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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G05B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G05B |
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管理番号 | 1352305 |
異議申立番号 | 異議2018-701001 |
総通号数 | 235 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-07-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-12-11 |
確定日 | 2019-05-10 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6342935号発明「揺動切削を行う工作機械のサーボ制御装置,制御方法及びコンピュータプログラム」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6342935号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-10〕,11,12について訂正することを認める。 特許第6342935号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6342935号の請求項1ないし12に係る特許についての出願は,平成28年3月29日に出願され,平成30年5月25日にその特許権の設定登録がされ,同年6月13日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許について,平成30年12月11日に特許異議申立人鈴木正剛(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ,当審は,平成31年2月20日付けで取消理由を通知し,同年3月13日に特許権者ファナック株式会社(以下「特許権者」という。)の代理人と電話及びファクシミリによる応対を行った。そして,特許権者は,取消理由の指定期間内である平成31年3月25日に訂正の請求を行った。 なお,以下の第2で説示するとおり,平成31年3月25日の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は,誤記の訂正のみを請求するものであるから,特許法(以下「法」という。)120条の5第5項ただし書の「特別の事情があるとき」に該当し,申立人に意見書を提出する機会を与えない。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の趣旨及び訂正の内容 本件訂正請求の趣旨は,特許第6342935号の特許請求の範囲を,本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1ないし12に訂正することを求める,というものであり,その訂正の内容は,以下のとおりである。なお,下線は,補正箇所を示すために当審で付したものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「前記揺動指令の補正値を計算する揺動補正計算部」とあるのを, 「前記揺動指令の補正量を計算する揺動補正計算部」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に 「前記位置偏差と,前記揺動指令と,前記揺動補正量と,に基づき」とあるのを, 「前記位置偏差と,前記揺動指令と,前記補正量と,に基づき」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項2に 「前記切削の際に発生した切屑」とあるのを, 「前記切削加工の際に発生した切屑」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項7に 「請求項1または2記載の制御装置」とあるのを, 「請求項3に記載の制御装置」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項9に 「前記補正値の計算を開始」とあるのを, 「前記補正量の計算を開始」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項10に 「請求項1または2に記載の制御装置」とあるのを, 「請求項3に記載の制御装置」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項11に 「前記切削工具を駆動するサーボモータ」とあるのを, 「切削工具を駆動するサーボモータ」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項11に 「前記揺動指令の補正値を計算する揺動補正計算ステップ」とあるのを, 「前記揺動指令の補正量を計算する揺動補正計算ステップ」に訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項11に 「前記位置偏差と,前記揺動指令と,前記揺動補正量と,に基づき」とあるのを, 「前記位置偏差と,前記揺動指令と,前記補正量と,に基づき」に訂正する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項12に 「前記切削工具を駆動するサーボモータ」とあるのを, 「切削工具を駆動するサーボモータ」に訂正する。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項12に 「前記揺動指令の補正値を計算する揺動補正計算手順」とあるのを, 「前記揺動指令の補正量を計算する揺動補正計算手順」に訂正する。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項12に 「前記位置偏差と,前記揺動指令と,前記揺動補正量と,に基づき」とあるのを, 「前記位置偏差と,前記揺動指令と,前記補正量と,に基づき」に訂正する。 また,本件訂正請求は,一群の請求項〔1-10〕に対して請求されたものである。 2.訂正の目的の適否,新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1,2,5,8,9,11及び12について 訂正前の請求項1,9,11及び12における「前記揺動指令の補正値」,「前記揺動補正量」及び「前記補正値」という記載の「補正値」と「揺動補正量」は,表現が異なるものの,同じ発明特定事項を意味することが明らかである。 訂正事項1,2,5,8,9,11及び12は,当該発明特定事項に対する表現が「補正量」に統一されるように訂正するものであるから,その訂正の目的は法120条の5第2項ただし書2号の「誤記又は誤訳の訂正」に該当する。 また,訂正事項1,2,5,8,9,11及び12に係る訂正が,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることや,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。 (2)訂正事項3について 訂正前の請求項2には,「前記切削の際に発生した切屑」と記載されているところ,請求項2が引用する請求項1に「ワークを切削加工する工作機械」と記載されているから,訂正前の請求項2の「前記切削」という記載が請求項1の「切削加工」を意味することは明らかである。 訂正事項3は,「前記切削」という記載を「前記切削加工」と訂正するものであるから,その訂正の目的は「誤記又は誤訳の訂正」に該当する。 また,訂正事項3に係る訂正が,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることや,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。 (3)訂正事項4及び6について 訂正前の請求項7には「前記第1の所定の数」が記載され,訂正前の請求項10には「前記第1の角度」が記載されているところ,「第1の所定の数」や「第1の角度」は,請求項7及び10が引用する請求項1又は2には記載されておらず,請求項3に記載されているから,請求項7及び10が引用する「請求項1または2」という記載が誤りであり,「請求項3」を引用しなければならないことは明らかである。 訂正事項4及び6は,「請求項1または2」という記載を「請求項3」に訂正するものであるから,その訂正の目的は「誤記又は誤訳の訂正」に該当する。 また,訂正事項4及び6に係る訂正が,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることや,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。 (4)訂正事項7及び10について 訂正前の請求項11及び12には「前記切削工具」と記載されているが,当該記載よりも前に「切削工具」が記載されていないから,「前記」が不要であることは明らかである。 訂正事項7及び10は,「前記切削工具」という記載を「切削工具」に訂正するものであるから,その訂正の目的は「誤記又は誤訳の訂正」に該当する。 また,訂正事項7及び10に係る訂正が,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることや,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。 3.小括 以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,法120条の5第2項ただし書2号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項において準用する法126条5項及び6項の規定に適合する。 したがって,特許請求の範囲を,本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-10〕,11,12について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし12に係る発明(以下,各請求項に係る発明を「本件発明1」などという。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 複数の制御軸を備え,前記制御軸を協調動作させて加工対象であるワークを切削加工する工作機械を制御する制御装置であって, 切削工具を駆動するサーボモータに対する位置指令または前記ワークを駆動するサーボモータに対する位置指令,を取得する位置指令取得部と, 前記切削工具の位置または前記ワークの位置,を位置フィードバック値として取得する位置取得部と, 取得した前記位置指令と,取得した前記位置フィードバック値と,から位置偏差を計算する位置偏差計算部と, 回転する前記ワークの主軸,または,回転する前記切削工具の主軸の回転角度である主軸角度を取得する主軸角度取得部と, 取得した前記位置指令または取得した前記位置フィードバック値,及び,取得した前記主軸角度,から揺動指令を計算する揺動指令計算部と, 前記計算した位置偏差と,前記計算した揺動指令と,前記主軸角度と,から前記揺動指令の補正量を計算する揺動補正計算部と, 前記位置偏差と,前記揺動指令と,前記補正量と,に基づき前記サーボモータを駆動するための駆動信号を求め,前記駆動信号を出力する駆動部と, を備える制御装置。 【請求項2】 前記揺動指令計算部は,前記切削加工の際に発生した切屑を細断するために,前記切削工具が進行する加工方向に,前記切削工具と前記ワークとを相対的に揺動させるための揺動指令を計算する請求項1記載の制御装置。 【請求項3】 前記揺動指令計算部は, 前記位置指令または前記位置フィードバック値に第1の所定の数を乗じて振幅を求め,前記主軸角度に第2の所定の数を乗じて第1の角度を求め,求めた前記振幅及び前記第1の角度から,前記揺動指令を計算する請求項1または2記載の制御装置。 【請求項4】 前記揺動補正計算部は,前記位置偏差に前記揺動指令を加えて第2の位置偏差を求め,求めた前記第2の位置偏差及び前記第1の角度から,前記補正量を計算して学習制御を行う請求項3に記載の制御装置。 【請求項5】 前記主軸角度は,外部の上位装置が出力する主軸指令,もしくは,前記主軸の位置フィードバック値である請求項1?3のいずれか1項に記載の制御装置。 【請求項6】 前記第1の所定の数と前記第2の所定の数とは,外部の上位装置が提供し,提供された前記第1の所定の数と第2の所定の数とを使用する請求項3または4記載の制御装置。 【請求項7】 前記第1の所定の数は,前記位置指令と前記主軸角度とに基づき算出される請求項3に記載の制御装置。 【請求項8】 前記揺動指令計算部は,上位の制御装置からの信号に基づき,前記揺動指令の計算を開始,または中断,または終了する請求項1から7のいずれか1項に記載の制御装置。 【請求項9】 前記揺動補正計算部は上位の制御装置からの信号に基づき,前記補正量の計算を開始,または中断,または終了する請求項1から8のいずれか1項に記載の制御装置。 【請求項10】 前記揺動補正計算部は,前記位置偏差に前記揺動指令を加えて第2の位置偏差を求め,前記第2の位置偏差から揺動周波数成分を取りだして第3の位置偏差を求め,求めた前記第3の位置偏差及び前記第1の角度から,前記補正量を計算して学習制御を行う請求項3に記載の制御装置。 【請求項11】 複数の制御軸を備え,前記制御軸を協調動作させて加工対象であるワークを切削加工する工作機械を制御する制御方法であって, 切削工具を駆動するサーボモータに対する位置指令または前記ワークを駆動するサーボモータに対する位置指令,を取得する位置指令取得ステップと, 前記切削工具の位置または前記ワークの位置,を位置フィードバック値として取得する位置取得ステップと, 取得した前記位置指令と,取得した前記位置フィードバック値と,から位置偏差を計算する位置偏差計算ステップと, 回転する前記ワークまたは前記切削工具の主軸角度を取得する主軸角度取得ステップと, 取得した前記位置指令または取得した前記位置フィードバック値,及び,取得した前記主軸角度,から揺動指令を計算する揺動指令計算ステップと, 前記計算した位置偏差と,前記計算した揺動指令と,前記主軸角度と,から前記揺動指令の補正量を計算する揺動補正計算ステップと, 前記位置偏差と,前記揺動指令と,前記補正量と,に基づき前記サーボモータを駆動するための駆動信号を求め,前記駆動信号を出力する駆動ステップと, を含む制御方法。 【請求項12】 コンピュータを,複数の制御軸を備え,前記制御軸を協調動作させて加工対象であるワークを切削加工する工作機械を制御する制御装置として動作させるコンピュータプログラムにおいて,前記コンピュータに, 切削工具を駆動するサーボモータに対する位置指令または前記ワークを駆動するサーボモータに対する位置指令,を取得する位置指令取得手順と, 前記切削工具の位置または前記ワークの位置,を位置フィードバック値として取得する位置取得手順と, 取得した前記位置指令と,取得した前記位置フィードバック値と,から位置偏差を計算する位置偏差計算手順と, 回転する前記ワークまたは前記切削工具の主軸角度を取得する主軸角度取得手順と, 取得した前記位置指令または取得した前記位置フィードバック値,及び,取得した前記主軸角度,から揺動指令を計算する揺動指令計算手順と, 前記計算した位置偏差と,前記計算した揺動指令と,前記主軸角度と,から前記揺動指令の補正量を計算する揺動補正計算手順と, 前記位置偏差と,前記揺動指令と,前記補正量と,に基づき前記サーボモータを駆動するための駆動信号を求め,前記駆動信号を出力する駆動手順と, を実行させるコンピュータプログラム。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1.取消理由の概要 訂正前の請求項7に係る特許に対して,当審が平成31年2月20日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は,請求項7は,請求項1又は2を引用しているが,請求項7に記載された「前記第1の所定の数」が請求項1及び2のいずれにも記載されておらず,どのような数をいうのか不明であるから,請求項7に係る特許は,法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,取り消されるべきものである,というものである。 2.当審の判断 上記第2に示すとおり,請求項7において請求項3を引用する旨の訂正が認められ,請求項3には「第1の所定の数」が記載されているから,請求項7に記載された「前記第1の所定の数」は明確である。 したがって,請求項7に係る特許は,法36条6項2号に規定する要件を満たしているから,当審で通知した取消理由によって,請求項7に係る特許を取り消すことはできない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1.特許異議申立理由の概要 申立人が特許異議申立書において主張する特許異議申立理由のうち,取消理由通知において採用しなかった理由の概要は以下のとおりである。 (1)甲1を主たる引用例とする理由 ア.本件発明1は,甲第1号証(以下,各甲号証を「甲1」などという。)に記載された発明及び甲2の記載事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,請求項1に係る特許は,法29条2項の規定に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。 イ.本件発明2ないし10は,甲1に記載された発明,甲2ないし5の記載事項並びに甲6に示す技術常識に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,請求項2ないし10に係る特許は,法29条2項の規定に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。 ウ.本件発明11は,甲1に記載された発明及び甲2の記載事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,請求項11に係る特許は,法29条2項の規定に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。 エ.本件発明12は,甲1に記載された発明及び甲2の記載事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,請求項12に係る特許は,法29条2項の規定に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。 (2)甲2を主たる引用例とする理由 本件発明1は,甲2に記載された発明及び甲2の記載事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,請求項1に係る特許は,法29条2項の規定に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。 2.申立人が提出した証拠 (1)甲1:国際公開第2016/031897号 (2)甲2:特開2008-221427号公報 (3)甲3:国際公開第2014/125569号 (4)甲4:国際公開第2015/162739号 (5)甲5:特開2016-31735号公報 (6)甲6:特開2008-225533号公報 3.甲号証の記載事項及び甲号証記載の発明 (1)甲1の記載事項 甲1には以下の記載がある。なお,下線は当審で付したものである。 [0001]「本発明は,切削加工時の切屑を順次分断しながらワークの加工を行う工作機械及びこの工作機械の制御装置に関する。」 [0003]「この工作機械は,前記ワークの加工の際,前記反復的移動としての往復振動における往動時の切削加工部分と復動時の切削加工部分とが重複するため,切削工具は,復動時に,往動時切削済みの部分では,切削する部分が存在しないため,実際の切削を行うことなく移動のみを行う空振り動作となる。これにより切削加工時にワークから生じる切屑を,前記空振り動作によって順次分断しながら,ワークの加工を円滑に行うことができる。」 [0017]「図1は,本発明の実施例の制御装置Cを備えた工作機械100の概略を示す図である。 工作機械100は,主軸110と,切削工具台130Aとを備えている。 主軸110の先端にはチャック120が設けられている。 チャック120を介して主軸110にワークWが保持され,主軸110は,ワークを保持するワーク保持手段として構成されている。 主軸110は,図示しない主軸モータの動力によって回転駆動されるように主軸台110Aに支持されている。 前記主軸モータとして主軸台110A内において,主軸台110Aと主軸110との間に形成される従来公知のビルトインモータ等が考えられる。」 [0018]「主軸台110Aは,工作機械100のベッド側に,Z軸方向送り機構160によって主軸110の軸線方向となるZ軸方向に移動自在に搭載されている。 主軸110は,主軸台110Aを介してZ軸方向送り機構160によって,前記Z軸方向に移動する。 Z軸方向送り機構160は,主軸110をZ軸方向に移動させる主軸移動機構を構成している。」 [0019]「Z軸方向送り機構160は,前記ベッド等のZ軸方向送り機構160の固定側と一体的なベース161と,ベース161に設けられたZ軸方向に延びるZ軸方向ガイドレール162とを備えている。 Z軸方向ガイドレール162に,Z軸方向ガイド164を介してZ軸方向送りテーブル163がスライド自在に支持されている。 Z軸方向送りテーブル163側にリニアサーボモータ165の可動子165aが設けられ,ベース161側にリニアサーボモータ165の固定子165bが設けられている。」 [0020]「Z軸方向送りテーブル163に主軸台110Aが搭載され,リニアサーボモータ165の駆動によってZ軸方向送りテーブル163が,Z軸方向に移動駆動される。 Z軸方向送りテーブル163の移動によって主軸台110AがZ軸方向に移動し,主軸110のZ軸方向への移動が行われる。」 [0021]「切削工具台130Aには,ワークWを旋削加工するバイト等の切削工具130が装着されている。 切削工具台130Aは,切削工具130を保持する刃物台を構成している。 切削工具台130Aは,工作機械100のベッド側に,X軸方向送り機構150及び図示しないY軸方向送り機構によって,前記Z軸方向に直交するX軸方向と,前記Z軸方向及びX軸方向に直交するY軸方向とに移動自在に設けられている。 X軸方向送り機構150とY軸方向送り機構とによって,切削工具台130Aを主軸110に対して前記X軸方向及びY軸方向に移動させる刃物台移動機構が構成されている。」 [0023]「X軸方向送りテーブル153側にリニアサーボモータ155の可動子155aが設けられ,ベース151側にリニアサーボモータ155の固定子155bが設けられている。 リニアサーボモータ155の駆動によってX軸方向送りテーブル153が,X軸方向に移動駆動される。 なお,Y軸方向送り機構は,X軸方向送り機構150をY軸方向に配置したものであり,X軸方向送り機構150と同様の構造であるため,図示及び構造についての詳細な説明は割愛する。」 [0024]「図1においては,図示しないY軸方向送り機構を介してX軸方向送り機構150を前記ベッド側に搭載し,X軸方向送りテーブル153に切削工具台130Aが搭載されている。 切削工具台130Aは,X軸方向送りテーブル153の移動駆動によってX軸方向に移動し,Y軸方向送り機構が,Y軸方向に対して,X軸方向送り機構150と同様の動作をすることによって,Y軸方向に移動する。」 [0026]「前記刃物台移動機構(X軸方向送り機構150とY軸方向送り機構)と前記主軸移動機構(Z軸方向送り機構160)とが協動し,X軸方向送り機構150とY軸方向送り機構によるX軸方向とY軸方向への切削工具台130Aの移動と,Z軸方向送り機構160による主軸台110A(主軸110)のZ軸方向への移動によって,切削工具台130Aに装着されている切削工具130は,ワークWに対して相対的に任意の加工送り方向に送られる。」 [0027]「前記主軸移動機構(Z軸方向送り機構160)と前記刃物台移動機構(X軸方向送り機構150とY軸方向送り機構)とから構成される送り手段により,切削工具130を,ワークWに対して相対的に任意の加工送り方向に送ることによって,図2に示すように,ワークWは,前記切削工具130により任意の形状に切削加工される。」 [0030]「なお、本実施形態においては、X軸方向送り機構150、Y軸方向送り機構、Z軸方向送り機構160は、リニアサーボモータによって駆動されるように構成されているが、従来公知のボールネジとサーボモータとによる駆動等とすることもできる。」 [0031]「本実施形態においては,ワークWと切削工具130とを相対的に回転させる回転手段が,前記ビルトインモータ等の前記主軸モータによって構成され,ワークWと切削工具130との相対回転は,主軸110の回転駆動によって行われる。 本実施例では,切削工具130に対してワークWを回転させる構成としたが,ワークWに対して切削工具130を回転させる構成としてもよい。 この場合,切削工具130としてドリル等の回転工具が考えられる。 主軸110の回転,Z軸方向送り機構160,X軸方向送り機構150,Y軸方向送り機構は,制御装置Cが有する制御部C1によって駆動制御される。 制御部C1は,各送り機構を反復的移動手段として,各々対応する移動方向に沿って第1速度での相対移動およびこの第1速度での相対移動と異なり第1速度より遅い第2速度での相対移動を繰り返して主軸110と切削工具130とを相対的に反復的移動の一例として往復振動させながら,主軸台110A又は切削工具台130Aを各々の方向に移動させるように制御するように予め設定されている。」 [0032]「各送り機構は,制御部C1の制御により,図3に示すように,主軸110又は切削工具台130Aを,1回の往復振動において,第1速度での相対移動として所定の前進量だけ前進(往動)移動してから第1速度での相対移動時と方向が逆向きで第2速度での相対移動として所定の後退量だけ後退(復動)移動し,その差の進行量だけ各移動方向に移動させ,協動してワークWに対して前記切削工具130を前記加工送り方向に送る。」 [0033]「工作機械100は,Z軸方向送り機構160,X軸方向送り機構150,Y軸方向送り機構により,図4Aに示すように,切削工具130が前記加工送り方向に沿って1往復振動したときの前記進行量の,主軸1回転分当たりの量,すなわち,主軸位相0度から360度まで変化したとき当たりの量を送り量として,加工送り方向に送られることによって,ワークWの加工を行う。 本実施例の制御部C1は,1振動の往動時の主軸110の回転角度に対して復動時の主軸110の回転角度が小さくなるように,前記送り手段を制御する。」 [0034]「ワークWが回転した状態で,主軸台110A(主軸110)又は切削工具台130A(切削工具130)が,図4Aに示す往復振動波形で往復振動しながら移動し,切削工具130によって,ワークWを所定の形状に外形切削加工する場合,ワークWは,図4Bに示すように,1回転毎にa,bの軌跡に沿って切削される。・・・」 [0035]「図4Aに示すように,主軸110(ワークW)の2回転に対して切削工具130が1回往復振動する関係で,ワークWの加工を実行するように,制御部C1が前記送り手段の制御を行う。・・・」 [0036]「往動時の切削加工部分と,復動時の切削加工部分とが接することによって,1振動において切削工具130の往動時の切削加工部分に,復動時の切削加工部分が理論上「点」として含まれ,復動中に切削工具130がワークWから離れる空振り動作が「点」で生じることにより,切削加工時にワークWから生じる切屑は,前記空振り動作(往動時の切削加工部分と,復動時の切削加工部分とが接する点)によって順次分断される。 工作機械100は,切削工具130の切削送り方向に沿った往復振動によって切屑を分断しながら,ワークWの外形切削加工を円滑に行うことができる。」 [0037]「図4A,図4Bに示す往復振動波形のように,主軸1回転目の移動軌跡aと2回転目の移動軌跡bとの交差点CTで往動時の切削加工部分と,復動時の切削加工部分とが接し,前記空振り動作が「点」で生じ,切屑が分断されて切粉が発生する。」 [0038]「図4A,図4Bに示す往復振動の振幅の設定について説明すると,先ず,ワークWに対する切削工具130の予め設定された前記送り量によって,主軸1回転目のときの切削工具130の移動軌跡aの始点と,前記複数回転のうちの最後の1回転(この例では主軸2回転目)のときの切削工具130の移動軌跡bの終点とが決まる。 次に,主軸110の複数回転に対して切削工具130が1回振動するこの複数回転のうちの最後の1回転(この例では主軸2回転目)の180度の位置で往動から復動に切り替える場合に,切削工具130の往動時速度と復動時速度との方向が互いに逆向きで絶対値が同じ速度となるように,言い換えると,移動軌跡bの往動時と復動時の軌跡が二等辺三角形の左右の斜辺を形成するように加工送り方向における1往復振動の復動時の移動量である振幅量が計算されて設定される。 振幅量が計算されると,切削工具130の移動軌跡aと切削工具130の移動軌跡bとが決まる。」 [0041]「・・・ 例えば,図4Cに示されるように,振幅量を変更する他,図4Dに示すように,1往復振動の振幅量を変えずに,往動から復動に切り替わるときの主軸位相を,主軸2回転目の範囲内で小さくする(図4Dにおいて左へずらす)ことで,所定の重複タイミング調整角度が設定される。」 [0043]「・・・ なお上記切削工具130をワークWに対して,前記加工送り方向に沿って相対的に往復振動しながら加工送り方向に送る振動切削加工の開始を,加工プログラムにおいてG△△△ P2の命令で指令するように制御部C1を構成する場合,G△△△ P2の命令に続くEの値(引数E)で,制御部C1に対して設定される振動数の値を1往復振動時の主軸110の回転数によって設定することができ,さらにRの値(引数R)で制御部C1に対して設定される復動時の主軸回転量の値を各々指定させることができる。」 (2)甲1に記載された技術的事項 上記(1)の記載事項からみて,甲1には以下の技術的事項が記載されているということができる。 ア.工作機械100が主軸110と切削工具台130Aとを備えており([0017]),主軸110は,Z軸方向送り機構160によって,Z軸方向に移動し([0018]),切削工具台130Aは,X軸方向送り機構150及びY軸方向送り機構によって,X軸方向とY軸方向とに移動する([0021])こと。 イ.切削工具台130Aには,ワークWを旋削加工するバイト等の切削工具130が装着されていること([0021])。 ウ.制御装置Cが,Z軸方向送り機構160,X軸方向送り機構150,Y軸方向送り機構を駆動制御する([0031])こと。 エ.切削工具台130Aは,リニアサーボモータによって駆動されること([0031])。 オ.制御装置Cが有する制御部C1は,第1速度での相対移動及び第1速度より遅い第2速度での相対移動を繰り返して,主軸110と切削工具130とを往復振動させながら,主軸台110A又は切削工具台130Aの移動を制御するようにあらかじめ設定されていること([0031])。 (3)甲1発明 上記(2)に示す技術的事項を整理すると,甲1には次の発明が記載されているということができる。 「Z軸方向送り機構160,X軸方向送り機構150及びY軸方向送り機構を備え,前記Z軸方向送り機構160,X軸方向送り機構150及びY軸方向送り機構を駆動させてワークWを切削加工する工作機械100を制御する制御装置Cであって, 切削工具130が装着されている切削工具台130Aを駆動するリニアサーボモータと, 第1速度での相対移動及び第1速度より遅い第2速度での相対移動を繰り返して,主軸110と切削工具130とを往復振動させながら,主軸台110A又は切削工具台130Aの移動を制御するようにあらかじめ設定されている制御部C1と, を備える制御装置C。」 (4)甲2の記載事項 甲2には以下の記載がある。 「【0001】 本発明は、楕円振動切削装置および楕円振動切削方法に関し、特に、工具刃先を被削材に対して相対的に楕円振動(円振動を含む)させながら切削を行なう楕円振動切削装置および楕円振動切削方法に関する。」 「【0015】 図1に示すように、楕円振動切削装置1は、切削工具3の刃先を楕円振動(円振動を含む:以下同様)させながら旋削タイプの加工を行なうことが可能な切削装置であり、切削工具3を振動させることが可能な振動装置2と、被削材4を回転させることが可能な主軸5と、送り機構6,7,10と、ベース部8と、制御部9と、被削材4や切削工具3等の各部の位置や移動量等を検知可能な位置検知手段(たとえばロータリエンコーダ、リニアエンコーダ、位置センサ等)とを備える。 【0016】 振動装置2は、切削工具3の刃先に振動を与え、当該刃先を被削材4に対して相対的に楕円振動(円振動を含む)させる機能を有する要素である。この振動装置2は、典型的には、切削工具3の刃先を超音波楕円振動(たとえば17?20kHz以上程度の周波数での振動)させることが可能なものであるが、それ以外の任意の周波数で切削工具3を振動させてもよい。」 「【0034】 なお、切削力などの外乱に対して安定した任意の振動軌跡制御が可能であることが望ましいことから、本システム構成では振動軌跡のフィードバック制御を行なっている。具体的には、センサ信号処理装置45において圧電素子センサ43からの振動測定信号を演算処理することにより、縦振動および2方向のたわみ振動に相当する信号を抽出する。さらに、制御装置46において、上述の各振動モードの測定信号が所望の振動となっているか比較を行ない、その誤差を補正するように各振動モードの駆動信号を補正して出力する。また、干渉除去装置47では、各振動モードが干渉せず独立するようにローカルなフィードバック制御を行なう。さらに、各振動モードの駆動信号を増幅器48で電力増幅して振動工具に貼り付けた駆動用圧電素子41,42に印加し、振動子を加振する。」 「【0037】 図8に示す楕円振動の軌跡14の振幅を制御するには、縦振動子25,26に入力される電圧の振幅を制御すればよい。たとえば縦振動子25,26に正弦波電圧を入力する場合には、この正弦波電圧の振幅を制御すればよい。より詳しくは、楕円振動の軌跡14の振幅を全体的に大きくするには、縦振動子25,26に入力される電圧の振幅を同じ割合で増加させればよく、楕円振動の軌跡14の振幅を全体的に小さくするには、縦振動子25,26に入力される電圧の振幅を同じ割合で低減させればよい。また、縦振動子25,26に入力される電圧の振幅を異なる割合で増減させることで、様々な形状の楕円振動の軌跡14を実現することも可能であると考えられる。図9,図10,図12,図13に示す各振動子の場合も、同様の手法で楕円振動の軌跡14の振幅を制御することができる。 【0038】 上記のように切削工具3の刃先に与える楕円振動の振幅を変化させることで、被削材4の表面に、この振幅の変化量に応じた高低差の微細な凹凸形状を形成することができる。たとえば図4に示すような微細で周期的な凹凸形状の仕上げ面12を被削材4の表面に形成するには、上記の各振動子に入力する電圧の振幅を周期的に増減させることで軌跡13に従って切削工具3の刃先を楕円振動させながら、切削工具3を被削材4に対し相対的に移動させればよい。」 「【0039】 図4の例では、切削工具3の切削方向(切削工具3が被削材4に対し相対的に移動することで切削が行なわれる方向:図中矢印の方向)の振動振幅を固定し、切込み方向の振動振幅を変化させているが、切込み方向と切削方向の双方の振幅を同時に変化させることも考えられる。なお、図4において、4aは切り屑を示している。 【0040】 再び図1を参照して、主軸5は、被削材4を保持した状態で回転させるものである。送り機構6は、主軸5を回転可能に支持しながら移動させる機構を有する。送り機構7は、送り機構6とともに主軸5を移動させる機能を有する。この送り機構6,7により、被削材4を所望の方向(たとえばX,Y,Z方向のいずれか)に送ることができる。 【0041】 他方、送り機構10は、振動装置2とともに切削工具3を移動させる機能を有する。この送り機構10により、切削工具3を所望の方向(たとえばX,Y,Z方向のいずれか)に送ることができる。なお、各送り機構は、被削材4と切削工具3との一方を他方に対して相対的に移動させることができるものであればよく、直線運動に限らず回転運動でもよい。 【0042】 ベース部8は、送り機構7,10等の各種要素を支持可能な切削装置の基部である。制御部9は、各種演算機能とともに振動装置2の動作制御を行なうための指令信号出力機能をも有する。たとえば振動装置2の動作制御を行なえる。また、送り機構7,10により移動された各種要素の位置データや、加工形状データ等の各種データを入力可能である。 【0043】 図1の例では、制御部9には、主軸5、送り機構6,7に関する位置信号(エンコーダ信号)と、加工形状データとが入力され、これらの情報に基づいて振動装置2の動作制御を行ない、切削工具3の刃先の楕円振動の振幅を制御する。 【0044】 本実施の形態の切削装置は、前述のように、ロータリエンコーダ、リニアエンコーダ、位置センサ等のような位置検知手段を備えるが、これらの位置検知手段により、切削加工時の被削材4や切削工具3の刃先の位置(たとえば振動装置に対する相対的な位置)や振動装置の位置(切削加工時の被削材4や切削工具3の刃先の位置に対する相対的な位置)を検知することができる。そして、上記位置検知手段により検知された位置データと加工形状データとの比較結果に基づいて、制御部9により切削工具3の刃先の楕円振動の振幅を制御する。」 「【0047】 そして上記切削時に、図1に示すように、主軸5、送り機構6,7等の加工部の位置信号(エンコーダ信号)を取り出し、この位置信号に基づく位置データと、その加工位置における目標の加工形状データとを制御部9において比較する。それにより、加工部の位置データと加工形状データとの差、つまり実際の加工時の不足(超過)分の切込みを算出することができる。この不足(超過)分の切込みを補うための適切な振動振幅指令値を制御部9にて算出し、振幅指令信号を振動装置2に与えて切込みを制御しながら切削加工を行なう。その結果、加工形状データに従った高精度な切削加工を効率的に行なうことができ、被削材4の表面に高能率で形状創成加工を施すことが可能となる。 【0048】 例えば、トーリックレンズ(軸非対称レンズ)を加工するには、まず平均的な曲率の球面(非球面)レンズ形状の切込みとなるように送りを与える。そして、加工中の座標を読み取り、回転主軸5の回転位置θに同期させ、下記の数式(1)で表されるパターンで切込方向の振動振幅Zを変化させて加工を行なう。なお、加工対象の形状と各座標位置に応じてN、an、φnを適切に決定する。ここで、Nは考慮する波長成分の数であり、anは各波長成分の振幅であり、φnは各波長成分の位相差である。」 「【0059】 一般に機械加工では,工作機械のサーボ系の応答に依存して高速動作を行なう際に生じる非定常な誤差や,ロストモーションやスティックモーションと呼ばれる動作方向が切り替わる際に生じる運動誤差が問題となる。これに対し、上述の3つの実施の形態で例示される本発明の手法では、高速応答する振幅制御により上記の運動誤差を修正することができる。そのため、使用する工作機械の運動誤差に対して、さらに小さい誤差で加工を行なうことが可能となり加工精度が向上するという特長もある。さらに、各実施の形態の図中に示す加工目標の形状データを工作機械のNC(Numerical Control)指令値とすることで、上述の工作機械の運動誤差をも補正して加工精度を向上することもできる。」 4.本件発明1に対して甲1を主たる引用例とする理由について (1)本件発明1と甲1発明の対比 甲1発明の「Z軸方向送り機構160,X軸方向送り機構150及びY軸方向送り機構」は,Z軸,X軸及びY軸を制御するための手段であるから,本件発明1の「複数の制御軸」に相当する。 また,甲1発明の「前記Z軸方向送り機構160,X軸方向送り機構150及びY軸方向送り機構を駆動させてワークWを切削加工する工作機械100を制御する制御装置C」が本件発明1の「前記制御軸を協調動作させて加工対象であるワークを切削加工する工作機械を制御する制御装置」に相当することは明らかである。 また,甲1発明の「往復振動」が「あらかじめ設定」されていることは,本件発明1の「揺動指令」に相当するといえるから,甲1発明の「第1速度での相対移動及び第1速度より遅い第2速度での相対移動を繰り返して,主軸110と切削工具130とを往復振動させながら,主軸台110A又は切削工具台130Aの移動を制御するようにあらかじめ設定されている制御部C1」と本件発明1の「前記位置偏差と,前記揺動指令と,前記補正量と,に基づき前記サーボモータを駆動するための駆動信号を求め,前記駆動信号を出力する駆動部」は,「揺動指令に基づきサーボモータを駆動するための駆動信号を求め,前記駆動信号を出力する駆動部」という点で一致する。 そうすると,本件発明1と甲1発明は,以下の点で一致及び相違する。 <一致点> 「複数の制御軸を備え,前記制御軸を協調動作させて加工対象であるワークを切削加工する工作機械を制御する制御装置であって,」 揺動指令に基づきサーボモータを駆動するための駆動信号を求め,前記駆動信号を出力する駆動部, を備える制御装置。」である点。 <相違点1> 本件発明1は,「切削工具を駆動するサーボモータに対する位置指令または前記ワークを駆動するサーボモータに対する位置指令,を取得する位置指令取得部」を備えるのに対して,甲1発明は,位置指令取得部を備えているかどうか明らかでない点。 <相違点2> 本件発明1は,「前記切削工具の位置または前記ワークの位置,を位置フィードバック値として取得する位置取得部」を備えるのに対して,甲1発明は,位置取得部を備えているかどうか明らかでない点。 <相違点3> 本件発明1は,「取得した前記位置指令と,取得した前記位置フィードバック値と,から位置偏差を計算する位置偏差計算部」を備えるのに対して,甲1発明は,位置偏差計算部を備えているかどうか明らかでない点。 <相違点4> 本件発明1は,「回転する前記ワークの主軸,または,回転する前記切削工具の主軸の回転角度である主軸角度を取得する主軸角度取得部」を備えるのに対して,甲1発明は,主軸角度取得部を備えているかどうか明らかでない点 <相違点5> 本件発明1は,「取得した前記位置指令または取得した前記位置フィードバック値,及び,取得した前記主軸角度,から揺動指令を計算する揺動指令計算部」を備えるのに対して,甲1発明は,揺動指令計算部を備えているかどうか明らかでない点 <相違点6> 本件発明1は,「前記計算した位置偏差と,前記計算した揺動指令と,前記主軸角度と,から前記揺動指令の補正量を計算する揺動補正計算部」を備えるのに対して,甲1発明は,揺動補正計算部を備えているかどうか明らかでない点 <相違点7> 駆動部が,本件発明1では「前記位置偏差と,前記揺動指令と,前記補正量と,に基づき前記サーボモータを駆動するための駆動信号を求め,前記駆動信号を出力する」ものであるのに対して,甲1発明では「第1速度での相対移動及び第1速度より遅い第2速度での相対移動を繰り返して,主軸110と切削工具130とを往復振動させながら,主軸台110A又は切削工具台130Aの移動を制御するようにあらかじめ設定されている」ものである点。 (2)相違点の検討 事案に鑑み,相違点6について検討すると,相違点6に係る「前記計算した位置偏差と,前記計算した揺動指令と,前記主軸角度と,から前記揺動指令の補正量を計算する揺動補正計算部」は,甲2ないし6のいずれにも,記載も示唆もされていない。 これに対して,申立人は,当該揺動補正計算部が,甲2の段落【0047】に記載されている旨を主張している(特許異議申立書47ページ10ないし23行)。 しかし,甲2の当該記載(上記3.(4)の【0047】)は,加工時の不足分の切込みを補うための適切な振動振幅指令値を制御部9で算出することが記載されているのであるから,本件発明1における「揺動指令」に共通する「振動振幅指令値」を算出することが示されているにすぎず,その「指令値」を「位置偏差」,「揺動指令」及び「主軸角度」に基づいて補正することまでは記載も示唆もなされていない。 したがって,相違点6は,甲1発明及び甲2ないし6に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到できたものとはいえない。 (3)小括 以上のとおりであるから,他の相違点1ないし5及び7について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1発明及び甲2ないし6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 5.本件発明2ないし10に対して甲1を主たる引用例とする理由について 本件発明2ないし10は,本件発明1を直接又は間接に引用する発明であり,本件発明1を特定するための事項を全て有しているから,本件発明1と同様に,甲1発明及び甲2ないし6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 6.本件発明11に対して甲1を主たる引用例とする理由について 上記4.で検討した本件発明1が「制御装置」に係る発明であるのに対して,本件発明11は「制御方法」に係る発明であり,本件発明1における上記相違点6に係る構成と同様の「前記計算した位置偏差と,前記計算した揺動指令と,前記主軸角度と,から前記揺動指令の補正量を計算する揺動補正計算ステップ」という構成を備えている。 そして,当該揺動補正計算ステップは,甲2ないし6のいずれにも,記載も示唆もされていない。 したがって,本件発明11は,甲1発明及び甲2ないし6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 7.本件発明12に対して甲1を主たる引用例とする理由について 上記4.で検討した本件発明1が「制御装置」に係る発明であるのに対して,本件発明12は「コンピュータプログラム」に係る発明であり,本件発明1における上記相違点6に係る構成と同様の「前記計算した位置偏差と,前記計算した揺動指令と,前記主軸角度と,から前記揺動指令の補正量を計算する揺動補正計算手順」という構成を備えている。 そして,当該揺動補正計算手順は,甲2ないし6のいずれにも,記載も示唆もされていない。 したがって,本件発明12は,甲1発明及び甲2ないし6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 8.本件発明1に対して甲2を主たる引用例とする理由について 上記4.で検討したとおり,本件発明1は,上記相違点6に係る「前記計算した位置偏差と,前記計算した揺動指令と,前記主軸角度と,から前記揺動指令の補正量を計算する揺動補正計算部」という構成を備えており,当該揺動補正計算部は,甲2には記載も示唆もされていない。 さらに,当該揺動補正計算部は,甲1及び3ないし6にも記載も示唆もされていない。 したがって,本件発明1は,甲2に記載された発明並びに甲1ないし6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に本件請求項1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 複数の制御軸を備え、前記制御軸を協調動作させて加工対象であるワークを切削加工する工作機械を制御する制御装置であって、 切削工具を駆動するサーボモータに対する位置指令または前記ワークを駆動するサーボモータに対する位置指令、を取得する位置指令取得部と、 前記切削工具の位置または前記ワークの位置、を位置フィードバック値として取得する位置取得部と、 取得した前記位置指令と、取得した前記位置フィードバック値と、から位置偏差を計算する位置偏差計算部と、 回転する前記ワークの主軸、または、回転する前記切削工具の主軸の回転角度である主軸角度を取得する主軸角度取得部と、 取得した前記位置指令または取得した前記位置フィードバック値、及び、取得した前記主軸角度、から揺動指令を計算する揺動指令計算部と、 前記計算した位置偏差と、前記計算した揺動指令と、前記主軸角度と、から前記揺動指令の補正量を計算する揺動補正計算部と、 前記位置偏差と、前記揺動指令と、前記補正量と、に基づき前記サーボモータを駆動するための駆動信号を求め、前記駆動信号を出力する駆動部と、 を備える制御装置。 【請求項2】 前記揺動指令計算部は、前記切削加工の際に発生した切屑を細断するために、前記切削工具が進行する加工方向に、前記切削工具と前記ワークとを相対的に揺動させるための揺動指令を計算する請求項1記載の制御装置。 【請求項3】 前記揺動指令計算部は、 前記位置指令または前記位置フィードバック値に第1の所定の数を乗じて振幅を求め、前記主軸角度に第2の所定の数を乗じて第1の角度を求め、求めた前記振幅及び前記第1の角度から、前記揺動指令を計算する請求項1または2記載の制御装置。 【請求項4】 前記揺動補正計算部は、前記位置偏差に前記揺動指令を加えて第2の位置偏差を求め、求めた前記第2の位置偏差及び前記第1の角度から、前記補正量を計算して学習制御を行う請求項3に記載の制御装置。 【請求項5】 前記主軸角度は、外部の上位装置が出力する主軸指令、もしくは、前記主軸の位置フィードバック値である請求項1?3のいずれか1項に記載の制御装置。 【請求項6】 前記第1の所定の数と前記第2の所定の数とは、外部の上位装置が提供し、提供された前記第1の所定の数と第2の所定の数とを使用する請求項3または4記載の制御装置。 【請求項7】 前記第1の所定の数は、前記位置指令と前記主軸角度とに基づき算出される請求項3に記載の制御装置。 【請求項8】 前記揺動指令計算部は、上位の制御装置からの信号に基づき、前記揺動指令の計算を開始、または中断、または終了する請求項1から7のいずれか1項に記載の制御装置。 【請求項9】 前記揺動補正計算部は上位の制御装置からの信号に基づき、前記補正量の計算を開始、または中断、または終了する請求項1から8のいずれか1項に記載の制御装置。 【請求項10】 前記揺動補正計算部は、前記位置偏差に前記揺動指令を加えて第2の位置偏差を求め、前記第2の位置偏差から揺動周波数成分を取りだして第3の位置偏差を求め、求めた前記第3の位置偏差及び前記第1の角度から、前記補正量を計算して学習制御を行う請求項3に記載の制御装置。 【請求項11】 複数の制御軸を備え、前記制御軸を協調動作させて加工対象であるワークを切削加工する工作機械を制御する制御方法であって、 切削工具を駆動するサーボモータに対する位置指令または前記ワークを駆動するサーボモータに対する位置指令、を取得する位置指令取得ステップと、 前記切削工具の位置または前記ワークの位置、を位置フィードバック値として取得する位置取得ステップと、 取得した前記位置指令と、取得した前記位置フィードバック値と、から位置偏差を計算する位置偏差計算ステップと、 回転する前記ワークまたは前記切削工具の主軸角度を取得する主軸角度取得ステップと、 取得した前記位置指令または取得した前記位置フィードバック値、及び、取得した前記主軸角度、から揺動指令を計算する揺動指令計算ステップと、 前記計算した位置偏差と、前記計算した揺動指令と、前記主軸角度と、から前記揺動指令の補正量を計算する揺動補正計算ステップと、 前記位置偏差と、前記揺動指令と、前記補正量と、に基づき前記サーボモータを駆動するための駆動信号を求め、前記駆動信号を出力する駆動ステップと、 を含む制御方法。 【請求項12】 コンピュータを、複数の制御軸を備え、前記制御軸を協調動作させて加工対象であるワークを切削加工する工作機械を制御する制御装置として動作させるコンピュータプログラムにおいて、前記コンピュータに、 切削工具を駆動するサーボモータに対する位置指令または前記ワークを駆動するサーボモータに対する位置指令、を取得する位置指令取得手順と、 前記切削工具の位置または前記ワークの位置、を位置フィードバック値として取得する位置取得手順と、 取得した前記位置指令と、取得した前記位置フィードバック値と、から位置偏差を計算する位置偏差計算手順と、 回転する前記ワークまたは前記切削工具の主軸角度を取得する主軸角度取得手順と、 取得した前記位置指令または取得した前記位置フィードバック値、及び、取得した前記主軸角度、から揺動指令を計算する揺動指令計算手順と、 前記計算した位置偏差と、前記計算した揺動指令と、前記主軸角度と、から前記揺動指令の補正量を計算する揺動補正計算手順と、 前記位置偏差と、前記揺動指令と、前記補正量と、に基づき前記サーボモータを駆動するための駆動信号を求め、前記駆動信号を出力する駆動手順と、 を実行させるコンピュータプログラム。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-04-24 |
出願番号 | 特願2016-66593(P2016-66593) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(G05B)
P 1 651・ 121- YAA (G05B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 永冨 宏之 |
特許庁審判長 |
平岩 正一 |
特許庁審判官 |
刈間 宏信 中川 隆司 |
登録日 | 2018-05-25 |
登録番号 | 特許第6342935号(P6342935) |
権利者 | ファナック株式会社 |
発明の名称 | 揺動切削を行う工作機械のサーボ制御装置、制御方法及びコンピュータプログラム |
代理人 | 正林 真之 |
代理人 | 芝 哲央 |
代理人 | 正林 真之 |
代理人 | 芝 哲央 |
代理人 | 星野 寛明 |
代理人 | 星野 寛明 |