを配置する
ことを特徴とするプリント基板の製造方法。」
(イ)「【0008】
本発明は、防シワ性に優れ、カバーレイフィルム等からの接着剤の流れ出しを抑制することができる多層離型フィルムを提供することを目的とする。また、本発明は、該多層離型フィルムを用いたプリント基板の製造方法を提供することを目的とする。」
(ウ)「【0011】
本発明の多層離型フィルムは、中間層と、該中間層の両面に積層された2つの表層とを有する。
上記2つの表層は、一方の厚さが5μm以上25μm未満であり、かつ、他方の厚さが25μm以上50μm未満である。なお、本明細書中、上記厚さが5μm以上25μm未満である表層を「表層1」ともいい、上記厚さが25μm以上50μm未満である表層を「表層2」ともいう。」
(エ)「【0015】
上記表層1及び上記表層2を構成する樹脂は特に限定されず、例えば、結晶性芳香族ポリエステル樹脂が挙げられる。
上記結晶性芳香族ポリエステル樹脂は、示差走査熱量計を用いて測定した融点の好ましい下限が200℃である。熱プレス成形は通常200℃未満で行われることから、このような融点の高い樹脂を用いることにより、得られる多層離型フィルムを用いた熱プレス成形において上記表層1及び/又は上記表層2が溶融することなく離型性を有することができるとともに、上記表層1及び/又は上記表層2が破壊されるのを防止することができる。
上記融点が200℃未満であると、得られる多層離型フィルムを用いた熱プレス成形において上記表層1及び/又は上記表層2が溶融し、多層離型フィルムの耐熱性が低下することがある。上記結晶性芳香族ポリエステル樹脂の示差走査熱量計を用いて測定した融点のより好ましい下限は220℃である。」
(オ)「【0017】
上記示差走査熱量計を用いて測定した融点が200℃以上である結晶性芳香族ポリエステル樹脂は特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、テレフタル酸ブタンジオールポリテトラメチレングリコール共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なかでも、非汚染性及び結晶性に優れることから、ポリブチレンテレフタレートが好適に用いられる。」
(カ)「【0028】
上記表層1は、JIS B0601:2001に準拠する方法で、先端半径2μm、円錐のテーパ角60°の触針を用い、測定力0.75mN、カットオフ値λs=2.5μm、λc=0.8mmの条件にて測定される粗さ曲線要素の平均長さRSmが300μm以下であることが好ましい。上記表層1の粗さ曲線要素の平均長さRSmが上記範囲を満たすことにより、得られる多層離型フィルムは、表層1がプリント基板本体の回路面側になるようにして熱プレス成形を行うことで更に優れた防シワ性を発揮することができる。
上記表層1は、JIS B0601:2001に準拠する方法で、先端半径2μm、円錐のテーパ角60°の触針を用い、測定力0.75mN、カットオフ値λs=2.5μm、λc=0.8mmの条件にて測定される粗さ曲線要素の平均長さRSmが200μm以下であることがより好ましい。
【0029】
なお、上記表層1の粗さ曲線要素の平均長さRSmは小さいほど多層離型フィルムの防シワ性を高めることができるが、小さすぎると多層離型フィルムの離型性が低下することがあることから、得られる多層離型フィルムの離型性を確保するためには、上記表層1の粗さ曲線要素の平均長さRSmは、10μm以上であることが好ましい。」
(キ)「【0030】
上記表層2においては、JIS B0601:2001に準拠する方法で、先端半径2μm、円錐のテーパ角60°の触針を用い、測定力0.75mN、カットオフ値λs=2.5μm、λc=0.8mmの条件にて測定される粗さ曲線要素の平均長さRSmは特に限定されないが、上記表層1の粗さ曲線要素の平均長さRSmとの差が100μm以上であることが好ましい。また、上記表層1の粗さ曲線要素の平均長さRSmのほうが、上記表層2の粗さ曲線要素の平均長さRSmよりも小さいことが好ましい。このような差を有することにより、得られる多層離型フィルムにおいて上記表層1と上記表層2とは異なる表面形状を有し、表面の光沢に差が生じることから、上記表層1と上記表層2とを目視にて容易に区別することができる。
なお、上記粗さ曲線要素の平均長さRSmは、多層離型フィルム表面の凹凸形状の粗さ曲線における横方向のパラメーターであり、大きいほど表面の光沢が増し、小さいほど表面の光沢が低下したマット形状面となる。」
(ク)「【0031】
上記表層1及び上記表層2が上述した粗さ曲線要素の平均長さRSmを有するように上記表層1及び上記表層2に凹凸形状を付与する方法は特に限定されず、例えば、上記表層1、後述する中間層及び上記表層2を構成する樹脂を押出機(例えば、ジーエムエンジニアリング社製、GM30-28(スクリュー径30mm、L/D28))を用いてTダイより押出して成形した樹脂フィルムの表面に対して、表面に模様が加工された冷却ロールを押し当て、冷却ロール表面に加工された模様を樹脂フィルム表面に転写させる方法等が挙げられる。
【0032】
上記表面に模様が加工された冷却ロールは、例えば、平滑なロールの表面に凹模様を形成した後に、該ロールの平滑部分の粗さを調整することにより製造することができる。
上記冷却ロールの表面に加工された模様は特に限定されず、例えば、単一な形状の凹凸模様や、大きなブラスト材による凹凸模様に細かな凹凸を重畳した複数の形状の凹凸模様等が挙げられる。」
(ケ)「【0051】
(実施例1?9、比較例1?27)
3層共押出が可能な金型と3機の押出機からなる成形装置に、結晶性芳香族ポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレート、三菱エンジニアリングプラスチック社製、ノバデユラン5010R5)とポリオレフィン系樹脂(日本ポリエチレン社製、LDPE、商品名「ノバテック」)とを押出機(ジーエムエンジニアリング社製、GM30-28(スクリュー径30mm、L/D28))を用いてTダイ幅400mmにて共押出して成形することにより、厚さ70μmのポリオレフィン系樹脂層(中間層)の表裏を、それぞれ表1に示す厚さを有する2つのポリエステル樹脂(表層1及び表層2)で挟持した構造の乳白色の3層樹脂フィルムを得た。
【0052】
次いで、得られた3層樹脂フィルムの表面に対して、冷却ロール表面に加工された模様を転写させることにより3層樹脂フィルムの表面に凹凸を形成し、表層1のRSm=50μm、表層2のRSm=200μmの3層離型フィルムを得た。」
(コ)「【0060】
(実施例10?11)
3層樹脂フィルムの表面に凹凸を形成する際に使用する冷却ロールを変えたこと以外は実施例9と同様にして、表2に示す粗さ曲線要素の平均長さRSmを有する3層離型フィルムを作製した。
【0061】
<評価2>
実施例9、10及び11で得られた多層離型フィルムについて以下の評価を行った。結果を表2に示した。」
(サ)「【0065】
【表2】


イ 引用文献3の記載事項
引用文献3には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
少なくとも一方の表面が離型層として構成されている熱プレス成形用離型フィルムであって、前記の離型層は、官能基を有する融点60℃以上の離型剤(B-1)及び融点100℃以上のポリオレフィン樹脂(B-2)からなる群より選ばれた少なくとも一種の離型性付与剤(B)と残存テトラヒドロフラン量が300ppm以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)とを含む樹脂組成物から成り、濡れ張力が30mN/m以下であることを特徴とする熱プレス成形用離型フィルム。
【請求項2】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の示差熱分析による降温速度20℃/分での結晶化温度が175℃以上である請求項1に記載の熱プレス成形用離型フィルム。
【請求項3】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の末端カルボキシル基量が50eq/t以下である請求項1又は2に記載の熱プレス成形用離型フィルム。」
(イ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の熱プレス成形用離型フィルムの離型層は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と官能基を有する融点60℃以上の離型剤(B-1)及び融点100℃以上のポリオレフィン樹脂(B-2)からなる群より選ばれた少なくとも一種の離型性付与剤(B)とから構成される。なお、以下、熱プレス成形用離型フィルムを「離型フィルム」と略記する。
【0011】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)]
本発明で使用するポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂と略記することがある)の固有粘度は、フェノール/1,1,2,2-テトラクロルエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃で測定した値として、通常0.7?2.0dl/g、好ましくは0.8?1.8dl/g、更に好ましくは0.8?1.5dl/gである。固有粘度が0.7dl/g未満の場合は、PBT含有樹脂組成物を使用したフィルムの機械的強度が不十分となるおそれがある。固有粘度が2.0dl/gを超える場合は、溶融粘度が高くなり、流動性が悪化し、特に多層共押出フィルム成形において、層間の厚み精度が低下する恐れがある。」
(ウ)「【0017】
PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、好ましくは50eq/t以下であるが、更に好ましくは30eq/t以下である。PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、PBT樹脂を有機溶媒に溶解し、水酸化アルカリ溶液を使用して滴定することにより求めることが出来る。PBT樹脂の末端カルボキシル基量を50eq/t以下とすることにより、PBT樹脂の耐加水分解性を高めることが出来、溶融コンパウンド時や、フィルム成形時や加熱プレス時の分子量低下によるフィルムの割れ、破断などの発生を低減することが出来る。PBT樹脂中のカルボキシル基は、PBT樹脂の加水分解に対して自己触媒として作用するため、50eq/tを超える末端カルボキシル基が存在すると早期に加水分解が始まり、更に、生成したカルボキシル基が自己触媒となって連鎖的に加水分解が進行し、PBT樹脂の重合度が急速に低下する。」
(エ)「【0047】
[PBT樹脂]
【0048】
(A-1):三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ノバデュラン5026」(固有粘度1.26dl/g、残存THF量220ppm、末端カルボキシル基濃度20eq/T、結晶化温度178℃)
【0049】
(A-2):三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ノバデュラン5505S」(固有粘度1.15dl/g、残存THF量50ppm、末端カルボキシル基濃度15eq/T、結晶化温度160℃)
【0050】
(A-3):回分法にて製造したhomo-PBT樹脂(固有粘度 、残存THF量700ppm、末端カルボキシル基濃度50eq/T、結晶化温度165℃)」
ウ 引用文献4の記載事項
引用文献4には、次の記載がある。(当審注:段落最初の文字を字下げしている。)
(ア)「【請求項1】
少なくとも一方の表面性状が、JIS B0601:2001に準拠する方法により、先端半径2μm、円錐のテーパ角60°の触針を用い、測定力0.75mN、カットオフ値λs=2.5μm、λc=0.8mmの条件にて測定される粗さ曲線の最大高さ粗さRzが0.5?20μm、かつ、粗さ曲線要素の平均長さRSmが50?500μmであることを特徴とする離型フィルム。
【請求項2】
粗さ曲線の最大高さ粗さRzが0.5?10μmであることを特徴とする請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項3】
粗さ曲線要素の平均長さRSmが200?400μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の離型フィルム。
・・・
【請求項9】
樹脂層の両面に、粗さ曲線の最大高さ粗さRzが0.5?20μm、かつ、粗さ曲線要素の平均長さRSmが50?500μmである表面を有する離型層が積層された3層構造体であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の離型フィルム。」
(イ)「【0023】
本発明の離型フィルムの製造方法としては特に限定されず、例えば、上記樹脂を押出機(例えば、ジーエムエンジニアリング社製、GM30-28(スクリュー径30mm、L/D28))を用いてTダイより押出して成形することにより樹脂フィルムを作製し、得られた樹脂フィルムの表面に冷却ロール表面に加工された模様を転写させることにより表面に凹凸を付与する方法等が挙げられる。
【0024】
上記模様が加工された冷却ロールは、例えば、平滑なロールの表面に凹模様を形成した後に、該ロールの平滑部分の粗さを調整することにより製造することができる。
このような冷却ロールに樹脂フィルムを押し当てて模様を転写させることによって、上記粗さ曲線の最大高さ粗さRzが0.5?20μm、かつ、粗さ曲線要素の平均長さRSmが50?500μmである表面性状の離型面を有する離型フィルムを得ることができる。
・・・
【0025】
なお、上記冷却ロールの表面に加工された模様としては、単一な形状の凹凸模様のほか、大きなブラスト材による凹凸模様に細かな凹凸を重畳した複数の形状の凹凸模様等が挙げられる。」
(ウ)「【0032】
(実施例1)
3層共押出が可能な金型と3機の押出機からなる成形装置に、ポリエステル樹脂とオレフィン樹脂とを押出機(ジーエムエンジニアリング社製、GM30-28(スクリュー径30mm、L/D28))を用いてTダイ幅400mmにて共押出して成形することにより、厚さ80μmのオレフィン層(樹脂層)の表裏を、厚さ20μmのポリエステル樹脂(離型層)で挟持した構造の、全厚さ120μmの乳白色の3層樹脂フィルムを得た。
次いで、得られた3層樹脂フィルムの表面に対して、冷却ロール表面に加工された模様を転写させることにより3層樹脂フィルムの表面に凹凸を形成し、Rz=0.5μm、RSm=50μmの離型フィルムを得た。
更に、この表面にシリコーン系離型剤を塗布することにより離型処理を施した。
【0033】
(実施例2?12、比較例1?18)
凹凸の形状を変えたこと以外は、実施例1と同様にして離型フィルムを作製した。
Rz、RSmの値は表1のとおりである。
【0034】
【表1】


(エ)「【0044】
(実施例13?21、比較例19?24)
ポリエステル樹脂とオレフィン樹脂とを押出機(ジーエムエンジニアリング社製、GM30-28(スクリュー径30mm、L/D28))を用いてTダイ幅400mmにて共押出して成形することにより、オレフィン層(樹脂層、80μm)の表裏をポリエステル樹脂(離型層、20μm)で挟持した3層樹脂フィルム(120μm)を得た。
次いで、この3層樹脂フィルムの表面に対して、冷却ロール表面に加工された模様を転写させることにより3層樹脂フィルムの表面に凹凸を形成させた。
Rz、RSm及びRz(AFM)の値は表5のとおりである。
・・・
【0050】
【表5】


エ 引用文献5の記載事項
引用文献5には、次の記載がある。
(ア)「【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント配線板(以下、FPCという。)などの回路基板の製造工程においては、絶縁基材、例えば、ポリイミド樹脂フィルム表面に所定の回路を有するフレキシブル回路基板上を、絶縁及び回路保護を目的として接着剤付き耐熱樹脂フィルムであるカバーレイ(以下、CLという。)で被覆し、離型フィルムを重ねた後、金属板を重ねて加熱成形すること(プレス工程)が通常行われている。この製造工程においては、離型フィルムに対し作業効率を見据えた相手材との離型性を良くするために表面にフッ素系樹脂のフィルムの付いた金属板(以下、当て板という。)との離型性が要求される。また、FPCと離型フィルムとの関係においては、離型フィルムに対し、優れた離型性の要求は当然のこととしてFPCの凹凸に十分追従することによるCL端面からの接着剤フロー抑制、更にFPC全体を包み込むことによる圧力の均一化(対形状追従性)、FPC全体への均一な圧力による脱ボイド性(以下、成形性という。)、FPCの仕上がり外観シワが発生しないこと、後工程での回路へのメッキ付き等に優れていることが求められている。
そんな中、離型性の向上の為に、例えば特許文献1には回路基板との離型性について述べられているが、当て板との離型性が不十分であり、離型フィルムを当て板から剥離するのに人手が必要となるなど工数がかかり、実作業において問題があった。また、近年、回路基板の回路巾が狭くなってきており、例えば、回路巾が100μm以下では、離型フィルムとの離型性が悪いという欠点が指摘されている。
回路基板との離型性については、プレス工程後、離型フィルムは回路基板から必ず手で剥がさなければならず、要求される離型性はそれほど厳しくないが、当て板との離型性は、プレス解放後、離型フィルムが当て板から自然に剥離しなければならないので、要求される離型性は非常に厳しい。
・・・」
(イ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
<表面粗さ>
回路基板のプレス工程に使用されるエンボスを有する離型フィルムであって、離型フィルムのエンボスの表面粗さ(Rz:十点平均粗さ)が、プレス工程前で5μm以上20μm以下であり、プレス工程後で2μm以上8μm以下である離型フィルムである。
プレス工程前のエンボス加工された離型フィルムの表面粗さ(Rz)が、5μm未満であればエンボス加工時にフィルムがエンボス面を有するロール(エンボスロール)にとられたり、プレス後の離型性が悪くなる。特に加熱プレス後、比較的短時間に当て板若しくは回路基板と離型フィルムを剥離すると、当て板側は離型性がより悪くなったり、回路基板側は離型フィルムが破れたりする。またシワが発生し易くなり問題となる。また、20μmを越えるとCL端面からの接着剤が回路基板の凹凸の隙間から流出することになり、その結果染み出した接着剤が固まったことにより回路側面にヒゲが生じたり、メッキ付き性などで問題となる。より好ましくは、10μm以上15μm以下である。本願の発明においてはこの剥離時の離型フィルムの温度が、例えば、150℃おいても離型性は問題なかった。
プレス工程後のエンボス加工された離型フィルムの表面粗さ(Rz)が、2μm未満であると、エンボス加工時にフィルムがエンボスロールにとられたり、プレス後の離型性が悪くなる。特に加熱プレス後、比較的短時間に当て板または回路基板と離型フィルムを剥離しようとすると、離型フィルムの温度が高いため、より離型性が悪くなったり、離型フィルムが破れたりする。またシワが発生し易くなり問題となる。8μmを超えるとCL端面からの接着剤が回路基板の凹凸の隙間から流出することになり、その結果ヒゲが生じたり、メッキ付き性など問題となる。本願発明の離型フィルムにおいては、この剥離時の離型フィルムの温度が、例えば、150℃においても離型性は問題なかった。」
(ウ)「【0007】
プレス工程後の凹凸の影響は、高さを規定したRzが支配的であるため凹凸間隔は特に限定されないが、離型フィルムの凹凸の平均間隔(Sm)が50μm以上300μmであることが好ましく、より好ましくは80μm以上250μm以下である。Smがこの範囲にあれば、離型性に優れており、シワの発生、CL端面からの接着剤が凹凸の隙間から流出するなどの問題が生じにくくなる。」
オ 引用文献6の記載事項
引用文献6には、次の記載がある。
(ア)「【0014】
本発明に係る離型多層フィルムの離型側層(A)は、シンジオタクチックポリスチレンからなる。シンジオタクチックポリスチレンは側鎖であるベンゼン環が交互に位置する立体規則性を有するシンジオタクチック構造を有するがポリスチレンである。具体例としては商品名「ザレックS104」(出光興産(株)製)等の市販の樹脂を用いることができる。
【0015】
本発明に係る離型多層フィルムの離型側層(A)には表面粗さ(Rz:十点平均粗さ)が、3μm以上20μm以下であるエンボス加工が施される。エンボス加工による離型層表面粗さ(Rz)は5μm以上15μm以下であれことが好ましい。
【0016】
エンボス加工された離型フィルムの表面粗さ(Rz)が、3μm未満であればプレス後の仕上がり外観シワが発生し易くなり問題となる。また、20μmを越えるとCL接着剤が回路基板の凹凸の隙間からの流出量が多くなり、その結果シミ出した接着剤が固まることにより回路側面にヒゲが生じることによりメッキ付き性が問題となる。なお、表面粗さは5μm以上15μm以下であることがより好ましい。」
(イ)「【0026】
本発明に係る離型多層フィルムの離型層(および離型反対側層が設けられた場合は離型反対側層)にはインラインまたはオフラインでエンボス加工が施される。ここで、インラインでのエンボス加工とは、押出し成形によるフィルム製作の工程中においてエンボス加工を施すことを言い、オフラインでエンボス加工とは、押出し成形によりフィルムを製作した後、表面にエンボスを有するエンボスロールを用いてフィルム面にエンボス加工を施すことを言う。」
(ウ)「【実施例】
【0038】
以下に本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明する。実施例及び比較例において使用した原材料及びその物性は以下のとおりである。
(a)シンジオタクチックポリスチレン(SPS):ザレック S104(出光興産(株)製)
(b)ポリポロピレン(PP):ノーブレン FS2011DG2(住友化学(株)製)
(c)エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMMA):
アクリフト WD105-1(住友化学(株)製)
(d) 4-メチル1-ペンテンポリメチルペンテンとαオレフィンとの共重合体(TPX):
MX004(三井化学(株)製)
[実施例1?10及び比較例1?6]
(試料調製)
実施例1?11及び比較例1?3、および6では、3台の押出機に離型層樹脂、クッション層樹脂、離型層樹脂として、表1に示す各組成のポリマーを供給し、三層ダイス(300℃)より共押出して所定の厚さの離型多層フィルムを作成した。 比較例4,5では、1台の押出機に表1に示す組成の離型層樹脂を供給し、単層ダイス(300℃)より押出して所定の厚さの離型単層フィルムを作成した。 実施例9はオフラインでエンボス加工を施し、その他の実施例、比較例はインラインでエンボス加工を施した。比較例1については、エンボス処理を施さなかった。実施例10については、離型反対側層にPPを、実施例11については中間層にPPを使用した。比較例6については、離型側層および離型反対側層に4-メチル1-ペンテンポリメチルペンテンを使用した。」
(エ)「【0046】
【表1】


カ 対比・判断
(ア)引用発明
引用文献2の実施例10から次の発明(以下「引用発明」という。)が認定できる。
「ポリオレフィン樹脂からなる中間層と、該中間層の両面に積層された結晶性芳香族ポリエステル樹脂からなる2つの表層(表層1、表層2)とを有する多層離型フィルムであって、前記2つの表層は、プリント基板側になるように配設され、厚さが20μmであり、JIS B0601:2001に準拠する方法で、先端半径2μm、円錐のテーパ角60°の触針を用い、測定力0.75mN、カットオフ値λs=2.5μm、λc=0.8mmの条件で測定される粗さ曲線要素の平均長さが200μmである表層1と、熱プレス板側になるように配置し、厚さが40μmであり、同粗さ曲線要素の平均長さが200μmである表層2である多層離型フィルム。」
(イ)対比
a 引用発明の「表層1」、「表層2」、「プリント基板側」、「熱プレス板側」は、それぞれ本件発明1の「第1離型層」、「第2離型層」、「対象物表面」、「当て板」に相当する。
b そうすると、両者は、
「第1離型層と、第2離型層とを備える離型フィルムであって、
当該離型フィルムは、前記第1離型層を成形される対象物表面に配置し、前記第2離型層を当て板に配置して用いられ、
前記第1離型層は、第1ポリエステル樹脂を含み、
前記第2離型層は、第2ポリエステル樹脂を含み、
前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が、92.1μm以上320μm以下である
離型フィルム。」である点で一致する。
c 相違点
本件発明1と引用発明との相違点は、以下のとおりと把握できる。
(a)相違点1
本件発明1では、「指示薬滴定法により測定した、前記第1離型層の末端カルボン酸量が14.3以上40未満」と特定するのに対し、引用発明では明らかでない点。
(b)相違点2
本件発明1では、「前記第1離型層の表面10点平均粗さ(Rz)が、1.23μm以上6.1μm以下であり、前記第2離型層の表面10点平均粗さ(Rz)が、0.62μm以上9.5μm以下」と特定されているのに対して、引用発明では明らかでない点。
(c)相違点3
本件発明では、「前記第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が、前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)よりも大きい」のに対して、引用発明では、第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)と、前記第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)とがいずれも200μmである点。
(ウ)判断
a 相違点2と相違点3の関係について検討する。
前記ア(ク)に摘記した引用文献2の「Tダイより押出して成形した樹脂フィルムの表面に対して、表面に模様が加工された冷却ロールを押し当て、冷却ロール表面に加工された模様を樹脂フィルム表面に転写」との記載、前記ウ(イ)に摘記した引用文献4の「冷却ロールに樹脂フィルムを押し当てて模様を転写させることによって、上記粗さ曲線の最大高さ粗さRzが0.5?20μm、かつ、粗さ曲線要素の平均長さRSmが50?500μmである表面性状の離型面を有する離型フィルムを得ることができる。」との記載から、技術常識として、Rsm及びRzは、同時に調整されることが分かる。
b そうすると、相違点2及び相違点3とは、一体の相違点(以下「相違点2’」という。)として検討すべきものである。
c そして、引用文献2?6のいずれにも、「前記第1離型層の表面10点平均粗さ(Rz)が、1.23μm以上6.1μm以下であり、前記第2離型層の表面10点平均粗さ(Rz)が、0.62μm以上9.5μm以下」であって、かつ、「前記第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が、前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)よりも大きい」という構成を有するものは記載も示唆もされておらず、この相違点2’は当業者が容易に想到できたものということはできない。
(エ)念のため関連事項について検討する。
a 前記ア(キ)で摘記した引用文献2の「上記表層1の粗さ曲線要素の平均長さRSmのほうが、上記表層2の粗さ曲線要素の平均長さRSmよりも小さいことが好ましい。」との記載はあるものの、引用文献2には、Rzに関する記載も示唆もないから、上記相違点2’が容易想到ということはできない。
b 前記ウ(エ)で摘記した引用文献4の実施例15、16においては、Rzを5μm、Rsmを300μmとする例が記載されているものの、引用発明にこの事項を適用しても、「前記第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が、前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)よりも大きい」という構成は得られない。
c 前記エ(イ)で摘記した引用文献5には、Rzが5?20μmと記載されているが、9.5μm以下の具体例は存在しないため、引用発明に引用文献5に記載された事項を適用しても本件発明には想到しない。
d 前記オ(ウ)、(エ)で摘記した引用文献6の実施例4には、Rzを3μmとする例が記載されているが、引用発明に引用文献6に記載された事項を適用しても、「前記第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が、前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)よりも大きい」という構成は得られない。
キ 以上で検討したように、本件発明1は、相違点1について検討するまでもなく、引用発明及び引用文献2?6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ということはできない。また、本件発明1を更に限定する本件発明2?4、6?10についても同様である。したがって、本件発明1?4、6?10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされた特許とはいえないから、特許法第113条第2号に該当せず、それらの特許を取り消すことはできない。
(4)以上(1)?(3)で検討したように、取消理由通知で通知した理由はいずれも成り立たない。
4 取消理由として通知しなかった特許異議の申立て理由について
(1)特許異議の申立てにおいて、申立人は次の主張をした。
ア 特許法第36条第6項第2号について
設定登録時の請求項1に係る第1離型層と第2離型層のRsm値の関係と、本件明細書の実施例5?11における離型層1及び離型層3のRsm値と対応が逆になっており、発明の把握が困難である。したがって、本件発明1及び引用する2?4、6?10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たさないものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである。
イ 特許法第17条の2第3項について
本件特許の出願手続において、平成29年5月11日に行った特許請求の範囲を補正する手続補正は、新規事項を追加するものであるから、特許法第17条の2第3項の規定に反してなされたものであるから、本件特許は特許法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)判断
ア 特許法第36条第6項第2号について
特許請求の範囲と本件明細書に記載された実施例5?11との対応は、前記第2で検討したように本件訂正により食い違いが解消したため、申立人の主張は採用できない。
イ 特許法第17条の2第3項について
前記第2で検討したとおり、本件訂正が認められることから、特許法第128条の規定により、本件訂正後の特許請求の範囲により、特許出願がされたものとみなされるから、審査段階での手続補正の瑕疵は問題とならない。よって、申立人の主張は採用できない。
5 申立人意見書における追加主張について
(1)申立人は、申立人意見書において、平成29年5月11日付けの上申書における特許権者の主張について、「RsmとRzの組合せ及び組合せによる効果については、本件当初明細書には、記載も示唆もされて」いないとし、新規事項を追加するものであると主張する。
(2)しかしながら、上申書での主張は、明細書等の補正と異なるから、そもそも新規事項の追加とはならないものであり、申立人の主張は失当である。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?4、6?10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?4、6?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項5に係る発明は、本件訂正により削除されたため、請求項5に対して申立人がした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する特許法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1離型層と、第2離型層とを備える離型フィルムであって、
当該離型フィルムは、前記第1離型層を成形される対象物表面に配置し、前記第2離型層を当て板に配置して用いられ、
前記第1離型層は、第1ポリエステル樹脂を含み、
前記第2離型層はオレフィン系樹脂または第2ポリエステル樹脂を含み、
指示薬滴定法により測定した、前記第1離型層の末端カルボン酸量が14.3以上40未満であり、
前記第1離型層の表面10点平均粗さ(Rz)が、1.23μm以上6.1μm以下であり、前記第2離型層の表面10点平均粗さ(Rz)が、0.62μm以上9.5μm以下であり、
前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が92.1μm以上328μm以下であり、
前記第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が、前記第1離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)よりも大きい、離型フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の離型フィルムであって、
ASTM D2857に準じて35℃で測定した前記第1離型層の固有粘度が、0.9以上1.5以下である、離型フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の離型フィルムであって、
前記第1離型層の入射角度60°における光の反射率である光沢度が6以上150以下である、離型フィルム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の離型フィルムであって、
前記第1離型層の厚みが20μm以上30μm以下であり、
前記第2離型層の厚みが5μm以上60μm以下である、離型フィルム。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の離型フィルムであって、
前記第2離型層の粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)が197μm以上400μm以下である、離型フィルム。
【請求項7】
請求項1から4および6のいずれか1項に記載の離型フィルムであって、
当該離型フィルムは、前記第1離型層と、クッション層と、前記第2離型層とがこの順で積層され、
前記クッション層は、αオレフィン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリブチレンテレフタレート及び1,4シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレートの混合物、αオレフィン系重合体及びエチレン等のαオレフィン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体の混合物、または、ポリプロピレン及びエチレン-メチルメタクリレート共重合体との混合物である、離型フィルム。
【請求項8】
請求項1から4、6および7のいずれか1項に記載の離型フィルムであって、
前記成形される対象物は熱硬化性樹脂を含み、
前記熱硬化性樹脂は、イミド樹脂である、離型フィルム。
【請求項9】
請求項8に記載の離型フィルムであって、
前記熱硬化性樹脂は、半硬化状態である、離型フィルム。
【請求項10】
請求項1から4および6から9のいずれか1項に記載の離型フィルムであって、
前記第1ポリエステル樹脂は、ポリブチレンテレフタレートである、離型フィルム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-04-19 
出願番号 特願2015-194766(P2015-194766)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B32B)
P 1 651・ 536- YAA (B32B)
P 1 651・ 03- YAA (B32B)
P 1 651・ 855- YAA (B32B)
P 1 651・ 537- YAA (B32B)
P 1 651・ 55- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増田 亮子  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 門前 浩一
横溝 顕範
登録日 2017-12-15 
登録番号 特許第6256444号(P6256444)
権利者 住友ベークライト株式会社
発明の名称 離型フィルム  
代理人 速水 進治  
代理人 速水 進治  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ