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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C04B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
管理番号 1352309
異議申立番号 異議2018-700921  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-15 
確定日 2019-05-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6323484号発明「セメントクリンカ組成物および高炉セメント組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6323484号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?2〕について訂正することを認める。 特許第6323484号の請求項1?2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6323484号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?2に係る特許についての出願は、平成28年3月22日に特許出願され、平成30年4月20日にその特許権の設定登録がされ、平成30年5月16日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、平成30年11月15日付けで特許異議申立人浜俊彦(以下、「特許異議申立人」という。)による請求項1?2に係る特許に対する特許異議の申立てがなされ、特許権者に対して、平成30年12月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成31年3月5日付けで意見書の提出及び訂正の請求がなされたものであり、この訂正の請求に対して特許異議申立人に意見を求めたところ、意見書の提出はなされなかったものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
平成31年3月5日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「C_(3)S-M1格子体積が721.0?724.3Å^(3)である」とあるのを、「C_(3)S-M1格子体積が723.29?723.89Å^(3)である」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「Å^(3)であるセメントクリンカ組成物。」とあるのを、「Å^(3)である高炉セメント用のセメントクリンカ組成物。」に訂正する。

2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、「C_(3)S-M1格子体積」を「721.0?724.3Å^(3)」から「723.29?723.89Å^(3)」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付した明細書の段落【0051】の【表4】には、C_(3)S-M1格子体積が723.29Å^(3)(実施例10)及び723.89Å^(3)(実施例2)であることが記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてなされたものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、「セメントクリンカ組成物」を「高炉セメント用」のものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付した明細書の段落【0009】には、「本発明者等は、鋭意研究を行った結果、セメントクリンカ組成物中のMgOの含有量、SO_(3)の含有量およびFの含有量が所定の関係を満たすようにして製造したセメントクリンカ組成物を高炉セメント組成物のセメントクリンカ組成物として用いることにより、コンクリートやモルタルの初期強度の発現を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。」と記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてなされたものである。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項2は、訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正事項1?2の特許請求の範囲の訂正は、一群の請求項1?2について請求されたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?2〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明
(1)本件訂正請求により訂正された請求項1?2に係る発明(以下「本件発明1?2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?2に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める。

「 【請求項1】
ボーグ式で算出された3CaO・SiO_(2)の割合が50?75質量%であり、
ボーグ式で算出された2CaO・SiO_(2)の割合が5?25質量%であり、
ボーグ式で算出された3CaO・Al_(2)O_(3)および4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)の合計の割合が10?25質量%であり、
MgO、SO_(3)およびFを含み、
MgOの含有量が0.5?3.0質量%であり、
SO_(3)の含有量が0.3?1.2質量%であり、
Fの含有量が100?800質量ppmであり、
前記MgOの含有量、前記SO_(3)の含有量および前記Fの含有量が下記の式(1)の関係を満たし、
C_(3)S-M1格子体積が723.29?723.89Å^(3)である高炉セメント用のセメントクリンカ組成物。
200≦(MgOの含有量(質量%))×(Fの含有量(質量ppm))÷(SO_(3)の含有量(質量%))≦1000 (1)
【請求項2】
請求項1に記載のセメントクリンカ組成物と、高炉水砕スラグと、石膏とを含む高炉セメント組成物。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?2に係る特許に対して、平成30年12月25日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。

(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に関する取消理由
ア 訂正前の請求項1に係る発明は、「前記MgOの含有量、前記SO_(3)の含有量および前記Fの含有量」が「200≦(MgOの含有量(質量%))×(Fの含有量(質量ppm))÷(SO_(3)の含有量(質量%))≦1000 (1)」の「関係を満たし」、「C_(3)S-M1格子体積が721.0?724.3Å^(3)である」ことを特定事項として含む「セメントクリンカ組成物」の発明といえる。
これに対して、発明の詳細な説明の実施例1?13には、「(MgOの含有量(質量%))×(Fの含有量(質量ppm))÷(SO_(3)の含有量(質量%))」の値(以下、「式値」という。)が243(実施例1)?976(実施例13)であり、C_(3)S-M1格子体積が723.29Å^(3)(実施例10)?723.89Å^(3)(実施例2)であるセメントクリンカ組成物が具体的に記載されているのみであるし、また、発明の詳細な説明の実施例1?13及び比較例1?5の結果を踏まえると、式値及びC_(3)S-M1格子体積の間に相関関係が成り立つと認められるから、訂正前の請求項1に記載されたC_(3)S-M1格子体積のうち、例えば、721.0Å^(3)(下限値)である場合や724.3Å^(3)(上限値)である場合に、その式値が200以上1000以下になることを当業者が認識できない。
したがって、訂正前の請求項1に係る発明及びこれを引用する請求項2に係る発明は、詳細な説明に記載された発明であるとはいえないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
イ 発明の詳細な説明の段落【0002】?【0008】の記載からみて、「発明が解決しようとする課題」は、高炉セメントは普通ポルトランドセメントに比べて初期強度が小さく、高炉スラグの比表面積を高くするとの改善方法では流動性やエネルギーコストの点で十分でなかったというものである。
これに対して、訂正前の請求項1に係る発明は、セメントクリンカ組成物を高炉セメントに使用することを特定しておらず、上記課題を有さない態様を包含するものであるため、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。
したがって、訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)に関する取消理由
上記(1)アで指摘したとおり、訂正前の請求項1?2に係る発明のC_(3)S-M1格子体積は、例えば、下限値(721.0Å^(3))や上限値(724.3Å^(3))において、「(MgOの含有量(質量%))×(Fの含有量(質量ppm))÷(SO_(3)の含有量(質量%))」の値が200以上1000以下になることを当業者が認識できないため、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、訂正前の請求項1?2に係る発明を実施できることといえないから、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 取消理由の検討
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に関する取消理由
本件発明1は、「C_(3)S-M1格子体積が723.29?723.89Å^(3)である」と特定され、発明の詳細な説明の実施例の数値範囲に限定されたため、C_(3)S-M1格子体積の上記数値範囲において、その式値が200以上1000以下になることを当業者が認識できる。
また、本件発明1は、「高炉セメント用のセメントクリンカ組成物」と特定され、「高炉セメントは普通ポルトランドセメントに比べて初期強度が小さく、高炉スラグの比表面積を高くするとの改善方法では流動性やエネルギーコストの点で十分でなかった」との課題を有さない態様を包含しないため、発明の詳細な説明の記載により当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
したがって、本件発明1及びこれを引用する本件発明2は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
よって、特許法第36条第6項第1号に関する取消理由は解消した。

(2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)に関する取消理由
本件発明1?2のC_(3)S-M1格子体積は、発明の詳細な説明の実施例の数値範囲に限定され、その式値が200以上1000以下になることを当業者が認識できるため、発明の詳細な説明の記載に基づき、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1?2を実施できるといえる。
したがって、特許法第36条第4項第1号に関する取消理由は解消した。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の検討
(1)申立理由の概要
ア 特許法第29条第1項第3号(新規性要件)に関する申立理由
訂正前の請求項1に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明であり、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
イ 特許法第29条第2項(進歩性要件)に関する申立理由
訂正前の請求項1?2に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証?甲第6号証に記載された技術的事項により当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(証拠方法)
甲第1号証:伊藤貴康他、リートベルト法により得られるエーライトの量および結晶構造とセメント品質との関係、セメント・コンクリート論文集、社団法人セメント協会、2004年2月10日、第57号、第2?9頁
甲第2号証:朝倉悦郎、セメントの性質 セメントクリンカー、C^(3)クリップボード[セメント化学編]、社団法人セメント協会、2008年1月、第23?24頁
甲第3号証:セメントの常識、一般社団法人セメント協会、2013年4月、第19?20頁
甲第4号証:コンクリートからの微量成分溶出に関する現状と課題、社団法人土木学会、平成15年5月30日、第25頁
甲第5号証:吉川知久、鉱化剤を用いたセメントクリンカの低温焼成、Journal of the Society Inorganic Materials, Japan -セッコウ・石灰・セメント・地球環境の科学-、無機マテリアル学会、2011年1月、第18巻、第20-24頁
甲第6号証:高炉セメント JIS R 5211:2009、日本規格協会、平成21年11月20日、第1?2頁

(2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の「2.1 クリンカーおよびセメント
クリンカーは、諸率一定(HM:2.15、SM:2.55、IM:1.65)で、MgO量およびアルカリ量を変化させて電気炉にて焼成したクリンカーと、NSPキルンにて製造した実機クリンカーを使用した。クリンカーの化学組成はTable 1に示した。
セメントは、上記の電気炉焼成クリンカーに、セメントのSO_(3)量が2.0%となるように石膏(二水石膏:半水石膏=1:1)を添加し、ブレーン比表面積3350±50cm^(2)となるように粉砕した。また、ブレーン比表面積が3300?3400cm^(2)/g、SO_(3)量1.90?2.10%、f.CaO量0.3?0.5%の範囲で、主要4成分がほぼ同等レベルである普通ポルトランドセメント市場品も使用した。」(第2頁右欄第16行?第3頁左欄第5行)との記載からみて、「Table 1」(第3頁)に記載された「Commercial Crinker」は、普通ポルトランドクリンカーを示しているといえる。
そして、甲第1号証の「3.結果と考察」における「Fig.2」(第4頁)の



の「○:Commercial Crinker (SO_(3)=0.9-1.2%)」で示された分布に注目すると、MgO含有量が約1.1?約1.8%の範囲において、エーライトの格子体積が約719.1?約721.8Å^(3)の範囲となることが見て取れる。
したがって、これら記載を整理すると、甲第1号証には、
「格子体積が約719.1?約721.8Å^(3)であるエーライトを含み、MgO含有量が約1.1?約1.8%であり、SO_(3)含有量が0.9?1.2%である普通ポルトランドセメントクリンカー。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)当審の判断
新規性要件に関する申立理由について
本件発明1と甲1発明を対比すると、本件発明1は、甲1発明と、「MgOおよびSO_(3)を含み、MgOの含有量が0.5?3.0質量%であり、SO_(3)の含有量が0.3?1.2質量%であるセメントクリンカ組成物」である点で一致し、本件発明では、「C_(3)S-M1格子体積が723.29?723.89Å^(3)」であるのに対して、甲1発明では、エーライト(C_(3)S)の格子体積が約719.1?約721.8Å^(3)である点で少なくとも相違している。
そして、上記相違点は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1号証に記載された発明といえない。
したがって、新規性要件に関する申立理由に理由は無い。

進歩性要件に関する申立理由について
上記相違点について検討すると、甲第1号証には、「既往の研究において、エーライトの結晶変態(M_(1)/M_(3)相比率)には、MgO量とSO_(3)量が相互的に作用することが知られ^(2))、これらの格子定数の変化はこの結晶変態の違いを表していると考える。」(第3頁右欄第23行?第4頁左欄第2行)と記載されていることから、甲1発明のエーライトの格子体積の一部が「C_(3)S-M1格子体積」を示しているといえるが、甲第1号証には、「C_(3)S-M1格子体積」を、エーライトの格子体積の上限(約721.8Å^(3))を超える「723.29?723.89Å^(3)」とすることは記載も示唆もされていない。
また、甲第2号証?甲第6号証のいずれにも、セメントクリンカ組成物の「C_(3)S-M1格子体積」を「723.29?723.89Å^(3)」とすることは記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証?甲第6号証に記載された技術的事項により当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
また、本件発明1を引用する本件発明2も同様の理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証?甲第6号証に記載された技術的事項により当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
したがって、進歩性要件に関する申立理由に理由は無い。

5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボーグ式で算出された3CaO・SiO_(2)の割合が50?75質量%であり、
ボーグ式で算出された2CaO・SiO_(2)の割合が5?25質量%であり、
ボーグ式で算出された3CaO・Al_(2)O_(3)および4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)の合計の割合が10?25質量%であり、
MgO、SO_(3)およびFを含み、
MgOの含有量が0.5?3.0質量%であり、
SO_(3)の含有量が0.3?1.2質量%であり、
Fの含有量が100?800質量ppmであり、
前記MgOの含有量、前記SO_(3)の含有量および前記Fの含有量が下記の式(1)の関係を満たし、
C_(3)S-M1格子体積が723.29?723.89Å^(3)である高炉セメント用のセメントクリンカ組成物。
200≦(MgOの含有量(質量%))×(Fの含有量(質量ppm))÷(SO_(3)の含有量(質量%))≦1000 (1)
【請求項2】
請求項1に記載のセメントクリンカ組成物と、高炉水砕スラグと、石膏とを含む高炉セメント組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-04-24 
出願番号 特願2016-57359(P2016-57359)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C04B)
P 1 651・ 536- YAA (C04B)
P 1 651・ 851- YAA (C04B)
P 1 651・ 121- YAA (C04B)
P 1 651・ 113- YAA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山田 貴之浅野 昭増山 淳子  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 金 公彦
宮澤 尚之
登録日 2018-04-20 
登録番号 特許第6323484号(P6323484)
権利者 住友大阪セメント株式会社
発明の名称 セメントクリンカ組成物および高炉セメント組成物  
代理人 大谷 保  
代理人 大谷 保  

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