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審決分類 審判 全部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許  H02G
審判 全部無効 2項進歩性  H02G
管理番号 1352524
審判番号 無効2017-800151  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-12-13 
確定日 2019-05-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5699121号発明「被覆ケーブルの被覆剥離装置」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 特許第5699121号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-3〕,4,5について訂正することを認める。 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5699121号についての手続の経緯の概要は,以下のとおりである。

特許出願(特願2012-279240号)
出願日 平成24年12月21日
出願審査請求書 平成26年 7月29日
拒絶理由通知書(発送日) 平成26年10月15日
手続補正書・意見書 平成26年11月 7日
最後の拒絶理由通知書(発送日) 平成26年11月25日
手続補正書・意見書 平成27年 1月21日
特許査定(発送日) 平成27年 2月 5日
登録日 平成27年 2月20日
無効審判請求 平成29年12月13日付け
手続補正書(審判請求書) 平成30年 2月21日付け
被請求人:審判事件答弁書 平成30年 5月 1日付け
被請求人:訂正請求書 平成30年 5月 1日付け
被請求人:手続補正書(訂正請求書)平成30年 6月10日付け
審尋 平成30年 6月21日付け
請求人:回答書 平成30年 7月 9日付け
請求人:審判事件弁駁書 平成30年 7月19日付け
審理事項通知書 平成30年 8月 9日付け
請求人 :口頭審理陳述要領書 平成30年 9月28日付け
被請求人:口頭審理陳述要領書 平成30年 9月28日付け
被請求人:口頭審理陳述要領書(2)平成30年10月12日付け
口頭審理 平成30年10月12日
被請求人:上申書 平成30年10月26日付け
請求人 :上申書 平成30年11月 9日付け
請求人 :上申書 平成30年11月12日付け
審尋 平成30年11月15日付け
請求人:回答書 平成30年12月 4日付け
請求人:手続補正書(回答書) 平成30年12月21日付け
審尋 平成30年12月27日付け
被請求人:回答書 平成31年 1月21日付け

第2 訂正の請求について
1 訂正請求の内容
本件審判の手続において,被請求人より平成30年5月1日付けで提出され,平成30年6月10日付けで補正された訂正請求書で,特許権者が求めている訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は,以下のとおりである。
(1)一群の請求項1ないし3に係る訂正
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載されている「斜めのガイド孔」を,「斜めの角度一定で閉じたガイド孔」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2,3も同様に訂正する)。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に記載されている「前記貫通孔に位置する腕部」を,「前記貫通孔に位置し前記被膜ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2,3も同様に訂正する)。

ウ 訂正事項3
明細書段落0012の(1)について,訂正後の請求項1の記載に整合させる訂正をする((1)の記載を引用する(2),(3)も同様に訂正する)。

(2)請求項4に係る訂正
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に記載されている「斜めのガイド孔」を,「斜めの角度一定で閉じたガイド孔」に訂正する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に記載されている「前記貫通孔に位置する腕部」を,「前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部」に訂正する。

カ 訂正事項6
明細書段落0012の(4)について,訂正後の請求項4の記載に整合させる訂正をする。

(3)請求項5に係る訂正
キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5に記載されている「斜めのガイド孔」を,「斜めの角度一定で閉じたガイド孔」に訂正する。

ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項5に記載されている「前記貫通孔に位置する腕部」を,「前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部」に訂正する。

ケ 訂正事項9
明細書段落0012の(5)について,訂正後の請求項5の記載に整合させる訂正をする。

2 訂正の適否の判断
2-1 請求項1ないし3に係る訂正
(1)訂正事項1について
a.訂正の目的について
訂正後の請求項1は,「斜めの角度一定で閉じたガイド孔」との記載により,訂正前の請求項1に係る発明における「斜めのガイド孔」の形状をより具体的に特定し,更に限定するものである。
すなわち,訂正事項1は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである(訂正後の請求項2,3も同様である)。

b.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記aの理由から明らかなように,訂正事項1は,「斜めのガイド孔」という発明特定事項を概念的により下位の「斜めの角度一定で閉じたガイド孔」にするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しない。
すなわち,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである(訂正後の請求項2,3も同様である)。

c.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
「斜めの角度一定で閉じたガイド孔」と,明示的に明細書にその表現はないが,図7-8,11-12,17-19には,「斜めの角度一定で閉じたガイド孔」が明確に開示されている。
したがって,当該訂正事項1は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである(訂正後の請求項2,3も同様である)。

d.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件特許無効審判事件においては,訂正前の請求項1?5について無効審判の請求の対象とされているので,訂正前の請求項1?3に係る訂正事項1に関して,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(2)訂正事項2について
a.訂正の目的について
訂正後の請求項1は,「前記貫通孔に位置し前記被膜ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部」との記載により,訂正前の請求項1に係る発明における「前記貫通孔に位置する腕部」の形状をより具体的に特定し,更に限定するものである。
すなわち,訂正事項2は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである(訂正後の請求項2,3も同様である)。

b.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記aの理由から明らかなように,訂正事項2は,「前記貫通孔に位置する腕部」という発明特定事項を概念的により下位の「前記貫通孔に位置し前記被膜ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部」にするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しない。
すなわち,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである(訂正後の請求項2,3も同様である)。

c.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
「前記被膜ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部」と,明示的に明細書にその表現はないが,図7-8,11-12,17-19には,「前記被膜ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部」が明確に開示されている。
したがって,当該訂正事項2は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである(訂正後の請求項2,3も同様である)。

d.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件特許無効審判事件においては,訂正前の請求項1?5について無効審判の請求の対象とされているので,訂正前の請求項1?3に係る訂正事項2に関して,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(3)訂正事項3について
a.訂正の目的について
訂正事項3は,明細書の記載を,訂正後の請求項1?3の記載に単に整合させる訂正であるので,特許法第134条の2ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

b.その他訂正要件について
訂正事項3は,明細書の記載を,訂正後の請求項1?3の記載に整合させただけであるので,上記(1),(2)と同じく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正でなく,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項及び第5項に適合するものである。

c.明細書の訂正と関係する請求項についての説明
訂正事項3は,一群の請求項1?3について行うものである。
したがって,訂正事項3は,特許法第134条の2第9項で準用する同条第126条第4項に適合するものである。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項2及び3は,訂正前の請求項1を引用していることから,訂正前の請求項1?3は一群の請求項である。
また,訂正事項3は,願書に添付した明細書の段落【0012】の訂正を含むところ,段落【0012】には,請求項1?3に対応する内容が記載されている。
したがって,訂正事項1?3は,一群の請求項ごとにされており,特許法第134条の2第3項の規定に適合する。

2-2 請求項4に係る訂正
(1)訂正事項4について
a.訂正の目的について
訂正後の請求項4は,「斜めの角度一定で閉じたガイド孔」との記載により,訂正前の請求項4に係る発明における「斜めのガイド孔」の形状をより具体的に特定し,更に限定するものである。
すなわち,訂正事項4は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記aの理由から明らかなように,訂正事項4は,「斜めのガイド孔」という発明特定事項を概念的により下位の「斜めの角度一定で閉じたガイド孔」にするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しない。
すなわち,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

c.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
「斜めの角度一定で閉じたガイド孔」と,明示的に明細書にその表現はないが,図7-8,11-12,17-19には,「斜めの角度一定で閉じたガイド孔」が明確に開示されている。
したがって,当該訂正事項4は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

d.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件特許無効審判事件においては,訂正前の請求項1?5について無効審判の請求の対象とされているので,訂正前の請求項4に係る訂正事項4に関して,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(2)訂正事項5について
a.訂正の目的について
訂正後の請求項4は,「前記貫通孔に位置し前記被膜ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部」との記載により,訂正前の請求項4に係る発明における「前記貫通孔に位置する腕部」の形状をより具体的に特定し,更に限定するものである。
すなわち,訂正事項5は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記aの理由から明らかなように,訂正事項5は,「前記貫通孔に位置する腕部」という発明特定事項を概念的により下位の「前記貫通孔に位置し前記被膜ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部」にするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しない。
すなわち,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

c.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
「前記被膜ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部」と,明示的に明細書にその表現はないが,図7-8,11-12,17-19には,「前記被膜ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部」が明確に開示されている。
したがって,当該訂正事項5は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

d.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件特許無効審判事件においては,訂正前の請求項1?5について無効審判の請求の対象とされているので,訂正前の請求項4に係る訂正事項5に関して,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(3)訂正事項6について
a.訂正の目的について
訂正事項6は,明細書の記載を,訂正後の請求項4の記載に単に整合させる訂正であるので,特許法第134条の2ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

b.その他訂正要件について
訂正事項6は,明細書の記載を,訂正後の請求項4の記載に整合させただけであるので,上記(1),(2)と同じく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正でなく,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項及び第5項に適合するものである。

c.明細書の訂正と関係する請求項についての説明
訂正事項6は,請求項4について行うものである。
したがって,訂正事項6は,特許法第134条の2第9項で準用する同条第126条第4項に適合するものである。

2-3 請求項5に係る訂正
(1)訂正事項7について
a.訂正の目的について
訂正後の請求項5は,「斜めの角度一定で閉じたガイド孔」との記載により,訂正前の請求項5に係る発明における「斜めのガイド孔」の形状をより具体的に特定し,更に限定するものである。
すなわち,訂正事項7は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記aの理由から明らかなように,訂正事項7は,「斜めのガイド孔」という発明特定事項を概念的により下位の「斜めの角度一定で閉じたガイド孔」にするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しない。
すなわち,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

c.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
「斜めの角度一定で閉じたガイド孔」と,明示的に明細書にその表現はないが,図7-8,11-12,17-19には,「斜めの角度一定で閉じたガイド孔」が明確に開示されている。
したがって,当該訂正事項7は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

d.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件特許無効審判事件においては,訂正前の請求項1?5について無効審判の請求の対象とされているので,訂正前の請求項5に係る訂正事項7に関して,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(2)訂正事項8について
a.訂正の目的について
訂正後の請求項5は,「前記貫通孔に位置し前記被膜ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部」との記載により,訂正前の請求項5に係る発明における「前記貫通孔に位置する腕部」の形状をより具体的に特定し,更に限定するものである。
すなわち,訂正事項8は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記aの理由から明らかなように,訂正事項8は,「前記貫通孔に位置する腕部」という発明特定事項を概念的により下位の「前記貫通孔に位置し前記被膜ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部」にするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しない。
すなわち,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

c.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
「前記被膜ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部」と,明示的に明細書にその表現はないが,図7-8,11-12,17-19には,「前記被膜ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部」が明確に開示されている。
したがって,当該訂正事項8は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

d.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件特許無効審判事件においては,訂正前の請求項1?5について無効審判の請求の対象とされているので,訂正前の請求項5に係る訂正事項8に関して,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(3)訂正事項9について
a.訂正の目的について
訂正事項9は,明細書の記載を,訂正後の請求項5の記載に単に整合させる訂正であるので,特許法第134条の2ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

b.その他訂正要件について
訂正事項9は,明細書の記載を,訂正後の請求項5の記載に整合させただけであるので,上記(1),(2)と同じく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正でなく,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項及び第5項に適合するものである。

c.明細書の訂正と関係する請求項についての説明
訂正事項9は,請求項5について行うものである。
したがって,本件請求は,特許法第134条の2第9項で準用する同条第126条第4項に適合するものである。

3 むすび
本件訂正のうち訂正事項1,2,4,5,7及び8は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するので,訂正後の請求項〔1?3〕,4,5について訂正を認める。
本件訂正のうち訂正事項3,6及び9は,特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項で準用する特許法第126条第4項,第5項及び第6項に適合するので,訂正後の明細書について訂正を認める。

第3 本件訂正発明
上記第2より,本件特許5699121号の請求項1ないし5に係る発明(以下「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明5」という。)は,次のとおりのものであると認める。
「【請求項1】
芯材の外周を被覆した被覆ケーブルの前記被覆を回転する複数枚の刃で輪切りに切断し前記被覆ケーブルから切断した被覆を前記被覆ケーブルの長手方向に移動させ前記芯材を露出させる被覆ケーブルの被覆剥離装置であって,
中心に前記被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に前記刃と同数の貫通孔を有する回転体,及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構と,
前記被覆ケーブルの長手方向に直交する方向の同一面に等間隔で配置され前記被覆ケーブル中心方向にスライドしつつ前記同一面で回転することで前記被覆を輪切りに切断する複数の刃,前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部,及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部よりなる回転刃部と,
前記ドーナツ部を前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向に直動させる刃部直動機構と,
前記被覆ケーブルの端部を当接させて前記刃による前記被覆のカット位置を決めるストッパと,
からなり,
前記被覆ケーブルの端部を前記ストッパに当接した上で前記被覆ケーブルを固定し,
前記刃部直動機構で前記ドーナツ部を前記回転体方向である前方にデジタル制御で直動させることで前記刃を前記スライド溝に沿って前記被覆ケーブル中心方向にスライドさせつつ回転する前記刃の刃先で形成される内接円の径を前記直動で任意の大きさにデジタル制御し,
前記刃部回転機構を回転させることで前記被覆ケーブルの被覆を前記複数の刃で輪切りに切断し,
前記刃部回転機構及び回転刃部を前記直動方向と逆向きに後退させることで切断された被覆を前記刃の刃先に係止して前記被覆ケーブルの長手方向に移動させ前記芯材を露出させることを特徴とする
被覆ケーブルの被覆剥離装置。
【請求項2】
前記複数の刃を3枚又は4枚とし,かつ前記刃の刃先の一端部又は両端部を切り欠きとしたことを特徴とする請求項1に記載の被覆ケーブルの被覆剥離装置。
【請求項3】
前記複数の刃を,
一方の面に刃先に向け傾斜面を備える板刃を前記被覆ケーブルを挟み刃先が対向する2枚で一組の板刃で,2組の計4枚とし,異なる組の板刃は,90度回転した位置で,他方の組の平坦面同士が向き合う位置に配置され,前記スライド溝にスライド可能に保持されたことを特徴とする請求項1に記載の被覆ケーブルの被覆剥離装置。
【請求項4】
被覆ケーブルを固定した上で,前記被覆ケーブルの長手方向と直交する同一面に等間隔で配置した複数の刃を,
前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向のデジタル制御による直動で前記被覆ケーブルの中心に向けスライドさせつつ回転させ,
前記被覆ケーブルの被覆を前記刃の回転で輪切りに切断し,
前記直動方向と逆向きに前記刃を後退させることで,
切断された被覆を前記刃の刃先に係止して前記被覆ケーブルの長手方向に移動させ,
前記被覆ケーブルの芯材を露出させる被覆ケーブルの被覆剥離方法であって,
中心に前記被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に前記刃と同数の貫通孔を有する回転体,及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構と,
前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部,及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部よりなる回転刃部とを備えた被覆ケーブルの被覆剥装置によって,
前記刃部回転機構及び前記回転刃部の回転及び前記回転刃部の直動によってスライドするとともに回転する前記刃の刃先で形成される内接円の径を前記直動で任意の大きさにデジタル制御することを特徴とする
被覆ケーブルの被覆剥離方法。
【請求項5】
被覆ケーブルを固定した上で,前記被覆ケーブルの長手方向と直交する同一面に等間隔で配置した複数の刃を,前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向のデジタル制御による直動で前記被覆ケーブルの中心に向けスライドさせつつ回転させ,前記被覆ケーブルの被覆を前記刃の回転で輪切りに切断し,前記直動方向と逆向きに前記刃を後退させることで,切断された被覆を前記刃の刃先に係止して前記被覆ケーブルの長手方向に移動させ,前記被覆ケーブルの芯材を露出させる被覆ケーブルの被覆剥装置であって,
中心に前記被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に前記刃と同数の貫通孔を有する回転体,及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構を備え,
前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部,及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部よりなる回転刃部の回転及び直動によってスライドするとともに回転する前記刃の刃先で形成される内接円の径を前記直動で任意の大きさにデジタル制御することを特徴とする
被覆ケーブルの被覆剥離装置。」

第4 請求人の主張
1 これに対して,請求人は,「1 特許第5699121号発明の特許請求の範囲の請求項1から請求項5に記載された発明についての特許を無効とする。2 審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」との審決を求め,証拠方法として,審判請求書に添付して,以下の甲第1号証-甲第9号証(枝番を含む。以下同じ。)を,平成30年12月4日付けの回答書に添付して,以下の甲第10号証-甲第12号証を提出している。
なお,平成30年9月28日付け口頭審理陳述要領書と同時に提出された甲第8号証は,口頭審理において参考資料とされた。

・甲第1号証:大川三基株式会社「回転式端末剥離機 ワイヤー・スキン・マシン KIND2-80型 設計図面」
・甲第2号証の1:電子メール「クランプ,アーム構想図」(件名)
・甲第2号証の2:電子メール「KIND2-80クランプ構想図」(件名)
・甲第2号証の3:電子メール「KIND2-80クランプ構想II」(件名)
・甲第2号証の4:電子メール「KIND2-80クランプ構想III」(件名)
・甲第2号証の5:電子メール「KIND2-80図面」(件名)
・甲第2号証の6:電子メール「KIND2-80図面」(件名)
・甲第2号証の7:電子メール「KIND2-80図面」(件名)
・甲第2号証の8:電子メール「KIND2-80突当ユニット変更構想」(件名)
・甲第2号証の9:電子メール「KIND2-80ABCDE製作図」(件名)
・甲第2号証の10:電子メール「KIND2-80C,D,E製作図」(件名)
・甲第2号証の11:電子メール「KIND2-80 11月変更分」(件名)
・甲第3号証:「電気と工事」2011年6月号,特別企画
・甲第4号証の1:電子メール「電設工業展フォローの件」(件名)
・甲第4号証の2:カタログご請求リスト(ワゴジャパン株式会社)
・甲第4号証の3:カタログご請求リスト(株式会社田島工務店)
・甲第4号証の4:カタログご請求リスト(日新電工株式会社)
・甲第4号証の5:カタログご請求リスト(津田特殊電機株式会社)
・甲第4号証の6:カタログご請求リスト(日新電機株式会社)
・甲第4号証の7:カタログご請求リスト(東急テクノシステム株式会社)
・甲第4号証の8:カタログご請求リスト(JA熊本果実連)
・甲第4号証の9:カタログご請求リスト(タイコエレクトリックジャパン合同会社)
・甲第4号証の10:カタログご請求リスト(株式会社TJMデザイン(田島グループ))
・甲第4号証の11:カタログご請求リスト(株式会社エーデン)
・甲第4号証の12:カタログご請求リスト(愛光電気株式会社)
・甲第4号証の13:カタログご請求リスト(有限会社送電テクノス)
・甲第4号証の14:カタログご請求リスト(七星科学研究所)
・甲第4号証の15:カタログご請求リスト(株式会社正興電機製作所)
・甲第4号証の16:カタログご請求リスト(オリエンタルモーター株式会社)
・甲第4号証の17:カタログご請求リスト(株式会社レント(レンタル業者))
・甲第4号証の18:カタログご請求リスト(中立電機株式会社)
・甲第4号証の19:カタログご請求リスト(樋野電機工業有限会社)
・甲第4号証の20:カタログご請求リスト(株式会社豊電子工業)
・甲第4号証の21:カタログご請求リスト(東日本旅客鉄道株式会)
・甲第4号証の22:カタログご請求リスト(株式会社協和エクシオ)
・甲第4号証の23:カタログご請求リスト(パナソニック電工電路株式会社)
・甲第4号証の24:カタログご請求リスト(株式会社Mahina)
・甲第5号証の1:注文書
・甲第5号証の2:注文書
・甲第5号証の3:注文書
・甲第5号証の4:注文書
・甲第5号証の5:注文書
・甲第5号証の6:注文書
・甲第5号証の7:設備納品書 兼 請求書(正)
・甲第5号証の8:注文書
・甲第5号証の9:納品書控え
・甲第5号証の10:納品書控え
・甲第5号証の11:納品伝票(A)
・甲第5号証の12:納品書控え
・甲第5号証の13:納品書控え
・甲第5号証の14:納品書控え
・甲第5号証の15:納品書控え
・甲第5号証の16:納品書控え
・甲第5号証の17:納品書控え
・甲第5号証の18:納品書控え
・甲第6号証:取扱説明書 ワイヤースキンマシン KIND2-80型シリーズ
・甲第7号証の1:「ロータリーストリッパーKIND 2-80型」という名称の動画を紹介するウェブサイトである「https://www.youtube.com/watch?v=5v68PuN-vhY」の画面を印刷したもの
・甲7号証の2:「ロータリーストリッパーKIND2-81」という名称の動画を紹介するウェブサイトである「https://www.youtube.com/watch?v=9IM9wVs4SQ4」の画面を印刷したもの
・甲第7号証の3:「2PNCT電線加工試験」という名称の動画を紹介するウェブサイトである「https://www.youtube.com/watch?v=JQTx5gc6j1g」の画面を印刷したもの
・甲第8号証の1:大川三基株式会社製「ワイヤースキンKIND2-80型」設計図面の剥刃組立図
・甲第8号証の2:大川三基株式会社製「ワイヤースキンKIND2-80型」設計図面の突当ユニット組立図
・甲第9号証の1:「ロータリーストリッパーKIND2-80型」という名称の動画のデータ「KIND2-80.m4v」
・甲第9の2:「ロータリーストリッパーKIND2-81」という名称の動画のデータ「KIND2-81AIFF.m4v」
・甲第10号証:特開2000-152451号公報
・甲第11号証:津村利光・徳丸芳男(1973).機械設計1 実務出版株式会社 pp.26-29.
・甲第12号証:「HENRY T.BROWN(1896)FIVE HUNDRED AND SEVEN MECHANICAL MOVEMENTS. BROWN & SEWARD. pp.64-65.」

なお,被請求人は,甲第1号証ないし甲第6号証,甲第7号証の1,甲第7号証の2,甲第7号証の3,甲第8号証の1,甲第8号証の2,甲第9号証の1及び甲第9号証の2の成立を認めている。

2 そして,請求人が,審判請求書,審判事件弁駁書,口頭審理,上申書及び回答書において主張したことを整理すると,無効理由について,概ね次のように主張しているものと認められる。

(1)無効理由2(特許法第123条第1項第6号)の概要
本件訂正発明1?5は,甲第3号証に記載のとおり,本件訂正発明1の出願前である2011年5月25日?5月27日に開催された「2011電設工業展」の株式会社ニチフのブースにて出展された甲1発明を見学した被請求人が出願したものであり,被請求人の発明したものではなく,被請求人は,特許を受ける権利を有しない。
本件特許は,特許を受ける権利を有しない被請求人の特許出願に対してされたものであり,特許法第123条第1項第6号に該当し,本件特許は無効とすべきである。

(2)無効理由3(特許法第29条第2項)の概要
下記ア-エのとおり,本件特許の請求項1-5に係る各発明は,その出願前に日本国内において公然知られた発明であり,公然実施された発明であり,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,本件訂正発明1-5に係る発明は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

ア 甲第3号証,甲第4号証の1?24から,KIND2-80型が,「2011電設工業展」の株式会社ニチフのブースに出展されたことで,甲第1号証に記載された構造を有する装置に係る発明は,公然知られた発明(29条1項1号に掲げる発明)となった。

イ 甲第5号証の1ないし18,甲第6号証から,ワイヤースキンマシンKIND2-80型が,納品書記載の各社に譲渡(納品)されたことで,甲第1号証に記載された構造を有する装置に係る発明が,公然実施された発明(29条1項2号に掲げる発明)となった。

ウ 甲第7号証の1?3,甲第9号証の1,2から,KIND2-80型の動作を説明する動画が,インターネットにアップロードされたことによって,甲第1号証に記載された構造を有する装置に係る発明が,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(29条1項3号に掲げる発明)となった。

エ 本件訂正発明1?5と甲1発明とは,若干の差異はあるが,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば,甲1発明に基いて,容易に発明をすることができたものである。

なお,無効理由1(特許法第29条第1項)についての主張は,平成30年10月12日の口頭審理において取り下げられた。

第5 被請求人の主張
被請求人は,平成30年5月1日付けの審判事件答弁書によれば,「(1)本件無効審判の請求は成り立たない。(2)審判請求費用については,請求人が負担すべきものとする。との審決を求める。」との審決を求め,請求人の主張する無効理由が,訂正後の請求項1ないし5に係る発明について成り立たないと主張している。
なお,被請求人は,証拠方法として平成30年5月1日付けの審判事件答弁書に添付して乙第1号証を提出したが,前記乙第1号証は,口頭審理において取り下げられた。
また,被請求人は,証拠方法として平成31年1月21日付けの回答書に添付して,以下の乙第1号証,乙第2号証を提出し,本件特許発明のさらなる効果を主張している。
しかしながら,被請求人が,乙第1号証,乙第2号証に基づいて主張しようとする「本件特許発明(訂正後)では,ドーナツ部21における角度固定の腕部22及び穴21bを採用するため,十分な拡張空間を有するため,オプションを採用することができます。」との効果は,本件特許明細書に記載されたものではなく,しかも,乙第1号証の発行日が,平成27年10月7日(出願日:平成27年2月18日)であり,乙第2号証の発行日が,平成27年6月1日(出願日:平成27年2月10日)であって,いずれの日付も,本件特許の出願日である,平成24年12月21日よりも後の日付であることから,乙第1号証及び乙第2号証が,本件特許発明の,甲1発明に対する進歩性を肯定する根拠となり得ないことは明らかである。
したがって,乙第1号証及び乙第2号証を取り調べることが必要であるとは認められないから,特許法第151条で準用する民事訴訟法第181条第1項の規定により,乙第1号証及び乙第2号証の取り調べは行わない。

・乙第1号証:特許第5791137号公報
・乙第2号証:意匠登録第1524997号公報

第6 無効理由について
1 甲号証について
(1)甲第1号証の記載事項
ア 本件特許に係る出願前に作成された文書の写しである甲第1号証は,「回転式端末剥離機 ワイヤー・スキン・マシン KIND2-80型 設計図面」の写しであって,以下の事項が記載されていることが読み取れる。

(ア)甲第1号証の第1ページに,「回転式端末剥離機」,「ワイヤー・スキン・マシン KIND2-80型 設計図面」,「2010年6月?2010年10月」,「大川三基株式会社」の記載,並びに,「作図」欄に「佐藤」,「検図」欄に「大川」,及び,「承認」欄に「大川三基 ’10.11.08 大川」の記載がされていること。

(イ)甲第1号証第5頁の図番「80-Y01」には,以下の「剥刃組立図」が記載されている。


そして,甲第1号証の他のページの記載,及び,技術常識を参酌することで,上記「剥刃組立図」から,以下の事項を見て取ることができる。
(i)「剥刃組立図」が,「回転式端末剥離機」である「ワイヤー・スキン・マシン」における,ワイヤー,すなわち,芯材の外周を被覆した被覆ケーブルの端末から,回転式の切刃によって,前記被覆を輪切りに切断し,前記被覆ケーブルから前記切断した被覆を剥離し,前記芯材を露出させる機構の説明図であること。

(ii)「剥刃組立図」に,符号36で示される「切刃フランジ」が,中心に穴を有する回転体であること。

(iii)「剥刃組立図」に,符号44で示される「スライドベース」が,符号46で示される「切刃」を,前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有すること。

(iv)前記「スライドベース」が,前記「切刃フランジ」に連接することで,前記「切刃」を回転させる機構を構成すること。

(v)「剥刃組立図」に,符号46で示される「切刃」は4枚であって,これらは,一方の面に刃先に向け傾斜面を備える板刃を,前記被覆ケーブルを挟み刃先が対向する2枚で一組の板刃で,2組の計4枚とし,異なる組の板刃は,90度回転した位置で,他方の組の平坦面同士が向き合う位置に配置され,前記「スライドベース」のスライド溝にスライド可能に保持されており,前記被覆ケーブル中心方向にスライドしつつ同一面で回転することで前記被覆を輪切りに切断するものであること。

(vi)「剥刃組立図」に,符号42で示される「ローラ金具B」が,前記切刃の端部をスライド可能に係止するものであり,符号40で示される「切込アーム」の一方端部に形成された,一端が開放されたU字状のガイドに係合すること。

(vii)前記「切刃」,前記「ローラ金具B」,及び,前記「切込アーム」が,回転する刃部を構成すること。

(viii)「剥刃組立図」に,符号35で示される「押_(エ)リングB」が,前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向に直動することで,戻しバネユニットによって,その自由端が開径方向に付勢されている前記「切込アーム」の中間領域を押圧し,前記「切込アーム」の他端を軸として,前記自由端を閉径方向に回動させることで,前記「切刃」を,前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライドさせること。

(ix)「剥刃組立図」の,「ステッピングモーター」の駆動によって,前記「押_(エ)リングB」を前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向に直動させ,前記「押_(エ)リングB」の前記直動の距離に応じて回動する「切込アーム」の回動量の変化によって,前記「切刃」を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライドさせる距離を調整することで,前記「切刃」の刃先で形成される内接円の径を任意の大きさに制御すること。

(ウ)甲第1号証第60頁の図番「80-Y02」には,以下の「突当ユニット組立図」が記載されている。


そして,甲第1号証の他のページの記載,及び,技術常識を参酌することで,上記「突当ユニット組立図」から,以下の事項を見て取ることができる。
(i)「突当ユニット組立図」が,「回転式端末剥離機」である「ワイヤー・スキン・マシン」における,突当ユニットの説明図であること。

(ii)「突当ユニット組立図」に,符号1で示される「突当金具」が,被覆ケーブルの端部を当接させて,前記「切刃」による前記被覆のカット位置を決めるストッパであること。

(エ)甲第1号証第74頁の図番「80-Y03」は,「クランプ組立図」であって,同図から,前記被覆ケーブルを固定する機構を見て取ることができる。

イ そうすると,上記「剥刃組立図」,「突当ユニット組立図」,「クランプ組立図」及び,甲第1号証の他の図面の記載,並びに,請求人が平成30年7月9日に提出した回答書における回答から,技術常識に照らして,甲第1号証には,以下の発明(以下「甲1発明」)が記載されていると認められる。

<甲1発明>
ワイヤー,すなわち,芯材の外周を被覆した被覆ケーブルの端末から,回転式の切刃によって,前記被覆を輪切りに切断し,前記被覆ケーブルから前記切断した被覆を剥離し,前記芯材を露出させる「ワイヤー・スキン・マシン」すなわち,「回転式端末剥離機」であって,
中心に穴を有する回転体である「切刃フランジ」,及び前記「切刃フランジ」に連接する「スライドベース」よりなる,前記「切刃」を回転させる機構であって,前記「スライドベース」が,前記「切刃」を,前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する機構と,
4枚の「切刃」であって,これらは,一方の面に刃先に向け傾斜面を備える板刃を,前記被覆ケーブルを挟み刃先が対向する2枚で一組の板刃で,2組の計4枚とし,異なる組の板刃は,90度回転した位置で,他方の組の平坦面同士が向き合う位置に配置され,前記「スライドベース」のスライド溝にスライド可能に保持されており,前記被覆ケーブル中心方向にスライドしつつ同一面で回転することで前記被覆を輪切りに切断するものである「切刃」,一方端部に形成された一端が開放されたU字状のガイドを有する「切込アーム」,及び前記「切刃」の端部をスライド可能に係止するものであり前記「切込アーム」の一方端部に形成された一端が開放されたU字状のガイドに係合する「ローラ金具B」よりなる回転する刃部である機構と,
戻しバネユニットによって,その自由端が開径方向に付勢されている前記「切込アーム」の中間領域を押圧し,前記「切込アーム」の他端を軸として,前記自由端を閉径方向に回動させる,前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向に直動する「押_(エ)リングB」からなる機構と,
被覆ケーブルの端部を当接させて,前記「切刃」による前記被覆のカット位置を決めるストッパである「突当金具」と,
被覆ケーブルを固定する「クランプ」と,
からなり,
「ステッピングモーター」の駆動によって,前記「押_(エ)リングB」を前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向に直動させ,前記「押_(エ)リングB」の前記直動の距離に応じて回動する「切込アーム」の回動量の変化によって,前記「切刃」を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライドさせる距離を調整することで,前記「切刃」の刃先で形成される内接円の径を任意の大きさに制御する
「回転式端末剥離機」。

(2)甲第10号証の記載事項
ア 本件特許に係る出願の出願日(以下「本件特許出願日」という。)前に頒布された刊行物である甲第10号証には,以下の事項が記載されている。(下線は,当審で付与した。以下同じ。)
「【0009】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態の具体例を図面を用いて詳細に説明する。図1?図2は,本発明に係る電線皮剥き装置の一実施例を示すものである。この電線皮剥き装置1は,カム孔(カム部)2,3を有する一対のカッタベース4,5と,両カム孔2,3に係合する一本のピン状の移動子6を備えた軸部材7と,軸部材7に固定された電線位置決め板(電線位置決め部)8と,軸部材7を進退させるボールねじ軸9(ねじ軸)とを含むものである。
【0010】カム孔2,3は,図3にも示す如く,電線軸方向に延びる共通の真直部2a,3aと,真直部2a,3aから外向き(電線径方向)に傾斜(湾曲)して延びる傾斜部2b,3bとで構成されている。真直部2a,3aの長さは移動子6の外径よりも十分に大きく設定されている。両カム孔2,3の真直部2a,3aは上下に整合して,常に位置ずれなく貫通している。両傾斜部2b,3bは左右対称に形成されている。
【0011】一対のカッタベース4,5は板状に形成され,上下に重なって(カッタベース5が上側,カッタベース4が下側に)配置されて,左右(電線径方向)にスライド自在である。図1の皮剥きカッタ10,11の全開状態で一対のカッタベース4,5は左右にずれて位置し,全閉状態で上下に整合する。各カッタベース4,5の両側部には半円状の溝12_(1) ,12_(2) ,13_(1) ,13_(2) が形成され,カッタベース4,5の上側及び下側の支持基板14,15(図2)の何れかに,溝12_(1) ,12_(2) ,13_(1) ,13_(2) に係合するストッパピン16,17が固定されている。
【0012】各カッタベース4,5の前端側にホルダ18,19を介して皮剥きカッタ10,11が固定されている。図3の如く上側のカッタベース5のホルダ19は下寄りに,下側のカッタベース4のホルダ18は上寄りに配置され,両ホルダ18,19が左右に対向して位置する。両カッタベース4,5及び両ホルダ18,19は同一形状のものを反転して使用している。一対の皮剥きカッタ10,11の間に電線(図示せず)がセットされる。
【0013】皮剥きカッタ10,11の前方に一対の電線クランプ20,21が配置されている。一対の電線クランプ20,21は,図示しない一対のクランプベースに固定され,各クランプベースにラックが設けられ,各ラックにピニオンが歯合して,一方のクランプベースが圧力シリンダ22のロッド部23に連結されて,圧力シリンダ22の駆動で皮剥きカッタ10,11が左右に開閉する。あるいは,モータ(符号22で代用)のプーリ(符号23で代用)にベルト(図示せず)を介して左右逆ねじのボールねじ軸(図示せず)で開閉してもよい。
【0014】一対のカッタベース4,5は上下一対の支持基板14,15(図2)に挟まれるように保持されている。各支持基板14,15の前後端には位置決め用の突条24,25(図2)が対向して設けられ,各カッタベース4,5は突条24,25に沿ってカッタ開閉方向にスライド自在である。支持基板14,15は後側の環状部材26に固定されている。
【0015】移動子6は両カム孔2,3を貫通して軸部材7に固定されている。図4にも示す如く,移動子6は中央のピン6aと,ピン6aの長手方向中央に設けられたベアリング6bとで構成されている。軸部材7の先端側は略コの字状に切欠形成され,上下の壁部53,54の孔55にピン6aの上下端部が支持され,両壁部53,54の間の矩形状の切欠部52内にベアリング6bが位置し,ベアリング6bが各カッタベース4,5(図3)のカム孔2,3に回動自在に係合している。
【0016】軸部材7は本例で略長方形状に形成されている。図2の如く,軸部材7の前端には電線位置決め板8が垂直に固定されている。電線位置決め板8は長方形状に形成され,電線位置決め板8の上下両端部に電線軸方向のスライドバー28,29が固定されている。電線位置決め板8には電線の先端が当接位置決めされる。上下の支持基板14,15には,スライドバー28,29に対する筒状のガイド30,31が設けられている。電線位置決め板8は軸部材7と一体に電線軸方向に進退可能である。
【0017】図4にも示す如く,軸部材7の後端に爪状のシャンク32が設けられ,シャンク32がボールねじ軸9(図1,図2)の前端側の周溝33に係合している。ボールねじ軸9の前端の頭部は例えばベアリング(図示せず)を介してシャンク32の内側の溝56内に回動自在に支持されている。シャンク32は回動せず,ボールねじ軸9のみが回動する。ボールねじ軸9はナット部34(図1,図2)すなわち雌ねじ部材に係合すると共に軸受35で回動自在に支持され,例えばナット部34と軸受35(図2)とはケース36の内部で回動自在に連結され,ナット部34に大径のギヤ37が固定され,ギヤ37はサーボモータ38側のピニオンギヤ39に歯合している。ケース36はベースプレート40に固定されている。
【0018】ボールねじ軸9は軸方向中間部において支持具42でベースプレート40に回動自在に支持されている。ベースプレート40は電線軸方向のレール43にスライドガイド44を介してスライド自在に係合し,ベースプレート40の後端にシリンダ45のロッド46が連結されている。
【0019】サーボモータ38の駆動(正転ないし逆転)でギヤ39,37を介してナット部34が回動し,ボールねじ軸9が軸方向に移動する。それによって軸部材7が引っ張られて後退し,あるいは押されて前進する。軸部材7の後退時にピン状の移動子6が一体に軸方向に後退し,各カム孔2,3の真直部2a,3aから傾斜部2b,3bに沿って移動する。カム孔2,3は逆ハの字状になる。それによって一対のカッタベース4,5が皮剥きカッタ10,11と共に閉止方向に移動し,電線の絶縁被覆に切れ込みを入れる。シリンダ45を圧縮してロッド46を後退させることで,ベースプレート40が皮剥きカッタ10,11と一体に後退し,それにより,電線の絶縁被覆が導体部から離脱する。
【0020】また,サーボモータ38を逆転して軸部材7を前進させることで,移動子6に沿ってカム孔2,3が逆ハの字状から図1のハの字状に移動し,カッタベース4,5と一体に皮剥きカッタ10,11が開く。皮剥きカッタ10,11の切れ込み深さは,移動子6をカム溝2,3の傾斜部2b,3bのどの位置で停止させるかによって決定される。この調整は軸部材7の進退方向の位置設定で行われる。
【0021】移動子6がカム孔2,3の真直部2a,3aを移動している時は,一対のカッタベース4,5は閉止方向に何ら移動しない。従って皮剥きカッタ10,11は何ら開閉しない。この真直部2a,3aは,軸部材7の先端の電線位置め板8の位置を電線軸方向に規定するためのものであり,真直部2a,3aの長さの範囲内の任意の位置に移動子6を位置させることで,電線位置め板8の位置を所望に変化させることができる。移動子6の位置は,ボールねじ軸9による軸部材7の進退動作によって決定されることはいうまでもない。
【0022】それによって電線の皮剥き長さが任意に設定され,各種の電線の皮剥きに対応可能となる。また,カム孔2,3と移動子6とを用いることで,カッタベース4,5が小型化され,且つ従来(図3,図4)のように皮剥きカッタをボールねじ軸で駆動するといった大がかりな機構が不要となる。なお,電線位置決め板8を軸部材7の先端で代用することも可能である。
【0023】また,上記構成は電線皮剥き方法としても有効である。すなわち,この電線皮剥き方法は,一対のカッタベース4,5のカム孔2,3に移動子6を係合させ,移動子6を電線軸方向に進退させて,一対のカッタベース4,5と一体に皮剥きカッタ10,11を開閉させる電線皮剥き方法であって,カム孔2,3の電線軸方向の真直部2a,3aの範囲内で移動子6の位置を規定することで,移動子6と一体に電線位置決め板8の位置を調整し,電線位置決め板8に電線の先端を突き当てることを特徴としている。
【0024】前記ベースプレート40の前端側には大径な軸受47が固定され,軸受47に環状部材26が回転自在に支持され,環状部材26は一対の支持基板14,15に連結されている。環状部材26の後端には大径のギヤ48が固定され,ギヤ48はサーボモータ49(図1)側のピニオンギヤ50に歯合している。サーボモータ49の駆動でギヤ50,48及び環状部材26を介して支持基板14,15が皮剥きカッタ10,11と一体に回動し,電線の絶縁被覆が周方向に完全に切断される。
【0025】皮剥きカッタ10,11はカッタベース4,5と支持基板14,15と軸部材7と環状部材26と一体に回動する。軸部材7はシャンク32によってボールねじ軸9とは別個に回動自在である。従来のようにサーボモータやボールねじ軸を皮剥きカッタと一体に回動させることがないから,電線皮剥き装置1が小型化すると共に,サーボ部分(NC部分)の衝撃対策が不要となり,コストが安く済む。
【0026】
【発明の効果】以上の如く,請求項1記載の発明によれば,移動子に対して一対のカッタベースをカム孔に沿って皮剥きカッタの開閉方向に移動させることで,皮剥きカッタの開閉方向の駆動機構が簡素化・小型化・軽量化される。そして,従来のカッタベースを直接,ねじ軸とサーボモータとで駆動するという大がかりな機構が不要となる。また,請求項2記載の発明によれば,カム孔の真直部に沿って移動子を移動させることで,軸部材に進退動作とは関係なく皮剥きカッタの開閉方向の位置を一定に規定することができる。また,請求項3,5記載の発明によれば,請求項2のカム孔の真直部の長さの範囲で電線位置決め部の位置を自在に規定することができ,種々の電線の皮剥き長さに容易に対応して,皮剥き長さの調整を正確に行うことができる。また,皮剥き長さの調整機構が従来の大がかりなNC機構に較べて簡素化・低コスト化する。また,請求項4記載の発明によれば,電線の絶縁被覆を周方向に切断する際に,カッタベースと軸部材とが回動するのみであり,従来のようにカッタベースとねじ軸とサーボモータ(NC部)といった重量物を回動させる必要がなくなるから,切断動作が迅速化すると共に,電線皮剥き装置の耐久性が増し,且つ装置の剛性(強度)を従来のように上げる必要がなくなり,電線皮剥き装置の小型,軽量化,低コスト化が達成される。」





イ 上記記載から,甲第10号証には,以下の技術的事項が記載されていると認められる。
(ア)カム孔(カム部)2,3を有する一対のカッタベース4,5と,両カム孔2,3に係合する一本のピン状の移動子を備えた軸部材と,軸部材に固定された電線位置決め板(電線位置決め部)と,軸部材を進退させるボールねじ軸(ねじ軸)とを含む電線皮剥き装置であって,
前記カム孔2,3は,電線軸方向に延びる共通の真直部と,前記真直部から外向き(電線径方向)に傾斜(湾曲)して延びる傾斜部とで構成されており,
前記一対のカッタベース4,5は板状に形成され,上下に重なって配置されて,左右(電線径方向)にスライド自在であり,さらに,これらの一対のカッタベース4,5は,後側の環状部材に固定されている上下一対の支持基板に挟まれるように保持されており,前記各支持基板の前後端に対向して設けられた位置決め用の突条に沿って,各カッタベース4,5はカッタ開閉方向にスライド自在とされており,
前記各カッタベース4,5の前端側にホルダを介して皮剥きカッタが固定されており,
前記皮剥きカッタの前方に一対の電線クランプが配置されており,
移動子は両カム孔2,3を貫通して軸部材に固定されており,
サーボモータの駆動によって軸部材が引っ張られて後退し,軸部材の後退時にピン状の移動子が一体に軸方向に後退し,各カム孔2,3の真直部から傾斜部に沿って移動し,それによって一対のカッタベース4,5が皮剥きカッタと共に閉止方向に移動し,電線の絶縁被覆に切れ込みを入れ,シリンダを圧縮してロッドを後退させることで,ベースプレートを皮剥きカッタと一体に後退させ,それにより,電線の絶縁被覆を導体部から離脱させる
電線皮剥き装置。

(イ)移動子が,電線軸方向に延びる共通の真直部と,真直部から外向き(電線径方向)に傾斜(湾曲)して延びる傾斜部とで構成されているカム孔の真直部を移動している時は,一対のカッタベースは閉止方向に何ら移動せず,従って皮剥きカッタは何ら開閉しないので,当該真直部の長さの範囲内の任意の位置に移動子を位置させることで,当該移動子を備える軸部材に固定された電線位置め板の位置を所望に変化させ,これによって電線の皮剥き長さを任意に設定することができ,各種の電線の皮剥きに対応可能となるので,皮剥き長さの調整機構が従来の大がかりなNC機構に較べて簡素化・低コスト化すること。

(ウ)カム孔(カム部)2,3を有する一対のカッタベース4,5と,両カム孔2,3に係合する一本のピン状の移動子を備えた軸部材とからなる機構を用いることで,前記軸部材を進退させて,一本のピン状の移動子に対して一対のカッタベースをカム孔に沿って皮剥きカッタの開閉方向に移動させることができるので,皮剥きカッタの開閉方向の駆動機構が簡素化・小型化・軽量化されること。

(3)甲第11号証の記載事項
ア 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第11号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
「第1章 機械と機構 4.カム装置
(審決注.前ページから続く)が原節となり,これに直接接触する従節に運動を伝えるものである。構造はかんたんであるが,複雑な運動が得られるので,各種の製造機械,とくに自動機械にひろく用いられる。
1.カムの種類
カムは,接触部が平面運動をする平面カム(plane cam)と,立体的な運動をする立体カム(solid cam)とに大別される。これらのなかには,カムにみぞなどをつけて,運動が確実に伝わるようにしたものがある。これを確動カム(positive motion cam)とよんでいる。
(1)平面カム
平面カムのうちで最もひろく用いられるのは,特殊な輪郭をもった回転板をカムとしたもので,板カム(plate cam)とよばれる。図1-29は,板カムCが等速回転すると,従節Fが等速往復運動をするもので,カムの形からハートカム(heart cam)という。図(a)では,Fの先端がCとすべりあいながら運動を伝えるので,接触面の摩擦が大きく,摩耗しやすい。この欠点を少なくするために,図(b)のようにFの先端にころをつけることがある。
(図1-29:省略,図1-30:省略)
図(a),(b)では,Cの回転がはやいとFがCから浮き上がることがある。これを防ぐため,ばねなどによってFをCにおしつけたり,図(c)のように,カムにみぞを設けたりして,従節の動きが確実になるように確動カムにする。確動カムには,図1-30のようなものもある。図(a)は従節の平行な2平面で三角カムをはさみ,カムが回転しても従節との間にすきまができないようにしたカムで,ヨークカムという。
図(b)では,カムC_(1),C_(2)が,それぞれのカム軸に固定されている等しい平歯車G_(1),G_(2)とともに回転する。両カムは,従節Fのころをはさみながら回転し,Fに上下に往復する角運動を与えている。
多くのばあい,原節は回転運動をするが,カムCが往復直線運動


をするばあいもあり,これを直動カム(translation cam,図1-31)という。
また,ばあいによっては,従節Cのほうが特殊な形をしたカムになっていることがあり,これを逆カム(inverse cam,図1-32)という。
(2)立体カム
立体カム(図1-33)には,円筒・円すい・球などの回転体の表面にみぞをつけ,このみぞに従節の一部がはまりこんで運動を伝えるものが多い。円筒カム・円すいカム・球面カムもまた確動カムである(図(a),(b),(c))。
また,図(d)のように,円筒上にカム片をボルトで取り付けるようにした調整カムは,工作機械や各種の自動機械に使われている。
図(e)のエンドカム(end cam)もまた立体カムで,カムみぞを設けるかわりに,みぞの曲線に沿って回転体の端面を切断したものである。
(図1-33:省略)
図(f)のように,回転軸に斜めに平面板を取り付けたものを斜板カム(swash plate)という。これは軸の回転によって,従節Fが往復直線運動をし,平面板の傾斜角をかえて,行程をかえることができる。
2.板カムの設計
(1)変位線図
カムを設計するには,カムの回転に応じた従節の位置を知ることが必要である。いっぱんにカムは等速回転をしているから,カムの回転角を横軸にとり,従節の動きを縦軸にとってグラフをえがけば,この関係がよくわかる。このグラフをカムの変位線図という。
図1-34では,カムの1回転に対する従節の関係位置を変位曲線Oabcで示している。OX上でOからの距離はカムの回転角,OXバー(審決注.OXの上に横棒)からの垂直距離は,それぞれのカムの位置での従節の動きをあらわす。
(図1-34:省略,問4.:省略)」

イ 上記記載から,甲第11号証には,以下の技術的事項が記載されている認められる。
(ア)原節が,これに直接接触する従節に運動を伝える機構を有するカム装置は,かんたんな構造で複雑な運動が得られるので,各種の製造機械,とくに自動機械にひろく用いられており,
当該カムは,接触部が平面運動をする平面カムと,立体的な運動をする立体カムとに大別され,
平面カムのうちで最もひろく用いられるのは,特殊な輪郭をもった回転板をカムとしたもので,板カムとよばれ,
多くのばあい,原節は回転運動をするが,カムが往復直線運動をするばあいもあり,これを直動カムとよび,
立体カムには,円筒・円すい・球などの回転体の表面にみぞをつけ,このみぞに従節の一部がはまりこんで運動を伝えるものが多いこと。

(イ)図1-31から,板カムの一種である直動カムの,
左右の軸受けに,横方向に往復直線運動可能に保持された,下端縁が水平で上端縁が右肩上がりの輪郭をもった板カムCと,
前記板カムCの上方に設けられた軸受けによって上下方向に運動可能に保持される,前記板カムCの前記上端縁に,先端につけられたころによって直接接触し,前記板カムCの横方向への往復直線運動によって,前記板カムCの鉛直上下方向に運動する,従節Fと
を有する構造を見て取ることができる。

(4)甲第12号証の記載事項
ア 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第12号証には,以下の事項が記載されている。





「252. A and B are two rollers which require to be equally moved to and fro in the slot,C. This is accomplished by moving the piece, D, with oblique slotted arms, up and down.」(日本語訳:252.A及びBは,スロットC内で前後に均等に移動する必要がある2つのローラである。これは,斜めの細長いアームを用いて,ピースDを上下に動かすことによって達成される。)

イ 上記記載から,甲第12号証には,以下の技術的事項が記載されていると認められる。
2つのローラA及びBを,スロットC内で前後に均等に移動する必要がある場合に使用される機構であって,
2つのローラA,Bをスライド可能に係止するとともに先端部が中心側に位置し反先端部側が外側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し回動しない角度固定の斜めの細長いアーム,及び前記アームを立設するピースDを用いて,ピースDを上下に動かすことによって,2つのローラA,Bを,右に開口するスロットC内で,前後に均等に移動させる機構。

2 無効理由3(特許法第29条第2項)について
事案にかんがみ,最初に無効理由3について検討する。
(1)本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と甲1発明
本件訂正発明1と,甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「切刃」は,本件訂正発明1の「刃」に相当する。そして,甲1発明において,回転式の切刃によって被覆を輪切りに切断し,被覆ケーブルから前記切断した被覆を剥離する際に,前記切断した被覆は,被覆ケーブルの長手方向に移動して芯材を露出させるといえる。
したがって,甲1発明の「ワイヤー,すなわち,芯材の外周を被覆した被覆ケーブルの端末から,回転式の切刃によって,前記被覆を輪切りに切断し,前記被覆ケーブルから前記切断した被覆を剥離し,前記芯材を露出させる『ワイヤー・スキン・マシン』すなわち,『回転式端末剥離機』」は,本件訂正発明1の「芯材の外周を被覆した被覆ケーブルの前記被覆を回転する複数枚の刃で輪切りに切断し前記被覆ケーブルから切断した被覆を前記被覆ケーブルの長手方向に移動させ前記芯材を露出させる被覆ケーブルの被覆剥離装置」に相当する。

(イ)甲1発明の「切刃フランジ」及び「スライドベース」は,それぞれ本件訂正発明1の「回転体」及び「刃スライド保持部」に相当する。
したがって,甲1発明の「中心に穴を有する回転体である『切刃フランジ』,及び前記『切刃フランジ』に連接する『スライドベース』よりなる,前記『切刃』を回転させる機構であって,前記『スライドベース』が,前記『切刃』を,前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する機構」と,本件訂正発明1の「中心に前記被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に前記刃と同数の貫通孔を有する回転体,及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構」とは,中心に穴を有する回転体,及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構である点で一致する。

(ウ)甲1発明の「切込アーム」と,本件訂正発明1とは,「腕部」と,前記刃の端部をスライド可能に係止するとともにガイドを有する腕部である点で一致する。
したがって,甲1発明の「4枚の『切刃』であって,これらは,一方の面に刃先に向け傾斜面を備える板刃を,前記被覆ケーブルを挟み刃先が対向する2枚で一組の板刃で,2組の計4枚とし,異なる組の板刃は,90度回転した位置で,他方の組の平坦面同士が向き合う位置に配置され,前記『スライドベース』のスライド溝にスライド可能に保持されており,前記被覆ケーブル中心方向にスライドしつつ同一面で回転することで前記被覆を輪切りに切断するものである『切刃』,一方端部に形成された一端が開放されたU字状のガイドを有する『切込アーム』,及び前記『切刃』の端部をスライド可能に係止するものであり前記『切込アーム』の一方端部に形成された一端が開放されたU字状のガイドに係合する『ローラ金具B』よりなる回転する刃部である機構」と,本件訂正発明1の「前記被覆ケーブルの長手方向に直交する方向の同一面に等間隔で配置され前記被覆ケーブル中心方向にスライドしつつ前記同一面で回転することで前記被覆を輪切りに切断する複数の刃,前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部,及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部よりなる回転刃部」とは,前記被覆ケーブルの長手方向に直交する方向の同一面に等間隔で配置され前記被覆ケーブル中心方向にスライドしつつ前記同一面で回転することで前記被覆を輪切りに切断する複数の刃,前記刃の端部をスライド可能に係止するとともにガイドを有する腕部よりなる回転刃部である点で一致する。

(エ)甲1発明の「戻しバネユニットによって,その自由端が開径方向に付勢されている前記『切込アーム』の中間領域を押圧し,前記『切込アーム』の他端を軸として,前記自由端を閉径方向に回動させる,前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向に直動する『押_(エ)リングB』からなる機構」と,本件訂正発明1の「前記ドーナツ部を前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向に直動させる刃部直動機構」とは,刃部直動機構である点で一致する。

(オ)甲1発明の「被覆ケーブルの端部を当接させて,前記『切刃』による前記被覆のカット位置を決めるストッパである『突当金具』」は,本件訂正発明1の「前記被覆ケーブルの端部を当接させて前記刃による前記被覆のカット位置を決めるストッパ」に相当する。

(カ)技術常識に照らして,甲1発明の「クランプ」は,被覆ケーブルの端部を「突当金具」に当接した上で被覆ケーブルを固定するものといえる。
したがって,甲1発明は,本件訂正発明1の「前記被覆ケーブルの端部を前記ストッパに当接した上で前記被覆ケーブルを固定し」を満たす。

(キ)技術常識に照らして,「ステッピングモーター」の駆動は,デジタル制御であるといえる。したがって,甲1発明における,「押_(エ)リングB」の被覆ケーブルの長手方向と平行な方向への直動,及び,前記直動によって駆動される「切刃」の刃先で形成される内接円の径を任意の大きさの制御は,いずれもデジタル制御に該当する。
したがって,甲1発明の「「ステッピングモーター」の駆動によって,前記「押_(エ)リングB」を前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向に直動させ,前記「押_(エ)リングB」の前記直動の距離に応じて回動する「切込アーム」の回動量の変化によって,前記「切刃」を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライドさせる距離を調整することで,前記「切刃」の刃先で形成される内接円の径を任意の大きさに制御する」と,本件訂正発明1の「前記刃部直動機構で前記ドーナツ部を前記回転体方向である前方にデジタル制御で直動させることで前記刃を前記スライド溝に沿って前記被覆ケーブル中心方向にスライドさせつつ回転する前記刃の刃先で形成される内接円の径を前記直動で任意の大きさにデジタル制御し」とは,前記刃部直動機構を前記回転体方向である前方にデジタル制御で直動させることで前記刃を前記スライド溝に沿って前記被覆ケーブル中心方向にスライドさせつつ回転する前記刃の刃先で形成される内接円の径を前記直動で任意の大きさにデジタル制御する点で一致する。

(ク)してみれば,本件訂正発明1と,甲1発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。

<一致点>
「芯材の外周を被覆した被覆ケーブルの前記被覆を回転する複数枚の刃で輪切りに切断し前記被覆ケーブルから切断した被覆を前記被覆ケーブルの長手方向に移動させ前記芯材を露出させる被覆ケーブルの被覆剥離装置であって,
中心に穴を有する回転体,及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構と,
前記被覆ケーブルの長手方向に直交する方向の同一面に等間隔で配置され前記被覆ケーブル中心方向にスライドしつつ前記同一面で回転することで前記被覆を輪切りに切断する複数の刃,前記刃の端部をスライド可能に係止する部材よりなる回転刃部と,
刃部直動機構と,
前記被覆ケーブルの端部を当接させて前記刃による前記被覆のカット位置を決めるストッパと,
からなり,
前記被覆ケーブルの端部を前記ストッパに当接した上で前記被覆ケーブルを固定し,
前記刃部直動機構を前記回転体方向である前方にデジタル制御で直動させることで前記刃を前記スライド溝に沿って前記被覆ケーブル中心方向にスライドさせつつ回転する前記刃の刃先で形成される内接円の径を前記直動で任意の大きさにデジタル制御し,
前記刃部回転機構を回転させることで前記被覆ケーブルの被覆を前記複数の刃で輪切りに切断し,
前記刃部回転機構及び回転刃部を前記直動方向と逆向きに後退させることで切断された被覆を前記刃の刃先に係止して前記被覆ケーブルの長手方向に移動させ前記芯材を露出させる被覆ケーブルの被覆剥離装置。」

<相違点>
本件訂正発明1と甲1発明とは,刃部直動機構を直動させることで刃をスライド溝に沿って被覆ケーブル中心方向にスライドさせて前記刃の刃先で形成される内接円の径を任意の大きさに制御する機構が,
本件訂正発明1では,
中心に被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に刃と同数の貫通孔を有する回転体,及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構と,前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部,及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部よりなる回転刃部とからなり,
前記刃部直動機構で前記ドーナツ部を前記回転体方向である前方にデジタル制御で直動させることで前記刃を前記スライド溝に沿って前記被覆ケーブル中心方向にスライドさせて前記刃の刃先で形成される内接円の径を前記直動で任意の大きさに制御するものであるのに対して,
甲1発明では,
中心に穴を有する回転体である「切刃フランジ」,及び前記「切刃フランジ」に連接する「スライドベース」よりなる,前記「切刃」を回転させる機構であって,前記「スライドベース」が,前記「切刃」を,前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する機構と,一方端部に形成された一端が開放されたU字状のガイドを有する「切込アーム」,及び前記「切刃」の端部をスライド可能に係止するものであり前記「切込アーム」の一方端部に形成された一端が開放されたU字状のガイドに係合する「ローラ金具B」よりなる回転する刃部である機構とからなり,
「押_(エ)リングB」で,戻しバネユニットによって,その自由端が開径方向に付勢されている前記「切込アーム」の中間領域を押圧し,前記「切込アーム」の他端を軸として,前記自由端を閉径方向に回動させることで,前記「切刃」を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライドさせて,前記「切刃」の刃先で形成される内接円の径を任意の大きさに制御するものである点で相違する。

なお,上記相違点を,本件訂正発明1と甲1発明の個別の部材について整理すると,
本件訂正発明1では,刃部回転機構の回転体が,「中心に前記被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に前記刃と同数の貫通孔を有」し,回転刃部が,「前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部,及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部」を備え,「前記ドーナツ部」が,「刃部直動機構」によって,「前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向に直動さ」れるものと特定されているのに対して,
甲1発明では,刃部回転機構の回転体が,中心の穴に,被覆ケーブルが挿通するか否かが明らかでなく,さらに,前記刃部回転機構の回転体が「外側に前記刃と同数の貫通孔を有する」という構成を備えおらず,
刃の端部をスライド可能に係止する部材が,「ローラ金具B」であって,一方端部に形成された一端が開放されたU字状のガイドを有する「切込アーム」の当該U字状のガイドに前記「ローラ金具B」が係合し,被覆ケーブルの長手方向と平行な方向に直動する「押エリングB」が,戻しバネユニットによって,その自由端が開径方向に付勢されている前記「切込アーム」の中間領域を押圧することで,前記「切込アーム」の他端を軸として回動させて,刃の端部をスライドさせるものであり,
「腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部」を備えていない点で相違するといえる。

イ 相違点についての判断
(ア)特許法29条1項は,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる発明を除き,その発明について特許を受けることができる。」と定め,同項1号として,「特許出願前に日本国内又は外国において」「公然知られた発明」,同項2号として,「特許出願前に日本国内又は外国において」「公然実施をされた発明」,及び,同項3号として,「特許出願前に日本国内又は外国において」「頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」を挙げている。
また,同条2項は,特許出願前に当業者が同条1項各号に定める発明に基づいて容易に発明をすることができたときは,その発明については,特許を受けることができない旨を規定し,いわゆる進歩性を有していない発明は特許を受けることができないことを定めている。
そして,上記進歩性に係る要件が認められるかどうかは,特許請求の範囲に基づいて特許出願に係る発明(「本件訂正発明1」)を認定した上で,同条1項各号所定の発明と対比し,一致点及び相違点を認定し,相違点について,当業者が,出願時の技術水準に基づいて,上記相違点について,本件訂正発明1に係る構成を採用することを容易に想到することができたかどうかを検討することによって行う。

(イ)本件訂正発明1は,甲1発明と対比して,上記ア(ク)<相違点>に記載したとおりの相違点が存在すると認められる。
そこで,上記相違点について,当業者が,出願時の技術水準に基づいて,上記相違点について,本件訂正発明1に係る構成を採用することを容易に想到することができたかどうかを検討する。

(ウ)出願時の技術水準について検討すると,上記1(2)の記載から,「電線皮剥き装置」という技術分野において,
「電線軸方向に延びる共通の真直部と,前記真直部から外向き(電線径方向)に傾斜(湾曲)して延びる傾斜部とで構成され」る「カム孔(カム部)を有する一対の」「板状に形成され,上下に重なって配置されて,左右(電線径方向)にスライド自在であ」る「カッタベースと,両カム孔に係合する一本のピン状の移動子を備えた軸部材と」,「軸部材を進退させるボールねじ軸(ねじ軸)とを含む」機構を,
「サーボモータの駆動によって軸部材が引っ張られて後退し,軸部材の後退時にピン状の移動子が一体に軸方向に後退し,各カム孔の真直部から傾斜部に沿って移動し,それによって一対のカッタベースが皮剥きカッタと共に閉止方向に移動」させるという用途,すなわち,「軸部材」の直動を,「皮剥きカッタ」の電線中心方向へのスライドという運動へと,その運動の方向を変更させるという用途に用いることが,本願の出願前に知られていたといえる。(甲第10号証)

(エ)また,上記1(3)の記載から,「機械設計」という一般的な技術分野において,
接触部が平面運動をする平面カムと,立体的な運動をする立体カムとに大別されるカム装置が,各種の製造機械,とくに自動機械にひろく用いられており,
前記平面カムのうちで最もひろく用いられるのは,特殊な輪郭をもった回転板をカムとる板カムとよばれるものであるが,カムが往復直線運動をする直動カムとよばれるものも知られており,
前記直動カムとして,
左右の軸受けに,横方向に往復直線運動可能に保持された,下端縁が水平で上端縁が右肩上がりの輪郭をもった板カムCと,
前記板カムCの上方に設けられた軸受けによって上下方向に運動可能に保持される,前記板カムCの前記上端縁に,先端につけられたころによって直接接触し,前記板カムCの横方向への往復直線運動によって,前記板カムCの鉛直上下方向に運動する,従節Fと
を有する構造が,本願の出願前に知られていたといえる。(甲第11号証)

(オ)さらに,上記1(4)の記載から,「MECHANICAL MOVEMENTS」という,一般的な技術分野において,
2つのローラA及びBを,スロットC内で前後に均等に移動する必要がある場合に使用される機構であって,
2つのローラA,Bをスライド可能に係止するとともに先端部が中心側に位置し反先端部側が外側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し回動しない角度固定の斜めの細長いアーム,及び前記アームを立設するピースDを用いて,ピースDを上下に動かすことによって,2つのローラA,Bを,右に開口するスロットC内で,前後に均等に移動させる機構が,本願の出願前に知られていたといえる。(甲第12号証)

(カ)そして,甲第10号証の「カッタベース」が有する「電線軸方向に延びる共通の真直部と,前記真直部から外向き(電線径方向)に傾斜(湾曲)して延びる傾斜部とで構成され」る「カム孔(カム部)」の前記「前記真直部から外向き(電線径方向)に傾斜(湾曲)して延びる傾斜部」は,「テーパ」ということができ,また,甲第11号証の板カムCの「上端縁が右肩上がりの輪郭」,及び,甲第12号証の「先端部が中心側に位置し反先端部側が外側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔」もまた「テーパ」ということができるから,これら,甲第10?12号証の記載から,本件特許の出願前に,「テーパーを利用して運動の方向を変更する機構」が周知であったことが認められる。

(キ)そこで,出願時の技術水準として,「テーパーを利用して運動の方向を変更する機構」が周知であることを前提として,当業者が,甲1発明において,上記相違点について,本件訂正発明1に係る構成を採用することを容易に想到することができたかについて検討する。

(ク)本件訂正発明1は,上記ア(ク)<相違点>に記載したとおり,刃部直動機構を直動させることで刃をスライド溝に沿って被覆ケーブル中心方向にスライドさせて前記刃の刃先で形成される内接円の径を任意の大きさに制御する機構として,
「中心に被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に刃と同数の貫通孔を有する回転体,及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構と,前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部,及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部よりなる回転刃部とからな」る具体的な構造を採用するものである。
一方,上記(カ)のとおり,本願の出願前に,「テーパーを利用して運動の方向を変更する機構」が周知であったことは認められるものの,本件訂正発明1が備える上記の具体的な構造が本件特許の出願前に知られていたことは,請求人が提出した証拠方法によっては認めることはできない。
また,「刃部直動機構を直動させることで刃をスライド溝に沿って被覆ケーブル中心方向にスライドさせて前記刃の刃先で形成される内接円の径を任意の大きさに制御する」という動作を,「テーパーを利用して運動の方向を変更する機構」を用いて実現するにあたり,本件訂正発明1が備える前記具体的な構造が唯一の解決手段であって,甲1発明に,「テーパーを利用して運動の方向を変更する機構」を適用した場合に,必然的に,本件訂正発明1が備える前記具体的な構造を採用することに至るものであるとも認められない。
このことは,甲第10号証には,本件訂正発明1の前記具体的な構造とは異なる構造によって,前記「テーパーを利用して運動の方向を変更する機構」を実現した電線皮剥き装置が開示されていることからも明らかである。
そして,甲1発明において,「刃部直動機構を直動させることで刃をスライド溝に沿って被覆ケーブル中心方向にスライドさせて前記刃の刃先で形成される内接円の径を任意の大きさに制御する」という動作を,「テーパーを利用して運動の方向を変更する機構」を用いて実現するにあたり,本件訂正発明1が備える上記の具体的な構造を採用すること,すなわち,
甲1発明では,刃部回転機構の回転体が,中心の穴に,被覆ケーブルが挿通するか否かが明らかでなく,さらに,前記刃部回転機構の回転体が「外側に前記刃と同数の貫通孔を有する」という構成を備えおらず,刃の端部をスライド可能に係止する部材が,「ローラ金具B」であって,一方端部に形成された一端が開放されたU字状のガイドを有する「切込アーム」の当該U字状のガイドに前記「ローラ金具B」が係合し,被覆ケーブルの長手方向と平行な方向に直動する「押エリングB」が,戻しバネユニットによって,その自由端が開径方向に付勢されている前記「切込アーム」の中間領域を押圧することで,前記「切込アーム」の他端を軸として回動させて,刃の端部をスライドさせるものであり,「腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部」を備えていないという構造を,
本件訂正発明1で採用する,刃部回転機構の回転体が,「中心に前記被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に前記刃と同数の貫通孔を有」し,回転刃部が,「前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部,及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部」を備え,「前記ドーナツ部」が,「刃部直動機構」によって,「前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向に直動さ」れる構造にすることが,当業者にとって容易であったとは,請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては認めることはできない。

(ケ)そもそも,甲1発明において,「テーパーを利用して運動の方向を変更する機構」を採用する動機を見いだすことができないが,仮に,甲第10?12号証の記載に基づいて,本願の出願前に,「テーパーを利用して運動の方向を変更する機構」が周知であることから,甲1発明において,「テーパーを利用して運動の方向を変更する機構」を採用する動機が存在すると認めたとしても,甲第10号証に記載されているように,「電線皮剥き装置」において,「電線軸方向に延びる共通の真直部と,前記真直部から外向き(電線径方向)に傾斜(湾曲)して延びる傾斜部とで構成され」た「カム孔(カム部)2,3を有する一対のカッタベース4,5と,両カム孔2,3に係合する一本のピン状の移動子を備えた軸部材」からなる「テーパーを利用して運動の方向を変更する機構」によって,「一対のカッタベース4,5が皮剥きカッタと共に閉止方向に移動し,電線の絶縁被覆に切れ込みを入れ」る構造が,本件の出願前に知られているのであるから,甲1発明において,「テーパーを利用して運動の方向を変更する機構」を採用する場合には,当業者は,甲第10号証に記載された前記の構造を採用することが自然かつ合理的であり,本件訂正発明1が備える上記の具体的な構造を採用することに到達することが容易であったとは認めることはできない。
すなわち,上記1(2)イ(イ)及び(ウ)のとおり,甲第10号証には,「電線皮剥き装置」が前記の構造を採用することによって,「移動子が,電線軸方向に延びる共通の真直部と,真直部から外向き(電線径方向)に傾斜(湾曲)して延びる傾斜部とで構成されているカム孔の真直部を移動している時は,一対のカッタベースは閉止方向に何ら移動せず,従って皮剥きカッタは何ら開閉しないので,当該真直部の長さの範囲内の任意の位置に移動子を位置させることで,当該移動子を備える軸部材に固定された電線位置め板の位置を所望に変化させ,これによって電線の皮剥き長さを任意に設定することができ,各種の電線の皮剥きに対応可能となるので,皮剥き長さの調整機構が従来の大がかりなNC機構に較べて簡素化・低コスト化」し,かつ,「カム孔(カム部)2,3を有する一対のカッタベース4,5と,両カム孔2,3に係合する一本のピン状の移動子を備えた軸部材とからなる機構を用いることで,前記軸部材を進退させて,一本のピン状の移動子に対して一対のカッタベースをカム孔に沿って皮剥きカッタの開閉方向に移動させることができるので,皮剥きカッタの開閉方向の駆動機構が簡素化・小型化・軽量化される」という効果が奏されることが示されている。
一方,甲1発明において,「テーパーを利用して運動の方向を変更する機構」を採用する際に,本件訂正発明1に係る「前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部,及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部」という構造を採用した場合には,「ガイド孔」が「斜めの角度一定」であることから,甲第10号証に記載された構造の「カム孔の真直部を移動している時は,一対のカッタベースは閉止方向に何ら移動せず,従って皮剥きカッタは何ら開閉しないので,当該真直部の長さの範囲内の任意の位置に移動子を位置させることで,当該移動子を備える軸部材に固定された電線位置め板の位置を所望に変化させ,これによって電線の皮剥き長さを任意に設定することができ,各種の電線の皮剥きに対応可能となるので,皮剥き長さの調整機構が従来の大がかりなNC機構に較べて簡素化・低コスト化」するという効果を奏することができず,さらに,甲第10号証に記載された構造の「一本のピン状の移動子に対して一対のカッタベースをカム孔に沿って皮剥きカッタの開閉方向に移動させることができるので,皮剥きカッタの開閉方向の駆動機構が簡素化・小型化・軽量化される」という効果を奏することもできなくなるといえる。
そうすると,甲1発明において,「テーパーを利用して運動の方向を変更する機構」を採用する際に,本件訂正発明1が備える具体的な構造を採用することに至るには,甲第10号証の記載に照らして阻害事由が存在するものと認められる。
したがって,甲第10?12号証の記載に基づいて,本願の出願前に,「テーパーを利用して運動の方向を変更する機構」が周知であることから,甲1発明において,「テーパーを利用して運動の方向を変更する機構」を採用する動機が存在すると認めたとしても,当業者が,甲1発明において,上記相違点について,本件訂正発明1に係る構成を採用することを容易に想到することができたとは認めることはできない。

(コ)してみると,甲1発明から,本件訂正発明1が容易に発明をすることができたとはいえないのであるから,甲1発明が,「特許出願前に日本国内又は外国において」「公然知られた発明」,「特許出願前に日本国内又は外国において」「公然実施をされた発明」,あるいは,「特許出願前に日本国内又は外国において」「頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」であるかについては検討するまでもなく,本件訂正発明1が,特許法第29条第2項の規定に反しているとの理由は成り立たない。

ウ 請求人の主張について
(ア)請求人は,平成30年7月19日付けの審判事件弁駁書において,「したがって,本件特許発明は,被請求人の主張したように,刃部直動機構の運動方向(被覆ケーブルの長手方向と平行な方向)を被覆ケーブルの長手方向と直交する方向に刃をスライドさせる運動方向に変更する機構の細部において相違点を有していると考えられる。しかしながら,所定の運動方向を他の運動方向に変更する板カムの機構は,先行技術文献を例示するまでもなく周知の技術であり,このような設計変更は,甲1発明に基づいて当業者が容易になし得ることである。」と主張する。
しかしながら,所定の運動方向を他の運動方向に変更する板カムの機構が周知の技術であるとしても,請求人が提出した証拠方法によっては,甲1発明に,板カムを用いる動機を見いだすことはできないし,さらに,仮に,甲1発明に,所定の運動方向を他の運動方向に変更する板カムの機構を適用することに思い至ったとしても,上記イで検討したように,本件訂正発明1との相違点に係る具体的な構造を採用することは,当業者にとって容易であったとは認められない。
したがって,請求人の主張は採用することができない。

(イ)さらに,請求人は,平成30年9月28日付けの口頭審理陳述要領書において,「イ 相違点i)について 甲1発明を利用し公然実施されていた製品であるロータリーストッパーKIND2-80型は,刃部回転機構の回転体(『押ェリングB』)が『中心に被覆ケーブルを挿通する穴』を有している。したがって,甲1発明から,刃部回転機構の回転体が,『中心に前記被覆ケーブルを挿通する穴』があるとの構成に想い到ることは,極めて容易である。ウ 相違点ii)について 本件訂正発明は,回転刃部の腕部(甲1発明の『切込アーム』に相当する)の進退を阻害しないように,刃部回転機構の回転体が『外側に前記刃と同数の貫通孔を有」しているに過ぎない。したがって,甲1発明から,刃部回転機構め回転体が「外側に前記刃と同数の貫通孔を有』しているとの構成に想い到ることは容易である。エ 相違点iii)について 本件訂正発明におけるガイド孔(板カムの機構)は,テーパーを利用して運動の方向を変更する極めて一般的な機構である。ここで,甲1発明におけるU宇状のガイドは,切込アームに形成されているが,このU字状のガイドを閉じて長孔とした場合であっても,その機械要素の機能に何ら影響を与えるものではない。また,甲1発明における『切込アーム』は,『押ェリングB』の直動の距離に応じて回動するが,仮に『切込アーム』および『押ェリングB』を一体化した場合であっても,その機械要素の機能に何ら影響を与えるものではない。甲第8号証は,請求人の作成した参考構想図である。この参考構想図は,甲1発明において,『切込アーム』および『押ェリングB』を一体化した場合における『切込アーム』,『押ェリングB』,および『切刃』などの動きを説明する図である。この参考構想図では,押ェリングBの移動後における『切込アーム』,『押ェリングB』,および『切刃』などの位置を二点鎖線で示している。このように,『切込アーム』および『押エリングB』を一体化した場合であっても,『切刃』は,本件訂正発明と同様に,被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライドすることになる。したがって,甲1発明から,回転刃部が『前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構の外側に位置し反先端部が中心に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回転しない角度固定の腕部,及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿入する穴を有するドーナッツ部』を備え,『前記ドーナッツ部』が『刃部直道機構』によって『前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向に直動さ』れるものとの構成に想い到ることは容易である。」と主張し,
さらに,請求人は,平成30年11月9日付けの上申書において,「(イ)また,本件特許発明のように,テーパーを利用して運動の方向を変更する機構は,例えば,特開2000-152451に記載された発明のように極めて一般的である。したがって,甲1発明における『切込アーム』および『押ェリングB』を一体化して『被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部』の構成を採用し,この腕部に形成されたテーパーを利用して運動の方向を変更する機構とした点のみを相違点とする本件特許発明を想到することは当業者であれば格別困難なことではなく,被請求人の主張した『本件特許発明は,進歩性を有する』は失当である。」と主張する。
しかしながら,テーパーを利用して運動の方向を変更する機構が極めて一般的であることから,直ちに,「『ステッピングモーター』の駆動によって,前記『押_(エ)リングB』を前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向に直動させ,前記『押_(エ)リングB』の前記直動の距離に応じて回動する『切込アーム』の回動量の変化によって,前記『切刃』を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライドさせる距離を調整することで,前記『切刃』の刃先で形成される内接円の径を任意の大きさに制御する」機構を備える甲1発明において,「甲1発明における『切込アーム』および『押ェリングB』を一体化して『被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部』の構成を採用し,この腕部に形成されたテーパーを利用して運動の方向を変更する機構」とすることに思い至ることが,当業者にとって容易であったとは認めることはできない。
したがって,請求人の主張は採用することができない。

(ウ)なお,請求人は,平成30年9月28日付けの口頭審理陳述要領書の「オ 補足」において,「前述したように『切込アーム』および『押ェリングB』を一体化し,本件訂正発明と同様の構造を採用した場合には,テーパーの角度(θ)を小さくすれば『押ェリングB』の直線移動量は大きくなるので,装置の大型化を招いてしまうことになり,テーパーの角度(θ)を大きくすれば『切刃』の進退方向と直交する方向の分力は大きくなるので,『切刃』を介して『スライドペース』のスライド溝に大きな負荷がかかってしまい,ひいては『切刃』のスライドにブレがでてしまうという問題がある。このため,甲1発明は,『押ェリングB』の直動の距離に応じて回動する『切込アーム』の回動量の変化によって,『切刃』を被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライドさせる距離を調整している。また,U宇状のガイドを閉じて長孔とし,本件訂正発明と同様の構造を採用した場合には,例えば,ワイヤーカットを用いて部品を成形すると2工程かかってしまうことになるので,部品の生産性が低下してしまうという問題がある。・・・このため,甲1発明は,部品の生産性を向上させるべく『切込アーム』にU字状のガイドを形成している。」と説示し,本件訂正発明1の品質が甲1発明の品質に劣ると主張する。
しかしながら,本件訂正発明1の品質が甲1発明の品質に「劣る」場合に,甲1発明において,本件訂正発明1に係る構成を採用して,当該「劣る」品質とすることに動機を見いだすことはできない。
すなわち,請求人の前記主張からは,甲1発明において,相違点について,本件訂正発明1の構成を採用しようとすることを妨げる理由,すなわち,阻害事由の存在を認めることができるとしても,当該主張によって,本件訂正発明1を,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると認めることはできない。
したがって,請求人の主張は採用することができない。

(エ)さらに,請求人は,平成30年11月9日付けの上申書において,「しかしながら,甲1発明は,次頁に記載したように,『切刃』の移動量Yと,『押エリングB』の移動量Xとの近似関数を予め定めておき,デジタル制御をするものである。したがって,口頭審理陳述要領書(2)の5頁6行目において,被請求人の主張した『甲1発明では,極めて煩雑な移動制御を必要とする』は失当である。」として,次ページにおいて,「L-Sin(θB-(θC-Sin-1((H-x)/分線C)))=移動量y」とする関数を提示する。
しかしながら,被請求人が,平成30年10月12日付けの口頭審理陳述要領書(2)で説明する刃26の移動度と腕部22の移動度の関係式ある「X=Y・tanθ」が,甲1発明における前記関数と比較して簡易であることは明らかであり,本件訂正発明1は,当該関係式を用いて「回転する複数の刃の刃先で形成される内接円の径(被覆の切り込み深さ)を任意の大きさにデジタル制御可能な,被覆ケーブルの被覆装置を提供する」(明細書【0011】)という効果を奏するものと認められる。

(2)小括
以上検討したように,本件訂正発明1は,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(3)本件訂正発明2,3について
本件訂正発明2,3は,「第3 本件訂正発明」で認めたとおりであり,再掲すると,以下のとおりである。
「【請求項2】
前記複数の刃を3枚又は4枚とし,かつ前記刃の刃先の一端部又は両端部を切り欠きとしたことを特徴とする請求項1に記載の被覆ケーブルの被覆剥離装置。
【請求項3】
前記複数の刃を,
一方の面に刃先に向け傾斜面を備える板刃を前記被覆ケーブルを挟み刃先が対向する2枚で一組の板刃で,2組の計4枚とし,異なる組の板刃は,90度回転した位置で,他方の組の平坦面同士が向き合う位置に配置され,前記スライド溝にスライド可能に保持されたことを特徴とする請求項1に記載の被覆ケーブルの被覆剥離装置。」

本件訂正発明2,3も,本件訂正発明1の「中心に被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に刃と同数の貫通孔を有する回転体,及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構」,及び,「前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部,及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部よりなる回転刃部」という構成を備えるものであるから,本件訂正発明1と同じ理由により,当業者であっても,甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。
したがって,本件訂正発明2,3が,特許法第29条第2項の規定に反しているとの理由は成り立たない。

(4)本件訂正発明4について
本件訂正発明4は,「第3 本件訂正発明」で認めたとおりであり,再掲すると,以下のとおりである。
「【請求項4】
被覆ケーブルを固定した上で,前記被覆ケーブルの長手方向と直交する同一面に等間隔で配置した複数の刃を,
前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向のデジタル制御による直動で前記被覆ケーブルの中心に向けスライドさせつつ回転させ,
前記被覆ケーブルの被覆を前記刃の回転で輪切りに切断し,
前記直動方向と逆向きに前記刃を後退させることで,
切断された被覆を前記刃の刃先に係止して前記被覆ケーブルの長手方向に移動させ,
前記被覆ケーブルの芯材を露出させる被覆ケーブルの被覆剥離方法であって,
中心に前記被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に前記刃と同数の貫通孔を有する回転体,及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構と,
前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部,及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部よりなる回転刃部とを備えた被覆ケーブルの被覆剥装置によって,
前記刃部回転機構及び前記回転刃部の回転及び前記回転刃部の直動によってスライドするとともに回転する前記刃の刃先で形成される内接円の径を前記直動で任意の大きさにデジタル制御することを特徴とする
被覆ケーブルの被覆剥離方法。」

本件訂正発明4は,本件訂正発明1に対応する方法の発明であり,本件訂正発明1の「中心に被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に刃と同数の貫通孔を有する回転体,及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構」,及び,「前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部,及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部よりなる回転刃部」に対応する構成を備えるものであるから,本件訂正発明1と同じ理由により,当業者であっても,甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。
したがって,本件訂正発明4が,特許法第29条第2項の規定に反しているとの理由は成り立たない。

(5)本件訂正発明5について
本件訂正発明5は,「第3 本件訂正発明」で認めたとおりであり,再掲すると,以下のとおりである。
「【請求項5】
被覆ケーブルを固定した上で,前記被覆ケーブルの長手方向と直交する同一面に等間隔で配置した複数の刃を,前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向のデジタル制御による直動で前記被覆ケーブルの中心に向けスライドさせつつ回転させ,前記被覆ケーブルの被覆を前記刃の回転で輪切りに切断し,前記直動方向と逆向きに前記刃を後退させることで,切断された被覆を前記刃の刃先に係止して前記被覆ケーブルの長手方向に移動させ,前記被覆ケーブルの芯材を露出させる被覆ケーブルの被覆剥装置であって,
中心に前記被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に前記刃と同数の貫通孔を有する回転体,及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構を備え,
前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部,及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部よりなる回転刃部の回転及び直動によってスライドするとともに回転する前記刃の刃先で形成される内接円の径を前記直動で任意の大きさにデジタル制御することを特徴とする
被覆ケーブルの被覆剥離装置。」

本件訂正発明5も,本件訂正発明1の「中心に被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に刃と同数の貫通孔を有する回転体,及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構」,及び,「前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部,及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部よりなる回転刃部」という構成を備えるものであるから,本件訂正発明1と同じ理由により,当業者であっても,甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。
したがって,本件訂正発明5が,特許法第29条第2項の規定に反しているとの理由は成り立たない。

(6)小括
以上のとおりであるから,無効理由3に理由はない。

(7)むすび
以上のとおり,請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては,本件訂正発明1ないし5についての特許を無効にすることができない。

3 無効理由2(特許法第123条第1項第6号)について
(1)当審の判断
特許を受ける権利は,発明者が原始的に取得した上で,使用者等に承継される(特許法第29条第1項柱書,平成27年改正前特許法第35条第2項)ところ,被請求人が本件訂正発明1ないし5について記載した明細書を添付して特許出願をした事実から,本件特許の特許公報に記載されているとおり,「株式会社MKエレクトロニクス」の斉藤和明が本件訂正発明1ないし5の発明者であり,被請求人がその権利を承継したものと推定される。
一方,請求人は,甲1発明を根拠にして,本件訂正発明1ないし5は,被請求人が発明したものではないと主張している。
そこで,本件訂正発明1ないし5の発明者について検討する。
発明者とは,技術的思想の創作行為,とりわけ従前の技術的課題の解決手段に係る発明の特徴的部分の完成に現実に関与したものである。
本件訂正発明1ないし5の特徴的部分は,従来,螺旋回転する刃によって形成される被覆ケーブルの被覆のカット径をデジタル制御することができず(本件明細書段落【0006】),V刃は被覆を移動させるとき力が除去部に均等に伝わらず,芯材を傷つけて,或いは,折れやすくしてしまう(本件明細書段落【0009】)という課題があったところ,この課題を解決する手段,すなわち,V刃の欠点を解消し,回転する複数の刃の刃先で形成される内接円の径を任意の大きさにデジタル制御可能ならしめる手段(本件明細書段落【0011】)である。
そして,この手段は本件訂正発明1ないし5の「中心に被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に刃と同数の貫通孔を有する回転体,及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構」,及び,「前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部,及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部よりなる回転刃部」という構成によって担われており,この点で甲1発明と相違するから,甲1発明は,本件訂正発明1ないし5の発明者を判断するには無関係というべきである。
また,このことは,審判請求書に添付して提出された甲第2号証ないし甲第9号証の2を含め,請求人が提出した証拠方法のすべてを検討しても何ら左右されるものではない。
よって,無効理由2に関する請求人の主張は,その前提自体が誤りであり,採用できない。
そして,本件訂正発明1ないし5について記載した明細書を添付して特許出願をした者が被請求人であること及び被請求人の主張内容からみて,被請求人は,本件訂正発明1ないし5に係る発明者から特許を受ける権利を正当に承継した者であると推認できる。
したがって,本件訂正発明1ないし5についての特許は,発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたものではないから,特許法第123条第1項第6号に該当するということはできない。
すなわち,無効理由2に理由はない。

(2)請求人の主張について
請求人は,平成30年12月4日付けの回答書において,「なお,テーパーを利用して運動の方向を変更する機構は,『特開2000-152451号公報』(甲第10号証)に記載されているのみならず,機械要素の一般的な教科書において,それこそ数十年前から掲載されている極めて一般的な技術であることから(甲第11号証および甲12号証),請求人は,本件特許技術が進歩性を有しない技術であること及び冒認出願であることをあわせて主張いたします。」及び「請求人は,本件訂正前の特許発明に対し,特許を無効とする審判を請求しました。本件訂正前の特許発明は,被請求人自らが訂正請求をしなければならなかったことや,請求人の提出した平成30年11月9日付け上申書の記載から明らかなとおり,その大部分につき甲1発明を模倣したものです。本件訂正後の特許発明は,訂正前の特許発明のうち甲1発明に記載のない技術のみを殊更に抽出し強調することにより,本件特許発明の権利を維持しようとするものです。しかしながら,この部分の技術は,甲1発明に記載がないとはいえ,本上申書5(1)記載のとおり,機械要素の一般的な教科書の記載や,『特開2000-152451号公報』に記載された技術を模倣したものです。本件特許技術は,訂正前のものであれば,甲1発明の模倣というべきものですが,訂正後のものであっても,甲1発明の一部を極めて一般的な技術に置き換えたものに過ぎず,甲1発明と実質的に同一な発明であり,進歩性を有しないというにとどまらず,特許を受ける権利を有しない者による冒認出願であると考えます。いずれにせよ,本件特許発明は,無効とするのが相当です。」と主張する。
しかしながら,上記(1)のとおり,本件訂正発明1ないし5は,甲1発明と関係なく発明されたものであるから,特許を受ける権利を有しない者による冒認出願であるとは認められない。したがって,請求人の主張は採用することができない。

第7 むすび
以上のとおり,請求人が主張する理由及び証拠方法によっては,本件訂正により訂正された請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効にすることはできない。
また,他にこれら発明についての特許を無効とすべき理由を発見しない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
被覆ケーブルの被覆剥離装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯材を被覆した被覆ケーブルの被覆を回転する刃でカットして、芯材を露出させる被覆ケーブルの被覆剥離装置に関する。更に詳しくは、刃を被覆ケーブルの長手方向と直交する方向に等間隔で複数配置し、回転する刃先が描く内接円の径(被覆の切り込み深さ)を任意の大きさにデジタル制御することを可能とする被覆ケーブルの被覆剥離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ここで、被覆ケーブルとは、各種芯材(導線、光ファイバ、被覆撚線など)の外周をゴム、プラスチックなどの絶縁被覆、金属薄などで被覆した、例えば電線、光ファイバケーブル、各種導電線などである。
【0003】
被覆ケーブルの被覆を切断、剥離する装置として、例えば、特許文献1(図22)等の渦回転70aする(文献1の螺旋溝17に沿って回転する)板刃70(文献1の刃物6)によって被覆ケーブル60のカット径を無段階に調節した上で、回転することで、被覆ケーブル60の被覆60bを輪切りにカットし、カットした被覆60bを引き抜く、被覆ケーブルの被覆剥離装置が提案されている。
【0004】
特許文献1に開示の発明は、より具体的には、電線に対して被覆材質およびサイズに実質的に依存することなく被覆切断を刃物の交換および制動力等の調節なしに行い得る被覆剥離装置を提供するもので、電線の被覆を機械的に剥離する電線被覆剥離装置において、電線8の芯線9に傷を付けることなく、被覆10を輪切り状に切断する手段として、電線の芯方向に対し無段階に移動できる刃物6と、刃物6を電線の芯9方向へ進入させ、被覆10へ食い込ます刃物進入機構と、刃物6を電線の外周に沿って回転させる刃物回転機構を有するというものである。
【0005】
又、特許文献2にも、絶縁電線の被覆を円周方向及び長手方向に沿って切断するための電線被覆切断装置であって、ホルダ7,8のヘッド9,10に形成したガイド溝11,12にスライダ13,14を設ける。ホルダ7,8のヘッド9,10の内部に円板15,16を設ける。スライダ13及びスライダ14に横刃18及び縦刃19を設け、円板15,16を回転することにより、スライダ13,14が円板15,16の回転に伴ってホルダ7,8のヘッド9,10のガイド溝11,12に沿って閉じる方向に移動し、横刃18及び縦刃19がスライダ13,14と共に電線4の被覆17に向って移動することで、スピンドル5がホルダ7と共に電線4の周囲を支持台2に対して回転し、横刃18がホルダ7の回転に伴って電線4の被覆17を円周方向に切断し、電線4を受け台3の挿通孔6からスピンドル5に向って引抜き、縦刃19が電線4の被覆17を長手方向に切断する電線被覆切断装置が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1、2のように螺旋回転する刃によって形成される被覆ケーブル60の被覆60bのカット径をデジタル制御することができなかった。
【0007】
他方、特許文献3には、図23に示すような被覆ケーブル60の被覆60bのカット径(回転する刃先で形成される内接円の径)をデジタル制御可能な刃先80aを対向させて配置したV刃80が開示されている。V刃80の一方の面の刃先80aは、先端に向け、傾斜面80eを備え、傾斜面80eを備えない面を向かい合わせて配置され、直動する。
【0008】
特許文献3の電線被覆剥離機構は、より具体的には、被覆電線の種類により、剥離刃の心線方向への移動量や移動速度は、キースイッチ等により直接液晶画面等を見ながら入力できるようするとともに、該剥離刃の切り込み量や切り込み速度を設定できるもので、被覆電線11の被覆13を剥離する手段として、該被覆電線11の外部から、該電線11の心線12に向けて、往復動可能に配設されるV形状の、複数個の刃2,2と、前記刃2,2を、前記電線11の外部から、該電線11の心線12に向けて、第1のモータ14の駆動により、設定速度で設定位置まで往動させて、前記被覆13に切り込ませる切り込み機構3と、前記刃2,2が、前記被覆13に切り込んだ状態で、第2のモータ15の駆動により、該刃2,2を前記電線11の周囲に沿って回動される回動機構4とからなり、前記第1および第2のモータ14,15を、制御装置5により制御、駆動するというものである。V刃80は、図23(C)の白抜き矢印方向に直動することで、内接円の径を制御できるため、デジタル制御が可能になる。
【0009】
しかしながら、V刃を用いて、被覆ケーブル60の被覆60bを剥離し芯材60aを露出させる場合、図23に示すように、平面(A)V字に窪んだ刃先80aが対向するV刃80、80の平坦な背面80cを、被覆ケーブル60の長手方向と直交する同一面80dを中心に背中合わせで配置(B)し、刃先80aが近寄りつつ回転し、被覆60bを輪切りに切断する(C)。そして、被覆ケーブル60の切断後に、切断した端部の被覆部分(除去部60c)を刃先80aに係止して、被覆ケーブル60の長手方向に沿って移動(D)させる。V刃80は、傾斜面80eを備えない面を向かい合わせに配置されているため、被覆60bに係止される刃先80aの形状が異なるため、被覆60b(除去部60c)を移動させるとき、力が除去部60cに均等に伝わらず、被覆ケーブル60の中心がズレてしまい、芯材60a(露出部60d)を傷つけて、或いは折れやすくしてしまうことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11-98638号公報
【特許文献2】特開平07-163027号公報
【特許文献3】特開2002-305822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、V刃の欠点を解消し、回転する複数の刃の刃先で形成される内接円の径(被覆の切り込み深さ)を任意の大きさにデジタル制御可能な、被覆ケーブルの被覆装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するために、
(1)
芯材の外周を被覆した被覆ケーブルの前記被覆を回転する複数枚の刃で輪切りに切断し前記被覆ケーブルから切断した被覆を前記被覆ケーブルの長手方向に移動させ前記芯材を露出させる被覆ケーブルの被覆剥離装置であって、
中心に前記被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に前記刃と同数の貫通孔を有する回転体、及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構と、
前記被覆ケーブルの長手方向に直交する方向の同一面に等間隔で配置され前記被覆ケーブル中心方向にスライドしつつ前記同一面で回転することで前記被覆を輪切りに切断する複数の刃、前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部、及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部よりなる回転刃部と、
前記ドーナツ部を前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向に直動させる刃部直動機構と、
前記被覆ケーブルの端部を当接させて前記刃による前記被覆のカット位置を決めるストッパと、
からなり、
前記被覆ケーブルの端部を前記ストッパに当接した上で前記被覆ケーブルを固定し、
前記刃部直動機構で前記ドーナツ部を前記回転体方向である前方にデジタル制御で直動させることで前記刃を前記スライド溝に沿って前記被覆ケーブル中心方向にスライドさせつつ回転する前記刃の刃先で形成される内接円の径を前記直動で任意の大きさにデジタル制御し、
前記刃部回転機構を回転させることで前記被覆ケーブルの被覆を前記複数の刃で輪切りに切断し、
前記刃部回転機構及び回転刃部を前記直動方向と逆向きに後退させることで切断された被覆を前記刃の刃先に係止して前記被覆ケーブルの長手方向に移動させ前記芯材を露出させることを特徴とする
被覆ケーブルの被覆剥離装置。
(2)
前記複数の刃を3枚又は4枚とし、かつ前記刃の刃先の一端部又は両端部を切り欠きとしたことを特徴とする(1)に記載の被覆ケーブルの被覆剥離装置。
(3)
前記複数の刃を、
一方の面に刃先に向け傾斜面を備える板刃を前記被覆ケーブルを挟み刃先が対向する2枚で一組の板刃で、2組の計4枚とし、異なる組の板刃は、90度回転した位置で、他方の組の平坦面同士が向き合う位置に配置され、前記スライド溝にスライド可能に保持されたことを特徴とする(1)に記載の被覆ケーブルの被覆剥離装置。
(4)
被覆ケーブルを固定した上で、前記被覆ケーブルの長手方向と直交する同一面に等間隔で配置した複数の刃を、
前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向のデジタル制御による直動で前記被覆ケーブルの中心に向けスライドさせつつ回転させ、
前記被覆ケーブルの被覆を前記刃の回転で輪切りに切断し、
前記直動方向と逆向きに前記刃を後退させることで、
切断された被覆を前記刃の刃先に係止して前記被覆ケーブルの長手方向に移動させ、
前記被覆ケーブルの芯材を露出させる被覆ケーブルの被覆剥離方法であって、
中心に前記被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に前記刃と同数の貫通孔を有する回転体、及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構と、
前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部、及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部よりなる回転刃部とを備えた被覆ケーブルの被覆剥装置によって、
前記刃部回転機構及び前記回転刃部の回転及び前記回転刃部の直動によってスライドするとともに回転する前記刃の刃先で形成される内接円の径を前記直動で任意の大きさにデジタル制御することを特徴とする
被覆ケーブルの被覆剥離方法。
(5)
被覆ケーブルを固定した上で、前記被覆ケーブルの長手方向と直交する同一面に等間隔で配置した複数の刃を、前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向のデジタル制御による直動で前記被覆ケーブルの中心に向けスライドさせつつ回転させ、前記被覆ケーブルの被覆を前記刃の回転で輪切りに切断し、前記直動方向と逆向きに前記刃を後退させることで、切断された被覆を前記刃の刃先に係止して前記被覆ケーブルの長手方向に移動させ、前記被覆ケーブルの芯材を露出させる被覆ケーブルの被覆剥装置であって、
中心に前記被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に前記刃と同数の貫通孔を有する回転体、及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構を備え、
前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部、及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部よりなる回転刃部の回転及び直動によってスライドするとともに回転する前記刃の刃先で形成される内接円の径を前記直動で任意の大きさにデジタル制御することを特徴とする
被覆ケーブルの被覆剥離装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記構成であるので、以下の効果を発揮する。即ち、刃を渦回転70aさせることなく、直動させることができるため、回転する複数の刃の刃先で形成される内接円の径(被覆の切り込み深さ)を任意の大きさにデジタル制御可能であるとともに、切断した被覆の剥離(移動)時に、被覆ケーブル60長手方向に均等に力がかかり、被覆ケーブルの中心がズレて偏ることがなく、芯材60a(露出部60d)を傷つけることがない。
【0014】
また、刃の一端又は両端に切り欠きを設けることで、内接円の径を広範囲に調節することができるため、一台の被覆剥離装置及び1セットの複数の刃で対応できる被覆ケーブルの範囲が広く、経済的である。
【0015】
さらに、複数の刃を、一方の面に刃先に向け傾斜面を備える板刃を被覆ケーブルを挟み刃先が対向する2枚で一組の板刃で、合計2組の計4枚とし、異なる組の板刃は、90度回転した位置に配置して、他方の組の平坦面同士が向き合う位置に配置され、スライドさせることで、内接円を0にまですることもでき、一層被覆ケーブルの適用範囲が広くなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明である被覆ケーブルの被覆剥離装置の外観斜視図である。
【図2】本発明である被覆ケーブルの被覆剥離装置の内部平面模式図である。なお、図2の下側が図1の挿入穴1cの方向(正面)である。
【図3】刃部回転機構(刃部回転駆動源18を除く)及び回転刃部の平面模式図である。
【図4】刃部回転機構(刃部回転駆動源18を除く)の平面図模式図である。
【図5】刃部回転機構の断面模式図(図4の一点鎖線矢印A位)である。
【図6】刃部回転機構右側面図(図4における矢視B)である。
【図7】回転刃部の平面図模式図である。
【図8】回転刃部の断面模式図(図7の一点鎖線矢印A位)である。
【図9】回転刃部の(A)左側面図(図7における矢視B)及び(B)右側面図(図7における矢視C)である。
【図10】刃スライド部の一部分解図である。
【図11】図2のA-A断面模式図である。
【図12】図11の回転刃部20を刃部回転機構10の回転体14に図2のアーム32の直動で押し込んだ時の図である。
【図13】図2のB-B断面模式図である。
【図14】図2のC-C断面模式図である。
【図15】刃のスライドを説明する回転刃部の一部の左側面図である。
【図16】図15の背面図である。
【図17】図11を用いた被覆ケーブルの被覆剥離方法の説明図である(ストッパ41移動→被覆ケーブル60挿入→被覆ケーブル60保持)。
【図18】図17に続く被覆ケーブルの被覆剥離方法の説明図である(図2のアーム32により回転刃部20が直動するとともに、歯車歯部14a及び回転刃部20も回転し、刃26も被覆ケーブル60に近づきつつ回転して、被覆ケーブル60を切断する)。
【図19】図18に続く被覆ケーブルの被覆剥離方法の説明図である(刃26が回転して被覆60bを切断した後に、内箱3が後退して、被覆60bが芯材60aから抜き取られる)。
【図20】図15の4枚刃に対応する3枚刃についての説明図である。
【図21】4枚刃の他の実施形態についての説明である。
【図22】渦回転によって、被覆ケーブルの被覆を切断、剥離する従来の被覆ケーブルの被覆剥離方法の説明図である。
【図23】従来の一般的な被覆ケーブルの被覆剥離装置に用いられるV刃の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照し、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
以下、被覆ケーブルの長手方向と直交する同一面に同一向きに配置され、前記同一面に沿ってスライドする同一形状の4枚の刃26の例について説明する。
【0019】
本発明である被覆ケーブルの被覆剥離装置1は、図1、2等に示すように、(2)枠体2と、(3)内箱3と、(4)内箱スライド機構4と、(5)刃部回転機構10と、(6)回転刃部20と、(7)刃部直動機構30と、(8)ケーブル位置決め機構40と、(9)ケーブル保持機構50と、それらを内部に収納する(1)箱体1aと、からなる。
【0020】
(1)箱体1a
箱体1aは、図1に示すように、正面に被覆を剥離する被覆ケーブル60の端部60eを挿入するための挿入穴1cを備える。箱体1aの上面1eには、内部部品の調整、動作確認することができる開閉扉1bが備えられる。
【0021】
また、箱体1aの正面には、操作パネル1dが備えられる。操作パネル1dは、被覆ケーブル60のカット位置60f、カット径(刃先の内接円の径)、被覆60bの剥離長(芯材60aの露出長60h)をデジタル設定できる液晶パネルである。操作パネル1dで、各種設定(目標値の入力)をすることで、後述の各種モータの駆動時間、回転数を設定することになる。即ち、操作パネル1dによる各種設定及び後述の回転刃部20と刃部直動機構30の動作で、被覆ケーブル60の剥離をデジタル制御することが可能となる。
【0022】
(2)枠体2
枠体2は、箱体1a内部に収納され、図2に示すように、内部に内箱3を収納するとともに、内箱3と内箱スライド機構4を介して連絡する。箱体1aの挿入穴1c側に位置する側面に穴2aが穿設され、挿入穴1cとともに被覆ケーブル60を通す。
【0023】
(3)内箱3
内箱3は、図2に示すように、内箱スライド機構4を介して枠体2に接続し、枠体2の穴2a側の側面の穴3aに刃部回転機構10を固定するとともに、刃部回転機構10に連結する回転刃部20、刃部直動機構30、ケーブル位置決め機構40を内蔵する。
【0024】
そして、内箱3は、内箱スライド機構4によって、破線両矢印(c)方向に前後移動して、芯材60aの露出長60hをデジタル制御する。内箱3の移動距離を感知するため、内箱3の移動方向に平行な側壁には、所定の等間隔(5mm等)で歯がある櫛状の目盛り3bを備え、枠体2に固定されたセンサ3cで、内箱3の移動距離を光学的に、即ち光の目盛り3bの通過及び遮断回数をカウントして感知する。センサ3cの感知に基づき、内箱3の前後動を制御し、露出長60hをデジタル制御する。内箱3と枠体2には、内箱3の重量を支えガイドとなり内箱3スライドを滑らかにするためのレール、滑車などの移動補助部材を備えることが好ましい。
【0025】
(4)内箱スライド機構
内箱スライド機構4は、図2に示すように、左右スライド部5、6と、内箱駆動部7からなる。
【0026】
左スライド部5は、枠体2の左端の二側面(内箱3の前後動方向図2破線両矢印(c)の二側面)に回転可能に位置固定され渡されたネジ軸5aと、ネジ軸5aの後端部で枠体の外に固定されたプーリー5bと、ネジ軸5aを中に通し噛み合いネジ軸5aが回転することでネジ軸5aに沿って前後に移動する雌ネジ5cとからなる。雌ネジ5cに内箱3の一側面がボルトナットなどの留具5dで固定される。ここでは、雌ネジ5cに固定されたL字板5eを介して雌ネジ5cに内箱3を固定している。
【0027】
右スライド部6は、枠体2の右端の二側面(内箱3の前後動方向の二側面)に回転可能に位置固定され渡されたネジ軸6aと、ネジ軸6aの後端部で枠体2の外に固定されたプーリー6bと、ネジ軸6aを中に通し噛み合いネジ軸6aが回転することでネジ軸6a沿って前後に移動する雌ネジ6cとからなる。雌ネジ6cに内箱3の一側面がボルトナットなどの留具6dで固定される。ここでは、雌ネジ6cに固定されたL字板6eを介して雌ネジ6cに内箱3を固定している。
【0028】
内箱駆動部7は、第一モータ7aと、第一モータ7aの回転軸7bと、軸7bに固定されたプーリー7cと、プーリー7cと左右スライド部5、6のプーリー5b、6bに渡され、第一モータ7aの回転を左右スライド部5、6のネジ軸5a、60aに伝達するベルト7dとからなる。
【0029】
第一モータ7aの回転で、ネジ軸5a、6aを回転させることで、雌ネジ5c、6cがネジ軸5a、6aに沿って移動するとともに、内箱3を枠体2内において前後移動(図2破線両矢印(c)方向に移動)させることができる。したがって、第一モータ7aの回転をセンサ3cの感知で制御することで、枠体2内における内箱3内の位置を決定することができ、また被覆ケーブル60の露出長60h(芯材60aの露出部60dの長さ)を決定することができる。
【0030】
(5)刃部回転機構10
刃部回転機構10は、図2、図3-6等に示すように、ベアリング軸受け11と、筒部13と、Cリング12と、回転体14と、刃スライド保持部15と、ガイドピン17と、刃部回転駆動源18と、からなる。図3の一点鎖線で示した中心において上下線対象である。
【0031】
ベアリング軸受け11は、図5等に示すように、ドーナツ状のベアリング部11cと、ベアリング部11cの外周に突出したフランジ11aとからなり、フランジ11a部分を内箱3の穴3aの外周部に位置させ、ネジ11bなどで固定される。
【0032】
筒部13は、内部に穴13aが穿設され、外周に溝13bが備えられ、Cリング12で、ベアリング部11cの穴内に回転可能に係止される。
【0033】
回転体14は、図5、図6等に示すように、筒部13に連設し、外周に歯車歯部14aを備え歯車で、中心内部に穴14bが貫通し、図6に示すように、後述のスライド溝15a内の外周部に四角形状の複数の貫通孔14cが穿設されている。貫通孔14cは、後述の回転刃部20の腕部22が位置する。
【0034】
刃スライド保持部15は、図4-6等に示すように、回転体14の反筒部13側に位置し、外周部から穴14bまで十字状に周囲より凹み、貫通孔14cが位置し、後述の刃26をスライド可能に位置させるスライド溝15a(スライド溝15aの以外の場所が突出してスライド溝15aを形成する。)とからなる。実施例1では、4箇所のスライド溝15aの底部は被覆ケーブルの長手方向と直交する同一面に位置する。
【0035】
スライド溝15aより隆起した面には、図6に示すように、ネジ穴15cが穿設されている。ネジ穴15cは、後述の刃スライド部23をスライド溝15aにスライド可能の蓋をするプレート27を固定するためのネジ穴である。
【0036】
なお、ここでは筒部13、回転体14、刃スライド保持部15を一体成型としているが、別体として成型し連結、組み立てとしてもよい。
【0037】
ガイドピン17は、刃スライド保持部15のスライド溝15a側の隆起部に被覆ケーブルの長手方向と平行方向に立設され、回転刃部20に挿通し、回転刃部20の直動をガイドする。
【0038】
刃部回転駆動源18は、図2に示すように、第二モータ18aと、第二モータ18aの回転軸18bと、軸18bに固定され回転体14の歯車歯部14aと嵌合する歯車18cとからなる。第二モータ18aを回転させることで、回転体14が回転するとともに、回転刃部20も回転することで、刃26を回転させる。
【0039】
(6)回転刃部20
回転刃部20は、図7-9等に示すように、ドーナツ部21、腕部22と、刃スライド部23と、プレート27と、からなる。
【0040】
ドーナツ部21は、中央部に穴21bが穿設され、輪部21dにはガイドピン17を挿通させる貫通孔21cが穿設され、外周には全周に渡り輪部21dと係止部21eの間に溝21aが形成されている。溝21aは、後述の刃部直動機構30の保持プレート31を回転可能に嵌め、輪部21dと係止部21eで脱落しないように係止する。
【0041】
腕部22は、回転体14の貫通孔14cに対応した位置の輪部21dの刃部回転機構10側に立設し、回転体14側の先端部方向が外に位置し反先端部側が図3一点鎖線で示す中心に向かった斜めの孔(ガイド孔22a)を有する。ガイド孔22aには、後述の刃スライド部23のピン24がスライド可能に挿通する。
【0042】
腕部22は、貫通孔14c内に位置し、刃部直動機構30の直動作用により回転刃部20が被覆ケーブルの長手方向に前後に直動することに伴い、腕部22も貫通孔14c内を前後移動する。
【0043】
刃スライド部23は、図8、図10等に示すように、ホルダ25と、刃26と、刃26をホルダ25に固定するためのネジ26dと、ピン24と、からなる。
【0044】
ホルダ25は、図10(右列は、左列の背面)の一段目に示すように平面四角形の上部が切り欠き25aとなる左右腕25f、25gと、四段目に示すように肉薄部25bを有する断面L字で、切り欠き25a側の端部は傾斜部25dとなる。肉薄部25bにはネジ穴25cがあり、ネジ26dで、刃26をホルダ25の肉薄部25bに固定する。背面は、平坦面25eとなる。
【0045】
ホルダ25の左右腕25f、25gの間の切り欠き25aに腕部22が位置し、ピン24がガイド孔22aに挿通した上で、左右腕25f、25gに渡される。傾斜部25dを備えることで、腕部22の邪魔にならず、ホルダ25の厚みを確保することができる。
【0046】
刃26は、図10の二段目に示すように刃先26a側の両端が切り欠き26fで、平面六角形状である。ネジ穴26eにおいて、ネジ26dで、ホルダ25に固定される。刃26の刃先26a側は、先端に向け片面側が傾斜面26bとなり細くなるテーパーで、反傾斜面26b側は平坦面26cとなる。
【0047】
刃26は、傾斜面26b側の面を肉薄部25bに向け、ホルダ25にネジ26dで固定され、図10の四段目に示すように、平坦面26c側の刃26の高さと、ホルダ25の高さは一致しているか、わずかに刃26が低くなっている。そして、刃スライド部23は、図10の四段目、左列の断面状態で、腕部22にスライド可能にピン24とガイド孔22aで装着される。
【0048】
そして、4枚の刃26の傾斜面26b側のホルダ25の平坦面25eが、刃部回転機構10の刃スライド保持部15のスライド溝15aの底部に当接して、刃スライド保持部15に被覆ケーブルの長手方向と直交する同一面にスライド可能に保持される。
【0049】
ピン24は、腕部22のガイド孔22aに挿通した上で、ホルダ25の左右腕25f、25gに渡される。ピン24が、ガイド孔22aに沿って移動することで、刃スライド部23を被覆ケーブルの長手方向と直交する同一面でスライド移動させ、同一面上で回転する4枚の刃26の刃先26aの軌道で描く、内接円の径をデジタル制御することができる。
【0050】
プレート27は、図9、10等に示すように、L字で、外側に張出部27bを備え、ネジ穴27cにネジ27aを通し、刃部回転機構10の刃スライド保持部15のスライド溝15aより隆起した面のネジ穴15cに、ネジ27aを螺合して、プレート27を刃スライド保持部15に固定し、図9(A)に示すように、張出部27bで2つの刃スライド部23をスライド可能に押さえる。
【0051】
(7)刃部直動機構30
刃部直動機構30は、図2に示すように、左右一組の保持プレート31、31と、アーム32、32と、ネジ軸33、33と、保持部34、34と、プーリー35、35と、直動駆動部36と、からなる。
【0052】
保持プレート31は、図2、11、14等に示すように、四角形の一辺に回転刃部20のドーナツ部21の溝21aの形状に沿う弧状の切り欠き31aを備え、ドーナツ部21の外周の溝21aに嵌り、ドーナツ部21を360°回転可能に左右2枚一組で挟持する。一枚の保持プレート31の切り欠き31aは、図14に示すように、溝21a全周の1/4程度と回転可能に当接する。そのような形状とすることで、左右の保持プレート31の一方の端(例えば図14における下側)を近づけると、左右保持プレート31の間に、ドーナツ部21の溝21aを他方の左右保持プレート31の端の間(図14上)から嵌め込むことができる。
【0053】
アーム32は、図2、14等に示すように、平面視略L字型で、一端が反刃部回転機構10側の左右の保持プレート31、31にネジ31bでそれぞれ固定される。他端は、ネジ軸33のネジ溝と咬み合う雌ネジ33aを固定する。刃部直動機構30の直動作用によりアーム32は図2破線両矢印(b)方向に直動する。その結果、保持プレート31を介して、回転刃部20のドーナツ部21及び腕部22を両矢印(b)方向に直動させることができる。
【0054】
左右のネジ軸33は、一旦がアーム32に固定された雌ネジ33aとそれぞれ咬み合い、反回転刃部20側の端部にはそれぞれプーリー35が固定される。後述の第三モータ36aの駆動で、ネジ軸33が回転することで、アーム32が図2破線両矢印(b)方向に直動する。
【0055】
支持部34は、一端は内箱3の破線矢印(c)の直動方向に直交する内箱3の両側壁にネジ34aなどで固定され、他端はネジ軸33を挿通させ、ネジ軸33を支え、ネジ軸33の破線両矢印(c)と垂直する方向の位置を保持する。
【0056】
直動駆動部36は、ステッピングモータである第三モータ36aと、第三モータ36aの回転軸36bと、軸36bに固定されたプーリー36cと、プーリー36c及びネジ軸33のプーリー35、35に渡され、第三モータ36aの回転をネジ軸33に伝達するベルト36dとからなる。
【0057】
第三モータ36aの回転で、ネジ軸33を回転させることで、アーム32、32がネジ軸33、33方向である図2破線両矢印(b)方向に直動する。その結果、保持プレート31、31を介して回転刃部20のドーナツ部21及び腕部22が、刃部回転機構10の回転体14方向に押し込まれる。そして、刃スライド部23は、直動方向(図2破線両矢印(b))方向と直交する同一面において、直動(スライド)させることができる。
【0058】
したがって、第三モータ36aの駆動をデジタル制御することで、回転体14の回転に伴って回転する刃26の刃先26aの軌跡で描かれる内接円の径をデジタル制御することができることとなる。
【0059】
ステッピングモータは、パルス電力に同期して回転動作するため、回転数は、駆動パルス数に比例する。したがって、第三モータ36aの回転数に対するアーム32の直動距離の関係式から、アーム32及び回転刃部20の移動距離、さらに刃スライド部23の直動距離及び刃26の刃先26aによって形成される内接円の径をデジタル制御することができる。
【0060】
即ち、操作パネル1dから被覆ケーブル60の芯材60aの径を入力することで第三モータ36aの回転数を制御するパルス数が関数により導き出され、回転する刃26の刃先26aによって形成される内接円の径が決定され、被覆ケーブル60の輪切り状に切断される深さをデジタル制御することが可能になる。
【0061】
なお、刃部直動機構は、ドーナツ部21の移動距離をデジタル制御で直動させることができる機構であれば、ここに示す刃部直動機構30以外の構成を採用することもできる。
【0062】
(8)ケーブル位置決め機構40
ケーブル位置決め機構40は、図2に示すように、ストッパ41と、ネジ軸42と、ストッパ駆動部43と、からなる。
【0063】
ストッパ41は、回転刃部20のドーナツ部21の穴21bの中心位置において、図2破線矢印(a)方向に直動移動する。挿入穴1c側のストッパ41の一端部には、被覆60bを剥離される被覆ケーブル60の端部60eが当接し、刃26によって切断されるカット位置60fが決定される。ストッパ41の直動移動は、操作パネル1dからの入力値に基づきデジタル制御される。
【0064】
ネジ軸42は、ストッパ41に接続し、他端部にはプーリー42aが固定される。ストッパ駆動部43は、ステッピングモータである第四モータ43aと、第四モータ43aの回転軸43bと、軸43bに固定されたプーリー43cと、プーリー43c及びネジ軸42のプーリー42aに渡され、第四モータ43aの回転をネジ軸42に伝達するベルト43dとからなる。
【0065】
第四モータ43aの回転で、ネジ軸42を回転させることで、ストッパ41が図2破線矢印(a)方向に直動する。その結果、被覆ケーブル60の端部60eの位置が決定される。第四モータ43aのデジタル制御については、第三モータ36a同様で、操作パネル1dからの入力値(パルス数の決定)に基づき制御される。
【0066】
(9)ケーブル保持機構50
ケーブル保持機構50は、図2に示すように、枠体2の穴2aの挿通方向に位置し、剥離する被覆ケーブル60を挟持して固定するためのケーブル保持部51と、ケーブル保持部51の挟持及び開放を制御する駆動部(図示省略)とからなる。なお、ケーブル保持機構50は、被覆ケーブル60の被覆60bを剥離するときに被覆ケーブル60を固定できる機構であれば特に限定されない、
【0067】
ケーブル保持部51は、図2、図11、12、17-19に示すように、回転(破線両矢印)することで、ケーブル保持部51間の距離(図2点線両矢印)が変化し、被覆ケーブル60の太さに応じて被覆ケーブル60を挟持することができる。図22の渦回転70a機構(特許文献1の螺旋溝17、モータ)を用いることができる。ケーブル保持部51の被覆ケーブル60に当接する面は、凹凸などの滑止51aを備えることが望ましい。
【0068】
(10)刃スライド部23の直動移動
次に、図11、12を参照して、刃スライド部23の直動移動について、詳しく説明する。図11は、被覆ケーブル60の被覆60bを剥離前の初期状態を示す。刃スライド部23のピン24は、ガイド孔22aの先端(反ドーナツ部21側)に位置している。
【0069】
なお、初期状態で、刃スライド部23のピン24がガイド孔22aの先端に位置するのは、この状態が刃先26aの内接円が最も大きくなり、被覆ケーブル60を受け入れられるようにする為である。ドーナツ部21が刃部直動機構30の作用で後退することで、刃スライド部23は初期状態になる。
【0070】
図11の初期状態から、刃部直動機構30の作用により、アーム32が回転体14方向に直動することで、図12に示すように、ドーナツ部21及び腕部22が、回転体14方向である矢印(a)方向に押される。
【0071】
その結果、ピン24は、ガイド孔22aに沿ってドーナツ部21側かつ中心方向である矢印(b)方向にスライド移動する。そして、ピン24のスライドに伴い、刃スライド部23は、スライド溝15aに、プレート27でスライド可能に保持されているので、被覆ケーブル60の長手方向と直交する同一面において、中心方向である矢印(c)方向にスライド移動(直動)する。
【0072】
ドーナツ部21が回転体14方向に押圧されるとともに回転することで、刃スライド部23も被覆ケーブル60方向にスライド移動しつつ刃スライド部23も回転し、刃26の刃先26aによって被覆ケーブル60の被覆60bが輪切りに切断される。なお、図12破線両矢印が、被覆ケーブル60の刃26によるカット位置60fとなる。
【0073】
(11)回転する刃先26aの軌跡が描く内接円の径のデジタル制御
次に、図15、16を参照して、回転する刃26の刃先26aの軌跡で描かれる内接円の径のデジタル制御について詳しく説明する。
【0074】
図15はドーナツ部21、腕部22及び刃スライド部23の回転体14側からの平面視である。図16は、図15の背面図(アーム32側からの平面視)である。図15、16(A)は図11の初期状態、図15、16の(B)は図12の刃スライド部23がスライドした後の状態を示している。
【0075】
図15、16の(A)の状態のとき、回転する刃26の刃先26aで描く軌跡の内接円26gの径は最大となる。刃26が被覆ケーブル60方向の中心に向かって直動することで内接円の径を変更することができる。刃26の直動は、刃部直動機構30によってデジタル制御できるため、内接円の径もデジタル制御できることとなる。
【0076】
ピン24がガイド孔22aを中心に向かって最大にスライドすると、図15、16の(B)に示すように、回転する刃26の刃先26aの軌跡で描かれる内接円26hは最小となる。
【0077】
刃26の刃先26aの両端が切り欠き26fとなっているため、同一面に刃26を配置しても刃26aの端部同士が邪魔にならず、広範な内接円の径を設定することができる。なお、刃26全体を刃先26aと同じ幅にするよりも、刃先26aの端部を斜め(例えば45°)に切り欠くことで、刃26a同士の接近に邪魔にならず、かつ切断された被覆ケーブル60の被覆60bの端部に接触する刃26aの面積をより広く確保することができ、切断された被覆60bのスライドをより確実なものにすることができる。したがって、本発明の被覆ケーブルの被覆剥離装置を一台で広範な異なる径の被覆ケーブルを処理することができ、極めて経済的である。
【0078】
したがって、本発明では、第三モータ36aの回転パルス数に対応する数字を操作パネル1dから入力することで、内接円の径を任意にデジタル制御することができる。
【0079】
(12)被覆ケーブルの被覆剥離手順
次に、図17-19を参照して、本発明である被覆ケーブルの被覆剥離装置1における、被覆ケーブル60の被覆60bの剥離手順を説明する。なお、ストッパ41、回転刃部20、内箱3の直動距離は、操作パネル1dから入力された値に基づき、各モータの回転数を制御することで決定される。
【0080】
図11に示す、初期状態から、先ず、図17に示すように、被覆ケーブル60の刃26によるカット位置60fを決めるため、操作パネル1dで入力された値に基づき、ケーブル位置決め機構40の第四モータ43aを駆動させ、ストッパ41を矢印(a)方向に直動させ、位置固定する。
【0081】
続いて、被覆ケーブル60を、挿入穴1c、枠体2の穴2a、筒部13の穴13a、回転体14の穴14bに矢印(b)方向から通して、ストッパ41の端部に当接させる。
【0082】
続いて、ケーブル保持部51、51をケーブル保持機構50の駆動により被覆ケーブル60の外周を回転(破線矢印)させながら、被覆ケーブル60の方向である矢印(c)方向に移動させ、被覆ケーブル60を押圧し、挟持する。
【0083】
この時刃26の刃先26aが位置する同一面(点線A)が刃先26aの切断箇所である。カット位置60fから全ての被覆60bを剥離したならば、同一面(点線A)とストッパ41端部との距離(両矢印L1)が芯材60aの露出長60h(剥離長60g)となる。
【0084】
続いて、図18に示すように、回転する刃26の刃先26aが描く軌道である内接円の径を決めるため、操作パネル1dで入力された値(内接円の径/芯材60aの太さ(直径))に基づき、ドーナツ部21を刃部直動機構30の第三モータ36aを駆動させ、ドーナツ部21を矢印(d)方向に直動させることで、ピン24がガイド孔22aをスライドし、刃スライド部23をスライド溝15aに沿って被覆ケーブル60方向である(d‘)にスライドさせる。
【0085】
このとき、刃部回転駆動源18の第二モータ18aを駆動させ、回転体14を回転させることで、ドーナツ部21及び刃スライド部23も回転する。その結果、刃先26aは被覆ケーブル60の被覆60bを切断しながら芯材60a方向に直動する。
【0086】
続いて、図19に示すように、刃26の平坦面26c側の刃先26aで剥離された被覆(除去部60c)の端部を係止した状態で、内箱3を矢印(e)方向に直動させる。内箱3は、図2に示す内箱駆動部7の第一モータ7aを駆動させ、ネジ軸5a、6aを回転させ、雌ネジ5c、6cをネジ軸5a、6aに沿って移動させることで、直動する。
【0087】
続いて、ケーブル保持部51、51を図17と逆方向に、ケーブル保持機構50の駆動で回転させることで、被覆ケーブル60の挟持を開放する(図19矢印(f))。そして、被覆ケーブル60を矢印(g)方向に引き抜けば、芯材60aが露出した露出部60dを備える被覆ケーブル60iが得られる。
【0088】
なお、内箱3の直動距離を図17のL1より短くすれば、除去部60cを芯材60aから完全に引き抜かない状態で仕上げることができる。結線作業前に芯材60aを露出させると芯材60aの束が乱れるなどして作業性が悪くなることがある。そのような場合には、除去部60cを露出した芯材60aに留めておくこともできる。
【0089】
その後に、除去された被覆(除去部60c)を下方に落下させ排出する。最後に、ストッパ41、ドーナツ部21、内箱3を、それらの駆動源を逆回転させ、図11に示す初期状態に戻す。
【0090】
このようにしてなる本発明である被覆ケーブルの被覆剥離装置1は、異なる径及び被覆厚の被覆ケーブルであっても、デジタル制御で、被覆剥離処理を行うことができる。
【実施例2】
【0091】
図20を参照して、第二の実施形態(3枚刃)である被覆ケーブルの長手方向と直交する同一面に同一向きに配置され、同一面に沿ってスライドする同一形状の3枚の刃26の例について説明する。
【0092】
図20は、ドーナツ部21、腕部22、刃スライド部23を回転体14側から見たときの図である。図20(A)は図15(A)同様に初期状態で、図20(B)は刃スライド部23を中心に向け、ガイド孔22a内を最大にスライドさせ内接円26hの径を最小にしたときの図である。
【0093】
実施例2は、実施例1において、それぞれ90°の等間隔で腕部22、刃スライド部23を配置したものを、120°の等間隔で腕部22及び刃スライド部23を配置したものである。
【0094】
刃スライド部23を3本とするため、刃スライド保持部15のスライド溝15aも刃スライド部23に対応するように、3本とし、プレート27も各刃スライド部23の間に両側の刃スライド部23をスライド可能に保持するよう配置すればよい。さらに、ガイドピン17を各腕部22の間に3本配置し、貫通孔21cもガイドピン17の位置に穿設すればよい。
【0095】
3枚の刃26の刃先26aの同一方向の端部だけを切り欠き26fとしただけでも、実施例1と同様の内接円の径を採用し得る。また、本発明は、実施例2と同様に、腕部22、刃スライド部23を等間隔に5本、6本、・・・等に変形することもでき、それらも本発明の技術範囲に含まれる。
【実施例3】
【0096】
図21を参照して、第三の実施形態(4枚刃)である対向して配置された2枚1組の板刃28を2組み、被覆ケーブル60の長手方向と直交する同一面で背中合わせに配置して、スライドする計4枚の板刃28の例について説明する。
【0097】
図21(A)は、実施例1の図16の刃スライド部23の配置に対応する4つの刃スライド部29の配置図面である。図21(B)は(A)のA-A位置の断面図、図21(C)は(B)においてカット位置60fで刃先28aが被覆60bを切断した様子、図21(D)は、板刃28の刃先28aを除去部60cに係止したまま刃スライド部29が移動(後退)し、除去部60cを被覆ケーブル60から引き抜いたときの様子を表している。
【0098】
図21(A)に示すように、刃スライド部29は、実施例1の刃スライド部23において、刃26を板刃28に変更したものである。ピン24は、腕部22のガイド孔22aに挿通している。板刃28は、刃先28aの端部に切り欠きがなく、四角形状である。(A)では説明のため板刃28はそれぞれ離して記しているが、実際には最も開いた状態でも各々の平坦面28cは当接している。
【0099】
板刃28は、ホルダ25にネジ26dで固定される。対向する1組みの刃スライド部29の板刃28の傾斜面28bは同じ向きで、他の1組みの対向する刃スライド部29の板刃の傾斜面28bは異なる向きにホルダ25に固定される。即ち、図21(A)においては、(a)-(a’)組みの刃スライド部29の板刃28の傾斜面28bと、(b)-(b’)組みの刃スライド部29の板刃28の傾斜面28bとは異なる向きで、ホルダ25に固定される。
【0100】
そして、図21(B)に示すように、対向する1組みの刃スライド部29、(a)-(a’)と(b)-(b’)は、互いに平坦面28cを被覆ケーブル60の長手方向と直交する同一面に向けて配置される。
【0101】
従って、実施例3は、実施例1と、板刃28、刃スライド保持部15のスライド溝15aの深さ、プレート27の形状が異なる。或いは、刃スライド部29の厚みを異なる組みで、異なる厚さにすることで、スライド溝15aの深さ、プレート27は同一形状のものを利用することもできる。
【0102】
実施例3のように、4枚の板刃28を2枚で1組みとして、傾斜面28bの向きを変え、さらに被覆ケーブル60の長手方向と直交する同一面に向けて配置することで、理論上、内接円の径を0とすることができるので、設定された最大径からどのような細さの被覆ケーブルであっても、一台の被覆剥離装置で被覆の剥離処理を行うことができる。
【0103】
また、対向する2枚の傾斜面を同じ向きにすることで、除去部60cを芯材60aから引き抜くときでも、芯材60aへの圧力が均等にかかり、芯材60aを傷つけることがない。実施例3の形状の板刃28及びその配置を採用することで、従来のV刃80の剥離時の欠点を解消しつつ、被覆剥離処理をデジタル制御することが可能になる。
【符号の説明】
【0104】
1 被覆ケーブルの被覆剥離装置
1a 箱体
1b 開閉扉
1c 挿入穴
1d 操作パネル
1e 上面
2 枠体
2a 穴
3 内箱
3a 穴
3b 目盛り
3c センサ
4 内箱スライド機構
5 左スライド部
5a ネジ軸
5b プーリー
5c 雌ネジ
5d 留具
5e L字板
6 右スライド部
6a ネジ軸
6b プーリー
6c 雌ネジ
6d 留具
6e L字板
7 内箱駆動部
7a 第一モータ
7b 軸
7c プーリー
7d ベルト
10 刃部回転機構
11 ベアリング軸受け
11a フランジ
11b ネジ
11c ベアリング部
12 Cリング
13 筒部
13a 穴
13b 溝
14 回転体
14a 歯車歯部
14b 穴
14c 貫通孔
15 刃スライド保持部
15a スライド溝
15c ネジ穴
17 ガイドピン
18 刃部回転駆動源
18a 第二モータ
18b 軸
18c 歯車
20 回転刃部
21 ドーナツ部
21a 溝
21b 穴
21c 貫通孔
21d 輪部
21e 係止部
22 腕部
22a ガイド孔
23 刃スライド部
24 ピン
25 ホルダ
25a 切り欠き
25b 肉薄部
25c ネジ穴
25d 傾斜部
25e 平坦面
25f 左腕
25g 右腕
26 刃
26a 刃先
26b 傾斜面
26c 平坦面
26d ネジ
26e ネジ穴
26f 切り欠き
26g 内接円
26h 内接円
27 プレート
27a ネジ
27b 張出部
27c ネジ穴
28 板刃
28a 刃先
28b 傾斜面
28c 平坦面
29 刃スライド部
30 刃部直動機構
31 保持プレート
31a 切り欠き
31b ネジ
32 アーム
33 ネジ軸
33a 雌ネジ
34 支持部
34a ネジ
35 プーリー
36 直動駆動部
36a 第三モータ
36b 軸
36c プーリー
36d ベルト
40 ケーブル位置決め機構
41 ストッパ
42 ネジ軸
42a プーリー
43 ストッパ駆動部
43a 第四モータ
43b 軸
43c プーリー
43d ベルト
50 ケーブル保持機構
51 ケーブル保持部
51a 滑止
60 被覆ケーブル
60a 芯材
60b 被覆
60c 除去部
60d 露出部
60e 端部
60f カット位置
60g 剥離長
60h 露出長
60i 被覆ケーブル
70 板刃
70a 渦回転
80 V刃
80a 刃先
80b 正面
80c 背面
80d 同一面
80e 傾斜面
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材の外周を被覆した被覆ケーブルの前記被覆を回転する複数枚の刃で輪切りに切断し前記被覆ケーブルから切断した被覆を前記被覆ケーブルの長手方向に移動させ前記芯材を露出させる被覆ケーブルの被覆剥離装置であって、
中心に前記被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に前記刃と同数の貫通孔を有する回転体、及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構と、
前記被覆ケーブルの長手方向に直交する方向の同一面に等間隔で配置され前記被覆ケーブル中心方向にスライドしつつ前記同一面で回転することで前記被覆を輪切りに切断する複数の刃、前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部、及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部よりなる回転刃部と、
前記ドーナツ部を前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向に直動させる刃部直動機構と、
前記被覆ケーブルの端部を当接させて前記刃による前記被覆のカット位置を決めるストッパと、
からなり、
前記被覆ケーブルの端部を前記ストッパに当接した上で前記被覆ケーブルを固定し、
前記刃部直動機構で前記ドーナツ部を前記回転体方向である前方にデジタル制御で直動させることで前記刃を前記スライド溝に沿って前記被覆ケーブル中心方向にスライドさせつつ回転する前記刃の刃先で形成される内接円の径を前記直動で任意の大きさにデジタル制御し、
前記刃部回転機構を回転させることで前記被覆ケーブルの被覆を前記複数の刃で輪切りに切断し、
前記刃部回転機構及び回転刃部を前記直動方向と逆向きに後退させることで切断された被覆を前記刃の刃先に係止して前記被覆ケーブルの長手方向に移動させ前記芯材を露出させることを特徴とする
被覆ケーブルの被覆剥離装置。
【請求項2】
前記複数の刃を3枚又は4枚とし、かつ前記刃の刃先の一端部又は両端部を切り欠きとしたことを特徴とする請求項1に記載の被覆ケーブルの被覆剥離装置。
【請求項3】
前記複数の刃を、
一方の面に刃先に向け傾斜面を備える板刃を前記被覆ケーブルを挟み刃先が対向する2枚で一組の板刃で、2組の計4枚とし、異なる組の板刃は、90度回転した位置で、他方の組の平坦面同士が向き合う位置に配置され、前記スライド溝にスライド可能に保持されたことを特徴とする請求項1に記載の被覆ケーブルの被覆剥離装置。
【請求項4】
被覆ケーブルを固定した上で、前記被覆ケーブルの長手方向と直交する同一面に等間隔で配置した複数の刃を、
前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向のデジタル制御による直動で前記被覆ケーブルの中心に向けスライドさせつつ回転させ、
前記被覆ケーブルの被覆を前記刃の回転で輪切りに切断し、
前記直動方向と逆向きに前記刃を後退させることで、
切断された被覆を前記刃の刃先に係止して前記被覆ケーブルの長手方向に移動させ、
前記被覆ケーブルの芯材を露出させる被覆ケーブルの被覆剥離方法であって、
中心に前記被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に前記刃と同数の貫通孔を有する回転体、及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構と、
前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部、及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部よりなる回転刃部とを備えた被覆ケーブルの被覆剥装置によって、
前記刃部回転機構及び前記回転刃部の回転及び前記回転刃部の直動によってスライドするとともに回転する前記刃の刃先で形成される内接円の径を前記直動で任意の大きさにデジタル制御することを特徴とする
被覆ケーブルの被覆剥離方法。
【請求項5】
被覆ケーブルを固定した上で、前記被覆ケーブルの長手方向と直交する同一面に等間隔で配置した複数の刃を、前記被覆ケーブルの長手方向と平行な方向のデジタル制御による直動で前記被覆ケーブルの中心に向けスライドさせつつ回転させ、前記被覆ケーブルの被覆を前記刃の回転で輪切りに切断し、前記直動方向と逆向きに前記刃を後退させることで、切断された被覆を前記刃の刃先に係止して前記被覆ケーブルの長手方向に移動させ、前記被覆ケーブルの芯材を露出させる被覆ケーブルの被覆剥装置であって、
中心に前記被覆ケーブルを挿通する穴及び外側に前記刃と同数の貫通孔を有する回転体、及び前記回転体に連設し前記刃を前記被覆ケーブルの長手方向と直交する方向にスライド可能に保持するスライド溝を有する刃スライド保持部よりなる刃部回転機構を備え、
前記刃の端部をスライド可能に係止するとともに先端部が前記刃部回転機構方向の外側に位置し反先端部側が中心側に位置する斜めの角度一定で閉じたガイド孔を有し前記貫通孔に位置し前記被覆ケーブルに対して遠近方向に回動しない角度固定の腕部、及び前記腕部を立設し前記被覆ケーブルを挿通する穴を有するドーナツ部よりなる回転刃部の回転及び直動によってスライドするとともに回転する前記刃の刃先で形成される内接円の径を前記直動で任意の大きさにデジタル制御することを特徴とする
被覆ケーブルの被覆剥離装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-03-14 
結審通知日 2019-03-19 
審決日 2019-04-09 
出願番号 特願2012-279240(P2012-279240)
審決分類 P 1 113・ 152- YAA (H02G)
P 1 113・ 121- YAA (H02G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北嶋 賢二  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 深沢 正志
加藤 浩一
登録日 2015-02-20 
登録番号 特許第5699121号(P5699121)
発明の名称 被覆ケーブルの被覆剥離装置  
代理人 中川 邦雄  
代理人 成生 憲治  
代理人 中川 邦雄  
代理人 福井 仁  

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