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審決分類 審判 全部申し立て 特123条1項5号  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1352304
異議申立番号 異議2018-700765  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-21 
確定日 2019-05-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6309269号発明「有機電子装置を調製するための配合物および方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6309269号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1,3-39〕について訂正することを認める。 特許第6309269号の請求項1ないし39に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6309269号(以下,「本件特許」という。)の請求項1-39に係る特許についての出願は,平成23年(2011年)4月28日(パリ条約による優先権主張 欧州特許庁受理 2010年5月27日,以下,「本件優先日」という。)を国際出願日として出願され,平成30年3月23日にその特許権の設定登録がされ,平成30年4月11日に特許掲載公報が発行された。
その後,その特許について,平成30年9月21日に特許異議申立人矢部和夫により特許異議の申立てがされ,当審は,平成30年11月29日付け取消理由を通知した。特許権者は,その指定期間内である平成31年3月1日に意見書の提出及び訂正の請求(以下,「本件訂正請求」という。)を行い,本件訂正請求に対して,特許異議申立人は,平成31年4月11日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は,次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に,
「前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,」
とあるのを,
「前記配合物は25℃において2.23?5.0mPa秒の範囲内の粘度を有し,」
に訂正する(請求項1の記載を直接または間接的に引用する請求項3,5?8,12,15,16,21,23,24,32,33および37?39も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に,
「前記配合物は,22mN/m?50mN/mの範囲内の表面張力を含むことを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。」
とあるうち,請求項1を引用するものについて独立形式に改め,
「有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,前記配合物は22mN/m?50mN/mの範囲内の表面張力を含むことを特徴とする方法。」
に訂正する(請求項4の記載を直接または間接的に引用する請求項5?8,12,15,16,21,23,24,32,33および37?39も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項9に,
「前記芳香族炭化水素化合物は,シクロアルキル基を含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。」
とあるうち,請求項1を間接的に引用するものについて独立形式に改め,
「有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,前記有機溶媒は1種類以上の芳香族炭化水素化合物を含み,前記芳香族炭化水素化合物はシクロアルキル基を含むことを特徴とする方法。」
に訂正する(請求項9の記載を直接または間接的に引用する請求項12,15,16,21,23,24,32,33および37?39も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項10に,
「前記芳香族炭化水素化合物は,1?8個の炭素原子を有するアルキル基を含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。」
とあるうち,請求項1を間接的に引用するものについて独立形式に改め,
「有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,前記有機溶媒は1種類以上の芳香族炭化水素化合物を含み,前記芳香族炭化水素化合物は1?8個の炭素原子を有するアルキル基を含むことを特徴とする方法。」
に訂正する(請求項10の記載を直接または間接的に引用する請求項12,15,16,21,23,24,32,33および37?39も同様に訂正する)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項11に,
「前記有機溶媒または溶媒ブレンドは,炭化水素芳香族化合物の混合物であることを特徴とする請求項1?10のいずれか1項に記載の方法。」
とあるうち,請求項1を間接的に引用するものについて独立形式に改め,
「有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,前記有機溶媒または溶媒ブレンドは炭化水素芳香族化合物の混合物であることを特徴とする方法。」
に訂正する(請求項11の記載を直接または間接的に引用する請求項12,15,16,21,23,24,32,33および37?39も同様に訂正する)。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項13に,
「前記有機溶媒は異なる沸点を有する化合物の混合物であり,最低の沸点を有する化合物の沸点は,最高の沸点を有する化合物の沸点より少なくとも10℃低いことを特徴とする請求項1?12のいずれか1項に記載の方法。」
とあるうち,請求項1を引用するものについて独立形式に改め,
「有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,前記有機溶媒は異なる沸点を有する化合物の混合物であり,最低の沸点を有する化合物の沸点は最高の沸点を有する化合物の沸点より少なくとも10℃低いことを特徴とする方法。」
に訂正する(請求項13の記載を直接または間接的に引用する請求項15,16,21,23,24,32,33および37?39も同様に訂正する)。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項14に,
「前記有機溶媒は異なる沸点を有する化合物の混合物であり,最低の沸点を有する化合物の沸点は,最高の沸点を有する化合物の沸点より最大で100℃低いことを特徴とする請求項1?13のいずれか1項に記載の方法。」
とあるうち,請求項1を引用するものについて独立形式に改め,
「有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,前記有機溶媒は異なる沸点を有する化合物の混合物であり,最低の沸点を有する化合物の沸点は最高の沸点を有する化合物の沸点より最大で100℃低いことを特徴とする方法。」
に訂正する(請求項14の記載を直接または間接的に引用する請求項15,16,21,23,24,32,33および37?39も同様に訂正する)。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項17に,
「前記配合物は,少なくとも1種類の不活性バインダーを含むことを特徴とする請求項1?16のいずれか1項に記載の方法。」
とあるうち,請求項1を引用するものについて独立形式に改め,
「有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,前記配合物は少なくとも1種類の不活性バインダーを含むことを特徴とする方法。」
に訂正する(請求項17の記載を直接または間接的に引用する請求項18?21,23,24,32,33および37?39も同様に訂正する)。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項22に,
「有機半導体化合物は,5000g/mol以下の分子量を有することを特徴とする請求項1?21のいずれか1項に記載の方法。」
とあるうち,請求項1を引用するものについて独立形式に改め,
「有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,有機半導体化合物は5000g/mol以下の分子量を有することを特徴とする方法。」
に訂正する(請求項22の記載を直接または間接的に引用する請求項23,24,32,33および37?39も同様に訂正する)。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項25に,
「有機半導体化合物は,以下の式の化合物であることを特徴とする請求項1?22のいずれか1項に記載の方法。」
とあるうち,請求項1を引用するものについて独立形式に改め,
「有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,有機半導体化合物は以下の式の化合物であることを特徴とする方法。」
に訂正する(請求項25の記載を直接または間接的に引用する請求項32,33および37?39も同様に訂正する)。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項26に,
「有機半導体化合物は,以下の式の化合物であることを特徴とする請求項1?22のいずれか1項に記載の方法。」
とあるうち,請求項1を引用するものについて独立形式に改め,
「有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,有機半導体化合物は以下の式の化合物であることを特徴とする方法。」
に訂正する(請求項26の記載を直接または間接的に引用する請求項27,32,33および37?39も同様に訂正する)。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項28に,
「有機半導体化合物は,光を発し,加えて,38より大きい原子番号を有する少なくとも1個の原子を含有する有機リン光性化合物であることを特徴とする請求項1?22のいずれか1項に記載の方法。」
とあるうち,請求項1を引用するものについて独立形式に改め,
「有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,有機半導体化合物は光を発し,加えて38より大きい原子番号を有する少なくとも1個の原子を含有する有機リン光性化合物であることを特徴とする方法。」
に訂正する(請求項28の記載を直接または間接的に引用する請求項29,30,32,33および37?39も同様に訂正する)。
(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項31に,
「配合物は,ホスト材料を含むことを特徴とする請求項1?30のいずれか1項に記載の方法。」
とあるうち,請求項1を引用するものについて独立形式に改め,
「有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,配合物はホスト材料を含むことを特徴とする方法。」
に訂正する(請求項31の記載を直接または間接的に引用する請求項32,33および37?39も同様に訂正する)。
(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項34に,
「配合物は,少なくとも1種類の湿潤剤を含むことを特徴とする請求項1?33のいずれか1項に記載の方法。」
とあるうち,請求項1を引用するものについて独立形式に改め,
「有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,配合物は少なくとも1種類の湿潤剤を含むことを特徴とする方法。」
に訂正する(請求項34の記載を引用する請求項35および37?39も同様に訂正する)。
(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項36に,
「印刷装置のセルエッチングは,4cm3/m2?18cm3/m2の範囲内であることを特徴とする請求項1?35のいずれか1項に記載の方法。」
とあるうち,請求項1を引用するものについて独立形式に改め,
「有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,印刷装置のセルエッチングは4cm3/m2?18cm3/m2の範囲内であることを特徴とする方法。」
に訂正する(請求項36の記載を引用する請求項37?39も同様に訂正する)。
本件訂正請求は,一群の請求項〔1,3-39〕に対して請求されたものである。
2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は,請求項1に記載された粘度の数値範囲の上限を「9.5mPa秒」から「5.0mPa秒」に変更するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして,粘度を「5.0mPa秒」とすることは,本件特許の願書に添付した明細書(以下,「本件特許明細書」という。)の段落【0289】に記載されているから,訂正事項1は本件特許明細書の範囲内のものであり,また,粘度の数値範囲を狭めるものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないと認められる。
(2)訂正事項2ないし15について
訂正事項2ないし15は,いずれも,それぞれの請求項について,その請求項1を引用する部分を,独立形式の請求項に改めるとともに,請求項1以外の請求項を引用する部分を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって,新規事項を追加するものではないし,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないと認められる。
3 小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1,3-39〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された(ただし,請求項2は訂正されていない。)請求項1-39に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明39」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1-39に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?5.0mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により,前記配合物が塗工されることを特徴とする方法。
【請求項2】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であり,前記有機溶媒はシクロアルキル基を有する芳香族炭化水素化合物および芳香族アルコキシ化合物より選択されることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により,前記配合物が塗工されることを特徴とする方法。
【請求項3】
前記配合物は,溶液であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,前記配合物は22mN/m?50mN/mの範囲内の表面張力を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
前記有機溶媒は,17.0?23.2MPa^(0.5)の範囲内のH_(d),0.2?12.5MPa^(0.5)の範囲内のH_(p)および0.0?20.0MPa^(0.5)の範囲内のH_(h)のハンセン溶解度パラメータを含むことを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶媒は,17.0?23.2MPa^(0.5)の範囲内のH_(d),0.2?10.5MPa^(0.5)の範囲内のH_(p)および0.0?5.0MPa^(0.5)の範囲内のH_(h)のハンセン溶解度パラメータを含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記有機溶媒は,1種類以上の芳香族および/またはヘテロ芳香族化合物を含むことを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記有機溶媒は,1種類以上の芳香族炭化水素化合物を含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,前記有機溶媒は1種類以上の芳香族炭化水素化合物を含み,前記芳香族炭化水素化合物はシクロアルキル基を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,前記有機溶媒は1種類以上の芳香族炭化水素化合物を含み,前記芳香族炭化水素化合物は1?8個の炭素原子を有するアルキル基を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,前記有機溶媒または溶媒ブレンドは炭化水素芳香族化合物の混合物であることを特徴とする方法。
【請求項12】
前記有機溶媒は,少なくとも130℃の沸点を含むことを特徴とする請求項1?11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,前記有機溶媒は異なる沸点を有する化合物の混合物であり,最低の沸点を有する化合物の沸点は最高の沸点を有する化合物の沸点より少なくとも10℃低いことを特徴とする方法。
【請求項14】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,前記有機溶媒は異なる沸点を有する化合物の混合物であり,最低の沸点を有する化合物の沸点は最高の沸点を有する化合物の沸点より最大で100℃低いことを特徴とする方法。
【請求項15】
前記配合物は,少なくとも80重量%の前記有機溶媒を含むことを特徴とする請求項1?14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記溶媒は,少なくとも1.5の分配率logPを含むことを特徴とする請求項1?15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,前記配合物は少なくとも1種類の不活性バインダーを含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
前記不活性バインダーは,スチレンモノマーおよび/またはオレフィンより誘導される繰返単位を含むポリマーであることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記不活性バインダーは,スチレンモノマーおよび/またはオレフィンより誘導される繰返単位を少なくとも80重量%含むポリマーであることを特徴とする請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記不活性バインダーは,少なくとも200,000g/molの重量平均分子量を有するポリマーであることを特徴とする請求項17?19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
有機半導体化合物は,有機発光材料および/または電荷輸送材料であることを特徴とする請求項1?20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,有機半導体化合物は5000g/mol以下の分子量を有することを特徴とする方法。
【請求項23】
有機半導体化合物は,以下の式から選択される化合物であることを特徴とする請求項1?22のいずれか1項に記載の方法。
【化1】


(式中,
nは1より大きい整数であり,
Rは,それぞれの出現において同一または異なって,H,F,Cl,Br,I,CN,直鎖状,分岐状または環状で1?40個のC原子を有するアルキル基(ただし,1個以上のC原子は,O-および/またはS-原子がそれぞれ互いに直接連結しないようにして,O,S,O-CO,CO-O,O-CO-O,CR^(0)=CR^(0)またはC≡Cで置き換えられていてもよく,ただし,1個以上のH原子は,F,Cl,Br,IまたはCNで置き換えられていてもよい。)を表すか,または,4?20個の環原子を有するアリールまたはヘテロアリール基(該基は無置換であるか,1個以上の非芳香族基R^(S)で置換されている。)を表し,ただし,また,1個以上の基Rは,互いと共に,および/または,基Rが連結されている環と共に,単環状または多環状の脂肪族または芳香族環系を形成していてもよく,
R^(S)は,それぞれの出現において同一または異なって,F,Cl,Br,I,CN,Sn(R^(00))_(3),Si(R^(00))_(3)またはB(R^(00))_(2),直鎖状,分岐状または環状で1?25個のC原子を有するアルキル基(ただし,1個以上のC原子は,O-および/またはS-原子がそれぞれ互いに直接連結しないようにして,O,S,O-CO,CO-O,O-CO-O,CR^(0)=CR^(0),C≡Cで置き換えられていてもよく,ただし,1個以上のH原子は,F,Cl,Br,IまたはCNで置き換えられていてもよい。)を表すか,または,R^(S)は,4?20個の環原子を有するアリールまたはヘテロアリール基(該基は無置換であるか,1個以上の非芳香族基R^(S)で置換されている。)を表し,ただし,また,1個以上の基R^(S)は,互いと共に,および/または,Rと共に,環系を形成していてもよく,
R^(0)は,それぞれの出現において同一または異なって,H,F,Cl,CN,1?12個のC原子を有するアルキル,または,4?10個の環原子を有するアリールまたはヘテロアリールを表し,
R^(00)は,それぞれの出現において同一または異なって,H,1?20個のC原子を有する脂肪族または芳香族炭化水素基を表し,ただし,また,2個の基R^(00)は,それらが連結されているヘテロ原子(Sn,SiまたはB)と共に環を形成していてもよく,
rは,0,1,2,3または4であり,
sは,0,1,2,3,4または5である。)
【請求項24】
nは,10?1,000の整数であることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,有機半導体化合物は以下の式の化合物であることを特徴とする方法。
【化2】


(式中,R^(1),R^(2),R^(3),R^(4),R^(7),R^(8),R^(9),R^(10),R^(15),R^(16),R^(17)は,それぞれ独立に,同一または異なって,それぞれ独立に,H;置換されていてもよいC_(1)?C_(40)のカルビルまたはヒドロカルビル基;置換されていてもよいC_(1)?C_(40)のアルコキシ基;置換されていてもよいC_(6)?C_(40)のアリールオキシ基;置換されていてもよいC_(7)?C_(40)のアルキルアリールオキシ基;置換されていてもよいC_(2)?C_(40)のアルコキシカルボニル基;置換されていてもよいC_(7)?C_(40)のアリールオキシカルボニル基;シアノ基(-CN);カルバモイル基(-C(=O)NH_(2));ハロホルミル基(-C(=O)-X,式中,Xはハロゲン原子を表す。);ホルミル基(-C(=O)-H);イソシアノ基;イソシアネート基;チオシアネート基またはチオイソシアネート基;置換されていてもよいアミノ基;ヒドロキシ基;ニトロ基;CF3基;ハロ基(Cl,Br,F);置換されていてもよいシリル基を表し;および,Aは,ケイ素またはゲルマニウムを表し,および,
式中,組R^(1)およびR^(2),R^(2)およびR^(3),R^(3)およびR^(4),R^(7)およびR^(8),R^(8)およびR^(9),R^(9)およびR^(10),R^(15)およびR^(16),および,R^(16)およびR^(17)は,それぞれ,独立に,互いに架橋されてC_(4)?C_(40)の飽和または不飽和環を形成していてもよく,その飽和または不飽和環には,酸素原子,硫黄原子,または,式-N(R^(a))-(式中,R^(a)は,水素原子または炭化水素基である。)の基が介在していてもよく,また置換されていてもよく,および
式中,ポリアセン骨格の1個以上の炭素原子は,N,P,As,O,S,SeおよびTeより選択されるヘテロ原子によって置換されていてもよい。)
【請求項26】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,有機半導体化合物は以下の式の化合物であることを特徴とする方法。
【化3】


(式中,
Y^(1)およびY^(2)の一方は-CH=または=CH-を表し,他方は-X-を表し,
Y^(3)およびY^(4)の一方は-CH=または=CH-を表し,他方は-X-を表し,
Xは,-O-,-S-,-Se-または-NR’’’-であり,
R’は,H,F,Cl,Br,I,CN,直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシ(該基は,1?20個のC原子を有し,フッ素化またはペルフルオロ化されていてもよい。),6?30個のC原子を有するフッ素化またはペルフルオロ化されていてもよいアリール,または,CO_(2)R””(式中,R””は,H,1?20個のC原子を有するフッ素化されていてもよいアルキル,または,2?30個のC原子を有するフッ素化されていてもよいアリールである。)であり,
R”は,複数出現する場合は互いに独立に,1?20個のC原子を有する環状,直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシ,または,2?30個のC原子を有するアリールであり,それらは全てフッ素化またはペルフルオロ化されていてもよく,
R’’’は,H,または,1?10個のC原子を有する環状,直鎖状または分岐状のアルキルであり,
mは,0または1であり,
oは,0または1である。)
【請求項27】
R”は,複数出現する場合は互いに独立に,1?8個のC原子を有する環状,直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシ,または,2?30個のC原子を有するアリールであり,それらは全てフッ素化またはペルフルオロ化されていてもよいことを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,有機半導体化合物は光を発し,加えて38より大きい原子番号を有する少なくとも1個の原子を含有する有機リン光性化合物であることを特徴とする方法。
【請求項29】
リン光性化合物は,式(1)?(4)の化合物であることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【化4】


(式中,
DCyは,それぞれの出現において同一または異なって,少なくとも1個のドナー原子,カルベンの形態の炭素またはリンを含有する環状基であり,これらを介して該環状基は金属に結合されており,これらは1個以上の置換基R^(18)を有していてもよく;基DCyおよびCCyは,共有結合を介して互いに連結されており;
CCyは,それぞれの出現において同一または異なって,炭素原子を含有する環状基であり,該炭素原子を介して該環状基は金属に結合されており,該炭素原子は順次に1個以上の置換基R^(18)を有していてもよく;
Aは,それぞれの出現において同一または異なって,モノアニオン性の二座キレート配位子であり;
R^(18)は,それぞれの出現において同一または異なって,F,Cl,Br,I,NO_(2),CN,1?20個の炭素原子を有する直鎖状,分岐状または環状のアルキルまたはアルコキシ基(ただし,1個以上の隣接していないCH_(2)基は,-O-,-S-,-NR^(19)-,-CONR^(19)-,-CO-O-,-C=O-,-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられていてもよく,ただし,1個以上の水素原子は,Fで置き換えられていてもよい。),または,4?14個の炭素原子を有し,1個以上の非芳香族R^(18)基で置換されていてもよいアリールまたはヘテロアリール基であり,複数の置換基R^(18)は,同一の環上または2個の異なる環上のいずれかにおいて,共に順次に単環または多環の脂肪族または芳香族の環系を形成していてもよく;および
R^(19)は,それぞれの出現において同一または異なって,1?20個の炭素原子を有する直鎖状,分岐状または環状のアルキルまたはアルコキシ基(ここで,1個以上の隣接していないCH_(2)基は,-O-,-S-,-CO-O-,-C=O-,-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられていてもよく,ただし,1個以上の水素原子は,Fで置き換えられていてもよい。),または,4?14個の炭素原子を有し,1個以上の非芳香族R^(18)基で置換されていてもよいアリールまたはヘテロアリール基である。)
【請求項30】
・ドナー原子は,窒素であり,
・二座キレート配位子は,ジケトナート配位子である
ことを特徴とする請求項29に記載の方法。
【請求項31】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,配合物はホスト材料を含むことを特徴とする方法。
【請求項32】
配合物は,0.1?5重量%の有機半導体化合物を含むことを特徴とする請求項1?31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記不活性バインダーに対する前記半導体化合物の重量比は,5:1?1:1の範囲内であることを特徴とする請求項17?32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,配合物は少なくとも1種類の湿潤剤を含むことを特徴とする方法。
【請求項35】
前記湿潤剤は揮発性であり,前記半導体化合物とは化学的に反応できないことを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項36】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され,印刷装置のセルエッチングは4cm^(3)/m^(2)?18cm^(3)/m^(2)の範囲内であることを特徴とする方法。
【請求項37】
印刷速度は,100m/分以下であることを特徴とする請求項1?36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
配合物が塗工される表面は,25?130mNm^(-1)の範囲内の表面エネルギーを含むことを特徴とする請求項1?37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
溶媒の蒸発は,溶媒の沸点未満で達成されることを特徴とする請求項1?38のいずれか1項に記載の方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正請求による訂正前の請求項1,3,5-8,12,15,16,21,23,24,32,37-39に係る特許に対して,当審が平成30年11月29日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は,次のとおりである。
(1)新規性
請求項1,3,5-8,12,15,16,23,24,32,37-39に係る発明は,本件優先日前に日本国内又は外国において,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(下記甲第1号証)であって,特許法第29条第1項第3号に該当するから,同請求項に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)進歩性
請求項21に係る発明及び請求項23,24,32,37-39に係る発明(ただし,請求項21を引用する部分のみ。)は,本件優先日前に日本国内又は外国において,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(下記各甲号証)に基いて,本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,同請求項に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:Voigt et al.,"Polymer Field-Effect Transistors Fabricated by the Sequential Gravure Printing of Polythiophene, Two Insulator Layers, and a Metal Ink Gate", Advanced Functional Materials, 2010, 20, WILEY-VCH Verlag GmbH & Co.,pp.239-246
甲第2号証:国際公開第2009/109273号
甲第4号証:国際公開第2011/147523号
甲第7号証:"Solid surface energy data (SFE) for common polymers",[online],2017年2月25日,

2 甲号証の記載
(1)甲第1号証について
ア 甲第1号証
甲第1号証は,その245頁右欄32行に「Published online: December 16,2009」(訳:オンライン公開:2009年12月16日)と記載されていることから,同日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったと認められる。そして,同号証には,図面とともに,次の記載がある。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
a 「The mass production technique of gravure contact printing is used to fabricate state-of-the art polymer field-effect transistors (FETs). Using plastic substrates with prepatterned indium tin oxide source and drain contacts as required for display applications, four different layers are sequentially gravure-printed: the semiconductor poly(3-hexylthiophene-2,5-diyl)(P3HT), two insulator layers, and an Ag gate. A crosslinkable insulator and an Ag ink are developed which are both printable and highly robust. Printing in ambient and using this bottom-contact/top-gate geometry, an on/off ratio of >10^(4) and a mobility of 0.04 cm^(2) V^(-1) s^(-1) are achieved. This rivals the best top-gate polymer FETs fabricated with these materials. Printing using low concentration, low viscosity ink formulations, and different P3HT molecular weights is demonstrated. The printing speed of 40 m min-1 on a flexible polymer substrate demonstrates that very high-volume, reel-to-reel production of organic electronic devices is possible.」(239頁左欄)
(訳:グラビアコンタクト印刷における大量生産技術を使用して,最新式ポリマー電界効果トランジスタ(FET)を作成する。ディスプレイ応用のために必要なプレパターニングされた酸化インジウムスズソースおよびドレインコンタクトを備えたプラスチック基板を使用して,4つの異なる層,すなわち半導体ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT),2つの絶縁層,及びAgゲート,を連続的にグラビア印刷する。架橋性絶縁体およびAgインクを開発するが,これらは両方とも印刷可能であり,高度にロバストである。周囲環境中での印刷,およびこのボトムコンタクト/トップゲートジオメトリの使用により,>10^(4)のオン/オフ比および0.04cm^(2)/V/秒の移動度が達成される。これは,これらの材料によって作製された最良のトップゲートポリマーFETに匹敵する。低濃度,低粘度のインク配合物,および異なるP3HT分子量を使用する印刷を実証する。可撓性ポリマー基板上における40m/分の印刷速度は,非常に大量のリール・トゥ・リール式の有機電子デバイスの製造が可能であることを示す。)
b 「2.1 Gravure Contact Pringing
The gravure contact printing process is illustrated in Figure 1i.
(中略)
During printing, the cliche moves from left to right in Figure 1i at a typical speed of about 1m s^(-1).
(中略)
For successful ink transfer, the surface energy and wetting behavior of the substrate must be more favorable to the ink than those of the cliche (Fig.1i,inset a). Also, the shear forces, dependent on the printing speed and ink shear behavior, must allow the ink to be pulled onto the substrate.
(中略)
The solvent then evaporates (Fig. 1i, incet c) leaving behind a layer of material in the print pattern (Fig.1i, inset d). The same issues apply to any subsequent printed layers.
For this work flexible polyethersulphone(PES)substrates were used.」(240頁右欄9行-241頁左欄27行)
(訳:2.1.グラビアコンタクト印刷
グラビアコンタクト印刷プロセスを,図1iに示す。
(中略)
印刷の間,クリシェは図1iにおける左から右へと,通常は約1m/秒の速度において移動する。
(中略)
インク転写の成功のために,基板における表面エネルギーおよび濡れ挙動は,クリシェにおけるものよりも,よりインクに対して親和的でなければならない(図1i,挿入図a)また,剪断力は,印刷速度およびインク剪断挙動に依存して,インクが基板上に引っ張られることを可能にしなければならない。
(中略)
次いで溶媒が蒸発し(図1i,挿入図c),その後に,印刷パターンにおける材料の層を残す(図1i,挿入図d)。同じことが,引き続くあらゆる印刷された層に適用される。
本研究のために,可撓性ポリエーテルスルホン(PES)基板を使用した。)
(中略)
c 「High concentrations of P3HT(SMW) in chlorobenzene(CB)at room temparature showed a similar shear thinning and thixotropic behabior.
(中略)
To reduce film thickness and surface roughness, low concentrations of P3HT(SMW) in o-DCB, 1,2,3,4-tetrahydronaphthalene(THN), and other solvents and solvent blends were investigated. These follow Newtonian behavior and are at a much lower viscosity of 1-10 mPa s(Fig 2i). Typical printed films for low concentrations of P3HT(SMW) in THN, o-DCB, and indan are shown in Figure 2iia-c. These have a thickness and surface roughness of about 100±10nm. This clearly shows that low viscosity formulations (atypical in standard gravure), with values similar to those used in other techniques, such as ink-jet and standard molecular weight polymer semiconductors can be successfully printed using gravure.」(241頁右欄18行-242頁左欄9行)
(訳:室温におけるクロロベンゼン(CB)中の高濃度のP3HT(SMW)は,類似したずり流動化およびチキソトロピー挙動を示した。
(中略)
膜厚さおよび表面粗さを低減させるために,o-DCB,1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(THN),ならびに他の溶媒および溶媒ブレンド中における低濃度のP3HT(SMW)を調べた。これらはニュートン挙動に従い,1?10mPa秒というはるかに低い粘度におけるものである(図2i)。THN,o-DCB,およびインダン中における低濃度のP3HT(SMW)についての,典型的な印刷された膜を図2ii.a?cに示す。これらは,約100±10nmの厚さおよび表面粗さを有する。このことは,低粘度配合物(標準的なグラビアにおいては非典型的なもの)であって,インクジェットおよび標準分子量ポリマー半導体のような他の技術において使用されるものと類似した値を有するものが,グラビアを使用して成功裏に印刷することができることを明瞭に示す。)
d 図2(i)とその注釈は次のとおりである。

(訳:図2.i)異なるインクにおける粘度対時間剪断流測定。3?6秒の間において,剪断速度は1200/秒であった。3秒より前および6秒より後において,剪断速度は10または50/秒であった。インクは市販の黒色および赤色参照インク:CB中における20質量%,THN中における3質量%,o-DCB中における2質量%,およびCB:THN(体積比は95:5)中における3質量%のSMW P3HT配合物;o-DCB中における2質量%のHMW P3HT配合物。(後略))
イ 引用発明
前記アdより,THN中における3質量%のP3HT配合物は,時間1?9秒の間,その粘度が5ないし6mPa秒でほぼ一定であると認められる。
そして,前記アより,甲第1号証には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「半導体ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT)配合物であって,1,2,3,4-テトラヒドロ-ナフタレン(THN)溶媒のものは,粘度が5ないし6mPa秒であって,
このP3HT配合物をグラビア印刷した膜を使用してFETを作製し,
グラビア印刷プロセスでは,基板にインクが転写され,インク溶媒が蒸発すること。」
(2)甲第2号証について
甲第2号証には,次の事項が記載されていると認められる。
「1,2,3,4-テトラヒドロ-ナフタレン」は,分配率logPが3.714であること。(表1のNo26(32頁)及び10頁6-12行)
(3)甲第4号証について
甲第4号証には,次の事項が記載されていると認められる。
ア 「1,2,3,4-テトラヒドロ-ナフタレン」はその沸点が約207℃であること。(9頁表1の1行目)
イ 「1,2,3,4-テトラヒドロ-ナフタレン」は,H_(d)が19.1MPa^(0.5),H_(p)が4MPa^(0.5),H_(h)が2.3MPa^(0.5)のハンセン溶解度パラメータを持つこと。(9頁表1の1行目)
(4)甲第7号証について
甲第7号証には,次の事項が記載されていると認められる。
ポリエチレンの表面エネルギーは35.3?35.7mN/mであること。(表中の1行目及び2行目)
3 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と引用発明との対比
a 引用発明の「半導体ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT)」は,本件発明1の「有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)」に相当するから,引用発明の「P3HT配合物をグラビア印刷した膜を使用してFETを作製し」は,本件発明1の「有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって」「グラビア印刷またはフレキソ印刷により,前記配合物が塗工されることを特徴とする方法」に相当する。
b 引用発明の「1,2,3,4-テトラヒドロ-ナフタレン(THN)」は,その沸点が約207℃である(前記2(3)ア)から,本件発明1の「有機溶媒の沸点は最高で400℃であること」に相当し,すると,引用発明の「半導体ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT)配合物であって,1,2,3,4-テトラヒドロ-ナフタレン(THN)溶媒のもの」は,本件発明1の「フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって」「前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であること」に相当する。
c 引用発明の「基板にインクが転写され」は,本件発明1の「配合物を基板上に堆積する工程」に相当する。
d 引用発明の「インク溶媒が蒸発する」は,本件発明1の「前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程」に相当する。
e すると,本件発明1と引用発明とは,下記fの点で一致し,下記gの点で相違する。
f 一致点
「有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって,
a)フィルムまたは層を形成するために,1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と,1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって,前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と,
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって,
グラビア印刷またはフレキソ印刷により,前記配合物が塗工されることを特徴とする方法。」
g 相違点
本件発明1では,「前記配合物は25℃において2.23?5.0mPa秒の範囲内の粘度を有」するのに対し,引用発明では,「配合物」は「粘度が5ないし6mPa秒で」ある点。
イ 判断
本件発明1と引用発明とは,前記アgの点で相違するから,本件発明1は引用発明ではない。
すすんで,相違点について,本件発明1を引用発明に基づいて発明することが容易か否か判断する。
本件発明1の「粘度」とは,「TA Instruments社製AR G-2レオメータを使用して」「10秒^(-1)?1000秒^(-1)の範囲の剪断速度にわたって粘度を測定し,ニュートン適合方程式を使用して粘度を外挿し,全ての測定は25℃で行った」(本件特許明細書段落【0221】)ものである。すなわち,「10秒^(-1)?1000秒^(-1)の範囲の剪断速度」における「粘度を外挿」することにより得られる,剪断速度0/秒における粘度である。そして,剪断速度0/秒における粘度を所定の範囲とすることにより,「フレキソおよびグラビア印刷に適切である」「驚くほど高いレベルのフィルム形成を提供する。特に,フィルムの均一性および品位を向上できる」「低コストで容易な印刷プロセスが可能となる。該印刷プロセスにより,高速において高品位の印刷を行える。」(本件特許明細書段落【0017】及び【0018】)という,格別に有利な効果を奏するものと認められる。
一方,引用発明では,「剪断力は,印刷およびインク剪断挙動に依存して,インクが基板上に引っ張られることを可能にしなければならない」「グラビアコンタクト印刷」を前提とし(前記2(1)アb)て,「3?6秒の間において,剪断速度は1200/秒」「3秒より前および6秒より後において,剪断速度は10または50/秒」の下,「時間1?9秒の間,その粘度が5ないし6mP秒でほぼ一定である」(前記2(1)アd)というものであり,時間1?9秒の間,たまたま,粘度がほぼ一定であることから,剪断速度0/秒における粘度がわかるというにすぎない。
つまり,引用発明では,グラビアコンタクト印刷においてインクが基板上に引っ張られる際に大きな剪断力が加わり,インク剪断挙動に依存することから,印刷の際のインク剪断速度を考慮してその剪断速度での粘度を調整するというものであり,剪断速度0/秒における粘度を調整するという思想はない。
また,引用文献1には「膜厚さおよび表面粗さを低減させるために」「1?10mPa秒というはるかに低い粘度におけるもの」という記載がある(前記2(1)アc)が,その「粘度」は本件発明1にいう,剪断速度0/秒における「粘度」ではないから,相違点に係る構成とは関係がないというべきである。
ウ まとめ
したがって,本件発明1は,引用発明ではないし,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)本件発明3,5-8,12,15,16,21,23,24,32,37-39について
本件発明3,5-8,12,15,16,21,23,24,32,37-39は,それぞれ本件発明1を直接又は間接に引用するものであるから,前記(1)と同様の理由で,引用発明ではないし,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は意見書において,訂正後の粘度範囲「2.23?5.0mPas」に技術的な意味はなく,この範囲外の粘度を有する配合物を使用した場合と比較して優れた効果を奏するものではない,甲第1号証には,低粘度の配合物(1?10mPas)を使用するとグラビア印刷が成功することを記載されている(242頁,左欄の第1段落),甲第1号証に記載された配合物の5?6mPasの粘度範囲を,例えば,THNを更に加えるなどすることによって更に低くして,2.23?5.0mPasの範囲内の粘度とすることは当業者が容易に想到できることである,本件特許の印刷の高速化という課題はありふれた課題にすぎず,印刷の速度には配合物の粘度が関係することは根拠を示すまでもなく技術常識であるところ,甲第1号証に記載された5?6mPasの粘度の配合物を,高速な印刷の実現を目的として,更に低い粘度として2.23?5.0mPasの範囲内の粘度とすることは設計事項にすぎない旨を主張している。
しかし,そもそも,甲第1号証に記載されている「粘度」は本件発明1にいう「粘度」とは異なるものであることは,前記(1)イのとおりであるから,特許異議申立人の主張はその前提において失当であり,採用することができない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 本件発明4について
本件発明4と引用発明とを対比すると,本件発明4では「前記配合物は22mN/m?50mN/mの範囲内の表面張力を含む」のに対し,引用発明では配合物の表面張力が不明である点,で相違する。
そして,配合物の表面張力を22mN/m?50mN/mの範囲内とすることについて,開示ないし示唆する証拠はない。
異議申立人は,「1,2,3,4-テトラヒドロ-ナフタレン」の表面張力が33.3mN/mであり,引用発明の配合物において,P3HTの濃度は3%にすぎないから,その配合物の表面張力は33.33mN/m付近であると考えられると主張する。しかし,界面活性剤のように,たとえ濃度が微量でも,それを溶解した際に表面張力が大きく変化するものは存在しうるから,異議申立人の主張する理由は根拠がない。
2 本件発明17-20について
本件発明17と引用発明とを対比すると,本件発明17では「前記配合物は少なくとも1種類の不活性バインダーを含む」のに対し,引用発明では不活性バインダーを含まない点,で相違する。
そして,甲第2号証(26頁,17-22行)には「Optionally, the OSC formulation comprises one or more organic binders, preferably polymeric binders, as described for example in US 2007/0102696 A1 , to adjust the rheological properties, preferably in a proportion of binder to OSC compounds from 20:1 to 1 :20, preferably 10:1 to 1 :10, more preferably 5:1 to 1 :5 by weight.」(訳:レオロジー特性を調整するために,OSC配合物は,任意成分として,1種類以上の有機バインダー,好ましくは,例えば米国特許出願公開第2007/0102696号明細書に記載されているポリマーバインダーを,好ましくは,OSC化合物に対するバインダーの比率が重量比で20:1?1:20,好ましくは10:1?1:10,より好ましくは5:1?1:5で含むことができる。)と記載されており,配合物にバインダーを加えればレオロジー特性すなわち流動性が変化することにより粘度が変わってしまうから,引用発明に不活性バインダーを含ませることは,阻害要因があるというべきである。
よって,本願発明17は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明17を引用する本件発明18-20についても同様である。
3 甲第2号証に記載の発明に基づく新規性又は進歩性欠如について
甲第2号証には,インクないし配合物の粘度についての記載は一切ない。
異議申立人は,甲第2号証には,溶媒として,テトラリン(粘度2.0mPas),50%テトラリンと50%1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフトールとの混合物(粘度7.0cP)が例示されており,甲第2号証の実施例2で記載された40%o-キシレンと60%デカヒドロ-2-ナフトールとの混合物に代えて,同一文献内で溶媒として使用できることが記載されているテトラリンや,50%テトラリンと50%1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフトールとの混合物を使用することは当業者であれば容易に想到できたことである旨(異議申立書30頁11-25行)を主張している。同一文献内で記載されているとなぜ置換容易なのかその論理は不明であるが,これをおくとしても,甲第2号証に記載された溶媒の粘度がわかったとしても,その溶媒を用いたインクないし配合物の粘度は不明であるし,ましてや,インクないし配合物の粘度を一定の範囲とすることが容易に想到できるとはいえない。
また,異議申立人は,甲第1号証で教示されている1?10mPasの粘度を有する組成物を使用して成功裏にグラビア印刷できること,及び,甲第2号証自体に低粘度の溶媒(1,2,3,4-テトラヒドロナフタレンなど)を使用することの示唆もあることを踏まえると,甲第2号証に記載の発明において,甲第1号証に記載された構成を採用することは,当業者であれば容易に想到できる旨(異議申立書30頁27行-31頁15行)主張している。しかし,そもそも甲第1号証に記載された「粘度」は本件発明1にいう「粘度」とは異なるものであることは,前記第4の3(1)イのとおりであるから,異議申立人の主張はその前提において失当である。
よって,本件発明1は,甲第2号証に記載された発明ではないし,甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
本件発明3-8,10-23,25-27,32-34,36,37,39についても同様である。
4 原文新規事項について
異議申立人は,本件特許が特許法113条1号に該当する旨主張するが,本件特許は外国語特許出願によるものであるから,同法184条の18の規定により読み替えて適用する同法113条5号に該当するか否か,すなわち,訂正特許請求の範囲に記載した事項が国際出願日における国際出願の明細書(以下,「原文明細書」という。),請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にないかどうかを検討する。
(1)本件特許1-39について
本件特許1-39は,いずれも配合物の粘度の範囲の下限を「2.23mPa秒」とするものである。
そして,原文明細書には次のとおりの記載がある。
「Preferably, the formulation has a viscosity in the range of 0.5 to 9.5 mPas, especially from 1 to 9 mPas and more preferably from 1 ,5 to 8.5 mPas. According to a further aspect of the present invention, the viscosity is preferably situated in the range of 2 to 6 mPas.」(4頁24-27行,国際公開第2011/147523号の記載箇所による。以下同じ。)
(訳:好ましくは,該配合物は,0.5?9.5mPa秒,特には1?9mPa秒,より好ましくは1.5?8.5mPa秒の範囲内の粘度を有する。本発明の更なる態様によれば,粘度は,好ましくは,2?6mPa秒の範囲内にある。)
「Example 4 (Small molecule, gravure printed, top gate)
An OFET device was prepared as follows:
(中略)
Viscosity of 2.23cP as measured using an AR G-2 rheometer ex TA instruments. The viscosity was measured over a shear rate range of 10 sec ^(-1) to 1000 sec ^(-1) viscosity extrapolated using a Newtonian fit equation, all measurements taken at 25°C. 」(79頁25行-80頁10行)
(訳: <例4(小型分子,グラビア印刷,トップゲート)>
OFET装置を以下の通り調製した。
(中略)
TA Instruments社製AR G-2レオメータを使用して,2.23cPの粘度が測定された。10秒^(-1)?1000秒^(-1)の範囲の剪断速度にわたって粘度を測定し,ニュートン適合方程式を使用して粘度を外挿し,全ての測定は25℃で行った。)
よって,原文明細書には,配合物の粘度を一定の範囲内に限定すること,及び一例として,配合物の粘度を「2.23cP(=2.23mPa秒)」としてOFET装置が調製されることが記載されているから,これらを総合すれば,配合物の粘度の下限を「2.23mPa秒」とすることは,原文明細書に記載されているに等しい。
(2)本件発明2,3,5-8,12,15,16,21,23,24,32,33,37-39について
本件発明2,3,5-8,12,15,16,21,23,24,32,33,37-39は,いずれも「前記有機溶媒」は「芳香族アルコキシ化合物」とするものである。
そして,原文明細書には次のとおりの記載がある。
「The solvents can generally be selected from any chemical class that meets the physical criteria mentioned above, including, but not limited to, aliphatic or aromatic hydrocarbons, amines, thiols, amides, esters, ethers, polyethers, alcohols, diols and polyols. Preferably, the solvent comprises at least one aromatic and/or heteroaromatic compound.
(中略)
Preferably, these compounds include aromatic alkoxy compunds such as 3-methylanisol, 2-isopropylanisol, 5-methoxyindan, 2- ethoxynaphthalene, aromatic esters such as butylbenzoate, ethylbenzoate.」(6頁31行-7頁13行)
(訳:溶媒は,一般に,上述の物理的基準を満たす任意の化学物質類より選択することができ,限定することなく,脂肪族または芳香族炭化水素,アミン,チオール,アミド,エステル,エーテル,ポリエーテル,アルコール,ジオールおよびポリオールが挙げられる。好ましくは,溶媒は,少なくとも1種類の芳香族および/またはヘテロ芳香族化合物を含む。
(中略)
好ましくは,これらの化合物としては,3-メチルアニソール,2-イソプロピルアニソール,5-メトキシインダン,2-エトキシナフタレン,安息香酸ブチル,安息香酸エチルなどの芳香族エステルなどの芳香族アルコキシ化合物が挙げられる。)
よって,原文明細書には,「前記有機溶媒」を「芳香族アルコキシ化合物」とすることが記載されている。
5 まとめ
以上のとおりであるから,いずれの特許異議申立理由も成り立たない。

第6 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1-39に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項1-39に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって、
a)フィルムまたは層を形成するために、1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と、1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって、前記配合物は25℃において2.23?5.0mPa秒の範囲内の粘度を有し、前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と、
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって、
グラビア印刷またはフレキソ印刷により、前記配合物が塗工されることを特徴とする方法。
【請求項2】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって、
a)フィルムまたは層を形成するために、1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と、1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって、前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し、前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であり、前記有機溶媒はシクロアルキル基を有する芳香族炭化水素化合物および芳香族アルコキシ化合物より選択されることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と、
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって、
グラビア印刷またはフレキソ印刷により、前記配合物が塗工されることを特徴とする方法。
【請求項3】
前記配合物は、溶液であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって、
a)フィルムまたは層を形成するために、1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と、1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって、前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し、前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と、
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって、
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され、前記配合物は22mN/m?50mN/mの範囲内の表面張力を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
前記有機溶媒は、17.0?23.2MPa^(0.5)の範囲内のH_(d)、0.2?12.5MPa^(0.5)の範囲内のH_(p)および0.0?20.0MPa^(0.5)の範囲内のH_(h)のハンセン溶解度パラメータを含むことを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶媒は、17.0?23.2MPa^(0.5)の範囲内のH_(d)、0.2?10.5MPa^(0.5)の範囲内のH_(p)および0.0?5.0MPa^(0.5)の範囲内のH_(h)のハンセン溶解度パラメータを含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記有機溶媒は、1種類以上の芳香族および/またはヘテロ芳香族化合物を含むことを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記有機溶媒は、1種類以上の芳香族炭化水素化合物を含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって、
a)フィルムまたは層を形成するために、1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と、1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって、前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し、前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と、
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって、
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され、前記有機溶媒は1種類以上の芳香族炭化水素化合物を含み、前記芳香族炭化水素化合物はシクロアルキル基を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって、
a)フィルムまたは層を形成するために、1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と、1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって、前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し、前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と、
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって、
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され、前記有機溶媒は1種類以上の芳香族炭化水素化合物を含み、前記芳香族炭化水素化合物は1?8個の炭素原子を有するアルキル基を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって、
a)フィルムまたは層を形成するために、1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と、1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって、前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し、前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と、
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって、
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され、前記有機溶媒または溶媒ブレンドは炭化水素芳香族化合物の混合物であることを特徴とする方法。
【請求項12】
前記有機溶媒は、少なくとも130℃の沸点を含むことを特徴とする請求項1?11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって、
a)フィルムまたは層を形成するために、1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と、1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって、前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し、前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と、
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって、
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され、前記有機溶媒は異なる沸点を有する化合物の混合物であり、最低の沸点を有する化合物の沸点は最高の沸点を有する化合物の沸点より少なくとも10℃低いことを特徴とする方法。
【請求項14】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって、
a)フィルムまたは層を形成するために、1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と、1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって、前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し、前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と、
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって、
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され、前記有機溶媒は異なる沸点を有する化合物の混合物であり、最低の沸点を有する化合物の沸点は最高の沸点を有する化合物の沸点より最大で100℃低いことを特徴とする方法。
【請求項15】
前記配合物は、少なくとも80重量%の前記有機溶媒を含むことを特徴とする請求項1?14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記溶媒は、少なくとも1.5の分配率logPを含むことを特徴とする請求項1?15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって、
a)フィルムまたは層を形成するために、1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と、1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって、前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し、前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と、
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって、
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され、前記配合物は少なくとも1種類の不活性バインダーを含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
前記不活性バインダーは、スチレンモノマーおよび/またはオレフィンより誘導される繰返単位を含むポリマーであることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記不活性バインダーは、スチレンモノマーおよび/またはオレフィンより誘導される繰返単位を少なくとも80重量%含むポリマーであることを特徴とする請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記不活性バインダーは、少なくとも200,000g/molの重量平均分子量を有するポリマーであることを特徴とする請求項17?19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
有機半導体化合物は、有機発光材料および/または電荷輸送材料であることを特徴とする請求項1?20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって、
a)フィルムまたは層を形成するために、1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と、1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって、前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し、前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と、
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって、
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され、有機半導体化合物は5000g/mol以下の分子量を有することを特徴とする方法。
【請求項23】
有機半導体化合物は、以下の式から選択される化合物であることを特徴とする請求項1?22のいずれか1項に記載の方法。
【化1】


(式中、
nは1より大きい整数であり、
Rは、それぞれの出現において同一または異なって、H、F、Cl、Br、I、CN、直鎖状、分岐状または環状で1?40個のC原子を有するアルキル基(ただし、1個以上のC原子は、O-および/またはS-原子がそれぞれ互いに直接連結しないようにして、O、S、O-CO、CO-O、O-CO-O、CR^(0)=CR^(0)またはC≡Cで置き換えられていてもよく、ただし、1個以上のH原子は、F、Cl、Br、IまたはCNで置き換えられていてもよい。)を表すか、または、4?20個の環原子を有するアリールまたはヘテロアリール基(該基は無置換であるか、1個以上の非芳香族基R^(S)で置換されている。)を表し、ただし、また、1個以上の基Rは、互いと共に、および/または、基Rが連結されている環と共に、単環状または多環状の脂肪族または芳香族環系を形成していてもよく、
R^(S)は、それぞれの出現において同一または異なって、F、Cl、Br、I、CN、Sn(R^(00))_(3)、Si(R^(00))_(3)またはB(R^(00))_(2)、直鎖状、分岐状または環状で1?25個のC原子を有するアルキル基(ただし、1個以上のC原子は、O-および/またはS-原子がそれぞれ互いに直接連結しないようにして、O、S、O-CO、CO-O、O-CO-O、CR^(0)=CR^(0)、C≡Cで置き換えられていてもよく、ただし、1個以上のH原子は、F、Cl、Br、IまたはCNで置き換えられていてもよい。)を表すか、または、R^(S)は、4?20個の環原子を有するアリールまたはヘテロアリール基(該基は無置換であるか、1個以上の非芳香族基R^(S)で置換されている。)を表し、ただし、また、1個以上の基R^(S)は、互いと共に、および/または、Rと共に、環系を形成していてもよく、
R^(0)は、それぞれの出現において同一または異なって、H、F、Cl、CN、1?12個のC原子を有するアルキル、または、4?10個の環原子を有するアリールまたはヘテロアリールを表し、
R^(00)は、それぞれの出現において同一または異なって、H、1?20個のC原子を有する脂肪族または芳香族炭化水素基を表し、ただし、また、2個の基R^(00)は、それらが連結されているヘテロ原子(Sn、SiまたはB)と共に環を形成していてもよく、
rは、0、1、2、3または4であり、
sは、0、1、2、3、4または5である。)
【請求項24】
nは、10?1,000の整数であることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって、
a)フィルムまたは層を形成するために、1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と、1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって、前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し、前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と、
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって、
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され、有機半導体化合物は以下の式の化合物であることを特徴とする方法。
【化2】

(式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、R^(7)、R^(8)、R^(9)、R^(10)、R^(15)、R^(16)、R^(17)は、それぞれ独立に、同一または異なって、それぞれ独立に、H;置換されていてもよいC_(1)?C_(40)のカルビルまたはヒドロカルビル基;置換されていてもよいC_(1)?C_(40)のアルコキシ基;置換されていてもよいC_(6)?C_(40)のアリールオキシ基;置換されていてもよいC_(7)?C_(40)のアルキルアリールオキシ基;置換されていてもよいC_(2)?C_(40)のアルコキシカルボニル基;置換されていてもよいC_(7)?C_(40)のアリールオキシカルボニル基;シアノ基(-CN);カルバモイル基(-C(=O)NH_(2));ハロホルミル基(-C(=O)-X、式中、Xはハロゲン原子を表す。);ホルミル基(-C(=O)-H);イソシアノ基;イソシアネート基;チオシアネート基またはチオイソシアネート基;置換されていてもよいアミノ基;ヒドロキシ基;ニトロ基;CF_(3)基;ハロ基(Cl、Br、F);置換されていてもよいシリル基を表し;および、Aは、ケイ素またはゲルマニウムを表し、および、
式中、組R^(1)およびR^(2)、R^(2)およびR^(3)、R^(3)およびR^(4)、R^(7)およびR^(8)、R^(8)およびR^(9)、R^(9)およびR^(10)、R^(15)およびR^(16)、および、R^(16)およびR^(17)は、それぞれ、独立に、互いに架橋されてC_(4)?C_(40)の飽和または不飽和環を形成していてもよく、その飽和または不飽和環には、酸素原子、硫黄原子、または、式-N(R^(a))-(式中、R^(a)は、水素原子または炭化水素基である。)の基が介在していてもよく、また置換されていてもよく、および
式中、ポリアセン骨格の1個以上の炭素原子は、N、P、As、O、S、SeおよびTeより選択されるヘテロ原子によって置換されていてもよい。)
【請求項26】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって、
a)フィルムまたは層を形成するために、1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と、1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって、前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し、前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と、
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって、
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され、有機半導体化合物は以下の式の化合物であることを特徴とする方法。
【化3】

(式中、
Y^(1)およびY^(2)の一方は-CH=または=CH-を表し、他方は-X-を表し、
Y^(3)およびY^(4)の一方は-CH=または=CH-を表し、他方は-X-を表し、
Xは、-O-、-S-、-Se-または-NR’’’-であり、
R’は、H、F、Cl、Br、I、CN、直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシ(該基は、1?20個のC原子を有し、フッ素化またはペルフルオロ化されていてもよい。)、6?30個のC原子を有するフッ素化またはペルフルオロ化されていてもよいアリール、または、CO_(2)R””(式中、R””は、H、1?20個のC原子を有するフッ素化されていてもよいアルキル、または、2?30個のC原子を有するフッ素化されていてもよいアリールである。)であり、
R”は、複数出現する場合は互いに独立に、1?20個のC原子を有する環状、直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシ、または、2?30個のC原子を有するアリールであり、それらは全てフッ素化またはペルフルオロ化されていてもよく、
R’’’は、H、または、1?10個のC原子を有する環状、直鎖状または分岐状のアルキルであり、
mは、0または1であり、
oは、0または1である。)
【請求項27】
R”は、複数出現する場合は互いに独立に、1?8個のC原子を有する環状、直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシ、または、2?30個のC原子を有するアリールであり、それらは全てフッ素化またはペルフルオロ化されていてもよいことを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって、
a)フィルムまたは層を形成するために、1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と、1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって、前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し、前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と、
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって、
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され、有機半導体化合物は光を発し、加えて38より大きい原子番号を有する少なくとも1個の原子を含有する有機リン光性化合物であることを特徴とする方法。
【請求項29】
リン光性化合物は、式(1)?(4)の化合物であることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【化4】

(式中、
DCyは、それぞれの出現において同一または異なって、少なくとも1個のドナー原子、カルベンの形態の炭素またはリンを含有する環状基であり、これらを介して該環状基は金属に結合されており、これらは1個以上の置換基R^(18)を有していてもよく;基DCyおよびCCyは、共有結合を介して互いに連結されており;
CCyは、それぞれの出現において同一または異なって、炭素原子を含有する環状基であり、該炭素原子を介して該環状基は金属に結合されており、該炭素原子は順次に1個以上の置換基R^(18)を有していてもよく;
Aは、それぞれの出現において同一または異なって、モノアニオン性の二座キレート配位子であり;
R^(18)は、それぞれの出現において同一または異なって、F、Cl、Br、I、NO_(2)、CN、1?20個の炭素原子を有する直鎖状、分岐状または環状のアルキルまたはアルコキシ基(ただし、1個以上の隣接していないCH_(2)基は、-O-、-S-、-NR^(19)-、-CONR^(19)-、-CO-O-、-C=O-、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられていてもよく、ただし、1個以上の水素原子は、Fで置き換えられていてもよい。)、または、4?14個の炭素原子を有し、1個以上の非芳香族R^(18)基で置換されていてもよいアリールまたはヘテロアリール基であり、複数の置換基R^(18)は、同一の環上または2個の異なる環上のいずれかにおいて、共に順次に単環または多環の脂肪族または芳香族の環系を形成していてもよく;および
R^(19)は、それぞれの出現において同一または異なって、1?20個の炭素原子を有する直鎖状、分岐状または環状のアルキルまたはアルコキシ基(ここで、1個以上の隣接していないCH_(2)基は、-O-、-S-、-CO-O-、-C=O-、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられていてもよく、ただし、1個以上の水素原子は、Fで置き換えられていてもよい。)、または、4?14個の炭素原子を有し、1個以上の非芳香族R^(18)基で置換されていてもよいアリールまたはヘテロアリール基である。)
【請求項30】
・ドナー原子は、窒素であり、
・二座キレート配位子は、ジケトナート配位子である
ことを特徴とする請求項29に記載の方法。
【請求項31】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって、
a)フィルムまたは層を形成するために、1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と、1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって、前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し、前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と、
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって、
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され、配合物はホスト材料を含むことを特徴とする方法。
【請求項32】
配合物は、0.1?5重量%の有機半導体化合物を含むことを特徴とする請求項1?31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記不活性バインダーに対する前記半導体化合物の重量比は、5:1?1:1の範囲内であることを特徴とする請求項17?32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって、
a)フィルムまたは層を形成するために、1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と、1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって、前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し、前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と、
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって、
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され、配合物は少なくとも1種類の湿潤剤を含むことを特徴とする方法。
【請求項35】
前記湿潤剤は揮発性であり、前記半導体化合物とは化学的に反応できないことを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項36】
有機電子(OE:organic electronic)装置を調製する方法であって、
a)フィルムまたは層を形成するために、1種類以上の有機半導体化合物(OSC:organic semiconducting compound)と、1種類以上の有機溶媒とを含む配合物であって、前記配合物は25℃において2.23?9.5mPa秒の範囲内の粘度を有し、前記有機溶媒の沸点は最高で400℃であることを特徴とする配合物を基板上に堆積する工程と、
b)前記有機溶媒(1種類または多種類)を除去する工程と
を含む方法であって、
グラビア印刷またはフレキソ印刷により前記配合物が塗工され、印刷装置のセルエッチングは4cm^(3)/m^(2)?18cm^(3)/m^(2)の範囲内であることを特徴とする方法。
【請求項37】
印刷速度は、100m/分以下であることを特徴とする請求項1?36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
配合物が塗工される表面は、25?130mNm^(-1)の範囲内の表面エネルギーを含むことを特徴とする請求項1?37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
溶媒の蒸発は、溶媒の沸点未満で達成されることを特徴とする請求項1?38のいずれか1項に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-04-24 
出願番号 特願2013-511565(P2013-511565)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 54- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩本 勉  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 深沢 正志
加藤 浩一
登録日 2018-03-23 
登録番号 特許第6309269号(P6309269)
権利者 メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
発明の名称 有機電子装置を調製するための配合物および方法  
代理人 小野 暁子  
代理人 伊藤 克博  
代理人 小野 暁子  
代理人 伊藤 克博  

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