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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 F16L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 F16L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 F16L |
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管理番号 | 1352324 |
異議申立番号 | 異議2018-700187 |
総通号数 | 235 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-07-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-02-28 |
確定日 | 2019-06-10 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6187718号発明「真空断熱材用外包材、真空断熱材、および真空断熱材付き物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6187718号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6187718号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成29年5月9日に出願され、平成29年8月10日にその特許権の設定登録がされ、平成29年8月30日に特許掲載公報が発行された。 その後、本件特許に対して特許異議の申立てがあり、次のとおりに手続が行われた。 平成30年 2月28日 : 特許異議申立人株式会社クラレ(以下、「申立人」という。)による請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立て 同年 6月 8日付け:取消理由通知書 同年 8月13日 :特許権者による意見書及び乙第1号証の 提出 同年10月 9日付け:審尋 同年10月26日付け:申立人による回答書及び甲第5ないし9 号証の提出 同年12月27日付け:取消理由通知書(決定の予告) 平成31年 3月 8日 :特許権者による意見書及び乙第2ないし 4号証の提出 同年 3月20日付け:審尋 令和 1年 5月 9日付け:申立人による回答書及び甲第11ないし 16号証の提出 第2 本件発明 「【請求項1】 第1樹脂層、第2樹脂層、第3樹脂層、および第4樹脂層の少なくとも4つの樹脂層と、 少なくとも3つのガスバリア層と、を有し、 前記第1樹脂層が熱溶着可能なフィルムであり、 前記第2樹脂層と前記第3樹脂層との間に1つ以上の前記ガスバリア層を有し、 前記第3樹脂層と前記第4樹脂層との間に1つ以上の前記ガスバリア層を有する真空断熱材用外包材であって、 温度70℃、湿度90%RHの雰囲気での引張貯蔵弾性率が1.0×10^(9)Pa以上1.5×10^(9)Pa以下の範囲内であり、 前記第2樹脂層の押し込み弾性率が、前記第1樹脂層の押し込み弾性率以上であり、 前記第3樹脂層の押し込み弾性率が、前記第2樹脂層の押し込み弾性率以上であり、 前記第4樹脂層の押し込み弾性率が、前記第3樹脂層の押し込み弾性率以上である、 真空断熱材用外包材。 【請求項2】 温度30℃、湿度30%RHの雰囲気での引張貯蔵弾性率に対する、温度70℃、湿度90%RHの雰囲気での引張貯蔵弾性率の比が40%以上70%以下の範囲内である、請求項1に記載の真空断熱材用外包材。 【請求項3】 前記第2樹脂層と前記第3樹脂層との間には、前記ガスバリア層を2つ有する、請求項1または請求項2に記載の真空断熱用外包材。 【請求項4】 3つの前記ガスバリア層のうち少なくとも1つが、少なくともM-O-P結合(ここで、Mは無機原子を示し、Oは酸素原子を示し、Pはリン原子を示す。)を有する層である、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の真空断熱材用外包材。 【請求項5】 3つの前記ガスバリア層のうち少なくとも1つが無機層である、請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の真空断熱材用外包材。 【請求項6】 芯材と、前記芯材が封入された真空断熱材用外包材とを有する真空断熱材であって、 前記真空断熱材用外包材が、請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の真空断熱用外包材である、真空断熱材。 【請求項7】 熱絶縁領域を有する物品および真空断熱材を備える真空断熱材付き物品であって、 前記真空断熱材は、芯材と、前記芯材が封入された真空断熱材用外包材とを有し、 前記真空断熱材用外包材が、請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の真空断熱用外包材である、真空断熱材付き物品。」 第3 取消理由の概要 請求項1ないし7に係る特許に対して、当審が平成30年12月27日付けの取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 請求項1ないし7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1ないし7に係る特許は特許法29条1項3号の規定に違反してされたものである。 また、請求項1ないし7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基き、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし7に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 よって、請求項1ないし7に係る特許は、取り消されるべきものである。 第4 当審の判断 1 取消理由通知に記載した取消理由について 特許法29条1項3号及び特許法29条2項について (1)甲号証の記載 ア 甲第1号証(国際公開第2017/047103号) 取消理由で通知した甲第1号証(以下「甲1」という。) には、以下の事項が記載されている。 「[0008] 本発明の目的は、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れるだけでなく、レトルト処理後および延伸処理後においても優れたバリア性を維持できるとともに、レトルト処理後にデラミネーション等の外観不良を生じず、高い層間接着力(剥離強度)を有する新規な多層構造体およびそれを用いた包装材を提供することにある。 [0009] また、本発明の他の目的は、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れるとともに、高温高湿下においても高い層間接着力を有する新規な多層構造体を用いた電子デバイスの保護シートを提供することにある。」 「[0027] 本発明によれば、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れ、耐レトルト性および耐延伸性に優れる新規な多層構造体およびそれを用いた包装材が得られる。すなわち、本発明によれば、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れるだけでなく、レトルト処理後および延伸処理後においても優れたバリア性を維持できるとともに、レトルト処理後にデラミネーション等の外観不良を生じず、高い層間接着力(剥離強度)を有する新規な多層構造体およびそれを用いた包装材が得られる。また、本発明によれば、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れ、高温高湿下においても高い層間接着力を有する新規な多層構造体を用いた電子デバイスの保護シートが得られる。すなわち、本発明によれば、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れるだけでなく、ダンプヒート試験後においても優れたガスバリア性および水蒸気バリア性を維持できるとともに、ダンプヒート試験後にデラミネーション等の外観不良を生じず、高い層間接着力(剥離強度)を有する新規な多層構造体を含む保護シートを有する電子デバイスが得られる。」 「[0031][多層構造体] 本発明の多層構造体は、基材(X)と、層(Y)と、層(Z)とを備える。層(Y)は、アルミニウムを含む化合物(A)(以下、単に「化合物(A)」ともいう)を含む。層(Z)は、有機リン化合物(BO)と、エーテル結合を有しかつグリコシド結合を有しない重合体(F)(以下、単に「重合体(F)」ともいう)とを含む。以下の説明において、特に注釈がない限り、「多層構造体」という語句は基材(X)と層(Y)と層(Z)を含む多層構造体を意味する。 [0032] 層(Z)において、有機リン化合物(BO)の少なくとも一部と重合体(F)の少なくとも一部とが反応していてもよい。層(Z)において有機リン化合物(BO)が反応している場合でも、反応生成物を構成する有機リン化合物(BO)の部分を有機リン化合物(BO)とみなす。この場合、反応生成物の形成に用いられた有機リン化合物(BO)の質量(反応前の有機リン化合物(BO)の質量)を、層(Z)中の有機リン化合物(BO)の質量に含める。また、層(Z)において重合体(F)が反応している場合でも、反応生成物を構成する重合体(F)の部分を重合体(F)とみなす。この場合、反応生成物の形成に用いられた重合体(F)の質量(反応前の重合体(F)の質量)、を層(Z)中の重合体(F)の質量に含める。 [0033][基材(X)] 基材(X)の材質は、特に制限されず、様々な材質からなる基材を用いることができる。基材(X)の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂;布帛、紙類等の繊維集合体;木材;ガラス等が挙げられる。これらの中でも、熱可塑性樹脂および繊維集合体が好ましく、熱可塑性樹脂がより好ましい。基材(X)の形態は、特に制限されず、フィルムまたはシート等の層状であってもよい。基材(X)としては、熱可塑性樹脂フィルムおよび紙からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものが好ましく、熱可塑性樹脂フィルムを含むものがより好ましく、熱可塑性樹脂フィルムであることがさらに好ましい。」 「[0038][層(Y)] 本発明の多層構造体は、アルミニウムを含む化合物(A)を含む層(Y)を含む。層(Y)および層(Z)の少なくとも一方が複数存在する場合、少なくとも一組の層(Y)と層(Z)とが隣接して(接触して)積層されていることが好ましい。また、層(Y)は、さらに無機リン化合物(BI)を含むことが好ましい。無機リン化合物(BI)は、リン原子を含有する官能基を有する。化合物(A)、無機リン化合物(BI)について以下に説明する。」 「[0039][アルミニウムを含む化合物(A)] 化合物(A)は、アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)であってもよいし、アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)(以下、単に「金属酸化物(Aa)」ともいう)と無機リン化合物(BI)とが反応してなる反応生成物(D)を含む化合物(Ab)(以下、単に「化合物(Ab)」ともいう)であってもよい。アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)は、通常、粒子の形態で無機リン化合物(BI)と反応させる。 [0040][アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)] アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)を構成する金属原子(それらを総称して「金属原子(M)」という場合がある)は、周期表の2?14族に属する金属原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子であるが、少なくともアルミニウムを含む。金属原子(M)は、アルミニウム単独であってもよいし、アルミニウムとそれ以外の金属原子とを含んでもよい。なお、金属酸化物(Aa)としては、1種の金属酸化物を単独で使用してもよく、2種以上の金属酸化物を併用してもよい。 ・・・ [0042] 金属酸化物(Aa)は、加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(E)の加水分解縮合物であってもよい。該特性基の例には、後述する一般式〔I〕のR1が含まれる。化合物(E)の加水分解縮合物は、実質的に金属酸化物とみなすことが可能である。そのため、本明細書では、化合物(E)の加水分解縮合物を「金属酸化物(Aa)」という場合がある。すなわち、本明細書において、「金属酸化物(Aa)」は「化合物(E)の加水分解縮合物」と読み替えることができ、また、「化合物(E)の加水分解縮合物」を「金属酸化物(Aa)」と読み替えることもできる。」 「[0043][加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(E)] 無機リン化合物(BI)との反応の制御が容易になり、得られる多層構造体のガスバリア性が優れることから、化合物(E)は、下記一般式〔I〕で表される化合物(Ea)を少なくとも1種含むことが好ましい。 Al(R^(1))_(k)(R^(2))_(3-k) 〔I〕 式中、R^(1)は、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、NO_(3)、置換基を有していてもよい炭素数1?9のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2?9のアシロキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3?9のアルケニルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数5?15のβ-ジケトナト基、または置換基を有していてもよい炭素数1?9のアシル基を有するジアシルメチル基である。R^(2)は、置換基を有していてもよい炭素数1?9のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数7?10のアラルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2?9のアルケニル基、または置換基を有していてもよい炭素数6?10のアリール基である。kは1?3の整数である。R^(1)が複数存在する場合、R^(1)は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。R^(2)が複数存在する場合、R^(2)は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。」 「[0059] 化合物(Ea)としては、例えば、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ-n-プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ-n-ブトキシアルミニウム、トリ-sec-ブトキシアルミニウム、トリ-tert-ブトキシアルミニウム等が挙げられ、中でも、トリイソプロポキシアルミニウムおよびトリ-sec-ブトキシアルミニウムが好ましい。化合物(E)としては、1種の化合物を単独で使用してもよく、2種以上の化合物を併用してもよい。」 「[0069] 多層構造体の赤外線吸収スペクトルにおいて、800?1,400cm^(-1)の領域における最大吸収波数は1,080?1,130cm^(-1)の範囲にあることが好ましい。金属酸化物(Aa)と無機リン化合物(BI)とが反応して反応生成物(D)となる過程において、金属酸化物(Aa)に由来する金属原子(M)と無機リン化合物(BI)に由来するリン原子(P)とが酸素原子(O)を介してM-O-Pで表される結合を形成する。その結果、反応生成物(D)の赤外線吸収スペクトルにおいて該結合由来の特性吸収帯が生じる。本発明者らによる検討の結果、M-O-Pの結合に基づく特性吸収帯が1,080?1,130cm^(-1)の領域に見られる場合には、得られた多層構造体が優れたガスバリア性を発現することがわかった。特に、該特性吸収帯が、一般に各種の原子と酸素原子との結合に由来する吸収が見られる800?1,400cm^(-1)の領域において最も強い吸収である場合には、得られた多層構造体がさらに優れたガスバリア性を発現することがわかった。」 「[0071] 多層構造体の赤外線吸収スペクトルにおいて、800?1,400cm^(-1)の領域における最大吸収帯の半値幅は、得られる多層構造体のガスバリア性の観点から、200cm^(-1)以下が好ましく、150cm^(-1)以下がより好ましく、100cm^(-1)以下がさらに好ましく、50cm^(-1)以下が特に好ましい。」 「[0073][無機リン化合物(BI)] 無機リン化合物(BI)は、金属酸化物(Aa)と反応可能な部位を含有し、典型的には、そのような部位を複数含有する。無機リン化合物(BI)としては、そのような部位(原子団または官能基)を2?20個含有する化合物が好ましい。そのような部位の例には、金属酸化物(Aa)の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)と縮合反応可能な部位が含まれる。そのような部位としては、例えば、リン原子に直接結合したハロゲン原子、リン原子に直接結合した酸素原子等が挙げられる。金属酸化物(Aa)の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)は、通常、金属酸化物(Aa)を構成する金属原子(M)に結合している。」 「[0076][無機蒸着層] 多層構造体は、さらに無機蒸着層を含んでもよい。無機蒸着層は、無機物を蒸着することによって形成することができる。無機物としては、例えば、金属(例えば、アルミニウム)、金属酸化物(例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム)、金属窒化物(例えば、窒化ケイ素)、金属窒化酸化物(例えば、酸窒化ケイ素)、または金属炭化窒化物(例えば、炭窒化ケイ素)等が挙げられる。これらの中でも、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、または窒化ケイ素で形成される無機蒸着層は、酸素あるいは水蒸気に対するバリア性が優れる観点から好ましい。本発明の多層構造体中の層(Y)は、アルミニウムを含有する無機蒸着層を含んでいてもよい。例えば、層(Y)は、アルミニウムの蒸着層(Ac)および/または酸化アルミニウムの蒸着層(Ad)を含んでいてもよい。 ・・・ [0078] 無機蒸着層の厚さは、無機蒸着層を構成する成分の種類によって異なるが、0.002?0.5μmが好ましく、0.005?0.2μmがより好ましく、0.01?0.1μmがさらに好ましい。この範囲で、多層構造体のバリア性あるいは機械的物性が良好になる厚さを選択すればよい。無機蒸着層の厚さが0.002μm未満であると、酸素あるいは水蒸気に対する無機蒸着層のバリア性発現の再現性が低下する傾向があり、また、無機蒸着層が充分なバリア性を発現しない場合もある。また、無機蒸着層の厚さが0.5μmを超えると、多層構造体を引っ張ったり屈曲させたりした場合に無機蒸着層のバリア性が低下しやすくなる傾向がある。」 「[0079] 層(Y)の厚さ(多層構造体が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)は、0.05μm?4.0μmの範囲にあることが好ましく、0.1μm?2.0μmの範囲にあることがより好ましい。層(Y)を薄くすることによって、印刷、ラミネート等の加工時における多層構造体の寸法変化を低く抑えることができる。層(Y)の厚さは、多層構造体の断面を走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡で観察することによって測定できる。」 「[0080][層(Z)] 層(Z)は、有機リン化合物(BO)と重合体(F)とを含む。有機リン化合物(BO)はリン原子を含有する化合物である。重合体(F)は、エーテル結合を有しかつグリコシド結合を有しない重合体である。有機リン化合物(BO)と重合体(F)について以下に説明する。 [0081][有機リン化合物(BO)] 有機リン化合物(BO)が有するリン原子を含む官能基としては、例えば、リン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、亜ホスホン酸基、ホスフィン酸基、亜ホスフィン酸基、およびこれらから誘導される官能基(例えば、塩、(部分)エステル化合物、ハロゲン化物(例えば、塩化物)、脱水物)等が挙げられ、中でもリン酸基およびホスホン酸基が好ましく、ホスホン酸基がより好ましい。 [0082] 有機リン化合物(BO)は前記リン原子を含む官能基を有する重合体(BOa)であることが好ましい。該重合体(BOa)としては、例えば、アクリル酸6-[(2-ホスホノアセチル)オキシ]ヘキシル、メタクリル酸2-ホスホノオキシエチル、メタクリル酸ホスホノメチル、メタクリル酸11-ホスホノウンデシル、メタクリル酸1,1-ジホスホノエチル等のホスホノ(メタ)アクリル酸エステル類の重合体;ビニルホスホン酸、2-プロペン-1-ホスホン酸、4-ビニルベンジルホスホン酸、4-ビニルフェニルホスホン酸等のビニルホスホン酸類の重合体;ビニルホスフィン酸、4-ビニルベンジルホスフィン酸等のビニルホスフィン酸類の重合体;リン酸化デンプン等が挙げられる。重合体(BOa)は、少なくとも1種のリン原子を含む官能基を有する単量体の単独重合体であってもよいし、2種以上の単量体の共重合体であってもよい。また、重合体(BOa)として、単一の単量体からなる重合体を2種以上併用してもよい。中でも、ホスホノ(メタ)アクリル酸エステル類の重合体およびビニルホスホン酸類の重合体が好ましく、ビニルホスホン酸類の重合体がより好ましい。特に、重合体(BOa)としては、ポリ(ビニルホスホン酸)が好ましい。また、重合体(BOa)は、ビニルホスホン酸ハロゲン化物あるいはビニルホスホン酸エステル等のビニルホスホン酸誘導体を単独または共重合した後、加水分解することによっても得ることができる。 [0083] また、前記重合体(BOa)は、少なくとも1種のリン原子を含む官能基を有する単量体と他のビニル単量体との共重合体であってもよい。リン原子を含む官能基を有する単量体と共重合することができる他のビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、核置換スチレン類、アルキルビニルエーテル類、アルキルビニルエステル類、パーフルオロアルキルビニルエーテル類、パーフルオロアルキルビニルエステル類、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコましく、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレングリコール、およびポリプロピレンオキサイドがより好ましく、ポリエチレングリコールおよびポリエチレンオキサイドがさらに好ましい。 [0084] より優れた耐屈曲性を有する多層構造体を得るために、リン原子を含む官能基を有する単量体に由来する構成単位が重合体(BOa)の全構成単位に占める割合は、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、40モル%以上がさらに好ましく、70モル%以上が特に好ましく、100モル%であってもよい。 [0085] 前記重合体(BOa)の分子量に特に制限はないが、数平均分子量が1,000?100,000の範囲にあることが好ましい。数平均分子量がこの範囲にあると、層(Z)を積層することによる耐屈曲性の改善効果と、後述するコーティング液(T)の粘度安定性とを、高いレベルで両立することができる。 [0086][エーテル結合を有し、かつグリコシド結合を有しない重合体(F)] 本発明の多層構造体は、層(Z)中に重合体(F)を含めることによってレトルト処理後において高い層間接着力(剥離強度)を有する。また、本発明の多層構造体は、重合体(F)を含めることによって多層構造体の着色を抑えて透明性を高めることもでき、多層構造体の外観を良好に保つこともできる。さらに、重合体(F)は、他の部材(例えば、接着層(I)、他の層(J)(例えば、インク層))との親和性が高いエーテル結合を有するため、層(Z)とそれ以外の層との密着性が向上し、レトルト処理後も層間接着力を維持することができる点から、デラミネーション等の外観不良を抑制することが可能となる。重合体(F)としては、エーテル結合を有し、かつグリコシド結合を有しない重合体であれば、特に限定されない。グリコシド結合とは、単糖(または単糖誘導体)のヘミアセタールとアルコール等の有機化合物の水酸基との間の結合を意味する。重合体(F)としては、例えば、ポリオキシアルキレン系重合体が好適に挙げられる。 ポリオキシアルキレン系重合体としては、下記一般式〔III〕で表される繰り返し単位を有する重合体(Fa)が好ましい。 -R^(5)-O- 〔III〕 式中、R^(5)は置換基を有していてもよい炭素数1?14の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基である。 ・・・ [0088] 重合体(F)としては、例えば、ポリオキシメチレン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンオキサイド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられ、中でも、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンオキサイド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等の炭素数2?4のアルキレン基を有するポリアルキレングリコール系重合体が好ましく、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレングリコール、およびポリプロピレンオキサイドがより好ましく、ポリエチレングリコールおよびポリエチレンオキサイドがさらに好ましい。 [0089] 重合体(F)は、単量体(例えば、エチレングリコール、テトラヒドロフラン)の単独重合体であってもよいし、2種以上の単量体の共重合体であってもよい。なお、重合体(F)として、2種以上の重合体(F)を併用してもよい。また、重合体(F)は、末端水酸基が封止されていてもよい。末端水酸基が封止された重合体(F)としては、例えば、モノメチルポリオキシメチレン、モノメチルポリエチレングリコール、モノメチルポリプロピレングリコール、モノメチルポリテトラメチレンエーテルグリコール、ジメチルポリオキシメチレン、ジメチルポリエチレングリコール、ジメチルポリプロピレングリコール、ジメチルポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。 [0090] 重合体(F)の分子量に特に制限はないが、レトルト処理後により優れた接着性を有する多層構造体を得るために、重合体(F)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、5,000以上であることが好ましい。重量平均分子量は8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましい。重量平均分子量は7,000,000以下であることが好ましく、3,500,000以下であることがより好ましく、1,000,000以下であることがさらに好ましく、100,000以下であることが特に好ましい。重量平均分子量がこの範囲外であるときは、十分な密着性が得られない 場合がある。・・・ [0091] 本発明の多層構造体に含まれる層(Z)は、有機リン化合物(BO)、および重合体(F)のみによって構成されていてもよい。また、層(Z)は、有機リン化合物(BO)及び重合体(F)以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。層(Z)に含まれる他の成分としては、例えば、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩等の無機酸金属塩;シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸金属塩;シクロペンタジエニル金属錯体(例えば、チタノセン)、シアノ金属錯体(例えば、プルシアンブルー)等の金属錯体;層状粘土化合物;架橋剤;有機リン化合物(BO)および重合体(F)以外の高分子化合物;可塑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;難燃剤等が挙げられる。多層構造体中の層(Z)における前記の他の成分の含有量は、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)であってもよい。 [0092] 重合体(F)は、前記有機リン化合物(BO)と前記重合体(F)との質量比が30:70?99:1の範囲内であることが好ましく、40:60?95:5の範囲内であることがより好ましく、レトルト処理後および延伸処理後のバリア性能の低下をより抑制できる点から、50:50?91:9の範囲内であることがさらに好ましい。重合体(F)は、層(Y)中の成分と反応していてもよいし、反応していなくてもよい。 [0093] 多層構造体の層(Y)および層(Z)において、無機リン化合物(BI)と有機リン化合物(BO)を含む場合、層(Y)における無機リン化合物(BI)の質量W_(BI)と層(Z)における有機リン化合物(BO)の質量W_(BO)との質量比W_(BO)/W_(BI)が0.06以上であることが好ましく、耐延伸性がより良好になる観点から、W_(BO)/W_(BI)が0.07以上であることがより好ましく、W_(BO)/W_(BI)が0.09以上であることがさらに好ましく、W_(BO)/W_(BI)が0.19以上であることが特に好ましく、W_(BO)/W_(BI)が0.21以上であることが特にさらに好ましく、W_(BO)/W_(BI)が0.31以上であることが最も好ましい。W_(BO)/W_(BI)は、10.0以下であってもよく、5.0以下であってもよく、2.0以下であってもよく、1.0以下であってもよく、0.90以下であってもよい。 [0094] 層(Z)の厚さは0.003μm以上であることが好ましく、0.03μm?1.0μmであることがより好ましい。層(Z)の厚さがこの範囲にあると、レトルト耐性およびストレス耐性(特に、延伸等の物理的ストレス)を両立することができる。・・・」 「[0123] 本発明の多層構造体の最表面層をポリオレフィン層とすることによって、多層構造体にヒートシール性を付与したり、多層構造体の力学的特性を向上させたりすることができる。ヒートシール性あるいは力学的特性の向上等の観点から、ポリオレフィンはポリプロピレンまたはポリエチレンであることが好ましい。また、多層構造体の力学的特性を向上させるために、ポリエステルからなるフィルム、ポリアミドからなるフィルム、および水酸基含有ポリマーからなるフィルムからなる群より選ばれる少なくとも1つのフィルムを積層することが好ましい。力学的特性の向上の観点から、ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレートが好ましく、ポリアミドとしてはナイロン-6が好ましく、水酸基含有ポリマーとしてはエチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましい。なお、各層の間には必要に応じて、アンカーコート層または接着剤からなる層を設けてもよい。 [0124][多層構造体の構成] 本発明の多層構造体の構成の具体例を以下に示す。多層構造体は基材(X)、層(Y)、層(Z)以外の他の部材(例えば、接着層(I)、他の層(J))を有していてもよいが、以下の具体例において、他の部材の記載は省略している。また、以下具体例を複数層積層したり組み合わせたりしてもよい。以下では、層(Y)と層(Z)が隣接して積層された構造を層(YZ)という場合がある。層(YZ)は、層(Y)と層(Z)は、いずれの順番で積層されていてもよい。 ・・・ (17)ポリエステル層/層(YZ)/ポリエステル層/層(YZ)/無機蒸着層/水酸基含有ポリマー層/ポリオレフィン層、・・・」 「[0137] また、本発明の多層構造体を含む包装材は、種々の成形品に二次加工して使用できる。このような成形品は、縦製袋充填シール袋、真空包装袋、パウチ、ラミネートチューブ容器、輸液バッグ、紙容器、ストリップテープ、容器用蓋材、インモールドラベル容器、真空断熱体、または電子デバイスであってもよい。これらの成形品では、ヒートシールが行われてもよい。」 「[0144][真空断熱体] 前記した包装材を少なくとも一部に用いる本発明の製品は、真空断熱体であってもよい。真空断熱体は、被覆材と、被覆材により囲まれた内部に配置された芯材とを備える断熱体であり、芯材が配置された内部は減圧されている。真空断熱体は、ウレタンフォームからなる断熱体による断熱特性と同等の断熱特性を、より薄くより軽い断熱体で達成することを可能にする。本発明の真空断熱体は、冷蔵庫、給湯設備および炊飯器等の家電製品用の断熱材;壁部、天井部、屋根裏部および床部等に用いられる住宅用断熱材、車両屋根材、自動販売機等の断熱パネル;蓄熱機器、ヒートポンプ応用機器等の熱移動機器等に利用できる。被覆材として用いられる本発明の多層構造体は、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層および無機蒸着層を含むことも好ましく、例えば、ポリエステル層/層(YZ)/ポリエステル層/層(YZ)/無機蒸着層/エチレン-ビニルアルコール共重合体層/ポリオレフィン層の構成を有していてもよい。本発明の真空断熱体は、高温高湿下においても高い層間接着力を有し、デラミネーション等の外観不良を生じない。 [0145] 本発明の真空断熱体の一例を図6に示す。図6の真空断熱体601は、粒子状の芯材651と、それを覆う被覆材として2枚の本発明の多層構造体631,632とを含む。2枚の多層構造体631,632は、周縁部611において互いに接合されている。2枚の多層構造体631,632によって形成された内部空間には芯材651が充填されており、その内部空間は減圧されている。多層構造体631,632は、芯材651が収容された内部と外部とを隔てる隔壁620として機能し、真空断熱体601の内部と外部との圧力差によって芯材651に密着している。芯材652が配置された内部は減圧されている。 [0146] 本発明の真空断熱体の別の一例を図7に示す。真空断熱体602は、芯材651の代わりに一体に成形された芯材652を備えていることを除き、真空断熱体601と同一の構成を有する。成形体である芯材652は、典型的には樹脂の発泡体である。」 「[0157](1)赤外線吸収スペクトルの測定 フーリエ変換赤外分光光度計を用い、減衰全反射法で測定した。測定条件は以下の通りとした。 装置:パーキンエルマー株式会社製Spectrum One 測定モード:減衰全反射法 測定領域:800?1,400cm^(-1) [0158](2)各層の厚さ測定 収束イオンビーム(FIB)を用いて多層構造体を切削し、断面観察用の切片を作製した。作製した切片を試料台座にカーボンテープで固定し、加速電圧30kVで30秒間白金イオンスパッタを行った。電界放出形透過型電子顕微鏡を用いて多層構造体の断面を観察し、各層の厚さを算出した。測定条件は以下の通りとした。 装置:日本電子株式会社製JEM-2100F 加速電圧:200kV 倍率:250,000倍 [0159](3)酸素透過度の測定 酸素透過量測定装置にキャリアガス側に基材の層が向くようにサンプルを取り付け、等圧法により酸素透過度を測定した。測定条件は以下の通りとした。 装置:モダンコントロールズ社製MOCON OX-TRAN2/20 温度:20℃ 酸素供給側の湿度:85%RH キャリアガス側の湿度:85%RH 酸素圧:1.0atm キャリアガス圧力:1.0atm [0160](4)延伸処理後の酸素透過度の測定 まず、多層構造体を切り出して、15cm×10cmの大きさの測定用サンプルを作製した。このサンプルを23℃、50%RHの雰囲気下で24時間放置した後、同雰囲気下において長軸方向に3%延伸し、延伸した状態を10秒間保持した。この延伸処理後のサンプルの酸素透過度を、前記(3)に記載の方法で測定した。 [0161](5)透湿度の測定 水蒸気透過量測定装置にキャリアガス側に基材の層が向くようにサンプルを取り付け、等圧法により透湿度(水蒸気透過度)を測定した。測定条件は以下の通りとした。 装置:モダンコントロールズ社製MOCON PERMATRAN W3/33 温度:40℃ 水蒸気供給側の湿度:90%RH キャリアガス側の湿度:0%RH」 「[0164]<コーティング液(S-1)の製造例> 蒸留水230質量部を撹拌しながら70℃に昇温した。その蒸留水に、トリイソプロポキシアルミニウム88質量部を1時間かけて滴下し、液温を徐々に95℃まで上昇させ、発生するイソプロパノールを留出させることによって加水分解縮合を行った。得られた液体に、60質量%の硝酸水溶液4.0質量部を添加し、95℃で3時間撹拌することによって加水分解縮合物の粒子の凝集体を解膠させた。その後、その液体を、固形分濃度が酸化アルミニウム換算で10質量%になるように濃縮し、溶液を得た。こうして得られた溶液22.50質量部に対して、蒸留水54.29質量部およびメタノール18.80質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液を得た。続いて、液温を15℃に維持した状態で分散液を攪拌しながら85質量%のリン酸水溶液4.41質量部を滴下して加え、粘度が1,500mPa・sになるまで15℃で攪拌を続け、目的のコーティング液(S-1)を得た。該コーティング液(S-1)における、アルミニウム原子とリン原子とのモル比は、アルミニウム原子:リン原子=1.15:1.00であった。 [0165]<有機リン化合物(BO-1)の合成例> 窒素雰囲気下、ビニルホスホン酸10gおよび2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)2塩酸塩0.025gを水5gに溶解させ、80℃で3時間攪拌した。冷却後、重合溶液に水15gを加えて希釈し、セルロース膜であるスペクトラムラボラトリーズ社製の「Spectra/Por」(登録商標)を用いてろ過した。ろ液中の水を留去した後、50℃で24時間真空乾燥することによって、重合体(BO-1)を得た。重合体(BO-1)は、ポリ(ビニルホスホン酸)である。GPC分析の結果、該重合体の数平均分子量はポリエチレングリコール換算で10,000であった。 [0166]<コーティング液(T-1)の製造例> 前記合成例で得た有機リン化合物(BO-1)を77質量%、重合体(F)として重量平均分子量20,000のポリエチレングリコール(三洋化成工業株式会社製「PEG-20000)を23質量%含む混合物を準備した。この混合物を、水とメタノールの混合溶媒(質量比で水:メタノール=7:3)に溶解させ、固形分濃度が1質量%のコーティング液(T-1)を得た。」 「[0168]実施例および比較例で使用したフィルムの詳細は以下のとおりである。 1)PET12:延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー(登録商標) P60」(商品名)、厚さ12μm 2)PET50:エチレン-酢酸ビニル共重合体との接着性を向上させたポリエチレンテレフタレートフィルム;東洋紡株式会社製、「シャインビーム(登録商標) Q1A15」(商品名)、厚さ50μm 3)ONY:延伸ナイロンフィルム;ユニチカ株式会社製、「エンブレム(登録商標) ONBC」(商品名)、厚さ15μm 4)CPP60:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ60μm 5)CPP70:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ70μm 6)CPP100:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ100μm 7)VM-EVOH:アルミニウム蒸着層が形成された二軸延伸エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム;株式会社クラレ製、「VM-XL」(商品名)、厚さ12μm」 「[0169][実施例1] <実施例1-1> まず、基材(X)として、PET12(以下、「X-1」と略称することがある)を準備した。この基材上に、乾燥後の厚さが0.3μmとなるようにバーコーターを用いてコーティング液(S-1)を塗工した。塗工後のフィルムを、110℃で5分間乾燥させた後、160℃で1分間熱処理することによって、基材上に層(Y-1-1)の前駆体層を形成した。次いで、無機リン化合物(BI)の質量W_(BI)と有機リン化合物(BO)の質量W_(BO) の比W_(BO)/W_(BI) =0.21となるようにバーコーターを用いてコーティング液(T-1)を塗工し、110℃で3分間乾燥させた。続いて、220℃で1分間熱処理した。このようにして、基材(X-1)/層(Y-1-1)/層(Z-1-1)という構造を有する多層構造体(1-1-1)を得た。得られた多層構造体(1-1-1)の各層の厚さ、酸素透過度および透湿度を上述した方法によって測定した。層(Y-1-1)の厚さは0.3μm、層(Z-1-1)の厚さは0.09μmであった。透湿度は、0.2g/(m^(2)・day)であった。また、得られた多層構造体(1-1-1)について、延伸処理後の酸素透過度を上述した方法によって測定した。結果を表1に示す。 [0170] 多層構造体(1-1-1)の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、800?1,400cm^(-1)の領域における最大吸収波数は1,108cm^(-1)であり、該最大吸収帯の半値幅は37cm^(-1)であった。 [0171] 得られた多層構造体(1-1-1)上に接着層を形成した後、該接着層上にONYをラミネートすることによって積層体を得た。次に、該積層体のONY上に接着層を形成した後、該接着層上に、CPP70をラミネートし、40℃で5日間静置してエージングした。このようにして、基材(X-1)/層(Y-1-1)/層(Z-1-1)/接着層/ONY層/接着層/CPP層という構造を有する多層構造体(1-1-2)を得た。前記2つの接着層はそれぞれ、乾燥後の厚さが3μmとなるようにバーコーターを用いて2液型接着剤を塗工し、乾燥させることによって形成した。2液型接着剤には、三井化学株式会社製の「タケラック」(登録商標)の「A-525S」(銘柄)と三井化学株式会社製の「タケネート」(登録商標)の「A-50」(銘柄)とからなる接着剤を用いた。得られた多層構造体(1-1-2)について、酸素透過度を及び透湿度を上述した方法によって測定した。 [0172] 多層構造体(1-1-2)をヒートシールすることによってパウチを作製し、水100gをパウチ内に充填した。続いて、得られたパウチに対して以下の条件でレトルト処理(熱水貯湯式)を行った。 レトルト処理装置:株式会社日阪製作所製 フレーバーエースRSC-60 温度:130℃ 時間:30分間 圧力:0.21MPaG [0173] 熱水処理後すぐに、パウチから測定用サンプルを切り出し、該サンプルの酸素透過度、および透湿度を上述した方法で測定した。また、23℃、50%RHの環境下においてレトルト処理後のパウチを24時間乾燥後、多層構造体(1-1-2)のT型剥離強度を測定した。結果を表2に示す。また、多層構造体(1-1-2)には、デラミネーション等の外観不良は見られなかった。」 「[0176][表1] [0177][表2] 」 「[0200][実施例9]真空断熱体 <実施例9-1> CPP60上に、実施例6-1で用いた2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。このCPPと実施例1-1で作製した多層構造体(1-1-2)のPET層とを貼り合せることによって積層体(9-1-1)を得た。次に、別途用意したONYの上に、前記2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。そして、このONYと積層体(9-1-1)とを貼り合わせることによって、CPP/接着層/多層構造体(1-1-2)/接着層/ONY層、という構造を有する多層構造体(9-1-2)を得た。 [0201] 多層構造体(9-1-2)を裁断し、サイズが70cm×30cmであるラミネート体を2枚得た。その2枚のラミネート体をCPP層同士が内面となるように重ね合わせ、3方を10mm幅でヒートシールして3方袋を作製した。次に、3方袋の開口部から断熱性の芯材を充填し、真空包装機を用いて20℃、内部圧力10Paの状態で3方袋を密封した。このようにして、真空断熱体(9-1-3)を得た。断熱性の芯材にはシリカ微粉末を用いた。真空断熱体(9-1-3)を40℃、15%RHの条件下において360日間放置した後、ピラニー真空計を用いて真空断熱体の内部の圧力を測定した結果、37.0Paであった。 [0202] 恒温恒湿試験機を用いて、大気圧下、85℃、85%RHの雰囲気下に1,000時間真空断熱体(9-1-3)を保管する耐久性試験(ダンプヒート試験)を行った。ダンプヒート試験前後の各真空断熱体から測定用のサンプルを切り出し、該サンプルについて、酸素透過度および透湿度を測定した。また、ダンプヒート試験後のサンプルのT型剥離強度を上記の方法で測定した。結果を表9に示す。デラミネーション等の外観不良は見られなかった。 ・・・ [0204]<実施例9-9> 実施例1-1で得られた多層構造体(1-1-1)の層(Z-1-1)上に接着層を形成した後、該接着層上にもう1枚の多層構造体(1-1-1)を基材(X-1)側が接するようにラミネートすることによって積層体(9-9-1)を得た。次に、積層体(9-9-1)の層(Z-1-1)上に接着層を形成した後、該接着層上に、VM-EVOHをアルミニウム蒸着層側が接するようにラミネートすることによって積層体を得て、該積層体のVM-EVOH層上に接着層を形成した後、CPP60をラミネートし、40℃で5日間静置してエージングした。このようにして、基材(X-1)/層(Y-1-1)/層(Z-1-1)/接着層/基材(X-1)/層(Y-1-1)/層(Z-1-1)/接着層/無機蒸着層/延伸EVOH層/接着層/CPP層という構造を有する多層構造体(9-9-2)を得た。多層構造体(9-1-2)に代えて多層構造体(9-9-2)を使用したこと以外は実施例9-1の真空断熱体(9-1-3)の作製と同様にして、真空断熱体(9-9-3)を作製した。得られた真空断熱体について、実施例9-1と同様に各項目を測定した。結果を表9に示す。真空断熱体(9-9-3)には、デラミネーション等の外観不良は見られなかった。 [0205][表9] 」 「 」 「 」 上記記載の特に、甲1の実施例9-9([0204])及び実施例9-9で用いる実施例1-1の多層構造体(1-1-1)([0168]?[0170])からみて、接着層を含めた実施例9-9の層構造は次のとおりである。 「 無延伸ポリプロピレンフィルム(ヒートシール可能なフィルム) /接着層/ 二軸延伸エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム / アルミニウム蒸着層 /接着層/ 層(Z-1-1) / 層(Y-1-1) / 延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1)) /接着層/ 層(Z-1-1) / 層(Y-1-1) / 延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1)) 」 また、隣接して積層される「層(Y-1-1)」及び「層(Z?1?1)」について、甲1の発明の詳細な説明を参照すると次の事項が記載されている。 「[0080][層(Z)] 層(Z)は、有機リン化合物(BO)と重合体(F)とを含む。有機リン化合物(BO)はリン原子を含有する化合物である。重合体(F)は、エーテル結合を有しかつグリコシド結合を有しない重合体である。有機リン化合物(BO)と重合体(F)について以下に説明する。」 「[0088] 重合体(F)としては・・・ポリエチレングリコールおよびポリエチレンオキサイドがさらに好ましい。」 「[0092]・・・重合体(F)は、層(Y)中の成分と反応していてもよいし、反応していなくてもよい。」 「[0124][多層構造体の構成] ・・・以下では、層(Y)と層(Z)が隣接して積層された構造を層(YZ)という場合がある。層(YZ)は、層(Y)と層(Z)は、いずれの順番で積層されていてもよい。 ・・・ (17)ポリエステル層/層(YZ)/ポリエステル層/層(YZ)/無機蒸着層/水酸基含有ポリマー層/ポリオレフィン層、・・・」 「[0144][真空断熱体]・・・被覆材として用いられる本発明の多層構造体は、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層および無機蒸着層を含むことも好ましく、例えば、ポリエステル層/層(YZ)/ポリエステル層/層(YZ)/無機蒸着層/エチレン-ビニルアルコール共重合体層/ポリオレフィン層の構成を有していてもよい。」 「[0166]<コーティング液(T-1)の製造例> 前記合成例で得た有機リン化合物(BO-1)を77質量%、重合体(F)として重量平均分子量20,000のポリエチレングリコール(三洋化成工業株式会社製「PEG-20000)を23質量%含む混合物を準備した。この混合物を、水とメタノールの混合溶媒(質量比で水:メタノール=7:3)に溶解させ、固形分濃度が1質量%のコーティング液(T-1)を得た。」 「[0169][実施例1] <実施例1-1> まず、基材(X)として、PET12(以下、「X-1」と略称することがある)を準備した。この基材上に、乾燥後の厚さが0.3μmとなるようにバーコーターを用いてコーティング液(S-1)を塗工した。塗工後のフィルムを、110℃で5分間乾燥させた後、160℃で1分間熱処理することによって、基材上に層(Y-1-1)の前駆体層を形成した。次いで、無機リン化合物(BI)の質量W_(BI)と有機リン化合物(BO)の質量W_(BO)の比W_(BO)/W_(BI)=0.21となるようにバーコーターを用いてコーティング液(T-1)を塗工し、110℃で3分間乾燥させた。続いて、220℃で1分間熱処理した。このようにして、基材(X-1)/層(Y-1-1)/層(Z-1-1)という構造を有する多層構造体(1-1-1)を得た。 [0170] 多層構造体(1-1-1)の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、800?1,400cm^(-1)の領域における最大吸収波数は1,108cm^(-1)であり、該最大吸収帯の半値幅は37cm^(-1)であった。」 「[0069]・・・本発明者らによる検討の結果、M-O-Pの結合に基づく特性吸収帯が1,080?1,130cm^(-1)の領域に見られる場合には、得られた多層構造体が優れたガスバリア性を発現することがわかった。特に、該特性吸収帯が、一般に各種の原子と酸素原子との結合に由来する吸収が見られる800?1,400cm^(-1)の領域において最も強い吸収である場合には、得られた多層構造体がさらに優れたガスバリア性を発現することがわかった。」 「[0071] 多層構造体の赤外線吸収スペクトルにおいて、800?1,400cm^(-1)の領域における最大吸収帯の半値幅は、得られる多層構造体のガスバリア性の観点から、200cm^(-1)以下が好ましく、150cm^(-1)以下がより好ましく、100cm^(-1)以下がさらに好ましく、50cm^(-1)以下が特に好ましい。」 これらの記載から、甲1の隣接して積層された「層(Y-1-1)」及び「層(Z?1?1)」は、M-O-P結合を有する層であるか又はM-O-P結合を有する層を含むものであるといえる。 なお、実施例9-9の層構造は、「層(Z-1-1)」及び「層(Y-1-1)」並びに「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))」をそれぞれ2つ備えるものであるから、以下、「無延伸ポリプロピレンフィルム」側の各部材に「A」を付し、もう一つの各部材に「B」を付すこととする。 以上によれば、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 「無延伸ポリプロピレンフィルムと、接着層と、 二軸延伸エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムと、 アルミニウム蒸着層と、接着層と、 層(Z-1-1)A及び層(Y-1-1)Aと、 延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))Aと、接着層と、 層(Z-1-1)B及び層(Y-1-1)Bと、 延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))Bとを順に配置する真空断熱体に用いる包装材。」 イ 甲第2号証(試験成績報告書。以下「甲2」という。) (ア)甲2の1(作成者:清水裕司) 「1 実験日 平成29年11月8日?平成30年2月16日」 「2 実験場所 株式会社クラレ 倉敷事業所 生産・技術開発センター内」 「3 実験者 清水 裕司」 「4 実験の目的」は、甲1の実施例9-9における多層構造体(9-9-2)を作製すること。また、作製した試験試料Aの層(Y-1-1)が、本件特許に記載のM-O-P結合を有する層であることを確認することであり、「5 実験内容」の概要は次のとおりである。 「5-1 使用したフィルムの詳細」 「甲第1号証の実施例と同様下記フィルムを使用した。」 「1)PET12:延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー(登録商標) P60」(商品名)、厚さ12μm」 「2)CPP60:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ60μm」 「3)VM-EVOH:アルミニウム蒸着層が形成された二軸延伸エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム;株式会社クラレ製、「VM-XL」(商品名)、厚さ12μm」 「5-2 塗工液の準備」 「5-2-1 コーティング液(S-1)の調製(甲第1号証段落[0164]と同様)・・・。」 「5-2-2 有機リン化合物(BO-1)の合成(甲第1号証段落[0165]と同様)・・・。」 「5-2-3 コーティング液(T-1)の調製(甲第1号証段落[0166]と同様)・・・。」 「5-3 多層構造体(1-1-1)の製造(甲第1号証[0169]と同様)・・・。」 「5-4 各層厚さの測定(甲第1号証段落[0158]と同様) ・・・ 得られた多層構造体(1-1-1)の層(Y-1-1)の厚さは0.3μm、層(Z-1-1)の厚さは0.09μmであった。」 「5-5 赤外線吸収スペクトルの測定(甲第1号証段落[0157][0170]と同様) ・・・ 多層構造体(1-1-1)の層(Y-1-1)の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、800?1400cm^(-1)の領域における最大吸収波数は1106cm^(-1)であり、該最大吸収帯の半値幅は38cm^(-1)であった。・・・」 「5-6 多層構造体(9-9-2)の製造(甲第1号証段落[0204]と同様)・・・ 多層構造体(9-9-2)を試験試料Aとした。 ・・・。」 「6.考察 ・・・試験試料Aの層(Y-1-1)がM-O-P結合を有する層であるか否かは、本件特許の段落[0103]?[0106]に記載されている方法により確認することができる。層(Y-1-1)の赤外線吸収スペクトルにおける最大となる赤外線吸収ピークの波数(n1)は、1106cm^(-1)であり1080cm^(-1)以上、1130cm^(-1)以下の範囲内であった。また、最大吸収波数(n1)に極大を有する吸収ピークの半値幅は、38cm^(-1)であり、100cm^(-1)以下であった。従って、試験試料Aの層(Y-1-1)は、M-O-P結合を有する層である。」 (イ)甲2の2(作成者:久詰 修平) 「1 実験日 平成30年1月17日?平成30年2月23日」 「2 実験場所」 「1)株式会社クラレ 倉敷事業所 生産・技術開発センター内」 「2)株式会社 三井化学分析センター 材料物性研究部」 「3 実験者 久詰 修平」 「4 実験の目的」は、甲1の実施例9-9における多層構造体(9-9-2)が、本件特許の請求項1の要件G及び請求項2の要件Kを充足することを確認することである。 ・請求項1の要件G:温度70℃、湿度90%RHの雰囲気での引張貯蔵弾性率が1.0×10^(9)Pa以上1.5×10^(9)Pa以下の範囲内であり ・請求項2の要件K:温度30℃、湿度30%RHの雰囲気での引張貯蔵弾性率に対する、温度70℃、湿度90%RHの雰囲気での引張貯蔵弾性率の比が40%以上70%以下の範囲内である 「5 実験内容」 「5-1 引張貯蔵弾性率の測定(本件特許段落[0032]?[0036]、[図4])」 「5-1-1 試験試料」 試験試料Aを、図の通り8点採取した。 「 」 「5-1-2 測定条件 使用機器:DVA-225(アイティー計測制御製) 測定試料:20mm(長手方向)×5mm(短手方向)の矩形 チャック間距離(チャック間測定試料長さ):15mm 測定モード:引張法(正弦波歪み 引張モード) 周波数:10Hz 静荷重:29.09cN?93.87cN 歪み量:7.04μm?7.53μm 静/動力比:1.5 測定試料を、引張方向が測定試料の長手方向となるようにチャックに取り付け、上記の条件で温度30℃、湿度30%RHの雰囲気中で15分間保持後の値を測定した。また、測定試料の高温高湿雰囲気中での引張貯蔵弾性率は、測定試料を、引張方向が測定試料の長手方向となるようにチャックに取り付け、上記の条件で温度30℃、湿度30%RHの雰囲気中で15分間保持後、湿度一定で昇温速度5℃/分で温度70℃まで昇温し、温度70℃、湿度30%RHの雰囲気中で10分間保持後、温度一定で昇湿速度5%RH/分で湿度90%まで昇湿する一連の過程に置き、温度30℃、湿度30%RHの雰囲気中で15分保持後の値、及び温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で10分間保持後の値を測定した。 測定は、実験者:久詰修平監督の下、株式会社 三井化学分析センターが実施した。」 「5-1-3 測定結果 測定結果を下記表にまとめる。 」 (ウ)甲2の3(作成者:久詰 修平) 「1 実験日 平成30年1月17日?平成30年2月2日」 「2 実験場所」 「1)株式会社クラレ 倉敷事業所 生産・技術開発センター内」 「2)フィッシャー・インストルメンツ株式会社 フィッシャー・インストルメンツ八潮 硬度計デモルーム内」 「3 実験者 久詰 修平」 「4 実験の目的」は甲1の実施例9-9における多層構造体(9-9-2)が、本件特許の請求項1の要件H?Jを充足することを確認することである。 ・請求項1の要件H?J:前記第2樹脂層の押し込み弾性率が、前記第1樹脂層の押し込み弾性率以上であり、前記第3樹脂層の押し込み弾性率が、前記第2樹脂層の押し込み弾性率以上であり、前記第4樹脂層の押し込み弾性率が、前記第3樹脂層の押し込み弾性率以上である 「5 実験内容」 「5-1 試験試料の調製 ・・・試験試料Aを、5mm×10mmに切断し、包埋材(急速硬化エポキシ系強力接着剤:アラルダイド・ラピッド)中に埋没させ、高さ5mm程度のプレート状になるよう包埋サンプルを作製した。試験試料Aの断面が出るよう、包埋サンプルをミクロトームで切削し、押し込み弾性率測定用試料を作製した。 作製した押し込み弾性率測定用試料は、23℃、60%RH中で1週間以上調湿し、試験に供した。」 「5-2 ピコデンターHM500による押し込み弾性率測定 5-2-1 測定条件 使用機器:ピコデンターHM500(フィッシャー・インストルメンツ社製) ビッカース圧子:対面角136°の正四角錐のダイヤモンド圧子 押込み速度:0.1μm/秒 押込み深さ:2μm 保持時間:5秒間 引き抜き速度:0.1μm/秒 各層で異なる5箇所で測定を実施し、その平均値、並びに標準偏差を算出した。 測定は、実験者:久詰修平監督の下、フィッシャー・インストルメンツ株式会社 七里冬彦が実施した。」 「 」 (当審注:「5-2-1」は「5-2-2」の誤記。) 「 」 (当審注:「5-4」は「5-3」の誤記。) 「 」 (エ)甲2の4(作成者:森原靖) 「1 実験日 平成30年1月17日?平成30年2月8日」 「2 実験場所」 「1)株式会社クラレ 倉敷事業所 生産・技術開発センター内」 「2)株式会社東陽テクニカ ナノイメージング&アナリシス 慶應義塾大学理工学部中央試験所・東陽テクニカ 産学連携室 ナノイメージングセンター内」 「3 実験者 森原 靖」 「4 実験の目的」は、甲1の実施例9-9における多層構造体(9-9-2)が、本件特許の請求項1の要件H?Jを充足することを確認することである。 ・請求項1の要件H?J:前記第2樹脂層の押し込み弾性率が、前記第1樹脂層の押し込み弾性率以上であり、前記第3樹脂層の押し込み弾性率が、前記第2樹脂層の押し込み弾性率以上であり、前記第4樹脂層の押し込み弾性率が、前記第3樹脂層の押し込み弾性率以上である 「5 実験内容」 「5-1 試験試料の調製 ・・・試験試料Aを、5mm×10mmに切断し、包埋材(急速硬化エポキシ系強力接着剤:アラルダイド・ラピッド)中に埋没させ、高さ5mm程度のプレート状になるよう包埋サンプルを作製した。試験試料Aの断面が出るよう、包埋サンプルをミクロトームで切削し、押し込み弾性率測定用試料を作製した。 作製した押し込み弾性率測定用試料は、23℃、60%RH中で1週間以上調湿し、試験に供した。」 「 」 ウ 甲第5号証(試験成績報告書。作成者:清水裕司。以下「甲5」という。) 「1 実験日 平成30年10月16日?平成30年10月23日」 「2 実験場所 株式会社クラレ 倉敷事業所 生産・技術開発センター内」 「3 実験者 清水 裕司」 「4 実験の目的」は、甲2の1で使用したCPP60:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ60μmの物性が変化していないことを確認することであり、「5 実験内容」は次のとおりである。 「 」 エ 甲第6号証(国際公開第2015/141225号。以下「甲6」という。) 「[0203] 実施例および比較例で使用したフィルムの詳細は以下のとおりである。 1)PET12:延伸ポリエチレンレテフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー P60」(商品名)、厚さ12μm 2)PET125:延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー S10」(商品名)、厚さ125μm) 3)PET50:エチレン-酢酸ビニル共重合体との接着性を向上させたポリエチレンテレフタレートフィルム;東洋紡株式会社製、「シャインビーム Q1A15」(商品名)、厚さ50μm 4)ONY:延伸ナイロンフィルム;ユニチカ株式会社製、「エンブレム ONBC」(商品名)、厚さ15μm 5)CPP50:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ50μm 6)CPP60:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ60μm 7)CPP70:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ70μm 8)CPP100:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ100μm」 「[0272][実施例14]真空断熱体 CPP60上に、実施例13で用いた2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。このCPPと実施例3で作製した多層構造体(3-1-2)のPET層とを貼り合せることによって積層体(14-1-1)を得た。続いて、ONYの上に、前記の2液型接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。そして、このONYと積層体(14-1-1)とを貼り合わせることによって、CPP/接着層/多層構造体/接着層/ONY、という構造を有する多層構造体(14-1-2)を得た。」 オ 甲第7号証(国際公開第2016/002222号。以下「甲7」という。) 「[0226] 実施例および比較例で使用したフィルムの詳細は以下のとおりである。 1)PET12:延伸ポリエチレンレテフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー P60」(商品名)、厚さ12μm 2)PET50:エチレン-酢酸ビニル共重合体との接着性を向上させたポリエチレンテレフタレートフィルム;東洋紡株式会社製、「シャインビーム Q1A15」(商品名)、厚さ50μm 3)ONY:延伸ナイロンフィルム;ユニチカ株式会社製、「エンブレム ONBC」(商品名)、厚さ15μm 4)CPP50:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-18」(商品名)、厚さ50μm 5)CPP60:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-18」(商品名)、厚さ60μm 6)CPP70:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ70μm 7)CPP100:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ100μm」 「[0295][実施例15]真空断熱体 CPP60上に、実施例1-1で用いた2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。このCPPと実施例3で作製した多層構造体(3-1-2)のPET層とを貼り合せることによって積層体(15-1-1)を得た。続いて、ONYの上に、前記の2液型接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。そして、このONYと積層体(15-1-1)とを貼り合わせることによって、CPP/接着層/多層構造体/接着層/ONY、という構造を有する多層構造体(15-1-2)を得た。」 カ 甲第8号証(特開2018-1574号公報。以下「甲8」という。) 「【0188】 (1)使用したフィルムおよび接着剤 1)PET12:延伸ポリエチレンレテフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー P60」(商品名)、厚さ12μm 2)PET50:エチレン-酢酸ビニル共重合体との接着性を向上させたポリエチレンテレフタレートフィルム;東洋紡株式会社製、「シャインビーム Q1A15」(商品名)、厚さ50μm 3)ONY:延伸ナイロンフィルム;ユニチカ株式会社製、「エンブレム ONBC」(商品名)、厚さ15μm 4)CPP60:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ60μm 5)CPP70:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ70μm 6)CPP100:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ100μm 7)2液型接着剤:「タケラック」(登録商標)「A-520」(銘柄);三井化学株式会社製と「タケネート」(登録商標)「A-50」(銘柄);三井化学株式会社製」 「【0231】 [実施例10]真空断熱体 <実施例10-1> CPP60上に、実施例7-1で用いた2液型接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。このCPPと実施例3-1で作製した多層構造体(1-1-1)のPET層とを貼り合せることによって積層体(10-1-1)を得た。続いて、ONYの上に、前記2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。そして、このONYと積層体(10-1-1)とを貼り合わせることによって、CPP/接着層/多層構造体/接着層/ONY、という構造を有する多層構造体(10-1-2)を得た。」 キ 甲第9号証(試験成績報告書。作成者:久詰修平。以下「甲9」という。) 「1 実験日 平成30年10月15日?平成30年10月23日」 「2 実験場所 株式会社クラレ 倉敷事業所 生産・技術開発センター内」 「3 実験者 久詰 修平」 「4 実験の目的」は、甲1の実施例1-1の多層構造体(1-1-1)の酸素透過度及び水蒸気透過度(透湿度)を測定することである。 水蒸気透過度測定結果では、甲1の記載値が「0.2」(g/(m^(2)・day))であるのに対し、測定結果は「0.2」(g/(m^(2)・day))であることが記載されている。 また、酸素透過度測定結果では、甲1の記載値が「0.20」(mL/(m^(2)・day・atm))であるのに対し、測定結果は「0.20」(mL/(m^(2)・day・atm))であることが記載されている。 ク 甲第11号証(試験成績報告書。作成者:久詰修平。以下「甲11」という。) 「 」 ケ 甲第12号証(岩崎電気HP。以下「甲12」という。) 甲12には、乙3で使用した耐候性試験装置に関して、「アイ スーパーUVテスター」「SUV-W261」における紫外線照射「100」時間(日数「4」)は、「屋外暴露」「10000」時間(日数「420」)に相当することが記載されている。 コ 甲第13号証(飯田眞司,外1名,促進耐候性試験(その2),塗料の研究,No.146,2006年10月。以下「甲13」という。) 甲13の28頁の「表3」「各種耐候性試験における紫外線照射エネルギーの比較」には、「メタハラ[850W/m^(2)]」の「97.5」時間に対して「屋外ばくろ(国内)」が「8760」時間と記載されている。 サ 甲第14号証(パナソニックHP。以下「甲14」という。) 甲14には、蛍光灯の損傷係数は、表3によれば最大でも6.9%(自然光100%)であることが記載されている。 シ 甲第15号証(試験成績報告書。作成者:久詰修平。以下「甲15」という。) 「 」 ス 甲第16号証(ロックペイント株式会社。以下「甲16」という。) 「6.残存NCO減衰率」として縦軸「残存率(%)」及び横軸「時間(hr)」であり、12時間、24時間及び36時間と時間経過につれて残存率が低下しており、0時間に100%であったものが、36時間経過時で残存率10%程度となっている。 セ 乙第1号証(以下「乙1」という。) 2枚目に、「東セロ CP RXC-21 生産・販売中止のお願い」 「●対象製品 : CP RXC-21」 「●推奨製品 : CP RXC-22」 「●生産終了予定 : 08年12月度」 「●販売終了予定 : 09年3月末日」と記載されている。 ソ 乙第2号証(以下「乙2」という。) 「RXC-22」の「保証期間」として、「納入後6ヶ月」と記載されている。 また、該「保証期間」の欄に隣接して、「保管条件」「屋内床上に立て積みして常温で保管してください。」と記載されている。 タ 乙第3号証(実験成績証明書。作成者:棟田琢。以下「乙3」という。) 「 」 チ 乙第4号証(実験成績証明書。作成者:棟田琢。以下「乙4」という。) 「 」 (2)対比・判断 ア 請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。請求項2ないし7に係る発明においても同様とし、総称して「本件発明」ともいう。) (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「無延伸ポリプロピレンフィルム」は、その作用・技術的意義からみて本件発明1の「第1樹脂層」及び「熱溶着可能なフィルム」に相当し、以下同様に、「二軸延伸エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム」は「第2樹脂層」に、「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))A」は「第3樹脂層」に、「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))B」は「第4樹脂層」に、「真空断熱体に用いられる包装材」は「真空断熱材用外包材」に、それぞれ相当する。 甲1発明の「層(Z-1-1)A及び層(Y-1-1)A」及び「層(Z-1-1)B及び層(Y-1-1)B」並びに「アルミニウム蒸着層」は、本件発明1の「少なくとも3つのガスバリア層」に相当する。 甲1発明は、「二軸延伸エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム」と「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))A」との間に「アルミニウム蒸着層」及び「層(Z-1-1)A及び層(Y-1-1)A」を有するものであるから、この配置態様は、本件発明1の「前記第2樹脂層と前記第3樹脂層との間に1つ以上の前記ガスバリア層を有し」に相当する。 甲1発明は、「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))A」と「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))B」との間に「層(Z-1-1)B及び層(Y-1-1)B」を有するものであるから、この配置態様は、本件発明1の「前記第3樹脂層と前記第4樹脂層との間に1つ以上の前記ガスバリア層を有する」に相当する。 したがって、両発明の一致点及び相違点は次のとおりである。 (一致点) 「第1樹脂層、第2樹脂層、第3樹脂層、および第4樹脂層の少なくとも4つの樹脂層と、 少なくとも3つのガスバリア層と、を有し、 前記第1樹脂層が熱溶着可能なフィルムであり、 前記第2樹脂層と前記第3樹脂層との間に1つ以上の前記ガスバリア層を有し、 前記第3樹脂層と前記第4樹脂層との間に1つ以上の前記ガスバリア層を有する真空断熱材用外包材。」 (相違点) 本件発明1が「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気での引張貯蔵弾性率が1.0×10^(9)Pa以上1.5×10^(9)Pa以下の範囲内であり、 前記第2樹脂層の押し込み弾性率が、前記第1樹脂層の押し込み弾性率以上であり、 前記第3樹脂層の押し込み弾性率が、前記第2樹脂層の押し込み弾性率以上であり、 前記第4樹脂層の押し込み弾性率が、前記第3樹脂層の押し込み弾性率以上である」真空断熱材用外包材であるのに対し、甲1発明が当該構成について不明である点。 (イ)判断 a 甲1発明の「無延伸ポリプロピレンフィルム」は、甲1の段落[0168]の記載によれば、「4)CPP60:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ60μm」であり、甲2の1ないし甲2の4の試験成績報告書において使用されるものも「CPP60:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ60μm」(甲2の1)であるが、乙1を参照すると、「東セロ CP RXC-21」は、2008年12月に生産が終了し、2009年3月末日に販売が終了予定となっている。 これに対し、甲2の1ないし甲2の4のうち、特に上記相違点に係る本件発明1の構成に関する実験である甲2の2ないし甲2の4の実験日について整理すると次のとおりである。 甲2の2(平成30年1月17日?平成30年2月23日) 甲2の3(平成30年1月17日?平成30年2月2日) 甲2の4(平成30年1月17日?平成30年2月8日) そうすると、甲2の2ないし甲2の4の実験日は「RXC-21」の販売終了から9年近く経過している。 b この点、甲5試験成績報告書の測定結果によると(実験日:平成30年10月16日?平成30年10月23日)、「RXC-21」はカタログ値と比較して、ほぼ同様の結果を示しており、試験時においても物性は格別変化していないとされている。 c しかし、本件発明1の、引張貯蔵弾性率は、温度70℃及び湿度90%RHの高温高湿雰囲気における値を特定するものであるところ、本件発明1において用いられる熱溶着可能なフィルムAについて、紫外線照射処理(環境温度63℃、10時間)を行った試料と、上記処理を行っていない試料とを比較すると、25℃10%RHでは引張貯蔵弾性率に差異はないものの、70℃90%RHの高温高湿条件では紫外線照射処理を行ったものが一割程度の低い値を示している(乙3)。 すなわち、劣化処理の有無によって常温における測定結果に差異はなくても、本件発明1において特定するような高温高湿条件下においては、紫外線照射(及び高温)処理により劣化された状態にあるポリプロピレン製の樹脂フィルムは、劣化された状態にないものと比較して測定結果に差異が生じると認められる。 d さらに、RXC-21の生産・販売中止に際し、RXC-22が推奨製品とされているところ(乙1)、RXC-22の「保証期間」は「納入後6ヶ月」とされている(乙2)。 そして、乙1に記載されるとおり、RXC-22は,RXC-21と品質・物性について同等以上とされるものであるから、RXC-21の保証期間についてもRXC-22と同程度であったと認められる。 一般に、ポリプロピレン製の樹脂フィルムは、紫外線により分子鎖の切断が生じて物性が変化(劣化)するものであり、空気中の酸素により酸化するものでもあるところ、乙2に記載される納入後の保証期間を6ヶ月とすることは技術的に首肯できる記載であるといえる。 e 申立人は、甲12ないし甲14の記載から考慮して、乙3の耐候性条件は、屋外暴露1000時間、並びに蛍光灯の照射を604日続けるものであり、甲11に示されるアルミカバーを用いて屋内保管された甲2のRXC-21とは条件が異なる旨の主張をしている。 しかしながら、樹脂は生産終了時から劣化が始まるものであり、適正な保管がなされるとしても、それは劣化しない状態になったのではなく、劣化の進行が遅くなるということであるから、甲2のRXC-21についても生産終了の2008年(平成20年)12月頃から劣化が始まり、その3ヶ月後に販売が終了し、その後に購入・納入され、納入後においても適正に保管が成されるとしても、上記実験日は、生産終了から9年経過しており、保証期間が納入後から6ヶ月であることを併せ鑑みると、当該実験に用いられるRXC-21は物性値等が劣化しているものとして取り扱うのが自然であると考えられる。 特に、相違点に係る本件発明1の構成に関係する高温高湿条件における実験等においては、劣化度合いによる測定値の差が顕著になると考えられる。 以上から、甲2の1ないし甲2の4の実験は、甲1発明を忠実に再現できたものとはいえない。 (ウ)まとめ したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえないし、または、甲1発明に基き当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件発明2ないし本件発明7について 本件発明2ないし7は、本件発明1の発明特定事項の全てを含むものであるから、上記アで述べたことと同様の理由により、本件発明2ないし7は、甲1に記載された発明とはいえないし、または、甲1発明に基き当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)特許法29条1項3号及び特許法29条2項の小括 以上のとおり、本件発明1ないし7は、甲1に記載された発明とはいえないし、または、甲1発明に基き当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について ・特許法36条6項1号 申立人は、特許異議申立書において、本件発明の「前記第2樹脂層の押し込み弾性率が、前記第1樹脂層の押し込み弾性率以上であり、前記第3樹脂層の押し込み弾性率が、前記第2樹脂層の押し込み弾性率以上であり、前記第4樹脂層の押し込み弾性率が、前記第3樹脂層の押し込み弾性率以上である」という発明特定事項について、「以上」とは「等しい」ものと「より大きい」ものを包含するところ、「より大きい」については際限なく広いように解されるところ、本件明細書を参照すると、「より大きい」は、せいぜい2.0Pa以下の差であると解さざるを得ないが、第1樹脂層と第2樹脂層との押し込み弾性率の差が、2.0Paを超える場合に、何故本発明の効果が得られるものか技術的意義は開示されておらず示唆も存在しない旨、本件発明の押し込み弾性率は特殊条件下でのパラメータと考えるのが相当であり、差がどれだけであってもすべて含む「より大きい」との広範な規定の全範囲について、わずか1.2Pa以下([0174][0175]表4)の押し込み弾性率の差を有する実施例及び本件明細書の記載をもって、2.0Paを超えるいかなる数値範囲においても当業者が課題を解決できると認識できる範囲であるとは到底いえないから、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨の主張をしている。 しかし、本件明細書の発明の詳細な説明における表4([0175])は、押し込み弾性率に関係する事項に加えて、本件発明の物性に係るもう一つの構成要件である「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気での引張貯蔵弾性率が1.0×10^(9)Pa以上1.5×10^(9)Pa以下の範囲内」について併せて評価を行うものであり、70℃湿度90%RH30days後の熱伝導率の上昇が大きくなるということは、一定応力のもとでひずみが大きくなり、ガスバリア層に欠陥が生じ、真空断熱材内部へのガス侵入量が増大することによるとされている([0176])。 そして、表4の実施例1ないし5は、第1樹脂層から第4樹脂層にかけて押し込み弾性率が漸次大とされるものであることに加え、70℃90%RH10min後の引張貯蔵弾性率についても所定の範囲内であるものが、熱伝導率等を含め他の評価結果も良好とされていることが理解できるのであるから、特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 よって、申立人の主張は採用できない。 第5 むすび したがって、請求項1ないし7に係る特許は、取消理由(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-05-31 |
出願番号 | 特願2017-93327(P2017-93327) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(F16L)
P 1 651・ 537- Y (F16L) P 1 651・ 121- Y (F16L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 柳本 幸雄、嶌田 康平 |
特許庁審判長 |
田村 嘉章 |
特許庁審判官 |
莊司 英史 藤原 直欣 |
登録日 | 2017-08-10 |
登録番号 | 特許第6187718号(P6187718) |
権利者 | 大日本印刷株式会社 |
発明の名称 | 真空断熱材用外包材、真空断熱材、および真空断熱材付き物品 |
代理人 | 田村 康晃 |
代理人 | 鎌田 耕一 |
代理人 | 山下 昭彦 |
代理人 | 岸本 達人 |